都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「小金沢健人展 Naked Theatre –裸の劇場–」 KAAT神奈川芸術劇場
「小金沢健人展 Naked Theatre –裸の劇場–」
2019/4/14~5/6
KAAT神奈川芸術劇場で開催中の「小金沢健人展 Naked Theatre –裸の劇場–」を見てきました。
1974年に東京で生まれ、長らくベルリンを拠点にしてきた小金沢健人は、映像やドローイングほか、インスタレーションやパフォーマンスなどで幅広く活動してきました。
その小金沢は今回の個展に際し、会場である「劇場を顕在化する」としています。それでは一体、どのような展示を行っていたのでしょうか。
スタジオ内はほぼ真っ暗闇でした。そしてスモークマシンにより、一面に煙霧がたちこめていて、スポットライトが突如光り出し、長い光の軌跡を見せていました。
中には大きな衝立のような壁が2面、そして小さな壁が2面起立していて、表面には殴り書きのように、線や文字、それに円らしき形が記されていました。
そして光は終始、明暗を伴いながら、上下左右へと動いては変化していて、ほぼ一定の姿を留めることはありませんでした。またひたすらにゴソゴソと物を動かすような音や、あたかもシンバルを打ち鳴らすような金属音、ないしドタバタと動く人の足音、或いは互いに何かを確認し合うような話し声が聞こえてきました。ただし目の前では何ら役者がいるわけでもなく、そもそも何も演じられていませんでした。
結論からすれば、これらは、小金沢が実際に劇場に出かけ、舞台セットの搬出や搬入、それに電気工事から本番前の稽古など、公演の準備のために働くスタッフの音を採取し、再構築した音でした。また照明や音響等も、劇場内に備え付けられた装置を用いていました。
しばらく光を追い、音に耳を傾けていると、役者が存在していないのにも関わらず、さも目の前で舞台が進行しているような錯覚に陥りました。そして時折、ライトによって照らし出される観客が、まるで役者のように立ち上がって見えました。もはや作品全体の一部に、観客が組み込まれていたと言っても良いかもしれません。
「神奈川芸術劇場中スタジオに一人でじっとしていると、鯨の腹のなかに飲まれてしまったような気がする。これはある種の胎内めぐりだと思う。」 小金沢健人 *作家による解説より。
ひっきりなしに動く装置は、確かに「身体器官」(公式サイトより)のようでもあり、全体が一つの大きな有機体として構築されているようにも思えるかもしれません。誰も役者のいない劇場が、実に雄弁に語り出し、また演じていく光景そのものに、強く感心させられました。
この空間を体験するだけでも十分に楽しめましたが、GW期間中に行われる各種パフォーマンスを観覧するのも面白いかもしれません。詳細な日程は、公式WEBサイトをご参照下さい。
小金沢の国内での大規模な個展は、意外にも10年ぶりだそうです。
5月6日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
*写真は全て「小金沢健人展 Naked Theatre –裸の劇場–」会場風景。自由に撮影が可能です。(フラッシュ、三脚不可。)
「小金沢健人展 Naked Theatre –裸の劇場–」 KAAT神奈川芸術劇場(@kaatjp)
会期:2019年4月14日(日)~5月6日(月)
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00
料金:一般700円、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。
*10名以上の団体は100円引き無料。
住所:横浜市中区山下町281
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約5分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。
「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」 六本木ヒルズ展望台東京シティビュー
「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」
2019/4/13~9/16
六本木ヒルズ展望台東京シティビューで開催中の「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」のプレス内覧会に参加してきました。
1986年にアメリカで設立され、主にCGアニメーションを制作するピクサー・アニメーション・スタジオは、これまでに「トイ・ストーリー」などの作品で世界的な人気を集めてきました。
そのピクサーのアニメーションの作り方について学べるのが、「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」で、中でも重要な8つの制作プロセスをインタラクティブな仕掛けで展示していました。
冒頭、「トイ・ストーリー」のバズ・ライトイヤーが待ち構える中、ぐるりと一周、並ぶように展開したのが「パイプライン」のコーナーで、ここでは3Dモデルでキャラクターを作る「モデリング」からキャラクターの動きを設計する「リギング」、さらにはデータを最終的な2Dイメージに変換する「レンダリング」などを、パネルや音声の解説、ないし映像で紹介していました。全体のガイド的な内容と言えるかもしれません。
先のバズしかり、ピクサーのキャラクターが数多く登場するのもポイントです。例えば「Mr.インクレディブル」のエドナがいる「アニメーション」では、手前のハンドルを回転させるとムービークリップが再生され、キャラクターの表情の変化を細かに見ることが出来ました。
昼や夜の明かりを調整する「ライティング」では、「ファインディング・ニモ」などでお馴染みのドリーがモデルをしていて、スイッチやスライダーにより、ドリーの泳ぐサンゴ礁の色や光などを自由に操れました。青、ないし紫色を強くすると、より水深が深く感じられるのも興味深いかもしれません。背景の魚群の演出の速度も変えられました。
最も面白いのが、ピクサーのオープニングに登場するランプを用いた「ストップモーション アニメーション」でした。ここではランプを何度か前後に動かして撮影を繰り返すことで、コマ撮りのアニメーションを作ることが可能でした。ランプの可動距離はおそらく1メートルもありませんが、細かに操作すると、かなり凝った動きを伴うアニメーションが作れるかもしれません。
そのほか、「バグズ・ライフ」のアント・アイランドを舞台にした「セット&カメラ」も目立っていました。ちょうど手前のスイッチでカメラを操作すると、樹木を模したセットの中を、さも虫の視点から覗き込むかのような体験をすることが出来ました。
各コーナーには展示装置がおおむね2台ほどあり、複数でも使えるようになっていました。また会場内は撮影が可能です。キャラクターとの記念撮影も自由に出来ます。
インタラクティブな装置は意外とシンプルな仕掛けでしたが、一連の操作を通して、ピクサーの映像制作のエッセンスを学べるような展覧会だったのではないでしょうか。なお本展は、2015年のボストンサイエンスミュージアムを皮切りに、アメリカやカナダで開催され、ここ東京がアジアで初めての開催地となる国際巡回展でもあります。
7月には「トイ・ストーリー4」の公開も控えています。今後、ますますピクサーへの注目が高まりそうです。
「ピクサーで働く人たち」と題したインタビュー映像が随所で紹介されていました。制作現場の生の声を聞くことが出来ます。
