2019年 私が観た展覧会 ベスト10

年末恒例の私的ベスト企画です。私が2019年に観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2019年 私が観た展覧会 ベスト10

1.「ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ」 DIC川村記念美術館



「箱」の作品で知られるコーネルの、ただし「箱」だけに留まらない、多様な制作について紹介した回顧展でした。国内の美術館のコレクションの「箱」、及びコラージュ、日記から構想ノート、さらには知られざる映画までを網羅していて、コーネルの精神や思考を垣間見るかのようでした。おそらく国内で望みうる最高のコーネル展ではなかったのではないでしょうか。

2.「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」 国立新美術館



現代美術家、ボルタンスキーの過去最大スケールでの回顧展でした。新旧のインスタレーションによって構成された空間は、まるで異界へと繋がる洞窟のようで、深く潜り込んでは霊魂と向き合うかのような独特の鑑賞体験を得ることが出来ました。なお同展は全国3巡回し、先行した国立国際美術館も評判を呼んでいましたが、私は見ることが叶わなかったため、国立新美術館での展示を推したいと思います。

3.「没後90年記念 岸田劉生展」 東京ステーションギャラリー



岸田劉生の初期から晩年の作品を集めた回顧展で、意外なほど変化する画家の作風を丹念に追うことが出来ました。単発的には作品を見る機会の多い劉生ですが、ともかく全貌を網羅していて、公式サイトに記載された「珠玉の劉生展を目指しました」との言葉も、あながち誇張とは思えませんでした。

4.「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」 国立新美術館



2011年秋、東京国立近代美術館で開催された「イケムラレイコ うつりゆくもの」以来、久しぶりとなる大規模な個展でした。「生命の循環」を起点に、全部で16のセクションに及ぶ展示は、まるで人間や動物、神、そして宇宙に大地、さらに生と死を巡る一大叙情詩を辿っているかのようで、ずっしりと心に染みるような静かな感動を得ることが出来ました。これほど深い余韻をもたらす現代美術展もあまりないかもしれません。

5.「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」 東京オペラシティアートギャラリー



第55回ヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)にて銀獅子賞を受賞したカミーユ・アンロの日本初の大規模な個展でした。実のところ、私自身、この個展で初めてアンロの作品を見知りましたが、受賞作の映像「偉大なる疲労」はもとより、インスタレーション「青い狐」などは、複数の学問を横断しつつ、高度な思考実験を伴いながら、生命や世界の理に迫っていて、壮大な天地創造の物語を目の当たりにするかのようで圧倒されました。

6.「コートールド美術館展 魅惑の印象派」 東京都美術館



今年に見た西洋美術では最も心を惹かれる作品の多い展覧会でした。作品数は約60点ほどと必ずしも多くはありませんでしたが、チラシ表紙を飾ったマネの「フォリー=ベルジェールのバー」などのコレクションはいずれも粒揃いで、特に10点ほど出展された質の高いセザンヌには舌を巻くものがありました。また漫然と作品を並べるのではなく、画家の言葉や時代背景、それに技法などに着目した構成も良かったと思いました。

7.「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」 森アーツセンターギャラリー



近年、メディア等で露出の多かったバスキアを、日本との関わりにも着目しながら、約130点もの作品で辿る回顧展でした。1980年代のアメリカのアートシーンを席巻したバスキアですが、作品には強い批判的態度も感じられて、当時の社会の様々な問題が浮き彫りになるような内容でもありました。また絵画の重層的な質感、特に絵具の筆触には躍動感があり、事前に図版で見知るのとは迫力がまるで違いました。

8.「岡山芸術交流2019」 前編(旧内山下小学校、林原美術館) 後編(岡山城、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館)



今回で2度目の開催となった岡山芸術交流に初めて行くことが出来ました。「もし蛇が」とした謎めいたタイトルしかり、コンセプチャルな作品も目立ちましたが、芸術祭全体があたかも1つの大きな有機物のようで、生命科学の問題など考えさせられる内容の多い展示でした。また岡山城界隈に広がる展示エリアも程よいスケール感で、街歩きとしても楽しめました。

9.「石川直樹 この星の光の地図を写す」 東京オペラシティアートギャラリー



世界各地を写真に撮り続ける石川直樹の視点を追体験するような展覧会でした。また実際の装備品や道具、さらには愛読書までも紹介していて、石川の冒険の軌跡を臨場感のある形で見ることが出来ました。中でも途中で断念した「K2」では、石川自身の体験が克明に記録されていて、どれほど苦難であったのかがひしひしと伝わってきました。

10.「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」 ポーラ美術館



ポーラ美術館では開館以来、初めてとなる現代美術とのコラボレーション企画で、同館の西洋、東洋美術コレクションと、国内外の12組の現代美術家の作品が、さながら音楽を奏でるように響きあっていました。また実際にも音をモチーフにした作品が少なくなく、特に屋外の「森の遊歩道」に展開したスーザン・フィリップスのサウンドインスタレーションは、風が樹木を揺らす音や鳥のさえずりなどを取り込んでいて、森に囲まれたポーラ美術館ならではの鑑賞体験をすることが出来ました。

次点.「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」 横浜美術館

開館30年を迎えた横浜美術館の全館スケールでのコレクション展でした。中でも束芋、淺井裕介、今津景、菅木志雄のゲスト作家が、自作とともに作品をセレクトする展示が面白く、元々、常設展においても意欲的な企画が多い横浜美術館による、新たな取り組みを示したような展覧会でした。

なおベスト10以外で特に印象に残った展覧会は以下の通りです。(順不同)

「メスキータ」 東京ステーションギャラリー
「インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史」 埼玉県立近代美術館
「シャルル=フランソワ・ドービニー展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
「竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション」 東京国立近代美術館工芸館
「青木野枝 霧と鉄と山と」 府中市美術館
「山沢栄子 私の現代」 東京都写真美術館
「窓展」 東京国立近代美術館
「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」 横浜美術館
「やなぎみわ展 神話機械」 神奈川県民ホールギャラリー
「現在地:未来の地図を描くために」 金沢21世紀美術館
「目  非常にはっきりとわからない」 千葉市美術館
「カルティエ、時の結晶」 国立新美術館
「ハプスブルク展」 国立西洋美術館
「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの」 大倉集古館
「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶」 サントリー美術館
「伊庭靖子展 まなざしのあわい」 東京都美術館
「ロイス・ワインバーガー展」 ワタリウム美術館
「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」 原美術館
「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」 水戸芸術館
「原三溪の美術 伝説の大コレクション」 横浜美術館
「円山応挙から近代京都画壇へ」 東京藝術大学大学美術館
「塩田千春展:魂がふるえる」 森美術館
「特別展 三国志」 東京国立博物館・平成館
「ジュリアン・オピー」 東京オペラシティアートギャラリー
「没後50年 坂本繁二郎展」 練馬区立美術館
「食の器」 日本民藝館
「遊びの流儀 遊楽図の系譜」 サントリー美術館
「マンモス展」 日本科学未来館
「クリムト展」 東京都美術館
「宮本隆司 いまだ見えざるところ」 東京都写真美術館
「トム・サックス ティーセレモニー」 東京オペラシティアートギャラリー
「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」 東京ステーションギャラリー
「世紀末ウィーンのグラフィック-デザインそして生活の刷新にむけて」 目黒区美術館
「福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ」 東京国立近代美術館
「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術」 東京都現代美術館
「ラファエル前派の軌跡展」 三菱一号館美術館
「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」 東京国立博物館・平成館
「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」 千葉市美術館
「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」 府中市美術館
「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」 東京国立近代美術館工芸館
「アルヴァ・アアルト もうひとつの自然」 東京ステーションギャラリー
「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」 サントリー美術館
「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」 東京都美術館
「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」 渋谷区立松濤美術館
「ルーベンス展―バロックの誕生」 国立西洋美術館
「マイケル・ケンナ写真展」 東京都写真美術館
「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」 国立西洋美術館
「ギュスターヴ・モロー展―サロメと宿命の女たち―」 パナソニック汐留美術館
「キスリング展 エコール・ド・パリの夢」 東京都庭園美術館
「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」 ちひろ美術館・東京
「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」 三菱一号館美術館
「日本の素朴絵」 三井記念美術館
「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s」 アーツ前橋
「生誕100年 飯塚小玕齋展―絵画から竹工芸の道へ―」 太田市美術館・図書館
「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」 国立新美術館
「ミュシャと日本、日本とオルリク」 千葉市美術館
「ゴッホ展」 上野の森美術館
「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち ―悳俊彦コレクション」 太田記念美術館 

例年同様に絞りきれず、たくさんの展覧会をあげてしまいましたが、私にとって2019年は明らかに現代美術に心が引きつけられる一年となりました。



ベスト10以外では、心象世界の向こうにロマンを垣間見た「マイケル・ケンナ写真展」(東京都写真美術館)、あたかも美術館に住む住人のごとくに彫刻が並んだ「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」(原美術館)、利休の見立てを現代に再生したような「トム・サックス ティーセレモニー」(東京オペラシティアートギャラリー)、ビルと都市の並び立つ熱気に呑まれた「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」(水戸芸術館)、そして作家の人生そのものが作品として体現したかのような「塩田千春展:魂がふるえる」(森美術館)などが特に印象に残りました。



また会期末に向けて人気を集めた「目  非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館)も、チバニアンに着想を得つつも、改修中の美術館の場を効果的に用いていて楽しめました。それに現在、開催中の「窓展」(東京国立近代美術館)も、「窓」を切り口にした現代美術が多く展示されていて、とても面白く見られました。その他にも「山沢栄子 私の現代」(東京都写真美術館)では、具象と抽象を行き来する作品の魅力はもとより、山沢のチャレンジングな生き方そのものにも共感を覚えました。



日本美術では、まず「竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション」(東京国立近代美術館工芸館)に魅せられました。メトロポリタン美術館の竹工芸コレクションが里帰りした展覧会で、先だって観覧した「生誕100年 飯塚小玕齋展―絵画から竹工芸の道へ―」(太田市美術館・図書館)の飯塚小玕齋の優品などが多数並んでいて、竹の本来のしなやかさと繊細な意匠に大いに目を奪われました。



「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(府中市美術館)と「日本の素朴絵」(三井記念美術館)も、徳川の将軍の描いた絵画や庶民向けの大津絵など、ヘタウマや知られざる作品に焦点を当てていて、日本美術の新たな魅力に接することが出来ました。この他、創意工夫に溢れた現代の備前にも引かれた「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」(東京国立近代美術館工芸館)や、衰退したとされる明治以降の浮世絵にあえて着目した「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち―悳俊彦コレクション」(太田記念美術館)も興味深く見られました。



西洋美術では、2つのクリムトに関した展覧会、「クリムト展」(東京都美術館)と「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」(国立新美術館)が充実していました。特に後者はクリムトのみならず、世紀末ウィーンの文化全体までを網羅するような構成で、作品と資料も多く、大変に見応えがありました。さらに「世紀末ウィーンのグラフィック-デザインそして生活の刷新にむけて」(目黒区美術館)もクリムト、シーレ、ココシュカから、オットー・ヴァーグナー、カール・モルなど、約300点もの作品を紹介していました。2019年はクリムトを中心としたウィーン世紀末が1つのトレンドでもあったかもしれません。

「ミュシャと日本、日本とオルリク」(千葉市美術館)も忘れられません。日本でも人気のあるミュシャだけでなく、同じチェコ出身で来日経験もあったオルリクの制作を紹介する展覧会で、同国におけるジャポニスム受容、及び日本への影響関係などを丹念に検証していました。



今年は数こそ少ないものの、東京以外の地域へ何度か遠征して来ました。そのうち近場では、根府川の江之浦測候所が大変に印象的で、あたかも古い社か古代の遺跡へと迷い込んだかのような空間は、まさに杉本博司の美意識を体現したかのようで圧倒されました。また北陸では、常設展示のスケールに驚かされた福井県立恐竜美術館、そしてエルリッヒのプールでも知られ、多くの観光客で賑わっていた金沢21世紀美術館へもともに初めて行くことが出来ました。



また西日本方面では、ベスト10にあげた「岡山芸術交流」をはじめ、まだブログにまとめきれていないものの、現代アートの聖地とさえ呼ばれる直島へも旅することが出来ました。1日で回る行程だったため、直島限定となりましたが、ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、地中美術館から家プロジェクトなど、一通りのアートスポットを周遊しました。芸術祭期間中ではないのにも関わらず、国内外から多くの観光客が集っていて、改めて直島の人気を感じさせるものがありました。

見に行ったのにも関わらず、今年もブログに感想を書ききれない展覧会が多々ありました。(ベスト10にあげた展覧会でも、コーネル展とコートールド展の感想を書きそびれてしまいました。)来年はもう少しアウトプットに力を入れたいとは思いますが、当面は週3回程度の更新となりそうです。

最後になりますが、皆さまは今年一年、どのような美術との出会いがありましたでしょうか。このエントリをもちまして年内のブログを終わります。今年も「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうぞ良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年その2。2003年も含む。)
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「未来と芸術展」 森美術館

森美術館
「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」
2019/11/19~2020/3/29



AIやバイオ技術、ロボット工学、ARなどの最先端の科学により、社会や人間の生活が目まぐるしく変化する現代において、未来へ向けて「どう生きるのか」を問いを、アートやデザイン、建築を通して考察する「未来と芸術展」が、森美術館にて開催されています。


