「ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」 
2020/2/1~4/7



東京都庭園美術館で開催中の「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」を見てきました。

長野県諏訪市に位置し、フランスのガラス工芸コレクションで知られる北澤美術館より、アール・デコの作家、ルネ・ラリックの作品がまとめて東京都庭園美術館へとやって来ました。



ともかく右も左も優品ばかりゆえに、惹かれた作品を挙げればきりがありませんが、今回こそ建物との相性が抜群に良かったことはなかったかもしれません。そもそも東京都庭園美術館の本館は、ラリックが内部の装飾を手がけた「アール・デコの館」であり、それこそ「ラリックの作品に囲まれた空間で見るラリック」と言えるからでした。



元々、ジュエリー作家だったラリックは、ガラスに分野を移すと、1909年にパリ郊外に工場を構え、本格的にガラスの制作に乗り出しました。そして第一次世界大戦後にはアルザス地方に新たな工場を増設し、1925年にパリの「アール・デコ博覧会」で大規模に出展するなどして活動しました。


円形蓋物「ドガ」 1921年

結果的にラリックは、1910年頃から亡くなる1945年までの間に、おおよそ4300種類ものガラスデザインを世に送り出し、後にアール・デコと呼ばれた、新しいデザインのガラス工芸を切り開きました。



化粧道具やテーブルウェアなどの身近な生活用品も魅惑的かもしれません。ラリックの天井灯の飾られた大食堂にはテーブルウェアがセッティングされていて、窓から差し込む陽の光を受けてはきらきらと輝いていました。あたかも今、目の前で会食が行われるかのような臨場感のある展示も、邸宅の庭園美術館ならではと言えるかもしれません。


電動置時計「昼と夜」 1926年

また通常、公開される機会の少ない書斎では、男女の像が円を描くような電動置時計「昼と夜」が展示されていました。当時のフランスでは珍しい電気式のムーブメントが仕込まれていて、最先端の技術を盛り込んだラリックの革新性も見ることが出来ました。



ラリックのガラスで人気を博していたアイテムの1つが、カー・マスコットと呼ばれた自動車のシンボル像で、当時、贅沢品であった自動車の鼻先を飾ったオーナメントがいくつも並んでいました。車のオーナーは、狩猟や競馬、女神などのモチーフを好んでいたそうです。



ガラス工芸だけでなく、デザインの原画も出展されていました。鉛筆の繊細な筆跡を見ていくと、さもラリックの創作の軌跡を辿るかのようで、実際の工芸とデザイン原画を見比べる展示も興味深いものがありました。


花瓶「バッカスの巫女」 1927年

光の角度で色調の変化するオパルセント・ガラスを用いた、花瓶「バッカスの巫女」にも魅せられました。10人の異なるポーズをした裸婦が回転するようにデザインされた作品で、バッカスに仕えた熱狂的な巫女の姿を表現していました。


置物「座るねこ」 1932年

「座るねこ」も可愛らしいのではないでしょうか。ラリックは自邸に十数匹の猫を飼うほど、猫好きで知られていました。


花瓶「フォルモーズ」 朝香宮家旧蔵 1924年 *特別出品

この他、新館では旧朝香宮邸についての展示もあり、ラリックと日本の関係についての知見も得ることが出来ました。そもそも旧朝香宮邸は、当時の朝香宮鳩彦王と允子妃殿下が「アール・デコ博覧会」に出向き、美術様式に感銘を受け、帰国後、フランスの美術家、アンリ・ラパンに内覧設計を任せて実現した建物でした。そしてラリックは玄関ホールのレリーフ扉や食堂のシャンデリアなどを手がけました。


立像「噴水の女神、メリト」 1924年

「噴水の女神、メリト」は、「アール・デコ博覧会」の中央広場の噴水のために製作された女神像で、高さ15メートルにも及ぶ塔に128体もの女神像が取り付けられました。噴水自体は閉会後に撤去されましたが、同じ鋳型を用いた女神像が制作され、その1つが今回の展示品でした。



現在、東京都庭園美術館は、新型コロナウィルスの感染予防、拡散防止のため、3月15日(日)までを目処に休館中です。


ラリック展の会期は4月7日(火)までですが、今後の開館状況については追って発表があると思われます。詳しくは美術館の公式サイトをご覧ください。

「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」 東京都庭園美術館(@teienartmuseum)
会期:2020年2月1日(土)~4月7日(火)
休館:第2・第4水曜日(2/12、2/26、3/11、3/25)
時間:10:00~18:00。
 *3/27、3/28、4/3、4/4は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大学生880(700)円、中・高校生・65歳以上550(440)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
 *第3水曜日のシルバーデーは65歳以上無料。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
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「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」
2020/2/1~3/22



埼玉県立近代美術館で開催中の「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」を見てきました。

1881年に埼玉県熊谷市で生まれ、洋画と日本画をともに手掛けた画家、森田恒友は、全国各地を渡り歩いては市井の人々や自然の風景を描きました。

その森田の回顧展が「自然と共に生きて行かう」で、初公開を含む洋画と日本画、または雑誌やスケッチ、資料など約250点(展示替えあり)が公開されていました。


森田恒友「すき髪」 1905年 個人蔵(熊谷市立熊谷図書館寄託)

画家を志して上京した森田は、1902年に東京美術学校へ入学すると洋画を学び、青木繁らと共同生活を送るなどして暮らしました。実際、この頃の作品は、装飾性を帯びていて、まるで宗教画のような「樵夫」は浪漫主義的な傾向も色濃く、青木の画風の影響を強く受けていました。


森田恒友「午睡する看護婦」 1907年 埼玉県立近代美術館

大学を卒業すると、雑誌や新聞に挿絵や風刺漫画も描き、美術文芸雑誌「方寸」の創刊にも関わりました。「午睡する看護婦」は緑色の木立の中、1人の看護婦が腰掛けては眠りこける姿を正面から描いていて、周囲の草木などはコランの画風を思わせるものがありました。


森田恒友「海辺風景」 1911~13年頃 茨城県立近代美術館 *展示期間:2月1日~3月1日

「海辺風景」は金地の屏風絵で、右上の僅かな海を望む土地にて、木を切り出す人々や鳥、それに犬らしき小動物を表していました。斜め上から覗き込むような構図が独特で、ヴァロットンの視点を連想させました。

1914年に神戸から旅立った森田はパリへと辿り着き着、第一次世界大戦で一時ロンドンに渡るも、同地で西洋絵画を学びました。その時に傾倒したのがドーミエとセザンヌで、中でも自然に向き合うセザンヌに強いシンパシーを感じていました。


森田恒友「プロヴァンス風景」 1914年 熊谷市立熊谷図書館

その影響を如実に感じさせるのが「プロヴァンス風景」で、手前に屈曲した樹木を配し、後ろに丘が広がり家の連なる同地の風景を表しました。細かな筆のタッチや色面などは、明らかにセザンヌ風と言えはしないでしょうか。

アパートの連なる外国の風景を、日本画の顔料で描きつつ、まるで油絵のように額装したのが「西欧風景」で、遠目では油絵と見間違うほどでした。この他、油絵に金泥を加えた作品など、洋の東西を行き来するような技法も、森田の面白いところかもしれません。

翌年に帰国した森田は「セザンヌの紹介者」として呼ばれ、福島をはじめとした全国各地を旅しては、版画や絵画を描きました。そして次第に素描や日本画を多く制作するようになり、「水墨表現が日本の風景に適している」と考えるに至ると、水墨画を制作するようになりました。旅する画家だった森田は、表現においても1つの地点にとどまることはありませんでした。


森田恒友「日本風景版画 第二集 会津之部」から「若松城址」 1917年 埼玉県立近代美術館

日本各地の風景を木版にした「日本風景版画」も魅惑的な作品でした。そのうち第二集の「会津之部」では、同地の風景などを牧歌的に描いていて、土地の人々の生き様を見据え、風土に共感した森田の心情も滲んでいるように見えました。

