都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「早春の川越を歩く」 前編:川越城本丸御殿・一番街
「小村雪岱ー「雪岱調」のできるまで」 川越市立美術館(はろるど)
先日、市立美術館で小村雪岱展を鑑賞したのち、川越の街を散策してきました。
ちょうど美術館のある一帯が、かつての川越城にあたり、今もなお、本丸御殿の遺構建築が残されています。
川越城は1457年、この地に勢力を築いた上杉氏が、太田道灌らの家臣に命じて築城された城で、北条氏が攻め落としたのちは、同氏の北武蔵の支配を固める拠点となりました。
1590年、豊臣秀吉が攻めると、同年に江戸城へ徳川家康が入り、川越城には重臣の酒井重忠が置かれました。そして江戸時代には城下町が形成され、武蔵の中心地として発展しました。1639年には時の城主、松平信綱により、城の拡張工事が行われ、約32万平方メートルにも及ぶ広大な城郭が形成されました。
現在の本丸御殿は、1848年、松平斉典により造られた建物で、東日本唯一の本丸の遺構として、埼玉県の指定有形文化財に指定されています。
御殿の正面に回ると、堂々たる玄関が姿を現しました。神社建築や城廓建築でよく見られる唐破風の屋根で、太い柱が重々しい屋根を支えていました。中に入り、受付を過ぎると、長い廊下の向こうに三十六畳もの広間が広がっていました。来城者が、城主との面会の間までに待機した部屋だと言われています。
一部はかなり退色していましたが、この広間にのみ、扉には松が描かれていました。ひょっとすると江戸時代の人々も眺めていたかもしれません。
続くのは、白い壁に襖、そして木の柱で仕切られた、使者之間や物頭詰所などの座敷でした。装飾は一切見られず、まさに質実剛健といった様相で、極めて実用的な建物であったことが見て取れました。
明治時代に入ると、多くの建物が、移築、解体されていきました。そして本丸御殿も城の機能を失い、玄関と広間は、一時、県庁の庁舎として利用されました。のちに県庁が移転すると、煙草工場や武道場になるなど、用途も変わり、戦後は中学校の仮設校舎として用いられました。
結局、残ったのは、玄関・広間部分と、家老詰所でした。本来は御殿の南に大書院があり、西側に、城主の私的空間である中奥などが連なっていたそうです。
その家老詰所が御殿と繋がっていました。とはいえ、本来の位置ではありません。元々の詰所は明治初期に解体され、現在のふじみ野の商家へと移設されました。それが昭和62年になって川越市に寄贈され、現在の場所へと移築されました。
詰所は御殿と比べると狭く、八畳から十二畳ほどの広間が、襖や障子で区切られていました。やはり簡素な造りで、江戸時代は家老たちが常駐し、政治において重要な役割を果たしていたと考えられているそうです。
一通り、本丸御殿を見学したのちは、札の辻へと向かい、蔵の街から菓子屋横丁へ歩きました。
休日ということもあったのか、ともかく想像以上の人出に驚きました。メインストリートの一番街は人で溢れ、車の往来も大変に多く、のんびり建物を見学出来るような雰囲気ではありませんでした。菓子屋横丁も、車こそ入ってこないものの、一番街同様、人と人とが肩で触れ合うほどに賑わっていました。
黒漆喰の重厚な蔵造りの商家の立ち並ぶ中、洋風建築にも見るべき建物があるのも、川越の面白いところかもしれません。特に有名なのが、埼玉りそな銀行川越支店で、大正7年、埼玉県初の銀行だった第八十五国立銀行として建てられました。白いタイルの外壁の上に、緑のドーム屋根がついていて、ルネサンスの様式を基調としています。川越でもほかに建築を手がけた保岡勝也の設計で、埼玉県内の指定第1号として、国の登録有形文化財に指定されました。
また川越商工会議所も国の有形登録文化財で、昭和3年、当時の武州銀行川越支店として建てられました。ともかくギリシャの神殿を思わせるような太い柱が特徴的で、玄関の上にはバロック風の飾りも施されていました。もちろん未だ現役で利用されています。
さらに商店街にも洋風建築が幾つか見られました。例えば「カフェエレバート」も外装は洋館風で、大正4年に建築され、川越市の文化財に指定されました。ただし実際は洋館ではなく、内部の構造は土蔵とのことでした。
老舗の「シマノコーヒー」も趣きがあるのではないでしょうか。大正8年の建築で、元は呉服屋であったそうです。有名店だけに、中を覗くとさすがに満席のようで、待っている方の姿も見られました。
しばらく歩いたのちは、蔵の街の中にある山崎美術館と、先の埼玉りそな銀行川越支店を設計した、保岡勝也による旧山崎家別邸を見学しました。
「早春の川越を歩く」 後編:山崎美術館・旧山崎家別邸へと続きます。
「早春の川越を歩く」 後編:山崎美術館・旧山崎家別邸(はろるど)
「埼玉県指定文化財 川越城本丸御殿」
休館:月曜日。但し休日の場合は翌日。年末年始(12月29日~1月3日)、館内整理日(毎月第4金曜日、ただし休日は除く)。
時間:9:00~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般100(80)円、大学・高校生50(40)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*「川越きものの日」にちなみ、8日、18日、28日に着物で来館すると団体料金を適用。
*博物館・美術館との共通券あり。
住所:埼玉県川越市郭町2-13-1
交通:西武武新宿線本川越駅またはJR線・東武東上線川越駅より東武バス「蔵の町経由」乗車、「札の辻」バス停下車、徒歩10分。または東武バス「小江戸名所めぐり」乗車博物館前バス停下車。
「小村雪岱ー「雪岱調」のできるまで」 川越市立美術館
「生誕130年 小村雪岱ー「雪岱調」のできるまで」
1/20~3/11
川越市立美術館で開催中の「生誕130年 小村雪岱ー雪岱調のできるまで」を見てきました。
装釘や挿絵、舞台装置の仕事で知られる画家、小村雪岱は、明治20年、元は川越藩士の家に生まれました。
まさにゆかりの地での回顧展です。出展数も、スケッチや資料を含めて190点超と、不足ありません。着目点は挿絵の仕事で、いかに雪岱が挿絵画家として名を馳せ、また画風、すなわち雪岱調を確立していったのかを明らかにしていました。
冒頭は意外にも複製の版画でした。とは言え、それらはまさに雪岱調で人気の高い「おせん」で、白黒二階調の配色や、繊細な描線、または春信画を思わせる美人像、さらには時に幾何学的とも受け取れるような大胆な構図を見ることが出来ました。いずれも雪岱の没後に作られた作品ですが、生前においても、人々が雪岱を知っていたのは、雑誌や新聞に掲載された挿絵の図版でした。
そうした雪岱調のイメージを頭に入れておくと、最初期の日本画は、ともすると雪岱とは分からないかもしれません。「春昼」は、明治40年、雪岱が東京美術学校の日本画科を卒業時に描いた作品で、蝶が舞い、菜の花や草に覆われた朱塗りの社を、かなり濃い色彩にて表現していました。また「柳」も同年の作品で、大きく葉をつけ、枝を振り下ろす柳の木を、正面からの構図で描いていました。芝垣に這う夕顔の繊細な描写こそ、雪岱風かもしれませんが、色彩しかり、量感溢れる表現などは、先の「おせん」とは似ても似つきませんでした。
小村雪岱(装釘) 泉鏡花「日本橋」 大正3(1914)年 田中屋コレクション
雪岱が装釘の仕事に入る切っ掛けとなったのが、人気作家の泉鏡花との出会いでした。大学卒業の翌年、泉鏡花の知遇を得た雪岱は、鏡花の書き下ろしの「日本橋」の装釘を、本人から任されました。この頃の雪岱は、新人であり、ほぼ無名で、大抜擢と言って差し支えありません。よほど鏡花は、雪岱の才能に惚れ込んだのでしょうか。結果的に二人の協働は、鏡花が亡くなるまで続きました。「日本橋」の仕事も高く評価されたそうです。
実際に「日本橋」からして大変に魅惑的でした。河岸の土蔵を表紙に描き、真正面から横一線に並べた構図はリズミカルで、赤や黄色の蝶が画面に舞う姿は、さも料紙を散らしたように意匠的でもありました。また表紙、見返しとも木版で、濃い色を好まなかった鏡花の意向を受け、淡い色を採用しました。細い描線にも、雪岱調が見られるのではないでしょうか。
同じく鏡花の「愛艸集」も美しい作品で、水をたたえた堀を俯瞰した構図の中に、十二単姿の女性を描きこんでいました。余白を広くとった空間は実に大胆で、もはや抽象的と言っても良い作品かもしれません。
また「日本橋」で好評を得た雪岱は、高いデザイン性を買われ、大正期の一時期、資生堂意匠部に勤務しました。ここでは、香水瓶のデザインを担当していたそうです。おそらく雪岱の手がけたとされる何点かの瓶が展示されていました。
しかし雪岱は、何も一朝一夕に雪岱調を確立したわけではありませんでした。谷崎潤一郎の「近代情痴集」では、肌を露わにした女性を、さながら清方画を思わせるような劇画調に表しました。明治期の雪岱の画は、清方らの美人様式を通して、江戸の浮世絵の作風に接することもありました。
小村雪岱「青柳」 大正13(1924)年頃 埼玉県立近代美術館
雪岱の最初の本格的な挿絵の仕事は、大正11年から「時事新報」に掲載された「多情私心」でした。家屋を上から俯瞰して見るかのような見返し絵は、いかにも雪岱調でしたが、これまでの装釘の仕事で見せた表現とは異なったため、あまり評判は芳しくなかったそうです。よってしばらく新聞挿絵から離れ、歌舞伎などの舞台装置の仕事を手がけるようになりました。そして大正末期、大衆文芸ブームが起こると、挿絵がより重要視され、時代考証力を持ち得た雪岱の絵は、特に時代小説との相性が良く、再び頭角を表していきました。
小村雪岱「お伝地獄」 昭和10(1935)年 埼玉県立近代美術館
上村行彰編の「日本遊里史」の表紙に写されたのは、鈴木春信の「絵本青楼美人合」の一場面でした。実際、雪岱は、春信の複製本を所持していて、おそらくは折に触れて見ていたのかもしれません。その後、昭和8年に東京、および大阪朝日新聞に「おせん」が連載されると、春信の錦絵からイメージを借りた雪岱の挿絵は、「昭和の春信」として大いに人気を博しました。
小村雪岱「おせん 傘」 昭和12(1937)年 資生堂アートハウス
「おせん」の貴重な挿絵原画も見どころの1つでした。そもそも同作の原画は、雪岱の没した頃に殆どが失われてしまい、長らく行方不明となっていました。それが近年、4図が発見され、うち2図が、今回の展覧会で公開されました。極細でかつ淀みない線描に、雪岱の筆の息遣いが感じられるかもしれません。
小村雪岱「名作挿画全集」 昭和10(1935)年 田中屋コレクション
人気挿絵画家となった雪岱は、新聞や雑誌の挿絵を次々と手がけ、実に精力的に活動していきました。この頃の雪岱は、画風の完成期と呼んでも良いかもしれません。時に江戸情緒を漂わせながらも、実にモダンで、全てに無駄のない描線に構図をとりながら、物語の抒情性を巧みに伝えていました。
幾つか珍しい作品が出ているのも見逃すことは出来ません。うち1枚が「Tokyo Today and Tomorrow」に付いた版画の「もみじ」で、雪岱の生前に作られた貴重な版画だと言われています。また「第一東京市立中学校之図」は、中学校の建物を俯瞰して表した木版で、俳人の内田誠の夭折した息子のために描かれました。いわゆる私家版であったそうです。
小村雪岱「見立寒山拾得」 埼玉県立近代美術館
ラストは日本画でした。そもそも画壇とは縁の遠かった雪岱は、日本画を多く制作せず、個人の私的な注文による美人画などを描きました。とはいえ、「春告鳥」や「美人立葵」にも、挿絵に通じる雪岱調が見られるのではないでしょうか。惚れ惚れするかのように美しい作品ばかりでした。
#川越市立美術館 です。常設展示室に展示している小村雪岱作品は、先週の展示替えで全て入れ替えました。特別展「生誕130年 小村雪岱」をご覧になったあとは、是非常設展示室にも足をお運びください。#雪岱展HP→https://t.co/vX5I5Khl3t pic.twitter.com/YBAAybCGKy
— 川越市 (@KawagoeshiInfo) 2018年2月24日
続く常設展にも、雪岱の作品が何点か出展されていました。お見逃しなきようご注意下さい。
最後にアクセスの情報です。川越市立美術館は西武線の本川越駅から、道なりで約1.8キロほどあり、歩くと30分程度はかかります。またJR線、東武東上線の川越駅からは2キロ半を超えます。もちろん歩けないことはありませんが、基本的にはバスで移動する必要がありました。
川越駅、本川越駅ともに、最も本数が多いのが、東武バスの「蔵のまち」経由のバスで、美術館の前までは行きませんが、「札の辻」で降車すると、バス停から歩いて7~8分で美術館にたどり着きます。バスも10分に1本程度、出ていました。
しかし土日の川越はかなり渋滞します。実際に私が乗ったバスも、一番街付近で渋滞に見舞われ、結局、最寄りの「札の辻」まで30分近くかかりました。美術館の前に発着する「小江戸巡回バス」も、交通事情により、必ずしもスムーズに運行されていないようです。
美術館の向かい側に駐車場がありましたが、常に満車の状態でした。バスも時間が読めません。ともかく余裕を持ってお出かけ下さい。
1/20より開催の【小村雪岱「雪岱調」のできるまで】展(川越市立美術館 〜3/11)。雪岱の画業を「挿絵」という切り口から探り、初期から絶筆までを網羅した意欲的な展覧会です。洗練された「雪岱調」誕生への流れに平行し、作家として、そして仕事人としての雪岱を存分に味わえる内容となっています! pic.twitter.com/vMWPA8XjMf
