鎌倉のあじさい寺「明月院」へ。3年ぶりに6月中の土日も開門します

鎌倉の古刹であじさいの名所として知られる明月院。境内に咲くあじさいは数千本にも及ぶとされ、特に見頃の6月には毎年多くの人々で賑わってきました。



しかしコロナ禍において密集や混雑を避ける観点から、一昨年と昨年の6月の土日は閉門となったため、拝観は平日に限定されていました。

それが今年は3年ぶりに6月の土日も開門し、平日ともに8:30より17:00まで拝観することができます。(最終受付は16:30まで)



先日、神奈川県立近代美術館鎌倉館の『松本竣介展』へ出向いた際、北鎌倉へと足を伸ばして、明月院にも少し立ち寄ってみました。



総門左手の拝観口より境内に入り、桂橋を渡ると、山門前の参道の両脇に植えられたたくさんのあじさいが目に飛び込んできました。しかしまだ5月末だったゆえか色づいている花はさほど多くなく、やはり見頃は6月に入ってからのようでした。



明月院の創建は今から約860年前の1160年、この地の武将で平治の乱で戦死した山内首藤俊通の菩提供養にため、俊通の子が明月庵を建立したことにさかのぼります。そして約100年後の1256年には、鎌倉幕府の執権だった北条時頼によって、同じ地に最明寺が建立されました。しかし時頼の死後は廃絶しました。



すると時頼の子、時宗は、蘭渓道隆を開山とし、最明寺を前身とした禅興寺として再興させます。そして1380年には関東管領の上杉憲方が伽藍を整備し、寺域を拡大させると、足利義満の時代には関東十刹の一位となりました。この時に明月庵は支院の首位として明月院と改められます。



さらに時代が進むこと明治時代、禅興寺は明治初年に廃寺となります。そして現在に至るまで明月院だけが残されました。



明月院はあじさいだけでなく、枯山水公園や開山堂、また明月院やぐら、さらにはハナショウブ開花期と紅葉の時期のみ公開される本堂奥の庭園など見どころが少なくありません。



今年の6月は久しぶりに土日も多くの人々が明月院のあじさいを愛でることになりそうです。



最新の拝観、および開花情報について鎌倉観光公式ガイド、または鎌倉市観光協会のTwitter(@kamakura_kyokai)をご覧ください。

「明月院」
拝観料:高校生以上500円、小中学生300円。
 *本堂奥庭園公開:拝観料と改めて500円。
拝観時間:9:00〜16:00
 *閉門は16:30
 *6月は8:30〜17:00
住所:神奈川県鎌倉市山ノ内189
電話:0467-24-3437
交通:JR線北鎌倉駅より徒歩10分。
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『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞』 神奈川県立近代美術館鎌倉別館

神奈川県立近代美術館鎌倉別館
『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞ー 触れえないものたちへ』
2022/4/29~5/29



神奈川県立近代美術館鎌倉別館で開催中の『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞ー 触れえないものたちへ』を見てきました。

1912年に生まれた松本竣介は、画家を志して少年時代を過ごした岩手から東京へ出ると、1935年に二科展に入選するなどして活動しました。

その松本の生誕110年を期したのが今回の展覧会で、松本の油彩と素描25点と、自ら創刊に携わった『雑記帳』の原画が展示されていました。

まず目を引くのが一連の松本の油彩で、代表作の『立てる像』では鉛筆による下絵とあわせて並んでいました。

『橋(東京駅裏)』は1942年、かつての東京駅の外堀にかかっていた橋をやや俯瞰するように描いた作品で、東京駅前という都心にもかかわらず橋にはただの一人も歩いていませんでした。また澱んだような堀の水や灰色がかった白い空は不穏な気配を醸し出していて、明るい光を灯すモダンな電灯でさえ物悲しく思えました。こうした一抹の寂寞感を覚えるのも松本の風景画の独自の魅力かもしれません。

この松本の回顧展で興味深いのは、1935年に結婚し、妻となった禎子とともに創刊した雑誌『雑記帳』の挿絵原画が公開されていたことでした。

そこには創刊号の猪熊弦一郎や難波田龍起、第2号の里見勝蔵や靉光、そして最終号に当たる第14号の鳥海青児といった31作家が、全14冊に挿絵を描いていて、いずれも各画家の作風などが滲み出るように表れていました。この『雑記帳』は資金不足により、創刊からわずか2年後の1937年に廃刊となってしまいましたが、1948年で若くして亡くなった松本の人生を鑑みても、彼にとって重要な仕事の1つだったといえるかもしれません。また松本と作家がやりとりする手紙などの資料も紹介されていて、彼らの交流を伺い知ることもできました。

この松本の展示にあわせて同時に開かれているのが、1992年に生まれた若い世代の作家、堀江栞による『触れえないものたちへ』と題した個展でした。多摩美術大学にて日本画を学んだ堀江は、その後、五島記念文化賞を受賞すると、今年のVOCA展では『後ろ手の未来』が佳作賞を得るなどして評価されてきました。

会場では植物や動物、それに人物などを岩絵具で描いた30点の作品が並んでいて、あたかも鎌倉の岩肌を連想させるようなざらりとした重厚な質感を放っていました。


堀江栞『後ろ手の未来』 *『VOCA展2022』(撮影可)での展示風景。神奈川県立近代美術館鎌倉別館での撮影はできません。

中でも心を奪われるのは『後ろ手の未来』といった人物の絵画で、いずれもやや上目遣いながらも前を見据え、うちに秘めた強い意志を滲みさせつつも、うつろな表情を見せていました。そこには確かに人の重みが感じられるものの、どことない不安感や存在の危うさを喚起させるのも不思議でなりませんでした。


