2020年10月に見たい展覧会【さいたま国際芸術祭/式場隆三郎/桃山―天下人の100年】

気がつけば日が暮れるのも早くなり、秋の気配も色濃くなりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

なかなか開催中の展示を全て追いきれませんが、10月も魅惑的な展覧会がたくさん行われます。気になる展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「あざみ野コンテンポラリーvol.11 関川航平展」 横浜市民ギャラリーあざみ野(10/10~11/1)
・「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」 国立新美術館(8/12~11/3)
・「モノクロームの冒険 日本近世の水墨と白描」 根津美術館(9/19~11/3)
・「もうひとつの江戸絵画 大津絵」 東京ステーションギャラリー(9/19~11/8)
・「東京好奇心」 Bunkamuraザ・ミュージアム(10/20~11/12)
・「竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス」 山種美術館(9/19~11/15)
・「工藝2020―自然と美のかたち」 東京国立博物館表慶館(9/21~11/15)
・「さいたま国際芸術祭2020-Art Sightama-」 旧大宮区役所・旧大宮図書館(10/17~11/15)
・「日本の美術を貫く 炎の筆《線》」 府中市美術館(9/19〜11/23)
・「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」 東京都写真美術館(9/29~11/23)
・「後藤克芳 ニューヨークだより」 渋谷区立松濤美術館(10/3〜11/23)
・「ふたつのまどか―コレクション×5人の作家たち」 DIC川村記念美術館(6/16~11/29)
・「国立公園―その自然には、物語がある」 国立科学博物館(8/25~11/29)
・「リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏」 サントリー美術館(9/30~11/29)
・「桃山―天下人の100年」 東京国立博物館(10/6~11/29)
・「式場隆三郎 腦室反射鏡」 練馬区立美術館(10/11~12/6)
・「宮島達男 クロニクル 1995-2020」 千葉市美術館(9/19~12/13)
・「分離派建築会100年展 建築は芸術か?」 パナソニック汐留美術館(10/10~12/15)
・「生誕111年浜口陽三銅版画展 幸せな地平線」 ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション(8/18~12/20)
・「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」 東京オペラシティアートギャラリー(10/10~12/20)
・「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」 森美術館(7/31~2021/1/3)
・「光―呼吸 時をすくう5人」 原美術館(9/19~2021/1/11)
・「KING & QUEEN展 ―名画で読み解く 英国王室物語」 上野の森美術館(10/10~2021/1/11)
・「だれも知らないレオ・レオーニ展」 板橋区立美術館(10/24〜2021/1/11)
・「生命の庭―8人の現代作家が見つけた小宇宙」 東京都庭園美術館(10/17~2021/1/12)
・「生きている東京」 ワタリウム美術館(9/5~2021/1/31)
・「トランスレーションズ展 ―『わかりあえなさ』をわかりあおう」 21_21 DESIGN SIGHT(10/16~2021/3/7)

ギャラリー

・「中西敏貴写真展:Kamuy」 キヤノンギャラリーS(9/19~10/31)
・「ポーラ ミュージアム アネックス展2020 前期」 ポーラ ミュージアム アネックス(9/26~10/11)
・「JAGDA新人賞展2020 佐々木俊・田中せり・西川友美」 クリエイションギャラリーG8(9/8~10/15)
・「森万里子 Central」 SCAI THE BATHHOUSE(9/11〜10/17)
・「浜田浄 記憶の地層 -光と影-」 √K Contemporary(9/19~10/24)
・「ジャン=ミシェル・オトニエル 夢路」 ペロタン東京(9/16〜10/24)
・「第14回 shiseido art egg 西太志展」 資生堂ギャラリー(10/2~10/25)
・「アルベルト・ヨナタン・セティアワン Mirror Image」 ミヅマアートギャラリー(10/7〜11/7)
・「約束の凝集 vol. 1 曽根裕|石器時代最後の夜」 ギャラリーαM(8/29〜11/14)
・「いきることば つむぐいのち 永井一正の絵と言葉の世界」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(10/9~11/21)
・「鴻崎正武:MUGEN」 アートフロントギャラリー(10/23〜11/22)

まずは現代美術です。今春の開催が見送られ、一部では「中止」とも伝えられた「さいたま国際芸術祭2020」が、当初の規模を変更し、オンラインとオフラインの双方での作品の公開が決まりました。



「さいたま国際芸術祭2020-Art Sightama-」@旧大宮区役所・旧大宮図書館(10/17~11/15)

まず先駆けて公開されるのがオンラインで、10月3日より展示風景が映像で配信されます。続いて10月17日よりオンサイトとして、旧大宮区役所と旧大宮図書館などの会場を実際に鑑賞することができます。ともに観覧は無料です。(オンサイトは事前日時指定制。)


<新型コロナ>芸術薫る、さいたま10月 中止の国際祭代替イベント 映像配信など市が概要(東京新聞)

9月10日付の東京新聞の報道では、当初予定の37作品のうち、アーティストの了承の得られた32作品が公開されるそうです。コロナ禍において芸術祭が殆ど中止となる昨今、オンとオフラインと交えた新たな取り組みとして注目を集めそうです。

精神科医の傍ら、民藝運動にも取り組んだ式場隆三郎の足跡を辿る回顧展が、練馬区立美術館にて開催されます。



「式場隆三郎 腦室反射鏡」@練馬区立美術館(10/11~12/6)

1898年に新潟県に生まれ、1936年に千葉県に式場病院を設立した式場隆三郎は、学生時代より白樺派に近づくと、武者小路実篤や柳宗悦らの知遇を得て、民藝運動に携わりました。そしてゴッホの精神病理学的な研究に打ち込み、複製画によるゴッホ展を開催するなど、日本でのゴッホ受容にも重要な役割を果たしました。


そうした式場の多様な活動を辿るのが「腦室反射鏡」と題した展覧会で、約200点もの作品と資料が公開されます。

先行して開催された広島市現代美術館では、特設サイトにて「おうちで式場展」と題したオンラインのコンテンツを公開しています。練馬での観覧の前にあらかじめ見ておくのも良さそうです。

この秋、最も話題を集める日本美術展となるかもしれません。東京国立博物館にて「桃山―天下人の100年」が行われます。



「桃山―天下人の100年」@東京国立博物館(10/6~11/29)

これは安土桃山時代に花開いた桃山美術の魅力を紹介するもので、狩野永徳、探幽、長谷川等伯や海北友松の障壁画をはじめ、上杉謙信や豊臣秀吉らの武将ゆかりの武具、はたまた千利休や古田織部の茶道具のほか、南蛮美術や蒔絵の工芸など、約230点もの作品が公開されます。


なお展示は前期(10/6〜11/1)と後期(11/3〜11/29)だけでなく、それ以外にも期間を区切っての作品の入れ替えがあります。まずは公式サイトより出品リストをご参照下さい。

それでは10月もどうぞ宜しくお願いいたします。
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「Re construction 再構築」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築」
2020/7/8~8/2(プレ展示)、2020/8/9~9/27(本展示)



今年に開館35周年を迎えた練馬区立美術館が、現代作家が同館のコレクションを新たに解釈して作品を公開する「Re construction 再構築」を開催しています。

参加したのは流麻二果、青山悟、冨井大裕、大小島真木の4名で、それぞれが順に「色」、「メディア」、「空間」、「身体」をテーマにした作品を公開していました。

冒頭は歴史の視点からコレクションを紹介するコーナーで、中でも恩地孝四郎や畔地梅太郎ら複数の画家が、1938年から1941年にかけて日本や台湾、それに朝鮮の景勝地などを描いた「新日本百景」に魅せられました。


右:松岡映丘「さつきまつ浜村」 1928年
左:流麻二果「さつき静まる浜村」 2020年

続くのが「色」をテーマとした流麻二果で、松岡映丘の「さつきまつ浜村」と松岡静野の「舞妓」を引用した作品を展示していました。なお松岡静野とは画家を志して島成園に師事し、後に映丘の妻となった人物で、夫を支えるために筆を折ったと言われています。よって作品も「舞妓」のただ一枚しか確認されていません。


