都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「鉄道遺構・再発見」 LIXILギャラリー
LIXILギャラリー
「鉄道遺構・再発見」
8/27-11/1
リクシルギャラリーで開催中の「鉄道遺構・再発見」を見てきました。
主に明治から昭和初期に敷設され、地域の輸送を担いながらも、様々な環境の変化などにより、使われなくなってしまった鉄道路線。いわゆる廃線です。その跡に焦点を当てた展示です。全国に点在する14箇所の鉄道遺構を紹介しています。
士幌線「第四音更川橋梁」
ダイナミックなまでのコンクリート製のアーチが連なっています。北海道は十勝平野の士幌線です。昭和14年までに帯広~十勝三股間が開通。当時、道内で最も標高の高かった同駅へ至るルートには大小60ものアーチ橋が作られたそうですが、昭和62年に廃線。撤去、解体が予定されたものの、地域の保存運動などにより、一部が今に残ることとなりました。
うち幾つかは国の有形文化財にも指定されています。キャプションに「古代遺跡」と記されていましたが、確かにそうした趣きも漂わせているのではないでしょうか。自然の中で風化しながらも毅然と立つアーチ橋。きっと走る汽車も映えたに違いありません。
碓氷線「第三橋梁(めがね橋)」
通称、めがね橋と呼ばれるのは碓氷峠のアーチ橋です。全長90メートルで高さは30メートル。煉瓦造りとしては日本で最大規模のアーチ橋として知られています。
碓氷峠に鉄道が開通したのは明治26年。ともかく急峻な山岳地帯、旧国鉄一の急勾配でもあります。どのような方法で山を越えるかについて度々調査が行われたそうですが、結果的に技術者のローマン・アプトが考案したレールが採用されました。
そのアプトを顕彰してのことでしょうか。平成13年には横川からここ第三橋梁までが「アプトの道」として整備されました。そしてアーチ橋自体が重要文化財でもあります。
足尾線「第一松木川橋梁」・「田元橋」
足尾線の鉄道遺構もまとめて紹介されています。炭鉱で栄えた同地域、明治時代から鉄道が敷かれ、多くの人や物が運ばれました。水力発電も利用した足尾、何でも日本で一番最初に開通した電気鉄道は足尾銅山の坑内にあったそうです。
足尾線・鉄道遺構
数多くの橋にトンネル。一部は今もわたらせ渓谷鉄道がそのまま利用しています。言わば現役の鉄道遺構でもあるわけです。
中央本線「大日影トンネル」
鉄道施設とは別に活用している遺構がありました。中央本線の旧大日影トンネルと深沢トンネルです。場所は山梨県。明治36年に開通しましたが、昭和43年の複線化工事のため、新トンネルが開削。さらに後の線路改良工事により、旧トンネルは全面的に閉鎖されました。
中央本線「深沢トンネルワインカーブ」
それを平成17年に遊歩道として整備。また周囲はワインの産地でもあります。同じく使われなくなった向かいの深沢トンネルはワインの貯蔵庫として活用されました。
トンネル内の温度や湿度はワインを熟成させるために適した環境なのだそうです。言わば鉄道が産んだ天然のワイン貯蔵庫。今では個人のためのスペースが特に人気を集めています。オーナーになるには7年ほど待たなくてはなりません。
比較的、身近な場所にも鉄道遺構がありました。横浜のみなとみらいです。大正時代、当時は東洋一とも呼ばれた横浜新港への輸送路として横浜臨港線が開業しました。
山下臨港線プロムナード
一方で戦後に開通したのが山下臨港線。このうちの一部が現在の山下臨港線プロムナードとして整備されています。周囲は横浜中心部屈指の観光地。ちょうど新港地区から山下公園へのルートでもあることから、一度は通ったことのある方も多いのではないでしょうか。
魚梁瀬森林鉄道「4.5tディーゼル機関車L-69号」 1/17模型
遺構を捉えた写真はいずれも土木写真家の西山芳一氏によるもの。迫力があります。またほぼ写真パネルで構成された展示ですが、ほかにもレールや鉄道模型などもありました。鉄道好きにも嬉しい内容だと言えそうです。
「鉄道遺構・再発見」会場風景 *手前:国内で使われている12種類のレール
11月21日まで開催されています。
「鉄道遺構・再発見」 LIXILギャラリー
会期:8月27日(木)~11月21日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
「鉄道遺構・再発見」
8/27-11/1
リクシルギャラリーで開催中の「鉄道遺構・再発見」を見てきました。
主に明治から昭和初期に敷設され、地域の輸送を担いながらも、様々な環境の変化などにより、使われなくなってしまった鉄道路線。いわゆる廃線です。その跡に焦点を当てた展示です。全国に点在する14箇所の鉄道遺構を紹介しています。
士幌線「第四音更川橋梁」
ダイナミックなまでのコンクリート製のアーチが連なっています。北海道は十勝平野の士幌線です。昭和14年までに帯広~十勝三股間が開通。当時、道内で最も標高の高かった同駅へ至るルートには大小60ものアーチ橋が作られたそうですが、昭和62年に廃線。撤去、解体が予定されたものの、地域の保存運動などにより、一部が今に残ることとなりました。
うち幾つかは国の有形文化財にも指定されています。キャプションに「古代遺跡」と記されていましたが、確かにそうした趣きも漂わせているのではないでしょうか。自然の中で風化しながらも毅然と立つアーチ橋。きっと走る汽車も映えたに違いありません。
碓氷線「第三橋梁(めがね橋)」
通称、めがね橋と呼ばれるのは碓氷峠のアーチ橋です。全長90メートルで高さは30メートル。煉瓦造りとしては日本で最大規模のアーチ橋として知られています。
碓氷峠に鉄道が開通したのは明治26年。ともかく急峻な山岳地帯、旧国鉄一の急勾配でもあります。どのような方法で山を越えるかについて度々調査が行われたそうですが、結果的に技術者のローマン・アプトが考案したレールが採用されました。
そのアプトを顕彰してのことでしょうか。平成13年には横川からここ第三橋梁までが「アプトの道」として整備されました。そしてアーチ橋自体が重要文化財でもあります。
足尾線「第一松木川橋梁」・「田元橋」
足尾線の鉄道遺構もまとめて紹介されています。炭鉱で栄えた同地域、明治時代から鉄道が敷かれ、多くの人や物が運ばれました。水力発電も利用した足尾、何でも日本で一番最初に開通した電気鉄道は足尾銅山の坑内にあったそうです。
足尾線・鉄道遺構
数多くの橋にトンネル。一部は今もわたらせ渓谷鉄道がそのまま利用しています。言わば現役の鉄道遺構でもあるわけです。
中央本線「大日影トンネル」
鉄道施設とは別に活用している遺構がありました。中央本線の旧大日影トンネルと深沢トンネルです。場所は山梨県。明治36年に開通しましたが、昭和43年の複線化工事のため、新トンネルが開削。さらに後の線路改良工事により、旧トンネルは全面的に閉鎖されました。
中央本線「深沢トンネルワインカーブ」
それを平成17年に遊歩道として整備。また周囲はワインの産地でもあります。同じく使われなくなった向かいの深沢トンネルはワインの貯蔵庫として活用されました。
トンネル内の温度や湿度はワインを熟成させるために適した環境なのだそうです。言わば鉄道が産んだ天然のワイン貯蔵庫。今では個人のためのスペースが特に人気を集めています。オーナーになるには7年ほど待たなくてはなりません。
比較的、身近な場所にも鉄道遺構がありました。横浜のみなとみらいです。大正時代、当時は東洋一とも呼ばれた横浜新港への輸送路として横浜臨港線が開業しました。
山下臨港線プロムナード
一方で戦後に開通したのが山下臨港線。このうちの一部が現在の山下臨港線プロムナードとして整備されています。周囲は横浜中心部屈指の観光地。ちょうど新港地区から山下公園へのルートでもあることから、一度は通ったことのある方も多いのではないでしょうか。
魚梁瀬森林鉄道「4.5tディーゼル機関車L-69号」 1/17模型
遺構を捉えた写真はいずれも土木写真家の西山芳一氏によるもの。迫力があります。またほぼ写真パネルで構成された展示ですが、ほかにもレールや鉄道模型などもありました。鉄道好きにも嬉しい内容だと言えそうです。
「鉄道遺構・再発見」会場風景 *手前:国内で使われている12種類のレール
11月21日まで開催されています。
「鉄道遺構・再発見」 LIXILギャラリー
会期:8月27日(木)~11月21日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
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「白鳳ー花ひらく仏教美術」 奈良国立博物館
奈良国立博物館
「白鳳ー花ひらく仏教美術」
7/18-9/23
奈良国立博物館で開催中の「白鳳ー花ひらく仏教美術」を見てきました。
「7世紀半ばから都が平城京へ遷った710年までの時期をさす」(チラシより)白鳳時代。仏教伝来より100年以上経ち、いわゆる改新後の混乱こそあれども、藤原宮が造営され、律令制度などの国の形も次第に整っていきます。それに伴って数多くの寺院が建てられました。推古朝の624年には全国で46だった寺院が、持統朝の692年には545まで増えたそうです。
白鳳期の仏教美術を紹介する展覧会です。出展は約150件。仏像は何も奈良に留まりません。ほか千葉、大阪、和歌山、島根などからもやって来ています。
冒頭、展示中で最も古いのが、法隆寺献納宝物の「観音菩薩立像」でした。元は法隆寺にあったものの、明治期に国へ献ぜられ、現在は東京国立博物館に納められています。素朴な造形ですが、飛鳥から白鳳への萌芽を見ることが出来るもの。年記は651年です。いわゆる改新こと乙巳の変から6年後に造られた作品でもあります。
南滋賀廃寺、穴太廃寺、及び大官大寺、大安寺などの跡より出土された考古品も展示されていました。南滋賀の廃寺はおそらく大津宮に関連するといわれる遺跡です。改新後は難波、飛鳥、また近江の地へと遷都を繰り返します。考古品は瓦が目立ちました。例えば南滋賀廃寺の鬼瓦は百済に出土した瓦の紋様とよく似ています。白鳳期は朝鮮や大陸の文化が盛んに持ち込まれた時期でもありました。
「菩薩半跏像」に魅せられました。先の観音菩薩と同様、法隆寺献納の仏像。出立ちは飛鳥仏を思わせますが、ともかく身体が細い。腕も指もすらっとのびては優雅に座っています。飛鳥時代の作とも言われていますが、頭部の装飾などには白鳳の様式を見ることが出来るそうです。(制作年も606年、または666年と記されていました。)
興福寺の「仏頭」もお出ましです。(*8/18~27限定)一昨年に芸大美術館で見た「興福寺仏頭展」以来でしょうか。蘇我倉山田石川麻呂により建立された山田寺。しかしながら倉山田は謀反の罪を着せられて自殺に追い込まれてしまいます。結果的に天武朝期に開眼。その後、仏頭は強奪に度重なる火災、さらには行方不明になるなど苦難の歴史を辿っています。昭和になって突如発見。現在では白鳳仏の代表作としても知られています。
まさに青年と称される仏頭。「明るく若々しい」とも言われますが、何度見ても感じるのは凛々しい姿であるということです。切れ長の目に少し口を強く引き締めているような出立ち。自意識すら感じさせます。また肉付きも良い。顔にはりがあるというのは適切な言い方ではないかもしれませんが、ともかく朗らかで健康的に映りました。
関東に伝わった白鳳仏の代表作と言われています。東京・新大寺の「釈迦如来倚像」です。水が流れるかの如く流麗な衣文。両足を真下に垂らすのも白鳳期に流行したスタイルだそうです。「仏頭」を見た後ゆえか、さながら弟分でしょうか。どこか似ているように見えました。
兵庫・鶴林寺の「観音菩薩立像」も魅惑的でした。やや腰をくねらせた菩薩様。顔は丸、あるいは四角く、とても大きい。うっすら笑みを浮かべているようにも見えます。少し左足を前にして立っていることから、三尊像の右脇の像ではないかと推測されているそうです。
島根・鰐淵寺、大阪・観山寺、それに兵庫・一乗寺のそれぞれ「観音菩薩立像」も美しい。大分・長谷寺の「観音菩薩立像」は地方への白鳳文化の伝播を見る作品としても知られています。造形が繊細です。周防の豪族が亡き母の菩提を弔うために造られたと言われています。
薬師寺から「月光菩薩立像」や「聖観世音菩薩立像」がやって来ました。ともに東京国立博物館の薬師寺展でも大いに人気を集めた仏様です。露出展示です。普段は叶わない360度の角度からじっくりと見ることが出来ます。優美でかつ堂々とした姿。正面性が高く、実に端正な聖観世音菩薩と、やや腰をひねらせながらさも力強くステップを踏むかのような月光菩薩。むろん薬師寺で拝むのが一番かもしれませんが、改めて心を動かされました。
飛鳥仏で知られる法隆寺にも多くの白鳳仏が伝えられています。通称「夢違観音」はどうでしょうか。悪夢を見た際に願うと良夢に変えてくれるという観音様。よく少年のような面影とも言われますが、私にはむしろ大人びて泰然としているようにも見えました。ただ確かに正面から向き合うとあどけなさも残っています。思いの外に表情はありません。飾りも簡素です。素朴な印象を与えられます。
一方で「文殊菩薩観音立像」は朗らかでした。女性的とするには語弊があるでしょうか。やや下を向きながら細目で前を伺っています。笑みは穏やか。見る者を優しく包み込むかのような仏様です。
「伝虚空蔵菩薩立像」から連想するのは飛鳥仏の顔立ちです。同じく法隆寺の「百済観音」の雰囲気を伝えているように思えてなりません。直立ですが、天衣の展開にやや遊びがあり、とても優美に見えます。クスノキの一材だそうです。金銅仏の多い白鳳仏の中では異色ではありますが、やはり独特の魅力をたたえていました。
法隆寺から多くのお宝が来ています。良く知られた伝橘夫人念持仏の「阿弥陀三尊像」をはじめ、それを納めるための厨子、また「厨子入押出阿弥陀五尊像」、さらには金堂の外陣旧壁画の模写や天蓋付属品なども展示されています。法隆寺関連だけで一つの企画展が成り立つのではないかと思うほどに充実していました。
仏像のみならず工芸品が出ているのも見逃せません。東京国立博物館の法隆寺宝物館でお馴染みの「龍首水瓶」や奈良・法輪寺の「銅製舎利容器」などと多数。また銅板を打ち出して制作された押出仏や粘土の塑像、さらには粘土板から型抜きしてタイル状に焼いたせん仏なども出ています。これらの仏像は時に堂内の装飾などに使われていたと考えられているそうです。
ラストは藤原宮や高松塚古墳からの出土品などが並びます。うち興味深かったのが奈良の香芝で出土した大阪・四天王寺の「威奈大村骨蔵器」でした。いわゆる遺骨を納めるための器、上部はほぼ球形です。遺骨の主は当時の貴族、威奈大村。蓋の裏に墓誌が刻まれています。この頃、文化人や権力者の中で火葬の風習が広まったそうです。
仏像だけでなく、工芸、時には朝鮮半島や大陸の品を参照して「白鳳文化とは何か」を探る「白鳳ー花ひらく仏教美術展」。私もこれまでに幾度か仏像関連の展示を見てきたつもりでしたが、今回ほど充足感を得たのは初めてだったかもしれません。白鳳仏の集大成と呼ぶべき歴史的な展覧会ではないでしょうか。
なお記事中でも触れましたが、期間限定の「仏頭」の展示は終了しました。よって現在はいつものように興福寺国宝館にて拝観することが出来ます。
お盆以降の平日に出かけましたが、館内はそれなり盛況でした。ただし混雑しているほどではありません。スムーズに見られました。
質量ともに膨大です。2時間弱ほどでも最後は駆け足でした。ともかく時間に余裕をもってお出かけ下さい。
9月23日まで開催されています。これはおすすめします。
「白鳳ー花ひらく仏教美術」 奈良国立博物館(@narahaku_PR)
会期:7月18日(土)~9月23日(水・祝)
休館:月曜日。
時間:9:30~18:00。
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日と8月5日(水)~15日(土)は19時まで開館。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(800)円、小学・中学生500(300)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*毎週金曜日、及び8/5~15のみ17時から入場出来るサマーレイト券を発売。各200円引。
住所:奈良市登大路町50
交通:近鉄奈良駅下車登大路町を東へ徒歩約15分。JR奈良駅または近鉄奈良駅から市内循環バス外回り(2番)、「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ。
「白鳳ー花ひらく仏教美術」
7/18-9/23
奈良国立博物館で開催中の「白鳳ー花ひらく仏教美術」を見てきました。
「7世紀半ばから都が平城京へ遷った710年までの時期をさす」(チラシより)白鳳時代。仏教伝来より100年以上経ち、いわゆる改新後の混乱こそあれども、藤原宮が造営され、律令制度などの国の形も次第に整っていきます。それに伴って数多くの寺院が建てられました。推古朝の624年には全国で46だった寺院が、持統朝の692年には545まで増えたそうです。
白鳳期の仏教美術を紹介する展覧会です。出展は約150件。仏像は何も奈良に留まりません。ほか千葉、大阪、和歌山、島根などからもやって来ています。
冒頭、展示中で最も古いのが、法隆寺献納宝物の「観音菩薩立像」でした。元は法隆寺にあったものの、明治期に国へ献ぜられ、現在は東京国立博物館に納められています。素朴な造形ですが、飛鳥から白鳳への萌芽を見ることが出来るもの。年記は651年です。いわゆる改新こと乙巳の変から6年後に造られた作品でもあります。
南滋賀廃寺、穴太廃寺、及び大官大寺、大安寺などの跡より出土された考古品も展示されていました。南滋賀の廃寺はおそらく大津宮に関連するといわれる遺跡です。改新後は難波、飛鳥、また近江の地へと遷都を繰り返します。考古品は瓦が目立ちました。例えば南滋賀廃寺の鬼瓦は百済に出土した瓦の紋様とよく似ています。白鳳期は朝鮮や大陸の文化が盛んに持ち込まれた時期でもありました。
「菩薩半跏像」に魅せられました。先の観音菩薩と同様、法隆寺献納の仏像。出立ちは飛鳥仏を思わせますが、ともかく身体が細い。腕も指もすらっとのびては優雅に座っています。飛鳥時代の作とも言われていますが、頭部の装飾などには白鳳の様式を見ることが出来るそうです。(制作年も606年、または666年と記されていました。)
興福寺の「仏頭」もお出ましです。(*8/18~27限定)一昨年に芸大美術館で見た「興福寺仏頭展」以来でしょうか。蘇我倉山田石川麻呂により建立された山田寺。しかしながら倉山田は謀反の罪を着せられて自殺に追い込まれてしまいます。結果的に天武朝期に開眼。その後、仏頭は強奪に度重なる火災、さらには行方不明になるなど苦難の歴史を辿っています。昭和になって突如発見。現在では白鳳仏の代表作としても知られています。
まさに青年と称される仏頭。「明るく若々しい」とも言われますが、何度見ても感じるのは凛々しい姿であるということです。切れ長の目に少し口を強く引き締めているような出立ち。自意識すら感じさせます。また肉付きも良い。顔にはりがあるというのは適切な言い方ではないかもしれませんが、ともかく朗らかで健康的に映りました。
関東に伝わった白鳳仏の代表作と言われています。東京・新大寺の「釈迦如来倚像」です。水が流れるかの如く流麗な衣文。両足を真下に垂らすのも白鳳期に流行したスタイルだそうです。「仏頭」を見た後ゆえか、さながら弟分でしょうか。どこか似ているように見えました。
兵庫・鶴林寺の「観音菩薩立像」も魅惑的でした。やや腰をくねらせた菩薩様。顔は丸、あるいは四角く、とても大きい。うっすら笑みを浮かべているようにも見えます。少し左足を前にして立っていることから、三尊像の右脇の像ではないかと推測されているそうです。
島根・鰐淵寺、大阪・観山寺、それに兵庫・一乗寺のそれぞれ「観音菩薩立像」も美しい。大分・長谷寺の「観音菩薩立像」は地方への白鳳文化の伝播を見る作品としても知られています。造形が繊細です。周防の豪族が亡き母の菩提を弔うために造られたと言われています。
薬師寺から「月光菩薩立像」や「聖観世音菩薩立像」がやって来ました。ともに東京国立博物館の薬師寺展でも大いに人気を集めた仏様です。露出展示です。普段は叶わない360度の角度からじっくりと見ることが出来ます。優美でかつ堂々とした姿。正面性が高く、実に端正な聖観世音菩薩と、やや腰をひねらせながらさも力強くステップを踏むかのような月光菩薩。むろん薬師寺で拝むのが一番かもしれませんが、改めて心を動かされました。
