都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
根津美術館で「KORIN展」を開催中!
メトロポリタン美術館の「八橋図屏風」と根津美術館の「燕子花図屏風」が約100年ぶりに同じ会場で展示されていることでも話題のKORIN展。
右:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
左:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
会期は意外と短く5月20日まで、既に連日多くの方が来場されているようです。実は私も今日、シンポジウムに参加するために再訪しましたが、昼過ぎの館内はとても賑わっていました。
「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
休憩を挟んで約4時間、一部討議を含む充実した内容のシンポジウムでした。その様子は出来ればまた別途、記事にまとめるつもりですが、ここでは根津美術館の野口氏の発表内容を踏まえ、取り急ぎ燕子花図屏風と八橋図屏風の鑑賞のポイントを記しておきます。鑑賞の参考にしていただければ幸いです。
とくに最後の橋の見え方は実際に試すと確かにそのようにしか見えません。右から左からと眺めてみてはいかがでしょうか。
なおお庭のカキツバタもそろそろ咲き始めました。
藤棚ももうそろそろ見頃を迎えるのではないでしょうか。
展覧会全体については報道内覧時の記事にまとめてあります。ポイントは「何故橋を描いたのか。」ということと、燕子花図へ至る前史、さらには後世の受容、つまり抱一による「光琳百図」です。
「KORIN展」 根津美術館
会期も約10日を経過し、残り20日を数えるのみとなりました。なお4/28より閉館時間を1時間延長し、連日18時まで開館しています。閉館間際までいましたが、夕方5時以降はかなり人が引けました。ゆったり鑑賞出来ます。
「もっと知りたい尾形光琳/仲町啓子/東京美術」
琳派ファン待望の世紀の邂逅、是非ともお見逃しなきようご注意下さい。
「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:4月21日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。但し4/28~5/20は時間延長。18時まで。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
注)会場内写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
右:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
左:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
会期は意外と短く5月20日まで、既に連日多くの方が来場されているようです。実は私も今日、シンポジウムに参加するために再訪しましたが、昼過ぎの館内はとても賑わっていました。
KORIN展 シンポジウム「光琳画の展開と受容」
日時:2012年4月29日(日)午後1時から4時30分
場所:根津美術館講堂
定員:100名
パネリスト:玉蟲敏子氏(武蔵野美術大学教授)、中部義隆氏(大和文華館学芸課長)、仲町啓子氏(実践女子大学教授)、野口剛氏(根津美術館学芸主任)
司会:河合正朝氏(慶應義塾大学名誉教授)
日時:2012年4月29日(日)午後1時から4時30分
場所:根津美術館講堂
定員:100名
パネリスト:玉蟲敏子氏(武蔵野美術大学教授)、中部義隆氏(大和文華館学芸課長)、仲町啓子氏(実践女子大学教授)、野口剛氏(根津美術館学芸主任)
司会:河合正朝氏(慶應義塾大学名誉教授)
「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
休憩を挟んで約4時間、一部討議を含む充実した内容のシンポジウムでした。その様子は出来ればまた別途、記事にまとめるつもりですが、ここでは根津美術館の野口氏の発表内容を踏まえ、取り急ぎ燕子花図屏風と八橋図屏風の鑑賞のポイントを記しておきます。鑑賞の参考にしていただければ幸いです。
制作時期:燕子花図は光琳が40代半ば、八橋図は50代の半ば頃に描いた。時間差は10年。
サイズ:燕子花図は八橋図よりも縦に長く、横に短い。
彩色:燕子花図はかなり重厚でべた塗り。群青の青みが際立つ。八橋図はやや薄塗りで輪郭線の存在が浮き上がる。また全体に明朗で、一つの花びらにも色のグラデーションがある。
橋のたらしこみ:八橋図の左隻にある緑色のたらし込みが右隻では少ない。なお橋は何故か7つしかない。
花の形態:燕子花図は花が大きく重い。また左隻の花には金泥が混じるが、右隻にはない。一方の八橋図はスリムな上、花びらが横へのびるカキツバタの性質をよく再現している。
花群:燕子花図には花群の型紙由来のコピーがある。八橋図は同一作にはないが、燕子花図から取り入れたと思われるイメージが計4箇所見られる。
構図:八橋図に橋を挿入したのは物語性の回復を狙ったのではないか。また全体として一つの視点、やや上から橋とカキツバタを眺めた様子で描かれている。一方の燕子花図は左右で視点が違う。右隻は正面性が高く、左隻は対角線上に上からのぞき込むような視点。
視覚効果:八橋図を右横から見ると橋の水平部分のみが、左横から見ると橋の斜めの部分のみしか見えない。これは光琳が狙った効果なのかもしれない。
サイズ:燕子花図は八橋図よりも縦に長く、横に短い。
彩色:燕子花図はかなり重厚でべた塗り。群青の青みが際立つ。八橋図はやや薄塗りで輪郭線の存在が浮き上がる。また全体に明朗で、一つの花びらにも色のグラデーションがある。
橋のたらしこみ:八橋図の左隻にある緑色のたらし込みが右隻では少ない。なお橋は何故か7つしかない。
花の形態:燕子花図は花が大きく重い。また左隻の花には金泥が混じるが、右隻にはない。一方の八橋図はスリムな上、花びらが横へのびるカキツバタの性質をよく再現している。
花群:燕子花図には花群の型紙由来のコピーがある。八橋図は同一作にはないが、燕子花図から取り入れたと思われるイメージが計4箇所見られる。
構図:八橋図に橋を挿入したのは物語性の回復を狙ったのではないか。また全体として一つの視点、やや上から橋とカキツバタを眺めた様子で描かれている。一方の燕子花図は左右で視点が違う。右隻は正面性が高く、左隻は対角線上に上からのぞき込むような視点。
視覚効果:八橋図を右横から見ると橋の水平部分のみが、左横から見ると橋の斜めの部分のみしか見えない。これは光琳が狙った効果なのかもしれない。
とくに最後の橋の見え方は実際に試すと確かにそのようにしか見えません。右から左からと眺めてみてはいかがでしょうか。
なおお庭のカキツバタもそろそろ咲き始めました。
藤棚ももうそろそろ見頃を迎えるのではないでしょうか。
展覧会全体については報道内覧時の記事にまとめてあります。ポイントは「何故橋を描いたのか。」ということと、燕子花図へ至る前史、さらには後世の受容、つまり抱一による「光琳百図」です。
「KORIN展」 根津美術館
会期も約10日を経過し、残り20日を数えるのみとなりました。なお4/28より閉館時間を1時間延長し、連日18時まで開館しています。閉館間際までいましたが、夕方5時以降はかなり人が引けました。ゆったり鑑賞出来ます。
「もっと知りたい尾形光琳/仲町啓子/東京美術」
琳派ファン待望の世紀の邂逅、是非ともお見逃しなきようご注意下さい。
「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:4月21日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。但し4/28~5/20は時間延長。18時まで。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
注)会場内写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「石田尚志個展」 タカ・イシイギャラリー
タカ・イシイギャラリー
「石田尚志個展」
3/31-4/28(会期終了)
タカ・イシイギャラリーで開催されていた「石田尚志個展」へ行ってきました。
昨年のMOTコレクションの特集展示で受けた衝撃もまだ覚めやらぬ石田尚志ですが、ここタカ・イシイでもまた見事な展示を行っていました。
暗幕をくぐった先に登場するのは4面のスクリーンです。そこには小屋の中でさも自在に展開するようなアニメーション・ドロイーングが写されています。
動きは極めてスピーディーです。絵具が広がり、また線と面を描き、今後は消え、さらには再びまた広がって紋様を描く様が、それこそダンスをしているかのような躍動感をもって続いていきます。その様子を見ていると伸びゆく絵具、またドローイングそのものが意思を持って動いているかのようでした。
種明かしをしてしまうとこの映像は、石田自身が約4ヶ月にも渡ってスタジオで描き続けたドローイングの痕跡に他なりません。ひたすらに描くという行為が、複数のカメラでコマ撮りしたアニメーションというプロセスを通すことで、映像としても極めて完成度の高い作品に転化させることに成功しています。
とりわけ凄まじいのは、映写機とドローイングとの関係です。その両者があうんの呼吸での連動し、さらにそこへ光と闇が変幻自在に交錯していく様子は、驚くほどにスリリングではないでしょうか。一体自分が見ているのが光なのか闇なのか、そしてドローイングなのかそれともまた別種の幻なのか、そうしたことが分からなくなってしまうほどに感覚を揺さぶってきました。
さらにもう一つ、また仰天させられたのが、スクリーンの裏へ廻った時のことです。なんと実際の小屋の展示が行われているではありませんか。ようは手前でスクリーンを写す際の効果音と思っていたカタカタという音は、実際の映写機が出している音というわけでした。
行為(ドローイング)の蓄積は、時間(映像)だけでなく場所(インスタレーション)までをもって表現されています。その相互の次元の垣根は取っ払われていました。
現在、石田はモスクワで開催されている「モスクワにおける現代日本美術」展に参加しているそうです。そちらまでは追っかけられませんが、少なくともMOT、そして本個展と立て続けに石田の展示を見ることが出来て心底良かったと思いました。
展示は既に終了しました。
「石田尚志個展」 タカ・イシイギャラリー
会期:3月31日(土)~4月28日(土)
休廊:日・月・祝日
時間:12:00~19:00
住所:江東区清澄1-3-2 5階
交通:東京メトロ半蔵門線・都営大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩7分。
「石田尚志個展」
3/31-4/28(会期終了)
タカ・イシイギャラリーで開催されていた「石田尚志個展」へ行ってきました。
昨年のMOTコレクションの特集展示で受けた衝撃もまだ覚めやらぬ石田尚志ですが、ここタカ・イシイでもまた見事な展示を行っていました。
暗幕をくぐった先に登場するのは4面のスクリーンです。そこには小屋の中でさも自在に展開するようなアニメーション・ドロイーングが写されています。
動きは極めてスピーディーです。絵具が広がり、また線と面を描き、今後は消え、さらには再びまた広がって紋様を描く様が、それこそダンスをしているかのような躍動感をもって続いていきます。その様子を見ていると伸びゆく絵具、またドローイングそのものが意思を持って動いているかのようでした。
種明かしをしてしまうとこの映像は、石田自身が約4ヶ月にも渡ってスタジオで描き続けたドローイングの痕跡に他なりません。ひたすらに描くという行為が、複数のカメラでコマ撮りしたアニメーションというプロセスを通すことで、映像としても極めて完成度の高い作品に転化させることに成功しています。
とりわけ凄まじいのは、映写機とドローイングとの関係です。その両者があうんの呼吸での連動し、さらにそこへ光と闇が変幻自在に交錯していく様子は、驚くほどにスリリングではないでしょうか。一体自分が見ているのが光なのか闇なのか、そしてドローイングなのかそれともまた別種の幻なのか、そうしたことが分からなくなってしまうほどに感覚を揺さぶってきました。
さらにもう一つ、また仰天させられたのが、スクリーンの裏へ廻った時のことです。なんと実際の小屋の展示が行われているではありませんか。ようは手前でスクリーンを写す際の効果音と思っていたカタカタという音は、実際の映写機が出している音というわけでした。
行為(ドローイング)の蓄積は、時間(映像)だけでなく場所(インスタレーション)までをもって表現されています。その相互の次元の垣根は取っ払われていました。
現在、石田はモスクワで開催されている「モスクワにおける現代日本美術」展に参加しているそうです。そちらまでは追っかけられませんが、少なくともMOT、そして本個展と立て続けに石田の展示を見ることが出来て心底良かったと思いました。
展示は既に終了しました。
「石田尚志個展」 タカ・イシイギャラリー
会期:3月31日(土)~4月28日(土)
休廊:日・月・祝日
時間:12:00~19:00
住所:江東区清澄1-3-2 5階
交通:東京メトロ半蔵門線・都営大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩7分。
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「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館
千葉市美術館
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」
4/10~5/20
千葉市美術館で開催中の「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(前期展示)へ行ってきました。
生誕250年を迎え、東博でもボストン美術館所蔵の「雲龍図」が日本初公開されるなど、話題沸騰の曾我蕭白(1730-1781)ですが、その真打ち、まさにメモリアルイヤーに相応しい展覧会が始まりました。
それが千葉市美術館で開催中の「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」です。
曾我蕭白「群仙図屏風」文化庁(展示期間:5/2~20)
ショッキングイエローを配したチラシ、また前代未聞、タイトルの「!!」マークなど、それこそ蕭白画のインパクトを思わせるコピーですが、当然ながら展示自体も見どころの多い内容となっています。
構成は以下の通りでした。
第一章 蕭白前史
第二章第一部 曾我蕭白ー蕭白出現
第二章第二部 曾我蕭白ー蕭白高揚
第二章第三部 曾我蕭白ー蕭白高揚
第三章 京の画家たち
さて奇才、蕭白といえども、その画風は一朝一夕に確立されたわけではありません。
まず重要なのは前史、つまりは蕭白がどのような画家に影響を受けていたかということです。
1730年、京都の商家に生まれた蕭白は、自ら曾我氏と名乗ったことでも明らかなように、桃山期の曾我派にシンパシーを抱いていました。
高田敬輔「山水図屏風」滋賀県立近代美術館(展示期間:4/10~4/30)
また雪舟の系譜を組む雪谷派から、明清のいわゆる「唐画」との関連が指摘されているのもポイントです。
前史では蕭白画でも多い垂直方向に伸びる山を描いた高田敬輔の「楼閣山水図」や、同じく蕭白の押絵貼屏風の主題に似た大西酔月の「花鳥人物図押絵貼付屏風」などが紹介されています。
若冲が中国画に多くを倣っていたのと同様、蕭白もこうした先行する画家を参考していたというわけでした。
曾我蕭白「林和靖図屏風」三重県立美術館(展示期間:4/10~4/30)
さて中盤、第二章からは蕭白ワールド全開です。蕭白は京都ではなく伊勢、また播州にて多くの作品を残しましたが、それらがほぼ時系列に沿って展示されています。
ともかく一点一点の感想をあげていくと長くなるので控えますが、巨大な鷲と猿が対決する「鷲図屏風」、また余白を埋め尽くす岩山に「レレレのおじさん」(キャプションより引用)ならぬ隠者の佇む「寒山拾得図屏風」などは、鮮烈でかつ濃厚、そして異様なまでに大胆な蕭白の全てを楽しめる作品と言えるのではないでしょうか。
また冴え渡る筆、とりわけ墨の硬軟を交えて様々な場面を描いてしまう蕭白の高い技に感心した方も多いかもしれません。
曾我蕭白「松鷹図」旧永島家障壁画、三重県立美術館(展示期間:5/2~20)
展覧会のハイライトとして挙げられるのが、蕭白35、36歳の頃、おそらくは二度目の伊勢行きの際に制作したとされる、三重・旧永島家伝来の襖絵7点、計44面の作品です。(4/30まではうち3点、また5/2よりは5点を展示。1点12面は通期展示。)
