都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「和田誠展」 東京オペラシティアートギャラリー
「和田誠展」
2021/10/9~12/19
東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「和田誠展」を見てきました。
2019年に逝去したイラストレーターの和田誠は、映画監督やエッセイスト、アニメーション作家、作詞、作曲家などでも活動し、各方面にて大きな業績を残しました。
その和田の仕事の全貌を振り返るのが今回の展覧会で、会場には800点の書籍と原画に加え、和田がライフワークとしていた週刊文春の原画2000点が紹介されていました。
まず最初の柱が並ぶスペースには、幼少期から晩年への作品と資料が並んでいて、和田の仕事とともに人生そのものを振り返ることができました。
またそれぞれの柱には年代と和田の年齢、そしてその年に手掛けた仕事がテキストで紹介されていて、さながら和田のビジュアル立体年表とでも言えるような構成となっていました。1960年、実に24歳にして制作したタバコのハイライトのデザインなどは今も多くの人が知る作品ではないでしょうか。
今回の回顧展で私が目を引いたのは、絵本や挿絵といった子どもたち向けの仕事でした。そもそも子どもの頃から絵本を作ることを夢見ていて、小学生の時にマザー・グースに親しむなど、言葉遊びを好んでいました。
そしてそれは大人になって星新一のショートショートの挿絵のみならず、谷川俊太郎との絵本の制作に結実していて、マザー・グースに至っては自ら翻訳した作品も出版しました。
一連の膨大の和田の仕事は、「絵本」や「装丁」、「似顔絵」、「映画監督」、「漫画」、「著書200冊」といった30ものトピックに分けて紹介されていて、いかに和田が幅広いジャンルにて活躍していたのかを目の当たりにすることができました。
そのうち装丁の仕事で興味深いのは、和田自身による書き文字を入れていることでした。和田は映画のタイトルバックやポスターなどのロゴタイプを参考に、独自のスタイル、通称「和田文字」を生み出していて、手書きの風合いを活かしつつ、時に既存の活字をデフォルメさせるなど、さまざまな文字を作り上げていました。
また和田の記したエッセイでは直筆の原稿も出品されていて、文章を直しつつ、エッセイに仕上げていくプロセスを垣間見ることもできました。またアニメや映画に関しても一部に抜粋映像が公開されていて、内容について追うことも可能でした。
週刊文春の表紙展示も圧巻だったかもしれません。1977年からはじまった週刊文春の表紙を実に40年以上にわたって手がけた和田は、民芸や植物、風景などのモチーフを描いていて、現在もアンコール企画として過去の作品が採用されてきました。
ともかく多種多様な表紙ながらも、誰もが和田と分かるようなテイストで統一されているのも特徴で、その制作年数や販売数を鑑みれば、もはや国民的イラストと呼んでも差し支えないかもしれません。
この他、料理愛好家で妻の平野レミとの仕事や、妻のためにデザインしたセーターなども、どこか和田の人となりを伝えるような資料ではないでしょうか。会場を埋め尽くすように展示された総計2800点の作品資料に不足はまったくありませんでした。
タイミングよく平日の夕方に出かけてきましたが、それでも場内は幅広い世代の方で思いの外に賑わっていました。
【新着】出品総数2800点!希代のクリエイター・和田誠の仕事を空前のスケールの回顧展で追いかける https://t.co/nR0yGKSaN7
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 12, 2021
すでに土日を中心にかなり混み合ってきていますが、今後、会期末に向けてさらなる混雑や入場規制も予想されます。そもそも作品数からして膨大です。時間に余裕を持って出かけられることをおすすめします。
撮影が可能でした。12月19日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、熊本市現代美術館(2022年春)、新潟(調整中、2022年夏)、北九州市立美術館分館(2022年冬)、愛知(2023年秋)へと巡回(スケジュールは予定)します。
「和田誠展」 東京オペラシティアートギャラリー(@TOC_ArtGallery)
会期:2021年10月9日(土)~12月19日(日)
休館:月曜日。
時間:11:00~19:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
*同時開催中の「収蔵品展072難波田史男 線と色彩」、「project N 84 山下紘加」の入場料を含む。
*( )内は各種割引料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
「松江泰治 マキエタ CC」 東京都写真美術館
「松江泰治 マキエタ CC」
2020/11/9~2022/1/23
東京都写真美術館で開催中の「松江泰治 マキエタCC」を見てきました。
1963年に生まれた写真家の松江泰治は、世界各地の都市を正面から順光にて撮影した作品で知られ、近年は映像表現にも取り組むなど多様に活動してきました。
その松江の東日本の公立美術館での初個展が「マキエタ CC」で、初公開作品を含む近作の写真50点と映像4点が公開されていました。
まず暗がりの会場にて目に飛び込んでくるのが、松江の代名詞ともいえる都市を順光で撮影した作品で、密に連なる無数の建物群が影を作ることなく、それこそオールオーヴァーの絵画のように広がっていました。
こうした一連の写真は「CC」と呼ばれていて、順光であることや画面に地平線を含まない正面性の高い構図など、独自のルールに基づいて撮影された作品でした。
「CC」とはシティーコード(City Code)の略称を意味していて、各作品のタイトルには撮影地の都市コードが記されてました。しかしながらそれ以外の情報はないため、都市コードを知らなければ、一体どの都市を写しているのか分からない写真も少なくありませんでした。
ともかく画面の大半にピントがあっているからか、すべてが極めて克明に写し撮られていて、1つ1つの建物が浮かび上がってくるかのようでした。
こうした「CC」と並んで新たに出品されたのが、ポーランド語で模型を意味する「makieta(マキエタ)」と呼ばれるシリーズでした。ここでは都市や地形の模型を被写体としていて、すべて「CC」のシリーズと同じような手法で撮影されました。またタイトルも「CC」と同様、都市コードのみが付されていました。
それゆえに高い正面性や排除された奥行きなどの構図感は類似していて、精巧な東京の都市模型を写した作品などは、まるで実際の都市の風景を捉えていると見間違うほどでした。
とはいえ、模型の完成度や制作された年代、また使われている素材は千差万別で、中には明らかに模型だと分かる作品もありました。
この「CC」と「マキエタ」の作品が明確に区別されず、いわば入り混じるように展示されていたのも面白かったのではないでしょうか。写真を目にすればするほど、その光景がリアルか模型、言い換えば現実か虚構であるのかが分からなくなるのも不思議でなりませんでした。
写真と同じルールで撮影された映像も興味深いかもしれません。映像はいずれも床に置かれていて、遠目では写真同様に静止しているように見えるものの、実際には人などが少しづつ動いていました。リアルながらも、街と人が別の次元といった分離した空間にいるように思えるのも面白く感じました。
【新着】あなたが見ている光景はリアル? 東京都写真美術館で開催中の『松江泰治 マキエタ CC』展が面白い! https://t.co/6MwdsXnVDR
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 20, 2021
会場内の撮影が可能でした。2022年1月23日まで開催されています。*写真はいずれも「松江泰治 マキエタ CC」展示作品
「松江泰治 マキエタ CC」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2021年11月9日(火)~2022年1月23日(日)
休館:月曜日。(月曜日が祝休日の場合開館、翌平日休館)、年末年始(12/28-1/4、ただし1/2、1/3は臨時開館)。
時間:10:00~18:00
*木曜・金曜は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700円、大学生560円、中学・高校生・65歳以上350円。
*1/2(日)1/3(月)は無料。開館記念日のため1/21(金)は無料。
場所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
『田村大個展 ILLUSTART』が11月26日~28日に東京にて開催
その個展の開催情報についてPenオンラインに寄稿しました。
イラストの世界チャンピオン、田村大の初個展『ILLUSTART』が見逃せない!
