都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ミルチャ・カントル展」 メゾンエルメス
「あなたの存在に対する形容詞 ミルチャ・カントル展」
4/25~7/22
メゾンエルメスで開催中の「あなたの存在に対する形容詞 ミルチャ・カントル展」を見てきました。
1977年、ルーマニアに生まれ、パリを拠点にする現代アーティスト、ミルチャ・カントルは、これまでにチューリッヒ美術館で個展を開催したほか、日本でもヨコハマトリエンナーレや、いちはらアート×ミックスに参加するなどして、幅広く活動して来ました。
そのカルトンの日本初個展が、「あなたの存在に対する形容詞」と題した展覧会で、エルメスの空間を特徴付ける、ガラスブロックの「透明性」に着想を得た新作を展示していました。
しかしカルトンは、どのような手法にて、透明性を作品に取り込んでいたのでしょうか。
ミルチャ・カントル「あなたの存在に対する形容詞」 2018年
まず目に飛び込んで来たのが、無数の透明なアクリル板のオブジェで、幾重にも折り重なって置かれていました。いずれの板にも柄がついていて、看板のようにも見えなくありません。そして表面には、指紋の跡のような汚れがたくさん付着していました。なにやら謎めいていて、この作品のみを見ただけでは、意味ところは分からないかもしれません。
その作品の横には、やや間口の広い引き戸があり、中こそ一切伺えないものの、実際に開けて、入ることが出来ました。
ミルチャ・カントル「風はあなた?」(上部) 2018年
すると開けたのが、まさにガラスブロックの空間で、空中にはモビール状の金属のパイプがたくさん吊られていて、手前には透明なガラスによる衝立のようなオブジェが立てられていました。そして前者の金属パイプは、ジャラジャラと鐘か風鈴のような音を打ち鳴らしていました。あえて言えば、打楽器のウインドチャイムの響きにも近いかもしれません。
ミルチャ・カントル「風はあなた?」 2018年
しかしながら音は直ぐに消えてしまいました。どうしたことかと思い、しばらく眺めていると、ドアが開き、人が入ってくることで、初めて鳴らされることに気がつきました。実際のところ、作品はドアの開閉と連動していて、ドアが開くことでワイヤーが動き、音が発生する仕組みになっていました。ずばり、タイトルも「風はあなた?」で、まさに風の作用を、人、すなわち鑑賞者の動きに置き換えていたわけでした。
ミルチャ・カントル「呼吸を分かつもの」(手前) 2018年
また、透明な衝立は「呼吸を分かつもの」呼ばれで、蝶番で屏風のように折れ曲がり、表面には白い有刺鉄線のような模様が広がっていました。はじめは何らかの顔料なりで塗られたものかと思い、目を凝らすと、なんと指紋であることが分かりました。かねてよりカントルは、指紋をドローイングの手段として用いてきたそうです。意外な素材でもあり、近づかないと良く分からないかもしれません。
ミルチャ・カントル「あなたの存在に対する形容詞」 2018年
さて、先のアクリル板の答えは、もう1つの映像に登場しました。これこそが表題の「あなたの存在に対する形容詞」で、男女を問わず、数十人の集団が、アクリル板を持ち、東京の街中をひたすらにデモ行進する姿が映し出されていました。
ミルチャ・カントル「あなたの存在に対する形容詞」 2018年
これはカントルが2003年にアルバニアで制作した「The landscape is changing」に連なる新作で、アクリル板は「透明な主張」(解説より)であることから、まさにスローガン云々ではなく、一人一人のデモの参加者の存在こそに意味があるというメッセージが込められています。そして「透明な主張」を掲げたデモ行進は、約40分にも及んでいました。
【ニュース】ミルチャ・カントルが銀座メゾンエルメスで日本初個展を開催https://t.co/nf1xva1Q6e#MIRCEACANTOR #銀座メゾンエルメス pic.twitter.com/lV121lgsJw
— WWD JAPAN (@wwd_jp) 2018年4月25日
それにしてもガラスブロックを借景にしたインスタレーションは、さすがにエルメスの空間そのものから着想を得ているだけに、終始、美しく映えて見えるのではないでしょうか。時折、響き渡る鐘の音に、風を感じながら見るのも、また良いかもしれません。
7月22日まで開催されています。
「あなたの存在に対する形容詞 ミルチャ・カントル展」 メゾンエルメス
会期:4月25日(水)~7月22日(日)
休廊:エルメス銀座店の営業日に準ずる。
時間:11:00~20:00
*日曜は19時まで。入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」 横浜高島屋ギャラリー
「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」
4/25~5/7
横浜高島屋ギャラリーで開催中の「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」を見てきました。
ミニチュア写真家の田中達也は、日用品や食品などを用い、何らかの場面を見立てたジオラマを作り上げては、写真作品として発表してきました。
「食器ングな事故」
青いスポンジを使った作品に魅せられました。何ら変わったところもない、食器洗い用のスポンジが2つ並んでいますが、その上の僅か2センチにも満たないミニチュアの人形が重要で、スポンジを波に見立て、おそらくはボートが転覆したのか、波間で溺れては、助けを求める人の光景を築き上げていました。
「リアルなメモ=メモリアル」
また「リアルなメモ=メモリアル」では、一冊のメモ帳の見開きをプールに見立て、ヤシの木のミニチュアと人形を添えることで、リゾート地でくつろぐ人々の光景を作り出しました。
「リアルなメモ=メモリアル」
その写真作品の元になるジオラマも、一部に展示されていました。それにしても一般的なノートにビーチを見出すことなど、全くをもって想像も付きません。アイデアにも魅力があるのではないでしょうか。
「吸水性の良い土地」
先の「食器ングな事故」と同様、家庭用のスポンジを利用した作品がありました。それが「吸水性の良い土地」で、今度はラクダのミニチュアを添え、黄色いスポンジを広大な砂漠に見立てていました。
「計算された浴室設計」
「計算された浴室設計」も面白い作品で、何と電卓の表示板を浴槽に見立て、お湯に浸かる人々の情景を作り出していました。なお田中は、こうした人形を、約5000体以上も所有していて、特にモチーフのサイズ感に合わせて変え、ポーズや服の色などをアレンジして用いているそうです。人形の動きや着衣も、田中のミニチュア写真作品にとって、重要な要素であるのかもしれません。
「スキーに行っトイレ」
「スキーに行っトイレ」では、トイレットペーパーをゲレンデに見立てていました。またセロハンテープをカウンターに見立て、食事を取り分けようとする様子を表した「カウンターテーブル」も楽しい作品ではないでしょうか。お気に入りの一点を探すには、さほど時間もかかりませんでした。
「収納下手な食器棚」
「収納下手な食器棚」では、小さな円い皿を重ねては、ピサの斜塔に見立て、たくさんの人々が、記念撮影を楽しむ様子を表現していました。
「芯シティ」
さらにホッチキスを並べた「芯シティ」では、自由の女神のフィギュアを添えることで、ニューヨークの摩天楼の光景を浮かび上がらせていました。何ら凝った仕掛けこそないものの、見事なまでに都市風景を表していて、まさにアイデアの勝利と言えるかもしれません。
「ネタで寝たふり」
にぎり寿司をベットに見立てた「ネタで寝たふり」は、「このあとおいしくいただきました」とキャプションに記されていたことから、実際の寿司を素材にした作品でした。ほかにもブロッコリーやオムライスなどの食品サンプルを使った作品も目を引きました。
「足跡をゴマ化された。。」 #黒ごま #足跡 pic.twitter.com/20gjySe7VV
— 田中達也 Tatsuya Tanaka (@tanaka_tatsuya) 2018年4月28日
なお作家の田中達也は、2011年からほぼ休むことなく、ツイッターやインスタグラムのアカウントでも、写真作品を発表しているそうです。そちらも要チェックではないでしょうか。
「新パン線」
2017年のNHK連続テレビ小説、「ひよっこ」のオープニングのミニチュアも、田中が手がけた作品でした。そのジオラマも一際、人気を集めていました。
「死んでもプラス思考」
場内は盛況でした。撮影も可能です。5月7日まで開催されています。
「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」 横浜高島屋ギャラリー
会期:4月25日(水)~5月7日(月)
休廊:会期中無休。
料金:一般800円、大学・高校生600円、中学生以下無料。
時間:11:00~20:00。
*但し最終日は18時まで。
*入場は閉場の30分前まで。:
住所:横浜市西区南幸1-6-31 横浜高島屋8階
交通:JR線、東急線、京急線、相鉄線、横浜市営地下鉄線、みなとみらい線横浜駅西口よりすぐ。
千葉市美術館にて「千葉のうまいもん!市」が開催されます
(拡大)
[千葉のうまいもん!市]
会場:千葉市美術館 1階さや堂ホール
日時:5月5日(土・祝) 11:00~17:00
内容:江戸時代中後期に全国各地で活躍した絵師たちを紹介する「百花繚乱列島−江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり」にちなみ、地元千葉のぜひ知っていただきたい美味しいもの、素敵なものを集めました!
http://www.ccma-net.jp/event_03.html
「千葉のうまいもん!市」は、現在開催中の「百花繚乱列島−江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり」に関し、地元千葉の飲食店や生花店などの集うイベントで、以下の6店が出店します。
・「kiredo」(ピタサンド、野菜)
四街道の畑からとれたての有機野菜をお届け。ボリューム満点のピタサンドは野菜のおいしさがぎゅっとつまっています。
・「豆NAKANO×WiCAN」(コーヒー)
こだわりの自家焙煎コーヒーを丁寧に一杯ずつハンド ドリップでご用意します。「利きコーヒー」の体験もできます。
・「葉菜屋 綴り菜」(お花)
千葉はお花の名産地。旬のお花や葉をおうちに飾りませんか?1輪からもお求めいただけます。
・「Beer O'clock」(ビール)(16時頃まで出店予定)
千葉でつくられた個性豊かなクラフトビールを、お昼から楽しめます。
・「Torigo e Cana」(アイシングクッキー)
食べるのがもったいないくらいキュートな手作りアイシングクッキー。展示作品をモチーフにしたオリジナルクッキーも 登場します。
・「麦香 天然酵母パンとマクロビおやつ」 (パン)
国産小麦とレーズンからおこされた酵母で、卵や乳製品は使わず、ゆっくりつくられたパンは体に優しいあじわいです。
パン、クッキー、ビール、コーヒー、そして野菜や生花などと多彩で、千葉の魅力を感じられるようなラインナップと言えるかもしれません。
また当日はキッズ向けのワークショップも行われ、こどもの日ならでは趣向も凝らされています。
[キッズワークショップ コイのぼりに変身!]