— 芸術新聞社 (@geishin) 2018年1月19日
2010年の埼玉県立近代美術館での「小村雪岱とその時代」展にて、殆ど初めて見知った雪岱に、惚れに惚れたことを思い出しました。以来、約8年経っての再び大規模な展覧会です。久しぶりに雪岱画の魅力に触れることが出来ました。
「意匠の天才 小村雪岱/とんぼの本」
3月11日まで開催されています。ご紹介が遅くなりましたが、おすすめします。
「生誕130年 小村雪岱ー「雪岱調」のできるまで」 川越市立美術館
会期:1月20日(土)〜3月11日(日)
休館:月曜日。但し2/12は開館。翌2/13は休館。
時間:9:00~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般600(480)円、大学・高校生300(240)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*「川越きものの日」にちなみ、8日、18日、28日に着物で来館すると団体料金を適用。
住所:埼玉県川越市郭町2-30-1
交通:JR線・東武東上線川越駅より西口2番のりばから、イーグルバス「小江戸巡回バス」で「博物館美術館前」下車。東口3番のりばから、東武バス「小江戸名所めぐりバス」で「博物館」下車。東口7番のりばから、東武バス「川越運動公園/埼玉医大/上尾駅西口」行きで「市役所前」下車徒歩5分。東口1.2.4.5.6番のりばから、東武バス「蔵のまち」経由で「札の辻」下車徒歩8分。(いずれも途中、西武新宿線本川越駅を経由。)
「20th DOMANI・明日展」 国立新美術館
「未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」
1/13~3/4
国立新美術館で開催中の「20th DOMANI・明日展」を見てきました。
文化庁の新進芸術家海外研修制度の成果発表の場として設けられた「DOMANI・明日展」も、今年度で第20回目を数えるに至りました。
今回は「寄留者の記憶」をサブタイトルに、研修を終えて比較的時間の浅い11名の作家を迎え、各々が個展の形式で作品を公開していました。
田中麻記子 展示風景
冒頭は2013年から約1年間パリへ渡り、現在もフランスのカシャンを拠点に活動する田中麻記子でした。これまでに「現実と幻想の狭間」(キャプションより)にある風景を表現してきた作家は、渡仏してから絵のスタイルが変わったと語り、パリでは、自らの目で見た移民や多国籍文化などの、実在的なモチーフを1日1枚の水彩に描き続けました。
田中麻記子 展示風景
確かに、渡仏前の幻想的な作風とは異なり、パリでの水彩は、ポートレートや目の前の花などを、素早い筆触と瑞々しい色彩で捉えていました。さらに最近は、よりポップでファンシーなイラストレーションの分野へと進んでいるそうです。
私としては渡仏前の、人や風景などが細かな線描で入り交じった、夢の中を覗き込むような作品に惹かれましたが、研修の経験が、作家に新たな創作を呼び込んでいるのかもしれません。
三宅砂織 展示風景
フォトグラムの手法によって作品を制作しているのが、昨年、フランスに派遣された三宅砂織でした。この展示では、テーマの「寄留者の記憶」に沿い、1936年のベルリン五輪に体操で出場し、日中戦争に出征したのち、亡くなるまで体操の指導や、得意の尺八の奏者として生きた、Y氏をモチーフにした連作を手がけていました。何でも作家自身が、Y氏の残した写真やアルバム、書籍や記念品などのコレクションを譲り受けたそうです。
三宅砂織 展示風景
オリンピックでの競技や、尺八を演奏する姿を捉えたフォトグラムを前にすると、Y氏の人生の物語が、断片的ながらも、浮き上がって見えるかもしれません。その独特の質感にも見入りました。
一昨年、ベルギーに派遣され、現在はパリで活動する盛圭太の作品は、実際に目の前で見ないと、繊細な質感が分からないかもしれません。
盛圭太 展示風景
「Bug report」と題された壁画風の作品に目がとまりました。横幅5メートルにもおよぶ壁を支持体に、一見、幾何学的な抽象模様と受け取れる線が交差していて、遠目から眺めれば、何らかの装置のようにも見えなくはありません。初めはペンによるドローイングかと見間違えましたが、近くに寄ると、線は糸で出来ていることが見て取れました。実際にも、青やピンクなどの木綿や絹糸を素材として使用しています。
盛圭太 展示風景
盛は、テーマの「寄留者」に応えるべく、「Bug report」の制作に際して、パリのトランジットセンターで回収した難民の服を解いた糸を用い、一連に構築されたイメージを提示しました。それは建築的、また情緒的といえる「途上の光景」(キャプションより)であるそうです。
中谷ミチコ 展示風景
2012年から約2年間、ドレスデンに赴いたのち、現在は三重を拠点に活動する中谷ミチコの表現も、質感に大きな特徴がありました。モチーフは鳥や人などで、やはり遠目、ないし写真では、単にタブローのように見えるかもしれません。
中谷ミチコ 展示風景
近づいて驚きました。作品はレリーフで、皮膜の向こうに奥行きがありました。実際のところ、粘土や樹脂、さらに黒い顔料などの、複雑なプロセスを経て生み出されていますが、一見しただけでは、平面作品としか思えませんでした。
猪瀬直哉「文化的景観ー希望の潮流」 2013年
ロンドンに滞在し、社会や環境の問題を題材にして絵画を制作する、猪瀬直哉の絵画に迫力がありました。とりわけ印象に深いのは、「文化的景観ー希望の潮流」と題した一枚で、コンクリートで覆われた溝渠を手前に、高層ビル群の立ち並ぶ都市の風景を描いていました。しかしビルは鉄骨がむき出しとなり、一部は壁も崩落しているのか、廃墟と化していました。
猪瀬直哉「快楽の園(未修復ーボッシュへのオマージュ」、「修復完了」、「修復中」) 2010年
一方で「快楽の園」では、画家のヒエロニムス・ボッシュを引用し、絵画に表現していました。両サイドのボッシュ画のイメージに挟み込まれたのは、大都市の景観で、先の「文化的景観」と同様に、ビルは曲がり、朽ちていました。災害に襲われたのか、黙示録的な世界が広がっているかのようでした。
雨宮陽介 展示風景
現在、ベルリンで活動する雨宮陽介は、会場で「人生で一番最後に作る作品の一部を決めるための練習や推敲」をすることを試みています。それは白鳥の死に模して、スワンソングと呼び、最終作を「スワンソングA」と名付けました。そして会場に滞在し、制作プロセスを公開しています。また本人からも話を伺うことも出来ました。
雨宮陽介 展示風景
これまでの「DOMANI・明日展」にて、作家本人が展示室で終始、制作を公開し、パフォーマンスを行ったことはあったのでしょうか。かなりチャレンジングな取り組みと言えそうです。
やんツー 展示風景
まるで観賞者のように彷徨うのはセグウェイでした。それが、2015年にスペインに派遣され、現在は東京や京都で活動している、やんツーのインスタレーション、「現代の観賞者#1」でした。デュシャンの語った「みるものが芸術をつくる」とする言葉に疑問を持ち、そもそも「芸術を規定するものは何か」と問いかける作家は、芸術者や表現者の価値を揺さぶるべく、機械や装置といった主体による表現を手がけるようになりました。
やんツー 展示風景
セグウェイは忙しなく動いたと思うと、突然、まるで作品を観賞するかのように立ち止まりました。さらにその姿を、外側から我々が見るという仕掛けです。ここでやんツーは、セグウェイという鑑賞者自体も作り出しているのかもしれません。美術における、創造と観賞の関係を問い直すかのような作品でした。
2010年からナイロビに滞在し、現在は奈良で拠点を構える西尾美也は、世界の諸都市で偶然にすれ違った人に現地の言葉でお願いし、衣服を交換する「self Select」を展開してきました。これまでにもパリやナイロビなどの世界の4都市で行い、計117名と衣服を交換してきました。
西尾美也 展示風景
それを今回は東京を舞台に移して行いました。ただし全く同じではなく、ナイロビでの研修時に助手を務めたオモンディを東京に招いた上、彼を街に送り出し、見ず知らずの通行人と衣服を交換するプロジェクトを行いました。その交換の様子は、映像や写真で見ることが出来ました。
西尾美也 展示風景
オモンディは、生まれて初めてケニアを抜け出し、はるばる日本へとやって来たそうです。当然ながら服のサイズも異なるため、時にとても窮屈そうに衣服を着ることもあります。もちろん交換のプロセスの段階で、言語やアイディンティについて考えることもあったのでしょう。まさに「寄留者の記憶」について踏み込んだ作品とも言えるかもしれません。
#増田佳江 さんの新作《Belle Aisie Aquarium》はデトロイトの水族館を描いています。水族館といっても水槽の中に魚がいなかったり、モールで作られた魚が飾ってあったり、どちらが本当でウソか分からない感覚を描いています。《Untitled》はショップにあるインスタスポットの背景に使用しています! pic.twitter.com/RS8kNwai8D
— DOMANI展長のつぶやき (@DOMANI_ten) 2018年2月25日
今年のドマーニ展は、いつも以上に表現に幅広く、また先鋭的な内容が目立っていたような気もしました。
会場内は余裕がありました。撮影も出来ます。3月4日まで開催されています。
「未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」(@DOMANI_ten) 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:1月13日(土)~3月4日(日)
休館:火曜日。年末年始(12/20~1/10)
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は夜20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円、高校生以下無料。
* ( )内は20名以上の団体料金。
*1月21日(日)は、DOMANI展第20回目を記念して無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
「民俗写真の巨匠 芳賀日出男」 FUJIFILM SQUARE
「民俗写真の巨匠 芳賀日出男 伝えるべきもの、守るべきもの」
1/4~3/31
1921年に中国大連に生まれた芳賀日出男は、大学卒業後、日本の年中行事を撮り続け、「民俗写真」の地位を確立するに至りました。
現在、キャリアは約60年を超え、約40万点にも及ぶ民俗写真を撮影しました。特に目立つのは、芳賀の原点とも言われる祭礼や儀礼の写真で、例えば「訪れ神」では、お面を被った人物を先頭に、西表島の海辺で行われた儀礼を写し出しました。
左:「壬生の花田植」 広島県山県郡千代田町(現、北広島市) 1981年
また稲作に伴う儀礼もテーマの1つで、「壬生の花田植」では、中国地方に伝わる、太鼓を叩き、笛を鳴らしては、田植唄を歌いながら大勢で田植をする民俗行事を捉えていました。これは中世に遡る田の神を祀る儀式で、当時の農村においては、田植えに従事する者の慰安や、農村における娯楽の要素を持ち得る一大行事でもあったそうです。
右上:「雪中田植」 秋田県平鹿郡山内村(現、横手市) 1964年
また秋田県の「雪中田植」も興味深いのではないでしょうか。これは農家が仕事始めのため、水田に見立てた雪の上に、稲わらなどによって作った稲を植え、倒れ方などを見る儀式で、主に小正月に、稲作の豊凶を占うために行われました。現在では途絶えてしまった地域も少なくありません。
さらに各地域に根ざした民俗文化を、芳賀は人に焦点を当てながら、有り体に写し出していました。こうした一連の写真を撮る切っ掛けのなったのは、大学時代に折口信夫の講義で耳にした、「神は季節の移り目に遠くから訪れ、村人の前に姿を表す。」という言葉だったそうです。それを写真に捉えようと、日本中へ繰り出し、年中行事などを撮影しました。
1959年には、稲作行事を撮った「田の神」を出版し、1970年の大阪万博に至っては、「お祭り広場」のプロデューサーにも任命されました。その幅広い活動は写真の分野に留まりません。
「写真民俗学 東西の神々/KADOKAWA」
最近でも、昨年、「写真民俗学 東西の神々」を出版し、95歳を超えた今もなお、民俗写真を世に送り出しています。
「訪ね神」 沖縄県八重山郡竹富町 1988年
会場はミッドタウン内、フジフィルムスクエアの写真歴史博物館です。壁面一面のみのミニ個展で、私も殆ど偶然に通りがかったに過ぎませんでしたが、モノクロームの写真には臨場感もあり、思いがけないほどに惹かれました。
「供える」 静岡県伊東市 1995年
芳賀展のみ撮影も可能でした。入場も無料です。
写真歴史博物館 企画写真展民俗写真の巨匠 芳賀日出男伝えるべきもの、守るべきもの 1月4日(木)から開催!https://t.co/YOc87cb6NX*作品:≪稲作≫ 虫送り、愛知県稲沢市祖父江町、1957年 pic.twitter.com/iNDntQU4qW
— FUJIFILMSQUARE (@FujifilmJP_SQ) 2018年1月3日
3月31日まで開催されています。
