都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「田原桂一 Sens de Lumière」 ポーラミュージアムアネックス
「田原桂一 Sens de Lumière」
6/1~6/10
ポーラミュージアムアネックスで開催中の「田原桂一 Sens de Lumière」を見てきました。
1951年に京都で生まれ、パリで活動し、「光を追い求めた」(解説より)写真家の田原桂一は、ちょうど1年前の6月6日、65歳で亡くなりました。
まさに一周忌を迎えての展覧会です。初期の「窓」シリーズのほか、ルーヴル美術館などの西洋の彫刻を撮影し、石やガラスに焼き付けた「トルソー」などが出展されていました。
やはり目を引くのが、一連の「トルソー」で、特に石へ彫刻を写した作品は、彫刻の重みが、石のざらりとした表面の質感を借りて、より深い陰影を見せていました。また「光」をテーマとしているだけあり、独特な光の陰影も魅力の1つで、中には自ら発光していると思うほど、淡い光を放っている作品もありました。
さらに目をこらすと、一部に金箔も貼り付けられていて、石の細かなひび割れなど、実に精緻な感触をたたえていることも分りました。
正面中央の「窓」がハイライトと言えるかもしれません。布に直接、戸外の風景を印画した作品で、窓の向こうには、建物のドーム型の尖塔が朧げに浮かび上がっていました。
その左右には、生前の田原が愛用したフランス製の年代物のソファーも置かれていて、さらにおそらく遺品なのか、ヘビ革のランプがオレンジ色の明かりを灯していました。そして百合の花束が飾られていて、何やら厳粛でもあり、どこか祭壇のようにも思えました。
田原に関する資料も展示されていました。それが、初期のノートやネガフィルム、また実際に用いられたカメラで、中には愛飲していたフランスの煙草や、1993年に受賞したフランス芸術文化勲章シュヴァリエなどもありました。
奥の小部屋の映像も見逃せません、2004年の日曜美術館で特集された内容で、田原がアトリエで作品を現像するシーンなどが映し出されていました。生前の田原も偲ばれるかもしれません。
かつて刊行された作品集を自由に閲覧することも可能でした。田原の幅広い制作を知ることも出来るのではないでしょうか。
「トルソー」は実に優美でかつ肉感的な姿を見せていました。指はぷっくらと膨らみ、腕や柔らかく丸みを帯びていて、まるで弾力性があるかのようでした。一体、どのようにして光を「つかみ取った」(一部、田原の言葉より)のでしょうか。
実にタイトなスケジュールの展覧会です。会期は10日間しかありません。
本日より、昨年65歳で亡くなった故田原桂一氏の展覧会「Sens de Lumière」を開催致します。本店では初期の作品『窓』シリーズや、ヨーロッパの彫刻を撮影し、石やガラスに焼き付けた『トルソー』シリーズなど、作品を通じて田原氏の活動の軌跡をたどることができます。6/1-6/10 #polamuseumannex pic.twitter.com/u8WpOKERSc
— ポーラ ミュージアム アネックス (@POLA_ANNEX) 2018年6月1日
入場は無料です。6月10日まで開催されています。
「田原桂一 Sens de Lumière」 ポーラミュージアムアネックス(@POLA_ANNEX)
会期:6月1日(金)~6月10日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」 山種美術館
「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」
5/12~7/8
山種美術館で開催中の「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」を見てきました。
江戸時代、私淑により継承された琳派は、近現代の画家やアーティストにも多様な影響を与えました。
その1人が、昭和を代表するグラフィック・デザイナー、田中一光でした。一光は「琳派は日本のかたちの原型」(解説より)と述べ、琳派の要素を援用したポスターを次々と発表しました。
冒頭からして一光の「JAPAN」で、宗達が携わったとされる「平家納経 願文」の見返しの鹿図を用いて制作しました。その隣に、「平家納経」を大正期に写した田中親美の模本があり、見比べることも出来ました。確かに背を丸めた鹿の構図から同じで、一光は模様を円形にし、目をひし形にするなどのアレンジを加えていました。ともかく目立つ図像で、一目見て、頭に焼きつくような強いビジュアルと言えるかもしれません。
俵屋宗達(絵)、本阿弥光悦(書)「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」 17世紀(江戸時代) 山種美術館
続くのが、俵屋宗達、本阿弥光悦、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一、神坂雪佳へと至った、琳派の絵師の作品でした。鹿が軽やかにステップを踏む「鹿下絵新古今和歌集和歌巻断簡」(俵屋宗達絵、本阿弥光悦書)や、墨のぼかしを巧みに活かした宗達の「烏図」などは、特に魅惑的な作品ではないでしょうか。
伝俵屋宗達「槙楓図」 17世紀(江戸時代) 山種美術館
伝宗達による「槙楓図」が、近年に修復されたのち、初めて公開されました。湾曲する槙と、直立する槙を前後に配し、楓や秋草を表した屏風で、極端に屈曲したような樹木の表現は、どこかデザイン的とも呼べるかもしれません。
伝俵屋宗達「槙楓図」(部分) 17世紀(江戸時代) 山種美術館
しかし細部に目をこらすと、槙の葉や秋草は精緻に描かれていて、植物を丹念に観察したゆえの描写にも思えました。なお、既に知られるように、本作とほぼ同寸で、同じ構図をとる作品を、のちに光琳が描いていて、琳派の継承、ないし変奏を表す作品としても知られています。
酒井抱一「秋草鶉図」 19世紀(江戸時代) 山種美術館
酒井抱一の作品が充実していました。まず目を引くのが、目映いばかりの金地へ秋草を可憐に配した「秋草鶉図」で、草の合間には、中国絵画風の鶉が見え隠れしていました。黒い月は意図的に表されたとされていて、照明の効果か、少し屈んで、下から見上げるように鑑賞すると、金地がより際立っているように見えました。また、十二ヶ月花鳥図と呼ばれるシリーズのうちの「菊小禽図」と「飛雪白鷺図」も美しく、後者では上下に白鷺を配し、互いに視線をあわせるかのように向き合っていました。
鈴木其一「四季花鳥図」(部分) 19世紀(江戸時代) 山種美術館
其一の優品も見逃せません。やはり目立っていたのは、濃厚な色彩により四季の草花を描いた「四季花鳥図」で、下部には水も流れ、鳥の姿もありました。また「牡丹図」も色彩美に溢れた一枚で、赤やピンク、それに白い牡丹の花を、花弁の1枚1枚から丁寧に描いていました。葉も細かに色を塗り分けていて、写実性が高く、博物学的な視点も伺えるかもしれません。
神坂雪佳の「蓬莱山・竹梅図」も面白い作品でした。中央に蓬莱山を配し、左右に梅と竹を表した三幅対の軸画で、梅は下から幹を伸ばしては花をつけ、一方で竹は上の三分の一のみに描き、下から見上げるような構図を用いていました。ちょうど蓬莱山を中心に、梅と竹が対になっていると言えるかもしれません。ほかにも雪佳作で人気の高い「百々世草」も、一部分が開いていました。
後半が近代でした。荒木十畝、菱田春草、小林古径、奥村弩級、福田平八郎、速水御舟、加山又造ら、琳派に触発された日本画家の作品が並んでいました。作品数もはじめの琳派とほぼ同数でした。
ここで重要なのは、構図やモチーフ、またトリミングなどの琳派的な特質を、近代日本画に当てはめて検証していることでした。例えばぼんやりと月が写る中、鴨が右下へ飛ぶ古径の「夜鴨」における鴨の様態は、光琳の「飛鴨図」を参照していて、古径の本画と光琳の図版を見比べることも出来ました。さらに、安田靫彦の「うさぎ」の白うさぎも、宗達の「兎桔梗図」を参照していました。
速水御舟「翠苔緑芝」(右隻) 1928(昭和3)年 山種美術館
速水御舟の「翠苔緑芝」が目立っていました。琳派的な造形を意識した屏風で、枇杷の木や紫陽花などが茂る中、うさぎや黒い猫がくつろぐような姿を描いていました。余白の金を大胆に取り込んだ構成で、ひび割れした紫陽花の花や芝生などに、琳派云々を超えた御舟のオリジナルな表現を見ることが出来ました。
加山又造の「華扇屏風」も華やかな屏風で、多様に変化した銀箔の中、燕子花や紅白梅などの四季の花を描いた扇面を散らしていました。実に装飾的ながらも、さも大海原を扇面が流れるかのようで、躍動感も感じられました。
ラストが再び田中一光でした。「田中一光グラフィック植物園#1」では、光琳の得意とした燕子花のアヤメ科の花を単純化して表しました。また「Toru Takemitsu: Music Today 1973-92」では、光琳かるたの水流の模様を引用し、紅葉を音楽を表すような記号へと置き換えていました。
琳派の影響を現代にまで追う展覧会といえば、2015年、MOA美術館で「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」が開催されました。その際は、光琳を起点に、春草、雪佳、栖鳳、御舟、又造らの近代画家を参照しつつ、杉本博司や会田誠などの現代美術までを交え、琳派の諸相を幅広く検討していました。
琳派展の図録が完成!ハンディなA5サイズですが、琳派の絵師、近代日本画家、20世紀のデザイナーまで出品作品全点を美しい図版でお楽しみいただけます。山下裕二氏のインタビューも収録され、読み応えのある一冊です。(山崎)@山種美術館 pic.twitter.com/xbFahpsF0E
— 山種美術館 (@yamatanemuseum) 2018年5月11日
今回の「琳派」展はMOAの時ほど時代を下りません。しかし近代日本画を引用しつつ、田中一光にフォーカスした切り口は実に明快でした。充実した内容ではないでしょうか。
初日に観覧して来ました。さすがに混雑こそしていなかったものの、館内はなかなかの盛況でした。
なおカフェ椿でお馴染みのオリジナル和菓子は、今回全てリニューアルされたものだそうです。いつもながらに美味しく頂戴しました。
伝俵屋宗達の「槙楓図」のみ撮影が出来ます。7月8日まで開催されています。
「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」 山種美術館(@yamatanemuseum)
会期:5月12日(土)~7月8日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*きもの割引:きもので来館すると団体割引料金を適用。
