「おうちで楽しむ水戸芸術館」で聞きたい水戸室内管弦楽団

4月3日より臨時休館中の水戸芸術館が、過去のコンサートや演劇、展覧会などを無料配信する特設サイト、「おうちで楽しむ水戸芸術館」を公開しています。



「おうちで楽しむ水戸芸術館」
https://www.arttowermito.or.jp/entry/ouchi/

中でも注目したいのは「水戸芸術館サウンド・ライブラリー」で、第1弾として2020年2月2日に行われた「水戸室内管弦楽団第105回定期演奏会」から、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」の第1楽章とメンデルスゾーンの「交響曲第4番」を動画で配信していました。

「水戸芸術館サウンド・ライブラリー」
https://www.arttowermito.or.jp/topics/article_40282.html



これは、水戸室内管弦楽団の創立30周年を記念して開かれたコンサートで、 同楽団の活動の柱の1つでもある「指揮者なし」で演奏されました。細かに音を重ねていく「弦楽セレナード」は、実にニュアンスに豊かな音楽を築いていて、まるで室内楽のように緻密でした。



一方のメンデルスゾーンも、弦と管楽器の細かな掛け合いが魅力的で、曲の構造が立体的に浮き上がっているように思えました。コンサートマスターの豊嶋泰嗣さんがオーケストラに向き合いながら、演奏を導いていくような姿も印象的かもしれません。

さらに4月29日からは期間限定にて、ラデク・バボラークと小澤征爾が指揮を担った、ベートーヴェンの「交響曲第9番」のライブ録画が公開されます。



【水戸芸術館サウンド・ライブラリー 配信スケジュール】

・4月21日(火)15:00~5月6日(水・祝)15:00
「水戸室内管弦楽団 第105回定期演奏会」(抜粋)
 チャイコフスキー:弦楽セレナード ハ長調 作品48より 第1楽章
 メンデルスゾーン:交響曲 第4番 イ長調 作品90〈イタリア〉

・4月29日(水・祝)15:00~(期間限定)
「水戸室内管弦楽団 第100回定期演奏会」
 指揮:ラデク・バボラーク(第1、2楽章)、小澤征爾(第3,4楽章)
 ソリスト:三宅理恵(ソプラノ)、藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)、福井敬(テノール)、マルクス・アイヒェ(バリトン)
 合唱:東京オペラシンガーズ(合唱指揮:村上寿昭)
 ベートーヴェン:交響曲 第9番 二短調 作品125

・5月2日(土)15:00~5月16日(土)15:00
「新ダヴィッド同盟 第1回演奏会」より(抜粋)
 出演:庄司紗矢香、佐藤俊介(ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、石坂団十郎(チェロ)、小菅優(ピアノ)
 ハイドン:ピアノ三重奏曲 第39番 ト長調 Hob.XV-25 作品73の2
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44



「森英恵 世界にはばたく蝶」展の紹介映像」
https://www.arttowermito.or.jp/topics/article_40284.html



また「おうちで楽しむ水戸芸術館」では、会期途中で打ち切りとなってしまった「森英恵 世界にはばたく蝶」展の紹介映像や、同じく途中で閉幕した「磯崎 新-水戸芸術館 縁起-」展の展示風景(写真)も公開していました。私も結局「森英恵」展へは行きそびれてしまったので、短い動画を通してでも、会場の雰囲気を味わうことが出来ました。



ACM Theatre Best Selection
https://www.arttowermito.or.jp/topics/article_40288.html

演劇では、2018年に9月21日にACM劇場で上演された「海辺の鉄道の話」がノーカットで公開されていました。全155分にも及ぶ長丁場ゆえに、私自身、まだ全てを見られていませんが、芸術監督の井上桂さんと脚本と演出の詩森ろばさん、それに舞台となったひたちなか海浜鉄道の吉田社長が「海辺の鉄道の話」について語る動画も興味深いかもしれません。



この他、日比野克彦の「明後日朝顔プロジェクト 自宅で育てよう!」や、水戸芸術館のタワーの工作や塗り絵をPDFでダウンロード出来る「おうち・こらぼ・らぼ」なども展開していました。今後も自宅で楽しめるような情報が、随時、追加されていくそうです。


「おうちで楽しむ水戸芸術館」は、コンサート、美術展、そして演劇と多方面に活動する水戸芸術館だからこそ可能なコンテンツではないでしょうか。今後の更新にも期待したいと思います。



「おうちで楽しむ水戸芸術館」 水戸芸術館@art_tower_mito
概要:このたびの新型コロナウイルス感染症の拡大防止に伴い、多くの方々がご自宅で過ごされる時間が増えています。水戸芸術館では、音楽や演劇、美術を通して少しでも皆様の心に安らぎや喜びをお届けできればと願い、過去のコンサート、演劇公演や展覧会を動画で無料配信したり、ご家庭で楽しめるコンテンツを、4月21日(火)から発信いたします。
コンテンツ:水戸芸術館サウンド・ライブラリー、ACM Theatre Best Selection、「森英恵 世界にはばたく蝶」展の紹介映像、「磯崎 新-水戸芸術館 縁起-」展の展示風景、「明後日朝顔プロジェクト 自宅で育てよう!」、「おうち・こらぼ・らぼ」、「ゆうくんとマットさん」動画チャンネル
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モーツァルトの「魔笛」を自宅で楽しむ 新国立劇場「巣ごもりシアター」

新型コロナウイルス感染拡大対策に伴う緊急事態宣言のため、5月10日まで主催公演を中止している新国立劇場が、過去公演を期間限定にてストリーミング配信する「巣ごもりシアター」を行っています。



おうちでまったり!「巣ごもりシアター」のご案内:新国立劇場 

その第一弾に選ばれたのが、2018年10月3日に公演されたモーツァルトの「魔笛」で、動くアニメーションで知られる南アフリカ出身の現代美術家、ウィリアム・ケントリッジが演出を担ったステージでした。



モーツァルト『魔笛』 視聴ページ <2018年10月3日公演> ドイツ語上演/日本語字幕付
配信期間:4月10日(金)15:00~17日(金)14:00 

私自身、実際に同じプログラムを新国立劇場で観覧しましたが、冒頭から動く光のドローイングが、天体や鳥、それにメトロノームや図形的な模様などを描いていて、「魔笛」に特有の幻想的な舞台を作り上げていました。またフリーメイソンの象徴である、プロビデンスの目の扱いも印象的に見えました。


オペラ『魔笛』(写真:寺司正彦)

またアニメーションによって森林が左右に展開し、神殿の扉が開く場面などは、あたかも舞台が本当に前後左右へと動いているかのようで、まさに映像表現ならではのバーチャルな空間体験が得られました。

ケントリッジの「魔笛」の配信期間は4月10日(金)から17日(金)の14時までの約1週間で、ダイジェスト版のようなyoutubeでの配信ではなく、新国立劇場の特設ページより閲覧することが出来ます。



W.A.モーツァルト作曲 
オペラ『魔笛』(2018年10月3日上演)
全2幕 ドイツ語上演/日本語字幕付
指揮:ローラント・ベーア 
演出:ウィリアム・ケントリッジ
出演:サヴァ・ヴェミッチ、スティーヴ・ダヴィスリム、安井陽子、林 正子、アンドレ・シュエン、九嶋香奈枝、升島唯博 ほか
合唱:新国立劇場合唱団 
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

この他、新国立劇場では「魔笛」と同様に、大野和士オペラ芸術監督の第1シーズンであるプッチーニの「トゥーランドット」と、今シーズンの開幕公演であるチャイコフスキーの「エウゲニ・オネーギン」を、ぞれぞれ1週間ごとに配信します。うち「トゥーランドット」に関しては、バルセロナ・オリンピック開会式の演出を手がけた、アレックス・オリエが演出を担当しました。スペインのパフォーマンス集団の芸術監督も担っていて、前衛的なステージも見どころと言えるのではないでしょうか。



プッチーニ『トゥーランドット』 <2019年7月20日公演> イタリア語上演/日本語字幕付
配信期間:4月17日(金)15:00~4月24日(金)14:00 
指揮:大野和士
演出:アレックス・オリエ
出演:イレーネ・テオリン、テオドール・イリンカイ、中村恵理、リッカルド・ザネッラート ほか
合唱:新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル、TOKYO FM 少年合唱団 
管弦楽:バルセロナ交響楽団