「民俗写真の巨匠 芳賀日出男 伝えるべきもの、守るべきもの」 FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館(@FujifilmJP_SQ)
会期:1月4日(木)~3月31日(土)
休廊:無休。
時間:11:00~19:00
料金:無料。
住所:港区赤坂9-7-3 ミッドタウン・ウェスト1F
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩5分。
「会田誠『GROUND NO PLAN』展」 青山クリスタルビル
「会田誠『GROUND NO PLAN』展」
2/10~2/24
青山クリスタルビルで開催中の「会田誠『GROUND NO PLAN』展」を見てきました。
大林組の会長が理事長を務める大林財団は、国内外のアーティストに、従来とは異なる視点により、都市のあり方を提案してもらう、新たな助成制度、「都市のヴィジョン」プログラムをはじめました。
第一弾に会田誠が選ばれました。それにしても幅広く活動し、一見、都市に特段の関心があるようにも思えない会田は、一体、どのような表現で向き合ったのでしょうか。
「シェイキング・オベリスク」
冒頭からして会田節が炸裂していました。いきなり目の前では、「シェイキング・オベリスク」なるジオラマが、もの凄い勢いでブルブルと震えていました。中央に白くそびえたつのは、欧米の広場でよく見られるオベリスク、つまりモニュメントの一種で、それを地震大国日本に持ってきたことを想定していました。かなり素早く動くため、うまくカメラに収められませんでしたが、ジオラマに目を向けると、確かに地震に驚いては、尻もちする人の姿が見られました。
「シン日本橋」
その向こうにあるのが、「シン日本橋」なる作品で、既存の首都高の上を、これまた凄まじい角度で超えていく木製の日本橋の姿を描いていました。もはやスキーのジャンプ台のようで、おちおち人が渡ることは出来そうもありません。いかにも山口晃風の描写でしたが、先にプランを発表したのは山口で、それに敬意を示したのか、署名に「ニセ口晃」と記していました。
「新宿御苑大改造計画ジオラマ」
実のところ会田は、かつて都市に関する作品を発表していました。それが2001年の「新宿御苑大改造計画ジオラマ」で、かつて滞在していたニューヨークのセントラル・パークに着想を得て作られました。会田は、かの広大な新宿御苑を、高低差が50メートルもあり、大展望露天風呂を併設した、一大渓谷帯へと改造しようとしました。この山のようなジオラマが、思いがけないほど緻密に作られていて、しばらく見ていても飽きませんでした。
「新宿御苑大改造計画」
そして何よりも細かいのが、大きな黒板に描かれた、改造計画のテキストとスケッチでした。ここでは新宿御苑の見取り図とともに、そもそも何故に渓谷を作り上げる必要があるのかなどについて、事細かに記していました。
「新宿御苑大改造計画」
これが凄まじくマニアックで、茶店のデザインから、工事のあり方や使用する素材、そして夜間の開放などについても触れていました。何でもビオトープを目指すため、アスファルトやコンクリートは禁止し、夜間は全面閉園した上で、来場者を法螺貝で拭きながら追い払うのだそうです。テキストを読むだけでも大変ですが、さすがに会田流で、一捻りも二捻りもあり、日本の都市や公園に対する批評的な視点を持ち得ながらも、思わず笑ってしまうような箇所も少なくありませんでした。
「NEO出島」
旧作の新宿御苑に対し、霞ヶ関を改造しようとしたのが、新作「NEO出島」でした。ここでは国会議事堂や議員会館の立ち並ぶ霞ヶ関の上に人工地盤を築き、まさに「出島」を造ろうと提案していました。「出島」は国際社会で、公用語は英語であり、入るには厳密な審査を経たビザが必要で、その基準に「立派な人物」であるとしています。あくまでも「思いつき」とありましたが、あえて政府機関の真上に設置することに、アイロニカルな視点も伺えるのかもしれません。
「風の塔」改良案:「ちくわの女」完成予想図
アクアラインの人口島、「風の塔」を、新たに改良しようとしたのが、「ちくわ女」でした。会田は「風の塔」を可もなく不可もないデザインとし、おおよそ東京にある建造物を、「周りに合わせ、空気を読んで、空気のような無個性な存在」だとした上で、「ちくわの女」を提案しました。確かに全く空気を読まない奇抜なデザインで、海上に設置されれば、賛否両論、そして一躍、名所と化すに違いありません。また海水を組み上げて循環させたのか、目から涙が流れ落ちていたのも印象的でした。
さらに階下がカオスでした。キーワードはスラムで、実際にも、もはや廃墟かと見間違えるかのようなスペースが広がっていました。
「セカンド・フロアリズム」
「セカンド・フロアリズム」は、建物を2階以下に制限しようとするアイデアで、実際に会田自身も、海外での滞在を除くと、2階以上に住んだことがないそうです。さらに「快適なバラック」を究極の理想とし、そのシステムを構築するのがプロの仕事だとしていました。
「セカンド・フロアリズム」
そしてテキストのボリュームが半端ありません。殴り書きで、文字自体からも、会田の主張ならぬ、強いエネルギーが感じられました。ともかく相当に読ませます。
「発展途上国からはじめよう」
会田は「バカなことを考えたい。」としながらも、現実を見ると、「閉塞感があり」、「新しいものを作ったところで、たかが知れていて」、「頭の中を巡る、楽観と悲観、希望と絶望の混沌をそのまま見せる。」と語っています。(*「」内はチラシより。)確かにほかにも「北海道遷都」や「群馬県を巨大湖に」、また「発展途上国からはじめよう」と、ユニーク極まりないアイデアが垣間見えました。当然ながら実現云々の話ではありません。
「アーティスティック・ダンディ」
どこか刺激的でかつ、笑いを伴いながらも、時に真面目に現実を見据え、示唆にも富んだ、実に奇妙なバランスの上に成り立った展示ではないでしょうか。
「会田誠『GROUND NO PLAN』展」会場風景
早々に出かけてきましたが、思いがけないほど賑わっていました。会期は2週間の限定で、残すところ僅かです。最終日の24日はかなり混み合うかもしれません。
現代美術家が都市の未来像提案-東京・表参道で会田誠「GROUND NO PLAN」展開催中https://t.co/lsGqnpkyJy pic.twitter.com/lFf5yJ2ne7
— 日刊建設工業新聞【公式】 (@nikkenko) 2018年2月15日
今後、大林財団では、アーティストを替え、2年に1度の頻度で「都市のヴィジョン」を開催していくそうです。初回は会田誠が、「100%本気でなく、徹頭徹尾冗談」(日刊建設工業新聞インタビューより)で、「ツッコミどころ満載」(チラシより)とする展示を行いました。今後は、どのような展開が待ち受けているのでしょうか。
入場は無料です。自由に撮影も出来ました。
2月24日まで開催されています。
「会田誠『GROUND NO PLAN』展」 青山クリスタルビル
会期:2月10日(土)~24日(土)
時間:10:30~18:30。
*金曜は19時半まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:会期中無休。
料金:無料。
住所:港区北青山3-5-12 B1・B2F
交通:東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線表参道駅A3出口より徒歩3分。
葛井寺「千手観音菩薩坐像」 仁和寺と御室派のみほとけ(東京国立博物館)
葛井寺「千手観音菩薩坐像」
2/14~3/11
「仁和寺と御室派のみほとけ」展で公開中の、葛井寺「千手観音菩薩坐像」を見てきました。
天平の秘仏とされ、1041本の腕を持つ、現存最古の千手観音像、大阪・葛井寺の「千手観音菩薩坐像」が、東京国立博物館へとやって来ました。
会場は、「仁和寺と御室派のみほとけ」展を開催中の平成館で、展示終盤、御室派の寺院に伝わる仏像を紹介する「第5章 御室派のみほとけ」のコーナーに安置されていました。
「千手観音菩薩坐像」はケースなしの露出で、円形のスペースの中央に配されていたため、360度の角度から鑑賞することが可能でした。お寺の厨子では到底叶わない、後方からの姿も見ることが出来ました。
ともかく1000本の脇手の存在感が凄まじく、否応なしに腕ばかりに目が向いてしまいましたが、菩薩自体は意外にも細身で、着衣の紋様や、装身具も極めて繊細でした。また目をやや下に見据えた表情も穏やかで、手を合わせるというよりも、僅かに両手を触れるような合掌のポーズなど、実に物静かな佇まいを見せていました。
丸みを帯びた脇手も一本一本がしなやかで、かつ動きがあり、特に手の指の滑らかな屈曲は、艶やかとも言えるかもしれません。極めて優美な仏像でした。
1041の腕のうち、40本は大きな手で、様々なものを持っていました。特に目を引いたのが、向かって左横から突き出た髑髏宝杖で、杖の先に、丸い顔をしたドクロがあしらわれていました。あらゆる神々を使役する存在でもあるそうです。
通常、「千手観音菩薩坐像」は、葛井寺にて、毎月18日にご開帳されますが、お寺を出る機会は極めて少なく、実に東京で公開されたのは、何と江戸時代の出開帳以来のことでした。まさに一期一会の機会と言えるのではないでしょうか。
なお「仁和寺と御室派のみほとけ」展は、2月14日(水)を機に、多くの作品が入れ替わりました。ほぼ前後期の2会期で、1つの展覧会と言って良いかもしれません。
【仁和寺展】いよいよ本日から後期展示。国宝の秘仏が2体登場します!中でも最小の国宝の仏像となる「薬師如来坐像」(仁和寺蔵)、そして千本以上の手を備えた現存最古の千手観音像である「千手観音菩薩坐像」(葛井寺蔵)は必見です! #仁和寺展 pic.twitter.com/8qv3PGnIDO
— トーハク広報室 (@TNM_PR) 2018年2月14日
まず仏像では、仁和寺の同じく秘仏である「薬師如来坐像」が出展されました。円勢・長円の作され、像高は約10センチ、光背と台座を含めても24センチあまりの小像で、白檀を極めて精緻に彫り起こし、如来坐像と十二神将を象っていました。その意匠は実に精巧で、大きさもあるのか、細部の全てを肉眼で確認するのは困難でした。単眼鏡があった方が良いかもしれません。
全帖公開こそ終了しましたが、「三十帖冊子」を納めるための、「宝相華迦陵頻伽蒔絵冊子箱」も同じく後期からの出展で、金銀の粉を蒔いた地に、飛雲や宝相華などの文様を、実に華やかに描いていました。平安時代の蒔絵の代表作としても知られています。
前期で特に目を引いた、中国・北宋時代の「孔雀明王像」は、江戸時代の源證の描いた同名の作品に入れ替わりました。それに展示室の天井付近にまで達する巨大な「両界曼荼羅」も、場面が胎蔵界から金剛界へ替わり、また「十二天像」も、梵天と地天から、毘沙門天と伊舎那天に替わっていました。
古代神話に取材した、狩野種泰の「彦火々出見尊絵」も場面替えされていました。ほかにも香炉を持って立ち、父の用明天皇の平癒を祈った「聖徳太子像」も、新たに展示されました。目がややつり上がり、随分と険しい表情をしていたのが印象に残りました。
さらに後期では金剛寺の「五秘密像」も興味深いのではないでしょうか。一つの蓮台の上に五体の菩薩が描かれていますが、うち右から姿を見せる菩薩が、中尊を抱くようにしていました。
最後に混雑の状況です。「千手観音菩薩坐像」が出陳された最初の週、2月第3週の金曜の夕方に見てきました。
博物館に着いたのは、おおよそ17時半頃で、行列こそはなかったものの、平成館のコインロッカーは全て使用中の状態でした。既に1度、空海の「三十帖冊子」の公開されていた第1週目にも、同じく夜間開館に出かけましたが、その時と比べても、明らかに人出が増していました。
「仁和寺と御室派のみほとけ」 東京国立博物館(はろるど) *前期展示の際の感想です。
観音堂の再現展示(撮影可)の様子も以下の通りでした。「千手観音菩薩坐像」の周辺も、仏像を取り囲む人々による2〜3重の人垣が出来ていました。
実際、「千手観音菩薩坐像」が展示された以降、平日においても、午前中を中心に、約30分程度の待ち時間が発生しています。行列は昼過ぎまで続き、15時頃までには段階的に解消しているようです。今後、さらなる行列が出来ることも予想されます。
混雑情報は、「仁和寺と御室派のみほとけ」の公式Twitterアカウント(@ninnaji2018)がリアルタイムで発信しています。そちらも参考になりそうです。
「千手観音菩薩坐像」 南北朝時代・14世紀
「四天王立像」 鎌倉時代・14世紀 文化庁
本館1階(常設展)にも、南北朝時代の作とされる「千手観音菩薩坐像」が展示されていました。持ち物こそ失われていますが、42本の手や台座、光背などは、当初のものが残っているそうです。その周囲には、東大寺の大仏殿様の一例と呼ばれる「四天王立像」が並び立っていました。あわせてお見逃しなきようにおすすめします。
3月11日まで公開されています。
「仁和寺と御室派のみほとけー天平と真言密教の名宝」(@ninnaji2018) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR)
会期:1月16日(火)~3月11日(日)
*葛井寺の「千手観音菩薩坐像」の展示は、2月14日(水)~3月11日(日)。
時間:9:30~17:00。