右:松岡静野「舞妓」 大正時代
左:流麻二果「色の跡:松岡静野『舞妓』」 2020年

流のアプローチにかかると、映丘の風景や静野の人物が揺らぎ流れゆく色彩に還元していくようで、レイヤーを通した抽象パターンへと転化しているように見えました。


流麻二果 展示風景

これまでにも流は、絵画の中に使われた色を一色ずつ取り上げ、色の層を描くシリーズなどを手掛けていて、今回の「舞妓」でも静野が選んだ色を追体験するように塗り重ねました。


郭徳俊「大統領シリーズ」 展示風景

刺繍で知られる青山悟は「メディア」において、1937年に京都で生まれ実験的な創作を行ってきた郭徳俊の「大統領シリーズ」を起点に、大小様々なインスタレーションを公開していました。


青山悟 展示風景

ここで興味深いのは現代社会の世相を作品へ落とし込んでいることで、世界を襲った新型コロナウイルスやアメリカの分断、そして延期されたオリンピックなどの時事的な諸問題が浮き彫りになっていました。


青山悟「Map of The World」 2020年

素材もレジ袋やマスク、ゴム手袋など多岐にわたっていて、作品はバックヤードと思しきスペースにまで展開していました。素材とイメージの意外な関係も面白いかもしれません。


青山悟「Come see what's real」 2020年

既製品などを用いて立体作品を制作する冨井大裕は、1924年に東京で生まれた画家の小野木学の作品を引用した展示を行っていました。


冨井大裕 展示風景

湯桶や風呂椅子、スポンジにゴミ箱、塵取りなどを組み合わせた立体作品は、小野木の幾何学的とも呼べるような平面と向き合っていて、二次元と三次元の様々な形が一つの空間にて共演を果たしているかのようでした。


冨井大裕 展示風景

展示室内にはひな壇も設けられていて、見下ろして鑑賞することも可能でした。ミニマルでポップでありながらも、まるでガジェットを目にするかのような冨井作品の魅力が感じられました。


大小島真木 展示風景

ラストの「身体」をテーマとした大小島真木の幻想的なインスタレーションも美しかったのではないでしょうか。


手前:大小島真木「ゴレム」 2020年 左:大小島真木「胎樹」 2020年
右奥:池上秀畝「桜花雙鳩・秋草群鶉図」 1921年

ここでは荒木十畝の「閑庭早春」と池上秀畝の「桜花雙鳩・秋草群鶉図」を参照しつつ、自然と生き物が共生しつつ、生と死が往還する空間が築かれていて、あたかも神話的世界に立ち入ったかのようでした。


大小島真木「ウェヌス」 2020年

展示はプレ展示(7/8〜8/2)と本展示(8/9〜9/27)に分かれ、プレ展示期間中には公開制作が行われたそうです。


現在の本展示中に開催予定だったアーティストトークは、新型コロナウイルス感染対応のため中止されましたが、代わって各作家のインタビューを収録した動画が期間限定(10月末まで)で配信されています。そちらも鑑賞の参考になりそうです。


青山悟「旗と聖火」 2020年

一部展示室と作品の撮影が可能でした。



会期末を迎えました。9月27日まで開催されています。

「練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築」 練馬区立美術館@nerima_museum
会期:【プレ展示】2020年7月8日(水)~8月2日(日) 、【本展示】 2020年8月9日(日)~9月27日(日)
休館:月曜日。但し8月10日(月・祝)、9月21日(月・祝)は開館。8月11日(火)、9月23日(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(600)円、大・高校生・65~74歳600(500)円、中学生以下・75歳以上無料。
 *プレ展示は無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *ぐるっとパス利用で300円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続」 
2020/8/18~10/11



東京都写真美術館で開催中の「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続」を見てきました。

ニューヨークを拠点に活動するアート・ユニット、エキソニモは、1990年代からインターネットそのものを素材に、メディアアートの分野などで活動してきました。

そのエキソニモの初めての大規模な回顧展が「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク」で、最初期より初公開の新作「UN-DEAD-LINK 2020」など約20点の作品が展示されていました。



まず会場で目を引くのが、水色、黄色、緑、青、赤の5色のケーブルが、さながら路面電車の線路のように床に張り巡らされていることでした。



これらはいずれも展示の5つのキーワードである#Internet(インターネット)、#Platform(プラットフォーム)、#Interface(インターフェース)、#Random(ランダム)、#Boundary(境界)に対応していて、各作品との関係を頭に入れながら鑑賞していく仕掛けとなっていました。電子部品の基盤の上を歩いているような気持ちにさせられるかもしれません。

端的にインターネットとはいえども、いわゆるネットアートの黎明期から制作しているゆえか、今となっては懐かしさを覚える作品が少なくないのも特徴と言えるかもしれません。


「KAO」 1996年

ブラウン管のモニターを用いた「KAO」は、エキソニモが初めてネットを用いて制作したインタラクティブな作品で、ウェブ上へ顔のパーツを送信すると、既に作られた顔と混じりつつ、次々と作成するようにできていました。ウェブの福笑いと呼んで良いのではないでしょうか。


「DISCODER」 1999年

たくさんのマウスがキーボードから垂れているのが「DISCODER」で、キーボードを操作することで、WEB状のプログラムにバグが発生し、ページそのものが変化して崩れるように作られていました。いずれのマウスも有線で変色していて、長い年月の経過を思わせるものがありました。(展示は記録映像)


「断末魔ウス」 2007年 東京都写真美術館

同じくマウスを素材にしたのが「断末魔ウス」で、マウスを破壊する映像とともに、その際にデスクトップ上で動いたマウスカーソルが記録されていました。いわばマウスのデジタルと物理の両面での死を扱った作品でしたが、駄洒落風のタイトルなど、ユーモアや遊び心も感じられました。


「Antibot T-shirts」 2010年

「Antibot T-shirts」は、ネット上の認証用に開発された「CAPTCHA(キャプチャ)」をグラフィックに見立て、Tシャツに仕上げた作品で、カラフルなシャツが宙につられていました。キャプチャと気がつかなければ、何らかの新しいロゴタイプが生み出されているかのようでした。


「HEAVY BODY PAINT」 2016年 東京都写真美術館

一見するところ絵具のボトルの絵画のように見えるのが「HEAVY BODY PAINT」で、青、黄色、それに肌色に近い色の3種のボトルが描かれていました。


「HEAVY BODY PAINT」(部分) 2016年 東京都写真美術館

しばらく眺めていると絵具のボトルにブレが生じて、液晶モニター上の映像であることが分かりました。つまりボトルを映したモニターの一部を絵具で直に塗り潰していて、まるで実物が目の前にあるような錯覚に囚われました。

今回の展覧会の最大の特徴は、写真美術館の実会場の他に、リアルな作品とも連動したインターネット会場(https://un-dead-link.topmuseum.jp)があることでした。そしてオンライン展示と連動したのが、ともに今年に制作された「UN-DEAD-LINK 202」と「Realm」の2つのインスタレーションでした。


「UN-DEAD-LINK 2020」 2020年

一台のグランドピアノとスマートフォンからなるのが「UN-DEAD-LINK 2020」で、時折、スマートフォンが反応したかと思うと、ピアノが自動で力強く鍵盤を打ち鳴らしていました。これはオンラインのシューティングゲームの空間と連動していて、ゲーム上でキャラクターが死ぬとピアノが鳴るようにプログラムされていました。


「Realm」 2020年

もう一方の「Realm」は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、ニューヨークでロックダウンを経験したエキソニモが、自身の近隣の墓地を訪ねる経験から生まれた作品で、一面のスクリーンには美しい墓地ともに中央の白に覆われた風景が映されていました。


スマートフォンでインターネット会場にアクセスし、画面をタップすると、スクリーンの白い部分に指紋のイメージが広がって風景が隠されていきました。「Realm」とは「領域」を意味しますが、2つの異なった環境の接続を表現しているのかもしれません。


「Spiritual Computing Series - 祈」 2009年 東京都写真美術館

この他、2つに合わせたマウスに「祈り」を見出した「Spiritual Computing Series - 祈」も興味深く感じられました。ネットを通して生まれるエキソニモのアイデア自体が面白く、リアルと両面にて楽しめる展示と言えそうです。



10月11日まで開催されています。

「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続」 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2020年8月18日(火)~10月11日(日)
休館:月曜日。但し月曜日が祝日・振替休日の場合は開館し、翌平日休館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *10月1日の都民の日は無料。
料金:一般700円、大学生560円、中学・高校生・65歳以上350円。
場所:目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
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「ヨコハマトリエンナーレ2020」 後編:プロット48、日本郵船歴史博物館