飛鳥仏で知られる法隆寺にも多くの白鳳仏が伝えられています。通称「夢違観音」はどうでしょうか。悪夢を見た際に願うと良夢に変えてくれるという観音様。よく少年のような面影とも言われますが、私にはむしろ大人びて泰然としているようにも見えました。ただ確かに正面から向き合うとあどけなさも残っています。思いの外に表情はありません。飾りも簡素です。素朴な印象を与えられます。
一方で「文殊菩薩観音立像」は朗らかでした。女性的とするには語弊があるでしょうか。やや下を向きながら細目で前を伺っています。笑みは穏やか。見る者を優しく包み込むかのような仏様です。
「伝虚空蔵菩薩立像」から連想するのは飛鳥仏の顔立ちです。同じく法隆寺の「百済観音」の雰囲気を伝えているように思えてなりません。直立ですが、天衣の展開にやや遊びがあり、とても優美に見えます。クスノキの一材だそうです。金銅仏の多い白鳳仏の中では異色ではありますが、やはり独特の魅力をたたえていました。
法隆寺から多くのお宝が来ています。良く知られた伝橘夫人念持仏の「阿弥陀三尊像」をはじめ、それを納めるための厨子、また「厨子入押出阿弥陀五尊像」、さらには金堂の外陣旧壁画の模写や天蓋付属品なども展示されています。法隆寺関連だけで一つの企画展が成り立つのではないかと思うほどに充実していました。
仏像のみならず工芸品が出ているのも見逃せません。東京国立博物館の法隆寺宝物館でお馴染みの「龍首水瓶」や奈良・法輪寺の「銅製舎利容器」などと多数。また銅板を打ち出して制作された押出仏や粘土の塑像、さらには粘土板から型抜きしてタイル状に焼いたせん仏なども出ています。これらの仏像は時に堂内の装飾などに使われていたと考えられているそうです。
ラストは藤原宮や高松塚古墳からの出土品などが並びます。うち興味深かったのが奈良の香芝で出土した大阪・四天王寺の「威奈大村骨蔵器」でした。いわゆる遺骨を納めるための器、上部はほぼ球形です。遺骨の主は当時の貴族、威奈大村。蓋の裏に墓誌が刻まれています。この頃、文化人や権力者の中で火葬の風習が広まったそうです。
仏像だけでなく、工芸、時には朝鮮半島や大陸の品を参照して「白鳳文化とは何か」を探る「白鳳ー花ひらく仏教美術展」。私もこれまでに幾度か仏像関連の展示を見てきたつもりでしたが、今回ほど充足感を得たのは初めてだったかもしれません。白鳳仏の集大成と呼ぶべき歴史的な展覧会ではないでしょうか。
なお記事中でも触れましたが、期間限定の「仏頭」の展示は終了しました。よって現在はいつものように興福寺国宝館にて拝観することが出来ます。
お盆以降の平日に出かけましたが、館内はそれなり盛況でした。ただし混雑しているほどではありません。スムーズに見られました。
質量ともに膨大です。2時間弱ほどでも最後は駆け足でした。ともかく時間に余裕をもってお出かけ下さい。
9月23日まで開催されています。これはおすすめします。
「白鳳ー花ひらく仏教美術」 奈良国立博物館(@narahaku_PR)
会期:7月18日(土)~9月23日(水・祝)
休館:月曜日。
時間:9:30~18:00。
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日と8月5日(水)~15日(土)は19時まで開館。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(800)円、小学・中学生500(300)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*毎週金曜日、及び8/5~15のみ17時から入場出来るサマーレイト券を発売。各200円引。
住所:奈良市登大路町50
交通:近鉄奈良駅下車登大路町を東へ徒歩約15分。JR奈良駅または近鉄奈良駅から市内循環バス外回り(2番)、「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ。
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「躍動と回帰ー桃山の美術」 出光美術館
出光美術館
「躍動と回帰ー桃山の美術」
8/8-10/12
出光美術館で開催中の「躍動と回帰ー桃山の美術」を見てきました。
激動の時代、世の変革を反映してか、多くの「革新的」(ちらしより)な美術を生み出した桃山時代。その桃山の美術を再検討する展覧会です。
出品は全て出光美術館のコレクション。いわゆる絵画だけでなく、陶芸などの工芸品も網羅します。全100点のうち絵画は20点です。残りが工芸でした。
さていつもながらに優品揃い、もちろん名品展的な趣きもありますが、それだけでは終わらないのが展示の魅力だと言えるかもしれません。
タイトルの「躍動と回帰」が重要です。単に作品を並べるだけではなく、幾つかのキーワードを参照しながら桃山美術の特質を探る内容となっています。
「躍動」、あるいは変革。その一つにあるのが桃山陶芸における歪みと割れです。南宋の整った青磁に対し、原型こそ残るものの、歪みを伴った伊賀の角花生。異なった美意識を見ることが出来ます。また「黒織部亀甲文茶碗」はどうでしょうか。もはや整わないことを志向したかのような器。滲み出す釉薬も魅力的であります。
長谷川派「柳橋水車図屏風(左隻)」 江戸時代 *展示期間:8/8~9/6
絵画で面白い比較がありました。「宇治橋柴舟図屏風」と「柳橋水車図屏風」です。ともに江戸時代、前者は中央に柳を配し、右に橋を描いています。一方で後者は画面全体を支配するかのごとく橋を表しては、その威容を見せつけています。柳の描写はより屈曲して一種異様、さらにそもそも前者に見られた花や鳥の姿もありません。ともかく橋が力強いまでに横たわります。この豪放さこそ桃山美術の特質ではないでしょうか。
翻って「回帰」はどうでしょうか。興味深いのは、古来の和歌や蒔絵にあった日本の身近な動植物を参照していることです。一例が美濃の「鼠志野草花片輪車文額皿」です。健気な野草の描かれた皿、隣に並ぶのは鎌倉時代の鏡でしたが、そこにも同じような野草が表されています。室町時代などに重宝された牡丹や唐草などの中国趣味ではなく、言わば和様への関心の高まり。それも桃山の特質として挙げられています。
千鳥も同様でした。「織部千鳥形向付」の模様は千鳥。やはり古来より愛されてきたモチーフの一つです。ここに王朝回帰的な志向を読み取り、琳派へと至る系譜を見ることも出来ます。
等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」が目を引きました。墨の掠れや滲みを駆使しては描いた屏風絵。霞が漂う様子は幻想的とさえ言えますが、ここで等伯は中国絵画に多い叭々鳥ではなく、日本人にとってより近しい鴉をモチーフに選んでいます。
器における釉薬。ここにも桃山の特質に関する言及がありました。つまり釉薬の流れです。
歪みだけでなく、釉薬の流れ、その自在で偶然なまでの動きに美を見い出すこと。桃山の陶芸は流れの瞬間を止めてはそのまま表現することに価値を与えました。方丈記の引用もあります。「水の移ろいは生命の移ろい」。そこに聖性を見る指摘も興味深いのではないでしょうか。器を象る釉薬の流れ自体に景色を見出しています。
長次郎の黒楽と赤楽が一つずつ展示されていました。黒い艶は内へ内へ向かいながら、どこか瞑想を誘うようでもあります。そして再び織部や信楽が並びます。実は今回、志野や織部、古唐津といった桃山陶芸が約8年ぶりに一堂に公開された展覧会でもあるのです。
桃山陶芸の源流に平安・鎌倉時代から続く六古窯の壺や甕にあるとする件も意味深いものでした。実際にも桃山時代の水指しや茶筒とともに、平安後期や南北朝時代の常滑壺や信楽壺なども参照しています。
最後に一つ、思いがけない桃山の特質がありました。それは過去への視点です。いわゆる「回帰」に近いのかもしれません。例えば長谷川等意の「平家物語 屋島の合戦・大坂夏の陣図屏風」です。正直驚きました。というのも大きく異なった時代の争いの様子を右と左、一つの屏風絵に落とし込んで描いているからです。
右が屋島です。船に乗り込んでは戦う武者たち。左が大坂でした。同じように武士たちが刀を持っては戦っていますが、鉄砲や大砲が炸裂する姿も描かれています。戦いの様相も大きく変化したのでしょう。それにしても約400年離れた二つの合戦、何故に一つに表したのでしょうか。
「伊賀耳付水指」 伊賀窯 桃山時代
とかく革新性を称揚される桃山の美術を平安、鎌倉まで遡っては、その様々な魅力を引き出した「躍動と回帰」展。キャプションも力が入っていて実に読ませます。しばし時間を忘れて見入りました。
9月7日を挟んで一部の絵画に展示替えがあります。ご注意下さい。
10月12日まで開催されています。
「日本の美・発見X 躍動と回帰ー桃山の美術」 出光美術館
会期:8月8日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月20日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
「躍動と回帰ー桃山の美術」
8/8-10/12
出光美術館で開催中の「躍動と回帰ー桃山の美術」を見てきました。
激動の時代、世の変革を反映してか、多くの「革新的」(ちらしより)な美術を生み出した桃山時代。その桃山の美術を再検討する展覧会です。
出品は全て出光美術館のコレクション。いわゆる絵画だけでなく、陶芸などの工芸品も網羅します。全100点のうち絵画は20点です。残りが工芸でした。
さていつもながらに優品揃い、もちろん名品展的な趣きもありますが、それだけでは終わらないのが展示の魅力だと言えるかもしれません。
タイトルの「躍動と回帰」が重要です。単に作品を並べるだけではなく、幾つかのキーワードを参照しながら桃山美術の特質を探る内容となっています。
「躍動」、あるいは変革。その一つにあるのが桃山陶芸における歪みと割れです。南宋の整った青磁に対し、原型こそ残るものの、歪みを伴った伊賀の角花生。異なった美意識を見ることが出来ます。また「黒織部亀甲文茶碗」はどうでしょうか。もはや整わないことを志向したかのような器。滲み出す釉薬も魅力的であります。
長谷川派「柳橋水車図屏風(左隻)」 江戸時代 *展示期間:8/8~9/6
絵画で面白い比較がありました。「宇治橋柴舟図屏風」と「柳橋水車図屏風」です。ともに江戸時代、前者は中央に柳を配し、右に橋を描いています。一方で後者は画面全体を支配するかのごとく橋を表しては、その威容を見せつけています。柳の描写はより屈曲して一種異様、さらにそもそも前者に見られた花や鳥の姿もありません。ともかく橋が力強いまでに横たわります。この豪放さこそ桃山美術の特質ではないでしょうか。
翻って「回帰」はどうでしょうか。興味深いのは、古来の和歌や蒔絵にあった日本の身近な動植物を参照していることです。一例が美濃の「鼠志野草花片輪車文額皿」です。健気な野草の描かれた皿、隣に並ぶのは鎌倉時代の鏡でしたが、そこにも同じような野草が表されています。室町時代などに重宝された牡丹や唐草などの中国趣味ではなく、言わば和様への関心の高まり。それも桃山の特質として挙げられています。
千鳥も同様でした。「織部千鳥形向付」の模様は千鳥。やはり古来より愛されてきたモチーフの一つです。ここに王朝回帰的な志向を読み取り、琳派へと至る系譜を見ることも出来ます。
等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」が目を引きました。墨の掠れや滲みを駆使しては描いた屏風絵。霞が漂う様子は幻想的とさえ言えますが、ここで等伯は中国絵画に多い叭々鳥ではなく、日本人にとってより近しい鴉をモチーフに選んでいます。
器における釉薬。ここにも桃山の特質に関する言及がありました。つまり釉薬の流れです。
歪みだけでなく、釉薬の流れ、その自在で偶然なまでの動きに美を見い出すこと。桃山の陶芸は流れの瞬間を止めてはそのまま表現することに価値を与えました。方丈記の引用もあります。「水の移ろいは生命の移ろい」。そこに聖性を見る指摘も興味深いのではないでしょうか。器を象る釉薬の流れ自体に景色を見出しています。
長次郎の黒楽と赤楽が一つずつ展示されていました。黒い艶は内へ内へ向かいながら、どこか瞑想を誘うようでもあります。そして再び織部や信楽が並びます。実は今回、志野や織部、古唐津といった桃山陶芸が約8年ぶりに一堂に公開された展覧会でもあるのです。
桃山陶芸の源流に平安・鎌倉時代から続く六古窯の壺や甕にあるとする件も意味深いものでした。実際にも桃山時代の水指しや茶筒とともに、平安後期や南北朝時代の常滑壺や信楽壺なども参照しています。
最後に一つ、思いがけない桃山の特質がありました。それは過去への視点です。いわゆる「回帰」に近いのかもしれません。例えば長谷川等意の「平家物語 屋島の合戦・大坂夏の陣図屏風」です。正直驚きました。というのも大きく異なった時代の争いの様子を右と左、一つの屏風絵に落とし込んで描いているからです。
右が屋島です。船に乗り込んでは戦う武者たち。左が大坂でした。同じように武士たちが刀を持っては戦っていますが、鉄砲や大砲が炸裂する姿も描かれています。戦いの様相も大きく変化したのでしょう。それにしても約400年離れた二つの合戦、何故に一つに表したのでしょうか。
「伊賀耳付水指」 伊賀窯 桃山時代
とかく革新性を称揚される桃山の美術を平安、鎌倉まで遡っては、その様々な魅力を引き出した「躍動と回帰」展。キャプションも力が入っていて実に読ませます。しばし時間を忘れて見入りました。
9月7日を挟んで一部の絵画に展示替えがあります。ご注意下さい。
10月12日まで開催されています。
「日本の美・発見X 躍動と回帰ー桃山の美術」 出光美術館
会期:8月8日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月20日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「オスカー・ニーマイヤー展」 東京都現代美術館
東京都現代美術館
「オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男」
7/18-10/12
東京都現代美術館で開催中の「オスカー・ニーマイヤー展」を見てきました。
ブラジルの首都ブラジリアの主要建築の設計に携わり、104歳で亡くなるまで旺盛な活動を行ったという建築家、オスカー・ニーマイヤー(1907-2012)。日本では初めての大規模な個展だそうです。
さてニーマイヤー、もちろん建築家ではありますが、もはや都市設計家と言うべき壮大なスケールにて様々な作品を展開しています。
「パンプーリャ・コンプレックス(手前:ダンスホール)」 1943年 縮尺1/50
リオデジャネイロの北400キロの内陸部にあるベロオリゾンチのプロジェクトです。名はパンプーリャ・コンプレックス。カジノ、ダンスホール、ヨットクラブ、教会堂、そして当時の市長の邸宅で構成された計画。ニーマイヤーのキャリア初期の代表的な作品としても知られています。
「パンプーリャ・コンプレックス サン・フランシスコ・デ・アシス教会」 1943年 縮尺1/50
うちなだらかな曲線を活かしたのがダンスホール。ホール部分の円形と、にょろにょろとうねりながら曲線を描く屋根のフォルムも特徴的です。いずれも人造湖を中核にした建築物。ダンスホールしかり水辺の景観を効果的に活かしています。
「カノアスの邸宅(ニーマイヤー自邸)」 1953年 リオデジャネイロ、ブラジル 縮尺1/20
曲線はニーマイヤーの自邸にも取り込まれました。今度は山の麓、リオデジャネイロ南部のカノアスという場所にある邸宅です。斜面に埋め込まれるようにして建ち、南には海も望めるというロケーション。木が生い茂り、自然に囲まれた環境でもあったそうです。屋根の曲線は不定形で自在。どこかアメーバが四方に触手を広げているようでもあります。
「国際連合本部ビル」 1952年 ニューヨーク、アメリカ 縮尺1/200
国際連合本部ビルの一部も彼の手によるものです。同ビルは国連のコンセプトに沿って各国の著名建築家の総体として計画された建築物。ニーマイヤーとコルビュジエの共同案が採用されました。ともかく直方体の高層ビル棟が目を引きますが、よく見れば低層の議会棟にはドームとともに、緩やかな曲面が屋根に取り込まれていることも分かります。これぞニーマイヤーらしさと言うべきところなのでしょうか。
ブラジリア(ニーマイヤー設計建築物一覧)
集大成はブラジリアの設計です。僅か3年で作られたという人工都市ブラジリア。言うまでもなくブラジルの首都です。マスタープランをニーマイヤーの師であるルシオ・コスタが策定し、ニーマイヤーが殆ど全ての公共建築を設計しました。
「ブラジリア大聖堂」 1960年 ブラジル 縮尺1/10
大聖堂、国立美術館、裁判所、国民会議議事堂、大統領府に大統領官邸。同国の中枢と呼ぶべき施設をニーマイヤーが手がけています。
「アウヴォラーダ宮(大統領官邸)の柱」 1960年 ブラジル 縮尺1/2.67
ブラジリア大聖堂の10分の1スケールの模型が展示されていました。やはりここでも目を引くのは曲線です。力強く下から上へと束になって突き出るように進んでいます。ほか大統領官邸の柱なども並びます。まるで鋭い剣のようです。柱というよりもそれ自体がモニュメントのようでもあります。
イワン・バーン「ブラジリア」 2010年
ブラジリアの眺望写真はどうでしょうか。やはり湖に面しての壮大なパノラマ。地平線は無限の彼方まで広がっています。思わず一度行ってみたくなりました。
「ニテロイ現代美術館」 1996年 ニテロイ、ブラジル *写真:レオナルド・フィノッティ 2007年
ニテロイ現代美術館も個性的です。場所はリオデジャネイロの対岸。完成は1996年です。ニーマーヤー自身は「花」と呼んでいるそうですが、キャプションにもあるようにやはり宇宙船のようにも見えます。水辺に面して建つ円形の施設はそれこそスタートレックに出てくる連邦宇宙船の円盤部のようでした。
「イビラプエラ公園」 1954年 サンパウロ、ブラジル
アトリウムのスペースも効果的に利用しています。サンパウロのイビラプエラ公園です。実際の広さは180ヘクタール。同市の創設400年を記念して作られました。
「イビラプエラ公園」 1954年 サンパウロ、ブラジル
木々の立ち並ぶ市民公園ではありますが、中には産業館や講堂、オカと呼ばれる展示会場など5つの建物があります。遊歩道はやはり曲線を描きながらのびていました。「マティスの切り絵」とキャプションにありましたが、確かに人体のフォルムを抽象化したような構造が面白い。また展示では靴を脱いで上にあがることが出来ます。
「イビラプエラ公園」 1954年 サンパウロ、ブラジル
寝転がって視点を低くしてみました。するとさも公園の人々と同じような視覚体験を味わえます。細い円柱による遊歩道。さすがに深呼吸とまではいきませんが、木立も並び、気持ちが良いもの。アトリウムフロア全面を使っています。スケールとしては30分の1。ピクトグラムの模型も臨場感を高めてくれました。
マルセウ・ゴーテロー「オスカー・ニーマイヤー」他 1958年
ちょうど目黒の村野藤吾展にて精巧な建築模型を見た後だったせいか、模型の質がややアバウトな感は否めませんでしたが、それでもニーマイヤーの弩級なまでのスケールを知るには格好の展示だと言えるのではないでしょうか。
会場内ではドキュメンタリー映像、「20世紀最後の巨匠 オスカー・ニーマイヤー」(2001年制作)が上映されていました。全60分です。それぞれ10:15、11:20、12:25、13:30、14:35、15:40、16:45にスタートします。鑑賞希望の方は時間にあわせて出かけられることをおすすめします。
10月12日まで開催されています。
「オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男」 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:7月18日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/20、9/21、10/12は開館。7/21、9/24は休館。
時間:10:00~18:00。
*7~9月の金曜日は21時まで開館。
