都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
2012年 私が観た展覧会 ベスト10
ギャラリー編に引き続きます。私が今年観た展覧会のベスト10をあげてみました。
「2012年 私が観た展覧会 ベスト10」
1.「トーマス・デマンド展」 東京都現代美術館(5/19-7/8)

率直なところ、このデマンドと具体とポロック、どれを1位にするのか相当に迷いましたが、初見時の頭を殴られたような衝撃。その観点からもデマンドを1位にすることにしました。「紙で出来たリアル」。いずれの作品も匿名的で、なおかつ恐ろしいまでの不在感、しかしながら実はその奥底に何らかの事実と物語があった。今自分が見ているもの、体験しているものは一体何なのか、そしてそれは確かなのか。そうしたものを強く考えさせられる展示でした。
2.「具体-ニッポンの前衛 18年の軌跡」 国立新美術館(7/4-9/10)

2004年に兵庫県美での回顧展を見て強く興味を惹かれた具体。まさか東京でこれほどの規模での展覧会が行われるとは思いもよりません。戦後に興った僅か20年弱の美術の一潮流。そして万博での終焉。必ずしも順風満帆ではないものの、そこには確かに何かを変えようとする芸術家たちがいた。ドラマテックな展開に終始、圧倒させられました。
3.「ジャクソン・ポロック展」 東京国立近代美術館(2/1-5/6)

私が抽象絵画を好きになったきっかけの一人であるポロック。まさに待望の回顧展です。ともかくこれまでは断片的にしか見てこられなかったので、時間軸に沿いながら作品を追うだけでも感無量。オールオーヴァーおける生命感と躍動感。それが晩期になってかなり変容していく。どうしても壮絶なポロックの人生を思わずにいられませんでした。
4.「美術にぶるっ!第2部 実験場1950s」 東京国立近代美術館(2012/10/16-2013/1/14)

東近美のリニューアルオープンにあえてこれをぶつけて来た企画の方の熱意、まずはそこに頭を下げたいと思います。50年代の混沌、また反面での成長。それが今とどう関係していくのか。原爆で幕を空け原爆でまた閉じる構成は、我々に何を問いかけているのか。じっくり丁寧に向き合い、その意味を噛み締めたい、そう感じる展示でした。
5.「須田悦弘展」 千葉市美術館(10/30-12/16)

あちこち歩き回りながら「あった!」と見つける喜び。そこに艶やかな草花がそっと。これを愛おしいと呼ばずに何というのでしょうか。また千葉市美らしく江戸絵画や古美術と取り合わせた企画も魅力アップ。さや堂を今回ほど効果的に使った展示も初めてでした。公開制作を見学したのも良い思い出です。
6.「セザンヌーパリとプロヴァンス」 国立新美術館(3/28-6/11)

約40年ぶりとなる大回顧展。基本的に時間軸に沿いながらも、二つの都市、パリとプロヴァンスに焦点をあて、さらにいくつかのテーマに分けた章立ても、また画家の多面性を知るのに相応しい内容ではなかったでしょうか。どこか取っ付きにくい印象もあるセザンヌ、しかしかの繊細なタッチ、そして知的遊戯というべき視覚的実験。その面白さ。画家の進取性を改めて知る思いがしました。
7.「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館(4/10~5/20)

キャッチーなタイトル、しかしながら展示は至極充実。蕭白の魅力全開です。また前史や同時代の画家と比較する丹念な構成も秀逸。蕭白の特異性を知るとともに、当時の画壇から如何なる影響を受けているのかを知ることが出来ました。またランクに入れませんでしたが、今年は東博の「ボストン美術館展」でも蕭白は主役。まさしく蕭白イヤーだったと言えそうです。
8.「シャルダン展」 三菱一号館美術館(2012/9/8-2013/1/6)

今年も好企画連発の三菱一号館の中でもとりわけ強い感銘を受け、また余韻を覚えた展覧会です。寡黙でかつ静謐、静物に差し込む詩情。実は2度ほど行きましたが、見れば見るほど深い味わいに虜となる。噛めば噛むほど味が出る。実に趣き深い絵画体験をすることが出来ました。
9.「おもしろびじゅつワンダーランド」 サントリー美術館(8/8-9/2)

いわゆるテーマパーク体験型の展覧会。確かに夏休みの特別企画という面はあったでしょう。しかしながら間違いなく一般的な展覧会の在り方に風穴を開けた企画。様々な角度からさらに検証してしかるべき、非常に意義深いものであったに違いありません。これほど観客が目をキラキラさせながら日本美術に親しんだことがあったのか。本当に楽しかったです!
10.「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」 国立新美術館(10/3-12/23)

今年は注目のマウリッツ、そしてベルリンにエルミタージュなど、いわゆる西洋の名画名品展も充実していましたが、最も印象深いのがこのリヒテンシュタインです。もちろんかのバロックルーム、本邦初となる天井画の展示にも圧倒されましたが、ルーベンスの諸作も充実。コレクションの層の厚みを思わせる内容で見入りました。来年のBunkamuraでのルーベンス展にも期待しましょう。
次点.「ドビュッシー、音楽と美術」 ブリヂストン美術館(7/14-10/14)
次点のドビュッシーは作曲家を基点にしながらも音楽と美術の関係を問うもの。双方のジャンル、親和性が高いとされながらも、それだけで片付けられないのも事実。しかしながらそこにあえて切り込んだ企画には深い意義があったのではないでしょうか。またオルセー蔵の名品も多く、西洋絵画展としても相当に見応えがありました。
またドビュッシー展の絡みでは、荻窪の6次元で「ドビュッシーナイト」なる企画を。不肖私が進行役をつとめさせていただきました。振り返れば今年は展覧会やイベントなどを通して、多方面の方と交流を深められた一年だったと思います。こうした繋がりに改めて感謝です。
またベストには入れなかったものの、特に印象に残った展覧会は以下の通りです。
「田中一光とデザインの前後左右」 21_21 DESIGN SIGHT(2012/9/21-2013/1/20)
「ベン・シャーン展」 埼玉県立近代美術館(2012/11/17-2013/1/14)
「中西夏之展」 DIC川村記念美術館(2012/10/13-2013/1/14)
「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」 根津美術館(11/1-12/16)
「篠山紀信展」 東京オペラシティアートギャラリー(10/3-12/24)
「古道具、その行き先-坂田和實の40年」 渋谷区立松濤美術館(10/3-11/25)
「棚田康司 たちのぼる。展」 練馬区立美術館(9/16-11/25)
「さわひらき展 Whirl」 神奈川県民ホールギャラリー(10/23-11/24)
「日本の70年代 1968-1982」 埼玉県立近代美術館(9/15-11/11)
「ポール・デルヴォー展」 府中市美術館(9/12-11/11)
「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」 国立新美術館(8/8-10/22)
「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」 Bunkamura ザ・ミュージアム(8/4-10/8)
「特撮博物館」 東京都現代美術館(7/10~10/8)
「ベルリン国立美術館展」 国立西洋美術館(6/13-9/17)
「お伽草子 この国は物語にあふれている」 サントリー美術館(9/19-11/4)
「船田玉樹展」 練馬区立美術館(7/15-9/9)
「村山知義の宇宙」 世田谷美術館(7/14-9/2)
「ハラ ドキュメンツ9 安藤正子―おへその庭」 原美術館(7/12-8/19)
「バーン=ジョーンズ展」 三菱一号館美術館(6/23-8/19)
「吉川霊華展」 東京国立近代美術館(6/12-7/29)
「福田平八郎と日本画モダン」 山種美術館(5/26-7/22)
「川内倫子展 照度 あめつち 影を見る」 東京都写真美術館(5/12~7/16)
「近代洋画の開拓者 高橋由一」 東京藝術大学大学美術館(4/28-6/24)
「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館(3/20-6/10)
「KORIN展」 根津美術館(4/21-5/20)
「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 埼玉県立近代美術館(4/14-5/20)
「難波田史男の15年」 東京オペラシティアートギャラリー(1/14-3/25)
「今和次郎 採集講義展」 パナソニック汐留ミュージアム(1/14-3/25)
「ジャン=ミシェル オトニエル:マイウェイ」 原美術館(1/7-3/11)
「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints」 横浜市民ギャラリーあざみ野(2/4-2/26)
「北京故宮博物院200選」 東京国立博物館(1/2-2/19)
如何でしょうか。たくさん挙げてしまいましたが、いずれも思い出深く、また甲乙付け難い内容。これ以上は絞り込めませんでした。
皆さんは今年一年、美術や音楽で、どのような感動、発見、衝撃、そして出会いがあったでしょうか。本エントリに展覧会のベスト10についてTBなりコメントをいただけると嬉しいです。
これで年内のブログの更新は終わります。本年もこの拙い「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうか佳いお年をお迎え下さい!
*過去の展覧会ベスト10
2011年、2010年、2009年、2008年、2007年、2006年、2005年、2004年(その2。2003年も含む。)
*関連エントリ
2012年 私が観たギャラリー ベスト10
「2012年 私が観た展覧会 ベスト10」
1.「トーマス・デマンド展」 東京都現代美術館(5/19-7/8)

率直なところ、このデマンドと具体とポロック、どれを1位にするのか相当に迷いましたが、初見時の頭を殴られたような衝撃。その観点からもデマンドを1位にすることにしました。「紙で出来たリアル」。いずれの作品も匿名的で、なおかつ恐ろしいまでの不在感、しかしながら実はその奥底に何らかの事実と物語があった。今自分が見ているもの、体験しているものは一体何なのか、そしてそれは確かなのか。そうしたものを強く考えさせられる展示でした。
2.「具体-ニッポンの前衛 18年の軌跡」 国立新美術館(7/4-9/10)

2004年に兵庫県美での回顧展を見て強く興味を惹かれた具体。まさか東京でこれほどの規模での展覧会が行われるとは思いもよりません。戦後に興った僅か20年弱の美術の一潮流。そして万博での終焉。必ずしも順風満帆ではないものの、そこには確かに何かを変えようとする芸術家たちがいた。ドラマテックな展開に終始、圧倒させられました。
3.「ジャクソン・ポロック展」 東京国立近代美術館(2/1-5/6)

私が抽象絵画を好きになったきっかけの一人であるポロック。まさに待望の回顧展です。ともかくこれまでは断片的にしか見てこられなかったので、時間軸に沿いながら作品を追うだけでも感無量。オールオーヴァーおける生命感と躍動感。それが晩期になってかなり変容していく。どうしても壮絶なポロックの人生を思わずにいられませんでした。
4.「美術にぶるっ!第2部 実験場1950s」 東京国立近代美術館(2012/10/16-2013/1/14)

東近美のリニューアルオープンにあえてこれをぶつけて来た企画の方の熱意、まずはそこに頭を下げたいと思います。50年代の混沌、また反面での成長。それが今とどう関係していくのか。原爆で幕を空け原爆でまた閉じる構成は、我々に何を問いかけているのか。じっくり丁寧に向き合い、その意味を噛み締めたい、そう感じる展示でした。
5.「須田悦弘展」 千葉市美術館(10/30-12/16)

あちこち歩き回りながら「あった!」と見つける喜び。そこに艶やかな草花がそっと。これを愛おしいと呼ばずに何というのでしょうか。また千葉市美らしく江戸絵画や古美術と取り合わせた企画も魅力アップ。さや堂を今回ほど効果的に使った展示も初めてでした。公開制作を見学したのも良い思い出です。
6.「セザンヌーパリとプロヴァンス」 国立新美術館(3/28-6/11)

約40年ぶりとなる大回顧展。基本的に時間軸に沿いながらも、二つの都市、パリとプロヴァンスに焦点をあて、さらにいくつかのテーマに分けた章立ても、また画家の多面性を知るのに相応しい内容ではなかったでしょうか。どこか取っ付きにくい印象もあるセザンヌ、しかしかの繊細なタッチ、そして知的遊戯というべき視覚的実験。その面白さ。画家の進取性を改めて知る思いがしました。
7.「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館(4/10~5/20)

キャッチーなタイトル、しかしながら展示は至極充実。蕭白の魅力全開です。また前史や同時代の画家と比較する丹念な構成も秀逸。蕭白の特異性を知るとともに、当時の画壇から如何なる影響を受けているのかを知ることが出来ました。またランクに入れませんでしたが、今年は東博の「ボストン美術館展」でも蕭白は主役。まさしく蕭白イヤーだったと言えそうです。
8.「シャルダン展」 三菱一号館美術館(2012/9/8-2013/1/6)

今年も好企画連発の三菱一号館の中でもとりわけ強い感銘を受け、また余韻を覚えた展覧会です。寡黙でかつ静謐、静物に差し込む詩情。実は2度ほど行きましたが、見れば見るほど深い味わいに虜となる。噛めば噛むほど味が出る。実に趣き深い絵画体験をすることが出来ました。
9.「おもしろびじゅつワンダーランド」 サントリー美術館(8/8-9/2)

いわゆるテーマパーク体験型の展覧会。確かに夏休みの特別企画という面はあったでしょう。しかしながら間違いなく一般的な展覧会の在り方に風穴を開けた企画。様々な角度からさらに検証してしかるべき、非常に意義深いものであったに違いありません。これほど観客が目をキラキラさせながら日本美術に親しんだことがあったのか。本当に楽しかったです!
10.「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」 国立新美術館(10/3-12/23)

今年は注目のマウリッツ、そしてベルリンにエルミタージュなど、いわゆる西洋の名画名品展も充実していましたが、最も印象深いのがこのリヒテンシュタインです。もちろんかのバロックルーム、本邦初となる天井画の展示にも圧倒されましたが、ルーベンスの諸作も充実。コレクションの層の厚みを思わせる内容で見入りました。来年のBunkamuraでのルーベンス展にも期待しましょう。
次点.「ドビュッシー、音楽と美術」 ブリヂストン美術館(7/14-10/14)
次点のドビュッシーは作曲家を基点にしながらも音楽と美術の関係を問うもの。双方のジャンル、親和性が高いとされながらも、それだけで片付けられないのも事実。しかしながらそこにあえて切り込んだ企画には深い意義があったのではないでしょうか。またオルセー蔵の名品も多く、西洋絵画展としても相当に見応えがありました。
またドビュッシー展の絡みでは、荻窪の6次元で「ドビュッシーナイト」なる企画を。不肖私が進行役をつとめさせていただきました。振り返れば今年は展覧会やイベントなどを通して、多方面の方と交流を深められた一年だったと思います。こうした繋がりに改めて感謝です。
またベストには入れなかったものの、特に印象に残った展覧会は以下の通りです。
「田中一光とデザインの前後左右」 21_21 DESIGN SIGHT(2012/9/21-2013/1/20)
「ベン・シャーン展」 埼玉県立近代美術館(2012/11/17-2013/1/14)
「中西夏之展」 DIC川村記念美術館(2012/10/13-2013/1/14)
「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」 根津美術館(11/1-12/16)
「篠山紀信展」 東京オペラシティアートギャラリー(10/3-12/24)
「古道具、その行き先-坂田和實の40年」 渋谷区立松濤美術館(10/3-11/25)
「棚田康司 たちのぼる。展」 練馬区立美術館(9/16-11/25)
「さわひらき展 Whirl」 神奈川県民ホールギャラリー(10/23-11/24)
「日本の70年代 1968-1982」 埼玉県立近代美術館(9/15-11/11)
「ポール・デルヴォー展」 府中市美術館(9/12-11/11)
「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」 国立新美術館(8/8-10/22)
「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」 Bunkamura ザ・ミュージアム(8/4-10/8)
「特撮博物館」 東京都現代美術館(7/10~10/8)
「ベルリン国立美術館展」 国立西洋美術館(6/13-9/17)
「お伽草子 この国は物語にあふれている」 サントリー美術館(9/19-11/4)
「船田玉樹展」 練馬区立美術館(7/15-9/9)
「村山知義の宇宙」 世田谷美術館(7/14-9/2)
「ハラ ドキュメンツ9 安藤正子―おへその庭」 原美術館(7/12-8/19)
「バーン=ジョーンズ展」 三菱一号館美術館(6/23-8/19)
「吉川霊華展」 東京国立近代美術館(6/12-7/29)
「福田平八郎と日本画モダン」 山種美術館(5/26-7/22)
「川内倫子展 照度 あめつち 影を見る」 東京都写真美術館(5/12~7/16)
「近代洋画の開拓者 高橋由一」 東京藝術大学大学美術館(4/28-6/24)
「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館(3/20-6/10)
「KORIN展」 根津美術館(4/21-5/20)
「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 埼玉県立近代美術館(4/14-5/20)
「難波田史男の15年」 東京オペラシティアートギャラリー(1/14-3/25)
「今和次郎 採集講義展」 パナソニック汐留ミュージアム(1/14-3/25)
「ジャン=ミシェル オトニエル:マイウェイ」 原美術館(1/7-3/11)
「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints」 横浜市民ギャラリーあざみ野(2/4-2/26)
「北京故宮博物院200選」 東京国立博物館(1/2-2/19)
如何でしょうか。たくさん挙げてしまいましたが、いずれも思い出深く、また甲乙付け難い内容。これ以上は絞り込めませんでした。
皆さんは今年一年、美術や音楽で、どのような感動、発見、衝撃、そして出会いがあったでしょうか。本エントリに展覧会のベスト10についてTBなりコメントをいただけると嬉しいです。
これで年内のブログの更新は終わります。本年もこの拙い「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうか佳いお年をお迎え下さい!
*過去の展覧会ベスト10
2011年、2010年、2009年、2008年、2007年、2006年、2005年、2004年(その2。2003年も含む。)
*関連エントリ
2012年 私が観たギャラリー ベスト10
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2012年 私が観たギャラリー ベスト10
年末恒例のベスト10企画です。今年一年、私が観たギャラリーから特に印象深かった展示をあげてみました。
「2012年 私が観たギャラリー ベスト10」
1.「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」 無人島プロダクション(2012/12/8~2013/1/19)

