都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「松林桂月展」 練馬区立美術館
練馬区立美術館
「松林桂月展ー水墨を極め、画中に詠う」
4/13-6/8
練馬区立美術館で開催中の「松林桂月展ー水墨を極め、画中に詠う」を見て来ました。
明治9年に生まれ、大正から昭和にかけて数多くの日本画や水墨画を描いた松林桂月(まつばやしけいげつ 1876~1963)。
いわゆる近代日本画家の一人です。しかしながら今、どれほどの方がこの名を知っているでしょうか。実際、私もチラシ表紙の「春宵花影」を所蔵先の東近美(常設展)で何度か見たことがある程度。その際に大いに惹かれたものの、そもそも他にどのような作品を残したのかすら知りませんでした。
何と30年ぶりの回顧展です。計100点の作品(前後期で展示替えあり。資料含む。)で桂月の画業を辿ります。
「愛吾盧」1936年 山口県立美術館 *展示期間:4/13~5/11
それでは桂月の制作史を少し追ってみましょう。まずは生まれから。山口の萩です。18歳の時に上京。23歳で同じく画家で花鳥画を得意としていた雪貞と結婚する。当初は南画家の野口幽谷に師事していたそうです。
最初期の作では弟子入りした翌年の「桃花双鶏」(1895)が秀逸。鶏冠の紅色が際立つ番いの鶏。羽は塗り残しでしょうか。筆致は細かい。またその二年後の「怒濤健雕」(1897)も充実しています。海に向かって力強く羽ばたこうとする鷲の姿。若かりし自身の姿に重ねたのでしょうか。半年で三度も手直しを入れた作品でもあるそうです。
妻、雪貞の作品も5~6点ほど出ています。そしてこれが思いの外に美しい。時代はかなり下りますが、例えば戦後の「藤花」(1954)。瑞々しい色遣いです。また夫との合作の「不老長春」(1930)において雪貞は薔薇を描いている。ピンクに染まる花弁。うっすらと白を混ぜ込んで立体感を生む。写実的ながらも品のある表現です。桂月の花鳥画にも引けを取りません。
雪貞は結婚後、夫を支えることに集中したのか、次第に絵から離れたそうですが、それでも魅惑的な作品が多い。この展覧会の収穫の一つでもありました。
「伏見鳥羽戦 大下図」 昭和初期 個人蔵
さて桂月に戻ります。続いては画業の最盛期とも呼ばれる頃。具体的には大正から戦前の作品です。
いきなり目に飛び込んでくるのが二点の大作屏風、ともに金地に六曲一双の「秋汀群鴨」(1919)と「金地山水」(1929)です。前者は大胆な筆致、後者は比較的細かな描線で山水の景色を表す。特に後者におけるパノラマ的な空間。左へ望むのは海辺でしょうか。奥行きと広がりを演出しています。
桂月の描いた藤の絵も展示されていました。「潭上余春」(1926)です。所蔵は宮内庁三の丸尚蔵館。蔦と花が絡み合う。木は文人画的な表現でしょうか。しかし藤の花の透明感。雪貞画を彷彿させるものがあります。
「秋園」(右隻)1938年 宇部市 *展示期間:4/13~5/11
「秋園」(1938)も見事です。着色花鳥画の優品。六曲一双、中央には池が広がり、鳥が羽を休めている。そして右隻から大きく迫り出した紅葉。エメラルドグリーンの水の色と鮮やかなコントラストを描いてもいる。幹はたらし込み。また随所に生える秋草の曲線はリズミカルでもある。琳派を思わせる展開です。そして芸が細かいと感心したのは葉の表現です。と言うのも水の上の葉は絵具を薄く塗っているのか、さも透き通っているように見える。色のニュアンスに富んでいます。
「春宵花影」1939年 東京国立近代美術館 *展示期間:4/13~5/11
さらに傑作の「春宵花影」(1939)もこの時期のもの。ニューヨーク万国博への出品作です。満月の夜でしょうか。薄明かりの月夜で咲き誇る桜の姿。花は輪郭線を使わず、胡粉を盛って描いている。月の光を受けての陰影も巧みです。桜は時にさも光に溶けるように浮き上がり、一方では闇に沈み込むように消えていく。また絵具を滲ませているのでしょうか。まるでハレーションのようにぼやけている箇所もある。まさに幻影。この世ならざる桜の景色。その儚さに美しさ。さすがに魅せます。
そして戦後です。終戦の年に70歳、古希を迎えた桂月。そちらかと言えば水墨により深化した作品が目立つでしょうか。まずは「雨後」(1955)。墨に一部、胡粉を混ぜ込む。雨上がりです。葡萄の枝が淡い光を受ける。実だけが白い。右上から左下へ流れるような配置も特徴的です。実に流麗。桂月得意の構図とも言えるのではないでしょうか。
「香橙」(左隻)1961年 萩博物館 *展示期間:4/13~5/11
最後の日展への出展作が「夜雨」(1962)です。霧に包まれた深い山。竹林が広がっている。見事な溌墨の技です。茫洋たる景色が広がっている。そして「香橙」(昭和中期)も佳い。丸く肥えた夏ミカンを描く。幹はたらしこみです。生前最後の個展に出品されたものだそうです。
展示は絶筆の「夏景山水」(1963)で終わります。桂月はこの絵を描いて外出した後、死を迎えました。どこかひなびた水辺の風景。静まり返っている。絶筆に幽玄という言葉は安易かもしれません。それでも桂月の見た最後の景色。何か胸に込み上げるものを感じました。
それにしても南画風あり、また琳派風あり、そして何と言っても趣き深い水墨画ありと実に多様である。それが時代を追って描かれているだけではなく、同時期に展開されてもいる。芸達者です。幅広い作風を持っています。
それでは関連のトークイベント、また展示替えの情報です。
[関連ギャラリートーク]
「ゲストによるスペシャルトーク、松林桂月へのまなざし」
ナビゲーター:野地耕一郎(泉屋博古館学芸課長)
(1) 5月25日(日) 浅見貴子(画家)
(2) 5月31日(土) 加藤良造(画家)
*各日午後3時から展示室内にて。事前申込不要。(当日の展覧会チケットが必要。)
会期中、展示替えがあります。4割程度の作品が入れ替わります。
前期:4月13日(日)~5月11日(日)
後期:5月13日(火)~6月8日(日)
ちなみにチラシ表紙の「春宵花影」は前期(~5/11)のみの展示です。ご注意下さい。
先だって泉屋博古館で見た木島櫻谷以来、また一人魅惑的な日本画家に出会いました。(櫻谷と桂月は生年が一年違いです。)もちろん後期展示も追いかけたいと思います。
6月8日まで開催されています。日本画ファンには是非ともおすすめします。
「松林桂月展ー水墨を極め、画中に詠う」 練馬区立美術館
会期:4月13日(日)~6月8日(日)
休館:月曜日。*但し5/5(月)、5/6(火)は開館。5/7(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人500(300)円、大・高校生・65~74歳300(200)円、中学生以下・75歳以上無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
「松林桂月展ー水墨を極め、画中に詠う」
4/13-6/8
練馬区立美術館で開催中の「松林桂月展ー水墨を極め、画中に詠う」を見て来ました。
明治9年に生まれ、大正から昭和にかけて数多くの日本画や水墨画を描いた松林桂月(まつばやしけいげつ 1876~1963)。
いわゆる近代日本画家の一人です。しかしながら今、どれほどの方がこの名を知っているでしょうか。実際、私もチラシ表紙の「春宵花影」を所蔵先の東近美(常設展)で何度か見たことがある程度。その際に大いに惹かれたものの、そもそも他にどのような作品を残したのかすら知りませんでした。
何と30年ぶりの回顧展です。計100点の作品(前後期で展示替えあり。資料含む。)で桂月の画業を辿ります。
「愛吾盧」1936年 山口県立美術館 *展示期間:4/13~5/11
それでは桂月の制作史を少し追ってみましょう。まずは生まれから。山口の萩です。18歳の時に上京。23歳で同じく画家で花鳥画を得意としていた雪貞と結婚する。当初は南画家の野口幽谷に師事していたそうです。
最初期の作では弟子入りした翌年の「桃花双鶏」(1895)が秀逸。鶏冠の紅色が際立つ番いの鶏。羽は塗り残しでしょうか。筆致は細かい。またその二年後の「怒濤健雕」(1897)も充実しています。海に向かって力強く羽ばたこうとする鷲の姿。若かりし自身の姿に重ねたのでしょうか。半年で三度も手直しを入れた作品でもあるそうです。
妻、雪貞の作品も5~6点ほど出ています。そしてこれが思いの外に美しい。時代はかなり下りますが、例えば戦後の「藤花」(1954)。瑞々しい色遣いです。また夫との合作の「不老長春」(1930)において雪貞は薔薇を描いている。ピンクに染まる花弁。うっすらと白を混ぜ込んで立体感を生む。写実的ながらも品のある表現です。桂月の花鳥画にも引けを取りません。
雪貞は結婚後、夫を支えることに集中したのか、次第に絵から離れたそうですが、それでも魅惑的な作品が多い。この展覧会の収穫の一つでもありました。
「伏見鳥羽戦 大下図」 昭和初期 個人蔵
さて桂月に戻ります。続いては画業の最盛期とも呼ばれる頃。具体的には大正から戦前の作品です。
いきなり目に飛び込んでくるのが二点の大作屏風、ともに金地に六曲一双の「秋汀群鴨」(1919)と「金地山水」(1929)です。前者は大胆な筆致、後者は比較的細かな描線で山水の景色を表す。特に後者におけるパノラマ的な空間。左へ望むのは海辺でしょうか。奥行きと広がりを演出しています。
桂月の描いた藤の絵も展示されていました。「潭上余春」(1926)です。所蔵は宮内庁三の丸尚蔵館。蔦と花が絡み合う。木は文人画的な表現でしょうか。しかし藤の花の透明感。雪貞画を彷彿させるものがあります。
「秋園」(右隻)1938年 宇部市 *展示期間:4/13~5/11
「秋園」(1938)も見事です。着色花鳥画の優品。六曲一双、中央には池が広がり、鳥が羽を休めている。そして右隻から大きく迫り出した紅葉。エメラルドグリーンの水の色と鮮やかなコントラストを描いてもいる。幹はたらし込み。また随所に生える秋草の曲線はリズミカルでもある。琳派を思わせる展開です。そして芸が細かいと感心したのは葉の表現です。と言うのも水の上の葉は絵具を薄く塗っているのか、さも透き通っているように見える。色のニュアンスに富んでいます。
「春宵花影」1939年 東京国立近代美術館 *展示期間:4/13~5/11
さらに傑作の「春宵花影」(1939)もこの時期のもの。ニューヨーク万国博への出品作です。満月の夜でしょうか。薄明かりの月夜で咲き誇る桜の姿。花は輪郭線を使わず、胡粉を盛って描いている。月の光を受けての陰影も巧みです。桜は時にさも光に溶けるように浮き上がり、一方では闇に沈み込むように消えていく。また絵具を滲ませているのでしょうか。まるでハレーションのようにぼやけている箇所もある。まさに幻影。この世ならざる桜の景色。その儚さに美しさ。さすがに魅せます。
そして戦後です。終戦の年に70歳、古希を迎えた桂月。そちらかと言えば水墨により深化した作品が目立つでしょうか。まずは「雨後」(1955)。墨に一部、胡粉を混ぜ込む。雨上がりです。葡萄の枝が淡い光を受ける。実だけが白い。右上から左下へ流れるような配置も特徴的です。実に流麗。桂月得意の構図とも言えるのではないでしょうか。
「香橙」(左隻)1961年 萩博物館 *展示期間:4/13~5/11
最後の日展への出展作が「夜雨」(1962)です。霧に包まれた深い山。竹林が広がっている。見事な溌墨の技です。茫洋たる景色が広がっている。そして「香橙」(昭和中期)も佳い。丸く肥えた夏ミカンを描く。幹はたらしこみです。生前最後の個展に出品されたものだそうです。
展示は絶筆の「夏景山水」(1963)で終わります。桂月はこの絵を描いて外出した後、死を迎えました。どこかひなびた水辺の風景。静まり返っている。絶筆に幽玄という言葉は安易かもしれません。それでも桂月の見た最後の景色。何か胸に込み上げるものを感じました。
それにしても南画風あり、また琳派風あり、そして何と言っても趣き深い水墨画ありと実に多様である。それが時代を追って描かれているだけではなく、同時期に展開されてもいる。芸達者です。幅広い作風を持っています。
それでは関連のトークイベント、また展示替えの情報です。
[関連ギャラリートーク]
「ゲストによるスペシャルトーク、松林桂月へのまなざし」
ナビゲーター:野地耕一郎(泉屋博古館学芸課長)
(1) 5月25日(日) 浅見貴子(画家)
(2) 5月31日(土) 加藤良造(画家)
*各日午後3時から展示室内にて。事前申込不要。(当日の展覧会チケットが必要。)
会期中、展示替えがあります。4割程度の作品が入れ替わります。
前期:4月13日(日)~5月11日(日)
後期:5月13日(火)~6月8日(日)
ちなみにチラシ表紙の「春宵花影」は前期(~5/11)のみの展示です。ご注意下さい。
先だって泉屋博古館で見た木島櫻谷以来、また一人魅惑的な日本画家に出会いました。(櫻谷と桂月は生年が一年違いです。)もちろん後期展示も追いかけたいと思います。
6月8日まで開催されています。日本画ファンには是非ともおすすめします。
「松林桂月展ー水墨を極め、画中に詠う」 練馬区立美術館
会期:4月13日(日)~6月8日(日)
休館:月曜日。*但し5/5(月)、5/6(火)は開館。5/7(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人500(300)円、大・高校生・65~74歳300(200)円、中学生以下・75歳以上無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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5月の展覧会・ギャラリーetc
飛び石ながらもGWに入りましたが、如何お過ごしでしょうか。5月中に見たい展覧会をリストアップしてみました。
展覧会
・「ピカソの陶芸」 埼玉県立近代美術館(~5/18)
・「中村一美展」 国立新美術館(~5/19)
・「魅惑のニッポン木版画」 横浜美術館(~5/25)
・「華麗なる貴族コレクション展」 Bunkamura ザ・ミュージアム(~5/25)
・「映画をめぐる美術 マルセル・ブロータースから始める」 東京国立近代美術館(~6/1)
・「東京・ソウル・台北・長春ー官展にみる近代美術」 府中市美術館(5/14~6/8)
・「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」 国立新美術館(~6/9)
・「法隆寺ー祈りとかたち」 東京藝術大学大学美術館(~6/22)
・「江戸絵画の真髄ー秘蔵の若冲、蕭白、応挙、呉春の名品、初公開」 東京富士美術館(~6/29)
・「幸福はぼくを見つけてくれるかな? 石川コレクション(岡山)からの10作家」 東京オペラシティアートギャラリー(~6/29)
・「寺崎広業展ー明治の谷文晁とよばれた男」 佐野市立吉澤記念美術館(~6/29)
・「島根県立石見美術館所蔵 水彩画家・大下藤次郎」 千葉市美術館(5/20~6/29)
・「再発見 歌麿 深川の雪」 岡田美術館(~6/30)
・「超絶技巧!明治工芸の粋 村田コレクション一挙公開」 三井記念美術館(~7/13)
・「佐藤時啓 光ー呼吸」 東京都写真美術館(5/13~7/13)
・「クールな男とおしゃれな女ー絵の中のよそおい」 山種美術館(5/17~7/13)
・「ジャン・フォートリエ展」 東京ステーションギャラリー(5/24~7/13)
ギャラリー
・「イグノア・ユア・パースペクティブ 24」 児玉画廊東京(4/19~5/24)
・「椿会展2014 初心」 資生堂ギャラリー(4/10~5/25)
*後日、追加します。
さてまずは5月スタートの展覧会。心なしか中盤以降に始まるものが多いかもしれません。うち私が特に楽しみなのがステーションギャラリー。フォートリエの展覧会です。
「Jean Fautrier: 1898-1964/Harvard Art Museum」
「ジャン・フォートリエ展」@東京ステーションギャラリー(5/24~7/13)
フランスの抽象美術の先駆的存在(Wikiより)とも言われるフォートリエ。その独特の人間への眼差し。これまでにもブリヂストン美術館で何度か作品を見たことはありましたが、回顧展に接したことはなかった。それもそのはず、日本で初めての回顧展です。作品は約90点。有名な「人質」シリーズからも10点ほどが出品されます。ここは大いに期待したいと思います。
美しいチラシも目を引きます。千葉市美術館で「水彩画家・大下藤次郎」展が開催されます。
「島根県立石見美術館所蔵 水彩画家・大下藤次郎」@千葉市美術館(5/20~6/29)
近代日本の水彩のパイオニア(同館サイトより)と称された大下藤次郎。生まれは東京ながらも、千葉は上総の地を旅している間に日本の風景を見出した。彼の見た明治の日本の原風景。何となしに巴水も連想させます。また趣き深いものがあるのではないでしょうか。
「光琳を慕う 中村芳中」 千葉市美術館(はろるど)
なお千葉市美では現在「中村芳中」展も開催中です。現在は既に作品が入れ替わっての後期展示中。なにせ会期が短く、5/6で終了です。また再度出かけるつもりです。
さて同じく千葉からは少し南に目を向けて市原へ。「いちはらアート×ミックス」が佳境を迎えました。
「美術手帖増刊 いちはらアート×ミックス ガイドブック/美術出版社」
「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」(~5/11)
市原を舞台にした初めての芸術祭の試み。既に始まってから1ヶ月半を経過しています。その割には評判をあまり聞きませんが、ともかくもようやく都合が付きました。GW中に日帰りで行ってきます。
栃木は佐野の吉澤記念美術館で「寺崎広業展」が開催されます。
「寺崎広業展ー明治の谷文晁とよばれた男」@佐野市立吉澤記念美術館(~6/29)
幕末の秋田に生まれ、四条派を学びつつ、後には近代日本画壇の重鎮にまでなった寺崎。最盛期には画塾に300名もの門弟が集まったそうです。しかしながらどうでしょうか。今、その名を聞くことはあまりにも少ない。再評価ということかもしれません。同館所蔵する寺崎の作品が初めて一堂に公開されます。
私の佐野の吉澤美術館の思い出といえば5年前です。若冲の「菜蟲譜」が展示された際に見に行ったことがあります。それ以来はすっかりご無沙汰。うまくタイミングがとれるか分かりませんが、何とかまた出かけたいものです。(ちなみに菜蟲譜は現在修復中です。今年11月以降に公開されます。)
東博で開催中の「キトラ古墳壁画展」が大変な盛況となっています。
「キトラ古墳壁画」@東京国立博物館(4/22~5/18)
会場が本館の特別5室と狭いこともあるのでしょうか。初日から入場規制がかかるほどの人気ぶり。休日の昼間に至っては最大80分余の待ち時間が発生しています。なお混雑に関してはツイッターの公式アカウント(@kitora2014)が有用です。リアルタイムで入場規制の情報を発信しています。実は私も行きそびれていますが、比較的狙い目なのは平日の夕方、閉館前だそうです。これからお出かけの皆さん、まずは(@kitora2014)で状況をご確認下さい。
それでは5月もどうぞ宜しくお願いします。
展覧会
・「ピカソの陶芸」 埼玉県立近代美術館(~5/18)
・「中村一美展」 国立新美術館(~5/19)
・「魅惑のニッポン木版画」 横浜美術館(~5/25)
・「華麗なる貴族コレクション展」 Bunkamura ザ・ミュージアム(~5/25)
・「映画をめぐる美術 マルセル・ブロータースから始める」 東京国立近代美術館(~6/1)
・「東京・ソウル・台北・長春ー官展にみる近代美術」 府中市美術館(5/14~6/8)
・「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」 国立新美術館(~6/9)
・「法隆寺ー祈りとかたち」 東京藝術大学大学美術館(~6/22)
・「江戸絵画の真髄ー秘蔵の若冲、蕭白、応挙、呉春の名品、初公開」 東京富士美術館(~6/29)
・「幸福はぼくを見つけてくれるかな? 石川コレクション(岡山)からの10作家」 東京オペラシティアートギャラリー(~6/29)
・「寺崎広業展ー明治の谷文晁とよばれた男」 佐野市立吉澤記念美術館(~6/29)
・「島根県立石見美術館所蔵 水彩画家・大下藤次郎」 千葉市美術館(5/20~6/29)
・「再発見 歌麿 深川の雪」 岡田美術館(~6/30)
・「超絶技巧!明治工芸の粋 村田コレクション一挙公開」 三井記念美術館(~7/13)
・「佐藤時啓 光ー呼吸」 東京都写真美術館(5/13~7/13)
・「クールな男とおしゃれな女ー絵の中のよそおい」 山種美術館(5/17~7/13)
・「ジャン・フォートリエ展」 東京ステーションギャラリー(5/24~7/13)
ギャラリー
・「イグノア・ユア・パースペクティブ 24」 児玉画廊東京(4/19~5/24)
・「椿会展2014 初心」 資生堂ギャラリー(4/10~5/25)
*後日、追加します。
さてまずは5月スタートの展覧会。心なしか中盤以降に始まるものが多いかもしれません。うち私が特に楽しみなのがステーションギャラリー。フォートリエの展覧会です。
「Jean Fautrier: 1898-1964/Harvard Art Museum」
「ジャン・フォートリエ展」@東京ステーションギャラリー(5/24~7/13)
フランスの抽象美術の先駆的存在(Wikiより)とも言われるフォートリエ。その独特の人間への眼差し。これまでにもブリヂストン美術館で何度か作品を見たことはありましたが、回顧展に接したことはなかった。それもそのはず、日本で初めての回顧展です。作品は約90点。有名な「人質」シリーズからも10点ほどが出品されます。ここは大いに期待したいと思います。
美しいチラシも目を引きます。千葉市美術館で「水彩画家・大下藤次郎」展が開催されます。
「島根県立石見美術館所蔵 水彩画家・大下藤次郎」@千葉市美術館(5/20~6/29)
近代日本の水彩のパイオニア(同館サイトより)と称された大下藤次郎。生まれは東京ながらも、千葉は上総の地を旅している間に日本の風景を見出した。彼の見た明治の日本の原風景。何となしに巴水も連想させます。また趣き深いものがあるのではないでしょうか。