「ピクサー」のクリエイションを体験! 『PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス』、アジア初の展覧会を見逃すな。https://t.co/2BK8Ccz2tI pic.twitter.com/j6e1mBbmN7
— Pen Magazine (@Pen_magazine) 2019年4月26日
会期中のお休みはありません。9月16日まで開催されています。
「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」 六本木ヒルズ展望台東京シティビュー(@tokyo_cityview)
会期:2019年4月13日(土)~9月16日(月・祝)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
*入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、高校・大学生1200円、4歳〜中学生600円、65歳以上1500円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
「ラファエル前派の軌跡展」 三菱一号館美術館
「ラファエル前派の軌跡展」
2019/3/14~6/9
三菱一号館美術館で開催中の「ラファエル前派の軌跡展」を見てきました。
1848年にロセッティやミレイらが結成したラファエル前派は、ラファエロ以前の芸術を範としつつ、当時のイギリス美術の全面的な刷新を目指して、幅広く活動しました。
ラファエル前派に関した絵画を中心に、素描、タペストリ、家具など、約150点の作品が一堂にやって来ました。その殆どがバーミンガム美術館やリヴァプール国立美術館、またはラスキン財団などイギリス国内のコレクションでした。(一部を除く。)
実に美しい水彩画がお目見えしました。そのうちの一枚が、ターナーの「エーレンブライトシュタイン」で、1817年にドイツへ旅した画家が、ライン地方の記憶を元にして描いた作品でした。要塞を臨む山の下にはライン川が流れていて、左手奥には教会の尖塔、コブレンツの聖カストル教会の姿も見ることが出来ました。さも淡い空気感を表すように色彩が広がっていて、船を出しては川面で忙しなく働く人々も細かに捉えられていました。なおこのエーレンブライトシュタインは、イギリスの詩人バイロンが「チャイルド・ハロルドの巡礼」の第3編でうたった場所としても知られています。
そのターナーに早くから価値を見出していたのが、美術評論家で、自らも素描を嗜んだジョン・ラスキンでした。「木の習作」は、森林の中のよじれた樹木を捉えていて、細部の緻密な描写には、どこか博物学的な視点も感じられました。このほか水彩の「ラ・フォリの滝」や「セーニュ峠」、またペン画の「サン・フレディアーノ聖堂内部ールッカ」なども魅惑的で、どれも思いがけないほどに惹かれました。
実のところ今回の展覧会ではラスキンが重要な地位を占めています。そもそも出展作品147点のうち、実に資料を合わせると約35点ほどがラスキンである上、ターナーとの関係やミレイやロセッティへの擁護、そして後進のバーン=ジョーンズやモリスへの影響、さらにはアーツ・アンド・クラフツ運動についても、ラスキンからの視点で言及していました。もはや「ラスキンとラファエル前派展」と呼んでも差し支えありません。
そうしたターナやラスキンに続くのが、ラファエル前派で、ミレイ、ロセッティ、アーサー・ヒューズらの作品が1室にて展示されていました。なおこのラファエル前派の展示室のみ撮影も可能でした。(掲載写真は全て撮影可の作品。)
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「ウェヌス・ウェルティコルディア」 1863-68年頃 ラッセル=コーツ美術館
中でも目立っていたのがロセッティでした。「ウェヌス・ウェルティコルディア」は、神話上の人物のウェヌスをモデルにした作品で、左手に美の象徴でもある林檎を持つ女神を描いていました。花に囲まれ、体を露出した姿は、実に妖艶で、さも人を射抜くような眼差しに目を奪われてなりませんが、かのラスキンは本作について、花が雑であると描き方を批判したそうです。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「祝福されし乙女」 1875-81年 リヴァプール国立美術館
「祝福されし乙女」も美しい一枚で、若くして世をさり、天国で恋人と再会する瞬間を心待ちにするという、乙女の物語を表しました。ロセッティ自らがラファエル前派の機関誌、「ジャーム」に発表した詩を、絵画にした作品でもあります。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「夜が明けてーファウストの宝石を見つけるグレートヒェン」 1868年 タリー・ハウス美術館
ゲーテの「ファウスト」から引用した「夜が明けて」にも目を引かれました。戯曲に登場するグレートヒェンが主人公で、ファウストが誘惑するために差し出した宝石を見やる姿を描いていました。なお本作はチョークによる素描で、10年後に油彩画が制作されましたが、現在は行方不明になっています。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「ムネーモシューネー」 1876-81年 デラウェア美術館
「ムネーモシューネー」も、ロセッティのミューズとして知られるジェーン・モリスをモデルとしていて、肩を露わに、深い緑色のドレスを着た記憶の女神の立ち姿を捉えていました。大きな瞳を見開きながらも、やや虚ろに映る表情も、魅力的と言えるかもしれません。
ラファエル前派周辺の画家にも優品が少なくありませんでした。うち極めて細密に自然を写したのが、ウィリアム・ヘンリー・ハントの「ヨーロッパカヤクグリの巣」で、青色の卵の入った巣を水彩で見事に描いていました。「鳥の巣ハント」とも称された画家は、ラスキンも「目的が完全に誠実で、自惚れや尊大さがない。」と一貫して評価しました。
ラファエル前派に感銘を受け、ラスキンの芸術論に心酔したバーン=ジョーンズの作品も忘れることが出来ません。特に目を引いたのが、「慈悲深き騎士」で、キリスト教の騎士道精神のテーマをロマン的な主題で詳説した、サー・ケネルム・ディグビーの「騎士道の誉れ」を絵画に表した作品でした。木彫りのキリスト像が身をかがめて騎士を抱擁する奇跡の場面を描いていて、騎士の光沢感のある甲冑しかり、水彩とは思えないほど濃密な色味には目を見張るものがありました。バーン=ジョーンズの初期の傑作の1つとしても知られています。
ラストはモリスと装飾芸術でした。1853年、バーン=ジョーンズとモリスは出会い、生涯の友として、多くの作品を共同で制作します。またモリスは詩人として活動しつつも、1861年にモリス・マーシャル・フォークナー商会を設立し、家具や壁紙、陶製タイルなどの装飾芸術を世に送り出しました。
「格子垣」は、モリス・マーシャル・フォークナー商会が、最初に制作した壁紙で、格子とバラをモリスがデザインし、建築家でモリスの商会のデザイナーとしても活動したフィリップ・ウェッブが鳥を描き加えました。壁紙はモリスの商会の主要な製品の1つで、当初はシンプルなデザインだったものの、後には複雑でかつ色彩も鮮やかになり、価格も高くなったそうです。
タペストリの「ポーモーナ(果物の女神)」は、葉と果実を持つ女性をバーン=ジョーンズ、背景をモリスがデザインした作品で、ローマの果樹を司る女神をモチーフとしていました。アーカンサス模様の青も目に染みるのではないでしょうか。
ウィリアム・ホフマン・ハント「甘美なる無為」 1866年 個人蔵