ずばりいわゆる「原子力村」がテーマ。歴史をもひも解いての風間の痛快・明快なメッセージが、それ自体に魅力的な版画表現で展開。いずれも驚くほど見事にはまっています。展示は年始も1/7から開催。(1/19まで)強力におすすめです。是非とも!
2.「石田尚志展」 タカ・イシイギャラリー(3/31-4/28)

昨年のMOTコレクションでも大いに惹かれた石田の個展。生きるドローイング、その動きはまさにスリリング。イメージが次から次へと開かれる様はまるで手品を見ているよう。それにしても作品の裏へ廻った時の衝撃と言ったら。見事でした。
3.「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.4 浅見貴子」 ギャラリーαM(8/18~9/15)

今年も極めて充実したシリーズ展を続ける馬喰町αM。毎度の展示に感心させられるところですが、今回は浅見の個展が特に印象的。絵具の滲み、そして錯綜する面と層。それらが織りなす光と影。作品の前で思わず深呼吸したくなるほど。見惚れました。
4.「鎌田友介:D Structure」 児玉画廊 東京(1/21-2/25)

鎌田は今年、資生堂ギャラリーでも展示のあった作家。もちろんそちらも印象深かったのですが、ここはあえて児玉画廊を。スパッと切られたガラスサッシ、そして歪んだフレーム。それらが展開する時に暴力的なまでのインスタレーション。それでいてどこかスタイリッシュな感覚を受けるのも興味深いところでした。
5.「高橋大輔 絵画の田舎」 アルマスギャラリー(4/28-6/2)

今年、私が特に惹かれたペインターの一人がこの高橋大輔。もう、ともかく一目で楽しめる絵具の盛り。平面など吹き飛ばさんと言わんばかりのボリューム感。眼を近づけると絵具にのまれ、圧倒されます。また旧作とあわせた「まぶしい絵具」展を現在、同ギャラリーで開催中です。(1/19まで。)
6.「内山聡 Soaked Paintings」 eitoeiko(9/21-10/20)

「私はキャンバスを塗料に浸けた。」この一言が全てを物語る展示。描くではなく、浸すという行為が、かくも表現に新しさをもたらすのか。そうしたことにも気がつかされる展示でした。このアプローチ、次にどう展開するのかにも注目です。
7.「後藤靖香 暗号模索」 第一生命南ギャラリー(3/23-4/23)

会場の第一生命館、そしてかつて繰り広げられた旧陸軍の暗号解読に着目しての大作を出品。場所と歴史を絡めて突っ込んだ展示は見応えあり。また作品自体も手狭な空間だからこその迫力。さらに本作のために調査した後藤の解説シートも読み応えがありました。
8.「青山悟展「The Man-Machine(Reprise)」 ミヅマアートギャラリー(8/29-9/29)

メグロアドレスにも出品のあったお馴染みの青山悟。作品の緊張感、そして空間全体での完成度は、このミヅマの展示に軍配が上がるのではないでしょうか。悔やまれるのはオープニングのライブに参加出来なかったこと。いつか平子とのコラボの様子を見てみたいです。
9.「安村崇 1/1」 MISAKO & ROSEN(5/13-6/10)

日常の景色を抽象面に還元、幾何学図像が鮮やかな色をもって展開。身近な建物やソファーにかくも美しき抽象的次元が隠されていたのか。単にトリミング云々ではない、新鮮味のある視点から風景を捉える作家のセンスに脱帽しました。
10.「五木田智央 Variety Show」 タカ・イシイギャラリー

今年のDIC川村記念美術館の「抽象と形態」展にも出品のあった作家。シュール、いやそれを通り越してのアクの強い作風、抽象的にも関わらず、どこか生々しいモチーフは目に焼き付きます。個展形式で見られて幸いでした。
次点.「ガロン第二回展 日本背景」 旧田中家住宅(2/14-3/18)
以上です。ガロン展はこの「ギャラリー」の項に含めるのが適切ではないかもしれませんが、こちらで取り上げさせていただきました。川口の旧民家を活かしてのグループ展。単に作家を紹介するだけでなく、場所を強く意識しての展示全体の妙味にも感心。キュレーションの力を感じました。
さて今年はともかく反省点が。まずギャラリーをあまり廻れなかったことと、また見ていても感想なりをブログに書かなかったことです。
例えば今、六本木のWAKO WORKSで開催中のリヒターの新作展も素晴らしい内容。何とかおすすめしたいのですが、私の文章ではうまくお伝え出来そうもありません。本当に申し訳ない限りです。
ですが今年も作品や展示を通して多くの作家さんと出会えたのは収穫。お話をしながら新しい発見や出会いがありました。
それでは毎年同じ挨拶で恐縮ですが、改めて素晴らしい作品を見せて下さった作家さん、そして色々とご配慮下さったギャラリーの方々に深く感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
それでは展覧会編に続きます。
*過去のギャラリー・ベスト10
2011年、2010年、2009年、2008年、2007年
「2012年 私が観たギャラリー ベスト10」
1.「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」 無人島プロダクション(2012/12/8~2013/1/19)

ずばりいわゆる「原子力村」がテーマ。歴史をもひも解いての風間の痛快・明快なメッセージが、それ自体に魅力的な版画表現で展開。いずれも驚くほど見事にはまっています。展示は年始も1/7から開催。(1/19まで)強力におすすめです。是非とも!
2.「石田尚志展」 タカ・イシイギャラリー(3/31-4/28)

昨年のMOTコレクションでも大いに惹かれた石田の個展。生きるドローイング、その動きはまさにスリリング。イメージが次から次へと開かれる様はまるで手品を見ているよう。それにしても作品の裏へ廻った時の衝撃と言ったら。見事でした。
3.「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.4 浅見貴子」 ギャラリーαM(8/18~9/15)

今年も極めて充実したシリーズ展を続ける馬喰町αM。毎度の展示に感心させられるところですが、今回は浅見の個展が特に印象的。絵具の滲み、そして錯綜する面と層。それらが織りなす光と影。作品の前で思わず深呼吸したくなるほど。見惚れました。
4.「鎌田友介:D Structure」 児玉画廊 東京(1/21-2/25)

鎌田は今年、資生堂ギャラリーでも展示のあった作家。もちろんそちらも印象深かったのですが、ここはあえて児玉画廊を。スパッと切られたガラスサッシ、そして歪んだフレーム。それらが展開する時に暴力的なまでのインスタレーション。それでいてどこかスタイリッシュな感覚を受けるのも興味深いところでした。
5.「高橋大輔 絵画の田舎」 アルマスギャラリー(4/28-6/2)

今年、私が特に惹かれたペインターの一人がこの高橋大輔。もう、ともかく一目で楽しめる絵具の盛り。平面など吹き飛ばさんと言わんばかりのボリューム感。眼を近づけると絵具にのまれ、圧倒されます。また旧作とあわせた「まぶしい絵具」展を現在、同ギャラリーで開催中です。(1/19まで。)
6.「内山聡 Soaked Paintings」 eitoeiko(9/21-10/20)

「私はキャンバスを塗料に浸けた。」この一言が全てを物語る展示。描くではなく、浸すという行為が、かくも表現に新しさをもたらすのか。そうしたことにも気がつかされる展示でした。このアプローチ、次にどう展開するのかにも注目です。
7.「後藤靖香 暗号模索」 第一生命南ギャラリー(3/23-4/23)

会場の第一生命館、そしてかつて繰り広げられた旧陸軍の暗号解読に着目しての大作を出品。場所と歴史を絡めて突っ込んだ展示は見応えあり。また作品自体も手狭な空間だからこその迫力。さらに本作のために調査した後藤の解説シートも読み応えがありました。
8.「青山悟展「The Man-Machine(Reprise)」 ミヅマアートギャラリー(8/29-9/29)

メグロアドレスにも出品のあったお馴染みの青山悟。作品の緊張感、そして空間全体での完成度は、このミヅマの展示に軍配が上がるのではないでしょうか。悔やまれるのはオープニングのライブに参加出来なかったこと。いつか平子とのコラボの様子を見てみたいです。
9.「安村崇 1/1」 MISAKO & ROSEN(5/13-6/10)

日常の景色を抽象面に還元、幾何学図像が鮮やかな色をもって展開。身近な建物やソファーにかくも美しき抽象的次元が隠されていたのか。単にトリミング云々ではない、新鮮味のある視点から風景を捉える作家のセンスに脱帽しました。
10.「五木田智央 Variety Show」 タカ・イシイギャラリー

今年のDIC川村記念美術館の「抽象と形態」展にも出品のあった作家。シュール、いやそれを通り越してのアクの強い作風、抽象的にも関わらず、どこか生々しいモチーフは目に焼き付きます。個展形式で見られて幸いでした。
次点.「ガロン第二回展 日本背景」 旧田中家住宅(2/14-3/18)
以上です。ガロン展はこの「ギャラリー」の項に含めるのが適切ではないかもしれませんが、こちらで取り上げさせていただきました。川口の旧民家を活かしてのグループ展。単に作家を紹介するだけでなく、場所を強く意識しての展示全体の妙味にも感心。キュレーションの力を感じました。
さて今年はともかく反省点が。まずギャラリーをあまり廻れなかったことと、また見ていても感想なりをブログに書かなかったことです。
例えば今、六本木のWAKO WORKSで開催中のリヒターの新作展も素晴らしい内容。何とかおすすめしたいのですが、私の文章ではうまくお伝え出来そうもありません。本当に申し訳ない限りです。
ですが今年も作品や展示を通して多くの作家さんと出会えたのは収穫。お話をしながら新しい発見や出会いがありました。
それでは毎年同じ挨拶で恐縮ですが、改めて素晴らしい作品を見せて下さった作家さん、そして色々とご配慮下さったギャラリーの方々に深く感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
それでは展覧会編に続きます。
*過去のギャラリー・ベスト10
2011年、2010年、2009年、2008年、2007年
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「白隠展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
Bunkamura ザ・ミュージアム
「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」
2012/12/22~2013/2/24

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」のプレスプレビューに参加してきました。
臨済宗中興の祖、白隠慧鶴(はくいんえかく。1685~1768。)。80年の歳月を民衆教化に費やし、そのために日本美術史上最多とも言える1万点余の禅画を残しました。
しかしながら美術の観点から白隠を評価する本格的な展覧会がなかったのは事実。その偉業の反面、必ずしも良く知られた存在とは言えないかもしれません。
ここにようやく復権。白隠の時代がやってきました。史上最大規模の白隠展が渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムでスタート。というわけで、白隠をこよなく愛してやまない監修の山下裕二先生のお話に沿って展覧会をご案内。まず冒頭の「隻履達磨」から参りましょう。

白隠慧鶴「隻履達磨」(龍嶽寺)と監修の山下裕二先生。
これぞ白隠の書画の象徴的な達磨の姿に他なりませんが、この作品には謂れが。 実はとある僧が旅先で亡くなったはずの達磨にばったり出会い、何故ここにいるか聞いたところ、天竺(インド)へ帰るところだといって消えてしまいます。
僧が不思議に思って帰国後、達磨の墓を見ると、片方の履だけが残っていたとか。ようは達磨の幽霊の姿なのです。それにしても白隠70代、もしくは80代ともされる晩年の作品ですが、このど迫力。並大抵ではありません。
また達磨は白隠の自画像的な意味も持っています。まさに死んだ達磨が蘇ったのと同様、白隠もここに蘇る。本作を展示冒頭に掲げたのは山下先生のこうしたメッセージも込められています。
さて続いては白隠の多く描いた釈迦と菩薩がご登場。

右:白隠慧鶴「出山釈迦」 大阪市立近代美術館建設準備室
左:白隠慧鶴「出山釈迦」 自性寺
彼の残した釈迦は痩せ衰えているものが多く、それは自らの若い頃の厳しい修行、いわゆる地獄の説法の経験と重ね合わせているとか。
また殆どが紙に描かれる中、観音だけは絹に描かれているのも特徴です。
しかもいずれも温和で伏し目がちな女性をモチーフにしていることから、そこに彼の特別な人物、つまり母親の面影を見ているのではないかという指摘も。山下先生曰く白隠は大変なマザコンだったそうです。

白隠慧鶴「蓮池観音」 個人蔵
また「蓮池観音」では、ぽっかり虚空に浮かぶ蓮の描写が若冲の「蓮池遊魚図」に似ているという指摘も。これは若冲が白隠画を見ていた可能性が。
また力強い筆致との関連から曾我蕭白への影響も。無量寺には多くの白隠画が残されています。
さらに実際に白隠に参禅した記録も残り、展示でも合作が紹介されている池大雅など、白隠は18世紀の京都の絵師たちと密接に関わりを持っていたと考えられるのだそうです。
さて展示のハイライトへ。それがこの達磨ルーム、初期から最晩年へ至る達磨の作品を並べた六角形のスペースに他なりません。

「達磨」展示室風景
実は白隠、いわゆる画家としては相当の遅咲き。残っている作品の殆どが60代以降のものです。

右:白隠慧鶴「達磨」 清松寺
左:白隠慧鶴「半身達磨」 永明寺 *ともに40代の作品
しかしながらここでは30代中盤から40代の達磨も展示。山下先生の仰るにそれらはいずれも「悩める白隠。」。60を過ぎてからの豪胆な作風とは大きく異なります。

右:白隠慧鶴「半身達磨」 萬壽寺
左:白隠慧鶴「半身達磨」 清見寺 *ともに80代の作品
と言うわけで到達点は83歳の時に描かれた「半身達磨」。モノトーンの作品が多い中、着衣の朱と背景の黒、さらには白い目が鮮やかな色彩のコントラストを生む傑作です。
この作品を一言で表せば「超絶無技巧」、つまり技巧を超えたものを獲得した白隠の技が示されています。
またロウ引きの賛も重要。「直指人心 見性成佛」とありますが、これは自らの心を真っ直ぐに見つめることで初めて己の仏性に気がつく。つまり元々自分は仏であり、それが年月を重ねることで穢れてしまう、だからこそ見つめな直せ、という教えが説かれているのだそうです。

白隠慧鶴「半身達磨」(萬壽寺)と監修の山下裕二先生。
ちなみにこうした賛、また書については、同じく本展の監修者で、花園大学の芳澤勝弘さんの多大なご尽力があって初めて明らかになったもの。
この白隠展は当然ながら一朝一夕に作られたわけではありません。全国に点在する白隠画への地道な研究活動、それを集積しての成果が示されているのです。

白隠慧鶴「すたすた坊主」 早稲田大学會津八一記念博物館蔵
さて他にもすたすた坊主に布袋さんなど、どこかコミカルながらも意味深い作品が多数登場しますが、長くなってしまうので最後に書を。
白隠思想の真髄、「南無地獄大菩薩」を忘れてはなりません。

白隠慧鶴「南無地獄大菩薩」 個人蔵
この南無の後に地獄を続けた意味。そこには地獄こそ菩薩、つまり地獄も極楽も表裏一体であったことが説かれています。
また白隠の書、いずれも初めの文字が大き過ぎて下が小さく、詰まっているのも特徴。全体のバランスなど気にしません。まさに奔放。

右:白隠慧鶴「常」 串本応挙芦雪館
左:白隠慧鶴「動中工夫」
また「動中工夫」にも力強いメッセージが。これは「動中工夫は静中に勝る百千億倍」、つまり静かに悟りをひらくのではなく、外へ打って出よ、一言で示せば活動的であれという意味なのです。

左:白隠慧鶴「円相」永青文庫
最後には円相のモチーフ。1980年代のアメリカの抽象芸術にも影響を与え、その思想はジョン・レノンをも感化、イマジンの歌詞は白隠の教えに由来します。

「白隠展」展示室風景
時に下絵の線も無視しての自由な描線、その生み出す迫力満点の書画。白隠画を見ていると身も心も活気づきます。まさに白隠パワー炸裂、これほど力を与えられる展覧会も久しぶりでした。
地域と時代を超えて生き続ける白隠のメッセージ。是非とも味わってみて下さい。
「白隠/別冊太陽/平凡社」
巡回はありません。2013年2月24日まで開催されています。もちろんおすすめします。
「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2012年12月22日(土)~2013年2月24日(日)
休館:1月1日(火・祝)以外無休。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
*( )内は20名以上の団体料金。要電話予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」
2012/12/22~2013/2/24

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」のプレスプレビューに参加してきました。
臨済宗中興の祖、白隠慧鶴(はくいんえかく。1685~1768。)。80年の歳月を民衆教化に費やし、そのために日本美術史上最多とも言える1万点余の禅画を残しました。
しかしながら美術の観点から白隠を評価する本格的な展覧会がなかったのは事実。その偉業の反面、必ずしも良く知られた存在とは言えないかもしれません。
ここにようやく復権。白隠の時代がやってきました。史上最大規模の白隠展が渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムでスタート。というわけで、白隠をこよなく愛してやまない監修の山下裕二先生のお話に沿って展覧会をご案内。まず冒頭の「隻履達磨」から参りましょう。

