「椿会展 2007」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
「椿会展 2007(第6次椿会)」
4/10-6/10



起源は1947年に遡ります。資生堂ギャラリーが長年にわたって開催を重ねてきたグループ展です。今年よりその「第6次」がはじまりました。伊庭靖子、祐成政徳、袴田京太朗、やなぎみわの計4名が登場しています。



まずは伊庭靖子の静物画を挙げないわけにはまいりません。光をたっぷりと取り込み、その温もりのある感触を呼び覚ますような油彩はどれも非常に優れています。特に、うっすらと水を蓄えた白い器の「untitled」(2007)は印象に残りました。眩しいほど鮮やかに映える青い紋様が陶を彩り、その滑らかさや光沢感、さらにはひんやりとした表面の質感などを実に美しく描いています。ただ、伊庭の絵画は決して「リアル」だけを追求したものではないようです。油彩のマチエールを確かに感じさせながら、まさしく「絵」だけが表現出来る像の「ぶれ」をそのまま提示した上で、さらに対象の本質の美感を浮き上がらせているのです。絵の正面から見た時に写る、空気や光の存在感が仄かに感じ取れます。また支持体に綿布を用いた、毛布を描いた作品にも惹かれました。ベージュ色で毛羽立つその質感には、思わず手を触れたくなってしまうほどです。

原美術館での大個展も懐かしいやなぎみわは、5点の写真の展示です。その中では、深い森の奥にて一人の老婆が琴を奏でる「TSUMUGI」が魅力的でした。木々と自身の呼吸を合わせるかのように佇むその姿は、何やら生命の目覚めのイメージを呼び覚まします。お馴染みの「老少女」のモチーフもまた健在です。

その他、大小無数のアクリル人形を壁に這わせている袴田京太郎のインスタレーションや、祐成政徳の展示室を支える大きな柱のようなオブジェも展示されています。

「第6次椿会」は、今回の4名の他に、塩田千春、丸山直文によって構成されています。これから2009年までの3年間、毎年4名ずつ、顔ぶれを変えながら展示を企画していくそうです。定点観測したいと思います。(4/21)

*追記
「第1回 shiseido art egg」の大賞に平野薫が選ばれています。(資生堂ギャラリーHPより。)
「平野薫『エアロゾル』」 資生堂ギャラリー (拙ブログ記事。)
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「タムラサトル POINT OF CONTACT - 接点 - 」 TSCA KASHIWA

TSCA KASHIWA千葉県柏市若葉町3-3
「タムラサトル POINT OF CONTACT - 接点 - 」
4/21-5/27



電気と火花の彩る、ちょっぴり危険でスリリングなタムラサトルの個展です。器械仕掛けのオブジェ数点が、広々としたTSCAの空間を「無機質」に「飾り立て」ます。



展覧会のパンフレットが青図(*1)風であることからして、そのぶっ飛んだ内容が予見されるものですが、実際に作品へ接しても、意味や価値を考えるのは野暮だとさえ思うほど、現象の面白さを素直に味わうことが出来ました。ゆらゆらと揺れる振り子が金属板をなぞって火花を散らし、白熱球が煌煌と照るという一連の動きが、時に愛らしくもあり、またけなげにも見えてくると、いつの間にかその場から離れなくなっている自分に気がつくのです。ピカピカと光る白熱球とパチパチと音を立てる火花の共演が、簡素でありながらも重厚な装置にて次々と生み出されていきます。これは痛快です。



細長い空間で展開されるオブジェもまた魅力的です。少し引っかかり気味にも動くチェーンで引き摺られた金属棒は、金属の板とリズミカルに接触し、まるで線香花火のように小さく、また美しい火花をチリチリと散らしています。そして、その両者の「出会い」を祝福するかのようにして白熱球が灯っているのです。三者の役割が鮮やかに描き分けられています。終始、鉄板の上をやや不安定に行き来する金属棒を応援したくもなるような作品でした。



これらの大作の他に、それをミニチュア化したような小品も興味深いものがあります。こちらはその凝った仕掛けが必見です。火花の様子がよく見えるように設置された板や、熱を冷ますラジエーターなど、作品をスムーズに動かすための作りが随所に施されていました。



「もの派」に見るような「モノ自体」の面白さを、動きや力を加えることによってさらに感覚的に楽しめるように仕立てているのかもしれません。火花や電球を用いているので、暗くなって見るとその面白さも倍増するかと思います。幸いにもTSCAは夜9時(*2)までのオープンです。