「光琳を慕う 中村芳中」 千葉市美術館(はろるど)
なお千葉市美では現在「中村芳中」展も開催中です。現在は既に作品が入れ替わっての後期展示中。なにせ会期が短く、5/6で終了です。また再度出かけるつもりです。
さて同じく千葉からは少し南に目を向けて市原へ。「いちはらアート×ミックス」が佳境を迎えました。
「美術手帖増刊 いちはらアート×ミックス ガイドブック/美術出版社」
「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」(~5/11)
市原を舞台にした初めての芸術祭の試み。既に始まってから1ヶ月半を経過しています。その割には評判をあまり聞きませんが、ともかくもようやく都合が付きました。GW中に日帰りで行ってきます。
栃木は佐野の吉澤記念美術館で「寺崎広業展」が開催されます。
「寺崎広業展ー明治の谷文晁とよばれた男」@佐野市立吉澤記念美術館(~6/29)
幕末の秋田に生まれ、四条派を学びつつ、後には近代日本画壇の重鎮にまでなった寺崎。最盛期には画塾に300名もの門弟が集まったそうです。しかしながらどうでしょうか。今、その名を聞くことはあまりにも少ない。再評価ということかもしれません。同館所蔵する寺崎の作品が初めて一堂に公開されます。
私の佐野の吉澤美術館の思い出といえば5年前です。若冲の「菜蟲譜」が展示された際に見に行ったことがあります。それ以来はすっかりご無沙汰。うまくタイミングがとれるか分かりませんが、何とかまた出かけたいものです。(ちなみに菜蟲譜は現在修復中です。今年11月以降に公開されます。)
東博で開催中の「キトラ古墳壁画展」が大変な盛況となっています。
「キトラ古墳壁画」@東京国立博物館(4/22~5/18)
会場が本館の特別5室と狭いこともあるのでしょうか。初日から入場規制がかかるほどの人気ぶり。休日の昼間に至っては最大80分余の待ち時間が発生しています。なお混雑に関してはツイッターの公式アカウント(@kitora2014)が有用です。リアルタイムで入場規制の情報を発信しています。実は私も行きそびれていますが、比較的狙い目なのは平日の夕方、閉館前だそうです。これからお出かけの皆さん、まずは(@kitora2014)で状況をご確認下さい。
それでは5月もどうぞ宜しくお願いします。
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「明和電機 EDELWEISS展」 市川市芳澤ガーデンギャラリー
市川市芳澤ガーデンギャラリー
「明和電機 EDELWEISS展」
4/19-6/1
市川市芳澤ガーデンギャラリーで開催中の「明和電機 EDELWEISS展」を見て来ました。
昨年、活動20周年を迎えたアートユニット明和電機。主に音楽のライブパフォーマンスや通称「ナンセンスマシーン」を開発。いわゆる現代美術のみならず、舞台や芸能の領域でも活動を行っています。
うち本展ではエーデルワイスのシリーズを紹介。スケッチにジオラマ人形にマシーンなど、全35点の作品が展示されています。
さてその明和電機のエーデルワイス。ご存知でしょうか。それは一体何ぞやということで、まずは簡単に概略から触れてみます。
「BOKU(ボク)-3」
同シリーズの制作の発端は2000年です。始まりはテキスト。テーマは女性と生物的なメスです。それを元に明和電機の土佐信道が物語を書き上げた。現在は6つのシーンが作成されています。ようはその物語から派生した絵画やオブジェが言わば芸術作品として展開されているのです。
それにしても明和電機の女性性への切り込み。一筋縄ではいきません。一捻りどころか二捻りもある。例えば物語における「林檎のエンジン」と題された章。オスのつくった理想郷「月宮」に住む「ボク」が「母性」を探るため、リンゴのエンジンのロケットでメスの都「未京」へと向かう。どうでしょうか。極めて独特です。
「ニュートン銃」
そして鑑賞のポイントとしては、ともかくこうした世界観に浸ってしまうこと。チラシに「不思議なオブジェ」とありますが、確かに一見しただけではよく「分からない」作品も少なくない。それを何だろうと探って歩く感覚。明和電機の世界の楽しみ方の一つかもしれません。
前置きが長くなりました。展示を少し追ってみます。(作品は全て撮影出来ます。)
「EDELWEISS」アイディアスケッチ
冒頭はエーデルワイスの物語そのもの。絵コンテです。土佐はエーデルワイスをまず言葉のストーリー、イメージとしての絵、さらにはそこから作られたマシーンと三段階に分けて考えている。スケッチなどは第二段階と言うことでしょうか。先に触れた「林檎のエンジン」のアイデアスケッチも展示されています。
「EDELWEISS」アイディアスケッチ(展示風景)
これが結構な分量です。追っかけていくと意外と時間がかかります。またエーデルワイスに基づく調度品のドローイングなどもある。緻密なスケッチです。なかなか魅せます。
右:「未京銃」
では今度はオブジェへ進みましょう。「未京銃」です。中には150種類の化粧品が入ったマシンガン。また銃が発射した香水も展示。「未京液」というのだとか。その他には恋人からもらった髪で湿度を測る「ヘアメータ」、さらにはガソリンの排気をアロマとして楽しむという「ムスタング」なども並んでいる。言葉で表現するともはや奇怪ですらありますが、作品を前にすると思いの外に親しみやすいのもポイントかもしれません。
「自動ピアノ」/「メカフォーク」/「未京灯」
一際目立つのはエーデルワイスに由来した曲を演奏する「自動ピアノ」です。中央のピアノは元々、芳澤ガーデンに備付けのもの。そこに明和電機が自動演奏の装置をつけました。上部に輝くライトは「未京灯」。左右のギターは「メカフォーク」です。何でもエーデルワイスで「ボク」が聞いたメスの歌声の物語を素材にした楽器とのことでした。
なおこの自動ピアノ、一日3回、それぞれ11時、13時、15時にデモンストレーションとして演奏されます。参加は無料(入館料のみ)です。こちらにあわせて出かけても面白いのではないでしょうか。
「魚立琴」
奥の小さなスペースでは魚骨をモチーフにした「魚器」も紹介されていました。比較的初期のシリーズです。また和室を使っての展示もあります。
「明和電機 EDELWEISS展」会場風景
会期中、サイン会やトークイベントも多数。詳細は同ギャラリーWEBサイトをご参照下さい。
「明和電機 EDELWEISS展」@市川市芳澤ガーデンギャラリー
さて芳澤ガーデン、現地周辺は閑静な住宅街です。JR市川駅から歩いて15分強かかります。最寄にバス停もありません。あらかじめ地図などを参照されることをおすすめします。
JR市川駅近くの市営駐輪場に無料のレンタサイクルもあります。
「街かど回遊レンタサイクル」@市川市 市川駅(北口)第6駐輪場 7:00~17:00
市川市芳澤ガーデンギャラリー前庭
また同ギャラリーは四季折々に咲く庭園も美しいもの。お庭の藤がちょうど見頃でした。
「明和電機 ナンセンス=マシーンズ/NTT出版」
千葉県内で初めてとなる明和電機の個展です。有機物と無機的な器械の融合。そこへファンタジーも加わっていく。SF的とも言える独創的なアイデアです。素直に楽しめました。
6月1日まで開催されています。
「明和電機 EDELWEISS展」 市川市芳澤ガーデンギャラリー
会期:4月19日(土)~6月1日(日)
休館:月曜日。但し5/5は開館。
時間:9:30~16:30 *入場は16時まで。
料金:一般500円。25名以上の団体は400円。
住所:千葉県市川市真間5-1-18
交通:JR線市川駅より徒歩16分、京成線市川真間駅より徒歩12分。
「明和電機 EDELWEISS展」
4/19-6/1
市川市芳澤ガーデンギャラリーで開催中の「明和電機 EDELWEISS展」を見て来ました。
昨年、活動20周年を迎えたアートユニット明和電機。主に音楽のライブパフォーマンスや通称「ナンセンスマシーン」を開発。いわゆる現代美術のみならず、舞台や芸能の領域でも活動を行っています。
うち本展ではエーデルワイスのシリーズを紹介。スケッチにジオラマ人形にマシーンなど、全35点の作品が展示されています。
さてその明和電機のエーデルワイス。ご存知でしょうか。それは一体何ぞやということで、まずは簡単に概略から触れてみます。
「BOKU(ボク)-3」
同シリーズの制作の発端は2000年です。始まりはテキスト。テーマは女性と生物的なメスです。それを元に明和電機の土佐信道が物語を書き上げた。現在は6つのシーンが作成されています。ようはその物語から派生した絵画やオブジェが言わば芸術作品として展開されているのです。
それにしても明和電機の女性性への切り込み。一筋縄ではいきません。一捻りどころか二捻りもある。例えば物語における「林檎のエンジン」と題された章。オスのつくった理想郷「月宮」に住む「ボク」が「母性」を探るため、リンゴのエンジンのロケットでメスの都「未京」へと向かう。どうでしょうか。極めて独特です。
「ニュートン銃」
そして鑑賞のポイントとしては、ともかくこうした世界観に浸ってしまうこと。チラシに「不思議なオブジェ」とありますが、確かに一見しただけではよく「分からない」作品も少なくない。それを何だろうと探って歩く感覚。明和電機の世界の楽しみ方の一つかもしれません。
前置きが長くなりました。展示を少し追ってみます。(作品は全て撮影出来ます。)
「EDELWEISS」アイディアスケッチ
冒頭はエーデルワイスの物語そのもの。絵コンテです。土佐はエーデルワイスをまず言葉のストーリー、イメージとしての絵、さらにはそこから作られたマシーンと三段階に分けて考えている。スケッチなどは第二段階と言うことでしょうか。先に触れた「林檎のエンジン」のアイデアスケッチも展示されています。
「EDELWEISS」アイディアスケッチ(展示風景)
これが結構な分量です。追っかけていくと意外と時間がかかります。またエーデルワイスに基づく調度品のドローイングなどもある。緻密なスケッチです。なかなか魅せます。
右:「未京銃」
では今度はオブジェへ進みましょう。「未京銃」です。中には150種類の化粧品が入ったマシンガン。また銃が発射した香水も展示。「未京液」というのだとか。その他には恋人からもらった髪で湿度を測る「ヘアメータ」、さらにはガソリンの排気をアロマとして楽しむという「ムスタング」なども並んでいる。言葉で表現するともはや奇怪ですらありますが、作品を前にすると思いの外に親しみやすいのもポイントかもしれません。
「自動ピアノ」/「メカフォーク」/「未京灯」
一際目立つのはエーデルワイスに由来した曲を演奏する「自動ピアノ」です。中央のピアノは元々、芳澤ガーデンに備付けのもの。そこに明和電機が自動演奏の装置をつけました。上部に輝くライトは「未京灯」。左右のギターは「メカフォーク」です。何でもエーデルワイスで「ボク」が聞いたメスの歌声の物語を素材にした楽器とのことでした。
なおこの自動ピアノ、一日3回、それぞれ11時、13時、15時にデモンストレーションとして演奏されます。参加は無料(入館料のみ)です。こちらにあわせて出かけても面白いのではないでしょうか。
「魚立琴」
奥の小さなスペースでは魚骨をモチーフにした「魚器」も紹介されていました。比較的初期のシリーズです。また和室を使っての展示もあります。
「明和電機 EDELWEISS展」会場風景
会期中、サイン会やトークイベントも多数。詳細は同ギャラリーWEBサイトをご参照下さい。
「明和電機 EDELWEISS展」@市川市芳澤ガーデンギャラリー
さて芳澤ガーデン、現地周辺は閑静な住宅街です。JR市川駅から歩いて15分強かかります。最寄にバス停もありません。あらかじめ地図などを参照されることをおすすめします。
JR市川駅近くの市営駐輪場に無料のレンタサイクルもあります。
「街かど回遊レンタサイクル」@市川市 市川駅(北口)第6駐輪場 7:00~17:00
市川市芳澤ガーデンギャラリー前庭
また同ギャラリーは四季折々に咲く庭園も美しいもの。お庭の藤がちょうど見頃でした。
「明和電機 ナンセンス=マシーンズ/NTT出版」
千葉県内で初めてとなる明和電機の個展です。有機物と無機的な器械の融合。そこへファンタジーも加わっていく。SF的とも言える独創的なアイデアです。素直に楽しめました。
6月1日まで開催されています。
「明和電機 EDELWEISS展」 市川市芳澤ガーデンギャラリー
会期:4月19日(土)~6月1日(日)
休館:月曜日。但し5/5は開館。
時間:9:30~16:30 *入場は16時まで。
料金:一般500円。25名以上の団体は400円。
住所:千葉県市川市真間5-1-18
交通:JR線市川駅より徒歩16分、京成線市川真間駅より徒歩12分。
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「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」 原美術館
原美術館
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」
4/19~6/29
原美術館で開催中の「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」のプレスプレビューに参加してきました。
1978年にパリで生まれ、現在は日本に在住。「ヨーロッパの伝統的な美意識と日本やアメリカ由来のサブカルチャー」(リリースより)を取り込んだ制作で知られるニコラ・ビュフ。
つい先頃、東京芸大の大学院の博士号を取得したばかりだそうです。まさに新進気鋭のアーティスト。国内の美術館としては初めてとなる個展がはじまりました。
さてはじめにも触れた「伝統」と「サブカル」との関係。今回はどう表現しているのか。まずはヨーロッパの伝統です。ここでタイトルの「ポリフィーロ」が重要になってきます。
というのも「ポリフィーロ」とは、15世紀末のヨーロッパ古典文学の「Hypnerotomachia Poliphil」を引用している。直訳すると「ポリフィーロの夢の中の恋の戦い」です。つまり主人公ポリフィーロが夢の中で恋人ポーリアを求めて旅をするという物語がベースになっているのです。
ではその物語をビュフはどのように美術館という空間で展開していくのか。さらにもう一つの「サブカル」がキーワードです。
言ってしまえばアドベンチャーゲーム。ビュフは「夢」や「恋」に「戦」という言葉に日本のテレビゲームの要素を見出した。ゼルダにマリオやファイナルファンタジー。厳密に言うとロールプレイングゲームも入るわけですが、それはともかくもビュフは美術館でアドベンチャーゲームを展開させている。古典文学とゲームの世界。それを融合させようという試みです。
もちろん主人公ポリフィーロを演じるのは鑑賞者、つまりは我々一人一人。悪に立ち向かい恋人を助ける。うまくクリア出来るでしょうか。それではいざ、美術館という冒険のフィールドへ向かってみましょう。
とは言え、まだ始まったばかりの「ゲーム」の内容を全て紹介するのは気が引けるもの。というわけでまずは以下、簡単にさわりの部分だけ触れてみます。
「オオカミの口」 発泡スチロール、FRP、シート、塗料他 2014年
それでは美術館のエントランスから。「オオカミの口」です。巨大なモンスターの頭部。まさしく冒険の旅への入口に相応しい。ぽっかりと開いた口が鑑賞者を飲み込みます。ちなみに実際の物語においてもポリフィーロはオオカミに出会うとか。モチーフそのものはイタリアの公園にあるという「地獄の門」を参照。一方でアメリカのキャラクターなどの引用もあるそうです。
そして一歩足を踏み入れると鏡の世界が待っている。異次元への扉。「鏡の国のアリス」でしょうか。それにしてもオオカミしかり、テーマパークさながらの舞台装置です。(実際に遊園地のイメージも参考にしています。)旧邸宅で重厚な美術館という空間が良い意味でキッチュになった。ともかくこの景色だけでも一見の価値はあります。
「紙芝居ビデオ」
もう少しだけフィールドを覗いてみます。まずはモニターの「紙芝居のビデオ」。序章です。ここで冒険の概要が示されます。例えばドラクエの冒頭で王様の話を聞きながらストーリーの大まかな内容を把握する。そうした感覚に近いかもしれません。ともかくはアニメの紙芝居を見ながらポリフィーロの役割を確認しましょう。
「ユニコーンの皮」 タペストリー、陶器 2010年
では最初のダンジョンだけをピックアップ。「ユニコーンの皮」です。床面に広がるのは一角獣のタペストリー。頭部は陶器製。リモージュ焼です。またタペストリーについては国立新美術館での展示の記憶も新しいクリュニーの「貴婦人と一角獣」を参照しているとのこと。織物の街で知られるオービュッソンの国際タペストリー研究所から依頼を受けて制作された作品です。完成するまでに一年もかかったそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
死と再生を表すという一角獣。それはゲームにおいても重要な要素である。以降、某戦隊シリーズにも由来する「ヒーローの甲冑」に身を包んで、いざ「戦闘」へ。さらに「回復」した後、目出たく「凱旋」。最後の最後で「夢オチ」(1階ギャラリーの出窓の外にも注目です。)まであるという冒険が続きますが、そこまで細かに触れると壮大なネタバレになってしまいます。あとは実際に美術館で体験してみて下さい。
なお冒険の手引きとして2、3点お知らせを。まずは順路です。エントランス横の「ギャラリー1」の後に階段をあがって2階へ進む。そして手前から奥、一通り見た後はまた1階へと戻ります。つまり一度、2階へあがって、再度1階へという流れ。最後に一階奥の「ギャラリー2」に到達する展開になっています。
さらにいわゆる監視員の方が「案内人」としてガイド役をつとめているのもポイント。妖精の格好をしているそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
そしてビュフによる作品の解説シートも重要です。(受付で配布しています。)作品のコンセプトがテキスト化されている。これが充実しています。攻略本としたら言い過ぎでしょうか。一通り「ゲーム」を終えてから読み、再度また廻ると、また鑑賞も深まるのかもしれません。
私にとってニコラ・ビュフ、実のところ2009年仏大使館(旧庁舎)での「ノーマンズランド」展で作品を見て以来、どこか気になっていたアーティストの一人でした。日本ではその後、銀座のエルメスのウィンドウディスプレイ(2010年)を担当。また海外では2012年にシャトレ座でオペラ「オルランド」のアートディレクションを担当したそうです。
会場内で作品について解説するニコラ・ビュフ
ビュフが語るにコンセプトは「まじめに遊ぶ」こと。作家の世界観を美術館の空間へインタラクティブな仕掛けで広げる試み。3Dプリンターを使った意欲的な作品もある。それでいて例えばタブロー(よく目を凝らすと随所に思わぬキャラクターもいます。)は見応えがあります。楽しめました。
会場内、写真の撮影が出来ます。(一部制限事項あり。動画不可。)ここは原美術館へカメラ片手にポルフィーロになりきって乗り込んでは如何でしょうか。
【ニコラ・ビュフ関連展覧会】
「ポリフィーロの手帳」@アンスティチュ・フランセ東京(飯田橋)4/24(木)~6/1(日)
http://www.institutfrancais.jp/tokyo/
「ポーリアの悪夢:ニコラ ビュフ」@山本現代(白金)5/31(土)~6/28(土)
http://www.yamamotogendai.org/
6月29日まで開催されています。
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」 原美術館(@haramuseum)
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる5月5日は開館)、5月7日。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」
4/19~6/29
原美術館で開催中の「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」のプレスプレビューに参加してきました。
1978年にパリで生まれ、現在は日本に在住。「ヨーロッパの伝統的な美意識と日本やアメリカ由来のサブカルチャー」(リリースより)を取り込んだ制作で知られるニコラ・ビュフ。
つい先頃、東京芸大の大学院の博士号を取得したばかりだそうです。まさに新進気鋭のアーティスト。国内の美術館としては初めてとなる個展がはじまりました。
さてはじめにも触れた「伝統」と「サブカル」との関係。今回はどう表現しているのか。まずはヨーロッパの伝統です。ここでタイトルの「ポリフィーロ」が重要になってきます。
というのも「ポリフィーロ」とは、15世紀末のヨーロッパ古典文学の「Hypnerotomachia Poliphil」を引用している。直訳すると「ポリフィーロの夢の中の恋の戦い」です。つまり主人公ポリフィーロが夢の中で恋人ポーリアを求めて旅をするという物語がベースになっているのです。
ではその物語をビュフはどのように美術館という空間で展開していくのか。さらにもう一つの「サブカル」がキーワードです。
言ってしまえばアドベンチャーゲーム。ビュフは「夢」や「恋」に「戦」という言葉に日本のテレビゲームの要素を見出した。ゼルダにマリオやファイナルファンタジー。厳密に言うとロールプレイングゲームも入るわけですが、それはともかくもビュフは美術館でアドベンチャーゲームを展開させている。古典文学とゲームの世界。それを融合させようという試みです。
もちろん主人公ポリフィーロを演じるのは鑑賞者、つまりは我々一人一人。悪に立ち向かい恋人を助ける。うまくクリア出来るでしょうか。それではいざ、美術館という冒険のフィールドへ向かってみましょう。
とは言え、まだ始まったばかりの「ゲーム」の内容を全て紹介するのは気が引けるもの。というわけでまずは以下、簡単にさわりの部分だけ触れてみます。
「オオカミの口」 発泡スチロール、FRP、シート、塗料他 2014年