チラシ表紙を飾る「緑野」は、山々を背景に、馬に跨って木立の小道を進む人物を描いていて、うっすらとした緑が木々をまとうベールのように塗られていました。樹木の枝などの線と色との関係はもはや曖昧で、染み込んでいくおおらかな色の広がりも魅力と言えるかもしれません。


森田恒友「枯れ芦図」 1922~24年頃 埼玉県立近代美術館

「枯れ芦図」は晩年の水墨画で、長閑な水辺の景色を薄い墨を重ね、叙情的に表していました。当初の青木風しかり、セザンヌ的な作品からすると、一見、似ても似つきませんが、墨の繊細なニュアンスなどは、かつての色を細かく重ねた油絵を僅かながら思い起こすかもしれません。

1929年、帝国美術学校の西洋画科長に就任した森田でしたが、その4年後、道半ばに亡くなってしまいました。52歳の若さでした。

これに続く常設展のMOMASコレクションでは、森田が創設に携わった春陽会に関する展示も行われていて、森田や岸田劉生の作品なども公開されていました。


クロード・モネ「ジヴェルニーの積みわら、夕日」 1888~89年 

なおそのMOMASコレクションですが、モネやルノワール、それにユトリロなどの一部作品の撮影が可能となりました。


田中保「黒いドレスの腰かけている女」 1920~1930年頃

黒いドレスに身を包みながら、やや俯き加減で座る女性を捉えた田中保の「黒いドレスの腰かけている女」も魅惑的ではないでしょうか。


マルク・シャガール「二つの花束」 1925年

この他、赤と黄色の花束が街を幻夢的に彩るシャガールの「2つの花束」にも惹かれました。



全国を旅しつつ、武蔵野の自然にも向き合った森田は、ご当地埼玉の画家でもあります。その画風の変遷を見遣りつつ、のびやかな風景に魅せられました。



当初、会期は3月22日(日)までを予定していましたが、新型コロナウィルス感染防止のため、2月29日(土)より3月15日(日)までの臨時休館が決まりました。


今後の状況次第ではありますが、少なくとも再開は3月17日(火)以降となります。詳しくは公式サイトをご覧ください。

「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2020年2月1日 (土) ~3月22日 (日)
休館:月曜日。但し2月24日は開館。
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「ハマスホイとデンマーク絵画」 東京都美術館

東京都美術館
「ハマスホイとデンマーク絵画」
2020/1/21~3/26



東京都美術館で開催中の「ハマスホイとデンマーク絵画」を見てきました。

2008年に国立西洋美術館で「ハンマースホイ」として紹介され、口コミなどで評判をよんだデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハマスホイの作品が、約10年あまりの歳月を経て、再び日本へとやって来ました。

それが「ハマスホイとデンマーク絵画」展で、タイトルが示すようにハマスホイの単独の回顧展ではなく、同時代のデンマークの画家の絵画をあわせ見る構成となっていました。

冒頭は1800年から1860年頃の「デンマーク絵画の黄金期」とされる作品で、同国の何気ない街角や港を望む風景を描いた絵画が展示されていました。

父がパン職人だったクレステン・クプゲは、「パン屋の傍の中庭、カステレズ」において板塀の横の小道を進む荷車を描いていて、塀越しに見える朱色の屋根や木立、さらには点景の子どもの姿などを明るい色彩で表していました。

またクプゲの「フレズレクスポー城の棟ー湖と町、森を望む風景」は、手前に城の屋根を配しつつ、上の3分の2ほどを広い空が占めていて、城の向こうの湖の際には家々も立ち並んでいました。屋根の前景と家々の後景の対比が際立っているため、かなり俯瞰的な構図と言えるかもしれません。

1870年頃、デンマークの画家が集った北部の漁師町を舞台とした、いわゆるスケーイン派の作品も見どころの1つでした。うちオスカル・ビュルクの「スケーインの海に漕ぎ出すボート」は、砂浜でボートを漕ぐ男たちをダイナミックなタッチで表していて、漁師をモデルとしながらも、あたかも英雄たちが集うような光景を作り上げていました。


ピーザ・スィヴェリーン・クロイア「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」 1893年 ヒアシュプロング・コレクション

同じくスケーイン派の画家である、ピーザ・スィヴェリーン・クロイアの「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」も魅惑的ではないでしょうか。白く青みを帯びた砂浜には、二人の人物が寄り添っていて、その左側には薄い水色の海が広がっていました。実にシンプルな構図ながら、淡く差し込む光の効果なのか、どことなく幻想的に感じられるかもしれません。

デンマークでは19世紀末になると、首都コペンハーゲンにおいて室内を主題とした作品が人気を博し、主に身近な家族の団欒などを捉えた絵画が制作されました。


ヴィゴ・ヨハンスン「きよしこの夜」 1891年 ヒアシュプロング・コレクション

ヴィゴ・ヨハンスンの「きよしこの夜」も、画家の家族のクリスマス・イヴの様子を表していて、夫婦6人の子どもたちが蝋燭の灯るツリーを囲みながら踊っていました。家族を包み込むような多幸感、あるいは母子の親密な関係が滲み出てはいないでしょうか。


ピータ・イルテルズ「ピアノに向かう少女」 1897年 アロス・オーフース美術館

ハマスホイの義理の兄のピータ・イルテルズも室内画を得意とした画家で、「ピアノに向かう少女」では、水色のワンピースの少女がピアノに向き合う姿を表しました。

アンティークな家具の置かれた部屋や、人物の後ろ姿などはハマスホイの画風を連想させましたが、戸外の緑を望む窓や全体を包み込むような色彩は明るく、より開放的な雰囲気も感じられました。

こうした親密な室内画の一方、20世紀が近づくにつれ、端的に室内空間のみをモチーフとした絵画が描かれるようになりました。その一枚がカール・ホルスーウ「室内」で、彫像や燭台、それに花瓶の置かれた鏡台、壁に飾られたプレートなどを細かなタッチで表現していました。言うまでもなく無人の室内ゆえに、静けさに満ちていて、静物画を目の当たりにするかのような印象も与えられました。

会場の後半で紹介されるのがハマスホイの絵画で、全部で約40点ほど展示されていました。ハマスホイは初期に肖像や風景画を描いた一方で、1898年にコペンハーゲンの旧市街のアパートに移り住むと、無人の室内や妻のイーダをモチーフとした室内画を制作しました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内」 1898年 スウェーデン国立美術館

「室内」は、ハマスホイの自宅を舞台としていて、薄暗がりの部屋やぼんやりとした光、または最低限の簡素な家具、さらには後ろ姿の女性など、画家に特徴的なモチーフで構成されていました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ「背を向けた若い女性のいる室内」 1903~1904年 ラナス美術館

「背を向けた若い女性のいる室内」もハマスホイの代表作として知られる作品で、パンチボウルの置かれたピアノの前で、銀色のトレイを持った後ろ姿の女性を描いていました。振り向きざまのポーズは意味ありげながらも、特に何かをしているようにも見えず、謎めいていて、ともすると不気味にも思えるかもしれません。なお会場では、本作に登場するパンチボウルの実物も展示されていて、絵画と見比べることも出来ました。

「ピアノを弾く妻イーダのいる室内」では、妻のイーダをモデルに、開け放たれた白い扉の向こうでピアノを弾く姿を捉えていて、手前の円い机の上には、先の「背を向けた若い女性のいる室内」で女性が手にしていたトレイが置かれていました。左から差し込む光は、白い扉に当たりつつ、奥の妻へと視線を誘うようにのびていて、ひんやりとした空気感も感じられました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内ー開いた扉、ストランゲーゼ30番地」 1905年 デーヴィズ・コレクション

画家の無人のダイニングルームを描いたのが「室内ー開いた扉、ストランゲーゼ30番地」で、白い扉が左右に開け放たれた室内には一切の調度品もなく、扉の一部に歪みを感じるからか、まるで迷路の中を彷徨うかのような錯覚を覚えました。


