「松岡映丘とその一門」 山種美術館

山種美術館千代田区三番町2 三番町KSビル1階)
「松岡映丘とその一門 - 山口蓬春・山本丘人・橋本明治・高山辰雄 - 」
1/6-3/1



「近代日本画において『やまと絵』を復興させた松岡映丘」(公式HPより引用)と、その門人らを紹介します。山種美術館で開催中の「松岡映丘とその一門」へ行ってきました。

表題に松岡映丘とあると、さも彼の作品が多数を占めているように思えますが、実際には松岡1割、その他一門の画家が9割です。決して松岡の回顧展ではありません。以下、出品の作家をキャプションを参考に大別してみました。

師:橋本雅邦、川端玉章
仲間:鏑木清方、平福百穂、結城素明(美術団体「金鈴社」を結成。)
門下:山口蓬春、山本丘人、橋本明治、高山辰雄



印象深かった作品を展示順に挙げます。まずは門下の山口蓬春より「錦秋」の一枚です。デザイン的とも言える紅葉が鬱蒼と生い茂り、そこへ小鳥が二羽、取り澄ました様子にてちょこんとのっています。蓬春というと、紫陽花の青紫色を思い出しますが、この紅葉の朱も味わい深いものがあるのではないでしょうか。カラリストとして見ても面白い作家なのかもしれません。



同じく映丘に師事した山本丘人の二点の大作、「洋上の火山」と「入る日」のダイナミックな様には驚かされました。地に金を用いながらも、黒い極太の線描によるのか、そびえ立つ火山の姿が猛々しくも暗鬱に描かれています。まるで烈しい怒りを秘めているかのようでした。



もう一点、門下生からは橋本明治にも触れなくてはなりません。美人画にはおおよそ似つかない力強い輪郭線をはじめ、和装のエメラルドグリーン、及び顔や手に塗られた青白い色遣いにはたまげました。キュビズム絵画を見るような迫力さえ感じられます。



松岡は計5点ほど出品されていました。白眉はちらし表紙も飾る「山科の宿『おとづれ』」ではないでしょうか。今昔物語に取材した本作の精緻でかつ雅やかな様子には、やまと絵の技法を復古させたという映丘の真骨頂を見ることが出来ます。乳房に食らい付く赤ん坊の生き生きとした姿をはじめ、それを驚いた様でみやる母、さらには庭の白梅と紅椿の対比などに目を奪われました。

明日、3月1日までの開催です。
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「大和由佳 - 存在の満ち欠け - 」 ニュートロン東京

ニュートロン東京港区南青山2-17-14
「大和由佳 - 存在の満ち欠け - 」
2/7-3/1



カズラの木より落ちる『実』が空間を演出します。ニュートロン東京で開催中の、大和由佳のインスタレーション個展へ行ってきました。





あたかも星屑の散るように広がるのは、ブロンズで出来た無数の「実」のオブジェです。宙よりぶら下がり、それらが互いに緩やかな距離を保ちながら、一見するところ静かに立ち止まっています。とは言え、ここでは視覚だけではなく聴覚も駆使しなくてはなりません。「実」の合間を縫うようにして進むと、いつしか彼らは体に寄り添い、互いに震えながらカラカラといった音を出して微笑み出しました。五感で味わう「実」の息吹きは、心地良きハーモニーを奏でてくれたようです。





この「実」の他、もう一点是非挙げておきたいのは、アクリルキューブを用いた小さな透明のオブジェです。上から覗き込むだけでは、プールのように広がる透明アクリルの周囲に色が配されていることしか分かりませんが、横向きに見ることで未知の世界が開けてきました。絵具が滝のように流れ、紗幕状の光のカーテンを生み出しています。窓越しに差し込む陽射しとも共鳴して、仄かな輝きを放っていました。



庭のコブシにも花が咲きました。次の日曜日、3月1日までの開催です。
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「棚田康司 - 結ぶ少女 - 」 ミヅマアートギャラリー

ミヅマアートギャラリー目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル2階)
「棚田康司 - 結ぶ少女 - 」
1/28-2/28



三島のヴァンジで初の美術館個展を開催した棚田康司がミヅマへと凱旋します。「棚田康司 - 結ぶ少女 - 」へ行ってきました。

今展覧会に出ている計5点の木彫のうち、4点はヴァンジでも出品されたものです。残念ながら三島まで行けなかった私は、その際の風景をこちらのブログなどで知るのみですが、ヴァンジの逞しい彫像も登場しない今回のミヅマの会場は、写真で見比べてもやや無味乾燥に感じられました。両者ご覧になられた方は如何でしたでしょうか。

