「夢と追憶の江戸 - 高橋誠一郎浮世絵コレクション名品展」(前期展示) 三井記念美術館

三井記念美術館中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「慶應義塾創立150年記念 夢と追憶の江戸 - 高橋誠一郎浮世絵コレクション名品展」(前期展示)
9/19-10/12(中期:10/14-11/1 後期:11/3-11/23)



塾長代理をつとめるなど慶応義塾との縁も深く、また日本の浮世絵研究の礎を築いた高橋誠一郎(1884-1982)の浮世絵コレクションを概観します。三井記念美術館で開催中の「慶應義塾創立150年記念 夢と追憶の江戸 - 高橋誠一郎浮世絵コレクション名品展」へ行ってきました。

まずは本展の概要です。

・福沢諭吉の門下生で、慶応塾長代理の他、東博館長、また日本浮世絵協会会長を務めた高橋誠一郎の浮世絵コレクションのうち、約300点を展観する。公開は16年ぶり。
・展示は総入れ替えの三期制。前、中、後期で全て作品が入れ替わる。(各100点ずつ)
・構成はオーソドックスな時系列での作品紹介。奥村政信、鈴木春信から歌麿、北斎、広重を経由して、芳年や清方までを総覧する。

ともかく今回の展示で見るべきは、その摺りの良質な保存状態に他なりません。とりわけ冒頭、通常であれば茶碗を展示する第1室に並んだ、例えば師宣や春信、歌麿らの発色は、それこそしばらく前に松濤で開催された「伝説」の浮世絵展、ミネアポリス所蔵の「Great Ukiyoe Masters」に匹敵するのではないでしょうか。よくぞ国内のコレクションでこれほど良い物が残っていたと感心することしきりでした。

それでは前期展示品より印象に残った作をいくつか挙げてみます。



菱川師宣「衝立のかげ」
第一展示室冒頭に登場する。これぞ今回の高橋誠一郎コレクションの良質な摺りの状態を象徴するかのような作品ではなかろうか。あたかも今、水彩を施したかのような瑞々しい色味にて、男女の愛の交歓(キャプションより。)を表す。衝立ての黄、畳の芝色はもちろん、衣装の文様の桃色までが見事な発色で示されていた。いわゆる春画集の巻頭を飾った一図であるらしい。



鈴木春信「風俗四季歌仙 水辺梅」
闇夜の下、梅の木に登って枝を折る少年と、それを見やる少女の姿が描かれている。二人の関係は如何なるものであるのだろうか。背景の漆黒に映えた深緑色の衣装が眩い。

鳥居清長「色競艶婦姿 床入前」
高橋誠一郎コレクションのみに現存が確認されるという珍しい一枚。まだ八頭身を描く前の清長によって、遊女と女中が言葉を交わす様が描かれている。もちろん色味も上々。

喜多川歌麿「高名美人六家撰 難波屋おきた」
茶屋の看板娘を得意の大首絵の手法で表している。盆に入れた茶碗を両手で持ち、その上をなぞるように見つめる女性の表情が慎ましい。髪の部分の発色の鮮やかもまた美しかった。



東洲斎写楽「三世市川高麗蔵の志賀大七」
懐手で刀を持った「悪」(キャプションより。)の侍をお馴染みのポーズで描いている。それにしても驚かされるのは背景の雲母摺の状態の良さ。剥離が皆無であった。

葛飾北斎「富嶽三十六景 甲州三坂水面」
岩肌の露出した夏の富士の景色を湖越しに描く。湖面には逆さ富士が映り込んでいるが、よく見ると冬山になって雪化粧をしているのが面白い。夏と冬を一つの光景の中におさめこんだ。北斎らしい機知を感じさせる。

月岡芳年「日向の景清」
芳年の珍しい肉筆画が展示されていた。能の「景清」の物語の一場面を表す。大きな月を背景に、平家の残党で盲目でもあるという景清本人が琵琶を奏でていた。どことない哀愁が漂っている。

月岡芳年「松竹梅湯嶋掛額」
前期の芳年は計6点。(うち肉筆1点。)お馴染みの月百姿や血みどろ由来の奥州云々も良いが、江戸の大火を題材に、ドラマテックな表現で描く本作が一番印象に深い。激しい炎を背景に、大勢の火消しを下に従えるように配して、風になびいて梯子をのぼるお七の姿が描かれている。何でも恋の執念のために自ら火をつけたらしい。まさに決死の形相をしていた。

前述の通り、最初の第一室にいきなりハイライトがやって来ますが、だからと言ってその後の流れが著しく尻つぼみになるというわけでもありません。また各作品毎に詳細なキャプションがついていました。画題への理解も深まります。

なお残念ながら三期共通の通し券はありませんが、各有料半券を持っていると二回目以降は団体料金に、また土曜と日曜対象のナイトミュージアムでは通常の300円引きにて入場することが出来るそうです。

前期:9/19-10/12 中期:10/14-11/1 後期:11/3-11/23(各出品リスト

ちなみに今回出展の浮世絵コレクションについては、以下のリンク先に全点のサムネイル図像が掲載されています。ご参考までにご覧下さい。

高橋誠一郎浮世絵コレクションについて@慶應義塾図書館デジタルギャラリー(DG KUL)

意外にも館内は余裕がありました。前期は10月12日まで開催されています。(展覧会自体は11月23日まで。)
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「クリムト、シーレ ウィーン世紀末展」 日本橋高島屋

高島屋東京店8階 ホール(中央区日本橋2-4-1
「ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展」
9/16-10/12



ウィーン・ミュージアム(1887年開館。旧ウィーン市立歴史博物館。)所蔵の、19世紀末から20世紀初頭の世紀末絵画コレクションを概観します。日本橋高島屋で開催中の「ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展」へ行ってきました。

まずは本展の概要、及び見所です。

・ウィーン・ミュージアムのコレクションより、主に1890年から一次大戦の間の30年間にスポットを当てて紹介する。
・出品数は全120点。必ずしも大作メインではなく、小品の他、版画も多い。
・クリムトやシーレなどのいわゆる世紀末絵画の他、平行して発展した自然主義絵画など、多面的に同時代のシーンを追う展覧会でもある。

続いて展覧会の構成です。計5章立てでした。

1「装飾美術と風景画」:ウィーンの都市整備に伴った各種公共建築の装飾絵画。一方でクールベなどの影響下に進展した森や田園の風景絵画など。
2「グスタフ・クリムトとそのサークル」:クリムトとその周辺。代表作「パラス・アテナ」など約10点。
3「エゴン・シーレ」:シーレ。油彩、水彩などあわせて約25点。
4「分離派とウィーン工房」:分離派絵画、「ユーゲント・シュティール」の装飾表現など。
5「自然主義と表現主義」:自然主義絵画、分離派の装飾的表現から一歩、別の方向へと進んだ表現主義作家を紹介。

それでは以下、印象に残った作品を挙げていきます。

フーゴー・ダルナウト「シュトゥーベントーア橋」(1901)
黄昏時の紫の空に下にのびるアーチ橋を描く。橋上を慌ただしく行き交う人々が一日の終わりを告げている。仄かに灯るガスの光が温かい。明かりが川面にまるで舞う蛍のように反射していた。



グスタフ・クリムト「寓話」(1883)
イソップの寓話に基づく画題。中央にはアングル風の美しい白い肌を露出した裸女が立ち、その脇をツルやキツネ、そしてライオンが固めている。これらの動物は多様な民族を表すとのこと。その共存を説いている。クリムトがこのような歴史画風の作品を描いているとは知らなかった。