https://www.pen-online.jp/article/009527.html
開催日時は11月26日(金)~11月28日(日)、時間は午前11時から19時までで、会期中は田村も終日在廊を予定しています。
1983年に生まれた田村大は、似顔絵制作会社に勤務すると、2016年には似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会にて総合優勝を果たし、その後に独立してはイラストを多数制作してきました。
とりわけ得意していたのは、自身もインターハイベスト8の実績を持つバスケットボールプレイヤーのイラストで、その他にも野球、サッカー、テニスといったスポーツ全般のイラストを数多く描いてきました。
またNIKEのジョーダンブランドや、プロ野球の巨人やソフトバンク、さらには森永製菓やカシオ計算機などの企業ともコラボレーションを手がけ、さまざまな商品をリリースするなど幅広く活動してきました。
作品は主に自身のインスタグラム(@dai.tamura)にて発表してきましたが、近年はクジラやワシなどの絶滅危惧種のイラストを描くといった、アーティストとしても積極的に展開してきました。
今回の個展では、主にNIKEとatmosによるアニマルシリーズに関係する動物画と、そこからインスピレーションを得た自然をテーマにした作品群が公開されます。
今週末限定のタイトなスケジュールですが、田村のアーティストとしての新たな方向性を指し示すような展示となるかもしれません。
また個展に合わせ、イラストを収録した写真集「DT」も刊行されます。ここでは過去に描いてきた230点以上のイラストと、田村の切り開いてきたサクセスストーリーが子ども時代のエピソードを交えて掲載されます。そちらも要注目となりそうです。
田村大個展「ILLUSTART」は、atmos千駄ヶ谷店にて11月26日から11月28日まで開催されます。
「田村大個展 ILLUSTART」(@dai.tamura) atmos千駄ヶ谷店
会期:2021年11月26日(金)~11月28日(日)
時間:11:00~19:00
休館:無休
料金:無料
住所:渋谷区千駄ヶ谷3-16-9
交通:東京メトロ副都心線北参道駅から徒歩3分。
「縄文2021―東京に生きた縄文人―」 江戸東京博物館
「縄文2021―東京に生きた縄文人―」
2021/10/9〜12/5
江戸東京博物館で開催中の「縄文2021―東京に生きた縄文人―」のプレス内覧会に参加してきました。
明治時代にはじまった東京の縄文時代遺跡の発掘は、特に戦後の都市開発によって多く行われ、現在に至るまで約3800箇所もの遺跡が確認されてきました。
その東京の縄文に着目したのが「縄文2021―東京に生きた縄文人―」で、会場内には土偶や土器、また石器や骨格器、さらに丸木舟などの考古資料がたくさん公開されていました。
「大森貝塚」展示風景
まず冒頭で紹介されたのは、東京の縄文遺跡発掘の歴史で、1877年にエドワード・S・モースが調査したことで有名な大森貝塚の採集品が並んでいました。モースは横浜から汽車で新橋に向かい途中、大森あたりで貝殻が崖面に露出しているのを発見し、のちに調査をしていて、日本で最初の科学的遺跡発掘調査と言われています。
「山地の遺跡」展示風景
それに続くのが都内各地の遺跡と発掘品の展示で、新宿の落合遺跡や町田市の忠生遺跡、さらに青梅市の駒木野遺跡から採集された土器などが紹介されていました。
「台地の遺跡」展示風景
東京ではいわゆる縄文海進によって海岸線の沿っていた北区、台東区、港区、大田区に貝塚が集中していて、多摩ニュータウンや八王子市でも多くの集落遺跡が発見されました。
「土器と石器の副葬」展示風景
おもに都内で発見された石器や土器をはじめ、集落や弔いのあり方などから、当時の縄文人たちの暮らしについて考えているのも、今回の縄文展の特徴かもしれません。
「縄文石器の移り変わり」展示風景
このうちまず充実していたのは石器の展示で、草創期から早期、晩期にかけて変化した狩猟具、植物加工具、打製石斧、磨製石斧などが紹介されていました。
「土器の機能と美の変化」展示風景
また土器においても年代を追って展示されていて、うつわを試行錯誤して作った草創期、用途により作り変えて文様をつけた早期から前期、大型化が進んだ中期、さらに機能性を求めた後期から晩期への変化を追うことができました。
「土器の機能と美の変化」展示風景
こうした中には大変にデコラティブな造形をした土器がある一方、現代の生活においても違和感なく利用できそうな注口土器もあって、いわば土器の多様な姿を見て取れました。
「東京の縄文土偶100」展示風景
東京から発見された約100体の土偶を紹介した、「東京の縄文土偶100」と題した展示も見どころかもしれません。
「東京の縄文土偶100」展示風景
ここでは比較的小さな土偶が並んでいて、顔を前にして突き出し、両肩から手を垂らすハート型土偶の姿などに魅せられました。また中空土偶や遮光器系土偶の一部は北海道や東北地方で発見されたものと類似していて、縄文人たちの広域なつながりを知ることができました。
「環状集落再現模型」(1/20)
八王子市多摩ニュータウンNo.107遺跡をモデルに、集落の景観を20分の1のスケールで再現した「環状集落再現模型」も充実していたのではないでしょうか。
「環状集落再現模型」(1/20)
自然豊かな森の中、小川のそばで暮らす人々の様子も精巧に再現されていて、近づいて見るとあたかも縄文時代へと迷い込んだような臨場感を得られました。
「環状集落再現模型」(1/20)
集落の中央には墓地があり、その周囲に住居が建てられていて、人々が木を切り、木の実を拾ったりする姿や、人を埋葬する光景などを見ることができました。
「環状集落再現模型」(1/20)
縄文の人々は水が確保しやすく、また日当たりや水はけが良い場所に集落を築いたとされていますが、それは現代の人間が生活に求める条件と大きく変わらないのかもしれません。
「暮らしの中の道具類」展示風景 *右下は重要文化財「耳飾り」 縄文時代後期 江戸東京たてもの園
2018年に東京国立博物館にて「特別展 縄文―1万年の美の鼓動」が開かれ、全国各地の貴重な土器や土偶が公開されましたが、今回は東京の地域に限定し、特に縄文の人々の暮らしを掘り起こすような展示といえるかもしれません。細かな装身具などにも目を引かれました。
「多摩丘陵のビーナス(土偶)」 縄文時代中期 多摩ニュータウンNo.471遺跡出土 東京都教育委員会
WEBメディア「イロハニアート」でも展示の様子をご紹介しました。
「東京の土器や土偶が大集合!江戸東京博物館の『縄文2021―東京に生きた縄文人―』で知る縄文の人々の暮らし」イロハニアート
この他、東京の土偶のほかに長野県茅野市の2件の国宝、「土偶(縄文のビーナス)」(10月19日~11月14日)と「土偶(仮面の女神)」(11月16日~12月5日)とが会期を分けて公開されています。
\いよいよ登場!/特別展「#縄文2021 ―東京に生きた縄文人―」では、ついに #国宝 仮面の女神(土偶)の展示が始まりました!(茅野市所蔵・尖石縄文考古館保管)迫力のある造形と精細な文様をぜひ会場でご覧ください!#江戸東京博物館 #縄文人 #縄文 #jomon pic.twitter.com/N0bU7NXJDh
— 江戸東京博物館 (@edohakugibochan) November 16, 2021
すでに「土偶(縄文のビーナス)」の展示は終了し、「土偶(仮面の女神)」の公開が16日からはじまりました。こちらも注目となりそうです。
国宝の土偶以外は撮影が可能です。12月5日まで開催されています。
「縄文2021―東京に生きた縄文人―」 江戸東京博物館(@edohakugibochan)
会期:2021年10月9日(土)〜12月5日(日)
時間:9:30~17:30
*土曜日は19:30まで開館
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
料金:一般1300(1040)円、大学・専門学生1040(830)円、小学・中学・高校生・65歳以上650(520)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*常設展との共通券あり
住所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。
「サウンド&アート展 -見る音楽、聴く形」 アーツ千代田3331
「サウンド&アート展 -見る音楽、聴く形」
2021/11/6〜11/21
アーツ千代田3331にて開催中の「サウンド&アート展 -見る音楽、聴く形」を見てきました。
20世紀に入ると音楽は、旧来の楽器を超えた音や視覚的要素を取り込み、これまでにはない新たな表現を生み出しながら、多様に展開してきました。