この時期の蕭白は傑作「群仙図屏風」(5/2より展示。)を描くなど、画業の一つの頂点を迎えますが、同時期の作品もそれに劣ることは決してありません。
旧永島家伝来の襖絵はそれこそ再現展示ならぬ、空間をぐるりと一周、取り囲むようにして並ぶ障壁画にら思わず息を呑んでしまいますが、中でもとりわけ惹かれたのは「竹林七賢図襖」でした。
蕭白画というととかく密度の高い線や面を思いがちですが、余白を広くとった空間表現など、必ずしも濃厚一辺倒ではないことがよく分かります。
曾我蕭白「竹林七賢図襖(部分)」旧永島家障壁画、三重県立美術館(通期展示)*先行チラシより抜粋
それ最たるものがこの作品です。右に集う男たちの濃密な表現とは一転、画面中央、雪景色の中を後ろを向いて立つ男、さらには画面左手で木から雪を落とそうとする子どもの姿などは、いずれもが情感豊かで穏和な表現だと言えるのではないでしょうか。
ここには同じ作品の中に濃と淡が同居している上、蕭白画に特有な動的表現、さらにはその瞬間を切り取った時間までが示されています。
また扇子に巧みな透け表現を取り入れ、細かい線描と淡い金泥にて仙人を描いた「仙人図屏風」からは、時にグロテスクとまで称される蕭白画の意外な一面、ようは流麗な画風も見てとれるのではないでしょうか。
曾我蕭白「雪山童子図」三重・継松寺(展示期間:4/10~5/6)
また「雪山童子図」など、鮮やかな彩色でも知られる蕭白ですが、実は残した作品の殆どは水墨画です。
当然ながら展示でも水墨画がメインとなっていますが、空間や構図、さらには動きなどの視覚効果を見通して表された卓越した水墨表現こそ、蕭白の一番の魅力であるように思いました。
曾我蕭白「虎渓三笑図」千葉市美術館(通期展示)
また会場でも触れられていますが、蕭白画には数多くの月が登場します。作品では他に獰猛な鷹も頻繁に描かれていますが、この月と鷹こそ、蕭白の最も得意とするモチーフだったのかもしれません。
さてラストは言わばデザート、主に同時代の京の絵師たちが登場します。 ここでは館蔵の若冲画の他、池大雅や蕪村の作品などが展示されていました。
伊藤若冲「月夜白梅図」個人蔵(通期展示)
前史と同時代の作品を見比べることで、改めて蕭白の個性が際立ってくるかもしれません。 単純に蕭白画の凄さだけではなく、前史から蕭白のエッセンスを探る構成は、思いの他に説得力がありました。
さて展示の情報です。本展は途中二度の展示替えを挟み、作品の大半が入れ替わります。
つまり二つで一つの展覧会です。GW後にはお馴染みの「群仙図屏風」も出品されますが、ハイライトの旧永島家障壁画も殆ど入れ替わります。注意が必要です。
また会期中、本展担当で図録にも論文を寄せた学芸員、伊藤氏のレクチャーも行われます。
予約不要です。関連の画家から蕭白を読み解く突っ込んだお話を伺えるかもしれません。
さて図録が秀逸です。詳細な図版、充実した解説に論文まで付いて1900円とかなりお得ではないでしょうか。
目印は箱入りケースの「!!」マークです。自信をもって申し上げますが、これは間違いなく買いです。
「もっと知りたい曾我蕭白/狩野博幸/東京美術」
嬉しいリピーター割引もあります。(有料半券の提示で二度目以降は半額。)まずはGW、千葉へ蕭白詣ではいかがでしょうか。
5月20日までの開催です。もちろんおすすめします。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館
会期:4月10日(火)~ 5月20日(日)
休館:5月1日(火)、5月7日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」
4/10~5/20
千葉市美術館で開催中の「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(前期展示)へ行ってきました。
生誕250年を迎え、東博でもボストン美術館所蔵の「雲龍図」が日本初公開されるなど、話題沸騰の曾我蕭白(1730-1781)ですが、その真打ち、まさにメモリアルイヤーに相応しい展覧会が始まりました。
それが千葉市美術館で開催中の「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」です。
曾我蕭白「群仙図屏風」文化庁(展示期間:5/2~20)
ショッキングイエローを配したチラシ、また前代未聞、タイトルの「!!」マークなど、それこそ蕭白画のインパクトを思わせるコピーですが、当然ながら展示自体も見どころの多い内容となっています。
構成は以下の通りでした。
第一章 蕭白前史
第二章第一部 曾我蕭白ー蕭白出現
第二章第二部 曾我蕭白ー蕭白高揚
第二章第三部 曾我蕭白ー蕭白高揚
第三章 京の画家たち
さて奇才、蕭白といえども、その画風は一朝一夕に確立されたわけではありません。
まず重要なのは前史、つまりは蕭白がどのような画家に影響を受けていたかということです。
1730年、京都の商家に生まれた蕭白は、自ら曾我氏と名乗ったことでも明らかなように、桃山期の曾我派にシンパシーを抱いていました。
高田敬輔「山水図屏風」滋賀県立近代美術館(展示期間:4/10~4/30)
また雪舟の系譜を組む雪谷派から、明清のいわゆる「唐画」との関連が指摘されているのもポイントです。
前史では蕭白画でも多い垂直方向に伸びる山を描いた高田敬輔の「楼閣山水図」や、同じく蕭白の押絵貼屏風の主題に似た大西酔月の「花鳥人物図押絵貼付屏風」などが紹介されています。
若冲が中国画に多くを倣っていたのと同様、蕭白もこうした先行する画家を参考していたというわけでした。
曾我蕭白「林和靖図屏風」三重県立美術館(展示期間:4/10~4/30)
さて中盤、第二章からは蕭白ワールド全開です。蕭白は京都ではなく伊勢、また播州にて多くの作品を残しましたが、それらがほぼ時系列に沿って展示されています。
ともかく一点一点の感想をあげていくと長くなるので控えますが、巨大な鷲と猿が対決する「鷲図屏風」、また余白を埋め尽くす岩山に「レレレのおじさん」(キャプションより引用)ならぬ隠者の佇む「寒山拾得図屏風」などは、鮮烈でかつ濃厚、そして異様なまでに大胆な蕭白の全てを楽しめる作品と言えるのではないでしょうか。
また冴え渡る筆、とりわけ墨の硬軟を交えて様々な場面を描いてしまう蕭白の高い技に感心した方も多いかもしれません。
曾我蕭白「松鷹図」旧永島家障壁画、三重県立美術館(展示期間:5/2~20)
展覧会のハイライトとして挙げられるのが、蕭白35、36歳の頃、おそらくは二度目の伊勢行きの際に制作したとされる、三重・旧永島家伝来の襖絵7点、計44面の作品です。(4/30まではうち3点、また5/2よりは5点を展示。1点12面は通期展示。)
この時期の蕭白は傑作「群仙図屏風」(5/2より展示。)を描くなど、画業の一つの頂点を迎えますが、同時期の作品もそれに劣ることは決してありません。
旧永島家伝来の襖絵はそれこそ再現展示ならぬ、空間をぐるりと一周、取り囲むようにして並ぶ障壁画にら思わず息を呑んでしまいますが、中でもとりわけ惹かれたのは「竹林七賢図襖」でした。
蕭白画というととかく密度の高い線や面を思いがちですが、余白を広くとった空間表現など、必ずしも濃厚一辺倒ではないことがよく分かります。
曾我蕭白「竹林七賢図襖(部分)」旧永島家障壁画、三重県立美術館(通期展示)*先行チラシより抜粋
それ最たるものがこの作品です。右に集う男たちの濃密な表現とは一転、画面中央、雪景色の中を後ろを向いて立つ男、さらには画面左手で木から雪を落とそうとする子どもの姿などは、いずれもが情感豊かで穏和な表現だと言えるのではないでしょうか。
ここには同じ作品の中に濃と淡が同居している上、蕭白画に特有な動的表現、さらにはその瞬間を切り取った時間までが示されています。
また扇子に巧みな透け表現を取り入れ、細かい線描と淡い金泥にて仙人を描いた「仙人図屏風」からは、時にグロテスクとまで称される蕭白画の意外な一面、ようは流麗な画風も見てとれるのではないでしょうか。
曾我蕭白「雪山童子図」三重・継松寺(展示期間:4/10~5/6)
また「雪山童子図」など、鮮やかな彩色でも知られる蕭白ですが、実は残した作品の殆どは水墨画です。
当然ながら展示でも水墨画がメインとなっていますが、空間や構図、さらには動きなどの視覚効果を見通して表された卓越した水墨表現こそ、蕭白の一番の魅力であるように思いました。
曾我蕭白「虎渓三笑図」千葉市美術館(通期展示)
また会場でも触れられていますが、蕭白画には数多くの月が登場します。作品では他に獰猛な鷹も頻繁に描かれていますが、この月と鷹こそ、蕭白の最も得意とするモチーフだったのかもしれません。
さてラストは言わばデザート、主に同時代の京の絵師たちが登場します。 ここでは館蔵の若冲画の他、池大雅や蕪村の作品などが展示されていました。
伊藤若冲「月夜白梅図」個人蔵(通期展示)
前史と同時代の作品を見比べることで、改めて蕭白の個性が際立ってくるかもしれません。 単純に蕭白画の凄さだけではなく、前史から蕭白のエッセンスを探る構成は、思いの他に説得力がありました。
さて展示の情報です。本展は途中二度の展示替えを挟み、作品の大半が入れ替わります。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」出品目録(PDF)
*全ての作品をご覧いただく場合、4/10~4/30と5/8~5/20の両期間に1回ずつご来場ください。 (千葉市美術館サイトより)
*全ての作品をご覧いただく場合、4/10~4/30と5/8~5/20の両期間に1回ずつご来場ください。 (千葉市美術館サイトより)
つまり二つで一つの展覧会です。GW後にはお馴染みの「群仙図屏風」も出品されますが、ハイライトの旧永島家障壁画も殆ど入れ替わります。注意が必要です。
また会期中、本展担当で図録にも論文を寄せた学芸員、伊藤氏のレクチャーも行われます。
市民美術講座:「蕭白と蕭白前史」
5月5日(土・祝)14:00より/11階講堂にて
聴講無料/先着150名
講師: 伊藤紫織 (千葉市美術館学芸員)
5月5日(土・祝)14:00より/11階講堂にて
聴講無料/先着150名
講師: 伊藤紫織 (千葉市美術館学芸員)
予約不要です。関連の画家から蕭白を読み解く突っ込んだお話を伺えるかもしれません。
さて図録が秀逸です。詳細な図版、充実した解説に論文まで付いて1900円とかなりお得ではないでしょうか。
目印は箱入りケースの「!!」マークです。自信をもって申し上げますが、これは間違いなく買いです。
「もっと知りたい曾我蕭白/狩野博幸/東京美術」
嬉しいリピーター割引もあります。(有料半券の提示で二度目以降は半額。)まずはGW、千葉へ蕭白詣ではいかがでしょうか。
5月20日までの開催です。もちろんおすすめします。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館
会期:4月10日(火)~ 5月20日(日)
休館:5月1日(火)、5月7日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分
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「江川純太 さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」 eitoeiko
eitoeiko
「江川純太 さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」
3/31~4/28、5/8~5/26
eitoeikoで開催中の江川純太個展、「さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」へ行って来ました。
抽象に立脚しながらも、毎回の個展で作風を変化させる江川ですが、今回はさらに顕著だと言えるのではないでしょうか。
ギャラリーへ入った瞬間、ともかく強い印象を与えたのは、これまでにはない暗鬱でかつ閉ざされた空間表現に他なりません。
一昨年、また昨年の個展では、どちらかというと薄いシルバーを背景に、赤や水色などの鮮やかな色彩が点在、もしくは浮遊して爛れるという、全体としてオールオーバー的な絵画を描いていました。
しかしながら今年はご覧の通りです。何やら暗い黒などが周囲から中央へと迫り、その合間にぽっかり空いた穴を埋めるかのように色彩が漂っているではありませんか。
江川純太「あなたの現実は創造を遥かに超える。」キャンバス・油彩 2012年
穴を埋めた色彩は薄塗りと厚塗り、さらには絵具をそのまま盛り上げたような箇所に分かれています。また形も円や四角などが曲線を描いてうねるストロークとせめぎ合い、極めて密度の高い空間が生まれていました。
今回の作品は鍵穴から向こうを覗き込んだ時に見えるモチーフでもあるそうですが、その穴のイメージは時に人の頭部、またドクロの形と重なり合うかもしれません。
一方で色と形が半ば乱れるように現れているせいか、何やらキャンバスへ何らかの情念をぶつけるような激しさも感じてなりません。
なお当初の会期は4月28日までですが、好評によりGW以降、5月26日までの延長を予定しているそうです。
その際は一部展示替えもあるそうです。またさらに変化した作品が現れるかもしれません。
江川純太「あなたの現実は創造を遥かに超える。」キャンバス・油彩 2012年(部分)
美術手帖の5月号の「ART NAVI」の9ページ、「期待のアーティストに聞く」のコーナーに江川純太のインタビュー記事が掲載されています。
そこで江川が語る「絵のナマ感」、作品かもひしひしと感じられました。
GW前は4月28日、GW以降は5月26日まで開催(予定)されています。
「江川純太 さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」 eitoeiko(@eitoeiko)
会期:3月31日(土)~4月28日(土)、5月8日(火)~5月26日(土)
休廊:月・火
時間:12:00~19:00
住所:新宿区矢来町32-2
交通:東京メトロ東西線神楽坂駅より徒歩5分、都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅より徒歩10分。
「江川純太 さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」
3/31~4/28、5/8~5/26
eitoeikoで開催中の江川純太個展、「さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」へ行って来ました。
抽象に立脚しながらも、毎回の個展で作風を変化させる江川ですが、今回はさらに顕著だと言えるのではないでしょうか。
ギャラリーへ入った瞬間、ともかく強い印象を与えたのは、これまでにはない暗鬱でかつ閉ざされた空間表現に他なりません。
一昨年、また昨年の個展では、どちらかというと薄いシルバーを背景に、赤や水色などの鮮やかな色彩が点在、もしくは浮遊して爛れるという、全体としてオールオーバー的な絵画を描いていました。
しかしながら今年はご覧の通りです。何やら暗い黒などが周囲から中央へと迫り、その合間にぽっかり空いた穴を埋めるかのように色彩が漂っているではありませんか。
江川純太「あなたの現実は創造を遥かに超える。」キャンバス・油彩 2012年
穴を埋めた色彩は薄塗りと厚塗り、さらには絵具をそのまま盛り上げたような箇所に分かれています。また形も円や四角などが曲線を描いてうねるストロークとせめぎ合い、極めて密度の高い空間が生まれていました。
今回の作品は鍵穴から向こうを覗き込んだ時に見えるモチーフでもあるそうですが、その穴のイメージは時に人の頭部、またドクロの形と重なり合うかもしれません。
一方で色と形が半ば乱れるように現れているせいか、何やらキャンバスへ何らかの情念をぶつけるような激しさも感じてなりません。
なお当初の会期は4月28日までですが、好評によりGW以降、5月26日までの延長を予定しているそうです。
@eitoeiko
江川純太展、好評につきGW後の5/8~5/26に会期延長戦を予定しております。一部展示替えも予定しています。
江川純太展、好評につきGW後の5/8~5/26に会期延長戦を予定しております。一部展示替えも予定しています。
その際は一部展示替えもあるそうです。またさらに変化した作品が現れるかもしれません。
江川純太「あなたの現実は創造を遥かに超える。」キャンバス・油彩 2012年(部分)
美術手帖の5月号の「ART NAVI」の9ページ、「期待のアーティストに聞く」のコーナーに江川純太のインタビュー記事が掲載されています。
そこで江川が語る「絵のナマ感」、作品かもひしひしと感じられました。
GW前は4月28日、GW以降は5月26日まで開催(予定)されています。
「江川純太 さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」 eitoeiko(@eitoeiko)