グスタフ・クリムト「愛」(1895)
両側にパラの花が垂れ下がる金の帯が走り、中央には男女が恍惚とした面持ちで抱擁する姿が描かれている。いかにも愛の美しさを称揚した作品にも思えるが、上部で浮かぶ数名の人物に目がとまった。まるで悪魔のような顔をした老婆などが登場している。その様は二人の脆くて儚い愛をあざ笑うかのようだった。これぞ退廃。



グスタフ・クリムト「パラス・アテナ」(1898)
ちらし表紙にも掲げられた本展のハイライト。自身の結成した分離派の第一回展に出品して賛否を巻き起こした注目作。学問や知恵、そして戦いを示すギリシャの女神が堂々たる姿で描かれている。鱗状になった甲冑はもとより、その絹のような肌をした手で掴む槍など、金を用いて表す装飾はまさにクリムトらなではきらびやかなものだった。中央の魔除けの出す舌を見れば、この作品を見て当時の保守派が怒ったのも無理はないと思う。

エゴン・シーレ「意地悪女」(1910)
シーレの妹がモデルだという人物像。口をつぼめて見る者を罵るかのようにしてこちらを向く女性が描かれている。その大仰なポーズはまるでカリカチュアのようだ。

エゴン・シーレ「ヒマワリ」(1909)
久々に出会った言葉を失うほどに衝撃的な作品。ヒマワリをこのように描いた画家など他にいるのだろうか。白を背景にした縦長の画面の中に、ほとんど無理矢理立たせているかのように干涸らび、また焦げ付き、まさに枯れ果てたヒマワリの姿が描かれている。下に群生する花々はキャプションによれば再生、また未来への希望云々と説明されていたが、私には死人に手向けた花のようにしか見えなかった。

エドゥアルト・シュテラ「踊り子」(1909)
茶碗を手に持ち、つま先立ちで舞を披露するする全裸の踊り子が描かれている。その横向けに露わとなった臀部はことさら卑猥で、正視することすら阻むほどエロチックなムードが漂っていた。

ルートヴィヒ・ハインリヒ・ユングニッケル「マース河畔にて」
スーチンあたりを連想もさせる、やや激しいタッチで描かれた河畔の景色。水面に浮かぶ何隻もの汽船からは、あたかも空を焦がすかのような煙がもうもうと立ち上っている。全体を覆うグレー、もしくは茶色の色調が、近代の到来で痛めつけられた自然の悲哀のようなものを表していた。河はすでに取り返しのつかないほど汚染されている。

マックス・オッペンハイマー「十字架降架」(1913)
出口付近で一際異彩を放っていた作品。まるで心臓を自ら抉り、血にまみれたかのような受難のキリストが描かれている。ちなみにこれはキリスト像と、画家本人を重ね合わせた作品らしい。そのグロテスクな表現が頭に焼き付いた。

世紀末絵画展ということで、シーレらのいかにも耽美的でかつ破滅的な作品ばかりが揃っているのかと思いきや、上でも触れたように同時代の自然主義風景絵画など、一筋縄ではいかないこの時期のウィーンの美術の動向全体を知ることの出来る内容に仕上がっていました。決して単なるクリムト、シーレの「名品展」でないところが、この展覧会のむしろ良い面なのかもしれません。

また音楽ファンにとっては、いくつかこの時代に関連する作曲家、もしくは音楽主題の作品がいくつか紹介されているのも嬉しいところです。シュトラウスがワルツを演奏する様子をまるでルノワール絵画の如く華やかに描いたヴィルダの「ランナーとシュトラウス」(1906)の他、マーラーの横顔を銅版で示したオルリクの「グスタフ・マーラー」(1902)、また表現主義画家としても活躍したシェーンベルク作の油彩(計3点)などが印象に残りました。

「もっと知りたい 世紀末ウィーンの美術/千足伸行/東京美術」

なお今回は高島屋としては異例の出品リスト付き(受付で申し出るといただけます。)です。これはメモなどをとるのに非常に助かりました。用意して下さってありがとうございます。

10月12日までの開催です。また本展は終了後、以下のスケジュールで巡回します。

【大阪】サントリーミュージアム(天保山) 10/24~12/23
【福岡】北九州市立美術館 2010/1/2~2/28
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「一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 」 板橋区立美術館

板橋区立美術館板橋区赤塚5-34-27
「御赦免300年記念 一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 」
前期:9/5-9/23 後期:9/25-10/12



江戸元禄期を代表する画家、英一蝶の画業を回顧します。板橋区立美術館で開催中の「一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 」へ行ってきました。

まずは本展の概要です。

・幕府によって三宅島へ流罪となった英一蝶の、「御赦免」(将軍代替による大赦)の300年を記念しての展覧会。
・英一蝶単独の企画展としては、1984年の同館で開催された展示以来のことである。(だからこそ「リターンズ」。)
・新出の作品を含む、全50点にて、一蝶の画業を初期から晩年まで網羅している。
・入口より向かって左の第1室に、三宅島配流前、及び配流中に描かれた作品を、また右の第2室に大赦後の作品を展示している。
・ごく一部の作品に展示替えあり。(後期は9/25から。出品リスト。)

江戸時代の絵師の中でも、一蝶ほどその境遇に興味深いものはいないかもしれません。当初は狩野派に学びつつも、すぐさま又兵衛や師宣らの風俗画に開眼。芭蕉らと親交を結びながら流行作家として活躍するも、あらぬ罪にて三宅島へ配流され、12年間の流罪生活をひたすら絵を描いて過ごし、大赦後も江戸にて画業生活を続けた一蝶は、まさに時代に翻弄されつつも、絵を描き続けた逞しい文化人とでも言えるのではないでしょうか。なお遅れましたが、会期初日に、千葉市美術館長の小林忠氏の講演会を拝聴してきました。そちらでも一蝶の業績、また人となりに関する詳細な話がありましたので、何とか会期末までにはまとめて記事にするつもりです。

それでは以下、私の見た前期展示の中からいくつか印象深い作品を挙げておきます。

「立美人図」(千葉市美術館)
一蝶が影響を受けたという師宣風の立ち美人図。艶やかな秋草の示された上着を少したくし上げて見やる様が颯爽としていて凛々しい。

「鉢廻図」
一蝶ならではの愉悦感に満ちた一枚。片足で立ち、口の先には杯をのせてくるくると廻す大道芸人の姿が描かれている。ここで注目すべきはそれを見やる子どもの何ともはしゃいだ様。手を高くあげ、指を指して大喜びして楽しんでいる。これほど子どもの姿を生き生きと捉えた絵師は他にいるのだろうか。



「投扇図」(板橋区立美術館)
鳥居の隙間をめがけて扇子を投げ入れる男たちの様子が描かれている。元々は運試しでこのような遊びの風習があったそうだが、殆ど酔っぱらっているかのように騒いで投げ込む彼らの姿は、まさに屈託のない庶民の日常を捉えているようで興味深い。

「六歌仙図屏風」(板橋区立美術館)
六曲一双の大画面に六人の歌仙をのびやかに配した作品。何故これほどの空間が必要なのかと思うほどに広々とした野山の景色が描かれている。連なる山やあぜ道など、絵具の濃淡で仄かに示した風景描写もまた見事だった。ちなみにこの作品は板橋区美の新収蔵品でもある。



「布晒舞図」(遠山記念館)
ちらし表紙にも登場する遠山記念館蔵の重要文化財。長い晒し布を器用に操って踊る舞人の姿が描かれている。それにしてもこの軽やかなステップを踏む動的な表現こそ一蝶の真髄ではないだろうか。伴奏をとる者たちの快活な様子もまた楽しい。賑わいが伝わってくる。

「虚空蔵菩薩像」
一蝶は配流時代、生活のために庶民のニーズがあった仏画を数多く描いた。本作も新島の地に残っていたという菩薩像。限りある絵具を用い、細やかな彩色を施す一蝶の胸の内には如何なるものがあったのだろうか。