*毎週金・土曜は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2月12日(月・祝)は開館。2月13日(火)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「あなたが選ぶ展覧会2017」 最終投票結果発表
「あなたが選ぶ展覧会2017」
http://arttalk.tokyo/
改めてご報告します。「あなたが選ぶ展覧会2017」の結果は以下の通りでした。
「あなたが選ぶ展覧会2017」最終投票結果 *( )内はエントリー時の順位。
http://arttalk.tokyo/vote/ranking.html
1位 「ミュシャ展」 国立新美術館 299票 (1位)
2位 「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」 東京国立博物館 121票 (2位)
3位 「怖い絵展」 上野の森美術館 41票 (3位)
4位 「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」 国立西洋美術館 37票 (23位)
5位 「草間彌生 わが永遠の魂」 国立新美術館 32票 (15位)
6位 「生誕140年 吉田博展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館 31票 (11位)
7位 「安藤忠雄展ー挑戦」 国立新美術館 30票 (14位)
8位 「ボイマンス美術館所蔵 ブリュ-ゲル バベルの塔展」 東京都美術館 29票 (5位)
9位 「奈良美智 for better or worse」 豊田市美術館 28票 (18位)
10位 「デヴィッド・ボウイの大回顧展 DAVID BOWIE is」 寺田倉庫G1ビル 26票 (32位)
11位 「アルチンボルド展」 国立西洋美術館 25票 (4位)
11位 「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」 東京都美術館 25票 (32位)
13位 「特別展覧会 国宝」 京都国立博物館 24票 (5位)
14位 「ジャコメッティ展」 国立新美術館 23票 (12位)
15位 「絵巻マニア列伝」 サントリー美術館 22票 (18位)
15位 「特別展覧会 海北友松」 京都国立博物館 22票 (8位)
17位 「長沢芦雪展 京のエンターテイナー」 愛知県美術館 21票 (5位)
18位 「ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展」 Bunkamuraザ・ミュージアム 20票 (15位)
18位 「特別展 茶の湯」 東京国立博物館 20票 (27位)
20位 「N・S・ハルシャ展ーチャーミングな旅」 森美術館 18票 (32位)
21位 「没後40年 幻の画家 不染鉄展」 東京ステーションギャラリー 17票 (10位)
22位 「特別展 快慶 日本人を魅了した仏のかたち」 奈良国立博物館 16票 (12位)
22位 「オルセ-のナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき」 三菱一号館美術館 16票(9位)
22位 「レオナルド×ミケランジェロ展」 三菱一号館美術館 16票 (27位)
25位 「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎!世界が認めたその画力」 Bunkamuraザ・ミュージアム 15票 (15位)
26位 「池田学展 The Penー凝縮の宇宙」 日本橋タカシマヤ 14票 (18位)
26位 「シャセリオー展ー20世紀フランス・ロマン主義の異才」 国立西洋美術館 14票 (23位)
28位 「オットー・ネーベル展-シャガール、カンディンスキー、クレーの時代」 Bunkamuraザ・ミュージアム 11票 (32位)
28位 「北斎 富士を超えて」 あべのハルカス美術館 11票 (27位)
30位 「シャガール 三次元の世界」 東京ステーションギャラリー 10票 (32位)
30位 「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」 千葉市美術館 10票 (18位)
32位 「遠藤利克展ー聖性の考古学」 埼玉県立近代美術館 9票 (27位)
32位 「ボストン美術館の至宝展ー東西の名品、珠玉のコレクション」 東京都美術館 9票 (23位)
34位 「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」 東京国立近代美術館 8票 (32位)
35位 「大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」 森アーツセンターギャラリー 7票 (32位)
36位 「池田学展 The Penー凝縮の宇宙」 金沢21世紀美術館 6票 (32位)
36位 「特別展 雪村ー奇想の誕生」 東京藝術大学大学美術館 6票 (27位)
38位 「驚異の超絶技巧!ー明治工芸から現代アートへ」 三井記念美術館 5票 (23位)
39位 「ヴォルスー路上から宇宙へ」 DIC川村記念美術館 4票 (32位)
40位 「天下を治めた絵師 狩野元信」 サントリー美術館 3票 (18位)
40位 「没後50年記念 川端龍子ー超ド級の日本画」 山種美術館 3票 (32位)
40位 「endless 山田正亮の絵画」 東京国立近代美術館 3票 (32位)
43位 「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」 東京藝術大学大学美術館 1票 (32位)
トップ3は、いずれも今年、大変な話題を集めたミュシャ展、運慶展、怖い絵展でした。特にミュシャ展は、2位以下を引き離し、実に投票総数の3割近くを占めるに至りました。さらに4位に北斎とジャポニスム展、5位に草間彌生展と続きました。
国公立の美術館や博物館での展覧会が目立つ中、6位に損保ジャパン日本興亜美術館の吉田博展が入ったのは印象に残りました。また寺田倉庫のデヴィッド・ボウイの大回顧展も、ベスト10にランクインしました。さらに東京の展覧会が大半を占める中、愛知県の豊田市美術館で開催された奈良美智展が9位に入りました。
右の( )内は、エントリー時の順位です。ベスト3まではエントリー時と変わりませんでしたが、例えば4位の北斎とジャポニスム展が、エントリー23位より4位にランクインしたほか、デヴィッド・ボウイの大回顧展が32位から9位に大きく上げるなど、幾つかの展覧会において変動も見られました。
また投票総数は1108票となり、昨年の535票からほぼ倍増しました。
「あなたが選ぶ展覧会2017 イベントスケジュール」
1.エントリー受付
2017年に観た展覧会で良かったと思うものを3つあげていただきます。
*1月28日(日)で受付を終了しました。
2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた多くの展覧会の中から、最大で上位50の展覧会を2月1日(木)にwebサイト上で発表します。
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html
3.ベスト展覧会投票
エントリーのあった展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。あなたが選ぶ2017年のベスト展覧会を1つ選んで投票して下さい。
*投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)まで
4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果は、2月18日(日)の10時30分から、webのライブイベントで発表致します。
イベント時の動画:https://www.youtube.com/watch?v=CZxULuYgAjI&feature=youtu.be
Vキューブスタジオ(こちらから配信しました。)
結果発表のライブイベントは、予定通り、2月18日(日)の10時30分から、Vキューブの配信システムを利用し、私と「青い日記帳」のtakさん、そしてジャーナリストのチバヒデトシさんとともに行いました。まずベスト10から追いかけ、その後、ベスト11〜20位、そしてベスト3の順に発表しました。リアルタイムでのチャット機能もあり、実際にたくさんの方が、各展覧会についての感想などを書き込んで下さいました。
また既に年が明けていたこともあり、2017年を振り返ったのちは、「2018年気になる展覧会」として、今年の展覧会をいくつかご紹介しました。その際も、皆さんの期待される展覧会をチャットに書き込んでいただきました。フェルメール展、ムンク展、縄文展、横山大観展、小村雪岱展、ヌード展、エッシャー展、大報恩寺展、木島櫻谷展、岡本神草展などがあがりました。
「あなたが選ぶ展覧会」は、皆さんのエントリー、投票があってからこそ成り立つイベントです。今年は、過去2回を大幅に上回るエントリー、投票を頂戴しましたが、運営やイベントの進行など、色々と至らない点も多かったかもしれません。今後も集計、発表の在り方などを再検討しながら、「あなたが選ぶ展覧会2018」の開催を目指したいと思います。
最後になりますが、改めて「あなたが選ぶ展覧会」に参加して下さった全ての方に感謝申し上げます。本当にどうもありがとうございました。
[あなたが選ぶ展覧会2017 イベント概要] *全日程終了しました。
イベントサイト:http://arttalk.tokyo
開催期間:2018年1月15日(月)~2月18日(日)
エントリー受付期限:1月28日(日)
上位50展発表:2月1日(木)
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html
ベスト展覧会投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)
「あなたが選ぶ展覧会2017」発表ライブイベント:2018年2月18日(日)午前10時半より。
ライブイベント動画(youtube):https://www.youtube.com/watch?v=CZxULuYgAjI&feature=youtu.be
ベスト展覧会投票結果:http://arttalk.tokyo/vote/ranking.html
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」 東京国立博物館
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」
2/6~3/18
東京国立博物館・本館7室で公開中の円山応挙の「海辺老松図襖」を見てきました。
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」 江戸時代・天明7(1787)年
「海辺老松図襖」は元々、南禅寺の塔頭である帰雲院を飾った障壁画の一部で、応挙が54歳の時に描きました。
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」 江戸時代・天明7(1787)年
中央には海が開け、その水面は右手の黒い岩を回り込み、遠景の霧を伴いながら、右後方へと広がっていました。波の描線は至って細く、また柔らかで、岩場にぶつかっては、砕け散る白い波頭も僅かに見ることも出来ました。
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」 江戸時代・天明7(1787)年
岩の上で根を下ろす松は、手前から奥へと枝を振り上げているからか、どことなく遠近感もあり、「雪松図屏風」の表現を思わせなくはありません。
左の面にも同じように水辺から岩が切り立ち、やはり松を何本か従えていました。右の岩に比べると墨は薄く、霧に包まれていて、心なしか松も薄い墨で象られているようにも見えました。
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」 江戸時代・天明7(1787)年
崖から上方へ向けて峰が連なり、奥の方にも松が生えていることが見て取れました。そしてこの峰の細部が実に精緻で、離れて見ると良く分からないかもしれませんが、目を凝らすと、山の稜線に無数の松が林立していることが分かりました。
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」 江戸時代・天明7(1787)年
どれほどに深遠な空間が広がっているのでしょうか。この頃の応挙は、香川の金刀比羅宮や、兵庫の大乗寺などの障壁画を手がけるなど、大変に精力的に活動していました。まさに充実した力作と言えそうです。
なお応挙の作品は、7室に続く8室(書画の展開ー安土桃山~江戸)でも、2点の人物像、「拡元先生像」と「端淑孺人像」が公開されています。
円山応挙「拡元先生像」 江戸時代・安永8(1779)年
円山応挙「端淑孺人像」 江戸時代・18世紀
ともに高い写実を思わせる作品で、着衣の文様なども、極めて精緻に描きこんでいました。あわせて鑑賞するのが良さそうです。
