都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』 シャネル・ネクサス・ホール
『Master of Elegant Simplicity ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』
2024/2/7~3/31
1900年にサンクトペテルブルクに生まれ、10代の頃にロンドンからパリへと移住した写真家のジョージ ホイニンゲン=ヒューンは、『ヴォーグ』誌などにてファッション写真を手がけると、戦後にはハリウッドへ移り、映画業界でも活躍しました。
そのジョージ ホイニンゲン=ヒューンの作品を紹介するのが『Master of Elegant Simplicity』と題した展示で、ファッションやポートレートの代表作をはじめ、旅先で写した写真など約65点の作品が並んでいました。
ホイニンゲン=ヒューンは、1920年代から40年代にかけての上流社会、ファッション、スターのポートレート、さらに芸術家らを撮影していて、映画セットのデザインや照明に関する知識などを活かし、シュルレアリスムや新古典主義などに着想を得たイメージを作り上げました。
またスタジオ撮影におけるモデルの構図を綿密に練っていたことでも知られ、照明を複雑に配して背景に影を作るだけでなく、小道具として彫刻などを使うこともありました。
さらにモデルを上から撮影するという、ファッション写真としては前衛的な手法を取り入れて、形式にとらわれない自由な発想による写真でも評価されました。
ホイニンゲン=ヒューンは長くスタジオで仕事したのち、アフリカ、ギリシャ、メキシコなどのさまざまな地域を長期にわたって旅行し、各地の風景や出会って人々を写していて、計5冊の写真集も制作しました。
国内では初の大規模な回顧展だけあり、質量ともに充実した展示といえるかもしれません。そのシンプルながらもエレガントとも呼べる写真に魅せられました。
会場内の撮影も可能です。*掲載写真はすべて『ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』展示作品
3月31日まで開催されています。
『Master of Elegant Simplicity ジョージ ホイニンゲン=ヒューン写真展』 シャネル・ネクサス・ホール
会期:2024年2月7日(水)~3月31日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:11:00~19:00。
*最終入場は18:30まで。
住所:中央区銀座3-5-3シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。
『PARAVENTI:KEIICHITANAAMI -パラヴェンティ:田名網 敬一』 プラダ 青山店
『PARAVENTI:KEIICHITANAAMI -パラヴェンティ:田名網 敬一』
2023/11/3〜2024/1/29
田名網敬一『赤い陰影』 2021年
1936年に生まれたアーティスト、田名網敬一は、現在のスーパフラットムーブメントの創始者として知られ、絵画、コラージュ、グラフィックイラストレーション、また映画や彫刻などのさまざまな領域を横断しながら創作を続けてきました。
その田名網のプラダ 青山店での個展が『パラヴェンティ』で、パラヴェンティ、すなわち屏風をモチーフとした絵画、およびデジタルアニメーションなどを公開していました。
田名網敬一『赤い陰影』 2021年
まず目を引くのが『赤い陰影』と題したデジタルアニメーションで、80のシーンで構成される作品よりセレクトされた映像が全部で16面、まさに屏風のように折れ曲がって映し出されていました。
田名網敬一『記憶は嘘をつく』(部分) 2023年
そこには魑魅魍魎な生き物やさまざまな植物、さらに寺社を思わせる建築やUFOのような乗り物が目まぐるしく動き続けていて、極彩色とも呼べる鮮やかな色彩によって万華鏡のように展開していました。
田名網敬一『光の旅路』 2023年
またキャンバスを用いた屏風のコラージュの『記憶は嘘をつく』や、本のかたちをしたスクリーンにプロジェクションマッピングを投影した『光の旅路』といった新作も展示されていて、田名網が屏風という形式に向き合い、新たに生み出した創作世界を見ることができました。
田名網敬一『人間編成の夢(ブロンズ)』 2020年
このほかでは室町時代後期の画家、式部輝忠による『梅竹叭々鳥図屏風』も目を引くかもしれません。岩を白抜きに描き、梅の枝によって空間の広がりを簡素に表した屏風と、おびただしい数のモチーフを複雑なテクスチャーにて配した田名網との作品とのコントラストを楽しむことができました。
田名網敬一が「屏風」をテーマとした新作を公開。プラダ 青山店にて個展が開催中▶︎ https://t.co/beXFLiu510ポップアートとサイケデリアと結びつけられるその作品は、日本文化の引用や18〜19世紀の絵画、近年の漫画やアニメなども取り入られている。 pic.twitter.com/gt5xiEdlLs
