『加藤泉一寄生するプラモデル』 ワタリウム美術館

ワタリウム美術館
『加藤泉一寄生するプラモデル』
2022/11/6〜2023/3/12



ワタリウム美術館で開催中の『加藤泉一寄生するプラモデル』を見てきました。



1969年に生まれた美術家の加藤泉は、2000年代から主に人型をした木彫を発表すると、ソフトビニール、石、布など幅広い素材を用いて作品を制作してきました。



その加藤がコロナ禍の中、じっくり向き合ったというプラモデルを中心に構成されたのが『加藤泉一寄生するプラモデル』で、「ジオラマ」シリーズをはじめ、木版画や石の作品などが展示されていました。



「ジオラマ」シリーズとは、ビンテージプラモデルと木彫を取り入れた作品で、山や海、草地などを木で象った上に、ソフトビニールによる人型とプラモデルが組み込まれていました。どことなくシュールな雰囲気も面白いかもしれません。



また人の顔をしつつ、4本の脚で馬のように立つ木彫の背中に、ゴリラや鳥などのプラモデルが乗っている大型の彫刻も目立っていました。一般的にプラモデルはつなぎ目を消すものの、あえて強調するように残しているのも興味深く感じました。



今回の個展で最も面白く思えたのが、『オリジナル・プラスチックモデル』と題されたプラモデルの作品でした。



これは加藤が重要な素材として用いる石をプラモデルに仕立てたもので、プラスチックのパーツだけでなく、パーツに貼るデカールから作品解釈を記したポスター、また組立説明書、さらに次回作を予告した箱までも作って展示していました。

自作の石をプラモデル化し、さらにひとつのパッケージとして見せるアイデアそのものも大変にユニークではないでしょうか。昔のプラモデルをオマージュしたようなビンテージ風の箱といった細部の作り込みにも大いに目を引かれました。



ワタリウム美術館より外苑西通りを挟んだ屋外のスペースでも、石を用いた人型の作品が公開されていました。これは宮城県石巻市にて開かれた『リボーンアートフェスティバル 2021-22』に出展されたもので、同地の採石場で取り出された稲井石を素材としていました。


石がプラモデルに!? 新たな素材と表現に挑戦する美術家、加藤泉の創作世界|Pen Online



3月12日まで開催されています。

『加藤泉一寄生するプラモデル』 ワタリウム美術館@watarium
会期:2022年11月6日(日)〜 2023年3月12日(日)
休館:月曜日。
時間:11:00~19:00 
 *毎週水曜日は21時まで開館。
料金:一般1200円、25歳以下(学生・高校生)及び70歳以上1000円、小・中学生500円。
 *ペア券:大人2人2000円。
住所:渋谷区神宮前3-7-6
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅より徒歩8分。
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『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』 GYRE GALLERY

GYRE GALLERY
『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』 
2022/12/17〜2023/2/26



GYRE GALLERYで開催中の『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』を見てきました。

1977年に生まれ、世界各地を旅しながら撮影を続ける石川直樹は、冒険家としても山に挑み続け、エベレストやK2への遠征をはじめ、2016年には北アメリカ・アラスカ山脈最高峰のデナリへの単独登頂するなどの成果をあげてきました。



その石川が2022年春から秋にかけ、ヒマラヤへ出かけて撮影した写真を展示するのが『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』で、タイトルの通りにいずれも8000メートル級のカンチェンジュンガ、ダウラギリ、マナスルに登った際の写真が並んでいました。



このうち石川が「身体はズタボロの状態だった。」と語るのが世界で3番目に高いカンチェンジュンガへの登山で、頂上に迫るも、頂を間違えるというまさかの事態に陥って一度撤退し、その後、数日間の休養を経てどうにか登頂を果たしました。



また10年ぶりに向かったマナスルも雪崩が頻発し、頂上付近では強風にさらされるなど、緊迫した登山を強いられていて、こうしたエピソードを伺わせる映像も展示されていました。



石川の個展として思い出すのが、2019年に東京オペラシティアートギャラリーにて開かれた『石川直樹 この星の光の地図を写す』で、1990年代後半から同年近くにて世界各地にて撮影した写真が公開されていました。



一連の大自然を捉えた風景はもとより、現地の人々を写した写真にも魅力があるのではないでしょうか。コロナ禍以降、最近の石川の活動を伺い知ることができました。



なおGYRE地下1階では石川のドームテントが公開されていて、中ではマナスル登山時の映像を見ることができました。


コロナ禍を乗り越え、石川直樹が再びヒマラヤの山々へと挑む。GYRE GALLERYにて個展が開催中|Pen Online



2月26日まで開催されています。

『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』 GYRE GALLERY
会期:2022年12月17日(土)〜2023年2月26日(日)
休廊:不定休(12月31日、2023 年1月1日、2月20日は休館)
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅4番出口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩4分。
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静嘉堂@丸の内にて「七福うさぎ」が公開されています