そうした20世紀から現代へと至る新たな楽器に着目したのが「サウンド&アート展 -見る音楽、聴く形」で、会場には未来派の制作した楽器から日本の現代美術家らによる自動演奏装置など約40点が公開されていました。
さて端的にピアノやギターといった一般的な楽器をイメージしていると、思いもよらない内容に驚かされるかもしれません。というのも、会場に並んでいるのは、かたちからしておおよそ楽器とは思えない作品ばかりで、そもそもどこから音が出るのか想像すらつかないものも少なくありませんでした。
フランソワ・バシェ「勝原フォーン」 2017年修復
フランソワ・バシェの「勝原フォーン」とは、1970年の大阪万博のために制作された17点のうちの1点で、当時の日本人助手への謝意を示すために「勝原」と名づけられました。フランソワ・バシェは、兄のベルナールとともに1950年代より音響彫刻を手掛けていて、大阪万博では鉄鋼館のディレクターだった作曲家の武満徹に招聘されて作品を作りました。まるで植物の葉を開いて並べたようなかたちも面白いのではないでしょうか。
マーティン・リッチズ「Thinking Machine」 2007年
マーティン・リッチズの「Thinking Machine」は、球が楽器の中を行き来しながら音を発する作品で、あたかも工作機械のような姿を見せていました。これも知らなければ楽器とは思えない構造といえるかもしれません。
ルイジ・ルッソロ「イントナルモーリ」 1985年(オリジナル:1913年)
イタリアの未来派のルイジ・ルッソロが発明した「イントナルモーリ」とは、世界初のノイズ楽器と呼ばれていて、作家はこの楽器を20台以上制作して演奏会を開きました。しかしその後、第二次世界大戦によってすべて失われてしまうと、日本では1985年に多摩美術大学芸術学科により再制作されました。
明和電機「セーモンズII」 2014年 「マリンカ」 2001年 「ザ・スパンカーズ」 2012年
現代美術家が手がけるオブジェや彫刻の楽器も見過ごせないかもしれません。まず目立っていたのはナンセンスマシーンで有名な明和電機で、「マリンカ」や「ザ・スパンカーズ」、それに「電動ノックマンジャンボ」の複数の作品が展示されていました。
西原尚「勤奮機械」 2021年
この他では宇治野宗輝の「The District of Plywood City」や西原尚の「勤奮機械」も目立っていたかもしれません。また一切の電気を用いない自動演奏装置であるinvisi dirの「KO-TONE スパイラル木琴」も意外なメロディを奏でていました。
宇治野宗輝「The District of Plywood City」 2011年
今回の展覧会で嬉しいのは、全部で3つの楽器のデモンストレーションがあることでした。そのうち宇治野宗輝の「The District of Plywood City」は毎時00分と30分、また明和電機の「マリンカ」などは毎時15分、さらにinvisi dirの「KO-TONE スパイラル木琴」は毎時45分に実演がスタートして、それぞれ自由に聴きながら動画に収めることもできました。(アーティストトーク開催時は除く)
金沢健一「音のかけら」 2007年
また体験コーナーでは、金沢健一の「音のかけら」や明和電機の「オタマトーンジャンボ」、それにベルナール・パシェの考案した「教育音具」などを演奏することも可能でした。
松本秋則「竹音琴(チクオンキン)」 2012年
そのうち松本秋則の「竹音琴(チクオンキン)」とは竹を用いたサウンド・オブジェで、チップ全体を持ち上げて手を離すと、ゆっくりと落ちながらカラカラといった涼しげな音色を奏でていました。
invisi dir「KO-TONE スパイラル木琴」 2016年
体験コーナーの楽器を打ち鳴らしたり、楽器の実演を聞いていると気がつけば1時間近く経っていました。音楽から現代アートファンまで幅広く楽しめる展覧会といえそうです。
明和電機「オタマトーンジャンボ」 2010年 「電動ノックマンジャンボ」 2020年
新型コロナウイルス感染症予防の観点から日時指定制が導入されました。専用サイトより事前にチケットを購入する必要があります。
ただし各時間枠の定員を絞っている上、会期も短いために、土日を中心に予約で埋まる傾向があります。まずは予約状況を確認してから出かけられることをおすすめします。
一部の作品を除いて撮影も可能です。11月21日まで開催されています。
「サウンド&アート展 -見る音楽、聴く形」 アーツ千代田3331(@3331ArtsChiyoda) 1階メインギャラリー
会期:2021年11月6日(土)〜11月21日(日)
休館:会期中無休
時間:12:00~18:00
*最終入場は17:30まで。
料金:一般1200円、高校・大学生600円、中学生以下300円。
*予約サイト料金。当日券はプラス300円。
場所:千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 2階
交通:東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩1分、東京メトロ千代田線湯島駅6番出口より徒歩3分、都営大江戸線上野御徒町駅A1番出口より徒歩6分、JR御徒町駅南口より徒歩7分。
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」 愛知県美術館
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」
2021/10/8~11/21
愛知県美術館で開催中の「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」を見てきました。
江戸中期に活躍した曾我蕭白は、京都や伊勢、それに播州高砂などで絵を描き続け、近年では「奇想の絵師」の1人として人気を集めてきました。
その蕭白の回顧展が「奇想ここに極まれり」で、初期から晩年へと至る64件の作品が公開されていました。
まずプロローグでは奇想のイメージを代表するような屏風などが展示されていて、特に一面の銀地に多くの子どもたちが遊ぶ様子を描いた「群童遊戯図屏風」に目を奪われました。
ここでは相撲を取ったり、鶏を戦わせていたり、またうなぎを掴もうとする子どもたちが極彩色によって表されていて、遊びに夢中のあまりに泥だらけになっているのか肌が砂色に汚れていました。またひっくり返った子どもの姿や、まるで重力に反して空中へとするりと伸びるうなぎなど、全てが激しい動きを伴っていて、笑い声や掛け声までが伝わるかのようでした。これ一枚からしても蕭白の強い個性が滲み出ているといえるのではないでしょうか。
それに続くのは蕭白が伊勢や播州にて描いた画業初期の水墨の作品で、2018年に初めて紹介された新出の「富士三保松原図屏風」などが並んでいました。同屏風では富士山の周囲に氷山のような山が連なる一方、中央に黒い雲には竜の姿も垣間見えて、実景と別次元の世界が入り混じるかのような光景を見せていました。
「月夜山水図襖」は、楼閣や塔が並ぶ島や滝の落ちる巨大な崖などが描かれた作品で、崖の真上には丸い月が浮かんでいました。そして手前の楼閣は現実世界に思える一方、あまりにも大きな崖は空想的光景のようで、いくつかの時空が同時に表されているようにも見えました。こうした超現実的とも呼べる光景も蕭白画の魅力かもしれません。
蕭白は鷲や鷹といったモチーフも得意としたことでも知られていて、「鷹図押絵貼屏風」ではさまざまな様態を見せた12種類の鷹を描いていました。またここでは単に架に留まる鷹ではなく、狩をしているなど動きを伴っていて、1羽として同じ姿のものはいませんでした。
諸国を遊歴した蕭白は伊勢において精力的に活動していて、とりわけ2度目の伊勢滞在期の35歳の頃に描いた「旧永島家襖絵群」は傑作として高く評価されてきました。
はいっ!その1、本展では掛軸双幅、屏風1双、襖絵複数面、全て「1点」と数えています。例えば「波濤群禽図(旧永島家襖絵)」(三重県立美術館蔵)は、なんと全12面。これも1点。公式HPの作品リストには襖の面数も記載しています。#蕭白 #江戸絵画 #奇想 #愛知県美術館 #展示紹介 pic.twitter.com/i8zM4NNoW8
— 曽我蕭白展 公式 (@shohaku2021) October 16, 2021
蕭白がさまざまな水墨の技法を使い分けながら描いた「旧永島家襖絵」は、「松鷹図」や「竹林七賢図」、「牧牛図」などからなる計44面の襖絵で、今回はすべての面が同時に公開されました。そのうちの1点の「波濤群禽図」は12面の襖に波打つ水際と鶴の群れを素早い筆触にて描いていて、雄大な景色を余白を用いつつ見事に表現していました。まさに展覧会のハイライトにふさわしい作品ではないでしょうか。