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 17, 2023
田名網敬一が「屏風」をテーマとした新作を公開。プラダ 青山店にて個展が開催中!|Pen Online
2024年1月29日まで開催されています。
『PARAVENTI:KEIICHITANAAMI -パラヴェンティ:田名網 敬一』 プラダ 青山店5階(@prada_japan)
会期:2023年11月3日(金)〜2024年1月29日(月)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-2-6
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩3分。
『からくりの森 2023 「機械式腕時計とAnimacy (生命感) の正体」 Seiko Seed
『からくりの森 2023 「機械式腕時計とAnimacy (生命感) の正体」
2023/10/13~12/24
東京・神宮前のSeiko Seed(セイコー シード)にて、『からくりの森 2023 「機械式腕時計とAnimacy (生命感) の正体」が開かれています。
これはセイコーウオッチ株式会社が、時計の新たな可能性を希求し、腕時計の楽しさを体験できる場として昨年に引き続いて開いているもので、今回は「機械式腕時計とAnimacy(生命感)の正体」と題し、セイコーウオッチデザイン部のほか、3組のクリエイターが時計からインスピレーションを受けた作品を公開していました。
まず目を引くのはnomena(ノメナ)による『連鎖するリズムのコラージュ A Collage of Chained Rhythm』で、時代の異なるさまざまな時計の機構をいくつも組み合わせ、ムーブメントの力によって全体が連動していくような仕組みを作り上げていました。
セイコーウオッチ デザイン部の『時のかけら』とは、大小2種類のムーブメントには、1グラムほどの小さな葉っぱや鳥の羽がムーブメントと細いワイヤーでつながった作品で、時計の動きによって回転しながら、背後の壁に美しいシルエットを描いていました。
このほか水を使って時間を掴む装置を築いたsiroの『時のかけら』や、石の彫刻にムーブメントを埋め込み、時間の普遍性の可視化を試みたTANGENTの『時の鼓動』も面白い作品といえるかもしれません。
いずれの作品も本来的に無機物である時計が、あたかも有機物であるようなすがたを見せていて、新たな意味や価値を時計に与えた各クリエイターの創造力にも心惹かれました。
機械式腕時計に見出す生命の神秘、『からくりの森 2023』が東京・神宮前の「Seiko Seed」で開催中!機械式腕時計のムーブメントは、その“からくり”によって時を刻みづける、時計の原点とも呼べる駆動機構だ。機能や技術を超えた魅力を堪能したい。▶︎ https://t.co/7xBJmC5h3d pic.twitter.com/mfyoMk0bwN
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 3, 2023
機械式腕時計に見出す生命の神秘、東京・神宮前の「Seiko Seed」にて『からくりの森 2023』が開催中!|Pen Online
会期中は無休です。12月24日まで開催されています。
『からくりの森 2023 「機械式腕時計とAnimacy (生命感) の正体」』 Seiko Seed(セイコー シード)
会期:2023年10月13日(金)~12月24日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:11:00~20:00。
住所:渋谷区神宮前1-14-30 WITH HARAJUKU 1F
交通:JR線原宿駅東口より徒歩1分。東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前<原宿>駅2番出口より 徒歩1分。
『ヴェルサイユ宮殿 森田恭通 写真展』 シャネル・ネクサス・ホール
『ヴェルサイユ宮殿 森田恭通 写真展』
2023/9/27~11/5
1967年に生まれたインテリアデザイナーの森田恭通は、グラフィックやプロダクトでも創作を行うと、アーティストして活動を続け、2015年からは写真展をパリにて継続して開いてきました。
その森田がヴェルサイユ宮殿を撮った写真を紹介するのが『ヴェルサイユ宮殿 森田恭通 写真展』で、会場にはモノクロームによって収められた約100点の作品が並んでいました。
まず目を引くのが森田がヴェルサイユの細部の意匠を切り取って捉えたような写真で、いずれも建物や建具の一部でありながらも、どこか有機的なすがたを見せていました。
また王室礼拝堂やオペラ劇場なども被写体となっていて、鏡の回廊では夏の西日という光が回廊へ輝かしく差し込む光景を目の当たりにできました。
森田はヴェルサイユを数年に渡りたびたび訪ねては、四季によって異なるニュアンスをもつ光にこだわりながら建築を捉えていて、とりわけ美しい陰が建築の意匠を際立たせているようにも思えました。
かつてこの宮殿に集い、生きていた人々のすがたを頭の中で想像しながら鑑賞するのも楽しいかもしれません。一連の写真からはヴェルサイユにおける長い歴史の重みも伝わってきました。