会期:3月31日(土)~4月28日(土)、5月8日(火)~5月26日(土)
休廊:月・火
時間:12:00~19:00
住所:新宿区矢来町32-2
交通:東京メトロ東西線神楽坂駅より徒歩5分、都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅より徒歩10分。
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「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」 ギャラリーαM
ギャラリーαM
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」
4/14-5/19
ギャラリーαMで開催中の「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」へ行ってきました。
昨年度は「成層圏」と題し、主にインスタレーションの展示を続けたギャラリーαMですが、本年度は一転、文字通りペインティングを前面に押し出したシリーズへと切り替わりました。
その第一弾を飾るのが山田七菜子です。
いわゆる正規の美術教育ではなく、半ば独学で絵画表現を切り開いた山田は、これまで名古屋から関西方面のギャラリーの個展やグループ展などに参加してきました。
ともかく一目見て印象的なのは、非常に鮮烈な色彩感と、直接指をキャンバス面へ触れて作るという力強いストロークに他なりません。
とりわけ深い海をのぞき込むような青や燃え盛る夕陽のような赤からは、どこかドイツ表現主義の画家、ノルデの画風を思わせはしないでしょうか。
それに横に波のように揺れ、大きなカーブを描いてとぐろを巻くストロークは時にムンク画のような不穏な気配を呼び起こします。
また多様な支持体も見逃すことが出来ません。
作品は会場をぐるりと取り囲むように展示されていますが、そこには大小様々なキャンバスの他、木片に油缶、さらには瓶やパレットなどまでが登場しています。これらの素材は全て山田が使ったものや拾ってきたものだそうです。
また配列は限りなくランダムです。絵を見ていたつもりが、いつの間にかキャップなどへ変わっています。一点一点のキャンバスと向き合うというよりも、全体の作品の流れ、またその変化も楽しめるのではないでしょうか。
モチーフには海辺の景色や不思議と親密な間柄を伺わせる人物などが登場します。その描かれた作品を順に追っていくと、一つのストーリー、ような何らかの物語を読んでいるような気がしてなりませんでした。
ちなみに物語性とも繋がりますが、山田は会場に詩も残しています。少し分かりにくいかもしれませんが、会場内の柱に直接詩が記されています。また詩のファイルも置かれていました。そちらも作品世界への共感の切っ掛けとなりそうです。
それにしてもこの「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう」というテーマは大いに目を引きます。東京国立近代美術館の主任研究員の保坂健二朗氏をキュレーションに迎えた本年度のαM企画、また期待出来るのではないでしょうか。
なお昨年度は震災の影響を鑑み、時間を短縮しての展示でしたが、今年度から通常通りの時間に戻りました。開廊は11時、閉廊は19時です。
5月19日まで開催されています。
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」 ギャラリーαM(@gallery_alpham)
会期:4月14日(土)~5月19日(土)
休廊:日・月・祝。
時間:11:00~19:00
住所:千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F
交通:都営新宿線馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、JR総武快速線馬喰町駅西口2番出口より徒歩2分、日比谷線小伝馬町駅2、4番出口より徒歩6分。
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」
4/14-5/19
ギャラリーαMで開催中の「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」へ行ってきました。
昨年度は「成層圏」と題し、主にインスタレーションの展示を続けたギャラリーαMですが、本年度は一転、文字通りペインティングを前面に押し出したシリーズへと切り替わりました。
その第一弾を飾るのが山田七菜子です。
いわゆる正規の美術教育ではなく、半ば独学で絵画表現を切り開いた山田は、これまで名古屋から関西方面のギャラリーの個展やグループ展などに参加してきました。
ともかく一目見て印象的なのは、非常に鮮烈な色彩感と、直接指をキャンバス面へ触れて作るという力強いストロークに他なりません。
とりわけ深い海をのぞき込むような青や燃え盛る夕陽のような赤からは、どこかドイツ表現主義の画家、ノルデの画風を思わせはしないでしょうか。
それに横に波のように揺れ、大きなカーブを描いてとぐろを巻くストロークは時にムンク画のような不穏な気配を呼び起こします。
また多様な支持体も見逃すことが出来ません。
作品は会場をぐるりと取り囲むように展示されていますが、そこには大小様々なキャンバスの他、木片に油缶、さらには瓶やパレットなどまでが登場しています。これらの素材は全て山田が使ったものや拾ってきたものだそうです。
また配列は限りなくランダムです。絵を見ていたつもりが、いつの間にかキャップなどへ変わっています。一点一点のキャンバスと向き合うというよりも、全体の作品の流れ、またその変化も楽しめるのではないでしょうか。
モチーフには海辺の景色や不思議と親密な間柄を伺わせる人物などが登場します。その描かれた作品を順に追っていくと、一つのストーリー、ような何らかの物語を読んでいるような気がしてなりませんでした。
ちなみに物語性とも繋がりますが、山田は会場に詩も残しています。少し分かりにくいかもしれませんが、会場内の柱に直接詩が記されています。また詩のファイルも置かれていました。そちらも作品世界への共感の切っ掛けとなりそうです。
それにしてもこの「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう」というテーマは大いに目を引きます。東京国立近代美術館の主任研究員の保坂健二朗氏をキュレーションに迎えた本年度のαM企画、また期待出来るのではないでしょうか。
αM2012企画
『絵画、それを愛と呼ぶことにしよう Crazy for Painting』
ゲストキュレーター:保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)
2012年4月14日(土)~5月19日(土)山田七菜子
2012年5月26日(土)~6月23日(土)俵萌子
2012年6月30日(土)~7月28日(土)安藤陽子
2012年8月4日(土)~9日15日(土)浅見貴子(休:8/12~27)
2012年9月21日(金)~10月20日(土)小西紀行
2012年10月27日(土)~11月24日(土)衣川明子
2012年12月1日(土)~2013年1月12日(土)増田佳江(休:12/23-1/7)
2013年1月19日(土)~2013年2月2日(土)田中功起
2013年2月9日(土)~2013年3月23日(土)小林正人+杉戸洋
『絵画、それを愛と呼ぶことにしよう Crazy for Painting』
ゲストキュレーター:保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)
2012年4月14日(土)~5月19日(土)山田七菜子
2012年5月26日(土)~6月23日(土)俵萌子
2012年6月30日(土)~7月28日(土)安藤陽子
2012年8月4日(土)~9日15日(土)浅見貴子(休:8/12~27)
2012年9月21日(金)~10月20日(土)小西紀行
2012年10月27日(土)~11月24日(土)衣川明子
2012年12月1日(土)~2013年1月12日(土)増田佳江(休:12/23-1/7)
2013年1月19日(土)~2013年2月2日(土)田中功起
2013年2月9日(土)~2013年3月23日(土)小林正人+杉戸洋
なお昨年度は震災の影響を鑑み、時間を短縮しての展示でしたが、今年度から通常通りの時間に戻りました。開廊は11時、閉廊は19時です。
5月19日まで開催されています。
「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」 ギャラリーαM(@gallery_alpham)
会期:4月14日(土)~5月19日(土)
休廊:日・月・祝。
時間:11:00~19:00
住所:千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F
交通:都営新宿線馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、JR総武快速線馬喰町駅西口2番出口より徒歩2分、日比谷線小伝馬町駅2、4番出口より徒歩6分。
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「KORIN展」 根津美術館
根津美術館
「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」
4/21-5/20
根津美術館で開催中の「KORIN展」のプレスプレビューに参加してきました。
震災の影響により一年延期された光琳ことKORIN展、ともかく今か今かと待っておられた方も多いかもしれません。
何と1世紀ぶりの邂逅です。根津美術館所蔵の光琳畢竟の大作「燕子花図屏風」と、同じカキツバタのモチーフ、つまり伊勢物語の主題をとるメトロポリタン美術館の「八橋図屏風」が同時に展示されています。
右:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
左:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
大正4年、当時は国内にあった「八橋図屏風」が三越呉服店の光琳展に出品された際、根津氏所蔵の「燕子花図屏風」も同じく展示されました。
しかしながら「八橋図屏風」がアメリカへと渡ると国内での出品機会は激減、以来両作品を同じ会場に展示されたことは一度もありませんでした。(八橋図が来日したのも戦後一度だけ、昭和47年の東博琳派展のみです。)
そのような100年越しの出会いを今回のKORIN展が実現したわけです。
右:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
左:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
さてカキツバタがリズミカルに群れる両作品、当然ながら橋の有無しかり、絵画表現上において大きな違いがあります。
そもそも「燕子花図屏風」は光琳が40代半ば頃に描いたのに対し、「八橋図屏風」は50代の半ばに制作されたと考えられています。
時間差は約10年です。両作の比較はもとより、その間の光琳の変化、さらにはカキツバタ前後にまで視野を広げて画業を追うというのが、本展の趣旨でもありました。
さて両作、構図上の橋だけでなく、ディテールもかなり異なることが見て取れるのではないでしょうか。
参考スライド:尾形光琳の「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」
明らかに違うのは花の描写です。「燕子花図屏風」は総じて絵具が厚塗りであるため、花は重くふっくらと、また図像的であるのに対し、色味の軽い「八橋図屏風」ではもっとスリムでかつ自然の花に近い表現がとられています。
また背景の金箔も「燕子花図屏風」の方がやや暗めです。 そうしたことにもよるのか「燕子花図屏風」の重厚感に対し、「八橋図屏風」の軽快さが際立っています。
これは実際に並べて見ないとわかりません。同じ金箔に群青と緑青という配色にも関わらず、まさかこれほど異なっているとは思いませんでした。
さて光琳は「燕子花図屏風」から約10年、何故にカキツバタへ橋を描き入れたのでしょうか。
参考スライド:尾形光琳の「紅白梅図屏風」
そのヒントとなるのが、「八橋図屏風」同様、晩年の大作として知られる「紅白梅図屏風」(本展非出品)です。
ともかく物語性を取っ払い、極めて大胆な構図をとる「燕子花図屏風」こそ光琳の最終的な到達点とされることも少なくありませんが、時間軸で追う限りは必ずしもそうではありません。
「紅白梅図屏風」の中央には流水が描かれていますが、向かい合う梅の中へ水を取り入れる、つまりは一つのモチーフの中へ別の造形を投げ込むことで、これまでにはない空間を作りあげることに成功しています。
「八橋図屏風」も同様です。先行する「燕子花図屏風」にはない橋を挿入することで、全く視覚効果の異った作品へと仕上がりました。
参考スライド:尾形光琳の「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」
ちなみに「燕子花図屏風」では型紙を用い、同じ花群を描いていることで知られていますが、「八橋図屏風」にも「燕子花図屏風」の花群を持ち込んだのではないかと思われる箇所があるそうです。
ここではあまり詳しくは突っ込みませんが、ともかくこの二点のカキツバタには光琳の画業を紐解くエッセンスが無数に詰め込まれているわけでした。
「十二ヶ月歌意図屏風」尾形光琳 江戸時代 17世紀 個人蔵
さて本展、先にも触れたようにこの二作品の比較から、その前後についての言及がある点も重要なところです。
展示では冒頭に光琳の初期作を並べ、そこから「燕子花図屏風」へと至った経過について簡単に触れています。
現存する光琳作で最も若書きの「十二ヶ月歌意図屏風」にも目を引かれますが、やはり伊勢物語主題として見逃せないのが、その名の通りの「伊勢物語八橋図」です。
「伊勢物語八橋図」尾形光琳 江戸時代 18世紀 東京国立博物館
宗達画のモチーフを借り、東下りのシーンがカキツバタはもちろん、橋や人物までを合わせて描かれています。
ここから「燕子花図屏風」へは大きな飛躍があるように思えるかもしれませんが、同じくカキツバタのみを描いた「燕子花図」の存在など、光琳が陶芸作品に見られる「留守文様」、つまりは物語絵から人物を取り除いて謎絵のようにする方法にヒントを得たという指摘もあります。
「中村内蔵助像」尾形光琳 江戸時代 1704年 大和文華館
またパトロンであった「中村内蔵助像」も出ていますが、光琳が作風を大きく変化させていったのは、彼との出会いが大きかったという説もあるとのことでした。
さて「八橋図屏風」以降、本展の重要なテーマとして挙げられるのが酒井抱一による「光琳百図」です。
「光琳百図 前編・後編」酒井抱一 江戸時代 1815年/1826年 東京藝術大学大学図書館
後半では光琳の草花図の展開とともに、「八橋図屏風」も写した抱一の視点による光琳画の諸相を見る流れとなっています。
展示ケース下部、出品作に「光琳百図」の参考図版が置かれているのをお気づきになられたでしょうか。
「青楓朱楓図屏風」酒井抱一 江戸時代 1818年 個人蔵
ラストには抱一の「青楓朱楓図屏風」が出ていますが、これも彼が光琳画を写したものと考えられています。
参考パネル:酒井抱一の「光琳百図」
残念ながら光琳の本画は確認されていませんが、光琳から抱一への琳派変奏への展開を分かりやすい形で見ることの出来る作品と言えるのかもしれません。
なお「八橋図屏風」といえばもう一点、抱一も光琳を写したとされる作品を描いています。 実際の作品こそ展示されていませんが、光琳画と光琳百図、そしてそれに基づいたであろう抱一画はやや異なっています。
結局、何故、光琳画と百図が違うのかはよく分かっておらず、またそれは光琳画の伝来の問題にも繋がるそうですが、その辺については図録のテキストが参考になりました。そちらも合わせてご覧下さい。
「隅田川図」酒井抱一 江戸時代 18-19世紀 根津美術館(展示室6)
ちなみに2階の展示室6「初夏の茶」にも抱一作が一点出ています。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。
お庭のカキツバタはGWの頃に見頃を迎えるのではないでしょうか。
庭園。弘仁亭前のカキツバタ。(4/20現在)
同館では4月28日(土)以降、会期末まで閉館時間を1時間延長して、18時まで開館します。夕方以降も狙い目となりそうです。
ミュージアムグッズから琳派シリーズ「お箸袋」。乾山の絵皿からモチーフを取り込んだ40種の箸袋が発売されました。
琳派ファンはもちろん、日本美術ファンにとっても一期一会と言うべき展覧会ではないでしょうか。
根津美術館アプリでも情報更新中です。