*入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大学生・65歳以上800(640)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。同時開催の「ここはだれの場所?」、「きかんしゃトーマスとなかまたち」との2展、3展セット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
「オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男」
7/18-10/12
東京都現代美術館で開催中の「オスカー・ニーマイヤー展」を見てきました。
ブラジルの首都ブラジリアの主要建築の設計に携わり、104歳で亡くなるまで旺盛な活動を行ったという建築家、オスカー・ニーマイヤー(1907-2012)。日本では初めての大規模な個展だそうです。
さてニーマイヤー、もちろん建築家ではありますが、もはや都市設計家と言うべき壮大なスケールにて様々な作品を展開しています。
「パンプーリャ・コンプレックス(手前:ダンスホール)」 1943年 縮尺1/50
リオデジャネイロの北400キロの内陸部にあるベロオリゾンチのプロジェクトです。名はパンプーリャ・コンプレックス。カジノ、ダンスホール、ヨットクラブ、教会堂、そして当時の市長の邸宅で構成された計画。ニーマイヤーのキャリア初期の代表的な作品としても知られています。
「パンプーリャ・コンプレックス サン・フランシスコ・デ・アシス教会」 1943年 縮尺1/50
うちなだらかな曲線を活かしたのがダンスホール。ホール部分の円形と、にょろにょろとうねりながら曲線を描く屋根のフォルムも特徴的です。いずれも人造湖を中核にした建築物。ダンスホールしかり水辺の景観を効果的に活かしています。
「カノアスの邸宅(ニーマイヤー自邸)」 1953年 リオデジャネイロ、ブラジル 縮尺1/20
曲線はニーマイヤーの自邸にも取り込まれました。今度は山の麓、リオデジャネイロ南部のカノアスという場所にある邸宅です。斜面に埋め込まれるようにして建ち、南には海も望めるというロケーション。木が生い茂り、自然に囲まれた環境でもあったそうです。屋根の曲線は不定形で自在。どこかアメーバが四方に触手を広げているようでもあります。
「国際連合本部ビル」 1952年 ニューヨーク、アメリカ 縮尺1/200
国際連合本部ビルの一部も彼の手によるものです。同ビルは国連のコンセプトに沿って各国の著名建築家の総体として計画された建築物。ニーマイヤーとコルビュジエの共同案が採用されました。ともかく直方体の高層ビル棟が目を引きますが、よく見れば低層の議会棟にはドームとともに、緩やかな曲面が屋根に取り込まれていることも分かります。これぞニーマイヤーらしさと言うべきところなのでしょうか。
ブラジリア(ニーマイヤー設計建築物一覧)
集大成はブラジリアの設計です。僅か3年で作られたという人工都市ブラジリア。言うまでもなくブラジルの首都です。マスタープランをニーマイヤーの師であるルシオ・コスタが策定し、ニーマイヤーが殆ど全ての公共建築を設計しました。
「ブラジリア大聖堂」 1960年 ブラジル 縮尺1/10
大聖堂、国立美術館、裁判所、国民会議議事堂、大統領府に大統領官邸。同国の中枢と呼ぶべき施設をニーマイヤーが手がけています。
「アウヴォラーダ宮(大統領官邸)の柱」 1960年 ブラジル 縮尺1/2.67
ブラジリア大聖堂の10分の1スケールの模型が展示されていました。やはりここでも目を引くのは曲線です。力強く下から上へと束になって突き出るように進んでいます。ほか大統領官邸の柱なども並びます。まるで鋭い剣のようです。柱というよりもそれ自体がモニュメントのようでもあります。
イワン・バーン「ブラジリア」 2010年
ブラジリアの眺望写真はどうでしょうか。やはり湖に面しての壮大なパノラマ。地平線は無限の彼方まで広がっています。思わず一度行ってみたくなりました。
「ニテロイ現代美術館」 1996年 ニテロイ、ブラジル *写真:レオナルド・フィノッティ 2007年
ニテロイ現代美術館も個性的です。場所はリオデジャネイロの対岸。完成は1996年です。ニーマーヤー自身は「花」と呼んでいるそうですが、キャプションにもあるようにやはり宇宙船のようにも見えます。水辺に面して建つ円形の施設はそれこそスタートレックに出てくる連邦宇宙船の円盤部のようでした。
「イビラプエラ公園」 1954年 サンパウロ、ブラジル
アトリウムのスペースも効果的に利用しています。サンパウロのイビラプエラ公園です。実際の広さは180ヘクタール。同市の創設400年を記念して作られました。
「イビラプエラ公園」 1954年 サンパウロ、ブラジル
木々の立ち並ぶ市民公園ではありますが、中には産業館や講堂、オカと呼ばれる展示会場など5つの建物があります。遊歩道はやはり曲線を描きながらのびていました。「マティスの切り絵」とキャプションにありましたが、確かに人体のフォルムを抽象化したような構造が面白い。また展示では靴を脱いで上にあがることが出来ます。
「イビラプエラ公園」 1954年 サンパウロ、ブラジル
寝転がって視点を低くしてみました。するとさも公園の人々と同じような視覚体験を味わえます。細い円柱による遊歩道。さすがに深呼吸とまではいきませんが、木立も並び、気持ちが良いもの。アトリウムフロア全面を使っています。スケールとしては30分の1。ピクトグラムの模型も臨場感を高めてくれました。
マルセウ・ゴーテロー「オスカー・ニーマイヤー」他 1958年
ちょうど目黒の村野藤吾展にて精巧な建築模型を見た後だったせいか、模型の質がややアバウトな感は否めませんでしたが、それでもニーマイヤーの弩級なまでのスケールを知るには格好の展示だと言えるのではないでしょうか。
会場内ではドキュメンタリー映像、「20世紀最後の巨匠 オスカー・ニーマイヤー」(2001年制作)が上映されていました。全60分です。それぞれ10:15、11:20、12:25、13:30、14:35、15:40、16:45にスタートします。鑑賞希望の方は時間にあわせて出かけられることをおすすめします。
10月12日まで開催されています。
「オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男」 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:7月18日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/20、9/21、10/12は開館。7/21、9/24は休館。
時間:10:00~18:00。
*7~9月の金曜日は21時まで開館。
*入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大学生・65歳以上800(640)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。同時開催の「ここはだれの場所?」、「きかんしゃトーマスとなかまたち」との2展、3展セット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「ここはだれの場所?」 東京都現代美術館
東京都現代美術館
「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」
7/18-10/12
東京都現代美術館で開催中の「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」を見てきました。
今年の夏休みのこどもたちのための展覧会は、4組の作家たちが、美術館の展示室のなかに、「ここではない」場所への入口を作ります。 *東京都現代美術館公式サイトより
夏休みの「こどもたちのために」と題された展覧会。しかしながら自分の居場所を見直し、あるいは探し続けるのはおとなでも同じことです。何も問題はこどもたちだけに向けられているわけではありません。
本展のテーマは4つです。それぞれ「地球はだれのもの?」、「美術館はだれのもの?」、「社会はだれのもの?」、「私の場所はだれのもの?」。各テーマに沿って4組のアーティストが作品を発表していました。
「ヨーガン レールが集めたかけら」 2011-2014年
まずはポーランド生まれのヨーガン・レールです。問い直すのは「地球はだれのもの?」。地球環境の問題に取り組んでいます。一見するところ色鮮やかなインスタレーション。しかし素材はゴミです。ヨーガン自身が海岸に漂着するゴミを集めては、さもランドスケープを描くかのように並べています。カラフルなプラスチック素材。ペットボトルの蓋からマスコットキャラクターに玩具、そして網、はたまた何らの用途か判別のつかないものまでもあります。
「ヨーガン レールの最後の仕事」 2011-2014年
「ヨーガンレール最後の仕事」と題されたインスタレーションも圧巻でした。やはりこちらも同じくゴミです。宙に吊られ、ネオンサインのように浮かぶ無数のオブジェ。いずれも照明が仕込まれてランプのように灯っています。
「ヨーガン レールが見た風景」 2013-2014年
それにしても「最後の仕事」というタイトルが気になりました。一体、何が最後なのでしょうか。キャプションを読んで驚きました。悼ましいことです。ヨーガンは本展の準備のために訪れていた海岸で亡くなってしまいました。
「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ
次いでは「美術館はだれのもの?」。取り組んだのは作家で批評家の岡崎乾二郎です。題しては「はじまるよ、びじゅつかん」。コンセプトは「こどもにしか入ることの出来ない美術館」です。端的におとなは入れません。子どもたちのためにだけ作られた「びじゅつかん」が展示室内に広がっています。
「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ
ちょうどおとなの背の高さと同じほどにはられた結界。入口は一カ所。開口部から奥に向けて小さくのびているトンネルです。さもドラえもんのガリバートンネルのような造りです。「おとなのひとははいれません」との張り紙がありました。
おとなは外から中をちらりと伺うことしか出来ませんが、中には美術館のコレクションが展示してあり、さらにカンシインならぬウオッチマンなるスタッフが常駐しているそうです。子どもたちはウオッチマンの話しを聞きながら、時に意見をぶつけていく。鑑賞とはどうあるべきか。チャレンジングな取り組みを行っています。
「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ
また岡崎が記したテキストも鋭い。さすがに読ませます。彼の問題提起は美術館にいる全ての人たちに向けられているのではないでしょうか。
「社会はだれのもの?」。会田家です。注意すべきは会田誠だけでないことです。つまり会田誠本人に加え、妻の岡田裕子、子の会田寅次郎の三名が作品を発表しています。
会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)「檄」 2015年
何と言っても目立つのが檄文です。美術館の天井から高らかに吊られた殴り書きの文章。会田家三名の連署なのでしょう。「文部科学省に物申す」と記されています。
「もっと教師を増やせ。」にはじまって「運動会が変。」、さらには「教科書検定意味あるのかよ。」といった檄文ならではの刺激的な文言が連なります。ただしどこかオチがあるのが面白いところです。ラストは「新国立競技場の問題は全部に俺に決めさせろ!」や「アーチストだから社会常識がない」と続く。「真面目に子育てやってない」とはひょっとすると自分へ向けた言葉なのでしょうか。もはやパロディー的な要素すら垣間見えます。
会田誠「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」 2014年
「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」は全26分のロングバージョンでした。たどたどしい英語で話すのは会田自身の扮する文字通り日本の総理大臣と名乗る男。ただし名乗ると書かれているだけで、必ずしも総理大臣とは特定されていません。彼はグローバリゼーションの世界に強く異を唱えます。鎖国を提唱しました。ただしやはり随所に檄文同様、オチがあります。しかも全般として荒唐無稽にも聞こえますが、ところどころに思わず頷いてしまうような指摘も少なくありません。
会田誠「美術と哲学3 ハイデガー存在と時間」 2012年-
「美術と哲学3 ハイデガー存在と時間」にも見入りました。「とってもむずかしい本を読みながら絵を描くとどうなるか」を実験しているという作品。椅子の上には一冊の本、「存在と時間」が転がり、その前には何とも得体のしれない厚塗りの絵画らしきものが立て掛けてあります。
もはや苦悩を表現したかのようなキャンバス上の色彩、絵具。無数に転がる絵具チューブの効果もあるのか、もはや大仰なまでに真剣に、またさも深刻に向き合っているかのようにも映ります。絵画制作とは何ぞやを問うかのような作品です。にやりとさせられました。
ラストは「私の場所はだれのもの?」。作家はアルフレドとイザベル・アキリザンです。フィリピンに生まれ、10年前にオーストラリアへ5人のこどもたちと引越したというアーティストでした。
アルフレドとイザベル・アキリザン「住む:プロジェクトーもう一つの国」 2015年 協力:江東区立元加賀小学校の児童のみなさん
テーマは「家」や「自分の場所」。段ボールでしょうか。高い塔のように並ぶのは無数の家々。家の上に家が建ち、複雑怪奇、さも迷宮のように上へとのびます。高層マンションとありましたが、そこまで機能的でかつ秩序だっていません。もはやカオスです。たとえば天空に聳える幻の都市のような様相も呈しています。
アルフレドとイザベル・アキリザン「住む:プロジェクトーもう一つの国」 2015年 協力:江東区立元加賀小学校の児童のみなさん
ちなみにこれらの作品は地域の小学生とワークショップで制作されたそうです。家には場所があり、それぞれに家族がある。「夢のおうちを描いてみよう」という参加型のお絵描きコーナーもありました。
ところで本展、開始早々、会田家の作品、特に檄文に対して美術館側から改変、あるいは撤去の要請がなされたという報道がありました。
会田誠さん作品に改変要請 美術館、子ども向け企画展で(朝日新聞デジタル)
会田誠さん作品の撤去要請問題 美術館側は「あくまで相談段階」 今後は「作者との話し合いで決定」(ねとらぼ)
会田誠さんの作品「檄」、撤去要請を撤回 東京都現代美術館(The Huffington Post)
中学二年生の作品に「こども向けじゃない」 会田誠への「撤去要請」とは何だったのか(エキサイトニュース)
後に会田誠本人と美術館の間にて話し合いがなされたそうです。結果的には当初のプラン通り展示は続行。撤去は行われることなく、今も檄文は掲げられています。
それこそ美術館のあるべき場所を問うかのような事件。もちろん作品への批判はあってしかるべきですが、少なくとも美術館が作家に対して作品の撤去を要請するということ自体は適切だと思えません。
ただし断片的な報道や関係者によるWEB上の見解では真相がなかなか見えにくい面もありました。改めて事実を整理するという点からも、何かしら美術館としての直接的な声明があっても良いのではないでしょうか。
10月12日まで開催されています。
「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:7月18日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/20、9/21、10/12は開館。7/21、9/24は休館。
時間:10:00~18:00。
*7~9月の金曜日は21時まで開館。
*入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大学生・65歳以上800(640)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。同時開催の「ニューマイヤー展」、「きかんしゃトーマスとなかまたち」との2展、3展セット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」
7/18-10/12
東京都現代美術館で開催中の「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」を見てきました。
今年の夏休みのこどもたちのための展覧会は、4組の作家たちが、美術館の展示室のなかに、「ここではない」場所への入口を作ります。 *東京都現代美術館公式サイトより
夏休みの「こどもたちのために」と題された展覧会。しかしながら自分の居場所を見直し、あるいは探し続けるのはおとなでも同じことです。何も問題はこどもたちだけに向けられているわけではありません。
本展のテーマは4つです。それぞれ「地球はだれのもの?」、「美術館はだれのもの?」、「社会はだれのもの?」、「私の場所はだれのもの?」。各テーマに沿って4組のアーティストが作品を発表していました。
「ヨーガン レールが集めたかけら」 2011-2014年
まずはポーランド生まれのヨーガン・レールです。問い直すのは「地球はだれのもの?」。地球環境の問題に取り組んでいます。一見するところ色鮮やかなインスタレーション。しかし素材はゴミです。ヨーガン自身が海岸に漂着するゴミを集めては、さもランドスケープを描くかのように並べています。カラフルなプラスチック素材。ペットボトルの蓋からマスコットキャラクターに玩具、そして網、はたまた何らの用途か判別のつかないものまでもあります。
「ヨーガン レールの最後の仕事」 2011-2014年
「ヨーガンレール最後の仕事」と題されたインスタレーションも圧巻でした。やはりこちらも同じくゴミです。宙に吊られ、ネオンサインのように浮かぶ無数のオブジェ。いずれも照明が仕込まれてランプのように灯っています。
「ヨーガン レールが見た風景」 2013-2014年
それにしても「最後の仕事」というタイトルが気になりました。一体、何が最後なのでしょうか。キャプションを読んで驚きました。悼ましいことです。ヨーガンは本展の準備のために訪れていた海岸で亡くなってしまいました。
「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ
次いでは「美術館はだれのもの?」。取り組んだのは作家で批評家の岡崎乾二郎です。題しては「はじまるよ、びじゅつかん」。コンセプトは「こどもにしか入ることの出来ない美術館」です。端的におとなは入れません。子どもたちのためにだけ作られた「びじゅつかん」が展示室内に広がっています。
「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ
ちょうどおとなの背の高さと同じほどにはられた結界。入口は一カ所。開口部から奥に向けて小さくのびているトンネルです。さもドラえもんのガリバートンネルのような造りです。「おとなのひとははいれません」との張り紙がありました。
おとなは外から中をちらりと伺うことしか出来ませんが、中には美術館のコレクションが展示してあり、さらにカンシインならぬウオッチマンなるスタッフが常駐しているそうです。子どもたちはウオッチマンの話しを聞きながら、時に意見をぶつけていく。鑑賞とはどうあるべきか。チャレンジングな取り組みを行っています。
「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ
また岡崎が記したテキストも鋭い。さすがに読ませます。彼の問題提起は美術館にいる全ての人たちに向けられているのではないでしょうか。
「社会はだれのもの?」。会田家です。注意すべきは会田誠だけでないことです。つまり会田誠本人に加え、妻の岡田裕子、子の会田寅次郎の三名が作品を発表しています。
会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)「檄」 2015年
何と言っても目立つのが檄文です。美術館の天井から高らかに吊られた殴り書きの文章。会田家三名の連署なのでしょう。「文部科学省に物申す」と記されています。