ポメロイ・スタジオ「ポット・オフグリッド」 2016年

はじまりは未来を切り開くべく、世界各地で進む都市計画や様々なアイデアでした。シンガポールのポメロイ・スタジオは「ポット・オフグリッド」において、海に浮かぶエネルギーに頼らない都市のプロトタイプを提案していて、シンガポールやヴェニスの地に適応したプロジェクトが構想されました。


XTUアーキテクツ「Xクラウド・シティ」 2019年

パリを拠点にしたXTUアーキテクツの大胆な発想も面白いかもしれません。「Xクラウド・シティ」では近未来、人類は温暖化などにより地表に住めなくなったと仮定し、雲の上の大気圏内に居住空間を作ることを提案していて、まさに宙の上には住居のモジュールが浮かんでいました。


「2025年大阪・関西万博誘致計画案」 2019年

2025年に開催が予定される「大阪・関西万博誘致計画案」にも目を引かれました。ここでは計画案に組み込まれた様々な特徴などを、未来都市のあり方として再構成されていて、デジタルのインスタレーションとして表現されていました。

こうした未来の都市に続くのは、環境の変化などに対応することが求められる建築で、新素材や工法の研究事例や成果を紹介していました。


ビャルケ・インゲルス & ヤコブ・ランゲ「球体」 2018年

そのうち異彩を放っていたのがビャルケ・インゲルス&ヤコブ・ランゲの「球体」で、2018年にアメリカのネバダ州の荒地で発表された、大きな球体の模型を展示していました。同地でのフェスティバルのために用意された作品、多くの人々の参加によって組み上げられました。それこそ地球を照らす巨大なミラーボールと言えるのかもしれません。


ミハエル・ハンスマイヤー「ムカルナスの変異」 2019年

1つのインスタレーションとして目立っていたのが、ドイツのミハエル・ハンスマイヤーによる「ムカルナスの変異」で、筒型のパイプや紐のようなものが円を描くように吊り下がっていました。


ミハエル・ハンスマイヤー「ムカルナスの変異」 2019年

これらはイスラム建築で見られる装飾をモチーフとしていて、ハンスマイヤーはコンピューターを用いたシュミレーションにより、独自のデザインを築き上げました。中に入ると、氷柱のように突起物が連なっていて、人工的な洞窟の中へ潜り込んだような錯覚を覚えるかもしれません。


エコ・ロジック・スタジオ「H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g」 2019年

チラシ表紙を飾ったのが、ロンドンのエコ・ロジック・スタジオによる「H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g」なる彫刻でした。これはバイオ技術を使い、サンゴの形をコンピューターでシュミレーションし、3Dとして出力されたもので、ブロック内には微細藻類が埋められていました。そして太陽光によって光合成しては、造形物の内部にて生物コロニーが形成されていて、曲線を帯びた独特なフォルムは、あたかも未知の生命体のようでもありました。


GROOVE X「LOVOT(らぼっと)」 2019年

ライフスタイルに関する展示で圧倒的な人気を集めていたのがロボットでした。「LOVOT(らぼっと)」は、東京のGROOVE X社が3年かけて開発した愛玩ロボットで、人の手の動きなどに反応しつつ、大きな目を見開きながら、終始、忙しなく動いていました。なおLOVOTにはセンサーが内蔵され、人間とのスキンシップの状況を理解するように作られていました。


ヴァンサン・フルニエ「マン・マシン」シリーズ 2009-2010年

このロボットを素材に扱ったのが、パリのヴァンサン・フルニエの「マン・マシン」シリーズでした。一連の写真では、ロボットが日常的な場面に溶け込むように存在していて、子どもとバスケットボールを楽しむなど、特に何かの仕事をしているわけではありませんでした。


ヴァンサン・フルニエ「マン・マシン」シリーズ 2009-2010年

現在、一般的なロボットは何らかの役割を与えられていますが、「マン・マシン」で表現されたロボットは、人間同様に仕事に従事していない瞬間のある存在で、それこそ意思を持つかのようでした。果たしてロボットが人間と同様の知能を持つ時代がやってくるのでしょうか。


ディムート・シュトレーベ「シュガーベイブ」2014年-

バイオ技術を集めた「バイオ・アトリエ」も目立っていたかもしれません。特に驚いたのがアメリカのディムート・シュトレーベの「シュガーベイブ」で、ゴッホの切り落とした左耳をタンパク質で再現しようとした彫刻でした。ここにはゴッホの子孫のDNAも導入されていて、話しかけると神経インパルスを模した音がリアルタイムで生成される仕組みをもっていました。あまりにも生々しいゆえに、ここから実際にゴッホが再生されていく光景を想像するほどでした。


パトリシア・ピッチニーニ「親族」 2018年

メルボルン在住のパトリシア・ピッチニーニの「親族」も、科学と生命に関する問題をテーマとした作品でした。オランウータンと人間の架空の交配種をもとに、母子が手を取りながら抱き合う姿を表現していて、「いびつ」(解説より)な造形に目を奪われるともに、確かな親子の愛情をも汲み取ることが出来ました。


ダン・K・チェン「末期医療ロボット」 2018年

ラストは「変容する社会と人間」と題した展示で、科学の発展に伴う新たな人間像や社会像などが示されていました。そのうち、一見、目立たないものの、重い主題を扱っていたのが、台湾生まれのダン・K・チェンで、1つの無機的なベットを展示していました。一体、何を意味するのでしょうか。


ダン・K・チェン「末期医療ロボット」 2018年

これは人間の死をロボットが看取るためのベットで、患者がロボットに腕をさすられながら、「快適な死を迎えください」と他界する様子も映像で表現していました。何とも滑稽ながらも、ロボットはいわば真摯に人間にも向き合っていて、必ずしも絵空事には見えませんでした。果たして実用化されることはあるのでしょうか。


アウチ「データモノリス」 2018年

インタンブールを拠点に活動するアウチの「データモノリス」も迫力十分でした。高さ5メートルもの直方体には、スピーディーに変化する様々なパターンが映し出されていて、それこそ宇宙の果てを覗き込んでいるかのような、SF的なイメージも感じられました。


アウチ「データモノリス」 2018年

とは言え、図像そのものは、トルコの紀元前9000年頃にまで遡る古い遺跡に刻まれたもので、それをAIで解析し、抽象的なパターンに変えて映していました。古代のイメージを未来へと転換して見せる面も面白いかもしれません。


MADアーキテクツ「山水都市リサーチ」 2009年

これまでにも森美術館では「医学と芸術展」(2009年~2010年)、「宇宙と芸術展」(2016年~2017年)と開催してきましたが、今回はよりジャンルの広い「未来」がテーマゆえに、なかなか焦点が絞り込めない面はあったかもしれません。それでも時にアートを超えた様々な作品はなかなか刺激的で、未来への表現の新たな可能性を感じられる展示ではありました。


会期中は無休です。年末年始のお休みもありません。2020年3月29日まで開催されています。

「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」 森美術館@mori_art_museum
会期:2019年11月19日(木)~2020年3月29日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *火曜日は17時で閉館。但し11月19日(火)、12月31日(火)、2月11日(火・祝)は22時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、学生(高校・大学生)1200円、子供(4歳~中校生)600円、65歳以上1500円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
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「中野正貴写真展 東京」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「中野正貴写真展 東京」
2019/11/23〜~2020/1/26



東京都写真美術館で開催中の「中野正貴写真展 東京」を見てきました。

1955年に福岡で生まれ、翌年に東京へ移り住んだ写真家の中野正貴は、大学を卒業後、広告写真を手掛けながら、約30年に渡って東京を撮り続けました。

その中野の美術館として初めての大規模な個展が「東京」で、タイトルが示すように、全て東京を舞台とした写真、約100点ほどが展示されていました。

さて一概に東京とはいえども、幾つかの切り口、つまりテーマを据えて写真を撮っているのも、中野の制作の特徴と言えるかもしれません。



中でも目を引くのが「TOKYO NOBODY」と題したシリーズで、いずれも人が誰もいない東京の街の光景をカメラに収めていました。常日頃、大勢の人で行き交う銀座や渋谷の繁華街も無人であるため、何らかのデジタル加工がなされているかと思いきや、一切の手が加わっていませんでした。



ともかく見慣れた街から人がいない光景はどこかシュールでもあり、あたかもパラレルワールドを覗き込んでいるかのような錯覚に陥るかもしれません。



ビルや民家の窓から外を眺めた「東京窓景」も中野の代表的なシリーズで、同作にて2004年度の第30回木村伊兵衛写真賞を受賞しました。



「東京窓景」で興味深いのは、何も単に窓の外を捉えているだけでなく、窓の内側、つまり室内空間をも合わせて取り込んで写していることでした。そこに中野は、座敷から内部空間を含めて表の庭を鑑賞する日本の伝統的な美意識と、額入り絵画のように屋外の風景を見る西洋のピクチャーウィンドウの概念を当てはめたとしていました。



川を都市の動脈と位置付ける中野は、「TOKYO FLOAT」において、川面の船の上から東京を見上げるように撮影しました。それらはさも街やビルが水に浮いているかのようで、高速道路下の水路から眺めた景観など、日常的な視点とは異なった東京の姿を見ることが出来ました。

ところで天を突くそびえ立つビル群や、大蛇のように這う高速道路の高架橋など、ダイナミックな景色にばかり目が向いてしまいますが、何も中野は東京のランドスケープのみを切り取ってカメラに表現しているわけではありません。



というのも、「東京刹那」や「東京切片」のシリーズでは、街に行き交う人々の様子から裏寂れた路地などを写していて、東京の日常的なドラマなり細部へ目を向けていたからでした。



花見に花火の観客、それに居酒屋に集う人々の光景など、どこかリアルで血の通った東京をえぐり取っているのも、中野の写真の魅力なのかもしれません。



なお展示は、1990年から2019年にかけて撮られた作品で構成されていましたが、とりわけ2000年前後の写真が目立っていました。



建て替え前の渋谷PARCOのある公園通りや、同じく開発前の渋谷駅前、はたまた建設途上の汐留のビル群などは、一昔前の東京と呼んでも差し支えありません。



私も約20年前から東京に出入りしつつ、近隣で生活していますが、それらの写真を見ていると、当時の東京での出会いや思い出が頭に思い浮かぶような、どこかノスタルジックな感興も覚えました。


会場内の撮影も可能です。2020年1月26日まで開催されています。

「中野正貴写真展 東京」(@tokyophotoex) 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2019年11月23日(土・祝)~2020年1月26日(日)
休館:月曜日。*但し1月13日(月・祝)は開館し、1月14日(火)は休館。年末年始(12月29日〜1月1日)。
時間:10:00~28:00 
 *木・金曜は20時まで開館。1月2日(木)と3日(金)の開館は18時まで。
料金:一般1000(800)円、学生800(640)円、中高生・65歳以上600(480)円。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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年末年始の「美術館・博物館」休館情報 2019/2020

クリスマスを迎え、いよいよ年の瀬が迫ってきました。一都三県(東京・神奈川・埼玉・千葉)における、主な美術館と博物館の休館情報をまとめてみました。

2020/2021年度版は→年末年始の「美術館・博物館」休館情報 2020/2021



【上野】

・上野の森美術館 12/31~1/1休 
 「ゴッホ展」(~1/13)
 http://www.ueno-mori.org

・国立科学博物館 12/28~1/1休
 「ミイラ 永遠の命を求めて」(~2/24)
 http://www.kahaku.go.jp

・国立近現代建築資料館 12/29〜1/3休
 「吉田鉄郎の近代 モダニズムと伝統の架け橋」(〜2/11)
 http://nama.bunka.go.jp

・国立西洋美術館 12/28~1/1休
 「ハプスブルク展」(~1/26)
 http://www.nmwa.go.jp

・台東区立朝倉彫塑館 12/29〜1/3休
 「特集 ≪墓守≫110年 朝倉文夫の苦悩」(〜3/4)
 http://www.taitocity.net/zaidan/asakura/

・東京藝術大学大学美術館 12/27~1/7休
 「写真展 ウズベキスタン美術における仏陀の形象」(~12/26)
 「保科豊巳退任記念展 萃点 SUI-TEN」(1/7~)
 https://www.geidai.ac.jp/museum/

・東京国立博物館 12/26~1/1休
 「博物館に初もうで」(1/2~)
 http://www.tnm.jp

・東京都美術館 12/26~1/3休
 「子どもへのまなざし/松本力 記しを憶う」(~1/5)
 http://www.tobikan.jp

・弥生美術館・竹久夢二美術館 12/26~1/6休
 「もうひとつの歌川派?!国芳・芳年・年英・英朋・朋世~浮世絵から挿絵へ/はいからモダン袴スタイル展」(1/7~)
 http://www.yayoi-yumeji-museum.jp



【丸の内・京橋・日本橋・新橋】

・アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館) ~1/17休
 「見えてくる光景 コレクションの現在地」(1/18~)
 https://www.artizon.museum

・相田みつを美術館 12/30〜1/1休
 「あたらしい門出」(〜2/9)
 http://www.mitsuo.co.jp/museum/

・出光美術館 12/23~1/3休
 「やきもの入門 ─色彩・文様・造形をたのしむ」(~2/2)
 http://idemitsu-museum.or.jp

・国立映画アーカイブ 12/28~1/3休
 「ポーランドの映画ポスター」(~3/8)
 https://www.nfaj.go.jp

・東京国立近代美術館(工芸館を含む) 12/28~1/1休
 「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」(~2/2)
 「パッション20 今みておきたい工芸の想い」(~3/8)
 http://www.momat.go.jp