柏駅からは最短で約10分ほどの場所にあります。地図を参照された方が確実です。

5月27日まで開催されています。

*関連リンク
タムラサトル公式HP

*1 図面の一種。建築土木図面の多くはトレーシングペーパーに作図され、ジアゾ複写機(青焼機)で複製される。その複製を青図という。(wikipediaより。)

*2 月~水、及び5/10-12は休廊。オープン時間は正午より夜9時まで。
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須田悦弘の公開制作@府中市美術館

本日より始まった府中市美術館の「公開制作」では、椿のオブジェでも有名な須田悦弘が登場しています。あの精緻に作られた椿の制作過程が露にもなる、滅多にない機会になりそうです。



*公開制作*
館内の公開制作室では、現在活躍中の作家が作品を実際に制作します。制作の過程をご覧いただけたり、作家と話ができたりします。作家の来館は、期間中毎日ではありませんので、ご注意ください。

*須田悦弘*
須田悦弘(1969年生まれ)は、本物と見分けがつかないほどの精巧さで草花を写した木彫を、通常は作品が展示されることのないふとした場所に設置する手法で知られる作家です。木彫そのものの繊細さと、思いがけない空間を作り出すそのオリジナリティは、90年代半ば頃より国内外で高い評価を得てきました。
(美術館HPより転載。)



いつも何気ない場所にそっと置かれた須田のオブジェは、それを見つけ出すこと自体に喜びを感じる作品と言って良いと思います。私が初めて彼の椿を見たのは、森美術館の「秘すれば花」展(2005年。今考えると須田の作品に相応しい展覧会タイトルです。)でしたが、その魅力にとりつかれたのは翌年、資生堂ギャラリーでの「life/art'05」展でのことでした。これは須田自身もpart.5にてトリを飾った連続企画のグループ展でしたが、実はそのオブジェがpart.1の別作家の展示の時より隠されていて、しかもそれが回を重ねる毎に増えていたという内容だったのです。もはや展示そのものよりも、須田の椿を探すことが鑑賞の目的になっていました。小さな椿のオブジェが、目立たない展示によって逆に存在感を増しています。実に巧みな演出でした。

公開制作の概要は以下の通りです。

「公開制作38 須田悦弘」
期間:2007/4/28 - 7/26 公開制作日:4/28 - 5/11
休館日:月曜
開館時間:10:00 - 17:00
アーティストトーク:5/12 14:00-(講座室にて。無料。予約不要。)

今日の「公開制作」(制作の過程が掲載されています。)



ちなみに府中市美術館では今、「子どもの目で見る、てんらんかい」(本日、4/28より。)を開催中です。こちらは全く予定していませんでしたが、この公開制作だけでも拝見出来ればと思いました。

須田は、丸亀の猪熊弦一郎現代美術館で個展を、また大阪の国立国際美術館ではグループ展を開催しています。関東でも一度、大規模な回顧展を拝見したいものです。
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ロストロポーヴィチ氏、逝去

つい先日、80歳の誕生日を迎えられたというニュースがあったばかりです。ロシアより突然の訃報が舞い込んできました。

世界的チェロ奏者、ロストロポービチ氏が死去 80歳(CNN.co.jp)
訃報:ロストロポービチさん80歳=チェリスト(毎日新聞)



チェロ奏者としてはもちろんのこと、近年では指揮でのご活躍も目立っていました。私は残念ながら、彼の演奏をそれほど聴き込むまでには至りませんでしたが、今振り返ると、昨年冬での新日フィルの定期にて唯一実演に接せられたのが、殆ど奇跡的なこととさえ思えてしまいます。演奏の内容云々はともかくも、指揮姿は実にリズミカルで力強く、その後数ヶ月でまさかこのようなことになるとは想像も出来ませんでした。むしろ同オーケストラでは8年ぶりのショスタコーヴィチということで、今後もまた振っていただけるものかと、勝手な期待すら抱いていたほどです。

つい先日より封の切られたドキュメンタリー映画、「ロストロポーヴィチ 人生の祭典」が、はからずも追悼上映の形になってしまいました。まずはご冥福をお祈り申し上げます。

*関連ニュース
ショスタコーヴィッチ生誕100周年コンサートでM・ロストロポービッチが指揮を務める(2006/9/26)
著名チェロ奏者に最高勲章 80歳祝いプーチン大統領(2007/3/28)
ロストロポービッチ氏が再入院(2007/4/23)

*関連リンク
「ロストロポーヴィチ 人生の祭典」(4/21より渋谷・シアター・イメージフォーラムにて上映中。5月より大阪・名古屋でも上映予定。)
ロストロポーヴィチ・プロフィール(EMI)

*関連エントリ
新日本フィルハーモニー交響楽団 「ショスタコーヴィチ:交響曲第10番」他
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ハーディングのブルックナー