内容:立ち寄り形式の工作ワークショップです。鯉のぼりに変身できるポンチョをつくります。
対象:3才以上~小学6年生
時間:11:00~12:00、13:30~15:00
*各回とも受付は終了時間の15分前まで
定員:各回 先着15名(全30名)
参加費:100円(材料費)
なお現在、千葉市美術館では、江戸時代の全国各地のご当地の絵師を紹介する「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」が開催中です。私も早々に見てきました。
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」 千葉市美術館(はろるど)
北は北海道の松前から、西は長崎、南は鹿児島に至る絵師を網羅していて、中には生没年も不詳で、その名すら知られているとは言い難いマニアックな絵師も少なくありませんでした。
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」(出品リスト)
前期:4月6日(金)〜5月6日(日)
後期:5月8日(火)〜5月20日(日)
GWを挟んで展示替えも予定されています。もちろん後期も追いかけるつもりです。
5/5(土・祝)11:00~17:00は「千葉のうまいもん!市」を1階さや堂ホールにて開催!みなさんにぜひ知っていただきたい地元千葉の美味しいもの、素敵なものをご紹介するイベントです。野菜やお花、コーヒーにアイシングクッキー、パンにビールと選りすぐりのお店が出店します。ぜひお越しください! pic.twitter.com/9osweszEKe
— 千葉市美術館 (@ccma_jp) 2018年4月28日
「千葉のうまいもん!市」は、5月5日(土)に、千葉市美術館のさや堂ホールにて開催されます。
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:4月6日(金)~5月20日(日)
休館:5月7日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「週刊ニッポンの国宝100」が第30号に達しました
「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/
国宝応援団twitter:https://twitter.com/kokuhou_project
国宝応援プロジェクトFBページ:https://www.facebook.com/kokuhouproject/
「週刊ニッポンの国宝100」は、昨年9月より刊行がはじまったウィークリーブックで、おおむね週に1度、2件の国宝が特集されてきました。これまでにも「阿修羅」や「松林図屏風」をはじめ、「厳島神社」や「瓢鮎図」、それに「向源寺 十一面観音」など、彫刻、絵画、建築の名だたる国宝が登場しました。全50号の刊行が予定されています。
「週刊ニッポンの国宝100 30 醍醐寺/信貴山縁起絵巻/小学館」
節目の第30号は、「醍醐寺/信貴山縁起絵巻」で、表紙には、火炎を従えた醍醐寺の不動明王の姿が捉えられていました。赤々とした炎も鮮やかではないでしょうか。
まず「国宝名作ギャラリー」では、醍醐寺の建築物を鮮やかな写真図版で紹介し、「国宝鑑賞術」において、同寺の境内を俯瞰しつつ、建物や美術品の見どころを取り上げていました。醍醐寺は真言宗の大寺であることから、密教関係の名品が特に目立っているそうです。また醍醐天皇の御願寺でもあり、のちの天皇にも庇護されたことから、朝廷との結びつきが深く、華麗な密教美術が多く残されてきました。
そのうちの1つが「文殊渡海図」で、誌面では、全図から文殊の姿を原寸で掲載していました。獅子に乗る文殊の着衣や装身具も実に鮮やかで、いつもながらの高精細な図版により、細部の細部まで手に取るように見ることが出来ました。鎌倉時代後期の制作で、「文殊渡海図」の最高傑作でもあります。
さらに「国宝ワンモアミステリー」では、かの有名な秀吉の花見のエピソードにも触れ、当時の様子を描いた「醍醐花見図屏風」を引用していました。秀吉は花見のために畿内各地から700本の桜を取り寄せ、山道の両側に埋め込んでは花見を楽しみました。応仁・文明の乱にて荒廃していた醍醐寺を、座主のために再興しようとする秀吉の熱意が込められていたそうです。醍醐寺の座主、義演は、関白就任の際などで、秀吉と密接な関係にありました。
一連の密教壁画も、見応えがあるのではないでしょうか。これは醍醐天皇の冥福を祈るために建てられた、五重塔内部に描かれたもので、951年に完成した、作例の少ない平安期の貴重な壁画資料でもあります。また五重塔は、京都に残る最古の木造建築として知られています。
後半の「信貴山縁起絵巻」も読み応えありました。同絵巻は信貴山上の朝護孫子寺を中興した僧、命蓮にまつわる3つの奇跡を描いた作品で、細かい線描により、臨場感のある人物表現などを特徴としています。
驚いたのは、「国宝名作ギャラリー」における「延喜加持の巻」で、命蓮の加持祈祷により派遣された護法童子が、清涼殿の醍醐天皇の枕元へ到達する場面でした。通常、絵巻は右から左へ時間が進みますが、ここでは逆に童子が左から現れ、右の清涼殿へと至る光景を描いていました。
また「尼公の巻」には、日本最古ともされる猫の絵が登場していて、それも「国宝名作ギャラリー」で確認することが出来ました。猫は奈良時代に中国から渡来し、平安時代にはペットとして飼われていました。
さらに東大寺大仏殿に参詣する尼公の場面を原寸で掲載し、南都焼討以前の大仏の姿の様子を見ることも出来ました。創建当初の大仏の姿を知る資料としても、「信貴山縁起絵巻」は重要であるそうです。
「信貴山縁起絵巻」の現状模写プロジェクトについて触れた、「国宝ジャーナル」も興味深いのではないでしょうか。現状模写とは、人の想像力を排した純然たる模写で、東京藝術大学では2004年より国宝三大絵巻の現状模写を行って来ました。既に「源氏物語絵巻」と「伴大納言絵巻」が完成し、2017年より「信貴山縁起絵巻」の制作に取り掛かりました。おおよそ11年後の完成を目指しています。
そのほか、山下裕二先生の名物コラム、「未来の国宝・MY国宝」では、長沢芦雪の「虎図襖」が取り上げられていました。つい昨年、愛知県美術館の回顧展でも人気を集めたのは、記憶に新しいところかもしれません。
[第30号以降の週刊ニッポンの国宝のラインナップ]
30:醍醐寺/信貴山縁起絵巻
31:仏涅槃図/出雲大社
32:浄土寺/彦根屏風
33:明恵上人像/仁和寺
34:四天王寺扇面法華経冊子/法隆寺釈迦三尊像
35:葛井寺千手観音/薬師寺吉祥天像
36:志野茶碗 銘卯花墻/東大寺伽藍
37:羽黒山五重塔/聚光院花鳥図襖
38:辟邪絵/色絵雉香炉
39:勝常寺薬師三尊像/夕顔棚納涼図屏風
40:天燈鬼・龍燈鬼/金剛峯寺
41:浄瑠璃寺九体阿弥陀/二条城
42:東大寺不空羂索観音/観音猿鶴図
43:普賢菩薩/三佛寺投入堂
44:神護寺薬師如来/十便図・十宜図
45:玉虫厨子/臼杵磨崖仏
46:唐招提寺/火焔型土器
47:本願寺/鷹見泉石像
48:中宮寺菩薩半跏像/崇福寺
49:青不動/赤糸威鎧
50:深大寺釈迦如来/大浦天主堂
「週刊ニッポンの国宝100 31 仏涅槃図/出雲大社/小学館」
第30号に続き、第31号の「仏涅槃図/出雲大社」も発売されました。以降も「彦根屏風」、先の仁和寺展で話題を集めた「葛井寺千手観音」、また縄文展にも出展予定の「火焔型土器」、さらに「青不動」に「大浦天主堂」など、興味深い国宝が次々と登場する予定です。
これからも定期的に「週刊ニッポンの国宝100」を追っていきたいと思います。
「週刊ニッポンの国宝100」(@kokuhou_project) 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。電子版は別価格。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
「ルドンー秘密の花園」にて「黄色いケープ」が追加出展されました
「ルドンー秘密の花園」
2/8~5/20
三菱一号館美術館で開催中の「ルドンー秘密の花園」にて、「黄色いケープ」の追加出展されました。
オディロン・ルドン「黄色いケープ」1895年 新潟市美術館
オディロン・ルドンの「黄色いケープ」は、新潟市美術館のコレクションで、4月24日(火)より、会期末日の5月20日(日)まで公開されます。
オディロン・ルドン「15点のドムシー城の食堂壁画」展示室風景 *「グラン・ブーケ」はパネル展示
ルドン展は、同館のコレクションとして知られる「グラン・ブーケ」の連作に当たる、ドムシー男爵の食堂壁画16面が初めて日本で揃う展覧会で、ルドンがいかに壁画に取り組んだのかを検証しています。
右:オディロン・ルドン「15点のドムシー城の食堂壁画(黄色い花咲く枝)」 1900〜1901年 オルセー美術館