3月18日まで公開されています。
円山応挙「海辺老松図襖(旧帰雲院障壁画)」 東京国立博物館・本館7室(@TNM_PR)
会期:2月6日(火)~3月18日(日)
時間:9:30~17:00。
*毎週金・土曜は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し10月9日(月・祝)は開館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」 東京国立博物館
「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」
1/23~5/13 *3/18までより会期延長
東京国立博物館・表慶館で開催中の「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」を見てきました。
イスラム教の最大の聖地、メッカを有し、古代より交易路が交差し、人々の行き交ったサウジアラビアより、同国の誇る貴重な文物が、初めてまとめて日本へとやって来ました。
100万年以上前の石器にはじまり、5000年前の石柱、そしてローマ時代の出土品から、イスラムに関する調度品、さらには現王国の文物までを網羅しています。出展は約420件と膨大でした。
「礫器」 ワーディー・ファーティマ 前期旧石器時代アシュール文化 サウジアラビア国立博物館 ほか
旧石器時代のアラビア半島は、「緑のアラビア」とも呼ばれ、今と異なり、草原が広がり、湖や川も流れていました。さらに紀元前9000年頃から、農耕や牧畜を中心とする定住社会がはじまりました。今も遺跡で発見される石器は、矢尻などの狩猟具が多く含まれています。
「馬」 マカル 新石器時代・前6500年頃 サウジアラビア国立博物館
また、南部のマカルでは、動物像が地元民により発見され、注目を集めました。山羊や猟犬、それに、一際大きな馬も目を引くのではないでしょうか。新石器文化の存在を示唆する、貴重な資料でもあるそうです。
「石製容器」 タールート島 前2400年頃 サウジアラビア国立博物館
アラビア半島の歴史は交易からはじまりました。紀元前2500年頃にメソポタミア文明が成立すると、アラビア湾はインダス文明とを繋ぐ、海の上の道と化しました。アラビア半島の湾岸地域は「ディムルン」と呼ばれ、各地の特産品が集まりました。その拠点の1つがタールート島でした。
「祈る男」 タールート島 前2900〜前2600年頃 サウジアラビア国立博物館
そのタールート島から発掘された石製の容器が多く展示されていました。また目立つのは「祈る男」で、同じくタールート島より出土し、手を前に合わせては、直立する姿を捉えていました。石灰岩で出来ていて、やや上方を向いているようにも見えました。顔やポーズは、シュメール美術の影響を受けているとも言われているそうです。
「インダス式彩文壺」 タールート島 前2200〜前1800年頃 サウジアラビア国立博物館 ほか
「インダス式彩文壺」も同島よりの出土品でした。インダス川流域に特徴的な植物文様が施されていて、ディルムン一帯が、如何に東方のインダスと交流していたのかを、明らかにする資料と言えるかもしれません。
紀元前1000年頃にラクダが運搬動物として利用されると、当時、珍重されていた香料の交易のため、アラビア半島内陸の都市は発展を遂げました。南アラビアの香料や東アフリカの産物などを載せた隊商は、エジプトや地中海世界、またはメソポタミアや湾岸地域へと旅し、多くの人々と交易を行いました。
「柱の台座または祭壇」 タイマー 前5〜前4世紀 サウジアラビア国立博物館
北アラビアのタイマーも交通の要所で、紀元前6世紀頃に大いに栄え、エジプトやメソポタミアの王らにも注目を集めました。「柱の台座または祭壇」は、タイマーにあった砂岩の彫刻で、メソポタミアやエジプトの図像が入り混じり、神官が儀式を行う様子を表していました。
「男性頭部」 ウラー 前4世紀頃 サウジアラビア国立博物館
同じ頃、北西アラビアを代表するオアシス都市であったのは、ダーダーン(現在のウラー)で、先のタイマーと敵対関係にあり、戦争を行なっていました。また紀元前6世紀末にはリフヤーン族が、ダーダーンに代わり、新たな王国を築き上げました。
「男性像」 ウラー 前4〜前3世紀頃 キング・サウード大学博物館 ほか
ここで目立つのは、ダーダーン、つまり現在のウラーに由来する砂岩の彫刻、中でも人間の像でした。立ち並ぶ「男性像」は、いずれも半身が裸で、腰布を巻いていて、ダーダーン王国の王族を象ったとも言われています。
ヘレニズム・ローマ時代に入っても、アラビア半島は交易で繁栄しました。その様子を残すのが、半島南部に広大に伸びる砂漠、ルブゥ・アルハーリー砂漠の端のオアシス都市、カルヤト・アルファーウから発掘された文物で、地中海のガラス器、ヘレニズム世界の神の小像、そしてイエメンの高炉など、幅広い地域から人や物が集まっていたかを知ることが出来ました。
「饗宴」 カルヤト・アルファーウ 1〜2世紀頃 サウジアラビア国立博物館 ほか
ギリシャの酒の神、デュオニュソスを象徴したフレスコ画、「饗宴」も貴重な作品ではないでしょうか。1〜2世紀頃の制作にもかかわらず、まだ色を失っていませんでした。
「イシス=テュケー」 カルヤト・アルファーウ 前1〜3世紀頃 キング・サウード大学博物館 ほか
同じくカルヤト・アルファーウの「イシス=テュケー」は、西のエジプトのイシス女神と、ヘレニズム世界の女神テュケーが習合した神像でした。また美しいマーブル模様を描くガラスの器や、交易に欠かせなかったラクダを象った土製の人形にも目を奪われました。
「男性頭部」 カルヤト・アルファーウ 前1〜2世紀頃 キング・サウード大学博物館 ほか
オアシス都市の出土品はこれだけに留まりません。「男性頭部」はカルヤト・アルファーウの品で、ギリシャ・ローマ風の等身大の人物像の一部であったと言われています。
「葬送用ベットの脚」 テル・アッザーイル 1世紀頃 サウジアラビア国立博物館
ほか1世紀頃の金の「葬送用マスク」や、「葬送用ベットの脚」、また2世紀頃のライオンの頭部を象った青銅製の「ライオン」、さらには1950年頃の発掘調査で複数の墓が発見された、アイン・ジャーワーンに由来する細かな装身具も目を引きました。
「ペンダント」 アイン・ジャーワーン 2世紀頃 サウジアラビア国立博物館
アイン・ジャーワーンの装身具に至っては、ウランのパルティア王国の工芸品との類似も指摘されているそうです。ともかく東西しかり、アラビアと他の地域の交流は、実に幅広いものがありました。
「壁面装飾」 ラバザ 9世紀 サウジアラビア国立博物館
7世紀に入ると、イスラム教が各地へ広まりました。中でも聖地マッカ(メッカ)は重要視され、各地への交易、巡礼路が整備されて行きました。特に重要とされたのが、アッバース朝時代に都クーファと結んだ「ダルブ・ズバイダ」でした。そうした巡礼、交易都市に由来する文物も数多くやって来ていました。中でも最大の巡礼都市だったのは、ラバザで、コーランの一節を象った漆喰の「壁面装飾」なども、興味深い作品と言えるかもしれません。
「彩色坏」 9世紀 サウジアラビア国立博物館
「緑釉壺」や「ラスター彩鉢」、それに「彩色坏」などの工芸に魅惑的なものが少なくありません。植物のモチーフも多く、中には日本の器を思わせるような作品もありました。
「アブドゥッラーの息子アッバースの墓碑」 マッカ 9世紀 サウジアラビア国立博物館 ほか
アラビア文字の美しさには目を見張りました。いわゆる書の芸術で、アラビア文字の刻まれた墓碑がずらりと並ぶ様は、まさに壮観ではないでしょうか。文字は装飾的でかつ、音楽的なリズムを刻み込むようでもありました。
「カァバ神殿の扉」 マッカ オスマン朝時代・1635〜1636年 サウジアラビア国立博物館
マッカのカァバ神殿に関する文物も見逃せません。とりわけ圧巻なのは、「カァバ神殿の扉」でした。オスマン朝時代、1635年から翌年にかけて作られた巨大な扉で、文字の細かな装飾なども施されていました。おおよそ300年間、1930年頃まで神殿で実際に使われていたそうです。一部は明らかにすり減っていて、数百年に渡る歴史の重みも感じられるかもしれません。
「預言者モスク、シリア扉のカーテン」 マディーナ キング・アブドゥルアジーズ図書館
「預言者モスク、シリア扉のカーテン」も壮麗でした。高さは天井付近にまで及ぶ巨大な絹のカーテンで、金糸で草などのモチーフが実に鮮やかに彩られていました。さらに神殿を覆った「キスワ」と呼ばれる布や、「香炉」も見どころと言えそうです。
「アブドゥルアジーズ王の上衣」 20世紀 キング・アブドゥルアジーズ財団 ほか
ラストは「王国への道」と題し、サウジアラビア王国の初代国王である、アブドゥルアジーズ王の遺品を紹介しています。
「アブドゥルアジーズ王の刀」 20世紀 キング・アブドゥルアジーズ財団
金や銀の精緻な装飾による王の刀からは、現在のイスラム工芸の一つの昇華した形を見ることが出来るかもしれません。
「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」会場風景
これほど充実した質量にも関わらず、特別展扱いでなはなく、常設展観覧料(一般620円)のみで楽しむことが出来ました。しかも表慶館の建物内部を含む、全ての作品の撮影も可能でした。
「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」会場風景
一度、夜間開館時に観覧し、再度、休日の午後に改めて見てきましたが、館内はかなり盛況でした。同じく東京国立博物館で開催中の「仁和寺と御室派のみほとけ」展で、目玉となる葛井寺の「千手観音菩薩坐像」の出陳もはじまったこともあり、博物館全体に人出が増して来ました。ひょっとすると終盤は混み合うかもしれません。
「アラビア体験コーナー」(アラビアの遊牧民テント)
会場の表慶館の前には、「アラビア体験コーナー」として、アラビアの遊牧民テントが設営中です。当初は会期の冒頭、2月4日までの限定でしたが、2月中の土日祝日にも、引き続き設置されることが決まりました。
「アラビア体験コーナー」(アラビアの遊牧民テント)
中にはアラビックコーヒーに関する民具や、香炉、それに敷物や毛織物、伝統衣装などが展示されているほか、各日先着1000名に限り、アラビックコーヒーと、ナツメヤシの実のお菓子であるデーツが無料で振る舞われます。
【アラビアの道】サウジアラビア王国の至宝を日本で初めて公開する本展。1089ブログでは担当研究員、小野塚のお気に入りの1点をご紹介しています。 #アラビアの道 https://t.co/m7omTx6tNw
— トーハク広報室 (@TNM_PR) 2018年2月7日
私が2度目に出向いた際は、既に14時の段階で終了していましたが、アラビアの方もいて、ちょっとした異文化体験をすることも出来ました。テントの設営している間に出かけるのも楽しいかもしれません。*2月中旬以降中のテント設営日:2月17日(土)、2月18日(日)、2月24日(土)、2月25日(日) 各10:00~15:00
「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」会場風景
*当初の会期が延長され、5月13日(日) までの開催が決まりました。
「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」 東京国立博物館・表慶館(@TNM_PR)
会期:1月23日(火)~5月13日(日) *3月18日(日)までより会期延長。
時間:9:30~17:00。
*毎週金・土曜日は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2月12日(月・休)は開館し、2月13日(火)は休館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*「仁和寺と御室派のみほとけ」展のチケットでも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「いのちの交歓」 國學院大學博物館
「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」
2017/12/16~2018/2/25
「いのちとは何か」をテーマに、考古遺物から現代美術までを紹介する展覧会が、國學院大學博物館にて開催されています。
「火に焼かれた石ころたち」 縄文時代 川崎市高津区 風久保遺跡出土
いきなり現れたのが、縄文時代の火に焼かれた石ころでした。川崎市高津区の出土品で、やや大ぶりの石は、かつて食べ物の煮炊きに使ったのか、やや焦げて、赤らんでいるようにも見えなくありません。そして展示ケースを越えて、目に飛び込んで来たのが、岡本太郎の「雷人」でした。さらに「雷人」の前には、古墳時代の錆びついた刀や冑なども、どこか散乱するかのように置かれていました。その新旧の「交歓」は、まさしく独特で、何やら異様なまでの熱気を漂わせていたかもしれません。
岡本太郎「雷人」(未完成) 岡本太郎記念館
岡本太郎は1996年、著作「神秘日本」において、人間と人間以外のモノたちとの「食べる/食べられる」の関係性を、「いのちの交歓」と呼びました。また古事記によれば、いのちは、伊邪那美命と呼ばれる、女神の死にゆく亡骸から噴き上がる汚物から生まれました。そして展示では「雷人」を、黄泉の国の伊邪那美命に重ね合わせていました。