松本竣介は2012年に油彩120点超をはじめとした大回顧展(*)が開かれていて、その時と比べるとかなり小規模であるのは否めませんが、今回の『雑記帳』に焦点を当てたオリジナルな構成や、若手作家堀江栞の作品も見応えがあり、想像以上に充実していました。*岩手県立美術館、神奈川県立近代美術館葉山館、宮城県美術館、島根県立美術館、世田谷美術館にて開催。



会期末の駆け込みでの観覧となりました。5月29日まで開催されています。

『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞ー 触れえないものたちへ』 神奈川県立近代美術館鎌倉別館@KanagawaMoMA
会期:2022年4月29日(金・祝)~5月29日(日)
休館:月曜日。
時間:9:30~17:00。 *入館は16時半まで
料金:一般700円、20歳未満・大学生550円、65歳以上350円、高校生100円。中学生以下無料。
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1
交通:JR線・江ノ島電鉄線鎌倉駅より徒歩約15分。鎌倉駅東口2番のりばから江ノ電バス(大船駅・上大岡駅・本郷台駅行き)に乗車(約5分)し、八幡宮裏にて下車、徒歩2分。
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東京国立博物館にて『特別展「琉球」』が開催されています

今年復帰50年を迎え、琉球と沖縄の文化を紹介する『特別展「琉球」』が、東京国立博物館にて行われています。



『特別展「琉球」』の見どころについてWEBメディア「イロハニアート」へ寄稿しました。

海に囲まれた沖縄の豊かな文化と未来へつなぐ取り組み。『特別展「琉球」』 | イロハニアート

まず充実しているのは、琉球王国の活況を伝える記録や交易でもたらされた品々などで、とりわけ首里城の聖域とされる京の内より出土した中国の元時代の陶磁器に目を引かれました。

これに続くのが、琉球を長く治めた国王尚氏に由来する宝物や書画の展示で、王府の祭祀儀礼に使われた漆器や色とりどりのガラス小玉を麻糸で綴ってかぶせた『御玉貫』と呼ばれる酒器などに心を奪われました。



また琉球を代表する紅型も数多く出展されていて、赤から黄色、さらに青系統と色とりどりの紋様が広がるすがたを見ることができました。



ハイライトと言えるのが、尚家に伝わる宝物のうち、2006年に一括して国宝に指定された「尚家宝物」と呼ばれる一連の文化財でした。ここでは王家のみが着用が許された黄色の紅型、また螺鈿を施した刀剣、さらにる東道盆と呼ばれる蓋つきの容器などが並んでいて、琉球の高い美意識と工芸技術を伺うことができました。



琉球列島の先史文化や、島々に暮らす人々の信仰についても見るべき点が多いかもしれません。いわゆる「貝の文化」における貝を用いた道具のほか、島に根ざした独自の信仰のあり方についても資料を交えて紹介していました。



さて今回の琉球展で特に印象に深かったのは、失われた文化財を復元する取り組みについてでした。琉球はいわゆる明治の近代化において沖縄となりましたが、その際も古来の文化や風習は日本と異なるとして、変えるべきものと位置付けられることがありました。

そして第二次世界大戦においては凄惨な地上戦が行われると、実に当時の人口の4人に1人とも言われる12万名の県民が亡くなっただけでなく、首里城をはじめとする多くの文化財が失われました。

戦争で破壊された文化財は生き残った人々によって拾い集められ、残欠として沖縄県立博物館・美術館の収蔵庫に保管されてきましたが、2015年度から「琉球王国文化遺産集積・再興事業」として約65件の文化財復元模造製作が行われました。


そうした復元模造された文化財、および損傷した文化財なども公開されていて、琉球や沖縄の文化を未来につなげる取り組みについて知ることができました。戦争で失われた文化財の数を考えれば、まだまだ少ないかもしれませんが、今後も継続していくためにも重要な試みといえるのではないでしょうか。



なお会期中、第2会場の「国宝 尚家宝物コーナー」の撮影が可能です。(本エントリ掲載写真も撮影OKコーナーより)



事前予約は不要です。6月26日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、九州国立博物館(2022年7月16日~9月4日)へと巡回します。

『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』@ryukyu2022) 東京国立博物館 平成館(@TNM_PR
会期:2022年5月3日(火) ~ 2022年6月26日(日)
休館:月曜日
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2100円、大学生1300円、高校生900円、中学生以下無料。
 *当日に限り総合文化展も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
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『ラシード・ジョンソン「Plateaus」』 エスパス ルイ・ヴィトン東京

エスパス ルイ・ヴィトン東京
『ラシード・ジョンソン「Plateaus」』
2022/4/27~9/25



エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中の『ラシード・ジョンソン「Plateaus」』を見てきました。

1977年生まれのアメリカ人アーティスト、ラシード・ジョンソンは、彫刻、絵画、ドローイング、インスタレーションなどさまざまな手法を用い、アメリカとアフリカといった自らのルーツや政治や哲学などをテーマとした作品を発表してきました。

そのジョンソンの日本での初めての展示が『Plateaus』とした個展で、スチールキューブによる構造物と観葉植物などからなる表題の作品を公開していました。



ともかく目を引くのはジャングルジムのような構造物で、中には多くの鉢とともに観葉植物が山を築くかのように並んでいました。



こうした観葉植物とともに置かれていたのは、書物や陶器、それに絨毯に無線機器やシアバターにて作られた彫刻などで、一部はライトに照らし出されていました。

それらは自身と家族といったパーソナリティーの物語や、自らのルーツであるアフリカの文化や歴史に由来するもので、あたかもパズルのように組み合わされていました。



食用や薬、また石鹸やクリームなどに配合されるシアバターとは、ナイジェリアやガーナといったアフリカを原産とする素材で、ジョンソンはシアバターについて「体に塗ること、そして、それを塗ることでアフリカ人らしさの獲得に失敗することを物語ります。」と語っていました。