白隠慧鶴「隻履達磨」(龍嶽寺)と監修の山下裕二先生。
これぞ白隠の書画の象徴的な達磨の姿に他なりませんが、この作品には謂れが。 実はとある僧が旅先で亡くなったはずの達磨にばったり出会い、何故ここにいるか聞いたところ、天竺(インド)へ帰るところだといって消えてしまいます。
僧が不思議に思って帰国後、達磨の墓を見ると、片方の履だけが残っていたとか。ようは達磨の幽霊の姿なのです。それにしても白隠70代、もしくは80代ともされる晩年の作品ですが、このど迫力。並大抵ではありません。
また達磨は白隠の自画像的な意味も持っています。まさに死んだ達磨が蘇ったのと同様、白隠もここに蘇る。本作を展示冒頭に掲げたのは山下先生のこうしたメッセージも込められています。
さて続いては白隠の多く描いた釈迦と菩薩がご登場。

右:白隠慧鶴「出山釈迦」 大阪市立近代美術館建設準備室
左:白隠慧鶴「出山釈迦」 自性寺
彼の残した釈迦は痩せ衰えているものが多く、それは自らの若い頃の厳しい修行、いわゆる地獄の説法の経験と重ね合わせているとか。
また殆どが紙に描かれる中、観音だけは絹に描かれているのも特徴です。
しかもいずれも温和で伏し目がちな女性をモチーフにしていることから、そこに彼の特別な人物、つまり母親の面影を見ているのではないかという指摘も。山下先生曰く白隠は大変なマザコンだったそうです。

白隠慧鶴「蓮池観音」 個人蔵
また「蓮池観音」では、ぽっかり虚空に浮かぶ蓮の描写が若冲の「蓮池遊魚図」に似ているという指摘も。これは若冲が白隠画を見ていた可能性が。
また力強い筆致との関連から曾我蕭白への影響も。無量寺には多くの白隠画が残されています。
さらに実際に白隠に参禅した記録も残り、展示でも合作が紹介されている池大雅など、白隠は18世紀の京都の絵師たちと密接に関わりを持っていたと考えられるのだそうです。
さて展示のハイライトへ。それがこの達磨ルーム、初期から最晩年へ至る達磨の作品を並べた六角形のスペースに他なりません。

「達磨」展示室風景
実は白隠、いわゆる画家としては相当の遅咲き。残っている作品の殆どが60代以降のものです。

右:白隠慧鶴「達磨」 清松寺
左:白隠慧鶴「半身達磨」 永明寺 *ともに40代の作品
しかしながらここでは30代中盤から40代の達磨も展示。山下先生の仰るにそれらはいずれも「悩める白隠。」。60を過ぎてからの豪胆な作風とは大きく異なります。

右:白隠慧鶴「半身達磨」 萬壽寺
左:白隠慧鶴「半身達磨」 清見寺 *ともに80代の作品
と言うわけで到達点は83歳の時に描かれた「半身達磨」。モノトーンの作品が多い中、着衣の朱と背景の黒、さらには白い目が鮮やかな色彩のコントラストを生む傑作です。
この作品を一言で表せば「超絶無技巧」、つまり技巧を超えたものを獲得した白隠の技が示されています。
またロウ引きの賛も重要。「直指人心 見性成佛」とありますが、これは自らの心を真っ直ぐに見つめることで初めて己の仏性に気がつく。つまり元々自分は仏であり、それが年月を重ねることで穢れてしまう、だからこそ見つめな直せ、という教えが説かれているのだそうです。

白隠慧鶴「半身達磨」(萬壽寺)と監修の山下裕二先生。
ちなみにこうした賛、また書については、同じく本展の監修者で、花園大学の芳澤勝弘さんの多大なご尽力があって初めて明らかになったもの。
この白隠展は当然ながら一朝一夕に作られたわけではありません。全国に点在する白隠画への地道な研究活動、それを集積しての成果が示されているのです。

白隠慧鶴「すたすた坊主」 早稲田大学會津八一記念博物館蔵
さて他にもすたすた坊主に布袋さんなど、どこかコミカルながらも意味深い作品が多数登場しますが、長くなってしまうので最後に書を。
白隠思想の真髄、「南無地獄大菩薩」を忘れてはなりません。

白隠慧鶴「南無地獄大菩薩」 個人蔵
この南無の後に地獄を続けた意味。そこには地獄こそ菩薩、つまり地獄も極楽も表裏一体であったことが説かれています。
また白隠の書、いずれも初めの文字が大き過ぎて下が小さく、詰まっているのも特徴。全体のバランスなど気にしません。まさに奔放。

右:白隠慧鶴「常」 串本応挙芦雪館
左:白隠慧鶴「動中工夫」
また「動中工夫」にも力強いメッセージが。これは「動中工夫は静中に勝る百千億倍」、つまり静かに悟りをひらくのではなく、外へ打って出よ、一言で示せば活動的であれという意味なのです。

左:白隠慧鶴「円相」永青文庫
最後には円相のモチーフ。1980年代のアメリカの抽象芸術にも影響を与え、その思想はジョン・レノンをも感化、イマジンの歌詞は白隠の教えに由来します。

「白隠展」展示室風景
時に下絵の線も無視しての自由な描線、その生み出す迫力満点の書画。白隠画を見ていると身も心も活気づきます。まさに白隠パワー炸裂、これほど力を与えられる展覧会も久しぶりでした。
地域と時代を超えて生き続ける白隠のメッセージ。是非とも味わってみて下さい。

巡回はありません。2013年2月24日まで開催されています。もちろんおすすめします。
「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2012年12月22日(土)~2013年2月24日(日)
休館:1月1日(火・祝)以外無休。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
*( )内は20名以上の団体料金。要電話予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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WEB座談会「2013年美術展を語る」を開催します!
気がつけば年の瀬。今年の展示を思い返しつつ、来年の展覧会の情報をチェック!という方もおられるかもしれません。
そこでイベントが。「WEBイベント2013年美術展を語る」を開催します!

【史上初!のWEBイベント『2013美術展を語る』】
開催日時:2013年1月13日(日) 10:00~11:00
*開始時間の10分前から指定したwebサイトにログインしてください。
出演:「青い日記帳」Takさん、@mikarineさん、はろるど。
内容:1. 2012年の展覧会を振り返って
2. 2013年の展覧会について
3. 展覧会の情報をみんなに知らせよう!
*アクセス方法についてはお申込み後、メールにてご案内いたします。
出演はお馴染み青い日記帳のTakさんと、展覧会をこよなく愛する@mikarineさん、そして不肖、私はろるどの三名。
あくまでも素人目線ではありますが、今年を振り返りながら、来年のおすすめ展覧会などについてざっくばらんに語ろうと思います。
さて今回のポイントはタイトルにもあるようにWEB上のイベントであること。ようは自宅のパソコンから気軽に参加出来る企画なのです。
【座談会の特徴】
・視聴者の皆さんもチャットを通じて参加可能!
(自分の意見も述べられ、参加者の意見もわかります。)
・座談会の途中に皆さんの意見をアンケートで集約!
(みんなの意見がすぐにわかります。)
・アンケートに答えると展覧会の招待券がもらえるかも
特別なソフトをダウンロードする必要は一切なし。申込後に送られてくるURLアドレスをクリックするだけです。もちろん無料。
イメージとしてはUSTREAMですが、今回のシステムではご参加いただいた方同士でのチャットも可能。またこちらからリアルタイムでアンケートをお取りして、それをトークにも反映。さらにシステムはクローズ、申込まれた方のみしか視聴、またチャットに参加出来ません。
ようはWEB上でありながらも実際に会場でトークに参加するような感覚で楽しめるわけです。
日時は2013年1月13日(日)の朝10時から11時まで。ちょうどNHKの日曜美術館が終わった時間です。自宅で日曜美術館をご覧になった後、そのまま続けて1時間ほどお付き合い下されば嬉しい限り。もちろんWEB上なので、パジャマや布団に入りながら見て下さっても大丈夫です。
「日経おとなのOFF/2013年1月号/日経BP社」
今回はあくまでも実験的な企画。これをうまく成功させて、次に美術館や専門家の方のお話を聞くWEBイベントが出来ればと思っています。
「史上初!のWEBイベント『2013美術展を語る』」参加申込みフォーム
それでは改めて。2013年1月13日(日)午前10時から「WEBイベント『2013美術展を語る』」、お申し込みお待ちしております!(100名限定です!)
そこでイベントが。「WEBイベント2013年美術展を語る」を開催します!

【史上初!のWEBイベント『2013美術展を語る』】
開催日時:2013年1月13日(日) 10:00~11:00
*開始時間の10分前から指定したwebサイトにログインしてください。
出演:「青い日記帳」Takさん、@mikarineさん、はろるど。
内容:1. 2012年の展覧会を振り返って
2. 2013年の展覧会について
3. 展覧会の情報をみんなに知らせよう!
*アクセス方法についてはお申込み後、メールにてご案内いたします。
出演はお馴染み青い日記帳のTakさんと、展覧会をこよなく愛する@mikarineさん、そして不肖、私はろるどの三名。
あくまでも素人目線ではありますが、今年を振り返りながら、来年のおすすめ展覧会などについてざっくばらんに語ろうと思います。
さて今回のポイントはタイトルにもあるようにWEB上のイベントであること。ようは自宅のパソコンから気軽に参加出来る企画なのです。
【座談会の特徴】
・視聴者の皆さんもチャットを通じて参加可能!
(自分の意見も述べられ、参加者の意見もわかります。)
・座談会の途中に皆さんの意見をアンケートで集約!
(みんなの意見がすぐにわかります。)
・アンケートに答えると展覧会の招待券がもらえるかも
特別なソフトをダウンロードする必要は一切なし。申込後に送られてくるURLアドレスをクリックするだけです。もちろん無料。
イメージとしてはUSTREAMですが、今回のシステムではご参加いただいた方同士でのチャットも可能。またこちらからリアルタイムでアンケートをお取りして、それをトークにも反映。さらにシステムはクローズ、申込まれた方のみしか視聴、またチャットに参加出来ません。
ようはWEB上でありながらも実際に会場でトークに参加するような感覚で楽しめるわけです。
日時は2013年1月13日(日)の朝10時から11時まで。ちょうどNHKの日曜美術館が終わった時間です。自宅で日曜美術館をご覧になった後、そのまま続けて1時間ほどお付き合い下されば嬉しい限り。もちろんWEB上なので、パジャマや布団に入りながら見て下さっても大丈夫です。

今回はあくまでも実験的な企画。これをうまく成功させて、次に美術館や専門家の方のお話を聞くWEBイベントが出来ればと思っています。
「史上初!のWEBイベント『2013美術展を語る』」参加申込みフォーム
それでは改めて。2013年1月13日(日)午前10時から「WEBイベント『2013美術展を語る』」、お申し込みお待ちしております!(100名限定です!)
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「美術にぶるっ! 第2部 実験場1950s」 東京国立近代美術館
東京国立近代美術館
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年 第2部 実験場1950s」
2012/10/16-2013/1/14

東京国立近代美術館で開催中の「美術にぶるっ! 第2部 実験場1950s」へ行って来ました。
今年、開館60周年を迎えた東京国立近代美術館が全館を挙げて展開中の「美術にぶるっ!」展。
所蔵品ギャラリーの空間を一新し、選りすぐりの名品を紹介する第一部の「MOMATコレクション」も充実していますが、実はこの第二部の「実験場1950s」こそ、まさに一期一会、節目の年に相応しい、見るべき展覧会だと言えるのではないでしょうか。

第二部「実験場」展示室入口
テーマは文字通りに1950年代。この美術館の開館した1952年前後、特に1950年から60年代の美術の諸相を、何と300点超の作品、資料で概観。しかも美術だけにとどまらず、社会との関係にまで踏み込み、その在り方を再考しています。
率直に申し上げれば、決して華があるわけでもなく、取っ付き易い展覧会ではありません。しかしながら少なくとも美術館にてこれほど50年代に突っ込んだ展示があったのか。それを考えるだけでも非常に意義深いものがありました。
さて本展、以下の10のテーマから成り立っています。
1.原爆の刻印
2.静物としての身体
3.複数化するタブロー
4.記録・運動体
5.現場の磁力
6.モダン/プリミティブ
7.「国土」の再編
8.都市とテクノロジー
9.コラージュ/モンタージュ
10.方法としてのオブジェ
それでは早速、「原爆の刻印」から。オープニングを飾る朝日ニュースの映像、「原爆犠牲第一号」からして衝撃的ですが、ともに並ぶ土門拳と川田喜久治の原爆に関する写真にもまた言葉を失います。

「1.原爆の刻印」展示室風景
適切ではないかもしれませんが、川田の原爆ドームの壁面のしみのイメージが、土門の捉えた原爆症患者のケロイドの皮膚と重なり合いました。
さてこうした原爆で幕を開けた展示は、次に戦争体験を反映させた、どこか暗鬱な静物を提示します。

「2.静物としての身体」展示室風景
しかも鶴岡政男の「松本竣介の死」や、傷跡のような表面が痛々しい村岡三郎の彫刻、「1954年7月」など、言わば死を連想させるものばかり。

河原温「浴室」1953-54年 東京国立近代美術館
極め付けはもはやグロテスクでさえある河原温の「浴室」シリーズです。人型のフィギュアが血を噴き出し、最後は全てが単なるパーツ、化石となって朽ちていきました。
その河原温が次の展開への橋渡し役です。

「3.複数化するタブロー」展示室風景
第3のテーマ「複数化するタブロー」で提示されるのは、印刷版画やルポルタージュ絵画です。
と同時に4番目の「記録・運動体」では、メーデや反戦など、言わば左翼色の強いメッセージを掲げた版画と、一方でのアパートの暮らしなどの様子を特集した「暮らしの手帖」を展示。慎ましい日常と、社会を変革しようとする運動の姿が同時に紹介されます。

「カメラ」第39巻~48巻 アルス 1950-54年 東京国立近代美術館
またここで面白いのは雑誌「カメラ」のアマチュア写真投稿コーナー。評者を土門拳が務めたそうですが、投稿された写真の中には東松照明の作品も。
さらに美術と作文を連携させた「綴方風土記」も興味深い資料です。良く出来ている挿絵の版画、一体誰の作かと思いきや、中学生や小学生の手によるものでした。
さて先にも登場した「運動」というキーワード、さらにより突っ込んで捉えたのが、5番目の「現場の磁力」。その最も象徴的なのが砂川事件、つまり東京・立川の砂川基地拡張反対運動に他なりません。

右:中村宏「砂川五番」1955年 東京都現代美術館
反対派と警官隊の衝突をテーマとした中村宏の「砂川五番」も迫力ありますが、ともかく見せるのは亀井文夫のドキュメント映像、「流血の記録 砂川」。

亀井文夫「流血の記録 砂川」1956年 株式会社日本ドキュメント・フィルム
これが全部で1時間弱ほどの映像ですが、ともかく衝突時の様子だけでなく、行政側、そして何と言ってもデモ隊の内部までを克明に描写しています。現実を変えようとする行動、そして高揚感。必ずしもそれが正しいのかは分かりませんが、今はあまり見られなくなった社会の熱気のようなものを強く感じました。
さて少し「美術」へと戻ります。

「6.モダン/プリミティブ」展示室風景
50年代、美術の一つの潮流として重要なのが、復古主義的ではない「伝統」や「原初」の再発見です。その一例として岡本太郎が。いわゆる縄文の生命力を発掘するプロセスとして、彼の写した縄文土器などが紹介されます。
またイサムノグチも重要です。プリミティブ的な造形、まるで古代の祭祀に用いられたような「ひまわり」、そしてまさしく埴輪を思わせる「かぶと」が印象に残りました。
さて本展、意外な場所に思いがけない作品を登場させることで、新たな文脈を提示しているのもポイントかもしれません。

「7.国土の再編」展示室風景 右:東山魁夷「道」1950年 東京国立近代美術館
その際立った例が東山魁夷の「道」です。ようはそれこそ第一部の日本画コーナーに鎮座してしかるべき傑作が、この第二部、「国土と再編」というセクションに置かれています。
これは一体何なのか。
端的に言ってしまえば、50年代、伝統と、また戦争からの復興を見据えて向けられた、「東北」という地を象徴する作品であるわけです。
このモチーフとなる風景は青森の種差海岸。普段向き合う際には、静謐で温和な表情を感じる作品も、この文脈に沿って置かれると、敗戦を乗り越え目前へ前へと進もうとする力強さや意思をたたえているようにも見えます。

「7.国土の再編」展示室風景
そして魁夷に連なるのが、これまた大傑作、木村伊兵衛の「板塀」。秋田の風景を写した作品です。そこからさらに木村伊兵衛の「秋田」シリーズ、そして濱谷浩の「裏日本」シリーズが。木村と濱谷、ともに北国を写した作品の先導に、まさか魁夷が用いられるとは思いませんでした。
少し長くなりました。先を急ぎましょう。
農村から都市へ。急激な都市化を迎えた50年代後半には、工業や機械、産業などに着目した作品が現れます。
新しい素材としてのアルミを用いた北代省三の「モビール・オブジェ」、さらに工場的モチーフを素材に取り込んだ石井茂雄の「不安な都市」、そして軍艦島に都市の抱える様々な問題を見出した奈良原一高の「軍艦島」シリーズなどが目を引きます。

「8.都市とテクノロジー」展示室風景
また関西電力のPR映画として制作された松本俊夫の「白い長い線の記録」も是非とも抑えておきたい作品。ダムや発電所建設プロジェクトをアピールする内容が、もはや前衛ともSF的とも言えるような展開をもって表現。BGMもかなり個性的です。是非、耳でも味わってみてください。
まだ9番目と10番目のセクション残っていますが、長くなってしまうのでごく手短に。

