「G-tokyo 2010」 森アーツセンターギャラリー

森アーツセンターギャラリー港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
「G-tokyo 2010」
1/30-31(会期終了)



森アーツセンターで開催されていた「G-tokyo 2010」の内覧会へ行ってきました。



一月末、土日限定、超短期間の「現代アート見本市」です。あっという間に会期を終えましたが、以下に印象に残ったギャラリーを簡単に記してみました。

ケンジタキギャラリー「横内賢太郎新作展」
お馴染みのステイニングの画家、横内賢太郎の新作絵画数点を展示。モチーフに人物を取り入れたポートレート風の作品に驚く。本のシリーズからの意外な展開で、この次にも興味がわいた。



SCAI THE BATH HOUSE「テクスチャーと光」
名和晃平のPicCellは何と観音像。黄金色にも輝くその姿は、透明ビーズの「装飾」の力も借りて、より華やかに彩られる。カプーアの無限の闇をたたえた球体にはいつもながら吸い込まれそうになった。黒に溺れそう。

オオタファインアーツ「かちどき1」
9名の作家のグループショー。さわひらきの小品の映像はもとより、同画廊での個展が圧巻だった樫木知子のペインティングが妖しくてまた美しい。

ミヅマアートギャラリー「柱華道」
ひときわ賑わうミズマのブースでは山口晃の新作インスタレーション個展を開催。むしろ場に合わなくて面白い電柱のオブジェを中核に、ドローイング他を展示する。電柱に美を見立て、またそこにメカを取り入れた絵画のセンスに脱帽。

山本現代「The Universe」
西尾康之の超弩級彫刻を惜しげもなく披露。作品のインパクトは全15ギャラリーの中でもピカイチ。



当然ながら販売が全面に押し出されている企画ではありますが、さすがに東京でも有名どころのギャラリーだけあって、実力派の作家らの揃う、なかなか見どころの多い展示に仕上がっていました。ここから実際の画廊へ足を運ぶ方がどれだけ増えるのかは不明ですが、都内で最も観光客の多い美術館での開催ということもあって、普段、あまり画廊に馴染みのない方にもアピール出来るチャンスになっていたのではないでしょうか。



展示は既に終了しています。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「Living Form 生きている形 - チャック・ホバーマン」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階)
「Living Form 生きている形 - チャック・ホバーマン」
1/23-2/21



1956年にアメリカで生まれ、ポーラ銀座ビルのファサードも手がけたデザイナー、チャック・ホバーマンの近作を紹介します。ポーラミュージアムアネックスで開催中の「Living Form 生きている形 - チャック・ホバーマン」へ行ってきました。

チャック・ホバーマンのプロフィールについては画廊HPをご参照下さい。02年のソルトレイクシティ五輪の構造物をデザインした経歴もあるそうです。

開催中の展覧会・詳細/作家プロフィール@ポーラミュージアムアネックス

今回はホバーマンの「デザインの媒体は変化そのものである。」との言葉から、彼の最大の魅力であるという「変化する作品」をパネルの他、模型などで紹介するものでしたが、うち見る側にとって最も興味深いのは、ビルのファサードそのものを自分の手で動かすことが出来るということでした。つまり簡単に言うと、鑑賞者はボタン一つで、このポーラ銀座ビルの可変式パネルを動かし、またその照明の色を変えてしまうことが可能です。銀座通りに面したスタイリッシュな同ビルの形や色を操る経験など、そう滅多に出来るものではありません。ここは意外と楽しめました。



ホバーマンの「変化するデザイン」は、同じくボタン一つで可動する会場内のオブジェ数点でも、その動きを目で追って味わうことが出来ました。またいくつかの模型は実際に手に触ることさえ許されています。建築からおもちゃまでの幅広いデザインを行うという彼ならではの間口の広い展覧会でした。


(外側の一枚一枚が可動式のパネルになっていて、その一部分をスイッチで実際に動かせます。)

それにしても繰り返しになりますが、まさかポーラ銀座ビルのファサードが可動式であったとは知りませんでした。日没後なら、その照明の変化も分かりやすく見て取れるのではないでしょうか。ボタンをおして銀座の明かりの「色」を僅かながらも変えてみて下さい。

2月21日まで開催されています。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「鈴木友昌 展」 SCAI

SCAI THE BATHHOUSE台東区谷中6-1-23
「鈴木友昌 展」
1/22-2/20



1972年に水戸で生まれ、現在はロンドンを拠点に活動を続ける鈴木友昌が日本で初めての個展を開催します。SCAI THE BATHHOUSEではじまった展示を見てきました。

作家プロフィールについては画廊HPをご参照ください。

鈴木友昌 Tomoaki SUZUKI@SCAI THE BATHHOUSE

木彫4点と聞いていたので、事前にそのサイズを確認もせず、てっきり大きな作品が展示されているのかと思いきや、実際にはその何れもが約50センチほどの比較的小さなものでした。それこそロンドンの街角にいるであろう白人やアフリカ系の若者たちが、そのファッショナブルでやや奇抜な出立ちとは裏腹に、あたかも日本の仏教彫刻を思わせる真摯な造形にてシンプルに象られています。腰に手をやり、薄汚れたジーンズを履き、まただらりとブロンドのロングヘアーを垂らす若者たちは、妙に気怠そうでありながらも、その存在を強く主張していました。ついつい彼らの目線へ向かい合い、その内面、そして何らかを訴えようとする様子に思いを巡らしたのは私だけではないかもしれません。