またジョンソンは『Plateaus』をある意味で自画像であり、すべての素材が異種混合するためのプラットフォームであるとも定義づけていました。そこには自らのアイデンティティをたどり、また見つめ直そうとするアーティストのスタンスも垣間見られるかもしれません。



なお『Plateaus』の植物に関しては、日々、専門のスタッフが水やりなどでケアしていくそうです。とすれば会期が進むにつれて植物も成長し、会場の雰囲気も変わっていくのかもしれません。

9月25日まで開催されています。

『ラシード・ジョンソン「Plateaus」』 エスパス ルイ・ヴィトン東京
会期:2022年4月27日(水)~9月25日(日)
休廊:不定休
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩約3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩約10分。
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東京都美術館にて『THE GREATS 美の巨匠たち』が開催されています

スコットランドの政治と文化の中心、エディンバラに位置するスコットランド国立美術館。1859年の開館から、西洋絵画のオールドマスターをはじめ、スコットランドやイングランドの画家の作品がコレクションされ、多くの人々の目を楽しませてきました。



そのスコットランド美術館のコレクションを紹介する『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』について、見どころをイロハニアートへ寄稿しました。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート | イロハニアート

まず『THE GREATS 美の巨匠たち』の大きな特徴は、ルネサンスからバロック、それに18世紀から印象派への時代へと至る西洋絵画史を93点のコレクションでたどれることで、とりわけベラスケスやブーシェ、またモネにゴーガンなどに魅惑的な作品も少なくありませんでした。

そのうちのベラスケス『卵を料理する老婆』は、実に画家の10代の時の絵画で、文字通り卵を手にした老婆が料理するすがたを表していました。ここでは少年の肌や衣服の質感はもとより、卵の白身が固まりつつある光景などを見事に描き分けていて、若きベラスケスの高い画力を伺い知ることができました。



こうしたマスターピースとともに見逃せないのは、ゲインズバラ、レノルズ、ブレイク、コンスタブルといったイングランド出身と、レイバーン、ラムジー、ウィルキーなどスコットランド出身の画家の絵画でした。

中でも見応えがあるのが、18世紀のイギリスを代表する肖像画家として活躍したジョシュア・レノルズの『ウィルドグレイヴ家の貴婦人たち』で、絹レースに取り込む若い3姉妹を繊細なタッチにて描いていました。三美神を思わせるような優雅な世界が画面全体に広がっていて、展覧会のハイライトと呼んでも過言ではありませんでした。

水彩を国民的芸術へと引き上げたイギリスだけに、水彩にも見ておきたい作品が少なくありませんでした。ジョン・ロバート・カズンズの『カマルドリへの道』は、ナポリ周辺の雄大な風景を鳥瞰して描いた水彩で、瑞々しく淡い色彩はもちろん、ロマンティックな夢のような雰囲気も魅力的でした。



ラストを飾るフレデリック・エドウィン・チャーチの「『アメリカ側から見たナイアガラの滝』も迫力十分ではないでしょうか。アメリカの風景画家、チャーチがナイアガラの滝を大きく描いた絵画で、アメリカで財を成したスコットランド人が、国立美術館へと寄贈し、同館のコレクションとして収められました。

入場はオンラインでの日時指定予約制です。ただし予約枠に余裕がある場合は、当日券も美術館の窓口にて販売されます。混雑状況などは展覧会のTwitterアカウント(@greats2022)をご参照ください。


ゴールデンウィーク期間中のお休みに改めて出向いてきましたが、はじめの方の展示室を中心に館内はなかなか盛況でした。ひょっとすると会期後半にかけて混み合うかもしれません。



7月3日まで開催されています。なお同展は東京での会期を終えると、以下のスケジュールで神戸、北九州へと巡回します。

兵庫:神戸市立博物館 2022年7月16日(土)~9月25日(日)
福岡:北九州市立美術館 2022年10月4日(火)~11月20日(日)

*一番上のパネル写真は内覧会時に許可を得て撮影。

『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』@greats2022) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2022年4月22日(金)~7月3日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
料金:一般1900円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1400円、高校生以下無料。
 ※オンラインでの日時指定予約制。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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『佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー

ギンザ・グラフィック・ギャラリー
『佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉』
2022/5/16~6/30



ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の『佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉』を見てきました。

1955年に生まれたデザイナーの佐藤卓は、1984年にデザイン事務所(現在のTSDO)を設立すると、ロッテ キシリトールガムや明治おいしい牛乳のパッケージデザイン、さらには金沢21世紀美術館のシンボルマークを手がけ、21_21 DESIGN SIGHTの館長を務めるなど幅広く活動してきました。



その佐藤とデザイン会社TSDOとしての仕事を紹介するのが『佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉』で、会場には佐藤による作品のほか、企業パッケージや広告ビジュアルなどが紹介されていました。



まず1階に展示されたのが、佐藤が自発的に制作してきた作品で、いずれも2004年のgggでの展覧会以降に手がけられたものでした。そのうち目立っていたのが「ひらがな立体」で、文字通りひらがなのかたちを立体化した作品でした。



これは3Dデータに基づき、紙を断裁しながら貼り付けて立体にした「紙の化石」と同じマシンを用いて制作したもので、触ることは叶わないものの、手触り感とでも呼べるような温もりが感じられました。



「MILK」は2021年に発表された作品の一部で、牛乳パッケージのデザインをもとに、立体化して壁一面へと広げたオブジェでした。



一方で地下にて紹介されていたのが、TSDOとしての仕事である企業などのパッケージデザインでした。ここには初期に関わったニッカピュアモルトにはじまり、生茶、エリエール、エスビー食品スパイス&ハーブのパッケージから書籍なども並んでいて、それこそ日々の食卓にて利用されるような極めて身近な商品も少なくありませんでした。