チャイコフスキー『エウゲニ・オネーギン』<2019年10月1日公演> ロシア語上演/日本語字幕付
配信期間:4月24日(金)15:00~5月1日(金)14:00 
指揮:アンドリー・ユルケヴィチ
演出:ドミトリー・ベルトマン
出演:エフゲニア・ムラーヴェワ、ワシリー・ラデューク、パーヴェル・コルガーティン、鳥木弥生、アレクセイ・ティホミーロフ ほか
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


既に海外では、同じように劇場の閉鎖を余儀なくされた、ドイツのベルリン国立歌劇場やアメリカのメトロポリタン歌劇場などでも、過去公演の無料配信を実施しています。新型コロナウイルスの1日も早い収束を願いつつ、しばらくは自宅にこもってオペラの配信を楽しむのも良いかもしれません。

新国立劇場「巣ごもりシアター」(@nntt_opera
【概要】:新国立劇場では、このたび、舞台芸術を愛する皆様に向けて、4月10日(金)より期間限定で、無料で過去の公演記録映像をストリーミング配信する「巣ごもりシアター」を開始いたします。まずはオペラ公演から、大野和士オペラ芸術監督の第1シーズンより『魔笛』『トゥーランドット』、今シーズンの開幕公演『エウゲニ・オネーギン』の3作品を、1週間ごとに配信。オペラパレスでの感動を、ご自宅でも味わっていただけます。
【配信ラインアップ】
4月10日(金)15:00~17日(金)14:00 モーツァルト『魔笛』<2018年10月3日公演>
4月17日(金)15:00~4月24日(金)14:00 プッチーニ『トゥーランドット』<2019年7月20日公演> 
4月24日(金)15:00~5月1日(金)14:00 チャイコフスキー『エウゲニ・オネーギン』<2019年10月1日公演>
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久石譲「フェルメール&エッシャー」

久石譲ニューアルバム、「フェルメール&エッシャー」を聞いてみました。



現在、フェルメール・センター銀座で開催中の「フェルメール光の王国展」ですが、その展覧会のために作曲家の久石譲氏が音楽を作曲したことをご存知でしょうか。

それが「久石譲 フェルメール&エッシャー」です。先日、CDアルバムとして発売されました。

言うまでもなくフェルメールとエッシャーはともにオランダの画家ですが、久石は作曲のため、ハーグをはじめとするオランダの各地を渡り歩きます。

そこで様々なイメージを受け取った彼は、ピアノと弦楽四重奏のための音楽を全11曲書き下ろしました。

アルバムは二部構成です。前半6曲がフェルメール、そして後半5曲がエッシャーとなっていました。

Side Ver.
01. Sense of the Light
02. Circus
03. A View of the River
04. Blue and Eyes
05. Vertical Lateral Thinking
06. Muse-um

Side Esc.
07. Trees
08. Encounter
09. Phosphorescent Sea
10. Metamorphosis
11. Other World

音楽と美術は時に親和性の高い芸術とも指摘されますが、実のところそう簡単に言えるものではないかもしれません。

とりわけ楽器のモチーフこそ登場するものの、とかく静謐と語られるフェルメールに音楽をつけるのは非常に難しいのでないでしょうか。実際に久石自身も「完璧に仕上げられたフェルメールの絵画から音を探し出すことなどできない。」と述べています。



とは言え、試聴すると、フェルメールのどこか神秘的なまでの絵画を連想出来る面もあるかもしれません。ピアノが終始、控えめなステップを踏みつつ、そこに弦がそっと寄りそうかのように絡みあっています。訥々とした語り口で日常に潜む美しい情景を浮かび上がらせていました。



一方でエッシャーの音楽はもっと激しさを伴っているのではないでしょうか。久石はミニマル音楽でも知られているそうですが、こちらに関しては前衛という言葉が相応しいかもしれません。弦は時に金切り声すら挙げています。だまし絵ならぬエッシャーの複雑怪奇な世界は、弦やピアノが力強く行き交う音楽からもイメージ出来ました。

「フェルメール&エッシャー/久石譲/Independent Label Council Japan」

なお本アルバムはフェルメール・センター銀座はもとより、一般のCD店でも販売されています。試聴ブースなどがあるやもしれません。見つけたらしばし耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

「フェルメール 光の王国/福岡伸一/木楽舎」

*関連エントリ
「フェルメール 光の王国展」 フェルメール・センター銀座
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「読響ブックレット2012」楽団員紹介コーナー

来シーズンの読響のプログラムなども記載されています。「読響ブックレット2012」を読んでみました。



こうしたブックレット形式でオーケストラのシーズンプログラムを紹介することは何も珍しいことではありませんが、最近、親しみやすいイベントなどを果敢に仕掛ける読響のこと、中身がちょっと一風変わっています。



それがずばり楽団員の紹介写真のコーナーです。ここには有りがちな顔写真一覧ではなく、何と各団員の方々が思い思いのポーズをとった写真が並んでいます。



そのポーズがなかなか強烈です。楽器を片手にダンスするような姿はまだしも、ちょっとしたぬいぐるみといった小道具から、何と大きなバイクまでが登場していました。



またコントラバスの高山さんはマグリットがお好きなのでしょうか。楽器にマグリットの作品の切り抜きが貼ってありました。



そしてもうひとつ、私として共感を覚えるのが、ともかくお酒を持ってポーズをされている方が多いということです。チェロの渡部さんの飲みっぷりには見惚れてしまいました。



それにしても皆さんはじけています。こんなに楽しい団員紹介のページは他に知りません。



なお嬉しいことに、このブックレットはPDFファイルにて読響サイトからダウンロード出来ます。

「読響ブックレット2012」(PDF)

また各公演会場でも無料配布しているそうです。是非お手にとってご覧ください。
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「アメリカン・バレエ・シアター」(ABT)記者会見

世界のスターダンサーがずらりと勢ぞろいします。アメリカン・バレエ・シアター(ABT)記者会見に参加してきました。



21日のオープニングガラを皮切りに、約3年ぶりとなる日本ツアーを始めるABTですが、公演に先立っての20日、都内のホテルにて記者会見が行われました。



冒頭、芸術監督のケヴィン・マッケンジーより、自身も8回目である来日を果たせて嬉しく思うこと、またこの困難な日本の状況の中でも人々に希望を届けたいとの挨拶があった上で、出席のダンサーより本公演にあたっての意気込みが語られました。

ここで多く語られたのは、ダンサーの日本に対する深い共感の思いです。ジュリー・ケントは昨日の午後、ホテルに到着した際に日本に来たのではなく帰って来たと思ったことを話し、ABTを退団することになるホセ・カレーニョも今回の公演は特に力が入っていると述べました。



また唯一の日本人ダンサーで、今回主演を果たす加治屋百合子の発言にも注目が集まりました。

加治屋は震災の様子をNYでテレビで見て本当に心が傷んだとした上で、その中でも日本人として出来ることは何かということを考えて、アメリカのパワーを日本に持ってくるつもりで公演にのぞみたいという力強いメッセージを発しました。

またパロマ・ヘレーラは最初のツアーが16歳の時の日本公演であったこと、さらにABTとは初めての来日となるダニール・シムキンも日本に来たのは8回目だが、人々に喜びを与えるような舞台をABTとつくりたいと語りました。



その後は質疑応答となり記者とダンサーとの活発なやりとりがありました。その様子の一部を抜き出してみます。

Q 2008年にスペインでコレーラは自身のカンパニーを設立したが、その活動とABTをどう両立させていくのか。

A(コレーラ) いつも未来を考えて動くようにしている。実はスペインには20年近くもクラシックのカンパニーがなかった。その中で自分が立ち上げたカンパニーをさらに軌道にのせていきたい。実は前回来日出来なかったのは、そのカンパニーの準備もあったからだが、将来的には母国のスペインで活動したいと思っている。

Q 今回の公演にあるような古典的な演目に対してABTはどのように持ち味を発揮していくのか。

A(マッケンジー監督) ABTのダンサーほど演技力に長けていることはない。一人一人のダンサーの才能で勝負していく。ドン・キホーテはアメリカらしいエネルギーに溢れた舞台だ。その辺も楽しんでいただきたい。

Q 最後のシーズンとしての意気込みは。

A(カレーニョ) 実は今とてもよい気分だ。(笑)プロのダンサーとして25年やってきたが、そろそろ他のことも考えないといけないと思っている。一歩先へと進みたい。

Q 初主役としての心意気は。

A(加治屋) 一言でいうのは難しいが、ともかく心はとても高まっている。ABTの看板演目で主役をはるのがいかに重要なことかも良く理解している。素晴らしいメンバーの中で私なりの演技、加治屋百合子としての演技を是非みて欲しい。