天井高のあるSCAIの空間で50センチ強の木彫4体はやや寂しい感じがしましたが、その印象はこの場に他の観客が入ることで見事に打ち破られました。展示室の四方、微妙に視線をそらすかのようにして点々と立つ彼らは、その合間に実際の人間が入ることで、俄然「突っ張り」だします。観客を借景に取り入れ、その余白を巧みに利用した展示手法には強く感心させられました。もし画廊に人がいなかったら、どなたか訪ねてくるまで待ってみては如何でしょうか。彫刻と、それを見やる人間の光景が一枚の『絵』になっていました。

2月20日までの開催です。おすすめします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「桝本佳子 - パノラマ 陶の風景 - 」 INAXガレリアセラミカ

INAXガレリアセラミカ中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階)
「桝本佳子 - パノラマ 陶の風景 - 」
1/8-2/2



陶を素材に驚くべき「奇景」を生み出します。INAXガレリアセラミカで開催中の「桝本佳子 - パノラマ 陶の風景 - 」へ行ってきました。

ガレリアセラミカというと、例えば陶でありながら陶でないような、素材の意外感で魅せる展示が多いようにも思えますが、今回の桝本のそれはむしろ全くと言って良いほど逆かもしれません。艶やかな壺や皿と半ば融合する形に登場するのは、突き出す松の枝に水を飲む鷺、あげくの果てには一艘の船そのものでした。画廊HPに作品写真が掲載されていますが、その思いもつかない奇抜な組み合わせこそ彼女の魅力ではないでしょうか。壺がくり抜かれ、いつしかその一側面が羽と化し、さらには底面へもう一方の側面より伸びた鳥の首が伸びて行く様子は、まさに「過剰」な装飾に他なりません。解説冊子で桝本が宮川香山に言及した部分がありましたが、さもありなんという気がしました。

なお桝本は現在、東近美工芸館で開催中の「現代工芸への視点 - 装飾の力」(~1/31)にも出品があるそうです。会期が迫っていますが未見なので、そちらも是非伺おうと思います。

2月2日までの開催です。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「ニコラ・ビュフ - タワワップ」 MEGUMI OGITA GALLERY

MEGUMI OGITA GALLERY中央区銀座2-16-12 銀座大塚ビルB1)
「ニコラ・ビュフ - タワワップ」
1/12-2/6



移転リニューアルオープンしたMEGUMI OGITA GALLERYの空間で「バビル2世」が暴れます。ニコラ・ビュフ(1978~)の新作個展を見てきました。

ニコラ・ビュフの経歴については作家HPをご参照下さい。

プロフィール@ニコラ・ビュフ

ルネサンス様式を意識したというニコラのモノクロのドローイングは、天井と床以外の全ての壁面にかけて、それこそ溢れる水の流れのように澱みなく展開しています。モチーフは横山光輝の「バビル2世」です。人の高さをゆうに超える大きなポセイドンは魔物を突き破り、またエッフェル塔をくわえたドラゴンは、まるで見る者を威嚇するかのように手を突き出しながら力強く描かれていました。それにしても迷いもなく、白チョークによって紡がれていく線の躍動感は並大抵ではありません。さながら飛び出す絵本の壁画バージョンでも見ているような気持ちにさせられました。

お馴染みmemeさんのブログに作品の写真が掲載されています。

Nicolas Buffe "La Tour" ニコラ・ビュフ 「タワワップ」 MEGUMI OGITA GALLERY@あるYoginiの日常

グロテスクさよりも、アール・ヌーヴォーをイメージさせる華々しい装飾的なモチーフが、ギャラリーのオープニングに相応しい祝典的な雰囲気を盛り上げていました。確かに「バビル2世」ではありますが、その様相は全くをもってオリジナルです。この空間において元ネタは凌駕されています。

ちなみに今更ではありますが、ニコラは旧フランス大使館での話題の展示、No Man’s Land展でのアーチを手がけていました。私はあの展覧会そのものにあまり良い印象がありませんが、確かに彼のゲートの『掴み』はとても魅力的でした。


(写真はfigaro.jpのコラムより。)

またニコラはMOTの「屋上庭園」(2008年)にも出品があったそうです。実は私はその展示を見逃していたので、今回こうした迫力ある作品を見られて満足出来ました。

美術館が庭を"造る"と…? 東京都現代美術館の"屋上庭園"でアート散策@マイコミジャーナル

それにしても一坪からいきなり大きくパワーアップしたメグミオギタの新スペースには驚かされました。アラタニウラノやTSCAも近い同界隈の新たな注目スポットとなること間違いありません。

2月6日まで開催されています。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

「市川孝典 - murmur」 FOIL GALLERY

FOIL GALLERY千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビル201)
「市川孝典 - murmur」
1/15-2/6



FOIL GALLERYで開催中の「市川孝典 - murmur」へ行ってきました。

まずは作家、市川孝典のプロフィールを画廊HPより引用します。

13歳のとき、鳶服にドレッドヘアで単独ニューヨークへと渡り、その後ロサンジェルス、ロンドン、バルセロナなど様々な国で多くの人や文化に出会い、絵を描き始める。当初は紙とペンを使って描かれていた作品は、時を経て線香という新しい絵画スタイルと出会い、現在も勢力的に制作を行っている。

実は展示を見る前、何ら下調べもせず、てっきり木版で表した風景画かと思い込んでいましたが、実際には上記プロフィールにもある通り、その全ては線香を用いて描かれた作品でした。市川は何と全60種類にも及ぶと言う線香の「焦げ口」を操って、例えば木漏れ日の差し込む樹木の光景などを見事に表しています。真っ黒に焦げた部分に半ば闇を、またそれに残りの余白に光を見出し、黒から薄い焦げ茶までの色のグラデーションで木肌などを描いていく様子は、まさに繊細の一言につきるのではないでしょうか。和紙に連なる無数のドット、つまり焦げ跡が、少し離れて見ると、このようなリアルな像として浮かび上がってくるのも新鮮でした。