「人が食事に使った飯櫃を虫が喰う」 昭和中頃 國學院大学博物館
その古事記が展示のベースにありました。そこから古代、現代を問わず、様々な遺物や道具、装身具のほか、岡本太郎をはじめとする現代美術家らを参照、ないしはぶつかり合せることで、「生と死の生命観」を再び問い直そうと試みていました。
岡本太郎「豊穣の神話」 岡本太郎記念館
「土偶の頭・手・足・胴体」 縄文時代中期〜晩期 東日本各地 ほか
それにしても時代はない交ぜにされ、一筋縄では捉えられません。例えば、同じく岡本太郎の「豊穣の神話」の前には、縄文時代の土器の顔の破片や、土偶の身体の欠片などがありましたが、それらとともに、現代に採取された剥製、さらには米びつや木の糸巻きも並んでいました。縄文から近現代の間に、高い壁は一切ありません。
「獣の革靴たち」 現代
「牛の革靴」 イタリア 現代 個人蔵 ほか
まるで遺跡から出土したような獣の革靴は、おおよそ1950年から60年代に奈良県で作られたもので、その隣には、何と昨年、イタリアで作られた牛の最新の革靴が置かれていました。さらに剥製や毛皮、中には縄文人に食べられた鹿の角や骨も登場していました。今、自分が目にしているものが、果たしていつの時代のものかを判別するのは、にわかには困難でした。
田中望「モノおくり」 國學院大學博物館
現代美術で目立っていたのは、日本画の手法を用い、古代神話の世界を表現した田中望でした。「モノおくり」では、ウサギに置き換わった人々が、高い石柱らしき物体を前に、円を描って踊りながら、祈りを捧げる様子を描いていました。巨石などのモチーフもプリミティブで、なおかつ大きな大根が供されるなど、幻夢的な世界が広がっていると言えるかもしれません。細部の描写こそ緻密ながらも、スケールは大きく、岡本太郎に引けを取らないような力感もありました。
藤原彩人「磁釉陶」 作家蔵
人体をモチーフに彫刻を手がける、藤原彩人の「磁釉陶」も目を引くのではないでしょうか。壺のような下部より突き出たのは、手を上下に振った人の姿でした。さも瞑想するかのように目を伏していましたが、その仕草は、何らかの楽器を奏でているようでもありました。
「窪地中央に置かれた大石」 縄文時代後期〜晩期 千葉県流山市 三輪野山貝塚出土 流山市教育委員会
その前にあるのが、千葉県流山市の貝塚より発掘された、縄文時代後期から晩期の大石でした。やや楕円形をしていて、窪地の中央に置かれていたとされています。石は石に過ぎないかもしれませんが、実に存在感があり、まるで太古から土中のエネルギーを蓄えているかのようでした。
「丸石と鹿の骨」 丸石:縄文時代中期〜晩期 國學院大學博物館 骨:2010年1月没(群馬県多野郡上野村) 個人蔵
さらに弥生時代の溶岩で出来た石皿や、まるで供え物のように配された丸石や鹿の骨もあわせ並んでいます。1つ1つの資料なり文物が、生と死、つまりは生命に関わっていました。
「溶岩でつくられた石皿と磨り石」 弥生時代中期 國學院大学博物館
映像作家、井上亜美の作品も興味深いのではないでしょうか。いずれも狩猟をテーマとしていて、食べると食べられるの関係、まさしく「命の交歓」を考えさせるものがありました。
「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」会場風景
それにしても濃密極まりない空間です。またキャプションも力が入っていました。見せる上に、読ませる展覧会でもあります。
「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」会場風景
カタログに当たる小冊子が300円で販売されていました。これほど多岐に渡る内容のゆえ、私もどこまで踏み込めたのか自信がありませんが、少なくとも展示への理解の助けとなりそうです。
現在開催中の「いのちの交歓」展、コンセプト動画をご紹介。本展タイトルの引用元、岡本太郎の文章から始まります。古事記をベースとしている展覧会のコンセプトを、石や樹、火、金属、土、水、動物の皮、展示品の一部のズーム写真とともに散文的に構成しています。https://t.co/hc6BGv7V0a pic.twitter.com/Fk8ZyfZ7LE
— 國學院大學博物館 (@Kokugakuin_Muse) 2018年1月26日
入場は無料です。2月25日まで開催されています。
「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」 國學院大學博物館(@Kokugakuin_Muse)
会期:2017年12月16日(土)~2018年2月25日(日)
休館:12月26日(火)~1月5日(金)、2月2日(金)。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:無料。
住所:渋谷区東4-10-28 國學院大學渋谷キャンパス 学術メディアセンター 地下1階
交通:JR線、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線、東急東横線・田園都市線渋谷駅より徒歩15分。渋谷駅東口バスターミナル54番乗り場より都営バス「学03日赤医療センター行き」で「国学院大学前」下車すぐ。JR線、東京メトロ日比谷線恵比寿駅西口ロータリー1番乗り場より都営バス「学06日赤医療センター行き」で「東四丁目」下車。徒歩5分。
「レアンドロ・エルリッヒ - Cosmic & Domestic」 アートフロントギャラリー
「レアンドロ・エルリッヒ - Cosmic & Domestic」
1/19〜2/25
アルゼンチン出身の現代アーティスト、レアンドロ・エルリッヒの個展が、代官山のアートフロントギャラリーにて開催されています。
まず並ぶのは、6台の乾燥機でした。これが新作の「Laundry」で、実際のコインランドリーでも見かけるように、各々の乾燥機で洗濯物が回転していました。ぐるぐるとひたすらに回る洗濯物の姿は、至って日常的な光景ではないでしょうか。それこそしばらく前、天気の悪い日が続き、重い洗濯物を担いでランドリーへ行くと、乾燥機が全て塞がっていて、ただ待つしかなかったことを思い出しました。
もちろん、ギャラリーの中にコインランドリーが出現したわけではありません。結論からすると、洗濯物自体も存在せず、全ては映像で、乾燥機の窓を模したモニターに、回転する洗濯物を映し出していました。
もう1点は、やや大型のインスタレーションでした。「Elevator Maze」と名付けられた作品で、部屋の中に3機のエレベーターが並んでいました。いずれも扉は開け放たれていて、中に入ることも出来ました。
木目を基調とした内装には落ち着きもあり、階数のボタンは青色に点灯していました。とはいえ、ここはギャラリーで、実際に動くはずもありません。あくまでもエレベーターを模した空間に過ぎません。
ただしそれで終わりではありませんでした。すぐに何とも言い難い違和感に襲われました。ドアの反対側にあるはずの姿見、つまり鏡に、自分の姿が映り込みません。一体、どうしたことなのでしょうか。
至ってシンプルな仕掛けでした。一部の面の鏡を取っ払い、中を空洞にした上、もう一つのかごが隣り合わせに設置しています。つまり手前に3つ、向こう側に3つ、計6つのエレベーターのカゴを作ったわけでした。自分の姿が写る箇所と映らない箇所があり、しばらく中にいると、さも迷路へ放り込まれたかのような錯覚にとらわれるかもしれません。
それにしてもエルリッヒは近年、日本での積極的な活動が目立ちます。最近ではスパイラルの「窓学」展で新作を出展した上、現在は森美術館でも大規模な個展を行なっています。さらに今年の「越後妻有 大地の芸術祭」にも参加するそうです。どのような新作を見せるのでしょうか。
広いスペースではありませんが、森美術館の展示を補完する内容と言えるかもしれません。一見、大掛かりに見えながら、簡素な仕掛けで、視覚的体験を揺さぶる、エルリッヒの創作世界を体感出来ました。
Leandro Erlich solo show is being held right now. This picture is Leandro in his "Elevator Maze".Leandro Erlich : Cosmic & Domestic2018. Jun. 19(Fri) - Feb. 25 (Sun)https://t.co/0RVrSWM5of#artfrontgallery #artfront #leandroerlich pic.twitter.com/8b32TZmuCO
— アートフロントギャラリー (@art_front) 2018年2月2日
2月25日まで開催されています。
「レアンドロ・エルリッヒ - Cosmic & Domestic」 アートフロントギャラリー(@art_front)
会期:1月19日(金)〜2月25日(日)
休廊:月曜日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:渋谷区猿楽町29-18ヒルサイドテラスA棟
交通:東急東横線代官山駅より徒歩5分。
「アニマル・ワールド」 加島美術
「アニマル・ワールド 日本画の動物ってこんなにかわいい!!」
2/3〜2/25
「アニマル・ワールド 日本画の動物ってこんなにかわいい!!」を見てきました。
東京・京橋の画廊、加島美術に、江戸から近現代の日本の動物画、約50点が、ずらりと勢揃いしました。しかも嬉しいことに、ガラスケースもなく、露出展示で、いずれも目と鼻の先で作品を愛でることが出来ました。
岸駒「孔雀図」 江戸中期〜後期
まずは江戸絵画でした。岸駒は「孔雀図」において、これ見よがしに羽を広げては、樹上に止まった孔雀を表現しました。首を少しひねった仕草にも動きがあり、どこか眼光鋭く、見るものを威嚇しているようにも思えなくはありません。素早い筆による木の枝の描写も、とても趣きがありました。
長沢芦雪「月下鹿図」 江戸中期
愛知県美術館の回顧展で話題を集めた長沢芦雪にも、同じく目に力のある動物画がありました。それが「月下鹿図」で、表題が示すように、上空の半月の下、おそらくは雪原の上を鹿が歩く様子を正面から捉えていました。毛羽立った筆で鹿の毛を表す一方、蹄にはやや濃い墨を重ねていて、丸い模様の浮き出た角は、思いの外に細かく描いていました。
円山応挙「雪柳狗子図」 江戸中期
干支に因む戌の作品も少なくありません。その筆頭に挙げられるのが、犬を得意とした円山応挙の「雪柳狗子図」で、雪の降り積もった柳の木の下で、子犬たちが戯れ合っていました。
円山応挙「雪柳狗子図」 江戸中期
ころころと丸みを帯びた子犬は見るも可愛らしく、中には雪で滑ったのか、ひっくり返った子犬もいました。これぞ応挙犬の真骨頂ではないでしょうか。出展中、最も愛くるしい作品かもしれません。
中村芳中「雙鶏図」 江戸中期〜後期
なごみの琳派こと中村芳中の「雙鶏図」にも心惹かれました。番いの鶏を描いた掛け軸で、向きがちょうど互い違いになっていました。抑揚のある線で鶏の身体を描いていて、尾っぽは大胆にも太い墨をはね上げて表現していました。席画ならぬ、即興的に描いたのかもしれません。
渡辺省亭 「紅楓鳩温牡丹」 明治時代
昨年、加島美術の「蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭」展を発端に、一部の日本画ファンの中で人気を博した渡辺省亭にも、見逃せない優品がありました。それが二幅の「紅楓鳩温牡丹」で、右に黄色い楓と鳩のつがい、そして左に雀と薄いピンク色に染まる大輪の牡丹を表していました。
渡辺省亭 「紅楓鳩温牡丹」 明治時代
楓はラフな筆で素早く表現する一方、鳩や雀の羽は絵具を細かく重ねて描き、牡丹の花弁も一枚一枚が繊細で、色には透明感もありました。硬軟の筆を巧みに使い分けた、省亭ならではの作品と言えるかもしれません。
森狙仙「白薔薇猿蜂之図」 江戸中期〜後期
猿の絵師、森祖仙の「白薔薇猿蜂之図」も魅惑的でした。白い薔薇の枝を背景に、親子の猿を描いた作品で、ちょうど小猿は地面の上を這う昆虫に手を伸ばそうとしていました。ここで何よりも優れているのは、猿の毛並みで、細い毛を丁寧に描きながら、全体のふんわりとした質感も同時に表現していました。
柴田是真「牧童図窓猿」 江戸後期〜明治時代
柴田是真の「牧童図窓猿」も面白いのではないでしょうか。ちょうど窓の格子の向こうで、猿が手をやりながら、何かを伺うような仕草を見せていました。上下と左右を切り取ったような構図にも妙味があり、まるで格子に閉じ込められたかのようで、ひょっとすると猿は外へ出たがっているのかもしれません。その視線の行方も気になりました。
河鍋暁斎「蛙図」 江戸後期〜明治時代
人気の河鍋暁斎の「蛙図」も楽しい作品でした。蛙を擬人化し、子をおんぶしたり、何やら隊列を組むべく、胸を張っては、堂々と立つ蛙を描いていました。
前田青邨「闘犬」 大正〜昭和時代
何も江戸絵画だけでなく、近現代の動物画のあわせて紹介しているのも特徴です。例えば前田青邨は、「闘犬」で、闘う犬と見物人の様子を表現しました。
猪熊弦一郎「猫図」 昭和〜平成時代
また猪熊弦一郎の「猫図」も一際、異彩を放つ作品ではないでしょうか。3月末よりBunkamraザ・ミュージアムで始まる、「猪熊弦一郎展 猫たち」を控えての出展かもしれません。