プロット48、日本郵船歴史博物館
「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」
2020/7/17~10/11



前編:横浜美術館より続きます。「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」を見てきました。



横浜美術館からプロット48へは歩いて7~8分ほどで、美術館の裏手の西出口から会場マップに従いながら高島町の方向にしばらく進むと見えてきました。



プロット48はかつて横浜アンパンマンこどもミュージアムとして使われた建物で、ミュージアムが同じみなとみらい地区に新たに移設されたことにより、「ヨコハマトリエンナーレ2020」の会場として利用されました。



この日は真夏の晴天でしたが、レンタル用の傘が常備されていて、日差しを遮りつつ移動することができました。



プロット48の会場は、出入口側から南棟の1階、2階、3階、それに北棟の1階に連なっていて、休憩スペースやミュージアムショップも開設されていました。

まず南棟1階へ進むと目を引くのが、モロッコのイシャム・ベラダによる「質量と殉教者」と「数理的前兆#3」と題した彫刻と映像の作品でした。


イシャム・ベラダ「質量と殉教者」、「数理的前兆#3」 2020年

手前の水槽の中に電気が通っていて、電力によってじわじわと腐食するという彫刻は、まるで有機体のように思えました。一方で背後の3面のスクリーンでは、鉱石とも地表面とも見えるようなイメージが写されていて、彫刻と同様、生き物が培養されていく光景を目にするかのようでした。


イシャム・ベラダ「質量と殉教者」、「数理的前兆#3」 2020年

ベラダは鉱物や化学反応を起こす過程や現象を彫刻や映像に提示していて、今回の映像においても物理的法則に基づき、膨大な電力を用いて生み出されたそうです。そのイメージは、見る者一人一人によって異なって映るのかもしれません

さて横浜美術館とは雰囲気を変え、一見すると雑然としているようにも思える構成も、プロット48の魅力かもしれません。


エレナ・ノックス 展示風景

オーストラリアに生まれ、現在は東京を拠点に活動するエレナ・ノックスは、ハワイに生息するエビの「ポルノグラフィー」を創るべく、40名以上のアーティストと協働していて、映像やオブジェなどの多様な作品が展示室からトイレにまで展開していました。


エレナ・ノックス 展示風景

ここではエビから反応を引き出すべく、興奮や繁殖、そして生存といった問題について考察していて、中には愛が生まれうるとしたエビのラブホテルを構築した作品もありました。


エレナ・ノックス 展示風景

また世界中のエビの育成・繁殖施設にて行われている、雌を刺激して産卵を促すための眼柄除去に関した作品や、エビとマリモからアイヌの祭りについて言及したインスタレーションなどもあり、エビから思いもよらない創作世界が広がっていました。


アリュアーイ・プリダン「生命軸」、「黒い堆積」 2018年

台湾の最南端のパイワン族に生まれたアリュアーイ・プリダンが出展したのは、部族の伝統衣装に着想をえたソフト・スカルプチャーでした。それらは古布や麻、錦糸を組み合わせた刺繍でありながら、あたかも原色の絵具を三次元の空間へとぶちまけたようで、荒々しいまでの力強さが感じられました。


ジェン・ボー「シダ性愛1〜4」 2016〜2018年

香港を拠点とするジェン・ボーの映像インスタレーション、「シダ性愛1〜4」がショッキングなまでに印象に残りました。


ジェン・ボー「シダ性愛1〜4」 2016〜2018年

展示室中央に起立する巨大なスクリーンの両面には、シダが生茂るジャングルが映されていて、裸の若い男性が登場すると、シダの葉を優しく撫ではじめました。その姿はあまりにも艶やかでつつ官能的で、まさに人間と間の種を超えた「性愛」が表現されていました。


ラス・リクダス「プラネット・ブルー」 2020年

南棟から北棟へ移動すると、SNSを取り込んだフィルピンのラス・リクダスの「プラネット・ブルー」や、投光器を用いたレバノンのハイグ・アイヴァジアンによる「1、2、3、ソレイユ!」などが展示されていて、機械的で近未来的なイメージを引き出すような作品が目立っていました。


ファーミング・アーキテクツ「空間の連立」 2020年

この他、屋外ではベトナムを拠点とするファーミング・アーキテクツが、植物や水槽を組み込んだ木製の「空間の連立」を築いていました。ここでは水槽の魚の糞が植物の栄養になり、また植物によって水が浄化する循環システムが展開していて、さながらプロット48のビオトープのようでした。


ファーミング・アーキテクツ「空間の連立」 2020年

それらを見終えた後は、最後の開催地である日本郵船歴史博物館を目指しました。



日本郵船歴史博物館が位置するのは横浜市中心部の関内地区で、プラット48からは新高島駅からみなとみらい線に乗車し、馬車道駅へと移動する必要がありました。


マリアンヌ・ファーミ「アトラスシリーズ」 2020年

馬車道駅から少し歩いて博物館へと辿り着くと、展示はエジプトのマリアンヌ・ファーミの1作家のみで、常設展の奥のスペースにて水をモチーフにしたオブジェ「アトラスシリーズ」と映像の「アトラス」が公開されていました。


マリアンヌ・ファーミ「アトラスシリーズ」 2020年

ちょうど作品は緩やかな曲線を描く台の上へ並べられていて、水の泡や花びらを連想させる形をしていました。照明の効果により僅かに七色へ変化して見える色彩も魅力的だったかもしれません。

また博物館ではヨコハマトリエンナーレのチケットにて常設展も観覧可能でした。トリエンナーレ自体の作品は僅かなためにさほど時間はかかりませんが、常設までをじっくり見るとある程度の時間が必要になりそうです。(常設展は撮影不可)

結局、昼過ぎに横浜美術館へ入館し、次いでプロット48の展示を見て、日本郵船歴史博物館を退館すると17時頃になっていました。ヨコハマトリエンナーレの開催時間は10時から18時までですが、日本郵船歴史博物館は17時で閉館、最終入場は16時半となっているため注意が必要です。


ラヒマ・ガンボ「タツニヤ(物語)1」 2017年

横浜美術館は2時間超、プロット48は1時間半ほどの時間をかけて鑑賞していました。ただスケジュールの都合により、長編の映像と予約の必要な体験型の作品をパスしてしまったため、じっくり向き合うのであればもっと時間がかかると思われます。


レヌ・サヴァント「ミリャでの数か月」 2017年

とはいえ、そもそも横浜美術館の飯山由貴の「オールド ロング ステイ」は170分、それにプロット48のレヌ・サヴァントの「ミリャでの数か月」は230分ほどあり、他の作品を含めて全ての映像を1日で追うのは現実的ではありません。

新型コロナウイルス感染症対策に伴う情報です。まず横浜美術館への入場は事前予約制が導入されました。ただしプロット48は同日限って、好きな時間に入場することができます。


ハイグ・アイヴァジアン「1、2、3、ソレイユ!」 2020年

私が出向いた際は館内も混み合うことなく、各時間あたりの人数を相当に制限している印象を受けましたが、9月19日より政府の指針の見直しを受け、入場制限を緩和し、追加のチケットが販売されます。


コラクリット・アルナーノンチャイ「おかしな名前の人たちが集まった部屋の中で歴史を描く4」 2017年

「ヨコハマトリエンナーレ2020」では「独学」、「発光」、「友情」、「ケア」、「毒」の計5つのキーワードが設定されていましたが、最も考えさせられたのが「世界に否応なく存在する毒と共生すること」(パンフレットより)とされた「毒」でした。また既存の価値や通念の転換を迫るような批評的な作品も目立っていました。