「吉原風俗図巻」(サントリー美術館/前期)
三宅島時代、江戸の注文主の要請に応じて、一蝶がその賑わいを想像して描いた吉原の風俗図巻。吉原へ乗り付ける人物の姿から、楼閣の内部で宴に興じる者までが見事な描写力で示される。彼の地を半ば憧れて描いたのかもしれない。いつも以上に筆がのっているように思えた。

「田園風俗図屏風」(サントリー美術館/前期)
淡彩で描かれた何らの変哲もない農村の景色が雄大に示される。やはりここで興味深いのは、驟雨に襲われて一つの屋根の下に大勢の人が集う雨宿りの描写。本展では東博所蔵の「雨宿り図屏風」も後期に出品されるが、一蝶はよほどこの光景が好きだったに違いない。

「富士山図」(山梨県立博物館)
富士山図とありながら、山よりもその手前の渡し場に集う人々が主役になっている作品。雄大な景色の中でも人の営みに目を向ける一蝶ならではの視点を感じる。



「阿弥陀来迎図」
本展で一番衝撃的な作品。二十五にも及ぶ菩薩が濃密な極彩色で描かれている。一蝶と知らなければ、明治以降の近代日本画かと見間違うほどにエキゾチック。思わず牧島如鳩の作品を連想してしまった。これは必見。

その苦難に満ちた生き様とは裏腹に、快活極まりない人物描写に独特の諧謔味の加わった、見て思わず笑みがこぼれてしまうほどに愉しいのが一蝶画の特徴です。ちなみに図録の装丁はシンプルながらも洒落ていました。即決で購入です。(巻き替えで展示されていない部分も全て図版が掲載されています。)

ところで今週末以降も、恒例の講演会が二回続きます。何れも豪華講師陣による無料とは思えない充実のプログラムです。興味のある方は参加されては如何でしょうか。(なお会場が手狭なため、間際になると座れない場合があります。例えば開始30分前など、ある程度余裕を持って行かれた方が賢明です。)

記念講演会(会場:板橋区立美術館講義室、定員:先着100名、聴講無料・申込不要、時間:何れも午後3時より1時間半。)

10/03(土)「一蝶って浮世絵師なの?」小澤弘(江戸東京博物館都市歴史研究室長)
10/10(土)「英一蝶研究のあれこれ」 河合正朝(慶應義塾大学名誉教授)

展示替え作品は僅かですが、早速、後期展示が先日より始まりました。お見逃しなきようご注意下さい。

また美術の窓の9月号は完全に本展に準拠しています。こちらもおすすめです。

「美術の窓2009年9月号/生活の友社」

アクセスの難など問題になりません。全ての江戸絵画ファン必見の展覧会です。10月12日まで開催されています。
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「米田知子展」 シュウゴアーツ

シュウゴアーツ江東区清澄1-3-2 5階)
「米田知子展」
9/5-10/3



2008年のバングラディッシュビエンナーレに参加した際の写真群を展観します。(TABより引用。)シュウゴアーツで開催中の米田知子展へ行ってきました。

当地のビエンナーレに出品した作ということで、その被写体はもちろん、作家自身が旅し、また取材したバングラディッシュの風景、もしくは人々です。とは言え、対象の場所や物の歴史や記憶を呼び覚ます米田のアプローチは、当然ながら単なる風景写真やポートレートを示すだけに留まりません。登場する女性は独立戦争の犠牲者の妻であり、また一方の男性は、その戦争に参加した軍人の姿です。相反する立場の人を捉え、その上で同時に提示しながら、言わば別の場所で流れた時間の軸を辿るようにして表していました。

しかしながらも滔々と流れゆく大河傍の荒野を写した作品は、そのドラマを越えた自然の破壊的な美しさを示すに十分なものがあります。水に浸食され、全てを洗われる森の光景は、米田一流の透明感にも溢れた写真によって、圧倒的な実在感を持ちながらも静かに示されていました。

10月3日までの開催です。
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「トリノ・エジプト展」 東京都美術館

東京都美術館台東区上野公園8-36
「トリノ・エジプト展 - イタリアが愛した美の遺産 - 」
8/1-10/4



東京都美術館で開催中の「トリノ・エジプト展 - イタリアが愛した美の遺産 - 」へ行ってきました。

まずは本展の簡単な概要です。

・世界屈指エジプト・コレクションを誇る、イタリア・トリノのエジプト博物館の所蔵品を日本で初めて紹介。(同博物館の所蔵品は全3万5千点。)
・出品作数は約120点。小品の装飾アクセサリーから木棺、ミイラ、それに石碑や大型の彫像までを多様に展示。
・定評のある当地博物館の彫像ギャラリーの演出方法を再現。(米アカデミー賞受賞の美術監督による。)よって照明などにも要注目。

それでは展示の章立て順に印象深い作品を挙げます。

第1章「トリノ・エジプト博物館」
小品をメインにした展示。「トトメス3世のシリア遠征パピルス」の他、新王国時代のピンセットやパレットなど。

「トリノのエジプト・ギャラリー」(1881年)
いきなり登場するのは重厚な西洋絵画。何故にエジプト展で絵画がと思いきや、19世紀のトリノ・エジプトギャラリーの様子を描いた作品とのこと。立派な飾り棚に入って横たわるミイラが雰囲気を醸し出す。うまい導入だ。

「王の胸像の習作」(前4世紀)
石灰と漆喰によって出来た王の小さな胸像。彩色こそないものの、うっすらと微笑みを浮かべる様子は人間味がある。

第2章「彫像ギャラリー」
今回のハイライト。門外不出の「アメン神とツタンカーメン王の像」など。当地博物館の展示演出を再現した空間に、神秘的な大型石像群がガラスケースなしで浮かび上がる。

「ライオン頭のセクメト女神座像」(前1388~前1351年頃)
火を噴くともいう戦闘的な復讐の神、セクメト神の坐像。言うまでもなく頭部がライオンの形になっている。上には太陽の円板を掲げたお馴染みのポーズをとっていた。当時、この形の作が何百と作られていたとされるのが興味深い。



「アメン神とツタンカーメン王の像」(前1333~前1292年頃)
都美随一の吹き抜けスペースに鎮座する門外不出のツタンカーメン。思っていたほど大きくはなかったが、主神アメンに寄り添う少年王ツタンカーメンの姿は何やら微笑ましい。相似形の顔をしたその出立ちは、まるで両者が親子であるかのよう。アミン神の背中に小さく伸びたツタンカーメンの手が両者の絆を示していた。作品の状態も良く、石の輝きもまた美しい。

第3章「祈りの軌跡」
万物に「神」を感じたエジプトの信仰を紹介する。太陽神ラーの他、神である動物をモチーフとした小像など。

「青銅製の猫の小像」(前664~前332年)
小さな猫が両足を揃えて座り込んでいる。元々エジプトでは獰猛なライオンを像にすることが多かったが、時代が下るに連れて多産を意味する猫の像が多く生産されたらしい。



「ハヤブサ、トキ、ジャッカルの小像」(前2~前1世紀)
何れも木で出来た小さな動物の彫像。彩色の状態も比較的良好。このような小動物にまで「神」を見た古代エジプトの人々の思いは如何なるものだったのか。万の神は何も日本のものだけではない。

「王を守護するイシス女神の像」(前664~前332年)
透かし彫り風の羽を付けたイシスが小さな王を守るようかのような仕草をして立っている。凹凸もある羽の造形はかなり精巧だった。

第4章「死者の旅立ち」
ミイラをおさめた人型棺各種。ミイラを作る際に用いられた容器(カノポス容器)。



「タバクエンコンスの人型棺」 (前990~前970年頃)
驚くほど文様が鮮明に残っている木製の棺。朱色がかった彩色も美しい。

「神殿の庭師メンチュイルデスの人型の内棺」(前850~前750年頃)
正面より作品の裏へ回り込み、蓋の内側を見て大いに驚かされる。当時の発色もそのままに、天空の神ヌウトが見事な描写で描かれている。