それでは美術館のエントランスから。「オオカミの口」です。巨大なモンスターの頭部。まさしく冒険の旅への入口に相応しい。ぽっかりと開いた口が鑑賞者を飲み込みます。ちなみに実際の物語においてもポリフィーロはオオカミに出会うとか。モチーフそのものはイタリアの公園にあるという「地獄の門」を参照。一方でアメリカのキャラクターなどの引用もあるそうです。
そして一歩足を踏み入れると鏡の世界が待っている。異次元への扉。「鏡の国のアリス」でしょうか。それにしてもオオカミしかり、テーマパークさながらの舞台装置です。(実際に遊園地のイメージも参考にしています。)旧邸宅で重厚な美術館という空間が良い意味でキッチュになった。ともかくこの景色だけでも一見の価値はあります。
「紙芝居ビデオ」
もう少しだけフィールドを覗いてみます。まずはモニターの「紙芝居のビデオ」。序章です。ここで冒険の概要が示されます。例えばドラクエの冒頭で王様の話を聞きながらストーリーの大まかな内容を把握する。そうした感覚に近いかもしれません。ともかくはアニメの紙芝居を見ながらポリフィーロの役割を確認しましょう。
「ユニコーンの皮」 タペストリー、陶器 2010年
では最初のダンジョンだけをピックアップ。「ユニコーンの皮」です。床面に広がるのは一角獣のタペストリー。頭部は陶器製。リモージュ焼です。またタペストリーについては国立新美術館での展示の記憶も新しいクリュニーの「貴婦人と一角獣」を参照しているとのこと。織物の街で知られるオービュッソンの国際タペストリー研究所から依頼を受けて制作された作品です。完成するまでに一年もかかったそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
死と再生を表すという一角獣。それはゲームにおいても重要な要素である。以降、某戦隊シリーズにも由来する「ヒーローの甲冑」に身を包んで、いざ「戦闘」へ。さらに「回復」した後、目出たく「凱旋」。最後の最後で「夢オチ」(1階ギャラリーの出窓の外にも注目です。)まであるという冒険が続きますが、そこまで細かに触れると壮大なネタバレになってしまいます。あとは実際に美術館で体験してみて下さい。
なお冒険の手引きとして2、3点お知らせを。まずは順路です。エントランス横の「ギャラリー1」の後に階段をあがって2階へ進む。そして手前から奥、一通り見た後はまた1階へと戻ります。つまり一度、2階へあがって、再度1階へという流れ。最後に一階奥の「ギャラリー2」に到達する展開になっています。
さらにいわゆる監視員の方が「案内人」としてガイド役をつとめているのもポイント。妖精の格好をしているそうです。
「ニコラ・ビュフ展」会場風景
そしてビュフによる作品の解説シートも重要です。(受付で配布しています。)作品のコンセプトがテキスト化されている。これが充実しています。攻略本としたら言い過ぎでしょうか。一通り「ゲーム」を終えてから読み、再度また廻ると、また鑑賞も深まるのかもしれません。
私にとってニコラ・ビュフ、実のところ2009年仏大使館(旧庁舎)での「ノーマンズランド」展で作品を見て以来、どこか気になっていたアーティストの一人でした。日本ではその後、銀座のエルメスのウィンドウディスプレイ(2010年)を担当。また海外では2012年にシャトレ座でオペラ「オルランド」のアートディレクションを担当したそうです。
会場内で作品について解説するニコラ・ビュフ
ビュフが語るにコンセプトは「まじめに遊ぶ」こと。作家の世界観を美術館の空間へインタラクティブな仕掛けで広げる試み。3Dプリンターを使った意欲的な作品もある。それでいて例えばタブロー(よく目を凝らすと随所に思わぬキャラクターもいます。)は見応えがあります。楽しめました。
会場内、写真の撮影が出来ます。(一部制限事項あり。動画不可。)ここは原美術館へカメラ片手にポルフィーロになりきって乗り込んでは如何でしょうか。
【ニコラ・ビュフ関連展覧会】
「ポリフィーロの手帳」@アンスティチュ・フランセ東京(飯田橋)4/24(木)~6/1(日)
http://www.institutfrancais.jp/tokyo/
「ポーリアの悪夢:ニコラ ビュフ」@山本現代(白金)5/31(土)~6/28(土)
http://www.yamamotogendai.org/
6月29日まで開催されています。
「ニコラ・ビュフ:ポリフィーロの夢」 原美術館(@haramuseum)
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる5月5日は開館)、5月7日。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「伊庭靖子展ーまばゆさ/けしき」 日本橋高島屋美術画廊X
日本橋高島屋美術画廊X
「伊庭靖子展ーまばゆさ/けしき」
4/23~5/12
日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の伊庭靖子個展、「まばゆさ/けしき」を見て来ました。
リネンやティーカップといった身近な日用品を描きつづける伊庭靖子。2009年には神奈川県立近代美術館鎌倉館で個展を開催。他にも美術館のグループ展やギャラリーで作品を発表し続けています。
白い光に包まれたクッションの豊かな質感は魅惑的。また同じくカップの陶器の滑らかさをも絵画に表す。精緻な筆致は時に実物と見間違うほど写実的でもあります。
しかしながら伊庭、一昨年あたりから作風を変化させてきました。そして本展においても変化後の作品が並ぶ。出品は120号の大作をはじめとした約10点。油彩、そして水彩も含みます。もちろん変わらない魅力もあります。その辺も感じ取れる個展となっていました。
さて変化。改めて思うのは筆触です。というのもかつてはそれこそ筆の跡を全く感じさせない、言い換えれば光沢のある写真の表面を見るかのような画面でしたが、近作は違う。筆の痕跡が明らかである。ようはカップやクッションの模様が絵筆の跡として際立っているのです。
特にカップです。絵具の滲みや掠れも確認出来る。また絵具が明らかに隆起している箇所もあります。かつての均質な画肌とは明らかに異なっていました。
ステイニング、また水墨画としたら言い過ぎでしょうか。大胆なストロークは時に抽象面を切り開いている。単に写実とは決めつけられない表現を見てとれました。
クッションに関しては旧作に近い面があるかもしれません。空気を含んで大きく膨らむクッション。さも柔らかそうな質感。それを目で感じることが出来る。モチーフの触感を味わえるのも伊庭の魅力です。ただクッションの断面や皺は思いがけないほど明瞭に描かれています。強度と言って良いのでしょうか。絵画的な志向も感じられます。
ただ伊庭の白の清潔感と美しさ。こればかりは不変です。光の張り付いた感覚。一方でモチーフ自体が光を放っているようでもある。独特のブレは一度、モチーフを写真で収め、その後改めて絵画に起こしているからなのでしょうか。確かにまばゆくも映ります。
何でも作家は新たな表現を目指し、また別のモチーフを加えることにもチャレンジしているそうです。そういえば鎌倉で見た個展ではプリンを描いた作品もありました。今後の展開にも期待したいと思います。
それにしても繊細な画肌に光の表現。WEB上の画像ではまるで分かりません。実物の筆触を是非目で確かめて下さい。
東京展終了後、以下のスケジュールで巡回します。
高島屋新宿店10階美術画廊
6月18日(水)~30日(月)
高島屋大阪店6階美術画廊NEXT
8月6日(水)~19日(火)
5月12日までの開催です。
「伊庭靖子展ーまばゆさ/けしき」 日本橋高島屋美術画廊X(アッと@ART)
会期:4月23日(水)~5月12日(月)
休廊:会期中無休。
時間:10:00~20:00
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
「伊庭靖子展ーまばゆさ/けしき」
4/23~5/12
日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の伊庭靖子個展、「まばゆさ/けしき」を見て来ました。
リネンやティーカップといった身近な日用品を描きつづける伊庭靖子。2009年には神奈川県立近代美術館鎌倉館で個展を開催。他にも美術館のグループ展やギャラリーで作品を発表し続けています。
白い光に包まれたクッションの豊かな質感は魅惑的。また同じくカップの陶器の滑らかさをも絵画に表す。精緻な筆致は時に実物と見間違うほど写実的でもあります。
しかしながら伊庭、一昨年あたりから作風を変化させてきました。そして本展においても変化後の作品が並ぶ。出品は120号の大作をはじめとした約10点。油彩、そして水彩も含みます。もちろん変わらない魅力もあります。その辺も感じ取れる個展となっていました。
さて変化。改めて思うのは筆触です。というのもかつてはそれこそ筆の跡を全く感じさせない、言い換えれば光沢のある写真の表面を見るかのような画面でしたが、近作は違う。筆の痕跡が明らかである。ようはカップやクッションの模様が絵筆の跡として際立っているのです。
特にカップです。絵具の滲みや掠れも確認出来る。また絵具が明らかに隆起している箇所もあります。かつての均質な画肌とは明らかに異なっていました。
ステイニング、また水墨画としたら言い過ぎでしょうか。大胆なストロークは時に抽象面を切り開いている。単に写実とは決めつけられない表現を見てとれました。
クッションに関しては旧作に近い面があるかもしれません。空気を含んで大きく膨らむクッション。さも柔らかそうな質感。それを目で感じることが出来る。モチーフの触感を味わえるのも伊庭の魅力です。ただクッションの断面や皺は思いがけないほど明瞭に描かれています。強度と言って良いのでしょうか。絵画的な志向も感じられます。
ただ伊庭の白の清潔感と美しさ。こればかりは不変です。光の張り付いた感覚。一方でモチーフ自体が光を放っているようでもある。独特のブレは一度、モチーフを写真で収め、その後改めて絵画に起こしているからなのでしょうか。確かにまばゆくも映ります。
何でも作家は新たな表現を目指し、また別のモチーフを加えることにもチャレンジしているそうです。そういえば鎌倉で見た個展ではプリンを描いた作品もありました。今後の展開にも期待したいと思います。
それにしても繊細な画肌に光の表現。WEB上の画像ではまるで分かりません。実物の筆触を是非目で確かめて下さい。
東京展終了後、以下のスケジュールで巡回します。
高島屋新宿店10階美術画廊
6月18日(水)~30日(月)
高島屋大阪店6階美術画廊NEXT
8月6日(水)~19日(火)
5月12日までの開催です。
「伊庭靖子展ーまばゆさ/けしき」 日本橋高島屋美術画廊X(アッと@ART)
会期:4月23日(水)~5月12日(月)
休廊:会期中無休。
時間:10:00~20:00
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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東京国立近代美術館で「菱田春草展」が開催されます
明治7年に長野県で生まれ、東京美術学校を卒業。後に岡倉天心とともに日本美術院の設立にも参加した画家、菱田春草(1874~1911)。
生誕140周年を迎えました。それを記念しての展覧会です。今秋、東京国立近代美術館にて菱田春草の回顧展が開催されます。
追記:菱田春草展の内覧会に参加してきました。
「菱田春草展」 東京国立近代美術館(はろるど)
「菱田春草展」
会期:2014年9月23日(火・祝)~11月3日(月・祝)
会場:東京国立近代美術館
さて特設サイトもオープン。既に見どころや概要、講演会情報も案内されていますが、こちらでもいくつかピックアップしてご紹介。まずは肝心の見どころです。
[展覧会のみどころ]
1.重要文化財4点が全て出品。
2.「落葉」の連作5点も全て出品。
3.「黒き猫」をはじめとした猫作品が勢ぞろい。
4.出品は100点超。新出及び、数十年ぶりの公開となる作品も多数展示。
重要文化財「王昭君」1902年 善宝寺 *展示期間:9月23日~11月3日
重文4点とは「王昭君」(1902年)、「賢首菩薩」(1907年)、「落葉」(1909年)、「黒き猫」(1910年)のこと。「賢首菩薩」は東近美所蔵、後者2点は永青文庫寄託です。それぞれ都内でも見る機会がないわけではありませんが、「王昭君」は山形の善宝寺所蔵の作品。あまり見た記憶がありません。
重要文化財「落葉」(左)1909年 永青文庫(熊本県立美術館寄託) *展示期間:9月23日~10月13日
「落葉」の連作はどうでしょうか。晩年の春草が住んだ代々木の森をモチーフにした作品。核となるのは今も触れた永青文庫の重文作です。しかしながら本作には複数のバリエーションがあることが知られている。中には稜線の描き込まれた未完の作もあります。それらが全て展示されます。
重要文化財「黒き猫」1910年 永青文庫(熊本県立美術館寄託) 展示期間:10月15日~11月3日
ひょっとすると近代日本画で一番有名な黒猫かもしれません。晩年の「黒き猫」(1910年)。僅か数日で完成されたと伝えられる傑作です。また春草はこの猫以外にも、白やぶちなど、色を問わず猫を何枚も描いています。そのそろい踏み。猫好きにもたまらない展示になるのではないでしょうか。
出品は計100超。東近美のスペースを活かしての大規模な回顧展です。ただし保存の観点などから公開に制約もある日本画です。会期中、展示替えも予定されています。
「松に月」1906年 個人蔵 *展示期間:9月23日~11月3日
新出の作品も気になります。現段階でアナウンスがあるのは初出品の「林和靖」(1900年)。そして40年ぶりの「夕の森」(1906年)に50年ぶりの出展となる「松に月」(1906年)の3点。「松に月」に関しては春草が欧州遊学から帰国した後、ロンドンへ売却しようと送った作品でもあるとか。興味深いものがあります。
[展覧会構成]
1章:東京美術学校の時代
2章:日本美術院の時代
3章:外遊、そして五浦へ
4章:代々木の時代
展覧会は編年体での展開です。春草の作品を、東京美術学校、日本美術院、外遊と五浦、そして晩年の代々木の時代別に並べていく。また一部の代表作に関しては絵具、及び落款の再調査も行われているそうです。色彩や制作年代についての再検討もある。その辺の成果も盛り込まれるのではないでしょうか。
「水鏡」1897年 東京藝術大学 *展示期間:9月23日~10月13日
春草は僅か36歳で病に倒れた夭折の画家です。とは言え、初期の雅邦に倣った作品から大観風の朦朧体、そして琳派的装飾性を備えたものなど、短い期間にも関わらず作風は随分と変化しています。順を追って見ることも出来そうです。
さて講演会の情報です。
[菱田春草展講演会]
9月27日(土) 14:00~15:30
講師:高階秀爾(大原美術館長、東京大学名誉教授)
申込締切:9月1日(月)必着
10月11日(土) 14:00~15:30
講師:尾Ⅵ正明(茨城県近代美術館長)
申込締切:9月10日(水)必着
会場:東京国立近代美術館講堂(地下1階)
参加:無料(定員140人)
申込方法:郵便往復はがきに次の必要事項を記入のうえ、お申し込みください。
【往信用裏面】希望する講演日・郵便番号・住所・名前(ふりがな)・電話番号
【返信用表面】郵便番号・住所・名前
*応募者多数の場合は抽選のうえ、ご案内いたします。
*1枚で2人までの入場可。2人応募の場合は往信用裏面に2人分名前を明記。
またお得なチケットの情報です。当日一般2名2800円が2000円になる前売「猫ペアチケット」が5月7日から発売されます。
[猫ペアチケット]
当日一般チケット2枚で2800円のところを、2000円でお買い求めいただけるお得なチケットです。大人気の「猫作品」には、期間限定で公開されるものがあります。「猫チケ」で前期・後期にそれぞれ1回ずつお越しいただけば、猫をモチーフとした作品すべてをご覧いただけます。
価格:2枚で2000円
販売期間:5月7日(水)~9月22日(月)
発売場所:猫ペアチケットの実券は、東京国立近代美術館、ちけっとぽーと、チケットビューローで販売。
猫の作品をモチーフとした可愛らしいチケット(しおり)のようです。なおここにも記載がありますが、「猫作品」を全て見るためには前後期通う必要がありそうです。
それにしても私の記憶では春草の名を冠した展覧会が都内で開かれたのは2009年。明治神宮文化館の宝物展示室での「特別展 菱田春草」でのことでした。
「特別展 菱田春草」(前期展示) 明治神宮文化館
「特別展 菱田春草」(後期展示) 明治神宮文化館
出品は約60点。国内各地の美術館などから春草作が集まりました。なおこの時は前後期の二期制。ほぼ総入れ替えの展示でした。(もちろん見に行きました。)
重要文化財 「賢首菩薩」1907年 東京国立近代美術館 *展示期間:9月23日~11月3日
実のところ私自身、近代日本画家で好きな人物といえば一に御舟、次いで春草を挙げるほどに、春草が好きです。明治神宮の展覧会の感想の最後に「いつか東近美クラスの箱で回顧展を見たい。」というようなことも書きましたが、それ以来約5年。ようやく願いが叶いました。
何と東京では40年ぶりという春草の大規模な回顧展。さらに詳細な出品情報などを待ちたいと思います。
「もっと知りたい菱田春草/鶴見香織/東京美術」
菱田春草展は東京国立近代美術館で9月23日から開催されます。
「菱田春草展」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:2014年9月23日(火・祝)~11月3日(月・祝)
休館:月曜日。但し10/13、11/3は開館。10/14は休館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1400(1200/1000)円、大学生900(800/600)円、高校生400(300/200)円、中学生以下無料。
*( )内は前売券/20名以上の団体料金。
*猫ペアチケット(2000円)あり。販売期間:5/7~9/22。
主催:東京国立近代美術館、日本経済新聞社、NHK、NHKプロモーション
協賛:損保ジャパン・日本興亜損保、大伸社
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
生誕140周年を迎えました。それを記念しての展覧会です。今秋、東京国立近代美術館にて菱田春草の回顧展が開催されます。
追記:菱田春草展の内覧会に参加してきました。
「菱田春草展」 東京国立近代美術館(はろるど)
「菱田春草展」
会期:2014年9月23日(火・祝)~11月3日(月・祝)
会場:東京国立近代美術館
さて特設サイトもオープン。既に見どころや概要、講演会情報も案内されていますが、こちらでもいくつかピックアップしてご紹介。まずは肝心の見どころです。
[展覧会のみどころ]
1.重要文化財4点が全て出品。
2.「落葉」の連作5点も全て出品。
3.「黒き猫」をはじめとした猫作品が勢ぞろい。
4.出品は100点超。新出及び、数十年ぶりの公開となる作品も多数展示。
重要文化財「王昭君」1902年 善宝寺 *展示期間:9月23日~11月3日
重文4点とは「王昭君」(1902年)、「賢首菩薩」(1907年)、「落葉」(1909年)、「黒き猫」(1910年)のこと。「賢首菩薩」は東近美所蔵、後者2点は永青文庫寄託です。それぞれ都内でも見る機会がないわけではありませんが、「王昭君」は山形の善宝寺所蔵の作品。あまり見た記憶がありません。
重要文化財「落葉」(左)1909年 永青文庫(熊本県立美術館寄託) *展示期間:9月23日~10月13日
「落葉」の連作はどうでしょうか。晩年の春草が住んだ代々木の森をモチーフにした作品。核となるのは今も触れた永青文庫の重文作です。しかしながら本作には複数のバリエーションがあることが知られている。中には稜線の描き込まれた未完の作もあります。それらが全て展示されます。
重要文化財「黒き猫」1910年 永青文庫(熊本県立美術館寄託) 展示期間:10月15日~11月3日
ひょっとすると近代日本画で一番有名な黒猫かもしれません。晩年の「黒き猫」(1910年)。僅か数日で完成されたと伝えられる傑作です。また春草はこの猫以外にも、白やぶちなど、色を問わず猫を何枚も描いています。そのそろい踏み。猫好きにもたまらない展示になるのではないでしょうか。
出品は計100超。東近美のスペースを活かしての大規模な回顧展です。ただし保存の観点などから公開に制約もある日本画です。会期中、展示替えも予定されています。
「松に月」1906年 個人蔵 *展示期間:9月23日~11月3日
新出の作品も気になります。現段階でアナウンスがあるのは初出品の「林和靖」(1900年)。そして40年ぶりの「夕の森」(1906年)に50年ぶりの出展となる「松に月」(1906年)の3点。「松に月」に関しては春草が欧州遊学から帰国した後、ロンドンへ売却しようと送った作品でもあるとか。興味深いものがあります。
[展覧会構成]
1章:東京美術学校の時代
2章:日本美術院の時代
3章:外遊、そして五浦へ
4章:代々木の時代
展覧会は編年体での展開です。春草の作品を、東京美術学校、日本美術院、外遊と五浦、そして晩年の代々木の時代別に並べていく。また一部の代表作に関しては絵具、及び落款の再調査も行われているそうです。色彩や制作年代についての再検討もある。その辺の成果も盛り込まれるのではないでしょうか。
「水鏡」1897年 東京藝術大学 *展示期間:9月23日~10月13日
春草は僅か36歳で病に倒れた夭折の画家です。とは言え、初期の雅邦に倣った作品から大観風の朦朧体、そして琳派的装飾性を備えたものなど、短い期間にも関わらず作風は随分と変化しています。順を追って見ることも出来そうです。
さて講演会の情報です。
[菱田春草展講演会]
9月27日(土) 14:00~15:30
講師:高階秀爾(大原美術館長、東京大学名誉教授)
申込締切:9月1日(月)必着
10月11日(土) 14:00~15:30
講師:尾Ⅵ正明(茨城県近代美術館長)
申込締切:9月10日(水)必着
会場:東京国立近代美術館講堂(地下1階)
参加:無料(定員140人)
申込方法:郵便往復はがきに次の必要事項を記入のうえ、お申し込みください。
