「ロマネスクと工芸1 修道院」 工芸青花(一水寮悠庵)

工芸青花(一水寮悠庵)
「ロマネスクと工芸1 修道院」
8/24〜9/10(木〜日のみ)

神楽坂の一水寮で開催中の「ロマネスクと工芸1 修道院」を見てきました。

昭和前期に建てられた一水寮は、かつて大工寮として使われた住居建築です。随所に意匠の凝った大工技法も見られることから、文化庁の登録有形文化財に指定されました。



神楽坂駅よりさほど距離はありませんが、ともかく狭い裏路地を抜けた先の小さな建物です。私もスマホの地図アプリを頼りに、初めて辿り着くことが出来ました。



テーマは中世ロマネスク美術と修道院です。「工芸青花」を刊行し、茶会や花会のほか、各種講座を展開している青花の会が企画しました。また監修をロマネスク美術の専門家で、美術史家の金沢百枝さんが務めました。



まず目立つのは修道院で用いられた工芸品でした。オランダの「スリップウェア鳥文鉢」に並ぶのは、フランスのラ・グランド・シャルトルーズ修道院に伝来する「十字架文鉢」です。一瞬、漢字の「土」に見えるかもしれませんが、確かに器の中央に十字架が刻まれています。



ガラスのボトルも個性的です。メキシコ由来の聖水ボトルですが、全体の形が聖母マリアの姿に象られています。写真では分かりにくいかもしれませんが、上部に顔があり、その下で手を合わせる姿を見ることが出来ました。



アルザスの「スリップウェア祝婚楕円皿」も可愛らしいのではないでしょうか。これもロマネスクに影響を受けた模様なのかもしれません。ハート型のモチーフが仲睦まじく重なって結びついていました。



オランダのスリップウェアはイギリスのスリップウェアの源流に当たるそうです。その系譜は日本の民芸にも連なっていくのかもしれません。



フランスの木製民具には温もりも感じられます。古色を帯び、傷んだ道具からは、長らく使われた痕跡を知ることが出来ました。



フランスの13〜15世紀の聖堂タイルも貴重な作品です。なお奥の書籍は金沢先生のコレクションでもあるそうです。



「ロマネスク美術には、モダンアートや西洋以外の美術との共通性があります。それは、人間にじかに語りかけようとする美術であることです。」(出展リストより)



展示品の多数は購入も可能です。出展リストがプライスリストを兼ねています。ほかにもヨーロッパの修道院より取り寄せたロマネスク美術の絵葉書、切手、アクセサリ、はちみつなどが販売されていました。



期間中、木曜日から日曜日のみオープンしています。月曜日から水曜日はお休みです。ご注意下さい。



出展は70点弱。一室での小さな展覧会です。なお建物内部の佇まいも趣きがありました。一見の価値があります。


入場は無料です。9月10日まで開催されています。

「ロマネスクと工芸1 修道院」 工芸青花(一水寮悠庵)@kogei_seika
会期:8月24日(木)〜9月10日(日)
 *上記期間のうち木〜日のみ開場。
休館:月〜水曜日。
時間:12:00~19:00
料金:無料
住所:新宿区横寺町31-13 一水寮101
交通:東京メトロ東西線神楽坂駅1番出口より徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「遠藤利克展ー聖性の考古学」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「遠藤利克展ー聖性の考古学」 
7/15~8/31



埼玉県立近代美術館で開催中の「遠藤利克展ー聖性の考古学」を見てきました。

1950年に岐阜で生まれ、「現代の日本を代表する彫刻家」(解説より)として活動する遠藤利克。焼成した木を素材にした彫刻は、時に圧倒的な量感をもって空間を支配しています。


遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年

冒頭の「空洞説ー円い沼」からして圧巻でした。直径4メートル弱の円筒状の作品で、内側がくりぬかれ、液体が溜まっています。まるで巨大な火山の噴火口のようでした。


遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年

さらに鼻へタールの臭いが否応なしに刺してきます。この臭いも遠藤作品の特質の一つとして挙げられるかもしれません。遠藤は焼成を神に供物を捧げる供儀になぞらえています。どれほどに激しく燃やしているのでしょうか。黒焦げに焼成した木の生々しい表面は、まるで魚の鱗のようでした。

会場内は迷路のようです。細かに区切られた空間とは不釣り合いなほどに大きな彫刻が展示されています。出展数は全部で12点です。2010年代に制作された作品が中心で、うち3点は本年の新作でした。遠藤の最近の活動を追うことが出来ます。

カヌーのように細長い舟が横たわります。全長11メートルにも及ぶ「空洞説ー木の舟」でした。表面は先の「円い沼」と同様にゴツゴツとしていて、中には細かに砕けた木片も散乱していました。この舟はもはや動くことは出来ないのかもしれません。太古の地層から掘り出した化石のようでした。

最大の長さを誇るのが「泉」です。長さ20メートル近くもある丸太のような円筒が置かれています。中が空洞で、屈んで覗き込むと、向こう側の景色が見えました。その先の景色が、20メートル先どころか、もはや同じ空間を共有しえない彼方のように思えたのは私だけでしょうか。不思議な感覚にとらわれました。



「Triebー水路」も重厚感がありました。タイトルが示すように水路の一部を切り取ったようにも見えるかもしれません。開口部は2メートル超四方あり、実際に入ることは叶いませんが、おそらく人を乗せることも出来なくありません。内側の木の一部は古色を帯びていました。

遠藤作品を前にすると否応なしに「死」のイメージがわきあがってきます。その際たる作品が「寓話Vー鉛の柩」でした。同じく焼成し、黒焦げになっているのは、まさしく柩のような直方体です。蓋と箱の部分が分かれているように見えるものの、そもそも蓋が開くのか、中が空洞なのかすらわかりません。またややくたびれて、僅かに歪んでもいます。おおよそ表面の質感からは昨年に制作された作品には見えません。これが炎のなす業なのでしょうか。古代遺跡から出土した棺のようにも見えました。

それこそ古代の地下神殿のような驚くべき空間が現出しています。ハイライトを飾るのが「無題」でした。暗室の中に12本の柱が円を描くように立ち並んでいます。1本1本はかなり太いものの、隙間からサークルの中に入ることも可能です。さらに例のタールの臭いも充満していました。

円環という構造は場に力を与えるのでしょうか。まるで神話時代の祭儀の場へ迷い込んだような錯覚に陥りました。これぞ聖性なのかもしれません。と同時に、誰もが足を踏み入れてはいけない禁断の地のようにも思えなくはありません。これほど重々しい空間が、かつてこの美術館に現れたことがあったのでしょうか。畏怖の念さえ覚えました。

遠藤は木と炎とともに、水を用いる彫刻家でもあります。その1つが「Triebー振動2017」です。終始、水のバシャバシャという音が聞こえています。ただし水の流れ自体は見えません。というのも、錆びた鉄の壁が遮っているからです。おそらく壁の向こうで水が流れているのでしょう。ふと目を手前に転じると、水の張られたつぼが置かれていました。見えない水と見える水は如何なる関係にあるのでしょうか。ひょっとすると水の循環などもイメージされていたのかもしれません。


遠藤利克「空洞説ー薬療師の舟」 2017年

ラストは展示室外、吹き抜けのスペースにある「空洞説ー薬療師の舟」でした。中央にカヌー状の舟が横たわり、その上に太いマストのような円柱が縦に伸びています。


遠藤利克「空洞説ー薬療師の舟」 2017年

てっきり柱は舟の上に乗っているのかと思いきや、実は宙吊りになっていて、舟の部分とは接続していませんでした。写真では分かりにくいかもしれませんが、僅かに隙間が出来ています。そして円柱の下には小さな水盤が広がっていました。


遠藤利克「空洞説ー円い沼」 2014年

なお展示室外の「空洞説」の2点、「円い沼」と「薬療師の舟」のみ撮影が出来ました。

作家の遠藤は、8月26日から所沢市内で始まった現代美術展、「引込線」にも参加しています。あわせて追うのも良いかもしれません。



「引込線2017」
会期:8月26日(土)〜9月24日(日)
会場:旧所沢市立第2学校給食センター

私が初めて遠藤の作品を見たのは、おそらく10年以上も前、スカイザバスハウスで開催された個展でした。

ともかく円筒形の彫刻の強い存在感に驚いたことを覚えています。その後、引込線など、幾つかのアートプロジェクトで作品に接することがありました。また竹橋の近代美術館にも遠藤作品が収蔵されています。