*リピーター割:使用済み有料入場券を提示すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。渋谷駅東口より都バス学03番「日赤医療センター前」行きに乗車、「東4丁目」下車、徒歩2分。
「人間・高山辰雄展―森羅万象への道」 世田谷美術館
「人間・高山辰雄展―森羅万象への道」
4/14~6/17
世田谷美術館で開催中の「人間・高山辰雄展―森羅万象への道」を見てきました。
1912年に大分市に生まれた高山辰雄は、戦後、1951年より世田谷の成城に拠点を構え、杉山寧、東山魁夷とともに「日展三山」と称されるなど、画壇の「最高峰」(チラシより)として活動しました。
東京の美術館としては、2008年の練馬区立美術館以来の一大回顧展です。大分県立美術館のコレクションを中心に、約180点(展示替えあり)の作品と資料を交え、高山の画業を時間を追って俯瞰していました。
高山辰雄「朝」(部分) 1973年 個人蔵 *展示期間:4月14日(土)〜5月6日(日)
冒頭の大作に迫力がありました。左右へ大きく広がるのが、六曲一双の「夕」で、銀色の太陽が沈む間際、母子が静かに佇む姿を表していました、彼女の前には花かごが置かれ、反対側にもう一人の女性もいて、さも先の母親と視線を交わすように立っていました。静謐に包まれながらも、パノラマ的な情景は雄大でもあり、なおかつ平面的な色面からは、高山の影響されたゴーギャンの作風を見るものがありました。
大分で小学校に通っていた高山の先輩には、郷里の日本画家である福田平八郎がいました。実家には平八郎の絵も飾られていて、日本画に接する機会も多かったのか、中学校で早くも日本画家を目指すようになりました。1931年に東京美術学校の日本画科に入学すると、在学中に松岡映丘に師事しました。卒業制作に描いたのが、「砂丘」で、白い砂の上で、青いセーラー服に身をまとった少女を表しました。砂や草、それにノートなどの描写は細かく、言わば洋画的でもあり、のちの高山の画風を伺わせるものはありません。
高山辰雄「室内」 1952年 世田谷美術館 *通期展示
終戦後、荻窪から成城へ移った高山は、ゴーギャンの伝記を読み、強い感銘を受けました。黄色とオレンジのワンピースを着た女性を描いた「室内」は、強く鮮やかな色彩、ないし線よりも面を強調した構成などが、まさにゴーギャン的で、「砂丘」よりも抽象度も増し、背景と人物が一体化しているように見えました。この頃、日展に出品した「浴室」(1946年)、「少女」(1946年)がともに特選に選ばれ、画壇での地位を築きました。
「夜」に目が留まりました。暗い夜の下、一人の人物が、白い木か柱を前にして、膝を抱えるようにうずくまっていました。厚塗りの絵具だからか、画肌はゴツゴツしているようで、重厚な質感を見せていました。かつて北の国で車中から見た景色を描いたとされていますが、何やら内省的で、「精神性をたたえた」(解説より)と呼ばれる高山らしい作品と言えるかもしれません。
高山辰雄「食べる」 1973年 大分県立美術館 *通期展示
高山は1973年、日本橋の高島屋で初めて大規模な個展を開催しました。ともかくひたすらに人間を描き、内面を見据えたような作品を残していて、その一例に「食べる」が挙げられるかもしれません。ここでは、子どもがただ1人、正座姿で小さな食卓に向きながら、一心不乱にお椀をすくう様子を描いていて、卓の上にコップこそあるもの、ほかは赤茶けた背景が茫洋と広がるのみで、一切、何もありませんでした。
風景画の「海」も独特の雰囲気が漂っていました。ちょうど中央に水平線を眺めた海のみを描いていて、海面は一部が青緑に染まり、日の出前なのか、水平線付近は白い明かりも滲み出していました。高山は「くもった海は重く大きく見えた。」と語ったそうですが、確かに海も空も全ては重々しく、無限の彼方にまで広がっていました。
渡仏時に制作された「旅の薄暮」に引かれました。一軒の家先か、白い壁の合間に扉が開いていて、中から朱色の服を着て、猫を足元に従えた女性が顔を覗かせていました。その顔に表情はなく、虚ろげで、今にもすぐに扉を締めてしまいそうな気配を漂わせていました。
やや異色とも呼べるのが、「トラック トレイラー」でした。まさにトラックを横から捉えた作品で、前には運転手と思しきランニング姿の父親に、白い服を着た子どもが抱きついていました。高山は、トラックの機械部分が面白いとして、配送所へスケッチに行き、運転手と会話を交わしたと語っていて、その体験を表した一枚と言えそうです。
高山辰雄「牡丹(阿蘭陀壺)」 1989年 個人蔵 *通期展示
花も高山の多く描いたモチーフでした。「牡丹(阿蘭陀壺)」も同様で、グレーの空間の中、オランダの風景の柄の壺に、白や紫がかった牡丹を活けた様子を表していました。人を見据えた高山は、花に対しても思い入れが深く、「人間というのは、私には風景でも花でもいいのです。つまり、花びら一枚でも人間を表したいと思ってきたのです。」(解説)との言葉も残しました。
高山辰雄「由布の里道」 1998年 大分県立美術館 *通期展示
ラストは、1990年代後半以降、2007年で亡くなるまでの約15年の展開でした。いつしか色彩は抑制的になり、人や事物が背後や風景に溶け込むような「幽玄」(解説より)とも呼び得る作風が現れました。言い換えれば、どこか心象風景を表すようでもあり、幻影的で、いつしか全てが消えていくような朧げな世界が広がっていました。
本画のほかにも小下絵をはじめ、ブロンズの彫刻、さらに若き高山が「コーノジョー」の名で描いた絵本などの珍しい作品も出ていました。
公式サイトに「大幅な展示替えを行います。」とあるように、前後期で相当数の作品が入れ替わりました。さらに後期中でも一部に入れ替えがあり、例えばはじめに紹介した「夕」に関しては、5月29日より「海」へと替わりました。特に本画の入れ替えが多く、前後期をあわせて1つの展覧会と捉えて差し支えありません。
【セタビブログ】「「人間・髙山辰雄展」後期展示スタート!」をアップしました。投稿者:G.I #人間・髙山辰雄展 #髙山辰雄 #世田谷美術館https://t.co/ONwAi2rnym
— 世田谷美術館 (@setabi_official) 2018年5月17日
それを踏まえても、初期作から代表作までを網羅していて、近年における高山辰雄の回顧展の決定版と言えるのではないでしょうか。画家の創作の道筋を辿ることが出来ました。
6月17日まで開催されています。
*高山辰雄の高は、正しくは「はしごだか」です。一部で文字化けする可能性があるため、本エントリでは「くちだか」を使用しました。
「人間・高山辰雄展―森羅万象への道」 世田谷美術館(@setabi_official)
会期:4月14日(土)~6月17日(日)
休館:毎週月曜日。但し4月30日(月・振替休日)は開館、翌5月1日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17時半まで。
料金:一般1200(1000)円、65歳以上1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
*( )内は20名以上の団体料金
*リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」 森美術館
「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」
4/25~9/17
日本の建築を9つの特質から読み解く展覧会が、六本木の森美術館で開催されています。
それが「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」で、約400件を超える建築資料、模型を提示し、古代から現代までに至る日本の建築の「遺伝子を考察」(解説より)していました。
「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」
最初のテーマは「可能性としての木造」で、日本の建築を特徴付ける、木材、木造文化について紹介していました。いきなり目の前に現れたのが、「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」で、同博覧会のために北川原温が作り上げた、立体木格子を再現していました。
「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」
木組は大変な量感で、隙間から奥を覗くことこそ出来るものの、天井まで連なり、もはや行方を阻むかのようでした。なお同博で日本館は、展示デザイン部門における金賞を受賞しました。日本の食文化を紹介する展示も話題を集め、現地では長蛇の列も生まれたそうです。
木造のセクションで目立つのは、神社や寺院の木組みの模型でした。中でも古代の出雲大社本殿や平等院鳳凰堂の組物、さらに東大寺南大門が目を引くのではないでしょうか。また現代でも必ずしも実現した建築のみが紹介されているわけではなく、メタボリズムの思想から生まれた理想都市、磯崎新の「空中都市 渋谷計画」などの模型も展示されていました。上空に住居を連ねた構造は実にダイナミックで、まるで大きな鳥が羽を広げているようにも見えました。
体感的な展示があるのも特徴の1つです。例えば谷口吉生の「鈴木大拙館」で、単に模型を展示するだけでなく、ゲートの間口を鈴木大拙館と同様に切り込み、建築を擬似的に体験出来るように工夫されていました。
さすがに有名建築を集めただけあり、私自身も実際に見学して、印象に残った建物も登場していました。それがブルーノ・タウトによる熱海の「旧日向家熱海別邸地下室」で、数年前に隣接する隈研吾の「水/ガラス」と合わせて見に行きました。海を望む崖地の上にあり、傾斜を利用した地下室は、洋室や床に天井、さらには電球を用いた照明など、随所が個性的で、竹細工をはじめとした細部の凝った意匠も興味深いものがありました。
ブルーノ・タウト「熱海の家」、隈研吾「水/ガラス」(はろるど)
さてハイライトとも言えるのが、千利休の作と伝えられ、現存する国内最古の茶室である「待庵」の実寸大再現展示ではないでしょうか。
「待庵」再現展示
再現を手がけたのは、埼玉県行田市にあるものつくり大学で、建築学科を中心とした学生と教職員により、今年2月から手作業で制作されました。限りなく本物に近づけるためか、自然の素材を利用し、400年以上前の工法も取り入れられ、300本使われた和釘も全て1から作られました。
「待庵」再現展示
にじり口より「待庵」の入ることも可能でした。内部の質感、特に古色を帯びた壁などが、実に見事に再現されていて、外部から見るよりも臨場感がありました。なお茶室は2畳ほどのため、一度に入ることの出来る人数に限りがあり、混雑時は待機列が発生します。ご注意下さい。