またその他にも、近年制作が少なくなっている全幕ものの新作にも10年越しで取り組むということなどがマッケンジー監督より話されました。



一通りの会見が終わったのちはフォトセッションとなり、その後散会となりました。

それでは改めてABTの日本ツアーの情報です。



アメリカン・バレエ・シアター 2011来日公演

オープニング・ガラ     7/21(木) 18:30
スペシャル!ドン・キホーテ 7/22(金) 18:30
クロージング・ガラ     7/29(金) 18:30
ドン・キホーテ       7/23(土) 13:00/18:00、7/24(日) 13:00/18:00
ロミオとジュリエット    7/26(火) 18:30、7/27(水) 18:30、7/28(木) 18:30


一部公演についてはチケットにも余裕があります。また本公演の公式アカウントでは、リアルタイムでの情報も更新されています。

@ja_ballet(ジャパン・アーツバレエ専用ツイッター)

また公式ブログではこの記者会見の模様が詳細にまとめられています。そちらも合わせてご覧下さい。

会見レポート[アメリカン・バレエ・シアター(ABT)]

公演を待ち望んでいた方も多いのではないでしょうか。世界最高峰もうたわれるABTのステージはいよいよ21日より開幕です。
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「メトロポリタン・オペラ公開ゲネプロ」 東京文化会館

本日より東京公演がスタートしたメトロポリタン・オペラですが、先日参加した記者会見に引き続き、最終リハーサルのゲネプロを見学してきました。

メトロポリタン・オペラ来日記者会見(拙ブログ)



演目は「ルチア」です。会場の東京文化会館では舞台装置も設営され、まさにゲネならではの本公演に近い状態での演奏となりました。また出演者は当然ながら本番のメンバーです。公演日でキャストの異なるエドガルド役は、アレクセイ・ドルゴフがつとめました。



演出はメトならではのオーソドックスなものでしたが、照明を効果的に用いての舞台は、どこか絵画空間的だと言えるかもしれません。特に第二幕、「城の大広間」の場面では、中央にシャンデリアを、また右側の窓から差し込む薄い緑色の明かりを交互に照らして、奥行き感のあるステージをつくりだしていました。



さてゲネプロの内容についてですが、まず音楽面、オーケストラは尻上がりに調子をあげていたのではないでしょうか。第一幕ではやや鳴りが弱く、いささか揃わない部分もありましたが、休憩後は一転、メトならではの軽快なリズムをもった美音をホールをいっぱいに満たしていました。



その立役者はもちろん指揮のノセダです。実は私の中でノセダはコンサート指揮者の印象が強く、聞く前は一体どのように「ルチア」を導くのかに関心がありましたが、まさかこれほど巧みにイタリアのリズムを引き出すとは思いませんでした。



ノセダは1幕と2幕の間の休憩後、舞台をあけず、オケだけに指示を与えて、伴奏部分を何度も入念に練習させていました。結果、それ以降、オケの鳴りが良くなりましたが、たたみかけるような指揮ぶりは、「ルチア」の音楽のもつ劇的な面をうまく引き出していたかもしれません。



キャストで強く感心したのはやはり主役のダムラウです。こうした状況下にも関わらず、出産後、赤ちゃんを連れての来日と聞いて思わず胸が熱くなりましたが、透き通るような美声は健在です。ゲネということでセーブしていた面はあるかもしれませんが、特に狂乱の場におけるピアニッシモの芯の強い歌声には身体が震えました。



オペラのゲネにお邪魔したのは初めてでしたが、全体としてかなり詳細に舞台をチェックするのには驚きました。ほぼ通しということで、結果的に演奏がとまったのは2回ほどでしたが、それでも何度も舞台へ指示が飛び、その都度、細かく合唱団やキャストの立ち位置などが変更が行われていました。



ダムラウの赤ちゃんも席に来ていたとのことで、休憩中、家族と指揮のノセダらが記念撮影したりするシーンなどもありました。とてもアットホームな雰囲気でした。

さてルチアの本公演はいよいよ明日、9日より東京文化会館で始まります。この日のゲネを聞く限りでは、かなり期待出来るのではないでしょうか。ダムラウの真に迫るルチアを楽しめそうです。



KDDI オペラスペシャル「メトロポリタン・オペラ(Met)」2011年6月日本公演

・名古屋公演 愛知県芸術劇場大ホール
 「ラ・ボエーム」6/4
 「ドン・カルロ」6/5 
・東京公演
 「ラ・ボエーム」6/8、6/11、6/17、6/19 NHKホール
 「ドン・カルロ」6/10、6/15、6/18 NHKホール
 「ランメルモールのルチア」6/9、6/12、6/16、6/19 東京文化会館
・MET管弦楽団特別コンサート 6/14 サントリーホール


注)会場内の写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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メトロポリタン・オペラ来日記者会見

メトロポリタン・オペラ来日記者会見に参加してきました。

震災、そして原発事故の影響もあり、来日直前にも大幅なキャスト変更を余儀なくされたメトロポリタン・オペラですが、6月6日、都内のホテルにて来日メンバーの記者会見が行われました。



冒頭、ピーター・ゲルブ総裁が、たった今ホテルに300人のメンバーがチェックインしたばかりだと語り、世界から注目されているこの公演をやり遂げなくてはならないとのメッセージを力強く発した上で、指揮のルイージやノセダの他、キャストのフリットリらの出席者を順に紹介していきました。

出席メンバーは主にドンカルロとボエームのキャストでしたが、ゲルブ総裁はルチア役のダムラウが赤ちゃんと母を連れて来日したことをあかし、今公演にかける思いを改めて強調していました。



続いて各出席者からそれぞれ発言がありました。そこで特に強調されたのは震災を受けた日本に対する深い思いです。フリットリは3.11の地震の様子をTVを通して見ていて、胸がとても痛んだと語った上で、被災した日本の人々に少しでも心休めることが出来るような音楽をやっていきたいとの決意を述べました。

また降板したネトレプコの代役を急遽引き受けたエリザベッタ役のポプラフスカヤもフリットリと同様、震災の様子を報道で追っていたとし、代役を告げられて4日後に飛行機に飛び乗ったほど急な話ではあったもの、それでも日本の人にベストの歌を提供したいと語りました。

なお出席者のうち、このポプラフスカヤとリーは初来日だそうです。自らがキリスト教徒であることをあかしたリーは、震災後も毎日仲間と祈りを捧げていたとの話を語りました。

その後の質疑応答ではさらに突っ込んだ話がありました。以下、その様子を一部まとめてみます。



Q 震災により紆余曲折あったと思うが、色々悩んだことや、来日に際してのメッセージを改めて聞きたい。

ゲルブ 決断はシンプル。5年に一度の来日はやめてはならないということ。メンバーに東京も名古屋も安全であることを伝えたが、その思いを皆で共有するのは確かに大変だった。キャストの変更があっても来日は正しかったと思っている。被災した日本の方に普段の、そして文化的な生活を取り戻して欲しい。外国のメディアは原発事故の報道で混乱している。色々な情報が錯綜したこともあって、ためらったメンバーも多かった。しかし自分たちが来ることで、他の人達に日本は安全であることを伝えたかった。

Q こういう状況下でどのような音楽をやっていこうと思うのか。その決意は。

ルイージ この時期だからこそ精神的、そして芸術的な支援が必要。私たちは全ての人々を幸せにすることは出来ないが、音楽は何か心の糧になるのではないか。震災後も日本の友人たちからたくさんの温かいメッセージをいただいた。その期待に応えたい。

ノセダ 私が首席指揮者をつとめるBBC交響楽団は震災時、日本ツアーの最中だった。残念ながらすぐに引き上げてしまったが、彼らからこの震災の大変な状況を色々と聞いてきた。その中で私が出来ることが何かと考えた時、やはり指揮で音楽を伝え、偉大な作曲家たちの残した希望や愛のメッセージを伝えることだと思った。それを成し遂げたい。

Q 代役にたった二人のソリストの意気込みを聞きたい。

ポプラフスカヤ 突然の話で驚いたが、自分の中でベストを尽くすつもり。

リー 実は自分がオペラにデビューしたのがドン・カルロの演目だった。そして今回が初めての来日だか、日本デビューもドン・カルロ。運命的なものを感じる。頑張りたい。

Q 役柄の変更についてどうか。

フリットリ オペラというのは公演前に入念に練習をしなくてはいけない。私も一ヶ月前からエリザベッタをずっと練習してきた。しかし今回は飛行機で日本へ着いてからの役柄の変更を告げられて正直かなり驚いている。結局一晩、といっても2時間だか寝た後、すぐに引き受けた。もちろん正しい選択だと思っている。何故ならこのツアーは絶対に実現しなくてはいかないから。ミミは一ヶ月前に歌ったこともあったので大丈夫。