しかし不思議と美術館でまとめて見る機会がありませんでした。何せ関東では26年ぶりの美術館での個展です。遠藤の創作世界を存分に体感することが出来ました。

「遠藤利克ー聖性の考古学/現代企画室」

会期末です。8月31日まで開催されています。

「遠藤利克展ー聖性の考古学」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:7月15日 (土) ~ 8月31日 (木)
休館:月曜日。但し7月17日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「池田学展 誕生」 ミヅマアートギャラリー

ミヅマアートギャラリー
「池田学展 誕生」 
7/26~9/9



ミヅマアートギャラリーで開催中の「池田学展 誕生」を見てきました。



かの「誕生」を前にして、しばし言葉を失ったのは、私だけではないかもしれません。

「誕生」の制作の切っ掛けになったのが東日本大震災でした。当時、バンクーバーに住んでいた池田は、現地での報道を見聞きし、衝撃を受け、何とか絵にしたいと考えたそうです。



画面左下で渦巻くのがガレキでした。道路は引きちぎられて波打ち、建物は壊れ、車も何もかもがぐちゃぐちゃになって積み上がっています。驚くべきほどに緻密な表現は、否応なしに震災の光景を生々しいまでに思い起こさせました。中には観覧車に車が突き刺さり、骸骨のようなモチーフが浮き上がっている様子も見えます。ひたすらに惨たらしい。池田も当初はこのガレキばかりを描いていたそうです。



全体を目にすると下から大波が迫り、ガレキから大きな木がのびて、無数の花を付けていることが分かります。破壊から再生、いわば復興への意図も込められているのかもしれません。



とはいえ、細部を見れば見るほど、それほど単純ではありませんでした。花かと思い目ををこらすと、放射性のマークであったり、船のスクリューであったり、実はガレキでもあったりします。葉や実のようなモチーフもテントのように見えました。さらに幹には黒い袋、おそらくは除染袋が、まるで虫の卵のように固まり、「CONTAMINATED」の文字を示しています。つまり大半が人工物で、自然の花が見当たりません。



絵の中にはたくさんの人がシルエット状に表されていました。池田は本作で「震災との共生」をテーマにしたと語っています。自然に対峙するのではなく、自然の中でどう生きていくのかを問うているのかもしてません。



一つのエピソードを聞いてさらに驚きました。池田は制作中、花を描き始めた頃、利き腕の右手を怪我してしまいます。しかし3年間で完成させることを目標としていたため、完治を待たず、約3か月間、反対側の左手で描き続けたそうです。確かに花の一部のタッチがほかと異なっても見えました。



この作品のモチーフなり意図なり情報を受け止めるには、1度や2度の鑑賞では難しいかもしれません。ともかく圧倒的な迫力の前にただただ見入るばかりでした。


佐賀、石川と巡回し、人気を博した「池田学The Penー凝縮の宇宙」が、いよいよ今月末から日本橋高島屋へやって来ます。

「池田学The Penー凝縮の宇宙」@日本橋高島屋
会期:9月27日(水)~10月9日(月・祝)

そちらにも「誕生」が出展されるそうです。また話題を集めるのではないでしょうか。

「『誕生』が誕生するまで The Birth of Rebirth/青幻舎」

9月9日まで行われています。

「池田学展」 ミヅマアートギャラリー@MizumaGallery
会期:7月26日(水)~9月9日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2階
交通:東京メトロ有楽町線・南北線市ヶ谷駅出口5より徒歩5分。JR線飯田橋駅西口より徒歩8分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

神奈川県立歴史博物館が「思い出」を募集中です

神奈川県立歴史博物館の開館50周年を記念した特別サイトがオープンしました。



神奈川県博開館50周年記念特設ウェブサイト
http://ch.kanagawa-museum.jp/50th/index.html

コンテンツは4つです。神奈川歴博の歴史を辿る「あゆみ」のほか、博物館に因んだ「思い出」を募集する「みんなの神奈川県博アーカイブ」などを展開しています。



この「みんなの神奈川歴博アーカイブ」の企画が凝っています。というのも、単に思い出を募るだけでなく、それらを地図に視覚化し、Googleマップ上で「思い出分布図」として表現しているのです。

「みんなの神奈川歴博アーカイブ」
http://ch.kanagawa-museum.jp/50th/arc.html

思い出は現在も募集中です。エピソードに限らず、写真、映像、スケッチでもOKです。ペンネーム、匿名を問いません。送付時に郵便番号を加えることで「思い出分布図」が作成されます。

[神奈川県博の思い出]
エピソード、写真、映像、スケッチなど何でもOKです。

1.提供者の年代・性別
「10代・女性」「60代・男性」…など
2.提供者の現住所の郵便番号
「思い出分布図」作成のために使用します。
3.投稿用のお名前
ペンネーム、匿名でもOKです。

「思い出」の送付方法は以下の通りです。郵送、FAX、メールにて受付けています。

・郵送 〒231-0007 横浜市中区弁天通6-85 宇徳ビル6F
 神奈川県立歴史博物館事務室「県博アーカイブ」係
・FAX 045-201-7364
 件名に「県博アーカイブ」と付記してください。
・メール kenpaku50th@kanagawa-museum.jp
 件名は「県博アーカイブ」としてください。

さらに「みんなの神奈川歴博アーカイブ」には以下のような特典があります。(各定員あり。抽選方式。)

・「学芸員と語らう特別講座」へご招待
 本特典限定の少人数制講座へご招待します。テーマは当館人気講座の中世と近代です。
・再開時の記念式典へご招待
 2018年4月下旬予定。
・「建物見学会[特別篇]」へご招待
 本特典限定の少人数制建物見学会へご招待します。
・展覧会招待券をプレゼント。
 再開館後に開催予定の「神奈川県博開館51周年記念展覧会(仮)」の招待券を贈呈。
・「神奈川県博思い出地図帳」をプレゼント
 お寄せいただいた思い出をもとに作成した「思い出分布図」を地図帳にして贈呈いたします。

全5コースです。「思い出」投稿時に希望の特典コースを記すと、抽選の上、それぞれの特典が受けられます。



神奈川県立歴史博物館は現在、空調設備改修工事のため、長期休館中です。再開予定は来年の2018年の4月下旬です。その再開時の記念式典への招待も特典に含まれています。

実は私も「思い出」にブログの感想を投稿しました。

「没後100年 五姓田義松」 神奈川県立歴史博物館(2015.10.20)
「白絵」 神奈川県立歴史博物館 (2014.10.16)
「勝坂縄文展」 神奈川県立歴史博物館(2013.1.27)

ここ数年しか追えていませんが、この3展はいずれも見応え十分の展覧会でした。特に白絵や勝坂縄文は神奈川歴博ならでは好企画だったのではないでしょうか。



現状の「分布図」を見ると、関東地方が大半を占めるものの、北は北海道から南は鹿児島と日本全国に「思い出」が分布していることが分かります。さらにはヨーロッパや東南アジアからの投稿もありました。地球的スケールです。

「思い出」は展覧会の感想でなく、神奈川歴博に関する内容であれば、何でも良いそうです。


1904年に横浜正金銀行の本店として建設され、戦後に県立博物館として開館し、1995年に県立歴史博物館として再開館した同博物館には、1世紀以上にも及ぶ長い歴史が存在します。重厚な「ネオ・バロック様式」の建物は馬車道のシンボルとも化しています。



50周年を記念した「みんなの神奈川歴博アーカイブ」。分布図で「思い出」を共有すべく、投稿してみてはいかがでしょうか。

「みんなの神奈川歴博アーカイブ」
http://ch.kanagawa-museum.jp/50th/arc.html
受付メール→kenpaku50th@kanagawa-museum.jp (件名は「県博アーカイブ」としてください。)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「国宝応援プロジェクト」が進行中です