30代後半にして播州高砂に滞在した蕭白は、この頃から奇怪さよりも堅実な表現へと画風を変化させていて、おそらくは弟子を育成するなど多様に活動していました。ともかくエキセントリックな面が強調されがちな蕭白ですが、何もそうした表現の一辺倒というわけではありませんでした。
52歳にて没した蕭白は、晩年においても謹直とされる画風の作品を制作していて、山水画においても比較的落ち着いた風景を描いていました。
とは言うものの、例えば「雲龍図襖」では空間の大気を呼び込むようにとぐろを巻く龍の姿を表したり、「石橋図」においても遠近感覚を誇張したような構図を築くなど、蕭白独自ともいえるスタイルを見ることができました。
特に「石橋図」では、多くの唐獅子たちが石橋を目指して競い合うように駆け上がる光景がユニークで、途中で落ちてしまったり、落ちていく獅子を気の毒そうに見やるものがいるなど、どことなく擬人化されて表現されたような人懐っこさを感じました。
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」開幕!会期は10/8-11/21、愛知県美術館のみの開催で巡回はありません。会期中の土日祝日は一般当日1,600円、平日は一般当日1,400円と、曜日によって観覧料が異なります。平日は200円お得ですので、金曜夜間開館などぜひご活用いただければ!https://t.co/HRk4i9n9cC pic.twitter.com/OkofbfV2AH
— 愛知県美術館 (@apmoa) October 8, 2021
2012年に千葉市美術館で開かれた「蕭白ショック!!」展は蕭白の面白さが伝わるような展示でしたが、今回の回顧展ではより幅広い作品を追っていくことで、絵師の凄みすら感じられるような内容だったかもしれません。質量ともに不足はありませんでした。
11月17日からの後期展示を迎え、展示替えは全て終了しました。なお本展は「円山応挙展―江戸時代絵画 真の実力者」(2013年)、「長沢芦雪展-京のエンターテイナー」(2017年)に続く愛知県美術館の独自企画の展覧会です。よって巡回はありません。
11月21日まで開催されています。
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」(@shohaku2021) 愛知県美術館(@apmoa)
会期:2021年10月8日(金)~11月21日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1300)円、高校・大学生1100(1000)円、中学生以下無料。
*平日料金。土日祝日はプラス200円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*コレクション展も観覧可。
住所:名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センター10階
交通:地下鉄東山線・名城線栄駅、名鉄瀬戸線栄町駅下車。オアシス21を経由し徒歩3分。
「木組 分解してみました」 国立科学博物館
「木組 分解してみました」
2021/10/13~11/24
国立科学博物館で開催中の「木組 分解してみました」を見てきました。
接着したり金物で接合することなく木と木を組み合わせる木組は、日本でも木造建築などに利用され、職人たちがさまざまな技を駆使してきました。
その木組に着目したのが「木組 分解してみました」で、タイトルにもあるように木組をあえて分解し、内部の精緻な構造を紹介していました。
まず正面で目を引くのが、木組の基本的な技法である「継手」と「仕口」に関した展示で、16世紀に建てられた京都の大仙院本堂の木組の再現模型が公開されていました。
部材同士を同じ方向に延長する接合方法を継手、また直角などの角度をなして接合する方法を仕口と呼び、室町時代の後期の建築においても、化粧材などに見た目を意識した繊細な継手や仕口が用いられました。
木組の原初的な形態は丸太をそのまま紐や縄で縛る技術で、のちに組み合わせる技術が発達すると、曲面においても密着できるような加工方法が生み出されました。
「円覚寺舎利殿組物模型」 2019年
寺社建築に使われる組物を解体して紹介したのが「円覚寺舎利殿組物模型」で、実に60点を超える木組のが積み上がる様子を映像やパネルを交えて紹介していました。
今回の「木組」展では、職人らの技術を紹介する解説映像が極めて充実していて、ともすれば身近とはいえない木組の技術を分かりやすいかたちにて学べました。
「錦帯橋部分模型」 2019年 竹中大工道具館
会場にて一際目立っていたのが、山口県岩国市にある錦帯橋の部分模型でした。錦帯橋では柱を用いず、実に36メートルの長さをアーチ構造にて支えていて、桁や梁、鞍木などの構造部分を模型を通して見ることができました。
「組子屏風」 2019年
建具に使われる組み木細工の組子を用いたのが「組子屏風」で、霞がたなびく山々の景色を驚くほど精巧に表現していました。
いずれも小さな部材を細かに組んでは景色を描いていて、色のグラデーションも彩色を用いず、天然技の色彩によって表していました。
「木組パズルX本組」
また「不思議な木組」として紹介された「球体組子」や「木組パズルX本組」も大変に精巧で、一見しただけではどのような構造であるか分からないほど複雑に作られていました。もはやそれ自体が作品として自立したオブジェと呼べるかもしれません。
このほか、フランス式架台やバルコニーやポーチの屋根に用いられるギタードなど、西洋の木組に関する資料も展示されていました。日本や西洋のさまざまな木組を見比べるのも楽しいかもしれません。
「屋根の木組」(原型:青葉園三重塔) 1980年頃 国立科学博物館
展覧会は神戸市の竹中大工道具館との共同企画で、同館を皮切りに、約2年をかけて名古屋、広島、札幌へ巡回して開催されてきました。ここ国立科学博物館が最後の開催地となります。
オンラインでの事前予約が必要です。また常設展入館料にて観覧できます。
🔉木組展公式サイトに会場パノラマを公開しました。360°自由に動かして、展示会場をお楽しみください🎵👉https://t.co/KQBxQvb27O木組展▶️開催期間:現在~11/24(水)まで。※国立科学博物館への入館には事前予約が必要です。#竹中大工道具館 #国立科学博物館 pic.twitter.com/E28YP07Gga
— 竹中大工道具館 (@tctm_pr) October 21, 2021
WEBメディア「イロハニ・アート」でも展示の様子を紹介しました。
日本の建築を支える木組の技術が一堂に! 国立科学博物館の『木組 分解してみました』展レポート(イロハニアート)
撮影も可能でした。(動画作品は撮影不可)11月24日まで行われています。
「木組 分解してみました」 国立科学博物館(@museum_kahaku)
会期:2021年10月13日(水)~11月24日(水)
休館:月曜日
時間:9:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生630円、高校生以下および65歳以上無料。
*常設展入館料で観覧可
住所:台東区上野公園7-20
交通:JR線上野駅公園口徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成線京成上野駅徒歩10分。
「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊」 千葉市美術館
「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊」
2021/10/2~12/19
千葉市美術館で開催中の「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊」を見てきました。
現代美術家の福田美蘭は、日本や西洋の美術品を参照しつつ、独自の視点から読み解き、さらに改変する絵画などを制作してきました。
その福田が千葉市美術館のコレクションとコラボレーションしたのが「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊」で、会場には浮世絵や江戸絵画に着想を得て描いた作品が展示されていました。
福田美蘭「見返り美人 鏡面群像図」 2016年 平塚市美術館
まず冒頭に展開したのが「見返り美人 鏡面群像図」で、言うまでもなく菱川師宣の名作「見返り美人図」を引用した作品でした。ここで福田は師宣画の無背景を角度と向きの違う6枚の鏡面に見立てていて、映り込む姿を描いていました。
福田美蘭「二代目市川団十郎の虎退治」 2020年
鳥居清倍の「二代目市川団十郎の虎退治」を参照した同名の作品では、力でねじ伏せられようとする虎に新型コロナウイルスを重ね合わせていて、福田は単純に撲滅させるよりも、共生や共存を目指す方向性を絵画として示しました。端的に古典作品を引用しつつも、時事的な話題や世相を抉り取るように表現していくのも福田の魅力と言えるかもしれません。