かつて日本でも壁画が公開されたことがありましたが、「グラン・ブーケ」のみはドムシー男爵の城館に残されていたため、同時に並んだことはありませんでした。
「グラン・ブーケ」は、花瓶の花束を青を基調とした色彩で表している一方、残りの15点は暖色をベースとしていて、草花のモチーフをデトランプと呼ばれる技法で描きました。より装飾的な作品とも呼べるかもしれません。
右:オディロン・ルドン「神秘」 フィリップス・コレクション
なお展覧会では一連の壁画のほかにも、花と植物に焦点を当てながら、ルドンの画業を多面的に追っていました。国内外の美術館からも多く作品がやって来ています。
【ルドン―秘密の花園/よもやま話⑤】《グラン・ブーケ》のもともとの所蔵者で発注主のドムシー男爵。数々のルドン作品をコレクションした重要人物であるにもかかわらず、謎が多い人物でした。本展では彼の旧蔵品はもちろん、謎のコレクター・ドムシー男爵について最新の研究成果もご覧いただけます! pic.twitter.com/j5yQtpSUnR
— 三菱一号館美術館 (@ichigokan_PR) 2018年4月18日
その中に新潟市美術館の「黄色いケープ」が加わりました。新たな見どころと言えるのではないでしょうか。
【ギャラリートーク追加開催決定】
概要:「黄色いケープ」に焦点を当てながら、展覧会担当学芸員の安井裕雄が、展示室内で作品の見どころをご紹介します。
日時:4月24日(火)、27日(金) 10:15〜10:45頃まで
会場:三菱一号館美術館館内展示室
定員:各日15名(当日先着順)
参加条件:当日有効の入場券(当日購入可。MSSカード含む)をお持ちの方
参加方法:当日午前10時の開館時より、先着15名様に当館チケット窓口前にて参加証を配布。
「黄色いケープ」に焦点を当てたギャラリートークの開催も決定しました。24日の回は既に終了しましたが、27日(金)にも同じく行われます。
「ルドンー秘密の花園」 三菱一号館美術館(はろるど)
ルドン展の会期も残すところあと1ヶ月弱となりました。今のところ、土日を中心に多少混み合うものの、入場のための待ち時間などはほとんど発生していません。
次に「グラン・ブーケ」を含む、ドムシー男爵の連作が一度に見られる機会は、いつ訪れるのでしょうか。その意味では、歴史的な展覧会と言えそうです。
5月20日まで開催されています。
「ルドンー秘密の花園」 三菱一号館美術館(@ichigokan_PR)
会期:2月8日(木)~5月20日(日)
休館:月曜日。
*但し、祝日の場合と、5月14日と「トークフリーデー」の2月26日、3月26日は開館。
時間:10:00~18:00。
*祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週の平日は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
*東京都美術館の「ブリューゲル展」のチケットを提示すると100円引き。
*アフター5女子割:毎月第2水曜日17時以降/当日券一般(女性のみ)1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
練馬区立美術館2018年度展覧会スケジュール
[戦後美術の現在形 池田龍雄展 楕円幻想]
会期:4月26日(木)〜6月17日(日)
概要:日本の戦後美術を代表する一人である池田龍雄の回顧展を開催いたします。50年代から第一線で活躍し続ける池田の油彩やペン画、オブジェなど約200点を紹介します。
[生誕120年 中村忠二展 オオイナルシュウネン]
会期:6月22日(金)〜7月29日(日)
概要:中村忠二(1898〜1975)は、兵庫県に生まれ、晩年の20年間を練馬区貫井で過ごした
作家です。油彩や墨絵、モノタイプの作品など約80点を紹介します。
[芳年 激動の時代を生きた鬼才浮世絵師]
会期:8月5日(日)〜9月24日(月・休)
概要:幕末・明治期に活躍した浮世絵界の最終兵器、月岡芳年(1839〜92)の大回顧展。強烈な個性と精緻な筆を兼ね備えた、芳年作品263点を展示します。
[笠井誠一展(仮)]
会期:10月7日(日)〜11月25日(日)
概要:笠井誠一(1932〜)は、札幌市に生まれ、東京と名古屋を中心に活躍してきた油彩画家
です。初期から近作まで、静物画を中心に資料等含め約120点を展示します。
[人間国宝 桂盛仁の金工の世界−彫金の技(仮)]
会期:12月1日(土)〜2019年2月11日(月・祝)
概要:江戸からの金工の流れをくむ、彫金の人間国宝、桂盛仁(1944生)の帯留金具(おびど
めかなぐ)や香合(こうごう)などを展示。父、桂盛行やルーツとなる明治期の作品も併せて紹介します。
[ユニマットコレクション−ルネ・ラリック展(仮)]
会期:2月24日(日)〜4月21日(日)
概要:個人コレクターの膨大なコレクションから、アール・デコを代表する宝飾とガラスの工芸作家ルネ・ラリック(1860-1945)に着目し、ガラス作品を中心にその世界観に迫ります。
以上が有料展示のラインナップです。このほかにも「練馬区中学校生徒作品展」や、「練馬区小学校連合図工展」などが開催されます。
[戦後美術の現在形 池田龍雄展 楕円幻想]
会期:4月26日(木)〜6月17日(日)
このうち、「戦後美術の現在形 池田龍雄展 楕円幻想」、「生誕120年 中村忠二展 オオイナルシュウネン」、「笠井誠一展(仮)」、「人間国宝 桂盛仁の金工の世界−彫金の技(仮)」は、いずれも一時期に練馬に在住した芸術家を紹介する展覧会で、「池田龍雄展」に関しては、おおよそ20年ぶりの回顧展となります。
[生誕120年 中村忠二展 オオイナルシュウネン]
会期:6月22日(金)〜7月29日(日)
また「生誕120年 中村忠二展 オオイナルシュウネン」は、2018年に生誕120年を迎えた画家、中村忠二の画業を追う展覧会で、1997年に姫路市立美術館以来の回顧展となります。中村は、晩年の20年を美術館の位置する練馬区貫井で過ごした、まさにご当地の作家で、都内でのまとまった展覧会は初めてでもあります。
さて、私が特に期待したいのは、今夏に予定されている「芳年 激動の時代を生きた鬼才浮世絵師」です。
「月岡芳年 幕末・明治を生きた奇才浮世絵師/別冊太陽/平凡社」
[芳年 激動の時代を生きた鬼才浮世絵師]
会期:8月5日(日)〜9月24日(月・休)
芳年は近年、人気が高まっている絵師だけに、絵を見る機会は少なくなく、様々な浮世絵展でも作品が紹介されるほか、昨年では太田記念美術館で「月岡芳年 妖怪百物語」と「月岡芳年 月百姿」の2つの展覧会が開催されました。私もともに追いかけましたが、どうしてもスペースに限界があり、必ずしも網羅的な回顧展とは言えませんでした。
「月岡芳年 月百姿/青幻舎」
今回は比較的余裕のある練馬区立美術館が会場だけに、出展作品も260点超に及びます。世界屈指の芳年コレクションを有する西井正氣氏の収蔵品にて、芳年の画業の全体像を俯瞰する内容となるそうです。同氏の作品がまとめて公開されるのは、何と15年ぶりです。相当に見応えのある展覧会となるのではないでしょうか。
練馬区立美術館は展示替え期間のため4/25(水)まで休館中です。次回展覧会は、4/26(木)から「戦後美術の現在形 池田龍雄展-楕円幻想」です。https://t.co/m6fKFXQjfq pic.twitter.com/ia3nU7spGo
— 練馬区立美術館 (@nerima_museum) 2018年4月20日
なお各展覧会の概要、会期については、現時点での情報です。今後、変更などがあるかもしれません。お出かけの際は改めて美術館の公式サイトをご確認下さい。
練馬区立美術館(@nerima_museum)
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」 ポーラ美術館
「エミール・ガレ 自然の蒐集」
3/17~7/16
ポーラ美術館で開催中の「エミール・ガレ 自然の蒐集」のプレスプレビューに参加して来ました。
19世紀末、アール・ヌーヴォーの工芸家として活動したエミール・ガレは、自然界に存在する様々な形を見据え、植物や昆虫、それに海の生き物などをモチーフに取り込んで作品を制作しました。
そのガレの自然への着眼点と、創造の源泉と言うべき森と海に着目したのが、「エミール・ガレ 自然の蒐集」展で、ポーラ美術館、および北澤美術館ほか、国内のガレ・コレクションが130点ほど展示されていました。
エミール・ガレ「女神文香水瓶」 1884年 ポーラ美術館 ほか
冒頭は初期作品でした。1846年、フランス北東部のナンシーで、陶磁器やガラス器を扱う製造販売業の家に生まれたガレは、30歳の頃に父から経営を受け継ぎ、1877年にガレ商会の事業主となりました。若い頃からガラス製造や装飾に関する技術を身につけていたゆえか、翌年のパリ万博で銅メダルを受賞するに至りました。
エミール・ガレ「蓋付コンポート」 1870年代 ポーラ美術館 ほか