日本で初めて「国宝」の言葉が使用されたのは、明治30年に制定された古社寺保存法でした。



その後、昭和4年に国宝保存法が制定され、戦後になって文化財保護法が施行されました。つまり今年は国宝誕生120年周年にあたります。いわば国宝イヤーです。京都国立博物館の「国宝展」の例を挙げるまでもなく、国宝に関する様々な企画が行われています。


「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/

うち1つが、小学館による「週刊 ニッポンの国宝100」です。100件の国宝を、各巻2点ずつ紹介していく全50巻のウィークリーブックで、9月5日の創刊号から1年間、毎週火曜日に発売されます。

そのプロモーションの一環として「国宝応援プロジェクト」が始まりました。



WEB上での展開は2つです。TwitterとFacebookページにて行われています。

国宝応援団(@kokuhou_project)
https://twitter.com/kokuhou_project

「国宝応援プロジェクト」Facebookページ
https://www.facebook.com/kokuhouproject/

「国宝応援団のメンバーが国宝の魅力を発信していきます。」とあるように、複数のメンバーが記事を投稿しているのが特徴です。またプロモーション活動でありながら、ウィークリーブックの内容を離れた、国宝全般の情報も発信しています。またTwitterでは「国宝クイズ」なども行い、ユーザーを巻き込んで展開しているようです。

さて秋の国宝展も約1ヶ月後に迫ってきました。



「開館120周年記念 特別展覧会 国宝」@京都国立博物館
会期:2017年10月3日(火)~11月26日(日)

美術工芸品の国宝885件のうち、実に200件もの作品が集結する、京都では約40年ぶりの国宝展となります。

雪舟の国宝が初めて同時に展示されるほか、光琳の「燕子花図屏風」が100年ぶりに京都で公開されるなど、話題には事欠きませんが、会期が4つに分かれているのが悩ましいところです。全て見るためには足繁く通う以外にありません。

既に主要作品の出展期間が公開されていますが、ともかくは出品リストが待たれます。私も会期中に1度は出かけるつもりです。

「週刊 ニッポンの国宝100」の「国宝応援プロジェクト」。まずは秋の国宝展とともに追うのが良さそうです。


9月4日(月)、丸の内オアゾにて「国宝応援プロジェクト発足式」が行われ、さらに以下のタイアップ企画、ないし関連商品が発表されました。

1.JR東海による「国宝新幹線」の運行
京都国立博物館で開催される特別展覧会「国宝」へ向かう乗客専用の貸切新幹線を運行。運行日は11月19日。各旅行会社より旅行商品として発売。車内にて山下裕二・明治学院大学教授と俳優・井浦新さんによる国宝解説アナウンス(事前収録)を放送する。利用者には「ニッポンの国宝100」の創刊号が贈呈されるほか、抽選でサイン本のプレゼントなどの特典あり。

国宝応援プロジェクト「国宝新幹線」の運行について(東海旅客鉄道株式会社)

2.日清食品が国宝「火焔型土器」をもした「縄文Doki★Doki クッカー」を発売。
「カップ麺と縄文土器には日本の食文化を変えた共通点がある」(公式ツイッターより)として、愛知に300年続く民窯「瀬戸本業窯」による「縄文Doki★Doki クッカー」を限定販売。(11月予定)

3.日本出版販売が「国宝検定」をスタート。
数多くの検定事業を手掛ける日本出版販売が「国宝検定」を開始。試験日は2018年10月28日。(2017年9月5日受付開始。)初級、上級を設定し、国宝の知識を問う。公式テキストを「ニッポンの国宝100」とする。

国宝検定公式サイト(日本出版販売)

「週刊 ニッポンの国宝100 阿修羅/風神雷神図屏風/小学館



「週刊ニッポンの国宝100」 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「Sukurappu ando Birudoプロジェクト 道が拓ける」 高円寺キタコレビル

高円寺キタコレビル
「Sukurappu ando Birudoプロジェクト 道が拓ける」 
7/29〜8/27



約70年前に建てられた古いビルの中に、突如、道が現れました。

それが「Sukurappu ando Birudoプロジェクト 道が拓ける」です。アーティスト集団「Chim↑Pom」と、建築家の周防貴之が作り上げました。

場所は高円寺駅の北側の商店街の一角です。ビルと聞いていたので、4〜5階ほどの鉄筋の建物を想像していきましたが、実物はまるで違いました。



ご覧の通りの様相です。ほぼバラックと呼んでも差し支えありません。かつては風俗施設、そしてバー、ファッションビルとして利用され、その都度、入居者の手によって増改築が加えられてきました。「Chim↑Pom」も2014年からスタジオを借りていたそうです。写真では判りにくいかもしれませんが、2棟の建物を1つに繋げています。建築当初は如何なる姿だったのでしょうか。現状からは見当すら付きませんでした。



一見しただけでは入口すら良く分からないかもしれません。実のところ、階段ではなく、その左の開口部こそが入口でした。しばらくすると僅かに開けた小さな広場のようなスペースが現れます。それが今回のプロジェクトによって作られた道でした。



道はあくまでもオープンスペースです。一日中、24時間、夜も無料で一般に開放されています。ただしあまりにも混沌としているため、どこか作られた部分で、そうでない部分なのかも明らかではないかもしれません。何度か行き来していると、一体、建物の中にいるのか、外にいるのかが分からなくなるほどでした。



道の右手の部屋から展示が始まります。展示自体は有料です。「Chim↑Pom」は2016年、歌舞伎町の商店街振興組合ビルで、会期終了後に作品もビルも全壊させるという「また明日も観てくれるかな?」展を開催しました。この「道が拓ける」は続編、「Chim↑Pom」の言葉を借りると後半戦に相当します。



場内には映像のほか、所狭しと模型やオブジェ、さらにはコンクリートの塊などが散乱しています。いずれもは歌舞伎町で出展され、その後に壊された作品やビルの廃材でした。まさしくスクラップ&ビルドを体現していました。



展示は1階から2階、さらに地下へと続きます。いずれも狭い仮設の梯子などで行き来する必要がありました。動きやすい服装、スニーカーなどでの観覧をおすすめします。



ラストの地下がまた圧巻でした。廃材の断面が一面に広がっています。これらは歌舞伎町ビルのほか、同じく取り壊された旧国立競技場や渋谷PARCOなどの廃材でした。それを地中に埋め込み、道の基盤として利用しています。いわば東京のスクラップ&ビルドの痕跡を見せているわけです。



地下室には梯子がかかり、上にはマンホールがあります。これが道へと戻る出口でした。



マンホールの中から地上に出る経験など、なかなか出来るものではありません。高円寺に開通した「Chim↑Pom」通り。歩いて、潜って、さらには登ってと楽しめました。



なお道は展覧会終了後も継続して開放されるそうです。如何なる展開が待ち構えているのでしょうか。



8月27日まで開催されています。

「Sukurappu ando Birudoプロジェクト 道が拓ける」 高円寺キタコレビル
会期:7月29日(土)〜8月27日(日)
休館:水曜日。
時間:14:00~20:00(道の通行は24時間可)
料金:500円。(道の通行は無料)
住所:杉並区高円寺北3-4-11
交通:JR線高円寺駅北口より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「届かない場所 高松明日香展」 三鷹市美術ギャラリー

三鷹市美術ギャラリー
「届かない場所 高松明日香展」 
8/11~10/22



画家の高松明日香による、都内初の大規模な個展が、三鷹市美術ギャラリーにて開催されています。

主たるモチーフは「身近な風景や映画のワンシーン」です。アクリル画の作品、全27シリーズが出展されていました。

シリーズとするには理由があります。というのも、1点が1つの作品、つまり1枚のキャンバスではないからです。


「呼び声」 2017年

例えば「呼び声」です。大小で7枚あるキャンバスを、1つの作品としてまとめて展示しています。まず目を引くのは、牡蠣などの殻の散乱する中、レモンを切る人物を捉えた場面でした。ほかにも毛皮、動物の群れ、さらにはシャンデリア風の花や、少女が地面に手をつく光景などが描かれています。人物、風景を問わず、モチーフも多様です。一見するところ、各々には明確な関連性は伺えません。