【往信用裏面】希望する講演日・郵便番号・住所・名前(ふりがな)・電話番号
【返信用表面】郵便番号・住所・名前
*応募者多数の場合は抽選のうえ、ご案内いたします。
*1枚で2人までの入場可。2人応募の場合は往信用裏面に2人分名前を明記。
またお得なチケットの情報です。当日一般2名2800円が2000円になる前売「猫ペアチケット」が5月7日から発売されます。
[猫ペアチケット]
当日一般チケット2枚で2800円のところを、2000円でお買い求めいただけるお得なチケットです。大人気の「猫作品」には、期間限定で公開されるものがあります。「猫チケ」で前期・後期にそれぞれ1回ずつお越しいただけば、猫をモチーフとした作品すべてをご覧いただけます。
価格:2枚で2000円
販売期間:5月7日(水)~9月22日(月)
発売場所:猫ペアチケットの実券は、東京国立近代美術館、ちけっとぽーと、チケットビューローで販売。
猫の作品をモチーフとした可愛らしいチケット(しおり)のようです。なおここにも記載がありますが、「猫作品」を全て見るためには前後期通う必要がありそうです。
それにしても私の記憶では春草の名を冠した展覧会が都内で開かれたのは2009年。明治神宮文化館の宝物展示室での「特別展 菱田春草」でのことでした。
「特別展 菱田春草」(前期展示) 明治神宮文化館
「特別展 菱田春草」(後期展示) 明治神宮文化館
出品は約60点。国内各地の美術館などから春草作が集まりました。なおこの時は前後期の二期制。ほぼ総入れ替えの展示でした。(もちろん見に行きました。)
重要文化財 「賢首菩薩」1907年 東京国立近代美術館 *展示期間:9月23日~11月3日
実のところ私自身、近代日本画家で好きな人物といえば一に御舟、次いで春草を挙げるほどに、春草が好きです。明治神宮の展覧会の感想の最後に「いつか東近美クラスの箱で回顧展を見たい。」というようなことも書きましたが、それ以来約5年。ようやく願いが叶いました。
何と東京では40年ぶりという春草の大規模な回顧展。さらに詳細な出品情報などを待ちたいと思います。
「もっと知りたい菱田春草/鶴見香織/東京美術」
菱田春草展は東京国立近代美術館で9月23日から開催されます。
「菱田春草展」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:2014年9月23日(火・祝)~11月3日(月・祝)
休館:月曜日。但し10/13、11/3は開館。10/14は休館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1400(1200/1000)円、大学生900(800/600)円、高校生400(300/200)円、中学生以下無料。
*( )内は前売券/20名以上の団体料金。
*猫ペアチケット(2000円)あり。販売期間:5/7~9/22。
主催:東京国立近代美術館、日本経済新聞社、NHK、NHKプロモーション
協賛:損保ジャパン・日本興亜損保、大伸社
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「フランス印象派の陶磁器」 パナソニック汐留ミュージアム
パナソニック汐留ミュージアム
「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」
4/5~6/22
パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」を見て来ました。
19世紀後半、フランスにおける印象派の時代。絵画と同様、陶磁器の世界においても新たなる試み、言わば変革が為された。しかしながらその内容は印象派絵画ほど良く知られていないかもしれません。
そこを突くのが本展です。フランス印象派時代の陶磁器の変遷を見る。出品は155点です。リモージュ陶器で知られるアビランド家のコレクションを紹介します。
さてともかくもサブタイトルにもあるようにジャポニスムの影響が色濃く感じられる展覧会。ともすると印象派云々よりもジャポニスムそのものの方が主役をはっている。そんな感覚を受けるかもしれません。
「ルソー・シリーズ 雄鶏に熊蜂図皿」クレイユ・エ・モントロー陶器工場 フェリックス・ブラックモン 1867年
というのも冒頭からそれこそ江戸花鳥画の世界。ルソー・シリーズです。デザインは第1回印象派展にも出品した画家ブラックモン。雄鶏に赤魚に車海老に蜻蛉。それらが青い縁の白皿に描かれている。元ネタの一つは北斎漫画です。言うまでもなくブラックモンはかねてより日本の浮世絵に強い関心を抱き、それを仲間の画家にも伝えた人物。制作はパリ万博のあった1867年。つまりはジャポニスムが席巻した年です。そこで大変な好評を得ます。
「ルソー・シリーズ」4人用カジュアルセッティング
そして会場内にはご覧のようにルソーシリーズによる4人用のテーブルコーディネートもある。制作は木村ふみ氏。2000年の九州・沖縄サミットでの夕食会のテーブル装飾を企画された方とか。実は本展ではこうした木村氏によるコーディネートが計3つ用意されています。
しかもテーブルセットは撮影が可能です。(但し立ち位置が限定されています。)もちろん陶磁器は当時のもの。雰囲気を楽しむのに有用ではないでしょうか。
さて今回のコレクションの主でもあるアビランド家、元々はアメリカ人です。当主ダヴィットがフランスにやって来たのは1842年。後にリモージュの地に装飾工房を設立し、磁器工場まで建設する。二人の息子がダヴィットを相続した1880年頃には早くもヨーロッパ最大の磁器製作所になっていたそうです。
その一人、シャルル・アビランドがブラックモンと出会ったのは1870年頃。万博の後でしょうか。パリ西郊のオートゥイユ工房の監督をつとめる。「散る薔薇」に「花とリボン」シリーズ。今度は可憐な花の連作。それをルソー・シリーズ同様、余白を大胆に活かして描いていく。ちなみに当時は中心と縁取りに模様があるのが一般的だったとか。ブラックモンの試みは大変に革新的でもあったそうです。
「海草・シリーズ」6人用のティータイムセッティング
テーブルセッティングは「海草」と「パリの花」シリーズ。前者は1874年で後者は1883年。「パリの花」ではガラス器との取り合わせも目を引く。展示のハイライトとも言えるかもしれません。
「バルボティーヌ 薔薇 クレマチス図花瓶」 アビランド社 アンリ・ランベール 1876年
後半はまたガラリと雰囲気が変わります。「バルボティーヌ」です。テラコッタの上からスリップ(泥しょう)をかけて描く技術。もはや絵画的とも呼べる展開。絵具の画肌さながらに凹凸のある器の表面。まさしく印象派の陶磁器です。時にナビ派やゴッホを思わせる展開もある。色味は強く、ともすれば模様も派手。過剰とするのは言い過ぎでしょうか。器を覆い尽くす草花の乱舞。生命感には溢れています。
「バルボティーヌ 黒地金彩花鳥図花瓶」 アビランド社・オートゥイユ工房 シャルル・ミドゥー 1876-83年
漆工芸にインスピレーションを受けたのでしょうか。黒地に金で模様を描いた「黒地金彩花図水注」、ひょっとすると遠目からでは漆塗りの器に見えないこともない。泥しょうに金属酸化物を混ぜて独特の質感を生む。ここでも日本の影響を見ることが出来ます。
ラストはせっ(火へんに石)器からチャイニーズ・レッドへの展開です。半磁器とも呼ばれるせっ器。さも鉄器でも前にするような印象さえある。素朴でかつ無骨。これまでの可憐な磁器からすると随分と趣向が変化したものです。
「彫文秋景図大皿」 アビランド社・オートゥイユ工房 フェリックス・ブラックモン 1874年
チャイニーズ・レッドは銅紅釉の陶磁器。中国由来のもの。フランスでは「牛の血の色」と言われているそうですが、確かにワインレッドとは少し違う。背の高い壺に流し込まれた釉薬。赤い花の蕾のようにも見え、また抽象世界を切り開いたようにも思える。1885年頃の作品だそうです。
「マントからジョワジ=ル=ロワへの道」 アルフレッド・シスレー 1872年
なお会場の随所には陶磁器と同時代、印象派の絵画も10点ほど展示されています。所蔵は同ミュージアムや吉野石膏、それに東京富士美術館のコレクション。画家ではルノワールにコロー、そしてシスレーも2点出ている。なかなかの粒ぞろいでした。
「パリの花・シリーズ」 8人用のフォーマルセッティング
手狭な汐留のスペースではありますが、出品数も多く、章立て、キャプションなども充実。例えば冒頭のルソー・シリーズでは陶磁器のデザインに浮世絵のどの図柄を取り入れたのか。その辺についての解説もあります。総じて丁寧な作りです。追っかけていくと時間がかかりました。
6月22日まで開催されています。
「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:4月5日(土)~6月22日(日)
休館:水曜日
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生200円、小学生以下無料。
*65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
*ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」
4/5~6/22
パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」を見て来ました。
19世紀後半、フランスにおける印象派の時代。絵画と同様、陶磁器の世界においても新たなる試み、言わば変革が為された。しかしながらその内容は印象派絵画ほど良く知られていないかもしれません。
そこを突くのが本展です。フランス印象派時代の陶磁器の変遷を見る。出品は155点です。リモージュ陶器で知られるアビランド家のコレクションを紹介します。
さてともかくもサブタイトルにもあるようにジャポニスムの影響が色濃く感じられる展覧会。ともすると印象派云々よりもジャポニスムそのものの方が主役をはっている。そんな感覚を受けるかもしれません。
「ルソー・シリーズ 雄鶏に熊蜂図皿」クレイユ・エ・モントロー陶器工場 フェリックス・ブラックモン 1867年
というのも冒頭からそれこそ江戸花鳥画の世界。ルソー・シリーズです。デザインは第1回印象派展にも出品した画家ブラックモン。雄鶏に赤魚に車海老に蜻蛉。それらが青い縁の白皿に描かれている。元ネタの一つは北斎漫画です。言うまでもなくブラックモンはかねてより日本の浮世絵に強い関心を抱き、それを仲間の画家にも伝えた人物。制作はパリ万博のあった1867年。つまりはジャポニスムが席巻した年です。そこで大変な好評を得ます。
「ルソー・シリーズ」4人用カジュアルセッティング
そして会場内にはご覧のようにルソーシリーズによる4人用のテーブルコーディネートもある。制作は木村ふみ氏。2000年の九州・沖縄サミットでの夕食会のテーブル装飾を企画された方とか。実は本展ではこうした木村氏によるコーディネートが計3つ用意されています。
しかもテーブルセットは撮影が可能です。(但し立ち位置が限定されています。)もちろん陶磁器は当時のもの。雰囲気を楽しむのに有用ではないでしょうか。
さて今回のコレクションの主でもあるアビランド家、元々はアメリカ人です。当主ダヴィットがフランスにやって来たのは1842年。後にリモージュの地に装飾工房を設立し、磁器工場まで建設する。二人の息子がダヴィットを相続した1880年頃には早くもヨーロッパ最大の磁器製作所になっていたそうです。
その一人、シャルル・アビランドがブラックモンと出会ったのは1870年頃。万博の後でしょうか。パリ西郊のオートゥイユ工房の監督をつとめる。「散る薔薇」に「花とリボン」シリーズ。今度は可憐な花の連作。それをルソー・シリーズ同様、余白を大胆に活かして描いていく。ちなみに当時は中心と縁取りに模様があるのが一般的だったとか。ブラックモンの試みは大変に革新的でもあったそうです。
「海草・シリーズ」6人用のティータイムセッティング
テーブルセッティングは「海草」と「パリの花」シリーズ。前者は1874年で後者は1883年。「パリの花」ではガラス器との取り合わせも目を引く。展示のハイライトとも言えるかもしれません。
「バルボティーヌ 薔薇 クレマチス図花瓶」 アビランド社 アンリ・ランベール 1876年
後半はまたガラリと雰囲気が変わります。「バルボティーヌ」です。テラコッタの上からスリップ(泥しょう)をかけて描く技術。もはや絵画的とも呼べる展開。絵具の画肌さながらに凹凸のある器の表面。まさしく印象派の陶磁器です。時にナビ派やゴッホを思わせる展開もある。色味は強く、ともすれば模様も派手。過剰とするのは言い過ぎでしょうか。器を覆い尽くす草花の乱舞。生命感には溢れています。
「バルボティーヌ 黒地金彩花鳥図花瓶」 アビランド社・オートゥイユ工房 シャルル・ミドゥー 1876-83年
漆工芸にインスピレーションを受けたのでしょうか。黒地に金で模様を描いた「黒地金彩花図水注」、ひょっとすると遠目からでは漆塗りの器に見えないこともない。泥しょうに金属酸化物を混ぜて独特の質感を生む。ここでも日本の影響を見ることが出来ます。
ラストはせっ(火へんに石)器からチャイニーズ・レッドへの展開です。半磁器とも呼ばれるせっ器。さも鉄器でも前にするような印象さえある。素朴でかつ無骨。これまでの可憐な磁器からすると随分と趣向が変化したものです。
「彫文秋景図大皿」 アビランド社・オートゥイユ工房 フェリックス・ブラックモン 1874年
チャイニーズ・レッドは銅紅釉の陶磁器。中国由来のもの。フランスでは「牛の血の色」と言われているそうですが、確かにワインレッドとは少し違う。背の高い壺に流し込まれた釉薬。赤い花の蕾のようにも見え、また抽象世界を切り開いたようにも思える。1885年頃の作品だそうです。
「マントからジョワジ=ル=ロワへの道」 アルフレッド・シスレー 1872年
なお会場の随所には陶磁器と同時代、印象派の絵画も10点ほど展示されています。所蔵は同ミュージアムや吉野石膏、それに東京富士美術館のコレクション。画家ではルノワールにコロー、そしてシスレーも2点出ている。なかなかの粒ぞろいでした。
「パリの花・シリーズ」 8人用のフォーマルセッティング
手狭な汐留のスペースではありますが、出品数も多く、章立て、キャプションなども充実。例えば冒頭のルソー・シリーズでは陶磁器のデザインに浮世絵のどの図柄を取り入れたのか。その辺についての解説もあります。総じて丁寧な作りです。追っかけていくと時間がかかりました。
6月22日まで開催されています。
「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:4月5日(土)~6月22日(日)
休館:水曜日
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生200円、小学生以下無料。
*65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
*ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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「光琳を慕う 中村芳中」 千葉市美術館
千葉市美術館
「光琳を慕う 中村芳中」
4/8~5/11
千葉市美術館で開催中の「光琳を慕う 中村芳中」を見て来ました。
江戸時代後期、京都で生まれ、主に大阪で活動した絵師、中村芳中。思わずにんまりしてしまうような人物画に花鳥画。そしてたらし込みの妙味。いわゆる「琳派」の括りで見ることは多かったものの、一度にまとめて接する機会は少なかった。少なくともこれまで関東で「芳中」と銘打たれた展覧会は殆どなかったかもしれません。
芳中復権元年と申して宜しいでしょうか。中村芳中、千葉にあり。かつてない規模での芳中展が始まりました。
中村芳中「白梅図」 千葉市美術館
まずは難しいことを抜きに一目でも楽しめる芳中画。例を挙げましょう。「白梅図」です。いわゆる光琳風の作を多数手がけていた頃の作品。そういえば光琳も梅を描いていた。枝は屈曲しては上へと向かう。仄かな緑色はたらしこみです。一部金泥もある。そして何と言っても梅の花です。真ん丸。ぼつぼつと咲いている。まるで白い饅頭のような形をしています。
「鹿図」はどうでしょうか。青い楓の木の下に鹿が一頭、横向きに描かれている。墨を薄くのばして鹿の身体を表現。頭部はもはや意匠化されているとしても良い。さらには半開きの口です。鳴き声を上げているのでしょうか。振り返れば人物画でもぽかんと口が開いていることが多い。不思議と見ている側もほっとさせられます。芳中画の言わば効用かもしれません。
中村芳中「扇面貼交屏風(桃)」 個人蔵
目立つのは扇面画です。そもそも芳中、確認されている限りでは、屏風絵よりも軸画、そしてさらに扇面といった小品の方が圧倒的に多い。末広がりの地平に植物を描く。これが実に個性的です。もはや過剰とも言えるたらし込みを駆使しての大らかな花卉画。それでいて扇型という特異な空間での構図感も長けている。ひょこひょことヒヨコが歩いているような波千鳥。さもナメクジのようににょろりと身体をくねらせた鹿に寿老人。松はきのこ山でしょうか。人物も植物も愛くるしいもの。思わず目を細めてしまいます。
中村芳中「光琳画譜」より 1802年刊 千葉市美術館
最も魅力的なのが「光琳画譜」ではないでしょうか。これはもはや光琳に倣って描いた芳中の作品、つまり実質的な光琳風「芳中画譜」としても差し支えがありません。応挙犬に劣らぬ程かわいい子犬にすばしっこく走る鼠たち。そして生き生きとした子どもの描写です。芳中で面白いのが市井の人々、つまりは庶民を見つめていること。確かに芳中以前の「琳派」では少ない。輪になってわいわい遊ぶ子どもたち。まるで声が聞こえてきそうなほどの躍動感です。英一蝶を連想させる。これが魅せます。
中村芳中「白椿図扇面」 個人蔵 *以煙管とある作品
また芳中は指頭画の画家として認知されていた。実は芳中、指だけではなく、何と卵の殻や煙管でも絵を描いていたそうです。席画でしょうか。おそらくは宴会に居合わせた人々を楽したことでしょう。それに芳中は指頭画から光琳風のたらしこみにのめり込んだ。そうした指摘もあるそうです。
可愛くまたおどけて時に諧謔味さえ帯びた芳中画。江戸のゆるキャラと言うべきでしょうか。存分に楽しむことが出来ました。
中村芳中「雑画巻(部分)」 真田宝物館
さてここまで「可愛い」や「ほのぼの」と書いてきましたが、何も本展、芳中を単にそうしたキーワードで括って提示しているわけではありません。
ここで重要なのは芳中の前史、及び同時代の展開です。芳中が何に影響を受けてどのような制作をしたのか。その辺についても検証しています。
展覧会の構成を振り返ってみましょう。
第1章 芳中が慕った光琳ー尾形光琳とその後の絵師たち
第2章 芳中の世界ー親しみを抱くほのぼの画
第3章 芳中のいた大阪画壇
第4章 芳中と版本ー版で伝わる光琳風
つまり先に芳中が倣った光琳、及び光琳風の作品を俯瞰した後に芳中画を展観。さらにその後芳中の活動した大阪の絵師たちを紹介する流れになっているのです。
よって冒頭には光琳作が13点(前後期あわせて)ほど並ぶ。ここでは光琳の残した文書、「小西家旧蔵資料」も重要ではないでしょうか。もちろんこれらを必ずしも芳中が目にしたとは言えませんが、それでも芳中画との類似点も多い。(逆に異なった点もあります。)特に扇面における芳中のトリミング、やはり光琳から学んだ面も多いのかもしれません。
また面白いのが立林何げいです。江戸で乾山の弟子として活動した人物。光琳風の作品を残していますが、うち「扇面貼交屏風」もポイント。図像は乾山風ではありますが、丸みを帯びた表現にたらしこみ。どこか芳中を思わせるものがあります。
尾形光琳「四季草花図(部分) 1705年 個人蔵
光琳の「四季草花図」も絶品です。宗達風の面的な墨で表された美しき草花の響宴。また嬉しいのが展示が素晴らしいこと。と言うのも、巻物がちょうど見下ろす形でケースの中に収められていますが、ともかく距離が近い。まさに目の前です。照明の効果もあってか色も鮮やかに浮き上がっています。
中村芳中「山水図(奉時清玩帖)」 1795年 個人蔵
大阪画壇はどうでしょうか。実は芳中、はじめは南画を学んでいます。そして大阪でも木村蒹葭堂を中心とする文化サロンに出入りしていた。俳諧のネットワークもある。案外多彩です。別に孤高の絵師ではありません。
中村芳中「許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風」(左隻) 個人蔵
もちろん芳中にも文人画的な作品があります。例えばともに山水の風景を表した「楽扇画帖」や「山水図」です。ともすると芳中と分からないかもしれない。また出品中最大の「許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風」も、強烈なたらし込みや大らかな表現こそ芳中的ではあるものの、主題からして一般的な「琳派」とは遠いものがある。エキセントリックとしたら言い過ぎでしょうか。ともかく本展では例えば「和みの琳派」という有りがちなイメージをある程度取っ払い、芳中の画業を多角的に見定めていくことも狙いであるわけです。
とは言うものの、布袋がにこやかにくつろぐ姿を描いた上田公長の「大黒天図」などは、その緩さが芳中に似ている面もある。そもそも生年も不明なほど芳中の来歴はあまり分かっていません。そこを大阪画壇との関わりでひも解く試み。これまでにはない芳中展だと感心しました。
中村芳中「光琳画譜」より 1802年刊 千葉市美術館
それでは展示替えの情報です。出品は前後期あわせて怒濤の228点(資料含む)。会期中に一度、大幅に作品が入れ替わります。
「光琳を慕うー中村芳中」出品リスト(PDF)
前期:4月8日~4月20日
後期:4月22日~5月11日
芳中画だけでなく、それ以外の作品でも入れ替えや巻替えがあります。もちろん一度でも全体の流れを追えるように工夫されていますが、出品数からすれば事実上、二つで一つの展覧会と言えるのではないでしょうか。(なおチケットの半券で2度目以降の入場料が半額になります。)