・東京ステーションギャラリー 12/29~1/1休
 「坂田一男 捲土重来」(~1/26)
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/

・パナソニック汐留ミュージアム ~1/10休
 「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展」(1/11~)
 https://panasonic.co.jp/es/museum/

・三井記念美術館 12/27~1/3休
 「国宝 雪松図と明治天皇への献茶」(~1/30)
 http://www.mitsui-museum.jp

・三菱一号館美術館 12/31~1/1休
 「印象派からその先へ―世界に誇る吉野石膏コレクション」(~1/20)
 http://mimt.jp

・ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション 工事のため休館中(3/19まで)
 https://www.yamasa.com/musee/



【表参道・青山】

・太田記念美術館 12/23~1/10休
 「肉筆浮世絵名品展―歌麿・北斎・応為」(1/11~)
 http://www.ukiyoe-ota-muse.jp

・岡本太郎記念館 12/28~1/4休
 「日本の原影」 (~2/24)
 http://www.taro-okamoto.or.jp

・根津美術館 12/24~1/8休
 「〈対〉で見る絵画」(1/10~)
 http://www.nezu-muse.or.jp

・ワタリウム美術館 12/31~1/3休
 「フィリップ・パレーノ展」(~3/22)
 http://www.watarium.co.jp



【新宿・渋谷】

・NTTインターコミュニケーション・センター  12/28~1/6休
 「オープン・スペース 2019/上村洋一 Hyperthermia―温熱療法」(~3/1)
 「開かれた可能性―ノンリニアな未来の想像と創造」(1/11~)
 http://www.ntticc.or.jp/ja/

・草間彌生美術館 12/29〜1/8休
 「集合の魂たち」(〜1/31)
 https://yayoikusamamuseum.jp

・國學院大學博物館 12/23~1/10休
 「古物を守り伝えた人々―好古家たち Antiquarians―」(1/25~)
 http://museum.kokugakuin.ac.jp

・渋谷区立松濤美術館 12/29~1/3休
 「サラ・ベルナールの世界展」(~1/31)
 http://www.shoto-museum.jp

・東京オペラシティ アートギャラリー 12/16~1/10休
 「白髪一雄」(1/11~)
 https://www.operacity.jp/ag/

・文化学園服飾博物館 12/27~1/5休
 「ひだ -機能性とエレガンス-」(~2/14)
 http://museum.bunka.ac.jp

・Bunkamura ザ・ミュージアム 12/27~1/8休
 「リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」(~12/26)
 「永遠のソール・ライター」(1/9~)
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/

・東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 移転準備のため休館中
 http://www.sjnk-museum.org
 *2020/5/28にSOMPO美術館としてオープン予定



【六本木・虎ノ門】

・大倉集古館 12/28〜1/1休
 「新春特集展示 能と吉祥 寿―Kotohogi」(〜1/26)
 https://www.shukokan.org

・菊池寛実記念 智美術館 12/28~1/1休
 「第8回菊池ビエンナーレ 現代陶芸の<今>」(~3/22)
 http://www.musee-tomo.or.jp

・国立新美術館 12/24~1/7休
 「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」(~3/16)
 「DOMANI・明日2020」(1/11~)
 http://www.nact.jp

・21_21 DESIGN SIGHT 12/26~1/3休
 「秘展 めったに見られないデザイナー達の原画」(~3/8)
 http://www.2121designsight.jp

・森アーツセンターギャラリー 無休
 「特別展 天空ノ鉄道物語」(~3/22)
 https://macg.roppongihills.com/jp/

・森美術館 無休
 「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」(~3/29)
 https://www.mori.art.museum/jp/

・サントリー美術館 改修工事のため休館中
 https://www.suntory.co.jp/sma/

・泉屋博古館分館 改修工事のため休館中
 https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/



【恵比寿・白金・目黒・品川・台場】

・建築倉庫ミュージアム 12/28〜1/6休
 「Steven Holl:Making Architecture」(〜1/18)
 https://archi-depot.com

・東京都写真美術館 12/29~1/1休
 「山沢栄子 私の現代/至近距離の宇宙 日本の新進作家 vol.16/中野正貴写真展 東京」(~1/26)
 http://topmuseum.jp

・日本科学未来館 12/28~1/1休
 「常設展」(1/2~)
 「どうする!?エネルギー大転換展」(1/17~)
 http://www.miraikan.jst.go.jp

・日本民藝館 12/26~1/11休
 「2019年度 日本民藝館展-新作工藝公募展」(~12/25)
 「祈りの造形 沖縄の厨子甕を中心に」(1/12~)
 http://www.mingeikan.or.jp

・山種美術館 12/23~1/2休
 「上村松園と美人画の世界」(1/3~)
 http://www.yamatane-museum.jp

・東京都庭園美術館 12/28~1/4休
 「アジアのイメージ―日本美術の東洋憧憬」(~1/13)
 http://www.teien-art-museum.ne.jp

・原美術館 12/26~1/3休
 「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」(~1/13)
 http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/

・目黒区美術館 12/29~1/17休 *区民ギャラリーは1/7~
 「めぐろの子どもたち展」(1/18~)
 http://mmat.jp

・畠山記念館 施設改築工事のため休館中
 http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/

・松岡美術館 所蔵作品の修復調査、設備点検のため休館中
 http://www.matsuoka-museum.jp



【両国・清澄白河・駒込】

・江戸東京博物館 12/28~1/1休
 「大浮世絵展―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演」(~1/19)
 https://www.edo-tokyo-museum.or.jp

・すみだ北斎美術館 12/29~1/1休
 「北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」(~1/19)
 http://hokusai-museum.jp

・たばこと塩の博物館 12/29~1/3休
 「たば塩コレクションに見る ポスター黄金時代」(~2/16)
 https://www.jti.co.jp/Culture/museum/index.html

・東京都現代美術館 12/28~1/1休
 「ミナ ペルホネン 皆川明 つづく/ダムタイプ|アクション+リフレクション/MOTアニュアル2019」(~2/16)
 http://www.mot-art-museum.jp

・刀剣博物館 12/24~1/10休
 第65回重要刀剣等新指定展」(1/11~)
 https://www.touken.or.jp/museum/
 
・東洋文庫ミュージアム 12/30~1/2休
 「東洋文庫の北斎展」(~1/13)
 http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/



【池袋・目白・板橋・練馬】

・板橋区立美術館 12/29~1/3休
 「小さなデザイン 駒形克己展」(~1/13)
 http://www.itabashiartmuseum.jp

・古代オリエント博物館 12/26~1/3休
 「祈りの聖地・エルサレム-中野晴生写真展」(~1/13)
 http://aom-tokyo.com

・ちひろ美術館・東京 12/28~1/1休
 「石内都展 都とちひろ ふたりの女の物語」(~1/31)
 https://chihiro.jp/tokyo/

・練馬区立美術館 12/29~1/3休
 「没後10年 品川工展 組み合わせのフォルム」(~2/9)
 https://www.neribun.or.jp/museum.html

・永青文庫 館内整備のため休館中(2/14まで)
 「古代中国・オリエントの美術―国宝 細川ミラー 期間限定公開」(2/15~)
 http://www.eiseibunko.com

・講談社 野間記念館 建て替えのため休館中
 http://www.nomamuseum.kodansha.co.jp



【世田谷】

・五島美術館 12/23~1/4休
 「茶道具取合せ展」(~2/16)
 http://www.gotoh-museum.or.jp

・静嘉堂文庫美術館 ~1/17休
 「磁州窯と宋のやきもの」(1/18~)
 http://www.seikado.or.jp

・世田谷美術館 12/29~1/3休
 「奈良原一高のスペイン―約束の旅」(~1/26)
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp

・世田谷文学館 12/29~1/3休
 「『新青年』と世田谷ゆかりの作家たち」(~4/5)
 「六世 中村歌右衛門展」(1/18~)
 https://www.setabun.or.jp
 


【武蔵野・多摩】

・東京富士美術館 12/26~1/3休
 「フランス絵画の精華 ー大様式の形成と変容」(~1/19)
 http://www.fujibi.or.jp

・八王子夢美術館 12/29~1/3休
 「市民公募 夢美エンナーレ入選作品展」(~1/16)
 http://www.yumebi.com

・府中市美術館 12/29~1/3休
 「青木野枝 霧と鉄と山と」(~3/1)
 https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/

・町田市立国際版画美術館 12/26~1/4休
 「新収蔵作品展 Present for you」(1/5~)
 http://hanga-museum.jp

・三鷹市市民ギャラリー 12/29~1/4休
 「壁に世界をみる―𠮷田穂高展」(~2/16)
 http://mitaka-sportsandculture.or.jp/gallery/

・武蔵野市立吉祥寺美術館 ~1/10休
 「千田泰広―イメージからの解放」(1/11~)
 http://www.musashino-culture.or.jp/a_museum/

・多摩美術大学大学美術館 館内施設点検のため休館中(3/3まで)
 http://www.tamabi.ac.jp/museum/



【神奈川】

・馬の博物館 12/25~1/4休
 「馬の彫刻家・三井髙義石膏原型展」(~2/16)
 http://www.bajibunka.jrao.ne.jp/uma/

・岡田美術館 12/31~1/1休
 「DOKI土器!土偶に青銅器展」(~3/29)
 http://www.okada-museum.com

・神奈川県民ホールギャラリー ~1/6休
 「一瀾書道会 全国学生公募展2020」(1/7~)
 http://www.kanakengallery.com

・神奈川県立近代美術館鎌倉別館 12/29~1/3休
 「ふたたびの『近代』」(~1/19)
 http://www.moma.pref.kanagawa.jp/annex

・神奈川県立歴史博物館 12/28~1/4休
 「二代歌川広重「諸国名所百景」第二弾」(~1/26)
 「特別陳列 古文書が語る富士山宝永噴火」(1/7~)
 http://ch.kanagawa-museum.jp

・川崎浮世絵ギャラリー 12/27~1/6休
 「日本の宝 浮世絵名品展―墨摺絵から錦絵誕生まで」(前期:~12/26、後期:1/7~)
 https://ukiyo-e.gallery

・川崎市岡本太郎美術館 12/29~1/3休
 「芸術と社会・現代の作家たち」(~1/13)
 http://www.taromuseum.jp/

・そごう美術館 12/26~12/31休
 「ミュシャ展 運命の女たち」(~12/25)
 「樹木希林 遊びをせんとや生まれけむ展」(1/1~)
 https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/

・茅ヶ崎市美術館 12/28~1/3休
 「城田圭介-写真はもとより PAINT, SEEING PHOTOS」(~2/11)
 http://www.chigasaki-museum.jp

・BankArt Station + BankART SILK 12/30~1/3休
 「心ある機械たち again」(~2/2)
 http://www.bankart1929.com

・平塚市美術館 12/29~1/3休
 「糸賀英恵展 うつろいのかたち」(~4/5)
 http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/

・藤沢市アートスペース 12/28~1/4休
 「新春だニャン福来たる! 招き猫亭コレクション」(1/11~)
 http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/bunka/FAS

・ポーラ美術館 無休
 「シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」(~4/5)
 http://www.polamuseum.or.jp

・横須賀美術館 12/29~1/3休
 「第4期所蔵品展 特集:土屋仁応」(~4/5)、「第72回児童生徒造形作品展」(1/11~)
 http://www.yokosuka-moa.jp

・横浜市民ギャラリーあざみ野 12/29~1/3休
 「あざみ野フォト・アニュアル 田附勝 KAKERA」(1/25~)
 https://artazamino.jp

・横浜美術館 12/28~1/2休
 「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」(~1/13)
 http://yokohama.art.museum

・神奈川県立金沢文庫 空調設備改修工事のため休館中
 https://www.planet.pref.kanagawa.jp/city/kanazawa.htm

・神奈川県立近代美術館葉山館 空調設備等の改修工事のため展示中止
 http://www.moma.pref.kanagawa.jp
 *駐車場、レストラン、美術図書室は利用可能。(但し工事の状況により利用できない場合あり)

・川崎市市民ミュージアム 台風19号の浸水被害により当面休館
 https://www.kawasaki-museum.jp



【埼玉】

・川口市立アートギャラリー・アトリア 12/29~1/6休
 「アートな年賀状展2020」(1/7~)
 http://www.atlia.jp

・川越市立美術館 12/29~1/3休
 「小特集 小泉智英/近代の日本画」(~3/22)
 「平山郁夫展 シルクロードとガンダーラ美術」(1/25~)
 https://www.city.kawagoe.saitama.jp/artmuseum/

・河鍋暁斎記念美術館 12/24~1/3休
 「えとの始めは子年から おめでたい神仏画展」(1/4~)
 http://kyosai-museum.jp/hp/top.html

・原爆の図丸木美術館 12/29~1/3休
 「長沢秀之 対話『私が生まれたとき』神戸 25年あと(未来)の記憶」(~2/16)
 http://www.aya.or.jp/~marukimsn/

・埼玉県立近代美術館 12/27~1/3休
 「ニューヨーク・アートシーン-滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」(~1/19)
 http://www.pref.spec.ed.jp/momas/