その他、出席メンバーの多いドン・カルロの音楽面についての質問などがあった上で記念撮影となり、記者発表は散会となりました。なお発表会の様子はustreamのアーカイブで動画を見ることが出来ます。あわせてご覧ください。

MET来日記者会見 06/05/11@ustream

ともかくこの質疑応答にもありますが、ゲルブ総裁以下、メンバーの方々の本公演にかける気迫をひしひしと伝わってくる内容でした。メンバーは終始にこやかで、会も和気あいあいとしたものでしたが、その内側に秘められた気迫、そして熱い思いを感じてなりません。



この後、東京文化会館へ移動し、ルチアの公開ゲネプロを拝見してきました。そちらは別記事でまとめます。*6/8追記:以下リンク先に掲載しました。

「メトロポリタン・オペラ公開ゲネプロ」 東京文化会館(拙ブログ)



KDDI オペラスペシャル「メトロポリタン・オペラ(Met)」2011年6月日本公演

・名古屋公演 愛知県芸術劇場大ホール
 「ラ・ボエーム」6/4
 「ドン・カルロ」6/5 
・東京公演
 「ラ・ボエーム」6/8、6/11、6/17、6/19 NHKホール
 「ドン・カルロ」6/10、6/15、6/18 NHKホール
 「ランメルモールのルチア」6/9、6/12、6/16、6/19 東京文化会館
・MET管弦楽団特別コンサート 6/14 サントリーホール
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「メトロポリタン・オペラ(MET)」日本公演、いよいよ開催!

世界最高峰とも呼ばれるアメリカのメトロポリタンオペラが、もう間もなく、この6月に5年ぶりの来日を果たします。メトと言えば豪華なキャストに絢爛な舞台を誇るオペラの殿堂としてご存知の方も多いのではないでしょうか。



KDDI オペラスペシャル「メトロポリタン・オペラ(Met)」2011年6月日本公演

・名古屋公演 愛知県芸術劇場大ホール
 「ラ・ボエーム」6/4
 「ドン・カルロ」6/5 
・東京公演
 「ラ・ボエーム」6/8、6/11、6/17、6/19 NHKホール
 「ドン・カルロ」6/10、6/15、6/18 NHKホール
 「ランメルモールのルチア」6/9、6/12、6/16、6/19 東京文化会館
・MET管弦楽団特別コンサート 6/14 サントリーホール




プッチーニ、ヴェルディ、そしてドニゼッティとイタリアもの王道3作を引っさげての来日です。震災の影響等により一部出演者に変更、及び体調不良により音楽監督のレヴァインがキャンセルとなりましたが、それでも遜色ないメンバーでの公演となりました。


ドン・カルロ(第三幕) Ken Howard

中でもレヴァインの代役として登場した指揮のルイージには大注目です。ルイージは近年、ドレスデン国立歌劇場の音楽監督をつとめ、現在もMETの首席客演指揮者、また2012年からはチューリッヒ歌劇場音楽総監督にも就任が予定されていますが、私見からすればイタリア人指揮者で今、最も魅力的なオペラ指揮者と言えるのではないでしょうか。

そのルイージがMETという超実力派の歌劇団を指揮します。かつて私自身、新国立劇場で彼の振るパリアッチとカヴァレリアのあまりにも美しいカンタービレに涙したことがありますが、今回もルイージの登場するボエームとドン・カルロは音楽面でも非常に期待が持てる内容となりそうです。

キャストではお馴染みのソプラノ二名、MET常連のフリットリ、そして人気のネトレプコを挙げないわけにはいきません。

5/31追記:原発事故の影響によりキャストがさらに変更となりました。ネトレプコは降板です。

メトロポリタン・オペラ出演者変更のお知らせ

また残念ながら欧州の公演で定評のあるカウフマンは降板となってしまいましたが、それでも二度目の来日となるバリトンのホロストフスキーらにも注目が集まるのではないでしょうか。


ラ・ボエームより Marty Sohl

震災の影響により各種公演そのものが中止される中、このMETの来日は音楽シーンにとって大きな話題となるに違いありません。本公演にあわせ、MET総裁で、オペラの改革者としても名高いピーター・ゲルブも力強いメッセージを発しています。

メトロポリタン・オペラ総裁 ピーター・ゲルブ氏のメッセージ(観光庁WEBサイトより)

なお先行する名古屋公演にあわせて、既に名古屋へは歌劇団のメンバーが到着しているそうです。最新情報は主催のジャパンアーツによるブログ、ツイッターでも更新されています。そちらもあわせてご覧ください。

オペラブログ @met_japan(ツイッターアカウント)

またN響でも親しみのあるノセダに関心のある方も多いのではないでしょうか。日本ではコンサート物が多いノセダですが、マリインスキーでゲルギエフに師事した経歴でもよく知られています。意外にも表情を巧みに変化させる繊細な指揮ぶりが印象深いだけに、ルチアというドニゼッティの中でもとりわけ細やかな音楽のついた作品の指揮ぶりにも大いに注目したいところです。


ランメルモールのルチアより Ken Howard

今月号のモーストリー・クラシックでMETが特集されています。同WEBサイト上では一部、内容の「立ち読み」が可能です。こちらも公演までしばらく楽しめるのではないでしょうか。

「MOSTLY CLASSIC/07月号」

公演の詳細、またチケット情報については改めて日本公演の公式サイトでご確認下さい。E、F席については全て完売していますが、それ以上のランクの券種ではまだ比較的チケットにも余裕があるそうです。

KDDI オペラスペシャル「メトロポリタン・オペラ(Met)」日本公演



METと言えば最近評価の高い映画館でのライブビューイングをはじめ、ネット上でもラジオ放送など、より身近な場所での活動も光っています。それを踏まえての5年ぶりの来日公演、また深化した舞台を楽しませてくれそうです。
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「新日本フィルハーモニー交響楽団 2011/2012シーズン記者発表会」

新日本フィルハーモニー交響楽団2011/2012シーズン記者発表会に参加してきました。

通常、記者発表はプレス関係者のみが対象となりますが、同オーケストラでは事前にブロガーなどを公募し、一般もモニターとして参加することが出来ます。今回、そちらに申込み、この日の発表会にお邪魔させていただました。


会場のすみだトリフォニーホール・大ホール。

なお発表会に先立ち、ブリュッヘンによる進行中のベートーヴェンプロジェクトの公開リハーサルも拝見しましたが、そちらは別途記事にするとして、本エントリでは記者発表の部分をまとめてみます。 (敬省略)

記者発表会登壇者

新日本フィルハーモニー交響楽団
 事業部長:安江正也
 ソロコンサートマスター:崔文殊
 指揮者:フランス・ブリュッヘン(通訳:久野理恵子)
 音楽監督:クリスティアン・アルミンク(通訳:藤原順子)
 専務理事:横山邦雄

すみだトリフォニーホール
 常務理事:織田雄二郎
 ゼネラルプロデューサー:西田透



記者会見ステージ。右から上記の登壇者の順に並びました。

冒頭、音楽監督のクリスティアン・アルミンクによる挨拶があった後、事業部長の安江正也より同プロジェクト実現についての簡単な説明がありました。

新日本フィルハーモニー交響楽団事業部長:安江正也

ブリュッヘンとは2年前にハイドンのプロジェクトでオーケストラとの共演があった。その時もブリュッヘンから申し出があって企画されたわけだが、今回のベートーヴェンもブリュッヘンから直接オーケストラに話があって実現した。事務方としては直接ブリュッヘンからオケに話がいったと聞いて驚いたが、逆に両者がそこまで親密な関係にあったのかと思うと嬉しかった。

引き続き音楽監督のフランス・ブリュッヘンが今回のプロジェクトについてコメントしました。


音楽について語るフランス・ブリュッヘン。

新日本フィルハーモニー交響楽団指揮者:フランス・ブリュッヘン

今回のプロジェクトではベートーヴェンの交響曲を1日目に1、2、3番、2日目に4と5番、3日目に6と7番、4日目に8と9番のように番号順に演奏する。その一方でリハーサルは9番から始めて1番にさかのぼる形をとる。つまり演奏会直前に1番のリハーサルを行い、その後すぐに本番で同じ曲を演奏するわけだ。このチクルスの有り様は自分がハイドンをやっていた時に思いついた。