なお今回は全て樹木を描いたものでしたが、他にポップなモチーフを描いた作品も多数あるそうです。ヴィンテージドレスなどを描いた作品の写真が、お馴染みフクヘンさんのブログにも掲載されています。

Vintage Brown 市川孝典 展@フクヘン

なお市川は本年のVOCAに出品の予定があります。(VOCA展2010 出品作家リスト

2月6日まで開催されています。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「ボルゲーゼ美術館展」 東京都美術館

東京都美術館台東区上野公園8-36
「ボルゲーゼ美術館展」
1/16-4/4



東京都美術館で開催中の「ボルゲーゼ美術館展」のプレスプレビューに参加してきました。



まずは本展の概要です。

・本展以降、約2年間の改修工事に入る、東京都美術館の休館前の最後の展覧会。
・ボルゲーゼ美術館には17世紀を代表するパトロンの一人、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の集めた作品を出発とする、主にルネサンス、バロック絵画が所蔵されている。
・日本では知名度が低いが、ヨーロッパでは同地随一を誇るプライベートコレクションとして有名。(現地の見学は基本的に予約制。)
・今回はボルゲーゼ・コレクションを初めて日本でまとめて紹介。



なお内覧に先立ち、同美術館の主任学芸員、中原淳行氏によるレクチャーがありました。その際、展示のハイライトとしても位置づけられるラファエロとカラヴァッジョ(ともに一作品ずつ)についての簡単な説明があったのでそちらもまとめておきます。



・ラファエロ「一角獣を抱く貴婦人」(1506年頃)
18世紀頃にカタリナに描き変えられ、20世紀初頭まではラファエロの作だとすらされていなかった謎の『名画』。1933年、美術史家ロンギの手によって調査、修復がなされ、その過程で腕に一角獣を抱いていたことが判明し、ラファエロのものであると定義づけられた。なお近年の研究ではこの一角獣が元々、犬として構想されていたことも分かり、それがともに貞節の象徴でもあったため、女性の結婚を祝して描いたのではないかという説が有力になっている。ただしそのモデルが誰かは分かってない。



・カラヴァッジョ「洗礼者ヨハネ」(1609-1610年頃)
カラヴァッジョ最晩年の作品のうちの一枚。殺人の罪からローマを離れ、逃避行をしていたカラヴァッジョが、その許しを請うため、教皇に近いシピオーネ枢機卿に本作を献ずるために描いたとされている。ただしカラヴァッジョはこの作品がシピオーネに渡るのを見届ける前に熱病のため、死亡してしまった。まさにボルゲーゼ美術館ならではの作品でもある。

私感ながら上の二作を含め、全体として地味な印象を受けたのは事実ですが、ルネサンス、バロック絵画はもとより、当然ながら頻出するキリスト教主題の絵画などに興味のある方にとっては、見るべき点の多い展覧会と言えるかもしれません。

それでは以下、私の思う見どころ、及び印象に残った作品などをいくつか挙げてみます。

1.シピオーネとモザイク画(序章:ボルゲーゼ・コレクションの誕生)


マルチェッロ・プロヴェンツァーレ「オルフェウス姿のシピオーネ・ボルゲーゼ」(1618年)

順路冒頭にはボルゲーゼ美術館の祖、シピオーネ枢機卿に関する作品がいくつか展示されていますが、中でも二点のモザイグ画は必見ではないでしょうか。この写真はおろか、会場でも遠目からでは分かりませんが、確かに近づいて見るとカラフルなモザイク片がびっしりと貼付けられていました。オルフェウスに扮したシピオーネ自身は得意げな姿で弦楽器を弾いています。ここには「竪琴の音色が野獣たちを魅了するのは、キリストが言語で人々を魅了するのと同じ」(解説より引用)という意味がこめられているのだそうです。

2.ヴィーナス画の競演(第二章:16世紀・ルネサンスの実り)



第二章では何枚かヴィーナスをモチーフとした作品がありますが、そのうち一番おすすめしたいのがこのブレシャニーノの「ヴィーナスとふたりのキューピッド」(1520-25年頃)です。グレーに染まったニッチと呼ばれる半円形の窪みを背景にして、透き通るように白い肌を露出したヴィーナスがキューピッドを従えて美しく立っています。どことなく彫像的な印象を与えるのは、作者がギリシャ彫刻を意識して描いたとされているのかもしれません。図版、また写真ではあまり伝わらないかもしれませんが、彼女の放つあまりにもあっけらかんとしたエロスには思わずたじたじとなってしまいました。

3.レダVSルクレツィア(第二章:16世紀・ルネサンスの実り)



ヴィーナスを経由した後に登場するのが、ともにミケーレ・ディ・リドルフォ・ デル・ギルランダイオによる「レダ」(1560-70年頃)と「ルクレツィア」(1560-70年頃)です。不思議と人懐っこい様子で相対するその姿に、らしからぬ親しみやすさを覚える方も多いのではないでしょうか。私としての展示のハイライトはこの二枚でした。

4.「洗礼者ヨハネ」と「ゴリアテ」(第三章:17世紀・新たな表現に向けて)



目玉のヨハネの隣にゴリアテの巨大な生首を持ったダヴィデが立ちはだかります。バッティステッロの「ゴリアテの首を持つダヴィテ」(1612年)です。勇ましくも取り澄ました様子で立つダヴィデの反面、ゴリアテの表情はあまりにも生々しく、その傷跡や歯から滴り落ちる体液などまでが精緻に描かれています。なお本作はカラヴァッジョに影響を受けた彼の作品の中でも、とりわけその色の濃い作品だそうです。