大変に感想が遅くなりましたが、会期早々に出かけたため、館内には余裕がありました。ラファエル前派の撮影コーナーも特に混雑していませんでした。
【ラファエル前派の軌跡展】ターナーの先駆的な表現を評価し、いち早く前衛のラファエル前派同盟を擁護したラスキン。特にその近代社会批判は、モリスらを手工芸の復興へと駆り立てアーツ・アンド・クラフツ運動につながりました。そんな彼にまつわる人びとを図式化しました!https://t.co/S7Vt5NwBFa pic.twitter.com/bNp0wlKLaW
— 三菱一号館美術館 (@ichigokan_PR) 2019年4月24日
しかし既に会期も半ばに差し掛かりつつあります。いよいよ10連休です。GWから終盤にかけては混み合うかもしれません。時間に余裕をもってお出かけ下さい。
6月9日まで開催されています。
「ラファエル前派の軌跡展」 三菱一号館美術館(@ichigokan_PR)
会期:2019年3月14日(木)~6月9日(日)
休館:月曜日。
*但し4月29日、5月6日、6月3日と「トークフリーデー」の3月25日、5月27日は開館。
時間:10:00~18:00。
*祝日を除く金曜、第2水曜、、6月3日~7日は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
*アフター5女子割:毎月第2水曜日17時以降/当日券一般(女性のみ)1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」 メゾンエルメス
「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」
2019/3/28~6/23
メゾンエルメスで開催中の「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」を見てきました。
1981年に京都で生まれ、現在はフランスに在住するアーティスト、湊茉莉は、建物の壁面などに抽象的なモチーフを描く作品で知られて来ました。
エルメスの建物に、色彩鮮やかな巨大ペインティングが現れました。それが「Utsuwa」で、ビルを特徴付けるガラスブロックの表面に、直接、赤やオレンジ、またはピンクの色を塗ったファサードペインティングでした。
ペインティングは、ビルのほぼ頂点より3階部分にまで、どこか一筆で、円、ないし有機的なモチーフを象るように広がっていて、一部は明るい黄色も用いられていました。
湊は「Utsuwa」、すなわち器を、人間の文明にとって重要な役割を持っているとしています。そしてエルメスのガラスの建物を都市の器と見立て、一連の大きく連関するかのようなペインティングを完成させました。解説には「円相画のようにも見える」とありますが、どのようなイメージが浮かび上がっていたでしょうか。
その色彩は、建物内部に入っても、より際立って見えました。通常の展示スペースに当たる8階のギャラリーでは、湊が黄河、メソポタミア、エジプト、イスラムの各文明や文化にインスピレーションを受けたモチーフを、白い布に描いた「方丈・ながれ」を展示していて、いずれもが外のペインティングの色を反映していました。
それらは石や骨、陶で出来た彫像やお守り、ないし日常的な器などをモチーフとしていて、パリの美術館や博物館のコレクションから引用していました。外のペインティング同様、必ずしも明確な形が現れているようには見えませんが、そこは一人一人が自由に想像を働かせても良いのかもしれません。
さらにもう一室で展開する「ツキヨミ」も見逃すこと出来ません。銀やアルミの箔などが張られた数台の木製パネルが、まるで何らかの建築物を表すように置かれていました。そしていずれも外のペインティングや壁の色を取り込み、赤、ないし黄金を思わせる黄色に染まっていました。
湊の生家に近い桂離宮の古書院がモデルだそうです。それを抽象的に立ち上げ、離宮の池の水面に映る月のような光を表すとしています。
光の向きや色の有り様が、見る角度によって移り変わるのもポイントです。さも離宮の内部を散策するかのように、立て板の間を歩いては、異なる景色を楽しみました。
エルメスでこれほど巨大なペインティングが展示されたことはなかったかもしれません。ビューポイントは、ちょうど数寄屋橋交差点の向かい側です。この日は晴天の昼間でしたが、天候や時間帯によっても見え方が変化するのではないでしょうか。銀座がまぶしいネオンサインに包まれる夜の光景も面白そうです。
なお、当初、ファサードペインティングの展示は5月6日までとされていましたが、6月2日までの延長が決まりました。展覧会の会期は同月23日までですが、ファサードペインティングの公開期間中に観覧されることをおすすめします。
ガラスブロックの色は全て外から塗られているのかと思いきや、一部のみギャラリー側、つまり建物内部からも塗られていました。是非、会場で確認して下さい。
6月23日まで開催されています。
「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」 メゾンエルメス
会期:2019年3月28日(木)~6月23日(日)
*ファサードペインティング「Utsuwa」の公開は3月21日(木・祝)~6月2日(日)
休廊:4月12日(金)。
時間:11:00~20:00
*日曜は19時まで。入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
「密教彫刻の世界」 東京国立博物館・本館14室
「密教彫刻の世界」
2019/3/26~6/2
特別展 「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」の開催に合わせ、密教に関した館蔵品の仏像を紹介する特集展示が、東京国立博物館・本館14室で行われています。
重要文化財「愛染明王坐像」 鎌倉時代・13世紀
赤々と染まる体躯を見せ、忿怒の相を見せた、迫力のある一体の仏像に目がとまりました。それが鎌倉時代に作られた「愛染明王坐像」で、胸のあたりから脚へと至る装身具なども細かに象られていました。かつては奈良の永久寺に伝来したとされていて、儀礼では秘密に扱われたゆえに、彩色はもちろん、後背や台座なども制作当時の姿をとどめているそうです。
重要文化財「十一面観音菩薩立像」 中国 奈良・多武峯伝来 唐時代・7世紀
展示室の中央に鎮座するのが、中国の唐より請来された「十一面観音菩薩立像」で、白檀を用い、全身から装身具までを一木で掘り出していました。伏した目で、穏やかに前を見据える姿も印象に残りましたが、どことなくインド風の顔立ちも特徴の1つとされていました。
「不動明王立像」 平安時代・12世紀 東京・大田区
日本画家、川端龍子の旧蔵していた仏像も出展されていました。それが「不動明王像」で、平安後期に各地で普及した、左目を細め、閉じた口から違う牙を出した容貌を見せた、「不動十九観様」と呼ばれる不動明王の一例でした。仏教を篤く信仰したことでも知られる龍子は、自邸に持仏堂を設け、この「不動明王」などを安置しては、日々、祈りを捧げていたと言われています。
右:「千手観音菩薩坐像」 南北朝時代・14世紀
11の頭上面を戴き、42本の脇手を四方へ伸ばした「千手観音菩薩坐像」も目立っていたのではないでしょうか。南北朝時代の院派仏師の作とされ、角ばった顔などに中国の明の仏像の特徴を見ることが出来ました。やや口をすぼめ、わずかに笑みをたたえるかのような表情にも、心惹かれるものを感じました。
「八臂十一面観音菩薩立像」 中国・清時代 17~18世紀
このほか、中央チベット、ないしネパールに伝わったとされる「チャクラサンヴァラ父母仏立像」や、中国の清の官営工房で作られたとされる「八臂十一面観音菩薩立像」なども印象に残りました。あまり日本では見慣れない、縦に積み上がる頭上面の造形も興味深いかもしれません。