ベートーヴェンはハイドンの後継者である。実際にベートーヴェンはハイドンにレッスンを受けていた記録もあり、彼がハイドンを尊敬していたのは間違いないだろう。

興味深いのはベートーヴェンが第1番を書いたのは30歳になってからということだ。それは何故かと言うとハイドンが恐かったからに他ならない。つまりハイドンは交響曲の父と呼ばれていて、ベートーヴェンはその後に連なる音楽を書くことに躊躇した。これはブラームスの第1番の完成に時間がかかったことにも共通する。ベートーヴェンの音楽の存在を畏怖していたブラームスはかなり時間をおいてから交響曲の制作に着手した。

ベートーヴェンが第1番を書いたのは1800年、9番に辿り着いたのは1824年である。彼の交響曲には興味深いパターンがある。第1番はハイドンの音楽を発展させた大きな一歩であり2番はやや後退、3番でまた飛躍し4番は後退、そして5番でさらに発展し6で後ろ向きに、7は前進、8は後退、最後の9番で偉大な前進を遂げるという構図だ。

ハイドンとベートーヴェンには共通点がある。それは音楽を作曲する上で音楽以外の部分からインスピレーションを得ているということだ。ベートーヴェンにはシェイクスピアやラテン語の蔵書があった。そして決して彼自身が語ったわけではないものの、各交響曲にはそれぞれ音楽の背景の本質的な何かが隠されている。

1番と2番はハイドンの要素、3番はナポレオン的ヒロイズム、5番は高らかな自由への希望、6番は自然への共感、7番は戦いのシンフォニーでナポレオンの戦争で犠牲となった多くの農民への哀悼の念もこめられている。そして8番は1楽章のゲーテの引用や2楽章のメトロノームなど様々な要素が見られ、9番はまさにシラーを通しての人類讃歌が述べられている。但し4番は不明だ。(笑)

続いて安江氏より今回のプロジェクトはオーケストラ単独ではなくホールと共同の企画であることが紹介され、ホール側とオケ側の双方の事務方からそれぞれプロジェクトに関してのコメントがありました。

すみだトリフォニーホール常務理事:織田雄二郎

本ホールは開館時から新日本フィルとフランチャイズ契約を結んでいる。その特性を活かし、より高い芸術性を追及するプロジェクトであればと考えている。今回も4日の本公演とそのリハーサルの日程も全て確保した。そういう姿勢も見ていただきたい。

新日本フィルハーモニー交響楽団専務理事:横山邦雄

来年は新日フィルがホールとフランチャイズ契約を結んでから15周年を迎える。しかもホール界隈ではスカイツリーが完成するなど華やいだ一年になることも予想される。

本公演とリハーサルを同じ施設で行うことはオーケストラにとって重要である。今回のようなプロジェクトもホールとの信頼関係がないとなかなか実現しない。今でこそホールとオーケストラがフランチャイズの関係にあることは珍しくないかもしれないが、我々はその先取りをいっていると自負している。


ホール内にディスプレイされた舟越桂の「冬のソナタ」。

ここで一端、このプロジェクトに関する質疑応答が行われ、一部ベートーヴェンの音楽に関する細かな議論がなされました。

質疑応答

Q ブリュッヘンに聞きたい。今日のリハーサルでは9番よりも8番の方が小さな編成だったようだが、曲毎に規模を変えることについてはどのような考えに基づいているのか。例えば当時の記録によればベートーヴェンの交響曲のうち、9番を除けば4番が最小の編成、そして8番が最大だとされている。

A(ブリュッヘン) ベートーヴェンの初演時の情報は残っていて、オーケストラの編成についても理解しているが、その上下は当時の演奏の際の予算やホールの特性で変わった面が大きい。

8番までの編成を平均すると、例えばバイオリンがそれぞれ10と10、チェロ4、コントラバス8名などということがわかっている。
そして何故コントラバスが8名もいたのかというと、しっかりした低音を出すことが重要なのと、当時のオーケストラがアマチュア主体でありまた楽器も未成熟だったため、大きな音を出すには物理的にたくさんの奏者がいなくてはならないからだった。もちろんオーケストラの要はティンパニとコントラバスであるのは言うまでもない。

Q 崔に聞きたい。ブリュッヘンとの共演を通して様々な知見を受けたと思うが、それは具体的には何か。またそれを新日本フィルだけでなく、国内の他のオーケストラとも共有出来ないだろうか。

A(崔) 最初にブリュッヘンと共演したのはシューマンの2番。それはもう生涯忘れられない刺激的な演奏だった。 元々ブリュッヘンなファンで、彼のリコーダーの演奏も何度も聞いたが、今回改めて共演出来ることの喜びを味わうとともに、その音楽性を一層吸収したいと思っている。

具体的にはフレージングやアーティキュレーションの問題、そしてベートーヴェンの音楽では何かと問題になる速度表記に対して、ブリュッヘンの回答は常に明確だった。

ブリュッヘンと共演すると何回弾いた曲でも常に新しいものが得られる。また他のオーケストラとの関係についてだが、自分は大阪でも活動しているのでそこでメンバーに色々経験を話したりしている。もっと具体的な交流となると難しいかもしれないが…。

ここでブリュッヘンから彼は最高の演奏家だと拍手を求める発言があり、また逆に崔よってブリュッヘンに次のプロジェクトを促す場面がありました。そこでブリュッヘンは「ベートーヴェンプロジェクトは前回のハイドンの時に思い付いたが、今次を考えるには年を取りすぎている。」とした上で、「シューベルトは好き。」というの旨の発言で会場をわかせました。

そして引き続き最近の新日本フィルの音の変化などについての質問がありました。

質疑応答

Q ブリュッヘンのハイドンプロジェクトで新日本フィルの音が変わったという印象を受けている。それはアルミンクが築いた基礎の上にブリュッヘンが何かを入れたということなのか。 今回2年ぶりの共演だが、その間に双方で変わったことがあるかを聞きたい。

A(ブリュッヘン) 新日本フィルは素晴らしいオーケストラで記憶力がいい。2年という時は流れたが、その間はアルミンクがいたので何ら心配はしていない。今回も期待している。いつも共演は嬉しい。

A(崔) 次はシューベルトも良いね。(笑) さて共演に関しては、回を重ねることで自分たちの音の引き出しが増えている印象がある。よい部分は変わらないようにし、常に例え0.5ミリでも更なる前進を心掛けたい。

さてここでリハーサルから休憩を挟んで出演し続けたブリュッヘンは退席しました。なおベートーヴェンプロジェクトのスケジュールは以下の通りです。



フランス・ブリュッヘン・プロデュース「ベートーヴェン・プロジェクト」

第1回 2月8日(火) 交響曲第1番・第2番・第3番
第2回 2月11日(金) 交響曲第4番・第5番
第3回 2月16日(水) 交響曲第6番・第7番
第4回 2月19日(土) 交響曲第8番・第9番


また現在、ブリュッヘンとオーケストラによるリハーサルが進行中ですが、その様子は同団のツイッターアカウントなどでも広報されています。あわせてご覧ください。

@newjapanphil

続いてアルミンクが次の2011/2012シーズンについての意気込みを語りました。


次シーズンについて語るアルミンク。

新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督:クリスティアン・アルミンク

来シーズンの主役はオーケストラ。新日本フィルのメモリアルイヤーでもあるので、オーケストラにスポットを当てたい。
客演指揮者はお馴染みの顔ぶれでハーディングも数回来日する予定だ。
また前日初めて共演したメッツマッハーの他、ジャン=クリストフ・スピノジも再演する。そして初登場は北欧のトーマス・ダウスゴー。彼は私が招きたいと思っていた指揮者の一人だ。

そして公演のハイライトとしていくつかのプログラムについて、同じくアルミンクより簡単なコメントがありました。

新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督:クリスティアン・アルミンク

これまでマーラーの10曲の交響曲を取り上げてきたので、それと対になる形でのブルックナーを演奏したい。
2年前もシュミットを演奏、さらには録音を行ったが、今回は交響曲第2番を取り上げる。
マーラーの「嘆きの歌」を演奏する。この曲は彼が20歳の頃に書いた作品だが、後の交響曲のエッセンスが全てつまっている。あまり上演頻度が高くないのはともかく演奏が難しいから。オケも合唱も大編成でかつバンダも必要。それにソプラノやアルト以外にも、ボーイアルトなどの少年の歌い手が必要。しっかり取り組むつもりだ。
メッツマッハーの振る10月のサントリー公演は大変興味深い。知的なプログラムで政治的な色合いの濃い作品を並べたのはいかにも彼らしいではないか。レオノーレでは自由解放を、アイヴズの「ニューイングランドの三つの場所」ではアメリカにとっての理想などを読み取り、最後に言うまでもなく政治的な作品であるショスタコーヴィチの第5番を取り上げている。
ティエリー・エスケシュの「ヴァイオリン協奏曲」を日本初演する。彼はフランス屈指のオルガニストとして知られているが、作曲家としての知名度は低い。この曲も極めて難しいが、オーケストラに色を与えることが出来る。