「住居(丹下健三自邸)」
丹下健三の「自邸」の模型もスケール感がありました。殆ど住宅建築を残さなかった丹下の初期の作品で、既に失われたものの、小田原の宮大工が中心となり、 3分の1スケールで再現されました。
「住居(丹下健三自邸)」
その木組み模型も実に精巧で、内部の様子も細かに見ることが出来ました。和風建築ながらも、ピロティに支えられた箱のような構造は、やはりコルビュジエのサヴォワ邸を連想させる面があるかもしれません。この「自邸」に見られるような、内と外を仕切らない「連なる空間」も、日本建築の特質の1つに挙げられていました。
「ブックラウンジ」
また丹下健三や剣持勇らの設計した家具を並べた「ブックラウンジ」では、実際の家具に座ったり、本を閲覧することも可能でした。思い思いに腰掛けては、座り心地などを確認している方の姿なども見受けられました。
「建築の日本展」には美術館や博物館建築も少なくありません。樂吉左衞門の創案による「佐川美術館 樂吉左衞門館」をはじめ、あまりにも有名な谷口吉生の「東京国立博物館 法隆寺宝物館」、そして現在の京都市美術館に当たる前田健二郎の「大礼記念京都美術館」、さらには西沢立衛の「豊島美術館」や、 近年建築されて話題を呼んだ杉本博司+榊田倫之の「小田原文化財団 江之浦測候所」なども目を引きました。
ラストは建築から日本の自然観を見る「共生する自然」でした。ここでは安藤忠雄の「水の教会」などの現代の建築とともに、古くから自然と半ば一体化した「投入堂」や、世界遺産としても知られる広島の「嚴島神社」の例が挙げられていました。
齋藤誠一+ライゾマティクス・アーキテクチャ「パワー・オブ・スケール」
ほかにも、齋藤誠一+ライゾマティクス・アーキテクチャによるメディア・インスタレーション、「パワー・オブ・スケール」も見どころかもしれません。スピード感のある3D映像にて、国内の建築が次々と映され、そのスケールを体感的に味わうことが出来ました。
齋藤誠一+ライゾマティクス・アーキテクチャ「パワー・オブ・スケール」
ともかくテーマも多岐にわたり、模型、資料とも膨大です。ここで紹介した内容はごく一部に過ぎません。観覧に際しては時間に余裕をもってお出かけ下さい。
会場内、特に若い方で予想以上に賑わっていました。約5ヶ月間にも及ぶロングランの展覧会ですが、ひょっとすると後半はかなり混み合うかもしれません。
【撮影&SNS投稿可能】「建築の日本展」では、会場内5ヵ所で写真撮影、SNSのシェアが可能です!📷※写真撮影や画像を使用する際のルールはこちら:https://t.co/gVeAzKyX4J#建築の日本展 #森美術館 #建築 #撮影OK pic.twitter.com/hKN7JUWwiO
— 森美術館 Mori Art Museum (@mori_art_museum) 2018年5月10日
本展は5つの箇所のみ撮影が出来ます。*「パワー・オブ・スケール」は1分以内の動画撮影も可。
会期中のお休みはありません。9月17日まで開催されています。
「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」 森美術館(@mori_art_museum)
会期:4月25日(水)~9月17日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
*但し火曜日は17時で閉館。
*「六本木アートナイト2018」開催に伴い、5月26日(土)は翌朝6時まで開館延長。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、学生(高校・大学生)1200円、子供(4歳~中校生)600円、65歳以上1500円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
「楽活」に「路地の美術館~密かな美の愉しみ」の連載をはじめました
【路地の美術館~密かな美の愉しみ】Vol.1 岡本太郎記念館
https://rakukatsu.jp/small-museum-okamoto-taro-20180523/
「楽活(らくかつ)」とは、アートのみならず、伝統芸能、旅やキッズなど、多様な情報を提供するメディアで、2017年の11月にオープンしました。以前、拙ブログを交えて開催した、WEBイベント「あなたが選ぶ展覧会2017」でもご協力いただきました。
「楽活ー日々楽しい生活を。」
https://rakukatsu.jp/rakukatsu/
「路地の美術館~密かな美の愉しみ」は、私が実際に見て回った、それこそ路地に面するような小さな美術館をご紹介するコラムです。第1弾として、東京の南青山にある「岡本太郎記念館」について書きました。ちょうど、「太陽の塔 1967―2018―岡本太郎が問いかけたもの」が開催中(5/27まで)でした。
「太陽の塔 1967―2018」 岡本太郎記念館(はろるど)
また岡本太郎記念館とあわせ、「Another place」と題し、近くの「伊勢半本店 紅ミュージアム」についても触れました。今後も、メインの美術館と、もう1箇所のスポットを取り上げるようにしたいと思います。
あくまでも素人目線で恐縮ですが、「密かな」とあるように、第2弾以降も、なるべく自分で感じたことを中心に書いていくつもりです。
【路地の美術館~密かな美の愉しみ】Vol.1 岡本太郎記念館 https://t.co/WwGaoIF5XI pic.twitter.com/pcrRliRr21
— 楽活-日々楽しい生活を- (@rakukatsu_jp) 2018年5月25日
ブログ「はろるど」と同じく、「楽活」での「路地の美術館~密かな美の愉しみ」もご愛顧いただきますよう、宜しくお願い申し上げます。
[楽活における主なアート関連の記事]
初夏の爽やかな夜にアートを。今週末、六本木アートナイト2018開催!
https://rakukatsu.jp/roppongi-art-night-20180525/
【Takのアート入門講座】いつもと違ったルートで展覧会へ行こう!
https://rakukatsu.jp/tak004-20180429/
DJAIKO62の京都藝術迷宮通信(仮)01 KYOTOGRAPHIE編
https://rakukatsu.jp/djaiko62-kyotographie-20180507/
【趣味れーしょん美術館】ヌード展の想定外な展示とスマフォト講座
https://rakukatsu.jp/nude-20180501/
「楽活ー日々楽しい生活を。」
公式サイト:https://rakukatsu.jp/rakukatsu/
twitter:https://twitter.com/rakukatsu_jp
facebook:https://www.facebook.com/rakukatsujp/
「大名茶人・松平不昧」 三井記念美術館
「没後200年 特別展 大名茶人・松平不昧-お殿さまの審美眼-」
4/21~6/17
大名茶人として知られる松江藩7代藩主、松平不昧(治郷)は、今年、没後200年を迎えました。
それを期して開催されているのが、「大名茶人・松平不昧-お殿さまの審美眼-」展で、不昧の収集した茶道具と、関連する美術品を展示していました。
冒頭からしてお宝揃いでした。まず惹かれたのは、「油滴天目」で、斑紋の木目が小さく、繊細な表情を伺わせていて、黒い底部から青みを帯びた縁へのグラデーションも美しく見えました。現在は重要文化財に指定され、九州国立博物館に収蔵されています。
「奥高麗茶碗 銘 深山路」 桃山時代・16〜17世紀 展示期間:4月21日〜4月27日
さらに国宝の「大井戸茶碗 喜左衛門井戸」も目を引きました。高台の梅花皮が無骨であり、ざらしとした枇杷色には渋みが感じられるものの、やや反った口縁には動きも感じられました。所持した者に腫れ物を病むとする言い伝えを持つ茶碗で、不昧も患った際に、妻から手放すように勧められたとの逸話も残されているそうです。のちに大徳寺へ寄進されました。
「古今名物類聚」松平不昧編 江戸時代・18世紀 島根大学附属図書館
不昧は利休の茶に帰ることを唱え、禅学を修めながら、茶禅の茶の湯を極めました。その不昧の大きな功績とも言えるのが、名物茶器を分類した「古今名物類聚」の出版でした。全18冊にも及ぶ著書で、古くからの茶道具の名器を「宝物」、「大名物」、「中興名物」などに分け、図説とともにまとめ上げました。結果的に、現代に至るまでの茶器の評価の基準と化しました。
また不昧は、自らの800点を超える茶道具を、「雲州蔵帳」に記録しました。コレクションを体系付けて整理していたようで、その多くは今も貴重な文化財として残されています。
不昧の所持した書画にも魅惑的な作品がありました。例えば牧谿の「叭叭鳥図」、あるいは伝牧谿の「燕図」で、後者では蓮の花托にとまる小さな燕を、濃い墨を用いて描いていました。蓮や後方の葉は薄い墨で、そのほかには何もなく、大気のみが満たされていました。
また雪舟の「一円相」も目立っていて、禅における悟りや真理を示す図形の円を、一筆で描き切っていました。その筆は全くの迷いも見られず、泰然としていて、しばらく眺めていると、中心の円に引き込まれるかのようでした。
重要文化財「赤楽茶碗 銘無一物」長次郎作 桃山時代・16世紀 頴川美術館 展示期間:4月21日~5月20日
茶道具では、光悦の現存唯一の香合でもある「赤楽兎文香合」をはじめ、まるで胴が切り立つ崖のようにも見える光悦の「赤楽茶碗 加賀光悦」、また口縁が花のように開き、ややグレーを帯びた色味も美しい「堅手茶碗 銘 長崎」などに引かれました。さらに如庵に置かれた、長次郎の「赤楽茶碗 銘 無一物」の佇まいにも魅せられました。
56歳で隠居した不昧は、品川の大崎の下屋敷に移り住み、11棟の茶室を設けては、亡くなるまで茶の湯に没頭しました。その茶苑を写したのが、伝谷文晁による「雲州候大崎別業真景図巻」で、大崎を訪ねた定信が、文晁に命じて描かせたと言われていて、茶室の構成などを今に伝えています。当初は2巻あったものの、上部は焼失して、現在は下巻しか残っていません。
なお一連の茶苑は、江戸随一の名苑として知られていたものの、不昧の死後、1853年の黒船来襲の際に、幕府による海岸警護のため、没収されてしまいました。ちょうど現在の御殿山付近、品川区北品川五丁目一帯に当たるそうです。
「菊蒔絵大棗」原羊遊斎作 文化14(1817)年