昭和の名工である京都の人形司、丸平大木人形店の五世大木平藏が作った御所人形、通称「七福うさぎ」が、静嘉堂@丸の内にて公開されています。



その『初春(はつはる)を祝う ―七福うさぎがやってくる!』の見どころについて、イロハニアートへ寄稿しました。

七福うさぎの魅力に迫ろう!静嘉堂@丸の内にて開催中 | イロハニアート

この「七福うさぎ」とは、三菱第四代社長で静嘉堂のコレクションを拡充した岩﨑小彌太の還暦を祝い、夫人の孝子からの特別の注文により作られた『木彫彩色御所人形』のことで、小彌太が卯年であることから人形にはうさぎの冠がつけられました。

人形の数は全部で58体に及んでいて、七福神たちの「宝船曳」と「興行列」を中心に、「鯛車曳」、「楽隊」、「餅つき」の5つのグループからなっていました。

いずれも笑みを浮かべながら楽器を奏でたり餅をつくなど、楽しそうに寿ぎの宴を繰り広げていて、それこそ新年を寿ぐにふさわしい作品といえるかもしれません。

また展示では「七福うさぎ」のほかに、日本や中国の寿ぎの絵画なども公開されていて、不老不死や多産の象徴であったうさぎがさまざまに表現されている様子を見ることができました。

一連のうさぎの作品で目を引いたのは、清末期の宮廷画家だった李培雨の『兎図』と『双兎図』で、柘榴の木や竹といった植物とともに、白と黒のうさぎが鮮やかな色彩にて描かれていました。


このほかにも丸の内へ移転開館記念展『響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―』でも人気を集めた国宝の『曜変天目』も公開されていて、器の中に広がる神秘的な光のきらめきを目の当たりにできました。

2月4日まで開催されています。

『初春(はつはる)を祝う ―七福うさぎがやってくる!』 静嘉堂@丸の内@seikadomuseum
会期:2023年1月2日(月・振休)〜2月4日(土)
休館:月曜日、1月10日(火)
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
 *金曜日は18時まで開館
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
交通:東京メトロ千代田線二重橋前〈丸の内〉駅3番出口直結。JR線東京駅丸の内南口より徒歩5分。
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『中﨑透 フィクション・トラベラー』 水戸芸術館

水戸芸術館 現代美術ギャラリー
『中﨑透 フィクション・トラベラー』 
2022/11/5~2023/1/29



水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中の『中﨑透 フィクション・トラベラー』を見てきました。

1976年に生まれた美術家、中﨑透は、絵画やドローイング、また看板をモチーフとした作品を手がけ、言葉や認識の中に生じる「ズレ」をテーマに多様な活動をしてきました。



その中﨑が生まれ育った茨城県水戸市の水戸芸術館にて開かれているのが『中﨑透 フィクション・トラベラー』で、絵画から過去のインスタレーションの再構成、はたまたカラーアクリルと蛍光灯による近年の立体などが展示されていました。



まず今回の個展で面白いのは単に作品を回顧的に示すのではなく、美術館そのものをモチーフに、水戸および同館にまつわる物語が展開していることで、水戸市界隈に住む30代から70代の5名に行ったインタビューをもとに制作されました。



このインタビューをもとにしたテキストが会場の壁の随所に展示されていて、いずれも水戸や水戸芸術館にまつわる過去の出来事や思い出、また個人的で曖昧な記憶などが記されていました。



はじめは戦前の水戸で防空壕に入った記憶や戦後の配給などのエピソードが綴られていて、それとともにテキストの一部を引用した中﨑による絵画や紅白幕を用いた作品などが並んでいました。



会場の中央で行手を遮るかのように展示されたのが鉄パイプの足場を組んだインスタレーションで、そこでは水戸芸術館の設計から誕生、また館長の選任から建設への反対運動など、いわば美術館の成り立ちがテキストにて示されていました。



この一連のインタビューと中﨑の作品を交互に追っていくと、水戸と美術館、そして同地に関する人々や中﨑本人の生き様などが浮かび上がるようで、物語は自叙伝的要素を含みつつ、あたかも虚構と現実がないまぜになるかのようにして重層的に展開していました。



中﨑の活動の中核の1つである「看板屋なかざき」の看板の作品も目立っていたかもしれません。新旧の作品とテキストが交差する展示室を歩いていると、過去から未来へと紡がれた水戸のもう1つの物語の中を旅しているかのようでした。