「もっと教師を増やせ。」にはじまって「運動会が変。」、さらには「教科書検定意味あるのかよ。」といった檄文ならではの刺激的な文言が連なります。ただしどこかオチがあるのが面白いところです。ラストは「新国立競技場の問題は全部に俺に決めさせろ!」や「アーチストだから社会常識がない」と続く。「真面目に子育てやってない」とはひょっとすると自分へ向けた言葉なのでしょうか。もはやパロディー的な要素すら垣間見えます。
会田誠「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」 2014年
「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」は全26分のロングバージョンでした。たどたどしい英語で話すのは会田自身の扮する文字通り日本の総理大臣と名乗る男。ただし名乗ると書かれているだけで、必ずしも総理大臣とは特定されていません。彼はグローバリゼーションの世界に強く異を唱えます。鎖国を提唱しました。ただしやはり随所に檄文同様、オチがあります。しかも全般として荒唐無稽にも聞こえますが、ところどころに思わず頷いてしまうような指摘も少なくありません。
会田誠「美術と哲学3 ハイデガー存在と時間」 2012年-
「美術と哲学3 ハイデガー存在と時間」にも見入りました。「とってもむずかしい本を読みながら絵を描くとどうなるか」を実験しているという作品。椅子の上には一冊の本、「存在と時間」が転がり、その前には何とも得体のしれない厚塗りの絵画らしきものが立て掛けてあります。
もはや苦悩を表現したかのようなキャンバス上の色彩、絵具。無数に転がる絵具チューブの効果もあるのか、もはや大仰なまでに真剣に、またさも深刻に向き合っているかのようにも映ります。絵画制作とは何ぞやを問うかのような作品です。にやりとさせられました。
ラストは「私の場所はだれのもの?」。作家はアルフレドとイザベル・アキリザンです。フィリピンに生まれ、10年前にオーストラリアへ5人のこどもたちと引越したというアーティストでした。
アルフレドとイザベル・アキリザン「住む:プロジェクトーもう一つの国」 2015年 協力:江東区立元加賀小学校の児童のみなさん
テーマは「家」や「自分の場所」。段ボールでしょうか。高い塔のように並ぶのは無数の家々。家の上に家が建ち、複雑怪奇、さも迷宮のように上へとのびます。高層マンションとありましたが、そこまで機能的でかつ秩序だっていません。もはやカオスです。たとえば天空に聳える幻の都市のような様相も呈しています。
アルフレドとイザベル・アキリザン「住む:プロジェクトーもう一つの国」 2015年 協力:江東区立元加賀小学校の児童のみなさん
ちなみにこれらの作品は地域の小学生とワークショップで制作されたそうです。家には場所があり、それぞれに家族がある。「夢のおうちを描いてみよう」という参加型のお絵描きコーナーもありました。
ところで本展、開始早々、会田家の作品、特に檄文に対して美術館側から改変、あるいは撤去の要請がなされたという報道がありました。
会田誠さん作品に改変要請 美術館、子ども向け企画展で(朝日新聞デジタル)
会田誠さん作品の撤去要請問題 美術館側は「あくまで相談段階」 今後は「作者との話し合いで決定」(ねとらぼ)
会田誠さんの作品「檄」、撤去要請を撤回 東京都現代美術館(The Huffington Post)
中学二年生の作品に「こども向けじゃない」 会田誠への「撤去要請」とは何だったのか(エキサイトニュース)
後に会田誠本人と美術館の間にて話し合いがなされたそうです。結果的には当初のプラン通り展示は続行。撤去は行われることなく、今も檄文は掲げられています。
それこそ美術館のあるべき場所を問うかのような事件。もちろん作品への批判はあってしかるべきですが、少なくとも美術館が作家に対して作品の撤去を要請するということ自体は適切だと思えません。
ただし断片的な報道や関係者によるWEB上の見解では真相がなかなか見えにくい面もありました。改めて事実を整理するという点からも、何かしら美術館としての直接的な声明があっても良いのではないでしょうか。
10月12日まで開催されています。
「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:7月18日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/20、9/21、10/12は開館。7/21、9/24は休館。
時間:10:00~18:00。
*7~9月の金曜日は21時まで開館。
*入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大学生・65歳以上800(640)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。同時開催の「ニューマイヤー展」、「きかんしゃトーマスとなかまたち」との2展、3展セット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「絵の音を聴く」 根津美術館
根津美術館
「コレクション展 絵の音を聴く 雨と風、鳥のさえずり、人の声」
7/30-9/6
根津美術館で開催中の「コレクション展 絵の音を聴く 雨と風、鳥のさえずり、人の声」を見てきました。
ゴウゴウと轟く水の音に、小鳥のさえずり。そして賑わう街から伝わる人々の声。むろん現実に聞こえるわけではありませんが、少し想像を働かせれば、絵の中から様々な音を感じとれるのではないでしょうか。
主に日本絵画における音に着目した展覧会です。作品のほぼ全ては根津美術館のコレクション。室町から江戸時代までの墨画、軸画、また屏風絵など30点弱が展示されています。
さてはじめにも触れたゴウゴウと轟く音。チラシ表紙を飾るのは鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」。まさに溢れんばかりの水流です。実際にこうした景色の前へ立てば、きっと水の激しく流れる音が聞こえてくるに相違ありません。
鈴木其一「夏秋渓流図屏風」(右隻) 江戸時代 19世紀 根津美術館
右隻は夏、左隻が秋。檜林です。眩い金地を背景に青々と、しかも粘り気を帯びたような水流が岩場を落ちています。緑色に広がるのは苔でしょうか。白い百合と朱色に染まった葉っぱ。うち何枚かは風に煽られて水の中へ落ちようとしています。一瞬を切り取ったのでしょうか。ぴたりと静止しています。劇的ながら、どこか時間がとまっているかのようでもあります。
鈴木其一「夏秋渓流図屏風」(左隻) 江戸時代 19世紀 根津美術館
水の音。ただしここでより着目したいのは虫の音でした。良く指摘されることではありますが、実は本作には一匹の蝉がさも隠れるように描かれているのです。
右隻の一際太い檜の幹の上部です。そこに横向きになって確かに蝉がとまっています。ミンミンと鳴いているのかもしれません。時を静止して捉えた屏風。水の動きはとまり、蝉の鳴き声だけが響いているようにも映ります。色彩しかり、前衛的ともとれる其一の表現。そこに言わばトリッキーな仕掛けがなされているのかもしれません。
久隅守景「舞楽図屏風」(左隻) 江戸時代 17世紀 根津美術館
雅やかな音楽が聞こえてくるかのようです。久隅守景が描いたのは「舞楽図屏風」。右隻に太平楽、左隻には納曽利と蘭陵王。二人舞と一人舞です。余白の使い方が絶妙です。左右の端には楽人たちが音楽を奏でる様子が描かれています。
それにしても久隅の細やかな筆には驚きました。舞人たちの衣装はもちろんのこと、笙の竹管の一本一本まで色彩のニュアンスを変化させています。
雪村周継「龍虎図屏風」(左隻) 室町時代 16世紀 根津美術館
大嵐です。波立つ水に風の音が加わりました。雪村周継の「龍虎図屏風」です。右には波を従えて龍がのぼり、左には滝を背にした虎が辺りを伺っています。古来から龍が唸れば雲が沸き、虎が吠えると風が起こるという謂れがあるそうです。それにしても雪村のダイナミックな画面構成と言ったら比類がありません。激しい。竹は風を折れ、波濤はまるで触手のように伸びています。一方で虎が猫のように見えるのはご愛嬌でしょうか。墨の濃淡を利用しては大気の充満する様を巧みに表していました。
昨年の修復を経て初めての展示だそうです。「近江伊勢名所図屏風」は右に近江、左に伊勢の街並みを描いたもの。時は江戸時代。近江の中央に見えるのは瀬田の橋でしょうか。右上には三井寺も望みます。手前には店がひしめきあい、多くの人が行き交っています。細部を覗けば街の喧噪が聞こえてくるようでした。
池大雅「洞庭赤壁図巻」 江戸時代 明和8年(1771) 個人蔵
中国の名勝を画巻に表した池大雅の「洞庭赤壁絵巻」も見どころの一つではないでしょうか。ほかにも仏画の中に描かれた楽器や花鳥画の鳥にも音を感じとることが出来ます。実のところ「夏秋渓流図屏風」を目当てに出かけましたが、ありそうで意外となかった絵の中の音を聞こうとする試み。また普段とは違った感覚で絵に接することが出来ました。
なおコレクションに引き続いてのテーマ展ではお馴染みの青銅器のほか、実業家福島静子氏の収集した蒔絵コレクションなどが紹介されています。さらにラストは季節に因んだ茶道具を見せる「清秋を楽しむ茶」です。ここでは「堅手茶碗 銘 長崎」や本阿弥光甫の「焼締茶碗 銘 武蔵野」などの優品に目を引かれました。
9月6日まで開催されています。
「コレクション展 絵の音を聴く 雨と風、鳥のさえずり、人の声」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:7月30日(木)~9月6日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
「コレクション展 絵の音を聴く 雨と風、鳥のさえずり、人の声」
7/30-9/6
根津美術館で開催中の「コレクション展 絵の音を聴く 雨と風、鳥のさえずり、人の声」を見てきました。
ゴウゴウと轟く水の音に、小鳥のさえずり。そして賑わう街から伝わる人々の声。むろん現実に聞こえるわけではありませんが、少し想像を働かせれば、絵の中から様々な音を感じとれるのではないでしょうか。
主に日本絵画における音に着目した展覧会です。作品のほぼ全ては根津美術館のコレクション。室町から江戸時代までの墨画、軸画、また屏風絵など30点弱が展示されています。
さてはじめにも触れたゴウゴウと轟く音。チラシ表紙を飾るのは鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」。まさに溢れんばかりの水流です。実際にこうした景色の前へ立てば、きっと水の激しく流れる音が聞こえてくるに相違ありません。
鈴木其一「夏秋渓流図屏風」(右隻) 江戸時代 19世紀 根津美術館
右隻は夏、左隻が秋。檜林です。眩い金地を背景に青々と、しかも粘り気を帯びたような水流が岩場を落ちています。緑色に広がるのは苔でしょうか。白い百合と朱色に染まった葉っぱ。うち何枚かは風に煽られて水の中へ落ちようとしています。一瞬を切り取ったのでしょうか。ぴたりと静止しています。劇的ながら、どこか時間がとまっているかのようでもあります。
鈴木其一「夏秋渓流図屏風」(左隻) 江戸時代 19世紀 根津美術館
水の音。ただしここでより着目したいのは虫の音でした。良く指摘されることではありますが、実は本作には一匹の蝉がさも隠れるように描かれているのです。
右隻の一際太い檜の幹の上部です。そこに横向きになって確かに蝉がとまっています。ミンミンと鳴いているのかもしれません。時を静止して捉えた屏風。水の動きはとまり、蝉の鳴き声だけが響いているようにも映ります。色彩しかり、前衛的ともとれる其一の表現。そこに言わばトリッキーな仕掛けがなされているのかもしれません。
久隅守景「舞楽図屏風」(左隻) 江戸時代 17世紀 根津美術館
雅やかな音楽が聞こえてくるかのようです。久隅守景が描いたのは「舞楽図屏風」。右隻に太平楽、左隻には納曽利と蘭陵王。二人舞と一人舞です。余白の使い方が絶妙です。左右の端には楽人たちが音楽を奏でる様子が描かれています。
それにしても久隅の細やかな筆には驚きました。舞人たちの衣装はもちろんのこと、笙の竹管の一本一本まで色彩のニュアンスを変化させています。
雪村周継「龍虎図屏風」(左隻) 室町時代 16世紀 根津美術館
大嵐です。波立つ水に風の音が加わりました。雪村周継の「龍虎図屏風」です。右には波を従えて龍がのぼり、左には滝を背にした虎が辺りを伺っています。古来から龍が唸れば雲が沸き、虎が吠えると風が起こるという謂れがあるそうです。それにしても雪村のダイナミックな画面構成と言ったら比類がありません。激しい。竹は風を折れ、波濤はまるで触手のように伸びています。一方で虎が猫のように見えるのはご愛嬌でしょうか。墨の濃淡を利用しては大気の充満する様を巧みに表していました。
昨年の修復を経て初めての展示だそうです。「近江伊勢名所図屏風」は右に近江、左に伊勢の街並みを描いたもの。時は江戸時代。近江の中央に見えるのは瀬田の橋でしょうか。右上には三井寺も望みます。手前には店がひしめきあい、多くの人が行き交っています。細部を覗けば街の喧噪が聞こえてくるようでした。
池大雅「洞庭赤壁図巻」 江戸時代 明和8年(1771) 個人蔵
中国の名勝を画巻に表した池大雅の「洞庭赤壁絵巻」も見どころの一つではないでしょうか。ほかにも仏画の中に描かれた楽器や花鳥画の鳥にも音を感じとることが出来ます。実のところ「夏秋渓流図屏風」を目当てに出かけましたが、ありそうで意外となかった絵の中の音を聞こうとする試み。また普段とは違った感覚で絵に接することが出来ました。
なおコレクションに引き続いてのテーマ展ではお馴染みの青銅器のほか、実業家福島静子氏の収集した蒔絵コレクションなどが紹介されています。さらにラストは季節に因んだ茶道具を見せる「清秋を楽しむ茶」です。ここでは「堅手茶碗 銘 長崎」や本阿弥光甫の「焼締茶碗 銘 武蔵野」などの優品に目を引かれました。
9月6日まで開催されています。
「コレクション展 絵の音を聴く 雨と風、鳥のさえずり、人の声」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:7月30日(木)~9月6日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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「堂島リバービエンナーレ2015」 堂島リバーフォーラム
堂島リバーフォーラム
「堂島リバービエンナーレ2015」
7/25~8/30
堂島リバーフォーラムで行われている堂島リバービエンナーレを見てきました。
大阪は中之島、堂島川北のリバーフォーラムを舞台に開催されてきた堂島リバービエンナーレ。今年で4回目だそうです。
ディレクターはイギリス人のトム・トレバー。テーマは「Take Me To The Riverー同時代性の潮流」です。国内外の計15組のアーティストが作品を展示しています。
会場内、撮影が出来ました。
さて展示、テーマからしても、ともかく水、あるいは川を連想させるインスタレーションが目立ちます。
島袋道浩「浮くもの/沈むもの」 2010年
目の前の堂島川を借景にしているのが島袋道浩です。「浮くもの/沈むもの」と題された2点の作品、盥です。50センチ以上ある盥に水が張られ、そのにはレモンでしょうか。またトマトがそれぞれ2つずつ入れられています。
浮くもの、沈むもの。確かに各々1つだけは浮き、またもう1つは沈んでいることが見て取れます。
島袋道浩「浮くもの/沈むもの」 2010年
さらに不思議なのは浮く野菜が沈む野菜の周りをぐるぐると回っていることです。盥の中には水流の発生装置が付けられていましたが、どのように調整すればかくも器用に野菜が浮き、また回るのでしょうか。見当もつきません。
スーパーフレックス「水没したマクドナルド」 2008年
ショッキングです。溢れんばかりの水が店舗を飲み込みます。デンマークのスーパーフレックスが手がけたのは「水没するマクドナルド」。映像です。まさに読んで字のごとくとはこのことでしょう。本物の店舗なのでしょうか。世界共通、どこへ行っても変わらないマクドナルドの店舗へなだれ込むのは大量の水。かなりの勢いがあります。次第に水位はあがり、レジカウンターの高さまで迫りました。いとも簡単にドナルドが水に飲み込まれます。何時しかポテトや包装紙やらも巻き込み濁流と化していました。
制作は2008年。しかしながらどうしてもあの惨たらしい津波の様子を思い出してなりませんでした。
笹本晃「トーキング・イン・サークルズ・トーキング」 2015年
笹本晃は氷を取り込みました。暗がりで宙づりになるたくさんの氷の円い板。一つ一つが紐で縛られていますが、中に何かが入っていました。たとえば眼鏡です。水と一緒に凍らされたのでしょう。レンズは完全に氷の中にあります。フレームの一部のみがはみ出していました。
笹本晃「トーキング・イン・サークルズ・トーキング」 2015年
そして聞こえるのはポタポタと滴る水の音です。下にはステンレス製のボールでしょうか。それが置かれ、水が跳ねています。この暑い時期、クーラーがあれども氷はすぐに溶けてしまうはず。最後は無くなって眼鏡も落下するのでしょうか。
プレイ「IE:PLAY HAVE A HOUSE」 2015年
実際の川に沿ったプロジェクトを行ったグループがいます。プレイです。1967年に関西を拠点に結成されたアーティスト集団。舞台は淀川です。1970年代初頭に作られた「IE」なる家を再現。当時、この家を川に浮かべては6日間過ごしたそうですが、今年になって再びIEを川に下ろしては過ごしました。
プレイ「IE:PLAY HAVE A HOUSE」 2015年
管理は行政にあるとはいえ、本来は何者のものでもない川に家を半ば建てては暮らすという試み。プレイは「理由がなく」、「ただ開放されたら永遠の時間と空間のみ」(解説シートより)を求めるという表現を行っているそうです。
下道基行「漂泊之碑」 2014-2015年
下道基行も海や川をテーマにした作品を展示しています。波打ち際を映したカウンター、並ぶのはガラスのボトル。高さも大きさもまちまちです。中にはかなり汚れているものもあります。
結論からすればこれは沖縄の海岸で拾ったもの。ただし下道はそれだけに留まらず、このガラスを溶かしては新たなる容器を作るという取り組みも行っています。言われてみればボトルの前はいくつか小さなコップがありました。海を漂流したゴミに再び息吹を与えているということなのかもしれません。
池田亮司「data.tecture [3SXGA+ version]」 2015年
最大のスペースを用いているのが池田亮司です。長さ20メートルはあるでしょうか。巨大なフロアの床にて展開されるのは得意の映像プロジェクション。データの断片なのか、ノイズも交じる軽快なサウンドの元、次から次へとイメージがスピーディーに変容していきます。
池田亮司「data.tecture [3SXGA+ version]」 2015年
川の流れを模しているのかもしれません。横に繋がり、次第に縦へ、そして奥から手前へと網の目のように広がるデータ。スピード感があります。上にあがれました。さも波に揺れるかのようにデータに乗っては、流れに身を任せることも出来ます。
東京都現代美術館での個展を思い出しました。確かに大変なスケール感です。ビエンナーレのハイライトと言えるかもしれません。
照屋勇賢「告知ー森」 2005年
他にはショッピングバックの切り抜きで知られる照屋勇賢のほか、ヴェネチア・ビエンナーレのドイツ館の代表作家であるヒト・スタヤルなどのインスタレーションも目を引きました。
メラニー・ジャクソン「不快な人々」 2007年
リバーフォーラム内、地下1階から4階までの大小様々なスペースで繰り広げられている展示です。実は今年初めての観覧でしたが、思っていたより分量がありました。また映像が多めです。ある程度時間に余裕をもって出かけられることをおすすめします。
4階の展示のみ他の会場と入口が異なりました。受付で案内がありますが、お見逃しなきようご注意下さい。
堂島リバーフォーラム
リバーフォーラムと川を挟んだ南側、国立国際美術館のティルマンス展の半券を提示すると観覧料が200円引になりました。あわせて見るのも楽しいのではないでしょうか。
8月30日まで開催されています。
「堂島リバービエンナーレ2015」(@BIENNALE2015) 堂島リバーフォーラム