実際、一連の作品は、過去に高松が別々に描いたもので、今回の個展の際し、自らの選定で27通りに組み合わせました。音楽のリミックスに近いかもしれません。


「はやすぎて」 2017年

とは言え、不思議と何らかのストーリーが進行しているように感じられるのが面白いところです。まるで複数の物語を断片的に絵画に置き換えているかのようでした。それらを自由に紡ぎながら、物語を作り上げていくのも良いかもしれません。


「青く光る」 2017年

しばらく見ていると、作品同士の同質性に目が向いている自分に気がつきました。氷山を捉えた「青く光る」はほぼ同一のモチーフと呼んでも差し支えありません。海に浮かぶ巨大な氷山の一大パノラマが広がっていました。


「動き出す」 2017年

さらに「動き出す」では、同じ人物が明らかに別のパネルに描かれています。これぞ映画のワンシーンなのでしょうか。少年らが海に向かって走り出していました。中には1人の少年の後ろ姿だけをクローズアップした作品もありました。場面、時間の関係こそ明らかではありませんが、映像的な動きも感じられるのではないでしょうか。


「私しか」 2017年

「不死身」や「照応」、「たったひとつの」や「私しか」などのタイトルも、どこか詩的な物語をイメージを喚起させるかもしれません。1点目の「ここではない」から27点目の「触れる」までのタイトルが、一編の散文詩のように繋がっていきます。2巡、3巡するうちに、絵画世界の中にどっぷりと入り込むことが出来ました。


「弟のため池」(部分) 2017年

「高松明日香は、描かれていない、画面の外に広がる世界をこそ描きたいと思ったのかもしれません。しかしそのトリミングを多用した画面は、結果的にそれ以上のことを見るものに予感させます。」(展覧会公式サイトより)

「画面の外」の世界は鑑賞者の想像力に委ねられているのかもしれません。これほど絵から様々な物語を思い起こされたのも久しぶりでした。


「かっさらい」 2017年

人気投票のコーナーがありました。気に入った1つの作品をシールで投票出来ます。私は作品番号12の「かっさらい」を選びました。とあるサングラスをかけた若い男の物語です。ふと思い立っては愛車に乗り、ガソリンスタンドに寄っては、夜の海へドライブする情景を空想しました。横になって酒を飲んでいるのは帰宅した後かもしれません。氷を手にしているのはロックで楽しむためのものでしょうか。色々と物語が膨らみました。


「届かない場所 高松明日香展」会場風景

柔らかでざわついた筆触と、青みを帯びた色彩感覚も魅惑的でした。確かに写実的ではありますが、細部はかなり大胆に表現しています。


撮影も可能です。10月22日まで開催されています。

「届かない場所 高松明日香展」 三鷹市美術ギャラリー
会期:8月11日(金・祝)~10月22日(日)
休館:月曜日。但し9/18、10/9は開館。9/19、10/10は休館。
時間:10:00~20:00(入館は30分前まで)
料金:一般600円、65歳以上・大学・高校生300円。中学生以下無料。
住所:東京都三鷹市下連雀3-35-1 CORAL(コラル)5階
交通:JR線三鷹駅南口デッキと直結。徒歩1分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「YCC Temporary 鬼頭健吾」 YCCヨコハマ創造都市センター

YCCヨコハマ創造都市センター
「YCC Temporary 鬼頭健吾」 
8/4〜9/17



YCCヨコハマ創造都市センターで開催中の「YCC Temporary 鬼頭健吾」を見てきました。

4月からYCCヨコハマ創造都市センターがはじめた、現代美術展、ないしパフォーマンス公演の「YCC Temporary」も、今回で3回目を迎えました。

出展作家は美術家の鬼頭健吾です。得意のフラフープを用いた一大インスタレーションを展開しています。



会場はビルの3階の1室です。足を踏み入れば、ご覧のように、無数の白いフラフープが、床面から天井までの空間の全てを埋め尽くしています。一体、何本あるのでしょうか。見当もつきません。



フラフープと並んで重要な素材が布でした。一転してカラフルで、チェックやボーダーのほか、恐竜のプリントなどの柄物もあります。おそらくは既製品ではないでしょうか。素地も様々で、中には光沢を放つ布もありました。また床だけではなく、壁一面にも敷かれています。それゆえかしばらく眺めていると、床と壁の境目が曖昧に感じられました。独特の浮遊感も覚えるかもしれません。

鬼頭はこれまでにも数多くのフラフープを用いてきましたが、意外にも白一色のフラフープによる展示は初めてだそうです。確かにこれまではフラフープ自体に様々な色が存在していました。布のカラフルな色の世界をフラフープの白で裂いてもいます。



中央部には緩やかに右へカーブする道が開け、中に入ることも可能です。絡み合うフラフープが頭上、さらには左右で展開する様子を間近で見ることも出来ました。



ヨコハマトリエンナーレとの連動企画ではありませんが、会場の1つである横浜開港記念会館からも歩いていけます。YCC会期中にあわせて体験するのも良いかもしれません。



1階のカフェスペースにも新作の絵画が展示されています。お見逃しなきようご注意下さい。


9月17日まで開催されています。

「YCC Temporary 鬼頭健吾」 YCCヨコハマ創造都市センター@yokohama_ycc
会期:8月4日(金)〜9月17日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~18:00。
 *金・土・祝は19時半まで。
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:500円。高校生以下無料。
場所:横浜市中区本町6-50-1
交通:みなとみらい線馬車道駅1b出口、野毛・桜木町口・アイランドタワー連絡口より直結。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「テオ・ヤンセン展」 三重県立美術館

三重県立美術館
「テオ・ヤンセン展」 
7/15~9/18



三重県立美術館で開催中の「テオ・ヤンセン展」を見てきました。

オランダ出身の彫刻家、テオ・ヤンセンは、「ストランドビースト」と呼ばれる造形物を作り、世界各地にて活動し続けています。

さて人工生命体とも称される「ストランドビースト」とは如何なる存在なのでしょうか。


「アニマリス・ユメラス・セグンダス」 スイシディーム期 2009〜2011年

その1つが「アニマリス・ユメラス・セグンダス」です。高さは3メートル弱、横幅12メートルほどの構造物で、プラスチックのチューブを複雑に組み合わせて制作しています。チューブ同士の接続部には結束バンドなども用いられ、一部にはペットボトルも使われていました。恐竜の骨格のようにも見えるのではないでしょうか。実際、ヤンセンは、これらを生き物と位置づけ、独自の体系に基づき、多様に進化したストランドビーストを生み出しました。


「ストランドビースト進化系統樹」(パネル)

その世界観が徹底しています。例えば「アニマリス・ユメラス・セグンダス」が作られたのは、スイシディーム期と呼ぶ、2009年から2011年にあたります。ヤンセンは、初期作の1990年をグルトン期、その後の1991年から1993年の間をコルダ期、さらに1993年から1994年をカリダム期とするなど、いわば地質年代まで構築した上、各々のストランドビーストの進化形態を位置付けているわけです。

また「ユメラス」とはラテン語で肩を意味します。ヤンセンは接合部、すなわち「肩にある風を、圧縮空気にして、貯め込んだ筋肉が動き出して歩行を行う」(解説より)駆動システムを作り上げました。



これほどの大きな構造物です。俄かに空気だけで動くとは信じられません。そこで映像です。ご覧の通り、確かに風を受けて「アニマリス・ユメラス・セグンダス」が歩行しています。まさに新たな生命体が砂浜に上陸したかのようでした。


「アニマリス・ユメラス・セグンダス」(部分) スイシディーム期 2009〜2011年

なお展示品は何も模造ではなく、現実に歩行した作品です。よって細部を見ると、おそらくは浜で浴びたであろう砂がたくさん付いていました。チューブは時に汚れ、また動きによる歪みなども見られます。これぞビーストの生きている証なのかもしれません。


「アニマリス・シアメシス」 スイシディーム期 2009〜2011年

現存する最大級のビーストが「アニマリス・シアメシス」でした。重さは約250キログラムにも及びます。「シアメシス」とは2つの類似した部分が結合していることを指し、実際に2頭のビーストが接合されていました。脚は全部で72もあり、その全てがプラスチックで作られているそうです。先の「アニマリス・ユメラス・セグンダス」と同様に、風で命が吹き込まれ、歩くことが出来ます。