「プタハ・ソカル・オシリス神像」(前332~前30年)
一風変わった小さな神像。ダチョウの羽と牡羊の角を持ち、顔を金で塗った神が、何やらにやりと笑うかのような仕草で佇んでいる。他の神像と比べるとかなり不気味だ

第5章「再生への扉」
「子供のミイラ」。再生を願って副葬された護符など。

「木製の女性像」(前1550~前1070年頃)
飾りの全くないシンプルな女性像。左足を前にして、細身のシャープなシルエットを際立たせるポーズをとる。王家の人間ではない者の像であるらしい。エジプトというと権力者、支配階級の像のイメージが強いので、こうした普通の人間のそれもあるとは意外だった。



「ロータス文様のファイアンス製容器」(前1550~前1070年頃)
白を基調とした石の像が目立つなかで、また一際異なった青色の輝きを放った小鉢。エジプトでは宇宙が現れる太古の淵を意味しているらしい。

実際のところ、自分にとってエジプトは時間も場所も非常に遠く、これまでもエジプト云々の展示は殆ど見たことがありませんが、大型の彫像やミイラはもとより、キャプションでも説明されていた小ぶりのエジプトの神像など、なかなか目を惹くものの多い展覧会で楽しめました。また上でも触れたように、スペースに制約の多い都美にしては、館内の展示演出が大変に優れています。暗室にスポットライトで浮かび上がる彫像の他、壁面にガラスを用いてそのイメージを広げるなどして、手狭な箱の存在を意識させず、作品へ集中出来るような環境が用意されていました。

「芸術新潮2009年09月号/新潮社」

久々の人気の都美の大型展です。会期末ということで混雑も激しくなっています。(先だってのシルバーウィークでは最大1時間待ちの行列が発生したそうです。)これからの方は時間に余裕をもっての観覧をおすすめします。(待ち時間情報)なお残すところあと一回のみ(10/2)ですが、金曜夜間(20時まで)は比較的余裕があるそうです。

10月4日までの開催です。
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「熊谷直人展/政田武史展/今村哲展」他 五反田・渋谷・西新宿(ギャラリーテオ他)

ギャラリーテオ品川区東五反田2-5-15
「熊谷直人 pd - exhibition『d』 - 」
9/5-19(会期終了)



7月のペンティングに続き、今回はドローイングのみの展覧会。作家本人がこれまでに描きためた無数のドローイングが、扉以外の画廊の壁面の全てに所狭しと貼られている。コラージュから抽象風、また素描風のポートレートなど、色も鮮やかに、どこか華やいだ様相で並んでいた。そう言えばメグミオギタでもこうした形式の展示があったような気がする。(売り易いのだろうか。)一枚3000円からとのことで、手に取られた方も多いのではなかろうか。

トーキョーワンダーサイト渋谷渋谷区神南1-19-8
「大巻伸嗣「絶・景 - 真空のゆらぎ」
8/1-11/8



この方の空間を一変させる力は本当に凄まじいものがある。ワンダーサイトの展示室がかつてないほど変質した。テーマはゴミと環境。と言うと、何やら説教臭いものもあるが、ともかくはそれをさて置いても、これを一つのインスタレーションとして捉えれば圧巻、もしくは逆に呆気にとられること必至ではなかろうか。それにしても二階スペースにあがって驚いた。まさか一階の小山が重力によって出来上がったものだとは思わなかった。好き嫌いはともあれ、渋谷に行った際は是非とも見るべき。

WAKO WORKS OF ART新宿区西新宿3-18-2-101)
「政田武史 - New Works」
9/11-10/10



今回の最大の目当てはこれ。前回展とあまり変わらない点については賛否もありそうだが、まるで木片を合わせたようなストロークによる「ちぎり絵風絵画」は、やはり何度見ても凄まじい。今回は二つの展示室を合わせ、計9点の新作絵画を紹介している。パープルカラーを巧みに用い、映画のワンシーンからも取り入れた人物像などは、そのデフォルメされた不気味な表現とも相まってか、どうやっても目に焼き付いて離れない。遠目から魚眼的な、また映像的でリアルな描写を楽しみ、今度は近づいて抽象面に解体されたタッチのダイナミックな動きを味わうことが出来た。もちろんおすすめ。

ケンジタキギャラリー東京新宿区西新宿3-18-2-102)
「今村哲 - 新作展」
9/11-10/24



何年か前に「アリの巣」という大掛かりなインスタレーション個展の記憶も新しい今村哲の、今回はほぼ絵画のみの新作個展。木の枝の先にそのままくっ付いた木彫の人間を導入に、彼らの言わば冒険が物語風に表されていく。あまり馴染めなかった。
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「ミヒャエル・ゾーヴァ展」 そごう美術館

そごう美術館横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階)
「描かれた不思議な世界 ミヒャエル・ゾーヴァ展」
9/4-27



1945年にベルリンで生まれ、挿絵画家、イラストレーター、さらには舞台美術家としても活躍を続けるミヒャエル・ゾーヴァの業績を紹介します。横浜のそごう美術館で開催中の「描かれた不思議な世界 ミヒャエル・ゾーヴァ展」へ行ってきました。

元々、風刺画家としてのキャリアも築いてきたゾーヴァですが、ともかくやはり見入るのは、彼の名を世界的レベルにまで引き上げた「ちいさなちいさな王様」(1993)他、数十点にも及ぶ絵本挿絵の世界です。下の数点の画像をご覧いただくだけでも、その可愛らしい様子にぐっと引込まれるのではないでしょうか。

「ちいさなちいさな王様」(1993)
人差し指サイズの王様が「こども」となって世界を見つめていく物語です。コーヒーのカップに砂糖を投げ入れたりするゾーヴァの挿絵はどれも微笑ましいものですが、原作自体は大人であったはずの王様が、老いて縮みながら世の中を見つめていくという、やや哲学的な内容でもあります。



「エスターハージー王子の冒険」(1993)
ウサギ伯爵家、エスターハージー王子が、存亡の危機を前に「お嫁」探しの旅に出ます。ちいさなウサギ王子がコートを来て街をとぼとぼ歩き、また汽車の大きなシートにちょこんと座って窓の外を見つめる健気な様子などが表現されていました。



「クマの名前は日曜日」(2001)
ある少年のところにやって来た「寡黙」なクマのぬいぐるみ物語です。洗濯機の中に放り込まれて、物干で耳から吊るされたりするクマの姿が、半ば意思を持たないモノとしての悲哀をたたえながら描かれていました。

「魔笛/那須田淳/講談社」

全130点にも及ぶ回顧展ということで、これらの絵本挿絵の他にも、これまでのゾーヴァの制作を網羅するような多様な作品がいくつも紹介されています。中でも印象的だったのは、全部で100枚の作品を、何と1枚ずつ水彩で仕上げたというドイツの「緑の党」のポスターや、1998年にフランクフルト歌劇場で手がけた「魔笛」の舞台デザインでした。特に「魔笛」では叡智の神殿をはじめ、お馴染みの夜の女王の絵画も登場します。ゾーヴァの幻想的ながらも、どこか素朴派を連想させる謎めいた世界観は、単なるおとぎ話を超えた魔笛の物語にも相応しいものがあったのかもしれません。こちらも楽しめました。

「ちいさなちいさな王様/アクセル・ハッケ/講談社」

久々に各種ポストカードを何枚も買い込んでしまいました。絵本も是非手元に一冊揃えておきたいところです。

「ミヒャエル・ゾーヴァの世界

27日の日曜まで開催しています。(連日夜8時まで。最終日は午後5時閉館。)
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「フランスの浮世絵師 アンリ・リヴィエール展」 神奈川県立近代美術館葉山館