後半は不昧が、自らがプロデュースして、蒔絵師などに作らせた、いわゆる「お好み道具」と呼ばれる作品が展示されていました。不昧は、抱一との合作としても知られる蒔絵師、原羊遊斎に親しく、多くの作品の制作を依頼しました。その中でも抱一下絵、原羊遊斎作による「瓢箪蒔絵弁当箱」などが、特に目を引くかもしれません。そもそも抱一の兄、宗雅は、不昧の茶の湯の筆頭弟子でもありました。また、木挽町家狩野派8代目の栄信も、同じく原羊遊斎に下絵を提供しました。
「瓢箪蒔絵弁当箱」酒井抱一下絵・原羊遊斎作 江戸時代・19世紀
松江藩の御用窯として創業し、のちに中断したものの、不昧が長岡住右衛門に再興させた楽山焼も、魅惑的ではないでしょうか。ともかく右に左に優品揃いで、素人目にも不昧に関する作品資料を、実に幅広く集めたものだと感心しました。
「不昧画像」 江戸時代・19世紀 月照寺
現在、畠山記念館でも松平不昧に関した展覧会を開催中です。
「没後200年 大名茶人 松平不昧と天下の名物-『雲州蔵帳』の世界」
会期:4月7日(土)~6月17日(日)
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/exhi2018spring.html
使用済み半券の使用で、相互の展覧会が割引になるサービスも実施されています。あわせて見るのも良さそうです。
若い頃から千利休に傾倒し、茶の湯道具や書跡を蒐集していた松江藩主、松平不昧。その類い稀な選美眼を楽しむことができる「没後200年|特別展 大名茶人・松平不昧」展が、三井記念美術館で公開中。アートライターの青野尚子さんが現地からレポートしてくれました!https://t.co/NaIwK0fZu2 pic.twitter.com/v4ALvs3Taj
— Pen Magazine (@Pen_magazine) 2018年5月1日
既に会期中の展示替えが行われ、後期に入りました。以降の入れ替えはありません。
6月17日まで開催されています。おすすめします。
「没後200年 特別展 大名茶人・松平不昧-お殿さまの審美眼-」 三井記念美術館
会期:4月21日(土)~6月17日(日)
休館:月曜日。
*但し4月30日(月)は開館。
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:会期中、一般券、学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金を適用。
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
TNM & TOPPAN ミュージアムシアターにて「洛中洛外図屛風 舟木本」が特別上演されます
[VR作品『洛中洛外図屛風 舟木本』特別上演]
場所:東京国立博物館東洋館 地下1階 TNM & TOPPAN ミュージアムシアター
期間:5月25日(金)、5月26日(土)
上演日時:両日とも17:00、18:00の2回。(所要時間35分)
定員:90名
会場は、東洋館の地下の「TNM & TOPPAN ミュージアムシアター」です。会期は2日間限定で、「名作誕生-つながる日本美術」の会期末に当たる、5月25日(金)と26日(土)に上映されます。
日時は各午後5時、及び6時からの2回です。所要時間は30分で、各回定員90名となります。
[概要]
鑑賞料金:高校生以上500円、中学生以下無料
*未就学児、障がい者とその介護者各1名 無料
*開演時間までにチケットをお買い求めください(当日券のみ)。
*チケット販売場所は、東洋館地下1階 TNM & TOPPAN ミュージアムシアター前チケットカウンターのみ
鑑賞料金は高校生以上500円です。前売券はありません。当日券のみ、TNM & TOPPAN ミュージアムシアター前チケットカウンターで発売されます。総合文化展当日券とのセット券の販売はありません。また博物館に入場の際は別途入館料が必要となります。(名作誕生展も別料金。)
[VR作品『洛中洛外図屛風 舟木本』について]
京都の町並み、季節の風物や行事を俯瞰して描いた「洛中洛外図」は、室町時代から江戸時代にかけて数多く描かれた題材です。その中でも、人物表現で異彩を放つのが、岩佐又兵衛が描いた通称「舟木本」。又兵衛が想像を交えて描いた京都には、力がものを言う戦国時代から法が定める江戸時代へと移り変わる瞬間が切り取られています。
本作品は、東京国立博物館と凸版印刷が高精細デジタル撮影と色彩計測で取得した、22億1000万画素におよぶ「舟木本」の高精細デジタルデータを用いて制作したものです。わずか数センチの人物を300インチのスクリーンいっぱいに超拡大するなど、デジタルならではの方法で詳細に鑑賞できます。
「名作誕生ーつながる日本美術」(前期展示) 東京国立博物館
「名作誕生ーつながる日本美術」(後期展示) 東京国立博物館
先日もブログに感想をあげましたが、「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」の会期も、あと数日を残すのみとなりました。
「洛中洛外図屛風 舟木本」は展覧会の後半、テーマ11の「人物をつなぐ」の「交わされる視線、注がれる視線」にて展示されています。ちょうど会期後半から出展された「風俗図屏風」の向かい側にありました。
国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」 岩佐又兵衛筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館
*かつて本館の常設展に出展された際の展示風景。その際は撮影が出来ました。(名作誕生では撮影は不可。)
「洛中洛外図屏風」といって思い出すのは、東京国立博物館で開催された「特別展 京都」で、「舟木本」を含む、国宝・重要文化財の指定品の7点が全て出展されました。展示替えこそあったものの、同一の展覧会で指定品の全てを見られること自体が稀で、私も永徳の上杉本に歴博乙本、そして勝興本、さらに岩佐又兵衛の舟木本の4点が出てた際に見に行きました。上杉本と舟木本とあわせ見るのは、まさに壮観の一言でした。
【ミュージアムシアター 5/25~26】VR作品『洛中洛外図屛風 舟木本』2夜限定で特別上演!現在「名作誕生」展にて展示中の国宝「洛中洛外図屛風(舟木本)」の世界を、大スクリーンの高精細&超拡大映像で体感できます。実物が展示されている今、ぜひお見逃しなく!詳しくは→ https://t.co/vETcNmhBx4
— トーハク広報室 (@TNM_PR) 2018年5月23日
VR作品『洛中洛外図屛風 舟木本』は、以前からリクエスト上映の多い作品でもあるそうです。2日間限定のタイトなスケジュールではありますが、本物とVRの双方で「洛中洛外図屏風(舟木本)」を鑑賞出来る良い機会ではないでしょうか。
VR作品『洛中洛外図屛風 舟木本』は、東京国立博物館東洋館のTNM & TOPPAN ミュージアムシアター」にて、5月25日(金)、5月26日(土)に特別上映されます。
「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」(@meisaku2018) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR)
会期:4月13日(金) ~5月27日(日)
時間:9:30~17:00。
*毎週金・土曜は21時まで開館。
*日曜および4月30日(月・休)、5月3日(木・祝)は18時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し4月30日(月・休)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「名作誕生ーつながる日本美術」(後期展示) 東京国立博物館
「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」(後期展示)
4/13~5/27
東京国立博物館で開催中の「名作誕生ーつながる日本美術」も、残すところあと1週間を切りました。
会期は全部で6期あり、特に3期から4期にかけての前後半で、相当の作品が入れ替わりました。
さて、一般的に展示替えといえば、作品同士が単純に替わることを意味するかもしれませが、「名作誕生」については、必ずしも全てが当てはまりません。
「扇面散貼付図屏風」 俵屋宗達筆 江戸時代・17世紀 出光美術館 *展示期間:5月15日(火)~5月27日(日)
とするのも、12つのテーマこそ同一ながらも、その中の「つながり」が異なっている場合があるからです。つまり構成自体が同じではありませんでした。
一例が「雪舟と中国」(テーマ4)で、前期の「和と漢をつなぐ」から「風景をつなぐ」に替わり、「本場の水墨をつなぐ」においても、出展作品が増え、より内容が充実しました。
国宝「天橋立図」(部分) 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀 京都国立博物館 *後期展示
その「風景をつなぐ」では、雪舟の特に知られた「天橋立図」が登場しました。日本三景の1つである天橋立を上空から鳥瞰した作品で、雪舟が最晩年に当地を訪ねて描いたとされています。海岸線や山々の光景は緻密に表され、リアルな描写にも映りますが、実際には土地の物語を取り込んだ、架空の風景でもあるそうです。中国の西湖のイメージを重ねたとも指摘されています。
雪舟が北京と寧波の間を往復し、先の西湖などにも遊んで表したのが、「唐土勝景図巻」でした。長大な画巻には山々、そして楼閣、さらには広い水辺に浮かぶ舟などを、「天橋立図」よりも柔らかな筆触で表していました。大変に俯瞰的で、実景をスケッチしているものの、絵図も参照していて、雪舟の視覚体験を「投影した」(解説より)作品と呼べるかもしれません。
「倣夏珪山水図」 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀 山口県立美術館(寄託) *後期展示
84年ぶりに発見された「倣夏珪山水図」も後期からの出展でした。力強い描線を特徴としていて、特に岩肌を象った鋭く太い線が目を引きました。隣には伝夏珪の「山水図」があり、目の前で見比べることが出来ましたが、墨を散らすような表現は瑞々しくもあり、作風は似ていませんでした。雪舟は夏珪に倣いながらも、あくまでも独自の画風を確立していたようです。
「本場の水墨をつなぐ」では、雪舟の「四季山水図」が2点加わりました。1つはブリヂストン美術館所蔵の4幅で、もう1つは東京国立博物館の2幅、春と夏の場面でした。さらにここで目を引いたのが、明時代の画家、李在による「山水図」の1幅で、前景の樹木から霞を越えて、空へと大きく迫り出す岩山の光景を表していました。川の橋には人の姿も見えるものの、ともかく切り立つ山に迫力がありました。自然の険しさ、もしくは厳しさも感じられるかもしれません。