会場の彫像は全て相互に微妙な距離感を置いて展示されています。飄々とした表情をとりながらも、上目遣いの、どこかにやりと不敵な笑みすらたたえる少年たちは、時に壁に支えられ、また机の上から半身のみをさらして構えていました。照りのあるオイル、もしくは鮮やか極まりない色彩に包まれたユニセックスで細身の姿は、何かに怯え、メッセージも発することもせずに、ただひたすらに無関心を装う、半ば人間の弱さを淡々と伝えているのかもしれません。掴めそうで掴めない、希薄な存在感が、前述の空間と相まって、より寂し気でかつ空疎な場へと転化していました。

「十一の少年、一の少女/棚田康司」

28日まで開催されています。
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「寺田真由美 展」 BASE GALLERY

BASE GALLERY中央区日本橋茅場町1-1-6
「寺田真由美 展」
1/15-2/28



『虚』と『実』のはざまにある揺らぎを写真で提示します。寺田真由美の個展へ行ってきました。

かつては全て寺田自身の制作したミニチュアの室内空間を撮影、ようはフェイクだけをモノクロの幻想的なオブラートに包んで見せていましたが、今作からはその中にリアル、つまりは実景を取り込むことに挑戦しています。ベンチや机、そして窓枠や扉こそ、手作り感の漂う模型、言わばセットですが、その先に広がるのは彼女の住むマンハッタンのセントラルパークの景色そのものでした。テーブル越しに広がる池や木立が、まるでオランダ室内画を思わせる静謐な室内空間の中へ風を呼び込みます。光は作品に新たな輝きをもたらしていました。

「明るい部屋の中で―寺田真由美作品集」

28日まで開催されています。

*関連エントリ
「寺田真由美展」 高島屋東京店 美術画廊X
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「ぐるっとパス2009」概要発表

しばらく前のことですが、来年度の「ぐるっとパス」の概要が東京都歴史文化財団よりリリースされました。ご覧になられた方も多いのではないでしょうか。

「東京・ミュージアム ぐるっとパス2009のご案内」(pdf)

対象施設:都内66の美術館・博物館・動物園・水族館
販売価格:2000円(大人のみ)
販売期間:2009年4月1日(水)~2010年1月31日(最終有効期限は2010年3月31日)
有効期間:最初に利用した日から2ヶ月間



来年度は対象施設が今年よりも8つ増えました。以下、新たにパスに加わった施設一覧です。(西美は復帰です。)

国立西洋美術館(常設無料/企画割引)
昭和館(無料)
ニューオータニ美術館(無料)
畠山記念館(無料)
菊池寛実記念 智美術館(無料)
文化学園服飾博物館(無料)
地下鉄博物館(無料)
調布市武者小路実篤記念館(無料)

かつての巴水や日経日本画など、見逃せない展覧会も多いニューオータニがついにフリー入場可となりました。また展示空間に魅力がありながらも、量を鑑みると若干入館料が高く感じた陶芸専門の智美術館も仲間入りです。おそらく同館の入館者数はこれまでの数倍になるのではないでしょうか。これで泉屋分館、大倉、そして智と、『六本木一丁目・ぐるっとパストライアングル』が完成しました。

逆に対象外となったのは以下の施設です。なおこれらは移転、及び改修工事などが理由のため、おそらくリニューアルした際には再び対象施設に加わるものと思われます。(もしくは復帰することを希望します。)

山種美術館(新美術館へ移転のため、7/27~9/30の間休館。)
江東区深川江戸資料館(施設改修工事のため、7/1より翌年同月まで休館。)
朝倉彫塑館(補修修復工事のため、4/1より約4年間休館。)

ちなみにまだ正式なアナウンスがありませんが、毎年発売されているメトロと都営地下鉄のフリーきっぷをセットにした「ぐるっとパス」(今年度の「メトロ&ぐるっとパス」)も大変にお得です。昨年の設定では、それぞれ約700円の一日乗車券が2枚ついた上、パスと合わせて2800円でした。一日券は地下鉄を約3~4回程度乗り降りすると元が取れます。メトロか都営を使うかは行程にもよりますが、こちらもおすすめです。

地下鉄と言えば、葛西の地下鉄博物館が加わったのにも興味が引かれました。名前は耳にしたことがありながら、一度も行ったことのない施設だったので、是非パスを縁に見てきたいと思います。

*関連エントリ
メトロと都営deぐるっとパス
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「樋口佳絵 - エンシンリョク - 」 西村画廊