会場は、本館の1階、常設展内の14室です。もちろん特別展のチケットでも観覧出来ます。「特別展 国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」へお出かけの際は、お見逃しなきようおすすめします。
本館14室では特集「密教彫刻の世界」を6/23まで開催中です。5世紀ごろインドで成立した仏教のひとつ、密教。本特集では密教固有の仏の造形を館蔵品を中心に紹介します。 #東寺展 とあわせて、ぜひ密教彫刻の世界をご覧ください。 https://t.co/SxjwGUddc2 pic.twitter.com/rMN2haNujf
— トーハク広報室 (@TNM_PR) 2019年3月29日
一部の撮影も出来ました。6月2日まで開催されています。
「密教彫刻の世界」 東京国立博物館・本館14室(@TNM_PR)
会期:2019年3月26日(火)~6月2日(日)
時間:9:30~17:00。
*毎週金・土曜は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。5月7日(火)。但し4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下、及び70歳以上無料
*( )は20名以上の団体料金。
*「特別展 国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」で観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」 東京国立博物館・平成館
「特別展 国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」
2019/3/26~6/2
東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」の報道内覧会に参加してきました。
平城京遷都により建立され、823年に空海が嵯峨天皇より賜った東寺は、以来、真言密教の根本道場として多くの人々の信仰を集めてきました。
その東寺に長らく伝わって来た文化財、ないし寺宝が、約110件ほどやって来ました。中でも空海が密教の真髄を世に知らしめるべく、講堂に築き上げた立体曼荼羅のうち、史上最多の15体の仏像ほど出品されました。
「後七日御修法」の道場の再現展示
空海によってはじめられ、真言宗で最も重要の儀式、後七日御修法の道場が再現されました。元は宮中の真言院で行われていて、国家の安泰などが祈願され、現在は東寺にて開かれているものの、修法そのものは秘密のため、内容は明らかにされていません。しかしながら今回の展覧会のため、一部にレプリカを用いつつ、特別に設えが再現されていて、臨場感のある形で道場内の様子を知ることが出来ました。
重要文化財「金銅舎利塔」 平安時代・12世紀 東寺
うち「金銅舎利塔」は、本尊的な役割を果たした塔で、実際の修法では、隔年で金剛界と胎蔵界の曼荼羅の前に置かれました。なお修法は、両曼荼羅を年毎の交代で儀式の中心としていて、曼荼羅の前に壇が築かれ、周囲に五大尊像や十二天像などが掛けられました。
国宝「五大尊像」 平安時代・大治2年(1127) 東寺
その「五大尊像」が並々ならぬ迫力を見せていました。いずれも赤々とした火炎に包まれた明王を表していて、かつての像が1127年の火災で焼失したことから、鳥羽院の命によって描き直されました。いわゆる多面多臂の醜怪な姿ながらも、限りなく優美に描こうとした、当時の貴族の美意識も反映されているそうです。
国宝「十二天像」 平安時代・大治2年(1127) 京都国立博物館
「十二天像」も同様に火災で失われた後に描き直された作品で、截金や彩色が鮮やかに残っていました。平安仏画の優品として知られています。(五大尊像、十二天像ともに展示替えあり。)
国宝「金銅密教法具」 中国 唐時代・9世紀 東寺
また修法関連では、空海が唐より持ち帰ったとされる「密教法具」も見逃せません。金剛盤の上に五鈷鈴と五鈷杵が乗ったセットで、9世紀の品にも関わらず、金色の目映いばかりの光を放っていました。
国宝「山水屛風」 平安時代・11世紀 京都国立博物館 展示期間:3/26~4/21
寺宝にも見逃せない作品が少なくありません。一例が「山水屏風」で、密教の灌頂の儀礼に用いられ、平安期に制作された、現存最古の山水屏風として伝えられています。
国宝「天蓋」 平安時代・9世紀 東寺
また空海の住居跡の西院に安置された、不動明王坐像の上の「天蓋」も見事で、周縁に蓮華の花弁と、中心に菩薩が舞うように描かれていました。写真では色が失われているように見えるかもしれませんが、実際に前にすると、菩薩の衣などが実に流麗に表現されていることが分かりました。
重要文化財「八部衆面(迦楼羅、摩睺羅、夜叉、緊那羅、阿修羅)」 鎌倉時代・13世紀 東寺
インドで釈迦を護衛するための神々である「八部衆面」も、どことなくコミカルな表情を見せていて、東寺では舎利会の行列にて、僧侶の乗る輿を担ぐ人がつけていました。また同じく仮面で、灌頂会の行列に用いられたとされる、「十二天面」の穏やかな様子にも魅せられました。
国宝「後宇多天皇宸翰東寺興隆条々事書」 後宇多天皇筆 鎌倉時代・徳治3年(1308) 東寺 展示期間:3/26~4/30
書では真言密教に帰依した後宇多天皇による「宸翰東寺興隆条々事書」も目をひくのではないでしょうか。そのほか、展示は前後しますが、冒頭には空海の名筆、「風信帖」も出展されていました。ともかく優品に次ぐ優品で、見て飛ばすことは出来ません。
「特別展 国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」第4章「曼荼羅の世界」会場風景
目玉の立体曼荼羅は第2会場のラストに公開されていました。講堂にある21体のうち、国宝11体、重要文化財4体からなる計15体が一堂に会していて、全てがケースなしの露出で展示されていました。また国宝11体の仏像に関しては、360度の全方位から鑑賞することも出来ました。やや強めの照明ゆえか、仏像の細部が際立って見えるのも特徴で、あるべき場所の東寺で見る姿も趣深いものがありますが、現地よりも仏像の姿形が良く分かるかもしれません。
国宝「帝釈天騎象像」 平安時代・承和6年(839) 東寺
立体曼荼羅の配置は東寺とは大きく異なりました。東寺では中央に如来、右に菩薩、そして左に菩薩の諸像が並び、周囲を四天王が囲んでいますが、博物館では手前に四天王、右に菩薩、左に明王が並び、奥に如来像が並んでいました。そして一番手前の帝釈天のみ、ほかの諸像と反対を向いていました。なお本像は、一般会期期間中においても撮影が可能です。
国宝「金剛薩埵菩薩坐像」 平安時代・承和6年(839) 東寺
歯を剥き出しにしつつ、凄まじい表情で立つ「増長天」をはじめ、重々しい水牛に跨っては異形を見せる「大威徳明王騎牛像」など、思わず後ずさりするほどに迫力がある像ばかりでしたが、私としては温和な笑みを浮かべているようにも見える「金剛薩埵菩薩坐像」など、一連の菩薩像の端正な姿に心を奪われました。
最後に館内の状況です。報道内覧会に加え、再度、会期早々の平日の昼間に観覧して来ました。
国宝「大威徳明王騎牛像」 平安時代・承和6年(839) 東寺
入館のための待ち時間もなく、場内も一部の書の展示のみ、若干混雑していましたが、どの作品も並ぶことなくスムーズに見られました。
国宝「増長天立像」 平安時代・承和6年(839) 東寺