神奈川県立近代美術館葉山館神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
「オルセー美術館・フランス国立図書館所蔵 フランスの浮世絵師 アンリ・リヴィエール展」
9/5-10/12



19世紀末のジャポニスムに影響を受け、木版やリトグラフにて主に自然を描いたフランスの『浮世絵師』、アンリ・リヴィエール(1864-1951)の画業を回顧します。神奈川県立近代美術館葉山館で開催中の「アンリ・リヴィエール展」へ行ってきました。

まずは本展の概要です。

・2006年、リヴィエールの遺産を管理していた人物により、コレクションがまとめてフランス政府に物納された。その際、日仏で所蔵品を共同研究。今回はその成果を披露する展覧会である。
・エッチング、木版画、リトグラフ、水彩画、写真他、170点余りの作品を展示する。その殆どは日本初公開。
・リヴィエールだけでなく、彼に影響を与えた日本の浮世絵師、広重や北斎の作品も一部合わせて紹介する。(リヴィエール自身の所有していた浮世絵コレクションなど。)
・作風に共通点があるとされる同時代、もしくはそれ以降の日本の版画家も紹介。吉田博や川瀬巴水など数点。

それでは各章毎に印象に残った作品を挙げていきます。(なお会場のスペースの都合上、実際の順路は1→2→4→3→5部でした。)

第一部「カフェ『シャ・ノワール』初期作品と影絵劇」
1881年、パリ・モンマルトルのカフェ、「シャ・ノワール」発行の週刊新聞編集者となったリヴィエール。多くの芸術家が集ったカフェで次第に挿絵画家としての頭角を表していく。また「シャ・ノワール」で上演された影絵劇の舞台監督も務めた。

「ギロチン」
断頭台の下で無惨にも転がる頭部を描く。モノクロームの中の暗鬱な表現は、後のリヴィエールの風景版画には見られない世界だ。

「傘下の埋葬」
雨中の葬列を表した一枚。縦方向にて傘をさして連なる行列の構図は、早くも浮世絵の独特な遠近法を思わせるものがある。雨を示す直線の描法もまた浮世絵的。



「星の歩み」
影絵劇をまとめたリトグラフ集。大きな満月を背景に、星屑の散る海の夜を幻想的に描く。船が斜めに連なり、まさに影絵のように月の前で両手を掲げる人物の様子は、あたかも象徴派絵画のようだ。なお本展では影絵劇を約10分超の映像でも紹介している。
 
第二部「ブルターニュ 自然の風景」
ジャポニスム影響下のもと、熱心に浮世絵を研究したリヴィエール。多色摺り木版、もしくはリトグラフにて、自らの愛したブリュターニュの景色を描く。また彼は時間や天候によって変化する風景の差異にも関心を持った。波や海を半ば定点観測風に表していく。

「海、波の研究」
エメラルドグリーンにそまる岸壁越しの海を表す。滲み出るような色味が素晴らしい。

「ブリュターニュ風景」
風光明媚なブリュターニュの景色を多様に示した版画群。広がる景色に巴水版画的な旅情を感じた。また一部、構図上の相似点として、北斎の作品なども合わせて展示してある。



「時の魔術-最後の陽光」
縦長の構図に表すブリュターニュの森。上部の葉には夕陽が煌めく。ボナールの絵画を思い出した。



「時の魔術-落日」
ブリュターニュの海辺の夕景を描く。ともに繊細なグラデーションによって示された水色の海と朱色の空のコントラストが美しい。



「自然の様相-海の夜」
ちらし表紙にも使われた作品。画像ではまるで昼のようだが、既に藍色を帯び始めた夜の海の下、月明かりを背にした帆船が悠然と進んでいく。透明感にも溢れた海の水の質感はもとより、月の光の滲むマストの陰影なども非常に細やかに表されていた。

第三部「世紀末パリ」
近代化する19世紀末のパリの風景、特にエッフェル塔の建築される様子を版画で記録する。



「エッフェル塔三十六景-トロカデロからの眺め」
「富嶽三十六景」に倣って、エッフェル塔を様々な視点から捉えた連作集。まだ組み上がったばかりのエッフェル塔の雪景色が物悲しい。

「エッフェル塔の工事現場」
リヴィエールの写真家としての側面を垣間みる一枚。自らカメラをもってエッフェル塔の建築現場を撮影した。塔にのぼって作業するペンキ工の姿などを、自身の写真と同じ構図の版画で示している。

四部と五部については、リヴィエールの作品というよりもその周辺、また影響を俯瞰するセクションです。よってここでは概略のみを挙げておきます。

第四部「リヴィエールと日本」
リヴィエール自身が所有していたという約800点の浮世絵コレクションより、春信や広重作の数点を展観する。彼が抱一編の「光琳百図」までを所有していたことには驚かされた。

第五部「近代日本絵画とリヴィエール」
リヴィエールと日本との関係の紹介。画家本人は来日したことがなかったが、富本憲吉が彼の版画をロンドンで見て、その影響下のもとに木版の制作をはじめたことがあった。吉田博の海を描いた一連の木版シリーズが特に美しい。またイギリスへ渡り、当地を木版で示した漆原木虫の「ストーンヘンジ」なども興味深かった。

実際、影響を受けた技法、それに構図の他、リヴィエールと日本の浮世絵との関係は非常に深いのは言うまでもありませんが、その反面のまるでモネの行為を連想させる風景の定点観測をはじめ、象徴派風の夢幻的な海景版画など、必ずしも日本一辺倒ではない、半ば西洋と日本の折衷的な表現にこそ稀な魅力があるように思えました。

なお出品リストはありません。県立美クラスの展覧会なら尚更のこと、せめてWEBにでも公開していただけないものでしょうか。また葉書も少なく、その辺は残念でした。



リヴィエールが数多く描いた海の風景は、美術館脇に広がる海の景色と連動します。実のところ、私はここの箱自体をそれほど好きではありませんが、まさにこの場所ならではの展覧会だと感じました。



本展の関東巡回はこの葉山のみです。版画ファンの方は是非ともおすすめします。

10月12日までの開催です。
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「エルネスト・カイヴァーノ展/オノデラユキ展」他 清澄(小山登美夫ギャラリー他)

小山登美夫ギャラリー江東区清澄1-3-2 7階・6階)
「ヨナタン・メーゼ展/エルネスト・カイヴァーノ展」
9/5-10/3



7階のメインスペースでは、幼少期、自身の日本におけるヒーローだという三島由紀夫のイメージを借りたドイツ人、ヨナタンメーゼのインスタレーションを紹介している。EVを降りてすぐに開けてくる景色は、まさに何でもありそのもの。壁面にはそのまま書きなぐったようなペイントが施され、三島の写真が時にヒトラーのそれと合わされながらコラージュされて次々と登場する。結論からすると全く馴染めない。一方での6階では、鳥や花々、それに樹木を精緻に描くエネルスト・カイヴァーノのドローイングを20点ほど展示している。こちらはなかなか魅力あり。宙に岩の浮かぶマグリット風の描写があったかと思うと、作家自身がPhilaporeと呼ぶ鳥を持った女性などが登場する。シュールな絵本を読むかのような味わいがあった。

ヒロミヨシイ江東区清澄1-3-2 6階)
「ジョシュ・スミス展」
9/5-10/3



1976年生まれで、ニューヨークで活動をするジョシュ・スミスの絵画がずらりと並ぶ展覧会。キャンバスに縦横無尽に走るストロークは、どこかアクション・ペインティング風。形よりも、そのダイナミックな動きに目を向けるべき作品なのかもしれない。難解。