またいずれのパッケージにもデザインに際してのコンセプトなどが記されていて、どのようなアイデアからデザインが生み出されたのかについて知ることも出来ました。



そこでは重要なのは、生活にデザインを根ざしていこうとする試みで、単に洗練でかつモダンで美しいことよりも、例えば商品の情報や魅力をどのように伝えるのかや、いかに手にとってもらうかなどに力点が置かれていることでした。またデザインの行く末として、使用後の再利用を踏まえたパッケージデザインがあるのも興味深いかもしれません。


佐藤は自著『塑する思考』おいて、デザインを特別なものではなく、「日常ありとあらゆるところに隠れている」と述べているそうですが、まさに日々の暮らしの中に根ざすようにデザインが潜んでいることを目の当たりに出来ました。



6月30日まで開催されています。

『佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー@ggg_gallery
会期:2022年5月16日(月)~6月30日(木)
休廊:日曜・祝日。
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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『KAAT EXHIBITION 2022 鬼頭健吾展|Lines』 KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・アトリウム
『KAAT EXHIBITION 2022 鬼頭健吾展|Lines』 
2022/5/1~6/5



KAAT神奈川芸術劇場で開催中の『KAAT EXHIBITION 2022 鬼頭健吾展|Lines』を見てきました。

1977年に生まれた現代アーティストの鬼頭健吾は、フラフープやスカーフ、蛍光灯といった既製品などを用いた作品で知られ、国内外の展覧会に参加するなどして活動してきました。

その鬼頭が高さ30メートルのアトリウム空間に挑んだのが『KAAT EXHIBITION 2022 鬼頭健吾展|Lines』で、カラフルな角材を用いたインスタレーションを公開していました。



ともかく目を引くのはアトリウムを彩るかのように浮かぶ200本もの角材で、イエローやブルー、グリーンなどさまざまな色に塗られていました。



いずれの角材の長さは約4メートルほどで、天井から細いロープによって吊り下がっていました。また床面には角材に呼応するかのようにイエローやグリーン、それにストライプ状の布も敷かれていて、空間全体が鮮やかな色彩に染まっていました。



今回の展示で面白いのは、一連のインスタレーションを異なった場所、ないし高さから鑑賞できることでした。1階にて下から見上げるだけでなく、大ホールのある5階へとエスカレーターにて移動し、ロープにて角材が吊されるようすを見下ろすのも楽しいかもしれません。



1本1本の角材は一見、木で作られているように見えましたが、実は角紙管という素材で出来ていました。これは日本化工機材株式会社によるリニア紙管と呼ばれる製品で、木材に比べて軽くて安全性が高いのはもちろん、反ることもなく、強度も十分であることから、今回のインスタレーションに採用されました。鬼頭としても初めて用いる素材だったのではないでしょうか。

『KAAT EXHIBITION 2022』とは、同劇場が現代美術と劇場空間を融合させつつ、新たな表現を生み出そうと毎年開いてきた展覧会で、過去にさわひらきや小金沢健人、志村信裕などが作品を公開してきました。



いずれの展示も主に劇場内の中スタジオにて行われてきましたが、今回は初めてアトリウムが会場に選ばれました。外の光も差し込む開放的な空間ならではのインスタレーションといえるかもしれません。華やかで祝祭的な雰囲気も感じられました。

Penオンラインでも展示の様子をご紹介しました。


今年の『KAAT EXHIBITION』の作家は誰? 色彩のシャワーが劇場へと降り注ぐ作品が展示|Pen Online

会期中は無休です。6月5日まで開催されています。

『KAAT EXHIBITION 2022 鬼頭健吾展|Lines』 KAAT神奈川芸術劇場・アトリウム(@kaatjp
会期:2022年5月1日(日)~6月5日(日) 
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00 *夜公演がある日は終演時刻まで
料金:無料 *有料プログラムあり
住所:横浜市中区山下町281
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約5分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。
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『コジコジ万博』 PLAY! MUSEUM

PLAY! MUSEUM
『コジコジ万博』
2022/4/23~7/10



PLAY! MUSEUMで開催中の『コジコジ万博』のプレス内覧会に参加してきました。

さくらももこ原作の漫画『コジコジ』は、メルヘンの国を舞台としながら、ナンセンスなギャグなどで人気を集め、アニメーション化されるなど世代を超えて愛されてきました。

そのコジコジを初めてテーマとした展覧会が『コジコジ万博』で、会場には漫画の原画からこま撮りアニメ、さらにはコジコジの世界を体感的に楽しめるインスタレーションが公開されていました。


「ギャグ50連発」

ゲートをくぐり抜けて最初に広がるのが「ギャグ50連発」とした空間で、巨大なコジコジが名言やギャグなどを話していました。またここではコジコジ以外のキャラクターもすがたを見せていて、漫画『コジコジ』の世界の中へと入り込んだかのようでした。


「コジコジと仲間たち」

「ギャグ50連発」に続くのが「コジコジと仲間たち」で、学校の教室をイメージした空間に、『コジコジ』に登場する24名のキャラクターが漫画原稿とともに紹介されていました。

それぞれのユニークな性格もさくらももこ自身の言葉について解説されていて、『コジコジ』を知っていても知らなくても楽しめるように工夫されていました。


特別アニメ「コジコジと次郎の不毛な会話」

コジコジの教室の先には特別アニメ「コジコジと次郎の不毛な会話」が映されていて、コジコジと次郎くんが歩きながら噛み合わない会話をするすがたをこま撮りにて表現していました。


特別アニメ「コジコジと次郎の不毛な会話」から人形

これはNHKキャラクターの「どーもくん」などで知られるアニメ制作スタジオドワーフが手がけたものので、初めて『コジコジ』がこま撮りとして映し出されました。またあわせて撮影に用いた人形も展示されていて、映像と見比べることもできました。