既に会期もあと一週間ほどで一ヶ月を迎えようとしていますが、現段階において、土日を含めても入場規制は行われていません。とはいえ、今年は改元に伴う10連休が控えるなど、GWには大変な人出となることも予想されます。金曜と土曜日の夜間開館も有用となりそうです。
それにしても、まさかこれほどのスケールで東寺の寺宝を目の当たりに出来るとは思いませんでした。東京における東寺展としては決定版と捉えて間違いありません。
東博に仏像曼荼羅が出現! 圧巻の密教美術が集う特別展『国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅』。 https://t.co/Nxvm2P6UNM pic.twitter.com/TsF9RaBXE6
— Pen Magazine (@Pen_magazine) 2019年4月19日
現存最古の彩色の両界曼荼羅で知られる、国宝の「西院曼荼羅」が、4月23日より5月6日までの限定で出品されます。そのタイミングで私も改めて見てくるつもりです。
「特別展 国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」会場入口
6月2日まで開催されています。おすすめします。
「特別展 国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」(@toji2019) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR)
会期:2019年3月26日(火)〜6月2日(日)
時間:9:30~17:00。
*毎週金・土曜は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。5月7日(火)。但し4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
*本展観覧券で、会期中観覧日当日1回に限り、総合文化展(平常展)も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」 千葉市美術館
「オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション
-初期浮世絵から北斎・広重まで」
2019/4/13~5/26
千葉市美術館で開催中の「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」を見てきました。
1906年、アメリカ人のメアリー・エインズワースは、アジアへの旅行の最中、日本で浮世絵に魅了されると、以降、浮世絵版画を収集し続けました。そして約25年の間に1500点ものコレクションを築き上げ、1950年に83歳で亡くなると、母校のオハイオ州にあるオーバリン大学へと寄贈されました。現在は同大学のアレン・メモリアル美術館に収められています。
そのメアリーのコレクションした浮世絵が初めて日本へ里帰りしてきました。初期浮世絵から春信、清長、北斎、写楽、歌麿、広重、そして国芳と、体系だって収集しているのが特徴で、出品点数は200点もありました。
奥村政信 「羽根突きをする美人」 宝永-正徳期(1704-16) アレン・メモリアル美術館
はじまりはメアリーが日本で初めて購入した、石川豊信の「傘と提灯を持つ佐野川市松」でした。提灯を吊り下げつつ、傘を右手で持地ながら、振り返るような仕草を見せる市松の姿を描いていて、穏やかな表情をしつつも、僅かな笑みを浮かべているようにも見えました。メアリーは、ほかの多くのコレクターとは異なり、初期浮世絵から収集をはじめていて、中には現存数の少ない貴重な作品も少なくありません。西村重信の「釈迦涅槃図」なども目を引きました。
鈴木春信「縁先美人(見立無間の鐘)」 明和4(1767)年頃 アレン・メモリアル美術館
続くのが、紅摺絵と錦絵で、中でも鈴木春信が充実していました。また端的に春信とはいえども、現存唯一の天神を表した「天神図」や、大判の歌舞伎絵としては同じくただ1つしか確認されていない「曽我五良時致 朝比奈三良義秀」など珍しい作品も散見されました。さらに輪郭線を用いず、色版のみで描く水絵も、美しいのではないでしょうか。鳥居清満は「菅丞相」において、牛に乗る道真の姿を、淡い色味の水絵で表現していました。
喜多川歌麿「婦人相学十躰 面白キ相」 寛政4-5(1792-93)年頃 アレン・メモリアル美術館
清長に歌麿、写楽らの活動した、浮世絵の黄金期の作品も見逃せません。清長の「洗濯と張り物」は、三枚綴りの画面に、洗濯や布地の張り物に勤しむ女性を描いていて、水にさらす青い布などの鮮やかな色彩に目を奪われました。また同じく清長の「眉を装う芸者」は、芸者が化粧を直す様を表していて、得意の八頭身の美人を、柱絵と呼ばれる縦に長い画面へ落とし込んでいました。この作品も現在、2点しか確認されていないそうです。
鳥文斎栄之の「御殿山の花見」は、品川の海を望んだ御殿山の花見の光景を舞台とした作品で、着物の赤に桜色、そして地面の黄緑が織りなす色のコントラストが大変に鮮やかでした。また歌麿の「美人気量競 五明楼 花扇」は、黒雲母が良く残っていて、女性の白い肌を引き立てていました。さらに歌麿では、7枚綴りの「見立唐人行列」が目立っていたかもしれません。
北斎と国芳は、主に風景画が出展されていました。人気の「冨嶽三十六景 凱風快晴」では、赤茶けた山肌の富士の上に、白い雲の靡く青い空が広がっていて、心なしか状態も良く、発色が美しいようにも思えました。また国芳では風景画とともに、「大物浦平家の亡霊」が大変に魅惑的でした。船に乗って西へと逃れる義経一行を襲った大波と、平家の亡霊を描いていて、亡霊は全てシルエットで表されていました。まるで映像を見るかのような動きもあり、国芳ならではの劇的でかつ臨場感に溢れた作品と言えるのではないでしょうか。
歌川広重「名所江戸百景 両国花火」 安政5(1858)年 アレン・メモリアル美術館
ラストは、メアリーが特に熱心に収集した広重が展示されていました。実際、1500点のコレクションのうち、800点を広重が占めていて、当時はまだ広重が没して50年ほどであったことから、集めやすかったのではないかとも指摘されています。「近江八景」や「東海道五十三次之内」、「名所江戸百景」など、いわゆる名作が網羅されていて、広重の画業を幅広く俯瞰することも出来ました。また「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」では、早摺と後摺の作品が並んで展示されているなど、摺りによって異なる表現を見比べられました。芸者のシルエットや食べ散らかした器物で、宴の後の余韻を表現した「名所江戸百景 月の岬」も見どころかもしれません。この作品を見るたびに、時間の存在を感じてなりません。
勝川春英「三代目瀬川菊之丞の油屋おそめ」 寛政8(1796)年 アレン・メモリアル美術館
2016年に文化庁などの助成によりスタートした、「オーバリン・プロジェクト」が、展覧会の開催のきっかけになったそうです。千葉市美術館や静岡市美術館、大阪市立美術館の学芸員の方々が現地で調査を行い、選定した作品によって構成されていて、浮世絵の通史を追うことも出来ました。質量ともに充実した浮世絵展であることは間違いありません。
如水宗淵「柳堤山水図」 室町時代 旧ピーター・ドラッカー山荘コレクション(千葉市美術館寄託)
なおこれに引き続く「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も見応えがありました。経営学者のドラッカーが集めた日本美術コレクションを紹介するもので、室町の水墨画や江戸絵画などが50点ほどが出展されていました。中でも夜の月の下で花を開く梅を描いた、谷文晁の「月夜白梅図」が素晴らしく、淡い月明かりとひんやりとした空気感までが見事に墨で表現されていました。