オスカー・サンティラン「チューインガム・コデックス」 2019〜2020年

いわゆるコロナ禍の現在、世界の多くの芸術祭が中止や延期に余儀なくされる中、まさか国内でこれほど刺激的なアートに触れる機会があるとは思いもよりませんでした。


まずは開催に尽力されたアーティスト、そしてキュレーターの他、全てのスタッフの方に感謝申し上げます。

10月11日まで開催されています。遅れましたがおすすめします。

「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」@yokotori_) 横浜美術館@yokobi_tweet)、プロット48、日本郵船歴史博物館
会期:2020年7月17日(金)~10月11日(日)
休館:木曜日。但し7/23、8/13、10/8を除く。
時間:10:00~18:00
 *10/2(金)、10/3(土)、10/8(木)、10/9(金)、10/10(土)は21時まで。会期最終日の10/11(日)は20時まで。
料金:一般2000円、大学・専門学生1200円、高校生800円。中学生以下無料。
 *横浜美術館への入場は日時指定が必要。
 *団体割引は中止。
 *「BankART Life Ⅵ」、及び「黄金町バザール2020」も観覧可能な横浜アート巡りチケットあり。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市西区みなとみらい4-3-1(プロット48)、横浜市中区海岸通3-9(日本郵船歴史博物館)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅3番出口から徒歩3分(横浜美術館)、みなとみらい線新高島駅2番出口から徒歩7分(プロット48)、みなとみらい線馬車道駅6番出口から徒歩2分(日本郵船歴史博物館)。
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「ヨコハマトリエンナーレ2020」 前編:横浜美術館

横浜美術館
「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」
2020/7/17~10/11



「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」を見てきました。

2001年に3年に1度開かれる現代アートの国際展、横浜トリエンナーレは、今年で第7回を数えるに至りました。

メインテーマは「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」で、ニューデリーを拠点とするアーティスト3名のラクス・メディア・コレクティヴをディレクター迎え、30カ国以上、計60名(組)のアーティストが多様な展示を繰り広げていました。

今年の会場は、みなとみらい地区にある横浜美術館とプロット48、及び日本郵船歴史博物館の3つで、新型コロナウイルス感染症対策に伴い、横浜美術館のみ日時指定制が導入されました。私も事前にWEBでチケットを購入し、横浜美術館の展示から見て回ることにしました。


イヴァナ・フランケ「予期せぬ共鳴」 2020年

まずは美術館自体の景観が大きく変容したことに驚かされるかもしれません。あたかも建物をすっぽりとメッシュで包み込んだように見せたのが、ベルリンを拠点とするイヴァナ・フランケの「予期せぬ共鳴」でした。


イヴァナ・フランケ「予期せぬ共鳴」 2020年

一見、均一なグレー一色に見えながらも、風や光の加減によってパターンが揺らいでいて、意外なほどに複雑な表情をしていました。また感染症の現状を鑑み、美術館の正面を顔に見立てれば、さもマスクをしているような姿にも思えるかもしれません。


ニック・ケイヴ「回転する森」 2016年(2020年再制作)

そうしたモノトーンとは一転して、建物内部でキラキラと光りながら回転していたのが、アメリカのニック・ケイヴによる「回転する森」でした。天井から無数のカラフルなオーナメントが吊るされていて、祝祭の飾り物のように華やかでしたが、よく見ると銃や弾丸をモチーフとしたものも混じっていて、不穏な雰囲気も醸し出していました。


ニック・ケイヴ「回転する森」 2016年(2020年再制作)

ニック・ケイヴは人種やジェンダーによる差別に問いを投げかける作品を制作していて、アメリカの庭用の飾りである「ガーデン・ウィンド・スピナー」を用いた「回転する森」においても、同国の社会の様々な問題を暗示しているそうです。


竹村京 展示風景

ドローイングや刺繍のインスタレーションで知られる竹村京は、誰の持ち物とも覚束ない日用品を、蛍光シルクと呼ばれる特殊な糸で修復する作品を展示していました。


竹村京 展示風景

暗がりのケースにはコーヒーカップやフォーク、ワイングラス、それに電球やブラシ、中にはキティちゃんの貯金箱などが並べられていて、いずれもレースのような糸で包まれていました。オワンクラゲの持つ緑色蛍光タンパク質の遺伝子を移植することによって生まれる蛍光シルクは、青い光を当てると光る特徴を持っていて、ぼんやりと滲み出すように光を放っていました。


レボハング・ハンイェ「モショロコメディワ・トラ(灯台守)」 2017年

家族のアルバムの人物や情景を素材に、段ボールの書き割りと舞台装置のようなアニメーションを見せていたのが、南アフリカのレボハング・ハンイェでした。それぞれの段ボールには人や家、牛などの牧場での生活を思わせる写真が貼り合わされていて、4つの場面が巡回する照明によって映し出されるようになっていました。


レボハング・ハンイェ「ケ・サレ・テン」 2017年

また白と黒の映像には黒人の日常的な生活の光景が映し出されていて、同じく写真を貼り合わせた紙人形のようなオブジェが1コマずつ開きながら物語が進行していました。書き割りとアニメーションが連動するような展開も面白いのではないでしょうか。


チェン・ズ「パラドックスの窓」 2020年

近年、黄昏時について言及した文学に魅了されたとする中国のチェン・ズは、大型の窓に幻影的なイメージを映した「パラドックスの窓」を展示していました。


チェン・ズ「パラドックスの窓」 2020年

窓の内側にはカーテンに仕切られたスペースもあって、カーテン越しに中の様子を垣間見ることもできました。映像は必ずしも具体的なイメージを伴わないものの、詩的でかつ内省的とも呼べるような感興を引き起こす作品だったかもしれません。


ローザ・バルバ「地球に身を傾ける」 2015年

イタリアに生まれ、ベルリンで活動するローザ・バルバの大型映像インスタレーション「地球に身を傾ける」にも目を引かれました。


ローザ・バルバ「地球に身を傾ける」 2015年

35mmフィルムによって映されたのは北アメリカの放射性廃棄物処理施設で、そこから茶色や緑、紺碧などの鮮やかな色彩が生まれていました。彫刻的な装置と映像との組み合わせなど、大胆な空間構成も魅力的に思えました。


ズザ・ゴリンスカ「助走」 2015年(2020年再制作)

展示室の床一面に段差のある赤いカーペットを敷いたのが、ワルシャワとロンドンを拠点とするズザ・ゴリンスカでした。またカーペットの上へは実際に靴を脱いで歩くことも可能でした。


ズザ・ゴリンスカ「助走」 2015年(2020年再制作)

一見、何気ない段差のように見えながらも、所々が坂や壁のようになっていたりして、確かに「障害物競走」(解説より)を思わせる面がありました。


エヴァ・ファブレガス「からみあい」 2020年

3階の通路で大蛇のように横たわっていたのが、スペインに生まれロンドンで活動するエヴァ・ファブレガスの「からみあい」でした。


エヴァ・ファブレガス「からみあい」 2020年

人間の腸のようなオブジェがピンク、白、赤、それに黄色へと色を変えながら一面に広がっていて、ゴムかスポンジのような弾力感のある表面に触れることもできました。


エヴァ・ファブレガス「からみあい」 2020年

人間の体によって気持ちの良い触感に興味を持ったラスクは、「からみあい」の形に無数の細菌を作る腸内世界を想像したとしていて、カラフルでポップなイメージを引き出しつつも、グロテスクにも映るギャップにも面白さを覚えました。また見方を変えれば、美術館内で増殖しては空間を飲み込もうとする未知の生命体と受け止められるかもしれません。


タウス・マハチェヴァ「目標の定量的無限性」 2019〜2020年

ロシアのタウス・マハチェヴァの「目標の定量的無限性」も興味深い作品ではないでしょうか。ここには平行ではない平行棒や、傾いた平均台、それに取手の欠けたあん馬など、本来的な機能を満たさない変形した体操器具が並んでいて、辺りには「しっかりしろ」といった励ましや叱責の音声がひっきりなしに流れていました。


タウス・マハチェヴァ「目標の定量的無限性」 2019〜2020年

しばらく展示室を歩いていると空間全体が歪みだすような錯覚に囚われ、何とも言い難い居心地の悪さを覚えました。タウス・マハチェヴァは現代社会における身体、規律、統制などを作品のテーマとしていて、実際に冷酷に投げかけられる言葉もあってか、抑圧されるような感覚も与えられました。


インゲラ・イルマン「ジャイアント・ホグウィード」 2016年(2020年再制作)

一際巨大なオブジェで目を引くのは、スウェーデンのインゲラ・イルマンのよる「ジャイアント・ホグウィード」でした。天井から熱帯の生き物のような樹木が宙吊りにされていて、花や葉を付けつつも、中は空洞になっているようでした。


インゲラ・イルマン「ジャイアント・ホグウィード」 2016年(2020年再制作)