「エモーショナルフレンズヒーリングゾーン」

野外シネマをイメージしたヒーリングゾーンを抜けた先に広がるのが、今回の『コジコジ万博』の核心ともいえる「原画で読む名場面8」でした。


「原画で読む名場面8」

ここには「まほうの練習の巻」や「海水浴へ行こうの巻」などの『コジコジ』の8つの場面をすべて原稿にて紹介されていて、漫画のストーリーを原画にてたどることができました。原画ならではの繊細な色使いや筆触なども見どころではないでしょうか。


「ディスコ☆ポケット カウボーイ」

「ディスコ☆ポケット カウボーイ」はテレビアニメ『コジコジ』のエンディング映像に入り込めるインスタレーションで、 第1話〜第66話のエンディングテーマ曲である電気グルーヴ「ポケット カウボーイ」にあわせて踊ることもできました。


「物知りじいさんの湖」

130点の原画にじっくり見入りつつ、まるで万博のパビリオンが続くようなインスタレーションを楽しむような展示といえるかもしれません。また会場のあちこちからコジコジの声が聞こえてくるのも面白く感じました。


「ギャグ50連発」から

かわいらしく、すべてを笑いに優しく包み込んでいきながらも、時にシュールで既存の概念を覆していくような『コジコジ』の物語世界を存分に味わうことができました。


『コジコジ万博』会場入口

1時間毎の日時指定制が導入されました。あらかじめ入館時間をWEBにて予約する必要があります。


時間枠に空きがある場合のみ当日券も販売されますが、すでに土日については午前から夕方にかけて事前に完売する状況が続いています。当日券の販売の有無については公式ツイッターにてご確認ください。

Penオンラインでも展示の内容についてご紹介しました。


史上初めての開催!東京・立川のPLAY! MUSEUMへコジコジとゆかいな仲間たちに会いに行こう|Pen Online


『コジコジ万博』展示風景

原画以外の撮影も可能です。7月10日まで開催されています。

『コジコジ万博』 PLAY! MUSEUM@PLAY_2020
会期:2022年4月23日(土)~7月10日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00
 *入場は閉館の30分前まで
料金:一般1500円、大学生1000円、高校生800円、中・小学生500円、未就学児無料。
 *日時指定制。立川割あり。
住所:東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3 2F
交通:JR立川駅北口・多摩モノレール立川北駅北口より徒歩約10分
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『ボテロ展 ふくよかな魔法』 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
『ボテロ展 ふくよかな魔法』
2022/4/29~7/3



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『ボテロ展 ふくよかな魔法』を見てきました。

1932年にコロンビアにて生まれた美術家、フェルナンド・ボテロは、1950年代の半ばよりボリュームのある形態で対象を描き出すと、独特の絵画表現にて評価されてきました。

そのボテロの生誕90年を期して開かれたのが『ボテロ展 ふくよかな魔法』で、会場には近年の作品を中心に、油彩、水彩、素描のあわせて70点が公開されていました。

まず初めは若きボテロの作品で、まだ17歳の時の『泣く女』や20代にして描いた『バリェーカスの少年(ベラスケスにならって)』などに目を引かれました。

この『泣く女』にもすでにボリュームへの関心を見て取れましたが、20歳にしてヨーロッパへと渡ったボテロは、特にイタリアにおいてクワトロチェントの絵画や、ロベルト・ロンギといった理論家の著述を通じ、自らの絵画の基盤を形成していきました。

それに続くのが果物や楽器といった静物の作品で、いずれもバルーンに空気を送ったようなふくらんだすがたを見せていました。1956年にボテロは、アトリエでマンドリンを描き、マンドリンの穴を小さく表すと楽器がふくらんで見えたとしていて、いわゆる「ふくらみ」のボテロの様式が構築されていきました。

ボテロの作品のモチーフとして重要なのは、聖母や守護天使といった信仰と、故郷のコロンビアの人々の暮らしなどを表したラテンアメリカの世界でした。そもそもボテロの創作には青年時代の記憶が活動の主題となっていて、例えば司祭らは、ボテロが故郷で生きた1930年から40年代において突出した地位にありました。

また2006年にメキシコ南部の都市、シワタネホにてサーカスに出会うと、サーカスの役者らを主題とした作品を描くようになりました。


『ルーベンスと妻』 2005年

ボテロは1950年代に欧州へ渡航して以来、ベラスケスやヤン・ファン・エイク、それにレオナルド・ダ・ヴィンチといった美術史における重要な芸術家の作品を引用していて、いずれも「ふくらみ」の様式にて絵画へと表しました。


『モナ・リザの横顔』 2020年

そもそもボテロが注目を集めるきっかけとなったのは、1963年にメトロポリタン美術館で『モナ・リザ』が公開された際、ボテロの『12歳のモナ・リザ』がニューヨーク近代美術館にて紹介されたことで、今回も2020年に改めてモナ・リザを表した『モナ・リザの横顔』が展示されていました。


『アングルによるモワテシエ夫人にならって』 2010年

一連のふくらみの絵画を追っていて印象に深いのは、丸みを帯びたフォルムが醸し出す安定感、ないし包容力と、鮮やかな色彩をともないながらも、意外とマットな質感を見せていたことでした。


『アルノルフィーニ夫妻(ファン・エイクにならって)』 2006年

『アルノルフィーニ夫妻(ファン・エイクにならって)』は、初期フランドル美術の傑作『アルノルフィーニ夫妻像』を参照したもので、どこか神秘的な同作の絵画世界がふくらみによってユーモラスに表現されていました。人々の顔にほとんど表情がないのにもかかわらず、人懐っこいような親しみを覚えるのも不思議な魅力といえるかもしれません。