雪村周継「月夜独釣図」 室町時代 旧ピーター・ドラッカー山荘コレクション(千葉市美術館寄託)
なお一連のコレクションは2015年に、一度、千葉市美術館でも公開されましたが、昨年度、日本の企業によって購入され、同館に寄託されました。いわばお披露目の展覧会でもあります。
4/13〜5/26所蔵作品展「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も開催。「マネジメントの父」であり『もしドラ』で知られるドラッカー、実は大変な日本美術愛好者でした。貴重な室町水墨画をはじめ、若冲、蕭白まで、個性的なコレクションのうち51点を紹介します。https://t.co/a2nI5CR07i pic.twitter.com/4PgAC3rC4x
— 千葉市美術館 (@ccma_jp) 2019年4月14日
繰り返しになりますが、「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」と「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」を合わせると、出展数は実に約250点にも及びます。ともかく膨大です。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。
展示替えはありません。5月26日まで開催されています。おすすめします。
「オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:2019年4月13日(土)~5月26日(日)
休館:5月7日(火)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*「ピーター・ドラッカー・コレクション水墨画名品展」も観覧可。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」 資生堂ギャラリー
「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」
2019/4/3~6/23
資生堂ギャラリーで開催中の「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」を見てきました。
1985年に生まれた荒木悠は、近年、国内外の展覧会に参加し、「社会・歴史を背景にした」(解説より)映像を制作しては、映画祭などでも評価を得てきました。
弦楽四重奏によるヨハン・シュトラウス2世の「美しき青きドナウ」の調べが聞こえてきました。ギャラリーの壁面と天吊りのスクリーンに投影されているのが「The Last Ball」と名付けられた映像で、赤いドレスとタキシードに着飾った男女が、一見、音楽のリズムに合わせてはワルツを踊っているように思えました。
しかし、しばらく眺めていると、二人は手を取り合いつつも、iPhoneを持っていて、互いにカメラを向けながら、時に避けるような仕草もしていることが分かりました。そして天吊りのスクリーンには、iPhoneで捉えられた、女性から見た男性、あるいは男性から見た女性の姿が、裏表に映し出されていたものの、どことなく動きはぎこちなく、通常のダンスとは明らかに異なっていました。一体、どういう理由なのでしょうか。
これはフランスの作家で、海軍士官として世界を巡ったピエール・ロティの「江戸の紀行文」を下敷きに、1885年に鹿鳴館で開催された舞踏会を舞台としたインスタレーションでした。当時35歳だったロティは、鹿鳴館の舞踏会に出席し、「日本の工兵将校の令嬢」と、一緒にワルツを三度ほど踊ったと記述しました。一方で、それを元に1920年、芥川龍之介がロティの相手をした17歳の女性、明子を主人公とした「舞踏会」を著しました。
つまり映像では、西洋と東洋の2つの視点の立場の交錯した、同じ空間の情景を、現代に作り上げたわけでした。そして明子とロティはiPhoneで相手を撮りながらも、なるべく自らを撮られないように動いていて、その即興的な動きがダンスに見えるようになっていました。
そしてPhoneのカメラには、互いに異なった色彩設計が用いられていて、2人の映像が重なると、各々の映像を補色する関係になるよう出来ています。
さらに会場では、同じく「秋の日本」の「聖なる都・京都」、「日光霊山」、「江戸」に記述され、ロティが出向いた各地を、荒木が改めて撮影した映像も展示されていました。その中では、ロティの原文も字幕で引用されていて、映像と原文によって、100年の時を超えた違いが示されていました。
また資生堂の初代社長の福原信三の撮影した、ラフカディオ・ハーンの旧邸の階段の写真を引用した作品も出展していました。一見、シンプルなインスタレーションに映るかもしれませんが、時代や洋の東西、男女や虚実の関係などの混じりあいや移ろいに着目したテーマは重層的で、思いがけないほどに惹かれました。
本日4/3(水)から「#荒木悠 展 : LE SOUVENIR DU JAPON #ニッポンノミヤゲ」がスタートしました🎊東洋と西洋、ジェンダー、年代、過去と未来、作品は注目の映像作家による時空を超えたお土産(souvenir)です🎁#資生堂ギャラリー #ShiseidoGallery pic.twitter.com/94k3IjAaum
— 資生堂ギャラリー (@ShiseidoGallery) 2019年4月3日
3シーンある壁面の映像は全部で31分ほどありました。6月23日まで開催されています。おすすめします。
「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」 資生堂ギャラリー(@ShiseidoGallery)
会期:2019年4月3日(水)~6月23日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」 国立新美術館
「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」
2019/3/20~5/20
国立新美術館で開催中の「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」へ行ってきました。
15世紀中頃に建てられ、19世紀末までオスマン帝国のスルタンの住居でもあったトプカプ宮殿は、1924年のトルコ共和国建国時に、オスマンの歴史を伝える博物館として開館しました。
そのトプカプ宮殿博物館より、オスマン帝国に由来する美術品が約170点ほどやって来ました。また天井高のある空間を利用し、トプカプ宮殿をイメージした展示室を築き上げていました。
貴石をはめ込んだ豪華な装身具に目を奪われました。ダイヤモンドやエメラルドなどを用いて出来たのが、「ターバン飾り」で、中央の花柄の筒は七宝で作られていて、宝石とともにまばゆい光を放っていました。また金の草花文様に、エメラルドやルビー、真珠など施した「儀礼用宝飾水筒」も壮麗ではないでしょうか。このほかにもコーランの一節を記し、トルコ石などをあしらった「宝飾兜」も実に精巧に細工されていて、もはや細部は肉眼で判別出来ず、単眼鏡が必要なほどでした。なおこの兜は、宗教の祭りや特別な儀式でスルタンがかぶったと言われています。
オスマンは一時チューリップで彩られた帝国でした。元々、同地で自生していたチューリップは、15世紀の頃から園芸種の栽培が盛んとなり、16世紀には工芸品などの装飾のモチーフとして流行しました。最盛期は17世紀の前半で、アフメト3世の統治した1716年から1730年の間が「チューリップの世紀」とも呼ばれました。