左:岡本太郎「重工業」1949年 川崎市岡本太郎美術館
先に縄文の原初的なパワーを絵画へ落とし込んだ岡本太郎が、今度は例えば「重工業」において、歯車や鉄塔といった機械的なモチーフを取り込んでいます。
また先ほどあげた松本俊夫制作の安保闘争の映画、「安保条約」も、プロパガンダという視点から、かの時代に渦巻いた一つの熱狂をダイレクトに伝えるもの。

「10.方法としてのオブジェ」展示室風景
さらに伝統的な民家に驚くべき新たな景色を見出した東松照明の「家」シリーズ。また異様なまでの物質感を帯び、何やら不穏な気配を醸し出す荒川修作のオブジェ、さらには白髪に草間に池田満寿夫と盛り沢山。そして最後は展覧会を象徴的に示す細江英公の「へそと原爆」。とても追っかけきれません。
細かなテーマ設定などには賛否あるかもしれません。またこの膨大な展示を第一部の流れで見せるというのも、いささか無理があります。(実際、内覧時では到底見きれず、後日、第一部のみを観覧。さらに先日、三度目にしてようやく第二部のみを見て来ました。)
しかしながらそれでもあえておすすめしたいのが「実験場1950s」。奇しくも今年は東京近辺でも国立新美の具体展の他、埼玉県美の70年代展など、戦後美術を問い直す企画が続きましたが、その流れからしても絶対に見ておきたい展覧会です。
タイトルの「美術にぶるっ!」、私としては「実験場1950s」に接することで、初めてそれを感じました。

2013年1月14日まで開催されています。*年末年始(12/28~1/1)は休館。
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年 第2部 実験場1950s」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月)
休館:月曜日。但し12月24日と1月14日は開館。年末年始(12月28日~1月1日)。
時間:10:00~17:00 但し金曜は20時まで。
料金:一般1300(900)円、大学生900(600)円、高校生400(200)円。
*( )内は20名以上の団体料金。12/1の開館記念日は無料。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年 第2部 実験場1950s」
2012/10/16-2013/1/14

東京国立近代美術館で開催中の「美術にぶるっ! 第2部 実験場1950s」へ行って来ました。
今年、開館60周年を迎えた東京国立近代美術館が全館を挙げて展開中の「美術にぶるっ!」展。
所蔵品ギャラリーの空間を一新し、選りすぐりの名品を紹介する第一部の「MOMATコレクション」も充実していますが、実はこの第二部の「実験場1950s」こそ、まさに一期一会、節目の年に相応しい、見るべき展覧会だと言えるのではないでしょうか。

第二部「実験場」展示室入口
テーマは文字通りに1950年代。この美術館の開館した1952年前後、特に1950年から60年代の美術の諸相を、何と300点超の作品、資料で概観。しかも美術だけにとどまらず、社会との関係にまで踏み込み、その在り方を再考しています。
率直に申し上げれば、決して華があるわけでもなく、取っ付き易い展覧会ではありません。しかしながら少なくとも美術館にてこれほど50年代に突っ込んだ展示があったのか。それを考えるだけでも非常に意義深いものがありました。
さて本展、以下の10のテーマから成り立っています。
1.原爆の刻印
2.静物としての身体
3.複数化するタブロー
4.記録・運動体
5.現場の磁力
6.モダン/プリミティブ
7.「国土」の再編
8.都市とテクノロジー
9.コラージュ/モンタージュ
10.方法としてのオブジェ
それでは早速、「原爆の刻印」から。オープニングを飾る朝日ニュースの映像、「原爆犠牲第一号」からして衝撃的ですが、ともに並ぶ土門拳と川田喜久治の原爆に関する写真にもまた言葉を失います。

「1.原爆の刻印」展示室風景
適切ではないかもしれませんが、川田の原爆ドームの壁面のしみのイメージが、土門の捉えた原爆症患者のケロイドの皮膚と重なり合いました。
さてこうした原爆で幕を開けた展示は、次に戦争体験を反映させた、どこか暗鬱な静物を提示します。

「2.静物としての身体」展示室風景
しかも鶴岡政男の「松本竣介の死」や、傷跡のような表面が痛々しい村岡三郎の彫刻、「1954年7月」など、言わば死を連想させるものばかり。

河原温「浴室」1953-54年 東京国立近代美術館
極め付けはもはやグロテスクでさえある河原温の「浴室」シリーズです。人型のフィギュアが血を噴き出し、最後は全てが単なるパーツ、化石となって朽ちていきました。
その河原温が次の展開への橋渡し役です。

「3.複数化するタブロー」展示室風景
第3のテーマ「複数化するタブロー」で提示されるのは、印刷版画やルポルタージュ絵画です。
と同時に4番目の「記録・運動体」では、メーデや反戦など、言わば左翼色の強いメッセージを掲げた版画と、一方でのアパートの暮らしなどの様子を特集した「暮らしの手帖」を展示。慎ましい日常と、社会を変革しようとする運動の姿が同時に紹介されます。

「カメラ」第39巻~48巻 アルス 1950-54年 東京国立近代美術館
またここで面白いのは雑誌「カメラ」のアマチュア写真投稿コーナー。評者を土門拳が務めたそうですが、投稿された写真の中には東松照明の作品も。
さらに美術と作文を連携させた「綴方風土記」も興味深い資料です。良く出来ている挿絵の版画、一体誰の作かと思いきや、中学生や小学生の手によるものでした。
さて先にも登場した「運動」というキーワード、さらにより突っ込んで捉えたのが、5番目の「現場の磁力」。その最も象徴的なのが砂川事件、つまり東京・立川の砂川基地拡張反対運動に他なりません。

右:中村宏「砂川五番」1955年 東京都現代美術館
反対派と警官隊の衝突をテーマとした中村宏の「砂川五番」も迫力ありますが、ともかく見せるのは亀井文夫のドキュメント映像、「流血の記録 砂川」。

亀井文夫「流血の記録 砂川」1956年 株式会社日本ドキュメント・フィルム
これが全部で1時間弱ほどの映像ですが、ともかく衝突時の様子だけでなく、行政側、そして何と言ってもデモ隊の内部までを克明に描写しています。現実を変えようとする行動、そして高揚感。必ずしもそれが正しいのかは分かりませんが、今はあまり見られなくなった社会の熱気のようなものを強く感じました。
さて少し「美術」へと戻ります。

「6.モダン/プリミティブ」展示室風景
50年代、美術の一つの潮流として重要なのが、復古主義的ではない「伝統」や「原初」の再発見です。その一例として岡本太郎が。いわゆる縄文の生命力を発掘するプロセスとして、彼の写した縄文土器などが紹介されます。
またイサムノグチも重要です。プリミティブ的な造形、まるで古代の祭祀に用いられたような「ひまわり」、そしてまさしく埴輪を思わせる「かぶと」が印象に残りました。
さて本展、意外な場所に思いがけない作品を登場させることで、新たな文脈を提示しているのもポイントかもしれません。

「7.国土の再編」展示室風景 右:東山魁夷「道」1950年 東京国立近代美術館
その際立った例が東山魁夷の「道」です。ようはそれこそ第一部の日本画コーナーに鎮座してしかるべき傑作が、この第二部、「国土と再編」というセクションに置かれています。
これは一体何なのか。
端的に言ってしまえば、50年代、伝統と、また戦争からの復興を見据えて向けられた、「東北」という地を象徴する作品であるわけです。
このモチーフとなる風景は青森の種差海岸。普段向き合う際には、静謐で温和な表情を感じる作品も、この文脈に沿って置かれると、敗戦を乗り越え目前へ前へと進もうとする力強さや意思をたたえているようにも見えます。

「7.国土の再編」展示室風景
そして魁夷に連なるのが、これまた大傑作、木村伊兵衛の「板塀」。秋田の風景を写した作品です。そこからさらに木村伊兵衛の「秋田」シリーズ、そして濱谷浩の「裏日本」シリーズが。木村と濱谷、ともに北国を写した作品の先導に、まさか魁夷が用いられるとは思いませんでした。
少し長くなりました。先を急ぎましょう。
農村から都市へ。急激な都市化を迎えた50年代後半には、工業や機械、産業などに着目した作品が現れます。
新しい素材としてのアルミを用いた北代省三の「モビール・オブジェ」、さらに工場的モチーフを素材に取り込んだ石井茂雄の「不安な都市」、そして軍艦島に都市の抱える様々な問題を見出した奈良原一高の「軍艦島」シリーズなどが目を引きます。

「8.都市とテクノロジー」展示室風景
また関西電力のPR映画として制作された松本俊夫の「白い長い線の記録」も是非とも抑えておきたい作品。ダムや発電所建設プロジェクトをアピールする内容が、もはや前衛ともSF的とも言えるような展開をもって表現。BGMもかなり個性的です。是非、耳でも味わってみてください。
まだ9番目と10番目のセクション残っていますが、長くなってしまうのでごく手短に。

左:岡本太郎「重工業」1949年 川崎市岡本太郎美術館
先に縄文の原初的なパワーを絵画へ落とし込んだ岡本太郎が、今度は例えば「重工業」において、歯車や鉄塔といった機械的なモチーフを取り込んでいます。
また先ほどあげた松本俊夫制作の安保闘争の映画、「安保条約」も、プロパガンダという視点から、かの時代に渦巻いた一つの熱狂をダイレクトに伝えるもの。

「10.方法としてのオブジェ」展示室風景
さらに伝統的な民家に驚くべき新たな景色を見出した東松照明の「家」シリーズ。また異様なまでの物質感を帯び、何やら不穏な気配を醸し出す荒川修作のオブジェ、さらには白髪に草間に池田満寿夫と盛り沢山。そして最後は展覧会を象徴的に示す細江英公の「へそと原爆」。とても追っかけきれません。
細かなテーマ設定などには賛否あるかもしれません。またこの膨大な展示を第一部の流れで見せるというのも、いささか無理があります。(実際、内覧時では到底見きれず、後日、第一部のみを観覧。さらに先日、三度目にしてようやく第二部のみを見て来ました。)
しかしながらそれでもあえておすすめしたいのが「実験場1950s」。奇しくも今年は東京近辺でも国立新美の具体展の他、埼玉県美の70年代展など、戦後美術を問い直す企画が続きましたが、その流れからしても絶対に見ておきたい展覧会です。
タイトルの「美術にぶるっ!」、私としては「実験場1950s」に接することで、初めてそれを感じました。

2013年1月14日まで開催されています。*年末年始(12/28~1/1)は休館。
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年 第2部 実験場1950s」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月)
休館:月曜日。但し12月24日と1月14日は開館。年末年始(12月28日~1月1日)。
時間:10:00~17:00 但し金曜は20時まで。
料金:一般1300(900)円、大学生900(600)円、高校生400(200)円。
*( )内は20名以上の団体料金。12/1の開館記念日は無料。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「我ら明清親衛隊」 板橋区立美術館
板橋区立美術館
「我ら明清親衛隊~大江戸に潜む中国ファン達の群像~」
2012/12/1-2013/1/6

板橋区立美術館で開催中の「我ら明清親衛隊~大江戸に潜む中国ファン達の群像~」へ行ってきました。
何ともキャッチーな「我ら明清親衛隊」。いかにも板橋区美ならではのタイトルですが、当然ながら展示は至極真っ当。18世紀の江戸絵画における中国、とりわけ明清画の影響を概観する内容になっています。

渡辺玄対「白梅金鶏鳥図屏風」(部分)
出品は所蔵品の他、千葉市美術館や静嘉堂文庫、それに静岡県立美術館などから集められた80点余り。途中に展示替えを挟むため、一度に見られる数は限られますが、それでも「江戸絵画と言えば板橋区美」ならぬ、小さくともキラリと光る展覧会でした。
早速、展示のいくつかのポイントを。まずは浮世絵に注目。実は遠近法を強調した浮絵、それには元ネタとなる中国の版画があったと考えられています。
それが蘇州版画。これは17世紀頃、中国の蘇州地方で年明けの慶事のために描かれた版画ですが、そこには西洋の透視図法が取り込まれていたそうです。
展示では蘇州版画の「蘇州景 新造萬年橋」を筆頭に、遠近法を取り入れた日本の浮世絵を紹介。どのようにして遠近法が確立していったのかが分かる仕組みとなっています。

奥村政信「玉取り竜宮のてい」 神戸市立博物館
それにしても上に挙げた奥村政信の「玉取り竜宮のてい」など、不自然とも言える遠近法が用いられているのも微笑ましいところ。結局、遠近法が確立したのは18世紀後半になってからだそうです。
さて続いては肉筆、絵画の展開。南蘋派と呼ばれる絵師たちがずらりと登場します。
まずは江戸で最初に唐画を描いたという黒川亀玉。僅か25歳で亡くなってしまったそうですが、「日の出鶴図」や「関羽図」などにおける描き込みは精緻。実力ある絵師だということがわかります。

宋紫石「清影瑤風図屏風」1759年
そして南蘋派と言えば宋紫石。展示中最多の出品を誇りますが、とりわけ感心したのが、この「清影瑤風図屏風」、4面の画面に風に靡く笹が颯爽とした筆致で描かれています。
それに有名どころでは司馬江漢や椿椿山も印象に残るかもしれません。特に椿椿山の「倣張秋穀花鳥図」は赤や白、そしてピンク色の花の咲き乱れる様子を描いた美しい花鳥画。また本作は、13世紀頃に描かれた中国画を清の画家が写し、それをさらに椿椿山が写したものです。中国画の日本への影響を直接的に見る作品と言えるかもしれません。

金子金陵「枇杷双鳥図」
さて展示は南蘋派メインということで、それこそ江戸絵画で良く取り上げられるようなビックネームが勢揃いしているわけではありません。
しかしながら知られざる絵師の作品を見るのも、江戸絵画鑑賞の醍醐味の一つ。と言うわけで一例を。北山寒巌という人物をご存知でしょうか。
会場では清冽な水墨による花鳥図などが展示されていますが、実は彼、父が中国人の子孫でなおかつ、西洋画に強いシンパシーを受けていたため、名前を「樊泥亀」、読みで「ばんでいき」、つまりはヴァン・ダイクをもじった名を名乗っていたそうです。

戸田忠輪「白鸚鵡図」1805年
また若冲画を彷彿させる白い鸚鵡を描いた戸田忠輪なども興味深い人物。彼は宇都宮藩主でいわゆる絵師ではありません。
さらにそうした立場の人物と言えば松平定信も重要。言うまでもなく寛政の改革を押し進めた幕府の重鎮ですが、そのような彼の描いた「達磨図」なども展示されています。

土方稲嶺「朧月枯木鵲図」
丁寧なキャプションに加え、「親衛隊長の一言」と記された軽妙なコメントも板橋流。安村館長と学芸員氏による論文二本の掲載された図録も販売されています。
江戸絵画において重要な中国画。それを吸収し、またアレンジしながら独自の表現を生み出した、江戸の多彩な絵師の世界を堪能することが出来ました。
既に展示替えを挟んでの後期に突入しています。詳細は出品リスト(PDF)をご参照下さい。
2013年1月6日まで開催されています。*年末年始(12/29~1/3)は休館。
「江戸絵画入門―驚くべき奇才たちの時代/別冊太陽/平凡社」
「江戸文化シリーズ No.28 我ら明清親衛隊~大江戸に潜む中国ファン達の群像~」(@edo_itabashi) 板橋区立美術館
会期:2012年12月1日(土)~2013年1月6日(日)
休館:月曜日。但し12/24は開館し、12/25は休館。年末年始(12/29~1/3)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般600(400)円、高・大生400(300)円、小・中学生150(80)円。
*( )内は20名以上の団体料金。毎週土日は小・中・高校生無料。
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
「我ら明清親衛隊~大江戸に潜む中国ファン達の群像~」
2012/12/1-2013/1/6

板橋区立美術館で開催中の「我ら明清親衛隊~大江戸に潜む中国ファン達の群像~」へ行ってきました。
何ともキャッチーな「我ら明清親衛隊」。いかにも板橋区美ならではのタイトルですが、当然ながら展示は至極真っ当。18世紀の江戸絵画における中国、とりわけ明清画の影響を概観する内容になっています。

渡辺玄対「白梅金鶏鳥図屏風」(部分)
出品は所蔵品の他、千葉市美術館や静嘉堂文庫、それに静岡県立美術館などから集められた80点余り。途中に展示替えを挟むため、一度に見られる数は限られますが、それでも「江戸絵画と言えば板橋区美」ならぬ、小さくともキラリと光る展覧会でした。
早速、展示のいくつかのポイントを。まずは浮世絵に注目。実は遠近法を強調した浮絵、それには元ネタとなる中国の版画があったと考えられています。
それが蘇州版画。これは17世紀頃、中国の蘇州地方で年明けの慶事のために描かれた版画ですが、そこには西洋の透視図法が取り込まれていたそうです。
展示では蘇州版画の「蘇州景 新造萬年橋」を筆頭に、遠近法を取り入れた日本の浮世絵を紹介。どのようにして遠近法が確立していったのかが分かる仕組みとなっています。

奥村政信「玉取り竜宮のてい」 神戸市立博物館
それにしても上に挙げた奥村政信の「玉取り竜宮のてい」など、不自然とも言える遠近法が用いられているのも微笑ましいところ。結局、遠近法が確立したのは18世紀後半になってからだそうです。
さて続いては肉筆、絵画の展開。南蘋派と呼ばれる絵師たちがずらりと登場します。
まずは江戸で最初に唐画を描いたという黒川亀玉。僅か25歳で亡くなってしまったそうですが、「日の出鶴図」や「関羽図」などにおける描き込みは精緻。実力ある絵師だということがわかります。