西村画廊中央区日本橋2-10-8 日本橋日光ビル3階)
「樋口佳絵 - エンシンリョク - 」
2/3-2/28



乳白色に染みた虚空を子どもが駆け巡ります。2年ぶりとなる新作絵画展です。西村画廊での「樋口佳絵 - エンシンリョク - 」へ行ってきました。

樋口の描く少年少女たちには、愛らしい振る舞いとは対照的な『粗暴性』が隠されてはいないでしょうか。彼らは乳白色を下地に、薄く塗られたグレーなどの淡い色の渦の中を、時に顔を振り向かせながら終始寡黙に佇んでいます。そのあたかも仮面を被ったような無表情な様は病的ですらありますが、小さな目から発せられる強い視線には思わず後ずさりしてしまいました。テンペラの効果もあってか、絵自体の存在感はまるで色のついた影絵のように希薄ですが、その内にはふつふつと沸き立つ怒りの感情が確かに押し込められています。画風の静けさはあくまでもそれを隠すベールにしか過ぎませんでした。

行き場を失った子どもたちの揺れ動く心理は、かの目線に乗って見る側の感情を不安にもさせるようです。落ち着いて見ることを許しません。

今週の土曜、28日まで開催されています。
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「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」 川村記念美術館(Vol.1・プレビュー)

川村記念美術館千葉県佐倉市坂戸631
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
2/21-6/7



『聖地』佐倉で、まさに一期一会となるロスコの展覧会が始まりました。川村記念美術館での「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」展のプレビューに参加してきました。

まず本エントリでは、展示の構成を順に写真でご紹介したいと思います。会場は同美術館内、先だって昨年に増築された企画展示ゾーン(増築についてはプレスをご参照下さい。)です。大きく分けて二つの部屋の中に、今回メインの「シーグラム壁画」の大展示室を中核として、計4つの空間が展開されていました。



入口。手狭なドアを抜けると深淵なロスコの世界が待ち受けます。



導入部の展示室。一点のみ、来場者を待ち構えんとして立ちふさがります。ちなみに本作品、「どこかが見たことがある。」と思われた方も多いのではないでしょうか。これはMOTの常設でも目にする機会も多い「赤の中の黒」(1958)でした。



続いて二つめの部屋です。ここからロスコが「シーグラム壁画」を手がけた過程を辿ります。



ちなみに入口側から展示室を望むと上のような形となります。手前に「赤の中の黒」、二番目の部屋に書簡群、そして最奥部の広い展示室に「シーグラム壁画」と続いていました。



「シーグラム壁画」についてはキャプションにも記載がありますが、公式サイト内の解説を前もって頭に入れておいても良いかもしれません。なぜなら今回の展示はこの壁画を単に視覚で受け止めるだけでなく、ロスコがそこへかけた情熱とを追体験する内容でもあるからです。



テート・ギャラリーにシーグラム壁画を展示するため、当時の館長ノーマン・リードと約5年にもわたってやり取りした書簡が並びます。その文面にロスコの思いが汲み取れるというものでした。もちろん本邦初公開です。


「テート・ギャラリーのシーグラム壁画展示のための模型」(1969)

ずばりロスコがテートでの展示のためにつくった模型です。



そしていよいよ開けるのは大展示室、「シーグラム壁画」による新・『ロスコ・ルーム』です。テート3点、ワシントン・ナショナル・ギャラリー5点、そして川村美7点の計15点の作品が空間を敢然と包み込み、そして支配しています。ぐるりと一周、その色と形、さらには気配に呑み込まれること必至ではないでしょうか。



「シーグラム壁画」展示室。作品位置の高さに注目です。人の身長をゆうに超える場所に掲げられています。これは当初のロスコの意図により近い形で再現するために設定されました。ここからしても川村に通常あるロスコ・ルームとは一味も二味も違うことがお分かりいただけるでしょう。



高さとともにもう一つ、作品同士の幅にもまた驚かれるのではないでしょうか。僅か5センチの隙間を挟み、まさにひしめき合ってずらりと揃います。ちなみに本展覧会はテート・モダンとの共同企画、巡回展ですが、壁画の展示の仕方に関しては若干異なっています。「イギリスで見た。」という方でももう一度試す価値は十分にありそうです。



そもそもロスコは同壁画を30点ほど制作しましたが、そのうちの半数、15点も一堂に会するのは今回が初めてです。だからこそ『一期一会』のロスコ展であるわけでした。



鼓動の高まるかのような熱気とともに、反面の異様ならざる不安感、圧迫感を覚えます。

「無題」(1969)