このチューリップを象った織物、タイル、陶器のほか、工芸品が、展覧会のハイライトと呼んでも差し支えないかもしれません。中には盾などの武器にまでチューリップが描かれていて、いかにオスマンがチューリップを愛していたのかを見知ることも出来ました。単に花としてだけでなく、宗教や国家のシンボルとしても尊ばれたそうです。
19世紀初頭の「チューリップ花暦」は、メフメト・アシュキーなる人物が、時のスルタンであるセリム3世に献呈したもので、チューリップの美しさや、逆に欠点として、不適格なチューリップの特徴などを著しました。花の名称、サイズ、葉や品質などについても触れていて、一種のチューリップ図鑑とも言えるのかもしれません。
「アフメト3世の施水場模型」は、アフメト3世が、トプカプ宮殿の主門の前に、人々に水を供給するために築いた施水場の模型で、20分の1のスケールにて銀で作られていました。模型とはいえども、チューリップの浮彫などは見事で、当時の建築様式をよく伝えていました。
ラストは一転して甲冑や刀、それに寄木の書き物机や伊万里などの日本の工芸品でした。いずれもが日本からトルコへ贈られたもので、特に有田の大皿などの意匠は艶やかで、優品揃いでした。明治時代に小松宮彰仁親王夫妻がイスタンブールを訪問し、ハミト2世に歓待されたことにはじまる両国の関係は、トルコ革命を経た1924年に正式な国交が樹立され、以降、おおむね友好的に推移してきました。
アジアとヨーロッパの交易地として栄えた、トルコのイスタンブール。1453年にオスマン帝国の宮殿として建てられ、現在は9万点近い美術品を収蔵するトプカプ宮殿博物館の至宝が、東京の国立新美術館へとやって来ました。https://t.co/O1rkTrjmCE pic.twitter.com/5NMuypYlOo
— Pen Magazine (@Pen_magazine) 2019年4月12日
天井高のある空間を利用し、トプカプ宮殿をイメージしたという展示室も見どころかもしれません。ただし作品保護の観点か、照明が幾分暗く、目が慣れるまでに少し時間がかかりました。
場内は空いていました。余裕をもって観覧出来ます。
5月20日まで開催されています。なお東京展終了後、京都国立近代美術館(2019/6/14~7/28)へと巡回します。
「トルコ文化年2019 トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:2019年3月20日(水)~5月20日(月)
休館:火曜日。但し4/30(火)は開館。
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20時まで開館。
*4月26日(金)~5月5日(日)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*4月27日(土)~29日(月・祝)は高校生無料観覧日。(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」 府中市美術館
「春の江戸絵画まつり へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」
3/16~5/12
府中市美術館で開催中の「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」を見てきました。
毎年、春の恒例の「江戸絵画まつり」は、これまでにも聞きなれない絵師や、見慣れない作品を紹介し、多くの日本美術ファンの心を捉えてきました。
今年のテーマは「へそまがり日本美術」で、不格好なものに心惹かれることを「へそまがりの心の働き」と捉え、日本美術史から「へそまがりの感性」が生んだとされる作品を展示していました。
仙がい義梵「豊干禅師・寒山拾得図屛風」 幻住庵(福岡市) *前期展示
はじまりは禅画でした。うち目を引いたのが、仙がいの「豊干禅師・寒山拾得図屛風」で、左に虎に乗った豊干禅師と、右に弟子の寒山拾得を描いていました。とはいえ、その描写は滑稽で、寒山拾得はまるで豚のような顔をしていました。また小さな虎も子猫のようによたよたと歩いていて、可愛らしい姿を見せていました。左右に広がる大きな屏風絵でしたが、あまり見慣れない作品で、興味深いのではないでしょうか。
雪村周継の「あくび布袋・紅梅・白梅図」は、右に紅梅、左に白梅、そして中央にあくびする布袋を配した3幅対の作品で、よく寝たと言わんばかりに大きなあくびをする布袋がコミカルに表されていました。ただ描写は思いの外に丁寧で、顔面の筋肉なども細かに描いていました。
人気の応挙や蘆雪にも可愛らしい作品がありました。それがともに得意の子犬を描いた「狗子図」と「時雨狗子図」で、ちょうど並びあうように展示されていました。ともに丸っこい犬がじゃれ合う姿を表していましたが、応挙が写実的とすれば、蘆雪はより緩く、擬人化したかのような表情を持ち得ていたかもしれません。
また蘆雪らの奇想の絵師では、先だっての「奇想の系譜展」でも登場した、若冲、白隠、国芳が取り上げられていました。(後期には蕭白作が出展。)奇想ファンにとっても改めて見ておきたい内容と言えそうです。
さて今回の展覧会は、タイトルに「江戸絵画まつり」とありますが、何も江戸絵画だけが展示されているわけではありません。とするのも、西洋絵画のヘタウマの元祖としてルソーを位置付けた上、一部に影響関係のあった日本の近代画家を取り上げていたからでした。ルソーが大正時代に日本で紹介されると、「稚拙み」なるブームが起こり、いわゆる素朴な絵画が多く描かれたことがあったそうです。
へそ展、前期展示も残すところあと9日。そう思うと、なんだかソワソワしてきます。あれも、あれもももう一度見なきゃ、と気が急いてくるのです。もちろん「ぴよぴよ鳳凰」も。図版で見てもかわいいのですが、実物はやっぱりいい。皆さんにも是非、あの三ツ葉葵紋に囲まれた姿を見てほしいです! pic.twitter.com/slrBNszoCC
— へそまがり日本美術展@府中市美術館 【図録制作チーム公式】 (@hesoten2019) 2019年4月5日
ハイライトは徳川の将軍、つまり上様の絵画にありました。ここではおおよそ兎には見えない家光の「兎図」や、まるで古代の壁画を前にしたかのような「鳳凰図」をはじめ、もはやヘタウマとも言い難い家綱の「親鶏雛図」など、何とも個性的な作品が展示されていました。いずれもが将軍自身が筆をとって描き、臣下に配ったとされていて、三ツ葉葵の御紋のついた立派な軸装にも目を見張るものがありました。
意外な珍品にも目を離せないのが、「江戸絵画まつり」の面白いところかもしれません。その最たる作品が、岸礼の「百福図」で、無数のお多福が何やら楽器を持って演奏したり、食事をとったり、また談笑する光景を描いていました。ともかくお多福らは異様なまでに密に群れていて、奇異なまでに艶やかな黒い髪を垂らしていました。一人一人の表情は実に豊かで、楽しそうではありましたが、どこをとっても濃厚な表現であり、しばらく頭から離れませんでした。
濃厚と言えば、京都の絵師、祇園井特も忘れられません。中でも「墓場の幽霊図」は、まさに墓場に出現した幽霊を描いていましたが、さもサイボーグを思わせるような体つきで、不気味な面持ちを見せていました。
最後に「へそまがり」云々ではなく、端的に心惹かれた作品がありました。それが中村芳中の「十二ヶ月花卉図押絵貼屛風」で、唯一、ケースなしの露出で展示されていました。文字通り、一年の四季の草花が、12枚に続く屏風で描かれていて、梅に芥子の花、そして松も全てが丸みを帯びていました。ともかく温和な作風で、近年、和みの琳派などとも称される芳中ならではの作品と言えるかもしれません。