会期:7月25日(土)~8月30日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、高校・大学生700円、小学・中学生500円。
住所:大阪市福島区福島1-1-17
交通:JR東西線新福島駅、阪神本線阪神福島駅、京阪中之島線中之島駅から徒歩約5分。
「堂島リバービエンナーレ2015」
7/25~8/30
堂島リバーフォーラムで行われている堂島リバービエンナーレを見てきました。
大阪は中之島、堂島川北のリバーフォーラムを舞台に開催されてきた堂島リバービエンナーレ。今年で4回目だそうです。
ディレクターはイギリス人のトム・トレバー。テーマは「Take Me To The Riverー同時代性の潮流」です。国内外の計15組のアーティストが作品を展示しています。
会場内、撮影が出来ました。
さて展示、テーマからしても、ともかく水、あるいは川を連想させるインスタレーションが目立ちます。
島袋道浩「浮くもの/沈むもの」 2010年
目の前の堂島川を借景にしているのが島袋道浩です。「浮くもの/沈むもの」と題された2点の作品、盥です。50センチ以上ある盥に水が張られ、そのにはレモンでしょうか。またトマトがそれぞれ2つずつ入れられています。
浮くもの、沈むもの。確かに各々1つだけは浮き、またもう1つは沈んでいることが見て取れます。
島袋道浩「浮くもの/沈むもの」 2010年
さらに不思議なのは浮く野菜が沈む野菜の周りをぐるぐると回っていることです。盥の中には水流の発生装置が付けられていましたが、どのように調整すればかくも器用に野菜が浮き、また回るのでしょうか。見当もつきません。
スーパーフレックス「水没したマクドナルド」 2008年
ショッキングです。溢れんばかりの水が店舗を飲み込みます。デンマークのスーパーフレックスが手がけたのは「水没するマクドナルド」。映像です。まさに読んで字のごとくとはこのことでしょう。本物の店舗なのでしょうか。世界共通、どこへ行っても変わらないマクドナルドの店舗へなだれ込むのは大量の水。かなりの勢いがあります。次第に水位はあがり、レジカウンターの高さまで迫りました。いとも簡単にドナルドが水に飲み込まれます。何時しかポテトや包装紙やらも巻き込み濁流と化していました。
制作は2008年。しかしながらどうしてもあの惨たらしい津波の様子を思い出してなりませんでした。
笹本晃「トーキング・イン・サークルズ・トーキング」 2015年
笹本晃は氷を取り込みました。暗がりで宙づりになるたくさんの氷の円い板。一つ一つが紐で縛られていますが、中に何かが入っていました。たとえば眼鏡です。水と一緒に凍らされたのでしょう。レンズは完全に氷の中にあります。フレームの一部のみがはみ出していました。
笹本晃「トーキング・イン・サークルズ・トーキング」 2015年
そして聞こえるのはポタポタと滴る水の音です。下にはステンレス製のボールでしょうか。それが置かれ、水が跳ねています。この暑い時期、クーラーがあれども氷はすぐに溶けてしまうはず。最後は無くなって眼鏡も落下するのでしょうか。
プレイ「IE:PLAY HAVE A HOUSE」 2015年
実際の川に沿ったプロジェクトを行ったグループがいます。プレイです。1967年に関西を拠点に結成されたアーティスト集団。舞台は淀川です。1970年代初頭に作られた「IE」なる家を再現。当時、この家を川に浮かべては6日間過ごしたそうですが、今年になって再びIEを川に下ろしては過ごしました。
プレイ「IE:PLAY HAVE A HOUSE」 2015年
管理は行政にあるとはいえ、本来は何者のものでもない川に家を半ば建てては暮らすという試み。プレイは「理由がなく」、「ただ開放されたら永遠の時間と空間のみ」(解説シートより)を求めるという表現を行っているそうです。
下道基行「漂泊之碑」 2014-2015年
下道基行も海や川をテーマにした作品を展示しています。波打ち際を映したカウンター、並ぶのはガラスのボトル。高さも大きさもまちまちです。中にはかなり汚れているものもあります。
結論からすればこれは沖縄の海岸で拾ったもの。ただし下道はそれだけに留まらず、このガラスを溶かしては新たなる容器を作るという取り組みも行っています。言われてみればボトルの前はいくつか小さなコップがありました。海を漂流したゴミに再び息吹を与えているということなのかもしれません。
池田亮司「data.tecture [3SXGA+ version]」 2015年
最大のスペースを用いているのが池田亮司です。長さ20メートルはあるでしょうか。巨大なフロアの床にて展開されるのは得意の映像プロジェクション。データの断片なのか、ノイズも交じる軽快なサウンドの元、次から次へとイメージがスピーディーに変容していきます。
池田亮司「data.tecture [3SXGA+ version]」 2015年
川の流れを模しているのかもしれません。横に繋がり、次第に縦へ、そして奥から手前へと網の目のように広がるデータ。スピード感があります。上にあがれました。さも波に揺れるかのようにデータに乗っては、流れに身を任せることも出来ます。
東京都現代美術館での個展を思い出しました。確かに大変なスケール感です。ビエンナーレのハイライトと言えるかもしれません。
照屋勇賢「告知ー森」 2005年
他にはショッピングバックの切り抜きで知られる照屋勇賢のほか、ヴェネチア・ビエンナーレのドイツ館の代表作家であるヒト・スタヤルなどのインスタレーションも目を引きました。
メラニー・ジャクソン「不快な人々」 2007年
リバーフォーラム内、地下1階から4階までの大小様々なスペースで繰り広げられている展示です。実は今年初めての観覧でしたが、思っていたより分量がありました。また映像が多めです。ある程度時間に余裕をもって出かけられることをおすすめします。
4階の展示のみ他の会場と入口が異なりました。受付で案内がありますが、お見逃しなきようご注意下さい。
堂島リバーフォーラム
リバーフォーラムと川を挟んだ南側、国立国際美術館のティルマンス展の半券を提示すると観覧料が200円引になりました。あわせて見るのも楽しいのではないでしょうか。
8月30日まで開催されています。
「堂島リバービエンナーレ2015」(@BIENNALE2015) 堂島リバーフォーラム
会期:7月25日(土)~8月30日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、高校・大学生700円、小学・中学生500円。
住所:大阪市福島区福島1-1-17
交通:JR東西線新福島駅、阪神本線阪神福島駅、京阪中之島線中之島駅から徒歩約5分。
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「山下清とその仲間たちの作品展」 市川市文学ミュージアム
市川市文学ミュージアム
「描くことが生きることー山下清とその仲間たちの作品展」
6/13-8/30
市川市文学ミュージアムで開催中の「描くことが生きることー山下清とその仲間たちの作品展」を見てきました。
ちぎり絵で知られ、放浪の画家とも称される山下清。彼が画家としての才能を開化させた切っ掛けの一つに、市川市の知的発達障害児入園施設、八幡学園での生活がありました。
その八幡学園を中核に山下の画業を辿る展覧会です。また重要なのは「その仲間たち」。仲間とは学園に入園していた生徒のことです。いずれも重い障害を抱えていましたが、クレパスやクレヨン画の制作に取り組んでいました。そうした仲間の残した作品も紹介しています。
八幡学園が設立されたのは昭和3年です。創立者の久保寺保久が90坪の自邸を開放。全国で8番目の私立の知的障害児保護施設として開園しました。山下が学園にやって来たのは昭和9年です。当時小学5年生。ここで学園が園児のために課したちぎり絵と出会いました。
展示も最初期、入園時のちぎり絵から始まります。作品は「金魚」や「蝶々」。身近な小動物です。まだ素朴極まりないものですが、翌年の「クリスマス」では園内でのクリスマスイベントの光景を描いています。床の木目、紅白のクリスマスの飾りなどもちぎった紙で表現。昭和12年の「りはつ」はどうでしょうか。園内での散髪です。理容師が何名もの園児へハサミを入れる姿などを描いています。
画家、安井曾太郎が山下の絵を賞賛したのもこの頃でした。安井は学園の教育に関心を持ち、昭和11年に「八幡学園特異児童作品集」を刊行。園児たちの制作した絵画をまとめます。その表紙を山下が手がけたのでしょうか。「花とトンボ」では作品集の題字とともに、紫の菊、そしてトンボがちぎり絵で表されていました。
いわゆる放浪前のちぎり絵には市川の景色が頻繁に登場しています。例えば「江戸川の花火」です。山下が終生、得意とした花火の光景。舞台はもちろん市川を南北に流れる江戸川です。手前には花火を見やる群衆の後ろ姿があり、川面にはたくさんの屋形船が浮かんでいます。そして夜空には大輪の花火が開く。早くも半ば完成された画風を見ることが出来ました。
学園のちぎり絵の色紙は8色でしたが、山下は裏面も使って倍の色を表現しました。また明暗の対比を強調していたのも特徴です。一本の木の肌にも陰影を付けています。さらに作業を効率化するため、ちぎり紙に糊を付けるのではなく、先に画用紙に糊を塗っては紙を貼っていたそうです。
昭和15年11月、山下は突如学園から出奔。以後、何と15年にも及ぶ放浪生活を送ります。
彼は「学園が飽きた」との言葉を残しているそうですが、既に都内でも展示を行うほど有名になっていたちぎり絵です。学園に参観する人が山下の制作を頻繁に覗き込むことも少なくありませんでした。それもストレスになったのかもしれません。また太平洋戦争開戦間近でもあります。徴兵への恐怖心もあったのではないかという指摘もあるそうです。
さて山下の放浪、既に良く知られているように、何も15年間どこにも帰らなかったわけではありません。放浪の期間も時折、学園に戻っては、再びちぎり絵を制作しています。いわば全国各地の風景の記憶を呼び起こしてはちぎり絵に残しています。放浪先で制作することは殆どありませんでした。
戦時下の時代、戦争の色の濃い「大東亜戦争」や「東京の焼けたとこ」も胸を打ちます。後者は焼け野原の東京です。瓦礫のみが広がり、電柱でしょうか。それだけがポツポツ立っているように見えます。何とも惨たらしい。きっと山下の心の中にも深く刻まれたに相違ありません。
後に山下はヨーロッパへも渡り、水彩や陶磁器などの幅広い制作を行ったそうですが、本展の基本になるのは八幡学園とちぎり絵。数点の鉛筆画と「両国の花火」などの油彩画の他は、今も八幡学園の所蔵するちぎり絵のみで構成されています。
さて後半は「その仲間たち」。三名です。その名は石川謙二、沼祐一、そして野田重博。いわゆる虚弱体質であったという石川は、13歳の頃から「猛然」(チラシより)とクレバス画に取り組みます。そして26歳で亡くなるまで100点もの作品を残しました。一方、「原始芸術の風格」と称されたのが沼です。絵の中には終始、異形、あるいは魔物ともとれるような人物が現れます。いずれも目がつり上がっていて鋭い。鬼気迫るものを感じました。
私が一番惹かれたのが野田重博です。読み書きこそ出来なかったものの、何にでも意欲的に取り組んだという野田。クレヨンだけではなく、色紙などの様々な素材を通して絵画を描きました。「農園芝作業」はどうでしょうか。学園内での出来事かもしれません。土地を耕す男たち。地面などを表した色の分割にセンスを感じました。写実的でなおかつ構図としても面白みがあります。ただ残念ながら彼も20歳という若さで亡くなってしまいました。
なお「山下清とその仲間たちの作品展」は前回の式場隆三郎展との連動企画です。式場自身は学園の顧問医という立場から山下の制作を支援していました。
「炎の人 式場隆三郎」 市川市文学ミュージアム(はろるど)
山下の作品40点余に仲間の作品をあわせて全100点。さらに写真パネルや自筆の日記や関連図書も加わります。山下と仲間を紹介する展覧会。それをはじめにも触れたように八幡学園の活動に引き付けて追っています。つまりはご当地、市川ならではの企画だと言えそうです。
ちなみに式場展の時よりもスペースは倍以上あります。と言うのも本展は企画展示室だけでなく、通常展示フロアへも拡張して展開しているからです。その意味でも見応えがあるのではないでしょうか。
最後にアクセスの情報です。市川市文学ミュージアムの最寄は総武線(都営新宿線)の本八幡駅。そこから徒歩で15分強ほどのメディアパーク(中央図書館)の2階にあります。駅からは少し離れています。
本八幡駅北口ロータリーより発着するニッケコルトンプラザ行きの無料シャトルバスも有用です。コルトンプラザは同市最大のショッピングモール。メディアパークのすぐ北に隣接します。
コルトンプラザ内のバス停から多少歩きますが、特に雨の日には重宝するのではないでしょうか。シャトルバスについてはリンク先のコルトンプラザのWEBサイト(コルトンバスのご案内)をご参照下さい。
8月30日まで開催されています。
「描くことが生きることー山下清とその仲間たちの作品展」 市川市文学ミュージアム
会期:6月13日(土)~8月30日(日)
休館:月曜日。但し7月20日は開館。6月26日、7月21日、7月31日。
料金:一般500(400)円、65歳以上400円、高校・大学生250(200)円、中学生以下無料。
*( )内は25名以上の団体料金。
*式場隆三郎展の利用済チケットを提示すると2割引。
時間:10:00~19:30(平日)、10:00~18:00(土日祝)。最終入場は閉館の30分前まで
住所:千葉県市川市鬼高1-1-4 市川市生涯学習センター2階
交通:JR線・都営新宿線本八幡駅より徒歩15分。京成線鬼越駅より徒歩10分。
「描くことが生きることー山下清とその仲間たちの作品展」
6/13-8/30
市川市文学ミュージアムで開催中の「描くことが生きることー山下清とその仲間たちの作品展」を見てきました。
ちぎり絵で知られ、放浪の画家とも称される山下清。彼が画家としての才能を開化させた切っ掛けの一つに、市川市の知的発達障害児入園施設、八幡学園での生活がありました。
その八幡学園を中核に山下の画業を辿る展覧会です。また重要なのは「その仲間たち」。仲間とは学園に入園していた生徒のことです。いずれも重い障害を抱えていましたが、クレパスやクレヨン画の制作に取り組んでいました。そうした仲間の残した作品も紹介しています。
八幡学園が設立されたのは昭和3年です。創立者の久保寺保久が90坪の自邸を開放。全国で8番目の私立の知的障害児保護施設として開園しました。山下が学園にやって来たのは昭和9年です。当時小学5年生。ここで学園が園児のために課したちぎり絵と出会いました。
展示も最初期、入園時のちぎり絵から始まります。作品は「金魚」や「蝶々」。身近な小動物です。まだ素朴極まりないものですが、翌年の「クリスマス」では園内でのクリスマスイベントの光景を描いています。床の木目、紅白のクリスマスの飾りなどもちぎった紙で表現。昭和12年の「りはつ」はどうでしょうか。園内での散髪です。理容師が何名もの園児へハサミを入れる姿などを描いています。
画家、安井曾太郎が山下の絵を賞賛したのもこの頃でした。安井は学園の教育に関心を持ち、昭和11年に「八幡学園特異児童作品集」を刊行。園児たちの制作した絵画をまとめます。その表紙を山下が手がけたのでしょうか。「花とトンボ」では作品集の題字とともに、紫の菊、そしてトンボがちぎり絵で表されていました。
いわゆる放浪前のちぎり絵には市川の景色が頻繁に登場しています。例えば「江戸川の花火」です。山下が終生、得意とした花火の光景。舞台はもちろん市川を南北に流れる江戸川です。手前には花火を見やる群衆の後ろ姿があり、川面にはたくさんの屋形船が浮かんでいます。そして夜空には大輪の花火が開く。早くも半ば完成された画風を見ることが出来ました。
学園のちぎり絵の色紙は8色でしたが、山下は裏面も使って倍の色を表現しました。また明暗の対比を強調していたのも特徴です。一本の木の肌にも陰影を付けています。さらに作業を効率化するため、ちぎり紙に糊を付けるのではなく、先に画用紙に糊を塗っては紙を貼っていたそうです。
昭和15年11月、山下は突如学園から出奔。以後、何と15年にも及ぶ放浪生活を送ります。
彼は「学園が飽きた」との言葉を残しているそうですが、既に都内でも展示を行うほど有名になっていたちぎり絵です。学園に参観する人が山下の制作を頻繁に覗き込むことも少なくありませんでした。それもストレスになったのかもしれません。また太平洋戦争開戦間近でもあります。徴兵への恐怖心もあったのではないかという指摘もあるそうです。
さて山下の放浪、既に良く知られているように、何も15年間どこにも帰らなかったわけではありません。放浪の期間も時折、学園に戻っては、再びちぎり絵を制作しています。いわば全国各地の風景の記憶を呼び起こしてはちぎり絵に残しています。放浪先で制作することは殆どありませんでした。
戦時下の時代、戦争の色の濃い「大東亜戦争」や「東京の焼けたとこ」も胸を打ちます。後者は焼け野原の東京です。瓦礫のみが広がり、電柱でしょうか。それだけがポツポツ立っているように見えます。何とも惨たらしい。きっと山下の心の中にも深く刻まれたに相違ありません。
後に山下はヨーロッパへも渡り、水彩や陶磁器などの幅広い制作を行ったそうですが、本展の基本になるのは八幡学園とちぎり絵。数点の鉛筆画と「両国の花火」などの油彩画の他は、今も八幡学園の所蔵するちぎり絵のみで構成されています。
さて後半は「その仲間たち」。三名です。その名は石川謙二、沼祐一、そして野田重博。いわゆる虚弱体質であったという石川は、13歳の頃から「猛然」(チラシより)とクレバス画に取り組みます。そして26歳で亡くなるまで100点もの作品を残しました。一方、「原始芸術の風格」と称されたのが沼です。絵の中には終始、異形、あるいは魔物ともとれるような人物が現れます。いずれも目がつり上がっていて鋭い。鬼気迫るものを感じました。
私が一番惹かれたのが野田重博です。読み書きこそ出来なかったものの、何にでも意欲的に取り組んだという野田。クレヨンだけではなく、色紙などの様々な素材を通して絵画を描きました。「農園芝作業」はどうでしょうか。学園内での出来事かもしれません。土地を耕す男たち。地面などを表した色の分割にセンスを感じました。写実的でなおかつ構図としても面白みがあります。ただ残念ながら彼も20歳という若さで亡くなってしまいました。
なお「山下清とその仲間たちの作品展」は前回の式場隆三郎展との連動企画です。式場自身は学園の顧問医という立場から山下の制作を支援していました。
「炎の人 式場隆三郎」 市川市文学ミュージアム(はろるど)
山下の作品40点余に仲間の作品をあわせて全100点。さらに写真パネルや自筆の日記や関連図書も加わります。山下と仲間を紹介する展覧会。それをはじめにも触れたように八幡学園の活動に引き付けて追っています。つまりはご当地、市川ならではの企画だと言えそうです。
ちなみに式場展の時よりもスペースは倍以上あります。と言うのも本展は企画展示室だけでなく、通常展示フロアへも拡張して展開しているからです。その意味でも見応えがあるのではないでしょうか。
最後にアクセスの情報です。市川市文学ミュージアムの最寄は総武線(都営新宿線)の本八幡駅。そこから徒歩で15分強ほどのメディアパーク(中央図書館)の2階にあります。駅からは少し離れています。
本八幡駅北口ロータリーより発着するニッケコルトンプラザ行きの無料シャトルバスも有用です。コルトンプラザは同市最大のショッピングモール。メディアパークのすぐ北に隣接します。
コルトンプラザ内のバス停から多少歩きますが、特に雨の日には重宝するのではないでしょうか。シャトルバスについてはリンク先のコルトンプラザのWEBサイト(コルトンバスのご案内)をご参照下さい。
8月30日まで開催されています。
「描くことが生きることー山下清とその仲間たちの作品展」 市川市文学ミュージアム
会期:6月13日(土)~8月30日(日)
休館:月曜日。但し7月20日は開館。6月26日、7月21日、7月31日。
料金:一般500(400)円、65歳以上400円、高校・大学生250(200)円、中学生以下無料。
*( )内は25名以上の団体料金。
*式場隆三郎展の利用済チケットを提示すると2割引。
時間:10:00~19:30(平日)、10:00~18:00(土日祝)。最終入場は閉館の30分前まで