スウェーデン放送響&ハーディングのコンビはなかなか魅力的です。先日にはロンドン響での来日公演もあった、ダニエル・ハーディングの指揮によるブルックナーを聴いてみました。

NHK-FM ベストオブクラシック(4/26 19:30-)

曲 ブルックナー 「交響曲第5番」

指揮 ダニエル・ハーディング
演奏 スウェーデン放送交響楽団

収録 ベルワルドホール(ストックホルム) 2007/1/26



私はハーディングから、あの先鋭的な「ドン・ジョバンニ」の印象をどうしても拭うことが出来ないのですが、この演奏は、どちらかと言えば正攻法のアプローチによって、オーケストラを力強く鳴らして作り上げた、言わば至極「立派」なブル5だったと思います。第一楽章の序奏も肉厚な表現で、勇壮な金管の響きも刺々しくありません。テンポは、特にスケルツォを始めにやや早めに流れていましたが、ブルックナー休止も長く、終始メリハリのある、構成感に優れた音楽を作り出していました。この演奏を聴くと、例えばついこの間に読響で楽しんだスクロヴァチェフスキが、如何に個性的にブルックナーを料理しているのかが良く分かるような気もします。

ブルックナーの最高傑作(と、勝手に思い込んでいます。)でもある「ブル5」最大の妙味は、やはりフーガの組み込まれたあの長大なフィナーレです。私はここで、その錯綜する主題や旋律を階層的に、言い換えれば整理整頓して示すような演奏が好きなのですが、ハーディングも力任せにグイグイと音を鳴らすことなく、コーダの立体感を巧みに生み出すことに成功していました。ただもう一歩、身を任せられるようなゆったりとした「音楽の流れ」があればと思います。かなり縦方向に意識の働くブルックナーです。

例えば息も詰まるほどの緊張感に満ちたティーレマンなどよりは、思いの外にリラックスして楽しめるブルックナーでした。ハーディングの持つロマン派的な志向は、いわゆる古楽器系らしからぬ濃密な響きの力を借りて、今、とても良い方向へ進んでいるようです。これだけ来日の多い指揮者でもあるので、是非、実演に接したいと思います。

*関連リンク
ダニエル・ハーディング公式HP(一部、日本語です。)
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若冲展の「先行プレビュー」、参加者募集中

興味深いイベントです。いよいよ来月13日より開催される「若冲展」(相国寺承天閣美術館)では、展覧会に先立って開催される「プレビュー」の参加者を募集しているそうです。対象は「インターネットで情報を発信している方」です。以下、その概要を、「若冲と江戸絵画展」コレクションブログ」より転載させていただきます。

・日時 2007年5月12日(土)12:30 ~ 13:30
・場所 相国寺承天閣美術館
・人数 10名~20名(応募者多数の場合はサイトの内容を考慮の上、選考させていただきますので予めご了承ください)
・条件
 1. 先行プレビュー開催時(5/12 12:00)に京都 相国寺承天閣美術館にお越しいただける方
 2. 5月15日(火)までに取材した内容をブログやWebサイトで掲載できる方
 3. 写真の使用条件を守れる方(基本的に専属のカメラマンが撮影した写真を使用していただきます)
・参加方法
 以下を明記の上、件名を「先行プレビュー」としてinfo@jakuchu.jp 宛にお送りください。
 1.ハンドルネーム
 2.ご自身が運営するブログやWebサイトのタイトル
 3.ご自身が運営するブログやWebサイトのURL
 4.簡単な紹介文
・応募締切 2007年5月2日 正午
※交通費、宿泊にかかる費用等は各自でご負担ください。


少人数でのプレビューです。会期も短く、また大混雑も予想されるこの展覧会を、ゆったりとした環境で鑑賞出来る唯一の機会かと思います。ただ一つ気になったのは、所要時間が1時間程度だということです。この日はオープン前日のため、プレビュー以外では展覧会を鑑賞することが出来ません。会場自体はさほど広くないと聞きますが、1時間では「動植綵絵」全幅を思いっきり堪能するのは難しそうです。

私はまだこの展覧会へ行くかどうかも未定ですが、特に関西在住のブロガーの方々にはピッタリのイベントではないでしょうか。

詳細等については、「若冲と江戸絵画展」コレクションブログ」をご確認下さい。締め切りは来月2日です。



*基本情報
「若冲展 - 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 - 」
会期:5/13 - 6/3(無休)
場所:相国寺承天閣美術館京都市上京区今出川通烏丸東入上る相国寺門前町701
開館時間:10:00 - 17:00
入場料:一般1500円、大学生/高校生/65歳以上1200円、中学生/小学生1000円
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「Landschaft - 阿部未奈子/大平龍一/成田義靖 - 」 ヴァイスフェルト