前回のハマスホイ展は画家の単独の展示ゆえに、ハマスホイの個性が際立っていましたが、今回は他のデンマークの画家を参照することによって、ハマスホイの画業の立ち位置が分かるような展覧会だったかもしれません。私としては前半のデンマーク絵画に思いがけないほど惹かれるものを感じました。

会期の早い段階で出かけましたが、会場内には比較的余裕がありました。



新型コロナウイルスの状況次第では会期が変更になる場合があります。お出かけの際は公式ページをご確認ください。



3月26日まで開催されています。なお東京展終了後、山口県立美術館(2020年4月7日~6月7日)へと巡回します。

「ハマスホイとデンマーク絵画」@denmark_2020) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2020年1月21日(火)~3月26日(木)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日、2月19日(水)、3月18日(水)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日、2月25日(火)。但し2月24日(月・休)、3月23日(月)は開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、65歳以上1000(800)円、高校生800(600)。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *3月20日(金・祝)~26日(木)は18歳以下無料。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「白髪一雄」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「白髪一雄」
2020/1/11〜3/22



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「白髪一雄」を見てきました。

1924年に兵庫県尼崎市に生まれ、「具体美術協会」のメンバーとして活動した白髪一雄は、足で絵を描くフット・ペインティングの技法を用い、生涯に渡って旺盛に作品を制作しました。

その白髪の都内では初の大規模な個展が「白髪一雄展」で、代表的なフット・ペインティングの他、実験的な立体作品、さらには資料など約130点を公開していました。

鮮烈な色彩と激しいタッチで知られる白髪の作風ですが、何も初めからエネルギッシュな作品ばかりを描いたわけではありませんでした。元々、日本画を学び、美術専門学校時代に油彩へ転向した白髪は、若い頃に街の風景や、具象的なモチーフも垣間見える絵画を制作していて、船や魚の描かれた「難航」などは、おおよそ後の白髪の作品とは似ても似つきませんでした。

1952年に村上三郎や田中敦子らと「ゼロ会」を結成した白髪は、早くも2年後に独自の画風を切り開くべく、フット・ペインティングに挑戦するようになりました。また1955年に「具体美術協会」に参加すると、絵画のみならず、インスタレーションやパフォーマンス・アートなどにも幅広く取り組みました。


「天異星赤髪鬼」 1959年 兵庫県立美術館(山村コレクション)

血のように赤い色彩がキャンバス上でのたうち回るのが「天異星赤髪鬼」で、爛れた皮膚かこびり付いたコゲのような質感の油彩が、まるで鞭を打つかのように四方へと暴力的なまでに広がっていました。


「地暴星喪門神」 1961年 兵庫県立美術館(山村コレクション)

また「地暴星喪門神」は余白を残しつつも、ねっとりとした赤や黒の絵具が画面でぶつかっていて、力強いまでのエネルギーを放っていました。どこか複数の人が踊り狂っているような姿にも見えるかもしれません。

なお赤髪鬼や喪門神などの独特なタイトルにも目を引かれますが、これらは白髪が幼少期より愛読していたという水滸伝の登場人物のあだ名が付けられているそうです。

1960年代に密教へ関心を寄せた白髪は、後に延暦寺で得度すると、天台宗の僧侶として仏門に入りました。そして1972年に具体美術協会が解散した頃から、足に代わってスキージと呼ばれる長いヘラを用いて作品を描くようになりました。


「貫流」 1973年 東京オペラシティアートギャラリー

その1枚が「貫流」で、ヘラを用いたのか、白や黒の色彩が以前よりもやや薄く塗られていました。白髪というと、絵具をぶつけたり、盛っていくイメージがありますが、一連のヘラの作品は異なっているのかもしれません。


「貫流」(部分) 1973年 東京オペラシティアートギャラリー

それらの作品は「濃密な精神性」(解説より)とも捉えられていましたが、私には氷河の流れる大地や天体の運動など、自然や宇宙の光景が表れているようにも感じられました。

一時、円相の作品を多く制作していた白髪でしたが、1978年にフット・ペインティングの技法に戻ると、再び足で絵画を描くようになりました。


「酔獅子」 1999年 個人蔵

こげ茶とも黒などが凝縮するように展開する「酔獅子」では、明らかに足を思わせる形も浮かび上がっていて、まさに身体全体をぶつけては、キャンバスに格闘する白髪の姿を想像させるものがありました。


「游墨 壱」 1989年 東京オペラシティアートギャラリー

一方の「游墨 壱」は、黒が画面中央部を執拗に塗りつぶすように展開していて、まるで黒い雲が重なり合い、何かを隠し、後に現れるかのような不穏な雰囲気も感じられました。

白髪の回顧展として思い出すのは、2009年に横須賀美術館で開催された「白髪一雄 - 格闘から生まれた絵画」でした。ちょうど白髪の亡くなった1年後のことで、生前に画家本人が構想したテーマによって構成された展覧会でした。

初期作から晩年の作品までを網羅した内容で、ともかく絵画そのものの放つ熱気にのまれたことを覚えています。また制作に使ったロープが吊るされていたのも印象的でした。


「うすさま」 1999年 個人蔵

それから約10年超、なかなかまとめて見る機会がなかっただけに、改めて白髪の特異な作品の魅力に感じ入りました。


「色絵」 1966年 兵庫県立美術館

一部の作品の撮影が可能でした。(本エントリに掲載した写真は全て撮影可作品です。)

3月22日まで開催されています。おすすめします。

「白髪一雄」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:2020年1月11日(土)〜3月22日(日)
休館:月曜日
 *祝日の場合は翌火曜日。2月9日(日)*全館休館日
時間:11:00~19:00 
 *金・土は20時まで開館。
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *同時開催中の「収蔵品展069 汝の隣人を愛せよ」、「project N 78 今井麗」の入場料を含む。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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「千田泰広―イメージからの解放」 武蔵野市立吉祥寺美術館

武蔵野市立吉祥寺美術館
「千田泰広―イメージからの解放」 
2020/1/11~2/23



武蔵野市立吉祥寺美術館で開催中の「千田泰広―イメージからの解放」へ行ってきました。

1977年に生まれ、光を素材に「空間の知覚」(解説より)を主題としたインスタレーションを制作する千田泰広は、種子島宇宙芸術祭などの芸術祭に参加した他、舞台美術やワークショップでも幅広く活動してきました。

その千田の美術館での個展が「イメージからの解放」で、新作のインスタレーションをはじめ、これまでの制作過程で生まれた立体物やドローイング、それに作品の記録映像(30分)などを公開していました。

ほぼ一点勝負の展覧会と言っても良いかもしれません。新作の「Analemma」は、同館で唯一の企画展示室の全てを用いて設営されていて、中はほぼ完全なる暗室ゆえ、事前に荷物をロッカーに預け入れる必要がありました。

入口のカーテンを潜って中に入ると、一面に暗がりが広がっていて、初めは目の前で何が起きているのか分からないほどでした。そして懐中電灯を持ったスタッフの方の誘導のもと、壁沿いを伝っては、僅かに視界で確認出来たベンチに座りました。

しばらく目を慣らすように前を見据えていると、上下と左右に行き来する光の筋が浮かび上がってきました。いずれも室内へ張り巡らされたポリエステルの糸へプロジェクターで光を当てたもので、あたかもて宇宙空間の中に投げ込まれては、瞬く星々を眺めるかのような錯覚に囚われるほどでした。

また壁際の通路からは、4本の通路が内側へと伸びていて、中央部にはクッションが置かれていました。そして歩いて中心へ向かい、クッションに腰掛けつつ、時に寝転んでは、光の織りなすショーを見ることができました。

さらにクッションから上の天井などを眺めていると、宇宙空間というよりも、深き海の底へと投げ込まれたかのような印象も与えられました。タイトルに「イメージの解放」とありますが、確かに身体が浮かび上がりつつ、沈み込むような体験を得ることが出来るかもしれません。



光の移ろいは実に美しく繊細ながらも、動く方向や構造そのものシンプルでした。私の出かけた時はたまたま他に観客がいなかったため、時間の許す限り、ぼんやりと見遣りながら光に身を委ねました。