初期から中期の技法で重要なのは、透明色のガラスを素地としたエナメル彩で、研究熱心なガレは化学実験を繰り返し、あらゆる色彩や透明度の顔料を開発しては、多様な作品を作り出しました。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景
ガレがジャポニスムに接したのは比較的早く、1867年のパリ万博のことでした。ここで父の代理として半年間パリに滞在したガレは、日本から出品された多くの文物を見る機会に恵まれました。そして先の銅メダルを受賞した万博では、北斎漫画の図柄を写した「鯉文花器」を出品しました。自らが開発して特許を得た、「月光色ガラス」を効果的に生かしました。
エミール・ガレ「ユリ文花器」 1895〜1897年 ポーラ美術館 ほか
またジャポニスムの素材として人気を集めていたキク関しても興味を寄せ、ナンシーへ農商務省の技師として留学していた日本人の高島北海とも交流を深めました。「キクの国についてお伺いしたいことがございます。」との言葉を残しているそうです。またこの頃、ガレは日本から植物をオランダへ持ち帰ったシーボルトの苗床を仕入れました。ヨーロッパの広域で日本植物のブームがおきていました。
エミール・ガレ「ヘチマ文脚付花器」 1884〜1889年 ポーラ美術館
ガレが当初から作品へ積極的に取り込んでいたのが、植物と昆虫のモチーフでした。そもそもガレは植物学に詳しく、植物の作品においても、おおむね種を同定出来るほどに、細かに彫り出しました。一方で昆虫ややや異なり、カマキリやトンボなどを写実的に表したと思えば、キメラに近いような複数の昆虫を組み合わせることもありました。
エミール・ガレ「コバン草文水差」 1905年 飛騨高山美術館 ほか
ナンシーは16世紀以来、植物園が創設され、19世紀には園芸業が盛んになるなど、植物に関わりの深い街でもありました。ガレも少年時代から植物採集に没頭し、のちにガレ家が自邸を構えると、敷地内に庭園を築いては、世界各地の植物、おおよそ2500種を集めました。その庭園は工房内の敷地にも築かれ、作品のモチーフとして利用しました。また単に写すだけでなく、例えば花が咲いては散りゆく姿など、生態の変化にも着目し、自然のはかなさや生命の循環も表現しました。
エミール・ガレ 花瓶「大麦」 1900年頃 北澤美術館 ほか
1900年のパリ万博でグランプリを受賞したガレは、次第に詩的とも呼べうる表現で、象徴性の高い作品を作るようになりました。植物や生物の生態のみならず、光や大気、1日や四季の変化までを取り込みました。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景
また同じく晩年、特に亡くなるまでの5年間の間、ガレは海の生き物にも興味を覚え、いくつかの作品を制作しました。それに関しては「今トピ」の下記の記事でまとめました。改めてお目通し下されば幸いです。
森の中で巡る?エミール・ガレの驚異の海の世界とは!? - いまトピ https://t.co/IPcMVO4lbb ポーラ美術館で開催中のガレ展で面白かった海のモチーフの作品について書きました。主に晩年の5年間限定。植物や昆虫と同じく、かなり生態などを細かく見て制作したようです。
— はろるど (@harold_1234) 2018年4月17日
初期から晩年へかけて、スタイルを変えながら、生き物だけでなく、時に四季の移ろいをなどを表現したガレは、まさに自然を見据え、蒐集していた芸術家と呼べるのかもしれません。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景
ほかにも工芸とコレクションの絵画と参照する展示をはじめ、版画、昆虫や鉱物標本との比較もあり、ガレの作品世界を様々な角度から知ることも出来ました。意外にもポーラ美術館としては、開館以来初となるガレの展覧会でもあります。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景
写真はプレスプレビュー時に撮影しましたが、一般会期中においても、撮影禁止作品を除くと、原則的に撮影が可能です。
ガレ展では、開館以来初めて展示室の窓の前にあった壁を取り外しています。自然をモティーフにしたガレの作品越しに、箱根の森がのぞめます。#ポーラ美術館 #エミールガレ pic.twitter.com/m6TIuZdCX6
— ポーラ美術館 (@polamuseumofart) 2018年4月13日
7月16日まで開催されています。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」 ポーラ美術館 (@polamuseumofart)
会期:3月17日(土)~7月16日(月・祝)
休館:会期中無休。
時間:9:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800(1500)円、65歳以上1600(1500)円、大学・高校生1300(1100)円、中学・小学生700(500)円。
*( )内は15名以上の団体料金。
*小学・中学生は土曜日無料。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
交通:箱根登山鉄道強羅駅より観光施設めぐりバス「湿生花園」行きに乗車、「ポーラ美術館」下車すぐ。有料駐車場(1日500円)あり。
「蓮沼執太: ~ ing」 資生堂ギャラリー
「蓮沼執太: ~ ing」
4/6~6/3
資生堂ギャラリーで開催中の「蓮沼執太: ~ ing」を見てきました。
1983年に東京で生まれた音楽家の蓮沼俊太は、蓮沼執太フィルを結成してコンサートを行いながら、映画、演劇、ダンスのほか、個展形式で展覧会を開くなど、幅広く活動してきました。
蓮沼にとって、「展覧会とは、空間の中で聴覚と視覚の接点を見つけていく行為」(公式サイトより)であるそうです。それでは一体、どのような展覧会を作り上げたのでしょうか。
「Thing~Being」 2018年 楽器金属材、ミラーシート、アルミ板
鏡面の空間が広がっていました。四方の壁は全てミラーシートで覆われ、床面には無数の真鍮色の金属と思しき部品が散乱していました。遠目では分からないかもしれませんが、近くに寄ると、楽器の一部のような素材も見えました。実のところ、楽器の製造過程で出た金属材でした。
「Thing~Being」 2018年 楽器金属材、ミラーシート、アルミ板
その金属材の上を歩くことが出来ました。すると靴と金属材が触れ、ジャラジャラ、あるいはカラカラといった金属音が鳴り出しました。そしてさらに人が加わると、別の箇所でも音が鳴り、さもハーモニーを築くかのようにして響き合いました。あくまでも楽器の一部に過ぎない金属材が、まるで楽器のように音を奏でていたと言えるかもしれません。これを蓮沼は「人の存在が音化する」作品と呼びました。
「Thing~Being」 2018年 楽器金属材、ミラーシート、アルミ板
床には断片的に光が揺らめいていて、戸外の風景が一面に映されていることが分かりました。また金属音のほかに、天井付近のスピーカーから、やはり同じく屋外らしき環境音が流れていることに気づきました。消防車かパトカーのサイレンらしき音も聞こえました。
「Ginza Vibration」 2018年 映像、環境音
これは銀座の風景、ないし音で、蓮沼は、資生堂銀座ビルの屋上ガーデンにマイクとカメラを設置し、リアルタイムの映像と音を、地下のギャラリー空間へと落とし込みました。耳を澄ますと、常に変化する銀座の街の様子が、体感出来るかもしれません。
「Tree with Background Music」 2018年 木、スピーカー
もう1室は、観葉植物と段ボールの展開で、中央に大きな植物が置かれ、背後にはスピーカーが設置されていました。また積まれた段ボール箱からは、カラカラとした乾いたパーカッションの音が響いてきました。さらにスピーカーより大きな音が発せられると、植物は僅かに揺れているようにも見えました。やはりここでも音を可視化する試みを行っていました。
「We are Cardboard Boxes」 2018年
段ボールから聞こえる音は、蓮沼が同じく段ボールを使って演奏した音でした。通常、音を発さないダンボールから聞こえるのも、意外性があるのかもしれません。
はじめに会場へ入った際、無数の部品が広がる光景に、やや戸惑いを覚えましたが、しばらくすると夢中で金属材をを足で打ち鳴らし、場内に轟く銀座の環境音に耳を立てている自分に気がつきました。主役は音として差し支えありません。
入口の説明文も音波で表現されていました。音と空間、それに鑑賞者との関係に着目した、異色の展覧会と言えるのではないでしょうか。
#資生堂ギャラリー の大展示室の床には、資生堂銀座ビルの屋上に設置したカメラからのリアルタイム映像が投影されています。また天井の4つのスピーカーからは屋上のマイクを通した環境音が聞こえてきます。時にはカラスの鳴き声が・・・!#ShiseidoGallery #ShutaHasunuma #インスタレーション pic.twitter.com/zABoN4e7X2