ヴァイスフェルト港区六本木6-8-14 コンプレックス北館3階)
「Landschaft - 阿部未奈子/大平龍一/成田義靖 - 」
4/6-28



「畳」に対し、今度は「段ボール」です。東京画廊の「25×4=□」展で楽しませてくれた大平龍一が、ここ六本木のヴァイスフェルトでも作品を展示しています。若手アーティスト3名によるグループ展、「Landschaft」(風景)へ行ってきました。

殆ど大平のオブジェを目的にして行った展覧会でしたが、意外にも一番惹かれたのは、建築現場をおさめた成田義靖の写真でした。大きなビルや工場を組み立てるための足場が、無機質な感触でありながらも圧倒的に捉えられています。錯綜する直線と直方体のみで構成された鉄パイプの群れは、そのメタリックな質感と相まって、実に寒々とした、またそれ自体が一個の有機体でもあるかのような力強さを見せていました。さながらパイプの一本一本が骨となって、この巨大な集合体を支えているのです。



色のグラデーションがそのまま絵へ生成したような、阿部未奈子の絵画もなかなか充実しています。リアルな風景が色の世界だけに置き換えられ、さらにはそれが解体しながら揺らいでいく様子が表現されているのではないでしょうか。ちなみにこの作品は、風景写真をコンピューターで加工し、その上にてキャンバスへと写し出したものなのだそうです。元の景色の記憶を呼び覚まそうとするような、作者の格闘の痕跡が示されているようにも感じます。



大平のオブジェは、目の前の床に広がる大きな「段ボール」でした。差し込むホッチキスやテープを剥がした跡、さらには取っ手の部分がヒョイと持ち上がっている様子などが、これまた丁寧に作り込んだ木彫にて表現されています。もちろん、汚れや折り目なども、彩色によってかなりリアルに作り込まれていました。ただし今回は、東京画廊で見た「畳」のような、それこそ「騙される」ほどの完成度までは達していないようにも思えます。まだ段ボールへと変身しきれていない「板」も、僅かながら散見されました。

28日までの開催です。(25日)

*関連エントリ
「25×4=□」 東京画廊
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「25×4=□」 東京画廊

東京画廊中央区銀座8-10-5 7階)
「25×4=□」
4/4-28



全員が25歳だというアーティスト4名によるグループ展です。何やら謎めいたタイトルも掲げられていますが、展示作品自体はどれも優れたものばかりでした。見応えは十分です。(ちなみに「□」は、『未知数』や『無限』を意味しているそうです。)

展示室をまず塞ぐようにして立つのは、巨大なスチロール板の白い壁、柴田鑑三の「山寄りの谷/谷よりの山」でした。その両面には、まるで等高線を描いたかのような曲線が、ゆるやかな凹凸感を生み出しながら配されています。まさにこれが山と谷なのでしょう。うっすらと光を通してキラキラと煌めくその表面の美しさはもとより、繊細な曲線の生み出す形の不思議な面白さはかなり魅力的です。またあたかも今、このスチロール板がシュワシュワと溶け出し、そこで何かがうごめきながら隆起し始めているような気配も感じられました。

そのスチロール版の裂け目を潜るようにして進むと、今度は畳敷きのメインのフロアが待ち構えています。ここでは、洋書をオブジェに仕立てた飯田竜太の作品や、一見、静止しているようにも思える能面が、実は縦に動きながら様々な表現を示している尾崎真悟の映像作品などが並んでいます。ただし、何と言っても足元に広がる畳(15畳)を見逃すわけには参りません。大平龍一の作品はまさしくこれなのです。他の畳と色の異なる中央部分に手を差し伸べると、その驚くべき妙味が明らかになるかと思います。

ちなみに大平の作品はもう一点、さながら須田悦弘の椿のように空間に潜むオブジェが展示されています。そちらは是非、会場にてご確認下さい。発見した時の喜びもまたひとしおです。

28日の土曜日まで開催されています。(21日)
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「ブライアン・アルフレッド - Global Warning - 」 SCAI

SCAI THE BATHHOUSE台東区谷中6-1-23
「ブライアン・アルフレッド - Global Warning - 」
3/23-4/28



アメリカのニューペインティング世代(*1)を牽引するという(画廊DMより。)、ブライアン・アルフレッドの日本初個展です。見慣れた日本の光景やアメリカの建造物などを、コラージュやアクリル画、さらにはビデオ・インスタレーションを通して多様に表現します。そのポップな感覚もまた魅力的です。