間もなく会期末です。11月5日まで開催されています。
『ヴェルサイユ宮殿 森田恭通 写真展』 シャネル・ネクサス・ホール
会期:2023年9月27日(水)~11月5日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:11:00~19:00。
*最終入場は18:30まで。
住所:中央区銀座3-5-3シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。
『ケリス・ウィン・エヴァンス 「L>espace)(…」』 エスパス ルイ・ヴィトン東京
『ケリス・ウィン・エヴァンス 「L>espace)(…」』
2023/7/20〜2024/1/8
イギリスを拠点に活動するアーティスト、ケリス・ウィン・エヴァンスの個展が、エスパス ルイ・ヴィトン東京にて開かれています。
それが『ケリス・ウィン・エヴァンス 「L>espace)(…」』で、会場にはシャンデリアやネオン管、またフルートを用いたインスタレーションなどが公開されていました。
まずシャンデリアの形をした『“LETTRE À HERMANN SCHERCHEN” FROM ‘GRAVESANER BLÄTTER 6’ FROM IANNIS XENAKIS TO HERMANN SCHERCHEN (1956) 』とは、コンピュータ画面上のテキストがモールス信号に変換され、明かり点滅を繰り返している作品で、作家家のヤニス・クセナキスが指揮者のヘルマン・シュルヘンに宛てた手紙をテキストに使用していました。
このシャンデリアと同じように宙につられているのが、20本のガラス製のフルートによって作られた『A=F=L=O=A=T』と題する作品でした。ここでは長く透明のチューブによってパイプオルガンで使われる送風機がフルートにつながっていて、作家の手がけた曲からそれぞれ一音を奏でていました。
その音は一定ではなく、突如に鳴り響いたと思うと、幾重にも重なるように空間を満たしていて、時にオーボエやクラリネットを思わせるようなやや低い響きを聞くこともできました。
一本の松の木を配した『STILL LIFE (IN COURSE OF ARRANGEMENT...) II 』も独特の佇まいを見せていたかもしれません。一見静止しているように思えながら、実は下部のターンテーブルによって極めてゆっくりと回っていて、フルートの響きを物静かに受け止めていました。
東京の街を借景にしたガラス張りの空間であるゆえに、昼と夜、また天候でも表情を変えて見せるかもしれません。ちょうど日没時に観覧しましたが、光の移ろいで際立つネオンの輝きにも目を見張りました。
【開催中】エスパス ルイ・ヴィトン東京にて、ケリス・ウィン・エヴァンスの個展が開催時間や天候によって変化する展示室の表情、空間に広がる光と言葉の響きが織りなす、詩的で幽玄な作品世界を堪能しよう。▼詳細をチェックhttps://t.co/gjmbbjotQs pic.twitter.com/kROodXVkCT
— Pen Magazine (@Pen_magazine) August 14, 2023
会場内の撮影も可能でした。
エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中、光と言葉が響く、ケリス・ウィン・エヴァンスの詩的な世界|Pen Online
2024年1月8日まで開催されています。
注)タイトルはイタリックで、espace部分にのみ取り消し線が入ります。
『ケリス・ウィン・エヴァンス 「L>espace)(…」』 エスパス ルイ・ヴィトン東京
会期:2023年7月20日(木)〜2024年1月8日(月)
休廊:不定休
時間:12:00~20:00
料金:無料
住所:渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩約3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩約10分。
『近藤聡乃展「ニューヨークで考え中」』 ミヅマアートギャラリー
『近藤聡乃展「ニューヨークで考え中」』
2023/7/5〜8/12
ミヅマアートギャラリーにて近藤聡乃個展、『ニューヨークで考え中』が開かれています。
これは近藤が2012年より連載中のコミックエッセイ「ニューヨークで考え中」の第4巻の発売に際し、4巻収録のマンガ原稿を展示するもので、あわせてそれぞれのエピソードから派生したシーンを描いたドローイングも公開されていました。
「ニューヨークで考え中」の第4巻にて描かれているのは、いわゆるコロナ禍での同地での日常で、アパートでの水漏れ事故の顛末からワクチンの接種、さらに新婚旅行に出かけたことや猫を飼い始めたことなどが軽妙なタッチにて綴られていました。
またアメリカ大統領選挙や同時多発テロから20年の節目を迎えたことや、ロシアのウクライナ侵攻に関することなど、社会的、あるいは時事的な出来事にも触れていて、近藤の心の中を垣間見るかのようでした。