そうした世相を取り込んだ作品の1つが、月岡芳年の「風俗三十二相 けむさう 享和年間内室之風俗」を参照した作品でした。ここで福田は煙たそうに団扇で避ける女性の煙の形に五輪マークを当てはめ、開催に際して賛否もあった東京五輪に対して懐疑的な人々の心情を表しました。
思いも寄らない作品の大胆な改変も福田の面白さではないでしょうか。例えば鈴木其一の「芒野図屏風」では、其一が描いた一面の霞に覆われた芒を3D画像に再構成し、立体視にて鑑賞するように表現していました。其一画のどこか抽象性を帯びた画面に新たな見方を呼び込む手法といえるかもしれません。
琳派の尾形光琳の名作「燕子花図屏風」を念頭においた作品では、燕子花の織りなすリズミカルなモチーフを、なんと青果店やスーパーで売られるほうれん草の束に見立てて描いていました。青々として瑞々しいほうれん草の束がそれこそ橋を築くように連なる光景は、確かに燕子花の世界と呼応するようで、意外極まりない描写に驚くばかりでした。
このほかにも天皇陛下の即位を祝うパレード「祝賀御列の儀」を伊藤若冲の「乗興舟」のようにて詩画巻として表したり、尖閣諸島の南小島のかたちを枯山水の石庭や波濤図に置き換えて表現するなど、まったく想像も及ばない世界を築き上げていました。
ラストの「十三代目市川團十郎白猿襲名披露口上」も迫力があったのではないでしょうか。ここで福田は江戸時代の疱瘡絵にちなみ、魔除けの赤を用いて新型コロナウイルスを退散させようとする超人的な姿を描いていて、護符としてにらみの目の部分の印刷した紙片を持ち帰ることもできました。
福田美蘭「大江山の酒呑童子退治」 2019年
会場内に一部衝立や構造物などを用い、古典と福田が描く現代の邂逅をインスタレーション的な空間にて楽しめるような構成も面白かったかもしれません。タイトルに「遊」とあるように遊び心が感じられるものの、パロディを通り越した福田の社会への批評的姿勢も垣間見えるように思えました。
【新着】東京五輪からコロナまで。江戸時代の名画と向き合いつつ、現代の世相へ鋭く切り込む、福田美蘭の約8年ぶりの展覧会。 https://t.co/mScxWoBJsh
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 7, 2021
最初の展示室のみ撮影が可能でした。
巡回はありません。12月19日まで開催されています。おすすめします。
「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:2021年10月2日(土)~12月19日(日)
休室:10月4日(月)、10月11日(月)、11月1日(月)、11月15日(月)、12月6日(月)。
時間:10:00~18:00。
*入場受付は閉館の30分前まで
*毎週金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
*常設展示室「千葉市美術館コレクション選」も観覧可。
*ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は共通チケットが半額
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「晩秋の磐梯高原と会津への旅」 後編:鶴ヶ城と会津若松のレトロな街歩き
会津若松市内を公共交通にて観光するには、まちなか周遊バス「ハイカラさん」と「あかべぇ」が便利です。ともに会津若松駅や飯盛山、また東山温泉に鶴ヶ城、七日町を経由して走る循環バスで、それぞれ30分から1時間に1本程度の本数にて運行していました。
東山温泉駅から「あかべぇ」にてまず向かったのは、会津若松のシンボルともいうべき鶴ヶ城でした。
古くは室町時代の蘆名家にさかのぼる鶴ヶ城は、伊達家、蒲生家、保科家、松平家などと領主をかえていて、江戸幕末の戊辰戦争においては約1ヶ月にも及ぶ篭城戦が繰り広げられました。その後、会津藩の降伏に伴い、天守閣は政府の命令によって取り壊され、現在は1965年に鉄筋コンクリートで外観復元された天守閣が建っています。
5層の天守には歴代藩主や戊辰戦争などに関する資料が展示されていて、郷土博物館として会津の歴史や文化を紹介していました。
そして最上部は展望スペースとなっていて、東西南北を山に囲まれた会津の街並みを一望することができました。ともかく昨日から天気が良かったため、遠くの山々までを眺められました。
鶴ヶ城の城跡のある公園はかなり広く、本丸には千利休の子の小庵が会津に匿われていた際、当主蒲生氏郷のために造ったとされる茶室「麟閣」が公開されていました。
戊辰戦争により荒廃した鶴ヶ城でしたが、麟閣は茶人の森川善兵衛が城下にあった自らの屋敷に移築していて、約120年もの間大切に保存されてきました。そして1990年、会津若松市の市制90年を記念して元の場所へと復元されました。
麟閣の庭ではお茶をいただくことでもできて、のんびりと寛いでいる方の姿もちらほらと見受けられました。鶴ヶ城は団体や個人、それに修学旅行と思しき学生のグループなどが多く、観光客でかなり賑わっていました。
本丸から二の丸、そして出口へと歩くと、三の丸の跡地に福島県立博物館が建っていました。1996年に開館した同館は、福島県の古代から現代までの歴史を民俗、あるいは自然資料などで紹介する施設で、館内には考古、歴史、美術などからなる常設展示室と、さまざまな企画展を行う企画展示室がありました。
企画展示室では秋の企画展として「ふくしま 藁の文化」が行われていて、福島のみならず、東北から関東へ至る藁に関する資料が一堂に公開されていました。
福島の歴史をたどる広大な常設展示室を足早に鑑賞しているとランチタイムとなったので、会津若松市の繁華街である七日町へとバスで移動しました。
この日利用したのは七日町にあるイタリアンレストラン「パパカルト」で、会津の土地の野菜を用いた前菜とクリームパスタのコースでした。前菜はどれも手が混んでいた上、程よく濃厚なクリームの味が美味でした。
また白を基調とした店内も極めて落ち着いていて、表通りの喧騒とは無縁の静かな時間を過ごすことができました。
会津藩の西の玄関口でもあった七日町界隈には、昔ながらの蔵や洋館を利用した飲食店や土産物店が多く集っています。
そのうちセレクトショップを運営する福西本店は、江戸中期に会津に移った初代伊兵衛以来、約300年の歴史を誇る福西家の商家建築が残されていて、母屋蔵や座敷蔵、それに離れなどからなる建物を見学することができました。
戊辰戦争のあおりを受けた福西家は、一度財を失うも、明治後期から大正時代には復興を遂げ、九代伊兵衛の時代には銀行や電力会社、鉄道会社の役員に名を連ねるなど繁栄を極めました。表の大町通りに面した黒漆喰の3つの蔵は大正3年に完成しました。
建物の中に福西家が長らく収集してきた書画や調度品が公開されているのも特徴で、床の間の美しい設えとともに楽しむことができました。
そのうち1925年のパリ万博へも出展された可能性のある、細密な寄木細工による飾り棚には目を見張りました。
また仏間や座敷、母屋のいずれもが蔵によって作られていて、生活と蔵が大変に密接に関わっていたことがよく分かりました。なお母屋蔵に関しては現在、ギャラリースペースとして一般向けに貸し出しされています。
福西家には多い時に一族が7世帯居住し、働き手を含めると50名近くがともに生活をしていたそうです。表通り側の店蔵から母屋に離れ、そして庭園と、想像以上に奥行きのあるスペースに驚かされました。
なお見学に際しては地元のガイドの方が一緒に建物を回りながら、建具や調度品、それに福西家の歴史について親切に解説してくれます。その中では福西の歴代の人々の業績や生き様とともに、戊辰戦争において家の中を新政府軍に蹂躙されてしまったとする逸話も心に残りました。ともかく時間に余裕を持って出かけられることをおすすめします。
七日町界隈をしばらく散歩しながらいくつかの土産店へ立ち入っていると、気がつけば14時を回っていました。
この日の会津若松観光でもう1つ目当てにしていたのが、1850年に操業した老舗酒造メーカー、末廣酒造の嘉永蔵を見学することでした。
酒蔵見学は10時から16時までの各1時間毎にスタートし、所要時間は30分ほどで、見学に際しての料金もかかりません。また基本的に予約は必要ありませんが、現在のコロナ禍を踏まえて1回あたりの見学が10名に制限されていました。よって前もって受付に見学する旨を申し出ておく必要があります。
15時の見学コースの欄に名前を記し、併設する蔵喫茶「杏」にて大吟醸シフォンケーキをいただきながら、しばらく時間を過ごしました。ちょうど土曜日で見学希望の方が多かったのか、15時前に受付へ戻ると、すでに定員に達していました。
そして吹き抜けのホールから蔵へ入ると、仕込み蔵や釜場などがあり、そこでスタッフの方が日本酒の定義や作り方について細かく説明してくれました。