中村芳中「扇面貼交屏風(観楓)」 個人蔵
先日行われた玉蟲先生の講演会は以下リンク先にまとめてあります。
「光琳追慕の系譜ー光琳の江戸下りから抱一まで」 千葉市美術館(はろるど)
公式図録が充実しています。全点の図版と解説、論文4本、さらには年譜に署名や印章。現時点での芳中本の決定版としても差し支えありません。なお図録は一般書籍の扱いです。書店でも販売しています。(但しミュージアムショップでは割引価格で購入出来ます。)
「光琳を慕う中村芳中/芸艸堂」
それにしても短期決戦。会期は正味一ヶ月しかありません。気がつけば前期末も明日の日曜日までと迫っていました。もちろん後期も追っ掛けます。
5月11日までの開催です。まずはおすすめします。
「光琳を慕う 中村芳中」 千葉市美術館
会期:4月8日(火)~5月11日(日)
休館:4/21、5/7。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料が半額。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「光琳を慕う 中村芳中」
4/8~5/11
千葉市美術館で開催中の「光琳を慕う 中村芳中」を見て来ました。
江戸時代後期、京都で生まれ、主に大阪で活動した絵師、中村芳中。思わずにんまりしてしまうような人物画に花鳥画。そしてたらし込みの妙味。いわゆる「琳派」の括りで見ることは多かったものの、一度にまとめて接する機会は少なかった。少なくともこれまで関東で「芳中」と銘打たれた展覧会は殆どなかったかもしれません。
芳中復権元年と申して宜しいでしょうか。中村芳中、千葉にあり。かつてない規模での芳中展が始まりました。
中村芳中「白梅図」 千葉市美術館
まずは難しいことを抜きに一目でも楽しめる芳中画。例を挙げましょう。「白梅図」です。いわゆる光琳風の作を多数手がけていた頃の作品。そういえば光琳も梅を描いていた。枝は屈曲しては上へと向かう。仄かな緑色はたらしこみです。一部金泥もある。そして何と言っても梅の花です。真ん丸。ぼつぼつと咲いている。まるで白い饅頭のような形をしています。
「鹿図」はどうでしょうか。青い楓の木の下に鹿が一頭、横向きに描かれている。墨を薄くのばして鹿の身体を表現。頭部はもはや意匠化されているとしても良い。さらには半開きの口です。鳴き声を上げているのでしょうか。振り返れば人物画でもぽかんと口が開いていることが多い。不思議と見ている側もほっとさせられます。芳中画の言わば効用かもしれません。
中村芳中「扇面貼交屏風(桃)」 個人蔵
目立つのは扇面画です。そもそも芳中、確認されている限りでは、屏風絵よりも軸画、そしてさらに扇面といった小品の方が圧倒的に多い。末広がりの地平に植物を描く。これが実に個性的です。もはや過剰とも言えるたらし込みを駆使しての大らかな花卉画。それでいて扇型という特異な空間での構図感も長けている。ひょこひょことヒヨコが歩いているような波千鳥。さもナメクジのようににょろりと身体をくねらせた鹿に寿老人。松はきのこ山でしょうか。人物も植物も愛くるしいもの。思わず目を細めてしまいます。
中村芳中「光琳画譜」より 1802年刊 千葉市美術館
最も魅力的なのが「光琳画譜」ではないでしょうか。これはもはや光琳に倣って描いた芳中の作品、つまり実質的な光琳風「芳中画譜」としても差し支えがありません。応挙犬に劣らぬ程かわいい子犬にすばしっこく走る鼠たち。そして生き生きとした子どもの描写です。芳中で面白いのが市井の人々、つまりは庶民を見つめていること。確かに芳中以前の「琳派」では少ない。輪になってわいわい遊ぶ子どもたち。まるで声が聞こえてきそうなほどの躍動感です。英一蝶を連想させる。これが魅せます。
中村芳中「白椿図扇面」 個人蔵 *以煙管とある作品
また芳中は指頭画の画家として認知されていた。実は芳中、指だけではなく、何と卵の殻や煙管でも絵を描いていたそうです。席画でしょうか。おそらくは宴会に居合わせた人々を楽したことでしょう。それに芳中は指頭画から光琳風のたらしこみにのめり込んだ。そうした指摘もあるそうです。
可愛くまたおどけて時に諧謔味さえ帯びた芳中画。江戸のゆるキャラと言うべきでしょうか。存分に楽しむことが出来ました。
中村芳中「雑画巻(部分)」 真田宝物館
さてここまで「可愛い」や「ほのぼの」と書いてきましたが、何も本展、芳中を単にそうしたキーワードで括って提示しているわけではありません。
ここで重要なのは芳中の前史、及び同時代の展開です。芳中が何に影響を受けてどのような制作をしたのか。その辺についても検証しています。
展覧会の構成を振り返ってみましょう。
第1章 芳中が慕った光琳ー尾形光琳とその後の絵師たち
第2章 芳中の世界ー親しみを抱くほのぼの画
第3章 芳中のいた大阪画壇
第4章 芳中と版本ー版で伝わる光琳風
つまり先に芳中が倣った光琳、及び光琳風の作品を俯瞰した後に芳中画を展観。さらにその後芳中の活動した大阪の絵師たちを紹介する流れになっているのです。
よって冒頭には光琳作が13点(前後期あわせて)ほど並ぶ。ここでは光琳の残した文書、「小西家旧蔵資料」も重要ではないでしょうか。もちろんこれらを必ずしも芳中が目にしたとは言えませんが、それでも芳中画との類似点も多い。(逆に異なった点もあります。)特に扇面における芳中のトリミング、やはり光琳から学んだ面も多いのかもしれません。
また面白いのが立林何げいです。江戸で乾山の弟子として活動した人物。光琳風の作品を残していますが、うち「扇面貼交屏風」もポイント。図像は乾山風ではありますが、丸みを帯びた表現にたらしこみ。どこか芳中を思わせるものがあります。
尾形光琳「四季草花図(部分) 1705年 個人蔵
光琳の「四季草花図」も絶品です。宗達風の面的な墨で表された美しき草花の響宴。また嬉しいのが展示が素晴らしいこと。と言うのも、巻物がちょうど見下ろす形でケースの中に収められていますが、ともかく距離が近い。まさに目の前です。照明の効果もあってか色も鮮やかに浮き上がっています。
中村芳中「山水図(奉時清玩帖)」 1795年 個人蔵
大阪画壇はどうでしょうか。実は芳中、はじめは南画を学んでいます。そして大阪でも木村蒹葭堂を中心とする文化サロンに出入りしていた。俳諧のネットワークもある。案外多彩です。別に孤高の絵師ではありません。
中村芳中「許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風」(左隻) 個人蔵
もちろん芳中にも文人画的な作品があります。例えばともに山水の風景を表した「楽扇画帖」や「山水図」です。ともすると芳中と分からないかもしれない。また出品中最大の「許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風」も、強烈なたらし込みや大らかな表現こそ芳中的ではあるものの、主題からして一般的な「琳派」とは遠いものがある。エキセントリックとしたら言い過ぎでしょうか。ともかく本展では例えば「和みの琳派」という有りがちなイメージをある程度取っ払い、芳中の画業を多角的に見定めていくことも狙いであるわけです。
とは言うものの、布袋がにこやかにくつろぐ姿を描いた上田公長の「大黒天図」などは、その緩さが芳中に似ている面もある。そもそも生年も不明なほど芳中の来歴はあまり分かっていません。そこを大阪画壇との関わりでひも解く試み。これまでにはない芳中展だと感心しました。
中村芳中「光琳画譜」より 1802年刊 千葉市美術館
それでは展示替えの情報です。出品は前後期あわせて怒濤の228点(資料含む)。会期中に一度、大幅に作品が入れ替わります。
「光琳を慕うー中村芳中」出品リスト(PDF)
前期:4月8日~4月20日
後期:4月22日~5月11日
芳中画だけでなく、それ以外の作品でも入れ替えや巻替えがあります。もちろん一度でも全体の流れを追えるように工夫されていますが、出品数からすれば事実上、二つで一つの展覧会と言えるのではないでしょうか。(なおチケットの半券で2度目以降の入場料が半額になります。)
中村芳中「扇面貼交屏風(観楓)」 個人蔵
先日行われた玉蟲先生の講演会は以下リンク先にまとめてあります。
「光琳追慕の系譜ー光琳の江戸下りから抱一まで」 千葉市美術館(はろるど)
公式図録が充実しています。全点の図版と解説、論文4本、さらには年譜に署名や印章。現時点での芳中本の決定版としても差し支えありません。なお図録は一般書籍の扱いです。書店でも販売しています。(但しミュージアムショップでは割引価格で購入出来ます。)
「光琳を慕う中村芳中/芸艸堂」
それにしても短期決戦。会期は正味一ヶ月しかありません。気がつけば前期末も明日の日曜日までと迫っていました。もちろん後期も追っ掛けます。
5月11日までの開催です。まずはおすすめします。
「光琳を慕う 中村芳中」 千葉市美術館
会期:4月8日(火)~5月11日(日)
休館:4/21、5/7。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料が半額。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「西野康造ーSpace Memory」 LIXILギャラリー
LIXILギャラリー
「西野康造ーSpace Memory」
4/18~5/24
LIXILギャラリーで開催中の西野康造個展、「Space Memory」を見て来ました。
1951年に兵庫県に生まれ、1977年に京都市立芸術大学彫刻専攻科を修了。80年代から一貫して金属を素材とした作品を作り続けてきた西野康造。
昨年秋にはNYの9.11メモリアルパークの高層ビル「4 World Trade Center」内に「Sky Memory」がパブリックアートとして設置されたそうです。
何と東京では14年ぶりの個展です。新作を展示しています。
それでは会場、作品は一点勝負。表題の「Space Memory」です。直径5.9m。ホワイトキューブの横幅のほぼ全てを覆う円環。ぐるりと一周。一部はトラス構造でしょうか。チタンを素材にしている故かもしれません。金属とは言えども独特の浮遊感もある。軽やかです。
それにしても支持体(重し)は一点、手前の金属のみです。そこから宙へとのびて円を描く。私の見た限りでは吊られていません。(間違いでしたら訂正します。)何とも絶妙なバランス感覚ではないでしょうか。
「永遠のイメージ」(*)も志向した作品。リングは途中でねじれている。外側の一片をなぞっていくといつしか内側へ移動する。さながらメビウスの帯とでも言えるかもしれません。
空間を活かしてか壁面や床に写る影も美しい。繊細でかつ大胆。幾何学的なテクスチャも浮かび上がります。また「空気や風を感じさせるもの」(*)を目指してもいるそうです。
なお入口横のモニターにはNYの「Sky Memory」の設置作業が紹介(2分)されています。こちらの直径は何と30m。さぞかし壮観なことでしょう。ちなみにDM表紙のビジュアルこそ「Sky Memory」。一度、この目で見てみたいものです。
さて長らく彫刻家としてのキャリアを持つ西野。国内にも多数作品を設置しています。うち関東の美術ファンに一番知られているのは「風の中で」(1988年。リンク先は参考画像。)ではないでしょうか。噴水を背に立つ透明の巨大なサックス。そうです。埼玉県立近代美術館のある北浦和公園の音楽噴水にある黄金色の彫刻です。馴染みのある方も多いかもしれません。
ところで「風の中」は当初、ステンレス製でしたが、あろうことか2002年に何者かによって破壊。2年後に作家の協力を得て、今度はチタンで再制作されたものだそうです。(また他にも同名の作品があるそうです。)
5月27日まで開催されています。
「西野康造ーSpace Memory」 LIXILギャラリー
会期:4月18日(金)~5月27日(火)
休廊:水曜日、5月25日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
注)*印は「LIXIL ART NEWS」No.360より引用。写真は全て「Space Memory」。
「西野康造ーSpace Memory」
4/18~5/24
LIXILギャラリーで開催中の西野康造個展、「Space Memory」を見て来ました。
1951年に兵庫県に生まれ、1977年に京都市立芸術大学彫刻専攻科を修了。80年代から一貫して金属を素材とした作品を作り続けてきた西野康造。
昨年秋にはNYの9.11メモリアルパークの高層ビル「4 World Trade Center」内に「Sky Memory」がパブリックアートとして設置されたそうです。
何と東京では14年ぶりの個展です。新作を展示しています。
それでは会場、作品は一点勝負。表題の「Space Memory」です。直径5.9m。ホワイトキューブの横幅のほぼ全てを覆う円環。ぐるりと一周。一部はトラス構造でしょうか。チタンを素材にしている故かもしれません。金属とは言えども独特の浮遊感もある。軽やかです。
それにしても支持体(重し)は一点、手前の金属のみです。そこから宙へとのびて円を描く。私の見た限りでは吊られていません。(間違いでしたら訂正します。)何とも絶妙なバランス感覚ではないでしょうか。
「永遠のイメージ」(*)も志向した作品。リングは途中でねじれている。外側の一片をなぞっていくといつしか内側へ移動する。さながらメビウスの帯とでも言えるかもしれません。
空間を活かしてか壁面や床に写る影も美しい。繊細でかつ大胆。幾何学的なテクスチャも浮かび上がります。また「空気や風を感じさせるもの」(*)を目指してもいるそうです。
なお入口横のモニターにはNYの「Sky Memory」の設置作業が紹介(2分)されています。こちらの直径は何と30m。さぞかし壮観なことでしょう。ちなみにDM表紙のビジュアルこそ「Sky Memory」。一度、この目で見てみたいものです。
さて長らく彫刻家としてのキャリアを持つ西野。国内にも多数作品を設置しています。うち関東の美術ファンに一番知られているのは「風の中で」(1988年。リンク先は参考画像。)ではないでしょうか。噴水を背に立つ透明の巨大なサックス。そうです。埼玉県立近代美術館のある北浦和公園の音楽噴水にある黄金色の彫刻です。馴染みのある方も多いかもしれません。
ところで「風の中」は当初、ステンレス製でしたが、あろうことか2002年に何者かによって破壊。2年後に作家の協力を得て、今度はチタンで再制作されたものだそうです。(また他にも同名の作品があるそうです。)
5月27日まで開催されています。
「西野康造ーSpace Memory」 LIXILギャラリー
会期:4月18日(金)~5月27日(火)
休廊:水曜日、5月25日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
注)*印は「LIXIL ART NEWS」No.360より引用。写真は全て「Space Memory」。
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「蕗谷虹児展」 郵政博物館
郵政博物館
「少女たちの憧れー蕗谷虹児展」
3/1~5/25
郵政博物館で開催中の「少女たちの憧れー蕗谷虹児展」を見て来ました。
主に大正から昭和にかけて少女雑誌の挿絵で人気を集めた蕗谷虹児。妖艶かつモダン。その美しき女性像は今も古びることはありません。
本展では蕗谷虹児の業績を紹介。出品は前後期あわせて全217点(一会期では約100~120点)です。デビュー作から晩年、戦後の絵本や童話の挿絵まで、ほぼ画業の全てを網羅しています。
「或る夜の夢 令女界第1巻第4号 表紙原画」 1922年 蕗谷虹児美術館
まずは大正期、一世を風靡した「令女界」から「或る夜の夢」ではどうでしょうか。同刊は若き20代の蕗谷が編集段階から参加した女性誌。エメラルドグリーンにも染まる星空を進み行く舟。可憐な女性が大きな扇をもっている。細かな装飾も美しい。ちなみに「令女界」の挿絵、展示でもいくつか出ていましたが、ともかく感心するのは蕗谷がかなり早い段階からアール・デコとも言うべき自らの画風を確立していたことです。
確かに後にパリへ渡り、タブローにも挑戦。それも評価されていますが、初期の挿絵原画からしてファッショナブルでかつ洗練されている。蕗谷類い稀なる才能を感じさせます。
「柘榴を持つ女」 1927年 個人蔵
何度見ても美しい作品は美しい。パリ時代の代表作とも言うべき「柘榴を持つ女」です。在巴里日本人美術家展への出品作。滑らかな線。そして点描を利用した色彩感覚。柘榴を持つ手の指先にはピンクのマニキュアが塗られている。青く澄んだ瞳に思わず吸い込まれそうになります。
「星からの音信 令女界第17巻第11号 口絵」(部分) 1938年 蒼の山荘 *前期展示
大戦期にはいわゆる戦争画的な作品も手がけた蕗谷。昭和13年の「令女界」口絵の「星からの通信」です。女性が想うのは夫なのか、銃を手に日の丸を持った兵士の姿。しかしながら女性の表情や雰囲気。何もかつて蕗谷が描いていた女性と大きく変わるものではない。若くして母を亡くしている画家です。その女性像は確固たるものがあったのかもしれません。
郵政博物館ならではの工夫ではないでしょうか。チラシ表紙を飾る「花嫁」(1968)です。ふるさと切手としてH9年にも発売された作品。切手と本画が並んで展示されています。花嫁衣装に身を纏った女性。目を細めては両手を差し出し、盃を口を前にする。本画の右目に注目です。何やら目元から白い筋が垂れているのが見える。涙でしょうか。もちろん切手ではまるで分かりません。
ちなみに切手(50円)の「花嫁」は併設のミュージアムショップで販売中です。切手ファンには見逃せないのではないでしょうか。
「睡蓮の夢」 1924年 個人蔵
ところで蕗谷虹児、実のところ私も大好きな画家。3年ほど前でしょうか。そごう美術館での回顧展にも足を運んだこともありました。
「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」 そごう美術館(はろるど)
今回はそれ以来の展示。ただ出品作こそいくつか異なりますが、全体の構成など、似たような部分が多かったかもしれません。郵政博物館は手狭なスペース。規模としてはおそらくそごうの時を下回ります。ただそれでも久々に蕗谷の作品をまとめて見る喜び。まずは楽しめました。
さて会場の郵政博物館です。かつては大手町にあった逓信総合博物館が押上のスカイツリー内に移転。この3月のオープンしました。ようは蕗谷虹児展はこけら落としの展覧会でもあります。
館内は常設スペースと蕗谷展の企画展示ゾーンの二つ。常設では主に日本の郵便や通信に関する歴史は資料を紹介しています。日本最古の切手の自販機からお馴染みのポストに郵便バイクなども。体験型やデジタル機器を用いた展示があるのもポイントです。こちらは一部を除いて撮影が可能でした。
また特筆すべきは国内外の各種切手を集めた「切手の世界」(切手の撮影は不可)です。これが凄まじいまでの膨大なコレクション。何でも全部で33万種あるとか。もはや一日で見られるものではありません。
なお郵政博物館へは初めて行きましたが、スカイツリー内でのアクセス、必ずしも分かりやすいとは言えません。というのも博物館はソラマチの9階にありますが、建物自体はオフィス棟のイーストタワーです。そもそもソラマチ商店街から直通のエレベーターはなく、途中で一度、別のエレベーターに乗り換える必要があります。
スカイツリータウン・ソラマチのほぼ一番東側(押上駅側)、イーストヤード12番地のエレベーターが目印です。そこで一度、8階(千葉工大スカイツリーキャンパス)まであがった後、改めて裏手にある「ライフ&カルチャー用エレベーター」で9階へと進むと博物館があります。(階段でも可。)エレベーターの近い押上駅の利用をおすすめします。(スカイツリー駅からでは延々と歩きます。)
ミュージアムカフェマガジンの次回最新号が郵政博物館の特集だそうです。そちらにも期待しましょう。
「新装版 蕗谷虹児/らんぷの本/河出書房新社」
入館料は300円でした。5月25日まで開催されています。
「少女たちの憧れー蕗谷虹児展」 郵政博物館
会期:3月1日(土)~5月25日(日)
*前期:3/1(土)~4/13(日)、後期:4/15(火)~5/25(日)
休館:3/17(月)、4/14(月)、5/7(水)
時間:10:00~17:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300円、小中高生150円。
*郵政博物館(常設展)への入館料を含む。
*10名以上の団体は各50円引。
住所:墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ9階
交通:東武スカイツリーラインとうきょうスカイツリー駅、及び東武スカイツリーライン・東京メトロ半蔵門線・京成押上線・都営浅草線押上駅より直結。スカイツリータウン内。
「少女たちの憧れー蕗谷虹児展」
3/1~5/25
郵政博物館で開催中の「少女たちの憧れー蕗谷虹児展」を見て来ました。
主に大正から昭和にかけて少女雑誌の挿絵で人気を集めた蕗谷虹児。妖艶かつモダン。その美しき女性像は今も古びることはありません。
本展では蕗谷虹児の業績を紹介。出品は前後期あわせて全217点(一会期では約100~120点)です。デビュー作から晩年、戦後の絵本や童話の挿絵まで、ほぼ画業の全てを網羅しています。
「或る夜の夢 令女界第1巻第4号 表紙原画」 1922年 蕗谷虹児美術館
まずは大正期、一世を風靡した「令女界」から「或る夜の夢」ではどうでしょうか。同刊は若き20代の蕗谷が編集段階から参加した女性誌。エメラルドグリーンにも染まる星空を進み行く舟。可憐な女性が大きな扇をもっている。細かな装飾も美しい。ちなみに「令女界」の挿絵、展示でもいくつか出ていましたが、ともかく感心するのは蕗谷がかなり早い段階からアール・デコとも言うべき自らの画風を確立していたことです。
確かに後にパリへ渡り、タブローにも挑戦。それも評価されていますが、初期の挿絵原画からしてファッショナブルでかつ洗練されている。蕗谷類い稀なる才能を感じさせます。
「柘榴を持つ女」 1927年 個人蔵