ここで共演予定のメッツマッハーのコメントが映像で紹介された後、最後の質疑応答が簡単に行われました。


ビデオ出演するインゴ・メッツマッハー。

そこで印象深かったのはハーディングがメッツマッハーと長い関係を築きたいと願っていることや、事務局として経営環境が厳しい中、アルミンクにもそうした状況を説明してこうしたプログラムを考えていることなどでした。



以上です。全110分程度という長丁場でしたが、半分司会をつとめながらも質問に丁寧にこたえるアルミンクはもちろん、時に熱い口調で語るブリュッヘンの真摯な音楽に対する姿勢などがとても印象的でした。

なおこの発表会の詳細な内容については既に同オーケストラのWEBサイトでも公開されています。

記者発表会リポート(1):Beethoven Project
記者発表会リポート(2):2011-2012シーズン定期演奏会


また新シリーズのプログラムについてもPDFにて告知されています。

2011/2012シーズン詳細決定!

最後になりましたが、このような貴重な機会を与えて下さった新日本フィルハーモニー交響楽団の方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。
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読売日本交響楽団2011年シーズン発表記者会見

読売日本交響楽団2011-2012シーズン記者発表会(11/22開催)に参加してきました。



既に来シーズンのプログラムは同楽団WEBサイトでも告知されていますが、先日改めて常任指揮者のカンブルランと正指揮者の下野が同席した上で、その概要などが発表されました。

2011年度公演スケジュール@読売日本交響楽団(pdfパンフレット

まず初めに読響を代表し、同楽団の理事長である横田弘幸氏の挨拶が行われました。

~理事長 横田弘幸~


挨拶する同楽団理事長の横田弘幸。通訳を挟んで右はカンブルラン。

2012年に創設50周年を迎えるオーケストラ。
日本におけるクラシックの普及と発展に尽力してきたと自負している。
現在もカンブルランと下野の両巨頭を迎えて意欲的に活動している。
来年は楽団の「プレ50周年」ともいえる年。日本にクラシック音楽を普及させるという原点にたち戻り、日本人の生活の中にもっとクラシックを取り込んでいこうという活動をさらに進めていきたい。

続いて同楽団事務局長の坂田氏により、来シーズンの大まかな概要などについての簡単な説明がありました。

~事務局長 坂田誠一郎~


プログラムについて説明する事務局長坂田誠一郎。

来シーズンは常任指揮者にカンブルランが就任してから2年目の年。また下野も2006年に正指揮者に就任して今年で4年。読響の顔である。
来年は芸術劇場が改修工事に入るため、名曲シリーズとマチネーは初台の東京オペラシティコンサートホールに移る。工事は2012年に終了する予定だが、元に戻る時期などは今検討している段階だ。

[定期演奏会]
カンブルランは4月と9月と11月の公演に登場。テーマは「ロミオとジュリエット」。
5月にはチェコ・フィルで活躍したマーツァルが読響に初共演する。
7月には下野がヒンデミットの珍しい曲とともにブルックナーを披露。下野が東京でブルックナーを振るのは初めてである。
10月は團伊玖磨の没後50年に際し、彼の交響曲第6番を演奏する。
3月にはスクロヴァチェフスキが来日。その年の5月にベルリンフィルでも指揮予定のブルックナーの交響曲第3番を演奏する。

[サントリーホール名曲シリーズ]
4月のカンブルランはチェコでまとめたプログラム。モーツァルトの「プラハ」に始まり「モルダウ」からヤナーチェクへ至るプログラムを演奏する。
6月のカリニャーニによるモーツァルトのレクイエムは、新国立劇場のコジ・ファン・トゥッテに出演予定のキャストで臨む。
12月の恒例第9公演は全部で6公演を予定。指揮は全て下野が担当する。

[オペラシティ名曲シリーズ]
サントリーの名曲シリーズと違うのは7月と10月。
7月は下野が定期公演と同じブルックナーを演奏。曲は第4番「ロマンチック」。
10月は昨年5月の読響との共演が好評だったオラリー・エルツが指揮。シベリウス国際コンクールで優勝した俊英に期待したい。

[オペラシティ・マチネーシリーズ]
9月のカンブルランが「幻想交響曲」を振り、また11月にはドイツものの王道とも言えるシューベルト、ワーグナー、R.シュトラウスを披露する。
また1月には下野がドヴォルザークシリーズから大曲の新世界を振る。
2月のヴァンスカの悲愴と3月のスクロヴァチェフスキの第4番という、チャイコフスキー対決にも注目してほしい。

[みなとみらいホリデー名曲シリーズ]
2005年から始まったシリーズ。本格的なプログラムをファミリーでも楽しんでほしい。
注目してほしいのは10月公演。定期同様に下野が團伊玖磨の交響曲第6番を披露する。これは団が神奈川と所縁があることから組まれたプログラムだ。

一通りの説明の後、常任指揮者のカンブルランより自身のプログラムにかける意気込みなどが語られました。

~常任指揮者 シルヴァン・カンブルラン~


常任指揮者カンブルラン。身振り手振りを交えてのトークでした。

プログラム全体の大きなテーマは「ロミオとジュリエット」。大勢の人が取り上げで様々な愛と死、そして喜びが表現されている主題だ。
ベルリオーズの「ロミオとジュリエット」は大作。オーケストラや合唱が絡み合い、現代的でロマンチックな音楽が展開される。グランドオペラのようにドラマチックだ。
プロコフィエフとラヴェルのプロを予定している。プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」については華やかで、悲しみだけでなく明るさも感じられる音楽だ。またラヴェルは私のようなフランス人にとっては重要なレパートリー。特に今回の「ボレロ」はオーケストラにとっても意味深い音楽で、団員一人一人の真剣な取り組みが要求される。ドラマチックな演奏にしたい。
チャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」と一緒に演奏するのは悲愴。実はチャイコフスキーは滅多にやらないがこの悲愴は好きな音楽だ。
チェコプロは興味深い演奏になるはず。チェコへ一種のオマージュである「プラハ」をはじめ、オーケストラにとっては難曲でもあるヤナーチェクを効果的に演奏したい。
ベートーヴェンは音楽の核心だ。指揮をする全ての人間に喜びを与えている。また彼の音楽は常に今の人間に語りかけている。演奏することは常に新しく、また発見のあることだ。
ドビュッシーやワーグナーのプロは「海」をテーマにしている。メンデルスゾーンの海は嵐をも示し、ワーグナーも海の情景をエキサイティングに描いた。一方でドビュッシーやショーソンは静かで透明感の海を表していると言えるだろう。
モーツァルトのプログラムは常に古きよき友人に再会するつもりで演奏している。
ドイツプロにも力が入る。マイスタージンガーについては唯一、笑いの要素がある彼の作品であるかもしれない。R.シュトラウスのティルはオーケストラの能力を高める上でも重要。楽しい音楽なので私自身も楽しんで指揮をしたい。

カンブルランは時に通訳の方がストップをかけなくてはならないほど熱のこもった様子で音楽に対する思いを話していました。

そして引き続き、正指揮者の下野からも同じくプログラムに対するコメントがありました。

~正指揮者 下野竜也~


下野竜也。

継続してやっているヒンデミットは難曲だが、演奏する毎にオーケストラの方からため息が減っているのは嬉しい。(笑)
ヒンデミットの「さまよえるオランダ人への序曲」は私が組んだ弦楽合奏版で演奏する。楽しみだ。
ヒンデミットとあわせて取り上げているドヴォルザークは昨年、1番と4番を演奏してマニアックと言われたので、来シーズンは5番や9番をやりたい。ちなみに3番と9番を並べたのはサンキューという意味だ。(笑)
日本人として邦人作品を積極的に演奏していきたいと思っている。昨年は黛先生と取り上げたが今度は團先生だ。
恒例の第9の話をカンブルランにしたら「GOOD LUCK!」といわれた。