会期の最終週(2/15~2/23)には、武蔵野市民文化会館の1階展示室においても、千田のインスタレーションが特別に展示されます。


【8日間限定!特別展示】 
会期:2020年2月15日(土)~2月23日(日)
休館:2月19日(水)
時間:10:00~17:00
料金:無料
会場:武蔵野市民文化会館 1階 展示室
住所:武蔵野市中町3-9-11
交通:JR三鷹駅北口から徒歩約13分、JR三鷹駅北口からバス1・2番線「市民文化会館入口」下車

市民文化会館の最寄駅は1つ先の三鷹駅ですが、美術館の近くのバスでもアクセス出来るそうです。あわせて観覧するのも良いかもしれません。

それにしても千田のインスタレーションを体験した後、同館の浜口陽三記念室にてカラーメゾチントの作品を目にすると、深い藍を帯びた「闇」が不思議と響き合うように思えてなりませんでした。

2月23日まで開催されています。

「千田泰広―イメージからの解放」 武蔵野市立吉祥寺美術館@kichi_museum
会期:2020年1月11日(土) ~ 2月23日(日)
時間:10:30~19:30
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)は21時まで。 
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:1月29日(水)、2月23日(水)。
料金:一般300円、中高生100円、小学生以下・65歳以上無料。)
住所:武蔵野市吉祥寺本町1-8-16 コピス吉祥寺A館7階
交通:JR線・京王井の頭線吉祥寺駅中央口(北口)から徒歩約3分。
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「永遠のソール・ライター」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」
2020/1/9~3/8



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」を見てきました。

2017年に日本で初めて本格的に紹介され、多くの人々を心を掴んだ写真家、ソール・ライター(1923~2013)の作品が、再びBunkamura ザ・ミュージアムへとやって来ました。

まず冒頭の「ソール・ライターの世界」では、ライターの写真家としてのキャリアを追うべく、モノクロからカラーの写真が並んでいて、中には前回の展覧会では出品されなかった作品もありました。



そもそもライターが写真をはじめたのは、ニューヨークで画家を志していた20代前半のことで、1948年からはカラーの写真にも取り組み、抽象性を帯びた構図感や、鏡やガラス越しの像、それにのぞき見を思わせる手法によって、モデルや都市の風景を巧みに写し出しました。

主に1950年代のニューヨークが、ライターのファインダーに捉えられると、ファッショナブルでかつ、古さを感じさせない風景に立ち上がってくるのも魅惑的ではないでしょうか。また赤い傘をさして雪道を歩く人を斜め上から写した「赤い傘」など、一瞬にだけ目に飛び込んでくるような色彩の瞬きにも心引かれました。

ライターはファッション誌の第一線で活躍し、写真家としての地位を確立するものの、58歳でスタジオを閉鎖すると、自らの感性や表現の趣くままに写真を手掛ける生活を送るようになりました。



その間にも写真を撮影し続けたライターでしたが、技術や経済的な問題により、多くは未現像のままに放置され、アパートに眠り続けました。しかし1997年に初のカラー写真展が開催され、2006年に未発表の作品をまとめた写真集、「Early Color」が刊行されると、カラー写真のパイオニアとして世界で大きな反響を巻き起こしました。この時、実に83歳でした。


今回のライター展で特に興味深いのは、残された数万点もの膨大な写真を発掘するプロジェクトによって、データベース化された作品を世界で初めて映像で公開していることでした。生前、写真をプリントしなかったライターは、時に友人を招きながら、ライトボックスの上にスライドで見る時間を大切にしていたと伝えられていて、そうした仕事場の状況を追体験するかのようでもありました。

またライター自身や愛した人々のポートレートをはじめ、前回は未発表だったスケッチブックや家族のアルバム、はたまた愛猫の写真なども展示されていて、モノクロ、カラーの代表作を網羅しつつも、ライターの個人的な関心や創造の源を探るような構成になっていました。


「ソール・ライターが住んでいたアパートメントの壁の再現」(ニューヨーク、イースト・ヴィレッジ) *会期中も撮影可

ラストにはライターの住んでいたアパートの壁を再現したコーナーもあり、愛用の鏡や時計、あるいは使用していた椅子の他、父や母の家族の写真、さらには自作の油絵なども展示されていました。前回展よりまだ3年ほどしか経っていませんが、よりライターの人となりに興味の引かれる展覧会かもしれません。

会期早々の日曜に出かけてきましたが、入場に際しての待機列こそなかったものの、会場内は想像以上に賑わっていました。特にライターの写真を映像で紹介する展示室は、スペースに限りがあることから、かなり混み合っていました。グッズ売り場も大盛況でした。

混雑状況の目安は公式WEBサイトでも発表されています。お出かけの際に参考となりそうです。

「永遠のソール・ライター/柴田元幸/小学館」

「写真はしばしば重要な瞬間を切り取るものをとして扱われがちだが、本当は終わることのない世界の小さな断片と思い出なのだ。」 ソール・ライター

本エントリの展示室内の写真は広報事務局より提供いただきました。「ソール・ライターが住んでいたアパートメントの壁の再現」を除いて撮影は出来ません。



3月8日まで開催されています。なお東京展終了後、美術館「えき」KYOTOへと巡回(4/11〜5/10)します。

「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」 Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:2020年1月9日(木)~3月8日(日)
休館:1月21日(火)、2月18日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
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「西野達 やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 ANOMALY

ANOMALY
「西野達 やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 
2020/1/25~2/22



ANOMALYで開催中の「西野達個展 やめられない習慣の本当の理由とその対処法」を見てきました。

ベルリンと東京を拠点に活動する現代アーティストの西野達は、都市の屋外のモニュメントを取り込み、シンガポールではマーライオンを取り込んだホテルを建設するなど、公共的な場所にプライベートな空間を出現させる作品で人気を博してきました。

その西野のギャラリーでは10年ぶりとなる個展が「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」で、近年から今年の新作までの約10点の作品が展示されていました。


西野達「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 2020年

まずは会場に入った途端に驚かされたのは、奥にそびえ立つ展覧会のタイトルの作品、「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」でした。


西野達「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 2020年

一番下に前後の切断された自動車が置かれていて、屋根の上には白い冷蔵庫と家具が積まれたかと思うと、さらに布団のはみ出たベットや赤いソファが載せられていて、煌々と明かりを灯す巨大な街灯が全体を串刺しするように貫いていました。


西野達「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 2020年

家具の上のベットやソファは今にもずれ落ちそうなものの、終始、ぴたりと静止していて、何度見ても一体、どのようなバランスで自立しているのか分かりませんでした。


西野達「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 2020年

そもそも外を照らす街灯が屋内にあることをはじめ、自動車も家具も本来の用途とは大きくかけ離れていて、もはやシュールというべき光景を生み出していました。


右:西野達「達仏-仏陀は生きている(九尊仏)」 2020年

「達仏」と名付けられた樹木を素材にした作品も興味深いかもしれません。サザンカやヤマモモの自然の木の枝には、観音などの仏像を彫られていて、黄金色に染まっていました。かつて西野は、熊本の利用されなくなった森を再生すべく、立木に33体の仏像を掘っては、地域の祈りの場を築くプロジェクトを展開しました。今回は東京バージョンとも呼べるかもしれません。


西野達「達仏-仏陀は生きている(九尊仏)」 2020年 部分

なお「達仏」はあくまでも自然の樹木であることから、成長により、見え方なり形が変化することがあるそうです。よって新たに築かれた「達仏」も、今後、思わぬ姿を見せるのかもしれません。


西野達「無題-成長するA氏の首像」 2020年

近年、21_21 DESIGN SIGHTの「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」(2017年)やBankArt Studio NYKの「日産アートアワード2013」(2013年)などにも出展してきた西野ですが、私が最も印象に残っているのは、2009年にARATANIURANOで開催された個展、「バレたらどうする」でした。