「アニマリス・アポディアキュラ」 アウルム期 2013〜2015年

まるで帆船のように美しいのが「アニマリス・アポディアキュラ」でした。比較的近年のアウルム期、つまり2013年から2015年の間の作品で、突き梁と呼ばれるアウトリガーを初めてつけたビーストでした。これにより強風によって倒れない安定性を身につけたそうです。

現在は化石です。ようは動きません。しかし構造はさらに新たなビーストへと受け継がれます。これぞ進化と言ったところなのかもしれません。


「アニマリス・トゥルゼンティア・ヴェーラ」 アウルム期 2013〜2015年

風を受けるための帆もビーストにとって重要なパーツの1つです。「アニマリス・トゥルゼンティア・ヴェーラ」も帆をつけたビーストでした。「トゥルゼンティア・ヴェーラ」の名は膨らむ帆を意味します。帆は全部で3枚あり、全てが可変で、秒速4メートルほどの風で動くことも可能です。先の「アニマリス・アポディアキュラ」より引き継いだアウトリガーを装着することで、強い風でも倒れずに推進出来るようになりました。


「アニマリス・プロボシス」 アウルム期 2013〜2015年

ちょうどビーストの一部を動かすデモンストレーションが行われていました。2体1組の「アニマリス・プロボシス」です。ラテン語で「鼻」を意味し、その鼻のみが上下左右に動きます。



手元のスマホでかつ後方からの観覧のため、手振れが多くて恐縮ですが、ビーストの動く姿を撮影しました。思いがけないほど機敏に動きます。またどこか人懐っこくも見えるのではないでしょうか。将来的にヤンセンは、ビースト同士にコミュニケーションの機能を持たせることを考えているそうです。そのアイデアは留まることを知りません。


「プラスチックチューブを加工するための木型」

会場内は新作を含むストランドビーストを約10体のほか、解説模型やスケッチ、パーツなども展示しています。一部は触れることも可能でした。


「アニマリス・オルディス」 セレブラム期 2006〜2008年 *手押し可能

さらに実際に手で動かせるビーストもありました。まさに見て、触って、ヤンセンの世界観を体感出来るのではないでしょうか。


お盆休み前の平日に行きましたが、会場内はファミリーで賑わっていました。


「アニマリス・ブルハス・セグンダス」 ブルハム期 2016年〜

土日は混み合い、駐車場が満車になることもあるそうです。8月中の土日には三重県庁前の大駐車場が臨時駐車場となり、13時以降は美術館との無料の巡回バスも運行されます。そちらを利用するのも良いかもしれません。


「アニマリス・ペルシピエーレ・レクタス」 セレブラム期 2006〜2008年

*関連エントリ
三重県立美術館へ行ってきました

会場内の撮影も可能です。9月18日まで開催されています。

「テオ・ヤンセン展」 三重県立美術館@mie_kenbi
会期:7月15日(土)~9月18日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月17日、9月18日は開館。7月18日(火)は休館。 
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生800(600)円、高校生以下無料。
 *常設展示室、及び柳原義達記念館も観覧可。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *家庭の日(毎月第3日曜日)は団体割引料金を適用。
住所:三重県津市大谷町11
交通:JR線、近鉄線津駅西口から徒歩10分。津駅西口1番のりばより三重交通バス「西団地巡回」、「ハイタウン行き(東団地経由)」、「夢が丘団地行き(総合文化センター前経由)」、「総合文化センター行き」のいずれかに乗車し、「美術館前」下車。無料駐車場あり。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

三重県立美術館へ行ってきました

1982年に開館した三重県立美術館は、津市中心部、津駅よりほど近い丘の上に位置します。



津駅西口から歩いて約10分ほどです。ロータリーからは一本道でした。信号を越え、なだらかな坂を上がると、左手に美術館が見えてきます。



建物の構えが想像以上に立派でした。ちょうど道路側から進んで、スロープ、階段の上に美術館が建っています。多くの公共建築で知られる富家建築事務所の設計でした。1998年には当時の建設省によって公共建築百選にも選ばれました。



エントランスが階段上右手奥です。屋外に観覧券売場のブースがあり、扉を抜けると、吹き抜け状のエントランスホールが現れます。テオ・ヤンセン展開催中のため、ヤンセンの大型の作品が設置されていました。



1階の企画展示室は全部で4室です。また同じフロアに、彫刻家の柳原義達の作品を公開する記念館があります。記念館は2003年に美術館のリニューアルにあわせて増築されました。



階段を1つ上がった2階が常設展示室です。ちょうど「2017年度常設展示第2期」と題したコレクション展が行われていました。

はじめの名品選からして粒揃いです。特にムリーリョの「アレクサンドリアの聖カタリナ」、モネの「橋からみたアルジャントゥイユの泊地」、そしてミロの「女と鳥」などに魅せられました。また近代洋画でも、安井曾太郎、古賀春江、佐伯祐三の作品が充実していました。


企画展と連動したテーマ展示をしているのも面白いところです。題して「美術家にして〇〇」。ヤンセンが物理学を学びながら、のちにアーティストに転向したことに関し、コレクションから美術以外でも活躍した芸術家の作品をピックアップして展示しています。

須田国太郎の「信楽」に目が留まりました。陶芸で知られる信楽の里をパノラマ的な構図で捉えています。色彩は赤みを帯びた褐色が主体で、一部に得意とするサーモンピンクも混じっていました。ともかく静寂でかつ長閑な景色です。かつて東京国立近代美術館で見た画家の回顧展のことを思い出しました。

コレクション展のラストは京都の近代美術でした。関西美術院に関する洋画家に加え、京都画壇の日本画家の作品を展示しています。

浅井忠、堂本印象、竹内栖鳳、木島櫻谷の作品が並ぶ中、私が印象に残ったのが宇田荻邨でした。明治36年に三重の松阪で生まれ、のちに京都へ移り、菊池契月に師事し、京都市立絵画専門学校で教授を務めるなどして活動しました。古典的な作風で知られていたそうです。

作品は全部で5点。特に「祇園新橋」や「巨椋の池」などの京都界隈の風景画が目立ちます。人々の行き交う祇園を叙情的に表す一方、巨椋は池の水鳥や蓮などをどこか図像的に表現していました。実のところ初めて見知った画家でしたが、思いがけないほどに惹かれました。



コレクション展を観覧し終えたあとは、一度エントランスへ戻り、柳原義達記念館へと向かいました。共通のチケットで入場することが出来ます。



展示室は2つあり、大きなスペースは天井部から自然光を取り込むつくりとなっています。彫刻群の配置にはゆとりがあり、一点一点、じっくりと向き合うことも可能です。戦後の具象彫刻で知られる柳原の作品の中でも動物、とりわけ鳩などの鳥の彫刻に魅力があるのではないでしょうか。デッサン、資料も交えて、柳原の制作を紹介していました。



館内にはミュージアムショップとレストランも併設されています。今回は時間の関係で利用しませんでしたが、特にレストランが充実しているようでした。一面はガラス張りで外を望むことも出来る上、開放感のあるテラス席も用意されています。



屋外彫刻もいくつか設置されています。青空によく映えていました。



企画展の「テオ・ヤンセン展」もあわせて鑑賞してきました。次のエントリにまとめるつもりです。

*関連エントリ
「テオ・ヤンセン展」 三重県立美術館

「三重県立美術館」@mie_kenbi
休館:月曜日。
 *但し祝日にあたる場合は開館し、翌日休館。年末年始(12月29日~1月3日)。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300(240)円、大学生200(160)円、高校生以下無料。
 *常設展示観覧料。企画展は別途必要。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:三重県津市大谷町11
交通:JR線、近鉄線津駅西口から徒歩10分。津駅西口1番のりばより三重交通バス「西団地巡回」、「ハイタウン行き(東団地経由)」、「夢が丘団地行き(総合文化センター前経由)」、「総合文化センター行き」のいずれかに乗車し、「美術館前」下車。無料駐車場あり。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「ボストン美術館の至宝展」 東京都美術館