「シーグラム壁画」を経由すると、それまでとは異なった『らしからぬ』作品が一点、登場します。赤や朱を用いたものよりも虚空を超える広がり、そして無限の地平線のようなスケール感を見るのは私だけではないかもしれません。



そして最後の最後、もう一つ待ち構えるのが別の『ロスコ・ルーム』です。私の拙い写真では黒にしか見えませんが、その実は深い色の『波』がしずかにたゆたう作品でした。静かな音を感じるかもしれません。

「無題」(1964)

グレーのロスコの正面にある本作品がラストになります。一見、何ものにも動じない『赤』が永遠の場を開き、来場者を送り出します。


(c) Kawamura Memorial Museum of Art 2009

プロのカメラマンによる写真をお借りします。川村でのロスコの展示というと、例えばニューマンの光へと繋がるような闇夜のイメージもありますが、今回の企画では必ずしも暗くありません。照度の異なった空間で見るロスコもまた斬新でした。

最後に一つ、興味深い点を挙げたいのは、本展示の音声ガイド(500円)です。作品の解説が吹き込まれているのは言うまでもありませんが、それとともにモーツァルトの弦楽五重奏曲が丸々一楽章分挿入されています。これはロスコがこよなく愛したモーツァルトの音楽とともに壁画を見て欲しいという、ご子息、クリストファー・ロスコ氏のアイデアによって実現した企画でもあるそうです。ロスコとモーツァルトの意外な共鳴にも感じ入るものがありました。

以上です。次回以降のエントリでは、プレビュー時に行われたレクチャーなどの様子をお伝えしたいと思います。(以下のリンク先にアップしました。)

「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」 川村記念美術館(Vol.2・レクチャー)

*展示基本情報*
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
場所:川村記念美術館
交通:京成、JR佐倉駅より無料シャトルバス。駐車場(無料)あり。
会期:2009年2月21日(土)―6月7日(日)
時間:午前9時30分-午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館:月曜日(ただし5/4は開館)、5/7(木)
料金:一般1500円、学生・65歳以上1200円、小中高校生500円。(3/8まで有効の早期割引クーポンあり。)

*写真の撮影、掲載については全て主催者の許可をいただいています。
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東京シティ・フィル定期 「ハイドン:天地創造」 飯守泰次郎

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第226回定期演奏会

ハイドン オラトリオ「天地創造」(全3部)

ソプラノ 市原愛
テノール 望月哲也
バス 成田眞
合唱 東京シティ・フィル・コーア
お話 吉田進
管弦楽 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
指揮 飯守泰次郎

2009/2/20 19:00 東京オペラシティコンサートホール



上野時代は度々お世話になりましたが、初台へと本拠地を移してからの公演へ行ったのは初めてでした。東京シティの定期演奏会よりハイドンのオラトリオ「天地創造」を聴いてきました。

ミルトンの「失楽園」、及び旧約「創世記」などを元に構成された全110分にも及ぶ大曲を、ほぼ緊張感を削ぐことなく演奏し得たのは、やはり指揮の飯守に抜群の求心力があったからではないでしょうか。飯守というと、さもすればワーグナーの公演を挙げられるように、ロマン派音楽を勇壮に聴かせるエネルギッシュな指揮者のイメージを持っていますが、オーケストラの地力も露となるような、半ば『騙し』の利かない古典派音楽の魅力を素直に引き出すことにも十分に長けています。決して機能的とは言えない同オーケストラへ的確な指示を送り、「音による絵画」(解説冊子)にも興味深いハイドンのシンプルながらも凝った音楽を、時に逞しい合唱団の力を借りながら見事にまとめあげていました。流石の安定感です。

ピリオド楽器の奏法も公演を引き締めます。神の栄光を輝かしく讃える華麗な前半部の音楽は過度に装飾することなく清涼に響かせ、一方でのアダムとエヴァの邂逅を歌う第3部においては微笑ましく温かい愛の調べを小気味良く聴かせていました。また合唱、オケとも尻上がりに調子をあげていたのが印象的です。前半部はやや合わない部分もありましたが、特に休憩を挟んでの第3部は相当の水準に達していたのではないでしょうか。終結部の高らかな「アーメン」はホールいっぱいに瑞々しく響いていました。

歌手ではバスの成田が別格です。堂々とした歌唱で周囲を圧倒していました。次点ではソプラノの市原愛ではないでしょうか。可憐な歌声はエヴァ役にぴったりとはまっていました。

冒頭には、ハイドンとメイソンの関係を解説する作曲家の吉田進氏の『お話」がありました。もちろんこうした試みには拍手を送りたいところですが、充実した内容はともかくも、如何せん話し振りがやや硬すぎました。折角のライブなので、もう一歩アドリブをきかせた遊び心があっても良かったと思います。