上村松園「ねずみ」 大正〜昭和時代
思いがけないほどに惹かれた作品と出会いました。それが美人画の名匠、上村松園の「ねずみ」で、タイトルからすれば、竹の上のねずみを表現しているのかもしれませんが、その可愛らしい姿は、どう見ても和菓子などの雪うさぎにしか思えません。
「アニマル・ワールド」会場風景
ほかにも葛飾北斎、伊藤若冲、曾我蕭白、菱田春草、竹内栖鳳、小林古径、熊谷守一と盛りだくさんでした。まさに日本画の動物園と言って良いかもしれません。お気に入りの1点を見つけるにも、さほど時間がかかりませんでした。
「アニマル・ワールド」会場風景
撮影不可マークのついた作品以外は、自由に撮影も出来ました。またギャラリーの展示だけに購入も可能でした。
ちらしを開くと、中に「アニマルワールド 動物めぐりMAP」と題し、現在、都内で開催中の動物画に因む展覧会がリストアップされていました。公式サイトからも閲覧可能(WEBページ)です。このMAPを頼りに、各地の展覧会を練り歩くのも楽しそうです。
入場は無料です。会期中のお休みもありません。
アニマルワールド展、スタート!動物たちに会いに来てくださいね!Our exhibition "Animal World" started! Come and meet the animals! https://t.co/9bORLDRz3a pic.twitter.com/5T8BiXGtOs
— 加島美術 / Kashima Arts (@Kashima_Arts) 2018年2月5日
2月25日まで開催されています。
「アニマル・ワールド 日本画の動物ってこんなにかわいい!!」 加島美術(@Kashima_Arts)
会期:2月3日(土)〜2月25日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00
料金:無料。
住所:中央区京橋3-3-2
交通:東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分。地下鉄有楽町線銀座一丁目駅出口7より徒歩2分。JR線東京駅八重洲南口より徒歩6分。
「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」 東京都美術館
「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」
1/23~4/1
東京都美術館で開催中の「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」を見てきました。
16世紀から17世紀のヨーロッパの画家で影響力を及ぼしたブリューゲル一族は、多様な芸術的視点を持ち合わせ、同じく多くの主題を扱いながら、おおよそ150年間に渡って絵画を制作し続けました。
ブリューゲル一族の作品がやって来ました。出展数は約100点で、油彩、ペン画、版画と多岐に渡っています。また海外の個人蔵、すなわちプライベートコレクションが多く、殆どが日本初公開の作品でした。
一族の祖であるピーテル・ブリューゲル1世は、ヒエロニムス・ボスの様式を取り入れた絵画で人気を博し、「第二のボス」と称されました。またボスよりも中庸な目で現実を見据え、農民たちの生活を多く描いたことから、「農民画家」とも呼ばれました。その持ち前の観察眼は、2人の息子、つまりピーテル・ブリューゲル2世と、ヤン・ブリューゲル1世に受け継がれました。
ピーテル・ブリューゲル1世と工房「キリストの復活」
1563年頃 Private Collection, Belgium
ピーテル1世で目立つのは、工房作ともされる「キリストの復活」でした。墓の入口が開き、ちょうどキリストが現れる場面を描いていて、手前には驚いて墓に目を向ける兵士たちの姿を見ることが出来ました。パトロンであった枢機卿のために制作されたもので、絵画の絵具層には、下絵素描も残されているそうです。
ピーテル・ブリューゲル1世(下絵)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)「最後の審判」
1558年 Private Collection
いかにもボス風の作品と言えるかもしれません。それが同じくピーテル1世による「最後の審判」で、中央上空にキリストがいて、左に救われる者、右にぱっくりと口を開けた地獄へ落ちる者を表していました。手前には典型的なボス風の魔物もいて、人を飲み込んだりもしています。こうした主題は、15世紀から16世紀のネーデルラントの絵画や素描で人気を集めました。
マールテン・ファン・ファルケンボルフ、ヘンドリク・ファン・クレーフェ「バベルの塔」
1580年頃 Private Collection, France
ほぼ同時代の、マールテン・ファン・ファルケンボルフとヘンドリク・ファン・クレーフェによる「バベルの塔」も、興味深いのではないでしょうか。ちょうど昨年春、東京都美術館で公開された、ピーテル・ブリューゲル1世の同名作に影響を受けたとされ、実際に2人の画家も、ピーテル1世の存命中に、作品を目にしたと言われてています。後景の広いパノラマ的な視点と、手前の生き生きとした人物表現、それに抜けるように青い空の色彩にも目を引かれました。
ヤン・ブリューゲル1世「水浴をする人たちのいる川の風景」
1595〜1600年頃 Private Collection, Switzerland
ピーテル1世による自然、ないし山岳風景の関心を受け継いだのは、次男のヤン・ブリューゲル1世でした。一例が「水浴をする人たちのいる川の風景」で、森の木立の中、川に入っては、水を浴びる人々の様子を表していました。石造りの家々に樹木の葉、それに空を舞う鳥の表現などは実に緻密で、それこそ細密画ならぬ、水面には人の映る影まで描きこんでいました。また、木立から奥へと広がる構図にも、安定感があるのではないでしょうか。見応えのある一枚でした。
ヤン・ブリューゲル1世(?)、ルカス・ファン・ファルケンボルフ「アーチ状の橋のある海沿いの町」
1590〜1595年頃 Private Collection, Belgium
一方で、ヤン・ブリューゲル1世とルカス・ファン・ファルケンボルフによる「アーチ状の橋のある海沿いの町」は、独特な幻想性を帯びた作品で、前景の写実的な人や家畜の描写とは裏腹に、彼方へと広がり、霞のかかった後景の海や空には、どこか非現実的な雰囲気も漂っていました。ヤン1世が人物や牛、またファルケンボルフが橋と港、それに海などを描いたとされているそうです。
ヤン・ブリューゲル1世の兄であるピーテル・ブリューゲル2世は、父のピーテル1世の模倣作を描き、その様式を世へ広めました。また雪景などの冬の風景画でも成功を収めました。
ピーテル・ブリューゲル2世「鳥罠」
1601年 Private Collection, Luxembourg
その父の模倣作、つまりコピーであるが「鳥罠」で、おそらく父の考案した題材を、ピーテル2世や一族が類型化した作品だと言われています。雪に覆われた集落はいかにも寒そうで、当然ながら樹木には葉もなく、川も凍りついていて、その上を人々が滑っていました。
ヤン・ブリューゲル2世「冬の市場への道」
1625年頃 Private Collection
ヤン2世も「冬の市場への道」など、冬の風景画を描きました。同じく雪に覆われた大地でありながら、手前の馬車のそばで休む農民をクローズアップするなど、より牧歌的で、画家による人の生活に対する関心も伺えるかもしれません。
ヤン・ブリューゲル1世「馬と馬車(準備素描)」
1610年頃 Private Collection
インクやチョーク画にも魅惑的な作品がありました。その1つがヤン1世の「馬と馬車」で、油彩画の準備素描として、荷馬車や農民たちを、チョークの細い線で描きこんでいます。タッチは繊細で、画家の筆遣いをダイレクトに感じられる作品かもしれません。
ヤン1世の子、ヤン・ブリューゲル2世は、寓意画や神話画を得意とする画家でした。それは「平和の寓意」、「戦争の寓意」、「嗅覚の寓意」、「聴覚の寓意」、「愛の寓意」など、一連の寓意画にも見ることが出来ました。
ヤン・ブリューゲル1世「ノアの箱舟への乗船」
1615年頃 Anhaltische Gemaldegalerie Dessau
ヤン1世の「ノアの箱舟への乗船」も、聖書の神話をモチーフとする作品で、箱舟に乗るべく、たくさんの動物たちが集まって来ていました。かつてはヤン1世の作品を、子のヤン2世がコピーしたとされてきましたが、修復の結果、ヤン1世作、ないし工房作として考えるようになったそうです。じゃれ合うライオンなど、動物の動きも面白いのではないでしょうか。
2階展示室の全ての作品の撮影が出来ました。(2月18日までの期間限定)
ブリューゲル一族は、静物画の隆盛に大きな役割を果たしました。17世紀頃のオランダの花の静物画は、異国由来の新種の関心や、チューリップへの投機などに支えられました。またフランドルの静物画は、コレクターであった貴族のコレクションとして発展しました。それゆえか、希少であることや異国性が重視されました。
ヤン・ブリューゲル1世、ヤン・ブリューゲル2世「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」
1615〜1620年頃 個人蔵
花の静物画を特に得意としたのは、「花のブリューゲル」呼ばれたヤン1世でした。「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」は、ヤン1世と、その工房で修行していたヤン2世による共作で、透明なガラスの花瓶に入れられた花束を正面から描いていました。バラには蜂もとまり、机上には昆虫の姿も見えました。なおチューリップに縞模様がありますが、これはウイルス性の病気に罹っているからだそうです。しかし当時は、原因が分かっておらず、むしろ希少品として珍重されました。
アブラハム・ブリューゲル「果物と東洋風の鳥」
1670年 個人蔵
ピーテル1世のひ孫にあたるアブラハム・ブリューゲルも、静物と花を得意とした画家でした。「果物と東洋風の鳥」は、イタリアへ渡った際にローマで描かれた作品で、フランドルの緻密な描写をもって、イタリア風の静物画に仕上げていました。こうした静物は人気を集め、有力貴族らのパトロンを得ることが出来たそうです。
ヤン・ブリューゲル2世、フランス・フランケン2世「彫刻と鍍金の施された花瓶に入った花束」
1625〜1630年頃 個人蔵
また、ヤン2世とフランス・フランケン2世による「彫刻と鍍金の施された花瓶に入った花束」も、目立っていたのではないでしょうか。縦に1メートルを超える、比較的大きな作品で、花をヤン2世、瓶をフランケン2世が担当しました。花の鮮やかな色彩感と、彫刻の施された瓶の重い質感も見どころかもしれません。
ヤン・ファン・ケッセル1世「蝶、コウモリ、カマキリの習作」
1659年 個人蔵
ヤン1世の娘、パスハシアと、画家、ヒエロニムス・ファン・ケッセルの息子である、ヤン・ファン・ケッセル1世に面白い作品がありました。それが「蝶、カブトムシ、コウモリの習作」で、コウモリを中心に、トンボや蝶などの昆虫を、白い大理石へ描きこんでいます。素材は油彩ですが、筆は大変に細かく、写実的で、まるで標本箱を覗き込んでいるかのようでした。実際に画家は、屋外での観察だけでなく、書物も参照して描いたそうです。
ピーテル・ブリューゲル2世「七つの慈悲の行い」
1616年 個人蔵
ラストは農民の日常風景、中でも婚礼の踊りを描いた作品でした。元々、農民の作品は、風刺的な意味を持っていましたが、ブリューゲル一族は、むしろ親しみのある眼差しで農民を見据え、その勤勉さなどを称ようとしました。ピーテル1世は農民に交じり、祭りを楽しみ、またピーテル2世も、父と同じく、時に農村へ出向いては、農民たちの生活を観察しました。
ピーテル・ブリューゲル2世「野外での婚礼の踊り」
1610年頃 個人蔵
ここでは最後の1点、ピーテル2世の「野外での婚礼の踊り」が魅惑的でした。手前には複数のカップルがダンスを楽しみ、右奥のテーブルには、婚礼とあるように、花嫁が座っていました。酒を飲んでいるのか、大きな壺を抱えている者や、楽器を演奏している人物もいて、賑やかな宴の様子も伝わってきました。こうした主題の作品はピーテル1世が初めて描き、ピーテル2世以下、一族にも受け継がれました。相当に人気のあるテーマでもあったそうです。
ピーテル・ブリューゲル1世(下絵)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)「春」
1570年 個人蔵
全体を通すと、思っていたより小粒な印象も否めませんでしたが、そもそも4世代のブリューゲル一族の作品を通して見られること自体が、貴重な機会であるのかもしれません。また今回の展覧会は、2012年にイタリアのコモで開催され、そののち、作品を入れ替えながら、フランス、ドイツ、イスラエル、そして日本へやって来た、国際巡回展でもあります。
ヤン・ブリューゲル2世「ガラスの花瓶に入った花束」
1637〜1640年頃 個人蔵
混雑を見込んで、会期1周目の日曜日の午後に出かけて来ましたが、館内には余裕がありました。
「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」2階展示室 *2月18日まで撮影可