— 資生堂ギャラリー (@ShiseidoGallery) 2018年4月12日
6月3日まで開催されています。
「蓮沼執太: ~ ing」 資生堂ギャラリー(@ShiseidoGallery)
会期:4月6日(金)~6月3日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
「光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」 根津美術館
「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」
4/14~5/13
根津美術館で開催中の「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」を見てきました。
江戸時代半ば、尾形光琳(1658〜1716)と弟の乾山(1663〜1743)は、時に協同し、また個々に制作に取り組んでは、日本美術史上にも輝く様々な名品を生み出しました。
その光琳と乾山の業績を辿るのが、「光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」で、館内には、両者の作品が約60件ほど展示されていました。(一部に展示替えあり。)
国宝「燕子花図屏風」(左隻) 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 根津美術館
いきなり目に飛び込んできたのが、尾形光琳の名作、「燕子花図屏風」でした。言わずと知れた国宝で、琳派を代表する作品として人気を集めています。同館でも、毎年、カキツバタの咲く時期に合わせて公開しています。
まばゆい金地の右と左に広がるのが、カキツバタの花群で、群青と緑青を用い、図像的に配していました。右はほぼ正面から見据え、上へと花が向いているのに対し、左隻はやや上方から見下ろす形になっているのか、花群が下へ沈みこむようにも見えました。これまでにも何度か目にした作品ではありますが、その美しさに改めて見惚れました。
光琳では「夏草図屏風」も見どころで、晩春から夏にかけての30種類の草花を描いていました。先の「燕子花図屏風」が意匠的であるのに対し、この「夏草図屏風」は写実的で、芥子の葉の葉脈やギザギザとした形までも丹念に描きこんでいました。実際、公家の近衛家熙の表した植物写生図に近く、渡辺始興のサポートがあったとも指摘されています。
重要文化財「太公望図屏風」 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 京都国立博物館
「太公望図屏風」にも目を引かれました。中央に頰杖をつく太公望がいて、釣具こそ見えないものの、水辺で釣りをする姿を表していました。水や衣文のほか、背後に迫る懸崖の曲線の描写が特徴的で、崖の線は太公望のヘソのあたりに収斂していました。構図に光琳の個性が現れているかもしれません。
「鵜舟図」 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 静嘉堂文庫美術館
「鵜舟図」も魅惑的ではないでしょうか。謡曲の鵜飼に取材して描いた淡彩画で、川の上で小舟に乗り、鵜飼をする翁の姿を、宗達風の軽妙な筆で表していました。ちょうど鵜は魚をのみ、首を突き出す瞬間を捉えていて、その方向を翁も見やっていました。光琳は水墨の名手でもあります。臨場感のある一枚ではないでしょうか。
光琳と乾山の合作も見逃せません。中でも興味深いのが、乾山作、光琳画の「銹絵寒山拾得図角皿」で、ちょうど巻物を広げる寒山を光琳、箒を持つ拾得を乾山に見立てて描いていました。ほかに「銹絵竹図角皿」や「銹絵楼閣山水図四方火入」も充実していて、後者は雪舟風の山水表現を見ることが出来ました。おそらく光琳が、江戸にいた頃に写したのではないかと考えられています。
続くのは乾山の書画でした。江戸に降った乾山は、作陶よりもむしろ絵画の制作に勤しんでいて、素人性を帯びた作品と、一方で光琳風を思わせる作品を残しました。兄、光琳が装飾的な色彩画と、水墨の双方に才能を発揮したのと同様に、乾山も二面性とも受け取れる画業を展開していました。
「兼好法師図」 尾形乾山筆 江戸時代・18世紀 梅澤記念館
「兼好法師図」も素朴な作品で、もはやヘタウマとも呼べるようなざっくりとした筆使いにて、庵の中で座る兼好法師の様子を捉えていました。和歌は隠棲したつもりの場所が憂き世であることを詠んでいて、乾山の江戸生活に対する思いが反映されていると言われています。
「定家詠十二ヶ月和歌花鳥図」は、かつて角皿にも用いた和歌画題を着彩に表した作品で、9月ではすすきと鶉を描いていました。会場には2月、8月、9月の3幅が展示されていましたが、元々は12枚セットの画帳であったそうです。
一転して華やかなのが、「桜に春草図」と「紅葉に菊流水図」でした。ともに春と秋の草花などを描いた作品で、桜はピンク色、紅葉は朱色に染まっていました。必ずしも対幅ではありませんが、春と秋のセットの作品だと考えられています。
ラストは乾山の焼きものでした。作風は多様で、一括りには出来ませんが、「絵」をキーワードにした角皿や色絵、さらに蓋物や土器皿の優品が集まっていました。
「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」(のうちの一月) 尾形乾山作 江戸時代・元禄15(1702)年 MOA美術館
「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」は、12枚の角皿に花木と鳥、それに藤原定家の詠んだ和歌を表した作品で、表が絵、裏に和歌が描かれていました。角皿に文学性を盛り込んだ乾山ならではの様式で、実際にもヒット商品と化したそうです。
「銹絵染付金彩絵替土器皿」(5枚のうち) 尾形乾山作 江戸時代・18世紀 根津美術館
「銹絵染付金彩絵替土器皿」は、梅や帆掛け船、すすきや流水の菱などを5枚に描いたもので、手で成形した円い皿の中で、叙情的とも呼べる風景が広がっていました。また「色絵竜田川向付」は、流水に紅葉をかたどった10枚の連作で、金や紅、緑などの色を用いては、実に雅やかな世界を築き上げていました。
重要文化財「武蔵野隅田川図乱箱」 尾形乾山作 江戸時代・寛保3(1743)年 大和文華館
さらに「武蔵野隅田川図乱箱」も見逃せません。木の箱の見込みに蛇籠と波、それに千鳥を描き、側面や裏面にすすきをあしらっていました。光琳的なデザインと乾山風の素朴な筆を同時に見られる作品で、時に乾山81歳、最晩年に制作されました。
展示は、1階の展示室1と2、さらに2階の展示室5へと続いていきます。また同館のコレクションだけでなく、MOA美術館、東京国立博物館、サントリー美術館のほか、MIHO MUSEUM、大和文華館、湯木美術館など関西の美術館からも作品がやって来ていました。必ずしも広いスペースではありませんが、これほどまでに光琳と乾山の作品を一度に見る機会など、なかなかありません。まさに琳派ファンには嬉しい展覧会でした。
展覧会を鑑賞したのちは、美術館裏に広がる庭園を散策しました。
私が出向いた際は、弘仁亭前のカキツバタはまだ咲いていませんでした。とはいえ、藤の花が開き、園内の木々の新緑も鮮やかでした。
ともかく緑が深く、いつもながらに都心とは思えません。
例年より1週間ほど早く、カキツバタが1輪咲きました。つぼみもたくさん!#根津美術館 pic.twitter.com/kmU3qugMCf
— 根津美術館 (@nezumuseum) 2018年4月17日
なお4月17日の段階で、例年より1週間ほど早く、カキツバタが開花したそうです。つぼみも膨らんでいて、もう間もなく見頃を迎えると思われます。
会期早々であったにも関わらず、館内はかなり盛況でした。中盤以降、GWにかけては混み合うかもしれません。
会期最終週の5月8日(火)から13日(日)は、連日19時まで開館します。
5月13日まで開催されています。おすすめします
「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:4月14日(土)~5月13日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月)は開館。
時間:10:00~17:00。
*5月8日(火)~13日(日)は19時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、学生1000円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は200円引。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
ガレの海の世界について「いまトピ」に寄稿しました
森の中で巡る?エミール・ガレの驚異の海の世界とは!?