会場は大入りでした。終演後、合唱団が退場するまで拍手が鳴り止まなかったことを付け加えておきます。
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「難波田史男展」(第3期収蔵品展) 世田谷美術館

世田谷美術館世田谷区砧公園1-2
「難波田史男展」(第3期収蔵品展)
2008/12/12-2009/2/27



難波田自身が経堂に生まれた縁もあってか、世田谷美術館には約700点を超える作品が所蔵されているそうです。収蔵品展より難波田史男の回顧展を見てきました。

展示は比較的初期より晩年まで、計78点の絵画で構成されています。いつぞや東京ステーションギャラリーで展示に接して以来、彼は私の偏愛の画家の一人となりましたが、今回もユートピアの中にも死の暗鬱な気配を漂わせる独特の世界を存分に楽しむことが出来ました。



初期の比較的色鮮やかな水彩作品では、薄い紙に儚さすら感じさせる極細の線が舞い、それらがおもちゃ箱をひっくり返した色彩の渦へと飛び込みながら、アニメーション的な動きをもって様々な『劇』を繰り広げています。今回、それらの集大成ともとれる超大作、「モグラの道」(1963)と「イワンの馬鹿」(1964)が出品されているのには驚かされました。縦70センチから150センチ、そして横は前者では何とゆうに10メートルを超えるというこの両作品は、まさに難波田の一代叙情詩ではないでしょうか。愉快に微笑む子どもたちが、何らの束縛もない様子にて、天地のひっくり返った自由極まりない空間を縦横無尽に駆けて跳ねています。永遠に続くパラレルワールドが現出していました。



一転しての晩年、特に70年代の半ばに差し掛かると、難波田の『劇』に異様な『影』が入り込んできます。色彩はくすみ、モチーフや歪みきって時に苦しみ出し、絵の躍動感自体も消えて、あたかも亡霊の浮かぶ彼岸のような世界が開かれてきました。「海」(1973)には言葉を失います。大地と海は大声をあげて嘆き悲しみ、そして崩れさっていきました。

「すさまじい力のある想像的空間」(現代に生きる/難波田史男)は魅力は決して衰えることがありません。父をゆうに超えた天才の心象風景が敢然と広がっていました。

率直なところ、メインの「十二の旅」よりもはるかに印象に残りました。

2月27日まで開催です。

*現在、初台のオペラシティでも難波田父子の展示(収蔵品展)を開催中です。
 収蔵品展028 難波田龍起・難波田史男(1/17-3/22)
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「十二の旅:感性と経験のイギリス美術」 世田谷美術館

世田谷美術館世田谷区砧公園1-2
「十二の旅:感性と経験のイギリス美術」
1/10-3/1



19世紀以降、現代までのイギリス人作家、計12名を紹介します。世田谷美術館で開催中の「十二の旅:感性と経験のイギリス美術」へ行ってきました。

上のちらし表紙を見ると、さもターナーやコンスタブルばかりがあるように思えてしまいますが、実際には上でも触れたように、あくまでも古典より『現代』までのイギリス美術を紹介する展覧会でした。よって出品作の3分の2近くは20世紀絵画、もしくは現代美術です。ちらしのイメージは捨てた方が無難かもしれません。

 

とは言え、イギリス絵画好きには、冒頭に登場するターナーとコンスタブルだけでもそれなりに楽しめます。両者とも油彩は少なく、大半は版画でしたが、ロランの構図に倣うというコンスタブルの牧歌的な「テダムの谷」(1805)、また荒々しいデヴォンの波打ち際を捉えたターナーの「イングランド南岸のピクチャレスクな光景」(1814)などにはそれぞれに魅力を感じました。ちなみにタイトルの『旅』に関して言えば、コンスタブルは終世イギリスに留まっていた反面、ターナーは仏、伊、独、アルプスの各地へ頻繁に旅して風景を描いていたそうです。そのした両者の対比点もまた興味深く思いました。

 

古典を通過するとリーチの陶芸、ムーアの彫刻、またはニコルソンの抽象を経て、一気にイギリス現代アートの世界へと突入します。率直なところ、今回の構成には相当の違和感を感じましたが、自然と作為を危ういバランスで成り立たせるゴールズワージーの他、木材と格闘し、力強く動的な彫刻を手がけるナッシュには惹かれるものがありました。ちなみに美術館エントランスのオブジェも彼の作品です。『きこり』の作家とも呼ばれ、近作では奥日光の森へと入り込み、木を切り出すことから始めるという姿勢は、まさに旅の記憶を肉体のレベルにまで深く受け止めている証なのかもしれません。