今のところ、土日を含め、特に行列は発生していません。なお混雑情報については、公式の専用Twitterアカウント(@bru_konzatsu)が、待ち時間の情報をこまめに発信しています。そちらも有用となりそうです。
キャプションに一工夫がありました。というのも、作品名に制作年や解説のほかに、「父ー子ー孫ーひ孫」として、画家がどの世代に属するか、一目で分かるように明記されていたからです。鑑賞の参考になりました。
☆期間限定☆
— ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 (@brueghel2018) 2018年2月4日
2/18まで「静物画の隆盛」「農民たちの踊り」をテーマとした2階展示室の全作品が撮影可能です📷
ヤン1世の孫にあたるヤン・ファン・ケッセル1世の大理石に描かれた作品を撮影できるまたとない機会ですよ‼️#ブリューゲル展 をつけて投稿して下さいね✨ #インスタ映え@brueghel2018 pic.twitter.com/G7toEIIUul
繰り返しになりますが、2月18日までは、2階展示室内の作品の撮影も可能です。但しフラッシュ、三脚の使用は出来ません。また混雑時には中止する場合もあるそうです。ご注意下さい。
4月1日まで開催されています。
「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」(@brueghel2018) 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:1月23日(火)~4月1日(日)
時間:9:30~17:30
*毎週金曜日は20時まで開館。
*11月1日(水)、2日(木)、4日(土)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2月12日(月)は開館。2月13日(火)は休館。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、高校生800(600)円、65歳以上1000(800)円。高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
「あなたが選ぶ展覧会2017」発表ライブイベントを開催します
「あなたが選ぶ展覧会2017」
http://arttalk.tokyo/
「あなたが選ぶ展覧会2017」エントリー結果
http://arttalk.tokyo/vote/result.html
さらに現在、「ベスト10」を投票という形で選んでいただいております。投票期限は2月12日(月)までです。既に多くの方が投票して下さいました。本当にありがとうございました。(最終投票フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/)
その結果を発表するライブイベントをWEBで開催します。
【「あなたが選ぶ展覧会2017」投票結果発表!ライブイベント】
・日時:2018年2月18日(日) 10:30〜11:30
V-CUBE(ブイキューブ)の配信システムを利用します。
開始時間の10分前から指定したwebサイトにログインしてください。
webサイトのアドレスは、お申し込み頂いた後、折り返しメールにてご案内致します。
・出演
青い日記帳Takさん http://bluediary2.jugem.jp/
チバヒデトシさん(ジャーナリスト) https://www.facebook.com/chibahide
はろるど
・内容
「あなたが選ぶ展覧会2017」の最終投票結果を発表します。
・ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/
・参加費:無料
開催日時は、2月18日(日)の午前10時30分からです。ライブは例年同様、Vキューブの配信システムを利用します。あくまでもWEB上のイベントです。ネット回線を通じ、自宅のパソコンや、出先のスマートフォン(専用のアプリをダウンロードする必要があります。)でご参加いただけます。会場にお越しいただく必要はありません。
発表ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/
イベント時はチャットを通じ、参加者の皆さんも出演者とのやり取りが可能です。途中、アンケートなども実施しながら、皆さんのご意見やコメントをご紹介した上で、和気藹々と進めていければと考えています。
今年もジャーナリストのチバヒデトシさんをお迎えしました。またお馴染みの「青い日記帳」のTakさんも出演されます。既に年も明けていますので、2017年の振り返りだけでなく、今年の展覧会の展望についてもお話し頂く予定です。
「あなたが選ぶ展覧会2017 イベントスケジュール」
1.エントリー受付
2017年に観た展覧会で良かったと思うものを3つあげていただきます。
*1月28日(日)で受付を終了しました。
2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた多くの展覧会の中から、最大で上位50の展覧会を2月1日(木)にwebサイト上で発表します。
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html
3.ベスト展覧会投票
エントリーのあった展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。あなたが選ぶ2017年のベスト展覧会を1つ選んで投票して下さい。
投票フォーム::https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/
*投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)まで
4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果は、2月18日(日)の10時30分から、webのライブイベントで発表致します。
発表ライブイベントの申し込みは→https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/
イベントに際しては、システムの都合上、事前のお申し込みが必要ですが、お名前はハンドルネームでも構いません。もちろん費用も一切かかりません。
「あなたが選ぶ展覧会」は、毎年、皆さんのエントリー、投票より選ばれます。2017年はどのような結果となるのでしょうか。多くの方のご視聴、ご参加を心よりお待ちしております。
発表ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/
[あなたが選ぶ展覧会2017 イベント概要]
開催期間:2018年1月15日(月)~2月18日(日)
エントリー受付期限:1月28日(日) *終了しました。
上位50展発表:2月1日(木)
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html
ベスト展覧会投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)
最終投票フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/
「あなたが選ぶ展覧会2017」発表ライブイベント:2018年2月18日(日)午前10時半より。
発表ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/
「墨と金 狩野派の絵画」 根津美術館
「墨と金 狩野派の絵画」
1/10~2/12
根津美術館で開催中の「墨と金 狩野派の絵画」を見てきました。
室町時代の京都で興った狩野派は、足利将軍の御用をつとめ、歴代の権力者の庇護を受けながら、江戸時代を通して、画壇の頂点に君臨しました。
狩野派の基本にあったのは、水墨でした。特に初代の正信の子、元信は、先行した中国の水墨の様式を整理し、いわゆる真体、行体、草体の三種の画体を作り出しました。
「養蚕機織図屏風」(右隻) 伝狩野元信 室町時代・16世紀 根津美術館
そのうち、緻密な構図と描線を特徴としたのが真体で、伝元信の「養蚕機織図屏風」に例を見ることが出来ました。ちょうど屏風の中央に水辺が広がり、左右に山々、ないし楼閣が並ぶ山水の景観を表していて、その中に、中国の「耕織図」に由来する、養蚕と機織りの13の作業場面を描きました。
水墨の筆は的確で、繭を選別するプロセスの人々の姿も細かく、機織りの場面で、織物がぴんと張る様子も忠実に再現していました。しかし全てが緻密というわけではなく、例えば水面の揺らぎを柔らかな曲線で表し、時に等伯の松林図を彷彿させるような松林を描き加えるなど、硬軟を交ぜた筆さばきも、見事と言えるのではないでしょうか。また「耕織図」の主題には、施政者が農民の労苦を労る意味も持ち得ていて、まさに権力者に接近した、狩野派ならではの作品なのかもしれません。
こうした真体と、崩した描写の草体の中間にあるのが、行体と呼ばれる画体でした。一例が元信印の「四季花鳥図屏風」で、山水の自然へ、鳥が集う様子を描いていました。丸く、柔らかみのある筆は伸びやかで、鳥の羽の一枚一枚を丁寧に描きつつ、柳の木の葉が風に揺れる様子なども巧みに表現していました。また鳥たちの表情も生き生きとして、細部へと寄ってみれば、それこそ鳥の囀りが聞こえてくるような臨場感があるかもしれません。制作に際しては、元信の弟である之信、ないし三男の松栄の関与も指摘されているそうです。
「犬追物図屏風」(右隻) 江戸時代・17世紀 根津美術館
「犬追物図屏風」も見逃せませんでした。武家が騎射、つまり馬上から矢を射る訓練のために行われた競技を描いた作品で、大勢の人たちが見守る中、馬に乗った武人らが、円を描くように馬を進めたり、犬を追いかけたりしていました。特に目を引いたのが、見物人の姿で、指を差しては武人を楽しそうに眺めたり、何やら宴会をしているような者もいました。大変な賑わいで、ちょっとしたお祭りであったのかもしれません。
大作の屏風だけでなく、比較的小さな掛軸画にも、思いがけない優品がありました。狩野探幽の妹の国と、弟子の久隅守景の間に生まれた、清原雪信による「西王母図」も、魅惑的な作品と言えないでしょうか。2つの花と実をつけた桃を持つのが、中国で古くから信仰された西王母で、すくっと立つ姿からして美しく、実に典雅な雰囲気を漂わせていました。
「梟鶏図」(部分) 狩野山雪 江戸時代・17世紀 根津美術館
狩野山雪の「梟鶏図」も面白い作品でした。2幅の画面に、左に朝の鶏、そして右に夜の梟を対比させるように描いていました。ともかく鶏と梟の表情が滑稽で、何やら鶏は不機嫌なのか、しかめっ面であり、一方の梟も上目遣いですっとぼけたような仕草を見せていました。擬人化ならぬ、人の心理を投影させて表現したのかもしれません。
思いがけないくらい感銘を受けた作品がありました。それが久隅守景の「舞楽図屏風」で、6曲1双の大画面に、左へ「納曾利(なそり)」と「蘭陵王」、さらに右には武将の舞である「太平楽」の舞楽が描かれていました。一目で思い浮かぶのは、俵屋宗達の「舞楽図屏風」で、実際に舞人の姿が酷似することから、宗達、ないし共通するモチーフに基づいて描かれたのではないかと推測出来ます。
舞人の衣装や装身具などは極めて精緻で、胡粉を盛り上げては顔面を表現するなど、随所に拘りの描写も見られますが、何よりも素晴らしいのは、余白、ないし間の使い方でした。屏風の折り目まで意識して描いたのか、屏風の左右、少し斜めから目をやりながら進むと、それこそパラパラ絵本のごとくに舞人が現れ、まるで実際に動いているようにも見えなくはありません。
1/10から開催の「墨と金-狩野派の絵画-」(根津美術館)は、「墨と金」という言葉に象徴される狩野派の系譜を豪華な優品とともに巡ります。また、展示室5では江戸時代のフラワーアレンジメントともいえる《百椿図》を、展示室6では「戊戌」にちなんだものを紹介。新年にふさわしい華やかな内容です。 pic.twitter.com/qCrFeUae2X
— 芸術新聞社 (@geishin) 2018年1月9日
出展作は全24点です。(展示替えあり。)作品数こそ物足りないかもしれませんが、ともかく作品が粒揃いで感心しました。見応えは十分でした。
「百椿図」(部分) 伝狩野山楽 江戸時代・17世紀 根津美術館
また階上の「展示室5」では、新春恒例、伝狩野山楽による「百椿図」も公開されていました。100種類以上もの椿が、様々な器物と組み合わされて描かれた巻物で、実に艶やかな色彩美が魅惑的な作品でもありました。こちらもお見逃しなきようおすすめします。
2月12日まで開催されています。
「墨と金 狩野派の絵画」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:1月10日(水)~2月12日(月・祝)
休館:月曜日。2月12日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は200円引。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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