これは約200年前に中央アジアよりヨーロッパにやってきた植物「ジャイアント・ホグウィード」をモチーフとしていて、当時、観賞用として広まったものの、樹液がつくと炎症が起きるなどの強い毒性も持ちえていました。外来種の問題など人間と自然環境について目を向けた作品と言えそうです。


青野文昭 展示風景

「なおす」行為を主題とした彫刻を発表する青野文昭の作品にも目を奪われました。いずれも使い古された家具や浜辺の漂着物などを素材に、異なるモノと結合していて、中には東日本大震災後に石巻で収集された船なども用いていました。


青野文昭「イエのおもかげ・箪笥の中の住居─東北の浜辺で収拾したドアの再生から」 2020年

壊されたり捨てられてしまった家具に手を加える行為は、もはや端的に「なおす」というよりも、新たに魂を吹き込むような創造と捉えて差し支えないかもしれません。


メイク・オア・ブレイク(レベッカ・ギャロ&コニー・アンテス)「橋を気にかける」 2020年

一通り展示を鑑賞すると2時間は経過していました。カフェ小倉山で少し休憩した後は、次の会場であるプロット48へと向かいました。


手前:キム・ユンチョル「クロマ」 2020年

後編:プロット48、日本郵船歴史博物館へ続きます。

「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」@yokotori_) 横浜美術館@yokobi_tweet)、プロット48、日本郵船歴史博物館
会期:2020年7月17日(金)~10月11日(日)
休館:木曜日。但し7/23、8/13、10/8を除く。
時間:10:00~18:00
 *10/2(金)、10/3(土)、10/8(木)、10/9(金)、10/10(土)は21時まで。会期最終日の10/11(日)は20時まで。
料金:一般2000円、大学・専門学生1200円、高校生800円。中学生以下無料。
 *横浜美術館への入場は日時指定が必要。
 *団体割引は中止。
 *「BankART Life Ⅵ」、及び「黄金町バザール2020」も観覧可能な横浜アート巡りチケットあり。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市西区みなとみらい4-3-1(プロット48)、横浜市中区海岸通3-9(日本郵船歴史博物館)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅3番出口から徒歩3分(横浜美術館)、みなとみらい線新高島駅2番出口から徒歩7分(プロット48)、みなとみらい線馬車道駅6番出口から徒歩2分(日本郵船歴史博物館)。
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「オノデラユキ FROM Where」 ザ・ギンザ スペース

ザ・ギンザ スペース
「オノデラユキ FROM Where」 
2020/9/8~11/29



ザ・ギンザ スペースで開催中の「オノデラユキ FROM Where」を見てきました。

1962年に東京で生まれた写真家のオノデラユキは、1993年にパリに拠点を移すと、空を背景に古着を撮影した「古着のポートレート」などを制作し、高く評価されてきました。

そのオノデラの「古着のポートレート」を中心に構成されたのが「オノデラユキ FROM Where」で、全52作品のうちオノデラ自身の選んだ15点の作品が展示されていました。



まず会場に足を踏み入れると印象に深いは赤々と空間を染めた照明で、カメラのレンズを写したシリーズ「camera」が3点ほど並んでいました。これらはいずれも暗闇で2台のカメラを向かい合わせ、片方のカメラのフラッシュの光のみで撮影された作品で、赤い照明は暗室をイメージして投影されました。



レンズはまるでこちらを心情を見透かす瞳孔のように開いていて、赤い照明の効果もあるのか、映画「2001年宇宙の旅」に登場するコンピューターHAL9000のカメラ・アイを連想させるものがありました。

その赤いスペースとは一転し、奥のホワイトキューブに並んでいたのが「古着のポートレート」シリーズでした。



古着は1993年、フランスの現代アーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーの個展「Dispersion(離散)」に展示されていたもので、来館者は10フラン支払うと袋に一杯分持ち帰ることができました。



そして展示を訪ねたオノデラは山積みになっていた古着を持ち帰り、モンマルトルの窓辺で一枚一枚広げて撮影しました。ボルタンスキーが大量死の象徴とした古着は、まるで空に飛び立つように写されていて、身体こそないにも関わらず、それこそ意志を持ったポートレートのようにも見えました。死から生、また不特定多数の群衆から個としての存在に引き出す意味も込められているのかもしれません。



なお現在、西新宿のユミコチバアソシエイツでは、オノデラの最新作を展示した「オノデラユキ FROM Where」が開催中です。(10月10日まで)25年を経たオノデラの過去と現在の制作を合わせて鑑賞するのも良いかもしれません。


新型コロナウイルス感染症対策に伴い、11時から18時の時短営業となっていました。



11月29日まで開催されています。

「オノデラユキ FROM Where」 ザ・ギンザ スペース
会期:2020年9月8日(火)~11月29日(日)
休館:9月14日、10月19日、11月16日。
時間:当面は11:00~18:00の時短営業。
料金:無料
住所:中央区銀座5-9-15 銀座清月堂ビルB2F
交通:東京メトロ銀座線・丸ノ内線・日比谷線銀座駅より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・都営浅草線東銀座駅より徒歩3分。
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「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」 パナソニック汐留美術館

パナソニック汐留美術館
「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」
2020/7/18~9/22



「工芸美」を探究する12名の現代作家を紹介する展覧会が、パナソニック汐留美術館にて行われています。

それが「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」で、いずれも1970年以降に生まれた安達大悟、池田晃将、桑田卓郎、坂井直樹、佐合道子、髙橋賢悟、舘鼻則孝、新里明士、橋本千毅、深堀隆介、見附正康、山本茜の各作品が公開されていました。


舘鼻則孝 展示風景

まず冒頭で目を引いたのは、花魁の高下駄をモチーフにした靴を制作し、レディー・ガガが愛用したことで知られる舘鼻則孝でした。


舘鼻則孝 展示風景

ここではまるで宝石のような輝きを放つ靴とともに、花魁の簪をモチーフにした作品や、鎌倉の覚園寺の庭に着想を得たとする椿の花を敷き詰めたインスタレーションなどが展示されていました。舘鼻といえば、昨年冬のポーラミュージアムアネックスでの個展の記憶も新しいところですが、また新たな魅力に親しむことができました。


深堀隆介 「四つの桶」 2009年 *部分

まるで生きているような金魚の作品で知られる深堀隆介も人気を集めるかもしれません。会場には丸い木桶に金魚が泳ぐ光景を表した「四つの桶」をはじめ、金魚すくいをイメージした「百舟」などが並んでいて、それこそ本物と見間違うような姿に目を見張りました。


深堀隆介 「百舟」 2018年

これらはいずれも透明のエポキシ樹脂の表面にアクリル絵具で金魚を描いていて、層状に重ねていくことで、水中で泳ぐような金魚の姿を表現していました。


深堀隆介 「百舟」 2018年 *部分

この技法を作家自身「積層絵画」と呼んでいるそうですが、写真でも明らかなように、何度目を凝らしてもおおよそ絵画には見えませんでした。


山本茜「截金硝子長方皿 流衍」 2014年

ガラスとガラスの間に截金を施し、窯で融着させた山本茜の截金ガラスにも魅了されました。青や水色、赤などの皿や香合には、実に繊細な截金が三次元的に埋め込まれていて、キラキラとした美しい光をまとっていました。


山本茜「源氏物語シリーズ第十九帖 薄雲(雪明り)」 2011年

五角柱のオブジェ「源氏物語シリーズ第十九帖 薄雲」は、作家が憧れたとする源氏物語の明石の君と姫君も母子の別れの場面を題材にしていて、雪の降り積もるような光景が示されていました。詩的でかつ叙情性にも満ちているのではないでしょうか。


山本茜 展示風景

山本は上村松園に憧れて日本画を志し、後に独学で截金を学んでは、截金ガラスの技法を確立したそうです。それこそ松園画のような気高さを感じる作品と言えるかもしれません。