またこの他には、ズッキの「アメリカ大陸発見の寓意」など、比較的小さめのサイズの絵画でいくつか印象に残るものがありました。どちらかと言うと大作重視で楽しむような展示ではないかもしれません。

なお出品数は全部で50点ほどです。そのためか会場にはかなり余裕が感じられました。おそらくはさほど混雑することなく楽しめるのではないでしょうか。



図録の図版の発色が今ひとつでした。少々見劣りします。

なお展覧会に関連する講演会、また記念コンサートなども企画されています。詳細は美術館HPをご参照下さい。

*講演会「ボルゲーゼ美術館 ラファエロ・カラヴァッジョ・ベルニーニ」
 日時:2010年2月7日(日)午後2時~
 講師:石鍋真澄/成城大学文芸学部教授
 会場:東京都美術館講堂
 定員:240名/入場無料(先着順。午後1時より講堂前で整理券を配布し、定員になり次第受付を終了。)



なお展覧会サイトには、会場で実際に配布されているジュニアガイドがそのままPDF形式で配布されています。またブログパーツもありました。

4月4日までの開催です。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )

「変成態 - リアルな現代の物質性 Vol.7 鬼頭健吾」 ギャラリーαM

ギャラリーαM千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F)
「変成態 - リアルな現代の物質性 Vol.7 鬼頭健吾」
1/16-2/13



「まとまった海外留学を経験した鬼頭の帰国後、初の展観」(ちらしより引用)でもあるそうです。ギャラリーαMでの連続シリーズ展、変成態の第7弾、鬼頭健吾のインスタレーション個展へ行ってきました。

「sagittarius」(2010)

毎度、ホワイトキューブを思いもつかないような空間へと変化させる同ギャラリーでの「変成態」ではありますが、今回ほどインパクトの強い展示もなかったかもしれません。DM画像他、下段にアップした写真の通り、ともかく空間の中で半ば増殖するかのように連なっているのは、カラフルなパラソルの群れでした。チェック柄のシートで覆われた天井までびっちりと、また柱を押しのけるかのようにして重ね合わさったパラソルは、それこそ泡の如く膨らんで巨大な一つの立体を作り出しています。まるで床面や柱に食らい付く何らかの生き物のようでした。



なお本作「sagittarius」は、2006年、ケンジタキギャラリーで展示した作品の、一種の別バージョンでもあるそうです。(キュレーターの天野氏が作家の鬼頭氏にリクエストし、このαMでの展示が実現しました。)そちらをご覧になった方は既視感を覚えるかもしれませんが、私は初めてだったので十分に楽しめました。

鬼頭と言えば、何かと評判だという「No Man's Land」でも、金色に輝かくミラーを用いたインスタレーションを出品していました。その多彩な作風には改めて驚かされるものがあります。

2月13日までの開催です。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える - そしてドローイングは動き始めた……」
1/2-2/14



東京国立近代美術館で開催中の「ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える - そしてドローイングは動き始めた……」へ行ってきました。

まず本展の概要です。

・ウィリアム・ケントリッジ(1955年、南アフリカ共和国~)の手がけた、通称「動くドローイング」と呼ばれるアニメーションを、日本で初めて個展形式で紹介する。
・主に大型スクリーンによる映像作品は全19点。原画となった素描などもあわせて展観。
・旧作から近作までを幅広く展示。初期のアパルトヘイトの歴史を踏まえた「プロジェクションのための9つのドローイング」から、ショスタコーヴィチの「鼻」をテーマにした最新作、「俺は俺ではない、あの馬も俺のではない」まで。
・映像の所要時間は約2時間程度。とは言え、一本あたり、約3分から12分程度と、テンポ良く作品を楽しむことが出来る。

前評判を耳にしていたので期待はしていましたが、実際のところ今回の展示は相当に楽しめました。映像作品と言うと、私も同じく、どうしても躊躇してしまう嫌いがありますが、軽妙な音楽とともに魔法のようにして紡ぎだされる「動くドローイング」は、思わず時間を忘れて見入ってしまうこと間違いありません。入場前は「まさか2時間もかかるまい。」と高をくくっていましたが、観賞後に時計を確かめたところ、本当にその位の時間ほど滞在していたことに気づきました。恐るべしケントリッジです。

彼の「動くドローイング」の魅力は知るには、ともかくその作品を見ていただくのが一番です。youtubeにいくつか作品映像(本展出品作以外も含む。)がアップされているのでそちらをご覧下さい。

William Kentridge - Mine (1991)


William Kentridge - Weighing... and Wanting (1997)


それにしてもこれらの何れもが「ドローイングを描き直しながら、1コマ毎に撮影」(展覧会HPより引用)されたものだと知ると、その尋常ではない作業量と根気が、半ば痛々しいほどひしひしと伝わってくるのではないでしょうか。線を引き、また消した跡は、まさに作品全体の血となり肉となって、ドローイングに生々しい制作の痕跡を残していました。政治的な主題よりエンタメ色のある作品など、その作風は多様ですが、一貫した制作方法をはじめ、膨大な時間の経過を僅か数分間に凝縮させた世界は、何とも表現し難い重みをたたえていました。

また錯視を呼び込む、例えばアナモルフォーズの技法を借りた作品も登場していました。ドローイングと映像の間にある揺らぎの効果は、こうした一種の「だまし絵」的な力も得て、さらに独特な魅力をたたえていました。

ちなみにドローイング単体ももちろん紹介されています。同じ部屋に展示されていないので映像と直接見比べることは出来ませんが、それらを比較して楽しむのも一興ではないでしょうか。特に初期の頃の作品の力強さは胸を打ちます。南アフリカの炭鉱労働を捉えた作品などには、その在り方への痛烈な批判精神が色濃く反映されていました。