『旅』というキーワードは悪くありませんが、ターナーもムーアも、またホックニーも、やはり単体の展示で見られればと思いました。(もしくは一層のことイギリス現代美術展でも構わなかったかもしれません。)

3月1日まで開催されています。

*砧公園にて。





梅もほころんでいました。(先週)先日の暖気で、今ではもっと華やいでいるのではないでしょうか。この香りを伝えられないのが残念です。
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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2009 有料プログラム発表

先週の記者会見からやや時間がかかりましたが、ようやく公式HP上にも詳細なプログラムが発表されました。ゴールデンウィークの東京都心を音楽で彩る祭典、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2009 - バッハとヨーロッパ」です。

[タイムテーブル](熱狂の日音楽祭2009)
 5/35/45/5(PDF版。プリントアウトが便利です。)



まずは公演の概要です。既に発表済の情報を公式ブログなどから抜き出します。

・有料公演開催は計3日
 昨年は2日より6日まで、連続5日間行われましたが、今年は3、4、5日の3日間の限定です。(公演数も前年比75%の300公演。)
・会場は国際フォーラム内ホール計8箇所
 テーマが「バッハ」ということで古楽器演奏にも配慮されたそうです。昨年より一つ、座席数100席のミニ会場(ホールG402)が増えました。
・ホールAにスクリーンを設置
 ステージとの一体感を高める試みでしょうか。5000人収容の巨大空間に大型スクリーンを設置されます。
・中高生チケットを500円で発売
 中高生のための超格安券が発売されます。ホールA限定だそうですが、さらにお得感は高まりそうです。
フレンズ先行チケットに「WEBはしご買い」を導入
 先行販売の方法が昨年と変わりました。まずネット受付はまとめ買いの可能な「WEBはしご買い」を最速先行(2/21-25)として実施し、その後に電話受付期間(2/26-28)を設けるそうです。(「はしご買い」の引き取りは郵送のみ。手数料は一枚210円、郵送料は一件あたり800円。)色々と制約もあるようなので、購入の前に詳細に当たった方が良いかもしれません。
・座席は全て指定席
 Aホールを含め、自由席は原則廃止されました。当日、開演前に並んで入ることはもうなさそうです。

それでは以下、私の気になるアーティストを挙げてみます。今回はお馴染みの大御所コルボ、ケフェレック、ベレゾフスキーをはじめ、国内のバッハ演奏では高名なBCJなどが登場していました。

・ミシェル・コルボ&ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル
 「ミサ曲」を計3回、また「マタイ」を計1回演奏します。唯一のホールC公演、5/3の夜の「ミサ曲」狙いでしょうか。
・ファビオ・ビオンディ&エウローパ・ガランテ
 以前、初台での来日公演を聴いて大いに感銘しました。アクロバットなバロックを楽しめます。今回はヴィヴァルディをメインに計4回(四季は2回。)のコンサートを行うそうです。おすすめです。
・鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパン
 定評のあるバッハをLFJでも楽しめます。受難曲からはヨハネを2回、その他、カンタータのみを計2回演奏するようです。
・ベルリン古楽アカデミー
 定番の管弦楽組曲のプログラムです。計4回のうち3回はホールB7、1回はホールCでの公演です。
・アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)
 去年、シューベルトのソナタを聴きました。今回はホールG409にてパルティータの計3公演がアナウンスされています。
・ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)
 ホールAでのシンフォニア・ヴァルソヴィアとの共演が2回、ソロがB5とB7の計2回あるようです。B5公演は即完売必至でしょう。
・寺神戸亮(ヴァイオリン)
 バロック・ヴァイオリン、及びヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを用いてバッハに挑みます。目白では真摯な音楽に至極感心させられました。
・勅使川原三郎(ダンス)
 無伴奏チェロ組曲に合わせての公演となりそうです。

以上です。もちろんLFJ公演の楽しみ方は千差万別です。アーティストとは無縁に曲目から選ぶ、また楽器にこだわって聴いてみるなどするのも面白いかもしれません。

ちなみに一概に言えませんが、演奏曲についてはどちらかというと定番物が多いような気がしました。去年のような冒険的なプログラムはやや影を潜めている感を受けます。

先行発売のネット受付開始日が今週末と迫っています。それまではプログラムとの睨めっこが続きそうです。なお皆さんのおすすめを教えていただけると嬉しいです。どうぞ宜しくお願いします。
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「佐々木加奈子 - オキナワ アーク - 」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
「第3回 shiseido art egg 佐々木加奈子 - オキナワ アーク - 」
2/6-3/1