何度見ても美しい作品は美しい。パリ時代の代表作とも言うべき「柘榴を持つ女」です。在巴里日本人美術家展への出品作。滑らかな線。そして点描を利用した色彩感覚。柘榴を持つ手の指先にはピンクのマニキュアが塗られている。青く澄んだ瞳に思わず吸い込まれそうになります。
「星からの音信 令女界第17巻第11号 口絵」(部分) 1938年 蒼の山荘 *前期展示
大戦期にはいわゆる戦争画的な作品も手がけた蕗谷。昭和13年の「令女界」口絵の「星からの通信」です。女性が想うのは夫なのか、銃を手に日の丸を持った兵士の姿。しかしながら女性の表情や雰囲気。何もかつて蕗谷が描いていた女性と大きく変わるものではない。若くして母を亡くしている画家です。その女性像は確固たるものがあったのかもしれません。
郵政博物館ならではの工夫ではないでしょうか。チラシ表紙を飾る「花嫁」(1968)です。ふるさと切手としてH9年にも発売された作品。切手と本画が並んで展示されています。花嫁衣装に身を纏った女性。目を細めては両手を差し出し、盃を口を前にする。本画の右目に注目です。何やら目元から白い筋が垂れているのが見える。涙でしょうか。もちろん切手ではまるで分かりません。
ちなみに切手(50円)の「花嫁」は併設のミュージアムショップで販売中です。切手ファンには見逃せないのではないでしょうか。
「睡蓮の夢」 1924年 個人蔵
ところで蕗谷虹児、実のところ私も大好きな画家。3年ほど前でしょうか。そごう美術館での回顧展にも足を運んだこともありました。
「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」 そごう美術館(はろるど)
今回はそれ以来の展示。ただ出品作こそいくつか異なりますが、全体の構成など、似たような部分が多かったかもしれません。郵政博物館は手狭なスペース。規模としてはおそらくそごうの時を下回ります。ただそれでも久々に蕗谷の作品をまとめて見る喜び。まずは楽しめました。
さて会場の郵政博物館です。かつては大手町にあった逓信総合博物館が押上のスカイツリー内に移転。この3月のオープンしました。ようは蕗谷虹児展はこけら落としの展覧会でもあります。
館内は常設スペースと蕗谷展の企画展示ゾーンの二つ。常設では主に日本の郵便や通信に関する歴史は資料を紹介しています。日本最古の切手の自販機からお馴染みのポストに郵便バイクなども。体験型やデジタル機器を用いた展示があるのもポイントです。こちらは一部を除いて撮影が可能でした。
また特筆すべきは国内外の各種切手を集めた「切手の世界」(切手の撮影は不可)です。これが凄まじいまでの膨大なコレクション。何でも全部で33万種あるとか。もはや一日で見られるものではありません。
なお郵政博物館へは初めて行きましたが、スカイツリー内でのアクセス、必ずしも分かりやすいとは言えません。というのも博物館はソラマチの9階にありますが、建物自体はオフィス棟のイーストタワーです。そもそもソラマチ商店街から直通のエレベーターはなく、途中で一度、別のエレベーターに乗り換える必要があります。
スカイツリータウン・ソラマチのほぼ一番東側(押上駅側)、イーストヤード12番地のエレベーターが目印です。そこで一度、8階(千葉工大スカイツリーキャンパス)まであがった後、改めて裏手にある「ライフ&カルチャー用エレベーター」で9階へと進むと博物館があります。(階段でも可。)エレベーターの近い押上駅の利用をおすすめします。(スカイツリー駅からでは延々と歩きます。)
ミュージアムカフェマガジンの次回最新号が郵政博物館の特集だそうです。そちらにも期待しましょう。
「新装版 蕗谷虹児/らんぷの本/河出書房新社」
入館料は300円でした。5月25日まで開催されています。
「少女たちの憧れー蕗谷虹児展」 郵政博物館
会期:3月1日(土)~5月25日(日)
*前期:3/1(土)~4/13(日)、後期:4/15(火)~5/25(日)
休館:3/17(月)、4/14(月)、5/7(水)
時間:10:00~17:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300円、小中高生150円。
*郵政博物館(常設展)への入館料を含む。
*10名以上の団体は各50円引。
住所:墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ9階
交通:東武スカイツリーラインとうきょうスカイツリー駅、及び東武スカイツリーライン・東京メトロ半蔵門線・京成押上線・都営浅草線押上駅より直結。スカイツリータウン内。
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「ジャック・カロ」 国立西洋美術館
国立西洋美術館
「ジャック・カローリアリズムと奇想の劇場」
4/18~6/15
国立西洋美術館で開催中の「ジャック・カローリアリズムと奇想の劇場」を見て来ました。
17世紀初頭、ロレーヌ(現フランス)やイタリアで活動した版画家、ジャック・カロ(1592-1635)。緻密なエッチング、時に幻想的な作風。タイトルの「奇想」という言葉もあながち誇張ではないかもしれません。
西洋美術館では400点もカロの版画を所蔵しているそうです。本展にはうち220点を出品。全て館蔵品での構成です。初期から晩年に至る活動を紹介しています。(出品リスト)
「二人のザンニ(喜劇の従者役)」1616年頃 エッチング
さて今回のカロ展、言うなれば「軸」は二つです。まずカロの業績を年代で追うとともに、「宗教」や「戦争」といった主題別でも作品を提示している。ともするとカロ、例えば西美の版画室などで見ることがないわけではありませんが、編年体で追いかける機会は少なかったかもしれません。作風の変遷とでも言うべきでしょうか。その点も浮き上がってきます。
カロの生まれは1592年、ロレーヌ公国の首都ナンシーです。1608年には早くもローマへ赴き、版画家のフィリップ・トマサンの弟子となる。ここでエングレーヴィングの技法を学びます。その後にさらに知人の誘いを受けフィレンツェへと渡ったそうです。
エッチングの初期作として知られるのが「サン・ロレンツォ教会の内部装飾」です。舞台はフィレンツェ。教会のアーチ内部の柔らかな線刻が印象に残る。また「キリストと穀物の計量人」はカロが下絵から手がけた最初期の作品と言われるもの。人物の生き生きした様子。ボスを連想しました。後の展開を予兆させる面があるかもしれません。
「インプルネータの市」 1620年 エッチング
フィレンツェではメディチ家の庇護を受ける。宮廷附きの版画家に就任します。そしてここで興味深いのが同地近辺の広場や劇場でのショーや試合などを積極的に描いていることです。「アルノの祝祭」はアルノ川で行われた模擬水上戦。何と3000名もの観客が集まったとか。花火があがり、人工島を巡って船で戦いが交わされる。大パノラマ。見事なスケールです。
「狩り」 1620年頃 エッチング
「狩り」はどうでしょうか。鬱蒼と生い茂る森の中での狩りの光景。馬に乗って鹿を追いかける貴族たち。前景と後景の対比もダイナミック。奥へと空間が開けています。そして細かに見れば犬を抑えて出番を待つ者や、馬から振り落とされて地面に横たわる男の姿などもある。躍動感のある表現です。まるで映像を前にしたかの如く動きがあります。
カロはコジモ2世の死後、庇護を失い、故郷へと戻りました。再びロレーヌです。しかし今度は簡単に宮廷のポストを得ることは出来ません。求職活動でしょうか。カロは同地の宮廷の庭園や祝祭の様子を描き、それを貴族へ献呈しています。中には力作も少なくありません。
「槍試合 連作 『ド・ヴロンクール殿、ティヨン殿、 マリモン殿の入場』」1627年 エッチング
「槍試合」です。カロが宮廷で催された槍試合の様子を記録したシリーズ。うち「ド・ヴロンクール殿、ティヨン殿、 マリモン殿の入場」が面白い。それぞれの貴族が乗るのはイルカの山車。ここでカロは本来なら山車を引く小姓を省略しています。これも一種の奇想風景と言えるのではないでしょうか。
カロが生涯にわたって最も多く制作したのは宗教主題の作品です。とりわけロレーヌ帰郷後が多い。「聖セバスティアヌスの殉教」は大作です。画面中央で四方からの矢を受ける聖人。痛々しい。空中には何本の矢が飛び交っている。そして多くの見物人の姿。座っている者もいる。まるで眼前でこの光景を見て描いたかのようなリアリティーです。しかしながら景色は当然の如く架空。そもそも背後に映るローマの遺構は、カロがローレヌの人が彼の地に強い関心を抱いていたことを意識して描き込んだとか。何とも戦略的ではありませんか。
さて1630年代にはフランス軍がロレーヌ地方へ侵攻。同地は動揺します。そしてちょうどこの頃、カロは戦争を主題とした連作を制作しました。
「戦争の悲惨 連作 『絞首刑』」 1633年 エッチング
それが「戦争の悲惨」です。兵士の軍籍登録から入隊、配属、戦闘、略奪に刑罰、最後には報償の授与までが描かれている。とりわけ胸に迫るのは「絞首刑」や「火刑」など死の場面です。十数人もの死体が大木にぶら下がりになっている姿。その下にはまだ死体があります。「農家の略奪」でも逆さ吊りで火あぶりになった人が生々しく表されていました。
いずれも目を覆わんばかりの凄惨な光景ですが、カロは何も反戦思想でこうした絵を描いたわけではない。一方の「教練」では、兵隊のポーズを巧みに捉えている。そもそも「戦争の悲惨」も、カロの遺産目録には「兵士の生活」と記録されていた。また当時は兵士の軍の風紀に対する人々の批判もあったそうです。身近な戦争。カロの関心はその中で生きる人そのものにあった。そうとも言えるかもしれません。
「パリの景観 連作 『ポン・ヌフの見える光景』」 1629年頃 エッチング
ラストは風景。「水車」が絶品です。静かな水辺の景色。中央にはアーチ状の建物。水車小屋でしょうか。おそらくはフィレンツェ近郊を描いたとされる作品。水面には建物の影が写っている。夕景かもしれません。右後方では丸く大きな太陽が雲の中へ沈もうとしています。
全体的にキャプションを通して見ると、それこそ「反戦」云々といった物語性を退け、なるべく等身大のカロ像へ冷静に迫ろうとしている印象を受けました。
「聖アントニウスの誘惑(第二作)」 1635年 エッチング
会場内にDNPのデジタルコンテンツ「みどころルーペ」が設置されていました。双方向でのタッチパネル方式です。指先一つでカロの版画を拡大して楽しむことも出来ます。
なお本展は「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」と同時開催の展覧会です。会場は企画展示室の地下1階が「カロ展」、もう一つ下の地下2階部分が「非日常からの呼び声」になっています。つまりは一続き、一枚のチケットで両方を観覧出来るわけです。(カロ展の方が大規模です。)
会期早々だったからか、館内には余裕がありました。ただし作品の小さな版画の展覧会。混むと大変です。まずは早めの観覧をおすすめします。
6月15日まで開催されています。
「ジャック・カローリアリズムと奇想の劇場」 国立西洋美術館
会期:4月8日(火)~6月15日(日)
休館:月曜日。但し5/5は開館、5/7(水)は休館。
時間:9:30~17:30
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般600(400)円、大学生300(150)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
「ジャック・カローリアリズムと奇想の劇場」
4/18~6/15
国立西洋美術館で開催中の「ジャック・カローリアリズムと奇想の劇場」を見て来ました。
17世紀初頭、ロレーヌ(現フランス)やイタリアで活動した版画家、ジャック・カロ(1592-1635)。緻密なエッチング、時に幻想的な作風。タイトルの「奇想」という言葉もあながち誇張ではないかもしれません。
西洋美術館では400点もカロの版画を所蔵しているそうです。本展にはうち220点を出品。全て館蔵品での構成です。初期から晩年に至る活動を紹介しています。(出品リスト)
「二人のザンニ(喜劇の従者役)」1616年頃 エッチング
さて今回のカロ展、言うなれば「軸」は二つです。まずカロの業績を年代で追うとともに、「宗教」や「戦争」といった主題別でも作品を提示している。ともするとカロ、例えば西美の版画室などで見ることがないわけではありませんが、編年体で追いかける機会は少なかったかもしれません。作風の変遷とでも言うべきでしょうか。その点も浮き上がってきます。
カロの生まれは1592年、ロレーヌ公国の首都ナンシーです。1608年には早くもローマへ赴き、版画家のフィリップ・トマサンの弟子となる。ここでエングレーヴィングの技法を学びます。その後にさらに知人の誘いを受けフィレンツェへと渡ったそうです。
エッチングの初期作として知られるのが「サン・ロレンツォ教会の内部装飾」です。舞台はフィレンツェ。教会のアーチ内部の柔らかな線刻が印象に残る。また「キリストと穀物の計量人」はカロが下絵から手がけた最初期の作品と言われるもの。人物の生き生きした様子。ボスを連想しました。後の展開を予兆させる面があるかもしれません。
「インプルネータの市」 1620年 エッチング
フィレンツェではメディチ家の庇護を受ける。宮廷附きの版画家に就任します。そしてここで興味深いのが同地近辺の広場や劇場でのショーや試合などを積極的に描いていることです。「アルノの祝祭」はアルノ川で行われた模擬水上戦。何と3000名もの観客が集まったとか。花火があがり、人工島を巡って船で戦いが交わされる。大パノラマ。見事なスケールです。
「狩り」 1620年頃 エッチング
「狩り」はどうでしょうか。鬱蒼と生い茂る森の中での狩りの光景。馬に乗って鹿を追いかける貴族たち。前景と後景の対比もダイナミック。奥へと空間が開けています。そして細かに見れば犬を抑えて出番を待つ者や、馬から振り落とされて地面に横たわる男の姿などもある。躍動感のある表現です。まるで映像を前にしたかの如く動きがあります。
カロはコジモ2世の死後、庇護を失い、故郷へと戻りました。再びロレーヌです。しかし今度は簡単に宮廷のポストを得ることは出来ません。求職活動でしょうか。カロは同地の宮廷の庭園や祝祭の様子を描き、それを貴族へ献呈しています。中には力作も少なくありません。
「槍試合 連作 『ド・ヴロンクール殿、ティヨン殿、 マリモン殿の入場』」1627年 エッチング
「槍試合」です。カロが宮廷で催された槍試合の様子を記録したシリーズ。うち「ド・ヴロンクール殿、ティヨン殿、 マリモン殿の入場」が面白い。それぞれの貴族が乗るのはイルカの山車。ここでカロは本来なら山車を引く小姓を省略しています。これも一種の奇想風景と言えるのではないでしょうか。
カロが生涯にわたって最も多く制作したのは宗教主題の作品です。とりわけロレーヌ帰郷後が多い。「聖セバスティアヌスの殉教」は大作です。画面中央で四方からの矢を受ける聖人。痛々しい。空中には何本の矢が飛び交っている。そして多くの見物人の姿。座っている者もいる。まるで眼前でこの光景を見て描いたかのようなリアリティーです。しかしながら景色は当然の如く架空。そもそも背後に映るローマの遺構は、カロがローレヌの人が彼の地に強い関心を抱いていたことを意識して描き込んだとか。何とも戦略的ではありませんか。
さて1630年代にはフランス軍がロレーヌ地方へ侵攻。同地は動揺します。そしてちょうどこの頃、カロは戦争を主題とした連作を制作しました。
「戦争の悲惨 連作 『絞首刑』」 1633年 エッチング
それが「戦争の悲惨」です。兵士の軍籍登録から入隊、配属、戦闘、略奪に刑罰、最後には報償の授与までが描かれている。とりわけ胸に迫るのは「絞首刑」や「火刑」など死の場面です。十数人もの死体が大木にぶら下がりになっている姿。その下にはまだ死体があります。「農家の略奪」でも逆さ吊りで火あぶりになった人が生々しく表されていました。
いずれも目を覆わんばかりの凄惨な光景ですが、カロは何も反戦思想でこうした絵を描いたわけではない。一方の「教練」では、兵隊のポーズを巧みに捉えている。そもそも「戦争の悲惨」も、カロの遺産目録には「兵士の生活」と記録されていた。また当時は兵士の軍の風紀に対する人々の批判もあったそうです。身近な戦争。カロの関心はその中で生きる人そのものにあった。そうとも言えるかもしれません。
「パリの景観 連作 『ポン・ヌフの見える光景』」 1629年頃 エッチング
ラストは風景。「水車」が絶品です。静かな水辺の景色。中央にはアーチ状の建物。水車小屋でしょうか。おそらくはフィレンツェ近郊を描いたとされる作品。水面には建物の影が写っている。夕景かもしれません。右後方では丸く大きな太陽が雲の中へ沈もうとしています。
全体的にキャプションを通して見ると、それこそ「反戦」云々といった物語性を退け、なるべく等身大のカロ像へ冷静に迫ろうとしている印象を受けました。
「聖アントニウスの誘惑(第二作)」 1635年 エッチング
会場内にDNPのデジタルコンテンツ「みどころルーペ」が設置されていました。双方向でのタッチパネル方式です。指先一つでカロの版画を拡大して楽しむことも出来ます。
なお本展は「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」と同時開催の展覧会です。会場は企画展示室の地下1階が「カロ展」、もう一つ下の地下2階部分が「非日常からの呼び声」になっています。つまりは一続き、一枚のチケットで両方を観覧出来るわけです。(カロ展の方が大規模です。)
会期早々だったからか、館内には余裕がありました。ただし作品の小さな版画の展覧会。混むと大変です。まずは早めの観覧をおすすめします。
6月15日まで開催されています。
「ジャック・カローリアリズムと奇想の劇場」 国立西洋美術館
会期:4月8日(火)~6月15日(日)
休館:月曜日。但し5/5は開館、5/7(水)は休館。
時間:9:30~17:30
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般600(400)円、大学生300(150)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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「光琳追慕の系譜ー光琳の江戸下りから抱一まで」 千葉市美術館
千葉市美術館
講演会:「光琳追慕の系譜ー光琳の江戸下りから抱一まで」
講師:玉蟲敏子(武蔵野美術大学)
2014年4月12日
千葉市美術館で開催中の中村芳中展の講演会、「光琳追慕の系譜ー光琳の江戸下りから抱一まで」を聞いてきました。
講師は日本美術がご専門で抱一の研究でもお馴染みの玉蟲敏子先生です。著書には東京美術の「もっと知りたい酒井抱一」の他、吉川弘文館の「生きつづける光琳」など。また最近では2012年の「俵屋宗達 金銀のかざりの系譜」で第63回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されました。
「俵屋宗達:金銀の〈かざり〉の系譜/玉蟲敏子/東京大学出版会
さて講演は1時間半。スライドを引用しての密度の濃いお話、到底全てを網羅出来ませんが、当日配布されたレジュメと私のメモに沿って、概要を追ってみたいと思います。
1 光琳の江戸下りから抱一の登場まで
◯尾形光琳(1658-1716)の江戸下り ー 宝永年間を中心に数度の往来。光琳の画風の変遷期でもある。
狩野派、雪舟の学習。豪商深川冬木家と交流し、江戸での顧客拡大に成功した。(江戸で苦悩したという説もあるが、ここは積極的に評価すべき。)
「四季草花図巻」(宝永2年、津軽家伝来)
・宗達に迫った記念碑的作品。本展出展作。江戸制作説と京都制作説があるが、京都で描かれたのではないか。江戸でこれほどの宗達受容があったとは考えにくい。
・四季と言いつつも、冒頭に牡丹が描かれている。百花の王「牡丹」をはじめに記すのは中国・明の絵画でも見られる展開。(津軽家の紋が牡丹であるから牡丹を描いたという説もある。)
「禊図」(畠山記念館)
・江戸で描いた作品。抱一が「禊図」に写す。其一画もあり。
「躑躅図」(畠山記念館、黒田家伝)
・江戸の作品。線の組み立ては雪舟の撥墨に倣った可能性。
「波涛図屏風」(メトロポリタン美術館)
・外隈の技法。波頭が兎に見えるという指摘。中国宋元画由来か?漢文化圏的テイスト。
・バリエーションとしての抱一の「波図屏風」(静嘉堂文庫美術館)がある。
・日本からの英語版光琳画集にも収録。海外で有名に。(今で言うクールジャパン)
・落合芳幾の「春色今様三十六会席」(明治初期)中に似た作品が挿入。舞台は抱一も通った料亭八百善。料亭で絵を見せることはよく行われていた。抱一も見たのか?
尾形光琳「四季草花図」(部分) 個人蔵
◯尾形乾山(1663~1743)の東下とその受容層 ー 光琳に続いて江戸へ。江戸で没した可能性。
「朝岡興禎編『古画備考 巻44 英流』所載の関係図」
・乾山と抱一の交流を示す資料。俳諧を通じる。一蝶の弟子とも関係。乾山は本所の材木商の長屋に住んでいた。
「立葵図」(畠山記念館)
・抱一が「百合立葵図押絵貼屏風」に写す。
・そもそも抱一の初期は光琳よりも乾山風の作品が多い。
「燕市撰・建部巣兆編『徳万歳』」(寛政12年)
・燕市とは俳諧の千住連の一人。建部巣兆は極めて深く抱一と親交のあった人物。
・その彼の著した「徳万歳」の挿絵を芳中が担当している。蕪村の「万歳図」との類似。元々は蕪村的な画風から入ったのか。
・「抱一 ー 巣兆 ー 芳中」の繋がり。俳諧ネットワーク。(但し抱一と芳中とが直接会っていたかは不明。)
◯立林何げいの出自と活動 ー 乾山の弟子。金沢出身。
「抱一編『光琳百図』後編所載尾形光琳筆『宗達写扇面図巻』」
・光琳周辺作と何げい作の類似関係。何げいは余白の美。洒脱的。抱一風とも言える。光琳と抱一を繋ぐ存在?
・金泥のたらしこみ。
2 芳中と抱一の共通性と差異
◯光琳への関心を示す時期 ー 抱一の方がやや早い
「何げい筆『玉蜀黍朝顔図」(出光美術館)
・宗達派の草花図的系統。何げいは金沢に多く伝わった伊年印の作品を引用した。それを抱一も学んだ?