新里明士 展示風景

淡い乳白色の光をたたえた新里明士の「光器」にも心を奪われました。透光性のある文様が施された磁器である蛍手の器で、表面には粒状の紋様が一面に広がっていました。


安達大悟「つながる、とぎれる、くりかえす」 2020年

また新里の作品と同じ展示室に並んだ坂井直樹の鉄の器や、絞り染めの技法を用いた安達大悟のテキスタイルも魅惑的で、それぞれの作品同士が引き立っているかのようでした。


橋本千毅「螺鈿 鸚鵡」 2018年

お気に入りの作品を探しながら見て歩くのも面白いかもしれません。会場内もルオーギャラリー(常設展)を除いて撮影が可能でした。


桑田卓郎 展示風景

新型コロナウイルス感染症対策のため、マスクの着用、手指の消毒の他、検温が行われています。私が出向いた時は空いていましたが、混雑時は展示室内の入館人数を制限するそうです。お出かけの際はご注意下さい。


9月22日まで開催されています。おすすめします。

「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」(@wakozekka_ten) パナソニック汐留美術館
会期:2020年7月18日(土)~9月22日(火・祝)
休館:7月22日(水)、8月12日(水)~14日(金)、8月19日(水)、9月9日(水)、9月16日(水)。
時間:10:00~18:00 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分
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「あしたのひかり 日本の新進作家 vol. 17」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「あしたのひかり 日本の新進作家 vol. 17」
2020/7/28~9/22



東京都写真美術館で開催中の「あしたのひかり 日本の新進作家 vol. 17」を見てきました。

2002年より「将来性のある作家」(公式サイトより)の活動を紹介する「日本の新進作家」展も、今年度で17回目を迎えました。

今回のテーマは「象徴としての光」と「いまここを超えていく力」で、岩根愛、赤鹿麻耶、菱田雄介、原久路&林ナツミ、鈴木麻弓の5組6名の作品が展示されていました。

さてそれぞれの作家が写真や映像を用いて多様に表現していましたが、私が強く心に残ったのが岩根愛の「あたらしい川」と鈴木麻弓の「The Restoration Will」でした。



2018年度の第44回木村伊兵衛写真賞を受賞した岩根愛は、今年の春に一関や北上、遠野、それに八戸などの東北各地で撮影した桜の風景と、家族の記憶や過去の旅の場面などを写真に収めていて、過去と現在の折り重なる一つの物語を綴っているかのようでした。



また1930年代の回転式パノラマカメラを用いたという8メートルの大型のプリントや、3画面の映像プロジェクションも用いていて、体感的なインスタレーションを築き上げていました。



写真が宙に浮く空間を歩きつつ、主に夜に咲き誇る桜の花々を見ていると、華やかな花見というよりも刹那的と呼べるような感情が湧き上がってきて、不思議と物悲しく感じられました。



「My Cherry」と題した80点組のスライドフィルムにも目が止まりました。一切の解説こそないものの、おそらくは作家と近しい人物の日常が次々と写されていて、さながらロードムービーを見るかのようでした。しかしながら終盤における一枚の写真はショッキングで、何とも言い難い感情が込み上げるのを覚えました。そこには大切な人の一生が写されていたのかもしれません。

1977年に宮城県で生まれた鈴木麻弓は、「復元の意思」を意味する「The Restoration Will」を出展していました。



いずれもモノクロームやカラーなどによって家やポートレートなどが写されていましたが、めちゃくちゃに壊れた家屋や灰燼に化した街並みも捉えられていて、そもそも写真自体がダメージを受けて白く破損しているものもありました。



鈴木は2011年の東日本大震災の大津波によって、宮城県女川町で写真館を営んでいた父と母を亡くしたそうです。



そして破壊された写真館の跡地には、父の使っていたレンズや泥まみれのポートフォリオに家族写真などが残され、丁寧に拾い集めたとしています。



そのレンズで街の風景を撮った写真は暗くぼんやりとしていて、鈴木自身も「亡くなった人たちが見ている景色」(キャプションより)と語るように、あたかも彼岸をのぞき込んでいるかのような錯覚に囚われるかもしれません。



さらにダメージを受けた写真を復元する取り組みを行なっているそうです。あまりにも辛い両親との別れに身をつまされるとともに、家族の記憶を呼び戻しつつ、父と同じく写真に挑もうとする作家の強い意志に感じ入るものがありました。



ここ数年の「日本の新進作家展」はほぼ欠かさず見ているつもりですが、これほど深い印象を受ける作家と作品に出会ったのは久々だったかもしれません。


会場内の撮影も可能です。9月22日まで開催されています。*掲載写真は「あしたのひかり 日本の新進作家 vol. 17」会場風景

「あしたのひかり 日本の新進作家 vol. 17」 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2020年7月28日(火)~9月22日(火・祝)
休館:月曜日。但し8月10日、9月21日は開館、8月11日は休館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700円、大学生560円、中学・高校生・65歳以上350円。
場所:目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
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「美の競演-静嘉堂の名宝-」 静嘉堂文庫美術館

静嘉堂文庫美術館
「美の競演-静嘉堂の名宝-」
2020/6/27~9/22



三菱創業150周年を期し、岩崎家の蒐集してきた東洋の古美術品を有する静嘉堂文庫美術館が、絵画、茶道具、陶磁器、漆器、刀剣などの名品を公開する「美の競演-静嘉堂の名宝-」を開催しています。

まず目を引いたのが南北朝時代の「春日宮曼荼羅」で、春日社の祭神や本地仏の元、花咲く桜に覆われた春日大社や御蓋山を鮮やかな色遣いにて描いていました。ともかく仏の金彩や野山の群青が際立っていて、色彩そのものの迫力にのまれるかのようでした。

中国・元時代の「文殊・普賢菩薩像」は東福寺に伝来したと言われていて、ともに真正面から両菩薩像を極めて精緻に表していました。ほぼ左右対象の姿をしていて、かつて伊藤若冲が「動植綵絵」とともに相国寺に寄進した「釈迦三尊像」の原画としても知られています。修復後、初公開とのことで、心なしかより着衣の紋様なども際立っているように思えました。


江戸絵画で目立っていたのは、六曲一双の大画面に波が広がる酒井抱一の「波図屏風」でした。得意の銀を背景に墨一色にて波を描いていて、まるで人の手や触手を思わせるような波頭がうねるようになびいていました。その姿は天をかける龍を思わせるかもしれません。

「波図屏風」は、抱一自身も「自慢心」と呼んだ会心作ではありますが、絵師とは異色と言えるほどに荒々しく激しい作品ではないでしょうか。しばし屏風の前に立ちながら、波頭が砕け散り、ごうごうと海の飛沫が散る様子を想像しては見入りました。

抱一では「絵手鑑」も見逃せない作品かもしれません。全72図のうちの16面が開いていて、円山四条派や土佐派、南画などに倣いつつ、精緻に描かれた山水や花鳥などを愛でることができました。

この他、深海に生きる魚の姿を淡い色彩で表した渡辺華山の「遊魚図」をはじめ、羽を振り上げた孔雀が艶やかな岡本秋暉の「牡丹孔雀図」、はたまた重厚感のある佇まいに迫力を覚える長曽祢虎徹の刀など、心に引かれた作品をあげればきりがありません。


「藍釉粉彩桃樹文瓶」 清時代(18世紀) *展示室外の作品は撮影可

タイトルに「名宝」とありましたが、何ら誇張のない、まさしくお宝揃いの展覧会でもありました。

6月24日よりスタートした展示は、8月4日より後期に入りました。今後、作品の入れ替えはありません。

新型コロナウイルス感染症に関する情報です。入館時はマスクの着用、手指の消毒の他、検温が実施されています。原則、37.5度以上ある場合は入館できません。



さて静嘉堂文庫美術館は2022年、丸の内の明治生命館1階にギャラリーが移転します。



移転対象施設はギャラリーのみのため、美術品の保管管理や研究業務、また敷地の管理などは継続して行われますが、世田谷での展示活動は残すところ1年強となりました。



岡本の高台から見晴らしの良い眺めを楽しめるのも、もうしばらくすると見納めとなりそうです。



9月22日まで開催されています。

「美の競演-静嘉堂の名宝-」 静嘉堂文庫美術館@seikadomuseum
会期:2020年6月27日(土)~ 9月22日(火・祝)
休館:火曜日。但し8月10日、9月21日は開館。8月11日(火)は休館。
時間:10:00~16:30
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
場所:世田谷区岡本2-23-1
交通:東急線二子玉川駅バスターミナル4番のりばから東急コーチバス「玉30・31・32系統」に乗り「静嘉堂文庫」下車、徒歩5分。二子玉川駅よりタクシー代200円キャッシュバックサービスあり。
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「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生−石と木の超建築」 角川武蔵野ミュージアム