重要文化財「蔦細道図屏風」(左隻) 伝俵屋宗達筆・烏丸光広賛 江戸時代・17世紀 京都・相国寺 *後期展示
「伊勢物語」(テーマ7)もいくつかの作品が入れ替わりました。うち後期の目玉ともいえるのが、伝宗達の「蔦細道図屏風」で、烏丸光広が賛を記し、物語の宇都山の主題を、あえて人物を排して、場面を表す留守模様の発想で描きました。緑青の土面と金地、さらにまた異なる金による細道の色彩感覚はもとより、右と左が連続しては、無限の空間をつなぐような構図からして極めて斬新で、絵師の類まれなる才能を思わせてなりません。
この同じ宇都山を表した、深江芦舟の同名の「蔦細道図屏風」もあわせて展示されていました。いわゆる留守模様ではないもののの、たらしこみなどの表現を宗達に倣っていて、丸みを帯びた山々の描写も目を引きました。
今日(14日付)の朝日新聞(東京本社版)夕刊掲載の本展特集です。後期の見どころ作品を紹介しています。〉希代の美、さらなる出会い 特別展「名作誕生―つながる日本美術」:朝日新聞デジタル https://t.co/XytZDpsiNO
— 特別展「名作誕生ーつながる日本美術」(公式) (@meisaku2018) 2018年5月14日
「山水をつなぐ」(テーマ9)も大きな変化がありました。前期の松林に変わり、三保松原を描いた、伝雪舟、山雪、蕭白の3作品をあわせ見ていました。
その中でも特に目立っていたのが、蕭白の「富士三保松原図屏風」で、左隻に山頂が4つに割れた富士山を、右隻に三保の松原の広がる海の景色を表していました。筆の動きは極めて自由で、富士山にたらしこみを用いていたと思えば、松原の木々は墨を素早く動かし、また一部には散らしては、巧みに濃淡を表現していました。また細かなさざ波の広がる海面には僅かに青みもあり、松原の向こうには七色に染まる虹もかかっていました。その雄大な姿は実景を超えていて、もはや幻想的とも呼べるかもしれません。
「人物をつなぐ」(テーマ11)もかなり作品が入れ替わりました。つながりも「戸をたたく男」から、「軒先の美人」へと替わり、「交わされる視線、注がれる視線」においても、彦根屏風の名で知られる「風俗図屏風」が登場しました。前期と雰囲気は大きく変わりました。
国宝「風俗図屛風(彦根屛風)」 江戸時代・17世紀 滋賀・彦根城博物館 *展示期間:5月15日(火)~5月27日(日)
ここではやはり「風俗図屏風」が見逃せません。金地の六曲一双の画面には、15人の男女と屏風、それに盤といった少数の器物のみが描かれていて、右から花を持つ少女、刀に寄りかかって談笑するかのような男、そして犬を連れた女から、何かを紙に記したり、双六や三味線の演奏をする者などを見ることが出来ました。各々の目線は、互いに交差しているようでもあり、時にずれているようでもあり、一定ではなく、そもそも皆の関係も明らかではありません。全ての仕草が意味深長に映りました。
また刀の鐔やほつれた髪の毛をはじめ、衣服の紋様しかり、ともかく細部の描写が際立っていて、「偏執狂」(解説より)と指摘されるのも、誇張とは思えません。楽しげな風でありながらも、なんとも言い難い緊張感も張り詰めていて、不思議な魅力をたたえた作品でもありました。後期のハイライトの1つと呼んでも差し支えないかもしれません。
「名作誕生ーつながる日本美術」(前期展示) 東京国立博物館
5月19日の土曜日の夜間開館を利用して見てきました。場内は極めてスムーズで、どの作品も思う存分にがぶりつきで楽しむことが出来ました。
【本館3室】法華経信仰を実践する人の守護者として説かれる普賢菩薩と十人の羅刹女を描いた「普賢十羅刹女像」(-5/27)。羅刹女はもとは女性の悪鬼で、通常は異国的な風貌や服装で描かれますが、ここでは愛らしい宮廷女房の姿に。特別展「名作誕生」で展示の「普賢十羅刹女像」と見比べてみてください。 pic.twitter.com/FQmGuR6aZD
— トーハク広報室 (@TNM_PR) 2018年5月19日
間もなく会期末です。さすがに最終の土日は、多少、混み合うかもしれませんが、今のところ入場待ちの列も発生していません。最後まで特に待つことなく観覧することが出来そうです。
5月27日まで開催されています。
「特別展「名作誕生ーつながる日本美術」(@meisaku2018) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR)
会期:4月13日(金) ~5月27日(日)
時間:9:30~17:00。
*毎週金・土曜は21時まで開館。
*日曜および4月30日(月・休)、5月3日(木・祝)は18時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し4月30日(月・休)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「太陽の塔 1967―2018」 岡本太郎記念館
「太陽の塔 1967―2018―岡本太郎が問いかけたもの」
2/21~5/27
大阪万博のテーマ館のシンボルとして建造され、万博記念公園に残された「太陽の塔」は、内部の修復を終え、48年ぶりに恒久的な展示施設として生まれ変わりました。
それを期して行われているのが、「太陽の塔 1967―2018―岡本太郎が問いかけたもの」展で、岡本太郎が「太陽の塔」の制作に際した試みと、今回の再生プロジェクトについて紹介していました。
「太陽の塔」内観模型
まず目を引くのが、「太陽の塔」内観模型で、1970年の当時の姿を再現するため、フィギュアメーカーで知られる海洋堂が模型に制作しました。現在、耐震補強のなされた内部は、内径が僅かに小さくなり、エスカレーターが階段に置き換えられるなど、万博当時とは少し姿を変えているそうです。
「生命の樹」再現模型
また、万博終了後に撤去された「生命の樹」の模型も見どころの1つで、写真をもとに、三次元で再現すべく、同じく海洋堂が作りました。実物の「生命の樹」は高さ45メートルもあり、単細胞から人類までの生物進化のプロセスを、292体もの「いきもの」で象っていて、岡本太郎は自らの生命観を形に表現しました。
「生命の樹」演出スコア
その「生命の樹」の演出スコアも興味深い資料でした。設計段階において作成されたスコアで、照明、映像、音響、作動メカなどの演出方法が、スケッチで表されていました。一部に割愛された箇所があるものの、多くはスコア通りに実現しました。
「シンボルゾーン」配置計画
「生命の樹」の生物群配置計画や、「シンボルゾーン」の配置計画資料も目を引きました。ともに建築時の資料で、色あせてはいるものの、往時のあり方を知ることが出来ました。丹下健三のアイデアによって構築された「シンボルゾーン」は、岡本太郎の参入によって、当初の計画になかった巨大な塔が現れることになりました。
「地底の太陽」原寸模型
万博閉幕後に行方不明になり、48年ぶりに復元された「地底の太陽」の原型模型も見どころでした。そもそも「地底の太陽」に関しては、3次元資料が一切残されていないため、僅かな写真から立体化するほかなかったそうです。
手のひらサイズからスタートした原型制作は、10分の1サイズを経て、原寸へと拡大しました。マスクの部分だけでおおよそ3メートルもあります。
「地下展示」全体模型
さらに地下展示のミニチュアなども充実しています。これまで写真などでしか見られなかった空間が、海洋堂の技術を借りて、3次元で追体験することが出来ました。
地下展示「いのち」
記念館2階の手狭なスペースながらも、所狭しと資料や作品が並んでいて、密度の濃い展覧会と言えるかもしれません。
地下展示「ひと」
次回も「太陽の塔」に関した展示が予定されています。
【次回の企画展】岡本太郎記念館企画展「太陽の塔への道」2018年5月30日(水)ー10月14日(日)https://t.co/jtBmMwy6NN pic.twitter.com/RlM1Xk8TW8
— 岡本太郎記念館 (@taro_kinenkan) 2018年5月7日
1960年代の作品を中心に、万博前夜の岡本太郎の世界を見据える内容となるそうです。改めて見に行くつもりです。
会場内は盛況でした。5月27日まで開催されています。
「太陽の塔 1967―2018―岡本太郎が問いかけたもの」 岡本太郎記念館(@taro_kinenkan)
会期:2月21日(日)~5月27日(日)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般620(520)円、小学生320(210)円。
*( )内は15名以上の団体料金。
住所:港区南青山6-1-19
交通:東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線表参道駅A5、B1出口より徒歩8分。
「つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」 神奈川県立歴史博物館
「神奈川県博開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」
4/28~7/1
2016年6月より空調設備更新のため、長らく休館していた神奈川県立歴史博物館が、おおよそ2年に及ぶ更新工事を終え、再開館しました。
それを記念して開催されているのが、「つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」と題した展覧会で、「つなぐ」をテーマに、神奈川歴博のコレクションが約100点超ほど公開されていました。(一部に展示替えあり。)
開館当初からの所蔵資料 阿弥陀如来坐像
時代やジャンルにとらわれず、いわば横断的な視野でコレクションを紹介しているのも、大きな特徴と言えるかもしれません。冒頭の「ようこそ、51周年の神奈川歴博へ」に出展された文化財からして同様で、古墳時代の「家形埴輪」から、明治時代に津久井の芝居で用いられた「芝居衣装 内掛 鯉の滝登り」、さらには手書きの絵図としては貴重な「相州鎌倉之図」などが一堂に並んでいました。
また明治時代の横浜を銅版画で捉えた「横浜所会社諸商店之図」も興味深く、同じく横浜の誇る真葛焼の製造所を写した作品もありました。さらに意表を突くのが、4組のスキー板で、古いものでは昭和初期の木製もありました。何でも親子三代に渡って使用された板で、平成29年にコレクションとして受け入れられたそうです。まさか博物館でスキー板を見るとは思いませんでした。同館の幅広いコレクションの表れと言えるかもしれません。
開館時の県立博物館