宋紫石「清影瑤風図屏風」1759年
そして南蘋派と言えば宋紫石。展示中最多の出品を誇りますが、とりわけ感心したのが、この「清影瑤風図屏風」、4面の画面に風に靡く笹が颯爽とした筆致で描かれています。
それに有名どころでは司馬江漢や椿椿山も印象に残るかもしれません。特に椿椿山の「倣張秋穀花鳥図」は赤や白、そしてピンク色の花の咲き乱れる様子を描いた美しい花鳥画。また本作は、13世紀頃に描かれた中国画を清の画家が写し、それをさらに椿椿山が写したものです。中国画の日本への影響を直接的に見る作品と言えるかもしれません。

金子金陵「枇杷双鳥図」
さて展示は南蘋派メインということで、それこそ江戸絵画で良く取り上げられるようなビックネームが勢揃いしているわけではありません。
しかしながら知られざる絵師の作品を見るのも、江戸絵画鑑賞の醍醐味の一つ。と言うわけで一例を。北山寒巌という人物をご存知でしょうか。
会場では清冽な水墨による花鳥図などが展示されていますが、実は彼、父が中国人の子孫でなおかつ、西洋画に強いシンパシーを受けていたため、名前を「樊泥亀」、読みで「ばんでいき」、つまりはヴァン・ダイクをもじった名を名乗っていたそうです。

戸田忠輪「白鸚鵡図」1805年
また若冲画を彷彿させる白い鸚鵡を描いた戸田忠輪なども興味深い人物。彼は宇都宮藩主でいわゆる絵師ではありません。
さらにそうした立場の人物と言えば松平定信も重要。言うまでもなく寛政の改革を押し進めた幕府の重鎮ですが、そのような彼の描いた「達磨図」なども展示されています。

土方稲嶺「朧月枯木鵲図」
丁寧なキャプションに加え、「親衛隊長の一言」と記された軽妙なコメントも板橋流。安村館長と学芸員氏による論文二本の掲載された図録も販売されています。
江戸絵画において重要な中国画。それを吸収し、またアレンジしながら独自の表現を生み出した、江戸の多彩な絵師の世界を堪能することが出来ました。
既に展示替えを挟んでの後期に突入しています。詳細は出品リスト(PDF)をご参照下さい。
2013年1月6日まで開催されています。*年末年始(12/29~1/3)は休館。

「江戸文化シリーズ No.28 我ら明清親衛隊~大江戸に潜む中国ファン達の群像~」(@edo_itabashi) 板橋区立美術館
会期:2012年12月1日(土)~2013年1月6日(日)
休館:月曜日。但し12/24は開館し、12/25は休館。年末年始(12/29~1/3)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般600(400)円、高・大生400(300)円、小・中学生150(80)円。
*( )内は20名以上の団体料金。毎週土日は小・中・高校生無料。
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
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「貴婦人と一角獣展」 記者発表会
国立新美術館で開催予定の「貴婦人と一角獣展」の記者発表会に参加してきました。

「貴婦人と一角獣展」記者発表会(12/20。国立新美術館)
フランスはパリの国立クリュニー中世美術館。15世紀末の館と古代ローマの浴場の遺構を利用し、5~15世紀のヨーロッパ美術品を23000点も所蔵。うち充実した中世美術コレクションで良く知られているところかもしれません。

フランス国立クリュニー中世美術館
中でも6面のタピスリー「貴婦人と一角獣」は、中世ヨーロッパ美術の傑作としても貴重な作品。実際、館外に貸し出されたことは一度だけ。1974年にアメリカのメトロポリタン美術館に出品されただけでした。

タピスリー「貴婦人と一角獣」1500年頃 羊毛・絹
前振りが長くなりました。ここに朗報、「貴婦人と一角獣」が史上初めて日本へやって来ます。
「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」
東京:国立新美術館 2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
大阪:国立国際美術館 2013年7月27日(土)~10月20日(日)
会期は東京先行で来春から六本木の国立新美術館にて。東京展終了後、大阪・中之島の国立国際美術館へ巡回します。

クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージ
というわけで、先日行われた「貴婦人と一角獣」展のプレス発表会に参加。クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージの後、展覧会コミッショナーで国立新美術館学芸課長の南雄介氏による展示解説が行われました。
その様子を以下にまとめてみます。
まずは超・基本、いわゆる織物であるタピスリーとは何ぞやというお話から。縦糸に麻糸、横糸に絹や羊毛を織って図柄を作成。特に大型のタピスリーは城や教会の壁面を飾るのに重宝され、14~16世紀のヨーロッパで黄金時代を迎えました。

クリュニー中世美術館での「貴婦人と一角獣」の展示風景
そして「貴婦人と一角獣」が作られたのも1500年頃。作者、もしくは制作場所は諸説あり、北フランスかフランドル。具体的にはリール、ブリュッセルの他、パリではないかと考えられています。
さてこのタピスリーが歴史の表舞台に登場したのは、時代が下って19世紀初めの頃です。
フランス中部の古城の調度品として文献に載ったタピスリーは、当時の文学者、メリメやサンドらの関心を呼びます。と同時に政府による調査研究もスタート。結果、1882年に買い上げられ、クリュニー中世美術館に収められることになりました。
ちなみに「貴婦人と一角獣」、作品は全部で6面。あわせると全22メートルにも及ぶ大作です。
いずれも地に赤色の「千花文様」と呼ばれる文様を配し、中央には藍色の島のような場を表現。樹木や紋章とともに、貴婦人と一角獣のモチーフを描いています。
ではそこに描かれたモチーフの意味とは一体何でしょうか。
簡単に言ってしまえば人間の感覚、つまり触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚です。いくつか例をあげましょう。

タピスリー「貴婦人と一角獣『触覚』」1500年頃 羊毛・絹
まずは触覚から。中央の貴婦人が右手で旗竿を、また左手で一角獣の角を握り、また猿も繋がれた鎖に手を触れていることが分かります。

タピスリー「貴婦人と一角獣『味覚』」1500年頃 羊毛・絹
次の味覚では貴婦人が侍女の持つ器からお菓子を取り、オウムの口へ与え、さらに猿も何かを食べるような仕草をしていることが見て取れます。

タピスリー「貴婦人と一角獣『聴覚』」1500年頃 羊毛・絹
この他、嗅覚、聴覚、視覚においても、貴婦人がそれらを表す行動をしているわけです。
さて6面としたのに、ここで挙げた作品は5面。あと1面が足りません。
実は最後の1面、最も大きな「我が唯一の望み」こそが、一連のタペストリーをどこか謎めいた、それでいてより魅惑的な作品として価値を高めているものなのです。

タピスリー「貴婦人と一角獣『我が唯一の望み』」1500年頃 羊毛・絹
タイトルの「我が唯一の望み」とは背景の天幕に記された銘文に由来するもの。貴婦人が一見、侍女の持つ箱から宝石を取り出しているように見えることから、結婚や愛を意味しているのではないかと考えられています。
しかしながら実は貴婦人が箱に宝石を戻していると解釈するとどうなのか。
すると貴婦人はいわゆる物質的な価値を捨て、より高次とされる精神的なもの、悟性や知性を示しているのではないかという意味に変化します。ようはそれ以前の5面で描いた人の感覚を統括し得る第6の感覚が示されているわけでした。

「一角獣の形をした水差し」1400年頃 ブロンズ・彫金
そして本展ではこうしたタピスリーを読み解く観点からも、そのモチーフにまつわる主に同時代の工芸品などをあわせて紹介。

「領主の生活のタピスリー『恋愛の情景』」1500-1520年頃 羊毛・絹
「貴婦人と一角獣」以外にもタピスリーが6面(つまりタピスリーは計12面)が出品される上、一角獣を象った水差しや紋章の指輪、さらにはマグダラのマリアのレリーフなど、全部で40点ほどの工芸品が展示されます。
さて最後にもう一つの見どころです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」現地制作風景
東博のシアターでもお馴染みの凸版印刷によるバーチャルリアリティー映像、「貴婦人と一角獣」が会場にて投影されます。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」展示イメージ
これが上のイメージの如く大画面。美術館の壁面全体を使い、通常肉眼では分かりにくい細部も拡大。それに高い位置にある図柄も正面で映すことで、タピスリーの美しさをより分かりやすく、また体感的に味わえるようになるそうです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」拡大サンプル映像
フランスでも至宝とまで呼ばれる作品。まさか日本へやって来るとは、と驚かれた方も多いのでしょうか。一期一会の展覧会になること間違いありません。期待大です。
「貴婦人と一角獣展」は2013年4月24日より国立新美術館で開催されます。(東京展終了後、国立国際美術館(2013/7/27~10/20)へと巡回。)
*関連エントリ(プレビューに参加してきました。)
「貴婦人と一角獣」@国立新美術館

「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」 国立新美術館
会期:2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
時間:10:00~18:00(金曜日は20時まで) *入館は閉館30分前まで
休館:火曜日。但し4月30日は開館。
会場:国立新美術館(港区六本木7-22-2)
主催:国立新美術館、フランス国立クリュニー中世美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
後援:外務省、フランス大使館
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体、及び前売券。前売券は2013年1月9日から販売。
*早割ペア券(2枚セットで2000円)あり。販売期間は2013年1月9日(水)から2月28日(木)。

「貴婦人と一角獣展」記者発表会(12/20。国立新美術館)
フランスはパリの国立クリュニー中世美術館。15世紀末の館と古代ローマの浴場の遺構を利用し、5~15世紀のヨーロッパ美術品を23000点も所蔵。うち充実した中世美術コレクションで良く知られているところかもしれません。

フランス国立クリュニー中世美術館
中でも6面のタピスリー「貴婦人と一角獣」は、中世ヨーロッパ美術の傑作としても貴重な作品。実際、館外に貸し出されたことは一度だけ。1974年にアメリカのメトロポリタン美術館に出品されただけでした。

タピスリー「貴婦人と一角獣」1500年頃 羊毛・絹
前振りが長くなりました。ここに朗報、「貴婦人と一角獣」が史上初めて日本へやって来ます。
「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」
東京:国立新美術館 2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
大阪:国立国際美術館 2013年7月27日(土)~10月20日(日)
会期は東京先行で来春から六本木の国立新美術館にて。東京展終了後、大阪・中之島の国立国際美術館へ巡回します。

クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージ
というわけで、先日行われた「貴婦人と一角獣」展のプレス発表会に参加。クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージの後、展覧会コミッショナーで国立新美術館学芸課長の南雄介氏による展示解説が行われました。
その様子を以下にまとめてみます。
まずは超・基本、いわゆる織物であるタピスリーとは何ぞやというお話から。縦糸に麻糸、横糸に絹や羊毛を織って図柄を作成。特に大型のタピスリーは城や教会の壁面を飾るのに重宝され、14~16世紀のヨーロッパで黄金時代を迎えました。

クリュニー中世美術館での「貴婦人と一角獣」の展示風景
そして「貴婦人と一角獣」が作られたのも1500年頃。作者、もしくは制作場所は諸説あり、北フランスかフランドル。具体的にはリール、ブリュッセルの他、パリではないかと考えられています。
さてこのタピスリーが歴史の表舞台に登場したのは、時代が下って19世紀初めの頃です。
フランス中部の古城の調度品として文献に載ったタピスリーは、当時の文学者、メリメやサンドらの関心を呼びます。と同時に政府による調査研究もスタート。結果、1882年に買い上げられ、クリュニー中世美術館に収められることになりました。
ちなみに「貴婦人と一角獣」、作品は全部で6面。あわせると全22メートルにも及ぶ大作です。
いずれも地に赤色の「千花文様」と呼ばれる文様を配し、中央には藍色の島のような場を表現。樹木や紋章とともに、貴婦人と一角獣のモチーフを描いています。
ではそこに描かれたモチーフの意味とは一体何でしょうか。
簡単に言ってしまえば人間の感覚、つまり触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚です。いくつか例をあげましょう。

タピスリー「貴婦人と一角獣『触覚』」1500年頃 羊毛・絹
まずは触覚から。中央の貴婦人が右手で旗竿を、また左手で一角獣の角を握り、また猿も繋がれた鎖に手を触れていることが分かります。

タピスリー「貴婦人と一角獣『味覚』」1500年頃 羊毛・絹
次の味覚では貴婦人が侍女の持つ器からお菓子を取り、オウムの口へ与え、さらに猿も何かを食べるような仕草をしていることが見て取れます。

タピスリー「貴婦人と一角獣『聴覚』」1500年頃 羊毛・絹
この他、嗅覚、聴覚、視覚においても、貴婦人がそれらを表す行動をしているわけです。
さて6面としたのに、ここで挙げた作品は5面。あと1面が足りません。
実は最後の1面、最も大きな「我が唯一の望み」こそが、一連のタペストリーをどこか謎めいた、それでいてより魅惑的な作品として価値を高めているものなのです。

タピスリー「貴婦人と一角獣『我が唯一の望み』」1500年頃 羊毛・絹
タイトルの「我が唯一の望み」とは背景の天幕に記された銘文に由来するもの。貴婦人が一見、侍女の持つ箱から宝石を取り出しているように見えることから、結婚や愛を意味しているのではないかと考えられています。
しかしながら実は貴婦人が箱に宝石を戻していると解釈するとどうなのか。
すると貴婦人はいわゆる物質的な価値を捨て、より高次とされる精神的なもの、悟性や知性を示しているのではないかという意味に変化します。ようはそれ以前の5面で描いた人の感覚を統括し得る第6の感覚が示されているわけでした。

「一角獣の形をした水差し」1400年頃 ブロンズ・彫金
そして本展ではこうしたタピスリーを読み解く観点からも、そのモチーフにまつわる主に同時代の工芸品などをあわせて紹介。

「領主の生活のタピスリー『恋愛の情景』」1500-1520年頃 羊毛・絹
「貴婦人と一角獣」以外にもタピスリーが6面(つまりタピスリーは計12面)が出品される上、一角獣を象った水差しや紋章の指輪、さらにはマグダラのマリアのレリーフなど、全部で40点ほどの工芸品が展示されます。
さて最後にもう一つの見どころです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」現地制作風景
東博のシアターでもお馴染みの凸版印刷によるバーチャルリアリティー映像、「貴婦人と一角獣」が会場にて投影されます。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」展示イメージ
これが上のイメージの如く大画面。美術館の壁面全体を使い、通常肉眼では分かりにくい細部も拡大。それに高い位置にある図柄も正面で映すことで、タピスリーの美しさをより分かりやすく、また体感的に味わえるようになるそうです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」拡大サンプル映像
フランスでも至宝とまで呼ばれる作品。まさか日本へやって来るとは、と驚かれた方も多いのでしょうか。一期一会の展覧会になること間違いありません。期待大です。
「貴婦人と一角獣展」は2013年4月24日より国立新美術館で開催されます。(東京展終了後、国立国際美術館(2013/7/27~10/20)へと巡回。)
*関連エントリ(プレビューに参加してきました。)
「貴婦人と一角獣」@国立新美術館

「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」 国立新美術館
会期:2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
時間:10:00~18:00(金曜日は20時まで) *入館は閉館30分前まで
休館:火曜日。但し4月30日は開館。
会場:国立新美術館(港区六本木7-22-2)
主催:国立新美術館、フランス国立クリュニー中世美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
後援:外務省、フランス大使館
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体、及び前売券。前売券は2013年1月9日から販売。
*早割ペア券(2枚セットで2000円)あり。販売期間は2013年1月9日(水)から2月28日(木)。
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「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」 無人島プロダクション
無人島プロダクション
「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」
2012/12/8~2013/1/19

無人島プロダクションで開催中の「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」へ行ってきました。
「没落」。このどこか不吉でかつ、マイナスのベクトルを持つ言葉をタイトルに掲げた展覧会。一体何を意味するのか、その全ては作品にこめられたメッセージにあります。
端的に述べればそれは、原子力発電とそれを取り巻く組織や人間の「没落」に他なりません。
まずは入って正面、横4メートルを超える新作の「噫!怒涛の閉塞艦」から。

風間サチコ「噫!怒涛の閉塞艦」
一目で誰もがあの戦慄の瞬間を思い出すイメージ。激しき波に揉まれ、今にも横転、沈没しそうになっている船の上に載っているものこそ、東日本大震災により未曾有の原子力災害をもたらした福島第一原発の建屋、その水素爆発の瞬間、そしてそれを管轄する東京電力の本店です。
左には過去、つまり広島・長崎の原爆と、ビキニ環礁で被爆した第五福竜丸の船影を、そして右には未来の姿として放射線の汚染を調査する観測船を原子力船むつの亡霊として描写。かの原子力災害を一つの大きな時間の流れの中で捉えています。
それにしてもこの猛烈な波、当然の如く、かの大津波の再現であるわけですが、元になるビジュアルがありました。

風間サチコ「噫!怒涛の閉塞艦」(部分)
実はこの波、そして船は、戦前に日本が「果敢に波をくぐり抜けて勇ましく進む軍艦」として描き、発行した絵葉書の図柄、そのものなのです。
風間は言わばプロパガンダ的な「戦争神話」を原子力の「安全神話」に置き換え、ご覧の通りその崩壊、そして没落というプロセスを表現しています。
そうして見た時に受ける恐ろしいまでの歴史の教訓。要するに神話は神話に過ぎず、結果としての現実は悲惨なものであったということが、それこそ平面上において時空を超えて重なり合います。
引きちぎれた日の丸、そして船に掲げられた東電のマーク。もちろん賛否はあるかもしれません。しかしながらこれほど直裁的に、しかも圧倒的な迫力をもってかの原子力事故を描き、また時代との関わりを捉えた作品があったのか。それを考えただけでも、頭がくらくらするほどの衝撃を受けました。
さて風間の原子力政策への強い批判的態度はこの作品だけにとどまりません。
痛烈なまでに政治色を帯びた「獄門核分裂235」。一体、何が描かれているのでしょうか。