「酒井抱一『燕子花図屏風』」(出光美術館)
・抱一40代の作品。後の抱一画のエッセンスが詰まっている。
・瀟洒、余白の利用。ひょっとすると何げいにも似たような作品があったのかも。
「中村芳中『光琳画譜』」(享和2年)
・光琳に倣って描いた芳中の作品。言わば光琳風の芳中画譜。
・風俗的な人物画。光琳は布袋や大黒天などで人物を描くが、普通の人物を描くことはない。一方で芳中は市井の人物を描く。蕪村、一蝶風か。特に子どもたちの生き生きとした描写は目を見張る。
「たらしこみ」という言葉
・基本的には水墨の技法。金泥、銀泥。(但し芳中に銀泥はない。)
・1930年代頃に宗達画について「たらしこみ」という言葉が使われるようになった。それは芳中の研究が始まった時期と重なる。
*たらしこみの始源
「本阿弥光悦書・俵屋宗達画『蓮下絵和歌巻』」ー宗達の傑作(現在はコロタイプのみ。関東大震災で失われた。)
芳中画を思わせるようなユーモアな描写。蓮の花びらがめくれる瞬間。
生命が内側からうごめく瞬間、それとたらしこみのもぞもぞとした描写。=形が生まれてくる原初。それが「たらしこみ」の描写と繋がるのではないか。
中村芳中「光琳画譜」より
◯抱一の光琳へのアプローチ
・そもそも抱一は狩野派から入った線の画家。
・元禄・寛永期に光琳、乾山画に出会い、同時期に芳中とも接近する。
・宗達画の「蓮池水禽図」を賞賛。
・いわゆる「尾形流」を江戸の中間層、例えば下級武士、裕福な商家らの第三勢力に提供。(第一は幕府や有力大名などの支配層、第二は浮世絵受容の町人庶民層。)
・大名の子という立場も利用して、様々な人々を積極的に動員。光琳百図を出版し、百年忌で光琳を顕彰するなど、戦略的に「尾形流」を広めた。今で言うメディア戦略。
酒井抱一「燕子花図屏風」 出光美術館
3 芳中は琳派か
◯芳中の光琳派への登場過程と評価 ー 抱一は「尾形流」に芳中を入れなかった
「片野四郎『尾形派』」(稿本、東京国立博物館)
・1906年に東京国立博物館で行われた「光琳派」展に芳中画が出ている。
・展覧会の内部資料。芳中画の作品を解説しているも、後に出版された画集には掲載されなかった。
・光琳風から「逸脱」した魅力。当初はコレクターが評価。
・1960年代以降に具体的に研究。
◯芳中画の根底にあるもの
「旧塩原家本金銀泥絵色紙『百合図』」(サンリツ服部美術館)
・ゆるキャラの宝庫ともいえる作品。芳中の「百合図扇面」に似ている。
「隆達節小歌巻断簡」(京都民藝館)
・刷絵。竹の節を空かして描く表現。水墨ではあり得ない。(水墨では節に濃い墨を塗る)それをあえて描かないのが宗達風。
◯芳中画の特徴
・ゆったりとした太い線。
・おそらく町に浸透していたであろう「俵屋風」(必ずしも宗達として認知されず、例え光琳と思われていても。)の自然な摂取ー料紙装飾の技術
・たらしこみの始源に対する同質性。
中村芳中「白梅図」 千葉市美術館
4 まとめ
◯「文化的先進都市=京都」←→「新興都市=江戸」
・京都において
宗達の金銀泥絵は光琳と組んだ料紙下絵からスタート。水墨画を吸収し、宮廷絵師とはまた違った俵屋風を確立する。以降、上方の生活文化の底流になり、光琳及びその周辺の文人や裕福な町人層の遊びになる。ただし上方では流派化せず、成熟しなかった。
・江戸において
光琳、乾山の江戸下りに始まり、土着化(何げいを含む)。そして抱一の手によって「尾形流」として編纂されていく。江戸にとっての「尾形流」とは元来異なる文化(上方由来)のもの。よって流派化は必然的。江戸という異なる文化に接触、また摂取する過程で、明確な輪郭を持つ必要に迫られたのではないか。
◯「古都=京都」←→「首都・帝都=東京」
・東京では抱一の「尾形流」が「琳派」として古典化されていく。
・宗達への関心は明治来~大正にまず東京、そしてやや遅れて京都でまた高まり、二次大戦終了後に進展。芳中の評価は宗達の後追い的な側面がある。
・大正から関西でも芳中への関心が高まった。昭和に入ると東京でも高まったが主流にはなり得なかった。
・一方で現代。近年のゆるキャラブーム。ほのぼの、おおらかな作風への愛着。殺伐とした世相を反映してのかわいいものへの志向。そこに芳中画がムーブメントになる可能性もある。
以上です。光琳、乾山の江戸下りに始まり、芳中と抱一との関係、さらに芳中画の特徴とは何か。また芳中や抱一が参照していた可能性のある作品(蕪村や何げいなど)、たらしこみの特質、さらには絵師同士を繋いだ俳諧ネットワークの存在(芳中が江戸にやって来たのも俳人を頼ったと言われている。)の指摘なども重要かもしれません。
また抱一が江戸の中間層を狙って戦略的に尾形流を波及させたという部分も興味深いもの。最後は京都(上方)と江戸(東京)の二都市を参照しながら、「尾形流」から「琳派」の流れを見ていく。現代の芳中画受容の話に進んだところでレクチャーは幕となりました。
中村芳中「光琳画譜」より
さて芳中展、本講演会の他、会期中に市民講座も行われます。
特別市民美術講座:「かわいい琳派 中村芳中」
【講師】福井麻純(細見美術館主任学芸員)
4月20日(日)14:00より(13:30開場予定)
市民美術講座:「『光琳画譜』と中村芳中」
【講師】伊藤紫織(同館学芸員)
5月3日(土・祝)14:00より(13:30開場)
*会場はいずれも11階講堂。無料。先着150名。講演会及び特別市民美術講座は当日12時より11階にて整理券を配布。
「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」
またこの日はもちろん芳中展もあわせて観覧してきました。またそちらの感想は別途まとめるつもりです。
「光琳を慕う 中村芳中」 千葉市美術館
会期:4月8日(火)~5月11日(日)
休館:4/21、5/7。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料が半額。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
講演会:「光琳追慕の系譜ー光琳の江戸下りから抱一まで」
講師:玉蟲敏子(武蔵野美術大学)
2014年4月12日
千葉市美術館で開催中の中村芳中展の講演会、「光琳追慕の系譜ー光琳の江戸下りから抱一まで」を聞いてきました。
講師は日本美術がご専門で抱一の研究でもお馴染みの玉蟲敏子先生です。著書には東京美術の「もっと知りたい酒井抱一」の他、吉川弘文館の「生きつづける光琳」など。また最近では2012年の「俵屋宗達 金銀のかざりの系譜」で第63回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されました。
「俵屋宗達:金銀の〈かざり〉の系譜/玉蟲敏子/東京大学出版会
さて講演は1時間半。スライドを引用しての密度の濃いお話、到底全てを網羅出来ませんが、当日配布されたレジュメと私のメモに沿って、概要を追ってみたいと思います。
1 光琳の江戸下りから抱一の登場まで
◯尾形光琳(1658-1716)の江戸下り ー 宝永年間を中心に数度の往来。光琳の画風の変遷期でもある。
狩野派、雪舟の学習。豪商深川冬木家と交流し、江戸での顧客拡大に成功した。(江戸で苦悩したという説もあるが、ここは積極的に評価すべき。)
「四季草花図巻」(宝永2年、津軽家伝来)
・宗達に迫った記念碑的作品。本展出展作。江戸制作説と京都制作説があるが、京都で描かれたのではないか。江戸でこれほどの宗達受容があったとは考えにくい。
・四季と言いつつも、冒頭に牡丹が描かれている。百花の王「牡丹」をはじめに記すのは中国・明の絵画でも見られる展開。(津軽家の紋が牡丹であるから牡丹を描いたという説もある。)
「禊図」(畠山記念館)
・江戸で描いた作品。抱一が「禊図」に写す。其一画もあり。
「躑躅図」(畠山記念館、黒田家伝)
・江戸の作品。線の組み立ては雪舟の撥墨に倣った可能性。
「波涛図屏風」(メトロポリタン美術館)
・外隈の技法。波頭が兎に見えるという指摘。中国宋元画由来か?漢文化圏的テイスト。
・バリエーションとしての抱一の「波図屏風」(静嘉堂文庫美術館)がある。
・日本からの英語版光琳画集にも収録。海外で有名に。(今で言うクールジャパン)
・落合芳幾の「春色今様三十六会席」(明治初期)中に似た作品が挿入。舞台は抱一も通った料亭八百善。料亭で絵を見せることはよく行われていた。抱一も見たのか?
尾形光琳「四季草花図」(部分) 個人蔵
◯尾形乾山(1663~1743)の東下とその受容層 ー 光琳に続いて江戸へ。江戸で没した可能性。
「朝岡興禎編『古画備考 巻44 英流』所載の関係図」
・乾山と抱一の交流を示す資料。俳諧を通じる。一蝶の弟子とも関係。乾山は本所の材木商の長屋に住んでいた。
「立葵図」(畠山記念館)
・抱一が「百合立葵図押絵貼屏風」に写す。
・そもそも抱一の初期は光琳よりも乾山風の作品が多い。
「燕市撰・建部巣兆編『徳万歳』」(寛政12年)
・燕市とは俳諧の千住連の一人。建部巣兆は極めて深く抱一と親交のあった人物。
・その彼の著した「徳万歳」の挿絵を芳中が担当している。蕪村の「万歳図」との類似。元々は蕪村的な画風から入ったのか。
・「抱一 ー 巣兆 ー 芳中」の繋がり。俳諧ネットワーク。(但し抱一と芳中とが直接会っていたかは不明。)
◯立林何げいの出自と活動 ー 乾山の弟子。金沢出身。
「抱一編『光琳百図』後編所載尾形光琳筆『宗達写扇面図巻』」
・光琳周辺作と何げい作の類似関係。何げいは余白の美。洒脱的。抱一風とも言える。光琳と抱一を繋ぐ存在?
・金泥のたらしこみ。
2 芳中と抱一の共通性と差異
◯光琳への関心を示す時期 ー 抱一の方がやや早い
「何げい筆『玉蜀黍朝顔図」(出光美術館)
・宗達派の草花図的系統。何げいは金沢に多く伝わった伊年印の作品を引用した。それを抱一も学んだ?
「酒井抱一『燕子花図屏風』」(出光美術館)
・抱一40代の作品。後の抱一画のエッセンスが詰まっている。
・瀟洒、余白の利用。ひょっとすると何げいにも似たような作品があったのかも。
「中村芳中『光琳画譜』」(享和2年)
・光琳に倣って描いた芳中の作品。言わば光琳風の芳中画譜。
・風俗的な人物画。光琳は布袋や大黒天などで人物を描くが、普通の人物を描くことはない。一方で芳中は市井の人物を描く。蕪村、一蝶風か。特に子どもたちの生き生きとした描写は目を見張る。
「たらしこみ」という言葉
・基本的には水墨の技法。金泥、銀泥。(但し芳中に銀泥はない。)
・1930年代頃に宗達画について「たらしこみ」という言葉が使われるようになった。それは芳中の研究が始まった時期と重なる。
*たらしこみの始源
「本阿弥光悦書・俵屋宗達画『蓮下絵和歌巻』」ー宗達の傑作(現在はコロタイプのみ。関東大震災で失われた。)
芳中画を思わせるようなユーモアな描写。蓮の花びらがめくれる瞬間。
生命が内側からうごめく瞬間、それとたらしこみのもぞもぞとした描写。=形が生まれてくる原初。それが「たらしこみ」の描写と繋がるのではないか。
中村芳中「光琳画譜」より
◯抱一の光琳へのアプローチ
・そもそも抱一は狩野派から入った線の画家。
・元禄・寛永期に光琳、乾山画に出会い、同時期に芳中とも接近する。
・宗達画の「蓮池水禽図」を賞賛。
・いわゆる「尾形流」を江戸の中間層、例えば下級武士、裕福な商家らの第三勢力に提供。(第一は幕府や有力大名などの支配層、第二は浮世絵受容の町人庶民層。)
・大名の子という立場も利用して、様々な人々を積極的に動員。光琳百図を出版し、百年忌で光琳を顕彰するなど、戦略的に「尾形流」を広めた。今で言うメディア戦略。
酒井抱一「燕子花図屏風」 出光美術館
3 芳中は琳派か
◯芳中の光琳派への登場過程と評価 ー 抱一は「尾形流」に芳中を入れなかった
「片野四郎『尾形派』」(稿本、東京国立博物館)
・1906年に東京国立博物館で行われた「光琳派」展に芳中画が出ている。
・展覧会の内部資料。芳中画の作品を解説しているも、後に出版された画集には掲載されなかった。
・光琳風から「逸脱」した魅力。当初はコレクターが評価。
・1960年代以降に具体的に研究。
◯芳中画の根底にあるもの
「旧塩原家本金銀泥絵色紙『百合図』」(サンリツ服部美術館)
・ゆるキャラの宝庫ともいえる作品。芳中の「百合図扇面」に似ている。
「隆達節小歌巻断簡」(京都民藝館)
・刷絵。竹の節を空かして描く表現。水墨ではあり得ない。(水墨では節に濃い墨を塗る)それをあえて描かないのが宗達風。
◯芳中画の特徴
・ゆったりとした太い線。
・おそらく町に浸透していたであろう「俵屋風」(必ずしも宗達として認知されず、例え光琳と思われていても。)の自然な摂取ー料紙装飾の技術
・たらしこみの始源に対する同質性。
中村芳中「白梅図」 千葉市美術館
4 まとめ
◯「文化的先進都市=京都」←→「新興都市=江戸」
・京都において
宗達の金銀泥絵は光琳と組んだ料紙下絵からスタート。水墨画を吸収し、宮廷絵師とはまた違った俵屋風を確立する。以降、上方の生活文化の底流になり、光琳及びその周辺の文人や裕福な町人層の遊びになる。ただし上方では流派化せず、成熟しなかった。
・江戸において
光琳、乾山の江戸下りに始まり、土着化(何げいを含む)。そして抱一の手によって「尾形流」として編纂されていく。江戸にとっての「尾形流」とは元来異なる文化(上方由来)のもの。よって流派化は必然的。江戸という異なる文化に接触、また摂取する過程で、明確な輪郭を持つ必要に迫られたのではないか。
◯「古都=京都」←→「首都・帝都=東京」
・東京では抱一の「尾形流」が「琳派」として古典化されていく。
・宗達への関心は明治来~大正にまず東京、そしてやや遅れて京都でまた高まり、二次大戦終了後に進展。芳中の評価は宗達の後追い的な側面がある。
・大正から関西でも芳中への関心が高まった。昭和に入ると東京でも高まったが主流にはなり得なかった。
・一方で現代。近年のゆるキャラブーム。ほのぼの、おおらかな作風への愛着。殺伐とした世相を反映してのかわいいものへの志向。そこに芳中画がムーブメントになる可能性もある。
以上です。光琳、乾山の江戸下りに始まり、芳中と抱一との関係、さらに芳中画の特徴とは何か。また芳中や抱一が参照していた可能性のある作品(蕪村や何げいなど)、たらしこみの特質、さらには絵師同士を繋いだ俳諧ネットワークの存在(芳中が江戸にやって来たのも俳人を頼ったと言われている。)の指摘なども重要かもしれません。
また抱一が江戸の中間層を狙って戦略的に尾形流を波及させたという部分も興味深いもの。最後は京都(上方)と江戸(東京)の二都市を参照しながら、「尾形流」から「琳派」の流れを見ていく。現代の芳中画受容の話に進んだところでレクチャーは幕となりました。
中村芳中「光琳画譜」より
さて芳中展、本講演会の他、会期中に市民講座も行われます。
特別市民美術講座:「かわいい琳派 中村芳中」
【講師】福井麻純(細見美術館主任学芸員)
4月20日(日)14:00より(13:30開場予定)
市民美術講座:「『光琳画譜』と中村芳中」
【講師】伊藤紫織(同館学芸員)
5月3日(土・祝)14:00より(13:30開場)
*会場はいずれも11階講堂。無料。先着150名。講演会及び特別市民美術講座は当日12時より11階にて整理券を配布。
「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」
またこの日はもちろん芳中展もあわせて観覧してきました。またそちらの感想は別途まとめるつもりです。
「光琳を慕う 中村芳中」 千葉市美術館
会期:4月8日(火)~5月11日(日)
休館:4/21、5/7。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料が半額。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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千葉市美術館のミュージアムショップがリニューアルしました
現在、千葉市美術館で開催中の「光琳を慕う 中村芳中」。
「光琳を慕う 中村芳中」@千葉市美術館(4/18~5/11)
今年度からということでしょうか。同館のミュージアムショップがリニューアルオープンしました。
ショップの場所は以前と同様。美術館の7階。受付から一つ下のフロアです。エレベーターホールの横にあります。
スペース自体はそのまま。言ってしまえばこじんまりとしたショップ。中央の陳列台と三方の壁面を利用しての展開。レジの位置も変わりません。入口からぱっと見た感覚では何が変わったのか分からないかもしれません。
それではショップの方に許可をいただいたので、入口とは反対方向の写真を一枚アップしてみます。如何でしょうか。かなり雰囲気が変わったと感じる方もおられるのではないでしょうか。
というのも今回のリニューアルでは書籍が格段に増えています。まずは同美術館の過去の展覧会の図録に浮世絵関連、そして日本美術全般です。品揃えとしては同美術館の「強い」浮世絵や日本美術関連が目立ちますが、それ以外のジャンルも網羅。西洋美術に現代美術、さらには塗り絵などキッズコーナーの書籍もあります。
かつてはほぼ葉書などで埋め尽くされていた棚が一変。中央の棚にも書籍が積まれている。とは言え、もちろん定番の葉書やクリアファイルもちゃんと用意されています。ここは抜け目ありません。
そしてもちろん芳中展にあわせてグッズもいくつか。ファイルに手ぬぐいなど。さすがに可愛らしい芳中画、思わずグッズにもにんまりしてしまいます。また本展向けに新たに出た商品もあるそうです。
千葉駅周辺の比較的大きな書店としては、そごうの上、もしくは塚本ビル4階(ヨドバシカメラ千葉店上)にそれぞれ三省堂がありますが、おそらく美術書についてはこのミュージアムショップの方が充実しているのではないでしょうか。(*)
なお芳中展の図録は一般書店でも販売されていますが、会期中、ミュージアムショップのみ特別割引価格で販売中です。定価2500円(+税8%)が税込みで2400円です。私も迷わず購入しました。
また「友の会」に入会するとショップのグッズや書籍が1割引になるサービス(除外品あり)もあります。特典についてはリニューアル後も変わりません。
もちろんショップへは観覧券なしでも利用出来ます。展覧会へお越しの方、帰りは是非ともお立ち寄り下さい。
*余談ですが、千葉県内、総武線沿線の書店では、津田沼駅南口すぐの丸善の美術書コーナーが飛び抜けて充実しています。都内の大型書店と比べても引けを取りません。
「千葉市美術館ミュージアムショップ」 千葉市美術館
定休:美術館休館日に準ずる。
電話:043-221-6885 *問い合わせは10:00~17:30
住所:千葉市中央区中央3-10-8 千葉市美術館内7階
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「光琳を慕う 中村芳中」@千葉市美術館(4/18~5/11)
今年度からということでしょうか。同館のミュージアムショップがリニューアルオープンしました。
ショップの場所は以前と同様。美術館の7階。受付から一つ下のフロアです。エレベーターホールの横にあります。
スペース自体はそのまま。言ってしまえばこじんまりとしたショップ。中央の陳列台と三方の壁面を利用しての展開。レジの位置も変わりません。入口からぱっと見た感覚では何が変わったのか分からないかもしれません。
それではショップの方に許可をいただいたので、入口とは反対方向の写真を一枚アップしてみます。如何でしょうか。かなり雰囲気が変わったと感じる方もおられるのではないでしょうか。
というのも今回のリニューアルでは書籍が格段に増えています。まずは同美術館の過去の展覧会の図録に浮世絵関連、そして日本美術全般です。品揃えとしては同美術館の「強い」浮世絵や日本美術関連が目立ちますが、それ以外のジャンルも網羅。西洋美術に現代美術、さらには塗り絵などキッズコーナーの書籍もあります。
かつてはほぼ葉書などで埋め尽くされていた棚が一変。中央の棚にも書籍が積まれている。とは言え、もちろん定番の葉書やクリアファイルもちゃんと用意されています。ここは抜け目ありません。
そしてもちろん芳中展にあわせてグッズもいくつか。ファイルに手ぬぐいなど。さすがに可愛らしい芳中画、思わずグッズにもにんまりしてしまいます。また本展向けに新たに出た商品もあるそうです。
千葉駅周辺の比較的大きな書店としては、そごうの上、もしくは塚本ビル4階(ヨドバシカメラ千葉店上)にそれぞれ三省堂がありますが、おそらく美術書についてはこのミュージアムショップの方が充実しているのではないでしょうか。(*)
なお芳中展の図録は一般書店でも販売されていますが、会期中、ミュージアムショップのみ特別割引価格で販売中です。定価2500円(+税8%)が税込みで2400円です。私も迷わず購入しました。
また「友の会」に入会するとショップのグッズや書籍が1割引になるサービス(除外品あり)もあります。特典についてはリニューアル後も変わりません。
もちろんショップへは観覧券なしでも利用出来ます。展覧会へお越しの方、帰りは是非ともお立ち寄り下さい。
*余談ですが、千葉県内、総武線沿線の書店では、津田沼駅南口すぐの丸善の美術書コーナーが飛び抜けて充実しています。都内の大型書店と比べても引けを取りません。
「千葉市美術館ミュージアムショップ」 千葉市美術館
定休:美術館休館日に準ずる。
電話:043-221-6885 *問い合わせは10:00~17:30
住所:千葉市中央区中央3-10-8 千葉市美術館内7階
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「コメ展」 21_21 DESIGN SIGHT
21_21 DESIGN SIGHT
「コメ展」
2/28-6/15
21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「コメ展」を見て来ました。
日頃の食卓に欠かせないコメ。しかしコメの歴史やコメにまつわる文化とは何か。振り返れば、そもそも精米された米粒や茶碗のご飯以外のコメを知る機会は意外と少ないものでもあります。
デザインの観点からもコメを見据える。ディレクションはデザイナーの佐藤卓氏と人類学者の竹村真一氏です。21_21 DESIGN SIGHTならではの切り口でコメの様々な有り様を提示していました。
会場内は撮影が可能でした。(ツイッターでハッシュタグ#kometenとつけてつぶやくと、公式特設サイトに写真がアップされるそうです。)展示の様子を少しご紹介しましょう。
まずエントランスから。床にごろりと転がるのはまさにコメ。籾に玄米に白米。但し360倍の姿です。ともかくも単に「粒」としてだけしか見ていないコメ。実はこんな形をしていた。特に籾です。拡大するとまるで何か未知の巨大生物のような出立ちでもあります。
階下へ進みましょう。「コメの景」です。ここではコメから広がる8つの景色を紹介する。例えば「コメと光」はどうでしょうか。一杯の茶碗に盛られるご飯の3000粒に光を照らす。明かりの灯るコメが如何に美しいことか。まるで宝石の如く青白い光を放っています。
そして驚くのがコメの上に置かれた一つの虫眼鏡。その先には何があるのだろう。目を近づけてみました。