まず目に飛び込んできたのは、全部で10点ほど並ぶコラージュの連作でした。縦10センチ、横15センチほどの小さな画面の中には、何故かJR目黒駅の駅名表示看板や靖国神社の正面全景、さらにはNASAのロゴマークも見える建造物やひたすら窓の連なる巨大なビルなどが描かれています。その質感は一見アクリル画のようでもありますが、近づくと、確かに何枚かの紙を貼り合わせて出来たペーパーコラージュだということが見て取れました。作品によってはそのクオリティーにやや差があるようにも思えましたが、建物や風景の「面」だけを強調するかのようにして切り取り、マットな感覚にてその陰影を幾何学的に配した構図感はなかなか興味深く感じられます。その他には、消費者金融の看板で溢れる街角の光景や、SCAI自体を描いたものも展示されていました。これは、要するに「切り絵」と言っても良いのかもしれません。

奥の展示室では巨大なアクリル画4点と、1点の映像作品が公開されています。アクリル画の画題は先のコラージュとほぼ同様です。こちらは具体的に特定出来る場所と言うよりも、もっと抽象化された一光景が描かれていますが、色の組み合わせや影の用い方などはほぼ同じかと思います。また、静かなBGMにのって繰り広げられるビデオは、さながら紙芝居の動画版とも言えるのではないでしょうか。ペーパーコラージュの光景が映像化され、時間の進行とともに動いているのです。太陽が沈み、夕暮れに照らされたビルなどが浮かび上がってきます。

率直に申し上げると、作品を見る限りでは、その扱う主題(*2)について殆ど理解することが出来ませんでしたが、ペーパーコラージュに見る一種の「ゆるさ」と、絵のカジュアルな気配には素直に惹かれる部分もありました。28日までの開催です。(4/21)

*1 「新しい絵画」。1980年を前後して登場した新しい絵画の動向を総称していう用語だが、その指示する範囲があまりに漠然としており、今日では「ネオ・エクスプレッショニズム」と呼ばれることのほうが多い。巨大なキャンヴァス、荒々しい筆致、原色の対比などが特徴。(「artgene」現代美術用語辞典より。)

*2 地球温暖化や自然破壊の問題を政治的な思惑や陰謀のパワーゲームを背景に示唆しつつ客観的に見つめる展覧会になります。(画廊HPより。)
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「山本麻矢展『櫻』」 和田画廊

和田画廊中央区八重洲2-9-8 近和ビル3階)
「山本麻矢展『櫻』」
4/15-22

都内の桜はもうすっかり散ってしまいましたが、ここでは猫とともに健気にも咲き残る桜を木彫で楽しむことが出来ます。和田画廊で開催中の彫刻家、山本麻矢の個展を見てきました。



まず出迎えてくれるのは、キョトンとした表情で彼方を見つめる白猫の木彫です。尻尾を力強くのばした一匹の猫が、青と黄色にも光る奇妙な目をくりくりさせながら静かに佇んでいます。そしてその廻りには、やや白んだピンク色の桜の花びらが何枚か散っていました。もちろんこの花びらも木彫です。ノミの跡を確かに残しながらも、その花びらの美しくしっとりとした質感を見事に表現しています。

猫を飾る桜の花びらは、その後方に掲げられた枝より舞い降りてきたようです。銀屏風をイメージさせる支持体を背に、黒い額の部分からくり抜いて作られたというその枝葉が、垂れ下がるようにして配されていました。やや乾いた感触の枝や花びら、さらにはその先にて吹く新芽までが全て木彫です。猫は木の温もりをそのまま残したような、言い換えれば木彫であることを露にしたままの質感を見せていますが、この桜に限って言えばリアリティーがかなり追求されています。また木の枝を、わざわざ木彫で表現することにも面白さを感じました。手が込んでいます。

作品のイメージは、日本画の世界より飛び出してきた桜と猫なのだそうです。だとすると、猫がわざわざ桜を背にしてこちらを見ているのは、その枝の間から花びらを散らせて駆け出してきたからに他ありません。

和田画廊は日曜日も開いています。本日18時までの開催です。(4/21)
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山種美術館で楽しむ「秋草鶉図」

明日から山種美術館で「コレクション名品展」(開館40周年記念展)がはじまります。この展覧会では、琳派、古径、御舟、それに遊亀や松園など、同館自慢の日本画コレクションが約90点ほど紹介されるようですが、その中に酒井抱一の「秋草鶉図」(月に秋草鶉図屏風)の名が挙がっていました。これは見逃せません。