風間サチコ「獄門核分裂235」
有り体に述べればそれは過去から今へと至る「原子力村」への強い怒りを帯びた糾弾です。
旧内務省、そして国会、また経産省などの「権力」を背景に飛び交う6つの顔。これこそ中央の原子核の周りに群がる戦前の大政翼賛会、そして戦後、原子力を日本に導入した政治家たちの姿なのです。
風間はキャプションでこう述べています。
アメリカの思惑として旧体制派の結託は「臨界」に達し、「平和利用」の美辞を建前に被爆国・日本は核分裂をはじめた。
風間によれば第五福竜丸事件の起きた1954年3月1日の翌日、日本で初めて原子力関連の予算が国会で可決されました。しかも予算の額はウラン235に因んでの2億3500万円。

風間サチコ「黎明のマーク1」
このブログでは原発の問題について云々するつもりはありません。
しかしこうした事実を読み解き、迫力ある作品として表現した風間のメッセージ。それは脱原発派に届くだけでなく、原発推進派を巻き込んでの議論を提起するきっかけになるのではないでしょうか。
さらにアップは自粛しますが、いくつかのスケッチにおいても風間のスタンスが明確に示されています。こちらも必見です。
2013年1月19日まで開催されています。強力におすすめします。
*年末年始(12/24~1/7)は休廊。年内の開廊は23日(日・祝)までです。ご注意下さい。
「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」 無人島プロダクション(@mujipro)
会期:2012年12月8日(土)~2013年1月19日(土)
休廊:月・祝日。年末年始(12/24~1/7)。
時間:火~金、12:00~20:00 土~日、11:00~19:00
住所:江東区三好2-12-6 SNAC内
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩2分。都営大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩4分。
「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」
2012/12/8~2013/1/19

無人島プロダクションで開催中の「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」へ行ってきました。
「没落」。このどこか不吉でかつ、マイナスのベクトルを持つ言葉をタイトルに掲げた展覧会。一体何を意味するのか、その全ては作品にこめられたメッセージにあります。
端的に述べればそれは、原子力発電とそれを取り巻く組織や人間の「没落」に他なりません。
まずは入って正面、横4メートルを超える新作の「噫!怒涛の閉塞艦」から。

風間サチコ「噫!怒涛の閉塞艦」
一目で誰もがあの戦慄の瞬間を思い出すイメージ。激しき波に揉まれ、今にも横転、沈没しそうになっている船の上に載っているものこそ、東日本大震災により未曾有の原子力災害をもたらした福島第一原発の建屋、その水素爆発の瞬間、そしてそれを管轄する東京電力の本店です。
左には過去、つまり広島・長崎の原爆と、ビキニ環礁で被爆した第五福竜丸の船影を、そして右には未来の姿として放射線の汚染を調査する観測船を原子力船むつの亡霊として描写。かの原子力災害を一つの大きな時間の流れの中で捉えています。
それにしてもこの猛烈な波、当然の如く、かの大津波の再現であるわけですが、元になるビジュアルがありました。

風間サチコ「噫!怒涛の閉塞艦」(部分)
実はこの波、そして船は、戦前に日本が「果敢に波をくぐり抜けて勇ましく進む軍艦」として描き、発行した絵葉書の図柄、そのものなのです。
風間は言わばプロパガンダ的な「戦争神話」を原子力の「安全神話」に置き換え、ご覧の通りその崩壊、そして没落というプロセスを表現しています。
そうして見た時に受ける恐ろしいまでの歴史の教訓。要するに神話は神話に過ぎず、結果としての現実は悲惨なものであったということが、それこそ平面上において時空を超えて重なり合います。
引きちぎれた日の丸、そして船に掲げられた東電のマーク。もちろん賛否はあるかもしれません。しかしながらこれほど直裁的に、しかも圧倒的な迫力をもってかの原子力事故を描き、また時代との関わりを捉えた作品があったのか。それを考えただけでも、頭がくらくらするほどの衝撃を受けました。
さて風間の原子力政策への強い批判的態度はこの作品だけにとどまりません。
痛烈なまでに政治色を帯びた「獄門核分裂235」。一体、何が描かれているのでしょうか。

風間サチコ「獄門核分裂235」
有り体に述べればそれは過去から今へと至る「原子力村」への強い怒りを帯びた糾弾です。
旧内務省、そして国会、また経産省などの「権力」を背景に飛び交う6つの顔。これこそ中央の原子核の周りに群がる戦前の大政翼賛会、そして戦後、原子力を日本に導入した政治家たちの姿なのです。
風間はキャプションでこう述べています。
アメリカの思惑として旧体制派の結託は「臨界」に達し、「平和利用」の美辞を建前に被爆国・日本は核分裂をはじめた。
風間によれば第五福竜丸事件の起きた1954年3月1日の翌日、日本で初めて原子力関連の予算が国会で可決されました。しかも予算の額はウラン235に因んでの2億3500万円。

風間サチコ「黎明のマーク1」
このブログでは原発の問題について云々するつもりはありません。
しかしこうした事実を読み解き、迫力ある作品として表現した風間のメッセージ。それは脱原発派に届くだけでなく、原発推進派を巻き込んでの議論を提起するきっかけになるのではないでしょうか。
さらにアップは自粛しますが、いくつかのスケッチにおいても風間のスタンスが明確に示されています。こちらも必見です。
2013年1月19日まで開催されています。強力におすすめします。
*年末年始(12/24~1/7)は休廊。年内の開廊は23日(日・祝)までです。ご注意下さい。
「風間サチコ展 没落THIRD FIRE」 無人島プロダクション(@mujipro)
会期:2012年12月8日(土)~2013年1月19日(土)
休廊:月・祝日。年末年始(12/24~1/7)。
時間:火~金、12:00~20:00 土~日、11:00~19:00
住所:江東区三好2-12-6 SNAC内
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩2分。都営大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩4分。
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「原田泰治 ふるさと心の風景」展内覧会へのお誘い
来年1月3日(木)より大手町の逓信総合博物館で開催される原田泰治「ふるさと心の風景」展。

画家でグラフィックデザイナーでもある原田泰治氏による「ふるさと切手」シリーズの原画が一堂に会する機会。切手ファンは勿論、美術ファンにも注目されている展覧会かもしれません。

春の庭先[群馬県]/絵・原田泰治
その「原田泰治 ふるさと心の風景」展のメディア内覧会に、ブログ、SNSユーザーが特別に招待されます。
日時は12月28日(金)の11時から。開会式典への参加の他、展示の観覧、そして原田泰治氏との記念写真を撮ることも出来る嬉しい特典つきです。
応募方法は以下の参加申込のフォームへ。
「原田泰治『ふるさと心の風景』展 特別内覧会 ご案内・参加申込み」@ ウィンダム
定員は先着で50名です。定員に達し次第、受付は終了となります。
【内覧会概要】
日時:2012年12月28日(金)11:00~12:30 *受付:10時30分
会場:逓信総合博物館(千代田区大手町2-3-1)
スケジュール
11:00~ 開会式典(主催者挨拶・展示趣旨及び概要説明・原田泰治先生ご挨拶など)
11:20~ 特別内覧開始
対象はブロガーをはじめ、Facebook、Twitterユーザーの方です。
【参加者特典】
・原田泰治展のオリジナルグッズをプレゼント
・原田泰治先生と一緒に記念写真が撮れます

場所は超都心、交通至便の大手町駅よりすぐの「ていぱーく」。年末の忙しいところではありますが、またとないチャンスではないでしょうか。
お時間のある方は奮ってご応募下さい。
*本展の他、様々な展覧会やイベントのPRをしているウィンダムのTwitterが始動しました。要フォローです→@WindamArtPR
「原田泰治 野の道を歩く画家/別冊太陽/平凡社」
「ふるさと切手『ふるさと心の風景』シリーズ 原田泰治『ふるさと心の風景』」展
会期:2013年1月3日(木)~3月31日(日)
時間:9:00~16:30(入場は16時まで)
休館:月曜日(月曜祝日の場合は火曜休館)
会場:逓信総合博物館 ていぱーく
住所:千代田区大手町2-3-1
交通:東京メトロ半蔵門線・東西線・千代田線・丸ノ内線、都営三田線大手町駅下車、A4・A5出口すぐ。JR線東京駅下車丸の内北口より徒歩10分。
料金:大人110円、小・中・高校生50円
*団体(20名以上)大人50円、小・中・高校生25円。*小・中・高校生は日・祝日無料。
電話:03-3244-6811

画家でグラフィックデザイナーでもある原田泰治氏による「ふるさと切手」シリーズの原画が一堂に会する機会。切手ファンは勿論、美術ファンにも注目されている展覧会かもしれません。

春の庭先[群馬県]/絵・原田泰治
その「原田泰治 ふるさと心の風景」展のメディア内覧会に、ブログ、SNSユーザーが特別に招待されます。
日時は12月28日(金)の11時から。開会式典への参加の他、展示の観覧、そして原田泰治氏との記念写真を撮ることも出来る嬉しい特典つきです。
応募方法は以下の参加申込のフォームへ。
「原田泰治『ふるさと心の風景』展 特別内覧会 ご案内・参加申込み」@ ウィンダム
定員は先着で50名です。定員に達し次第、受付は終了となります。
【内覧会概要】
日時:2012年12月28日(金)11:00~12:30 *受付:10時30分
会場:逓信総合博物館(千代田区大手町2-3-1)
スケジュール
11:00~ 開会式典(主催者挨拶・展示趣旨及び概要説明・原田泰治先生ご挨拶など)
11:20~ 特別内覧開始
対象はブロガーをはじめ、Facebook、Twitterユーザーの方です。
【参加者特典】
・原田泰治展のオリジナルグッズをプレゼント
・原田泰治先生と一緒に記念写真が撮れます

場所は超都心、交通至便の大手町駅よりすぐの「ていぱーく」。年末の忙しいところではありますが、またとないチャンスではないでしょうか。
お時間のある方は奮ってご応募下さい。
*本展の他、様々な展覧会やイベントのPRをしているウィンダムのTwitterが始動しました。要フォローです→@WindamArtPR

「ふるさと切手『ふるさと心の風景』シリーズ 原田泰治『ふるさと心の風景』」展
会期:2013年1月3日(木)~3月31日(日)
時間:9:00~16:30(入場は16時まで)
休館:月曜日(月曜祝日の場合は火曜休館)
会場:逓信総合博物館 ていぱーく
住所:千代田区大手町2-3-1
交通:東京メトロ半蔵門線・東西線・千代田線・丸ノ内線、都営三田線大手町駅下車、A4・A5出口すぐ。JR線東京駅下車丸の内北口より徒歩10分。
料金:大人110円、小・中・高校生50円
*団体(20名以上)大人50円、小・中・高校生25円。*小・中・高校生は日・祝日無料。
電話:03-3244-6811
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「Reflections 2012」 ギャラリー・アート・ポイント
ギャラリー・アート・ポイント
「Reflections 2012 Exhibition by 13 Emerging Artists」
12/18-12/28

ギャラリー・アート・ポイントで開催中の「Reflections 2012 Exhibition by 13 Emerging Artists」へ行ってきました。
日頃お世話になっているブログ「あお!ひー」主宰のあおひーさん。今年は私的な面でもさらに充実(おめでとうございます!)。写真制作にもますます意欲的になっておられるところかもしれません。
そんなあおひーさんご出展のグループ展が今、銀座8丁目のギャラリーアートポイントで開催中。早速、初日にお邪魔してきました。

あおひーさん出品作品一覧
今回はフォトアクリルの4点。お馴染みの色にモチーフに『とろけた』、独特のフォーカスの写真を出品されています。

下:「暗夜街路」2011年
個人的に私が惹かれたのは、右下の「暗夜街路」。昨年に撮影された作品ですが、夜道、街灯が仄かに灯る空間には、どこか寂し気な人影が写っています。
また縦と横、そして何層にも交錯する膜、レイヤーにもよるのか、奥行き感があるのも大きな特徴。ちょうど美しい水墨による風景画を前にしているような感覚を味わいました。
また4点のうちの一番左、「雑景額装#1」も面白いのではないでしょうか。
鏡面に写る歪んだ街の景色、それが抽象面に還元されて、非常に動きと活気のある色面を作り出しています。今までの優し気なあおひーさんの作品とはまた異なった、言わば強度を感じました。

内藤さんの作品
なお本展は13名の作家が登場。今年のシェル美術賞に入選され、現在も国立新美術館の受賞作品展に出品中の内藤亜澄さん、また同じく今年の岡本太郎現代芸術賞に入選された赤川芳之さんの作品も印象に残りました。

赤川さんの作品
あおひーさんのご在廊スケジュールはブログに公開されています。とても気さくでかつ丁寧な方です。色々とお話されるのも楽しいのではないでしょうか。
「Reflections 2012に参加します!」@あお!ひー
12月28日まで開催されています。
「Reflections 2012 Exhibition by 13 Emerging Artists」 ギャラリー・アート・ポイント
会期:12月18日(火)~12月28日(金)
休廊:12月23日(日・祝)
時間:12:30~19:30 但し12/22(土)、12/24(月・祝)は18時まで。最終日は17時終了。
住所:中央区銀座8-11-13 エリザベスビルB1
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線銀座駅A4出口より徒歩6分。JR線・東京メトロ銀座線新橋駅出口1より徒歩6分。
「Reflections 2012 Exhibition by 13 Emerging Artists」
12/18-12/28

ギャラリー・アート・ポイントで開催中の「Reflections 2012 Exhibition by 13 Emerging Artists」へ行ってきました。
日頃お世話になっているブログ「あお!ひー」主宰のあおひーさん。今年は私的な面でもさらに充実(おめでとうございます!)。写真制作にもますます意欲的になっておられるところかもしれません。
そんなあおひーさんご出展のグループ展が今、銀座8丁目のギャラリーアートポイントで開催中。早速、初日にお邪魔してきました。

あおひーさん出品作品一覧
今回はフォトアクリルの4点。お馴染みの色にモチーフに『とろけた』、独特のフォーカスの写真を出品されています。

下:「暗夜街路」2011年
個人的に私が惹かれたのは、右下の「暗夜街路」。昨年に撮影された作品ですが、夜道、街灯が仄かに灯る空間には、どこか寂し気な人影が写っています。
また縦と横、そして何層にも交錯する膜、レイヤーにもよるのか、奥行き感があるのも大きな特徴。ちょうど美しい水墨による風景画を前にしているような感覚を味わいました。
また4点のうちの一番左、「雑景額装#1」も面白いのではないでしょうか。
鏡面に写る歪んだ街の景色、それが抽象面に還元されて、非常に動きと活気のある色面を作り出しています。今までの優し気なあおひーさんの作品とはまた異なった、言わば強度を感じました。

内藤さんの作品
なお本展は13名の作家が登場。今年のシェル美術賞に入選され、現在も国立新美術館の受賞作品展に出品中の内藤亜澄さん、また同じく今年の岡本太郎現代芸術賞に入選された赤川芳之さんの作品も印象に残りました。

赤川さんの作品
あおひーさんのご在廊スケジュールはブログに公開されています。とても気さくでかつ丁寧な方です。色々とお話されるのも楽しいのではないでしょうか。
「Reflections 2012に参加します!」@あお!ひー
12月28日まで開催されています。
「Reflections 2012 Exhibition by 13 Emerging Artists」 ギャラリー・アート・ポイント
会期:12月18日(火)~12月28日(金)
休廊:12月23日(日・祝)
時間:12:30~19:30 但し12/22(土)、12/24(月・祝)は18時まで。最終日は17時終了。
住所:中央区銀座8-11-13 エリザベスビルB1
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線銀座駅A4出口より徒歩6分。JR線・東京メトロ銀座線新橋駅出口1より徒歩6分。
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「Gift in Bloom vol.4 井上菜恵子×小林真理江×荒木愛×小方ゆり」 銀座三越ギャラリー
銀座三越8階ギャラリー
「Gift in Bloom vol.4 井上菜恵子×小林真理江×荒木愛×小方ゆり」
12/12~18

銀座三越8階ギャラリーで開催中の「Gift in Bloom vol.4 井上菜恵子×小林真理江×荒木愛×小方ゆり」へ行ってきました。
1980年代生まれの女性アーティスト4名によるグループ展。彫金に油画、日本画と多様に展開。まさに今にときめく才能を楽しめる展覧会になっています。

展示風景
もちろんお目当ては荒木愛さん。今年春に行われた銀座スルガ台画廊での個展の縁から、美術史家の山下裕二氏に『一目惚れ』され、「美術の窓」の隠し球コーナーにも取り上げられた若き日本画家です。
展示は日本画が10点弱ほど。メインはこのところ制作の多くを占める果物のシリーズです。

右:「柿-2012」 紙本着彩
まずは順番に新作の「柿-2012」から。私の拙い写真では全く伝わらないのですが、灰色の背景にはたらしこみの技が。しかも墨を混ぜあわせたことにもよるのか、どこか幽玄な味わいをも醸し出しています。
続いては同じく秋の味覚、梨を描いた「大きなまぼろしの梨」です。