最初のテーマは「ドームをつなぐ」で、神奈川歴博の建物を特徴付ける屋上のドームに関する資料を展示していました。言うまでもなく、神奈川歴博の旧館部分は、1904年に当時の横浜正金銀行本店として建てられました。その後、大正の関東大震災によるドームが焼失するものの、戦後も横浜正金銀行を受け継いだ東京銀行が、横浜支店として利用しました。そして1964年に神奈川県が買い取り、ドームの復元を行った上で、1967年に神奈川県立博物館として開館しました。現在は国の重要文化財の指定を受けています。
「横浜正金銀行本支店アルバム 竣工時の横浜正金銀行本店」からは、竣工時の銀行の姿を見ることが出来ました。また関東大震災での焼失の状況も写真で残されていて、開館時のパンフレット類を集めた「神奈川県立博物館開館記念アルバム」も重要な資料と言えるかもしれません。
また2004年には、当時の三菱東京銀行から12000点もの貨幣コレクションの寄贈を受けたそうです。その一部の小判なども展示されていました。
「ひとをつなぐ」で特に目立っていたのが、神奈川歴博の浮世絵コレクションの中核をなす丹波恒夫氏でした。横浜で貿易商を営んでいた同氏は、おおよそ70年に渡って浮世絵を収集し、約6000点にも及ぶ作品を残しました。とりわけ広重のコレクションで知られています。
その丹波氏のコレクションが一定数出ていました。うち目を引いたのは、横浜の異人を描いた「横浜渡来異商住家之図」で、5枚揃いであったものの、当初は4枚しかありませんでした。追加の1枚は、近年、博物館が入手したそうです。つまり丹波氏と博物館の双方の手を経て、全ての作品が揃ったわけでした。
「東海道分間絵図」も見どころの1つではないでしょうか。東海道を1万2千分の1に縮尺した街道絵図で、遠近道印が作成した分間図に、菱川師宣が風景を描いて完成させました。全部で5帖あり、長さは36メートルにも及び、そのうちの神奈川の部分が開いていました。
関東大震災の復興を期し、1935年に山下公園で開催された「復興記念横浜大博覧会絵葉書」も目を引きました。横浜の産業貿易を紹介した博覧会で、近代科学館や復興館、それに陸軍館などが作られました。延べ200万名を超える入場者を記録したそうです。大変な盛況だったに違いありません。
愛嬌があるのぉ。これは相州だるまといって、明治時代初期に群馬県高崎市や東京鍮の板が装着され、ヒゲを生やしているため、<金目だるま>や<ひげだるま>などと呼ばれ、全国的にも珍しいタイプのだるまなのじゃ。 pic.twitter.com/G3dLYQ2dZy
— 神奈川県立歴史博物館 (@kanagawa_museum) 2018年5月1日
「相州だるま」も異彩を放っていました。だるまで有名な高崎から平塚へ伝わったもので、長いひげや眉毛を特徴としています。ほかにも開港後の横浜を描いた「ご開港横濱之全圖」や、現在の京浜急行電鉄の前身の1つでもある湘南電鐡の「沿線案内図」なども興味深いかもしれません。当然ながら、横浜、神奈川に因む資料が目白押しでした。
当館の発掘で出土し、東北地方とのつながりを示唆した縄文土器 (横浜市梶山遺跡)
博物館の研究活動についても着目していました。考古資料の出土品をはじめ、調査目録、担当者メモ、遺物整理票、さらに未整理資料の入った木箱のほか、発掘のためのスコップ、聞き取り用の音声レコーダーまでが並んでいて、普段、一般にはおおよそ表に出ない資料も少なくありませんでした。
ラストは「未来をつなぐ」として、まさに今年収蔵されたばかりの「如来坐像」などが展示されていました。ともかく切り口が多様で、学芸員によるコメントも大変に力が入っていて、見せるだけでなく、読ませる展覧会と言えるかもしれません。作品同士の思わぬ邂逅も興味深く、時に刺激的でもあり、チラシ表紙の「名品展を超えてゆけ 館蔵品と若手学芸員の挑戦」もあながち誇張とは思えませんでした。
基本的に空調の工事のため、最初の展示室の天井部が変わった以外は、特に変更は見られませんでした。エントランスがLED化されたものの、展示室内の照明、ケースともに、以前と同一だそうです。
一方で、常設展は、新たにテーマ別にカラーでゾーニングされました。神奈川歴博の魅力は充実した常設にもあります。お見逃しなきようにおすすめします。
ちょうど開館日に出向いたゆえか、館内もなかなか盛況でした。
7月1日まで開催されています。
「神奈川県博開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」 神奈川県立歴史博物館(@kanagawa_museum)
会期:4月28日(土)~7月1日(日)
休館:毎週月曜日。但し4月30日は開館。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般600(550)円、20歳未満・学生400(350)円、65歳以上200(150)円、高校生100円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:横浜市中区南仲通5-60
交通:みなとみらい線馬車道駅3・5番出口徒歩1分。横浜市営地下鉄関内駅9番出口より徒歩5分。JR線桜木町駅、関内駅より徒歩10分。
「青山美術館通り」についていまトピに寄稿しました
ウォーキングと美術館!青山美術館通りを歩こう!!
https://ima.goo.ne.jp/column/article/5871.html
青山美術館通りとは、2012年3月、六本木通りと骨董通りを結ぶ道路が開通した際に付けられた通称で、国立新美術館近辺より、根津美術館、そして山種美術館までが一本の道路でつながっています。
実は開通後にも、拙ブログで一度、ご紹介したことがありましたが、今回改めて、六本木ヒルズより青山美術館通りを経て、根津美術館から山種美術館へと歩いてみました。
結果的に歩いた時間は全50分。道なりで3.5キロほどありました。六本木、及び根津美術館付近こそ、やや人の往来が多いものの、それ以外はほぼスムーズに歩くことが出来ました。また全線に渡り歩道も整備されているので、手軽なウォーキングコースとしても有用かもしれません。
いまトピでも触れましたが、青山美術館通り界隈の美術館を、1日で全て歩いて回るのは現実的ではありません。
よってこの日は、岡本太郎記念館の「太陽の塔 1967―2018―岡本太郎が問いかけたもの」と、ちょうど初日だった山種美術館の「琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ―」を鑑賞しました。感想は追ってブログにまとめる予定です。
ウォーキングと美術館!青山美術館通りを歩こう!! - いまトピ https://t.co/gO9jnyyM1z 六本木からミッドタウンを経由して、そこから道なりに根津、山種美術館へ歩いてきました。割とスムーズ。しかし界隈にはたくさん美術館などがあるものですね。青山霊園の新緑も鮮やかでした。
— はろるど (@harold_1234) 2018年5月18日
六本木から青山、ないし広尾界隈へのお出かけの際に参考にして下されば嬉しいです。
[青山美術館通りと周辺にある主な美術館]
森美術館 http://www.mori.art.museum/jp/
「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」4月25日(水)~ 9月17日(月)
サントリー美術館 https://www.suntory.co.jp/sma/
「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」4月25日(水)~7月1日(日)
21_21DESIGN SIGHT http://www.2121designsight.jp
「写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち」2月23日(金)~6月10日(日)
国立新美術館 http://www.nact.jp
「ルーヴル美術館展 肖像芸術」5月30日(水)~9月3日(月)
秋山庄太郎写真芸術館 http://akiyama-shotaro.com
「秋山庄太郎 やさしい花写真教室」3月4日(日)~7月1日(日)
根津美術館 http://www.nezu-muse.or.jp
「はじめての古美術鑑賞 漆の装飾と技法」5月24日(木)~7月8日(日)
岡本太郎記念館 http://www.taro-okamoto.or.jp
「太陽の塔 1967―2018―岡本太郎が問いかけたもの」2月21日(水)~5月27日(日)
國學院大學博物館 http://museum.kokugakuin.ac.jp
「狂言―山本東次郎家の面―」)5月26日(土)~7月8日(日)
実践女子学園 香雪記念資料館 http://www.jissen.ac.jp/kosetsu/
「記録された日本美術史」5月12日(土)~6月16日(土)
山種美術館 http://www.yamatane-museum.jp
「琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ―」5月12日(土)~7月8日(日)
東京都写真美術館 https://topmuseum.jp
「内藤正敏 異界出現」5月12日(土)~7月16日(月・祝)
「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容」 パナソニック汐留ミュージアム
「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容 ―メタモルフォーシス」
4/28~6/24
パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容 ―メタモルフォーシス」へ行ってきました。
キュビズムの創始者として知られるジョルジュ・ブラックは、晩年の一時期、立体作品の制作に取り組んだことがありました。
それが「メタモルフォーシス」で、オウィディウスの「変身物語」に登場する神々をテーマとし、グワッシュやリトグラフの平面から、陶磁器、ジュエリー、彫刻、室内装飾などに変容させながら、多様に立体作品を生み出していきました。
「青い鳥、ピカソへのオマージュ」 1963年 サン=ディエ=デ=ヴォージュ市立ジョルジュ・ブラック‐メタモルフォーシス美術館
ブラックが「メタモルフォーシス」を手がけたのは、亡くなる2年前の1961年のことでした。グワッシュの「青い鳥、ピカソへのオマージュ」は、絶筆とも言われています。ほかにも「メディアの馬車」や「トリプトレモス」などが制作され、のちの立体作品の下絵と化しました。また一連のグワッシュから派生した版画も作られました。
「ペルセポネ」 1961〜63年 サン=ディエ=デ=ヴォージュ市立ジョルジュ・ブラック‐メタモルフォーシス美術館