5月20日まで開催されています。もちろんおすすめします。
「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:4月21日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。但し4/28~5/20は時間延長。18時まで。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」
4/21-5/20
根津美術館で開催中の「KORIN展」のプレスプレビューに参加してきました。
震災の影響により一年延期された光琳ことKORIN展、ともかく今か今かと待っておられた方も多いかもしれません。
何と1世紀ぶりの邂逅です。根津美術館所蔵の光琳畢竟の大作「燕子花図屏風」と、同じカキツバタのモチーフ、つまり伊勢物語の主題をとるメトロポリタン美術館の「八橋図屏風」が同時に展示されています。
右:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
左:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
大正4年、当時は国内にあった「八橋図屏風」が三越呉服店の光琳展に出品された際、根津氏所蔵の「燕子花図屏風」も同じく展示されました。
しかしながら「八橋図屏風」がアメリカへと渡ると国内での出品機会は激減、以来両作品を同じ会場に展示されたことは一度もありませんでした。(八橋図が来日したのも戦後一度だけ、昭和47年の東博琳派展のみです。)
そのような100年越しの出会いを今回のKORIN展が実現したわけです。
右:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
左:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
さてカキツバタがリズミカルに群れる両作品、当然ながら橋の有無しかり、絵画表現上において大きな違いがあります。
そもそも「燕子花図屏風」は光琳が40代半ば頃に描いたのに対し、「八橋図屏風」は50代の半ばに制作されたと考えられています。
時間差は約10年です。両作の比較はもとより、その間の光琳の変化、さらにはカキツバタ前後にまで視野を広げて画業を追うというのが、本展の趣旨でもありました。
さて両作、構図上の橋だけでなく、ディテールもかなり異なることが見て取れるのではないでしょうか。
参考スライド:尾形光琳の「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」
明らかに違うのは花の描写です。「燕子花図屏風」は総じて絵具が厚塗りであるため、花は重くふっくらと、また図像的であるのに対し、色味の軽い「八橋図屏風」ではもっとスリムでかつ自然の花に近い表現がとられています。
また背景の金箔も「燕子花図屏風」の方がやや暗めです。 そうしたことにもよるのか「燕子花図屏風」の重厚感に対し、「八橋図屏風」の軽快さが際立っています。
これは実際に並べて見ないとわかりません。同じ金箔に群青と緑青という配色にも関わらず、まさかこれほど異なっているとは思いませんでした。
さて光琳は「燕子花図屏風」から約10年、何故にカキツバタへ橋を描き入れたのでしょうか。
参考スライド:尾形光琳の「紅白梅図屏風」
そのヒントとなるのが、「八橋図屏風」同様、晩年の大作として知られる「紅白梅図屏風」(本展非出品)です。
ともかく物語性を取っ払い、極めて大胆な構図をとる「燕子花図屏風」こそ光琳の最終的な到達点とされることも少なくありませんが、時間軸で追う限りは必ずしもそうではありません。
「紅白梅図屏風」の中央には流水が描かれていますが、向かい合う梅の中へ水を取り入れる、つまりは一つのモチーフの中へ別の造形を投げ込むことで、これまでにはない空間を作りあげることに成功しています。
「八橋図屏風」も同様です。先行する「燕子花図屏風」にはない橋を挿入することで、全く視覚効果の異った作品へと仕上がりました。
参考スライド:尾形光琳の「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」
ちなみに「燕子花図屏風」では型紙を用い、同じ花群を描いていることで知られていますが、「八橋図屏風」にも「燕子花図屏風」の花群を持ち込んだのではないかと思われる箇所があるそうです。
ここではあまり詳しくは突っ込みませんが、ともかくこの二点のカキツバタには光琳の画業を紐解くエッセンスが無数に詰め込まれているわけでした。
「十二ヶ月歌意図屏風」尾形光琳 江戸時代 17世紀 個人蔵
さて本展、先にも触れたようにこの二作品の比較から、その前後についての言及がある点も重要なところです。
展示では冒頭に光琳の初期作を並べ、そこから「燕子花図屏風」へと至った経過について簡単に触れています。
現存する光琳作で最も若書きの「十二ヶ月歌意図屏風」にも目を引かれますが、やはり伊勢物語主題として見逃せないのが、その名の通りの「伊勢物語八橋図」です。
「伊勢物語八橋図」尾形光琳 江戸時代 18世紀 東京国立博物館
宗達画のモチーフを借り、東下りのシーンがカキツバタはもちろん、橋や人物までを合わせて描かれています。
ここから「燕子花図屏風」へは大きな飛躍があるように思えるかもしれませんが、同じくカキツバタのみを描いた「燕子花図」の存在など、光琳が陶芸作品に見られる「留守文様」、つまりは物語絵から人物を取り除いて謎絵のようにする方法にヒントを得たという指摘もあります。
「中村内蔵助像」尾形光琳 江戸時代 1704年 大和文華館
またパトロンであった「中村内蔵助像」も出ていますが、光琳が作風を大きく変化させていったのは、彼との出会いが大きかったという説もあるとのことでした。
さて「八橋図屏風」以降、本展の重要なテーマとして挙げられるのが酒井抱一による「光琳百図」です。
「光琳百図 前編・後編」酒井抱一 江戸時代 1815年/1826年 東京藝術大学大学図書館
後半では光琳の草花図の展開とともに、「八橋図屏風」も写した抱一の視点による光琳画の諸相を見る流れとなっています。
展示ケース下部、出品作に「光琳百図」の参考図版が置かれているのをお気づきになられたでしょうか。
「青楓朱楓図屏風」酒井抱一 江戸時代 1818年 個人蔵
ラストには抱一の「青楓朱楓図屏風」が出ていますが、これも彼が光琳画を写したものと考えられています。
参考パネル:酒井抱一の「光琳百図」
残念ながら光琳の本画は確認されていませんが、光琳から抱一への琳派変奏への展開を分かりやすい形で見ることの出来る作品と言えるのかもしれません。
なお「八橋図屏風」といえばもう一点、抱一も光琳を写したとされる作品を描いています。 実際の作品こそ展示されていませんが、光琳画と光琳百図、そしてそれに基づいたであろう抱一画はやや異なっています。
結局、何故、光琳画と百図が違うのかはよく分かっておらず、またそれは光琳画の伝来の問題にも繋がるそうですが、その辺については図録のテキストが参考になりました。そちらも合わせてご覧下さい。
「隅田川図」酒井抱一 江戸時代 18-19世紀 根津美術館(展示室6)
ちなみに2階の展示室6「初夏の茶」にも抱一作が一点出ています。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。
お庭のカキツバタはGWの頃に見頃を迎えるのではないでしょうか。
庭園。弘仁亭前のカキツバタ。(4/20現在)
同館では4月28日(土)以降、会期末まで閉館時間を1時間延長して、18時まで開館します。夕方以降も狙い目となりそうです。
ミュージアムグッズから琳派シリーズ「お箸袋」。乾山の絵皿からモチーフを取り込んだ40種の箸袋が発売されました。
琳派ファンはもちろん、日本美術ファンにとっても一期一会と言うべき展覧会ではないでしょうか。
根津美術館アプリでも情報更新中です。
5月20日まで開催されています。もちろんおすすめします。
「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:4月21日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。但し4/28~5/20は時間延長。18時まで。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「志水児王 Elements」 MISA SHIN GALLERY
MISA SHIN GALLERY
「志水児王 Elements」
3/16-4/28
MISA SHIN GALLERYで開催中の志水児王個展、「Elements」へ行ってきました。
「音、光、振動といった要素の特性を拡大し、それが起こす現象を視覚的に再現する」(リリースより引用。一部改変。)志水児王ですが、今回はずばり緑のレーザー光線を用いたインスタレーションを展示しています。
会場に入り、暗幕をくぐり抜けると開けるのは、壁はおろか、床面から天井までに波紋を築くレーザー光線の軌跡です。
それらは何やら有機的に動き、上下左右、限りなく自由に運動し続けていますが、その秘密はレーザーの映し出されたガラス素材にありました。
一見するとすぐに分かりますが、光源と壁面の間には、終始回転するワイングラスが設置されています。
つまりレーザーはガラス面の縁をなぞり、また時に直線的に透過することで、向こう側にある壁へ光を拡張され、様々な紋様を映し出しているというわけでした。
その様子はまさに生命の胎動、宇宙の振幅です。変化するイメージは一瞬として同じ形をとどめることはありません。思わず時間を忘れて見入ってしまいました。
それにしてもレーザーの斑紋を見ていると、どことなく音楽的な時間の流れを感じます。このインスタレーションに見合う音楽は一体何なのかを考えるのも一興でした。
展示風景がギャラリーサイトに掲載されています。
志水児王 INSTALLATION VIEWS@MISA SHIN GALLERY
なお奥のスペースには斑紋、つまりモアレを印画紙に当てた写真作品も展示されていました。そちらもお見逃しなきようご注意下さい。
4月28日までの開催です。おすすめします。
「志水児王 Elements」 MISA SHIN GALLERY
会期:3月16日~4月28日
休廊:日・月・祝
時間:12:00~19:00
住所:港区白金1-2-7
交通:東京メトロ南北線・都営三田線白金高輪駅4番出口より徒歩4分。
「志水児王 Elements」
3/16-4/28
MISA SHIN GALLERYで開催中の志水児王個展、「Elements」へ行ってきました。
「音、光、振動といった要素の特性を拡大し、それが起こす現象を視覚的に再現する」(リリースより引用。一部改変。)志水児王ですが、今回はずばり緑のレーザー光線を用いたインスタレーションを展示しています。
会場に入り、暗幕をくぐり抜けると開けるのは、壁はおろか、床面から天井までに波紋を築くレーザー光線の軌跡です。
それらは何やら有機的に動き、上下左右、限りなく自由に運動し続けていますが、その秘密はレーザーの映し出されたガラス素材にありました。
一見するとすぐに分かりますが、光源と壁面の間には、終始回転するワイングラスが設置されています。
つまりレーザーはガラス面の縁をなぞり、また時に直線的に透過することで、向こう側にある壁へ光を拡張され、様々な紋様を映し出しているというわけでした。
その様子はまさに生命の胎動、宇宙の振幅です。変化するイメージは一瞬として同じ形をとどめることはありません。思わず時間を忘れて見入ってしまいました。
それにしてもレーザーの斑紋を見ていると、どことなく音楽的な時間の流れを感じます。このインスタレーションに見合う音楽は一体何なのかを考えるのも一興でした。
展示風景がギャラリーサイトに掲載されています。
志水児王 INSTALLATION VIEWS@MISA SHIN GALLERY
なお奥のスペースには斑紋、つまりモアレを印画紙に当てた写真作品も展示されていました。そちらもお見逃しなきようご注意下さい。
4月28日までの開催です。おすすめします。
「志水児王 Elements」 MISA SHIN GALLERY
会期:3月16日~4月28日
休廊:日・月・祝
時間:12:00~19:00
住所:港区白金1-2-7
交通:東京メトロ南北線・都営三田線白金高輪駅4番出口より徒歩4分。
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「あなたに見せたい絵があります。」 ブリヂストン美術館
ブリヂストン美術館
「ブリヂストン美術館開館60周年記念 あなたに見せたい絵があります。」
3/31-6/24
ブリヂストン美術館で開催中の「あなたに見せたい絵があります。」のプレスプレビューに参加してきました。
来場者にそっと語りかけるようなタイトル、何とも優し気で温かみのある言葉ではないでしょうか。
ずばり本展は、ブリヂストン美術館が「見せたい絵」を、出来うる限りに展示した、極上の総コレクション展に他なりません。
展覧会の構成
1章 自画像
2章 肖像画
3章 ヌード
4章 モデル
5章 レジャー
6章 物語
7章 山
8章 川
9章 海
10章 静物
11章 現代美術
切り口は上記の通り、極めて簡潔な11のテーマに則っています。ブリヂストン美術館を所管する石橋財団所蔵の全2500点の作品から、まさに選りすぐりの109点が一同に紹介されていました。
右:エドゥアール・マネ「自画像」(1878-79年) ブリヂストン美術館
左:ポール・セザンヌ「帽子をかぶった自画像」(1890-94年頃) ブリヂストン美術館
さて見慣れたブリヂストン美術館のコレクションではありますが、それに加えて福岡の石橋美術館の作品が加わっている点も見逃してはなりません。
雪舟「四季山水図」(15世紀) 石橋財団石橋美術館
ブリヂストン美術館の作品が84点に対し、石橋美術館の作品は25点ほど登場しています。うち雪舟の「四季山水図」は東京で約6年ぶりの公開です。真筆では最も若い頃に描いたとされ、中国絵画の影響も色濃く残っている作品ですが、まさかブリヂストンでこうした日本絵画を見られるとは思いませんでした。
中央:ピエール=オーギュスト・ルノワール「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」(1876年) ブリヂストン美術館
さて総コレクション展とは言えども、単なる名品展ではないのも大きな特徴かもしれません。
創立者である石橋正二郎は当初、旧知の画家である坂本繁二郎のすすめによって、青木繁の作品を中心に、日本近代洋画のコレクションを形成していきました。
展示では石橋美術館の青木繁作品も数点出品されています。
それに展示作品同士の関連も重要です。
右:青木繁「わだつみのいろこの宮」(1907年) 石橋財団石橋美術館
青木は例えば「わだつみいろこの宮」にて、日本神話の主題を取り込みましたが、同じく古典に取材した藤島武二の「天平の面影」を並べることによって、その物語性を問う内容となっています。
左:安井曾太郎「水浴裸婦」(1914年) 石橋財団石橋美術館
また3章の「ヌード」ではルノワール「すわる水浴の女」と安井曾太郎の「水浴裸婦」があわせて展示されていますが、ここから渡仏時の安井が如何にルノワールから影響を受けていたのかを知ることが出来るのではないでしょうか。
それに5章の「レジャー」におけるブーダンの「トルーヴィル近郊の浜」とマネの「仮装舞踏会」の対比も意味があります。
左:ウジェーヌ・ブーダン「トルーヴィル近郊の浜」(1865年) ブリヂストン美術館
それはずばりレジャーの誕生です。まさに二点の描かれた19世紀末こそ、海辺と劇場という自然と都市の中でのレジャーが生み出された時期に他なりません。
さらにもう一例を挙げると9章の「海」におけるモネとクレーの比較です。
中央:クロード・モネ「黄昏、ヴェネツィア」(1908年頃) ブリヂストン美術館
モネの「黄昏」といえば朱色に染まるヴェネツィアの景色を描いた名作ですが、それが意外にもクレーの抽象的な「島」のイメージに重なります。
パウル・クレー「島」(1932年) ブリヂストン美術館
このように普段、一点一点、頭の中で別々に見てしまう作品を関連づけることで、思わぬ発見を引き出そうとするのが、展覧会の大きな趣旨でもありました。
ちなみに2011年度にブリヂストン美術館へ収蔵されたカイユボットと岡鹿之助の作品が初公開されています。
ギュスターヴ・カイユボット「ピアノを弾く若い男」(1876年) ブリヂストン美術館
とりわけカイユボットの「ピアノを弾く若い男」は魅惑的です。どちらかと言えば画家よりも印象派のスポンサーとして有名なカイユボットですが、ここでは逆光を巧みに取り込み、透明感にも溢れた室内風景を描き出すことに成功しています。これは見事でした。