一部の作品を除いて撮影が可能でした。



会期も残すところ約1週間となりました。1月29日まで開催されています。

『中﨑透 フィクション・トラベラー』 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery
会期:2022年11月5日(土)~2023年1月29日(日)
休館:月曜日。年末年始(12月26日~1月3日)、ただし1月9日(月・祝)は開館し、1月10日は休館。
時間:10:00~18:00 
 *入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
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建築家、ガエ・アウレンティの展覧会がイタリア文化会館にて開催されています

イタリアの建築家のガエ・アウレンティ(1927~2012年)は、家具や照明といったデザインの分野で頭角を現すと、のちに建築も手がけ、オルセー美術館をはじめとする美術館のリノベーションプロジェクトにて卓越した才能を発揮しました。



そのアウレンティの業績を紹介する『ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし』の内容について、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。

ガエ・アウレンティの知られざる足跡とは?イタリア文化会館にて開催中 | イロハニアート

今回の展覧会では「アーバンインテリア」、「美術館を巡ること」、それに「文化とコンテクスト」の3つのテーマを基本に、ドローイングから写真、模型、それに建築素材などが100点以上を公開されていて、多くの資料から主に建築を中心とするアウレンティの仕事をたどることができました。

アウレンティはオルセー美術館のリノベーションプロジェクトにおいて、内装の設計を任されていて、1900年に遡る古い鉄道駅の面影を残しつつも、機能的でかつ美的な空間を作り上げることに成功しました。

そしてこのプロジェクトをきっかけに、ポンピドゥー・センター国立近代美術館をはじめ、パラッツォ・グラッシ、さらにサンフランシスコ・アジア美術館などの美術館の改修などを手がけると、リノベーションがさほど注目されていない時代に、保存と活用のプロジェクトの重要性を知らしめたことで高く評価されました。

日本においてアウレンティは展示の会場であるイタリア文化会館、およびイタリア大使館事務棟の設計を担っていて、イタリア文化会館では日本の朱色漆とイタリアンカラーの融合をイメージした赤をファサードに展開しました。



このほか、アウレンティが自らの展覧会のために来日した際、全国各地を撮影した写真なども興味深いかもしれません。一連の資料を通して、まだ圧倒的に男性の職場であった建築の分野で自らの道を切り開いたアウレンティの多面的な業績を知ることができました。


入場は無料です。3月12日まで開催されています。

『ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし』 イタリア文化会館エキジビションホール(@IICTokyo

会期:2022年12月11日(日)~2023年3月12日(日)
休館:月曜日、1月31日(火)~2月2日(木)、2月28日(火)~3月2日(木)。
時間:11:00~17:00
料金:無料
住所:千代田区九段南2-1-30

交通:東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線九段下駅2番出口から徒歩10分。
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『ドリーム/ランド』 神奈川県民ホールギャラリー

神奈川県民ホールギャラリー
『ドリーム/ランド』
2022/12/18~2023/1/28



ランドとドリームの2つのキーワードを起点に、現代アーティストが作品を展示する展覧会が、神奈川県民ホールギャラリーにて開かれています。



それが『ドリーム/ランド』で、青山悟、枝史織、角文平、笹岡由梨子、林勇気、山嵜雷蔵、シンゴ・ヨシダの各アーティストが、刺繍や油絵、日本画、彫刻、映像などの幅広いジャンルの作品を公開していました。



工業用ミシンを用い、精緻な刺繍を素材にした作品を手がける青山悟は、1万円札と1ドル札をモチーフとしたインスタレーションを展開していて、ジュラルミンケースの中では刺繍を制作する様子を捉えた映像も見ることができました。



生花と顔面をモチーフにした人形たちが歌う笹岡由梨子の『パンジー』も賑やかかもしれません。色とりどりの電飾などで彩られた人形たちは、奇怪でありながらも親しみも覚え、ユーモラスでかつ哀愁を帯びた表情をしていました。



奇岩ともいえるような島を岩絵具で描いたのが、複数の視点から捉えた空間を繋ぎ合わせた風景画のシリーズで知られる日本画家の山嵜雷蔵でした。



いずれもほぼ揺らぎのない水面の上に、まるで宙に浮くかのようにして島が静かに横たわっていて、幻想的な雰囲気に包まれていました。それこそ島へ向かえばもう戻ることのできない彼岸が広がっているようにも感じられました。



日常的な素材を用いつつ、本来のものの持つ機能や意味をずらし、新たな意味を与える彫刻を制作する角文平の『Monkey trail』と題したインスタレーションも充実していたのではないでしょうか。