KIDO Press,Inc.江東区清澄1-3-2 6階)
「オノデラユキ - 古着のポートレート」



オノデラユキの初めてとなる銅版画の展覧会。タイトルの如く古着がポートレート風に捉えられて並んでいる。(5点。)版画の形態をとることで、通常の写真よりもむしろ質感に重さが加わるのかと思いきや、まるでテンペラ画を見ているような軽妙さが感じられた。一見、寡黙にあるように見えながらも、古着がこれまでに蓄積してきた『物語』を連想させるような雄弁な作品でもある。

タカイシイギャラリー江東区清澄1-3-2 5階)
「エルムグリーン&ドラッグセット - SUPERMODELS」
9/5-10/3

ロンドン、及びベルリンを拠点に活動するアーティストの二人展。ともかく目を引くのは、展示室の随所にまさにモデルの如く立ち並ぶ白い「SUPERMODEL」群。まるでアルプの彫刻かのように、曲線、そして球体をくねらせて何体も登場する。また彼ら彼女らに着せられた服は、ファッションデザイナーによるものだそう。会場の雰囲気はいつになく華やかだった。さながら舞踏会だ。

シュウゴアーツ江東区清澄1-3-2 5階)
「米田知子展」
9/5-10/3

今回の清澄訪問の目的はこれ。うかつにも原美の個展を見逃した私にとっては、久々に米田の写真作品と出会えただけでも満足出来た。別途記事にする予定。
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「イタリア美術とナポレオン展」 大丸ミュージアム・東京

大丸ミュージアム・東京千代田区丸の内1-9-1 大丸東京店10階)
「イタリア美術とナポレオン展」
9/10-28



ナポレオンの生地、コルシカ島のフェッシュ美術館の「至宝」(ちらしより引用)を概観します。大丸東京店で開催中の「イタリア美術とナポレオン展」へ行ってきました。

まずは本展の概要です。

・フェッシュ美術館のイタリア美術品より、主に17世紀から18世紀の絵画、約80点を展観する。
・同美術館のイタリア絵画コレクションは、フランス国内においてルーヴル美術館に次ぐ規模である。
・ボッティチェッリ初期作「聖母子と天使」のアジア初公開。

続いて展覧会の構成です。

1.「光と闇のドラマ - 17世紀宗教画の世界」:ボッティチェッリの「聖母子と天使」など。
2.「日常の世界を見つめて - 17世紀風俗画の世界」:ルカ・ジョルダーノ「聖セバスティアヌスの殉教」他。
3.「18世紀イタリア絵画の世界」
4.「ナポレオンとボナパルト一族」:フランソワ・ジェラール「戴冠式のナポレオン1世」、ナポレオンのデスマスクなど。
5.「コルシカ島風景画家」:ご当地、コルシカ島の風景画家を数点紹介。エピローグ。

それでは印象に残った作品を挙げます。



マッティア・プレーティ(工房)「聖女ヴェロニカ」(17世紀後期)
天を見つめて涙するヴェロニカの姿。画像ではつぶれてしまったが、手元に聖顔布を持つお馴染みのポーズをとっている。悲しみを内にたたえたような清純な表情はやはり美しかった。

サンドロ・ボッティチェッリ「聖母子と天使」(1467ー70年)
ちらし表紙にも掲げられた本展の目玉。状態にもよっているのか、部分的に出来不出来の落差が激しいが、まるでレオナルドの描いたような中性的な天使は可愛らしい。流れるような巻き髪も軽やか。

サンティ=ディ・ティート「子供時代」(1570年頃)
今回の展示作品の中ではやや異質な印象を受ける一枚。人間の魂を表すという小鳥を握りしめ、足元には花のちらほら咲く土地の上に少女が立っている。非常に濃い空の青みが目に染みた。

ルカ・ジョルダーノ「聖セバスティアヌスの殉教」(1660年頃)
本展示の中で最も劇的な作品ではないだろうか。あたかも拳を振り上げるかのようなポーズをとるセバスティアヌスが画面中央に立ちふさがる。胸と腹に矢を刺し、目には大粒の涙をたたえていた。白く、銀色にも光る肉体はまるで化石のようだ。

フランチェスコ・ノレッティ「トルコ絨毯と壁布のある静物」(17世紀中期)
タイトルの如く絨毯の質感表現にこそ見るべき点がある作品。その毛羽立った糸の質感は、重厚な画肌によって巧みに再現されていた。

アントニオ・ジュゼッペ・バルバッツァ「死んだ鶏」(18世紀中期)
経歴が殆ど知られてない作家の一枚。絞め殺した鶏が真っ逆さまにぶら下がる姿が描かれている。いわゆる静物画の範疇に入るのだろうが、首筋から流れおちる血の描写など、否応無しに死の臭いが漂ってくる不気味な作品ではある。尾っぽの靡く様子はあたかも若冲。



フランソワ・ジェラール「戴冠式のナポレオン1世」(1806年)
江戸博のナポレオン展でも見た作品なのだろうか。重厚なガウンに身を包んで、まさに威厳に満ちた様で構えるボナパルトの姿が描かれている。ややアンニュイな表情が魅力的だ。

これらのイタリア絵画の基準作というのがあまり良く分からないので、所蔵品の質云々については不明ですが、暗がりの大丸ミュージアムの空間に、所狭しと並ぶ大作絵画群はなかなか壮観なものがありました。また濃厚極まりないルネサンス絵画を抜けると、最後には淡いタッチの軽妙な風景画が待ち構えているという構成も悪くありません。



なお出品リストは受付に申し出るといただけます。メモをとるのに重宝しました。

最終日を除き、会期無休にて連日夜8時(入場は午後7時半。)まで開館しています。

今月28日までの開催です。
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N響定期 「メンデルスゾーン:交響曲第3番(スコットランド)」他 ホグウッド

NHK交響楽団 第1653回定期公演 Aプログラム2日目

オール・メンデルスゾーン・プログラム
 序曲「フィンガルの洞窟」(ローマ版)
 ヴァイオリン協奏曲(初稿)
 交響曲第3番「スコットランド」

ヴァイオリン ダニエル・ホープ
管弦楽 NHK交響楽団
指揮 クリストファー・ホグウッド

2009/9/20 15:00 NHKホール



メンデルスゾーンの生誕200年を記念して、その楽譜の校訂にも取り組んでいるというホグウッドが定番の名曲を披露します。N響定期を聴いてきました。

コンサートの一般的な流れとしては大概、ラストに置かれたメインの大曲にこそ、完成度の高い演奏となるものですが、今回の公演で私が一番良いと感じたのは、言わば殆ど前座的な扱いなはずの「フィンガルの洞窟」でした。ここでのホグウッドは一般的な彼へのイメージ通りに、半ば古楽器演奏的なアプローチにて颯爽と音楽を処理していきましたが、インテンポでリズム感にも長けた横の軸と、一方での各パートのバランスにも配慮した縦の軸がうまく呼応したからなのか、響きに立体感と音楽そのものに力強さを感じる、非常にドラマテックなフィンガル像を生み出すことに成功していました。こうなると元々、情景の描写に豊かなフィンガルは実に生き生きと、またそれこそロマン派の風景絵画の如く雄弁と語りだすものです。管楽器の透明感に満ちたささやきが風となり、また弦のざわめきが波となって、まさに自然の景色を眼前に引き出していました。これは見事です。