カンブルランと下野の両指揮者。

冷静な語り口ながらも終始、冗談を交えてのにこやかな会見となりました。
最後にカンブルラン、下野両氏も同席した上で、質疑応答が行われました。こちらも興味深い内容であったのでまとめておきます。

~質疑応答~

Q 入場料について。最近ネットなどで一回券を買う若者も多いと聞くが、読響はシーズン券と一回券の値段の差が大きすぎるのではないか?一年を通してコンサートに通いつめるのは大変だ。
A(坂田) シーズン料金が設定された詳しい意図についてはわからないが、やはり長期間通っていただきたいという思いで安いシーズン料金を設定している。変更についても検討はしていきたい。

Q 創立以来、音楽監督をおいていないが導入する意図は?
A(坂田) 音楽監督をおこうという考えはない。今の通り常任、正指揮者の体制でいく。

Q 團伊玖磨の「広島」とアダムスのドクター・シンフォニーをプログラムした意図は?
A(下野) 演奏する前にあれこれ自分の心情を話すのは危険なのでなるべく避けたいと常に思っている。これも作品を聞いてから色々考えて下さいという他ないが、特に若い人たちが音楽を通して、昨今の日本の置かれた状況や先人たちが残した課題などについて色々頭を働かせる良い機会になるのではないかと思った。広島とアダムスを組み合わせることで、日本からの視点と外国からの視点の違いなども見えてくるかもしれない。たまには演奏会でそうしたことを考えるのも良いと思う。

Q 世界中で様々なオケを指揮してきた中で、今読響に携わっているのはどういう理由なのか。また日本の聴衆とは?
A(カンブルラン) ドイツでもフランスでも日本でも指揮や音楽は同じだ。目の前にあるのは音楽、楽譜であって、それに違いなどない。
日本の聴衆はとてもポジティブに音楽に接してくれる。演奏でも集中しているのがよくわかる。日本人は音楽を聞きにコンサートへ来ているが、それが違う国もある。世界で最悪の聴衆なのはパリだ。(笑)

Q 例えば演劇など他のジャンルとのコラボレーションなどは行わないのか。
A(カンブルラン) もちろんそれは重要だ。ただ本質的に劇場とコンサートの人間は違うと思っている。また今の私は主に交響曲をレパートリーにしている。またオペラ公演については日本とフランスでシステムが異なる。私は7週間程度のリハーサルが必要で公演も8~9日ほどは続けるべきだと思うが、日本でそれをするのは難しい。

Q 今年はマーラーイヤーということで、在京の各オーケストラはさかんにマーラーを演奏している。しかし読響はコンサートマスターにマーラーに造詣の深いデヴィッド・ノーランを迎え入れているにも関わらず、あまりレパートリーにのらない。何故なのか。もっと演奏すべきだ。
A(坂田)決してマーラーを避けているわけではなく、結果的になったと言うしかない。次のシーズンでもテーマにロミオとジュリエット、そしてヒンデミットなどの設定があってプログラムが決まった。
A(カンブルラン) アニバーサリーイヤーは常々やってくる。マーラーの前はメシアンがあってそれは楽しかった。でもその時にメシアンをやり過ぎたのか今は誰も聞きたがらない。(笑)何度も重ねて演奏するとそういう状況に陥る。それはなるべく避けたい。

以上です。この後、カンブルランと下野の記念撮影の他、懇親会などが続いて約1時間半ほどの記者会見は散会となりました。


発表会後、撮影に応じる横田、カンブルラン、下野の三氏。

なお読響でこうした新シーズンプログラムの発表会があったのは過去にあまり例がないそうです。私自身、普段なかなか接点のない指揮者の方々の音楽にかける思いを拝聴出来てとても収穫になりました。もし可能であれば、ファンの方などを招待してのさらに間口の広がった発表会などあればより面白くなるかもしれません。



何年か前、読響の演奏会でカンブルランによるトゥーランガリラ交響曲を聞いて非常に感銘を受けたことがありました。(上のちらしは当時のものです。)その後、彼が常任に就任すると聞いてとても嬉しくなりましたが、下野氏他、ミスターSやヴァンスカらも交えた実力派揃いの指揮陣の登場する読響から目が離せそうもありません。


発表会会場の東京芸術劇場。

読響の来シーズンにも大いに期待したいと思います。
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東京・春・音楽祭 「パルジファル」ネット配信

3月中旬より4月にかけて上野で開催された東京・春・音楽祭ですが、その公演の録音が同音楽祭サイト上にて無料で配信されています。



東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.1 《パルジファル》(試聴はリンク先へ。)

指揮:ウルフ・シルマー
パルジファル:ブルクハルト・フリッツ
クンドリ:ミヒャエラ・シュスター
アムフォルタス:フランツ・グルントヘーバー
グルネマンツ:ペーター・ローズ
クリングゾル:シム・インスン
ティトゥレル:小鉄和広
聖杯騎士:渡邉澄晃、山下浩司
侍童:岩田真奈、小林由佳、片寄純也、加藤太朗
魔法の乙女たち:藤田美奈子、坂井田真実子、田村由貴絵、中島寿美枝、渡邊 史、吉田 静
アルトの声:富岡明子
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ
音楽コーチ:イェンドリック・シュプリンガー (キャストは同音楽祭WEBサイトより転載)

如何せん長丁場の作品でもあるので、まだ最後まで聴き通せていませんが、ともかく印象的だったのは、指揮のシルマーによる生気漲る音楽作りでした。やもすると遅々として進まない、ドロドロとした音楽になりがち(もちろんそれが魅力でもありますが。)のパルジファルを、シルマーは非常に透明感のある響きを保ちながら、中だるみすることなく、快活に演奏することに成功しています。縦の線を揃えつつも、深い呼吸感に支えられたワーグナーは、聴いていて言わばもたれてしまうことがありません。集中力がありました。

なお同音楽祭ではこの「パルジファル」以外にも、いくつかの公演の様子を動画にて配信しています。いずれも無料なので試してみては如何でしょうか。さすがにハイライトの「カルミナ」はないようですが、そちらにも期待してしまいます。

東京・春・音楽祭 動画

なお音楽祭のツィッターによると配信期限は6月10日までのようです。

tokyo_harusai(twitter)

お聞き逃しなきようおすすめします。
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ウェブラジオでプロムス2009を聞く

先日、バイロイト音楽祭のネット放送が終わったばかりですが、今度はイギリスのBBCより、世界最大のクラシック音楽祭とも言われるプロムスが連日無料で放送されています。楽しまれている方も多いのではないでしょうか。

BBC Proms 2009(公式HP)



公演は全て生で放送されていますが、時差があるため、やはり有用なのは配信日より一週間限定のオンデマンドです。連日プログラムが進行するため、一週間を超えた過去の録音は聞くことが出来ませんが、現在もなかなか興味深い演目が登場しています。以下、メジャーなものから、今聴くことの出来る演奏を挙げてみました。

Proms broadcasts(現在配信中のプログラム一覧。試聴はこちらから。)

Prom 26(8/5) メンデルスゾーン:「交響曲第1番」、「ヴァイオリン協奏曲」他 イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)、ティエリー・フィッシャー指揮BBCウェールズ響 残り数時間で配信は終了します。ファウストの艶やかなヴァイオリンが印象的でした。

Prom 28(8/6) モーツァルト:「ファゴット協奏曲」、マーラー:「交響曲第6番」他 カレン・ジョーヒガン(ファゴット)、ジャアンドレア・ノセダ指揮BBCフィルハーモニック まるでダンスミュージックのようにリズミカルなマーラーでした。最終楽章こそ比較的大人しいものですが、一楽章の快活な様は一見の価値ありです。

Prom 29(8/7) メンデルスゾーン:「交響曲第4番 イタリア」、レスピーギ:「ローマの松」他 ヴィヴィカ・ジュノー(メゾソプラノ)、ジャナンドレア・ノセダ指揮BBCフィルハーモニック

Prom 32(8/9) モーツァルト:「2台ピアノのための協奏曲」、ルトスワフスキ:「パガニーニの主題による変奏曲」、サンサーンス:「動物の謝肉祭」他 サンヤ・ビジャーク(ピアノ)他 ルドヴィク・モルロー指揮ブリテン・シンフォニア 歯切れの良いピアノがモーツァルトを小気味良く奏でます。

Prom 31(8/9) チャイコフスキー:「ピアノ協奏曲第1番」、ルトスワフスキ:「管弦楽のための協奏曲」、レスピーギ:「ローマの祭り」 スティーヴン・ハフ(ピアノ)ヴァシリー・ペトレンコ指揮英国国立ユース管 ハフ&ユース管の飛ばしに飛ばすチャイコンです。出来はともあれ熱気に満ちあふれていました。