さらに連載開始にあたり、「Nラインと総武線」というタイトルが候補にあがったというエピソードも興味深いかもしれません。ニューヨークのアストリアを通るNラインと、実家の最寄り駅の電車である総武線がつながっていると語る近藤のすがたが印象に残りました。
このほか、構想中の新作アニメーション『呼ばれたことのない名前』のイメージスケッチも魅惑的だったかもしれません。マンガのモノクロームとは異なり、淡い色彩のよって展開するファンタスティックな光景に目を奪われました。
「ニューヨークで考え中」の原画が展示!ミヅマアートギャラリーで開催中の近藤聡乃展 今年の『DOMANI・明日展』(国立新美術館)にて同展史上初めて2度の参加を果たし、今後のさらなる活躍が期待される近藤の最新の創作にどっぷりと浸かりたい。https://t.co/PQLgXu4HSQ pic.twitter.com/6KCq7mMJbT
— Pen Magazine (@Pen_magazine) July 24, 2023
「ニューヨークで考え中」の原画が展示!ミヅマアートギャラリーで開催中の近藤聡乃展|Pen Online
8月12日まで開催されています。
『近藤聡乃展「ニューヨークで考え中」』 ミヅマアートギャラリー(@MizumaGallery)
会期:2023年7月5日(水) 〜8月12日(土)
休廊:日・月・祝
時間:12:00~18:00
料金:無料
住所:新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2階
交通:東京メトロ有楽町線・南北線市ヶ谷駅出口5より徒歩5分。JR線飯田橋駅西口より徒歩8分。
『宇治野宗輝個展 ロスト・フロンティア』 ANOMALY
『宇治野宗輝個展 ロスト・フロンティア』
2023/7/7〜8/5
1964年に生まれ、サウンド・スカルプチュアやパフォーマンスを手がける宇治野宗輝の個展が、東京・東品川のANOMALYにて開かれています。
それが『ロスト・フロンティア』と題した展示で、新作の映像、およびサウンド・スカルプチュアと映像の複合作品、または日本起源でない巻き寿司シリーズをモチーフとしたペインティングなどが展示されていました。
このうちの『Lost Frontier』と『Homy & The Rotators』とは、今年100歳を迎えた宇治野の母の過去から着想を得て制作された映像、もしくはサウンド・スカルプチュアを組み合わせた作品で、旧満洲にて生まれ育った母が当時の移民としての暮らしをサウンド・スカルプチュアによる響きを背景に語っていました。
女学校時代の思い出にはじまり、当時の生活を話す母は、澱みない口調で過去の記憶を呼び覚ましていて、いわば個人的な体験を赤裸々に明かしていました。
宇治野といえば、2017年の「ヨコハマトリエンナーレ 2017 島と星座とガラパゴス」(横浜赤レンガ倉庫1号館)での大がかりなインスタレーション、『プライウッド新地』を思い出しますが、今回は母という身近な存在の記憶を作品に取り込むことで、よりメッセージ性を帯びた重層的な内容となっていたかもしれません。
サウンド・スカルプチュアのビートに乗りながら、母が故郷の満洲で最も好きな食事だったいう餃子の思い出を語る光景も印象に深いのではないでしょうか。サウンド・スカルプチュアをバンドに見立てれば、あたかも母がボーカルを務めているかのようでした。
【新着】母の戦時下での体験から浮かび上がるメッセージとは?宇治野宗輝の個展がANOMALYにて開催中 https://t.co/8tJGTATxf6
— Pen Magazine (@Pen_magazine) July 18, 2023
一部内容が重なりますが、展示の見どころについてPenオンラインに寄稿しました。
母の戦時下での体験から浮かび上がるメッセージとは?宇治野宗輝の個展がANOMALYにて開催中|Pen Online
8月5日まで開かれています。
『宇治野宗輝個展 ロスト・フロンティア』 ANOMALY
会期:2023年7月7日(金)〜8月5日(土)
休廊:日、月、祝祭日。
時間:12:00~18:00。
料金:無料
住所:品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩約8分。東京モノレール羽田空港線天王洲アイル駅中央口より徒歩約11分。京浜急行線新馬場駅より徒歩12分。
『Ando Gallery』 兵庫県立美術館
『Ando Gallery』
2019/5〜
建築家、安藤忠雄の手がけた兵庫県立美術館には、安藤本人からの寄贈、および展示物の寄託によって安藤建築を紹介する『Ando Gallery』が設けられています。
まず展示されているのは、安藤が阪神・淡路大震災からの復興のために行った活動や記録、およびプロジェクトで、自らのメモや兵庫県立美術館に関する模型や資料も展示されていました。
さらに安藤は六甲の集合住宅や小篠邸など、兵庫県内に数多くの建築物を手がけていて、そうした仕事も模型などを通して知ることができました。