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5777.html
アール・ヌーヴォーの工芸家として活躍したエミール・ガレは、博物学的な知識を持ち合わせていたことから、主に植物や昆虫を作品に取り込んだことで知られています。しかし晩年の5年間、集中して海の生き物を取り上げていたことがありました。
「エミール・ガレ 自然の蒐集」(ポーラ美術館)
会期:3月17日(土)~7月16日(月・祝)
http://www.polamuseum.or.jp
それを紹介するのが、ポーラ美術館の「エミール・ガレ 自然の蒐集」展で、国内のガレ・コレクションが、約130点ほど公開されていました。
展覧会自体は、ガレの陸と海の生き物の両面について追っていますが、「いまトピ」では海に着目して、いかにガレが作品を作り上げたのかについて書きました。実際のところ、作品自体も陸の生き物に比べて少なく、必ずしも見る機会が多いとは言えないかもしれません。
また「いまトピ」でも触れましたが、ポーラ美術館では、下田海中水族館と提携して、ガレの海の生き物に関する様々なキャンペーンを展開しています。
「19世紀の芸術家 エミール・ガレ が愛した海」(下田海中水族館)
会期:3月17日(土)~7月16日(月)
https://shimoda-aquarium.com
「エミール・ガレ 自然の蒐集」展の全体の感想については、改めてブログ上でまとめたいと思いますが、「いまトピ」に寄稿したコラムについてもお目通しくだされば嬉しいです。
森の中で巡る?エミール・ガレの驚異の海の世界とは!? - いまトピ https://t.co/IPcMVO4lbb ポーラ美術館で開催中のガレ展で面白かった海のモチーフの作品について書きました。主に晩年の5年間限定。植物や昆虫と同じく、かなり生態などを細かく見て制作したようです。
— はろるど (@harold_1234) 2018年4月17日
なお「いまトピ」のアート関連の記事も続々公開されています。是非ご覧下さい。
金曜土曜の夜は国立美術館・博物館に行こう! (在華坊さん)
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5774.html
”大天使ミカエル”が舞い降りた、フランスの聖地に行ってみた!! (Aiさん)
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5764.html
春だ!丸の内のアートな夜更かし散歩に出かけよう! (明菜さん)
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5756.html
旅に出よう!建築好き(と喫茶店好き)のための金沢編(KINさん)
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5695.html
日本美術の聖地・五浦へ(yamasanさん)
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5715.html
印象派の画家たちから届いた、フレッシュマンに贈る10の言葉(Takさん)
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5755.html
3/17(土)よりエミール・ガレの展覧会を開催します。ガレは、アール・ヌーヴォーという自然の有機的な形態から着想を得た芸術様式で、ガラス工芸における第一人者として活躍しました。ガレの創造の源泉となった自然を、「森」と「海」というふたつの視点からご紹介します。 pic.twitter.com/9IgdHWrkEA
— ポーラ美術館 (@polamuseumofart) 2018年2月14日
「エミール・ガレ 自然の蒐集」 ポーラ美術館 (@polamuseumofart)
会期:3月17日(土)~7月16日(月・祝)
休館:会期中無休。
時間:9:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800(1500)円、65歳以上1600(1500)円、大学・高校生1300(1100)円、中学・小学生700(500)円。
*( )内は15名以上の団体料金。
*小学・中学生は土曜日無料。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
交通:箱根登山鉄道強羅駅より観光施設めぐりバス「湿生花園」行きに乗車、「ポーラ美術館」下車すぐ。有料駐車場(1日500円)あり。
「こいのぼりなう!」 国立新美術館
「こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション」
4/11~5/28
国立新美術館で開催中の「こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション」を見てきました。
テキスタイルデザイナーの須藤玲子と、須藤の主宰する株式会社「布」のメンバーがデザインしたこいのぼりが、国立新美術館の広大な展示室を鮮やかに彩りました。
その数は全319点で、ご覧のように空中で群れをなすように連なっていました。手前から白、緑、黄色、そして奥へ向かって赤へとグラデーションを描いていて、近づくと抽象、具象を問わず、様々な模様で象られていることが分かりました。
そもそも須藤は、こいのぼりの着想を得たインスタレーションを、フランスの展示デザイナーのアドリアン・ガルデールと協同し、2008年にはワシントンD.C. のジョン・F・ケネディ舞台芸術センター、また2014年にはパリのギメ東洋美術館にて発表しました。素材やモチーフこそ日本から採りながらも、海外からの帰国展と呼べるかもしれません。
展示室は2階のEで、天井高は8メートル、面積も2000平方メートルもあり、同館で最も広いスペースとして知られています。
私としてシンパシーを感じるのは、赤のこいのぼりでした。いずれも宙に吊られていますが、高さはまちまちで、下の方のこいのぼりは目と鼻の先で見ることも出来ました。
天井付近には薄い白い布が張られていて、全体の照明はやや暗く、こいのぼりへ向けてスポットライトが当てられていました。ちょうど展示室の中央付近で、円を描くように群れるこいのぼりを見上げると、何やら水の中に潜っては、鯉が泳ぐ姿を眺めているような気持ちにさせられるかもしれません。
床面にはクッションもいくつも置かれていて、思い思いに座ったり、半分寝そべりながら、こいのぼりを観覧することも出来ました。
会場に足を踏み入れるまで気がつきませんでしたが、各所にスピーカが設置されていて、サウンドインスタレーションも展開されていました。音響、映像ユニットのsoftpadが提供していて、「六本木アートナイト2018」の開催される5月26日(土)には、スペシャル・プログラムも開催されます。(詳細は美術館サイトにて告知。)
ライゾマティクスの齋藤精一も光などの演出を担っていました。須藤との日本では初めてのコラボレーションでもあるそうです。
布地は、北は山形県、南は鹿児島県の奄美大島の職人らと作られていて、一つとして同じものはありません。サイズと形が同一ながらも、時に違うように見えるのは、テキスタイルの意匠のなせる業なのかもしれません。
須藤は1980年代にこいのぼりに出会い、自らのデザインしたプリントで作品を制作してきました。いわば40年越しに実現した、こいのぼりの一大インスタレーションと言えるのではないでしょうか。
企画展示室の奥の部屋にも注目です。一見、一つの空間での展開に思えるかもしれませんが、実は白い壁の向こうにもう一室あり、ワークシートの形式でこいのぼりが制作出来る体験コーナーが設けられています。
こいのぼりに使用された布地に触れられるコーナーもありました。私も実際に触れてみましたが、1枚1枚で、かなり質感が異なっていました。さらにモニターでは、須藤玲子と齋藤精一による布づくりの様子も公開されている上、美術館でのこいのぼりの設営風景もダイジェスト版にまとめられていました。おおよそ完成にまで10日間かかったようです。
モニター以外は撮影も可能です。SNSへ自由にアップ出来ます。
【こいのぼりなう!】会場の奥にある「マイ・こいのぼりなう!」コーナーでは、台紙にいろいろな柄の紙をはり合わせて作る、オリジナルこいのぼり制作を体験いただけます! #こいのぼりなう #koinoborinow pic.twitter.com/bxIQhraPKU
— 国立新美術館 NACT (@NACT_PR) 2018年4月13日
会場内はなかなか盛況でした。もう間もなくこいのぼりの季節を迎えます。GWあたりは多くの人で賑わうかもしれません。
入場は無料です。5月28日まで開催されています。
「こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:4月11日(水)~5月28日(月)
休館:火曜日。但し5月1日(火)は開館。
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20時まで開館。
*4月28日(土)~5月6日(日)は20時まで開館。
*5月26日(土)は「六本木アートナイト2018」の開催により22時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
「建物公開 旧朝香宮邸物語」 東京都庭園美術館
「建物公開 旧朝香宮邸物語」
3/21〜6/12
東京都庭園美術館で開催中の「建物公開 旧朝香宮邸物語」を見てきました。
1933年、朝香宮鳩彦王によって建てられた邸宅は、アール・デコ様式の名建築として知られ、2015年には国の重要文化財の指定を受けました。
その旧朝香宮邸、すなわち現在の東京都庭園美術館の建物としての魅力に迫るのが、「建物公開 旧朝香宮邸物語」で、館内を広く開放した上、宮家にゆかりの衣装などを展示するなどして、邸宅の辿った歴史や物語について紹介していました。
朝香宮鳩彦王がアール・デコの自邸を建てるきっかけになったのが、1922年に軍事研究のためにフランスへ渡ったことでした。同地で交通事故にあった鳩彦王は、看病のために当地へ渡った允子内親王とともに、1925年まで長期滞在することになりました。当時のフランスは、アール・デコの全盛期であり、夫妻もパリの万国博覧会で、ラリックやラパンらに強く感銘を受けました。
よってラパンに室内の基本設計を依頼し、レリーフやシャンデリアにラリックの作品を取り入れるなどして、アール・デコの館というべき自邸を築き上げました。結果的に朝香宮鳩彦王は、1947年に皇籍離脱するまで住み続けました。
次いで館の主となったのは、宰相の吉田茂でした。戦後の混乱期において、旧朝香宮邸は政府の借り上げとなり、外相公邸、首相公邸として利用されました。芦田均も一時、外相公邸として住んでいたそうです。
1950年、吉田が首相を退くと、西武鉄道に払い下げられ、「白金プリンス迎賓館」として開業しました。当時の日本では初めての迎賓施設で、1974年に迎賓館赤坂離宮が開設されるまで、多くの国賓や公賓を迎えました。