長きに渡る嘉永蔵の歴史の中で特に目を引いたのは、日本酒造りの手法である山廃仕込みについてでした。多くの酵母が必要な日本酒の発酵では、かつて酵母を培養するためにお米を潰す山卸と呼ばれる作業を行っていましたが、明治時代に醸造試験所の技師、嘉儀金一郎が醸造方法に改良を加え、山卸作業を廃止、つまり山廃でも味わい深い酒を造ることができることを考案しました。
その嘉儀が大正時代に山廃の試験醸造を行ったのが嘉永蔵で、末廣酒造では今に至るまで嘉儀の山廃の手法を受け継いできました。
この他、昔の酒造りの道具が並ぶ展示室や、20年前から30年前にかけて作られた日本酒が保管された蔵なども見学することができました。基本的に酒は賞味期限がなく、日本酒も保管状態によっては古酒として味わうことができて、価格もビンテージワインに比べれば遥かに安価であるとのことでした。
なお見学ツアーでは最後に試飲タイムも用意されていました。もちろんお気に入りのお酒をショップにて購入することもできます。
今回の会津の旅で移動に便利だったのは、地域を周遊できるパス「会津ぐるっとカード」でした。利用開始日から連続する2日間が有効期間で、会津エリアのバスや列車が乗り放題になるだけでなく、観光施設や飲食店などの割引サービスがついています。価格は大人2720円でした。
このぐるっとカードの対象エリアがかなり広く、例えば猪苗代から諸橋近代美術館へのバス往復、また猪苗代から会津若松までの電車往復、さらに会津若松市内のバスなどがすべてフリーで利用することができました。また喜多方や会津坂下、会津田島方面へもフリーで行き来することが可能です。なかなかお得ではないでしょうか。
私自身、当地を訪ねるのは初めてでしたが、自然に溢れる磐梯高原と長い歴史と温泉を有する会津には見どころがたくさんありました。次回は喜多方などと合わせてもう少し足を伸ばして回りたいと思います。
「鶴ヶ城」
営業時間:8:30~17:00(天守閣への入場。最終入場は16:30)
入場料:大人410円、小中学生150円。団体料金の設定あり。
*天守閣・麟閣の共通券:大人520円。
住所:福島県会津若松市追手町1-1
交通:JR線会津若松駅よりまちなか周遊バス「あかべぇ」、もしくは「ハイカラさん」に乗車し「鶴ヶ城入口」下車、徒歩5分。
「末廣酒造 嘉永蔵」
営業時間:9:00~17:00
無料:嘉永蔵の見学は10時から1時間毎。最終案内は16時。所要時間30分。
住所:福島県会津若松市日新町12-38
交通:R線会津若松駅よりまちなか周遊バス「ハイカラさん」に乗車し「大和町」下車、徒歩1分。
「晩秋の磐梯高原と会津への旅」 中編:会津さざえ堂と東山温泉向瀧
猪苗代駅から磐越西線の快速に乗り、蛇行を繰り返す電車の揺れに身を任せていると、約30分ほどで会津若松駅につきました。
すでに15時頃となっていた上、市内の観光は翌日を予定していたので、まずは宿泊先の東山温泉へのバスルートの途中に位置する飯盛山へ行くことにしました。
会津若松駅からほぼ真東にある飯盛山は、戊辰戦争の際、会津藩の武家の男子による白虎隊が自死した地として知られていて、白虎隊十九士の墓が築かれています。また山のふもとには土産屋が並んでいて、人影こそまばらだったものの、観光地の様相も呈していました。
私が飯盛山で特に見学したかったのは、山の中腹に位置する重要文化財「旧正宗寺三匝堂」、通称「会津さざえ堂」でした。
会津さざえ堂は1796年、当時飯盛山にあった正宗寺の僧、郁堂が考案した六角三層のお堂で、一方通行の二重螺旋構造にて上下に行き来するという、世界でも珍しい建築として知られています。
正面の唐破風の入口を抜けると、右回りに螺旋状のスロープが続いていて、頂上には太鼓橋があり、それを越えると今度は下りのスロープが続いて背面の出口に達するように作られていました。
江戸時代においては二重螺旋の通路に沿って西国三十三観音像が安置されていて、参拝者は一度入ることでお参りを終えたことになるという、庶民のための身近な巡礼の建物として使われていました。
ともかく外観と内観ともに特異な作りをしていて、堂内には数多くの千住札が貼られていました。なおスロープには手すりと滑り止めがありましたが、傾斜はややきついため、見学に当たってはなるべく履きやすい靴の方が良いかもしれません。
そして同じく飯盛山に位置し、鬱蒼とした緑に覆われた白虎隊十九士の墓をお参りした後は、山を降り、再びバスにて宿泊先の東山温泉へと向かいました。
白虎隊は同地にて鶴ヶ城が黒煙に包まれているのを見て落城したと錯覚し、命を落としたと伝えられていますが、西日が差し込んだ黄昏時の会津市街を望みながら少年たちの最後を思うと、どこか胸がつまるものを感じました。
さてこの日の宿にしたのは同温泉でも屈指の歴史を誇る老舗旅館「向瀧」で、ちょうど東山温泉駅バス停から湯川を挟んだすぐの場所に建っていました。
向瀧は「きつね湯」と呼ばれた会津藩士の保養所を前身としていて、明治維新ののちに藩から平田家が受け継いで温泉宿として営業を続け、いまでは6代目を数えるに至りました。ただどういう経緯で平田家が譲り受けたのかについては詳しく分かっていないそうです。
ちょうど川と崖地の間の傾斜のある場所に位置していて、純和風の建物が中庭を囲むようにして連なっていました。建物は明治6年の創業以来、増改築を繰り返していて、特に昭和の初期に行われた大普請では多くの宮大工が腕を振いました。また1996年には国の文化財保護法改正に基づき、登録有形文化財に登録されました。
傾斜地を利用した建物ゆえか、館内の廊下には至るところに階段があり、明治から昭和にかけての建築年代の異なる書院造や数寄屋造り風の部屋が続いていました。
中庭を正面に望むすみれの間に案内していただき、客室でチェックインを行い、抹茶と手作りの羊羹をいただくと、早速温泉を楽しむことにしました。
向瀧には宿の発祥の由来である伝統的な「きつね湯」とシャワー設備が整った現代的な「さるの湯」、それに3つの小さな貸切風呂「蔦の湯」、「瓢の湯」、「鈴の湯」があります。
最もレトロな趣きであるのは「きつね湯」で、動力を使っていないという45度ほどの熱めのお湯が自然にこんこんと湧き出ていました。なお向瀧ではすべての浴槽が源泉かけ流しで、お湯は透明でクセがなく体に程よく馴染むように滑らかでした。硫酸塩泉で疲労回復に効果があるとされています。
一方の「さるの湯」は大理石製の広めの湯船が置かれていて、窓からは樹木も望むことができました。向瀧には温泉宿にて定番の露天風呂がありませんが、最も自然を感じられるのは「さるの湯」かもしれません。なおお風呂へは夜中も入浴することが可能でした。(翌朝9時半まで)
向瀧ではすべてのプランが朝夕食ともお部屋で提供され、温泉を堪能すると夕食の時間がやって来ました。料理は会津産の地鶏や牛肉、それに長茄子やりんごなど土地の食材にこだわった郷土料理で、食前酒から前菜、焼物、煮物、揚げ物、汁、ご飯、デザートなど、かなりボリュームがありました。(写真はその一部です。)
特に鯉やにしん、ますなどを素材とした魚料理がメインとなっていて、臭みのない鯉のお刺身や程よく山椒が効いたにしん漬けも香りだっていました。
またホタテの貝柱で出汁をとった会津伝統のこづゆも、薄味の加減が絶妙で、野菜の旨味が口いっぱいに広がりました。
一連の郷土料理で最大の名物が会津藩に由来するという伝統の「鯉の甘煮」でした。実にこぶしよりも大きな鯉の煮物で、1メートル近くの鯉を約5等分したのち、醤油や砂糖で長時間煮たものでした。ともかく想像以上に大きく、すべて食べられるか心もとありませんでしたが、ご飯と合わせつつ、最後はお茶漬けにしていただきました。ただ鯉の甘煮は食べきれなくとも真空パックにして持ち帰ることが可能で、実際にも宿の方によれば大半の方がお土産にされるとのことでした。
夜の中庭の景色も大変に風情があるのではないでしょうか。冬は30センチほど雪が積もり、ろうそくでライトアップされるため、それを目当てに宿泊される方も少なくないそうです。
一晩あけて「きつね湯」にて体を温め、炊き立ての美味しいコシヒカリなどによる朝ごはんを部屋でいただくと、いつしかチェックアウトの時間を迎えていました。なお昨晩の夕食でもコシヒカリをいただきましたが、ともに会津産であるものの、朝と夕で採れた地域を替えることで、味に変化をつけているとのことでした。確かに夕食のコシヒカリはおかずに馴染むように比較的さっぱりしていた一方、朝食は腹持ちが良さそうな甘くもちもちとした食感でした。
バスが発車するまで少し時間があったため、宿の方に部屋と同様に文化財である大広間を案内してもらいました。寺院建築などに用いられる格天井を特徴とした広間で、松を描いた舞台を有し、天井部分には会津の桐の一枚板が貼られていました。
大変に風格のある広間でしたが、現在の会津にてこれほど大きな桐の一枚板を得ることは難しいため、もはや当地の素材にて改めて造ることは叶いません。それこそ増改築を繰り返した客間と同様に貴重な文化財といえそうです。