『ピエロ・デラ・フランチェスカにならって(2点組)』 1998年

第6章「変容する絵画」の一部作品に限り、撮影が可能でした。また5月中の金曜・土曜日の17時以降は、展示室内の全作品の撮影ができます。(混雑時には制限する場合あり。)


会期中のすべての土日祝日は、事前にオンラインによる入館日時予約が必要です。


『小さな鳥』 1988年 広島市現代美術館

入口近くの屋外にボテロのかわいらしい立体作品、『小さな鳥』が展示されていました。お見逃しなきようご注意ください。

7月3日まで開催されています。

『ボテロ展 ふくよかな魔法』@botero2022) Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:2022年4月29日(金・祝)~7月3日(日)
休館:5月17日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜と土曜は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・高校生1100円、中学・小学生800円。
 *会期中の土日祝はオンラインによる入場日時予約が必要。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分
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『小さい頃は神様がいて: 堀越達人』 Kanda & Oliveira

Kanda & Oliveira
『小さい頃は神様がいて: 堀越達人』
2022/4/20~5/14



Kanda & Oliveiraで開催中の『小さい頃は神様がいて: 堀越達人』を見てきました。

1985年生まれのアーティスト、堀越達人は、少年や少女をモチーフとしたポートレイトなどを手がけ、国内外にて展示を行ってきたほか、中之条ビエンナーレに参加するなどして活動してきました。



その堀越の新作を中心とした個展が『小さい頃は神様がいて』で、主に2021年と今年に描かれた絵画といった38点の作品が公開されていました。



まず目を引くのが少年たちのポートレイトで、ぼんやりと毛布にくるまって前を見ていたかと思いきや、完全に後ろ姿であったり、中には目隠ししているなど、はっきりと表情を伺える人物は多くありませんでした。



それに街角を歩いているすがたながらも、夢の中を覗き込むような幻想的な雰囲気も感じられて、現実と夢がないまぜになっているような世界が広がっていました。



またトイピアノやお化けのようなオブジェ、それに誰もいないベッドなども置かれていて、一連のポートレイトとともに、たとえば少年時代の記憶をもとにした物語を追っているような気持ちにさせられました。



半地下のような1階から開放感のある3階へと至る、ギャラリーの複層的なフロアをうまく活かした展示だったかもしれません。まるで子どもの頃に歩いた知らない道や、友達と出かけた公園での出来事を連想させるようなノスタルジックな雰囲気も魅力に思えました。



さて会場のKanda & Oliveiraですが、今年2月、千葉県船橋市にオープンしたばかりの新しいギャラリーです。



これは不動産を手がける株式会社西治が、創業の地に建てたもので、日本人ディレクターの神田(西治コレクション創設者)とフランス人マネジャーのウリエズ(オリヴェラは母の姓)が掲げる「多文化間の対話を促進する」というヴィジョンの元に生まれました。



黒いぶし瓦の外観と7つののこぎり状の屋根を組み合わせた建築を特徴としていて、3つのフロアには一部に窓も設置されるなど、自然光を取り入れた内部空間が築かれています。(1階展示室の入口の段差にご注意ください)



最寄駅はJR線、東京メトロ東西線の西船橋駅で、北口から千葉街道(国道14号)を東へ約10~15分ほど歩いた左手にあります。*京成線の海神駅からも歩いて10分弱。



オープニング展では「NISHIJI COLLECTION」として同社の企業コレクションが公開されましたが、今後も現代美術を中心にさまざまな展示が行われます。千葉発の気鋭のギャラリーとして、これからの活動にも期待できそうです。



日、月、火曜日がお休みです。

予約は不要です。5月14日まで開催されています。*写真はすべて『小さい頃は神様がいて: 堀越達人』展示作品、およびKanda & Oliveiraの内観と外観。

『小さい頃は神様がいて: 堀越達人』 Kanda & Oliveira
会期:2022年4月20日 (水) ~5月14日 (土)
休館:日、月、火曜日
料金:無料
時間:13:00~18:00 
住所:千葉県船橋市西船1-1-16-2
交通:JR線、東京メトロ東西線西船橋駅北口より徒歩約12分。
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『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』 千葉市美術館

千葉市美術館
『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』
2022/4/13~7/3



千葉市美術館で開催中の『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』を見てきました。

1922年に生まれた清水(幼名は廣。後に洋、裕詞)は、元は陶芸の道を歩むも、1966年に彫刻作品を発表すると、彫刻家としても精力的に活動しました。

その清水の立体造形作家としての生涯を振り返るのが『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』で、会場には陶芸と彫刻作品を中心に、自ら撮影した写真や彫刻制作のための図案やマケット、約180件の作品が展示されていました。

まず冒頭は清水が洋と名乗っていた頃の初期の陶芸で、モダンな『白釉カップ&ソーサー』や幾何学的な造形を見せた『花器』、はたまたフォンタナとの関連も指摘される切れ目の入った『切容壺』などに魅せられました。

清水は戦争からの復員後、東京藝術大学工芸科鋳金部などで学び、1951年に京焼を代表する六代清水六兵衞の養嗣子となると陶芸の道へと進むと、1950 年代から60年代にかけては、日展にて特選を受賞するなどして評価を得ました。


清水九兵衞『FIGURE I』 1984年 愛知県美術館

一方で清水はものや空間に対する関心を高めると、1968年には「九兵衞」を名乗っては、彫刻家として活動するようになりました。そして清水が一貫して用いた素材がアルミニウムで、パイプ状のオブジェが機関のように並ぶ彫刻などを制作しました。

この彫刻の代表的なシリーズとして知られるのが『AFFINITY』で、いずれもアルミニウムを素材とし、工場のコンビナートをイメージさせるメカニズム的な作品を作り出していきました。