このほか、安藤の原点でもある住吉の長屋をはじめ、代表的な作品のひとつともいえる光の教会の1/10のコンクリート模型も興味深いかもしれません。それに地中美術館をはじめとする直島での一連のプロジェクトや、2020年7月にオープンした『こども本の森 中之島』に関する展示も見入るものがありました。
また数多くの書籍が壁一面に並ぶ安藤の仕事場を紹介する展示も目を引きました。
屋外の海のデッキでは、アメリカの詩人・サムエル・ウルマンの詩「青春」をモチーフに、安藤がデザインした巨大なオブジェ『青りんご』も公開されていました。
ハーバーウォークに面した円形広場から大階段など、ランドスケープを築くような安藤の美術館建築と合わせて楽しむのも良いかもしれません。
『Ando Gallery』は無料にて観覧することができます。*休館日は美術館休館日と同じ。
『Ando Gallery』 兵庫県立美術館(@hyogoartm)
会期:2019年5月オープン
休館:県立美術館休館日に同じ
時間:10:00~18:00
*入場は閉館の30分前まで。
料金:無料。
住所:神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1(HAT神戸内)
交通:阪神電車岩屋駅(兵庫県立美術館前)から南へ徒歩約8分。JR線灘駅南口より徒歩約10分。
『田原桂一展「存在」』 √K Contemporary
『田原桂一展「存在」』
2023/6/17〜7/15
田原桂一『Rome-5』 1979年撮影
東京・神楽坂の√K Contemporary(ルートK コンテンポラリー)にて、写真家の田原桂一の個展「存在」が開かれています。
今回の展示で公開されたのは、田原が20代後半の頃、1978年から1980年にかけて撮影した「Photosynthesis」と呼ばれるシリーズで、いずれも当時33歳でパリでデビューを果たしたばかりのダンサー、田中泯を被写体としたものでした。
田原桂一『Bordeaux-11』 1980年撮影
そのうちの『Bordeaux-11』とは、かつてナチス・ドイツがフランスのボルドーに築いた要塞を舞台とした作品で、誰もいない廃墟の中、田中が忽然とすがたを現して立つような光景を写し出していました。
田原桂一『Island-22』 1980年撮影
一方で『Island-22』では、田中が両手を地面に突きながら、腰を屈めて走り出すような仕草をとらえていて、頭を突き出した肉体そのものの迫力と動的でかつ躍動感のある画面を築き上げていました。
田原桂一『Bordeaux-6』 1980年撮影
一連の「Photosynthesis」は3年間かけて撮影された後、実に35年間未発表だったもので、今回は2017年に原美術館の展示にて発表されて以来、久しぶりに公開されました。
「Portrait」シリーズ 作品展示風景
この「Photosynthesis」に続くのが、クリスチャン・ボルタンスキーやヨーゼフ・ボイスといった世界的なアーティストを被写体とした「Portrait」シリーズで、ちょうど暗がりの空間に吊るされるようにして作品が展示されていました。
「Photosynthesis」シリーズ 作品展示風景
白く明るい1階から2階に並ぶ「Photosynthesis」シリーズと、一転しての暗がりに浮かび上がる「Portrait」シリーズのコントラストも魅力といえるかもしれません。
なお現在、√K Contemporaryでは三上晴子による『Eye-Tracking Informatics』を特別に展示中です。
三上晴子「Eye-Tracking Informatics」特別展示
https://root-k.jp/exhibitions/seiko-mikami_eye-tracking-informatics/
1回数分ほど体験できるインタラクティブな作品です。公開日程、および予約方法については同ギャラリーのWEBサイトをご確認ください。
【新着】田原桂一の写真がとらえた、人間の存在の輝き。ダンサー、田中泯と取り組んだ表現とは? https://t.co/FFQ9hcHPTU
— Pen Magazine (@Pen_magazine) June 29, 2023
田原桂一の写真がとらえた、人間の存在の輝き。ダンサー、田中泯と取り組んだ表現とは?|Pen Online
7月15日まで開催されています。
『田原桂一展「存在」』 √K Contemporary(ルートK コンテンポラリー)(@rk_contemporary)
会期:2023年6月17日(土) 〜7月15日(土)
休館:日・月曜日。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:新宿区南町6
交通:都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅A2出口より徒歩5分。東京メトロ東西線神楽坂駅神楽坂口より徒歩12分。
『DARA BIRNBAUM ダラ・バーンバウム』 プラダ 青山店
『DARA BIRNBAUM ダラ・バーンバウム』
2023/6/1〜8/28
アメリカのメディアアーティスト、ダラ・バーンバウムの個展が、東京・南青山のプラダ 青山店5階にて開かれています。