住所:千葉県市川市鬼高1-1-4 市川市生涯学習センター2階
交通:JR線・都営新宿線本八幡駅より徒歩15分。京成線鬼越駅より徒歩10分。
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「曜変天目茶碗と日本の美」 サントリー美術館
サントリー美術館
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」
8/5-9/27
サントリー美術館で開催中の「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」を見てきました。
大阪は都島区、大阪城にもほど近い大川沿いに位置する藤田美術館。明治の政商、藤田傳三郎の蒐集した東洋古美術品を公開。現在では国宝9件、重文52件をはじめとする2111件の品が収められています。
その藤田美術館の所蔵品が箱根を越えてやって来ました。東京では初めてのコレクション展です。出品は約130件。また表題もチラシも曜変天目押しですが、なにも陶芸一辺倒の展示ではありません。仏教美術、絵画、墨跡、工芸などの幅広いジャンルの作品が紹介されています。
冒頭は仏教美術でした。明治初期、いわゆる廃仏毀釈により仏教美術が破壊されていく過程を目にした藤田傳三郎は、これを憂慮しては、阻止していく活動を展開していきます。端的には私財の投入です。当時、海外へ散逸しつつあった仏教美術品を積極的に購入しました。
国宝「両部大経感得図」 藤原宗弘筆 左幅 保延2年(1136) 藤田美術館
一例が「両部大経感得図」です。伝来は天理の内山永久寺。件の廃仏毀釈で廃寺となっていました。主題は大日経と金剛頂経の由来です。二幅の大作、これが実に立派で素晴らしい。特に左幅に注目です。大きな塔がほぼ中央にそびえ立ちます。扉が開いていました。中にひしめき合うのは経典の守護神です。入口にいる僧と押し問答をしているように見えます。
僧の名は龍猛です。金剛頂経を求めてやって来ました。結果的に彼は中に入り、経典を暗記。そして世に伝えたそうです。
国宝「玄奘三蔵絵」 部分 鎌倉時代(14世紀) 藤田美術館
「玄奘三蔵絵」も興味深いのではないでしょうか。主役は三蔵法師です。若くしてインドに渡ろうとした法師は須弥山に登る夢を見ます。大海原の中の須弥山。荒れ狂う波の合間には魔物のような動物もいます。とても辿り着けそうもありません。すると法師の前に蓮の花が現れました。それに乗っては山へと進み行きます。奇蹟ということかもしれません。波の描線からして繊細です。臨場感がありました。
重要文化財「地蔵菩薩立像」 快慶作 鎌倉時代(13世紀) 藤田美術館
仏像では「地蔵菩薩立像」に惹かれました。作は快慶です。一目で見て分かるのは保存状態が良いこと。着衣の色彩は鮮やかで、光背などの細かな透かし彫りにも欠落がありません。
書に驚くほど魅惑的な作品がありました。「深窓秘抄」です。勅撰和歌集から百一首の和歌を写したもの。やや丸みを帯びた仮名の姿に見惚れてしまいますが、料紙も負けてはいません。飛雲です。藍や紫の繊維を漉き込んでいます。これが実に効果的です。仮名と料紙が織りなす美の世界。まさしく和様の書の傑作としても良いかもしれません。
実業家として政財界の人物にも幅広く交流していた藤田傳三郎。社交場として茶会にも頻繁に参加していたそうです。ゆえに藤田コレクションの中核をなすのが茶道具。本展でも一つのハイライトと言えるのではないでしょうか。
世界で4例しか現存していない曜変天目のうちの一つです。水戸の徳川家から伝わったという茶碗。実のところ藤田美術館の曜変天目は私も初めて見ました。
国宝「曜変天目茶碗」 中国・南宋時代(12~13世紀) 藤田美術館
まさに器の中に宇宙が見えるとまで称される天目。ライティングの妙味もあるのでしょう。内の煌めきは思いの外に鮮やかでした。瑠璃色に散る斑紋はまるで銀河。また外側も曜変しています。微かに瞬くの星空と言っても良いかもしれません。内に比べてか弱い光。角度を変えれば違った表情を見せてきます。小さな器の中に広がる深淵な世界。中央の底部はブラックホールとしたら言い過ぎかもしれません。ただそれでも覗き込んでいると引込まれそうになります。
ほかにも「菊花天目茶碗」に「古井戸茶碗 銘 面影」、そしてノンコウこと道入作の「赤楽茶碗 銘 小町」などの優品もずらり。また本阿弥光甫の「空中信楽釣花入」も趣き深いのではないでしょうか。ゴツゴツとした独特の質感に歪み。表情は意外と豊かでした。
「大獅子図」 竹内栖鳳筆 明治35年(1902)頃 藤田美術館
竹内栖鳳の名高い「大獅子図」も藤田コレクションです。渡欧した際、当時の日本にはいなかったライオンを写生しては描いたという大作。上睨みで口を開いたライオンの迫力と言えば並大抵ではありません。またライオンの毛の感触を描き分けている点も巧みです。硬軟織り交ぜての筆さばき。これぞ技の栖鳳と言うべき一枚でした。
展示替えの情報です。全130点のうち、会期中に一度、約45点ほどの作品が入れ替わります。
「国宝曜変天目茶碗と日本の美」出品リスト(PDF)
展示替えは8月末です。よって前後期にそれぞれ各一回ずつ観覧すると、おおむね全ての作品を見ることが出来ます。
前期:8月5日(水)~8月31日(月)
後期:9月2日(水)~9月27日(日)
まさに眼福の古美術コレクション展です。館内はなかなかの盛況でした。ひょっとすると後半にかけて混雑してくるかもしれません。
[藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美 巡回予定]
福岡市美術館:2015年10月6日(火)~11月23日(月・祝)
9月27日まで開催されています。おすすめします。
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:8月5日(水)~9月27日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*金・土・および9月20日(日)、21日(月・祝)、22日(火・休)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」
8/5-9/27
サントリー美術館で開催中の「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」を見てきました。
大阪は都島区、大阪城にもほど近い大川沿いに位置する藤田美術館。明治の政商、藤田傳三郎の蒐集した東洋古美術品を公開。現在では国宝9件、重文52件をはじめとする2111件の品が収められています。
その藤田美術館の所蔵品が箱根を越えてやって来ました。東京では初めてのコレクション展です。出品は約130件。また表題もチラシも曜変天目押しですが、なにも陶芸一辺倒の展示ではありません。仏教美術、絵画、墨跡、工芸などの幅広いジャンルの作品が紹介されています。
冒頭は仏教美術でした。明治初期、いわゆる廃仏毀釈により仏教美術が破壊されていく過程を目にした藤田傳三郎は、これを憂慮しては、阻止していく活動を展開していきます。端的には私財の投入です。当時、海外へ散逸しつつあった仏教美術品を積極的に購入しました。
国宝「両部大経感得図」 藤原宗弘筆 左幅 保延2年(1136) 藤田美術館
一例が「両部大経感得図」です。伝来は天理の内山永久寺。件の廃仏毀釈で廃寺となっていました。主題は大日経と金剛頂経の由来です。二幅の大作、これが実に立派で素晴らしい。特に左幅に注目です。大きな塔がほぼ中央にそびえ立ちます。扉が開いていました。中にひしめき合うのは経典の守護神です。入口にいる僧と押し問答をしているように見えます。
僧の名は龍猛です。金剛頂経を求めてやって来ました。結果的に彼は中に入り、経典を暗記。そして世に伝えたそうです。
国宝「玄奘三蔵絵」 部分 鎌倉時代(14世紀) 藤田美術館
「玄奘三蔵絵」も興味深いのではないでしょうか。主役は三蔵法師です。若くしてインドに渡ろうとした法師は須弥山に登る夢を見ます。大海原の中の須弥山。荒れ狂う波の合間には魔物のような動物もいます。とても辿り着けそうもありません。すると法師の前に蓮の花が現れました。それに乗っては山へと進み行きます。奇蹟ということかもしれません。波の描線からして繊細です。臨場感がありました。
重要文化財「地蔵菩薩立像」 快慶作 鎌倉時代(13世紀) 藤田美術館
仏像では「地蔵菩薩立像」に惹かれました。作は快慶です。一目で見て分かるのは保存状態が良いこと。着衣の色彩は鮮やかで、光背などの細かな透かし彫りにも欠落がありません。
書に驚くほど魅惑的な作品がありました。「深窓秘抄」です。勅撰和歌集から百一首の和歌を写したもの。やや丸みを帯びた仮名の姿に見惚れてしまいますが、料紙も負けてはいません。飛雲です。藍や紫の繊維を漉き込んでいます。これが実に効果的です。仮名と料紙が織りなす美の世界。まさしく和様の書の傑作としても良いかもしれません。
実業家として政財界の人物にも幅広く交流していた藤田傳三郎。社交場として茶会にも頻繁に参加していたそうです。ゆえに藤田コレクションの中核をなすのが茶道具。本展でも一つのハイライトと言えるのではないでしょうか。
世界で4例しか現存していない曜変天目のうちの一つです。水戸の徳川家から伝わったという茶碗。実のところ藤田美術館の曜変天目は私も初めて見ました。
国宝「曜変天目茶碗」 中国・南宋時代(12~13世紀) 藤田美術館
まさに器の中に宇宙が見えるとまで称される天目。ライティングの妙味もあるのでしょう。内の煌めきは思いの外に鮮やかでした。瑠璃色に散る斑紋はまるで銀河。また外側も曜変しています。微かに瞬くの星空と言っても良いかもしれません。内に比べてか弱い光。角度を変えれば違った表情を見せてきます。小さな器の中に広がる深淵な世界。中央の底部はブラックホールとしたら言い過ぎかもしれません。ただそれでも覗き込んでいると引込まれそうになります。
ほかにも「菊花天目茶碗」に「古井戸茶碗 銘 面影」、そしてノンコウこと道入作の「赤楽茶碗 銘 小町」などの優品もずらり。また本阿弥光甫の「空中信楽釣花入」も趣き深いのではないでしょうか。ゴツゴツとした独特の質感に歪み。表情は意外と豊かでした。
「大獅子図」 竹内栖鳳筆 明治35年(1902)頃 藤田美術館
竹内栖鳳の名高い「大獅子図」も藤田コレクションです。渡欧した際、当時の日本にはいなかったライオンを写生しては描いたという大作。上睨みで口を開いたライオンの迫力と言えば並大抵ではありません。またライオンの毛の感触を描き分けている点も巧みです。硬軟織り交ぜての筆さばき。これぞ技の栖鳳と言うべき一枚でした。
展示替えの情報です。全130点のうち、会期中に一度、約45点ほどの作品が入れ替わります。
「国宝曜変天目茶碗と日本の美」出品リスト(PDF)
展示替えは8月末です。よって前後期にそれぞれ各一回ずつ観覧すると、おおむね全ての作品を見ることが出来ます。
前期:8月5日(水)~8月31日(月)
後期:9月2日(水)~9月27日(日)
まさに眼福の古美術コレクション展です。館内はなかなかの盛況でした。ひょっとすると後半にかけて混雑してくるかもしれません。
[藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美 巡回予定]
福岡市美術館:2015年10月6日(火)~11月23日(月・祝)
9月27日まで開催されています。おすすめします。
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:8月5日(水)~9月27日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*金・土・および9月20日(日)、21日(月・祝)、22日(火・休)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展」 ホテルオークラ東京
ホテルオークラ東京
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」
8/3-8/20
ホテルオークラ東京で開催中の「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴」を見てきました。
毎年夏恒例、ホテルオークラ東京で行われるチャリティーイベントことアートコレクション展。今年で21回目を数えるに至りました。
テーマは「美の宴」。宴とは人々が集っては「懇親を深める場」(チラシより)です。そのための相応しい場ということでしょうか。今年は会場を別館のアスコットホールから、本館最大スペースを誇る平安の間へと移しました。
上村松園「舞仕度」 大正3年 ウッドワン美術館
冒頭から松園祭りです。というのも全60点中、松園は8点。出展中で最大です。例えば「舞仕度」。モデルは京都の舞妓です。右隻に鼓を持ち、どこか笑みを浮かべては話し合う女性たち。この和やかな雰囲気。控えの舞妓かもしれません。一方、左にはやや緊張した面持ちで立つ舞妓が描かれています。うっすら紫色がかった着物。菊の紋様でしょうか。これから舞うための心構えを内に秘めています。気高さを感じました。
上村松園「男舞之図」 昭和13年頃 名都美術館
「舞仕度」が静であるとすれば、「男舞之図」は動といえるかもしれません。身体をやや反りながら、左手を大きく振り上げて舞う女性の姿。立烏帽子の男装です。粋で格好が良い。ステップは軽快なのでしょう。颯爽たる所作を見せています。顔の表情には余裕が感じられました。もはや舞を薬籠中のものとしているのかもしれません。
上村松園「虫の音」 明治42年 松柏美術館
歌麿に優品がありました。「三美人」です。三味線の稽古をする芸者衆。手を休めていることから稽古の合間なのかもしれません。三者の衣裳の紋様が鮮やかで美しい。一方、松園の「虫の音」はどうでしょうか。三味線を奏でているのは翁です。楽し気な表情をしています。また縁側には仄かに色気を漂わす女性の姿。寄り添っては可憐です。そして両者の群像表現、どこか似た面があるように見えないでしょうか。時代こそ異なりますが、歌麿の美人画が松園に何かしらの影響を与えていたのかもしれません。
宴では欠かせないのは舞に音楽です。小堀鞆音の2点、「蘭陵王」と「萬歳楽」に目がとまりました。まるで舞の動きそのものを丹念に描きとめたかのような作品。画家は大変な観察眼を持っていたことでしょう。関連しての笙や琵琶の実物も目を引きました。
伊東深水の「鏡獅子」も魅惑的です。小獅子を右手でもっては踊る女性。桃色の衣裳、牡丹の花でしょうか。ともかく顔の表情は凛々しい。自信に満ちあふれています。威厳を感じるほどでした。
広島晃甫「玉乗り」 明治45年 東京藝術大学
それにしてもアートコレクション展、「秘蔵」とあるように、必ずしも有名でなくとも、意外な優品に出会えるのも嬉しいところです。例えば広島晃甫の「玉乗り」です。大正期の東京画壇で活動した画家、サーカスの光景です。青い玉に乗っては豊満な肉体を露にする女性。単純化、あるいは簡略化された身体表現とも言えるのではないでしょうか。赤い輪郭線が際立っています。
石橋光瑤「藤花孔雀之図」 昭和4年 南砺市立福光美術館
石橋光瑤の「藤花孔雀之図」にも驚きました。藤の木にとまる孔雀。目を見張るのが大きな羽です。だらりと垂らしてはこれ見よがしと羽を開いています。本作はかの竹内栖鳳の「蹴合」と同じく、昭和5年にローマで行われた日本美術展に出展されたものだそうです。(なお「蹴合」も出ています。)
下村観山の「嵐山・加茂川」に魅せられました。2幅の小品、右には桜で華やぐ嵐山の光景が描かれ、左には川床でしょうか。加茂川にて宴を楽しむ人々の姿が表されています。霞がかかかっているゆえに桜は朧げです。山桜が断片的に浮かび上がっています。一方で加茂川は夜のシルエットです。川沿いに並ぶ家々などをぼかした墨で描いています。叙情的です。この見事なまでの筆さばき。観山の画力に改めて感じ入るものがあります。
宗達派「扇面流図」 江戸時代 大倉集古館
大作の屏風では宗達派の「扇面流図」や今村紫紅の「護花鈴」、そしてアートコレクションでは比較的見る機会の多い抱一の「四季花鳥図屏風」にも注目が集まるのではないでしょうか。
ラストを飾るのは前田青邨の「唐獅子」でした。金色の空間に三頭の獅子、右隻が二頭、白と緑、たてがみは何とオレンジ色です。さらに左隻には全身を青に染めた獅子が構えています。吠えているのか大きく口を開いていました。まさしく猛々しい。たてがみは緑色でした。この色遣い、青邨は一体何に着想を得たのでしょうか。もはや奇抜とまで言える一枚です。目に焼き付きました。
さて既に各方面でアナウンスがあるように、ホテルオークラ東京の本館は本年8月末をもって一度営業を終了。2019年春の新装オープンに向けて建て替え工事に入ります。
つまり現本館での最後のアートコレクション展というわけです。展示自体は来年以降も場所を移して行われるそうですが、このオークラの空間にはほかに代え難い魅力があるもの。建物からして見納めです。ロビーでは名残惜しそうにカメラを構えては写真を撮る人の姿も目立ちました。
8月20日まで開催されています。
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」 ホテルオークラ東京
会期:8月3日(月)~8月20日(木)
休館:会期中無休。
時間:9:30~18:30(入場は18時まで)*8/3のみ12時から開催。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 本館1階平安の間
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」
8/3-8/20
ホテルオークラ東京で開催中の「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴」を見てきました。
毎年夏恒例、ホテルオークラ東京で行われるチャリティーイベントことアートコレクション展。今年で21回目を数えるに至りました。
テーマは「美の宴」。宴とは人々が集っては「懇親を深める場」(チラシより)です。そのための相応しい場ということでしょうか。今年は会場を別館のアスコットホールから、本館最大スペースを誇る平安の間へと移しました。
上村松園「舞仕度」 大正3年 ウッドワン美術館
冒頭から松園祭りです。というのも全60点中、松園は8点。出展中で最大です。例えば「舞仕度」。モデルは京都の舞妓です。右隻に鼓を持ち、どこか笑みを浮かべては話し合う女性たち。この和やかな雰囲気。控えの舞妓かもしれません。一方、左にはやや緊張した面持ちで立つ舞妓が描かれています。うっすら紫色がかった着物。菊の紋様でしょうか。これから舞うための心構えを内に秘めています。気高さを感じました。
上村松園「男舞之図」 昭和13年頃 名都美術館
「舞仕度」が静であるとすれば、「男舞之図」は動といえるかもしれません。身体をやや反りながら、左手を大きく振り上げて舞う女性の姿。立烏帽子の男装です。粋で格好が良い。ステップは軽快なのでしょう。颯爽たる所作を見せています。顔の表情には余裕が感じられました。もはや舞を薬籠中のものとしているのかもしれません。
上村松園「虫の音」 明治42年 松柏美術館
歌麿に優品がありました。「三美人」です。三味線の稽古をする芸者衆。手を休めていることから稽古の合間なのかもしれません。三者の衣裳の紋様が鮮やかで美しい。一方、松園の「虫の音」はどうでしょうか。三味線を奏でているのは翁です。楽し気な表情をしています。また縁側には仄かに色気を漂わす女性の姿。寄り添っては可憐です。そして両者の群像表現、どこか似た面があるように見えないでしょうか。時代こそ異なりますが、歌麿の美人画が松園に何かしらの影響を与えていたのかもしれません。
宴では欠かせないのは舞に音楽です。小堀鞆音の2点、「蘭陵王」と「萬歳楽」に目がとまりました。まるで舞の動きそのものを丹念に描きとめたかのような作品。画家は大変な観察眼を持っていたことでしょう。関連しての笙や琵琶の実物も目を引きました。
伊東深水の「鏡獅子」も魅惑的です。小獅子を右手でもっては踊る女性。桃色の衣裳、牡丹の花でしょうか。ともかく顔の表情は凛々しい。自信に満ちあふれています。威厳を感じるほどでした。
広島晃甫「玉乗り」 明治45年 東京藝術大学