赤坂離宮迎賓館が誕生すると、今後は民間の迎賓館として、結婚式や宴会場に使われました。そして1981年、東京都が西武鉄道より土地を購入し、美術館として利用することが決まりました。その2年後の1983年、東京都庭園美術館として一般に公開されました。
近年では、おおむね年に1回、こうした「建物公開展」が行われています。既に見学された方も多いかもしれません。
実のところ、私自身、「建物公開展」に行くのは初めてでした。展覧会などで度々通ったスペースではありますが、細部の意匠などに目を向けると、改めて建物の美しさに見入るものがありました。
朝香宮夫妻の着用したドレスやコート、また同時代のバックや手袋、さらにラリックの花瓶なども、往時の姿を伝えているかもしれません。また関連の資料として、朝香宮家や吉田茂、また迎賓館時代の映像も紹介されていました。
通常、あまり立ち入る機会の少ない、最上階のウィンターガーデンも公開されていました。白と黒の石を市松模様に敷き詰めた床が特徴的で、温室として設けられたために、花台や水道の蛇口なども設置されています。この日は晴天だったゆえに、窓からも燦々と光が降り注いでいて、心なしか暖かく感じました。
なおウィンターガーデンは消防法の関係により、見学に制限が設けられています。基本的に定員制で、混雑時は10分以内で退出する必要がありました。
2018年3月21日(水・祝) − 6月12日(火)
— フランス絵本の世界展 (@LIFrancaises) 2018年3月26日
鹿島茂コレクション『フランス絵本の世界展』
東京都庭園美術館 https://t.co/TIGFRxTTKO pic.twitter.com/73QQeNAj7s
本館に引き続く新館では、「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」展が開催中です。
これはフランス文学者、鹿島茂氏が、約30年に渡ってコレクションしたフランスの絵本を紹介するもので、日本でも人気のある「ぞうのババール」など、貴重な絵本が一堂に集められていました。意外にも一般に向けては、初めての公開だそうです。
さらに本館の書庫にも一部、メーテルリンクの「青い鳥」などのコレクションが展示されていました。観覧券は「建物公開展」と共通です。新館もお見逃しなきようにおすすめします。
東京都庭園美術館の庭園が全面公開されました(はろるど)
「旧朝香宮邸物語―東京都庭園美術館はどこから来たのか/アートダイバー」
本館は一部エリアを除き、写真の撮影も可能でした。(新館は原則撮影禁止。一部撮影可。)ただしフラッシュ、自撮り棒の使用のほか、動画の撮影は出来ません。ご注意下さい。
6月12日まで開催されています。
「建物公開 旧朝香宮邸物語」 東京都庭園美術館(@teienartmuseum)
会期:3月21日(水)〜6月12日(火)
休館:第2・第4水曜日(3/28、4/11、4/25、5/9、5/23)
時間:10:00~18:00。
*3/23、3/24、3/30、3/31、4/6、4/7は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900(720)円 、大学生720(570)円、中・高校生・65歳以上450(360)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
*第3水曜日のシルバーデーは65歳以上無料。
*同時開催中の「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」も観覧可。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
「巡りゆく日々 サラ・ムーン写真展」 シャネル・ネクサス・ホール
「巡りゆく日々 サラ・ムーン写真展」
4/4~5/4
シャネル・ネクサス・ホールで開催中の「巡りゆく日々 サラ・ムーン写真展」を見てきました。
1960年代にモデルとしてデビューしたサラ・ムーンは、70年代に入ってファッションや広告で写真を手がけるようになると、1995年には「パリ写真大賞」を受賞し、以来、世界各地で個展を開くなどして活動してきました。
サラ・ムーンの近年の写真、約120点が、銀座のシャネル・ネクサス・ホールにやって来ました。その多くは日本初公開であり、中には日本で撮影された写真もありました。
サラのカメラを向ける対象は幅広く、おおよそ一括りにすることは出来ません。いわゆるファッションから、女性のモデル、水着の人物、その身体を写した作品があったと思うと、花瓶の花束、屋外の樹木、はたまた荒野の一本道が現れ、中には博物館の剥製や、工場、観覧車を捉えた作品もありました。また時代も地域も判然とせず、ひたすらに被写体の存在だけが写し出されていました。
モノクロームの写真の目立つ中、一部にカラーも手がけていて、サラ自身、「カラー写真は饒舌で、モノクロ写真は内向的」と語っています。主題によって、モノクロか、カラーかを選んでいるそうです。
近年では、インダストリー、つまり産業的なモチーフに関心があり、実際に日本では川崎の工場地帯を撮影しました。ただしサラの手にかかると、工場はもはや操業を終えた廃墟、ないし遺跡のようで、なにやら長く時間が静止しているように感じられるかもしれません。
海辺を舞う鳥や、波打ち際を俯瞰した構図で捉えた写真も美しいのではないでしょうか。それに、強い風で旗が靡き、草原の上の空を雲が浮かぶ作品も、どことない郷愁を誘うかもしれません。また、例えば伝統的な静物画を連想させる、絵画的とも呼べる作品も目を引きました。
サラは撮影に際して、日本のオリンパスの最新機種を用いているそうです。また近年は、ドキュメンタリーやショートフィルムなどの映像制作に力を入れていて、会場内でも来日して撮影された「SWANSONG」が上映されていました。
被写体は、時に朧げで、独特の滲みも見られるなど、「はかなさやノスタルジー」(解説より)が感じられる作品も少なくありません。セレクトもまちまちで、厳密に年代やモチーフ別に構成されているわけではありませんが、どういうわけか、並び合う写真からは、まるで夢の中を覗き込むようなストーリーが展開していて、ともに響きあっているように感じられてなりませんでした。
なおサラは、本展の開催に際し、「純粋な白紙で作品を見てもらいたい」と語り、ともかく「白い空間」を作ることを求めたそうです。結果、生み出されたのは、確かに息をのむほどに眩しい純白の空間でした。
「巡りゆく日々」:サラ・ムーン interview|「私の本当のテーマは“誘惑”です。表舞台では男性の欲望の対象としての女性の姿が見えるかもしれないけれど、私はそのバックステージに興味がある」https://t.co/VErO4vcimW
— i-D Japan (@i_D_JAPAN) 2018年4月12日
入場は無料です。5月4日まで開催されています。
「巡りゆく日々 サラ・ムーン写真展」 シャネル・ネクサス・ホール
会期:4月4日(水)~5月4日(金・祝)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:12:00~20:00。
住所:中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。
「中村至男展2018」 クリエイションギャラリーG8
「第20回亀倉雄策賞受賞記念 中村至男展2018」
4/6~5/16
クリエイションギャラリーG8で開催中の「第20回亀倉雄策賞受賞記念 中村至男展2018」を見てきました。
1997年、亀倉雄策の業績をたたえ、グラフィックデザイン界の発展に寄与するために創設された「亀倉雄策賞」も、今年で1つの節目となる第20回を迎えました。
その「第20回亀倉雄策賞」に選ばれたのが、グラフィックデザイナーの中村至男による新作の展覧会ポスターで、昨年1月、ちょうど同じくクリエイションギャラリーG8で開催された初めての個展を飾りました。同展では、中村の25年にわたるデザインワークが紹介され、ポスターは「非常に人間的な、ナイーブさを持つ新しさがある」(公式サイトより)と賞されました。
「どっとこ どうぶつえん/中村至男/福音館書店」
当時のCBS・ソニーを1997年に独立した中村は、その後、21_21 DESIGN SIGHTの「単位展」のメインビジュアルや、アートユニット「明和電機」のグラフィックデザインを手がけるなどして活動してきました。また近年では、絵本「どっとこどうぶつえん」で、イタリアのボローニャ・ラガッツィ賞を受賞しました。
さらに昨年、松屋銀座で開催され、現在も全国巡回中の「シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン展」では、亡くなったブルーナへのオマージュ作品を出展しました。地下鉄の銀座駅ホームの柱に潜み、人の合間から顔を出すミッフィーの可愛らしい姿も印象に深いかもしれません。
東京国立近代美術館の「日本の家」展や、TOTOギャラリー・間の「トラフ展 インサイド・アウト」のメインビジュアルを担当したのも、中村至男でした。記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
「亀倉雄策賞」の選考に当たっては、全1977作品から、年鑑「Graphic Design in Japan 2018」の選考委員が38作品に絞った上、最終選考の形で投票が行われ、中村の受賞が決まりました。
「シンプルで明快、そしてフラットな形を色面」(解説より)ともされる中村のデザインは、ポップで、時にアニメーション的な動きも伴い、親しみやすくもあります。その魅力を身近に触れる良い機会と言えるかもしれません。
ミッフィーの顔を極限にまでアップしたポスター(上の写真の左)も面白いのではないでしょうか。またミッフィーを一室に展開したスペースもありました。
撮影も可能です。SNSヘのアップも自由に出来ました。
#中村至男展2018【会場撮影OKです!】中村至男展2018、ギャラリー内の会場撮影もOKです!ぜひSNSなどで、撮った写真をアップしていただけたらうれしいです。https://t.co/Ws4or8KL6y pic.twitter.com/tQ0MsZPVdp
— クリエイションギャラリーG8 (@g8gallery) 2018年4月10日
入場は無料です。5月16日まで開催されています。
「第20回亀倉雄策賞受賞記念 中村至男展2018」 クリエイションギャラリーG8(@g8gallery)
会期:4月6日(金)~5月16日(水)
休館:日・祝日。及び4月29日(日)〜5月6日(日)。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」 千葉市美術館
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」
4/6~5/20
千葉市美術館で開催中の「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」を見てきました。
江戸時代の後期、全国各地には、地域の出身や藩の御用をつとめた、「ご当地絵師」と呼ばれる人々がいました。