Prom 33(8/10) バルトーク:「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」、ストラヴィンスキー:「結婚」他 タチアナ・モロガロワ(ソプラノ)、サイモン・クロフォード・フィリップス(ピアノ)、サム・ウォルトン(打楽器)他 エドワード・ガードナー指揮ロンドン・シンフォニエッタ 確か昨年のLFJでも似たようなプログラムがありました。
 
Prom 34(8/11) チャイコフスキー:「ヴァイオリン協奏曲」、ハチャトゥリアン:「スパルタカス」「ガヤネー」他 ジュリアン・ラクリン(ヴァイオリン)キリル・カラヴィツ指揮ボーンマス交響楽団

なお日本語表記については、海外のクラシック音楽のウェブラジオの番組表を更新されておられるおかかさんのブログから転載させていただきました。そちらにはこの音楽祭以外にも、多数のライブ放送の演目が掲載されています。是非ご覧下さい。

おかか since 1968 Ver.2.0

Poulenc Concerto for Two Pianos Katia and Marielle Labeque BBC SO Jiri Belohlavek Proms 2009 [1/3]


本日以降、直近のプログラムとしてはサリヴァンの喜歌劇の他、ベートーヴェンの第九交響曲なども予定されているそうです。ちなみにプロムス自体の開催は9月中旬までと長丁場です。夏の夜はしばらくこちらで音楽三昧も良いかもしれません。

Prom 35(8/12) サリヴァン:喜歌劇「ペイシェンス」(セミステージ公演) レベッカ・ボットーネ、フェリシティ・パーマー他 チャールズ・マッケラス指揮BBCコンサート・オーケストラ他

Prom 40(8/16) ストラヴィンスキー:オルフェウス、ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」 レベッカ・エヴァンス(ソプラノ)他 イラン・ヴォルコフ指揮BBCスコティッシュ響/バーミンガム市シンフォニー・コーラス

リンクミスなどもあるやもしれません。番組表については最上段リンク先のPromsのページを改めて参照下さい。



また某動画投稿サイトに本年のPromsのコンサート映像がいくつかあがっています。ご参考までにどうぞ。(閲覧はアカウントが必要です。)
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ネットラジオでバイロイト 2009

真夏の音楽イベント、バイロイト音楽祭が開幕しました。今年もいつものように世界各地のネットラジオにてリアルタイムで楽しむことが出来ます。まずは昨日、日本時間の深夜に始まった「トリスタンとイゾルデ」を少し聴いてみました。



バイロイト音楽祭2009 開幕は25日深夜@オペラキャストバイロイト音楽祭特設ページ



スケジュール(全て生中継。時間は日本時間。)

7/25 22:55~ 「トリスタンとイゾルデ」 ピーター・シュナイダー
7/26 22:55~ 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 サバスチャン・ヴィーグル
7/28 00:55~ 「ラインの黄金」 クリスチャン・ティーレマン
7/28 22:55~ 「ワルキューレ」 クリスチャン・ティーレマン
7/30 22:55~ 「ジークフリート」 クリスチャン・ティーレマン
8/01 22:55~ 「神々の黄昏」 クリスチャン・ティーレマン
8/02 22:55~ 「パルジファル」 ダニエレ・ガッティ

全て生で追っかけるのは不可能です。というわけで、やはり便利なのは一週間、高音質のオンデマンドを配信するバルトークラジオではないでしょうか。以下のページよりダウンロードが出来ました。

バルトークラジオ・オンデマンド(例えば「トリスタン」なら、土曜、現地時間の15:55-23:55に放送されているので、ハンガリー語で土曜を示すSzombatの15から23、それぞれのHallgatの『t』を、右クリックでダウンロードするとファイルを入手することが出来ます。)



なお現地時間の記載など、その他ネットラジオの放送スケジュール全般にしては、いつも拝見させていただいているokaka様のブログが非常に有用です。あわせてご覧下さい。

おかか since 1968 Ver.2.0

なお既に開幕中のイギリスの世界最大の音楽祭、プロムスも公式サイトよりオンデマンドの配信があります。(演奏会後、一週間限定。)先日、ハイティンクのマーラーの第九番を聴きましたが、少々訥々とした語り口に戸惑いながらも、素朴な情感を歌い上げる演奏で感心しました。

Proms2009

ともにオンデマンド配信なので、先にファイルを入手し、後でじっくり聴けるのも有り難いところです。今年の夏もPCを前に、音楽祭気分を手軽に味わいたいと思います。

*写真はWELT ONLINEより。BILDERGALERIE「Tristan」2009には舞台写真が掲載されています。
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「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2009」@東京国際フォーラム

東京国際フォーラム、その他丸の内周辺エリアで開催中の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2009 - バッハとヨーロッパ」へ行ってきました。



既に他の多くのブログでも取り上げられておられますが、まずは取り急ぎ、初日の雰囲気を写真でお伝えしたいと思います。熱気が伝われば幸いです。


東京駅側より国際フォーラムの内部です。午前11時で早くもこの人出でした。いつもの如くテラスに空席はありません。


お馴染みの屋台村で人気なのは横手焼きそばです。会期中の昼食時などは、どの屋台ブースでも行列は必至でしょう。(私はご飯はいつも外へ出て食べます。)


こちらはオープンテラスのミュージックキオスクです。スケジュールはこちらをご覧下さい。ちなみに本日からは、「有料公演出演者」(当日発表)も登場します。


本家ナント(仏)公演の様子もスクリーンで流されます。


バッハ市場。ようは物販コーナーです。今年は屋外にまで展開されていました。(初めての試みでしょうか。)


お馴染みの作曲家文字絵グッズ。今年はバックまでが登場しました。力が入っています。


半券で入場可能な地下の展示ホールです。作曲家に因んだ名前が毎年付けられています。(リューベックではブルックナーも大丈夫そうですが…。)


無料ステージでのアマチュアオーケストラの公演です。ちょうどTAMA21交響楽団がブランデンブルク協奏曲を披露されていました。(スケジュール。こちらも5日の12:30より、当日発表の「有料公演出演者」が登場します。)


地下フロアの飲食コーナーです。私の記憶が確かなら昨年に比べ、テーブル数が格段に増えていたのではないでしょうか。(間違っていたら訂正します。)

公演日はおろか、公演数自体も通常より相当に減ったはずですが、体感的な人出は例年通りと言って良いかもしれません。

次回は5日に繰り出す予定です。あいにくの天候のようですが、コルボの深夜ライブで最終日の余韻を味わいたいと思います。

当日券の発売状況*(主にAホールの公演が若干残っています。)
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youtubeシンフォニーオーケストラ、カーネギーホールライブを公開

企画はもちろん、オーディションまでyoutube上で行われたという「YouTubeシンフォニーオーケストラ」が、つい先日、カーネギーホールで記念のライブを行いました。今、その模様がyoutubeに公開されています。ご覧になられたでしょうか。

YouTube Symphony Orchestra @ Carnegie Hall - Act One

現在のところ前半部分、はじめの1時間だけがアップされています。

プロアマを問わず、全世界より3000件以上の応募から選抜された90名の音楽家たちが、かの俊英マイケル・ティルソン・トーマスのタクトの元に集まりました。オープニングを飾る華々しい音楽は、ブラームスの第4交響曲から第3楽章です。コンサートは短い曲を中心に15曲、またメインは今回のために作られたというタン・ドゥンのその名も「インターネット交響曲第1番『エロイカ』」だったそうですが、それは後半の第二部の映像で流されるのではないでしょうか。一部の最後のワルキューレのリズムは軽やかでした。

団員のオーディション映像やメッセージがバックに流れるステージの演出も華やかです。桜の映像から始まるのは、マリンバの高藤摩紀さんでした。ちなみに同オケには、一般企業勤務のアマチュアの方などを含め、日本人が三名参加しているそうです。もちろんyoutubeオーケストラ日本版サイトで、それぞれの方の演奏の様子も聞くことも出来ます。

youtubeシンフォニーオーケストラ日本版

通常のコンサートではまずあり得ませんが、観客のビデオの持ち込みも許可されていたそうです。今後はyoutube上に、観客視線によるコンサートの様子なども投稿されるのかもしれません。

追記:第二部がアップされました。5分過ぎよりタン・ドゥンが登場します。
Act Two: YouTube Symphony Orchestra @ Carnegie Hall
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