さまざまなオブジェが一本の道の左右にジオラマのように広がっていて、最奥部には惑星を思わせる巨大な球体とアンテナをつけた家などの建造物が宙に浮いていました。



ハイライトを飾るのが、階段のある吹き抜けの大空間にて展示された林勇気の映像インスタレーション、『another world - vanishing point』でした。



自ら撮影した膨大な量の写真をコンピュータに取り込み、切り抜き重ね合わせることで映像を作る手法で知られる林は、ここで5000ものアイテムを空間全体へ投影していて、暗闇の中で次第にスピードを加速させるようにぐるぐると巡っていました。


その無数のアイテムの回転に身を委ね、速度を上げては渦巻く光景を目にしていると、いつしかアイテムの波に飲まれて自身も消えゆくような錯覚に陥りました。この特徴的な巨大空間だからこそ成し得た迫力ある映像インスタレーションといえるかもしれません。

水曜日がお休みです。1月28日まで開催されています。

『ドリーム/ランド』 神奈川県民ホールギャラリー@kanaken_gallery
会期:2022年12月18日(日)~2023年1月28日(土)
休館:水曜日、年末年始(12月30日~1月4日)
時間:11:00~18:00
料金:一般800円、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。
住所:横浜市中区山下町3-1
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約6分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。横浜市営地下鉄関内1番出口より徒歩約15分。
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『特別企画「大安寺の仏像」』 東京国立博物館 本館11室

東京国立博物館 本館11室
『特別企画「大安寺の仏像」』
2023/1/2~3/19


重要文化財『不空羂索観音菩薩立像』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

東京国立博物館 本館11室で開催中の『特別企画「大安寺の仏像」』を見てきました。

奈良時代に7つの大寺院の筆頭とされた大安寺は、国家によって造営された日本最初の国立寺院として知られ、日本の仏教の歴史上にとって重要な役割を果たしました。

その大安寺に伝わる奈良時代の仏像を紹介するのが『特別企画「大安寺の仏像」』で、重要文化財7件を含む8躯の仏像に加え、同寺に出土した奈良時代の瓦などが展示されていました。


重要文化財『多聞天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

まず会場の入口にて展示されていたのが四天王立像のうちの『多聞天立像』で、左手を腰に当てつつ右手を振り上げながら、憤怒の表情にて人を見下ろすように立っていました。


重要文化財『多聞天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

幅と奥行きのある体つきは重厚感があり、兜や胸の甲には中国の唐に由来するという緻密な文様が刻まれていて、右足を曲げているからか躍動感も感じられました。


重要文化財『増長天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

同じように右手を振り上げながらもやや落ち着いた表情を見せるのが、同じ四天王立像のうちの『増長天立像』で、顎を引きつつ両足を開いてはどっしりと直立していました。

大安寺の四天王立像はいずれも体が太めに表され、甲には装飾的な文様が象られているのが特徴で、像の高さや作風に違いが見られるものの、奈良時代の後期の頃に造られました。


重要文化財『楊柳観音菩薩立像』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

奈良時代の木彫の中でも優れた作例とされるのが『楊柳観音菩薩立像』で、目尻を上げつつ憤怒の表情をしながら、均整のとれた体躯を見せつつ立っていました。また口の開きと連動して上がるこめかみといった筋肉をはじめ、衣の柔らかな表現などに豊かな造形感覚を見ることができました。


重要文化財『広目天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

大安寺の木彫群はいずれも頭部から足下の台座までを一材から彫り出していて、『楊柳観音菩薩立像』や『聖観音菩薩立像』における腕や胸の飾りも体と同じ木から彫られていました。


重要文化財『聖観音菩薩立像』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

この『聖観音菩薩立像』の物静かながらも微かに笑みを浮かべた表情も魅惑的だったかもしれません。やや上目を向いて遠くを眺めるようなすがたにはどことなく哀愁すら感じられました。


『単弁蓮華文軒丸瓦』 奈良時代・8世紀 他

会場は本館の玄関より右手すぐの11室です。総合文化展(常設展)の料金にて観覧することができます。


撮影も可能でした。3月19日まで開催されています。

『特別企画「大安寺の仏像」』 東京国立博物館 本館11室(@TNM_PR
会期:2023年1月2日(月・休)~3月19日(日)
休館:月曜日。1月10日(火)、2月7日(火)。ただし1月2日(月・休)、1月9日(月・祝)は開館。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料。
 *総合文化展観覧料
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
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諏訪敦の個展『眼窩裏の火事』が府中市美術館にて開かれています