まるでギャラリーの天井を落下させたような空間からして鮮烈で、標識のついた街灯が壁を打ち抜いては、事務所を照らす光景に度肝を抜かれたものでした。


「西野達 やめられない習慣の本当の理由とその対処法」会場風景

今回は空間こそ破壊していないものの、再び街灯も用い、力技とも受け止められるようなダイナミックな作品を展示していました。こうした他にはないオリジナルなアプローチこそ、西野作品の大きな魅力かもしれません。

西野は、2月15日からANOMALYと同じ天王洲エリアではじまった「大阪万博50周年記念展覧会」にも参加し、会場である天王洲オーシャンスクエア(NAGIパティオ)にて「日常のトンネル」なる作品を出展しています。



「大阪万博50周年記念展覧会」
・会期:2020年2月15日(土)~24日(月)
・休館日:2月17日(月)
・時間:平日/13:00~19:00 土日祝/11:00~20:00 *無料
https://www.expo70-park.jp/50th/

会期が重なるタイミングは長くはありませんが、あわせて見に行くのも面白いかもしれません。


2月22日まで開催されています。

「西野達 やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 ANOMALY@ANOMALYtokyo
会期:2020年1月25日(土)~2月22日(土)
休廊:日、月、祝祭日
時間:11:00~18:00。金曜は20時まで。
料金:無料
住所:品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩約8分。東京モノレール羽田空港線天王洲アイル駅中央口より徒歩約11分。京浜急行線新馬場駅より徒歩12分。
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「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」 国立新美術館

国立新美術館
「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」
2020/1/11~2/16



国立新美術館で開催中の「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」を見てきました。

文化庁の「新進芸術家海外研修制度」に参加したアーティストの活動を紹介する「DOMANI・明日展」も、今年度で第22回目を迎えました。

今回は「傷ついた風景の向こうに」のサブタイトルの元、様々な世代より選ばれた計11名のアーティストが、写真や絵画、彫刻、映像やインスタレーションなどの作品を出展していました。


石内都 展示風景

プロローグの「身体と風景」における石内都と米田知子の写真に魅せられました。石内は人間の皮膚を接写した「傷跡」シリーズなどを出品していて、モノクロームに沈んだ傷跡が、皮膚の細かな肌理と相まってか、まるで古い彫刻を捉えたような静謐な雰囲気を醸し出していました。


左:米田知子「ビーチ ノルマンディー上陸作戦の海岸/ソードビーチ・フランス」 2002年 IZU PHOTO MUSEUM

一方の米田は、多くの人々が命を落とした、20世紀の世界大戦の戦場などを撮影していて、時を経て大きく変化した光景を有り体に写し出していました。今や海水浴場とも化したノルマンディーなどの光景は、あまりにも平穏でかつ美しいため、かつて悲しい記憶や歴史があったことすら気が付かないかもしれません。


藤岡亜弥「川はゆく 2020」 2013〜2019年 作家蔵

写真家の藤岡亜弥も「傷ついた風景」を写した人物の1人でした。その場所とは、藤岡の故郷である広島で、爆心地のまわりを、同地に流れる川の視点から捉えていました。


藤岡亜弥「川はゆく 2020」より 2013〜2019年 作家蔵

川の周辺に行き交う人々の様子を写した写真は、まさに広島の日常そのものでしたが、その向こうに垣間見える原爆ドームの存在などによって、かつての記憶が否応なしに呼び覚まされるのかもしれません。


佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵

実写を元にアニメーションを描くロトスコープの技法で知られる佐藤雅晴は、原発事故によって大きな影響を受けた富岡町や南相馬に取材し、映像の「福島尾行」を制作しました。


佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵

ここでは人のいない公園やフレコンバックの積み上げられた風景とともに、常磐線の車窓などがロードムービー風に映されていて、アニメと実写が交錯しつつも、紛れもない福島のリアルが捉えられていました。


佐藤雅晴「福島尾行」 2018年 個人蔵

なお佐藤は、震災後の福島の風景を、病に侵されていく自らの身体と重ねながら映像を作っていましたが、2019年の3月に亡くなられてしまいました。深くご冥福をお祈りしたいと思います。


日高理恵子 展示風景

30年以上も空を見上げては樹木を描き続ける日高理恵子による、岩絵具によって空と樹木を描いた「空との距離」も魅惑的ではないでしょうか。


日高理恵子「空との距離 II」 2002年 新潟県立近代美術館・万代島美術館

いずれも白んだ空の下、枝や幹を四方に広げる光景を表していて、葉を繁らせている樹木がある一方で、ほぼ全く付けていないものもありました。真冬の寒い曇天の下、樹木を見上げた時に目に飛び込む風景などを連想させるかもしれません。どこか刹那的でもありました。


宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵

12万枚もの金木犀の剪定葉を用い、天井高のある新美術館のスペースにて見事なインスタレーションを制作したのが、現代美術家の宮永愛子でした。


宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵

金木犀の葉は薄いベールのように天井付近から床の台へと垂れ下がっていて、まるで水が落ちて小波が起きたかのように広がっていました。


宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵

この「景色のはじまり」は、震災のあった2011年春に完成した作品で、宮永はただひたすらに葉を集め、地図を作るように制作したとしています。


宮永愛子「景色のはじまり」 2011〜2012年 高橋龍太郎コレクション、作家蔵

いずれも葉肉を取り、脱色した葉脈の部分が浮き上がっていて、当然ながら触れることは叶いませんが、手にした瞬間に溶けてしまうかのようなはかなさも感じました。


畠山直哉 展示風景

東日本大震災によって実家を失った写真家の畠山直哉の写した、故郷の陸前高田をはじめとする、津波の痕跡の残る三陸地方の風景を捉えた新シリーズも見逃すことができません。


今回ほど全体を貫く軸が際立った「DOMANI展」もなかったかもしれません。戦争や原爆の惨禍、それに東日本大震災と原発事故などに伴う「傷ついた風景」が、各作家の作品によって繋がれつつ、「明日」を見据えているように思えました。



気がつけば会期末を迎えていました。2月16日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。

「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」(@DOMANI_ten) 国立新美術館@NACT_PR
会期:2020年1月11日(土)~2月16日(日)
休館:火曜日。但し2月11日(火・祝)は開館、2月12日(水)は休館。
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円。高校生、18歳以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「ダムタイプ|アクション+リフレクション」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」
2019/11/16~2020/2/16



東京都現代美術館で開催中の「ダムタイプ|アクション+リフレクション」を見てきました。

1984年に古橋悌二などの京都市立芸術大学の学生を中心に結成され、美術、演劇、ダンスの各ジャンルを横断して活動を続けてきたメディアアーティストグループのダムタイプは、今年で創設35周年を迎えました。

それを期したのが「ダムタイプ|アクション+リフレクション」と題した展覧会で、2018年にポンピドゥー・センター・メッス分館で行われた個展の作品に新作を加えた、計6点の大型インスタレーションなどを展示していました。


「TRACE/REACT II」2020

作品の中へ没入する感覚とはこのことを指すのかもしれません。今回の新作に当たるのが「TRACE/REACT II」で、鏡面を床にした空間の中、無数のテキストが四方の壁を上下へスピーディーに展開していました。


「TRACE/REACT II」2020

それらは相互の関係によって位置が決定していて、テキストの動きを目で追っていくと、それこそ「重力からの解放」(解説より)を思わせるような、空間そのものが落下する錯覚に囚われました。


「Playback」2018

「Playback」は、1988年初演のパフォーマンス「Pleasure Life」をベースに、展覧会「Against Nature」のために制作されたインスタレーションのリモデル版で、全部で16台のターンテーブルの上には、白く透明感のある光を放ったレコード盤が載せられていました。


「Playback」2018

レコードは、1980年代当時のダムタイプの音楽や、NASAの探査機ボイジャーに記録された音源に加え、新たにレコーディングされた音素材が再生されていて、どこか無機的とも呼べる音響空間を築き上げていました。


「pH」2018 「LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE」2018

あたかも巨大スキャナーのように空間を前後していたのが「pH」で、1990年初演の同名のパフォーマンスの舞台装置を再現して展示していました。

ちょうど空間奥のビデオ「LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE」を背に、白い明かりを放つレバーがゆっくりと進んでいて、フレームの中へも実際に入り込むことが可能でした。