それにしてもアートコレクション展、「秘蔵」とあるように、必ずしも有名でなくとも、意外な優品に出会えるのも嬉しいところです。例えば広島晃甫の「玉乗り」です。大正期の東京画壇で活動した画家、サーカスの光景です。青い玉に乗っては豊満な肉体を露にする女性。単純化、あるいは簡略化された身体表現とも言えるのではないでしょうか。赤い輪郭線が際立っています。
石橋光瑤「藤花孔雀之図」 昭和4年 南砺市立福光美術館
石橋光瑤の「藤花孔雀之図」にも驚きました。藤の木にとまる孔雀。目を見張るのが大きな羽です。だらりと垂らしてはこれ見よがしと羽を開いています。本作はかの竹内栖鳳の「蹴合」と同じく、昭和5年にローマで行われた日本美術展に出展されたものだそうです。(なお「蹴合」も出ています。)
下村観山の「嵐山・加茂川」に魅せられました。2幅の小品、右には桜で華やぐ嵐山の光景が描かれ、左には川床でしょうか。加茂川にて宴を楽しむ人々の姿が表されています。霞がかかかっているゆえに桜は朧げです。山桜が断片的に浮かび上がっています。一方で加茂川は夜のシルエットです。川沿いに並ぶ家々などをぼかした墨で描いています。叙情的です。この見事なまでの筆さばき。観山の画力に改めて感じ入るものがあります。
宗達派「扇面流図」 江戸時代 大倉集古館
大作の屏風では宗達派の「扇面流図」や今村紫紅の「護花鈴」、そしてアートコレクションでは比較的見る機会の多い抱一の「四季花鳥図屏風」にも注目が集まるのではないでしょうか。
ラストを飾るのは前田青邨の「唐獅子」でした。金色の空間に三頭の獅子、右隻が二頭、白と緑、たてがみは何とオレンジ色です。さらに左隻には全身を青に染めた獅子が構えています。吠えているのか大きく口を開いていました。まさしく猛々しい。たてがみは緑色でした。この色遣い、青邨は一体何に着想を得たのでしょうか。もはや奇抜とまで言える一枚です。目に焼き付きました。
さて既に各方面でアナウンスがあるように、ホテルオークラ東京の本館は本年8月末をもって一度営業を終了。2019年春の新装オープンに向けて建て替え工事に入ります。
つまり現本館での最後のアートコレクション展というわけです。展示自体は来年以降も場所を移して行われるそうですが、このオークラの空間にはほかに代え難い魅力があるもの。建物からして見納めです。ロビーでは名残惜しそうにカメラを構えては写真を撮る人の姿も目立ちました。
8月20日まで開催されています。
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」 ホテルオークラ東京
会期:8月3日(月)~8月20日(木)
休館:会期中無休。
時間:9:30~18:30(入場は18時まで)*8/3のみ12時から開催。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 本館1階平安の間
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
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千葉市美術館でルーシー・リー展が開催されています
千葉市美術館で開催中のルーシー・リー展。国内では約5年ぶりとなる回顧展です。出展は全200点。ルーシー・リーの作品をほぼ年代別に沿って紹介しています。
「開館20周年記念 没後20年 ルーシー・リー展」@千葉市美術館
URL:http://lucie-rie.exhn.jp/
会期:7月7日(火)~8月30日(日)
ちょうど七夕の日にはじまった展覧会も気がつけば最終盤。会期は残すところあと約15日ほどになりました。
「ルーシー・リー展」 千葉市美術館(はろるど)
ちなみに今回出展の作品の殆どは日本初公開です。ゆえに5年前の新美術館の回顧展を見たとしても、また新たなルーシー・リーの魅力に触れることが出来ます。
[千葉日報 ルーシー・リー展 連載記事]
焼成時に爆発のような効果 熔岩釉鉢(5)
巧みな造形の組み合わせ コンビネーション・ポット(4)
繊細で鮮やかな模様施す 「かき落とし」と「象嵌」(3)
戦時下に制作、形も魅力 色とりどりのボタン(2)
作者を象徴する色と技法 ピンク線文鉢(1)
本展を担当された山根学芸員の連載記事が千葉日報に掲載されていました。
また山根さんの講演会が8月22日に千葉市美術館で行われます。
[市民美術講座]
「ルーシー・リーのうつわ」
講師:山根佳奈(当館学芸員)
日時:8月22日(土)14:00より(13:30開場)
11階講堂にて/聴講無料/先着150名
聴講自体は無料。先着150名です。予約の必要はありません。
実は私も先日、改めて出向きましたが、やはり何度接しても愛おしく感じられるもの。繊細な線に鮮やかな色の魅力。また器にもバリエーションがあり、表情は思いの外に複雑であることも分かります。
この暑い夏、駅から離れた千葉市美術館のことです。なかなか足が向かないという方も多いかもしれません。しかしながらルーシー・リーの器をまとめて見られる貴重な機会チャンスでもあります。そもそもこのスケールでの回顧展はもうしばらくは望めないのではないでしょうか。
[没後20年 ルーシー・リー展 巡回予定]
姫路市立美術館: 2015年10月31日(土)~12月24日(木)
郡山市立美術館:2016年1月16日(土)~3月21日(月・祝)
静岡市美術館:2016年4月9日(土)~5月29日(日)
館内に余裕があるのも嬉しいところです。じっくり器に向き合うことが出来ました。
「没後20年 ルーシー・リー展」は千葉市美術館で8月30日まで開催されています。
「開館20周年記念 没後20年 ルーシー・リー展」 千葉市美術館
会期:7月7日(火)~8月30日(日)
休館:6月1日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(500)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「開館20周年記念 没後20年 ルーシー・リー展」@千葉市美術館
URL:http://lucie-rie.exhn.jp/
会期:7月7日(火)~8月30日(日)
ちょうど七夕の日にはじまった展覧会も気がつけば最終盤。会期は残すところあと約15日ほどになりました。
「ルーシー・リー展」 千葉市美術館(はろるど)
ちなみに今回出展の作品の殆どは日本初公開です。ゆえに5年前の新美術館の回顧展を見たとしても、また新たなルーシー・リーの魅力に触れることが出来ます。
[千葉日報 ルーシー・リー展 連載記事]
焼成時に爆発のような効果 熔岩釉鉢(5)
巧みな造形の組み合わせ コンビネーション・ポット(4)
繊細で鮮やかな模様施す 「かき落とし」と「象嵌」(3)
戦時下に制作、形も魅力 色とりどりのボタン(2)
作者を象徴する色と技法 ピンク線文鉢(1)
本展を担当された山根学芸員の連載記事が千葉日報に掲載されていました。
また山根さんの講演会が8月22日に千葉市美術館で行われます。
[市民美術講座]
「ルーシー・リーのうつわ」
講師:山根佳奈(当館学芸員)
日時:8月22日(土)14:00より(13:30開場)
11階講堂にて/聴講無料/先着150名
聴講自体は無料。先着150名です。予約の必要はありません。
実は私も先日、改めて出向きましたが、やはり何度接しても愛おしく感じられるもの。繊細な線に鮮やかな色の魅力。また器にもバリエーションがあり、表情は思いの外に複雑であることも分かります。
この暑い夏、駅から離れた千葉市美術館のことです。なかなか足が向かないという方も多いかもしれません。しかしながらルーシー・リーの器をまとめて見られる貴重な機会チャンスでもあります。そもそもこのスケールでの回顧展はもうしばらくは望めないのではないでしょうか。
[没後20年 ルーシー・リー展 巡回予定]
姫路市立美術館: 2015年10月31日(土)~12月24日(木)
郡山市立美術館:2016年1月16日(土)~3月21日(月・祝)
静岡市美術館:2016年4月9日(土)~5月29日(日)
館内に余裕があるのも嬉しいところです。じっくり器に向き合うことが出来ました。
「没後20年 ルーシー・リー展」は千葉市美術館で8月30日まで開催されています。
「開館20周年記念 没後20年 ルーシー・リー展」 千葉市美術館
会期:7月7日(火)~8月30日(日)
休館:6月1日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(500)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」 葛西臨海水族園
葛西臨海水族園
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」
8/13-16
今年で3年目を迎えた葛西臨海水族園のナイトアクアリウム、題して「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」。お盆の期間限定の特別夜間開館です。
昨年に続き、8月13日(木)より16日(日)までの間、通常より閉館時間を延長。20時まで開館しています。(最終入館は19時まで。)私が水族園に着いたのは17時半頃です。館内は既に多くの人で賑わっていました。
ナイトアクアリウムのイベントはおおむね17時頃から始まります。本館レクチャールームでは「海の映像上映会」として、海の生き物をテーマとしてドキュメンタリーを上映。またお馴染みの大水槽やペンギンテラス、それに世界の海、東京の海などのエリアでは、魚たちの夜の生態に着目した「スペシャルガイド」も行われます。
夜間開館時は照明が通常より落とされます。特に19時を過ぎるとほぼ真っ暗です。ただしさすがにお盆休み、それなりの人出です。一部の水槽の前には黒山の人だかりが出来ていました。
「スペシャルガイド」は各日、計3回ずつ行われますが、今年は18時半からペンギンテラスのガイドに参加しました。飼育員の方が登場し、ペンギンにえさを与えながら、生態について丁寧にお話して下さいます。
えさをプールへ投げ入れると、ペンギンたちは我れ先にと水に潜っていきますが、ふと飼育員の方の持ったえさ入りのバケツに近づくペンギンを発見しました。何でもこのペンギンは20歳というご高齢。若いペンギンに交じって水に潜ってもえさを穫ることが出来ないため、はじめからバケツに直接やって来ては食するのだそうです。
大水槽へ移動してみました。昨年、大量死が問題となったマグロの水槽です。唯一、生き残った一匹のクロマグロを除いて全て全滅。原因は未だよく分かっておらず、謎の死とも言われましたが、今年6月になって新たにクロマグロ77匹を追加投入。再び飼育が始まりました。
写真で確認するのは難しいかもしれませんが、生き残ったマグロはすぐに分かりました。というのも体の大きさがまるで違います。2倍近くあるのではないでしょうか。またガラスケース表面の縦のオレンジのラインは衝突防止用のテープです。当時はマグロが次々とぶつかっては死んでいったそうですが、少なくとも今回、私が見ている限りではぶつかることもなくスムーズ。特に異常も見られませんでした。
復活したクロマグロの群泳。これを差し置いて葛西の水族園の目玉は他にありません。今度は皆、問題なく大きく育っていって欲しいと思いました。
テントデッキでは「ミュージックフェスタ」も開催中。さらにビアガーデンとして特製ビールの販売なども行われています。ちょっとしたリゾート気分も味わえるのではないでしょうか。(テントデッキでは18時45分以降、映像投影のイベントもあります。)
「Night of Wonder」チラシ裏面。クリックで拡大します。
軽くビールをいただきながら、普段立ち入れない夜の水族園を楽しめる「Night of Wonder」。今年もしばし満喫しました。
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」は8月16日まで開催されています。
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」 葛西臨海水族園(@KasaiSuizokuen)
会期:8月13日(木)~8月16日(日)*夜間開園期間
休館:会期中無休
時間:17:00~20:00 *開園時間を3時間延長。17時前も入場可。
料金:一般700(560)円、65歳以上350(280)円、中学生250(200)円。小学生以下、及び都内在住の中学生は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:江戸川区臨海町6-2-3
交通:JR線葛西臨海公園駅より徒歩5分。
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」
8/13-16
今年で3年目を迎えた葛西臨海水族園のナイトアクアリウム、題して「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」。お盆の期間限定の特別夜間開館です。
昨年に続き、8月13日(木)より16日(日)までの間、通常より閉館時間を延長。20時まで開館しています。(最終入館は19時まで。)私が水族園に着いたのは17時半頃です。館内は既に多くの人で賑わっていました。
ナイトアクアリウムのイベントはおおむね17時頃から始まります。本館レクチャールームでは「海の映像上映会」として、海の生き物をテーマとしてドキュメンタリーを上映。またお馴染みの大水槽やペンギンテラス、それに世界の海、東京の海などのエリアでは、魚たちの夜の生態に着目した「スペシャルガイド」も行われます。
夜間開館時は照明が通常より落とされます。特に19時を過ぎるとほぼ真っ暗です。ただしさすがにお盆休み、それなりの人出です。一部の水槽の前には黒山の人だかりが出来ていました。
「スペシャルガイド」は各日、計3回ずつ行われますが、今年は18時半からペンギンテラスのガイドに参加しました。飼育員の方が登場し、ペンギンにえさを与えながら、生態について丁寧にお話して下さいます。
えさをプールへ投げ入れると、ペンギンたちは我れ先にと水に潜っていきますが、ふと飼育員の方の持ったえさ入りのバケツに近づくペンギンを発見しました。何でもこのペンギンは20歳というご高齢。若いペンギンに交じって水に潜ってもえさを穫ることが出来ないため、はじめからバケツに直接やって来ては食するのだそうです。
大水槽へ移動してみました。昨年、大量死が問題となったマグロの水槽です。唯一、生き残った一匹のクロマグロを除いて全て全滅。原因は未だよく分かっておらず、謎の死とも言われましたが、今年6月になって新たにクロマグロ77匹を追加投入。再び飼育が始まりました。
写真で確認するのは難しいかもしれませんが、生き残ったマグロはすぐに分かりました。というのも体の大きさがまるで違います。2倍近くあるのではないでしょうか。またガラスケース表面の縦のオレンジのラインは衝突防止用のテープです。当時はマグロが次々とぶつかっては死んでいったそうですが、少なくとも今回、私が見ている限りではぶつかることもなくスムーズ。特に異常も見られませんでした。
復活したクロマグロの群泳。これを差し置いて葛西の水族園の目玉は他にありません。今度は皆、問題なく大きく育っていって欲しいと思いました。
テントデッキでは「ミュージックフェスタ」も開催中。さらにビアガーデンとして特製ビールの販売なども行われています。ちょっとしたリゾート気分も味わえるのではないでしょうか。(テントデッキでは18時45分以降、映像投影のイベントもあります。)
「Night of Wonder」チラシ裏面。クリックで拡大します。
軽くビールをいただきながら、普段立ち入れない夜の水族園を楽しめる「Night of Wonder」。今年もしばし満喫しました。
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」は8月16日まで開催されています。
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」 葛西臨海水族園(@KasaiSuizokuen)
会期:8月13日(木)~8月16日(日)*夜間開園期間
休館:会期中無休
時間:17:00~20:00 *開園時間を3時間延長。17時前も入場可。
料金:一般700(560)円、65歳以上350(280)円、中学生250(200)円。小学生以下、及び都内在住の中学生は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:江戸川区臨海町6-2-3
交通:JR線葛西臨海公園駅より徒歩5分。
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「蔡國強展:帰去来」 横浜美術館
横浜美術館
「蔡國強展:帰去来」
7/11-10/18
横浜美術館で開催中の「蔡國強展:帰去来」を見てきました。
1957年に中国福建省に生まれ、現在はニューヨークで活動するアーティスト、蔡國強。火薬の爆発痕を用いた作品で知られているのではないでしょうか。1999年のヴェネチア・ビエンナーレでは国際金獅子賞を受賞。北京オリンピックの開会式では視覚特効芸術監督を務めました。
国内では2008年の広島市現代美術館での展示以来、約7年ぶりの個展です。横浜美術館内のグランドギャラリーに滞在して制作した新作絵画のほか、2006年にグッゲンハイムの個展で披露したオオカミのインスタレーション、「壁撞き」などが展示されています。
さてまず圧巻なのは「人生四季」、それぞれ春、夏、秋、冬と題された4枚のキャンバス画です。江戸後期の絵師、月岡雪鼎の肉筆絵巻「四季画巻」に着想を得たという連作、いわゆる春画です。よって「人生四季」にも性を楽しみ、生命を謳歌する男女の愛の営みが表現されています。
春は桜にメジロでしょうか。何やら判別しない朧げな画面で交わるのは男女。霞がかかっているのかもしれません。そして夏、一転して大気は澄み渡ります。光は強い。明瞭です。男女は全てを露にしながら、何者にもとらわれることなく激しく交じり合います。主に局部で広がる赤が否応無しに目に飛び込んできました。
秋は菊でした。そして冬は梅に水仙です。雪も冠っています。季節を変えても男女の営みは続いていきます。刺青が彫られていました。いずれも四季のモチーフに応じた紋様なのでしょう。ちなみに本作、何でも蔡國強が初めて彩色を加えた火薬絵画だそうです。赤は男女の興奮を表すのでしょうか。欲望と愛。ただしそこには二人だけが知り得る平穏な世界が見え隠れしてもいました。
天井高のあるGallery4を効果的に使用しています。朝顔です。蔓を絡ませつつ、花を四方八方に広げた朝顔。素材は陶でした。そこへ蔡は火薬をまいては爆発させ、表情を付けています。朝顔の周りには「春夏秋冬」と題した4面パネルの作品が展示されていました。白い磁器タイルです。タイルには本物と見間違うかのような牡丹に菊、梅などが象られています。そして再び火薬の爆発痕が陰影をもたらす。大気、雲、雨、あるいは花自体の質感を表現しているのかもしれません。トンボ、カニ、鶏でしょうか。生き物たちの姿も見えました。
ハイライトはオオカミです。広い展示室の全てを一つのインスタレーションが支配します。「壁撞き」です。隅に設置されたガラス壁へ向かうのは計99体ものオオカミのレプリカです。前を見据えながら歩み、駆け、大きく飛び上がって突進しては跳ね返され、再び挑んでいきます。ガラスはベルリンの壁と同じ高さです。壁を崩すために行われるオオカミの挑戦。永遠なのかもしれません。群れがメビウスの輪のようにも見えました。ちなみに蔡によればオオカミとは英雄的精神、勇気を意味するのだそうです。果たして打ち破ることは出来るのでしょうか。
美術館正面、グランドギャラリーも圧巻です。天井まで達するほどに巨大なのは、新作、「夜桜」でした。
蔡國強「夜桜」 2015年 火薬、和紙 *本作のみ撮影が出来ます。
これもはじめにも触れたように同館内に滞在して制作したもの。高さは8メートル、横幅は何と24メートルです。中央ににはゆらゆらと煙を立てた篝火が描かれ、周囲には大輪の桜が咲き誇っています。もちろん火薬の爆発で表現したものです。火薬は発火すると一瞬で消えてしまうように、桜も一年の極めて短い時期にしか花開きません。左上には瞳を大きく開いたミミズクがいました。今回は漢方薬に用いられる石の粉末を混ぜたそうです。ゆえにうっすらと黄味がかってもいます。