・埼玉県立歴史と民俗の博物館 12/29~1/1休
 「縄文時代のたべもの事情」(1/2~)
 http://www.saitama-rekimin.spec.ed.jp

・鉄道博物館 12/29~1/1休
 「てっぱく鉄はじめ 2020」(1/2~)
 http://www.railway-museum.jp

・うらわ美術館 設備修繕に伴う館内整理のため休館中
 http://www.city.saitama.jp/urawa-art-museum/index.html



【千葉】

・市原市湖畔美術館 12/28~1/3休
 「サイトスペシフィック・アート~民俗学者・宮本常一に学ぶ~」(~1/13)
 http://lsm-ichihara.jp/

・佐倉市立美術館 12/28~1/4休
 「第37回新春佐倉美術展」(1/5~)
 http://www.city.sakura.lg.jp/sakura/museum/

・千葉県立美術館 12/28~1/4休
 「絵のみち・祈りのこころ-後藤純男の全貌」(~1/19)
 https://www.chiba-muse.or.jp/ART/

・千葉市美術館 2020年1月から改修工事のため休館(6月末までを予定)
 「目 非常にはっきりとわからない」(~12/28)
 http://www.ccma-net.jp

・DIC川村記念美術館 12/25~1/3休
 「コレクション展示」(~1/26)
 http://kawamura-museum.dic.co.jp

・成田山書道博物館 ~12/31休
 「新春特別展 成田山の書画」(1/1~)
 http://www.naritashodo.jp

・ホキ美術館 水害の影響により休館中
 https://www.hoki-museum.jp


【元日(水)から開館する美術館・博物館】

・森アーツセンターギャラリー 「特別展 天空ノ鉄道物語」
・森美術館 「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」
・そごう美術館 「樹木希林 遊びをせんとや生まれけむ展」
・ポーラ美術館 「シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」
・成田山書道博物館 「新春特別展 成田山の書画」

まずは元日に開館する美術館です。森アーツセンターギャラリーの「特別展 天空ノ鉄道物語」、森美術館の「未来と芸術展」、それにポーラ美術館の「シュルレアリスムと絵画」は、年末年始のお休みがありません。また、そごう美術館では12月25日まで「ミュシャ展」が開催され、一度閉館し、元日より「樹木希林 遊びをせんとや生まれけむ展」がはじまります。成田山書道博物館は既に年内は休館していて、元日より「新春特別展 成田山の書画」が開催されます。


【2日(木)から開館する美術館・博物館】

・上野の森美術館 「ゴッホ展」
・国立科学博物館 「ミイラ 永遠の命を求めて」
・国立西洋美術館 「ハプスブルク展」
・東京国立博物館 「博物館に初もうで」
・相田みつを美術館 「あたらしい門出」
・東京国立近代美術館 「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」、「パッション20 今みておきたい工芸の想い」(工芸館)
・東京ステーションギャラリー 「坂田一男 捲土重来」
・三菱一号館美術館 「印象派からその先へ―世界に誇る吉野石膏コレクション」
・大倉集古館 「新春特集展示 能と吉祥 寿―Kotohogi」
・菊池寛実記念 智美術館 「第8回菊池ビエンナーレ 現代陶芸の<今>」
・東京都写真美術館 「山沢栄子 私の現代」、「至近距離の宇宙 日本の新進作家 vol.16」、「中野正貴写真展 東京」
・日本科学未来館 「常設展」
・江戸東京博物館 「大浮世絵展―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演」
・すみだ北斎美術館 「北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」
・東京都現代美術館 「ミナ ペルホネン 皆川明 つづく」、「ダムタイプ|アクション+リフレクション」、「MOTアニュアル2019」
・ちひろ美術館・東京 「石内都展 都とちひろ ふたりの女の物語」
・岡田美術館 「DOKI土器!土偶に青銅器展」
・埼玉県立歴史と民俗の博物館 「縄文時代のたべもの事情」
・鉄道博物館 「てっぱく鉄はじめ 2020」

2日は多くの美術館や博物館が始動します。東京国立博物館では恒例の「博物館に初もうで」展が開催され、国宝の「松林図屏風」が公開されるほか、干支のネズミに因んだ特集展示、さらに新春イベントとして獅子舞や和太鼓の演舞などが披露されます。また即位礼正殿の儀に用いられた高御座と御帳台が公開中(1月19日まで)のため、2020年の「博物館に初もうで」は例年以上の人出も予想されます。


「大浮世絵展―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演」(年内は27日まで)を開催中の江戸東京博物館では、「お正月は、江戸博へ」と題し、2日と3日の常設展の観覧料を無料にする他、夢からくり一座の公演や筝と尺八の演奏、正月寄席などが催されます。


東京都写真美術館では「トップのお正月」が開催され、2日と3日は「山沢栄子 私の現代」と「至近距離の宇宙 日本の新進作家 vol.16」の2つの展覧会が無料で観覧できます。また各日とも先着100名にオリジナル・グッズがプレゼントされ、2日にはミュージアムショップで福袋の販売も行われます。

【3日(金)から開館する美術館・博物館】

・山種美術館 「上村松園と美人画の世界」
・東洋文庫ミュージアム」 「東洋文庫の北斎展」
・横浜美術館 「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」


3日より新たに「上村松園と美人画の世界」がスタートする山種美術館では、同日限定にて先着100名にプチギフトがプレゼントされ、Cafe椿にて甘酒が振る舞われます。また「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」(年内は27日まで)を開催中の横浜美術館では、3日にお年玉企画として、先着500名にクリアファイルがプレゼントされます。

【4日(土)から開館する美術館・博物館】

・国立近現代建築資料館 「吉田鉄郎の近代 モダニズムと伝統の架け橋」
・台東区立朝倉彫塑館 「特集 ≪墓守≫110年 朝倉文夫の苦悩」
・東京都美術館 「子どもへのまなざし」、「松本力 記しを憶う」
・出光美術館 「やきもの入門 ─色彩・文様・造形をたのしむ」
・国立映画アーカイブ 「ポーランドの映画ポスター」
・三井記念美術館 「国宝 雪松図と明治天皇への献茶」
・ワタリウム美術館 「フィリップ・パレーノ展」
・渋谷区立松濤美術館 「サラ・ベルナールの世界展」
・21_21 DESIGN SIGHT 「秘展 めったに見られないデザイナー達の原画」
・原美術館 「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」
・たばこと塩の博物館 「たば塩コレクションに見る ポスター黄金時代」
・板橋区立美術館 「小さなデザイン 駒形克己展」
・古代オリエント博物館 「祈りの聖地・エルサレム-中野晴生写真展」
・練馬区立美術館 「没後10年 品川工展 組み合わせのフォルム」
・世田谷美術館 「奈良原一高のスペイン―約束の旅」
・世田谷文学館 「『新青年』と世田谷ゆかりの作家たち」
・東京富士美術館 「フランス絵画の精華 ー大様式の形成と変容」
・八王子夢美術館 「市民公募 夢美エンナーレ入選作品展」
・府中市美術館 「青木野枝 霧と鉄と山と」
・神奈川県立近代美術館鎌倉別館 「ふたたびの『近代』」
・川崎市岡本太郎美術館 「芸術と社会・現代の作家たち」
・茅ヶ崎市美術館 「城田圭介-写真はもとより PAINT, SEEING PHOTOS」
・BankArt Station + BankART SILK 「心ある機械たち again」
・平塚市美術館 「糸賀英恵展 うつろいのかたち」
・横須賀美術館 「第4期所蔵品展 特集:土屋仁応」
・横浜市民ギャラリーあざみ野 *但し企画展「あざみ野フォト・アニュアル 田附勝 KAKERA」は1/25から。
・川越市立美術館 「小特集 小泉智英/近代の日本画」
・河鍋暁斎記念美術館 「えとの始めは子年から おめでたい神仏画展」
・原爆の図丸木美術館 「長沢秀之 対話『私が生まれたとき』神戸 25年あと(未来)の記憶」
・埼玉県立近代美術館 「ニューヨーク・アートシーン-滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」
・市原市湖畔美術館 「サイトスペシフィック・アート~民俗学者・宮本常一に学ぶ~」
・DIC川村記念美術館 「コレクション展示」


【5日(日)から開館する美術館・博物館】

・岡本太郎記念館 「日本の原影」
・東京都庭園美術館 「アジアのイメージ―日本美術の東洋憧憬」
・五島美術館 「茶道具取合せ展」
・町田市立国際版画美術館 「新収蔵作品展 Present for you」
・三鷹市市民ギャラリー 「壁に世界をみる―𠮷田穂高展」
・馬の博物館 「馬の彫刻家・三井髙義石膏原型展」
・神奈川県立歴史博物館 「二代歌川広重「諸国名所百景」第二弾」
・藤沢市アートスペース
・佐倉市立美術館 「第37回新春佐倉美術展」
・千葉県立美術館 「絵のみち・祈りのこころ-後藤純男の全貌」


年始より新たに始まる展覧会も少なくはありません。そのうちいずれも1月11日からは、パナソニック汐留美術館で「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展」、太田記念美術館にて「肉筆浮世絵名品展―歌麿・北斎・応為」、東京オペラシティ アートギャラリーで「白髪一雄展」、国立新美術館で「DOMANI・明日2020展」などが開催されます。




また旧ブリヂストン美術館より名を改め、建て替えのために長らく休館していたアーティゾン美術館は、1月18日にリニューアルオープンし、開館記念展として「見えてくる光景 コレクションの現在地」を開きます。



一方で現在、「目 非常にはっきりとわからない」が話題の千葉市美術館は、年内の展示を12月28日で終えると、展示室増設などの大規模改修工事のため、2020年6月末までを目処に休館します。

全ての美術館や博物館を網羅しているわけではなく、抜け落ちている情報や、記載ミスもあると思います。お出かけの際は、各館の公式サイトを改めてご確認下さい。
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「青木野枝 霧と鉄と山と」 府中市美術館

府中市美術館
「青木野枝 霧と鉄と山と」
2019/12/14~2020/3/1



府中市美術館で開催中の「青木野枝 霧と鉄と山と」を見てきました。

1958年に生まれ、主に鉄によって「大気や水蒸気」(解説より)をモチーフとした彫刻で知られる青木野枝は、石膏や石鹸などの素材に取り組んでは、新たな表現を行なってきました。

その青木の東京では約20年ぶりの個展(*)が「霧と鉄と山」で、空間に合わせて構想された新作の他、最初期の鉄鋼の彫刻、ないしドローイングなどが出展されていました。*美術館での個展。前回は「青木野枝展ー軽やかな、鉄の森」を2000年に目黒区美術館で開催。

さて久方ぶりの大規模な展覧会ゆえに、さも回顧形式の内容を想像してしまいましたが、必ずしもそういうわけではありませんでした。確かに古くは1981年の作品に遡るなど、新旧作にて構成されていたものの、1展示室1作品ならぬ、大型の作品が空間を占めていて、全体が1つのインスタレーションのような形をとっていました。よってリストにも記載がありましたが、作品数は彫刻に限ると8点ほどでした。


青木野枝「立山/府中」 2019年

まず1階のエントランスを過ぎると、右手に微かな香りを放つオブジェが目に飛び込んできました。それが「立山/府中」で、細い4本の脚を持つ薄い鉄板の上に、カラフルな石鹸を縦へ積んだ作品でした。


青木野枝「立山/府中」 2019年

これらの石鹸はいずれも使い古しのものだけに、大きさも形も一定ではありませんが、ちょうど窓の向こうの光を受けては、まるでガラスのごとくキラキラと輝いていました。


青木野枝「立山/府中」 2019年

その鮮やかな色彩もあってか、一見、華やかな雰囲気も醸し出していましたが、実のところ青木は、この石鹸の塔に、親に先立たれた子どもが供養のために石を積み、鬼が壊しては、また菩薩に救われるという伝承で知られた、賽の河原のイメージを重ねたとしています。それを知るとまた印象も変わってくるかもしれません。

エスカレーターをあがり、2階の展示室へ進むと、まず姿を表すのが、2つの「untitled」と「原形質」の3点の作品でした。前者の「untitled」は鉄を素材に、1つは卵を銅線で括り付けていて、一方の「原形質」は石膏を用いたものでした。そして「原形質」越しに「untitled」を見やると、さも山の向こうに並ぶ樹木の光景を目にするかのようでした。

2つの新作の「霧と鉄と山」こそ展示のハイライトと言えるかもしれません。まず展示室1の「I」では、リングの形をした鉄が、ちょうど空間の中央に山のように築かれていて、通常、絵画などを展示する備え付けのガラスケースの中には、半透明の波板がおおよそ2メートル間隔ほどに吊り下がっていました。

1つ1つの鉄のリングは、天体とも言えるような球を象っていて、一部には半透明のガラス板がはめ込まれていました。ちょうど泡のように吹き上がるようなイメージも思い浮かびましたが、ケースの波板とともに眺めると、水の流れる滝に囲まれた古墳のようにも見えて、どこか瞑想を誘うような鎮魂の場が築かれている錯覚にも囚われました。

もう一方の「II」は、やはり鉄のリングを積み上げていたものの、先の「I」とは異なり、上の部分が2つの耳のように突き出ていました。また「I」のように下から上へリングが小さくなることもなく、周囲のガラスケースには何も入れられていませんでした。その独特の形はまるで動物のようにも見えなくありませんでしたが、私には地中深くより吹き上がるマグマの光景と重なりました。