するとお寿司がある。何と米粒一つが一貫の握りです。マグロに海老にウニでしょうか。驚くほど細かさです。どうやって作ったのでしょうか。思わず息をのんでしまいました。
さらにメインのフロアへ。ずらりと並ぶのはコメに関する様々な知識に道具、そしてデザインです。
例えばしめ飾り。稲藁を編んでつくる。そういえば私もこれほど立派ではありませんが、今年の年始に玄関へ小さなしめかざりを飾ったことを思い出しました。
コメの様々な入れ物を並べた「コメの計」も興味深いもの。一粒のコメからコメ1869粒の粟おこしへ。最後はコメ俵です。中には何と2608695粒入るのだとか。そういえばかつては「石」、ようはコメの収穫量で言わば国の富を表していたわけでした。
一口にコメと言ってもたような品種がある。「たねとり田んぼ」です。種子でもあるコメを品種毎に並べている。千差万別です。コメの粒、種子へのこだわり。先人たちの品種改良への努力。そうしたものも伺い知れます。
コメを掬うしゃもじ。また収穫の鎌しかり、コメには道具も欠かせません。「属人器」のコーナーではコメを扱う人が用いる様々な道具を紹介しています。
インタラクティブな仕掛けも随所に置かれています。例えば収穫から精米の過程をハンドル操作で疑似体験する「働かざる者、食うべからず」。そしてご飯を焚く仕掛けを模した「はじめはちょろちょろ」と題した装置も。私も普段、ご飯は必ずガスの炎で焚きます。ここは勘を頼りにチャレンジしてみました。
そちらかといえば私はこちらの方がお世話になっているかもしれません。「ジャパンブランド」です。壁面に無数に貼られたのは日本酒のラベル。それ自体が一つのデザインでもある。ラベルでお酒を買ってしまわないこともない。思わず地元千葉のお酒をラベルを探してしまいました。
最後には一粒のコメに文字を書けるという「コメ粒もじもじ」のコーナーも。優秀作品は1階のギャラリーで展示されるとか。これがかなり難しいのですが、手先の器用な方はまずは参加されては如何でしょうか。
「いただきます!」では茶碗に盛られたご飯のサンプルを展示。良く出来ています。ふりかけに梅干しに納豆。私は断然に納豆派です。卵をかければなおさらご飯も進みます。
もちろん土から接してコメに触れてこそはじめて分かるものかもしれない。子どもの頃、母に茶碗のご飯を残してはいけないと言われたことを思い出しました。しかしながら「デザインの手本としてのコメづくり」とはディレクターの佐藤氏の言葉です。コメの服ならぬパッケージデザインの展示もある。この展覧会に接するとコメに対する見方が少し変わるかもしれません。
なお途中にも触れましたが、体験型の展示もいくつか用意されています。混雑を避けての観覧がおすすめです。嬉しいことに21_21は土日含めて連日20時までオープン。夜間も狙い目になるかもしれません。実際に私も夜に行きましたが、空いていました。
4月19日のアートナイト時は開館が深夜24時まで延長となります。(但しこの日はおそらく賑わいます。)
6月15日まで開催されています。
「コメ展」 21_21 DESIGN SIGHT
会期:2月28日 (金) ~6月15日 (日)
休館:火曜日。但し4/29、5/6は開館。
時間:11:00~20:00(入場は19:30まで)
*4月19日(土)は六本木アートナイトのため24:00まで開館延長。
料金:一般1000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料。
*15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
「コメ展」
2/28-6/15
21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「コメ展」を見て来ました。
日頃の食卓に欠かせないコメ。しかしコメの歴史やコメにまつわる文化とは何か。振り返れば、そもそも精米された米粒や茶碗のご飯以外のコメを知る機会は意外と少ないものでもあります。
デザインの観点からもコメを見据える。ディレクションはデザイナーの佐藤卓氏と人類学者の竹村真一氏です。21_21 DESIGN SIGHTならではの切り口でコメの様々な有り様を提示していました。
会場内は撮影が可能でした。(ツイッターでハッシュタグ#kometenとつけてつぶやくと、公式特設サイトに写真がアップされるそうです。)展示の様子を少しご紹介しましょう。
まずエントランスから。床にごろりと転がるのはまさにコメ。籾に玄米に白米。但し360倍の姿です。ともかくも単に「粒」としてだけしか見ていないコメ。実はこんな形をしていた。特に籾です。拡大するとまるで何か未知の巨大生物のような出立ちでもあります。
階下へ進みましょう。「コメの景」です。ここではコメから広がる8つの景色を紹介する。例えば「コメと光」はどうでしょうか。一杯の茶碗に盛られるご飯の3000粒に光を照らす。明かりの灯るコメが如何に美しいことか。まるで宝石の如く青白い光を放っています。
そして驚くのがコメの上に置かれた一つの虫眼鏡。その先には何があるのだろう。目を近づけてみました。
するとお寿司がある。何と米粒一つが一貫の握りです。マグロに海老にウニでしょうか。驚くほど細かさです。どうやって作ったのでしょうか。思わず息をのんでしまいました。
さらにメインのフロアへ。ずらりと並ぶのはコメに関する様々な知識に道具、そしてデザインです。
例えばしめ飾り。稲藁を編んでつくる。そういえば私もこれほど立派ではありませんが、今年の年始に玄関へ小さなしめかざりを飾ったことを思い出しました。
コメの様々な入れ物を並べた「コメの計」も興味深いもの。一粒のコメからコメ1869粒の粟おこしへ。最後はコメ俵です。中には何と2608695粒入るのだとか。そういえばかつては「石」、ようはコメの収穫量で言わば国の富を表していたわけでした。
一口にコメと言ってもたような品種がある。「たねとり田んぼ」です。種子でもあるコメを品種毎に並べている。千差万別です。コメの粒、種子へのこだわり。先人たちの品種改良への努力。そうしたものも伺い知れます。
コメを掬うしゃもじ。また収穫の鎌しかり、コメには道具も欠かせません。「属人器」のコーナーではコメを扱う人が用いる様々な道具を紹介しています。
インタラクティブな仕掛けも随所に置かれています。例えば収穫から精米の過程をハンドル操作で疑似体験する「働かざる者、食うべからず」。そしてご飯を焚く仕掛けを模した「はじめはちょろちょろ」と題した装置も。私も普段、ご飯は必ずガスの炎で焚きます。ここは勘を頼りにチャレンジしてみました。
そちらかといえば私はこちらの方がお世話になっているかもしれません。「ジャパンブランド」です。壁面に無数に貼られたのは日本酒のラベル。それ自体が一つのデザインでもある。ラベルでお酒を買ってしまわないこともない。思わず地元千葉のお酒をラベルを探してしまいました。
最後には一粒のコメに文字を書けるという「コメ粒もじもじ」のコーナーも。優秀作品は1階のギャラリーで展示されるとか。これがかなり難しいのですが、手先の器用な方はまずは参加されては如何でしょうか。
「いただきます!」では茶碗に盛られたご飯のサンプルを展示。良く出来ています。ふりかけに梅干しに納豆。私は断然に納豆派です。卵をかければなおさらご飯も進みます。
もちろん土から接してコメに触れてこそはじめて分かるものかもしれない。子どもの頃、母に茶碗のご飯を残してはいけないと言われたことを思い出しました。しかしながら「デザインの手本としてのコメづくり」とはディレクターの佐藤氏の言葉です。コメの服ならぬパッケージデザインの展示もある。この展覧会に接するとコメに対する見方が少し変わるかもしれません。
なお途中にも触れましたが、体験型の展示もいくつか用意されています。混雑を避けての観覧がおすすめです。嬉しいことに21_21は土日含めて連日20時までオープン。夜間も狙い目になるかもしれません。実際に私も夜に行きましたが、空いていました。
4月19日のアートナイト時は開館が深夜24時まで延長となります。(但しこの日はおそらく賑わいます。)
6月15日まで開催されています。
「コメ展」 21_21 DESIGN SIGHT
会期:2月28日 (金) ~6月15日 (日)
休館:火曜日。但し4/29、5/6は開館。
時間:11:00~20:00(入場は19:30まで)
*4月19日(土)は六本木アートナイトのため24:00まで開館延長。
料金:一般1000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料。
*15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「江戸絵画の19世紀」 府中市美術館
府中市美術館
「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」
3/21~5/6 *前期:3/21~4/13、後期:4/15~5/6
府中市美術館で開催中の「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」を見て来ました。
毎年春の恒例、府中発の江戸絵画展シリーズ。「春の江戸絵画まつり」と題したのは昨年来でしょうか。これまでにも「三都画家比べ」や「江戸の人物画」、それに「動物絵画の100年展」などの展示を行ってきました。
亜欧堂田善「墨堤観桜図」 府中市美術館(寄託) *全期間展示
今年のテーマは19世紀、江戸時代最後の世紀です。1868年の明治維新に至るまでの約70年間、江戸にはどんな絵師が存在し、またどのような活動をしていたのか。それをいくつかのポイントから追いかけていました。
第1章 19世紀の造形感覚
第2章 心のかたちを極める
第3章 19世紀の人の「世界」
第4章 西洋の画法をどう使うか
とは言え、会場では何もそう深く学究的に突っ込んでいるわけではありません。あくまでも基本は親しみやすい展開。気軽に江戸絵画を楽しめます。
さて冒頭、目を見張るほどに細密な作品が。守住貫魚の「袋田滝図」です。文字通り今も名所の袋田の滝を描いた一枚。ともかくは滝の白い水の筋と岩肌、そして青々とした葉をつけた木々の様子。いずれも細かな線描で描かれている。光に水が溶けて輝く様子までも表されています。
京都で桜を得意とした画家「三熊派」の一人、織田瑟々(しつしつ)はどうでしょうか。「江戸法来寺桜図」です。縦長の一幅でのびた桜の枝。写実と言えばそうかもしれませんが、よく見ると葉の先は妙に丸まっている上に、花びら自体もぐっと水平に開いている。生々しいものがあります。
大久保一丘の「伝大久保一岳像」はいわゆる西洋風の人物画です。一説では画家の息子をモデルとしたと言われる作品。大きな瞳を見開いた少年の姿。肉付きの良い顔面。真に迫ります。
それにしてもここまで挙げた三名の画家、どれほど名前を知られているでしょうか。実のところ本展、主役はこうした知られざる画家たちです。もちろん国芳に北斎に広重も登場しますが、どちらかと言えば見知らぬ画家の思わぬ佳品、時には珍品を探す。そうした趣きがありました。
安田雷洲「捕鯨図」(部分) 歸空庵コレクション *前期展示
先に進みましょう。私の少し追いかけている安田雷洲。主に安政期に活動、さながら劇画調ともとれる作風が興味深い画家です。前期中は4点。まずは「丁未地震」です。1847年の善光寺地震に取材したという小品、寺の門前の建物も崩れ、多くの人が逃げ惑う様。何とも迫力がありますが、背景の山は裂け、さらには炎らしきものも噴き出す。何でも実景とは異なる姿までを描き入れているとか。もはやスペクタクルです。またその緻密な表現は、どこか現代の池田学の作品を連想させる面もあります。
「水辺村童図」も忘れられません。タイトルからして実に平穏無事な風景、確かに水辺を歩く童が描かれているわけですが、何やら西洋画的な人物、それでいて必ずしも消化しきれていない表現。それがエキゾチックな雰囲気を醸し出す。背景も奇異です。水面は鱗のように広がり、木はうねって妖気を放つようでもある。やはり強い印象を与えられます。
涼をとるのにもぴったりな作品です。古市金峨の「瀑布図」。文字通り滝の絵に他なりませんが、ともかく画面の殆どが上から下へ落ちる滝の水である。ほぼ全部滝。ようは背後の岩肌がごく一部しか描かれていないのです。
琳派に参りましょう。鈴木守一の「秋草図」です。其一の長男でもある絵師、どちらかと言うと抱一を志向するような秋草の配置、うねる水流に其一のセンスを見る気もしますが、ここで面白いのは表具です。たくさんの印章が押されている。いずれも守一と其一の印章だとか。そしてその上下の草花の模様。絵です。つまり描表装というわけでした。
田中訥言「若竹鶺鴒図屏風」 名古屋市博物館 *前期展示
一つの銀屏風に惹かれました。田中訥言の「若竹鶺鴒図屏風」です。一面の銀地には二本の細い若竹がすくっと伸びる。鶺鴒は番いでしょうか。一羽は竹の上に、もう一羽はその対角線上の画面下方にとまっている。シンプルながらも無駄のない構図感。これは魅せます。
さて19世紀はいわゆる開国の時代。西洋絵画の技法が取り入れただけでなく、開国自体も題材となる。例えば春木南溟の「虫合戦図」です。蟷螂や蝉が音頭をとっていざ戦んとする様子。海からやって来るのは同じく虫の帆船。ようは黒船でしょうか。彼の時代風刺したとも考えられているそうです。
「新訂万国全図」もこの時代の世界地図。幕府の命を受けて作成されたものです。イギリスの地図を参照しつつも、例えば間宮林蔵の最新の樺太探検の成果をもりこんだ。航路も記されています。
一方で改めて日本を見つめ直す運動もある。復古大和絵です。冷泉為恭は春日大社の神宝を描く。「春日神宝兜図」です。これがまた驚くほどに精緻。兜の金の装飾はもちろんのこと、さらに細かいのは紐でしょうか。その中の縫い目まで描かれています。肉眼ではあまり分かりません。
その他にはわざわざ油絵風に見せるために購入者が後々画面にニスを塗ったという「向島八百松楼之景」という珍品も。それに広重の遠近法への展開を見る作品や、オランダ風の油絵をなぞった国貞の「紅毛油画風 永代橋」なども展示されています。
歌川国貞「月の陰 忍逢ふ夜 提灯」 北九州市美術館 *後期展示
なおこうした19世紀の絵画上における視覚的な認識云々については、ちょうどサントリー美術館で開催中(~5/11)の「のぞいてびっくり江戸絵画」と重なる部分もありました。あわせて見るのも面白いかもしれません。
「のぞいてびっくり江戸絵画」 サントリー美術館(はろるど)
さて展示替えの情報です。一部作品を除き、会期中作品が入れ替わります。
「江戸絵画の19世紀」展示予定表(PDF)
前期:3月21日(金・祝)~4月13日(日)
後期:4月15日(火)~5月6日(火)
なお今回は昨年の「かわいい江戸絵画」で行われた展示替え後の割引サービス(前期半券で後期半額)はありません。ご注意下さい。
山本梅逸「花卉草虫図」 名古屋市博物館 *後期展示
ちなみに来年も春は「江戸絵画まつり」。今度は「動物絵画の250年」が開催(2015/3/7~5/6)されるそうです。これはH19年の「動物絵画の100年」に続くもの。そういえば私が盧雪に強く惹かれる切っ掛けにもなった展覧会でした。続編にも期待したいと思います。
「かわいい江戸絵画/府中市美術館/求龍堂」
*昨年の「かわいい江戸絵画」の図録が一般書籍として発売中です。
前期は4月13日まで、展覧会は5月6日まで開催されています。
「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」 府中市美術館
会期:3月21日(金・祝)~5月6日(火)
*前期:3月21日(金・祝)~4月13日(日)、後期:4月15日(火)~5月6日(火)
休館:月曜(但し5/5を除く)。
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「府中っ子学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」
3/21~5/6 *前期:3/21~4/13、後期:4/15~5/6
府中市美術館で開催中の「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」を見て来ました。
毎年春の恒例、府中発の江戸絵画展シリーズ。「春の江戸絵画まつり」と題したのは昨年来でしょうか。これまでにも「三都画家比べ」や「江戸の人物画」、それに「動物絵画の100年展」などの展示を行ってきました。
亜欧堂田善「墨堤観桜図」 府中市美術館(寄託) *全期間展示
今年のテーマは19世紀、江戸時代最後の世紀です。1868年の明治維新に至るまでの約70年間、江戸にはどんな絵師が存在し、またどのような活動をしていたのか。それをいくつかのポイントから追いかけていました。
第1章 19世紀の造形感覚
第2章 心のかたちを極める
第3章 19世紀の人の「世界」
第4章 西洋の画法をどう使うか
とは言え、会場では何もそう深く学究的に突っ込んでいるわけではありません。あくまでも基本は親しみやすい展開。気軽に江戸絵画を楽しめます。
さて冒頭、目を見張るほどに細密な作品が。守住貫魚の「袋田滝図」です。文字通り今も名所の袋田の滝を描いた一枚。ともかくは滝の白い水の筋と岩肌、そして青々とした葉をつけた木々の様子。いずれも細かな線描で描かれている。光に水が溶けて輝く様子までも表されています。
京都で桜を得意とした画家「三熊派」の一人、織田瑟々(しつしつ)はどうでしょうか。「江戸法来寺桜図」です。縦長の一幅でのびた桜の枝。写実と言えばそうかもしれませんが、よく見ると葉の先は妙に丸まっている上に、花びら自体もぐっと水平に開いている。生々しいものがあります。
大久保一丘の「伝大久保一岳像」はいわゆる西洋風の人物画です。一説では画家の息子をモデルとしたと言われる作品。大きな瞳を見開いた少年の姿。肉付きの良い顔面。真に迫ります。
それにしてもここまで挙げた三名の画家、どれほど名前を知られているでしょうか。実のところ本展、主役はこうした知られざる画家たちです。もちろん国芳に北斎に広重も登場しますが、どちらかと言えば見知らぬ画家の思わぬ佳品、時には珍品を探す。そうした趣きがありました。
安田雷洲「捕鯨図」(部分) 歸空庵コレクション *前期展示
先に進みましょう。私の少し追いかけている安田雷洲。主に安政期に活動、さながら劇画調ともとれる作風が興味深い画家です。前期中は4点。まずは「丁未地震」です。1847年の善光寺地震に取材したという小品、寺の門前の建物も崩れ、多くの人が逃げ惑う様。何とも迫力がありますが、背景の山は裂け、さらには炎らしきものも噴き出す。何でも実景とは異なる姿までを描き入れているとか。もはやスペクタクルです。またその緻密な表現は、どこか現代の池田学の作品を連想させる面もあります。
「水辺村童図」も忘れられません。タイトルからして実に平穏無事な風景、確かに水辺を歩く童が描かれているわけですが、何やら西洋画的な人物、それでいて必ずしも消化しきれていない表現。それがエキゾチックな雰囲気を醸し出す。背景も奇異です。水面は鱗のように広がり、木はうねって妖気を放つようでもある。やはり強い印象を与えられます。
涼をとるのにもぴったりな作品です。古市金峨の「瀑布図」。文字通り滝の絵に他なりませんが、ともかく画面の殆どが上から下へ落ちる滝の水である。ほぼ全部滝。ようは背後の岩肌がごく一部しか描かれていないのです。
琳派に参りましょう。鈴木守一の「秋草図」です。其一の長男でもある絵師、どちらかと言うと抱一を志向するような秋草の配置、うねる水流に其一のセンスを見る気もしますが、ここで面白いのは表具です。たくさんの印章が押されている。いずれも守一と其一の印章だとか。そしてその上下の草花の模様。絵です。つまり描表装というわけでした。
田中訥言「若竹鶺鴒図屏風」 名古屋市博物館 *前期展示
一つの銀屏風に惹かれました。田中訥言の「若竹鶺鴒図屏風」です。一面の銀地には二本の細い若竹がすくっと伸びる。鶺鴒は番いでしょうか。一羽は竹の上に、もう一羽はその対角線上の画面下方にとまっている。シンプルながらも無駄のない構図感。これは魅せます。
さて19世紀はいわゆる開国の時代。西洋絵画の技法が取り入れただけでなく、開国自体も題材となる。例えば春木南溟の「虫合戦図」です。蟷螂や蝉が音頭をとっていざ戦んとする様子。海からやって来るのは同じく虫の帆船。ようは黒船でしょうか。彼の時代風刺したとも考えられているそうです。
「新訂万国全図」もこの時代の世界地図。幕府の命を受けて作成されたものです。イギリスの地図を参照しつつも、例えば間宮林蔵の最新の樺太探検の成果をもりこんだ。航路も記されています。
一方で改めて日本を見つめ直す運動もある。復古大和絵です。冷泉為恭は春日大社の神宝を描く。「春日神宝兜図」です。これがまた驚くほどに精緻。兜の金の装飾はもちろんのこと、さらに細かいのは紐でしょうか。その中の縫い目まで描かれています。肉眼ではあまり分かりません。
その他にはわざわざ油絵風に見せるために購入者が後々画面にニスを塗ったという「向島八百松楼之景」という珍品も。それに広重の遠近法への展開を見る作品や、オランダ風の油絵をなぞった国貞の「紅毛油画風 永代橋」なども展示されています。
歌川国貞「月の陰 忍逢ふ夜 提灯」 北九州市美術館 *後期展示
なおこうした19世紀の絵画上における視覚的な認識云々については、ちょうどサントリー美術館で開催中(~5/11)の「のぞいてびっくり江戸絵画」と重なる部分もありました。あわせて見るのも面白いかもしれません。
「のぞいてびっくり江戸絵画」 サントリー美術館(はろるど)
さて展示替えの情報です。一部作品を除き、会期中作品が入れ替わります。
「江戸絵画の19世紀」展示予定表(PDF)
前期:3月21日(金・祝)~4月13日(日)
後期:4月15日(火)~5月6日(火)
なお今回は昨年の「かわいい江戸絵画」で行われた展示替え後の割引サービス(前期半券で後期半額)はありません。ご注意下さい。
山本梅逸「花卉草虫図」 名古屋市博物館 *後期展示
ちなみに来年も春は「江戸絵画まつり」。今度は「動物絵画の250年」が開催(2015/3/7~5/6)されるそうです。これはH19年の「動物絵画の100年」に続くもの。そういえば私が盧雪に強く惹かれる切っ掛けにもなった展覧会でした。続編にも期待したいと思います。
「かわいい江戸絵画/府中市美術館/求龍堂」
*昨年の「かわいい江戸絵画」の図録が一般書籍として発売中です。
前期は4月13日まで、展覧会は5月6日まで開催されています。
「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」 府中市美術館
会期:3月21日(金・祝)~5月6日(火)
*前期:3月21日(金・祝)~4月13日(日)、後期:4月15日(火)~5月6日(火)
休館:月曜(但し5/5を除く)。
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「府中っ子学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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