その絵師の作品が千葉に集結しました。総勢は80名、作品にして約190点(展示替えあり)で、北は北海道の松前から、西は長崎、南は鹿児島にまで至っていました。中には北斎や応挙らといったビックネームもありましたが、生没年も不詳で、おおよそ現代では広く知られていると言い難い、マニアックな絵師も少なくありませんでした。
絵師めぐりは北からはじまりました。松前藩の12代藩主の五男である蠣崎波響で、同藩の家老を務めていました。とりわけアイヌの酋長を描いた「夷酋列像」で知られ、南蘋派に学び、宋紫石に師事し、応挙らとも交流をしていました。
「楚蓮香図」は中国の伝説の美女がモデルで、蝶を見やる女性の立ち姿を描いていました。アーチ型の眉に、絵師の特徴を見ることも出来るそうです。また「カスべ図」は、今も北海道などで食されるカスべ、すなわちエイがモチーフで、逆さ吊りになって、長い尾を垂らしたカスべを有り体に表現していました。
秋田の角館の生まれの小田野直武の「鷺図」にも目を引かれました。杭と鷺を前景におき、後景を対比的に表していて、鷺の精緻な羽毛は南蘋派風ながら、銅版画的な線も見られ、西洋の描法を取り入れていることも分かりました。また直武に学んだのが、角館の城代であった佐竹義躬でした。「松にこぶし図」では、やはり松の幹と後景を対比させ、空間に奥行きを与えていました。これら一連の作品は、オランダ風であったことから、「秋田蘭画」と称されました。
菅井梅関「梅月図」 仙台市博物館 *全期間展示
仙台に生まれ、14歳で江戸に移り、木挽町狩野家に出入りしては、江戸城の障壁画の制作にも関わった菊田伊州も、興味深いのではないでしょうか。「雨中瀧図」では、滝の白い筋を描き、墨を散らしては滝の周りの茂みなどを表現していました。当時、狩野派は、基本的に文人画派との交流を禁じていましたが、菊田は反いて、谷文晁や酒井抱一と関わっていました。小池曲江、菅井梅関、東東洋らとともに、仙台の四大画家として知られています。
その四大画家の1人の東東洋は登米の出身で、若い頃に京都や長崎などを巡っては、絵を学び、のちに仙台藩の御用絵師として活動しました。「河図図」は、中国の伝説上の竜馬である河図(かと)を描いたもので、当初は藩校の障壁画として制作されました。今は掛軸に改装されています。
小池曲江は塩竈の生まれで、南蘋派に学びました。唐子をあやす福禄寿を描いた「福禄寿三星像」のほか、優美な「孔雀図」、さらに松島の景観を3メートルもの画面に表した「塩竈松島絵巻」からは、いずれも細かな表現を見ることが出来ました。
同じく仙台の根元常南の「旭潮鯨波図」も魅惑的で、洋上で鯨が体を現し、大きく潮を吹き上げていました。白波を立てるグレーの海も美しく、彼方には赤い太陽が見られ、その光が写っているのか、波間も僅かに赤く染まっていました。解説に「ホエールウォッチング」とありましたが、その一言が全てを表しているかもしれません。
関東では、3人の藩主に仕えた水戸藩士、立原杏所の「芦雁図」に目が留まりました。水辺に集う雁の群れを描いた作品で、沼でうずくまっては、飛んだり、また泳ぐ雁の姿を、薄い墨を用い、柔らかい筆触で表現していました。江戸では谷文晁に師事していました。
下野の宇都宮の藩主だった戸田忠翰の「鸚鵡図」も優品で、胡粉を重ね、白い鸚鵡の姿を丁寧に捉えていました。また那須塩原に生まれた高久靄厓の「袋田滝真景図」も緻密で、細かい点描にて、有名な滝の姿を描いていました。池大雅に私淑しては、全国を歩いて、文人画を制作していたそうです。
同じく下野の益子の生まれである小泉斐は、特に鮎のモチーフを得意としていました。「鮎図」では藍色の水の中で泳ぐ数匹の鮎を描いていて、跳ねている魚もいました。那珂川に泳いでいた鮎をモデルにしたのかもしれません。
江戸にも多数の画家が集っていました。その1人が、先の菊田伊州も学んだ狩野栄信で、「家長図」では、青い背景の前に色鮮やかな花鳥を描いていました。また栄信の長男である養信の「鷹狩図屏風」も充実していて、高い地点から鷹狩りをする人々を俯瞰していました。同じ着物をまとう人物が複数に見られることから、異時同図法が取り入れられていて、おそらくは鷹狩りに随行して制作したと言われています。
司馬江漢も江戸の町家の生まれでした。「鉄砲洲富士遠望図」の舞台は、画家の長く住んだ新橋にも近い、築地付近の海辺でした。たくさんの帆船も浮かび、遠方には富士山が姿を見せる一方で、岸では石材に仔犬がじゃれ合っていました。可愛らしい姿ではないでしょうか。
千葉の絵師も登場します。下総国、現在の船橋に生まれた鈴木鵞湖で、「西園雅集図」などが展示されていました。なお鵞湖は子も画家として活動し、孫は洋画家の石井柏亭でした。
名古屋の医家に生まれた中林竹洞の「山水図襖」が充実していました。霞に包まれた山や木立の光景を、襖の4面で表現していて、楼閣こそ見えるものの、人の姿はなく、静けさに包まれていました。中央には水辺が開け、雁の群れが舞っていました。叙情的と言えるかもしれません。
山本梅逸「花卉草虫図」 名古屋市博物館 *展示期間:4/6-5/6
同じく名古屋で彫刻工の息子に生まれた山本梅逸の「花卉草虫図」も力作で、縦長の構図に、四季の草花を溢れんばかりに描いていました。また花の周りには蝶やトンボなどの昆虫の姿も見られ、いずれも写実的であり、「箱庭」(解説より)的な景観を見せていたかもしれません。
また「桜図」は、三幅の軸に、枝垂れや八重桜などの種類の異なる桜を描いていて、中央の八重桜には月の影も見えました。花弁の一枚一枚も細かく、背景に薄い墨が塗られていたのは、やはり夜の光景であるからかもしれません。
田中訥言も名古屋の出身で、有職故実に詳しかったため、古絵巻を模写するなどして活動しました。また松平定信の文化財調査にも抜擢され、「餓鬼草紙」を模して描きました。絵具の剥落までも細かに写していて、高い画力を伺えるのではないでしょうか。
「若竹鶺鴒図」も魅惑的な作品で、銀地の二曲一隻の中央に、青い若竹を描いていました。余白は広く、鶺鴒は上下に展開していて、瀟洒な味わいが感じられるかもしれません。
名古屋までで長くなりました。先を急ぎます。桑名の藩主を務めたのが増山雪斎で、「孔雀図」では、堂々とした羽を広げる孔雀の姿を、金銀に群青を多用して鮮やかに描いていました。また「虫豸図」は、主に昆虫を描いた画帳で、カマキリなどを精緻に写していました。雪斎は虫を好み、写生のための使った虫も、うち捨てることなく、大事に保管していたそうです。
上方では蕭白に惹かれました。それが「渓流図襖」で、右上の岩場から左の水辺へ向けて、滝が落ちていました。蕭白が34歳の頃、播州で描いたとされ、今回、兵庫県内の個人宅より発見されました。つまり新出の作品でもあります。
大阪の松好斎半兵衛は、歌舞伎役者の似顔で人気を博したアマチュアの画家でした。また、鴨川越しに南座方向を俯瞰した、岡田春燈斎の「四條大芝居顔見世霜曙之景」も魅惑的ではないでしょうか。小さな銅版の作品で、細密画ならぬ、細かな線で風景を描いていました。生没年不詳の画家で、京都市中で店を開いては、諸国名所図などを売って生計を立てていたそうです。それにしても初めて名を聞く絵師も少なくありません。まさに「あなたの知らないご当地絵師」(チラシより)が目白押しでした。
片山楊谷「猛虎図」(三幅対のうち左幅) 個人蔵 *全期間展示
酒井抱一の兄で、姫路藩主の酒井宗雅の「石楠花に山鳩図」も美しい一枚で、琳派ではなく、南蘋派の作風に近いかもしれません。また長崎の生まれで、鳥取で活動した片山楊谷の「猛虎図」にも驚きました。色の異なる3頭の虎を描いていますが、ともかく体毛を熱心に描いていて、独自の量感がありました。一連の虎の絵は、当時も評判を呼んでいたのか、「楊谷の毛描き」と呼ばれていたそうです。
江戸に生まれ、鳥取藩の御用絵師として活動した沖一蛾の「四季草花図」も、華やかではないでしょうか。朝顔、菊、牡丹、さらに芒などを色鮮やかに描いて、琳派を思わせなくはありません。実際に沖家は江戸の定詰であり、狩野派に学びつつ、南蘋派や抱一などの絵も吸収しては、多様な作品を生み出していきました。
さらに展示は西へ向かい、長崎、さらに鹿児島へと進みました。中国語の通訳として唐人屋敷に出入りし、沈南頻に直接学んだという熊斐ほか、昨年、板橋区立美術館の展覧会でも紹介された長崎版画も目を引きました。ラストは、薩摩藩11代藩主の島津斉彬の描いた「牡丹図」でした。
林十江「蝦蟇図」 東京国立博物館 *全期間展示
構成は地域別で、北から順に絵師を追っていましたが、作家、作品の解説が細かく、出身地や活動の経歴、ないし絵師同士の関係についての知見も得ることが出来ました。文晁らをはじめとする文人らのネットワークは、思いがけないほど広域に渡っていて、各絵師は時に互いに行き来し、学び合っていました。何も個別に活動していたわけではありません。
展示替えの情報です。会期は2期制です。GWを挟み、前後期でいくつかの作品が入れ替わります。
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」(出品リスト)
前期:4月6日(金)〜5月6日(日)
後期:5月8日(火)〜5月20日(日)
一部の作品はこの限りではありません。詳しくは上記リンク先の出品リストをご覧ください。
美術館前、エントランスの外に、千葉市が3月26日から実証実験としてはじめた、シェアサイクルのステーションが設置されていました。現在、同市内の千葉都心エリアと幕張新都心エリアで運用されています。
ハローサイクリングへの事前登録が必要ですが、千葉駅前の大通りにもステーションがあり、ポートに空きがあれば乗り捨ても可能です。よって千葉駅前と美術館を自転車で行き来することも出来ます。(15分60円)
アクセスにやや難のある千葉市美術館ですが、駅からの徒歩のほかに、まちなか循環バスのC-bus、そしてシェアサイクルと、選択肢が増えました。また美術館から足を伸ばせば、千葉市立郷土博物館や千葉県立中央博物館もあります。自転車で巡るのも楽しいかもしれません。
引き続く所蔵作品展「菱川師宣とその時代展」も優品揃いでした。ともかく質量ともに膨大です。時間と体力に余裕をもってお出かけ下さい。
本日4/6より「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり-」無事にスタートいたしました。前期(イレギュラー入れ替え数点含みます、ご注意ください!)だけで162点、総勢80人超の絵師を紹介しています。解説なども多く出ていますので、しっかり見ると2時間はかかるでしょうか…。ぜひじっくりご覧ください! pic.twitter.com/OOHsHVh6eM
— 千葉市美術館 (@ccma_jp) 2018年4月6日
5月20日まで開催されています。おすすめします。
「百花繚乱列島-江戸諸国絵師めぐり」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:4月6日(金)~5月20日(日)
休館:5月7日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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