東京都美術館
「ボストン美術館の至宝展ー東西の名品、珠玉のコレクション」 
7/20~10/9



東京都美術館で開催中の「ボストン美術館の至宝展ー東西の名品、珠玉のコレクション」を見てきました。

今から約140年前、1876年に開館したボストン美術館には、これまで数多くの収集家が作品を寄贈し、運営を支えてきました。

ボストンのコレクションが80点ほど上野へやって来ました。タイトルに「東西」とあるように、作品は洋の東西を問いません。古代エジプトにはじまり、日本、中国美術、そしてフランスとアメリカの絵画、さらには写真、版画、現代美術までを網羅していました。

冒頭の古代エジプトで目立つのは「ツタンカーメン王頭部」でした。アーモンド型の目を開き、頭巾を被った王の姿を象っています。僅かに息を吐き出すかのような唇が、どことなく官能的にも見えました。なお一連のエジプト美術品は、1905年から1945年にかけて行われた、美術館とハーバード大学による共同調査隊の成果によって得られました。世界でも有数のコレクションとして知られています。


徽宗「五色鸚鵡図巻」 北宋、12世紀初期 ボストン美術館

あえてハイライトを挙げれば、中国美術にあると言えるかもしれません。徽宗の「五色鸚鵡図巻」が魅惑的でした。時は北宋、12世紀前半の作品です。花は杏子で、その枝の上で小さなオウムが羽を休めています。白く、ややピンクに染まる杏子の花の色彩も美しく、鳥の羽の描写も細やかです。芸術を好み、絵画にも才能を発揮したという徽宗の高い画力が伺えました。

陳容「九龍図巻」が圧巻の一枚です。一枚といえども、全長は9メートル超と長大です。雲や波間に潜み、あるいは舞っては飛び上がる9頭の龍を表現しています。


陳容「九龍図巻」(部分) 南宋、1244年 ボストン美術館

この龍の容態が7変化ならぬ9変化と多様です。渓谷から姿を現したかと思うと、波間で玉をつかんで口を開くものもいれば、雲の合間でさも喧嘩するように対峙する龍もいました。しかもいずれの龍の表情も豊かで、どこか擬人化したかのように描いてます。作者は南宋末期に活動した画家で、龍を得意としていました。清の乾隆帝が旧蔵した名品でもあるそうです。


曾我蕭白「風仙図屏風」 江戸時代、1764年(宝暦14年/明和元年)頃 ボストン美術館

日本美術も優品揃いでした。うち曾我蕭白の「風仙図屏風」が迫力満点です。凄まじい勢いで渦を巻く黒雲と、猛烈に吹き荒れる風の中、剣を持つ男が一人で立っています。また既に風雨に足元をすくわれ、ひっくり返っている男の姿もありました。波も立体的で、画面から飛び出すかのようです。後方には可愛らしい白と黒の兎が嵐を避けていました。まさにエキセントリックな作品ですが、小さな動物に対しての温かい眼差しも感じられるのではないでしょうか。

英一蝶の「涅槃図」が、フェノロサが明治19年に購入して以来、約170年ぶりに日本へと里帰りしました。


英一蝶「涅槃図」 江戸時代、1713年(正徳3年) ボストン美術館

高さは2メートル90センチ弱と、見上げるも巨大です。涅槃に入る釈迦と悲しむ菩薩、ないし羅漢に無数の動物たちを表現しています。形も姿も一つとして同じものはなく、表情も動きも極めて多様で、象に至ってはひっくり返っていました。色彩が極めて鮮やかですが、今回の公開に際して、修復作業も行われたそうです。当初の状態が悪く、作品も大きいことから、ボストン美術館でも25年もの間、公開されませんでした。


酒井抱一「花魁図」 江戸時代、18世紀 ボストン美術館

抱一の「花魁図」も見どころの一つかもしれません。浮世絵風の花魁の立ち姿を描いています。先の「涅槃図」と同様に、日本初公開の作品です。また鳥居派による絵看板も面白いのではないでしょうか。芝居小屋の軒の先にかけたとされるもので、状態も良く、現存最古の作品とも言われています。


ポール・セザンヌ「卓上の果物と水差し」 1890-94年頃 ボストン美術館

中盤からは西洋美術です。ミレー、コロー、モネ、ルノワール、セザンヌ、そしてチラシ表紙も飾ったゴッホなどの作品が並んでいました。

シスレーの2点が優品です。うち1点は「サン=マメスのラ・クロワ=ブランシュ」で、画家が気に入り、多くの作品に残したサン=マメスの風景を描いています。広い空に青い水の流れる景色は殊更に美しく、水面のざわめくような筆触も質感に秀でていました。もう1点が「卓上のブドウとクルミ」です。青く、白く光るテーブルクロスの上に置かれた果物を捉えています。銀色のナイフに当たる光も輝かしいのではないでしょうか。やや珍しいシスレーの静物画から、改めて画家の魅力に接したような気がしました。

ゴッホのルーラン夫妻は隣り合わせに展示されていました。アルルの地でゴッホのモデルを務めた夫妻は、いわゆる耳切り事件のあとも画家を支え、ゴッホも存在の大きさを手紙に書き残しています。夫のジョゼフは郵便配達人として紹介されるものの、実際はアルル駅の郵便の管理を仕事にしていたそうです。妻のオーギュスティーヌはゆりかごに座ってポーズをとっています。夫妻の存在感のある手に目を引かれました。ゴツゴツとした感触は年季が入り、これまでの人生を物語るかのようです。ジョゼフの強い青に、オーギュスティーヌの深い緑と、色彩も対比も鮮やかでした。日本で2点揃うのは初めてのことでもあります。


フィッツ・ヘンリー・レーン「ニューヨーク港」 1855年頃 ボストン美術館

オキーフなどのアメリカ絵画も約10点ほどやって来ています。うちフィッツ・ヘンリー・レーンの「ニューヨーク港」に魅せられました。澄み渡る空気感が絶妙です。水面も穏やかで、船の帆には淡く温かい光が満ちています。奥には蒸気船の姿も見えました。マストの細い線など、かなり精緻に風景を捉えていました。


エドワード・ホッパー「機関車」 1923年 ボストン美術館

ホッパーの意外なエッチングの作品にも目を奪われました。全部で4点あるうち、1つが「機関車」です。黒々とした機関車がトンネルの前で止まっています。力強い車輪をはじめ、金属の強い量感など、情景描写も巧みです。油彩で知られるホッパーは、主にキャリア初期に版画を制作していました。

ラストは現代美術です。ウォーホル、ホックニー、そして日本の村上隆の近作までが登場します。ボストン美術館では2011年、現代美術を展示するための7つの展示室が設けられました。現在では約1500点の現代美術コレクションを有しているそうです。

会場の随所にパネルでコレクターについて紹介しているのもポイントです。コレクションの形成プロセスの一端も知ることが出来ました。

ボストン美術館のコレクションは日本でも見る機会が多く、近年でも「国芳・国貞展」(文化村)、「ダブルインパクト」(芸大)、「ミレー展」(一号館)、「ジャポニスム展」(世田谷)のほか、「日本美術の至宝」(東博)などでまとめて紹介されてきました。



但しジャンルを分け隔てなく、総合的な内容の展覧会は、意外にも約40年ぶりだそうです。その意味では貴重な機会と言えるかもしれません。

[ボストン美術館の至宝展 巡回スケジュール]
神戸市立博物館:10月28日(土)〜2018年2月4日(日)
名古屋ボストン美術館:2018年2月18日(日)〜7月1日(日)

先日、入場者が10万名を超えました。


今のところ、土日を含めて待機列などはなく、中国絵画などの一部のスペースを除くと、館内はさほど混雑していません。金曜の夜間開館などは特にスムーズに観覧出来そうです。(8月中の金曜日は21時まで延長開館。)



10月9日まで開催されています。なお東京展終了後、神戸、名古屋の各会場へと巡回します。

「ボストン美術館の至宝展ー東西の名品、珠玉のコレクション」@BOSTON_TEN) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:7月20日(木)~10月9日(月・祝)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *7月21日(金)、28日(金)、8月4日(金)、11日(金・祝)、18日(金)、25日(金)は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日、及び9月19日(火)。
 *8月14日(月)、9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、高校生800(600)円、65歳以上1000(800)円。高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