古い建物ゆえに年季が入っているのは当然ながら、客間も廊下も含めてガラスや床はぴかぴかに磨かれ、どれほど手入れに注意を払い努力しているのかがよく分かりました。また宿を大切にしながら、自然体でかつ親切に接してくれたスタッフの方の振る舞いにも心を打たれました。
長い歴史を有する温泉の余韻を感じつつ、宿の方が手を振って見送ってくれる中を東山温泉駅バス停へと歩き、バスにて会津若松市の中心部へと向かいました。
「後編:鶴ヶ城と会津若松のレトロな街歩き」へと続きます。
「会津さざえ堂」
拝観時間:8:15~日没(4月~11月)、9:00~16:00(12月~3月)
拝観料:大人400円、大学・高校生300円、小学・中学生200円。
住所:福島県会津若松市一箕町八幡滝沢155
交通:JR線会津若松駅よりまちなか周遊バス「あかべぇ」、もしくは「ハイカラさん」に乗車し「飯盛山下」下車、徒歩5分。
「会津東山温泉 向瀧」
住所:福島県会津若松市東山町大字湯本字川向200
交通:JR線会津若松駅よりまちなか周遊バス「あかべぇ」、もしくは「ハイカラさん」に乗車し「東山温泉駅」下車、徒歩1分。
「晩秋の磐梯高原と会津への旅」 前編:磐梯高原と諸橋近代美術館
東京駅から「やまびこ」に乗車し、郡山駅で磐越西線に乗り換え、磐梯高原への玄関口に当たる猪苗代駅に着いたのは10時半前でした。
猪苗代駅からは磐梯高原へのアプローチは路線バスで、駅からバスに乗ること約30分、樹々の色づく山々を車窓に見ていると諸橋近代美術館のバス停に到着しました。
1999年に開館した諸橋近代美術館は、いわき市出身でスポーツ用品店「ゼビオ」の創立者である諸橋廷蔵氏が蒐集した西洋美術作品を公開する美術館で、とりわけ約340点余りに及ぶダリのコレクションで知られています。
磐梯朝日国立公園内の5.5万平方メートル以上の広大な敷地内に建てられたのは、「中世の馬小屋」をイメージしたという約2000平方メートルの施設で、それこそヨーロッパの景色と見間違うような佇まいを見せていました。
エントランスを抜けて受付を済ませると、すぐ裏にミュージアムショップ、そして右手にカフェがありました。ほとんどの来館者は車でやって来ているようで、駐車場にも何台か車が停まっていましたが、まだ午前中の比較的早い時間ゆえか人出はまばらでした。
なおコロナ禍を踏まえ、入口で消毒と自動での検温の対応のほか、館内滞留人数の掲示などが行われていました。また受付でダリにちなみ、マスクに貼ることのできる髭のシールが配られるなどのしゃれた試みもなされていました。
この日に開催されていたのはテーマ展「ステッピング・アウト〜日常の足跡〜」で、サルバドール・ダリのほか、キリコやエルンスト、ミロの作品に加え、同館がダリともにコレクションの中核にしているイギリスの現代美術家、PJ クルックの作品が公開されていました。
PJ クルックの作品は、現在35点を有していて、1995年に諸橋廷蔵がクルックとパリのギャラリーで会ったことからコレクションがはじまりました。いずれの作品も時事的なモチーフを取り込みつつ、キャンバスだけでなく額縁へとイメージを拡張させていて、風刺的な味わいが感じられるとともに、シュールな世界を築き上げていました。
諸橋近代美術館のダリ・コレクションで興味深いのは、平面の作品とともに、外光を取り込むホールにて多くのブロンズなどの立体彫刻が展示されていることでした。少なくとも国内においてこれほどまとめてダリの彫刻を見られる美術館はほかにないかもしれません。
一通り作品を鑑賞した後は、ミュージアム・カフェで新メニューの「マシュマロ入り ココバナナ」をいただきました。カフェにおいても彫刻ホールと同様、庭の庭園や磐梯高原の豊かな自然を望むことができました。なお同館では展示室内の撮影はできません。
お昼を過ぎて美術館を出ると、徒歩で移動可能な磐梯高原の名所、五色沼へと行くことにしました。国道459号線を少し北に歩くとすぐに沼への案内看板が現れ、売店やレストハウスが並ぶ五色沼の入口に辿り着くことができました。さすがに人気の観光地ゆえに多くの人々で賑わっていました。
五色沼とは磐梯山の北側に点在する大小30余りの湖沼群を指していて、毘沙門沼、赤沼、るり沼などを巡る全長4キロのトレッキングコースが整備されています。
本来であればコースに沿って沼を巡っていくのが良かったかもしれませんが、あいにくバスの時間の関係もあり、毘沙門沼の周辺のみを少しだけ散歩することにしました。
ボート乗り場もある毘沙門沼は裏磐梯ビジターセンター側に位置し、五色沼でも特に人の多いスポットでありつつ、磐梯山を望む展望台も設置されています。
まだ見頃とまでは言えませんが、一部の樹木は朱色に染まっていて、写真を楽しむ人の姿も見受けられました。またお天気にも恵まれたからか、冷ややかな高原の風も心地よく感じられました。
五色沼をしばし散策した後は、再びバスに乗車して起点となった猪苗代駅へ戻りました。そして磐越西線に乗車し、会津若松を目指しました。
「中編:会津さざえ堂と東山温泉向瀧」に続きます。
「コレクションテーマ展「ステッピング・アウト〜日常の足跡〜」 諸橋近代美術館(@dali_morohashi)
会期:2021年7月13日(火)〜11月7日(日) *会期終了後、11月8日より来年4月26日まで冬季休館
休館:会期中無休
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人1300(1000)円、高校・大学生500(300)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:福島県耶麻郡北塩原村大字桧原字剣ヶ峯1093番23
交通:JR線猪苗代駅より磐梯東都バス「五色沼・磐梯高原」行きに乗車(約25分)、諸橋近代美術館バス停下車すぐ。無料駐車場あり。
2021年11月に見たい展覧会【篁牛人/奥村土牛/フランソワ・ポンポン】
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されて約1ヶ月を経過しましたが、新型コロナウイルス感染症は一定の収束を見せていて、大規模イベントに関しても条件が緩和されようとしています。また美術展においても、延期されていた展覧会に再開の動きが見られるようになりました。
2020年に中止となった「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+」は、11月19日から12月26日にかけて開催されることになりました。また同じく中止された「ボストン美術館展 芸術×力」も再開となり、来年、2022年7月23日から10月2日にかけて行われることが決まりました。
11月も興味深い展覧会が続きます。今月に見たい展示をリストアップしてみました。
【展覧会】
・「サウンド&アート展 ―見る音楽、聴く形」 アーツ千代田 3331(11/6~11/21)
・「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」 Bunkamuraザ・ミュージアム(9/18~11/23)
・「棟方志功と東北の民藝」 日本民藝館(10/1~11/23)
・「学者の愛したコレクション —ピーター・モースと楢﨑宗重—」 すみだ北斎美術館(10/12~12/5)
・「ゴッホ展—響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」 東京都美術館(9/18~12/12)
・「白井晟一 入門 第1部/白井晟一クロニクル」 渋谷区立松濤美術館(10/23~12/12)
・「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」 パナソニック汐留美術館(10/9~12/19)
・「和田誠展」 東京オペラシティ アートギャラリー(10/9~12/19)
・「河鍋暁斎 ―躍動する絵本」 太田記念美術館(10/29~12/19)
・「鈴木其一・夏秋渓流図屏風」 根津美術館(11/3~12/19)
・「ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960–70年代美術」 DIC川村記念美術館(10/9~2022/1/10)
・「篁牛人展~昭和水墨画壇の鬼才~」 大倉集古館(11/2~2022/1/10)
・「開館60周年記念展/千四百年御聖忌記念特別展 聖徳太子 日出づる処の天子」 サントリー美術館(11/17~2022/1/10)
・「つくる・つながる・ポール・コックス展」 板橋区立美術館(11/20~2022/1/10)
・「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」 国立科学博物館(10/14~2022/1/12)