青木野枝「霧と山ーII」 2019年

エントランスのエスカレーターの前に立った、「霧と山ーII」も存在感があったのではないでしょうか。ちょうど円錐に近い形をした鉄のオブジェが、天井付近にまで立ち上がっていて、透明の波板がぶら下がっていました。その光景はそれこそ霧に包まれた山のようでもありながら、不思議と仲睦まじく寄り添う2人の人間の姿にも思えました。先の「立山/府中」と同様、2019年の新作で、まさしく美術館の空間のために作られたものでした。


青木野枝「霧と山ーII」 2019年

この他、日常的なメモ書きや、チェルノブイリの事故のニュースを伝える新聞を貼った「スケッチブック」も目を引きました。また石膏による「曇天1」と「曇天2」も量感があったかもしれません。白く、また思いの外にざらついた表面は、「原形質」と同様に、粉雪を固めたかのような感触を見せていました。


青木野枝「霧と山ーII」 2019年

1階エントランス作品のみ撮影が可能でした。(2階より見下ろす形もOK。)


青木野枝「霧と山ーII」 2019年

なお青木の作品は原則、恒久設置の場合を除き、展示を終えると解体されます。そして時に鉄のパーツは倉庫に長い間保管され、別の作品に利用されたり、時にはクズ鉄としてリサイクルされることもあるそうです。

「鉄は私にとって木の枝であり、骨であり、氷である。そしていつも内部に透明な光をもっている。」 青木野枝 *出品リストより

「流れのなかにひかりのかたまり/青木野枝/左右社」

リングが幾つも連なり、さも泡のように増殖していくような作品の姿を目にすると、何かが互いに行き来しつつ、緩やかに巡るようなイメージを思い浮かびましたが、そもそも青木の制作そのものが、反復であり、また循環的な行為と呼べるのかもしれません。



2020年3月1日まで開催されています。

「青木野枝 霧と鉄と山と」 府中市美術館
会期:2019年12月14日(土)~2020年3月1日(日)
休館:月曜日。但し1月13日、2月24日は開館。年末年始(12月29日~1月3日)、1月14日(火)、2月12日(水)、2月25日(火)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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「山沢栄子 私の現代」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「山沢栄子 私の現代」
2019/11/12~2020/1/26



東京都写真美術館で開催中の「山沢栄子 私の現代」を見てきました。

1899年に大阪で生まれ、20代にしてアメリカで写真を学んだ山沢栄子は、帰国後もポートレートや抽象写真などを手掛け、半世紀以上に渡り幅広く写真家として活動しました。

その山沢の生誕120年を期して行われているのが「私の現代」と題する回顧展で、1970年から1980年にかけての代表作を中心に、約140点の作品が出展されていました。

まず目を引くのが、山沢の写真家としての「集大成」(解説より)である「What I Am Doing」シリーズ、全28点でした。いずれも1986年の最後の新作個展に出品されたもので、山沢自らが1976年以降の作品を選び、新作と合わせてシリーズ化しました。ここではカラーとモノクロの写真がわけて展示されていて、現像用のリールや、撮影のためのガラスフィルターなどの写真機材も写していました。

何よりも印象に深いのは、もはや造形実験と呼んで良いほど、モチーフの形が抽象化しつつ、さも彫刻のように立ち上がっていることで、まさに「カメラで描く抽象画」(解説より)のような様相を見せていることでした。そしてコンセプチュアルな表現ながらも、時にリールを写した作品などは、あたかも人の顔を表しているかのようで、ユーモアな視点も感じられました。こうした抽象一辺倒ではない表現も、山沢の写真の大いな魅力かもしれません。

比較的早い段階の写真集、「遠近」も面白いのではないでしょうか。これらは山沢が戦後、再渡米した「ニューヨーク6ヶ月の目」なる見出しからはじまった連作で、1943年から1962年の間に制作された写真、77点を収録しました。アメリカの何気ない都市の風景や行き交う人々、さらに樹木、さらにはカップを重ねてリンゴを置いた光景など、風景から静物までを幅広く表現していて、中には後の「What I Am Doing」を彷彿させる抽象的な作品もありました。


「仔犬」1958年 写真集「遠近」より *会場外、撮影可能バナー

ここで思いがけないほど惹かれたのが馬や犬などの動物を写した作品でした。中でも「仔犬」は、まさに仔犬が前足を木にかけては、やや寂しげに、つぶらな瞳で彼方を見やる姿を写していて、どことなく寂しげな雰囲気も滲み出ていました。原題は「help」とされていましたが、この仔犬は、一体、何に助けを求めていたのでしょうか。飼い主を必死に待ち焦がれるような姿に愛おしさを感じてなりませんでした。

アメリカより帰国後、1931年に大阪へスタジオを開くと、山沢は主に財界人や文化人のポートレイト写真で成功を収めました。残念ながら当時の写真の多くは戦争で失われてしまいましたが、結果的には戦後も広告向けの写真などを手掛けつつ、1960年頃にはスタジオを閉じて、自作の制作活動に集中するようになりました。

この他、会場では20世紀前半のアメリカの写真も紹介されていて、若き山沢が身を置いた同国の写真シーンの一端も伺うことが出来ました。山沢は約1年間、サンフランシスコでスティーグリッツに私淑し、抽象表現を志向した若き写真家、コンスエロ・カナガに師事していました。また帰国前にはファッション雑誌の写真家の元で働いた経験もあり、それも戦後に商業写真のビジネスを始める1つの切っ掛けになりました。


実のところ私自身、何ら山沢に対する知識もなく、ほぼ犬の写真に引かれて出向いた展覧会でしたが、抽象、具象を問わずに作品は魅惑的で、大いに感銘させられました。それに同館の公式Twitterでも紹介されている、山沢の力強い「言葉」にも共感する面が少なくありません。また1人、好きな写真家と出会えた気がしました。

ラストには晩年の山沢へのインタビュー映像も公開されていました。短い内容でしたが、山沢の作品制作に対するスタンスも伝わってくるかもしれません。

「山沢栄子 私の現代/赤々舎」

1月2日(木)と3日(金)、及び開館記念日の1月21日(火)は無料で観覧出来ます。

2020年1月26日まで開催されています。おすすめします。

「山沢栄子 私の現代」 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2019年11月12日(火)~2020年1月26日(日)
休館:月曜日。*但し1月13日(月・祝)は開館し、1月14日(火)は休館。年末年始(12月29日〜1月1日)。
時間:10:00~28:00 
 *木・金曜は20時まで開館。1月2日(木)と3日(金)の開館は18時まで。
料金:一般700(560)円、学生600(480)円、中高生・65歳以上500(400)円。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *1月2日(木)と3日(金)は無料。1月21日(火)は開館記念日のため無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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「2020年 見逃せない美術展」 日経おとなのOFF

今年も残すところ半月となり、来年の美術展のスケジュールもかなり出揃ってきました。

「2020年 絶対に見逃せない美術展/日経トレンディ/日経BP」

そうしたスケジュールを網羅したのが、日経おとなのOFFの「絶対見逃せない美術展」で、2020年の美術展の開催情報を多く掲載していました。



「カラヴァッジョ キリストの埋葬」(仮) 国立新美術館(10月21日〜11月30日)

まず冒頭、速報として掲載されたのが、先だって公表された「カラヴァッジョ キリストの埋葬」展で、約30年ぶりに来日することの決まった「キリストの埋葬」を大きくクローズアップしていました。なお本展は現在、バチカンに残る日本の資料を調査する「バチカンと日本の100年プロジェクト」の一環として行われるもので、日本の使徒がローマに送った書状などが公開されるなど、両国の交流の歴史について明らかにされます。「キリストの埋葬」以外の詳細な内容も待たれるところです。



「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」 国立西洋美術館(3月3日〜6月14日) *国立国際美術館(7月7日〜10月18日)へ巡回。

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」展の情報も詳しく掲載されていました。これは表紙を飾ったスルバランの「アンティオキアの聖マルガリータ」をはじめとする61点のコレクションが一堂に来日するもので、全ての出品作が日本初公開であることも話題を呼んでいます。

日本にあるゴッホの「ひまわり」の元になったロンドンの「ひまわり」の他、細かなディテールが際立ったクリヴェッリの「聖エミディウスを伴う受胎告知」など、「その時代の傑作が分かる」(解説より)とされる名作群も大いに注目されそうです。



「ハマスホイとデンマーク絵画」 東京都美術館(1月21日〜3月26日) *山口県立美術館(4月7日〜6月7日)へ巡回。

北欧のフェルメールと呼ばれるハマスホイの作品を展示する、「ハマスホイとデンマーク絵画」も人気を集めるのではないでしょうか。ハマスホイは2008年、ハンマースホイとして日本でも紹介されたデンマークの画家で、室内の扉や後ろ向きの女性など、独自の静謐な構図やモチーフを特徴としてきました。約12年ぶりの開催ゆえに、再びハマスホイを見られることを待ち望んでいる方も多いかもしれません。


一方の日本美術では、「日本美術フェスティバル」と題し、浮世絵、江戸絵画、きもの、絵巻、屏風の5つの観点から、各種の展覧会をピックアップしていました。言うまでもなく2020年は東京でオリンピックが開催されることもあり、海外でも人気の高い浮世絵など、訪日客などへ向けて日本美術を発信するような企画も少なくありません。

「The UKIYO-E 2020ー日本三大浮世絵コレクション」 東京都美術館(7月23日〜9月13日)
「きもの KIMONO」 東京国立博物館(4月14日〜6月7日)
「おいしい浮世絵展」 森アーツセンターギャラリー(4月17日〜6月7日)


江戸絵画でまず注目したいのは出光美術館です。今年、プライスコレクションまとめてを購入した同館が、「江戸絵画の華」と題した展覧会にて、同コレクションの一部(80件)を公開します。また府中市美術館の恒例企画である「春の江戸絵画祭り」も面白いのではないでしょうか。昨今の奇想ブームに対し、あえて「ふつう」で挑む内容にも期待が持てそうです。

「江戸絵画の華」 出光美術館(9月19日〜12月20日)
「奇才 江戸絵画の冒険者たち」 江戸東京博物館(4月25日〜6月21日) *山口県立美術館(7月7日〜8月30日)、あべのハルカス美術館(9月12日〜11月8日)へ巡回。
「猿描き狙仙三兄弟」 大阪歴史博物館(2月26日〜4月5日) *熊本県立美術館(7月18日〜9月6日)へ巡回。
「ふつうの系譜 京の絵画と敦賀コレクション」 府中市美術館(3月14日〜5月10日)



甲乙丙丁4巻の全場面を初めて一挙に公開する「国宝 鳥獣戯画のすべて」や、「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」と「吉備大臣入唐絵巻」の2つの国宝級絵巻が来日する「ボストン美術館展 芸術×力」、さらに23年ぶりに法隆寺より百済観音が出陳する「法隆寺 金堂壁画と百済観音」の各展も大勢の人々で賑わいそうです。

「国宝 鳥獣戯画のすべて」 東京国立博物館(7月14日〜8月30日)
「ボストン美術館展 芸術×力」 東京都美術館(4月16日〜7月5日) *福岡市美術館(7月18日〜10月4日)、神戸市立博物館(10月24日〜2021年1月17日)へ巡回。
「法隆寺 金堂壁画と百済観音」 東京国立博物館(3月13日〜5月10日)

現代美術では、共に2020年に展覧会が予定されている、ウォーホルとバンクシーについて細かに紹介されていました。特にバンクシーはネズミの絵でニュースにも取り上げ、いわばトレンドになるなど、アートファン以外の関心を集めるかもしれません。

「アンディ・ウォーホル・キョウト」 京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ(9月19日〜2021年1月3日)
「BANKSY展」 寺田倉庫G1ビル(8月29日〜12月6日)


日本の現代アートシーンをチャート形式で追うコーナーも充実していたのではないでしょうか。横須賀美術館での回顧展の記憶が未だ忘れられない「白髪一雄」展、また叙情的な画風が目を引く「ピーター・ドイグ」展、それに原美術館での日本初個展が2005年にまで遡る「オラファー・エリアソン」展などは、私も心待ちにしたいと思います。

「白髪一雄」 東京オペラシティアートギャラリー(1月11日〜3月22日)
「ピーター・ドイグ」 東京国立近代美術館(2月26日〜6月14日)
「オラファー・エリアソン」 東京都現代美術館(3月14日〜6月14日)



恒例の付録のうち「2020 美術展100ハンドブック」も大変に有用でした。ここでは2020年の年間の美術展をカレンダー形式で掲載していて、各展の開催館や会期、それに見どころなどを簡単に紹介していました。そのうち私が注目したい展覧会を以下にピックアップしてみました。(上に掲載した展覧会を除く)