フレームは緩やかに最奥部付近へ達したかと思うと、突如、あたかも観客を打ち払うかのように反転していて、スピードを増しては出発点に戻っていました。その一連の運動がひたすらに続いていて、まさに舞台ならぬ、観客が装置に入り込むことで成立するような作品にも思えました。


「MEMORANDUM OR VOYAGE」2014

ダムタイプは1995年にメンバーの古橋が急逝した後、高谷史郎のディレクションの元、従来通り共同制作によって作品を発表していて、会場でも過去のアーカイブから長年の活動を追うことも出来ました。

同時開催中のコレクション展、「MOTコレクション 第3期 いまーかつて 複数のパースペクティブ」が充実していました。



これは約3年間の改修休館の間に収蔵された作品の中から、主に1930年代から近年までの約160点を紹介する企画で、中でも約30点もの油彩や水彩の並んだオノサト・トシノブや、実業家でコレクターとしても知られる福富太郎の戦争画コレクションには目を見張るものがありました。



また記憶や神話に歴史などを素材としつつ、言葉とともに「過剰」(解説より)なまでの絵画空間を展開した岡本信治郎の作品も目立っていました。広い展示室を効果的に活かしていたのではないでしょうか。



リニューアル後のコレクション展は毎度目が離せません。あわせてお見逃しなきようにおすすめします。


2月16日まで開催されています。

「ダムタイプ|アクション+リフレクション」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)
休館:月曜日。但し1月13日は開館。年末年始(12月28日~1月1日)、1月14日。
時間:10:00~18:00
 *2月7日(金)と2月14日(金)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1120)円、大学・専門学校生・65歳以上1000(800)円、中高生500(400)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOTコレクションも観覧可。
 *同時開催の「MOTアニュアル2019展」、「ミナ ペルホネン展」とのセット券もあり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」
2019/11/16~2020/2/16



東京都現代美術館で開催中の「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」を見てきました。

1999年の第1回開催以来、主に若い世代の現代美術家の表現を紹介してきた「MOTアニュアル」も、今年で15回目を迎えました。

今回のアニュアルに参加したのは、THE COPY TRAVELERS、PUGMENT、三宅砂織、吉増剛造プロジェクト|KOMAKUS + 鈴木余位、鈴木ヒラクで、ファッションや詩、写真に映像、音響やペインティングなど、実に幅広い分野の作品が展示されていました。


THE COPY TRAVELERS 会場風景

加納俊輔、迫鉄平、上田良の3人からなるTHE COPY TRAVELERSは、バンコクへ旅して出会った大量の印刷物などの情報をコピーし、切り貼りしては、ライトボックスに展示していて、本来的な意味の引き離された、何物でもない無数のイメージを築き上げました。


THE COPY TRAVELERS 会場風景

自らを「コピー師」と名乗るTHE COPY TRAVELERSは、多様に質感の異なる素材をコピーしていて、もはやシュールとも呼べる世界を構築していながら、どこかバンコクの都市に渦巻く熱気やエネルギーも感じられました。


三宅砂織 会場風景

三宅砂織は、1936年にベルリン・オリンピックに体操選手として参加し、1964年の東京オリンピックの運営に関わった男性を素材にした作品を展開していて、ポツダムの庭園の風景の光と影の反転した映像などを見せていました。


三宅砂織「The missing shade 52-1」(2019年)シリーズより

カメラを用いず、印画紙に遮光物を置いて感光させるフォトグラムの技法を探求する三宅は、近年、他人が残した写真を透明フィルムに写して感光させる作品を手掛けていて、実体と虚像の狭間で浮遊するような独特の光景を表していました。


KOMAKUS「GHOST CUBE」(2019年)

詩人、吉増剛造の活動を記録するためのプロジェクトを展開する映像作家の鈴木余位、音響チームのKOMAKUSは、吉増の詩や言葉に関する映像やインスタレーションを出展していて、とりわけ詩の朗読をスピーカーに発したKOMAKUSの「GHOST CUBE」は、何やら魂の原初的な叫びを聞くような並々ならぬ迫力が感じられました。


吉増剛造プロジェクト|鈴木余位+KOMAKUS 会場風景

また線のような文字が流れるように紡がれる映像も、あたかも詩の衝動が筆に憑依したかのようで、生々しいまでの創作の瞬間を目の当たりにすることが出来ました。


鈴木ヒラク「Interexcavation #1-#22」(2019年) 会場風景

ラストの鈴木ヒラクの「Interexcavation(相互発掘)」と名付けられたシリーズも大変な力作でした。赤い土を背景に、アクリル、シルバーインクなどによって有機物とも紋章とも受け取れるような模様を展開していて、しばらく眺めていると宇宙に瞬く天体のイメージも浮かび上がってきました。


鈴木ヒラク「Interexcavation #1-#22」(2019年)より

鈴木は世界各地の遺跡に残された線の情報を採取していて、今回の赤い土にも洞窟壁画の記憶が重ねられているそうです。


鈴木ヒラク「Interexcavation #1-#22」(2019年)より

赤い土と銀色の線や点は素早く交差しつつ、絡み合っては、自在に変化していて、まるでそれ自体が意思を持っては動いているかのようでした。

さて前回のエントリでもご紹介しましたが、同時開催中の「ミナ ペルホネン展」が混み合っています。「MOTアニュアル2019」は空いていましたが、現代美術館のチケットブースは他の展覧会と共通のため、チケット購入まで時間がかかる場合があります。これからお出かけ際はご注意下さい。

なお現代美術館のエントランスホールでは、「東京2020公式アートポスター展」も行われていました。


東京2020公式アートポスター 大竹伸朗

これは国内外のアーティストが、今年の東京オリンピック、またはパラリンピックをテーマにしたポスターを制作したもので、今回の展覧会で初めてのお披露目となります。


東京2020公式アートポスター 山口晃

現代アーティストの大竹伸朗や鴻池朋子、それに山口晃の他、デザイナーの佐藤卓に漫画家の荒木飛呂彦、さらには公式エンブレムを手掛けた野老朝雄らといったメンバーが名を連ねていました。


東京2020公式アートポスター 野老朝雄

また見やすいかどうかとは別に、エンブレムを立体的に展開したような展示方法も面白いのではないでしょうか。こちらは無料で観覧することが出来ました。


2月16日まで開催されています。

「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)
休館:月曜日。但し1月13日は開館。年末年始(12月28日~1月1日)、1月14日。
時間:10:00~18:00
 *2月7日(金)と2月14日(金)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1040)円、大学・専門学校生・65歳以上900(720)円、中高生500(400)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOTコレクションも観覧可。
 *同時開催の「ダムタイプ展」、「ミナ ペルホネン展」とのセット券もあり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」
2019/11/16〜2020/2/16



東京都現代美術館で開催中の「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」を見てきました。

デザイナーの皆川明が設立したミナ ペルホネンは、長年着用できる「特別な日常服」をコンセプトに展開し、ファッションをはじめ、インテリアや食器など生活全般のブランドとして人気を集めてきました。

そのミナ ペルホネンの25周年を期した展覧会が「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」で、生地や衣服、インテリア、食器などのプロダクトをはじめ、デザインの原画や映像、さらには挿し絵等を交え、皆川の「ものづくり」とアイデアを明らかにしていました。

会場内の一部の撮影が可能でした。



ミナ ペルホネンの「ものづくり」を、「種」や「根」、それに「土」や「実」、「森」などの自然界に例えた会場構成からして魅惑的かもしれません。そのうちの「森」では、設立当初から最新の2020年春夏コレクションが約400着以上も展示されていて、それこそ衣服の森に立ち入ったかのようでした。



そして衣服は年代別ではなく、視覚や造形的な観点より配置されていて、色や模様、それにシルエットの1つ1つが主張しつつも、全体で大きく響き合っているように感じられました。これはミナ ペルホネンが、今も昔の服も分け隔てなく、価値に変わりがないとする世界観に基づいていて、触れることは叶わないものの、手触り感を思わせる豊かな素材にも見入るものがありました。