遠きボリビアにある沖縄村の「土地と人の記憶」(解説シートより引用)を伝えます。アートエッグの第二弾、佐々木加奈子の個展へ行ってきました。

冒頭、巨大三面スクリーンに映し出されるのは、ボリビアの沖縄村にある小学校、ボリビア第一日ボ小学校です。元気いっぱいの子どもたちが広々とした校庭を駆け抜け、また教室で授業を受ける様子が緩やかなカメラワークで捉えられていました。上より降り注ぐギラギラとした陽光には南米の大地を連想させますが、突如耳に飛び込んで来るラジオ体操の音声の他、黒板に書かれた日本語などは、あくまでも異邦人として住まう彼ら彼女らの状況を如実に示しています。日本人なら誰もが知る学校での記憶が、異なった文化圏の場と混じり合って新たに再生されていました。

若干酔ってしまうほど『ぶれる』映像は、オブジェの舟にも関連する船上から見た景色をイメージしているのだそうです。海のないボリビアの地で舟に群がって遊ぶ子どもたちは、その奥底に眠る沖縄の記憶を呼び覚まそうとしているのではないでしょうか。舟を乗り継ぎ、遥か遠方のボリビアへと移住した足取りを、彼の地でまた語り継いでいました。

なお佐々木加奈子は現在、恵比寿のMA2でも個展開催中です。(~3/14)そちらも合わせて拝見したいと思います。



3月1日までの開催されています。

*関連エントリ(資生堂アートエッグ)
「宮永愛子 - 地中からはなつ島 - 」(1/9-2/1)
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オーケストラ・ダスビダーニャ定期 「ショスタコーヴィチ:交響曲第10番」他 長田雅人

オーケストラ・ダスビダーニャ 第16回定期演奏会

ショスタコーヴィチ オラトリオ「森の歌」(改訂前の歌詞による)
ショスタコーヴィチ 交響曲第10番

テノール 小貫岩夫
バス 岸本力
混声合唱 コール・ダスビダーニャ
児童合唱 すみだ少年少女合唱団
管弦楽 オーケストラ・ダスビダーニャ
指揮 長田雅人

2009/2/15 東京芸術劇場大ホール



アマチュアのオーケストラ「オーケストラ・ダスビダーニャ」が、ショスタコーヴィチのために全てを捧げます。年に一度の定期演奏会へ行ってきました。

実はそもそもお金を払ってアマオケを聴くのが初めてでしたが、ともかく団員の方々の熱気、そして情熱には、終始頭が下がるものがありました。最近でこそメジャー作曲家の仲間入りをしたとは言え、さほど人気もないショスタコーヴィチを演奏するためだけに作られた団体というだけでただならぬ気配を感じますが、さらには「森の歌」や「第10番」などの演奏機会の少ない曲を果敢に攻めて表現し得たというだけでも、十分に称賛に値するのではないでしょうか。年に一度、まさに一期一会にかける熱意は、客席にただ座る私にも十分に伝わってきました。美音などもろともせず、ショスタコーヴィチ自身の叫びを示すかのように音を裂くトランペット、千手観音の如く手を振り乱して、ホールを割れんとばかりに叩きまくるティンパニ、そしてロックでも演奏するようにノリにのった小太鼓など、まさにアマオケならではの醍醐味を存分に楽しむことが出来ました。音楽の構造、そしてハーモニーを提示するよりも、曲の奥底にあると信じたい『魂』を抉りとることに関しては、プロのオケでもなかなか出来るものではありません。ダスビの公演からはそうした面を強く感じました。

明暗の対比も過激に、時にアンサンブル崩壊寸前の超快速テンポで聴かせる「第10番」も楽しめましたが、より興味深かったのは実演では初めての「森の歌」でした。ショスタコーヴィチにしては薄気味悪いほどに明快な音楽で、スターリンのあくまでも植林事業を超ど級のスケールで描くこの曲を、ダスビは改訂前の言語テキスト、つまりは直接的にスターリンをたたえる文言の入った内容で高らかに歌い上げます。とりわけ全合唱、及びソロの入る第7曲「栄光」の力強さは圧巻の一言です。迫真に満ちた「スターリンに栄えあれ!」というフレーズが頭を離れません。ショスタコーヴィチはこの音楽で名誉を回復し、また一方で自身をある意味で傷つけざるを得なかったわけですが、今回の演奏はそうした歴史の暗部をまたリアルに再現していたのではないでしょうか。楽天的などんちゃん騒ぎの音楽が逆に心へ突き刺さりました。