なお今回は作品とともキャプションにも注目です。実は今回、小学校6年生でも分かりやすいような150字の解説が一点一点に付いています。幸いなことに同館は中学生以下無料です。これを機会にファミリーでの鑑賞というのも良いかもしれません。
約30ほどのタイトル候補の中からこの「あなたに見せたい絵があります。」が選ばれたそうです。洋の東西をあわせ、今、東京で最も近現代絵画を楽しめる展覧会ではないでしょうか。
6月24日まで開催されています。
*以下のエントリに次回の「ドビュッシー展」の記者発表会についてまとめてあります。
「ドビュッシー展」(ブリヂストン美術館)記者発表会(拙ブログ)
「ブリヂストン美術館開館60周年記念 あなたに見せたい絵があります。」 ブリヂストン美術館
会期:3月31日(土)~6月24日(日)
休館:4/15(日) 、4/23(月)、5/28(月)
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は20:00まで。
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口より徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口から徒歩5分。東京メトロ銀座線・東京メトロ東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「ブリヂストン美術館開館60周年記念 あなたに見せたい絵があります。」
3/31-6/24
ブリヂストン美術館で開催中の「あなたに見せたい絵があります。」のプレスプレビューに参加してきました。
来場者にそっと語りかけるようなタイトル、何とも優し気で温かみのある言葉ではないでしょうか。
ずばり本展は、ブリヂストン美術館が「見せたい絵」を、出来うる限りに展示した、極上の総コレクション展に他なりません。
展覧会の構成
1章 自画像
2章 肖像画
3章 ヌード
4章 モデル
5章 レジャー
6章 物語
7章 山
8章 川
9章 海
10章 静物
11章 現代美術
切り口は上記の通り、極めて簡潔な11のテーマに則っています。ブリヂストン美術館を所管する石橋財団所蔵の全2500点の作品から、まさに選りすぐりの109点が一同に紹介されていました。
右:エドゥアール・マネ「自画像」(1878-79年) ブリヂストン美術館
左:ポール・セザンヌ「帽子をかぶった自画像」(1890-94年頃) ブリヂストン美術館
さて見慣れたブリヂストン美術館のコレクションではありますが、それに加えて福岡の石橋美術館の作品が加わっている点も見逃してはなりません。
雪舟「四季山水図」(15世紀) 石橋財団石橋美術館
ブリヂストン美術館の作品が84点に対し、石橋美術館の作品は25点ほど登場しています。うち雪舟の「四季山水図」は東京で約6年ぶりの公開です。真筆では最も若い頃に描いたとされ、中国絵画の影響も色濃く残っている作品ですが、まさかブリヂストンでこうした日本絵画を見られるとは思いませんでした。
中央:ピエール=オーギュスト・ルノワール「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」(1876年) ブリヂストン美術館
さて総コレクション展とは言えども、単なる名品展ではないのも大きな特徴かもしれません。
創立者である石橋正二郎は当初、旧知の画家である坂本繁二郎のすすめによって、青木繁の作品を中心に、日本近代洋画のコレクションを形成していきました。
展示では石橋美術館の青木繁作品も数点出品されています。
それに展示作品同士の関連も重要です。
右:青木繁「わだつみのいろこの宮」(1907年) 石橋財団石橋美術館
青木は例えば「わだつみいろこの宮」にて、日本神話の主題を取り込みましたが、同じく古典に取材した藤島武二の「天平の面影」を並べることによって、その物語性を問う内容となっています。
左:安井曾太郎「水浴裸婦」(1914年) 石橋財団石橋美術館
また3章の「ヌード」ではルノワール「すわる水浴の女」と安井曾太郎の「水浴裸婦」があわせて展示されていますが、ここから渡仏時の安井が如何にルノワールから影響を受けていたのかを知ることが出来るのではないでしょうか。
それに5章の「レジャー」におけるブーダンの「トルーヴィル近郊の浜」とマネの「仮装舞踏会」の対比も意味があります。
左:ウジェーヌ・ブーダン「トルーヴィル近郊の浜」(1865年) ブリヂストン美術館
それはずばりレジャーの誕生です。まさに二点の描かれた19世紀末こそ、海辺と劇場という自然と都市の中でのレジャーが生み出された時期に他なりません。
さらにもう一例を挙げると9章の「海」におけるモネとクレーの比較です。
中央:クロード・モネ「黄昏、ヴェネツィア」(1908年頃) ブリヂストン美術館
モネの「黄昏」といえば朱色に染まるヴェネツィアの景色を描いた名作ですが、それが意外にもクレーの抽象的な「島」のイメージに重なります。
パウル・クレー「島」(1932年) ブリヂストン美術館
このように普段、一点一点、頭の中で別々に見てしまう作品を関連づけることで、思わぬ発見を引き出そうとするのが、展覧会の大きな趣旨でもありました。
ちなみに2011年度にブリヂストン美術館へ収蔵されたカイユボットと岡鹿之助の作品が初公開されています。
ギュスターヴ・カイユボット「ピアノを弾く若い男」(1876年) ブリヂストン美術館
とりわけカイユボットの「ピアノを弾く若い男」は魅惑的です。どちらかと言えば画家よりも印象派のスポンサーとして有名なカイユボットですが、ここでは逆光を巧みに取り込み、透明感にも溢れた室内風景を描き出すことに成功しています。これは見事でした。
なお今回は作品とともキャプションにも注目です。実は今回、小学校6年生でも分かりやすいような150字の解説が一点一点に付いています。幸いなことに同館は中学生以下無料です。これを機会にファミリーでの鑑賞というのも良いかもしれません。
約30ほどのタイトル候補の中からこの「あなたに見せたい絵があります。」が選ばれたそうです。洋の東西をあわせ、今、東京で最も近現代絵画を楽しめる展覧会ではないでしょうか。
6月24日まで開催されています。
*以下のエントリに次回の「ドビュッシー展」の記者発表会についてまとめてあります。
「ドビュッシー展」(ブリヂストン美術館)記者発表会(拙ブログ)
「ブリヂストン美術館開館60周年記念 あなたに見せたい絵があります。」 ブリヂストン美術館
会期:3月31日(土)~6月24日(日)
休館:4/15(日) 、4/23(月)、5/28(月)
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は20:00まで。
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口より徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口から徒歩5分。東京メトロ銀座線・東京メトロ東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「桜・さくら・SAKURA 2012」 山種美術館
山種美術館
「桜・さくら・SAKURA 2012」
3/31-5/20
山種美術館で開催中の「桜・さくら・SAKURA 2012」へ行ってきました。
三番町時代、千鳥ヶ淵そばの旧山種美術館では恒例企画だったさくら展ですが、移転リニューアル後、初めて広尾へとやってきました。
言うまでもなくテーマは簡単明瞭、日本画におけるさくらに他なりません。実際のさくらも枝垂れにソメイヨシノに山桜と、様々な表情を楽しめますが、絵画においてもまた同様、まさにお花見気分で味わうことが出来ました。
展示冒頭を飾るのは、数あるさくらの日本画の中でも人気のある土牛の「醍醐」です。
奥村土牛「醍醐」1972年 山種美術館
明るいピンク色のさくらが画面いっぱい、それこそ溢れんばかりに咲き誇っていますが、その華やかなさくら色にはちょっとした仕掛けがあります。
というのも土牛は胡粉とともに、虫の体液を綿に浸した『えんじわた』と呼ばれる特殊な顔料を用いているそうです。そうすることではんなりとした独特の質感を生み出すことが出来るとのことでした。
また絵具といえば魁夷の「春静」にも工夫があります。山のうちやや陰った部分は、絵具をフライパンで焼いて黒を表したのだそうです。深みのある色味がまさかそうした技術で出来ているとは知りませんでした。
右:橋本明治「朝陽桜」1970年 山種美術館
デコラティブな様相が一際目を引きます。橋本明治の「朝陽桜」の花びらは工芸的味わいと言えるのではないでしょうか。なおこの作品とほぼ同じ作品が皇居に飾られているそうですが、それと同じものを描いて欲しいと山崎種二が直接、橋本へ依頼したことから、こうして美術館に収蔵されることになったそうです。まさに爛漫、堂々としたさくらでした。
右:松岡映丘「春光春衣」1917年 山種美術館
色艶に眩しいのが松岡映丘の「春光春衣」です。吹き付ける風によって舞うさくらの花びらの表現は躍動感に満ちあふれています。それに上部に散る金箔も効果的ではないでしょうか。また斜め上からのぞき込むという、復古大和絵ならぬ絵巻物風の構図も印象に残りました。
川合玉堂「春風春水」1940年 山種美術館 他
玉堂の掛軸画が6点ほどまとめて出ています。見渡す限りのソメイヨシノも素晴らしいかもしれませんが、こうした山間や農村に数本だけ咲くさくらも一興ではないでしょうか。
拡張された広尾の展示スペースです。三番町時代ではかなわなかった作品も出ています。
冨田溪仙「嵐山の春」1919年 山種美術館
その一つが冨田溪仙の屏風、「嵐山の春」です。一時、修復も兼ねていたということで、三番町の前、茅場町時代以来、約15年ぶりの公開となりました。
順路に沿っての第二室では、大好きな速水御舟の「春の宵」と「夜桜」に強く惹かれます。
実は私が初めて山種美術館へ行ったのが2005年の「さくら展」であり、それが切っ掛けで日本画を鑑賞するようになりましたが、その時に出会ったのがこの「夜桜」でした。
左:速水御舟「春の宵」1934年、右:速水御舟「夜桜」1928年 山種美術館
また「春の宵」は私の最も好きな御舟作かもしれません。散り際の美学云々という言葉もありますが、この作品を前にすると、いつもその儚さに言葉を失ってしまいます。思わずぐっとこみ上げるものを感じました。
なお今回はお馴染みの美術ブログ「青い日記帳」主催による特別鑑賞会に参加しました。通常の閉館後、100名ほどでの借り切り観覧、しかも山崎館長のトーク付きという贅沢な企画です。
さくら展ミュージアムグッズ
青い日記帳のTakさん、また山種美術館のスタッフの方々、そして山崎館長に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
関東のさくらは早くも散ってしまいましたが、山種美術館では5月下旬前まで『見頃』です。
*地元名所のしだれ桜。樹齢400年とも言われるそうです。満開時に見に行きました。
4年ぶりのリバイバルさくら展、お見逃しなきようご注意下さい。
5月20日まで開催されています。
「桜・さくら・SAKURA 2012」 山種美術館
会期:3月31日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日(但し4/30、5/1は開館)
時間:10:00~17:00
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
注)写真は「青い日記帳 特別鑑賞会」時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「桜・さくら・SAKURA 2012」
3/31-5/20
山種美術館で開催中の「桜・さくら・SAKURA 2012」へ行ってきました。
三番町時代、千鳥ヶ淵そばの旧山種美術館では恒例企画だったさくら展ですが、移転リニューアル後、初めて広尾へとやってきました。
言うまでもなくテーマは簡単明瞭、日本画におけるさくらに他なりません。実際のさくらも枝垂れにソメイヨシノに山桜と、様々な表情を楽しめますが、絵画においてもまた同様、まさにお花見気分で味わうことが出来ました。
展示冒頭を飾るのは、数あるさくらの日本画の中でも人気のある土牛の「醍醐」です。
奥村土牛「醍醐」1972年 山種美術館
明るいピンク色のさくらが画面いっぱい、それこそ溢れんばかりに咲き誇っていますが、その華やかなさくら色にはちょっとした仕掛けがあります。
というのも土牛は胡粉とともに、虫の体液を綿に浸した『えんじわた』と呼ばれる特殊な顔料を用いているそうです。そうすることではんなりとした独特の質感を生み出すことが出来るとのことでした。
また絵具といえば魁夷の「春静」にも工夫があります。山のうちやや陰った部分は、絵具をフライパンで焼いて黒を表したのだそうです。深みのある色味がまさかそうした技術で出来ているとは知りませんでした。
右:橋本明治「朝陽桜」1970年 山種美術館
デコラティブな様相が一際目を引きます。橋本明治の「朝陽桜」の花びらは工芸的味わいと言えるのではないでしょうか。なおこの作品とほぼ同じ作品が皇居に飾られているそうですが、それと同じものを描いて欲しいと山崎種二が直接、橋本へ依頼したことから、こうして美術館に収蔵されることになったそうです。まさに爛漫、堂々としたさくらでした。
右:松岡映丘「春光春衣」1917年 山種美術館
色艶に眩しいのが松岡映丘の「春光春衣」です。吹き付ける風によって舞うさくらの花びらの表現は躍動感に満ちあふれています。それに上部に散る金箔も効果的ではないでしょうか。また斜め上からのぞき込むという、復古大和絵ならぬ絵巻物風の構図も印象に残りました。
川合玉堂「春風春水」1940年 山種美術館 他
玉堂の掛軸画が6点ほどまとめて出ています。見渡す限りのソメイヨシノも素晴らしいかもしれませんが、こうした山間や農村に数本だけ咲くさくらも一興ではないでしょうか。
拡張された広尾の展示スペースです。三番町時代ではかなわなかった作品も出ています。
冨田溪仙「嵐山の春」1919年 山種美術館
その一つが冨田溪仙の屏風、「嵐山の春」です。一時、修復も兼ねていたということで、三番町の前、茅場町時代以来、約15年ぶりの公開となりました。
順路に沿っての第二室では、大好きな速水御舟の「春の宵」と「夜桜」に強く惹かれます。
実は私が初めて山種美術館へ行ったのが2005年の「さくら展」であり、それが切っ掛けで日本画を鑑賞するようになりましたが、その時に出会ったのがこの「夜桜」でした。
左:速水御舟「春の宵」1934年、右:速水御舟「夜桜」1928年 山種美術館
また「春の宵」は私の最も好きな御舟作かもしれません。散り際の美学云々という言葉もありますが、この作品を前にすると、いつもその儚さに言葉を失ってしまいます。思わずぐっとこみ上げるものを感じました。
なお今回はお馴染みの美術ブログ「青い日記帳」主催による特別鑑賞会に参加しました。通常の閉館後、100名ほどでの借り切り観覧、しかも山崎館長のトーク付きという贅沢な企画です。
さくら展ミュージアムグッズ
青い日記帳のTakさん、また山種美術館のスタッフの方々、そして山崎館長に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
関東のさくらは早くも散ってしまいましたが、山種美術館では5月下旬前まで『見頃』です。
*地元名所のしだれ桜。樹齢400年とも言われるそうです。満開時に見に行きました。
4年ぶりのリバイバルさくら展、お見逃しなきようご注意下さい。
5月20日まで開催されています。
「桜・さくら・SAKURA 2012」 山種美術館
会期:3月31日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日(但し4/30、5/1は開館)
時間:10:00~17:00
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
注)写真は「青い日記帳 特別鑑賞会」時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「奥絵師・木挽町狩野家」 板橋区立美術館
板橋区立美術館
「館蔵品展 奥絵師・木挽町狩野家~お殿さまに仕えた絵師たちの250年~」
4/7-5/6
板橋区立美術館で開催中の「館蔵品展 奥絵師・木挽町狩野家」へ行って来ました。
館蔵の江戸絵画には定評のある板橋区立美術館ですが、今回はややマニアックな切り口でコレクションを紹介しています。
その切り口とはタイトルの通り、「奥絵師」と「木挽町」です。
ともに聞き慣れない言葉なので説明があった方が良いかもしれません。
手前:狩野探雪「私の守り神」(*板橋名)「妙音天像」
まず奥絵師とは、幕府に仕えた御用絵師の中でも将軍に接見出来る高い家柄のことで、江戸中期には4家ありました。