金屏風へ沈み込むかのような半月を背景にして描かれているのは、端正でリズミカルに伸びるススキと、精緻なタッチも冴える鶉の群れでした。女郎花の紅がこの情景に色彩のアクセントを与え、秋の移ろい美しく伝えてくれます。また月の黒は、銀が黒ずんだものではなく、ススキの穂を浮かび上がらすために、抱一があえて墨を用いて表現したのだそうです。これは、当時としてはあまり他に例がありません。鶉などは南宋や土佐派の画をモデルとしていますが、この月に、抱一の洒落た構図感覚を見ることも出来そうです。



*基本情報
「開館40周年記念展『山種コレクション名品展』」
会期:4/21- 6/3(前期) 6/6 - 7/16(後期)
場所:山種美術館千代田区三番町2 三番町KSビル1階)
開館時間:10:00 - 17:00
休館日:月曜(但し4/30、及び5/1は開館。)
入館料:一般800円(入館料が値上がりしました。公式HPに100円割引券あり。ぐるっとパスでは無料です。)

6月初旬に一度、全ての展示作品が入れ替わります。公式HPの展示替えリストをご確認下さい。ちなみに「秋草鶉図」は、前期期間中(4/21-6/3)に展示される予定です。

展示替えリスト(pdf)

ところでこの抱一の他に、私がこの展覧会で是非拝見したいと思うのは速水御舟の「炎舞」(後期展示)です。御舟も大好きな画家の一人ではありますが、いつぞやの回顧展を見逃してしまったため、この作品を実はまだ一度も鑑賞したことがありません。図版等を眺めるだけでも強く惹かれているので、こちらも楽しみたいと思います。

以前にご紹介した畠山記念館の琳派展でも、「十二ヶ月花鳥図」(4/17-5/6)の展示が始まっています。九段より白金へとはしごして抱一を楽しむのもまた良さそうです。

*関連エントリ
「琳派 四季のきょうえん」 畠山記念館
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読売日本交響楽団 「ブルックナー:交響曲第4番」他

読売日本交響楽団 第459回定期演奏会

ベートーヴェン 大フーガ
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版)

指揮 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
演奏 読売日本交響楽団

2007/4/17 19:00 東京芸術劇場3階

サントリーホールが改修休業中のため、会場を東京芸術劇場へと移しています。読売日響の定期演奏会です。このコンビでブルックナーを聴くのは久しぶりでした。



一曲目は大フーガです。スクロヴァチェフスキにしては随分とソフトタッチに曲をまとめていましたが、オケの状態が今ひとつだったのか、一糸乱れぬ弦楽合奏を楽しむレベルには達していなかったと思います。ただ両翼配置の効果はあったようです。錯綜するフーガの立体感は、さながらブル5の音楽のように重々しく表現されていました。また叙情的な曲想の部分では、弦楽器同士が優しく対話するようなデリケートな表現も聴くことが出来ます。あとはもう一歩、混沌と展開する部分に力強さと見通しの広さがあればより良かったのではないでしょうか。音楽をまるで魔術師のように操り、それでいながら響きをしっかりと纏め上げるミスターSですが、ここでは若干の物足りなさも感じてしまいました。

休憩を挟んでのメインはブル4です。実のところ私はミスターSのブルックナーをやや苦手としていますが、この日は第1楽章からあまり違和感なく音楽へ耳を傾けることが出来ました。いわゆる霧のトレモロは重層的でかつ瑞々しく、勇壮な金管の主題もゆったりと表現されていきます。ピアニッシモ方向にも細心の注意が払われ、総じて必要以上に肩に力の入らない、自然体で流麗な音楽が生み出されていました。スクロヴァチェフスキによる、一種の作為的(もちろんそれが彼の面白さでもあるわけですが。)とも言える解釈も目立ちません。

元々このアンダンテ楽章には、寂寥感を漂わせる情緒的な要素が多分に含まれていますが、この日のそれはさらに重々しく、言わばメランコリックな感情を強く露出するような表現がとられていました。弦のピチカートは沈むようにどっしりと重く、木管は枯れ果て、幾分美感に欠けた金管は終始控えめに大人しく演奏されていきます。「森の中を彷徨う。」(読響パンフレットより。)光景よりも、椅子に座った一人の男が終始その場で逡巡している様子が浮かんできました。遅々として進まない、またおしてはすぐに返す小波のようなアンダンテです。もちろんクライマックスでは確信に満ちた高みへと到達しますが、それもあくまでも一瞬の出来事に過ぎませんでした。ブルックナーの音楽からこれほど感傷的な想いを感じたのは初めてです。驚きました。