角川武蔵野ミュージアム
「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生−石と木の超建築」
2020/8/1~10/15



角川武蔵野ミュージアムで開催中の「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生−石と木の超建築」を見てきました。



2020年8月1日、埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」に、美術、博物、図書機能の複合施設である角川武蔵野ミュージアムがプレオープンしました。



それを期して開かれているのが「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生−石と木の超建築」で、同ミュージアムを設計した建築家、隈研吾の手掛けた建築作品が、模型や写真、映像などで紹介されていました。



まず目を引いたのは角川武蔵野ミュージアムに関する内容で、外観を特徴付ける石のデザイン構成やサンプル、そして「ところざわサクラタウン」の模型が展示されていました。



石は表面を滑らかに磨くことなく、割り出した荒々しさを保った「割肌」なる仕上げを用いていて、武蔵野の大地の奥深くに眠る地層の火山堆積物が、地中より足元を割って出てきたようなイメージをもって設計されました。



この他では近年に手掛けたスコットランドのヴィクトリア・アルバート・ミュージアムの分館や、東京・晴海のパビリオン、それに本来であれば今年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場になる予定だった国立競技場の模型も紹介されていました。



角川武蔵野ミュージアム同様、石造りの建物であるのが栃木県那須町の石の美術館で、かつて米を貯蔵していた80年前の古い建物を再利用して設計されました。



今年11月にミュージアム内にオープン予定の本棚劇場のモックアップも公開されていて、木組の棚へ本を並べた様子を見ることができました。現在、劇場自体は完成したものの、棚の区分を示す見出しの入れ方や、プロジェクションマッピングが行われるなど、オープンに向けて実験が行われているそうです。



会場内の椅子も隈研吾のデザインによるもので、「クマヒダ」、「GC」、「KA」といった椅子を手にして感触を確かめたり、自由に腰掛けることも可能でした。



今回の展覧会で一番目立っていたのは、壁面全体を用いた映像インスタレーション「往還の風景 1961-2020」でした。写真家の新津保建秀が、隈の作品集「東京 TOKYO」のために撮り下ろした写真を再構成したもので、首都圏に点在する隈建築が流れるように映されていました。



ここで新津保は隈建築の撮影に際して、隈が少年時代より通った街並みも写真に記録していて、端的な建築写真だけでなく、建築を取り込んだ街の風景や行き交う人々の様子を見られました。ロードムービー風の展開も垣間見えたかもしれません。



細かな図面やスケッチなどはなく、広い会場ゆえかがらんとした印象もありましたが、角川武蔵野ミュージアムを中心とした近年の隈の活動を追うことができました。



さて隈研吾展にあわせて、角川武蔵野ミュージアムの館内も一部見学してきました。



プレオープンの段階のため、私が出向いた8月最終週の日曜に見られたのは、ともに1階に位置する隈研吾展会場のグランドギャラリーとマンガ・ラノベ図書館でした。



マンガ・ラノベ図書館は、KADOKAWAのほぼ全てのライトノベルを所蔵する図書館で、いずれの作品も手にとって自由に閲覧することが可能でした。



インフォメーションとチケットブースは2階に位置していて、ロックミュージアムショップがクローズしていたものの、角カフェはオープンしていました。



ともかく黒を基調した内装デザインが独特で、網目状のパーティションや、建物外観をイメージした透明の飛沫防止カウンターなども印象に残りました。



一方で3階のEJアニメミュージアム、4階の荒俣ワンダー秘宝館、4階から5階の本棚劇場、5階のレストランやギャラリーは全て未開業のために立ち入ることが叶いませんでした。



それらの全ての見学は、グランドオープン予定の11月6日以降となりそうです。(9月4日からは、隈研吾展会期中の金曜と土曜に限り、本棚劇場見学ツアーを実施。)



この夏にプレオープンした「角川武蔵野ミュージアム」は、JR武蔵野線東所沢駅より歩いて10分強の「ところざわサクラタウン」のランドマーク的な施設です。



駅舎工事中の東所沢駅の改札を出て、駅前通りを北方向にしばらく歩いていると「ところざわサクラタウン」の案内看板が見えてきました。



あたりは東京郊外の住宅地といった様相を呈していて、ロードサイドにはドラッグストアやファミレスなどが立ち並んでいました。



その駅前通りとサクラタウンの間に広がるのが東所沢公園で、遊具広場や芝生広場の他に、チームラボの「どんぐりの森の呼応する生命」が展示された武蔵野樹林パークがありました。(どんぐりの森の体験は事前予約制。)



公園中央の園路をさらに進み、道路を挟んだ先にそびえ立つのが角川武蔵野ミュージアムで、1200トンもの花崗岩で覆われた外観は、まるで石の要塞や巨大な隕石を目にするかのようでした。



「ところざわサクラタウン」は、角川武蔵野ミュージアムの他に、ジャパンパビリオンやEJアニメホテル、それにオフィスや商業施設、さらには神社などで構成されたコンテンツモールで、KADOKAWAと所沢市が「COOL JAPAN FOREST構想」の元、日本最大のポップカルチャーの発信地として築かれました。



ただし新型コロナウイルス感染症対策に伴い、角川武蔵野ミュージアムと同様にプレオープンの段階のため、9月初めでも一部施設が開業しているに過ぎず、ショップとレストランはほぼクローズしていました。今後、EJアニメホテルは10月1日にオープンし、全館グランドオープンはミュージアムと同じく11月6日を予定しています。



角川武蔵野ミュージアムと並び、敷地内で異彩を放っていたのは、武蔵野坐令和神社(むさしのにます うるわしき やまとの みやしろ)でした。



隈研吾がデザインし、令和の考案者とされる国文学者の中西進氏が「武蔵野の神様をお招きして恵みの花を育てる」との願いで命名した神社で、赤い複数の鳥居と大きな屋根を広げた社殿が美しいコントラストを描いていました。



ミュージアムの建物の横に水盤があり、おそらくは地元の人々の子どもたちが楽しそうに水遊びをしている光景が印象に残りました。



まだ全面オープンを迎えていないため、大きな賑わいを創出しているとまでは言えないかもしれませんが、今後のグランドオープンを控えて、街全体を変えうるようなポテンシャルを秘めた施設ではないでしょうか。また改めて出向きたいと思いました。


入場には完全事前予約制が導入されました。ミュージアムの公式サイトより予め日時を指定し、チケットを購入しておく必要があります。



10月15日まで開催されています。

「角川武蔵野ミュージアム竣工記念展 隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 − 石と木の超建築」 角川武蔵野ミュージアム1Fグランドギャラリー(@Kadokawa_Museum
会期:2020年8月1日(土)~10月15日(木)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
 *金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600円、中学・高校生1000円、小学生700円、未就学児無料。
 *完全事前予約制。
 *9月4日より本棚劇場見学ツアーのセット券(金土のみ)を販売。一般2000円。
場所:埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3
交通:JR線東所沢駅から徒歩約10分。ところざわサクラタウン有料駐車場あり。
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「記憶の珍味 諏訪綾子展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「記憶の珍味 諏訪綾子展」
2020/1/18~2/29 8/25~9/26



資生堂ギャラリーで開催中の「記憶の珍味 諏訪綾子展」を見てきました。

新型コロナウイルス感染症対策のため、半年間休止を余儀なくされた「記憶の珍味 諏訪綾子展」が、いわゆるコロナ禍を踏まえて新たに内容を変えた展示を行っています。



まるで銀座の地下に森が広がったような景色と言えるかもしれません。まずホワイトキューブに足を踏み入れて目に飛び込んできたのが、緑色の葉を茂らせた樹木の枝で、テーブルセットを中心にぐるりと一周、いずれも芳しい香りを放ちながら、全部で8つほど吊り下がっていました。



そしてスマホの音声ガイドに誘われながら、それぞれに異なった樹木を香りをかぎつつ、何らかの記憶を呼び覚ますものを選んでは、会場の奥へと進みました。



私自身、何度か樹木の周囲を巡りつつ、香りと記憶を結び付けようと試みたものの、どうしてもイメージが浮かび上がらなかったため、好きな香りを選ぶことにしました。



ちょうど樹木の下の白い柱にはAからHまでの文字がつけられていて、私はGの香りを選んでは、壁にかけられていた「記憶の珍味をあじわう素」を一つ取りました。そして袋を開けると、香りのついた丸いシールが現れ、さらに音声ガイドの指定によって、シールをマスクの内側に貼って持ち帰りました。今回の展示ではスマホの音声ガイドが、いわば観客の行動を導くように作られていました。