その4家とはいずれも狩野家から中橋、鍛治橋、木挽町、浜町を指しますが、そのうち木挽町家の作品を、板橋区立美術館が多く所蔵しています。
ごく簡単に言えば御用絵師の最高ブランドです。古くは探幽の弟、初代尚信にはじまり、幕府に最も重用された6代典信、さらには最後の当主で門下から芳崖や雅邦を輩出した雅信へと至ります。それらの絵師らの作品が展示されていました。 (出品リスト)
さてそれこそ蕭白イヤーらなぬ、奇想系ブームの中、御用絵師となると少々分が悪いのかもしれませんが、もちろん作品自体に見るべき点がないと言うわけではありません。
面白いのが7代目惟信から「四季花鳥図屏風」、お馴染み板橋名では「極楽の花と鳥」です。
狩野惟信「極楽の花と鳥」(*板橋名)「四季花鳥図屏風」
眩い金地に右から春、夏、秋、冬と、四季の様子が描かれていますが、狩野派以外の様々な画風、例えば伊年印の草花図や、琳派風の図案化されたモミジなどが取り入れられていることがわかります。
狩野惟信「極楽の花と鳥」(*板橋名)「四季花鳥図屏風」 部分
この鳥など完全に若冲風です。おそらくは結婚式のために描かれたのではないかということですが、まさかこの絢爛豪華な花鳥図に若冲モチーフが登場するとは思いませんでした。
典信の「唐子遊図屏風」、板橋名「チャイニーズ・キッズ」 や、チラシ表紙を飾る栄信の「花鳥図」、板橋名「青ざめた牡丹」も目を引きます。
狩野典信「チャイニーズ・キッズ」(*板橋名)「唐子遊図屏風」
それにしても、この背景の青の目立つ牡丹の絵に「青ざめた」と名付けた板橋のネーミングセンスには脱帽です。
右:狩野栄信「青ざめた牡丹」(*板橋名)「花鳥図」1812年
河鍋暁斎の「龍虎図屏風」を「ドラゴン・タイガー最終決戦」とするなど、いつもながらの奇抜なタイトルで見ると俄然、絵の印象が変わってきます。
またはじめの展示室はどちらかというと探幽を連想させるような淡麗でモノクロの作品で統一されているのに対し、二つ目の展示室では派手な色の金屏風がずらりと並んでいます。
展示室風景
細かい点かもしれませんが、そうしたメリハリのついた構成も巧みでした。
もちろん恒例のガラスケースなし、ウォークイン方式のお座敷完全露出展示もご覧の通りです。
お座敷展示風景
まさに目と鼻の先で作品を楽しめますが、その分ちょっとした注意も必要です。
狩野惟信「黄金色の雪景色」(*板橋名)「秋冬松竹梅小禽図屏風」
係りの方が案内して下さいますが、手荷物は靴を脱ぐスペースに一度置いてからご観覧下さい。
ちなみに木挽町の画所には弟子が5、60名おり、絵画の養成カリキュラムが行われていた他、酒盛りや文人画家に混じって浮世絵を描くことを禁止するなどの細かな規則もあったそうです。
「狩野派決定版/別冊太陽/平凡社」
また奥絵師に対する表絵師は、あくまでも奥絵師の分家、言わば一段下の家柄に過ぎません。実は行く前はてっきり奥より表の方が格が上かと思いこんでいました。
「もっと知りたい狩野派―探幽と江戸狩野派/東京美術」
館内撮影可能、入場無料の展示です。これまであまり意識しなかった知られざる狩野派を体系だって見るチャンスではないでしょうか。
5月6日まで開催されています。
「館蔵品展 奥絵師・木挽町狩野家~お殿さまに仕えた絵師たちの250年~」(@edo_itabashi) 板橋区立美術館
会期:4月7日(土)~5月6日(日)
休館:月曜日。但し4/30は開館し、5/1は休館。
時間:9:30~17:00
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
「館蔵品展 奥絵師・木挽町狩野家~お殿さまに仕えた絵師たちの250年~」
4/7-5/6
板橋区立美術館で開催中の「館蔵品展 奥絵師・木挽町狩野家」へ行って来ました。
館蔵の江戸絵画には定評のある板橋区立美術館ですが、今回はややマニアックな切り口でコレクションを紹介しています。
その切り口とはタイトルの通り、「奥絵師」と「木挽町」です。
ともに聞き慣れない言葉なので説明があった方が良いかもしれません。
手前:狩野探雪「私の守り神」(*板橋名)「妙音天像」
まず奥絵師とは、幕府に仕えた御用絵師の中でも将軍に接見出来る高い家柄のことで、江戸中期には4家ありました。
その4家とはいずれも狩野家から中橋、鍛治橋、木挽町、浜町を指しますが、そのうち木挽町家の作品を、板橋区立美術館が多く所蔵しています。
ごく簡単に言えば御用絵師の最高ブランドです。古くは探幽の弟、初代尚信にはじまり、幕府に最も重用された6代典信、さらには最後の当主で門下から芳崖や雅邦を輩出した雅信へと至ります。それらの絵師らの作品が展示されていました。 (出品リスト)
さてそれこそ蕭白イヤーらなぬ、奇想系ブームの中、御用絵師となると少々分が悪いのかもしれませんが、もちろん作品自体に見るべき点がないと言うわけではありません。
面白いのが7代目惟信から「四季花鳥図屏風」、お馴染み板橋名では「極楽の花と鳥」です。
狩野惟信「極楽の花と鳥」(*板橋名)「四季花鳥図屏風」
眩い金地に右から春、夏、秋、冬と、四季の様子が描かれていますが、狩野派以外の様々な画風、例えば伊年印の草花図や、琳派風の図案化されたモミジなどが取り入れられていることがわかります。
狩野惟信「極楽の花と鳥」(*板橋名)「四季花鳥図屏風」 部分
この鳥など完全に若冲風です。おそらくは結婚式のために描かれたのではないかということですが、まさかこの絢爛豪華な花鳥図に若冲モチーフが登場するとは思いませんでした。
典信の「唐子遊図屏風」、板橋名「チャイニーズ・キッズ」 や、チラシ表紙を飾る栄信の「花鳥図」、板橋名「青ざめた牡丹」も目を引きます。
狩野典信「チャイニーズ・キッズ」(*板橋名)「唐子遊図屏風」
それにしても、この背景の青の目立つ牡丹の絵に「青ざめた」と名付けた板橋のネーミングセンスには脱帽です。
右:狩野栄信「青ざめた牡丹」(*板橋名)「花鳥図」1812年
河鍋暁斎の「龍虎図屏風」を「ドラゴン・タイガー最終決戦」とするなど、いつもながらの奇抜なタイトルで見ると俄然、絵の印象が変わってきます。
またはじめの展示室はどちらかというと探幽を連想させるような淡麗でモノクロの作品で統一されているのに対し、二つ目の展示室では派手な色の金屏風がずらりと並んでいます。
展示室風景
細かい点かもしれませんが、そうしたメリハリのついた構成も巧みでした。
もちろん恒例のガラスケースなし、ウォークイン方式のお座敷完全露出展示もご覧の通りです。
お座敷展示風景
まさに目と鼻の先で作品を楽しめますが、その分ちょっとした注意も必要です。
狩野惟信「黄金色の雪景色」(*板橋名)「秋冬松竹梅小禽図屏風」
係りの方が案内して下さいますが、手荷物は靴を脱ぐスペースに一度置いてからご観覧下さい。
ちなみに木挽町の画所には弟子が5、60名おり、絵画の養成カリキュラムが行われていた他、酒盛りや文人画家に混じって浮世絵を描くことを禁止するなどの細かな規則もあったそうです。
「狩野派決定版/別冊太陽/平凡社」
また奥絵師に対する表絵師は、あくまでも奥絵師の分家、言わば一段下の家柄に過ぎません。実は行く前はてっきり奥より表の方が格が上かと思いこんでいました。
「もっと知りたい狩野派―探幽と江戸狩野派/東京美術」
館内撮影可能、入場無料の展示です。これまであまり意識しなかった知られざる狩野派を体系だって見るチャンスではないでしょうか。
5月6日まで開催されています。
「館蔵品展 奥絵師・木挽町狩野家~お殿さまに仕えた絵師たちの250年~」(@edo_itabashi) 板橋区立美術館
会期:4月7日(土)~5月6日(日)
休館:月曜日。但し4/30は開館し、5/1は休館。
時間:9:30~17:00
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
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「後藤靖香 暗号模索」 第一生命南ギャラリー
第一生命南ギャラリー
「後藤靖香 暗号模索」
3/23-4/23
第一生命南ギャラリーで開催中の後藤靖香展「暗号模索」へ行ってきました。
2011年のVOCA展での「あきらめて」の記憶も新しい後藤靖香ですが、今回は会場の第一生命ギャラリーの歴史に深く踏み込んだ作品を展示しています。
そのキーワードはタイトルにもある「暗号」、そしてそれを「地下室で解読する男たち」です。
何やら謎めいた「暗号模索」という言葉は今ひとつ良くわからないかもしれません。
実はこれはギャラリーのある第一生命館にて、かつて旧陸軍の専門家集団が、アメリカの暗号を解読する作業を行っていたという歴史的事実に則っています。
後藤はそうした人々を調査した上、そのイメージからなる平面の大作を、いつもながらに太い墨の線によるルポタージュともアニメーション風とも言える表現で描きました。
ともかく二段掛けの大きな支持体はおろか、それこそ壁からはちきれんばかりに飛び出してくる人物の迫力に圧倒されるのではないでしょうか。
まさにその二段に描かれた人物こそ、暗号を解くのに汗をかく者に他なりませんが、上下段で別の作業をしているにも関わらず、それこそ鏡面世界の如く、ともに向き合って一つの全体を構築している点もまた見逃せません。
解読作業は「極端に地味で単純な作業の積み重ね」であり、また「成果も徒労に終わることがほとんど」(ともに会場解説シートより引用)とのことですが、そうした先の見えない、言わば得体の知れないものと戦っている作業の重みは、絵画からもひしひしと感じ取れました。
ちなみに当時の資料が敗戦後、殆ど闇に葬られてしまったため、作業に従事した人々の調査は難航したそうです。
会場では調査結果を後藤自身が手書きでまとめたシートを配布しています。そちらもお見逃しなきようご注意下さい。
これほど歴史まで切り込んで取材した、場所性の強い作品もそうないかもしれません。展示は一転勝負ですが、大変に見応えがありました。
後藤靖香「あきらめて」 顔料ペン、墨、カンバス(2011年VOCA展受賞作。本展非出品。参考図版。)
平日昼間のみのオープンですが、有楽町界隈にお越しの際は立ち寄ってみては如何でしょうか。
4月23日までの開催です。これはおすすめします。
「後藤靖香 暗号模索」 第一生命南ギャラリー
会期:3月23日(金)~4月23日(月)
休館:土・日・祝日
時間:12:00~17:00
住所:千代田区有楽町1-13-1 DNタワー21 第一生命本館1階
交通:JR線有楽町駅中央西口より徒歩2分。東京メトロ日比谷線・千代田線、都営三田線日比谷駅B1、B2出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線有楽町駅徒歩1分。
「後藤靖香 暗号模索」
3/23-4/23
第一生命南ギャラリーで開催中の後藤靖香展「暗号模索」へ行ってきました。
2011年のVOCA展での「あきらめて」の記憶も新しい後藤靖香ですが、今回は会場の第一生命ギャラリーの歴史に深く踏み込んだ作品を展示しています。
そのキーワードはタイトルにもある「暗号」、そしてそれを「地下室で解読する男たち」です。
何やら謎めいた「暗号模索」という言葉は今ひとつ良くわからないかもしれません。
実はこれはギャラリーのある第一生命館にて、かつて旧陸軍の専門家集団が、アメリカの暗号を解読する作業を行っていたという歴史的事実に則っています。
後藤はそうした人々を調査した上、そのイメージからなる平面の大作を、いつもながらに太い墨の線によるルポタージュともアニメーション風とも言える表現で描きました。
ともかく二段掛けの大きな支持体はおろか、それこそ壁からはちきれんばかりに飛び出してくる人物の迫力に圧倒されるのではないでしょうか。
まさにその二段に描かれた人物こそ、暗号を解くのに汗をかく者に他なりませんが、上下段で別の作業をしているにも関わらず、それこそ鏡面世界の如く、ともに向き合って一つの全体を構築している点もまた見逃せません。
解読作業は「極端に地味で単純な作業の積み重ね」であり、また「成果も徒労に終わることがほとんど」(ともに会場解説シートより引用)とのことですが、そうした先の見えない、言わば得体の知れないものと戦っている作業の重みは、絵画からもひしひしと感じ取れました。
ちなみに当時の資料が敗戦後、殆ど闇に葬られてしまったため、作業に従事した人々の調査は難航したそうです。
会場では調査結果を後藤自身が手書きでまとめたシートを配布しています。そちらもお見逃しなきようご注意下さい。
これほど歴史まで切り込んで取材した、場所性の強い作品もそうないかもしれません。展示は一転勝負ですが、大変に見応えがありました。
後藤靖香「あきらめて」 顔料ペン、墨、カンバス(2011年VOCA展受賞作。本展非出品。参考図版。)
平日昼間のみのオープンですが、有楽町界隈にお越しの際は立ち寄ってみては如何でしょうか。
4月23日までの開催です。これはおすすめします。
「後藤靖香 暗号模索」 第一生命南ギャラリー
会期:3月23日(金)~4月23日(月)
休館:土・日・祝日
時間:12:00~17:00
住所:千代田区有楽町1-13-1 DNタワー21 第一生命本館1階
交通:JR線有楽町駅中央西口より徒歩2分。東京メトロ日比谷線・千代田線、都営三田線日比谷駅B1、B2出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線有楽町駅徒歩1分。
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「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「草間彌生 永遠の永遠の永遠」
4/14-5/20
埼玉県立近代美術館で開催中の「草間彌生 永遠の永遠の永遠」へ行って来ました。
先行開催の国立国際美術館では、現代作家の個展として過去最高の入場者を集めたという展覧会、奇しくも今年の六本木アートナイトでも主役をはった草間彌生ですが、その一大個展がいよいよ埼玉県立近代美術館へと巡回してきました。
埼玉県立近代美術館エントランス部分
いつもは静かな佇まいの同美術館も。草間の水玉ワールドにかかると、ご覧の通り、一際華やいで見えるのではないでしょうか。
窓には半ばアイコンと化した赤い水玉がいくつも乱れ散り、エントランスでは同じ水玉のオブジェ、「新たなる空間への道標」が出迎えてくれます。
草間彌生「新たなる空間への道標」(館内ロビー)
館内もオール水玉仕様です。チケット売場越しには、赤や緑の水玉の映える「明日咲く花」が、それこそむせ返るほどに馨しい姿をもって咲き誇っています。
草間彌生「明日咲く花」2011年(チケット売場横)
一見、ポップな水玉も、花のモチーフを借りると殊更に官能的です。
草間作品の魅力の一つに、いつも色褪せることのない艶、ようは性的な要素が散りばめられている点があるかもしれませんが、半ばそれを体現したような作品かもしれません。
さて会場内に入ると開けてくるのは、ともかく怒涛のように並ぶペインティングです。
実は本展、回顧展形式ではなく、草間の今、つまり最近の活動のみにスポットを当てています。
草間彌生「大いなる巨大な南瓜」2011年(会場内)
というわけで、展示されているペインティングも、2004年から3年間に渡って描かれた「愛はとこしえ」と、2009年にはじまり現在も続く連作「わが永遠の魂」の両連作シリーズ、そして2011年作のポートレートなど、近作に他なりません。
それらのペインティングの数は計100点超、まさに壁という壁を埋め尽くすかのように所狭しと並んでいます。その様子は絵画によって出来た水玉の森とでも言えるのではないでしょうか。
さて一口に水玉とは言えども、一連の作品を見ると、当然ながらそれだけで片付けてはならない深みがあることが良く分かります。
草間彌生「わが永遠の魂」から「花園にうずもれた心」2009年
いずれもがカラーの「わが永遠の魂」はまさに森羅万象です。
例えば「夕映えの海」では、粉々にまで砕け散った水玉の中に、多くの横顔と瞳が現れ、そこへ植物のシダのような帯状の線が自由に空間を運動していきます。
しかしながら、順を追ってのラストの二点、「星たちの消滅」では、あたかも金と銀屏風を思わせる空間に、まるで風船のように膨らんだ水玉だけが、いくつかぼんやりと浮かび上がっています。
総じてこのシリーズにおける色も形は、これまでの草間作品よりはるかに自由でかつ多面的ではないでしょうか。
草間彌生「愛はとこしえ」から「愛はとこしえ[TAOW]」2004年
一方、全てモノクロの「愛はとこしえ」は、制作期を鑑みても、「わが永遠の魂」の先駆的作品と言えるのかもしれません。
こちらは全て黒色のマーカーで描かれていますが、先にも見えた植物的なモチーフをはじめ、ともかく空間を埋め尽くすかのように出てくる女性の横顔、そしてその瞳には何とも言い難い迫力を感じます。
色こそ黒のみながらも、受ける印象は「わが永遠の魂」よりも濃厚です。
また3点の新作のポートレートに衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