「和のあかり×百段階段展2017」 ホテル雅叙園東京

ホテル雅叙園東京
「和のあかり×百段階段展2017」 
7/1~8/27



今年も夏の恒例、ホテル雅叙園東京の「和のあかり」展が、百段階段を鮮やかに彩っています。

昭和10年、百段階段は、ホテル雅叙園の前身である目黒雅叙園の3号館として建てられました。



部屋は全部で7室つあり、その間を99段にも及ぶ階段状の廊下が繋いでいます。各室には荒木十畝や鏑木清方らの日本画家が天井画などを描いたほか、桃山風の豪華な装飾も施され、「昭和の竜宮城」と称されました。



長らく宴会の間として利用されていたそうです。現在は、東京都の指定有形文化財に指定され、一般に公開されています。同園で現存する唯一の木造建築でもあります。

その各室を明かりでさらに華やかに演出するのが「和のあかり」です。テーマに「日本の色彩 日本の意匠」を据え、「祭り」、「アート」、「職人」のジャンルからなるイルミネーションを展開していました。



まずは「祭り」です。「漁樵の間」のねぶたが迫力満点でした。主役は浮世絵などでもお馴染みの相馬太郎良門です。ちょうど仙人より妖術を修めようとする場面を表現しています。ねぶた自体も実際に青森のねぶた祭りに出陣した作品でした。ともかく彩色が鮮やかです。金箔、金泥で仕上げられ、床柱のデコラティブな彫刻など、何かとゴージャスな「漁樵の間」の空間にも負けてはいません。



続く「草丘の間」に展開するのが清流の森でした。手がけたのは切り絵作家の早川鉄兵で、森の中の様々な動物たちを象っています。中には魚の泳ぐ姿も見えました。

床には一面の人工芝が広がります。かなり混雑していたため、座ることこそ叶いませんが、ムードのある空間は居心地も上々です。さながら夜の幻想的な森の中に迷い込んだかのようでした。



鮮やかにライトアップされたガラス工芸が現れました。切子にステンドグラスです。うち切子は墨田区の山田硝子加工所が制作した作品で、現代に江戸切子の伝統を蘇らせました。



あかりマイスターの橋田裕司による照明も楽しいのではないでしょうか。橋田は照明塾塾長と称し、全国で手づくりの照明教室を展開しています。鳥や月などをモチーフとした作品を展示していました。



なおステンドグラスなどの伝統工芸品は、過去最大スケールでの出展だそうです。工芸ファンにも嬉しい内容と言えるかもしれません。



江戸組子による照明も効果的です。床の間のスペースに万華鏡のような光を散らしていました。



「清方の間」で磁器の笛吹が映像で展開します。明治12年に石川県で創業した上出長右衛門窯による作品です。笛吹は中国の明の染付の絵柄の1つで、同窯では古くから描き続けてきました。最近では笛をトランペットやサックスに持ち替えさせたり、DJの若者として描くなど、新たな表現を切り開いているそうです。

なお同間の壁画はいずれも清方による直筆の作品です。これがまた贅沢でした。ライトダウンされているため、細部を確認するのは難しいかもしれませんが、美人画をはじめ、四季の草花を描いた清方の絵にも見入るものがありました。



ラストの「頂上の間」には風鈴と生け花のインスタレーションが待ち構えていました。天井から釣り下がるのが無数の風鈴です。生け花は一葉式の次期家元である粕谷尚弘が手がけました。メトロポリタン美術館などでもデモンストレーションを行った華道家でもあります。



水面を模したのでしょうか。床は一面の青いタイルが敷き詰められていて、京都の座布団工房である「洛中高岡屋」による座布団も置かれていました。ここは座って空間を味わうのも良いかもしれません。



ガラス工芸や風鈴しかり、見るも涼しげな「和のあかり×百段階段展」。お盆休みの期間中でしたが、入場待機列こそなかったものの、かなりの人で賑わっていました。



昨年は9万名を動員し、百段階段展の歴代最高入場者数を記録したそうです。今年も会期末に向けてさらに混み合うかもしれません。



各展示室は階段で行き来する必要があります。動きやすい服装、ないし靴で出かけられることをおすすめします。


8月27日まで開催されています。

「和のあかり×百段階段展2017~日本の色彩 日本の意匠」 ホテル雅叙園東京@meguro_gajoen
会期:7月1日(土)~8月27日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00。
 *金・土・日・祝日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、学生800円、小学生以下無料。
住所:目黒区下目黒1-8-1
交通:JR線、東急線、東京メトロ南北線、都営三田線目黒駅より徒歩5分。目黒駅、及び品川駅より無料ホテルバスあり。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「夜の不思議の水族園 2017」 葛西臨海水族園

葛西臨海水族園
「Night of Wonderー夜の不思議の水族園 2017」 
8/11〜8/16



毎年夏の恒例、葛西臨海水族園の夜間延長開園も、今年で5年目を迎えました。

題して「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」。お盆休みの期間中、8月11日から8月16日の間に限り、20時まで延長開園しています。



ちょうど私が水族園に着いたのは18時でした。まだ日没前です。屋外のペンギンたちも比較的活発に動いていました。



延長開園中には様々なイベントが行われます。まず一番に挙げられるのが「夜のスペシャルガイド」でした。飼育員によるレクチャーです。特に生き物の夜の生態などについて語って下さいます。



私はマグロ水槽のガイドを拝聴しましたが、ほかにも海鳥やペンギンのレクチャーも人気を集めていました。主に18時以降、レクチャーは時間差で行われるので、はしごするのも面白いかもしれません。



昼間と最も異なるのは消灯されることです。一部のコーナーはほぼ真っ暗で、足元も覚束ないほどでした。暗がりの中、水槽の魚だけが、色鮮やかに浮かび上がっています。



さらに時間が進むと水槽自体の照明も落とされます。こうなると魚の姿を確認するのも困難かもしれません。皆さん、水槽に張り付いては魚に見入っていました。



大人向けのプログラムが用意されているのも嬉しいところです。屋外のテントデッキでは18時半以降、連日、「ミュージックフェスタ」として、ミュージシャンによる生演奏が披露されます。


さらにレストランや売店では、「シーライフナイト」として、限定メニューやビールの販売も行われていました。私も飲むのに夢中なために撮り損ねてしまいましたが、緩やかな海風に吹かれつつ、ハワイのビールなどをいただきながら、ちょっとしたリゾート気分を味わいました。



さらに通常は夜に閉鎖している「水辺の自然」も特別にオープン。今年は5周年を記念し、会期も例年の4日間から6日間へと拡大しました。



18時頃は館内も賑わっていましたが、19時半を過ぎると、人がかなり減ります。特に閉園間際はほぼ貸切状態でした。



葛西臨海水族園の夜間延長開園、「Night of Wonderー夜の不思議の水族園」は、8月16日まで開催されています。*最終入園は19時まで。

「Night of Wonderー夜の不思議の水族園 2017」 葛西臨海水族園@KasaiSuizokuen
会期:8月11日(金・祝)〜8月16日(水)*夜間開園期間
休館:会期中無休
時間:17:00~20:00 *開園時間を3時間延長。開園時間は9時半。最終入園は19時まで。
料金:一般700(560)円、65歳以上350(280)円、中学生250(200)円。小学生以下、及び都内在住の中学生は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:江戸川区臨海町6-2-3
交通:JR線葛西臨海公園駅より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「円朝の幽霊画コレクション〜幻の幽霊画展示」 全生庵