今回の展覧会のキュレーションを主に担ったのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)でキュレーターを務めたバーバラ・ロンドンで、バーンバウムが1979年から2011年の間に完成させた4つの作品が展示されていました。
『Arabesque』(2011年)
そのうち最も大掛かりなのが、4つの媒体を用いた『Arabesque』(2011年)と題したビデオインスタレーションでした。
『Arabesque』(2011年)
ここではロマン派の作曲家夫婦であるクララ・シューマンとロベルト・シューマンのキャリアに着目していて、夫婦の人生を描いた伝記映画『愛の調べ』(1947年)から切り取った映像を取り入れつつ、YouTubeに投稿されている女性奏者の映像を映し出していました。
『Bruckner: Symphony No. 5 in B-Dur』(1995年)
『Bruckner: Symphony No. 5 in B-Dur』(1995年)も、音楽に着想を得たサウンドインスタレーションで、アントン・ブルックナーの「交響曲第5番」のふたつの演奏を重ね合わることで、異なった指揮者が同じ曲をどう解釈するかということについて洞察を示していました。
『Bruckner: Symphony No. 5 in B-Dur』(1995年)
テレビ番組をはじめとする他者の撮影した映像を素材としながら、目的を変えて作品化させるバーンバウムは、1970年代半ばの黎明期よりビデオアートに参入すると、以来、約50年に渡ってビデオ、メディア、およびインスタレーション作品を手がけてきました。
『Kiss the Girls: Make Them Cry』(1979年)
このほか、アメリカのテレビで人気のゲーム番組から選んだ映像を編集した『Kiss the Girls: Make Them Cry』(1979年)もバーンバウムならではの実験的なインスタレーションと呼べるかもしれません。
一室での小規模な内容でありながら、メディアアートの基礎を築いたともいわれるバーンバウムの新旧の制作を追いかけることができました。
【新着】メディアアートのパイオニアが贈る映像の饗宴。プラダ 青山店にて『ダラ・バーンバウム』展が開催中! https://t.co/r3uKJlbQBv
— Pen Magazine (@Pen_magazine) June 13, 2023
メディアアートのパイオニアが贈る映像の饗宴。プラダ 青山店にて『ダラ・バーンバウム』展が開催中!|Pen Online
会期中は無休です。8月28日まで開催されています。
『DARA BIRNBAUM ダラ・バーンバウム』 プラダ 青山店5階(@prada_japan)
会期:2023年6月1日(木)〜8月28日(月)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-2-6
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩3分。
『横尾忠則 銀座番外地』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー
『横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes』
2023/5/15~6/30
ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて『横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes』が開かれています。
今回の展覧会で焦点を当てたのは作品完成以前の「デザイン表現のプロセス」で、会場にはラフスケッチ、アイデアノート、デッサン、また表現エレメントとしてのドローイングに原画、さらに版画やポスターを仕上げるための版下、色指定紙などが所狭しと並んでいました。
これらはいずれも横尾が今年、日本芸術院に選出された評価理由である「文学、演劇、音楽、映画、ファッション等、様々な分野に活動の場を拡げた43年前のデザイン」に由来していて、いわゆる完成品のポスターや書籍の展示はありませんでした。
一連の資料や作品は横尾忠則現代美術館のもとで約80箱に収納、整理されていたもので、収納状況を記録した約18000点の写真をチェックした上にて、約2500枚に出力されたコピーから250点の出展品が選ばれました。
一点一点にはキャプションもなく、展示室には作品や資料がひたすら並んでいて、横尾のインスピレーションの源泉に満ちた一種のカオスとも呼べる状況が築かれていました。
まるで宇宙を連想させるような暗がりの地下展示室の雰囲気も独特だったかもしれません。横尾の表現の原点や原郷ともいうべき作品や資料がまるできらめく星のように散りばめられていました。
横尾忠則の創造の源流に触れる旅へ。ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の『横尾忠則 銀座番外地』展 横尾は今年の2月、日本芸術院で新設された「建築・デザイン」の分野の新会員としてに選ばれると、「これからが本番です。」と語って注目を浴びた。 https://t.co/4MHFZS9QKt