1967年に生まれた画家、諏訪敦は「視ること、そして現すこと」を問い続けると、緻密で再現性の高い画風の絵画を手がけ、主に肖像画などで高い評価を得てきました。



その諏訪敦の公立美術館としては11年ぶりの個展が府中市美術館にて開かれていて、全3章の展示の見どころについてPenオンラインに寄稿しました。

写実絵画のトップランナーと目されながら、脱却を続ける諏訪敦の個展が府中市美術館にて開催中|Pen Online

まずはじめの「棄民」と題する章では、終戦直後の旧満州で病没した祖母をテーマにした作品が公開されていて、哈爾浜の難民収容所にてチフスにより病没した祖母をモデルとした『HARBIN 1945 WINTER』などを見ることができました。



諏訪は父の死をきっかけに、かつて明かされてこなかった祖母の旧満州での過酷な出来事を知ると、協力者を得ながら現地取材を行っていて、その一連のドキュメントとも言える成果を絵画や映像にて表現しました。

第2章「静物画について」では、コロナ禍において肖像画の制作がままならない中、『芸術新潮』(2020年6〜8月号)誌上で連載に取り組んだ静物画が展示されていて、柿やグラスといった身近なものを起点に、写実絵画の歴史を踏まえて描かれた作品などが並んでいました。

ラストの第3章では、1999年より描き続けてきた舞踏家・大野一雄をはじめとする肖像画などが並んでいて、とりわけ大野一雄の踊りを記録映像などを頼りにコピーするパフォーマーの川口隆夫をモデルとした作品が目立っていました。



そこには川口の踊るすがたがいくつもの腕などを伴って複層的に描かれていて、大野から川口へと受け継がれる表現が重なり合う様子を見ることができました。その時空を超えたようなシュールとも呼べる画面には、いわゆる写実を超えた諏訪の新たな境地が指し示されているのかもしれません。


静物画が台上に置かれた博物館の標本室を思わせる展示室から、最新作『Mimesis』の展示された白く明るいスペースへと続く空間構成も魅力的ではないでしょうか。作品そのもののはもとより、対象へ真摯に向き合いつつ、長い時間をかけてリサーチを重ね、絵画として表していく諏訪の制作のアプローチにも大いに心を惹かれるものを感じました。



2月26日まで開催されています。おすすめします。

『諏訪敦「眼窩裏の火事」』 府中市美術館@FuchuArtMuseum
会期:2022年12月17日(土)~2023年2月26日(日)
休館:月曜日(1月9日は開館)、12月29日(木)~2023年1月3日(火)、1月10日(火)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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2023年上半期に見たい展覧会5選

2023年を迎え、WEBメディアや美術雑誌などを中心に、今年の注目の展覧会の特集が多く組まれています。



そのうち『「Pen」が選んだ、2023年上半期「必見の展覧会」5選』に寄稿しました。

「Pen」が選んだ、2023年上半期「必見の展覧会」5選|Pen Online

ここで取り上げたのは以下の5選です。

1.『佐伯祐三 自画像としての風景』@東京ステーションギャラリー【1/21~4/2】
2.『リニューアルオープン記念特別展 Before/After』@広島市現代美術館【3/18~6/18】
3.『大巻伸嗣展(仮)』@弘前れんが倉庫美術館【4/15~10/9】
4.『恐ろしいほど美しい 幕末土佐の天才絵師 絵金』@あべのハルカス美術館【4/22~6/18】
5.『マティス展』@東京都美術館【4/27~8/20】

いずれの話題を呼びそうな展覧会ばかりですが、約半世紀ぶりに高知県外にて本格的に紹介される絵金の展覧会や、国内では20年ぶりのマティス展などへ特に人気が集まるかもしれません。

また広島市現代美術館の『リニューアルオープン記念特別展 Before/After』は、約2年あまりの改修工事を終えて開かれるもので、新収蔵品を含む100点の作品が全館規模にて公開されます。私もかなり前に同館へ一度、出かけたことがありますが、これを機会に広島へと足を伸ばすのも良いかもしれません。


この他にも今年の上半期に期待したい展覧会がいくつもあります。そこで「Pen」にて取り上げられなかったものの中で、6月までに開催される展覧会をいくつかピックアップしてみました。(巡回展を含みます)