一概に言えませんが、樹木や花など、自然を連想させる模様が多いのも特徴かもしれません。また揺らぎのある線が独特の風合いを醸し出してもいて、例えば蝶を象った小さなアクセサリーにも魅せられました。



過去、現在、未来におけるミナ ペルホネンのアイデアを紹介したのが「種」と題したコーナーで、衣服、バック、テーブルウェア、スケッチなど、実に様々な作品が紹介されていました。



またそれぞれのプロダクトは、大小のまちまちな木製の棚や台の中で展示されていて、あたかもアイデアのかけらを探して歩くような楽しみも感じられました。



この「種」の展示で特に目立っていたのが、まるで巻貝のように螺旋を描く小屋、「シェルハウス」でした。これは皆川が将来の夢として構想している、「質素で心地良い」(解説より)宿泊施設のプロトタイプで、実際に中に立ち入ることも出来ました。



手前の開口部より半円型の室内に入ると、奥にキッチンが設置されていて、上にはベットの置かれた寝室がありました。小さいながらも過不足ない、シンプルな空間と言えるのではないでしょうか。



外から内へと連続するような螺旋型ゆえか、中へ進むほど建物に包まれるような感覚に囚われて、皆川の意識する「胎内的」との言葉も肌で感じられました。



なお「シェルハウス」は、建築家の中村好文によって設計されましたが、この他、ミナ ペルホネンを着る人の日常を映像で捉えた現代美術家の藤井光や、全体の会場デザインを担った田根剛など、専門家との協働も大いな見どころと言えるかもしれません。



ちなみにミナはフィンランド語で私、ペルホネンは蝶を意味するそうです。25年に渡って多くの人々の心を捉えてきたブランドは、今後、より幅広い生活シーンで愛用されていくのかもしれません。



最後に混雑の状況です。会期末が迫ってきましたが、私はタイミング良く、平日の夕方前に観覧することができました。よって入場に際して待機列こそなかったものの、人気の展覧会ゆえか、場内は想像以上に賑わっていました。


美術館の公式アカウントによれば、直近では2月2日の日曜に、チケット購入まで30分の待ち時間が発生しました。なおチケットはぴあやセブンチケットなどでも事前に購入可能です。



2月7日と14日(金)に限り、夜8時までの延長開館が決まりました。週末の混雑を避けるとすれば、この金曜の夕方以降、夜間時間帯が狙い目となるかもしれません。



2月16日まで開催されています。東京での展示を終えると、兵庫県立美術館へと巡回(2020年6月27日〜8月16日)します。

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」(@mina_tsuzuku) 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:2019年11月16日(土)〜2020年2月16日(日)
休館:月曜日。但し1月13日は開館。年末年始(12月28日〜1月1日)、1月14日。
時間:10:00~18:00
 *2月7日(金)と2月14日(金)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・専門学校生・65歳以上1000円、中高生600円、小学生以下無料。
 *20名以上の団体は当日料金より2割引。
 *MOTコレクションも観覧可。
 *同時開催の「ダムタイプ展」、「MOTアニュアル2019展」とのセット券もあり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 パナソニック汐留美術館

パナソニック汐留美術館
「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 
2020/1/11~3/22



パナソニック汐留美術館で開催中の「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」のプレス内覧会に参加してきました。

日本に戦前から戦後にかけ、暮らしにモダンデザインを根付かせるべく、多様に活動した建築家やデザイナーらがいました。

そうしたモダンデザインの形成過程を追うのが「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」で、ブルーノ・タウトや井上房一郎、それに剣持勇、イサム・ノグチなど7名の作家の作品や資料、約160点が展示されていました。


ブルーノ・タウト「煙草入れ」 1934年 他

はじまりは1933年に来日し、工芸デザインの指導や執筆活動を行った建築家、ブルーノ・タウトで、彼のデザインした煙草入れなどの工芸品や書簡などが紹介されていました。ここで重要なのは、タウトを高崎に迎えた実業家、井上房一郎の存在で、軽井沢と銀座に出店し、タウトのデザインした家具や工芸を販売した「ミラテス」に関する作品も目立っていました。


右上:アントニン・レーモンド「シュリ・アウロビンド・アシュラム宿舎透視図」 1934〜1942年

その井上と親交を持ったのが、チェコ出身でアメリカ人建築家のアントニン・レーモンドと、フランス出身でデザイナーのノエミ・レーモンド夫妻でした。ここではレーモンドの設計した様々な建築の図面などが展示されていて、インドの修道院宿舎を水彩で美しく描いた透視図などに目を引かれました。


「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 レーモンド関連展示風景

日本の伝統建築を取り入れたレーモンドスタイルと呼ばれる木造住宅は、当時の人々の心を捉え、後に井上はレーモンドの自邸を写した「旧井上房一郎邸」を建築しました。


右:アントニン・レーモンド「抽象」

レーモンドは建築設計のみならず、絵や作陶にも造詣が深く、建物の中に夫妻のデザインした壁画や陶芸などを設置しました。また音楽にも関心を寄せていて、アマチュアのチェロの演奏家でもありました。マルチな芸術家と言えるかもしれません。


剣持勇「スタッキングスツール202」 1959年 他

「ジャパニーズモダン」を提唱したことで知られる剣持勇は、タウトに家具デザインを学んでいて、彼のデザインした椅子もいくつか並んでいました。戦前、技術官僚として素材と代用品の研究に勤しんだ剣持は、戦後、進駐軍の家族住宅用家具などの生産にも携わり、1955年に独立すると、事務所の1階にデザイン商品を販売する「リビングアート」を併設しました。


剣持勇「丸椅子C-316」 1960年 他

こうした椅子が展示の中心を占めているのも特徴で、剣持のアームチェアやナカシマのコノイド・チェアをはじめ、井上、タウトらの設計した名作椅子が約35点ほど公開されていました。


ジョージ・ナカシマ「グラスシート・チェア」 1944年 他

日系二世アメリカ人のジョージ・ナカシマは、1934年から東京のレーモンド事務所に勤めた経歴を持っていて、軽井沢の聖ポール教会(現在の軽井沢聖パウロカトリック教会)などの建築現場監督の仕事を担いました。


ジョージ・ナカシマ「コノイドベンチ」 1972年 他

また後に建築を離れると家具作りに邁進し、1960年には方持ち梁を用いた、彫刻的とも言える「コノイド・チェア」を発表しました。ナカシマは日本の伝統木工技術に学びつつ、手工業の産業化を目指しては、家具を生産しました。


「慶應義塾大学 萬來舎 模型」

彫刻や庭園、家具デザインと幅広い分野で業績を残したイサム・ノグチは、1950年に画家の猪熊弦一郎の紹介にて剣持勇を訪ね、工芸指導所内にて家具や彫刻を製作しました。そして父・米次郎が教授を勤め、谷口吉郎の設計した慶應義塾大学の萬來舎のインテリアと庭園のデザインを手掛けました。


イサム・ノグチ「あかり」シリーズ

ラストはノグチの作品でも有名な「あかり」シリーズで、実際に光を灯した状態にて置かれていました。1940年代から内部に光源を持つルナー彫刻を作っていたノグチは、1951年に鵜飼見学で岐阜を訪ねると、伝統的な提灯に興味を抱き、和紙と竹による照明彫刻、すなわち「あかり」を考案しました。


「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」会場風景

会場のデザインは、2019年度の日本建築学会賞を受賞した前田尚武が手掛けていて、梁、柱、床を構成した日本の伝統的空間をモチーフとしていました。ともかく作品や資料は所狭しと並んでいて、斜めに切り込むような動線も特徴的と言えるかもしれません。


「旧井上房一郎邸」  

なお本展は、タウトや井上にゆかりのある高崎市美術館を皮切りに、東北歴史博物館、そしてここパナソニック汐留美術館へと続いて開催されてきた巡回展です。そして高崎市美術館には、先にも触れた「旧井上房一郎邸」がそのまま保存されています。