最後に展示替えの情報です。会期中に大幅な作品の入れ替えがあります。事実上、2つで1つの展覧会と捉えて差し支えありません。
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(出展リスト)
前期:3月16日(土)〜4月14日(日)
後期:4月16日(火)〜5月12日(日)
なお観覧券に、2度目は半額となる割引券がついていました。前期期間中にお出かけの際は、観覧券をとっておくことをおすすめします。
府中の春の江戸絵画まつりもすっかり定着しました。ちょうど花見の時期と重なっていたからか、会場内もなかなか盛況でした。GWにかけて混み合うかもしれません。
巡回はありません。5月12日まで開催されています。
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(@hesoten2019) 府中市美術館
会期:3月16日(土)~5月12日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。5月7日(火)は休館。
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
「色部義昭展 目印と矢印」 クリエイションギャラリーG8
#目印と矢印【缶バッジプレゼント!】
— クリエイションギャラリーG8 (@g8gallery) 2019年4月6日
矢印は、上左から、CoFuFun、草間彌生美術館、富山県美術館。上左から、東京都現代美術館、DIC川村記念美術館、市原湖畔美術館。どれか、ひとつお好きなものを選べます。ギャラリーでぜひ!https://t.co/LXD7jY2pjB pic.twitter.com/1KYKZNwdl7
「吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-」 LIXILギャラリー
LIXILギャラリー
「吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-」
2019/3/7~5/25
1897年に生まれ、舞台装置から映画の美術監督、また衣装デザイン、文筆業などで幅広く活動した吉田謙吉は、52歳にして東京の港区に12坪の自邸を、自らの設計で建築しました。
その12坪の家を中心に、吉田謙吉の空間づくりに関した業績を辿るのが、「吉田謙吉と12坪の家」展で、模型や資料などが所狭しと展示されていました。
冒頭に登場するのが、12坪の家で、1949年の建設当初の家を、20分の1のスケールで再現した模型でした。
吉田が家族と3人で住むために建てられたもので、赤い外壁の外観が目を引きました。書斎や台所がある中、特徴的なのがステージと観客席用のホールを内在していることで、おおよそ通常の住宅の間取りとは異なっていました。
また家の正面には、建物より広い20坪の洋風の庭が広がっていました。ここでは吉田の好みの植物が植えられていたほか、コンクリートの池では一時、金魚などが飼われていたものの、のちに吉田と舞台仲間が道具を制作するなど、多目的なスペースとして用いられるようになったそうです。
吉田は自邸を閉ざされた空間ではなく、家族以外にも繋がるコミュニティーの場として考えていて、こうした道具の制作だけでなく、屋内外で蚤の市や落語会を開くこともありました。
自邸は家族が増えたため、2部屋増築するも、火事で焼失し、建て直しされることもありました。そして12坪の家は、吉田の死後、1987年に解体されました。
その吉田が、東京美術学校図版科在学中に出会い、生涯の恩師の一人として慕っていたのが、民俗学者で考現学を提唱したことでも知られる今和次郎でした。
吉田は、関東大震災後、バラックの建て始めた東京の街を今和次郎らと歩き、街の風俗などを詳細に記録しました。そしてバラックを美しくする仕事を請け負うべく、若手芸術家らと「バラック装飾社」なる組織を結成し、仲間とともにペンキで殺風景なバラックに装飾を施しました。その第1号は、日比谷公園内の食堂、「開進食堂」だったそうです。
また街の復興が進んだのちも、吉田と今和次郎は風俗を記録し続け、それを「採集」と呼びました。そして1927年、新宿の紀伊国屋書店で「第1回しらべもの考現学展覧会」を開き、今が考現学と名付け、広く世に知られるようになりました。
その採集の記録がすこぶる面白く、マフラーをする人やマスクをする人、腕組みをする人などを分類した「サラリーマンの容態」や、銀座のコロンバンの前で見かけた人の履物の種類を数えた「履モノ調べ」などの資料も展示されていました。
吉田が舞台芸術家として歩み始めたのが、1924年にバラック建築として建てられた築地小劇場での活動でした。吉田は創立当初から美術部・宣伝部員として参加し、第1回公演の「海戦」の装置を担当しては、本格的な「表現派」(解説より)として高く評価されました。
このほか、バーや喫茶店、レストランなどの内装設計の仕事に関する資料も、興味深いのではないでしょうか。吉田は空間づくりにおいてエンターテイナー性を求め、人を魅了するような「たのしい空間」(解説より)を築き上げることを志向したそうです。その精神こそ冒頭の12坪の家に反映していたのかもしれません。
12坪の家と吉田の多彩な活動を通して、生活を楽しくするヒントが垣間見えるような展覧会でした。
撮影も可能です。5月25日まで開催されています。
「吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-」 LIXILギャラリー
会期:2019年3月7日(木)~5月25日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
料金:無料
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA1、2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
2019年4月に見たい展覧会【クリムト/ドービニー/メアリー・エインズワース浮世絵コレクション】
【巡回情報】#クリムト展 は東京都美術館(@tobikan_jp)と豊田市美術館(@toyotashibi)の2会場で開催します✨豊田会場の開催概要とチケット情報を公式サイトにアップしました。詳細はこちら→ https://t.co/lEfrhUXWvl
— クリムト展@東京都美術館【公式】 (@klimt2019) 2019年3月25日
ウィーン・ミュージアムには、400点を超えるクリムトの素描が所蔵されています。ウィーン・モダン展では、クリムト初期から晩年に至るまでの素描をご紹介します。#ウィーンモダン展 #クリムト pic.twitter.com/RBMKeSsX8v
— ウィーン・モダン展 (@wienmodern2019) 2019年3月21日
2019年4月〜12月の展覧会スケジュールを公開しています。4月のメアリー・エインズワース浮世絵コレクション展は日本初公開!7月の魯山人展では同時代の作家・古陶磁を展示、11月には話題の現代美術チーム目méの美術館初展覧会を開催します。2019年もご注目ください!https://t.co/42OvMKGfqZ pic.twitter.com/mO4gDD1mC6
— 千葉市美術館 (@ccma_jp) 2019年3月2日
【速報】
— 4月1日オープン!美術館情報サイト「OBIKAKE」公式 (@obikake) 2019年4月1日
お待たせいたしました!
お出かけ好きなアートファンのための美術館情報サイト「OBIKAKE」
ただいまをもって、プレオープンです!
これまでとこれからのアート好き集まれ〜🎈https://t.co/aqRm6hdyPg