清水九兵衞『FIGURE 15』 1988年 大阪府20世紀美術コレクション

一連の抽象彫刻は、清水が拠点として関西だけでなく、全国各地にパブリック・アートとして展開していて、会場ではいくつかの野外彫刻をモニターや図面にて紹介していました。千葉県内としてはDIC川村記念美術館に設置された『朱甲面』もよく知られているかもしれません。


清水九兵衞『FIGURE E』 1989年 大阪府20世紀美術コレクション

また1984年から発表された『FIGURE』シリーズなど、あたかも鳥居の色を連想させるような、耐候性を目的に朱色に着彩された彫刻も目立っていました。


清水九兵衞『PACK 13』 1997年 個人蔵

1980年に六代六兵衞の急逝を受けて七代六兵衞を襲名した清水は、土の素材やゆがみなどを意図的に用いた作陶を手がけるつつも、彫刻家としての経験を盛り込み、最晩年のクリスタスガラスの作品群といった新たな造形世界を展開していきました。


清水九兵衞『京空間 A B』 1994年 大阪府20世紀美術コレクション

ラストを飾るのは、1994年に清水がフジテレビギャラリーでの個展にて発表した大作の『京空間』のシリーズで、3点のうち2点の彫刻が展示されていました。


清水九兵衞『京空間B』 1994年 大阪府20世紀美術コレクション

これは京都に見られる狭い路地た町屋の坪庭への関心から名付けられたもので、壁のような平板のアルミや半円筒、また曲面などからなり、建築的とも呼べるような空間を築き上げていました。鑑賞者が入り込むことで景色が大きく変化するような、インスタレーションとしても面白いかもしれません。


清水九兵衞『CORRESPOND』 2000年 岐阜県現代陶芸美術館

洋、それに裕詞といった九兵衞以前の陶芸作品、および九兵衞としての彫刻作品、さらには七代六兵衞としての陶芸作品など、名前を変えていくごとに変化する作風も興味深いのではないでしょうか。



また清水がヨーロッパ旅行などで撮影した写真も魅惑的で、そこからは住宅などの建築への関心も垣間見られるような気がしました。


さや堂ホール展示風景

1階のさや堂ホールにて行われている関連展示『清水宏章 朱』においても、清水九兵衞の孫で陶芸作家の清水宏章の作品とともに、九兵衞の彫刻もあわせて展示されていました。



ネオ・ルネサンス様式の重厚な空間にて展開した、2人の清水の作品の響き合いも見どころと言えそうです。*『清水宏章 朱』は5月19日まで。



さや堂の展示、および会場内の後半の展示室のみ撮影が可能でした。


7月3日まで開催されています。

『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2022年4月13日(水)~7月3日(日)
休室:5月2日(月)、5月23日(月)、6月6日(月)、6月20日(月)。
時間:10:00~18:00。
 *入場受付は閉館の30分前まで
 *毎週金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
 *常設展示室「千葉市美術館コレクション選」も観覧可。
 *ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は共通チケットが半額
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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『流麻二果「その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments」』 ポーラ ミュージアム アネックス

ポーラ ミュージアム アネックス
『流麻二果「その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments」』
2022/4/22~5/29



ポーラ ミュージアム アネックスで開催中の『流麻二果「その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments」』を見てきました。

1975年生まれの流麻二果は、鮮やかでかつ淡い色彩を用い、透明感のある質感を伴った絵画を手がけ、「色彩の作家」として人気を集めてきました。


「雪はなぜ白い」 2022年

その流の4年ぶりとなる国内での個展が『その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments』で、会場には新作を含めて約13点の作品が展示されていました。


「言外の意味」 2022年

ともかく目に飛び込んでくるのがまるで貴石のようにきらめく色彩の海で、青やピンク、黄色や赤などのさまざまな色がせめぎ合いながら、抽象的とも呼べるイメージを作り出していました。


「言外の意味」(部分) 2022年

色は時に幾重に塗られながらも、あたかもガラスの表面に散った絵具を見るかのような輝きを放っていて、素早い筆触にもよるのか色自体が自律的に広がっているかのようでした。


「曖昧の眼」 2022年

また色の帯や波はさながら雲のようにたなびいていて、広い空を表したような奥行きを感じることもできました。これほど色同士の揺らめきが美しく、独特の広がりをもちながら、開放感を得られるような絵もそう滅多にないかもしれません。

今回の個展で興味深いのは、2020年の練馬区立美術館での「再構築 Re Construction」展で発表した「⼥性作家の⾊の跡」シリーズの新作が展示されていることでした。


色の跡:山下紅畝「けし」 2022年

流は2018年にポーラ美術館アトリウムギャラリーでの個展にて、同館所蔵の印象派絵画を再構成した作品を制作したことをきっかけに、伝統的な絵画を新たに解釈した「色の跡」と呼ばれるシリーズを手がけてきました。そして今回は松林桂月の妻で画家の雪貞や山下紅畝(こうほ)といった、女性の作家を参照した絵画を描きました。


色の跡:松林雪貞「雪貞画譜」 2022年

それらの作品は、元の作品の色をエッセンスを引き出すかのように繊細に色を塗り重ねていて、他のシリーズとはまた違った魅力が感じられました。


淡く、霧のように消えてしまうかのようにはかない色の表情にも心惹かれるかもしれません。



会期中のお休みはありません。5月29日まで開催されています。

『流麻二果「その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments」』 ポーラ ミュージアム アネックス@POLA_ANNEX
会期:2022年4月22日(金)~5月29日(日)
休館:会期中無休。
料金:無料
時間:11:00~19:00 *入場は18:30まで 
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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2022年5月に見たい展覧会【鬼頭健吾/琉球/発見された日本の風景】

ゴールデンウィークに入りましたが、いかがお過ごしでしょうか。今年はコロナ禍における移動自粛の要請もなく、平日を2日休むと最大で10連休になるだけに、ここ数年に比べると多くの方が旅行に繰り出しているようです。街中の人出もかなり増えてきました。