「旧井上房一郎邸」

実のところ、私はこの展覧会を高崎でも見ましたが、各デザイナーらの作品を別々の空間で紹介していたのに対し、汐留ではそれぞれの交流を強調したような構成になっていて、互いの影響関係について良く知ることが出来ました。基本的にはほぼ同じ作品が出展されていたものの、また違った印象が与えられるかもしれません。


「旧井上房一郎邸」 *いずれも高崎で撮影

レーモンドスタイルを色濃く反映した「旧井上房一郎邸」は、2010年以降、美術館の開館日に広く一般に公開されています。改めて見学に出かけるのもまた良いかもしれません。


ノエミ・レーモンド「照明」 1930年代

本エントリの写真は主催者の許可を得て内覧会で撮影しましたが、一般会期中もノグチの「あかり」のコーナーのみ撮影が出来ます。


3月22日まで開催されています。

「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」 パナソニック汐留美術館
会期:2020年1月11日(土)~3月22日(日)
休館:水曜日。
時間:10:00~18:00 
 *入館は閉館の30分前まで。
 *2月7日(金)、3月6日(金)は20時まで開館。
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生400円、小学生以下無料。
 *65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分

注)写真はプレス内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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2020年2月に見たい展覧会【森田恒友/津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和/ピーター・ドイグ】

関東では年が明けても暖かく、あまり冬らしい日がありませんでしたが、ここに来て冷えてきました。風邪のひきやすい時期でもありますが、変わりなくお過ごしでしょうか。

1月に見た展示では、全面新装オープンし、コレクションも充実したアーティゾン美術館の「見えてくる光景 コレクションの現在地」、東京の美術館では初の回顧展となったオペラシティアートギャラリーの「白髪一雄展」、そして会期中の突然の訃報にも驚かされた世田谷美術館の「奈良原一高のスペイン―約束の旅」などが強く印象に残りました。

2月の興味深い展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「たば塩コレクションに見る ポスター黄金時代」 たばこと塩の博物館(~2/16)
・「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」 国立新美術館(~2/16)
・「千田泰広―イメージからの解放」 武蔵野市立吉祥寺美術館(~2/23)
・「あざみ野フォト・アニュアル 田附勝 KAKERA きこえてこなかった、私たちの声展」 横浜市民ギャラリーあざみ野(~2020/2/23)
・「第12回恵比寿映像祭 時間を想像する」 東京都写真美術館(2/7~2/23)
・「上村松園と美人画の世界」 山種美術館(~3/1)
・「所蔵作品展 パッション20 今みておきたい工芸の想い」 東京国立近代美術館工芸館(~3/8)
・「何必館コレクション ロベール・ドアノー展」 そごう美術館(2/1~3/15)
・「FACE展 2020 損保ジャパン日本興亜美術賞展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(2/15~3/15)
・「祈りの造形 沖縄の厨子甕を中心に」 日本民藝館(~3/22)
・「生誕120年・没後100年 関根正二展」 神奈川県立近代美術館 鎌倉別館(2/1~3/22)
・「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」 埼玉県立近代美術館(2/1~3/22)
・「狩野派―画壇を制した眼と手」 出光美術館(2/11~3/22)
・「鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵―朝日智雄コレクション」 太田記念美術館(2/15~3/22)
・「虎屋のおひなさま」 根津美術館(2/22~3/29)
・「シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」 ポーラ美術館(~4/5)
・「江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-」 江戸東京博物館(2/8~4/5)
・「奇蹟の芸術都市バルセロナ」 東京ステーションギャラリー(2/8~4/5)
・「村井正誠 あそびのアトリエ」 世田谷美術館(2/8~4/5)
・「森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私」 原美術館(~4/12)
・「第23回岡本太郎現代芸術賞」 川崎市岡本太郎美術館(2/14~4/12)
・「生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」 練馬区立美術館(2/21~4/12)
・「森英恵 世界にはばたく蝶」 水戸芸術館(2/22~5/6)
・「澄川喜一 そりとむくり」 横浜美術館(2/15~5/24)
・「画家が見たこども展」 三菱一号館美術館(2/15~6/7)
・「ピーター・ドイグ展」 東京国立近代美術館(2/26~6/14)

ギャラリー

・「西野達 やめられない習慣の本当の理由とその対処法」 ANOMALY(~2/22)
・「ものいう仕口―白山麓で集めた民家のかけら」 LIXILギャラリー(~2/22)
・「サーニャ・カンタロフスキー  Paradise」 タカ・イシイギャラリー 東京(~2/22)
・「アイノとアルヴァ 二人のアアルト 建築・デザイン・生活革命」 ギャラリーA4(~2/27)
・「ジェームス・リー・バイヤース 奇想詩」 SCAI THE BATHHOUSE(~2/29)
・「ベンジャミン・バトラー 二色、単彩、そしてそれ以外の風景」 小山登美夫ギャラリー(2/1~2/29)
・「ポーラ ミュージアム アネックス展2020 前期展示」 ポーラ ミュージアム アネックス(2/21~3/14)
・「河口洋一郎 生命のインテリジェンス」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~3/19)
・「増田信吾+大坪克亘展」 TOTOギャラリー・間(~3/22)
・「記憶の珍味 諏訪綾子展」 資生堂ギャラリー(~3/22)
・「師岡清高写真展」 キヤノンギャラリー S(2/13~3/28)
・「コズミック・ガーデン サンドラ・シント展」 メゾンエルメス(2/11~5/10)

今月は明治から昭和にかけて活動した2人の画家に注目したいと思います。まずは埼玉県立近代美術館です。「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」が開催されます。



「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」@ 埼玉県立近代美術館(2/1~3/22)

1881年、埼玉県の熊谷に生まれた森田恒友は、大学で洋画を学び、渡仏してはセザンヌに感銘を受けて画家としてキャリアを築くも、後に国内の風景を捉えた「清澄」(解説より)な日本画を描くようになりました。


その森田の洋画、日本画、及び書簡やスケッチなど250点もの作品資料が一堂に公開される回顧展で、初期から晩年までの足跡を時間を追って辿っていきます。実のところ私は森田の作品を殆ど知らず、チラシ表紙の「緑野」にて初めて興味を覚えましたが、ご当地の埼玉での展示でもあり、画家を再評価する切っ掛けになるかもしれません。

奇しくも森田と1歳違いでした。練馬区立美術館にて画家、津田青楓の回顧展が行われます。



「生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」@ 練馬区立美術館(2/21~4/12)

1880年生まれの津田青楓は、森田と同様に渡仏したのち、アカデミーで学んでは洋画を描くものの、後に離れては文人画風の作品を手がけました。また青楓は夏目漱石との関わりながら本の装釘を担ったり、私淑した良寛の研究の他、随筆や画論の文筆でも幅広く活動してきました。

その青楓の初のまとまった回顧展で、交友のあった漱石と経済学者の河上肇、それに良寛の3人を軸に、青楓の生涯を振り返っていきます。

ラストはイギリスの現代画家の日本初個展です。東京国立近代美術館で「ピーター・ドイグ展」が開かれます。



「ピーター・ドイグ展」@ 東京国立近代美術館(2/26~6/14)

エジンバラで生まれ、「ロマンティックかつミステリアスな風景を描く」(公式サイトより)ピーター・ドイグは、世界のアートシーンでも注目を集め、近年、テートやパリ市立近代美術館などで個展を重ねるなどして活動してきました。

そのドイグの画業を日本で初めて本格的に紹介する展覧会で、初期から現在の最新作までの約70点が公開されます。必ずしも国内ではまだ一般によく知られた画家でもないかもしれませんが、ともすると今回の個展で大いに人気を博すかもしれません。

中国では新型肺炎が猛威をふるい、日本でも感染拡大が懸念されています。今のところ展覧会などは通常通り行われていますが、今後の状況次第では何らかの影響を与えてくるかもしれません。病気に罹った方の回復をお祈りするとともに、1日も早い収束を願ってやみません。

それでは今月もどうぞよろしくお願いします。
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