「岡崎乾二郎 視覚のカイソウ」 豊田市美術館(~2月24日)
「出雲と大和」 東京国立博物館(1月15日~3月8日)
「毘沙門天 北方鎮護のカミ」 奈良国立博物館(2月4日~3月22日)
「画家が見たこども展」 三菱一号館美術館(2月15日~6月7日)
「古典×現代2020 時空を超える日本のアート」 国立新美術館(3月11日~6月1日)
「和食 日本の自然、人々の知恵」 国立科学博物館(3月14日~6月14日)
「超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵」 Bunkamura ザ・ミュージアム(3月18日~5月11日)
「雅楽の美」 東京藝術大学大学美術館(4月4日~5月31日)
「飄々表具 杉本博司の表具表現世界」 細見美術館(4月4日~6月21日) 
「聖地をたずねて 西国三十三所の信仰と至宝」 京都国立博物館(4月11日〜5月31日)
「神田日勝 大地への筆触」 東京ステーションギャラリー(4月18日〜6月28日) *神田日勝記念美術館(7月11日〜9月6日)、北海道立近代美術館(9月19日〜11月8日)へ巡回。
「STARS展:現代美術のスターたち」 森美術館(4月23日〜9月6日)
「ファッション イン ジャパン 1945〜2020」 国立新美術館(6月3日〜8月24日) *島根県立石見美術館(9月19日〜11月23日)へ巡回。
「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮」 国立新美術館(7月8日〜9月22日)
「スポーツ in アート ギリシャ彫刻×印象派の時代」 国立西洋美術館(7月11日〜10月18日)
「クロード・モネ 風景への問いかけ」 アーティゾン美術館(7月11日〜10月25日)
「隈研吾展」 東京国立近代美術館(7月17日〜10月25日)
「揚州八怪」 大阪市立美術館(8月29日〜10月18日)
「佐藤可士和展」 国立新美術館(9月16日〜12月14日)
「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」 SOMPO美術館(10月6日〜12月27日)
「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING & QUEEN展」 上野の森美術館(10月〜2021年1月)
「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」 アーティゾン美術館(11月14日〜2021年1月24日)


2020年は新たにオープン、あるいは建て替えなどを終えてリニューアルオープンする美術館も少なくありません。

「京都の美術250年の夢」 京都市京セラ美術館(3月21日〜12月6日) *「杉本博司 瑠璃の浄土」(3月21日〜6月14日)を新館・東山キューブで開催。
「Thank You Memory 躍動から創造へ」 弘前れんが倉庫美術館(4月11日〜8月31日)
「見えてくる光景 コレクションの現在地」 アーティゾン美術館(1月18日〜3月31日)
「珠玉のコレクション」 SOMPO美術館(5月28日〜7月5日)
「ジャポニスム 世界を魅了した浮世絵」 千葉市美術館(7月11日〜9月6日)

年明け早々にオープンするのが、新たに建て替えられ、ブリヂストン美術館より名を改めたアーティゾン美術館で、開館記念展では、休館中に収蔵された作品を含む200点のコレクションが一堂に公開されます。なお同館ではリニューアルに際し、事前日時予約制のシステムが導入されました。既に公式サイトにて同展のチケットも販売されています。


年内まで「目 非常にはっきりとわからない」を開催中の千葉市美術館も、年明けより改修拡張工事のため、2020年6月末を目処に全館休館期間に入ります。リニューアル後は7月11日より「ジャポニスム 世界を魅了した浮世絵」が行われる予定です。また2020年4月には、北海道白老町にアイヌ文化復興や創造の拠点となるべく、国立アイヌ民族博物館もオープンします。



さらに誌面ではあまり触れられていませんでしたが、2020年は芸術祭も目白押しです。「ひろしまトリエンナーレ」など新たに始まる芸術祭もあり、各地へ遠征される方も多いのではないでしょうか。

「さいたま国際芸術祭2020」(3月14日〜5月17日)
「いちはらアート×ミックス2020」(3月20日~5月17日)
「北アルプス国際芸術祭2020」(5月31日〜7月19日)
「東京ビエンナーレ2020」(7月中旬〜9月上旬)
「ヨコハマトリエンナーレ2020 Afterglow―光の破片をつかまえる」(7月3日〜10月11日)
「奥能登国際芸術祭2020」(9月5日〜10月25日)
「ひろしまトリエンナーレ2020 in BINGO」(9月12日〜11月15日)
「札幌国際芸術祭2020」(12月19日~2021年2月14日)

基本的には関東や関西の大型展の情報が中心で、それ以外の地方の展覧会についてはあまり触れていません。おそらく情報自体の数で比べれば、12月20日発売予定の「美術の窓」の「今年の展覧会250」特集の方がより網羅的であると思われます。



とは言え、明治学院大学の山下裕二教授と編集者の山田五郎さんの対談など読み物もあり、昨年より値上がりしたものの、「2020 美術展100ハンドブック」、「2020年美術展名画カレンダー」、「クリアファイル」が付いて935円(税込)と、未だお得ではないでしょうか。また全国の美術館の広告が多いのも特徴で、そこからも各館のスケジュールを追うことも出来ました。

「2020年 絶対に見逃せない美術展/日経トレンディ/日経BP」

なおタイトルに「日経おとなのOFF」とありますが、同雑誌は今年休刊になったため、「日経トレンディ」の増刊号として刊行されていました。まずは書店で手に取ってご覧下さい。


「日経おとなのOFF 2020年 絶対に見逃せない美術展」(日経トレンディ2020年1月号増刊)
出版社:日経BP社
発売日:2019/12/6
価格:935円(税込)
内容:惜しまれつつ休刊になった「日経おとなのOFF」ですが、年末の美術展特集は健在です。 2020年オリンピックイヤーは、美術館・博物館も日本の文化力発信のために、 ありったけのエネルギーをつぎ込んで熱い美術展が繰り広げられます。その見どころを熱血解説!
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「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」
2019/10/16~12/15



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」を見てきました。

1978年にパリで生まれ、映像や彫刻、ドローイングなどのメディアを横断して作品を制作するカミーユ・アンロは、文学、哲学、美術史、天文学から博物学、情報学などをインスピレーションにしながら、「知と創造」を探究すべく多様に活動してきました。

そのアンロの日本初の大規模な個展が「蛇を踏む」で、草月流の協力を得て制作された生け花をはじめ、「世界の秩序と多義性」(解説より)を構成したインスタレーション「青い狐」、さらに第55回ヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)にて銀獅子賞を受賞した「偉大なる疲労」などを出展していました。


カミーユ・アンロ「革命家でありながら花を愛することは可能か」からエメ・セゼール「奇跡の武器」 2012年

冒頭が2011年より継続的に取り組んできた生け花の連作、「革命家でありながら花を愛することは可能か」で、いずれの作品にも洋の東西を問わず、様々な本のタイトルと著者名が記されていました。


カミーユ・アンロ「革命家でありながら花を愛することは可能か」から
右:ジュール・ミシュレ「フランス革命史」 2012年
左:川上未映子「ヘブン」 2019年

それらはD.Hロレンスの「チャタレー夫人の恋人」やジュール・ヴェルヌの「地底旅行」、また平野啓一郎の「空白を満たしなさい」の他、ユングの「心理学と宗教」やニーチェの「道徳の系譜」など、文学や哲学の多岐に渡っていて、アンロの関心のあり方を伺うことも出来ました。


カミーユ・アンロ「革命家でありながら花を愛することは可能か」 展示風景

一見、本と花々は無関係であるように思えるものの、一部は内容と花の名前に語呂合わせがあったり、花の特徴や文化的な背景を反映させたりしていて、さも本を花へ翻訳させ、新たな造形として昇華させたアンロの知的遊戯を目の当たりにしているかのようでした。


「アイディンティティ・クライシス」 2018〜2019年 展示風景

続くのがドローイングの最新シリーズである「アイディンティティ・クライシス」で、透明感のある繊細な色彩にて、ストライプや格子のパターンや、人間の顔と衣服を掛け合わせたようなモチーフを描いていました。


「アイディンティティ・クライシス」 2018〜2019年 展示風景

アンロはキャリア初期からドローイングを描き続けていて、今回のシリーズでは「体を包む時に奥行きを持ち、脱いだ時に平らになる」(解説より)という衣服の特徴に着想を得て制作しました。こうした両義性も、アンロが深く関心を寄せる概念であるそうです。


「青い狐」 2014年 展示風景

一面の青いスペースに展開するインスタレーション、「青い狐」こそ、展覧会のハイライトと言えるかもしれません。


「青い狐」 2014年 展示風景

ここでアンロは四方の壁を、「最善律:はじまり」、「連続律:ひろがり」、「充分理由律:限界へ」、「不可識別者同一の原理:消滅へ」と名付けて分割していて、それぞれに写真からオブジェ、既製のおもちゃ、新聞の束、書籍、デジタルフレーム等々、もはや一言で定義するのは全くをもって困難なほど多様な事物を並べていました。


「青い狐」 2014年 展示風景

中には新幹線などの模型やセンス、何ら用途も思いつかないようなパイプなどもあり、もはやカオスと呼べるかもしれません。


「青い狐」 2014年 展示風景

そして全てが静止しているかと思いきや、ただ1つ、おもちゃの蛇だけが、ランダムなタイミングで床を這いながら動いていました。ただし可動するのは短時間で、ともすれば気がつかずに通り過ぎてしまうほどでした。


「青い狐」 2014年 展示風景

アンロは「青い狐」において、哲学者ライプニッツの原理などを引用しつつ、宇宙の生成や人間の成長、さらに文明の段階など考察したとしています。とすれば各々の事物は時に有機的に関わり、また緩やかに接続しつつ、世界を表しているということなのかもしれません。その答えはただ動く蛇だけが知っているかのようでした。

「青い狐」の世界観と「双子」(解説より)の関係にあるとされるのが、「偉大なる疲労」でした。国立スミソニアン博物館で特別研究員として行ったアーカイブ調査によって制作された作品で、博物館も舞台に、テンポの良い音楽とテキストの交錯する全13分の映像でした。

ここでは世界の神話や宗教に伝わる起源の物語を発端に、博物館の資料の他、多様な情報が、PCのデスクトップ上で素早く展開していて、死や暴力なども扱われつつ、創造の世界を構築していました。それは学問的で合理的のように見えながら、一見相反する神秘性も持ち得ていて、実は良く解明されていない現在の世界を指し示しているかのようでした。


「青い狐」 2014年 展示風景

率直なところ自分自身、アンロの創作世界をどこまで受け止められたか全く自信がありませんが、知的でかつ思考実験とも受け止めるアプローチにて、多様な学問を横断しながら、生命や世界の理に迫るようで、壮大な天地創造の物語を目の当たりにしているかのようでした。


カミーユ・アンロ「革命家でありながら花を愛することは可能か」からJ.R.R.トールキン「指輪物語」 2012年

気がつけば会期末を迎えていました。12月15日まで開催されています。

「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」 東京オペラシティアートギャラリー
会期: 2019年10月16日(水)~12月15日(日)
休館:月曜日
 *祝日の場合は翌火曜日。
時間:11:00~19:00 
 *金・土は20時まで開館。
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *同時開催中の「収蔵品展068 李禹煥 版との対話」、「project N 77 山田七菜子」の入場料を含む。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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「禅の里と恐竜の故郷を旅して」 後編:福井県立恐竜博物館

前編「曹洞宗大本山永平寺」に続きます。福井県立恐竜博物館へ行ってきました。



永平寺から福井県立恐竜博物館へは、九頭竜川に沿った国道をひたすら東へ進み、石川県にも接した勝山市へ向かう必要があります。



両側に山の迫る川縁の道を走っていると、ほぼ正面に銀色の卵のような形をした建物が目に飛び込んできました。遠くからでも大変に目立っていて、すぐに恐竜博物館であることが分かりました。



1989年から恐竜の調査事業を勝山市で開始し、多くの化石を発掘した福井県は、2000年に国内最大級の地質・古生物学博物館である福井県立恐竜博物館をオープンしました。



一帯は「かつやま恐竜の森」(勝山市長尾山総合公園)として整備されていて、想像以上に広大な施設でした。また「かつやま恐竜の森」には、実物大の恐竜の模型が揃うかつやまディノパークや化石発掘体験コーナー、恐竜の遊具のある公園やバーベキューガーデンなどもあり、恐竜博物館を中心とした一大テーマパークと捉えて差し支えありません。(一部は冬季期間休業。)

また2009年には勝山市全域が、恐竜渓谷ふくい勝山ジオパークとして、日本ジオパークに認定されました。言わば日本の恐竜のふるさととも呼べるのではないでしょうか。



建物を設計したのは黒川紀章建築都市設計事務所で、ちょうど丘の中に埋もれるような形になっているのか、3階より入場し、エスカレーターで地下の「ダイノストリート」へ降りた後、1階の「恐竜の世界ゾーン」と「地球の科学ゾーン」、そしてスロープを経由して2階の「生命の歴史ゾーン」へと進む動線となっていました。

内部も卵形のスペースが特徴的で、ちょうどエントランスから潜り込むようなアプローチは、東京の葛西臨海水族園を連想させるものがありました。


「恐竜の世界ゾーン」展示風景

1階の「恐竜の世界ゾーン」からして圧巻の内容でした。ドーム型の高さ37メートルもの大ホールには、10体の本物の骨格を含む、全44体もの全身骨格が展示されていました。


「恐竜の世界ゾーン」展示風景

私もこれまでに様々な恐竜に関する展覧会を見てきたつもりでしたが、これほどの密度で骨格が並ぶ姿を目にしたの初めてだったかもしれません。


「恐竜の世界ゾーン」展示風景

また中央の円形状のスペースでは「恐竜のからだと暮らし」と題し、恐竜の誕生や食性などについてパネルや資料で紹介していました。


「恐竜の世界ゾーン」展示風景

ともかく骨格が密に並ぶだけに、標本そのものに圧倒されてしまいましたが、よく見やると解説パネルが詳細で、恐竜を見て楽しむだけでなく、学びの観点においても充実した展示であることが分かりました。