草間彌生「神をみつめていたわたし」2011年
会場では3点が横に一列、多少の前後をつけて展示されていますが、降りしきる雪のようなドットはもとより、ともかくもやはり見開かれた瞳、いわばその稀な目力には思わず後退りしてしまいました。
見ているようで実はこちらを見透かしているようなイメージは、草間のポートレート絵画に共通するのかもしれません。
実は館内で放映されている草間の映像でも、制作中、キャンバスを凝視するご本人の目の力強さに圧倒されましたが、まさにその魂の生き写しとも言うべきポートレートこそ、本展のハイライトに相応しいものでした。
「チューリップに愛をこめて、永遠に祈る」2011年(会場内)
ラストは水玉世界をインスタレーションで体験出来る「魂の灯」と、水玉のオブジェ、「チューリップに愛をこめて、永遠に祈る」と続きます。
なお「魂の灯」は最大で2~3人ずつしか入場出来ません。
草間彌生「魂の灯」2008年(参考図版)
一回15秒ほどの体験ということですが、私が出向いた会期2日目でも多少の列が発生していました。混雑時はやや待つこととなりそうです。
なお草間の作品にはどこか受け手の自由な感性を喚起させるような力がありますが、幸いなことに今回ではとかくこの手の展覧会で有りがちな難しいキャプションなどが一切ついていません。
さきにも触れた水玉の絵画の森を彷徨いつつ、半ば詩と向き合うようにイメージを膨らませながら、作品を見入ることが出来ました。
また会場内でも撮影スポットがいくつかあります。出品リストの会場マップはもちろん、館内にも写真OKのマークがついています。
「展覧会の感想をブログ、ツイッターでぜひご紹介ください。」(出品リストより)とのことなので、ここは思いっきり写真を撮って楽しみました。
必ずしも広いとは言えない埼玉県美ですが、偶然なのか作品のサイズと空間が驚くほど一致しています。
草間彌生「ヤヨイちゃん」(吹き抜け部分)
六本木アートナイトで観客をわかせたヤヨイちゃんも吹き抜けにピッタリサイズでした。
ちなみにこの吹き抜けの地下1階に展覧会の関連映像、「草間彌生 永遠の永遠の永遠」(13分)が上映されています。
映像「草間彌生 永遠の永遠の永遠」(吹き抜け地下1階)
鬼気迫るように制作に没頭する草間の映像は必見です。まずこちらを見てから、そのあと会場に入られることをおすすめします。
4/22日には同館館長の建畠氏の講演会があります。
美術館ニュースによると二人の出会いは建畠氏が20代の頃、1970年までに遡り、以来、氏が草間を招いて1993年のヴェネツィア・ビエンナーレを手がけるなど、その活動に常に注目してきたそうです。講演でもまた突っ込んだお話が伺えるのではないでしょうか。
ちなみに埼近美にはいくつか草間のコレクションがありますが、4/19より常設展で展示します。そちらもお見逃しなきようご注意下さい。
草間彌生「新たなる空間への道標」(館内ロビー)
会期は僅か一ヶ月強しかありませんが、何と嬉しいことに無休で連日開館するそうです。通常閉館日の月曜もオープンしています。
2階会場入口前
久しぶりに身ぶるいさせられるような展覧会に出会いました。年齢などもろともせず、常に前へと突き進む草間の今、その凄まじいまでの創作のエネルギーを是非感じとってみて下さい。
「無限の網 草間彌生自伝/新潮文庫」
5月20日までの開催です。おすすめします。
「草間彌生 永遠の永遠の永遠」(@kusamayayoi_ten) 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:4月14日(土)~5月20日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:30
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「草間彌生 永遠の永遠の永遠」
4/14-5/20
埼玉県立近代美術館で開催中の「草間彌生 永遠の永遠の永遠」へ行って来ました。
先行開催の国立国際美術館では、現代作家の個展として過去最高の入場者を集めたという展覧会、奇しくも今年の六本木アートナイトでも主役をはった草間彌生ですが、その一大個展がいよいよ埼玉県立近代美術館へと巡回してきました。
埼玉県立近代美術館エントランス部分
いつもは静かな佇まいの同美術館も。草間の水玉ワールドにかかると、ご覧の通り、一際華やいで見えるのではないでしょうか。
窓には半ばアイコンと化した赤い水玉がいくつも乱れ散り、エントランスでは同じ水玉のオブジェ、「新たなる空間への道標」が出迎えてくれます。
草間彌生「新たなる空間への道標」(館内ロビー)
館内もオール水玉仕様です。チケット売場越しには、赤や緑の水玉の映える「明日咲く花」が、それこそむせ返るほどに馨しい姿をもって咲き誇っています。
草間彌生「明日咲く花」2011年(チケット売場横)
一見、ポップな水玉も、花のモチーフを借りると殊更に官能的です。
草間作品の魅力の一つに、いつも色褪せることのない艶、ようは性的な要素が散りばめられている点があるかもしれませんが、半ばそれを体現したような作品かもしれません。
さて会場内に入ると開けてくるのは、ともかく怒涛のように並ぶペインティングです。
実は本展、回顧展形式ではなく、草間の今、つまり最近の活動のみにスポットを当てています。
草間彌生「大いなる巨大な南瓜」2011年(会場内)
というわけで、展示されているペインティングも、2004年から3年間に渡って描かれた「愛はとこしえ」と、2009年にはじまり現在も続く連作「わが永遠の魂」の両連作シリーズ、そして2011年作のポートレートなど、近作に他なりません。
それらのペインティングの数は計100点超、まさに壁という壁を埋め尽くすかのように所狭しと並んでいます。その様子は絵画によって出来た水玉の森とでも言えるのではないでしょうか。
さて一口に水玉とは言えども、一連の作品を見ると、当然ながらそれだけで片付けてはならない深みがあることが良く分かります。
草間彌生「わが永遠の魂」から「花園にうずもれた心」2009年
いずれもがカラーの「わが永遠の魂」はまさに森羅万象です。
例えば「夕映えの海」では、粉々にまで砕け散った水玉の中に、多くの横顔と瞳が現れ、そこへ植物のシダのような帯状の線が自由に空間を運動していきます。
しかしながら、順を追ってのラストの二点、「星たちの消滅」では、あたかも金と銀屏風を思わせる空間に、まるで風船のように膨らんだ水玉だけが、いくつかぼんやりと浮かび上がっています。
総じてこのシリーズにおける色も形は、これまでの草間作品よりはるかに自由でかつ多面的ではないでしょうか。
草間彌生「愛はとこしえ」から「愛はとこしえ[TAOW]」2004年
一方、全てモノクロの「愛はとこしえ」は、制作期を鑑みても、「わが永遠の魂」の先駆的作品と言えるのかもしれません。
こちらは全て黒色のマーカーで描かれていますが、先にも見えた植物的なモチーフをはじめ、ともかく空間を埋め尽くすかのように出てくる女性の横顔、そしてその瞳には何とも言い難い迫力を感じます。
色こそ黒のみながらも、受ける印象は「わが永遠の魂」よりも濃厚です。
また3点の新作のポートレートに衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
草間彌生「神をみつめていたわたし」2011年
会場では3点が横に一列、多少の前後をつけて展示されていますが、降りしきる雪のようなドットはもとより、ともかくもやはり見開かれた瞳、いわばその稀な目力には思わず後退りしてしまいました。
見ているようで実はこちらを見透かしているようなイメージは、草間のポートレート絵画に共通するのかもしれません。
実は館内で放映されている草間の映像でも、制作中、キャンバスを凝視するご本人の目の力強さに圧倒されましたが、まさにその魂の生き写しとも言うべきポートレートこそ、本展のハイライトに相応しいものでした。
「チューリップに愛をこめて、永遠に祈る」2011年(会場内)
ラストは水玉世界をインスタレーションで体験出来る「魂の灯」と、水玉のオブジェ、「チューリップに愛をこめて、永遠に祈る」と続きます。
なお「魂の灯」は最大で2~3人ずつしか入場出来ません。
草間彌生「魂の灯」2008年(参考図版)
一回15秒ほどの体験ということですが、私が出向いた会期2日目でも多少の列が発生していました。混雑時はやや待つこととなりそうです。
なお草間の作品にはどこか受け手の自由な感性を喚起させるような力がありますが、幸いなことに今回ではとかくこの手の展覧会で有りがちな難しいキャプションなどが一切ついていません。
さきにも触れた水玉の絵画の森を彷徨いつつ、半ば詩と向き合うようにイメージを膨らませながら、作品を見入ることが出来ました。
また会場内でも撮影スポットがいくつかあります。出品リストの会場マップはもちろん、館内にも写真OKのマークがついています。
「展覧会の感想をブログ、ツイッターでぜひご紹介ください。」(出品リストより)とのことなので、ここは思いっきり写真を撮って楽しみました。
必ずしも広いとは言えない埼玉県美ですが、偶然なのか作品のサイズと空間が驚くほど一致しています。
草間彌生「ヤヨイちゃん」(吹き抜け部分)
六本木アートナイトで観客をわかせたヤヨイちゃんも吹き抜けにピッタリサイズでした。
ちなみにこの吹き抜けの地下1階に展覧会の関連映像、「草間彌生 永遠の永遠の永遠」(13分)が上映されています。
映像「草間彌生 永遠の永遠の永遠」(吹き抜け地下1階)
鬼気迫るように制作に没頭する草間の映像は必見です。まずこちらを見てから、そのあと会場に入られることをおすすめします。
4/22日には同館館長の建畠氏の講演会があります。
講演会「草間彌生の世界」
日時:4月22日(日) 14:30~16:00
講師:建畠晢(当館館長)
会場:講堂(2階)
定員:100名(当日10時より整理券を配布)
費用:無料
日時:4月22日(日) 14:30~16:00
講師:建畠晢(当館館長)
会場:講堂(2階)
定員:100名(当日10時より整理券を配布)
費用:無料
美術館ニュースによると二人の出会いは建畠氏が20代の頃、1970年までに遡り、以来、氏が草間を招いて1993年のヴェネツィア・ビエンナーレを手がけるなど、その活動に常に注目してきたそうです。講演でもまた突っ込んだお話が伺えるのではないでしょうか。
ちなみに埼近美にはいくつか草間のコレクションがありますが、4/19より常設展で展示します。そちらもお見逃しなきようご注意下さい。
草間彌生「新たなる空間への道標」(館内ロビー)
会期は僅か一ヶ月強しかありませんが、何と嬉しいことに無休で連日開館するそうです。通常閉館日の月曜もオープンしています。
2階会場入口前
久しぶりに身ぶるいさせられるような展覧会に出会いました。年齢などもろともせず、常に前へと突き進む草間の今、その凄まじいまでの創作のエネルギーを是非感じとってみて下さい。
「無限の網 草間彌生自伝/新潮文庫」
5月20日までの開催です。おすすめします。
「草間彌生 永遠の永遠の永遠」(@kusamayayoi_ten) 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:4月14日(土)~5月20日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:30
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「ポーラ ミュージアム アネックス展2012」 ポーラ ミュージアム アネックス
ポーラ ミュージアム アネックス
「ポーラ ミュージアム アネックス展2012」
3/31-4/22
ポーラミュージアムアネックスで開催中の「ポーラ ミュージアム アネックス展2012 華やぐ色彩」へ行ってきました。
銀座ポーラの春の恒例企画と言えるかもしれません。Bunkamuraザ・ミュージアムでプロデューサーをつとめる木島俊介氏をキュレーターに迎え、女性に絞り、計4名の比較的若い世代の作家が紹介されています。
出品作家は以下の通りです。
徳永 陶子(Toko TOKUNAGA)
梅原 麻紀(Maki UMEHARA)
橋爪 彩(Sai HASHIZUME)
野口 香子(Koko NOGUCHI)
ポーラアネックスのワンフロアを用い、絵画に立体と、バラエティーに富んだ展示が行われていますが、まず目に飛び込んでくるのは、まさにタイトルの「華やぐ色彩」を体現したような徳永陶子の平面の作品でした。
徳永陶子
テーマは「記憶」です。青や緑が織り出す美しい色のグラデーションからは、抽象面ながらも、どこか心象風景を映し出しているような印象を与えられはしないでしょうか。
橋爪彩
また所沢ビエンナーレへの出品歴もある橋爪は、精緻な描写にて、人物を西洋の静物画を重ね合わせたシュールな光景を描いています。
野口香子
立体は2作家、野口は椅子の周りに果物を象ったインスタレーションを展開していました。
また布とシルクスクリーンをあわせたのが梅原麻紀です。
梅原麻紀
布はインドのものだそうです。そこへ現地の土地の記憶を表した景色をシルクスクリーンで印刷しました。
布地自体の質感も巧みに引き出されているのではないでしょうか。今回の展示で最も惹かれました。
入場は無料です。銀座のお買い物の途中にでも立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
4月22日まで開催されています。
「ポーラ ミュージアム アネックス展2012 華やぐ色彩」 ポーラミュージアムアネックス
会期:3月31日(土)~4月22日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
「ポーラ ミュージアム アネックス展2012」
3/31-4/22
ポーラミュージアムアネックスで開催中の「ポーラ ミュージアム アネックス展2012 華やぐ色彩」へ行ってきました。
銀座ポーラの春の恒例企画と言えるかもしれません。Bunkamuraザ・ミュージアムでプロデューサーをつとめる木島俊介氏をキュレーターに迎え、女性に絞り、計4名の比較的若い世代の作家が紹介されています。
出品作家は以下の通りです。
徳永 陶子(Toko TOKUNAGA)
梅原 麻紀(Maki UMEHARA)
橋爪 彩(Sai HASHIZUME)
野口 香子(Koko NOGUCHI)
ポーラアネックスのワンフロアを用い、絵画に立体と、バラエティーに富んだ展示が行われていますが、まず目に飛び込んでくるのは、まさにタイトルの「華やぐ色彩」を体現したような徳永陶子の平面の作品でした。
徳永陶子
テーマは「記憶」です。青や緑が織り出す美しい色のグラデーションからは、抽象面ながらも、どこか心象風景を映し出しているような印象を与えられはしないでしょうか。
橋爪彩
また所沢ビエンナーレへの出品歴もある橋爪は、精緻な描写にて、人物を西洋の静物画を重ね合わせたシュールな光景を描いています。
野口香子
立体は2作家、野口は椅子の周りに果物を象ったインスタレーションを展開していました。
また布とシルクスクリーンをあわせたのが梅原麻紀です。
梅原麻紀
布はインドのものだそうです。そこへ現地の土地の記憶を表した景色をシルクスクリーンで印刷しました。
布地自体の質感も巧みに引き出されているのではないでしょうか。今回の展示で最も惹かれました。
入場は無料です。銀座のお買い物の途中にでも立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
4月22日まで開催されています。
「ポーラ ミュージアム アネックス展2012 華やぐ色彩」 ポーラミュージアムアネックス
会期:3月31日(土)~4月22日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake」 LIXILギャラリー
LIXILギャラリー
「吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake」
4/2-4/25
LIXILギャラリーで開催中の吉田夏奈個展、「Panoramic Forest- Panoramic Lake」へ行ってきました。
本展の概要、及び作家プロフィールについては同ギャラリーのWEBサイトをご参照下さい。
吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake@現代美術個展 GALLERY2
さて吉田の展示と言えば、あざみ野コンテンポラリーでの小豆島をモチーフとしたインスタレーションをご記憶の方が多いかもしれません。
その際はパネルを立体に起こし、海に浮かぶ小豆島の景色をパノラマ的に展開していましたが、今回の個展では手法こそ同じものの、また異なった景色を作り上げています。
ずばりその答えは湖です。学生時代から登山を行い、自然に親しんでいたという吉田は、山とともに、この湖のある場所を好みました。