第10番の後、アンコールに再度同曲のアレグロ楽章を演奏したのには驚きました。痛快なほどに鳴る金管、打楽器群とも最後の力を振り絞っての大熱演です。

SOLTI Shostakovich Symphony No. 10 Munich BRSO Live


preludeさんのお誘いがなければ、血潮の迸る本公演も聞き逃していたかもしれません。会場も満席でした。
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「8人の新、アーティスト展」 ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート

ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート中央区日本橋3-2-9 三晶ビルB1階)
「8人の新、アーティスト展」
2/13-3/14



8人の新人アーティストが多様な表現を繰り広げます。ギャラリー・ショウで開催中の「8人の新、アーティスト展」へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。

吉岡雅哉、上條絵奈、Michelle Park、望月梨絵、ZED、古川卓、Iain Lonsdale、星岳大

まず印象に残ったのは、和紙の質感を損なわず、版を重ねることで光を素材に織り込んだ星岳大の木版画(上記DM最上段)です。コンビニや自販機など、街のどこにでもあるモチーフが深い闇に包まれながら、一方で仄かな光を発して静かに佇んでいます。実際に真夜中、町中でコンビニの明かりだけが煌煌と照る光景を目にしますが、そうした言わば無機質極まりない人工の光にも作家の温かい眼差しが向けられていました。



もう一方挙げたいのは、主に旅行先などの景色を油彩で表現する上條絵奈のペインティングです。輪郭のぼやけた車や草原がまさに異邦人の視点で寂しく配置されながら、そこへ差し込む光の表現を巧みなグラデーションをもって描いています。抑制的な色遣いにも惹かれる面がありました。

定評のあるショウの新人展です。殆ど偶然に入って見た展示でしたが、思いの外に長居してしまいました。

3月14日まで開催されています。
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「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その3・後期展示)

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「特別展 妙心寺 - 京が伝える禅の名宝 - 」
1/20-3/1(後期:2/10~)



もちろん目当ては展示替えを経て新たに出品された屏風絵群です。東京国立博物館での妙心寺展、後期展示へ行ってきました。

妙心寺展関連エントリ:その1・速報『江戸絵画』その2・展示全般(ともに会場写真あり。)



ともかくまず必見なのは、後期の目玉中の目玉でもある如拙の国宝「瓢鮎図」(室町時代)です。足利義持の「瓢箪で鯰を押さえ捕れるか。」という問いかけに応じて描かれたという本作は、広々とした構図と細やかな筆も冴えた見事な水墨画でした。鯰とへちまを向ける男性の組み合わせはコミカルでさえありますが、颯爽とした水流の他、葦や竹の幽玄な様は、名品として知られるこの作品の魅力を良く伝えています。また後景に連なる山々の雄大な表現も見逃せません。なお上部の文字、つまり賛は五山僧31名による「答え」なのだそうです。詳細なキャプションも理解を深めるのに助かりました。



江戸絵画ファンにとって重要な展示のラスト『禅の空間2 - 近世障屏画のかがやき」では、等伯の「猿猴図」や海北友松の「琴棋書画図屏風」などに入れ替わり、計7点の障壁画が新たに登場していました。もちろんベストはちらし表紙も飾る海北友松「花卉図屏風」です。これほど豪放でかつ勇壮な花卉のみの金屏風もなかなか他にありません。牡丹は猛々しく咲き狂っていました。

友松の子である友雪の「雲龍図襖」も父の名作に負けない力強い作品です。画面中央に今、まさに出現して来たような龍の頭部が大きく描かれ、口から吐かれた息は荒れる嵐と雲を呼び起こしていました。また後期ではもう一点、雲谷等益の「山水図屏風」にも興味が引かれます。あたかも定規で描いたような線描が厳格な構図感をとる一方、舟の表現などは近代日本画を彷彿させる斬新さも醸し出していました。

通期展示中の狩野永岳の「西園雅集図襖」も目に焼き付きます。この輝かしい色彩表現は、ちょうど鈴木其一を連想させるものがないでしょうか。鮮烈な色遣いに表現主義的な傾向を感じました。

(撮影と掲載は内覧会時に許可をいただいています。)

もちろん話題の「老梅図襖」もまだ展示中です。メトロポリタン美術館所蔵の作品だけに、次いつ国内で見られるか分かりません。是非ともお見逃しなきようご注意下さい。

当初の予想を超え、一日平均5000名近くの方が来場されているそうです。先日の祝日(11日)に行ってきましたが、確かに会場内は想像よりも混雑していました。

3月1日までの開催です。あらためておすすめします。
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