「中国四川省の恐竜たち」展示風景

さらに奥では「中国四川省の恐竜たち」とし、同地域の中生代の恐竜を実物大で再現したジオラマも広がっていました。


「中国四川省の恐竜たち」展示風景

一部では動く恐竜の模型があるなど、全体として臨場感があり、まるで恐竜のいた時代へタイムワープしたかのような錯覚に陥るかもしれません。


「ダイノシアター」

対面スクリーンに恐竜の生態を再現した「ダイノシアター」も迫力十分でした。


「日本とアジアの恐竜」から

1階スペースで見逃せないのは、アジアや日本、特にご当地である福井県の恐竜について紹介する展示があることでした。


「手取層群の環境再現」

日本では長く恐竜の化石が発見されませんでしたが、1978年に岩手県で竜脚類の化石が見つかると、次々と各地で化石が掘り出されるようになりました。その結果、日本でもジュラ紀後期から白亜紀後期にかけて、北海道から九州に至るまでに恐竜が生息していたことが判明しました。


「フクイティアン・ニッポネンシス」

そのうち手取層群とは、北陸一帯に分布する中世代の地層で、これまでにも多くの化石が発見されました。そして全長10メートルほどと推定され、白亜紀前期の竜脚類であるフクイティアン・ニッポネンシスも、手取層群のある勝山で見つかった恐竜でした。


「フクイサウルス・テトリエンシス」(複製)

このフクイベナトール・パラドクサスを含め、同じく勝山で発見されたフクイベナトール・パラドクサスやフクイサウルス・テトリエンシスなど5体の新種の恐竜化石は、2017年に発掘現場とともに国の天然記念物に指定されました。


「恐竜発掘現場再現」展示コーナー

また同じく1階の「地球と科学ゾーン」では、恐竜発掘現場の再現の他、地質調査や岩石など、科学の視点から地球について紹介する展示も行われていました。



再び「恐竜の世界ゾーン」へ戻り、骨格標本の立ち並ぶ光景を見下ろしながら、スロープで2階へと上がると、「生命の歴史ゾーン」へと辿り着きました。


「ケナガマンモス」(複製)他

ここではドーム型の展示室の半分を利用し、生命の誕生から人類の出現までを追っていて、古生代から新世代へと至る生命の進化の軌跡を辿ることが出来ました。ケナガマンモスの大きな複製骨格も迫力があるかもしれません。


「生命の歴史ゾーン」展示風景

植生の変化、恐竜から鳥への進化のプロセス、哺乳類時代の陸と海を比べた展示も興味深い内容ではないでしょうか。何も恐竜博物館は恐竜の時代のみにスポットを当てた博物館ではありませんでした。

この他、ティラノサウルスレックスの骨格を間近に観察可能なダイノラボや、化石のクリーニング作業を公開した「化石クリーニング室」などもあり、恐竜の魅力に触れるとともに、調査や研究の一端についての知見を得ることも出来ました。海外の研究機関との共同調査にも取り組む福井県立恐竜博物館は、日本やアジアの恐竜学の一大研究拠点でもありました。


「生命の歴史ゾーン」展示風景

この日は特別展の開催はなく、時間の都合もあり、常設展のみ観覧してきましたが、予想以上のボリュームでした。そして恐竜博物館には、ツアー形式で見学可能な「野外恐竜博物館」もあり、博物館の内外を含め、「かつやま恐竜の森」の全てを楽しむには、おそらく1日がかりとなるのではないでしょうか。


「アロサウルス・フラギリス」

近年、福井県立恐竜博物館の人気が高まり、今年の上半期の入館者数は過去最高の65万人を記録し、年間でも昨年度の93万名を上回る勢いで推移しています。確かに私が出向いた日も、混雑こそしていなかったものの、若い方から年配の方、さらにファミリーに至る幅広い層の人々で賑わっていました。


「ディメトロドン・リンバタス」

現在、福井県では、2023年の北陸新幹線敦賀延伸開業を見据え、博物館を増築し、新たな特別展示室や収蔵庫、研究体験スペースを設けることを検討しています。ショップやレストランの拡充も予定されています。



既に福井を代表する文化観光施設と化していましたが、数年後にはスケールアップした恐竜博物館がお目見えするのでしょうか。また改めて出かけたいと思いました。

「福井県立恐竜博物館」
休館:第2・4水曜日
 *祝日の時は翌日が休館、夏休み期間は無休。
 *年末年始(12月29日~1月2日)但し2019年度は12月31日~1月2日。
 *施設点検などに伴う臨時休館あり。
時間:9:00~17:00
 *入館は16時半まで。
 *開館時間を拡大する期間あり。
料金:一般730(630)円、高・大学生420(320)円、小・中学生260(210)円。未就学児、70歳以上無料。
 *( )内は30名以上の団体料金。
 *特別展は別途料金。
 *毎月第3日曜日の「家庭の日」(7~9月を除く)、4月17日の「恐竜の日」、5月18日の「国際博物館の日」、10月15日の「化石の日」、11月第3土曜日の「関西文化の日」、2月7日の「ふるさとの日」は常設展観覧料が無料。
住所:福井県勝山市村岡町寺尾51-11 かつやま恐竜の森内
交通:えちぜん鉄道勝山永平寺線勝山駅下車、コミュニティバスにて約15分、及びまたはタクシーにて約10分。無料駐車場あり。(乗用車1500台分)
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「禅の里と恐竜の故郷を旅して」 前編:曹洞宗大本山永平寺

1244年、曹洞宗の宗祖道元によって開かれた永平寺は、座禅修行の道場として、長らく人々の信仰を集めてきました。そして福井県北東部の永平寺町の山中にて、法堂、仏殿、僧堂などの7つの堂による伽藍を有してきました。



羽田から9時前の飛行機に乗り、小松へ降り立った後、福井の知人の車に乗ったのは10時頃でした。小松から永平寺へはおそらく北陸自動車道を入り、福井北JCTから中部縦貫自動車道を経由して、永平寺参道ICから向かうのが一般的かもしれませんが、今回は知人の案内によって、小松から山代温泉、山中温泉、さらに大聖寺川へと伸びる国道364号線を利用することにしました。



山中温泉を過ぎるとダム湖を望む山道となりましたが、しばらく走って福井県内に入ると、江戸時代初期に建てられ、同県内最古の民家である「坪川家住宅」こと「千古の家」が姿を現しました。



残念ながら休館日のため、中に入ることは叶いませんでしたが、門の外からも母屋だけは見ることが出来ました。茅葺の屈曲した屋根が極めて特徴的な建物で、当時の豪族の生活様式を伝えることから、1966年に国の重要文化財に指定されました。



「千古の家」を出て、再び364号の山道を上っては下り、九頭竜川を渡ると、永平寺町へと到着しました。ただ永平寺は、役場のある町中心部より南側の山中にあるため、さらに車を進めると、土産店などの立ち並ぶ門前の通りが見えてきました。



車を停めて門前へと向かうと、南側にもう一本の参道が伸びていることが分かりました。これは今年夏、「永平寺門前まちなみ整備事業」にて整備された新たな参道で、永平寺川沿いの石畳の親水空間には宿泊施設も設けられました。この新しい参道は1600年の古地図に由来するもので、創建当時から明治時代までは、永平寺川沿いを歩いて参詣していたことが記録されているそうです。その後、ルートが変わって現在へと至りましたが、いわば約1世紀ぶりに参道が復元されたとして良いのかもしれません。



龍門を抜け、木立の中、苔の生茂る石垣などを眺めて歩くと、参詣者の受付のある通用門が見えてきました。



永平寺での参詣は、まず通用門で受付を済ませ、その後、吉祥閣、傘松閣へと進み、さらに僧堂、仏殿、法堂などを回廊を歩きながら、左回りに7つの伽藍を巡るスタイルになります。また写真に関しては、修行僧である雲水にカメラを向けなければ、原則自由に撮影が出来ました。(フラッシュ不可。)



傘松閣の2階にある「絵天井の間」の天井絵が圧巻でした。156畳もの大広間の天井には、昭和初期の144名の日本画家の描いた彩色画が飾られていて、四季の草花や鳥など、いわゆる花鳥風月を主題した作品が230枚も広がっていました。



7つの伽藍の中で最も古い建物が、1749年に築かれた山門で、中国の唐の様式に基づく楼閣でした。また山門から見上げると、さも山城の砦のような威容を見せる中雀門や仏殿を望むことも出来ました。



伽藍の中心に位置するのが、1902年に改築された仏殿で、曹洞宗の本尊である釈迦牟尼仏をはじめ、弥勒仏と阿弥陀仏が祀られていました。



檀の上には「祈祷」の額が掲げられ、左右には実に精巧な彫刻の施された欄間がのびていました。いずれも禅の逸話などを表現しているそうです。



大きな屋根の広がる僧堂にも目を引かれました。仏殿と同様の1902年の改築で、正面には「雲堂」の額が掛けられ、日々の雲水の修行の場として用いられています。



「法王法」の額を掲げ、伽藍でも最も高い場所に位置するのが、聖観世音菩薩を祀った法堂でした。住持が法を説く道場として築かれていて、説法の他に、朝課などの法要の儀式も執り行われています。



今回、私が永平寺をお参りして印象的だったのは、伽藍を繋ぐ回廊の存在でした。そして時折、伽藍の窓から垣間見える景観が殊更に美しく、しばし立ち止まっては見入ってしまいました。



山の中の鬱蒼とした森の中にある永平寺は、木々を揺らす風の音か鳥のさえずりくらいしか聞こえないほど静寂に包まれていました。



ちょうど紅葉の少し前のシーズンでもあり、まだ葉も青々と茂っていましたが、冬になると一帯は多くの雪が降り積もるそうです。



2018年に福井地方を襲った豪雪では、あまりにもの積雪のため、一時参拝が中断されたこともありました。その豪雪の様子もお寺の中で紹介されていましたが、まさに雪に埋もれた状態に置かれていて、除雪などで相当の苦難があったことも想像されます。また毎年、雪のために多くの瓦を取り替えているそうです。



一通り参拝した後は、門前で永平寺そばを食べ、次の目的地である福井県立恐竜博物館へと向かいました。



後編「福井県立恐竜博物館」へと続きます。

「曹洞宗大本山永平寺」
休場:年中無休
参拝時間:8:30~17:00
 *入場は16時半まで。
拝観料:大人500円、小・中学生200円。
 *座禅などの体験には別途料金。
住所:福井県吉田郡永平寺町志比5-15
交通:えちぜん鉄道勝山永平寺線永平寺口駅から、京福バス永平寺門前行または永平寺行に乗り、終点下車、徒歩5分。特急「永平寺ライナー」(京福バス、福井駅より直行約30分。毎日運行)あり。
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「舘鼻則孝 It's always the others who die」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「舘鼻則孝 It's always the others who die」 
2019/11/22~12/22



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「舘鼻則孝 It's always the others who die」を見てきました。

1985年に東京で生まれ、レディー・ガガの愛用する「ヒールレスシューズ」の制作者で知られる舘鼻則孝は、近年、伝統工芸士と協働するなど、ファッションの分野に留まらずに幅広く活動してきました。

その舘鼻の全て新作による個展が「It's always the others who die」で、「ヒールレスシューズ」はもちろん、絵画、彫刻など、約20点の作品が展示されていました。

さて会場に入ってともかく目を引くのは、稲光を記号化して表したような絵画やオブジェでした。いずれも赤や青、それに黄色などの鮮やかな色彩によって塗られていて、それこそゴロゴロと雷鳴が轟く光景を想像させるほどでした。



一連の絵画は「Descending Series(ディセンディングシリーズ)」と呼ばれていて、うち特に大きな「yellow thunder, blue cloud」は横幅6メートルにも及んでいました。この作品は近年、舘鼻の制作した絵画シリーズの中でも最大のサイズを誇るそうです。



その「Descending Series yellow thunder, blue cloud」の前に展開するのが、225本もの赤い矢をモチーフとした「Arrows(アローズ)」でした。全ての矢は木で作られていて、床には矢の刺さった円い鏡がまるでプールのように広がっていました。ザクザクと刺さる矢はそれこそ稲光か激しい雨を思わせるようで、背後の「Descending Series」と鮮烈なコントラストを描いていました。



「ヒールレスシューズ」の最新モデルも宝石のように眩いばかりの光を放っていました。これらは舘鼻が花魁の下駄より着想し、卒業制作として発表した作品で、アメリカのミュージシャンのレディー・ガガの目に留まっては、愛用されるに至りました。作家の出世作と呼んでも差し支えないかもしれません。



また高さ45センチもある下駄「Floating World Series(フローティングワールドシリーズ)」も雷のモチーフが描かれていました。それにしてもこの驚くべき高さゆえに、いわゆる履き心地は一体、どのようなものなのでしょうか。



元々、人形製作の家に生まれ、幼い時より手でものを作ることにこだわった舘鼻は、大学で染織を学び、友禅による着物や下駄を制作するなど、日本の古い文化に深い関心を寄せてきました。