『百瀬文 口を寄せる』 十和田市現代美術館 2022/12/10~2023/6/4
『篠田桃紅 屛風』 岐阜現代美術館 1/16~3/22
『生誕100年 柚木沙弥郎展』 日本民藝館 1/13~4/2
『大阪の日本画』 大阪中之島美術館 1/21~4/2 *東京ステーションギャラリーへ巡回。
『エゴン・シーレ展』 東京都美術館 1/26~4/9
『部屋のみる夢 ― ボナールからティルマンス、現代の作家まで』 ポーラ美術館 1/28~7/2
『甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性』 京都国立近代美術館 2/11~4/9 *東京ステーションギャラリーへ巡回。
『没後190年 木米』 サントリー美術館(2/8~3/26)
『マリー・ローランサンとモード』 Bunkamura ザ・ミュージアム 2/14~4/9 *京都市京セラ美術館他巡回。
『速水御舟展』 茨城県立近代美術館 2/21~3/26
『芳幾・芳年 国芳門下の2大ライバル』 三菱一号館美術館 2/25~4/9 *北九州市立美術館へ巡回。
『戸谷成雄 彫刻』 埼玉県立近代美術館 2/25~5/14
『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap』 アーティゾン美術館 2/25~5/14
『特別展 東福寺』 東京国立博物館 3/7~5/7 *京都国立博物館へ巡回。
『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』 東京国立近代美術館 3/17~5/14
『ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築』 東京シティビュー 3/17~6/4
『椿椿山展 軽妙淡麗な色彩と筆あと』 板橋区立美術館 3/18~4/16
『生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』 富山県美術館 3/18~5/21 *青森県立美術館他へ巡回。
『憧憬の地 ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷』 国立西洋美術館 3/18~6/11
『ブルターニュの光と風 画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉』 SOMPO美術館 3/25~6/11
『みちのく いとしい仏たち』 岩手県立美術館 4/8~5/21 *東京ステーションギャラリー他へ巡回。

関連エントリ:2022年下半期見たい展覧会5選2022年上半期に見たい展覧会5選

なお会期の変更などが行われる場合があります。最新の開館状況については各美術館のWEBサイトにてご確認ください。
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『博物館に初もうで 2023』 東京国立博物館

東京国立博物館
『博物館に初もうで 2023』
2023/1/2~1/29



お正月に際し、吉祥主題や干支に因んだ作品などを公開する『博物館に初もうで』も、今年で20年目を数えるに至りました。

まず平成館の企画展示室では特集「兎にも角にもうさぎ年」が開かれていて、兎に角うさぎ、月のうさぎ、波に乗るうさぎをはじめとする5つのテーマより、うさぎをモチーフとした日本や東アジアの造形作品が紹介されていました。


『染付水葵に兎図大皿』 伊万里 江戸時代・19世紀

『染付水葵に兎図大皿』は、幕末に焼かれた伊万里焼の大皿で、会話をしているようなかわいらしい2羽のうさぎがレリーフ状に表されていました。前面のうさぎと水葵や流水による賑やかな背景とのコントラストも魅力かもしれません。


『染付兎形皿』 御深井 江戸時代・19世紀

『染付兎形皿』とは、名古屋城内に築窯された御深井焼の一種とされる皿で、胴体を桃のような形にとり、正面を向いたうさぎを象っていました。くり抜かれた両目の眼差しもユニークで、ちょうどうさぎが伏せて丸まっているようなすがたに見えました。


『金茶糸素懸威波頭形兜』 江戸時代・17世紀

波とうさぎを意匠にした『金茶糸素懸威波頭形兜』も目立っていたかもしれません。うさぎは素早く、多産であることから戦国武将にも好まれていて、こうした大胆な造形を見せる兜が作られました。


『仏涅槃図』 鎌倉時代・14世紀

「うさぎはどこだ」として紹介された鎌倉時代の『仏涅槃図』も興味深いのではないでしょうか。釈迦が亡くなった時の様子を描いた作品には、身を横たえる釈迦とともに菩薩や羅漢、それに多くの動物たちが描かれていて、馬の近くにはうさぎのすがたも見ることができました。


尾形光琳『竹梅図屏風』 江戸時代・18世紀

こうした特集「兎にも角にもうさぎ年」の他にも、本館の各展示室では日本や東洋の吉祥模様の作品が展示されていて、松竹梅より竹と梅を表した尾形光琳の『竹梅図屏風』や白梅と布袋を描いた酒井抱一の『扇面雑画』に魅せられました。


酒井抱一『扇面雑画 白梅』 江戸時代・18〜19世紀

また通常、新春に国宝室にてお披露目される長谷川等伯の『松林図屏風』は、江戸の屏風などを展示する本館7室にて公開されていました。


長谷川等伯『松林図屏風』 安土桃山時代・16世紀 展示風景

昨年に開催された『国宝 東京国立博物館のすべて』でも人気を集めた東博屈指の名品だけに、これを目当てに『博物館に初もうで』を訪ねる方も多いのかもしれません。


伊藤若冲『玄圃瑤華』 江戸時代・明和5(1768)年

一方の国宝室では伊藤若冲の『玄圃瑤華』全48図のうち「蕪・鳳仙花」や「紫陽花・冬葵」など数点が公開されていて、若冲ならではの大胆な構図や植物や虫の生き生きとした様態を見ることができました。