左:「大きなまぼろしの梨」 紙本着彩
実は彼女はこれまで梨を描きつつも、結果に満足せず、あまり作品として発表することがなかったそうですが、こちらは会心作。まるで宇宙を思わせる暗がりと、対比的に鮮烈なまでの赤い空間を背景に、大きな梨が二つ、強い存在感を持ちながらも、それでいてこの果物特有の言ってみれば優しさ、また瑞々しさを表現することに成功しています。
ちなみにこの梨はかおりと呼ばれる珍しい品種だとか。ほぼ実寸大とのことでした。
さて先に私が『宇宙』と呼んだ暗がり、この「蜜柑」においても同じように背景に使われています。

右:「蜜柑-space」 紙本着彩
左:「はならび C-2」 紙本着彩
そしてこの暗がり、画面では分かりにいくいかもしれませんが、金粉が舞っているのもポイント。それが無数の星のように瞬き、深淵な空間を作り出します。蜜柑はまるで宇宙に浮かぶ恒星のようでした。
さて果物から少し離れてこの「はならび C-2」も魅惑的。日本画はおろか、おおよそ絵画においてモチーフとなりにくい歯を、文字通り『花』にもかけて美しく表現。桜吹雪ならぬ、春に乱れ散る花びらを連想しました。
最後に私の一推しの作品をあげましょう。それが三角にカットされたスイカを描いた一枚。ともかく何が美しいかと言えば、スイカの赤を驚くほどに引き立てる背景の白に他なりません。

「緋密」 紙本着彩
これは胡粉によるものだそうですが、表面の艶やかさと滑らかさは並々ならぬもの。例えればかの藤田の乳白色を思わせはしないでしょうか。白の説得力。彼女の作品には色、そのものの美しさにも大変な魅力がありますが、まさかそれを白で感じられるとは思いませんでした。
本個展は荒木さんにとって最近描き続けてきた果物シリーズの一つの集大成であるとか。以降はまた人や動物を描いていきたいとのお話も。次回展以降の新たな展開にも期待出来るのではないでしょうか。

展示風景
ご紹介が遅れて大変失礼しました。12月18日まで開催されています。(最終日は16時閉場。)
「Gift in Bloom vol.4 井上菜恵子×小林真理江×荒木愛×小方ゆり」 銀座三越8階ギャラリー
会期:12月12日(水)~12月18日(火)
休廊:会期中無休
時間:10:00~20:00 *最終日は16時閉場。
住所:中央区銀座4-6-16
交通:東京メトロ銀座線・丸の内線・日比谷線銀座駅より直結。都営浅草線東銀座駅より銀座駅方面地下通路経由徒歩約3分。
「Gift in Bloom vol.4 井上菜恵子×小林真理江×荒木愛×小方ゆり」
12/12~18

銀座三越8階ギャラリーで開催中の「Gift in Bloom vol.4 井上菜恵子×小林真理江×荒木愛×小方ゆり」へ行ってきました。
1980年代生まれの女性アーティスト4名によるグループ展。彫金に油画、日本画と多様に展開。まさに今にときめく才能を楽しめる展覧会になっています。

展示風景
もちろんお目当ては荒木愛さん。今年春に行われた銀座スルガ台画廊での個展の縁から、美術史家の山下裕二氏に『一目惚れ』され、「美術の窓」の隠し球コーナーにも取り上げられた若き日本画家です。
展示は日本画が10点弱ほど。メインはこのところ制作の多くを占める果物のシリーズです。

右:「柿-2012」 紙本着彩
まずは順番に新作の「柿-2012」から。私の拙い写真では全く伝わらないのですが、灰色の背景にはたらしこみの技が。しかも墨を混ぜあわせたことにもよるのか、どこか幽玄な味わいをも醸し出しています。
続いては同じく秋の味覚、梨を描いた「大きなまぼろしの梨」です。

左:「大きなまぼろしの梨」 紙本着彩
実は彼女はこれまで梨を描きつつも、結果に満足せず、あまり作品として発表することがなかったそうですが、こちらは会心作。まるで宇宙を思わせる暗がりと、対比的に鮮烈なまでの赤い空間を背景に、大きな梨が二つ、強い存在感を持ちながらも、それでいてこの果物特有の言ってみれば優しさ、また瑞々しさを表現することに成功しています。
ちなみにこの梨はかおりと呼ばれる珍しい品種だとか。ほぼ実寸大とのことでした。
さて先に私が『宇宙』と呼んだ暗がり、この「蜜柑」においても同じように背景に使われています。

右:「蜜柑-space」 紙本着彩
左:「はならび C-2」 紙本着彩
そしてこの暗がり、画面では分かりにいくいかもしれませんが、金粉が舞っているのもポイント。それが無数の星のように瞬き、深淵な空間を作り出します。蜜柑はまるで宇宙に浮かぶ恒星のようでした。
さて果物から少し離れてこの「はならび C-2」も魅惑的。日本画はおろか、おおよそ絵画においてモチーフとなりにくい歯を、文字通り『花』にもかけて美しく表現。桜吹雪ならぬ、春に乱れ散る花びらを連想しました。
最後に私の一推しの作品をあげましょう。それが三角にカットされたスイカを描いた一枚。ともかく何が美しいかと言えば、スイカの赤を驚くほどに引き立てる背景の白に他なりません。

「緋密」 紙本着彩
これは胡粉によるものだそうですが、表面の艶やかさと滑らかさは並々ならぬもの。例えればかの藤田の乳白色を思わせはしないでしょうか。白の説得力。彼女の作品には色、そのものの美しさにも大変な魅力がありますが、まさかそれを白で感じられるとは思いませんでした。
本個展は荒木さんにとって最近描き続けてきた果物シリーズの一つの集大成であるとか。以降はまた人や動物を描いていきたいとのお話も。次回展以降の新たな展開にも期待出来るのではないでしょうか。

展示風景
ご紹介が遅れて大変失礼しました。12月18日まで開催されています。(最終日は16時閉場。)
「Gift in Bloom vol.4 井上菜恵子×小林真理江×荒木愛×小方ゆり」 銀座三越8階ギャラリー
会期:12月12日(水)~12月18日(火)
休廊:会期中無休
時間:10:00~20:00 *最終日は16時閉場。
住所:中央区銀座4-6-16
交通:東京メトロ銀座線・丸の内線・日比谷線銀座駅より直結。都営浅草線東銀座駅より銀座駅方面地下通路経由徒歩約3分。
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「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.7 増田佳江」 ギャラリーαM
ギャラリーαM
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.7 増田佳江」
2012/12/1-2013/1/12

ギャラリーαMで開催中の「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.7 増田佳江」へ行ってきました。
緑溢れるサンテラスに差し込む明るい日の光。遠目から眺めるとどこか印象派風。しかしながら細部へ目を凝らすと、抽象的ともとれるモザイク状のタッチが画面を支配していることが分かります。

「日時計」2012年 油彩・キャンバス
増田佳江の絵画の魅力を端的に言うと、この具象とも半具象ともつかぬ独特の風景。それでいて創造性にも満ちた多様なイメージにあります。
それでは具体例をあげていきましょう。

右:「ground」2012年 油彩・キャンバス
まず写真右、「ground」と名付けられた作品、何やら球体ともとれる図像が交錯し、不思議な紋様を描いていますが、実はこれはアメリカの農園を鳥瞰的に眺めた、ようはランドスケープ。
一見、抽象のように見えても、実は素材となる風景があったという事例です。
一方で初めにも挙げた「日時計」、実はメトロポリタン美術館のテラスを描いたものですが、本来は完全ガラス張りの天井にあえて植物を配したという、言わば理想風景。必ずしも実景ではありません。

「天気石」2012年 油彩・キャンバス
また青い球が画面を埋めた「天気石」も、その名の通り石にあたる光、その移ろいをイメージして描いたものだとか。
ランドスケープしかり、この石も同様、相当自由にスケール感をとっていることご分かります。

「夜のまえに」2012年 油彩・キャンバス
緑や青を基調にした美しい色遣いからして魅惑的ですが、こうした現実と架空を行き交うようなモチーフそのものも、また画家の大きな個性だと言えそうです。
2013年1月12日まで開催されています。
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.7 増田佳江」 ギャラリーαM(@gallery_alpham)
会期:2012年12月1日(土)~2013年1月12日(土)
休廊:日・月・祝。年末年始(12/23-1/7)。
時間:11:00~19:00
住所:千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F
交通:都営新宿線馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、JR総武快速線馬喰町駅西口2番出口より徒歩2分、日比谷線小伝馬町駅2、4番出口より徒歩6分。
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.7 増田佳江」
2012/12/1-2013/1/12

ギャラリーαMで開催中の「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.7 増田佳江」へ行ってきました。
緑溢れるサンテラスに差し込む明るい日の光。遠目から眺めるとどこか印象派風。しかしながら細部へ目を凝らすと、抽象的ともとれるモザイク状のタッチが画面を支配していることが分かります。

「日時計」2012年 油彩・キャンバス
増田佳江の絵画の魅力を端的に言うと、この具象とも半具象ともつかぬ独特の風景。それでいて創造性にも満ちた多様なイメージにあります。
それでは具体例をあげていきましょう。

右:「ground」2012年 油彩・キャンバス
まず写真右、「ground」と名付けられた作品、何やら球体ともとれる図像が交錯し、不思議な紋様を描いていますが、実はこれはアメリカの農園を鳥瞰的に眺めた、ようはランドスケープ。
一見、抽象のように見えても、実は素材となる風景があったという事例です。
一方で初めにも挙げた「日時計」、実はメトロポリタン美術館のテラスを描いたものですが、本来は完全ガラス張りの天井にあえて植物を配したという、言わば理想風景。必ずしも実景ではありません。

「天気石」2012年 油彩・キャンバス
また青い球が画面を埋めた「天気石」も、その名の通り石にあたる光、その移ろいをイメージして描いたものだとか。
ランドスケープしかり、この石も同様、相当自由にスケール感をとっていることご分かります。

「夜のまえに」2012年 油彩・キャンバス
緑や青を基調にした美しい色遣いからして魅惑的ですが、こうした現実と架空を行き交うようなモチーフそのものも、また画家の大きな個性だと言えそうです。
2013年1月12日まで開催されています。
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.7 増田佳江」 ギャラリーαM(@gallery_alpham)
会期:2012年12月1日(土)~2013年1月12日(土)
休廊:日・月・祝。年末年始(12/23-1/7)。
時間:11:00~19:00
住所:千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F
交通:都営新宿線馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、JR総武快速線馬喰町駅西口2番出口より徒歩2分、日比谷線小伝馬町駅2、4番出口より徒歩6分。
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「ベン・シャーン展」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「丸沼芸術の森所蔵 ベン・シャーン展 線の魔術師」
2012/11/17-2013/1/14

埼玉県立近代美術館で開催中の「丸沼芸術の森所蔵 ベン・シャーン展 線の魔術師」へ行ってきました。
1930年代から1960年頃にかけてアメリカで活躍した「震える線描」の画家、ベン・シャーン(1898~1969) 。その膨大コレクションが、埼玉県の朝霞、「丸沼芸術の森」にあることをご存知でしょうか。
本展では「丸沼芸術の森」の所有するベン・シャーンのドローイング、絵画を300点近くも紹介。彼の活動の軌跡を追うことの出来る回顧展となっています。
展示も1920年代後半の頃のドローイング、水彩からスタート。時にマティスやルオーを思わせるような人物像も並んでいます。

「波止場の船と都市風景」1924年頃 丸沼芸術の森
またさり気ない街の景色を捉えた初期の風景水彩画、例えば「波止場の船と都市風景」も魅惑的。さらに1931年にはローマの女神を素材にした版画集「レヴァナとわれらの悲しみの貴婦人たち」を出版しますが、残念ながらこれは成功しませんでした。

「エステラジー(ドレフュス事件シリーズより)」1931年 丸沼芸術の森
さて30代に入ると表現上の関心は明確に。例えば無実の罪を着せられて裁かれた移民など、いわゆる社会的弱者、またはマイノリティなどに目が向きます。
端的に言えば、ベン・シャーンは人間の本質を線によって捉えた画家です。
またマイノリティへの共感と並び、彼の関心を見る上で興味深いのは、例えばヒトラーに協力したという実業家をいかにも悪そうに描くなど、いわば特定の支配層への嫌悪の念。社会の暗部も抉り出していきます。

「連邦社会保障ビル壁画の『大工』の習作」1941-42年頃
またこの時期はポスターの仕事も充実。選挙の投票を啓発した「選挙人登録…投票用紙はあなたの手の力だ」などを制作しています。
さらに1930年代の業績で重要なのは壁画です。ニューデール政策によって建設の決まった、ユダヤ人服飾労働者の街(ジャージー・ホームステッズ)の学校のための壁画制作の仕事を請け負いました。

現在の「ジャージー・ホームステッズの壁画」*参考図版
彼はそこへ東欧のユダヤ人がアメリカへ渡り、コミュニティを築き上げていくという一連の歴史を描写。しかも自身も完成後、NYから移り住みました。
さて大戦後、50歳の頃からベン・シャーンは盛んに雑誌の挿絵の仕事をするようになります。
一例が1954年の第五福竜丸事件を取り上げた「ラッキー・ドラゴンシリーズ」。
またタイム誌に掲載されたキング牧師の演説、「マーティン・ルーサー・キング牧師」も迫力満点。簡素ながらも生き生きとした線が、まさに今、目の前でキング牧師が声をあげて演説しているのではないかと思うほどリアルに、それでいて師の特徴を巧みに取り出して捉えています。

「槍に取り囲まれるハムレット」1959年 丸沼芸術の森
また文学主題の作品として面白いのは、1959年にCBSテレビでドラマ化された「ハムレット」の広告挿絵。これは後にドローイング35点セットで出版されました。
それにしてもベン・シャーンのドローイングは線、それ自体だけでなく、構図も魅力的です。画面は密ではなくむしろ疎ですが、余白もまさに雄弁。特に肉感的ですらある人物像には驚くほどの迫力があります。
モデルの個性を汲み取る類稀な表現力、例えばガンディーやレーニン、そしてリンカーンなど、政治家たちを捉えた作品からも伺い知れるかもしれません。

「クローバーの葉」1957年 丸沼芸術の森
さてそうしたベン・シャーン、晩年は哲学、神話的な主題を多く取り込むようになります。関心はヘブライ文字から旧約聖書へ。自身でヘブライ文字のフォントも作り出しました。
詩篇150を元に制作した「ハレルヤ・シリーズ」はその頂点とも言えるのではないでしょうか。この古代楽器を奏でる人々を描いた一連のシリーズ、本来は壁画のために制作されたもの。残念ながらベン・シャーンの死によって壁画は完成しませんでしたが、リトグラフとして世に出版されました。
ラストはリルケの「マルテの手記」に基づく20数点の石版画シリーズ。晩年に至っても筆の力は衰えることがありません。

「愛にみちた多くの夜の回想」1968年 丸沼芸術の森
握手する手、それのみをクローズアップして表現した「思いがけぬ邂逅」からは熱い友情が、そして抱き合う二人を描いた「愛にみちた多くの夜の回想」には深い愛情が滲み出しています。
ベン・シャーンの描く人物、そして力強さと温もりを同時にたたえた手、その神々しさに心打たれました。

「『スポレート音楽祭 1965』のポスター原画」1965年 丸沼芸術の森
なお本展は昨年から国内4館を巡回したベン・シャーン展と同じではありません。実はその巡回展に行きそびれてしまいましたが、この魅力に接すると、何故に見ておかなかったのかと今更ながらに後悔しました。
「芸術新潮2012年1月号/ベン・シャーン/新潮社」
2013年1月14日まで開催されています。断然におすすめします。
「丸沼芸術の森所蔵 ベン・シャーン展 線の魔術師」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2012年11月17日(土)~2013年1月14日(日)
休館:月曜日。但し12月24日、1月14日は開館。年末年始(12/25~1/4)。
時間:10:00~17:30
料金:一般900(720)円 、大高生720(580)円、中学生以下、65歳以上無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「丸沼芸術の森所蔵 ベン・シャーン展 線の魔術師」
2012/11/17-2013/1/14

埼玉県立近代美術館で開催中の「丸沼芸術の森所蔵 ベン・シャーン展 線の魔術師」へ行ってきました。
1930年代から1960年頃にかけてアメリカで活躍した「震える線描」の画家、ベン・シャーン(1898~1969) 。その膨大コレクションが、埼玉県の朝霞、「丸沼芸術の森」にあることをご存知でしょうか。
本展では「丸沼芸術の森」の所有するベン・シャーンのドローイング、絵画を300点近くも紹介。彼の活動の軌跡を追うことの出来る回顧展となっています。
展示も1920年代後半の頃のドローイング、水彩からスタート。時にマティスやルオーを思わせるような人物像も並んでいます。

「波止場の船と都市風景」1924年頃 丸沼芸術の森
またさり気ない街の景色を捉えた初期の風景水彩画、例えば「波止場の船と都市風景」も魅惑的。さらに1931年にはローマの女神を素材にした版画集「レヴァナとわれらの悲しみの貴婦人たち」を出版しますが、残念ながらこれは成功しませんでした。

「エステラジー(ドレフュス事件シリーズより)」1931年 丸沼芸術の森
さて30代に入ると表現上の関心は明確に。例えば無実の罪を着せられて裁かれた移民など、いわゆる社会的弱者、またはマイノリティなどに目が向きます。
端的に言えば、ベン・シャーンは人間の本質を線によって捉えた画家です。
またマイノリティへの共感と並び、彼の関心を見る上で興味深いのは、例えばヒトラーに協力したという実業家をいかにも悪そうに描くなど、いわば特定の支配層への嫌悪の念。社会の暗部も抉り出していきます。