先にも触れたように、ショスタコーヴィチの「鼻」に取材した作品も展示されています。また「やがて来たるもの」にもショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲がBGMとして用いられていました。決してクラシックだけではありませんが、映像にあわせて次々と展開される音楽との見事なマッチングも見どころの一つです。音楽ファンも一見の価値ありの展覧会と言えるかもしれません。

William Kentridge (2003) Journey to the Moon [excerpt]


2月14日までの開催です。今更ながら強力におすすめします。また本展は会期終了後、広島市現代美術館(3月13日~5月9日)へと巡回します。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

「イタリアの印象派 - マッキアイオーリ」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館港区白金台5-21-9
「イタリアの印象派 - マッキアイオーリ 光を描いた近代画家たち」
1/16-3/14



東京都庭園美術館で開催中の「イタリアの印象派 - マッキアイオーリ 光を描いた近代画家たち」のプレスプレビューに参加してきました。



庭園美術館では久々の純然たる西洋絵画の展覧会です。アール・デコの意匠の中で楽しむ西洋画の味わいも格別ですが、何かと聞き慣れない「マッキアイオーリ」という言葉しかり、前もって展示に関するある程度の情報を仕入れておくと、さらに楽しめること請け合いです。よってここでは、当日行われた学芸員の解説にも準じて、展示の要点をまとめてみたいと思います。

1. 「マッキアイオーリ」とは画家の名前ではありません。

「マッキアイオーリ」といわれると、てっきり一人の画家の名前かと思ってしまいますが、実際には「マッキア派の画家」という、当時のアカデミズムに縛られた画壇からの脱却を目指した画家のグループを意味する言葉でした。またマッキアとは「染み」や「斑点」を指す単語で、そこには例えばフランスの印象派と同様、半ば彼らを揶揄する意味もこめられています。実際のところ、彼らのテクニックでもあるマッキア(=斑点)を用いた絵画群は、フランス印象派とは大分異なっていますが、新しい表現を目指したという点においては、同列に語られるものではないでしょうか。ちなみに日本でこうしたマッキア派の絵画がまとめて紹介されるのは、今より遡ること30年前、かつて新宿にあった伊勢丹美術館での「イタリア印象派展」以来のことだそうです。

2.「カフェ・ミケランジェロ」とイタリア統一運動



マッキア派の画家たちが活躍し始めた頃のイタリアは、ちょうどリソルジメントと呼ばれる統一運動が最終局面に入った時期と重なります。若き画家たちは、当時、「進歩的な文化人」(チラシより引用)らの社交の場であったフィレンツェの「カフェ・ミケランジェロ」へと集まりました。その様子は展示でも、チェチョローニの描いた風刺画、「カフェ・ミケランジェロ」(1866年頃)で伺い知ることが出来るのではないでしょうか。



統一運動による革新の熱気は画家たちを刺激しました。統一運動に貢献したガリバルディを描いた肖像画、レーガによる「ジュゼッペ・ガリバルディ」(1861年)などはその最たる例かもしれません。また画家の中には実際の戦争に参加し、中には命を落とした者までも現れました。いわゆる愛国精神に溢れた絵画が多いのも、この時期の彼らの特徴の一つと言えそうです。

3.「光の画家」たちのリアリズム。屋外での制作。


(レーガ「乳母を訪ねる」)

フランスのバルビゾン派と同様、マッキア派の画家たちも光を求めて屋外へと飛び出します。タイトルに「光を描いた」とある所以です。田園の風景、また農村での一コマなど、都市よりも郊外へと繰り出した点もバルビゾン派などと重なるかもしれません。



また特に初期の頃は、小さな板と絵具をつめた箱を持ってデッサン、さらに色を付け、アトリエを介さず屋外のみで絵を描いていました。そのために携帯性に長けた小さな絵が多いのもポイントの一つです。写実にマッキア(=斑点)の技法を駆使した絵画が目立っていました。

4.「マッキアイオーリ」の三巨匠とその終焉。
マッキア派の中では、シニョリーニ、レーガ、そしてファットーリの三名の画家が、その中心人物として挙げられます。ここではそれぞれの画家から一枚ずつ作品を並べてみました。



テレマコ・シニョリーニ「リオマッジョーレの屋並」(1892-1894年)
海を望む街が陽光に包まれて美しく描かれています。この差し込む輝かしい光の効果こそ、マッキア派絵画の魅力の一つではないでしょうか。



シルヴェストロ・レーガ「農民の娘」(1892-1893年)
今回の展示で一推しにしたいのがレーガの作品群です。中でもモデルの憂いを巧みに捉えたこの「農民の娘」の甘美な魅力は群を抜いていました。



ジョバンニ・ファットーリ「マレンマの牛飼いと家畜の群れ」(1894年)
晩年の画家の代表作です。家畜たちと格闘するカウボーイの姿に、後述するファットーリの苦難の生き様と重ねずにはいられません。

これらの三巨匠とは言え、必ずしも画業は順風満帆だったというわけではありません。レーガは途中、視力を失い、ファットーリは晩年、時代の趣向の変化の波にのれず、絵が売れなくて苦難の生活を送りました。なおマッキア派自体も、「カフェ・ミケランジェロ」閉鎖などを契機に、グループとしての活動を終えていきます。この展覧会では、そうした画家以降、すなわちイタリア国外にも出て、とりわけ自然主義に賛同した、いわゆるマッキア派の第二世代と呼ばれる画家たちの作品も紹介されていました。



このジョーリの「水運びの娘」(1891年)などは、第二世代の中でも印象に深い一点といえるかもしれません。逞しい後姿にモデルの力強さを感じました。


(フェローニ「魚釣り」)