さて一方でのソリストにホープを迎えたメンコン、さらには休憩を挟んでのスコッチは、そうしたフィンガルの出来からすると、それこそ尻下がりにテンションが下がる演奏に思えてなりませんでした。アンコールのラヴィ・シャンカールにこそしなやかな響きを聴かせたホープは、このメンデルスゾーン、いやむしろこのホグウッドとの呼吸が今ひとつあわなかったのかもしれません。楽章後半、特にピアニッシモの箇所こそ、ピンと緊張の糸が張りつめるような怜悧な響きを奏でてはいたものの、やや崩れ気味の入った冒頭楽章の他、カデンツァの箇所は、とても本調子とは思えない内容で拍子抜けするほどでした。またホグウッドによる、全体に抑制的な伴奏と合わせようとする意識が強く出過ぎたのかもしれません。突き抜けることなく、奇妙なほどこじんまりとした表現に終始してしまいました。

スコットランドについては、おそらく私の嗜好があまりにも偏っているからだと思います。押しの一辺倒にも思える、非常に前へ前へと早いスピードで進むテンポに、曲の細かい箇所を味わうまでもなく、いつの間にやら演奏が終わってしまいました。偉そうなことを申せば、もう少しじっくり構えていただきたかったというのが率直な印象です。

Mendelssohn: Symphony No. 3 「Scottish」 in A Minor, op. 56 (part 1)


非常に学究的なアプローチということもあるのか、フィンガルを除けば、やや無味乾燥なメンデルスゾーンであったかもしれません。ハイドンのロンドンにプロコを合わせた意欲的なCプロの方が、その持ち味は良い方向に出るような気もします。

連休ということもあってか、会場にはやや余裕がありました。とは言え、私の印象とは異なり、終演後は比較的温かい拍手がステージに送られていたことも付け加えておきたいと思います。
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「所沢ビエンナーレ - 引込線 2009」 西武鉄道旧所沢車両工場

西武鉄道旧所沢車両工場(埼玉県所沢市東住吉10-1
「所沢ビエンナーレ - 引込線 2009」
8/28-9/23



所沢駅前の旧車両工場を舞台に、総勢40名の作家が思い思いの表現を繰り広げます。西武鉄道旧所沢車両工場で開催中の「所沢ビエンナーレ - 引込線 2009」へ行ってきました。


会場入口。所沢駅西口の西武百貨店のちょうど裏に位置します。

プレ展から約1年経ち、いよいよ始動した新たなビエンナーレです。全体のテーマを設けず、またあくまでも作家主導で展示を行うなど、そのコンセプトは変わりはありませんが、本企画ということで、会場スペースはもちろんのこと、参加作家の数も大幅にスケールアップしていました。以下、会場写真とともに、いつかの主要作を挙げてみたいと思います。


第一、二会場。こちらは去年も使われていたスペースです。

 
冒頭にそびえる戸谷成雄の「雷神」。まるで天へとつながる一本の柱です。荒々しい肌を露出しながらうねり、そして回転してのぼり行く龍のような力強さを感じました。


窪田美樹の「はれもの/景色と肌」。ちょうど第一会場と隣り合わせになった第二会場の入口で展示されています。車一台を丸々インスタレーションに仕立てていました。


工場跡ならではのスケールに見合った作品が多いのも注目すべきところです。中でも見逃せないのが遠藤利克の「空洞説」ではないでしょうか。建築物的な強固な存在感は、鉄骨も剥き出しとなった会場のスペースでも決して負けることがありません。さすがの貫禄でした。


工場の風景を半ば借景化した作品も登場します。こちらは冨井大裕の「ball pipe ball」です。鉄パイプを組み合わせたその姿は、天井を覆う幾何学的な金属平面と異様なほど調和していました。


今回からもう一つのスペースが加わっています第三会場へは、主会場(一、二会場)から工場の中をぐるっと回って2、3分ほどでした。


旧工場敷地内。


レールがまだそのまま残っています。


第三会場です。ワンフロアとしては、第一会場よりもさらに広大でした。


ともかくこちらの会場で圧巻なのは最奥部にある手塚愛子の「通路」です。長さ14mにも及ぶ織物が3枚、緩やかなカーブを描きながら悠然と釣り下がっています。


こちらの会場では大作のペインティングも目立ちました。(なお手前の床の作品は村岡三郎の「記憶」です。)


建畠朔弥の「午後二時のショッピングモール」。木彫でした。

繰り返しになりますが、プレ展と比べるとスケールこそ増したものの、展示の内容に関してはあまり代わり映えしない印象を受けました。とは言え、この鉄道工場跡という希有な空間自体へ向かい合った作家の格闘の結果を、飾ることなく、ダイレクトに感じ取るのには、他に例のない企画だと言えるのではないでしょうか。空間の魅力こそ高いものがありますが、個々の作品への演出は少ないので、かえって作品自体の出来がはっきりと浮かび上がっています。

連休末日、23日までの開催です。なお入場は無料でした。
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「阿部大介展」、「榎本裕一展」他 京橋~銀座(INAXギャラリー他)

art space kimura ASK?中央区京橋3-6-5 木邑ビル2階)
「9月の庭 関根直子展」
8/31-9/12(会期終了)



大小様々な鉛筆のドローイング。(約10点。)これまで佐倉のカオスモス、目黒の線の迷宮、VOCAと見てきたが、やはりこじんまりした画廊の空間の方が、この寡黙な作品はよく似合うのではなかろうか。鉛筆の陰影、そしてまるで靡く髪の毛のように細やかなタッチが、画面に風と雲と時に光を呼び込んでいた。闇夜に舞う蛍を表した作品も好印象。これからも追っかけていきたい。

INAXギャラリー中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階)
「七宝/阿部大介展/北本裕二展」
七宝~11/21、阿部展~9/26、北本展~10/3



今のINAXはかなり面白い。てっきりパネル展示かと思いきや、関連の資料を入れると50点超は実物が出ていた七宝は別途記事にするとして、タイヤや衣服、それに靴などをくたびれた、またそれでいて内蔵器の露出したような生々しい表現で示した阿部、またセラミカの小部屋を殆ど初めてインスタレーションとしても演出した北本の印象も鮮烈。特に北本の展示は必見。遺跡の塀のように積み上がる陶によって示されたその空間は、まるで何らかの神事の場であるかのようだった。

a piece of space APS中央区銀座1-9-8 奥野ビル511号室)
「榎本裕一 - R2286 White」
8/26-9/12(会期終了)



1m近くはあろうかという円盤状のシンプルなオブジェを展示する。仄かな桃色や薄黄緑色の色面は、柔らかな曲線のカーブにもよるのか、見る者を吸い込むかのように待ち構えていた。もう一室、奥野ビルのイメージからとったという茶色の小品も興味深い。出来ればもっと大きな空間で見たいと思う。

資生堂ギャラリー中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
「女性アーティストと、その時代」
8/25-10/18

資生堂ギャラリーの80周年を記念しての、女性アーティストによるグループショー。青木野枝、西山美なコ、ピピロッティ・リスト、米田知子ら11名の作家が登場するが、いつも演出に長けた資生堂にしては全体としての散漫な印象は否めなかった。(出品作家が多過ぎるのでは?)ちなみに展示は受付すぐのメインフロアのみ。奥のスペースではこれまでの資生堂の記録写真、及び批評の掲載された雑誌記事などが展観されている。ちなみに資料展示はメモ厳禁。注意。

art data bank中央区銀座7-10-8 第5太陽ビル1階)
「星岳大 - Into The Next Night - 」
9/7-9/19

ギャラリーショウのグループ展でも印象に残った星岳大の個展。コンビニや郊外のチェーン店などの、言わば無機質な空間を、独特な温もりを感じる版画表現にて指し示す。グレーの闇にぽっかりと浮かぶ風景の様子はまるで影絵のよう。建物のシルエットだけがあたかもバックライトに照らし出されたように浮かび上がる。また視点が自在なのも面白い。3Dで建物を見ているような雰囲気を感じた。
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「黄金の都 シカン」 国立科学博物館