スケルツォはいつものミスターSです。まさしく山あり谷ありと言えるような、起伏の激しい音楽が展開されていきます。快活とした部分はやや早めのテンポで、また伸びやかな箇所ではゆっくりとしたリズムで進めていました。ただここでも読響の反応が気になります。おそらくスクロヴァチェフスキは、もっと前へと畳み掛けるような激しいリズムを要求していたのではないでしょうか。金管はかなりもたついていました。

フィナーレは手堅かったと思います。激しく打ち込まれるシンバルなどはミスターSならではと言ったところですが、終始、安心して音の波に浸ることが出来る演奏でした。巨大な芸劇の空間を満たす力強い響きも、やはり読響の地力のなせる業だったのかもしれません。フォルテッシモでの響きも雑然せず、指揮者がオーケストラを統率出来ていることが確かに感じられました。やや饒舌にも感じられるこの楽章を、難無くまとめあげています。弛緩する瞬間もありませんでした。

私がこれまで聴いたスクロヴァチェフスキのブルックナーでは、一番リラックスして楽しめたかもしれません。以前にも触れたことがありますが、彼はむしろブルックナー以外の音楽に持ち味の良さがより出ると感じているので、今後、なるべく読響との演奏会には足を運びたいと思います。ちなみに芸劇は久々でしたが、私の座った三階の前列はそう悪くありませんでした。もちろん席を選ぶホールであることは事実ですが、大編成のオーケストラを聴くには意外と適しているのかもしれません。
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「動物絵画の100年」 府中市美術館(その2)

府中市美術館府中市浅間町1-3
「動物絵画の100年 - 1751~1850」
3/17-4/22

「その1」より続きます。府中市美術館での「動物絵画の100年」展です。ここでは、展示のハイライトを飾った長沢蘆雪の4点について触れたいと思います。ともかくどれも非常に素晴らしい作品ばかりです。これらを見る為だけでも府中まで足を伸ばす価値が十分にあります。





まずは会期後半のみ展示されている「牛図」です。全部で八面にも及ぶ大きな襖絵(墨画)に、力強い牛たちの群れる様子がまるで木版画のような感触で描かれています。しかもそれらが、例えば右の二面には一頭も描かれていないように、余裕のある構図にて伸びやかに表現されているのです。中央の草木を軸に、親子牛と黒々とした三頭の牛が対になるようにして配されています。草を口にくわえながら寝そべっていたり、またはぐいと体を迫出すかのように威圧的にも構え、さらには前足をあげて子を導くようにして進んでいたりと、牛の表情や動きは実に多岐に渡っていました。また、親牛にひょこひょこついていくような子牛も可愛らしいものです。ちなみに蘆雪の黒牛と言えば、あのプライス展での「白象黒牛図屏風」を思い出しますが、そこで表現されていた圧倒的な牛の重厚感を、この作品では逆にゆとりのある構図感で描き切っています。これは確かに傑作です。





12羽の雀を横一列に並べて描いた「群雀図」も面白い作品でした。可愛らしい雀たちが何やら話し合うかのように集い、またじゃれ合う様子が表現されています。中でも一番右の、一羽だけ背を向けてとまっている雀が印象的です。やはり彼はいわゆる「一匹狼」なのでしょうか。一応、群れに属していながらも、他と微妙な距離感をおいて孤独にとまっています。(ただ本当はその仲間に入りたいのかもしれません。体が群れの方へ少しだけ寄っていました。)ちなみにこの雀たちのとまる一本の線は何と細い竹なのだそうです。とすると、この光景は蘆雪の想像上の産物に過ぎません。(当然ながら、電線の上で群れる雀ではないのです。)それが見事に「あり得る空間」として説得力をもっています。ある意味で時代を超えています。



4点の中で最も感銘したのがこの「朝顔図」です。四面の襖になびく朝顔がひたすら流麗に描かれています。つるは右下よりのび、跳ね上がるようにして空間を駆けたかと思うと、一旦、襖より飛び出してまた戻ってきていました。ひらひらと舞うような朝顔の軽やかな感触と、陰影にも巧みなつるや葉が画面を踊っています。そして、ひょいっと頭をあげたいたちの姿も忘れてはなりません。まるでこの朝顔のダンスを見守るかのように飄々とした様子にて立っています。ちなみにこの作品を見て連想したのは抱一の「夏秋草図屏風」の秋草でした。ここでは「夏秋草」にあるような溢れる詩心と叙情性のかわりに、身近にあるような自然の光景が素直に表現されています。斬新で大胆な構図感でありながら、その作為の跡を感じさせない名品です。