決して知名度のある画家の作品が揃っているわけではありませんが、時に光にも満ちたイタリアの風景画は、見ているだけでも心を動かされるものがあります。その内容こそ全く異なりますが、私の中の充足感という点においては、昨年文化村で開催された「国立トレチャコフ美術館展(忘れえぬロシア)」に近いものがありました。これほど満たされた気持ちになった絵画展も久しぶりです。


(左:レーガ「お勉強」、右:レーガ「母親」)

鮮明な図版とキャプションの充実した図録も理解を深めてくれます。マッキア派の画家たちの情熱を絵から受け取りつつ、同時代のイタリアの風を肌で感じ取ることが出来ました。


(アッバーティ「フィレンツェのサン・ミニアート・アル・モンテ教会の内部」)

3月14日までの開催です。これはおすすめします。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )

「江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆 × 絵」 三井記念美術館

三井記念美術館中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆 × 絵」
2009/12/5-2010/2/7



「幕末から明治にかけて活躍した漆芸家」(公式HPより引用)、柴田是真(1807~1891)の業績を回顧します。三井記念美術館で開催中の「江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆 × 絵」へ行ってきました。



既に大きな話題となっている展示でしたが、その洒脱な漆絵、そしてだまし絵ならぬ「だまし漆器」には大いに感銘するものがありました。以下に早速、印象に残った作品を挙げてみます。

「砂張塗盆」
一見、なんら変哲のないお盆。鈍く光るグレーの光に惑わされてか、あたかも金属で出来たように見えるが、実は何と紙に漆を塗って作った作品とのこと。いきなり「だまし漆器」に騙されてしまった。

「群蝶春秋草花図屏風」
春草と秋草を二面に配したシンプルな屏風。精緻に描かれた蝶の群れに目を奪われるが、ここに是真ならではの『業』が冴えている。何とこれらの蝶は全て別の紙で象って貼付けたものだそう。どうしても『普通』に描かない是真に脱帽だった。

「南瓜に飛蝗図漆絵」
南瓜の花が仄かな金色に輝く。リズミカルなツルの上にはイナゴがのっていた。おおよそ漆で描いたとは思えない。

「霊芝に蝙蝠図漆絵」
コウモリの表情が面白い。霊芝にはこれでもかというほど漆が塗りこめられていた。弟子による表具も秀逸。

「瀬戸の意茶入」
またまた騙されてしまった「だまし漆器」。釉薬の滲みまでを漆で再現するとは呆気にとられる。出来ることなら全42gというその軽さを手で感じてみたかった。

「花瓶梅図漆絵」
今回の目玉でもある大作の漆絵。先だっての「美の巨人たち」でも取り上げられていた。この紫地も当然和紙に漆を施したもの。年輪はおろか、木目まで漆で精巧に再現する様子には目を剥いた。何故ここまで漆にこだわったのかと、思わず是真に問いつめたくなってしまうような作品でもある。



漆の卓越した技術はもとより、見る側の意表を突くような斬新なデザイン性などは、今に通じるものがなかったでしょうか。一見するところ地味そのものですが、目を凝らすことではじめて開けてくる漆の至芸には驚かされました。

またシンプルながらも見どころを記した同館HPの記述も良くまとまっています。館内での熱いキャプションを含め、鑑賞の大きな助けとなりました。

「江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆 × 絵」@三井記念美術館

単眼鏡を片手に、じっくりと作品へ見入る方を多く目にしました。三井記念美術館としては混雑している方かもしれません。



2月7日までの開催です。洒落たロゴもまた愉快でした。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「内藤礼」 神奈川県立美術館鎌倉館

神奈川県立美術館鎌倉館神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-53
「内藤礼 - すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」
2009/11/14-2010/1/24



神奈川県立美術館鎌倉館で開催中の「内藤礼 - すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」へ行ってきました。

展示の概要については同館のプレスリリースが参考になります。

内藤礼展・プレスリリース@神奈川県立近代美術館鎌倉館

既に会期末を迎えた展覧会です。その内容などは雑誌などにも大いに取り上げられているところなので、ここは作品の一部タイトルでもある「精霊」をキーワードに、私の感じたことを簡潔にそして自由に記しておきたいと思います。お付き合い下されば幸いです。

2階第1展示室「地上はどんなところだったか」
篝火の置かれた暗闇に精霊たちを召喚する。供え物はキラリと小さく光るガラス玉と小瓶の水。彼らの到来を知った鑑賞者は舞台へとあがり、静かに歩きながら、精霊たちと出会い、また心を通わせた。ゆらめく明かりと震える風船に彼らの行き交う姿を見る。

2階第2展示室「地上はどんなところだったか(母型)」
舞台で鑑賞者と交信した精霊たちは、母なる海へと帰って行った。我々はその姿をただ目で追いかけ、また胸に刻み、その確かな証を一枚の紙切れに求める。再び出会えることを願って。

1階中庭「精霊」・「恩寵」
精霊の抜け殻が風に吹かれながら舞っている。彼らをとどめるのは、館の周囲に張り巡らされた簡素な結界のみ。闇とは一転、外の世界と一体化したこの「場」の中で、我々は手に届かない精霊に少しでも近づくべく、その結界を一つずつ巡礼した。そして最後にようやく出会えることが出来たのは、抜け殻の主であり、またにこやかな顔で微笑む精霊のカップルだった。



この展示は再訪問するつもりでいましたが、スケジュール的に少々厳しい状況となってしまいました。先だって購入した図録を見返しながら、精霊の宿った鎌倉での至福の一時を、記憶の片隅へ、それでいながらも永遠に寄せておきたいと思います。



24日まで開催されています。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )

「ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」 府中市美術館

府中市美術館府中市浅間町1-3
「府中市制施行55周年記念 ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」
2009/11/14-2010/2/14



19世紀から20世紀初頭にかけての主にイギリス絵画を概観します。府中市美術館で開催中の「ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」へ行ってきました。

本展の概要です。

・ベリ美術館、及びマンチェスター市立美術館の他、イギリス国内より出品された絵画、全100点を紹介する。(その多くが日本初公開。)
・メインはイギリスの風景画。水彩画も多い。(残り一割程度がフランス印象派絵画)
・構成は7章だて。海、川、旅人など、モチーフをシンプルな切り口で分類して展観。

タイトルに印象派云々とありますが、上でも触れたように展示の中核は、ターナー、ハント、ロバーツなどのイギリスの絵画に他なりません。いわゆる大作メインの名画展ではありませんが、主に水彩画など、イギリスの景色、また人々の生活を捉えた素朴な絵画群はなかなか味わい深いものがありました。

それではイギリス絵画より、心に留まった数点を挙げてみました。



ウィリアム・ヘンリー・ハント「イワヒバリの巣」
いきなり登場する水彩画の傑作。青い卵の入った鳥の巣をはじめ、バラの花、いちごなどが精緻に表された。ハントはこうした作品を多数手がけたそうだが、(本展には5点出品。)これ一点でもイギリス水彩画の魅力を存分に堪能出来るのではないだろうか。もちろん関係ないが、熊田千佳慕の描く作品を思い出した。



J.M.ウィリアム・ターナー「エーレンブライトシュタイン」(1832年)
水彩の小品4点、また油彩1点が出ていたターナーの中で最も惹かれた作品。船も浮かぶラインの川岸の後方には、エーレンブライトシュタイン城がそびえ立っている。船上に小さく描かれたキャンバスを持った男は何とターナー自身であるとのこと。渦巻く大気、差し込む陽光は美しく、また細やかに描かれた船や人々の情景には生活感も溢れていた。ちなみに本作はキャプションにもあった通り、拙ブログのタイトルにも引用したバイロンの「チャイルド・ハロルドの巡礼」の第三巻でうたわれた地。バイロンの死後10年とたたない頃の作品とのことで、彼の見た景色もこのようなものであったのかもしれない。



ジョージ・クラウセン「春の朝:ハーヴァーストック・ヒル」(1881年)
ある都市の街角を大きな画面で捉えた一枚。石畳の上でツルハシを持って作業する男たち、そしてベンチで座る婦人などが登場しているが、やはり目を引くのはこちらへ向かって歩く母と子の姿だ。女性は喪服を着ているが、手に持つブーケはやはり街灯の下に立つ花売りから買ったものなのだろうか。いささか慌てたような、また物悲しそうな母親の表情の反面、見上げるような視線を向ける少女の強い存在感も印象に残った。



ジョン・ウィリアム・ゴッドワード「金魚の池」(1899年)
本展一、華やかでかつ甘美な詩情をたたえた一枚。芥子の花畑をバックに、池の縁に腰掛けながら金魚へえさをやる女性が描かれている。ともかくは眩しいほどのオレンジ色の効果が素晴らしい。輝かしい光が絵の隅々にまで降り注いでいた。



順路の最後に、ピサロやボナールなど、お馴染みのフランス人画家たちの作品が出ていましたが、その中ではゴーギャンの「ディエップの港」(1885年)が特に印象に残りました。帆船の停泊する港町の景色が、雲より滲んだ水色の光に包まれるかのようにして表されています。初期ゴーギャンらしく抑制された色調ながらも、例えば波立つ海のグラデーションなど、巧みに示された繊細なタッチに感心しました。

思ったよりも会場は賑わっていましたが、寒空のもと、思いをイギリスに馳せるにはこの上ない展覧会でした。イギリス絵画好きはもちろんのこと、あまり馴染みのない風景画家たちの業績を知るには最適な機会かもしれません。

次の日曜、24日には、館長の井出洋一郎氏による、展示に一部準拠した講演会が予定されています。

「館長が語る 19世紀ヨーロッパ絵画の魅力 ドラクロワからゴーギャンまで」(全4回)
 第4回「ポスト印象主義 ゴーギャン、ゴッホ、スーラほか」
 日時:1/24(日)14時から15時半
 会場:館内講座室
 定員:先着100名
 料金:無料

なお同館内にてあわせて開催中の青山悟の小企画展もお見逃しなきようご注意下さい。超絶技巧のミシン刺繍画がお待ちかねです。

「公開制作48 青山悟 Labour’s Lab」(アーティストトーク:2月14日 14:00~)

2月14日まで開催されています。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )

「洛中洛外図屏風(舟木本)」(本館7室/VRシアター/リーフレット) 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
「洛中洛外図屏風(舟木本)」(本館7室/VRシアター/リーフレット)
作品展示:1/13~2/21、VRシアター:1/2~3/28

東京国立博物館の平常展で公開された「洛中洛外図屏風(舟木本)」(重文)を見てきました。

作品自体は過去に何度も展示されたことがありますが、この壮麗な屏風を存分に楽しむのは今が最もチャンスかもしれません。「洛中洛外図屏風」そのものはもとより、ミュージアムシアターで上映中の「今めぐる、いにしえの京都」、さらにはあわせて発売されたリーフレットが、さながら三点セットと化して作品の理解を深めてくれました。

1.「洛中洛外図屏風(舟木本)」(本館第7室 - 屏風と襖 - 安土桃山・江戸) 1/13~2/21



作品は本館の屏風室で展示中です。右に方広寺大仏殿、左に二条城の対峙する、17世紀初頭、おそらくは大坂の陣で豊臣家が滅びる前の京都の姿が描かれています。なお作者については諸説あるものの、かの岩佐又兵衛ということで認知されているようです。