5月に見ておきたい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』 森美術館(2/18~5/29)
・『人のすがた、人の思い―収蔵品にみる人々の物語』 大倉集古館(4/5~5/29)
・『生誕110年 松本竣介』 神奈川県立近代美術館 鎌倉別館(4/29~5/29)
・『国宝手鑑「見努世友」と古筆の美』 出光美術館(4/23~6/5)
・『KAAT EXHIBITION 2022 鬼頭健吾展|Lines』 KAAT神奈川芸術劇場(5/1~6/5)
・『大正ロマン×百段階段』 ホテル雅叙園東京百段階段(4/16~6/12)
・『建物公開2022 アール・デコの貴重書』 東京都庭園美術館(4/23~6/12)
・『イスラエル博物館所蔵ピカソ ― ひらめきの原点 ―』 パナソニック汐留美術館(4/9~6/19)
・『金氏徹平 S.F. (Something Falling/Floating)』 市原湖畔美術館(4/16~6/26)
・『リニューアルオープンⅠ 絵のある陶磁器』 三井記念美術館(4/29~6/26)
・『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』 東京国立博物館(5/3~6/26)
・『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』 千葉市美術館(4/13~7/3)
・『生誕110周年 奥田元宋と日展の巨匠―福田平八郎から東山魁夷へ』 山種美術館(4/23~7/3)
・『OKETA COLLECTION Mariage -骨董から現代アート-」展 WHAT MUSEUM(4/28~7/3)
・『ボテロ展 ふくよかな魔法』  Bunkamura ザ・ミュージアム(4/29~7/3)
・『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 アーティゾン美術館(4/29~7/10)
・『孤高の高野光正コレクションが語る  ただいま やさしき明治 発見された日本の風景』 府中市美術館(5/21~7/10)
・『リニューアルオープン記念展Ⅱ 光陰礼讃 ―モネからはじまる住友洋画コレクション』 泉屋博古館東京(5/21~7/31)
・『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』 東京都写真美術館(5/20~8/21)
・『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』 DIC川村記念美術館(3/19~9/4)
・『開館20周年記念展 モネからリヒターへ ―新収蔵作品を中心に』 ポーラ美術館(4/9~9/6)

ギャラリー

・『イケムラレイコ 限りなく透明な』 シュウゴアーツ(4/14~5/28)
・『八木夕菜  個展「視/覚の偏/遍在」』  √K Contemporary(4/29~5/28)
・『流麻二果 その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments』 ポーラ ミュージアム アネックス(4/22~5/29)
・『古寺巡礼―土門拳が切り取った時間―』 東京工芸大学芸術学部写大ギャラリー(4/11~6/1)
・『Chim↑Pom from Smappa!Group』 ANOMALY(4/27~6/4)
・『パウロ・モンテイロ 場所のない色」 小山登美夫ギャラリー六本木(5/11~6/4)
・『熊谷亜莉沙|私はお前に生まれたかった』 ギャラリー小柳(4/16~6/22)
・『線のしぐさ』 東京都渋谷公園通りギャラリー(4/23~6/26)
・『佐藤卓TSDO展 〈 in LIFE 〉』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(5/16~6/30)
・『䑓原蓉子 : 食べてください食べないでください』 Take Ninagawa(5/7~7/2)
・『世界の終わりと環境世界展』 GYRE GALLERY(5/13~7/3)
・『ラシード・ジョンソン Plateaus』 エスパス ルイ・ヴィトン東京(4/27~9/25)

まずは現代美術です。フラフープのインスタレーションなどで知られる鬼頭健吾の個展が、KAAT神奈川芸術劇場にて開かれます。



『KAAT EXHIBITION 2022 鬼頭健吾展|Lines』@KAAT神奈川芸術劇場(5/1~6/5)

KAAT EXHIBITIONとは2016年から同劇場にて毎年行われてきた現代美術展で、今年は鬼頭が約30メートルにも及ぶアトリウムにて作品を公開します。色彩鮮やかでかつスケールの大きなインスタレーションを楽しむことができそうです。

続いては東京国立博物館の大規模な展覧会です。『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』が行われます。



『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』@東京国立博物館(5/3~6/26)


今年復帰50年を迎えた沖縄はかつて琉球王国として栄え、今に至るまでの独自の歴史や文化を育んできました。その沖縄と琉球に関する文化財を公開するのが『特別展 琉球』で、歴史資料、工芸、国王尚家に由来する宝物や民族作品などが約360件公開されます。(展示替えあり)過去にも東京で何度か琉球に関する展覧会が開かれてきましたが、今回は過去最大スケールのいわば決定版となるかもしれません。

ラストは明治に着目した展覧会です。府中市美術館にて『孤高の高野光正コレクションが語る  ただいま やさしき明治 発見された日本の風景』が開催されます。



『孤高の高野光正コレクションが語る  ただいま やさしき明治 発見された日本の風景』@府中市美術館(5/21~7/10)

これは明治時代に活動した日本、あるいは海外の画家77名の作品を紹介するもので、洋の東西の画家が見つめた明治日本の風景や暮らしなどについてたどっていきます。またいずれも日本から海外へ渡った作品のみを収集した高野光正氏によるコレクションを中心としていて、京都国立近代美術館での「発見された日本の風景」展に続き、ほとんどの作品は東京で初めて公開されます。

一部、内容が重なりますが、WEBメディア「イロハニアート」でも5月のおすすめ展覧会をご紹介しました。


古筆から琉球、それに鬼頭健吾まで。5月に見たいおすすめ展覧会5選 | イロハニアート

私のゴールデンウィークは特に遠出もなく、近場の展覧会をいくつかまわって見ることになりそうです。

それでは今月もどうぞよろしくお願いいたします。
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