現在から過去へ至る蔡國強の活動を捉えたドキュメンタリーや、「夜桜」などの制作プロセスを映した映像も見応えがあります。あの火薬が美術館の中でバリバリと音を立てながら炸裂する様子からして迫力満点です。作品も時にエネルギッシュであれば、制作からしてパワフル。ただし点数は8点と僅かです。率直なところ端的に作品数としては物足りない面はあるやもしれません。しかしながら展示室を2周、3周していると、いつの間にか蔡の世界に惹かれ、あるいは飲み込まれている自分に気がつきました。
企画展示室出口よりグランドギャラリー方向。
なお性的表現の含まれる「人生四季」の観覧に際しては制限があります。中学生以下は保護者、引率者の同伴が必要です。ご注意下さい。
「蔡國強 帰去来/横浜美術館」
館内は予想以上に盛況でした。ロングランの展覧会です。10月18日まで開催されています。
「蔡國強展:帰去来」 横浜美術館(@yokobi_tweet)
会期:7月11日(土)~10月18日(日)
休館:木曜日。
時間:10:00~18:00
*9月16日(水)、9月18日(金)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1400)円、大学・高校生900(800)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。要事前予約。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
「蔡國強展:帰去来」
7/11-10/18
横浜美術館で開催中の「蔡國強展:帰去来」を見てきました。
1957年に中国福建省に生まれ、現在はニューヨークで活動するアーティスト、蔡國強。火薬の爆発痕を用いた作品で知られているのではないでしょうか。1999年のヴェネチア・ビエンナーレでは国際金獅子賞を受賞。北京オリンピックの開会式では視覚特効芸術監督を務めました。
国内では2008年の広島市現代美術館での展示以来、約7年ぶりの個展です。横浜美術館内のグランドギャラリーに滞在して制作した新作絵画のほか、2006年にグッゲンハイムの個展で披露したオオカミのインスタレーション、「壁撞き」などが展示されています。
さてまず圧巻なのは「人生四季」、それぞれ春、夏、秋、冬と題された4枚のキャンバス画です。江戸後期の絵師、月岡雪鼎の肉筆絵巻「四季画巻」に着想を得たという連作、いわゆる春画です。よって「人生四季」にも性を楽しみ、生命を謳歌する男女の愛の営みが表現されています。
春は桜にメジロでしょうか。何やら判別しない朧げな画面で交わるのは男女。霞がかかっているのかもしれません。そして夏、一転して大気は澄み渡ります。光は強い。明瞭です。男女は全てを露にしながら、何者にもとらわれることなく激しく交じり合います。主に局部で広がる赤が否応無しに目に飛び込んできました。
秋は菊でした。そして冬は梅に水仙です。雪も冠っています。季節を変えても男女の営みは続いていきます。刺青が彫られていました。いずれも四季のモチーフに応じた紋様なのでしょう。ちなみに本作、何でも蔡國強が初めて彩色を加えた火薬絵画だそうです。赤は男女の興奮を表すのでしょうか。欲望と愛。ただしそこには二人だけが知り得る平穏な世界が見え隠れしてもいました。
天井高のあるGallery4を効果的に使用しています。朝顔です。蔓を絡ませつつ、花を四方八方に広げた朝顔。素材は陶でした。そこへ蔡は火薬をまいては爆発させ、表情を付けています。朝顔の周りには「春夏秋冬」と題した4面パネルの作品が展示されていました。白い磁器タイルです。タイルには本物と見間違うかのような牡丹に菊、梅などが象られています。そして再び火薬の爆発痕が陰影をもたらす。大気、雲、雨、あるいは花自体の質感を表現しているのかもしれません。トンボ、カニ、鶏でしょうか。生き物たちの姿も見えました。
ハイライトはオオカミです。広い展示室の全てを一つのインスタレーションが支配します。「壁撞き」です。隅に設置されたガラス壁へ向かうのは計99体ものオオカミのレプリカです。前を見据えながら歩み、駆け、大きく飛び上がって突進しては跳ね返され、再び挑んでいきます。ガラスはベルリンの壁と同じ高さです。壁を崩すために行われるオオカミの挑戦。永遠なのかもしれません。群れがメビウスの輪のようにも見えました。ちなみに蔡によればオオカミとは英雄的精神、勇気を意味するのだそうです。果たして打ち破ることは出来るのでしょうか。
美術館正面、グランドギャラリーも圧巻です。天井まで達するほどに巨大なのは、新作、「夜桜」でした。
蔡國強「夜桜」 2015年 火薬、和紙 *本作のみ撮影が出来ます。
これもはじめにも触れたように同館内に滞在して制作したもの。高さは8メートル、横幅は何と24メートルです。中央ににはゆらゆらと煙を立てた篝火が描かれ、周囲には大輪の桜が咲き誇っています。もちろん火薬の爆発で表現したものです。火薬は発火すると一瞬で消えてしまうように、桜も一年の極めて短い時期にしか花開きません。左上には瞳を大きく開いたミミズクがいました。今回は漢方薬に用いられる石の粉末を混ぜたそうです。ゆえにうっすらと黄味がかってもいます。
現在から過去へ至る蔡國強の活動を捉えたドキュメンタリーや、「夜桜」などの制作プロセスを映した映像も見応えがあります。あの火薬が美術館の中でバリバリと音を立てながら炸裂する様子からして迫力満点です。作品も時にエネルギッシュであれば、制作からしてパワフル。ただし点数は8点と僅かです。率直なところ端的に作品数としては物足りない面はあるやもしれません。しかしながら展示室を2周、3周していると、いつの間にか蔡の世界に惹かれ、あるいは飲み込まれている自分に気がつきました。
企画展示室出口よりグランドギャラリー方向。
なお性的表現の含まれる「人生四季」の観覧に際しては制限があります。中学生以下は保護者、引率者の同伴が必要です。ご注意下さい。
「蔡國強 帰去来/横浜美術館」
館内は予想以上に盛況でした。ロングランの展覧会です。10月18日まで開催されています。
「蔡國強展:帰去来」 横浜美術館(@yokobi_tweet)
会期:7月11日(土)~10月18日(日)
休館:木曜日。
時間:10:00~18:00
*9月16日(水)、9月18日(金)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1400)円、大学・高校生900(800)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。要事前予約。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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舟越保武彫刻展が「ぶらぶら美術・博物館」で特集されます
練馬区立美術館で開催中の「舟越保武彫刻展」。
「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」@練馬区立美術館
会期:7月12日(日)~9月6日(日)
URL:http://www.neribun.or.jp/web/01_event/d_museum.cgi?id=10249
戦後具象彫刻で知られる作家、舟越保武の回顧展です。「ダミアン神父像」や「長崎26殉教者記念像」などの代表作をはじめ、初公開となるドローイングなども展示。私も一度、見に行きましたが、ともかく彫像の力強さ、ないしは空間を支配する静謐な雰囲気に圧倒されたものでした。
その舟越保武彫刻展がBS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」で放映されます。
「8/21(金)ぶらぶら美術・博物館放映決定!」(練馬区立美術館ブログ)
日時は8月21日(金)。夜8時からです。ゲストとして舟越保武のご子息で、同じく彫刻家としても活動する舟越桂さんが出演します。親子の間柄としてはもちろん、同じ彫刻家として父、舟越保武をどう見ているのか。貴重な話が伺えるかもしれません。
なお舟越保武展はイベントも盛りだくさんです。放送翌日、8月22日(土)には館内ロビーにて記念コンサートも開催されます。
[記念コンサート] *事前申込不要
ー1877年製スタインウェイスクエアピアノコンサートー
日時:8月22日(土)午後3時~
会場:練馬区立美術館 ロビー
演者:小池ちとせ(ピアノ・武蔵野音楽大学准教授)
河野めぐみ(メゾソプラノ・藤原歌劇団団員/武蔵野音楽大学講師)
プログラム:
シューベルト/アヴェマリア
リスト/2つの伝説より「波を渡るパオロの聖フランシス」
ビゼー/歌劇「カルメン」より ハバネラ、セギディーリャ 他
申込不要です。(ただし要半券。)
8月10日以降のイベントも改めて整理しておきます。
[会期中のイベント]
声優、銀河万丈による読み語り *要事前申込
【貫井図書館共同主催】
日時:8月29日(土) 午後3時~
映画上映会「日本二十六聖人 われ世に勝てり」 *要事前申込
(1931年、90分、製作:平山政十、弁士:小崎登明修道士)
日時:8月30日(日) 午後3時~
学芸員によるギャラリートーク *事前申込不要
日時:8月15日(土) 両日とも、午後3時~
「ぶらぶら美術・博物館」放映前の方がゆっくり観覧出来るとは思いますが、コンサートやイベントにあわせて出かけるのも良いのではないでしょうか。
「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」 練馬区立美術館(はろるど)
「舟越保武ーまなざしの向こうに/求龍堂」
舟越保武彫刻展は練馬区立美術館で9月6日まで開催されています。
「開館30周年記念 舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」 練馬区立美術館
会期:7月12日(日)~9月6日(日)
休館:月曜日。*但し7月20日(月・祝)は開館、7月21日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(600)円、大・高校生・65~74歳600(500)円、中学生以下・75歳以上無料
*( )は20名以上の団体料金。
*ぐるっとパス利用で300円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」@練馬区立美術館
会期:7月12日(日)~9月6日(日)
URL:http://www.neribun.or.jp/web/01_event/d_museum.cgi?id=10249
戦後具象彫刻で知られる作家、舟越保武の回顧展です。「ダミアン神父像」や「長崎26殉教者記念像」などの代表作をはじめ、初公開となるドローイングなども展示。私も一度、見に行きましたが、ともかく彫像の力強さ、ないしは空間を支配する静謐な雰囲気に圧倒されたものでした。
その舟越保武彫刻展がBS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」で放映されます。
「8/21(金)ぶらぶら美術・博物館放映決定!」(練馬区立美術館ブログ)
日時は8月21日(金)。夜8時からです。ゲストとして舟越保武のご子息で、同じく彫刻家としても活動する舟越桂さんが出演します。親子の間柄としてはもちろん、同じ彫刻家として父、舟越保武をどう見ているのか。貴重な話が伺えるかもしれません。
なお舟越保武展はイベントも盛りだくさんです。放送翌日、8月22日(土)には館内ロビーにて記念コンサートも開催されます。
[記念コンサート] *事前申込不要
ー1877年製スタインウェイスクエアピアノコンサートー
日時:8月22日(土)午後3時~
会場:練馬区立美術館 ロビー
演者:小池ちとせ(ピアノ・武蔵野音楽大学准教授)
河野めぐみ(メゾソプラノ・藤原歌劇団団員/武蔵野音楽大学講師)
プログラム:
シューベルト/アヴェマリア
リスト/2つの伝説より「波を渡るパオロの聖フランシス」
ビゼー/歌劇「カルメン」より ハバネラ、セギディーリャ 他
申込不要です。(ただし要半券。)
8月10日以降のイベントも改めて整理しておきます。
[会期中のイベント]
声優、銀河万丈による読み語り *要事前申込
【貫井図書館共同主催】
日時:8月29日(土) 午後3時~
映画上映会「日本二十六聖人 われ世に勝てり」 *要事前申込
(1931年、90分、製作:平山政十、弁士:小崎登明修道士)
日時:8月30日(日) 午後3時~
学芸員によるギャラリートーク *事前申込不要
日時:8月15日(土) 両日とも、午後3時~
「ぶらぶら美術・博物館」放映前の方がゆっくり観覧出来るとは思いますが、コンサートやイベントにあわせて出かけるのも良いのではないでしょうか。
「舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」 練馬区立美術館(はろるど)
「舟越保武ーまなざしの向こうに/求龍堂」
舟越保武彫刻展は練馬区立美術館で9月6日まで開催されています。
「開館30周年記念 舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに」 練馬区立美術館
会期:7月12日(日)~9月6日(日)
休館:月曜日。*但し7月20日(月・祝)は開館、7月21日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(600)円、大・高校生・65~74歳600(500)円、中学生以下・75歳以上無料
*( )は20名以上の団体料金。
*ぐるっとパス利用で300円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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「堂島リバービエンナーレ2015」が開催されています
大阪は福島区、堂島川に面した堂島リバーフォーラムで行われている「堂島リバービエンナーレ2015」。
「堂島リバービエンナーレ2015」@堂島リバーフォーラム
会期:7月25日(土)~8月30日(日)
URL:http://biennale.dojimariver.com/
今夏で4度目の開催です。今回はイギリスよりトム・トレバーをディレクターに迎え、「Take Me To The Riverー同時代性の潮流」と題した展示が行われています。
参加アーティストは以下の15組です。
アンガス・フェアハースト/ピーター・フェンド/サイモン・フジワラ/メラニー・ギリガン/池田亮司/メラニー・ジャクソン/笹本晃/島袋道浩/下道基行/マイケル・スティーブンソン/ヒト・スタヤル/スーパーフレックス/照屋勇賢/プレイ/フェルメール&エイルマンス
Ryoji Ikeda data.tecture [3SXGA+ version] audiovisual installation, 2015 (C) Ryoji Ikeda
うちまず注目されるのは2009年、東京都現代美術館でも個展を行った池田亮司ではないでしょうか。今回は約22メートル×11メートルの作品を展示。関西では最大規模となります。また現在、イタリアで開催中のヴェネチア・ビエンナーレ・ドイツ館の作家であるヒト・スタヤルも参加しています。
ほかにも紙袋を切り抜いた作品で知られる照屋勇賢や、2011年のαMでも充実した個展を見せた下道基行らも加わり、インスタレーションを中心にした様々な展示を行っています。
なお会場前を流れる堂島川を渡れば中之島。最寄には国立国際美術館も位置します。同館では現在、ヴォルフガング・ティルマンス展を開催中。ティルマンスといえば2004年にオペラシティで行われた展示の記憶が蘇りますが、それ以来、国内では約11年ぶりとなる個展です。新作や近作も多数。今回は空間も自らがデザインしているそうです。なおティルマンス展に関しては巡回もありません。大阪単独の開催でもあります。
「ヴォルフガング・ティルマンス展」@国立国際美術館
会期:7月25日(土)~9月23日(水・祝)
URL:http://www.nmao.go.jp/
堂島川を挟んでの二つの現代美術の展覧会。堂島リバービエンナーレとティルマンス展をあわせて巡るのも面白いのではないでしょうか。ちなみに国立国際美術館の半券を提示すると、入場料が割引になるようです。
ヴォルフガング・ティルマンス展、他人の時間展(国立国際美術館)の入場半券をご提示頂くと「堂島リバービエンナーレ2015」が割引価格でご利用頂けることをご存知ですか?(@BIENNALE2015)
私も近々見に行くつもりです。「堂島リバービエンナーレ2015」は堂島リバーフォーラムにて8月30日まで開催されています。
「堂島リバービエンナーレ2015」(@BIENNALE2015) 堂島リバーフォーラム
会期:7月25日(土)~8月30日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、高校・大学生700円、小学・中学生500円。
住所:大阪市福島区福島1-1-17
交通:JR東西線新福島駅、阪神本線阪神福島駅、京阪中之島線中之島駅から徒歩約5分。
「堂島リバービエンナーレ2015」@堂島リバーフォーラム
会期:7月25日(土)~8月30日(日)
URL:http://biennale.dojimariver.com/
今夏で4度目の開催です。今回はイギリスよりトム・トレバーをディレクターに迎え、「Take Me To The Riverー同時代性の潮流」と題した展示が行われています。
参加アーティストは以下の15組です。
アンガス・フェアハースト/ピーター・フェンド/サイモン・フジワラ/メラニー・ギリガン/池田亮司/メラニー・ジャクソン/笹本晃/島袋道浩/下道基行/マイケル・スティーブンソン/ヒト・スタヤル/スーパーフレックス/照屋勇賢/プレイ/フェルメール&エイルマンス
Ryoji Ikeda data.tecture [3SXGA+ version] audiovisual installation, 2015 (C) Ryoji Ikeda
うちまず注目されるのは2009年、東京都現代美術館でも個展を行った池田亮司ではないでしょうか。今回は約22メートル×11メートルの作品を展示。関西では最大規模となります。また現在、イタリアで開催中のヴェネチア・ビエンナーレ・ドイツ館の作家であるヒト・スタヤルも参加しています。
ほかにも紙袋を切り抜いた作品で知られる照屋勇賢や、2011年のαMでも充実した個展を見せた下道基行らも加わり、インスタレーションを中心にした様々な展示を行っています。
なお会場前を流れる堂島川を渡れば中之島。最寄には国立国際美術館も位置します。同館では現在、ヴォルフガング・ティルマンス展を開催中。ティルマンスといえば2004年にオペラシティで行われた展示の記憶が蘇りますが、それ以来、国内では約11年ぶりとなる個展です。新作や近作も多数。今回は空間も自らがデザインしているそうです。なおティルマンス展に関しては巡回もありません。大阪単独の開催でもあります。
「ヴォルフガング・ティルマンス展」@国立国際美術館
会期:7月25日(土)~9月23日(水・祝)
URL:http://www.nmao.go.jp/
堂島川を挟んでの二つの現代美術の展覧会。堂島リバービエンナーレとティルマンス展をあわせて巡るのも面白いのではないでしょうか。ちなみに国立国際美術館の半券を提示すると、入場料が割引になるようです。
ヴォルフガング・ティルマンス展、他人の時間展(国立国際美術館)の入場半券をご提示頂くと「堂島リバービエンナーレ2015」が割引価格でご利用頂けることをご存知ですか?(@BIENNALE2015)
私も近々見に行くつもりです。「堂島リバービエンナーレ2015」は堂島リバーフォーラムにて8月30日まで開催されています。
「堂島リバービエンナーレ2015」(@BIENNALE2015) 堂島リバーフォーラム
会期:7月25日(土)~8月30日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、高校・大学生700円、小学・中学生500円。
住所:大阪市福島区福島1-1-17
交通:JR東西線新福島駅、阪神本線阪神福島駅、京阪中之島線中之島駅から徒歩約5分。
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