「食」をテーマにした表現に取り組む作家、諏訪綾子は、記憶が香りによって引き出されることに着目し、記憶を珍味として味わうべく、今回のインスタレーションを発表しました。

しかし新型コロナウイルス感染拡大のため2月末に一度展示が休止されると、諏訪は東京を離れて創作の拠点を森の中へと移しました。そして多くの出会いや気づきがあったとして、当初の「自然からのインスピレーション」というコンセプトこそ同一に、森での生活を反映させた展示へと作り変えました。



再開前はテーブル上の8つの透明ケースの中に香りのついたサンプルが置かれていて、観客自身の記憶を呼び起こす香りを係員に伝えると、香りの詰まった小さな珍味を供されて口にしていたそうです。しかし再開後は感染症対策に伴う接触防止のため、誘導も係員からスマホの音声ガイドとなり、口にして味わう行為そのものもなくなりました。また鉱石などに似たサンプルも樹木へと大きく変わりました。



ただマスクの内側で口元に広がる香りを嗅いでいると、あたかも口でも香りを味わっているような気持ちにもさせられました。それに帰宅して展示の内容を家族に話すと、香りが「祖父母のつけていた香水の匂いを思い出す。」と言われました。マスクで香りを持ち帰ることによって、自分では思いもつかなった記憶が呼び覚まされることも、1つの新たな気づきと言えるのかもしれません。


観覧は完全予約制です。ギャラリーの公式サイトを経由してArtStickerより事前にチケットを手配しておく必要があります。



9月26日まで開催されています。

「記憶の珍味 諏訪綾子展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2020年1月18日(土)~2月29日(土)/ 8月25日(火)~9月26日(土)
休廊:月曜日。*祝日が月曜にあたる場合も休館
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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2020年9月に見たい展覧会【大津絵/宮島達男/光―呼吸】

長く続いた酷暑も関東では少し落ち着いてきました。いわゆる秋の展覧会シーズンへと入りましたが、SOMPO美術館の「ゴッホと静物画」展が中止されるなど、新型コロナウイルス感染症による影響は続いています。その一方で長らく臨時休館していた根津美術館が、9月19日から「モノクロームの冒険 日本近世の水墨と白描」にて再開することが決まりました。

9月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「真珠-海からの贈りもの」 渋谷区立松濤美術館(6/2~9/22)
・「あしたのひかり 日本の新進作家 vol.17」 東京都写真美術館(7/28~9/22)
・「東京モダン生活 東京都コレクションにみる1930年代」 東京都庭園美術館(6/1~9/27)
・「Re construction 再構築」 練馬区立美術館(7/8~9/27)
・「2020イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」 板橋区立美術館(8/22~9/27)
・「月岡芳年 血と妖艶」 太田記念美術館(8/1~10/4)
・「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク」 東京都写真美術館(8/18~10/11)
・「都市への挿入 川俣正」 BankART Station、BankART Temporary、馬車道駅(9/11~10/11)
・「すみだ向島 EXPO 2020」 東京都墨田区曳舟エリア(9/12〜10/11)
・「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 - 石と木の超建築」 角川武蔵野ミュージアム(8/1~10/15)
・「田中信太郎展 風景は垂直にやってくる」 市原湖畔美術館(8/8~10/18)
・「ショーン・タンの世界展」 そごう美術館(9/5~10/18)
・「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」 国立新美術館(8/12~11/3)
・「モノクロームの冒険 日本近世の水墨と白描」 根津美術館(9/19~11/3)
・「敦煌写経と永樂陶磁」 三井記念美術館(9月12日~11月8日)
・「もうひとつの江戸絵画 大津絵」 東京ステーションギャラリー(9/19~11/8)
・「竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス」 山種美術館(9/19~11/15)
・「アイヌの美しき手仕事」 日本民藝館(9/15~11/23)
・「ふたつのまどか―コレクション×5人の作家たち」 DIC川村記念美術館(6/16~11/29)
・「国立公園―その自然には、物語がある」 国立科学博物館(8/25~11/29)
・「黄金町バザール2020 第1部」 京急線日ノ出町駅・⻩金町駅間の高架下スタジオ他(9/11~10/11)
・「宮島達男 クロニクル 1995-2020」 千葉市美術館(9/19~12/13)
・「生誕111年浜口陽三銅版画展 幸せな地平線」 ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション(8/18~12/20)
・「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」 森美術館(7/31~2021/1/3)
・「光―呼吸 時をすくう5人」 原美術館(9/19~2021/1/11)
・「生きている東京」 ワタリウム美術館(9/5~2021/1/31)

ギャラリー

・「菅木志雄 放たれた景空」 小山登美夫ギャラリー(8/21~9/26)
・「Echoes of Monologues」 ANOMALY(9/16~10/10)
・「中西敏貴写真展:Kamuy」 キヤノンギャラリーS(9/19~10/31)
・「ポーラ ミュージアム アネックス展2020 前期」 ポーラ ミュージアム アネックス(9/26~10/11)
・「JAGDA新人賞展2020 佐々木俊・田中せり・西川友美」 クリエイションギャラリーG8(9/8~10/15)
・「浜田浄 記憶の地層 -光と影-」 √K Contemporary(9/19~10/24)
・「ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展」 メゾンエルメス8階フォーラム(8/27~11/29)
・「オノデラユキ FROM Where」 THE GINZA SPACE(9/8~11/29)

まずは日本美術です。東京ステーションギャラリーにて「もうひとつの江戸絵画 大津絵」が開催されます。



「もうひとつの江戸絵画 大津絵」@東京ステーションギャラリー(9/19~11/8)

江戸時代初期より宿場だった大津周辺で描かれた大津絵は、旅人の手軽な土産物として人気を集め、全国へと広まりました。その大津絵の魅力を紹介するのが「もうひとつの江戸絵画 大津絵」で、全国屈指のコレクションを誇る日本民藝館や、洋画家・小絲源太郎が収集して笠間日動美術館に収められた作品などがまとめて公開されます。


近年、江戸絵画展などで見る機会も増えた大津絵ですが、美術館での本格的な展覧会は少ないため、また新たなムーブメントを起こすきっかけになるかもしれません。

続いては現代美術です。美術家、宮島達男の個展が千葉市美術館にて行われます。



「宮島達男 クロニクル 1995-2020」@千葉市美術館(9/19~12/13

1957年に東京で生まれ、1980年代よりLEDのデジタル・カウンターを使用した作品を制作してきた宮島達男は、国内で多くの展示を行うだけでなく、1999年の「第48回ヴェネツィア・ビエンナーレ」に参加するなど海外でも活動してきました。


今回の個展は、宮島の転換期とされる1995年から現在までの作品を俯瞰するもので、大型のインスタレーションを含めた約40点が公開されます。また今年の最新作をはじめ、千葉市美術館の所蔵する杉本博司、李禹煥、河原温らの作品とコラボレーションした「Changing Time / Changing Art」も発表されます。

実に関東では2008年に水戸芸術館で開かれた「宮島達男|Art in You」以来、約12年ぶりの大規模な個展でもあります。水戸の展示では仏塔をイメージした巨大なオブジェ「HOTO」に驚かされましたが、今後の活動を見据えるような内容になるのかもしれません。

ラストも現代美術です。原美術館にて「光―呼吸 時をすくう5人」が開催されます。



「光―呼吸 時をすくう5人」@原美術館(9/19~2021/1/11)

これは「自身の立ち位置から社会を省察する」(公式サイトより)今井智己、城戸保、佐藤時啓、佐藤雅晴、リー・キットの5名による作家の作品を紹介するもので、本展の終了をもって原美術館は建物の老朽化により閉館し、約40年の歴史に幕を下ろします。


2021年からは群馬県渋川市の「ハラ ミュージアム アーク」を「原美術館ARC」と改め、同地に拠点を集約して活動を続けますが、品川の地でのフィナーレを飾る展示だけに、見過ごせない内容となりそうです。

それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
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