— Pen Magazine (@Pen_magazine) June 3, 2023
横尾忠則の創造の源流に触れる旅へ。ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の『横尾忠則 銀座番外地』展|Pen Online
撮影が可能です。6月30日まで開催されています。
『横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(@ggg_gallery)
会期:2023年5月15日(月)~6月30日(金)
休廊:日曜・祝日。
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
『西島雄志 瑞祥 zui-shou ― 時の連なり ―』 ポーラ ミュージアム アネックス
『西島雄志 瑞祥 zui-shou ― 時の連なり ―』
2023/4/28〜6/4
1969年に生まれた作家、西島雄志は、ねじ巻いた銅線をロウ付けして造形した立体作品を手がけ、国内の芸術祭や展覧会に参加するなどして活動してきました。
その西島の個展が『西島雄志 瑞祥 zui-shou ― 時の連なり ―』で、会場を4つの空間に分け、新作のインスタレーションを含む4点の作品を展示していました。
一羽の八咫烏を象った作品に導かれ、暗がりのスペースへと進むとすがたを見せるのが『神使 shin-shi - 空』と題したインスタレーションで、八咫烏の群れが羽を広げて宙を舞う光景を作り出していました。
さらに進むとタイトルの『瑞祥 zui-shou』が展示されていて、鳳凰と龍と思しき生き物が断片的にでかつ円を描くようにして飛ぶ様子を見ることができました。
そして最後のスペースでは、ニホンオオカミを神格化させたという『真神 makami』が光を浴びながら立つすがたを見せていて、堂々としながらも神秘的な佇まいにしばし見惚れました。
いずれの作品とも自らの手で銅線のパーツを巻いてひとつひとつつなげて作っていて、会場内にて公開された制作中の記録映像からも、その精緻な職人技というべき膨大な手仕事を知ることができました。
【開催中】彫刻家・西島雄志の初となる大型個展を開催中。鳳凰と龍をモチーフにした大作を初公開。静寂のなか煌めく、迫力ある空間をぜひご体感ください。西島雄志「瑞祥 zui-shou ― 時の連なり ―」4月28日(金)-6月4日(日)会期中無休・入場無料11:00 - 19:00 pic.twitter.com/4LwKijcCB4
— ポーラ ミュージアム アネックス (@POLA_ANNEX) May 12, 2023
撮影も可能です。6月4日まで開催されています。
『西島雄志 瑞祥 zui-shou ― 時の連なり ―』 ポーラ ミュージアム アネックス(@POLA_ANNEX)
会期:2023年4月28日(金)〜6月4日(日)
休館:会期中無休。
料金:無料
時間:11:00~19:00 *入場は18:30まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
『空山基 Space Traveler』 NANZUKA UNDERGROUND
『空山基 Space Traveler』
2023/4/27~5/28
1947年に生まれた空山基本は、女性の人体美をロボットに取り込んだ「セクシーロボット」のシリーズで人気を呼ぶと、人体と機械の美を追求しつつ、人間や動物、恐竜などのロボットを描き続けてきました。
その空山も3年ぶりとなる新作個展が『Space Traveler』で、等身大のロボット彫刻による大規模なインスタレーション、および近年取り組んでいる大型のキャンバス絵画や自身初のCGによる映像作品が展示されていました。
まず目を引くのが1階のスペースに並ぶロボット彫刻で、暗がりの鏡の設置された空間には、6体の『Untitled_Sexy Robot_Space traveler』が並んでいました。
いずれのロボットもケースに収められていて、膝を抱えて回転するような仕草を見せていたり、手足を伸ばし、空中へと飛び立とうとするようなすがたをしていました。
それこそ未知の宇宙船の中に迷い込んだかのような気持ちにさせられるかもしれません。メタリックで近未来的でありながらも、やはり肉感的に見えるのも空山の造形ならではのように思えました。
一方の2階では、日本では初めて公開された大型の絵画が並んでいて、ロボット彫刻や恐竜が宇宙や意味の中を行き交うような光景が描かれていました。
平日の昼時に出向きましたが、主に海外からと思われるお客さんで常に賑わっていました。さまざまなブランドとのコラボでも人気の空山の創作のいまを楽しめる、良い機会といえるかもしれません。
なお空山の展示はNANZUKA UNDERGROUND以外にも、NANZUKA 2G(渋谷パルコ2F)と3110NZ by LDH kitchen(中目黒)でも同時に行われています。詳しくはNANZUKAのWEBサイトにてご確認ください。
空山基の描いた、新たなスペースファンタジー。3年ぶりの個展が都内3会場にて開催!