・「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」 森美術館(4/22~2022/1/16)
・「梅津庸一展 ポリネーター」 ワタリウム美術館(9/16~2022/1/16)
・「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」 三菱一号館美術館(10/15~2022/1/16)
・「戸谷成雄 森―湖:再生と記憶」 市原湖畔美術館(10/16~2022/1/16)
・「戦後デザイン運動の原点 デザインコミッティーの人々とその軌跡」 川崎市岡本太郎美術館(10/23~2022/1/16)
・「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol. 18」 東京都写真美術館(11/6~2022/1/23)
・「松江泰治 マキエタCC」 東京都写真美術館(11/9~2022/1/23)
・「開館55周年記念特別展 奥村土牛」 山種美術館(11/13~2022/1/23)
・「開館20周年記念 フランソワ・ポンポン展」 群馬県立館林美術館(11/23~2022/1/26)
・「佐藤雅晴 尾行―存在の不在/不在の存在」 水戸芸術館(11/13~2022/1/30)
・「大林コレクション展 安藤忠雄 描く/都市と私のあいだ/Self-History」 WHAT(9/25~2022/2/13)
・「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」 東京国立近代美術館(10/26~2022/2/13)
・「Viva Video! 久保田成子展/クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]/ユージーン・スタジオ 新しい海」 東京都現代美術館(11/20~2022/2/23)
・「生誕160年記念 グランマ・モーゼス展 素敵な100年人生」 世田谷美術館(11/20~2022/2/27)
・「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」 ポーラ美術館(9/18~2022/3/30)
【ギャラリー】
・「奈良原一高 写真展 宇宙への郷愁」 東京工芸大学写大ギャラリー(9/13~11/20)
・「ヒルミ・ジョハンディ Landscapes and Paradise: Poolscapes」 オオタファインアーツ(10/2~11/20)
・「シュシ・スライマン 赤道の伝承」 小山登美夫ギャラリー(10/22~11/20)
・「風間サチコ展 ディスリンピアン2021」 無人島プロダクション(10/30〜2021/11/20)
・「日本のアートディレクション展 2020-2021」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー、クリエイションギャラリーG8(11/1~11/30)
・「Life is beautiful : 衣・食植・住 “植物が命をまもる衣となり、命をつなぐ食となる”」 GYRE GALLERY(11/3~11/30)
・「名和晃平 TORNSCAPE」 SCAI THE BATHHOUSE(11/2〜12/18)
・「大竹伸朗 : 残景」 Take Ninagawa(10/30〜12/18)
・「第15回 shiseido art egg 中島 伽耶子 展」 資生堂ギャラリー(11/23~12/19)
・「ギルバート&ジョージ《CLASS WAR, MILITANT, GATEWAY》」 エスパス ルイ・ヴィトン東京(10/14~2022/3/6)
・「妹島和世+西沢立衛/SANAA展 環境と建築」 TOTOギャラリー・間(10/22~2022/3/20)
まずは日本美術です。いま、この絵師の名を知る人は少ないかもしれません。大倉集古館にて「篁牛人展~昭和水墨画壇の鬼才~」が開かれます。
「篁牛人展~昭和水墨画壇の鬼才~」@大倉集古館(11/2~2022/1/10)
1901年に生まれた篁牛人(たかむらぎゅうじん)は、水墨画を制作するも、画壇に属さず、また一時放浪生活を送るなど孤高を貫き、晩年は病に倒れると10年あまり作品を制作できずに世を去りました。
篁牛人展、展示作業が無事に終了しました!!11/2(火)の開幕に向けて、皆様をお迎えする準備を進めております。展示は前期(〜12/5)、後期(12/7〜)に分かれております。多くの作品が入れ替わりますので、是非前期のみの作品をお見逃しなく!!#篁牛人 #昭和 #水墨画 #大倉集古館 pic.twitter.com/V0419YuKK2
— 【公式】@大倉集古館「生誕120年記念 篁牛人展~昭和水墨画壇の鬼才~」 (@FusionKinesis1) October 29, 2021
その牛人の画業を紹介するのが今回の展覧会で、初期の図案家として活動した作品から、水墨画の大作などが一堂に公開されます。牛人の画風は、渇いた筆で麻紙へ擦り込むように墨を定着される「渇筆」の技法を特徴としていますが、その個性的ともいえる絵画表現はチラシの表紙の作品からして伝わるかもしれません。
続いては現代美術です。「ロトスコープ」(*)と呼ばれる技術によるアニメーション作品で知られ、2019年に45歳の若さで亡くなった佐藤雅晴の回顧展が、水戸芸術館にて開催されます。
「佐藤雅晴 尾行―存在の不在/不在の存在」@水戸芸術館(11/13~2022/1/30)
それが「佐藤雅晴 尾行―存在の不在/不在の存在」で、1999年に初めて制作した映像から亡くなる直前まで描き続けた「死神先生」のシリーズなど、映像26点と平面36点の作品が展示されます。
11月13日(土)から開幕する「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」展。展覧会に先駆けて、広場に看板が設置されました!ご来館の際は、こちらで記念写真はいかがでしょう📷https://t.co/ovcBaHcN52 pic.twitter.com/oaGPu1sPPO
— 水戸芸術館現代美術センター (@MITOGEI_Gallery) October 28, 2021
佐藤といえば生前の2016年に原美術館でも個展があり、実写とアニメ、言い換えれば現実と非現実が交錯する映像世界に引き込まれましたが、改めて作品をまとめて見る良い機会となりそうです。*ビデオカメラやスチルカメラで撮影した日常の風景をパソコン上でペンツールを用い、なぞるようにトレースしてアニメーション化する。(公式サイトより)
ラストは西洋美術です。かわいらしい動物の彫刻に誰もが心を惹かれるのではないでしょうか。群馬県立館林美術館にて「開館20周年記念 フランソワ・ポンポン展」が開催されます。
「開館20周年記念 フランソワ・ポンポン展」@群馬県立館林美術館(11/23~2022/1/26)
20世紀前半のフランスの彫刻家、フランソワ・ポンポンは、古代エジプト美術にならった単純化された形態の動物彫刻で人気を集め、生涯にわたって様々な動物の作品を作り続けました。そして国内では今年、京都市京セラ美術館を皮切りに、名古屋市美術館などポンポンの展覧会が巡回していて、11月23日より群馬県立館林美術館へとやって来ます。
11月23日(火・祝)~1月26日(水)に開催する展覧会「フランソワ・ポンポン展」の詳細情報を公式ホームページで公開しました。ページ内よりチラシデータもダウンロードできます。関連イベントの申込情報等はもうしばらくお待ちください。https://t.co/Ia1ewCOD1o pic.twitter.com/uryzNy7eMT
— 群馬県立館林美術館 (@gunmatatebi) October 8, 2021
同館は国内で唯一まとまったポンポンの作品と資料を所有していて、アトリエを一部に再構成した別館「彫刻家のアトリエ」も公開されています。そちらと合わせてポンポンの芸術を楽しみたいところです。
WEBメディア「イロハニ・アート」にも今月のおすすめの展覧会を寄稿しました。そちらもご覧いただければ嬉しいです。
11月に見たい展覧会おすすめ5選!
— イロハニアート (@irohani_art) November 1, 2021
この記事では、東京以外の地域にも目を向けておすすめの展覧会をピックアップして紹介しています。#根津美術館 #鈴木其一 #福田美術館 #木島櫻谷 #市原湖畔美術館 #戸谷成雄 #群馬県立館林美術館 #ポンポン展 #東京国立近代美術館https://t.co/RTxeYlF2y7
「おうこくさん」からポンポン、それに民藝まで。11月に見たい展覧会おすすめ5選(イロハニアート)
それでは今月もよろしくお願いいたします。*一番上の写真は10月末に五色沼(福島県)にて撮影しました。