上杉本でも同様ですが、やはり洛中洛外図と言えば、例えば祭りや名所などを捉えた情景と、細密極まりない人物描写から目が離せません。



いわゆる「異国人」が歩いている姿も描かれています。物珍しそうに見物する人々が連なっていました。



京都の夏を彩る祇園祭のシーンももちろん登場しています。



例の豊臣家滅亡の切っ掛けともなったと言われる。「国家安康・君臣豊楽」の鐘も描かれています。ちょうど鐘をつくシーンなのでしょうか。一人の男が威勢良く振りかぶっていました。

2.「今めぐる、いにしえの京都」(資料館・TNM&TOPPANミュージアムシアター) 1/2~3/28(期間中毎週金・土・日・祝日。当日予約制。上映スケジュール詳細。)



肉眼では判別しにくい舟木本の細部までを見事に再現したのが、ミュージアムシアターで上映中の「今めぐる、いにしえの京都」です。クリアな映像と明快な色彩、そして簡素ながらも美しい演出は、まるで屏風の中へ自分自身が入って旅しているかのような錯覚を引き起こします。目玉のバーチャルリアリティの効果は控えめですが、洛中洛外図の魅力を堪能出来るのは言うまでもありません。

なお現在、「リクエストシステム」として、事前に6つのシナリオから見たいものを選ぶことが出来ます。シナリオ一覧、またリクエストの結果などはミュージアムシアターのWEBサイトをご参照下さい。なお現状で人気なのは「今日の名所今昔」のようです。

3.「洛中洛外図屏風(舟木本)」リーフレット



洛中洛外図の世界を自宅で味わうのにこの上ない屏風型リーフレットが誕生しました。それが同館ミュージアムショップで発売されている「洛中洛外図屏風(舟木本)」リーフレットです。



ともかくもまずサイズに驚かされます。早速、自宅で開いてみましたが、一番右に置いたハガキと見比べていただければ、その大きさがお分かりいただけるでしょうか。実物大の4分の1、横90センチ、縦40センチの巨大な紙面上には、それこそVRシアターでも見たようなクリアな画質による屏風の光景が余すことなく写し出されていました。



もちろんこうして見るだけでも十分に満足し得るものですが、このリーフレットが『凄い』のは、裏面に単なる土産物の飾りの領域を越えた解説が詳細に記されていることです。ちなみに価格は超お値打ちの840円でした。にわかには信じられません。

最初にも触れましたが、「洛中洛外図屏風(舟木本)」を実物、デジタル、そしてリーフレットの三点で楽しめる滅多にないチャンスです。是非ともお見逃しなきようご注意下さい。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

「川喜田半泥子のすべて展」 松屋銀座

松屋銀座本店8階大催事場(中央区銀座3-6-1
「川喜田半泥子のすべて展」
2009/12/30-2010/1/18



「昭和の光悦」とも呼ばれ、主に作陶に才能を発揮した芸術家、川喜田半泥子(1878~1963)の業績を回顧します。松屋銀座で開催中の「川喜田半泥子のすべて展」へ行ってきました。

展示の概要、作家の情報については、松屋のHPにアップされたチラシの画像が有用です。

「川喜田半泥子のすべて展」@松屋銀座

元々は実業家ということもあり、言わば彼は決して『専門』の芸術家ではなかったのことですが、そこから開けるイメージは「昭和の光悦」の呼び名もあながち誇張ではないと思えるほど魅力に溢れています。その中核はもちろん、50歳を過ぎてから手がけたという作陶に他なりません。志野、織部をはじめとする多様な焼き物は、その何れもが十分に人々の心を捉えうるであろう領域にまで到達しています。以下に数点、私が特に惹かれた作品を挙げてみました。

伊羅歩茶碗「ほし柿」
やや小ぶりでかつ、そのざらざらとした表面に、文字通り「ほし柿」を連想させる渋い器。とぐろをまいているような見込みの景色が面白い。



粉引茶碗「雪の曙」
白と淡い朱色とが合わせ重なり、器をサーモンピンクに仕立てて華やかに飾り立てている。薄手ながらも、すくっと起きるようなフォルムが印象に深い。雪山に差し込む陽の光のイメージが広がっていた。

志野茶碗「あつ氷」
ざらめをかけたような肉厚の白い釉薬が独特の景色を作り出す。まさに雪に覆われた氷を見るかのよう。横にすっと、指一本で引いたような線も遊び心に溢れていた。



志野茶碗「赤不動」
ひび割れが強烈な印象を与える志野茶碗。めらめらと燃え盛る火焔、そしてその周囲を舞う火の粉を見ているかのようだった。



黒茶碗「鈴虫」
黒に遮られた窓の部分に秋草が描かれている。跳ねた釉薬のしみを鈴虫に見立てるとは何とも趣き深い。



陶芸の他、それこそ仙がいの世界を連想させるような絵画もまた魅力的でした。餅の上に可愛らしい小動物の顔が覗く「重ね餅図」、また金魚が二匹、滑稽な表情でこちらを見やる「金魚図」などを見ていると心も和みます。

手狭なスペースではありますが、二体の狛犬が構える入口の他、随所に竹をあしらった会場も作品を美しく演出していました。

彼の生地である三重県の津には、その芸術を紹介する石水博物館(平成23年度に新規移設予定)があるそうです。一度是非訪ねてみたいと思います。

18日の月曜日までの開催です。なお本展終了後、以下のスケジュールで各地へと巡回します。

2/11~3/22 そごう美術館(横浜)
4/3~5/30 山口県立萩美術館・浦上記念館
6/8~7/25 三重県立美術館
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