全生庵
「円朝の幽霊画コレクション〜幻の幽霊画展示」
8/1〜8/31



幕末明治の落語家、三遊亭円朝の遺愛した幽霊画コレクションが、谷中の全生庵で公開されています。

会場は本堂左手の小さな展示室です。円山応挙、三代歌川広重、谷文一、そして伊藤晴雨や月岡芳年らの手による幽霊画が所狭しと並んでいました。


伊藤晴雨「怪談乳房榎図」

まず一番に挙げたいのが伊藤晴雨の「怪談乳房榎図」です。かつて私も全生庵で初めて作品を見て、その迫真の描写に驚き、凄まじい形相に慄いたものでした。

幽霊が幼子を抱きながら滝壺に現れています。くわっと睨みつけるように目を開き、牙のような歯をむき出しにしながら、笑みを浮かべていました。顔面や腕の部分しかり、解剖学的と呼べる肉体表現が独特です。これほど凄みのある幽霊はほかに存在するのでしょうか。改めて晴雨の特異な画才に感心させられました。


月岡芳年「宿場女郎図」

月岡芳年の「宿場女郎図」も魅惑的です。後ろを振り向いた幽霊が階段上に姿を見せています。素早い描線を重ねた身体には動きがあり、まるで映像のワンシーンを切り取ったかのようでした。対角線を意識した構図も鮮やかではないでしょうか。センスのある作品でした。

このところ再評価の機運も高まる渡辺省亭にも一枚、幽霊画がありました。「幽女図」です。火鉢のそばで伏せる幽女を表しています。鉢から白い煙も上がり、それが女の姿の一部を隠していました。面白いのが、はっきりと足が描きこまれていることです。ともすると幽霊に見えないかもしれません。

鰭崎英朋の「蚊帳の前の幽霊」に見惚れました。蚊帳の前、正確には向こう側に、白い装束に身を包んだ女性の幽霊が立っています。俯いた横顔は美しく、どこか官能的な様相を感じさせていました。顔も真っ白で雪女のようです。足元の行燈から柔らかな光が放たれています。蚊帳に透き通り、辺りを照らしては、何とも幻想的な光景を生み出していました。

さてタイトルにもある「幻の幽霊画展示」とはいかなる作品なのでしょうか。

それが鏑木清方の「幽霊図」でした。かつては存在が確認されていたものの、関東大震災で焼失したとされた作品です。このほど94年ぶりに発見され、会期途中、ちょうど円朝忌にあたる8月11日より公開されました。


画題はお菊さんです。若い女性が両手で茶を献じています。顔の表情こそ伺えないもののの、白く血の通っていない細い腕を差し出しています。どことなく清楚な雰囲気も感じられました。

なお表具が着物地でしたが、同一の表具がほかの円朝コレクションにも存在します。池田綾岡の「皿屋敷」です。菊のあしらった襖越しにお菊さんが目に手を当てながら泣いています。幽霊画というよりも、美人画風の作品ですが、確かに清方作と同じ表具でした。見比べるのも楽しいかもしれません。



毎年夏の恒例の公開展示です。気がつけば、私が前に全生庵を訪ねたのは、10年近くも前のことでした。



8月31日まで開催されています。

「円朝の幽霊画コレクション〜幻の幽霊画展示」 全生庵
会期:8月1日(火)~8月31日(木)
時間:10:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:会期中無休。
料金:500円。
住所:台東区谷中5-4-7
交通:東京メトロ千代田線千駄木駅団子坂下出口より徒歩5分。JR線・京成線日暮里駅より徒歩10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

川端龍子ゆかりの「龍子公園」を見学してきました

日本画家、川端龍子の旧宅とアトリエを保存した龍子公園は、大田区立龍子記念館のすぐ隣にあります。

アトリエは1938年、龍子率いる青龍社の創立10周年に建てられました。一方で旧宅は戦時中に爆撃に遭い、焼失したため、戦後の1948〜1954年になって新たに造られました。ともに龍子自らが設計しました。



現在は記念館と同様に大田区が管理し、公園として一般に公開しています。



入口の門を抜け、竹の垣根のアプローチの左手に見えるのが、「爆弾散華の池」でした。龍子邸は、終戦間際の1945年8月13日、アメリカ軍の爆撃を受け、隣接するアトリエこそ難を逃れたものの、自宅部分は全壊します。使用人も亡くなるという大きな被害を受けました。

この体験をもとに龍子は「爆弾散華」を制作しました。爆風で吹き飛ぶ夏野菜をモチーフにした作品で、終戦直後の10月の第17回青龍展に出展しました。今では大田区立龍子記念館に収蔵されています。

爆撃時には大きな穴があき、のちに水が湧き出てきたそうです。そこで龍子は穴を池として整備することを思いつき、「爆弾散華の池」と呼ぶようになりました。緑に覆われているため、水面こそ見えませんが、今も雨水や水道にて維持されています。



池を過ぎるとまず現れるのが旧宅と門でした。門の先がアトリエです。客人用として使われました。普段、家人は縄のれんのある小さな口を通っていたそうです。



門を潜ると左右に背の高い竹垣が現れました。一本一本がかなり太く、とても量感のある竹で、先の旧宅や門の縁にも使われています。竹は龍子のお気に入りの素材の一つでした。また石畳は龍の鱗のように組み合わされています。これも龍子のこだわりでした。



2階建てのアトリエはカメラに収めきれないほどに大きな建物でした。軒や庇の部分は網代天井で仕上げています。アトリエの広さは60畳もあります。さらに高さも4メートルと、天井高も十分でした。



まさに「会場芸術」、大作を描くに相応しいアトリエと言って差し支えありません。ここで龍子は1966年に亡くなるまで、数多くの作品を描きました。

面白いのはアトリエの南にも大きな窓があることです。あえて強い光を取り込もうと考えたのかもしれません。今では龍子の使った画材などが展示されています。



旧宅もアトリエと同様の2階建てです。京間の畳の組み方が卍型でした。この卍も龍子の好んだ模様だったそうです。



窓のレリーフが個性的です。春蘭を象っているそうですが、私には窓に張り付くトカゲのようにも見えました。客人との話のとっかかりになったことではないでしょうか。



熱心な仏教徒でもあった龍子は、旧宅の奥座敷に持仏堂を設けました。当時は襖に、宗達に連なる伊年印の「桜芥子図」がはめ込まれていました。現在は龍子記念館に所蔵されていますが、その高精細の複製を作るプロジェクトが進行しています。*複製は11月3日からの「龍子の生きざまを見よ!」 展で公開予定。

仏間には照明がありません。龍子はお堂に十一面観音と、脇侍の不動明王と毘沙門天などを安置しました。毎日、朝夕の礼拝を欠かすことはなかったそうです。うち「毘沙門天立像」は遺族の意思により東京国立博物館へ寄贈されました。重要文化財にも指定されています。

旧宅の前には庭が広がります。龍子は時折、ライトアップしては、夜の景色を楽しみました。今でこそ、庭というよりも森の様相を呈していますが、当時からかなり鬱蒼としていたそうです。



龍子は庭を「写生材料の植え込み」と呼んでいました。梅や桜、紅葉なども植わっています。四季折々で変化する光景を目にしつつ、写生に勤しんだのかもしれません。



ほか水盤なども美しいのではないでしょうか。園内の随所から、龍子のこだわりと美意識が感じられました。

最後に見学についての情報です。龍子公園は記念館の付属の施設です。常時、開放されていません。



よって龍子記念館の職員の方によるガイドツアー方式での見学となります。見学時間は記念館の開館日の各10時、11時、14時の3回です。記念館内が集合場所です。時間になり次第、職員の方が案内して下さいます。



龍子は朝の礼拝ののち、朝9時から夜9時までアトリエで絵画を制作していたそうです。建物も庭も、ほぼ生前から手付かずに残っていると言っても良いかもしれません。



龍子記念館とあわせて見学することをおすすめします。

*川端龍子関連エントリ
「絵画への意志 新規収蔵品からの展望」 大田区立龍子記念館
「川端龍子ー超ド級の日本画」 山種美術館
川端龍子「草炎」 東京国立近代美術館

「龍子公園」
観覧時間:10:00、11:00、14:00の1日3回の案内。自由見学不可。
休園:月曜日。但し祝日の場合は翌日。年末年始(12月29日~1月3日)。展示替えの臨時休館。
料金:大人200円、小・中学生100円。65歳以上は無料。
住所:大田区中央4-2-1
交通:都営浅草線西馬込駅南口から徒歩15分。JR大森駅西口から東急バス4番荏原町駅入口行に乗車、臼田坂下下車。バス停より徒歩2分。 
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