「連邦社会保障ビル壁画の『大工』の習作」1941-42年頃
またこの時期はポスターの仕事も充実。選挙の投票を啓発した「選挙人登録…投票用紙はあなたの手の力だ」などを制作しています。
さらに1930年代の業績で重要なのは壁画です。ニューデール政策によって建設の決まった、ユダヤ人服飾労働者の街(ジャージー・ホームステッズ)の学校のための壁画制作の仕事を請け負いました。

現在の「ジャージー・ホームステッズの壁画」*参考図版
彼はそこへ東欧のユダヤ人がアメリカへ渡り、コミュニティを築き上げていくという一連の歴史を描写。しかも自身も完成後、NYから移り住みました。
さて大戦後、50歳の頃からベン・シャーンは盛んに雑誌の挿絵の仕事をするようになります。
一例が1954年の第五福竜丸事件を取り上げた「ラッキー・ドラゴンシリーズ」。
またタイム誌に掲載されたキング牧師の演説、「マーティン・ルーサー・キング牧師」も迫力満点。簡素ながらも生き生きとした線が、まさに今、目の前でキング牧師が声をあげて演説しているのではないかと思うほどリアルに、それでいて師の特徴を巧みに取り出して捉えています。

「槍に取り囲まれるハムレット」1959年 丸沼芸術の森
また文学主題の作品として面白いのは、1959年にCBSテレビでドラマ化された「ハムレット」の広告挿絵。これは後にドローイング35点セットで出版されました。
それにしてもベン・シャーンのドローイングは線、それ自体だけでなく、構図も魅力的です。画面は密ではなくむしろ疎ですが、余白もまさに雄弁。特に肉感的ですらある人物像には驚くほどの迫力があります。
モデルの個性を汲み取る類稀な表現力、例えばガンディーやレーニン、そしてリンカーンなど、政治家たちを捉えた作品からも伺い知れるかもしれません。

「クローバーの葉」1957年 丸沼芸術の森
さてそうしたベン・シャーン、晩年は哲学、神話的な主題を多く取り込むようになります。関心はヘブライ文字から旧約聖書へ。自身でヘブライ文字のフォントも作り出しました。
詩篇150を元に制作した「ハレルヤ・シリーズ」はその頂点とも言えるのではないでしょうか。この古代楽器を奏でる人々を描いた一連のシリーズ、本来は壁画のために制作されたもの。残念ながらベン・シャーンの死によって壁画は完成しませんでしたが、リトグラフとして世に出版されました。
ラストはリルケの「マルテの手記」に基づく20数点の石版画シリーズ。晩年に至っても筆の力は衰えることがありません。

「愛にみちた多くの夜の回想」1968年 丸沼芸術の森
握手する手、それのみをクローズアップして表現した「思いがけぬ邂逅」からは熱い友情が、そして抱き合う二人を描いた「愛にみちた多くの夜の回想」には深い愛情が滲み出しています。
ベン・シャーンの描く人物、そして力強さと温もりを同時にたたえた手、その神々しさに心打たれました。

「『スポレート音楽祭 1965』のポスター原画」1965年 丸沼芸術の森
なお本展は昨年から国内4館を巡回したベン・シャーン展と同じではありません。実はその巡回展に行きそびれてしまいましたが、この魅力に接すると、何故に見ておかなかったのかと今更ながらに後悔しました。

2013年1月14日まで開催されています。断然におすすめします。
「丸沼芸術の森所蔵 ベン・シャーン展 線の魔術師」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2012年11月17日(土)~2013年1月14日(日)
休館:月曜日。但し12月24日、1月14日は開館。年末年始(12/25~1/4)。
時間:10:00~17:30
料金:一般900(720)円 、大高生720(580)円、中学生以下、65歳以上無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」 原美術館
原美術館
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」
2012/12/7-2013/3/10

原美術館で開催中の「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」へ行ってきました。
映像と彫刻。その異なる素材と表現の志向からすると、同じ空間に取り合わせることは滅多にないかもしれません。
しかしながら本展では双方をほぼ同一の場で等しく展示。結果、映像の「動」と彫刻の「静」が対峙し、時に響き合うという、これまでにはなかった空間を作りあげることに成功しました。

ルイ・シャフェス「虚無より軽く」2012年 鉄にペイント
それではまず作家の紹介から。映画監督として国際的に活躍するペドロ・コスタ(映像)と、ヴェネチア・ビエンナーレなどにも出品歴のあるルイ・シャフェス(彫刻)。ようは二人展の形式をとっています。

作家:ペドロ・コスタ
二人はともにポルトガル人。2005年に現地で開催された展覧会をきっかけに親交を深め、今回、全く場所を移し、ここ日本、東京の原美術館にて展示を行うことになりました。
さてともかく原美術館といえば空間そのものの面白さ。実は彼らもこの場を一度見てから展示プランを練っています。

ペドロ・コスタ「火の娘たち」2012年 3チャンネルプロジェクションおよびサウンド
ルイ・シャフェス「私が震えるのを見よ」2005年 鉄にペイント セラルヴィス美術館
早速、エントランス先からコラボレーション。3面スクリーンによるコスタの「火の娘たち」とシャフェスの彫刻「私が震えるのを見よ」が対峙。
私の拙い写真では分かりにくいかもしれませんが、シャフェスは映像のあるスペースにおいて作品を舞台装置とも言える無機的なフォルムに仕立て上げているのもポイントです。

ペドロ・コスタ「カザル ダ ボバ地区」2005年 1チャンネルプロジェクションおよびサウンド セラルヴィス美術館
それはメインのスペース、ギャラリー2でも同様。まるでモノリスを思わせるような一枚の板が起立するシャフェス「私は寒い」の向こうに、コスタの映像「カザル ダ ボバ地区」が。シャフェスの彫刻には幾つかの穴があり、そこから映像を眺めるのもまた面白いかもしれません。
さてシャフェス、映像のない空間では趣きを一変、有機的なフォルムへと転化させています。

ルイ・シャフェス「燃やされた声の灰塵」2012年 鉄にペイント
直線から曲線、そして立方体から球体へ。階段の壁に連なる「燃やされた声の灰燼」、あたかも建物に寄生する何らかの生物だと言えないでしょうか。

ルイ・シャフェス「香り(眩惑的にして微かな)3」2012年 鉄にペイント
またおすすめは2階の「香り(眩惑的にして微かな)3」。この見事な曲線と効果的なライティングによる影の美しさ。
実は彼の作品はいずれも鉄によって出来ています。その素材に由来する重厚さをあえて打ち消しての浮遊感、そして独特の生命感も魅力だと言えそうです。
さてラストにコスタの映像をあげましょう。2階最奥部のギャラリー5には、スクリーンの表と裏に投影された「少年という男、少女という女」という映像作品が展示されています。

ペドロ・コスタ「少年という男、少女という女」2005年 2チャンネルプロジェクションおよびサウンド セラルヴィス美術館
映像の具体的な内容について触れるのは控えますが、コスタの魅力として、本来的には全く異なるものの、画面の時に絵画的とも言うべき展開があります。伝統的な静物画やホッパーの室内空間を連想させるシーン、それ自体が強いイメージとして目に焼きつきました。
またもう一つ重要なのは映像から流れる効果音です。直接的に出処が描かれないにも関わらず、音がシーンを牽引し、画面の中、もしくは画面に連続する外の空間の事件性を喚起させます。
なおコスタ映像、長いもので1時間弱、またもう一点は40分ほどあります。時間に余裕をもっての観覧がおすすめです。
ちなみにタイトルの「無」とは映画監督の小津安二郎の墓碑に刻まれた文字に由来するそうです。美術ファンだけでなく、映画ファンにとっても見逃せない展示かもしれません。
@taktwiさんが@haramuseumさんによる作家記者会見のツイートをまとめて下さいました。
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」展@原美術館 記者会見

関連のプログラムが大変に充実しています。
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」開催概要、及び関連イベント情報
2013年3月10日まで開催されています。
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」 原美術館(@haramuseum)
会期:2012年12月7日(金)~2013年3月10日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる12月24日、1月14日、2月11日は開館し、翌12月25日、1月15日、2月12日は休館)。年末年始(12/28~1/4)。
時間:11:00~17:00。*毎週水曜日は20時まで開館。
料金: 一般1000円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」
2012/12/7-2013/3/10

原美術館で開催中の「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」へ行ってきました。
映像と彫刻。その異なる素材と表現の志向からすると、同じ空間に取り合わせることは滅多にないかもしれません。
しかしながら本展では双方をほぼ同一の場で等しく展示。結果、映像の「動」と彫刻の「静」が対峙し、時に響き合うという、これまでにはなかった空間を作りあげることに成功しました。

ルイ・シャフェス「虚無より軽く」2012年 鉄にペイント
それではまず作家の紹介から。映画監督として国際的に活躍するペドロ・コスタ(映像)と、ヴェネチア・ビエンナーレなどにも出品歴のあるルイ・シャフェス(彫刻)。ようは二人展の形式をとっています。

作家:ペドロ・コスタ
二人はともにポルトガル人。2005年に現地で開催された展覧会をきっかけに親交を深め、今回、全く場所を移し、ここ日本、東京の原美術館にて展示を行うことになりました。
さてともかく原美術館といえば空間そのものの面白さ。実は彼らもこの場を一度見てから展示プランを練っています。

ペドロ・コスタ「火の娘たち」2012年 3チャンネルプロジェクションおよびサウンド
ルイ・シャフェス「私が震えるのを見よ」2005年 鉄にペイント セラルヴィス美術館
早速、エントランス先からコラボレーション。3面スクリーンによるコスタの「火の娘たち」とシャフェスの彫刻「私が震えるのを見よ」が対峙。
私の拙い写真では分かりにくいかもしれませんが、シャフェスは映像のあるスペースにおいて作品を舞台装置とも言える無機的なフォルムに仕立て上げているのもポイントです。

ペドロ・コスタ「カザル ダ ボバ地区」2005年 1チャンネルプロジェクションおよびサウンド セラルヴィス美術館
それはメインのスペース、ギャラリー2でも同様。まるでモノリスを思わせるような一枚の板が起立するシャフェス「私は寒い」の向こうに、コスタの映像「カザル ダ ボバ地区」が。シャフェスの彫刻には幾つかの穴があり、そこから映像を眺めるのもまた面白いかもしれません。
さてシャフェス、映像のない空間では趣きを一変、有機的なフォルムへと転化させています。

ルイ・シャフェス「燃やされた声の灰塵」2012年 鉄にペイント
直線から曲線、そして立方体から球体へ。階段の壁に連なる「燃やされた声の灰燼」、あたかも建物に寄生する何らかの生物だと言えないでしょうか。

ルイ・シャフェス「香り(眩惑的にして微かな)3」2012年 鉄にペイント
またおすすめは2階の「香り(眩惑的にして微かな)3」。この見事な曲線と効果的なライティングによる影の美しさ。
実は彼の作品はいずれも鉄によって出来ています。その素材に由来する重厚さをあえて打ち消しての浮遊感、そして独特の生命感も魅力だと言えそうです。
さてラストにコスタの映像をあげましょう。2階最奥部のギャラリー5には、スクリーンの表と裏に投影された「少年という男、少女という女」という映像作品が展示されています。

ペドロ・コスタ「少年という男、少女という女」2005年 2チャンネルプロジェクションおよびサウンド セラルヴィス美術館
映像の具体的な内容について触れるのは控えますが、コスタの魅力として、本来的には全く異なるものの、画面の時に絵画的とも言うべき展開があります。伝統的な静物画やホッパーの室内空間を連想させるシーン、それ自体が強いイメージとして目に焼きつきました。
またもう一つ重要なのは映像から流れる効果音です。直接的に出処が描かれないにも関わらず、音がシーンを牽引し、画面の中、もしくは画面に連続する外の空間の事件性を喚起させます。
なおコスタ映像、長いもので1時間弱、またもう一点は40分ほどあります。時間に余裕をもっての観覧がおすすめです。
ちなみにタイトルの「無」とは映画監督の小津安二郎の墓碑に刻まれた文字に由来するそうです。美術ファンだけでなく、映画ファンにとっても見逃せない展示かもしれません。
@taktwiさんが@haramuseumさんによる作家記者会見のツイートをまとめて下さいました。
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」展@原美術館 記者会見

関連のプログラムが大変に充実しています。
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」開催概要、及び関連イベント情報
2013年3月10日まで開催されています。
「MU[無]─ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」 原美術館(@haramuseum)
会期:2012年12月7日(金)~2013年3月10日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる12月24日、1月14日、2月11日は開館し、翌12月25日、1月15日、2月12日は休館)。年末年始(12/28~1/4)。
時間:11:00~17:00。*毎週水曜日は20時まで開館。
料金: 一般1000円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「高橋大輔 まぶしい絵具/五年間を振り返る」 アルマスギャラリー
アルマスギャラリー
「高橋大輔 まぶしい絵具/五年間を振り返る」
2012/12/1-2013/1/19

清澄アルマスで開催中の「高橋大輔 まぶしい絵具/五年間を振り返る」へ行ってきました。
昨年、同ギャラリーにてそれこそ度肝を抜かれるほどに、超・物質感のある絵画を展示したペインターの高橋大輔。

ともかく平面をゆうに超えた絵具の厚み、もやは何らかのオブジェかと思うほどの強い質感に魅了されました。
今回はそれと平行して旧作、2007年頃の作品もあわせて展示。ここ5年間で高橋がいかに表現のスタイルを変化させたのかを知ることが出来る内容になっています。

「直進」2008年 oil on canvas
それではまず旧作から。2008年の「直進」では、絵具は激しく乱舞しながらも、塗りは比較的フラット。平面として確かな広がりを持っています。

左:「色の形、形の姿、太陽」2008年 oil on canvas
また同じく2008年の「色の形、形の姿、太陽」も同様。絵具の厚みはそれほどありません。また旧作では濃く、また暗い色が混ざり込んでいるのも特徴。全体としては明るめの黄緑や緑が散っていますが、そこにどことない重さ、言わば陰が差し込んでいることが分かります。

「無題(白・おとし)」(部分)2008-2012年 oil on woodenpanel
そして新作はこちら。「無題(白・おとし)」。実はこの作品、一度2008年に描かれたそうですが、そこへ今年大きく手を加え、今へ至る厚みのある画肌を実現したもの。高橋の近作に特徴的な明るい絵具の『盛り』を堪能出来る作品となっています。
旧作と新作の展開。大胆なまでの抽象表現、とりわけ色の使い方など、ともに甲乙付け難い魅力がありますが、私はやはりこの衝撃的な『盛り』に強く惹かれるものを感じました。
なお12月8日からミッドタウンの3階にある「TIME & STYLE」にも作品を展示しているそうです。六本木にお出かけの際は要チェックではないでしょうか。

「consonances」@ TIME & STYLE MIDTOWN (12/8~12/28)
2013年1月19日まで開催されています。
「高橋大輔 まぶしい絵具/五年間を振り返る」 アルマスギャラリー
会期:2012年12月1日(土)~2013年1月19日(土)
休館:月~木曜日。年末年始(12/24-1/10)。*金・土・日のみオープン。
時間:12:00~19:00
住所:江東区清澄2-4-7
交通:東京メトロ半蔵門線、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩5分。
「高橋大輔 まぶしい絵具/五年間を振り返る」
2012/12/1-2013/1/19

清澄アルマスで開催中の「高橋大輔 まぶしい絵具/五年間を振り返る」へ行ってきました。
昨年、同ギャラリーにてそれこそ度肝を抜かれるほどに、超・物質感のある絵画を展示したペインターの高橋大輔。

ともかく平面をゆうに超えた絵具の厚み、もやは何らかのオブジェかと思うほどの強い質感に魅了されました。
今回はそれと平行して旧作、2007年頃の作品もあわせて展示。ここ5年間で高橋がいかに表現のスタイルを変化させたのかを知ることが出来る内容になっています。

「直進」2008年 oil on canvas
それではまず旧作から。2008年の「直進」では、絵具は激しく乱舞しながらも、塗りは比較的フラット。平面として確かな広がりを持っています。

左:「色の形、形の姿、太陽」2008年 oil on canvas
また同じく2008年の「色の形、形の姿、太陽」も同様。絵具の厚みはそれほどありません。また旧作では濃く、また暗い色が混ざり込んでいるのも特徴。全体としては明るめの黄緑や緑が散っていますが、そこにどことない重さ、言わば陰が差し込んでいることが分かります。

「無題(白・おとし)」(部分)2008-2012年 oil on woodenpanel
そして新作はこちら。「無題(白・おとし)」。実はこの作品、一度2008年に描かれたそうですが、そこへ今年大きく手を加え、今へ至る厚みのある画肌を実現したもの。高橋の近作に特徴的な明るい絵具の『盛り』を堪能出来る作品となっています。
旧作と新作の展開。大胆なまでの抽象表現、とりわけ色の使い方など、ともに甲乙付け難い魅力がありますが、私はやはりこの衝撃的な『盛り』に強く惹かれるものを感じました。
なお12月8日からミッドタウンの3階にある「TIME & STYLE」にも作品を展示しているそうです。六本木にお出かけの際は要チェックではないでしょうか。

「consonances」@ TIME & STYLE MIDTOWN (12/8~12/28)
2013年1月19日まで開催されています。
「高橋大輔 まぶしい絵具/五年間を振り返る」 アルマスギャラリー
会期:2012年12月1日(土)~2013年1月19日(土)
休館:月~木曜日。年末年始(12/24-1/10)。*金・土・日のみオープン。
時間:12:00~19:00
住所:江東区清澄2-4-7
交通:東京メトロ半蔵門線、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩5分。
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