その主要なモチーフは、まず陶磁器に変容して現れました。例えば皿や壺、ピッチャーに、「ペリアスとネレウス」や「ペルセポネ」など、「メタモルフォーシス」にも登場した図柄が写されました。確かにモチーフは平面と立体でよく似ていて、互いに見比べるのも楽しいかもしれません。
「メタモルフォーシス」のハイライトはジュエリーでした。1961年、ブラックは、クリエイターのエゲル・ド・ルレンフェルドに、ジュエリーの制作を依頼しました。一連のジュエリーは実に自在な造形を見せていて、ギリシャ神話の女神の頭部や鳥などのモチーフを、巧みに落とし込んでいました。
「ヘベⅡ」 1961〜63年 サン=ディエ=デ=ヴォージュ市立ジョルジュ・ブラック‐メタモルフォーシス美術館
これらの作品は時のフランス文化大臣、アンドレ・マルローによって「ブラック芸術の最高峰」との評価を受け、1963年にはパリ装飾美術館でジュエリー展も開催されました。ブラックは単に二次元を三次元へ転化させただけでなく、「視覚による幸福を触覚に補いたい」(解説より)としていました。なおこの展覧会の約3ヶ月後、ブラックは81歳にて亡くなりました。
それにしても色に華やかで、造形の精緻な指輪やブローチは、実に魅惑的ではないでしょうか。神話のモチーフゆえか、どこか幻想的な作風も見せていて、キュビズムの画家であるブラックが、まさかこのようなジュエリーを手がけていたとは知りませんでした。
「セファレ」 1961〜63年 サン=ディエ=デ=ヴォージュ市立ジョルジュ・ブラック‐メタモルフォーシス美術館
ブラックの立体への関心はさらに彫刻へと拡大しました。先の陶磁器やジュエリーに用いたモチーフを、今度はガラスやブロンズへと変容させました。一際、目を引いたのは、ガラス彫刻の「セファレ」で、透明感のある水色のガラスに、ジュエリーにも登場した鳥のモチーフを重ねていました。
ラストは装飾パネルやモザイク、それにタピスリーなどの室内装飾でした。そもそもブラックは少年時代、家業を継いで装飾画家としての修行を積んでいて、かねてより室内パネルなどに惹かれては、職人と協同して作品を制作していました。それは「メタモルフォーシス」でも同様で、やはりギリシャ神話の神をモチーフにした、モザイクやタピスリーが作られました。
貴石とステンドグラスの双方の意味を持たせた、フランスで「ゲマイユ」と称される作品も鮮やかでした。会場の照明や映像による演出も効果的で、ジュエリーをはじめとした立体作品の魅力を見事に引き出していました。
「静物」 1911年 ストラスブール近現代美術館
言うまでもなく主役はジュエリーなどの装飾品で、冒頭に2点の油彩画こそ展示されているものの、ブラックの画業を俯瞰するような絵画展ではありません。
しかしそもそも日本で、「メタモルフォーシス」が公開されたこと自体が初めてでもあります。その意味では、ブラックの創作の一端を知る、重要な機会と言えるかもしれません。
フランス北東部の町、サン=ディエ=デ=ヴォージュにある、「ジョルジュ・ブラック‐メタモルフォーシス美術館」から多くの作品がやって来ました。同館は、ブラックの仕事を後世に伝えるため、ジュエリークリエイターのエゲル・ド・ルレンフェルドと、ブラックの専門家であるアルマン・イスラエルによって構想され、1994年に開館しました。
6月24日まで開催されています。
「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容 ―メタモルフォーシス」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:4月28日(土)~6月24日(日)
休館:毎週水曜日。但し5月2日は開館。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
*65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
*ホームページ割引あり
*5月18日(金)は国際博物館の日のため入館無料。
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分
定期講座「国宝 第3回 東山御物の美~銀閣寺と紅白芙蓉図を中心に」が開催されます
橋本麻里さんによる【神社仏閣めぐりの講座】。その第3回目が5/27に開催されます!
— 国宝応援団 (@kokuhou_project) 2018年5月16日
今回のテーマは「東山御物の美~銀閣寺と紅白芙容図を中心に~」。
『週刊ニッポンの国宝100』2冊を教材に、軽妙なトークと共に国宝をより詳しく学べるチャンスです! #国宝100 #国宝 #京都 https://t.co/aJsxA7WtFQ pic.twitter.com/0zLO1YZKaP
[定期講座「国宝 第3回 東山御物の美~銀閣寺と紅白芙蓉図を中心に」]
日時:5月27日(日) 13:30~15:30
会場:一ツ橋センタービル12階 千代田区一ツ橋2-4-6(小学館本社ビル裏)
講師:橋本麻里さん
参加費:2500円
教材:ニッポンの国宝100「第12号 銀閣寺/安倍文殊院 善財童子立像」、第29号「向源寺 十一面観音/紅白芙蓉図」付き
講座の概要は上記の通りです。永青文庫副館長で、日本美術に造詣の深い橋本麻里さんをお迎えし、「東山御物の美~銀閣寺と紅白芙容図を中心に」をテーマに講演いただきます。
[橋本麻里さんプロフィール]
日本美術を主な領域とするライター・エディター。公益財団法人永青文庫副館長。著書に『SHUNGART』『京都で日本美術をみる〔京都国立博物館〕』『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』。編著に『日本美術全集 第20巻』。
会場は神保町駅近くの小学館本社ビル裏、一橋センタービルの12階です。参加費は一人当たり2500円で、事前申込制となります。定員は200名で、上限に達し次第、受付終了となります。
【神社仏閣めぐりの講座】 『各回200名限定!じっくりたっぷり学びが深まる 定期講座「国宝」 教材2冊付き!』(クラブツーリズム)
「週刊ニッポンの国宝100 銀閣寺/善財童子立像/小学館」
なお講演に際して、小学館の「ニッポンの国宝100」の第12号「銀閣寺/安倍文殊院 善財童子立像」と、第29号「向源寺 十一面観音/紅白芙蓉図」が無料で配布されます。
「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/
国宝応援団twitter:https://twitter.com/kokuhou_project
国宝応援プロジェクトFBページ:https://www.facebook.com/kokuhouproject/
定期講座「国宝」は、これまでにも「奈良の世界遺産 法隆寺・東大寺」(3月21日)、「京都 王朝文化の輝き~平等院と三十三間堂」(4月21日)と、2回開催されて来ました。今後も全6回を予定し、「ニッポンの国宝100」に準拠しながら、毎月、様々な国宝を取り上げて講座が行われます。
「週刊ニッポンの国宝100 向源寺十一面観音/紅白芙蓉図/小学館
橋本麻里さんをお迎えしての「定期講座 国宝 第3回 東山御物の美~銀閣寺と紅白芙蓉図を中心に」。「ニッポンの国宝100」が2冊付いての講座です。銀閣寺や東山御物に関する詳しいお話が聞ける、絶好の機会ではないでしょうか。
講座の申し込みなどは下記リンク先をご参照下さい。
【神社仏閣めぐりの講座】 『各回200名限定!じっくりたっぷり学びが深まる 定期講座「国宝」 教材2冊付き!』(クラブツーリズム)
「週刊ニッポンの国宝100」(@kokuhou_project) 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。電子版は別価格。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」 サントリー美術館
「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」
4/25~7/1
サントリー美術館で開催中の「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」を見てきました。
清王朝の時代、中国ではガラス工芸が飛躍的に発展し、多くのガラス器が製作されては、のちにガレなどの西洋の芸術家にも影響を与えました。
その特徴として、「透明と不透明の狭間で、重厚で卓越した彫琢が際立つ」(解説より)とされています。それでは一体、どのようなガラスの作品が作られたのでしょうか。
一部の展示室の撮影が出来ました。
「紅色宝相華唐草文鉢」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) サントリー美術館
まず透明感があるのが、「紅色宝相華唐草文鉢」で、紅色に染まったガラスの側面に唐草文を浮き彫りし、胴の下部には蓮華文を象っていました。ともかく色味が美しく、光沢感もあり、まるで器自体が赤い光を放っているかのようでした。デコラティブな側面の彫刻も魅力と言えるかもしれません。
「黄色鳳凰文瓶」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) サントリー美術館
一方で、不透明であるのが、「黄色鳳凰文瓶」でした。濃い黄色を帯びた、首の長い一対の瓶で、表面には皇后を象徴するという鳳凰が尾を垂れる様子を表していました。浮き上がる彫刻は、玉細工の技法を応用していて、描線が切り立ち、ラインも明確に際立っていました。実に鮮やかではないでしょうか。
「乳白地多色貼獅子浮文扁壺」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) 東京国立博物館
さらに彫刻が際立つのが、「乳白地多色貼獅子浮文扁壺」で、乳白色ガラスと色の違うガラスを溶着させ、側面に赤や緑色の獅子のモチーフを彫っていました。おそらくは子宝祈願の意味が込められていて、背面には「大清乾隆年製」の銘が刻まれています。この乾隆帝の時代こそ、清朝ガラスが最も栄華を極めた時代でもありました。
そもそも清朝ガラスは、時の皇帝によって生み出されたものでした。1696年、康熙帝は紫禁城内に玻璃廠、すなわちガラス工房を築きました。ガラスの製造の技術はヨーロッパの宣教師が担当し、中国各地より職人が集められました。続く雍正帝の時代には、6箇所に窯が拡大し、多くのガラス器が作られました。
しかしこの時代のガラスには問題がありました。というのも、クリズリングとされるガラスの病気で劣化し、最後は崩壊してしまうからです。よって現在、康熙、雍正帝のガラス器は多く残っていません。「藍色大盤」に目が留まりました。確かにかなり病気が進行しているようで、元にあった藍色の部分は僅かに過ぎず、殆どが石のようにグレーに変化していました。