— Pen Magazine (@Pen_magazine) May 10, 2023
人体と機械の美を追求しつつ、人物、動物、恐竜などのあらゆるロボットを描くとともに、女性のヌードを描き続け、国内はもとより海外でも大きな人気を集めている。https://t.co/4jDUHO07fC
空山基の描いた、新たなスペースファンタジー。3年ぶりの個展が都内3会場にて開催!|Pen Online
撮影も可能です。5月28日まで開催されています。
『空山基 Space Traveler』 NANZUKA UNDERGROUND(@NANZUKAUNG)
会期:2023年4月27日(木)~5月28日(日)
休館:月、火曜。
時間:11:00~19:00
料金:無料。
住所:渋谷区神宮前3-30-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩8分。JR山手線原宿駅竹下口より徒歩10分。
『山本基 時に宿る – Staying in Time–』 YUKIKOMIZUTANI
『山本基 時に宿る – Staying in Time–』
2023/4/1~5/6
東京・天王洲のYUKIKOMIZUTANIにて、塩を使った作品で知られるアーティスト、山本基の個展が開かれています。
それが『山本基 時に宿る – Staying in Time–』で、会場では塩をはじめ、アクリル絵具や岩絵具を使用した作品から、蝶をテーマにした新シリーズなどが展示されていました。
渦巻き模様をモチーフとした作品が並ぶ中、一際異彩を放っていたのが『さくらしべふる』と題したインスタレーションで、濃いピンクかえんじ色に彩られた床面へ無数の桜の花びらが塩を用いて描かれていました。
一面の塩による花びらは密度を変えながら円を描くように広がっていて、それこそ満開の桜が花を散らせたかのような光景が浮かび上がっていました。桜の花の美しさとともに、花の短命さゆえのはかなさをも感じさせていたかもしれません。
山本が塩を素材にしたのは、1994年に若くして病によって亡くなった家族への思いをきっかけとしていて、近年は「時」や「季節」を強く意識させるような作品を手がけてきました。
美しい海や空を連想させる青を背景に、白い絵の具が渦を巻くように展開する『時を纏う』なども魅惑的な作品だったかもしれません。
ダイナミックでかつ繊細さを持ち合わせた渦巻きを見ていると、生命の甦りや再生といった永遠の時間の流れを感じるかのようでした。
このほか、塩のスクリーンに投影するデジタルドローイングも見どころといえるのではないでしょうか。なお山本の個展が東京にて開かれるのは実に約8年振りのこととなります。
展示に先立ち塩を用いたインスタレーション作品の公開制作(3月30日、31日)が行われました。そして会期最終日の5月6日には作品を鑑賞者とともに壊し、その塩を海に還すという「海に還るプロジェクト」も実施されます。
山本は「海に還るプロジェクト」を2006年からはじめると、延べ数千人のプロジェクトへの参加者とともにし世界中の海へと塩を還してきました。
5月6日まで開催されています。
『山本基 時に宿る – Staying in Time–』 YUKIKOMIZUTANI
会期:2023年4月1日(土)~5月6日(土)
休廊:日、月曜日
時間:12:00~18:00
料金:無料
住所:品川区東品川1-32-8 Terrada Art ComplexⅡ 1F
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩約8分。京急線新馬場駅北口より徒歩8分。
『インターフェアレンス展』 メゾンエルメス フォーラム
『インターフェアレンス展』
2023/2/23~6/4
光や振動、波動といった身体に介入するゆらぎの感覚を通して、知覚の探究を試みるアーティストによる展覧会が、東京・銀座のメゾンエルメス フォーラムにて開かれています。
それが『インターフェアレンス(Interference)』で、会場ではフランシス真悟、スザンナ・フリッチャー、ブルーノ・ボテラ、宮永愛子の4名のアーティストが作品を公開していました。
『インターフェアレンス(Interference)』とは、参加アーティストのひとりであるフランシス真悟の光干渉顔料を用いたシリーズのタイトルに基づいていて、非常に薄い塗料が光の干渉によってさまざまな色の反応を示していました。
とりわけ大型の壁画である『Liminal Shifts』は、ガラスブロックより差し込む光を受け、仄かなピンク色とから虹色、さらに時折金色を思わせるような色を放っていて、実に繊細な表情を見せていました。また外の天候、また時間帯によって作品の景色も異なってくるのかもしれません。
メゾンエルメスの建物を身体のメタファーとし、ギャラリーの隠れた空間を用いたというブルーノ・ボテラの作品が異彩を放っていたのではないでしょうか。
ギャラリーの裏側に展示された『寄宿』とは、機械式のベッドや粘土による手を象ったオブジェなどによるもので、どことなく有機的でかつ不穏な雰囲気を醸し出していました。これはボテラが実際にベットにて寝て、空いた二つの穴より突き出た手の無意識の運動を捉えていて、いわば眠っている手を造形化した作品でした。
今回のグループ展で最も大掛かりな展示を手がけていたのは、ウィーン出身のスザンナ・フリッチャーの『Pulse』と題したインスタレーションでした。
これはガラスブロックに呼応したグリット上に張り巡らされた糸が、空間の中に潜む振動を空気に伝達させながら半透明の雨のように空間を満たす作品で、シリコンでできた糸がモーターによる動きを伴いつつ、ひたすら揺らめいていました。
また『Pulse』へは実際に立ち入ることも可能で、震える糸より空間を揺らぐ振動を感じ取ることもできました。さらにモーターやディスクから伝わる音響も糸の揺れと連動しているように思えました。
大掛かりながらも極めて繊細な『Pulse』の世界をスマートフォンのカメラで捉えるのは難しいかもしれません。実際に身を置くことで感じられる空間の揺らぎをしばし体感しました。
6月4日まで開催されています。
『インターフェアレンス展 フランシス真悟、スザンナ・フリッチャー、ブルーノ・ボテラ、宮永愛子』 メゾンエルメス フォーラム
会期:2023年2月23日(木・祝)~6月4日(日)
休廊:3月15日(木)
時間:11:00~19:00
*最終入場は閉館の30分前まで。
料金:無料
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
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