というわけで展示室に置かれたのは、白い岩山に囲まれた湖のパノラマです。切り立つ山と生い茂る木々の合間には大きな湖が美しい青のグラデーションを描いて広がっています。その姿はまさに真夏のギラギラした太陽に照らされた高原の湖でした。
それにしてもあざみ野の小豆島では山が文字通り立体と化し、高低差のある作品となっていましたが、今回の湖はフラット、つまり凹凸がありません。
*あざみ野コンテンポラリーでの吉田の展示
前回は屈みながら視点を作品の位置まで落とし、見上げるようにするとより作品が映えましたが、今回は全く異なります。むしろ上から湖面をのぞき込むようにすると、思わず中に吸い込まれそうな感覚に襲われるのではないでしょうか。その辺の違いもまたポイントなのかもしれません。
4月25日までの開催です。
*3月1日より「INAXギャラリー」は「LIXILギャラリー」(リクシルギャラリー)へと名前が変更になりました。
「吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake」 LIXILギャラリー
会期:4月2日(月)~4月25日(水)
休廊:日・祝
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
「吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake」
4/2-4/25
LIXILギャラリーで開催中の吉田夏奈個展、「Panoramic Forest- Panoramic Lake」へ行ってきました。
本展の概要、及び作家プロフィールについては同ギャラリーのWEBサイトをご参照下さい。
吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake@現代美術個展 GALLERY2
さて吉田の展示と言えば、あざみ野コンテンポラリーでの小豆島をモチーフとしたインスタレーションをご記憶の方が多いかもしれません。
その際はパネルを立体に起こし、海に浮かぶ小豆島の景色をパノラマ的に展開していましたが、今回の個展では手法こそ同じものの、また異なった景色を作り上げています。
ずばりその答えは湖です。学生時代から登山を行い、自然に親しんでいたという吉田は、山とともに、この湖のある場所を好みました。
というわけで展示室に置かれたのは、白い岩山に囲まれた湖のパノラマです。切り立つ山と生い茂る木々の合間には大きな湖が美しい青のグラデーションを描いて広がっています。その姿はまさに真夏のギラギラした太陽に照らされた高原の湖でした。
それにしてもあざみ野の小豆島では山が文字通り立体と化し、高低差のある作品となっていましたが、今回の湖はフラット、つまり凹凸がありません。
*あざみ野コンテンポラリーでの吉田の展示
前回は屈みながら視点を作品の位置まで落とし、見上げるようにするとより作品が映えましたが、今回は全く異なります。むしろ上から湖面をのぞき込むようにすると、思わず中に吸い込まれそうな感覚に襲われるのではないでしょうか。その辺の違いもまたポイントなのかもしれません。
4月25日までの開催です。
*3月1日より「INAXギャラリー」は「LIXILギャラリー」(リクシルギャラリー)へと名前が変更になりました。
「吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake」 LIXILギャラリー
会期:4月2日(月)~4月25日(水)
休廊:日・祝
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
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「レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想」 Bunkamura ザ・ミュージアム
Bunkamura ザ・ミュージアム
「レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想」
3/31-6/10
Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」展のプレスプレビューに参加して来ました。
現存する作品こそ少ないものの、新発見云々など、何かと話題の多いレオナルド・ダ・ヴィンチですが、今回の展示では彼の追い求めたであろう「絵画上の美」についてスポットを当てています。
展示室入口
出品はレオナルドの真筆「ほつれ髪の女」(東京会場のみ)の他、レオナルド派、さらには後の時代の作品、また資料など全90点です。
展覧会の構成は以下の通りでした。
1. レオナルド・ダ・ヴィンチの時代の女性像
2. レオナルド・ダ・ヴィンチとレオナルド派
3. 「モナ・リザ」イメージの広がり
4. 「裸のモナ・リザ」、「レダと白鳥」
5. 神話化されるレオナルド・ダ・ヴィンチ
はじめにレオナルドと同時代の作品を概観した上で、レオナルドの真筆「ほつれ髪の女」を挟み、さらには「モナ・リザ」におけるイメージの変遷を辿っています。
また「モナ・リザ」や「レダと白鳥」の主題については、同種の作品を比較するなど、かなり突っ込んだ内容となっています。さらにレオナルド以降の、彼に因んだ作品を展示するのも大きな特徴と言えるかもしれません。
ボッカッチョ・ボッカッチーノ「ロマの少女」1504-05年頃 ウフィツィ美術館
冒頭、同時代の女性像で目立つのは、ボッカッチョ・ボッカッチーノの「ロマの少女」です。
当時としては擬古趣味的として批判も受けたそうですが、その前を見据える表情には何か訴えかけられるものを感じてなりません。
またこのセクションではラファエロの工房、及び周辺の作品が4点ほど展示されています。その辺も見どころとなりそうです。
続いてのレオナルド派では、レオナルドの若き日の習作とも言われる「衣紋の習作」、計2点が目を引きます。
レオナルド・ダ・ヴィンチ「衣紋の習作」1470-75年頃 バーバラ・ピエセッカ・ジョンソン・コレクション財団 他
レオナルド自身、「人体に着せた布は、そのなかに人体があるかのように表現しなくてはならない。」と述べたそうですが、確かにボリューム感のある衣服からは、そうした言葉を裏付ける表現力を見ることが出来るのではないでしょうか。
また突如目に入る大作、「岩窟の聖母」に思わず心を奪われた方も多いかもしれません。
レオナルド・ダ・ヴィンチと弟子(名誉監修カルロ・ペドレッティ氏説)「岩窟の聖母」1495-97年頃 個人蔵
言うまでもなくこの作品は、ルーヴル、及びロンドンのナショナル・ギャラリーにある同名作に良く似たものですが、一説ではルーヴルとナショナル・ギャラリー作の間に描かれたのではないかと指摘されているそうです。
もちろん議論はあるのかもしれませんが、ここは個人蔵という、滅多に出る機会のない「岩窟の聖母」を存分に楽しみました。
文化村ではハイライト、前回展でも3作のフェルメールが展示されていたメインフロアでは、レオナルドの真筆、「ほつれ髪の女」が可憐な姿を披露しています。
レオナルド・ダ・ヴィンチ「ほつれ髪の女」1506-08年頃 パルマ国立美術館
レオナルドに特有の中性的な優美さをたたえた作品ですが、巧みな筆の陰影がもたらす頭部の立体感は比類がありません。
レオナルドは「頭部を描く場合は、その頭髪が、若々しい顔の周りの風に合わせて動いているように描くことだ。その際、顔の周りを優美に飾る髪の癖も描かなくてはならない。」と述べました。
また細部の精密な描写にもよるのか、あくまでも慈悲に満ちた表情ながらも、近づくと大変なリアリティー、そして迫力を感じます。幸いにも近寄って見ることが可能です。しばらく作品の前から動けませんでした。
さて「ほつれ髪の少女」から振り返ると見えるのは「モナ・リザ」揃いぶみです。
「モナ・リザ」イメージの広がり、展示室風景
もちろんかのルーヴル作がやって来ているわけではありませんが、いわゆる「モナ・リザ」イメージの作品が、約10点近く展示されています。
ともかく多種多様な「モナ・リザ」がずらりと並ぶ様子だけでも圧巻ですが、うち最も再現性が高いのが、アンブロワーズ・デュボア帰属の「モナ・リザ」ではないでしょうか。
「アイルワースのモナ・リザ」16世紀(レオナルドによる1503年の未完成作説あり) 個人蔵
レオナルドが用いたスフマートの技法ではありませんが、微笑む表情など、かなりルーヴル作に近くなっています。また実際にもルーヴルとサイズが同等、重ね合わせても原画にほぼ一致するそうです。
その他には、一部にレオナルドの筆が入っているとされる「アイルワースのモナ・リザ」や、モデルの人間性が伝わってくるような「ヴァッラルディのモナ・リザ」も印象に残りました。
中央:カルロ・アントニオ・プロカッチーニとエルコレ・プロカッチーニ「フローラ」1625-30年頃 アカデミア・カッラーラ美術館 他
「裸のモナ・リザ」、及び「レダと白鳥」のセクションでは、私の好きなフォンテーヌブロ派の作品と出会うことが出来ました。
左:フォンテーヌブロー派「浴室のふたりの女性」16世紀 ウフィツィ美術館
右:レオナルド周辺の画家「レダと白鳥」 ボルゲーゼ美術館
ルーヴルの有名な「ヴィラール」とも似た構図をとっていますが、その馨しいまでの官能性には思わず見惚れてしまいます。
また章は前後しますが、こうした裸体像としては、冒頭に登場する「マグダラのマリア」や「聖カテリーナ」も見逃せません。
総じてテーマ性の高い展覧会です。一つ一つの作品と向き合いながら、相互の関連、また背景などを読みといていくのも面白いかもしれません。
既に福岡、静岡と巡回してきましたが、東京会場のみ出品の「ほつれ髪の少女」をはじめ、会場構成などもやや違った内容になっています。一度ご覧になった方もまた楽しめるのではないでしょうか。
ファッションブランド「SOMARTA」とのコラボTシャツ
それに一点一点に詳細な解説の付いた図録も読み応えがありました。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ (西洋絵画の巨匠 8)/池上英洋/小学館」
6月10日までの開催です。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:3月31日(土)~6月10日(日)
休館:4/23(月)のみ休館。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想」
3/31-6/10
Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」展のプレスプレビューに参加して来ました。
現存する作品こそ少ないものの、新発見云々など、何かと話題の多いレオナルド・ダ・ヴィンチですが、今回の展示では彼の追い求めたであろう「絵画上の美」についてスポットを当てています。
展示室入口
出品はレオナルドの真筆「ほつれ髪の女」(東京会場のみ)の他、レオナルド派、さらには後の時代の作品、また資料など全90点です。
展覧会の構成は以下の通りでした。
1. レオナルド・ダ・ヴィンチの時代の女性像
2. レオナルド・ダ・ヴィンチとレオナルド派
3. 「モナ・リザ」イメージの広がり
4. 「裸のモナ・リザ」、「レダと白鳥」
5. 神話化されるレオナルド・ダ・ヴィンチ
はじめにレオナルドと同時代の作品を概観した上で、レオナルドの真筆「ほつれ髪の女」を挟み、さらには「モナ・リザ」におけるイメージの変遷を辿っています。
また「モナ・リザ」や「レダと白鳥」の主題については、同種の作品を比較するなど、かなり突っ込んだ内容となっています。さらにレオナルド以降の、彼に因んだ作品を展示するのも大きな特徴と言えるかもしれません。
ボッカッチョ・ボッカッチーノ「ロマの少女」1504-05年頃 ウフィツィ美術館
冒頭、同時代の女性像で目立つのは、ボッカッチョ・ボッカッチーノの「ロマの少女」です。
当時としては擬古趣味的として批判も受けたそうですが、その前を見据える表情には何か訴えかけられるものを感じてなりません。
またこのセクションではラファエロの工房、及び周辺の作品が4点ほど展示されています。その辺も見どころとなりそうです。
続いてのレオナルド派では、レオナルドの若き日の習作とも言われる「衣紋の習作」、計2点が目を引きます。
レオナルド・ダ・ヴィンチ「衣紋の習作」1470-75年頃 バーバラ・ピエセッカ・ジョンソン・コレクション財団 他
レオナルド自身、「人体に着せた布は、そのなかに人体があるかのように表現しなくてはならない。」と述べたそうですが、確かにボリューム感のある衣服からは、そうした言葉を裏付ける表現力を見ることが出来るのではないでしょうか。
また突如目に入る大作、「岩窟の聖母」に思わず心を奪われた方も多いかもしれません。
レオナルド・ダ・ヴィンチと弟子(名誉監修カルロ・ペドレッティ氏説)「岩窟の聖母」1495-97年頃 個人蔵
言うまでもなくこの作品は、ルーヴル、及びロンドンのナショナル・ギャラリーにある同名作に良く似たものですが、一説ではルーヴルとナショナル・ギャラリー作の間に描かれたのではないかと指摘されているそうです。
もちろん議論はあるのかもしれませんが、ここは個人蔵という、滅多に出る機会のない「岩窟の聖母」を存分に楽しみました。
文化村ではハイライト、前回展でも3作のフェルメールが展示されていたメインフロアでは、レオナルドの真筆、「ほつれ髪の女」が可憐な姿を披露しています。
レオナルド・ダ・ヴィンチ「ほつれ髪の女」1506-08年頃 パルマ国立美術館
レオナルドに特有の中性的な優美さをたたえた作品ですが、巧みな筆の陰影がもたらす頭部の立体感は比類がありません。
レオナルドは「頭部を描く場合は、その頭髪が、若々しい顔の周りの風に合わせて動いているように描くことだ。その際、顔の周りを優美に飾る髪の癖も描かなくてはならない。」と述べました。
また細部の精密な描写にもよるのか、あくまでも慈悲に満ちた表情ながらも、近づくと大変なリアリティー、そして迫力を感じます。幸いにも近寄って見ることが可能です。しばらく作品の前から動けませんでした。
さて「ほつれ髪の少女」から振り返ると見えるのは「モナ・リザ」揃いぶみです。
「モナ・リザ」イメージの広がり、展示室風景
もちろんかのルーヴル作がやって来ているわけではありませんが、いわゆる「モナ・リザ」イメージの作品が、約10点近く展示されています。
ともかく多種多様な「モナ・リザ」がずらりと並ぶ様子だけでも圧巻ですが、うち最も再現性が高いのが、アンブロワーズ・デュボア帰属の「モナ・リザ」ではないでしょうか。
「アイルワースのモナ・リザ」16世紀(レオナルドによる1503年の未完成作説あり) 個人蔵
レオナルドが用いたスフマートの技法ではありませんが、微笑む表情など、かなりルーヴル作に近くなっています。また実際にもルーヴルとサイズが同等、重ね合わせても原画にほぼ一致するそうです。
その他には、一部にレオナルドの筆が入っているとされる「アイルワースのモナ・リザ」や、モデルの人間性が伝わってくるような「ヴァッラルディのモナ・リザ」も印象に残りました。
中央:カルロ・アントニオ・プロカッチーニとエルコレ・プロカッチーニ「フローラ」1625-30年頃 アカデミア・カッラーラ美術館 他
「裸のモナ・リザ」、及び「レダと白鳥」のセクションでは、私の好きなフォンテーヌブロ派の作品と出会うことが出来ました。
左:フォンテーヌブロー派「浴室のふたりの女性」16世紀 ウフィツィ美術館
右:レオナルド周辺の画家「レダと白鳥」 ボルゲーゼ美術館
ルーヴルの有名な「ヴィラール」とも似た構図をとっていますが、その馨しいまでの官能性には思わず見惚れてしまいます。
また章は前後しますが、こうした裸体像としては、冒頭に登場する「マグダラのマリア」や「聖カテリーナ」も見逃せません。
総じてテーマ性の高い展覧会です。一つ一つの作品と向き合いながら、相互の関連、また背景などを読みといていくのも面白いかもしれません。
既に福岡、静岡と巡回してきましたが、東京会場のみ出品の「ほつれ髪の少女」をはじめ、会場構成などもやや違った内容になっています。一度ご覧になった方もまた楽しめるのではないでしょうか。
ファッションブランド「SOMARTA」とのコラボTシャツ
それに一点一点に詳細な解説の付いた図録も読み応えがありました。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ (西洋絵画の巨匠 8)/池上英洋/小学館」
6月10日までの開催です。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:3月31日(土)~6月10日(日)
休館:4/23(月)のみ休館。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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