「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」会場風景
1740年、2人のフランス人宣教師が中国にやって来ると、乾隆帝はガラス製造の任務に当たらせました。彼らは約20年間も北京に滞在し、多様な技術をもたらした上、中国の職人らも競うかのようにガラス器を作りました。マーブル・グラスやエナメル彩なども発展しました。
「雪片地紅被騎馬人物文瓶」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) サントリー美術館
「雪片地紅被騎馬人物文瓶」も精緻な意匠を特徴としていて、細かい気泡のある雪片グラスの素地に、銅赤グラスを被せ、戦う2人の武人を彫り出しました。上部には山水の光景も広がり、下の武人から空間に奥行きを伴って表現されているかのようでした。
「青緑色長頸瓶」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) 東京国立博物館
シンプルな「青緑色長頸瓶」も美しいのではないでしょうか。不透明なエメラルドグリーンが素地で、やや乳白色を帯びているようにも思えました。瓶はかなり肉厚で、重厚感もあり、玉のような感触を見せていました。一般的にガラスといえば、繊細な工芸のイメージがあるかもしれませんが、清朝ガラスは造形として力強さがあるのも、特徴の1つと言えるかもしれません。
後半がガレでした。日本や中国のみならず、イスラムなどの美術の様式に関心のあったガレは、清朝ガラスにも興味を覚え、現在のヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で研究したほか、1885年にはベルリンの工芸美術館で300点もの調査を行いました。
ガレ作品と清朝ガラスを比較する展示も興味深いのではないでしょうか。例えばガレのお馴染みの「花器 蜻蛉」の蜻蛉が落ちる姿は、清の「蝶吉祥文鼻煙壺」と共通すると指摘しています。また「花器 蓮」における蓮の彫り方は、清朝ガラスの研究を踏まえているとも言われているそうです。
また清朝ガラスのほかにも、プロローグとして、戦国時代から前漢、後漢時代へと至る、古代中国のガラス類も紹介されていました。中国におけるガラスの起源は極めて古く、おおよそ紀元前5世紀から紀元前3世紀頃にはじまったとされています。同心円状の模様が広がる小さなトンボ珠のほか、精緻な細工のなされた「玉琉璃象嵌帯鉤」などに惹かれました。
ラストは「清朝ガラスの小宇宙」と題し、嗅ぎタバコを入れる鼻煙壺が並んでいました。いずれも手のひらに収まるほどに小さく、色も様々で、壺の表面には花鳥などの細かな装飾が施されていました。
「鼻煙壺」各種 中国・清時代
アメリカからヨーロッパを経て中国へ伝来したたばこは、清朝内でも流行し、宮廷内のガラス工房で数多くの鼻煙壺が作られました。実用品でありながら、コレクションとしての対象でもあり、贅を凝らしたものも少なくありません。その可憐な造形美にも魅せられました。
「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」会場風景
定評のあるサントリー美術館の立体展示です。いつもながらに照明も効果的で、ガラス器もより一層映えているように見えました。
\宝石のような輝き/展示室の入口で最初にお客様をお迎えするのがこちらの鉢。亀甲文のカットはまるで宝石のよう!これを見て正倉院の伝来品を思い出す方もいるのでは。乾隆帝のガラスにも同様の伝統が継承されています。 #清朝皇帝のガラスhttps://t.co/YVWt1hPDMl pic.twitter.com/ksL3LhJPwC
— サントリー美術館 (@sun_SMA) 2018年5月3日
7月1日まで開催されています。おすすめします。
「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:4月25日(水)~7月1日(日)
休館:火曜日。
*5月1日、6月26日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
*金・土および4月29日(日・祝)、5月2日(水)、3日(木・祝)は20時まで開館。
*5月26日(土)は六本木アートナイトのため24時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
「五木田智央 PEEKABOO」 東京オペラシティアートギャラリー
「五木田智央 PEEKABOO」
4/14~6/24
東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「五木田智央 PEEKABOO」を見てきました。
1969年に生まれ、イラストレーションから出発し、アメリカのサブカルチャーなどの雑誌や写真に着想を得て絵画を制作する五木田智央は、日本のみならず、ニューヨークやベルリンでも個展やグループ展に参加し、活動の場を広げてきました。
その五木田の新作を中心とした個展が、「五木田智央 PEEKABOO」で、本展のために描き上げた絵画を含め、約40点の作品が展示されていました。
五木田智央「Come Play with Me」 2018年
メインビジュアルを飾り、会場の冒頭に掲げられたのが、新作の「Come Play with Me」でした。ビキニ姿の女性が、笑いながら両手を上げていて、ダンスをしているのか、指先を鳴らしてリズムを取りながら、ステップを踏んでいるようにも見えました。素材はアクリルグワッシュで、色は五木田の絵画を特徴付けるモノクロームでした。筆触は滑らかで、動きがあり、腰や太もものの表現は肉感的で、量感にも秀でていて、幾分、写実を志向しているようにも見えました。
五木田智央「Nursery Staff」 2018年
一人の女性を正面から捉えた「Nursery Staff」も、同じくモノクロームながら、迫力のある作品で、シャツや顔面の白が際立ち、髪の毛の黒は艶やかでもありました。口をやや引き締めながらも、笑みをたたえていて、白い光を放つ眼差しには、何やら溢れんばかりの自信も感じられました。
五木田智央「Nursery Staff」(部分) 2018年
さらに細部へ近寄ると、五木田の筆遣いを目の当たりにすることが出来ました。白く塗り込めてシャツを象っているかと思いきや、素早く筆を動かしては、髪の流れる様を巧みに表現していました。また首から顎のあたりは、絵具が薄く重ねられ、ややぼかされているような部分もありました。
五木田智央「Holiday Flight」 2017年
デフォルメや歪み、また時にユーモアを見せる作品があるのも、五木田の作風の特徴かもしれません。「Holiday Flight」では、車の前で肩を寄せては並ぶ男女の姿を描いていますが、男性はまるで着ぐるみを付けたような顔を見せていました。
五木田智央「Lunch with the Emperor」 2018年
「Lunch with the Emperor」も面白い作品でした。窓を背にした室内での一コマを描いていますが、女性が真剣な眼差しを送る先に座るのは、何やら奇怪な動物のような男で、両手で肉片を思わせるように生々しい塊を持っていました。一体、両者は如何なる関係にあるのでしょうか。
五木田智央「Los Lobos」 2018年
また五木田は、大のプロレスファンでもあるそうです。おそらくプロレスラーを表した「Los Lobos」なども、その嗜好が表れた一枚と言えるかもしれません。
五木田智央「Gokita Recorda」 2002〜2018年
ラストには、プロレスラーをレコードジャケットのフォーマットに描いた連作が並んでいました。2002年から今年かけて制作されたもので、全225点もあり、名前と似顔絵、また実在の楽曲のタイトルが記されていました。レスラーと楽曲とには特段の関係はありませんが、プロレスと音楽の意外な組み合わせも、また魅力ではないでしょうか。
五木田智央「Gokita Recorda」 2002〜2018年
私が五木田の作品を初めて見たのは、2012年にDIC川村記念美術館で行われた「抽象と形態:何処までも顕れないもの」でした。7名の現代美術家を紹介する展覧会で、当時、最年少だった五木田も参加していました。その後、同じくDIC川村記念美術館にて、大規模な個展となる「五木田智央 THE GREAT CIRCUS」(2014年)も開催されました。もちろん見に行きました。
五木田智央「Untitled」
今回も旧作も出展されていますが、特に新作については、以前よりもかなり具象性が増したのではないでしょうか。まるで各々の絵画が映画のワンシーンのようであり、つなぎ合わせると何らかの物語が生まれるかのようでした。
【五木田智央 PEEKABOO】お待たせいたしました!一時品切れしておりました展覧会オリジナルTシャツ3種本日入荷しました!! pic.twitter.com/WIDcUweTgm
— gallery 5 (@gallery_5) 2018年5月3日
会場内の撮影が出来ました。スマホでも撮影可能ですが、原則、シャッター音はNGです。ご注意下さい。(収蔵品展、及びproject Nは撮影不可。)
「五木田智央 PEEKABOO」会場風景
五木田展に続く、収蔵品展の「日常生活|相笠昌義のまなざし」が大変に充実していました。寺田コレクションに加え、神奈川県立近代美術館や個人蔵など、約80点の相笠の油彩画やエッチングが一堂に会していました。あわせてご覧になられることをおすすめします。
五木田智央「150 Beautiful Girls in Action Tonite」 2000年
6月24日まで開催されています。
「五木田智央 PEEKABOO」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:4月14日(土)~6月24日(日)
休館:月曜日。
*但し4月30日は開館。
時間:11:00~19:00
*金・土は20時まで開館。
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
* 同時開催の「収蔵品展062 日常生活|相笠昌義のまなざし」、「project N 71 平子雄一」の入場料を含む。
*( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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