伊藤若冲『玄圃瑤華』 江戸時代・明和5(1768)年

仙人の居どころである玄圃、そして玉のように美しい花の瑤華を意味する同作は、草花や野菜、昆虫などを組み合わせて描いた拓版画で、若冲53歳の時に制作されました。とりわけ穴の開いた葉をはじめ、渦を巻くような植物の茎やつたなどに若冲の遊び心と画才が感じられるかもしれません。


『振袖 紺平絹地御簾檜扇模様』 江戸〜明治時代・19世紀

出展作品により展示期間が異なる場合があります。詳しくは博物館の公式サイトをご覧ください。*『松林図屏風』は15日まで公開。


今年もコロナ禍前に行われていた獅子舞や和太鼓の演舞は取りやめとなりました。来年こそはより華やかなお正月を迎えられればと願ってなりません。



1月2日よりはじまった特別企画『大安寺の仏像』が想像以上に見応えがありました。改めて別のエントリにてご紹介したいと思います。

1月29日まで開催されています。

『博物館に初もうで 2023』 東京国立博物館@TNM_PR
会期:2023年1月2日(月・休)~1月29日(日)
休館:月曜日。ただし1月3日(月)、1月10日(月・祝)は開館。1月4日(火) 、1月11日(火)。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料。
 *総合文化展観覧料
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
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2023年1月に見たい展覧会【七福うさぎ/亜欧堂田善/エゴン・シーレ】

お正月も三が日を過ぎました。年末年始のために休館していた美術館の多くも今週末までに開館します。*写真はサントリー美術館より。撮影用パネルの長谷川等伯の『楓図』。



今月は興味深い展覧会がいくつも開幕します。見ておきたい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・『マン・レイと女性たち』 神奈川県立近代美術館 葉山館(10/22~2023/1/22)
・『アニメージュとジブリ展』 松屋銀座(1/3~1/23)
・『国宝 雪松図と吉祥づくし』 三井記念美術館(12/1~2023/1/28)
・『ドリーム/ランド』 神奈川県民ホールギャラリー(12/18~2023/1/28)
・『マリー・クワント展』 Bunkamura ザ・ミュージアム(11/26~2023/1/29)
・『祈り・藤原新也』 世田谷美術館(11/26~2023/1/29)
・『面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画』 そごう美術館(1/1~1/29)
・『博物館に初もうで 兎にも角にもうさぎ年』 東京国立博物館(1/2~1/29)
・『浮世絵と中国』 太田記念美術館(1/5~1/29)
・『初春を祝う 七福うさぎがやってくる!』 静嘉堂文庫美術館(1/2~2/4)
・『月に吠えよ、萩原朔太郎展』 世田谷文学館(10/1~2023/2/5)
・『江戸絵画の華 〈第1部〉若冲と江戸絵画』 出光美術館(1/7~2/12)
・『没後200年 亜欧堂田善展 江戸の洋風画家・創造の軌跡』 千葉市美術館(1/13~2/26)
・『ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台』 東京都現代美術館(2022/11/12~2023/2/19)
・『北斎かける百人一首』 すみだ北斎美術館(12/15~2023/2/26)
・『交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー』 東京都庭園美術館(12/17~2023/3/5)
・『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』 森美術館(12/1~2023/3/26)
・『生誕100年 柚木沙弥郎展』 日本民藝館(1/13~4/2)
・『Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎』 東京オペラシティ アートギャラリー(1/18~3/26)
・『トンコハウス・堤大介の「ONI展」』 PLAY! MUSEUM(1/21~4/2)
・『佐伯祐三 自画像としての風景』 東京ステーションギャラリー(1/21~4/2)
・『江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット ~クジラと塩の織りなす布の物語~』 たばこと塩の博物館(1/21~4/9)
・『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』 東京都美術館(1/26~4/9)

ギャラリー

・『191人のクリエイターと瀬戸の職人がつくる招き猫 Lucky Cat』 クリエイションギャラリーG8(12/7~2023/1/21)
・『訪問者 クリスチャン・ヒダカ&タケシ・ムラタ展』メゾンエルメス8階フォーラム(10/21~2023/1/31)
・『比田井南谷 生誕110年「HIDAI NANKOKU」』 √K Contemporary(11/12~2023/2/4)
・『A girl philosophy」ある少女の哲学安珠写真展』 CHANEL NEXUS HALL(1/18~2/12)
・『石川直樹 写真展 ダウラギリ/カンチェンジュンガ/マナスル』 GYRE GALLERY(12/17~2023/2/26)
・『How is Life?―地球と生きるためのデザイン』 TOTOギャラリー・間(10/21~2023/3/19)
・『第16回 shiseido art egg 岡ともみ展』 資生堂ギャラリー(1/24〜 2/26)