今回の新作の「Arrows(アローズ)」は、舘鼻の考える「日本独自の死生観」を表現したとされています。率直なところ私自身、「死生観」へどこまで踏み込めたか自信がありませんが、その言葉の存在ゆえか、しばらく雷を表現したオブジェなどを鑑賞していると、不思議と墓標を見ているような錯覚に囚われました。ひょっとすると死のイメージが作品の中に見え隠れしていたのかもしれません。



1階のショウウィンドウにも「ヒールレスシューズ」がディスプレイされていました。こちらもお見逃しなきようにご注意下さい。



会期中は無休です。撮影も出来ます。12月22日まで開催されています。

「舘鼻則孝 It's always the others who die」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:2019年11月22日(金)~12月22日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 
 *入場は閉館の30分前まで
 *11月28日(木)のみ18時閉館
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「ここから4―障害・表現・共生を考える5日間」 国立新美術館

国立新美術館
「ここから4―障害・表現・共生を考える5日間」
2019/12/4~12/8



国立新美術館で開催中の「ここから4―障害・表現・共生を考える5日間」の報道内覧会に参加してきました。

2016年に「アート・デザイン・障害を考える3日間」と題してスタートした「ここから」展は、以来、障害と表現や文化のあり方を模索すべく回を重ね、今年で第4回を数えるに至りました。

今回は「障害・表現・共生を考える5日間」とタイトルを変え、障害の有無を問わず、約20組の作家が、アート、デザイン、マンガ、アニメーションなどの作品を出展していました。


山城大督「佐藤初女|2014年9月30日」 2014年

冒頭の山城大督による映像、「佐藤初女|2014年9月30日」からして興味を引かれました。福祉活動家の佐藤初女のドキュメンタリーで、佐藤が悩みを抱えた人を受け入れるべく、青森県岩木山の麓にて開設した施設、「森のイスキア」での様子をフィルムに収めていました。佐藤は同地へ人を招き、食事を提供し、対話して悩みに向き合いながら、いわゆる癒しの場を提供してきました。2016年に94歳にて亡くなられたそうです。


「ヌイ・プロジェクト」 展示風景 所属:しょうぶ学園

鹿児島のしょうぶ学園の「ヌイ・プロジェクト」のシャツも鮮やかでした。いずれも既成のシャツを土台に、参加者が針一本で自由に糸目を築き上げていて、一つとして同じものはないオリジナルな衣服を表現していました。


MATHRAX(久世祥三+坂本茉里子)「いしのこえ Voice of the stone」 2016年

久世祥三+坂本茉里子のMATHRAXによるハンズオン型の「いしのこえ Voice of the stone」も目ならぬ耳を引く作品でした。テーブルの上には海岸から拾われた石が置かれ、指で直に触れると音が奏でられるように作られていました。あたかも石の声を聞きつつ、世界や自然との繋がりを感じられるような作品と言えるかもしれません。


鵜飼結一朗「妖怪」(部分) 2019年

鵜飼結一朗の「妖怪」に強く魅せられました。横長のボール紙へマーカーペンや色鉛筆にて、まるで平安や鎌倉の武士や貴族などを極めて密に描いていて、動物や妖怪、それにアニメのキャラクターが折り重なるなど、古来から現代がない混ぜになった絵巻のようでした。


鵜飼結一朗「妖怪」(部分) 2019年

ともかく無数の人や動物、妖怪、はたまたロボットが映像のごとく流れるように展開していて、一大スペクタクルを目の当たりにしたかのようでした。筆の力自体はもとより、相当に迫力のある作品ではないでしょうか。


いがらしみきお+渡邊淳司+東京藝術大学芸術情報センター「ふれる・感じる・4コママンガ『ぼのぼの』」 2019年

いがらしみきお+渡邊淳司+東京藝術大学芸術情報センターの「ふれる・感じる・4コママンガ『ぼのぼの』」は、マンガを触れて読めるようにした半立体の作品で、点字だけでなく、実際にセリフやキャラクターが浮き上がっているなど、手作り感のある仕様も温かみを覚えました。


BEAMS×KOBO-SYU 展示風景

埼玉のKOBO-SYUとセレクトショップBEAMSのコラボグッズも魅惑的でした。KOBO-SYUに属するアーティストの作品から、シャツや革小物、ショートパンツやドレスなどの製品を手掛けていて、佐々木華枝と佐々木省伍のデザインを用いたシャツが展示されていました。


佐々木省伍「あじさい」 2002年 他

また佐々木華枝と佐々木省伍の原画も合わせて紹介されていて、シャツと見比べることも可能でした。可愛らしいキャラクターを思わせるデザインや、植物のモチーフを色彩豊かに抽象化させたようなパターンなど、シャツに限らず、多様なファッションへと展開することが出来るかもしれません。


押見修造「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」 2011-2012年

この他、言葉にうまく発せない病気に悩む少女を主人公とした、漫画家の押見修造による「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の原画やパネル展示も目を引きました。


「ここから4―障害・表現・共生を考える5日間」 会場風景

チラシ表紙に「ごちゃまぜランド」とありましたが、障害を問わず、多様に創造しようとする表現者のチャレンジングなまでの取り組みを知ることが出来ました。


「サマイクルのイムーコンルカタ」

なお会場では関連企画として「アイヌ文化にふれる」も行われていました。ここでは2020年に北海道の白老町にオープンする国立アイヌ民族博物館を中心とした「ウポポイ」が紹介されるとともに、アイヌの神話や言葉遊びをアニメ化した映像などが公開されていました。一番奥のスペースだけにあまり目立っていませんでしたが、アニメが思いの外に面白く感じました。あわせて見逃しなきようにご注意下さい。


会期が僅か5日間と短いのが難点ですが、今週末、ブダペスト展やカルティエ展へお出かけの際に観覧するのも良いのではないでしょうか。また金曜、土曜は夜8時まで夜間開館します。



入場は無料です。12月8日まで開催されています。

「ここから4―障害・表現・共生を考える5日間」@kokokara_bunka) 国立新美術館@NACT_PR
会期:2019年12月4日(水)~12月8日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
 *12月6日(金)、7日(土)は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。

注)写真は報道鑑賞会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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2019年12月に見たい展覧会【ブダペスト展/サラ・ベルナールの世界/青木野枝 霧と鉄と山と】

今年も早いもので残すところあと1ヶ月となりました。

11月に見た展覧会では、先だって会期を終えた「岡山芸術交流2019」をはじめ、千葉市美術館で開催中の「目 非常にはっきりとわからない」、それに東京国立近代美術館での「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」などが印象に残りました。



そのうち「岡山芸術交流2019」は目標の26万名を超え、入場者が前回を大幅に上回る延べ31万名を記録しました。要因として瀬戸内国際芸術祭と一部の会期が重なった上、二度目の開催で知名度が上がったこともあげられていましたが、岡山に根差しつつ、独自色のある展示内容が光っていただけに、また次回の展開にも大いに期待が出来そうです。

それでは12月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「鹿島茂コレクション アール・デコの造本芸術 高級挿絵本の世界」 日比谷図書文化館(~12/23)
・「江戸の茶の湯 川上不白 生誕三百」 根津美術館(~12/23)
・「松本力 記しを憶う-東京都写真美術館コレクションを中心に」 東京都美術館(~2020/1/5)
・「YCC Temporary 高橋匡太」 YCCヨコハマ創造都市センター(~2020/1/12)
・「小さなデザイン 駒形克己展」 板橋区立美術館(~2020/1/13)
・「ニューヨーク・アートシーン-滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」 埼玉県立近代美術館(~2020/1/19)
・「北斎没後170年記念 北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」 すみだ北斎美術館(~2020/1/19)
・「大浮世絵展―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演」 江戸東京博物館(~2020/1/19)
・「印象派からその先へー世界に誇る吉野石膏コレクション展」 三菱一号館美術館(~2020/1/20)
・「山沢栄子 私の現代/中野正貴写真展 東京/中野正貴写真展 東京」 東京都写真美術館 (~2020/1/26)
・「奈良原一高のスペイン――約束の旅」  世田谷美術館(~2020/1/26)
・「坂田一男 捲土重来」 東京ステーションギャラリー(12/7~2020/1/26)
・「国宝 雪松図と明治天皇への献茶」 三井記念美術館(12/14~2020/1/30)
・「パリ世紀末ベル・エポックに咲いた華 サラ・ベルナールの世界展」 渋谷区立松濤美術館(12/7~2020/1/31)
・「やきもの入門 ―色彩・文様・造形をたのしむ」 出光美術館(~2020/2/2)
・「人、神、自然-ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界」 東京国立博物館・東洋館(~2020/2/9)
・「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影/ダムタイプ|アクション+リフレクション/ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 東京都現代美術館(~2020/2/16)
・「たば塩コレクションに見る ポスター黄金時代」 たばこと塩の博物館(12/14~2020/2/16)
・「ミイラ~永遠の命を求めて」 国立科学博物館(11/2~2020/2/24)
・「青木野枝 霧と鉄と山と」 府中市美術館(12/14~2020/3/1)
・「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」 21_21 DESIGN SIGHT(~2020/3/8)
・「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」 国立新美術館(12/4~2020/3/16)
・「フィリップ・パレーノ展 オブジェが語りはじめると」 ワタリウム美術館(~2020/3/22)
・「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」 森美術館(~2020/3/29)

ギャラリー

・「O JUN展 途中の造物」 ミヅマアートギャラリー(~12/14)
・「167人のクリエイターと京都の職人がつくる ふろしき百花店」 クリエイションギャラリーG8(~12/21)
・「栗山斉展」 アートフロントギャラリー(12/6~12/22)
・「勅使河原 蒼風」 タカ・イシイギャラリー東京(~12/27)
・「みえないかかわり イズマイル・バリー展」 メゾンエルメス8階フォーラム(~2020/1/13)
・「動きの中の思索―カール・ゲルストナー」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~2020/1/18)
・「αMプロジェクト2019 東京計画2019 vol.5 中島晴矢」 ギャラリーαM(~2020/1/18)
・「ソピアップ・ピッチ RECLAIM」 小山登美夫ギャラリー(12/20~2020/1/25)
・「ものいう仕口―白山麓で集めた民家のかけら」 LIXILギャラリー(12/5~2020/2/22)

まずは西洋美術です。国立新美術館にて「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」が始まります。



「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」@国立新美術館(12/4~2020/3/16)

これは日本とハンガリーの外交関係開設150周年を記念して開催されるもので、ハンガリーのブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーのコレクションが約130点ほどやって来ます。なお両コレクションが日本でまとまって公開されるのは、約25年ぶりのことになります。


ルネサンスから20世紀美術の西洋美術はもとより、日本で紹介されることの少ないハンガリーの近代絵画にも注目が集まるのではないでしょうか。まだ見知らぬ意外なハンガリーの名品に出会える機会となるやもしれません。

意外にもサラ・ベルナールに着目した展覧会としては日本で初めての開催となります。渋谷区立松濤美術館にて「パリ世紀末ベル・エポックに咲いた華 サラ・ベルナールの世界展」がスタートします。



「パリ世紀末ベル・エポックに咲いた華 サラ・ベルナールの世界展」@渋谷区立松濤美術館(12/7~2020/1/31)

フランスのベル・エポック期を代表する女優、サラ・ベルナールは、女優として活躍しただけでなく、ミュシャやラリックと交流して庇護した他、劇団を立ち上げるなどして幅広く活動しました。


そのサラ・ベルナールに関した作品を紹介するのが今回の展覧会で、絵画、彫刻、舞台衣装、装飾品、あるいはポスターなどが一堂に公開されます。それこそロートレックやミュシャ作品のモチーフとして見ることの多いサラ・ベルナールですが、彼女自身の人生なり活動に着目した展覧会だけに、知られざる意外な側面も浮かび上がってくるかもしれません。

ラストは現代美術です。関東では約20年ぶりの美術館での個展です。府中市美術館にて「青木野枝 霧と鉄と山と」が開催されます。

「青木野枝 霧と鉄と山と」@府中市美術館(12/14~2020/3/1)

1958年に東京で生まれ、主に鉄を素材にした彫刻家、青木野枝は、ガラスや石膏なども用い、空間全体を取り込むような作品を多様に手掛けてきました。


青木野枝「空玉/紀尾井町」 2016年 *東京ガーデンテラス紀尾井町にて

今回の個展では、美術館の空間にあわせた新作をはじめ、最初期の彫刻など、青木の新旧の作品を紹介する内容となるそうです。これまでにも青木の作品は、美術館での常設展示や現代美術のグループ展などで目にすることは少なくありませんでしたが、必ずしも網羅的に見る機会は多いとは言えませんでした。まさにファン待望の個展となりそうです。

最後に来年の芸術祭の情報です。「ヨコハマトリエンナーレ2020」と「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020」の企画概要が発表されました。


「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020」
会期:2020年3月20日(祝・金)~5月17日(日)
開催エリア:小湊鉄道を軸とした周辺エリア


「ヨコハマトリエンナーレ2020 Afterglow―光の破片をつかまえる」
会期:2020年7月3日(金) ~10月11日(日)
会場:横浜美術館、プロット48

アートミックスはGWを挟んでの春の開催、ヨコハマトリエンナーレ7月以降、秋にかけての開催です。ともに楽しみな芸術祭だけに、今後の情報もチェックしていきたいと思います。

それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
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