極めつけはやはり「蛙図屏風」になるでしょう。この作品はもはや余白を描いています。その広大な空間を前にした蛙は、もうこれ以上足を進めることはなさそうです。途方に暮れたかのように空間をじろりと見つめています。「無」の美しさとその深淵さを引き立てる蛙です。この後、彼らは、きっと今出てきた左下の空間へとまた引き返すのではないでしょうか。



恥ずかしながらこの4点を見るまで、蘆雪がこのような「余白の芸術」を生み出すの技をもっているとは知りませんでした。この4点だけでもおすすめの展覧会です。22日、日曜日まで開催されています。(4/15)

*関連エントリ
「動物絵画の100年」 府中市美術館(その1)
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「動物絵画の100年」 府中市美術館(その1)

府中市美術館府中市浅間町1-3
「動物絵画の100年 - 1751~1850」
3/17-4/22



府中市美術館で開催中の「動物絵画の100年」展です。江戸時代の絵師たちによる動物絵画、約80点ほどが紹介されています。応挙、若冲、狙仙、江漢、北斎、それに今回の主役の蘆雪などと、見応えも十分でした。



江戸の動物絵画で一番目立つ作品といえば、やはり何と言っても虎をモチーフにしたものではないでしょうか。中でも長沢蘆雪の「虎図」は迫力満点です。その恰幅の良い立派な体つきやフサフサとした毛並みの感触、さらには大きく見開いた目などが、簡素なタッチでありながらも見事に表現されています。それに猫の足をそのまま大きくしたような足先も可愛らしく思えました。(よく見ると、足で笹を踏みつけています。)また、即興的な味わいの竹や岩場も流麗です。虎の精緻な表現と対になっています。



もはやそれは化け物ではないかとさえ思う奇怪な「虎図」も幾つか並んでいましたが、その極致とも言えるのがこの北斎の「竹林に虎図」かもしれません。まるでろくろ首のように伸びた首の描写からして極めて不気味ですが、この顔は殆どもう人間と言っても良いでしょう。何やらこちら側へ話しかけたそうな表情でニタニタとほくそ笑んでいます。眼鏡でも似合いそうな虎です。これは夢にでも化けて出ます。



猿を描かせたら天下一品の森狙仙では、やはり「猿図」が魅力的でした。重量感のある毛や赤らんだ顔の立体的な描写はもちろんのこと、ひょいと片足を挙げて枝をもぐその仕草がたまりません。そして目線の先には虫が飛んでいます。獲物でも狙っているのでしょうか。



応挙の「時雨狗子図」も絶品です。子犬が二匹、とても愛くるしくじゃれ合っていますが、画面左上より降り注ぐまるで光のカーテンのような雨の表現など、優れた情景描写を見せるのも応挙の技の一つです。また、「木賊兎図」での真に迫る写実力も貫禄十分でした。こちらも見入ります。



ちらし表紙も飾った若冲は4点ほど出ていましたが、何やらふてぶてしい様子で横を向いたカエルの佇む「隠元豆図」が特に印象的でした。軽やかにさやをぶら下げた隠元豆が、まるで天をかけるように上へとのびています。このやや謎めいた、それでいて空間を彩るような巧みな構成感がいかにも若冲です。所々に穴も開き、またくるっと巻くように描かれた葉っぱも画中にリズムを生み出していました。それに、あたかも図形を描くかのように錯綜する枝の表現も興味深いところです。



森一鳳の「熊図」に登場する小熊も必見です。雪の広がる小川のそばにて一頭の小熊が歩く様子が描かれていますが、その鼻を地につけて目を落とす表情が何とも寂し気でした。もしかしたら親熊と離れてしまい、餌もなくお腹をすかせて途方に暮れているのかもしれません。今にも泣き出しそうに目を潤わせています。助けたくなるほどに可哀想でした。

展示の最後に紹介されていた蘆雪の4点については、次回、「その2」のエントリへ廻したいと思います。

*関連エントリ
春の府中は江戸絵画! 「動物絵画の100年 1751-1850」展
「動物絵画の100年」 府中市美術館(その2)
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チューリップ三昧@府中市美術館

この所、長々とした文章ばかりのエントリが続いていたので、少し気分を変えたいと思います。今日、府中市美術館へ行く途中で出会ったチューリップがとても綺麗でした。拙い写真で恐縮ですが、いくつか載せてみます。


葉桜の桜並木とチューリップ。


チューリップの親子?


もうそろそろ見納めでしょうか。花がかなり開いています。


府中の森公園の桜並木もすっかり新緑の気配です。まだ一部残る桜が健気にも咲いていました。



目当ての「動物絵画の100年」展は、もう蘆雪の独壇場と言っても良いかもしれません。特に、最後に紹介されていた重文の4点は圧巻でした。また別エントリにてまとめます。
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