まずは新春にちなんだ展覧会です。静嘉堂文庫美術館にて『初春を祝う 七福うさぎがやってくる!』が開かれます。



『初春を祝う 七福うさぎがやってくる!』@静嘉堂文庫美術館(1/2~2/4)


これは岩崎小彌太(三菱第4代社長)の還暦を祝い、夫人の孝子が京人形司の丸平大木人形店に依頼して作らせた兎の冠を戴く御所人形を公開するもので、あわせて蕪村や抱一らの江戸絵画から大観といった近代日本画、さらに宴の器など、吉祥的な主題を持つ作品を紹介します。うさぎと新春の美術の関わりを見る華やいだ展覧会となりそうです。

首都圏では実に17年ぶりの回顧展です。千葉市美術館にて『没後200年 亜欧堂田善展 江戸の洋風画家・創造の軌跡』が行われます。



『没後200年 亜欧堂田善展 江戸の洋風画家・創造の軌跡』@千葉市美術館(1/13~2/26)

現在の福島県に生まれ、江戸時代後期に活躍した亜欧堂田善(あおうどうでんぜん)は、腐食銅版画技法を学ぶと日本初の銅版画による解剖図などを手がけ、江戸時代最大級の油彩画の『浅間山図屏風』を描くなど洋風画家として活躍しました。


その亜欧堂田善の軌跡を15歳から最晩年の作品200点にて振り返るもので、加えて司馬江漢や谷文晁、鍬形蕙斎といった同時代の絵師や弟子たちの作品約50点も公開されます。近年再発見され74年ぶりに回顧展に出展される『湖辺武人図』をはじめ、30年ぶりに公開される『浅間山図屏風』の下絵といったレアな作品にも注目が集まるかもしれません。

ラストは今年全体を通しても注目の西洋美術展です。『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』が東京都美術館にて開催されます。



『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』@東京都美術館(1/26~4/9)

これは19世紀末を経てウィーンに生き、28歳の若さで生涯を閉じたシーレの画業を、レオポルト美術館のコレクションにてたどるもので、シーレの油彩画、ドローイング約40点をはじめ、クリムトやココシュカといった同時代の画家をあわせた約120点の作品が展示されます。


クリムトやウィーン世紀末関連の展示でシーレの作品を見る機会こそありますが、シーレを実に30年ぶりに主役に据えた見応えのある展覧会となりそうです。

一部の内容が重なりますが、イロハニアートにも今月のおすすめの展覧会を寄稿しました。


1月のおすすめ展覧会5選 2023 江戸絵画の華から佐伯祐三、エゴン・シーレ展まで | イロハニアート

それでは今月もよろしくお願いいたします。
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謹賀新年 2023

新年あけましておめでとうございます。
今年も皆さまにとって素晴らしい一年になりますよう、心からお祈り申し上げます。


『青花兎文輪花皿』 京都国立博物館
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

お正月はいかがお過ごしでしょうか。年明けから東京と近郊で新たに開幕する展覧会は以下の通りです。(20日まで)

・『面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画』 そごう美術館(1/1~1/29)
・『成田屋市川團十郎の書と絵画』 成田山書道美術館 (1/1〜2/12)
・『博物館に初もうで 兎にも角にもうさぎ年』 東京国立博物館(1/2~1/29)
・『初春を祝う 七福うさぎがやってくる!』 静嘉堂文庫美術館(1/2~2/4)
・『暁斎・暁翠 祝画の華やぎ/暁斎能画図式の世界」 河鍋暁斎記念美術館(1/4~2/25)
・『浮世絵と中国』 太田記念美術館(1/5~1/29)
・『江戸絵画の華 〈第1部〉若冲と江戸絵画』 出光美術館(1/7~2/12)
・『没後200年 亜欧堂田善展 江戸の洋風画家・創造の軌跡』 千葉市美術館(1/13~2/26)
・『生誕100年 柚木沙弥郎展』 日本民藝館(1/13~4/2)
・『Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎』 東京オペラシティ アートギャラリー(1/18~3/26)


新春にちなんだ美術館や博物館のイベント情報については、イロハニアートへ寄稿しました。あわせてご覧いただけると幸いです。

お正月は博物館と美術館へ行こう!【2023年版】おすすめのイベントや展示をピックアップ | イロハニアート

ブログも開設から6600日を超えました。それでは今年も「はろるど」をどうぞよろしくお願いいたします。
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