国立科学博物館台東区上野公園7-20
「黄金の都 シカン」
7/14-10/12



ペルー北海岸で栄えた古代アンデス文明の一つ、シカン(9~14世紀)文化の考古遺物を概観します。国立科学博物館で開催中の「黄金の都 シカン」へ行ってきました。

今回は主催のTBSによる「1日ブログ記者」に参加させていただきました。以下、撮影の許された館内写真とともに、展示の流れを順に追っていきたいと思います。

プロローグ「考古学の世界へようこそ!」
シカン文化の発掘、研究の第一人者、島田泉氏の業績を中心に、考古学とは何かということを簡単に俯瞰します。


冒頭に登場する大型スクリーンではシカンの概略がピックアップされます。


考古学者の島田泉氏(南イリノイ大学教授)。言わば本展の主人公です。30年にわたりシカン文化の研究を続けており、そもそもこの展覧会も氏の業績を紹介する内容であるとしても過言ではありません。会場の各所には、キャプション代わりとして、この島田氏による解説VTRが流されていました。


発掘道具の一式です。

第一部「シカンを掘る!考古学者の挑戦」
シカン文化中心にそびえる「ロロ神殿」と、その周辺から発掘された「大仮面」などを展示します。


いよいよ本編のスタートです。ここでは聞き慣れないシカンについて、その発掘作業の変遷とともに説明します。


シカン文化の核となる「ロロ神殿」の模型。現在は風化のため原形をとどめていませんが、その大きさは底辺100m×100m、高さは32mにも及んでいました。なおピラミッドのような形をしていますが、エジプトのそれとは異なり、頂上部は神殿となっていたそうです。


ここでのメインはもちろん「シカン黄金製大仮面」(正確には合金)に他なりません。(画像はちらし表紙より拝借します。)これは墓の主埋葬者の顔につけられていたもので、長さはほぼ1mほどありました。語弊はあるかもしれませんが、悪魔的な様相をとる不気味な仮面と言えるかもしれません。状態も良く、効果的なライティングの効果もあってか、その金色の発色は実に鮮やかでした。

第二部「シカン文化の世界とインカ帝国の源流」
シカン文化の土器、旗物、そしてサブタイトルの「黄金の都」に相応しく、金色に輝く金属器などを展示します。出土品の殆どはこのセクションにありました。


「シカン黄金製トゥミ」。高さ40センチほどの儀式用のナイフです。写真では分かりにくいかもしれませんが、下の半円状の箇所がナイフ、そして上の装飾がシカンの神となっていました。ちなみに眼にはトルコ石がはめられています。どこか剽軽な印象を与える品です。


「シカン神の顔を打ち出し細工した黄金のケロ」。シカンの金属器には、こうしたつり上がった目(アーモンド・アイと呼ばれるそうです。)をした「シカン神」の図像をそのままはめ込んだものが目立ちます。


展示室中央にそびえ立つ「ロロ神殿」風のセット。映像の他、見せ方にエンターテイメント色を加えるのが科博の特別展らしいところです。


私の一推しの「黄金の御輿」。ともかく背面に回って見て下さい。


背もたれの部分には比較的、細やかな造形が施されていることが分かります。飾り板の金はやや色を失っていましたが、そのずらりと並ぶ装飾は圧巻でした。




展示後半には土器類が数多く紹介されています。まるでリュトンのようにさかなの頭を口にしたもの、またふくろうのような形をしたものなど、主にシカンの人々が身近であったであろう動物のモチーフが取り込まれていました。

エピローグ「ミイラが語るシカン文化とは?」
シカンで出土したミイラなどが展示されています。


順路最後に待ち構えるのは3Dシアターです。10分程度の映像で島田氏の発掘調査を紹介しています。「ロロ神殿」と墓地、また今回の出土品との関係をおさらいするのにはちょうど良い内容でした。

出品数は全部で200点ほどです。そう広い会場ではありませんが、VTRを丁寧に見ていくと、思っていた以上に時間はかかりました。

なお公式アナウンスによれば「1日ブログ記者」の受付は10/4までとなっています。無料での鑑賞、また写真撮影が可能である他、日程まで自由に選べた上に、クリアファイルなどのお土産までいただけます。これまでにもブログ対象の企画はいくつかありましたが、内容からすれば破格だと言えるのではないでしょうか。関心のある方は応募されることをおすすめします。(追記:ブログ記者は応募多数のため、先日受付を終了しました。)

10月12日までの開催です。また本展は終了後、以下のスケジュールにて巡回します。

熊本県立美術館(2009/10/30~12/23)
富山県民会館 (2010/1/9~3/7)
高知県立美術館(2010/3/14~4/18)
福岡市博物館 (2010/4/24~6/20)

*展覧会概要*
名称:黄金の都 シカン
場所:国立科学博物館(上野)
日時:2009/7/14(火)~10/12(月・祝)
時間:午前9時~午後5時、金曜日は午後8時まで。(入館は各閉館の30分前まで)
休館:9/28(月)、10/5(月)
料金:一般・大学生1400円/小・中・高生500円。金曜夜間ペア券2000円、水曜レディース券1000円あり。
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「NEW DIRECTION #1 『exp.』」 TWS本郷

トーキョーワンダーサイト本郷文京区本郷2-4-16
「NEW DIRECTION #1 『exp.』」
9/5-27



トーキョーワンダーサイトと京都造形芸術大学が連携して(公式HPより引用。)、若いアーティストを発掘、紹介します。「NEW DIRECTION #1 『exp.』」へ行ってきました。

なおこの展示はワンダーサイトで始まった新シリーズです。その概要をHPより再度引用します。

京都造形芸大教授の後藤繁雄氏が中心となり、東京藝大教授・木幡和枝氏との共同キュレーションにより、全国の美術大学・大学院卒業者の中から「新たな動向」を予感させる才能を選抜し、時代の変化に敏感に反応する彼らの表現の特性を活かし、美術による社会への作用を目指した展覧会です。

今回の出品作家は以下の通りです。

小宮太郎(京都造形芸術大学)、しょうじまさる(東北芸術工科大学)、 藤本涼(東京藝術大学)、三井美幸(東京造形大学)、 宮永亮(京都市立芸術大学)、 村田宗一郎(東京藝術大学)、 山下耕平(京都市立芸術大学)

それでは印象に残った作品を簡単に挙げます。

しょうじまさる「増殖2」(2009)
2階へと向かう階段の途中より始まる本のインスタレーション。おそらくは女性誌と思われる雑誌が壁一面に何十と張り付いている。下に向き、ページを開いて連なる様は、まるで食虫花が獲物を待ち構えているかのようで不気味だった。

山下耕平「mountain」(2009)
本展で一番素直に楽しめる作品。小部屋に石や砂を引き込んで、砂漠の荒野とも、また枯山水風とも言える箱庭を作り出す。一見、石がゴロゴロ転がっているだけにも思われるが、手すりに意味ありげに置かれた双眼鏡に要注目。中を覗き込むとちょっとしたドラマが広がっていた。面白い。

三井美幸「kiki」(2009)他
3階の一室を使っての平面、もしくは人形のような立体作品を並べたインスタレーション。恐ろしくアクの強い作風のため趣味は大きく分かれそうだが、まるで臓器をえぐり、人体を改造して、もの言わぬロボットにしたかのような立体はインパクトがあった。

ちなみに本展は2階と3階フロア限定です。1階はクローズされていました。

ところで20日には、京都造形芸大大学院長の浅田氏と、銀座のメゾンエルメスでも個展開催中の名和晃平氏の出演するシンポジウムが予定されています。関心のある方は足を運ばれては如何でしょうか。

シンポジウム プログラムB:9月20日(日)16:00-18:00
浅田彰(京都造形芸大大学院長)+名和晃平(京都造形芸大大学院・准教授)+後藤繁雄+木幡和枝
入場無料・予約不要

27日まで開催されています。
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