都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
新緑のDIC川村記念美術館
千葉の佐倉に位置するDIC川村記念美術館。アメリカ現代美術をはじめとするコレクションのみならず、隣接するDIC総合研究所とあわせた30ヘクタールにも及ぶ庭園も見どころの一つです。
「自然散策路」@DIC川村記念美術館
URL:http://kawamura-museum.dic.co.jp/nature/index.html
先日、「サイ・トゥオンブリーの写真」展の観覧の折に改めて散歩してきました。
GW期間中はつつじ山が特別公開中です。通常は非公開ですが、ツツジの開花にあわせ、5月5日までの土・日・祝日のみ限定で公開されています。
ちょうど美術館の建物から池を挟んで反対側の場所です。DIC総合研究所の敷地内にあります。
実のところ見頃はかなり過ぎています。花を落としているものも多数。係りの方に伺えば先週の土日が満開だったそうです。
とはいえ、部分部分にはまだ鮮やかなお花が見られました。研究所の縁を沿うようにぐるりと半周。なかなか壮観でもあります。
一方で今、最も見頃を迎えている花があります。それが藤です。
立派な房を垂らして咲き誇る藤の花。棚の下にはベンチもあり、ゆっくり座っては愛でることも出来ます。
さらに広場の方へと歩いてみました。中央に立つのはヘンリー・ムーアの「ブロンズの形態」です。
周囲にはソメイヨシノとヤエザクラ。完全に葉桜と化していますが、近寄って見るとヤエザクラの花びらが地面に残っていることが分かりました。
庭園ではGW限定でピザや弁当、カフェなどの店も出店中。コーヒーを片手にピクニック気分も味わえます。
今度は最奥部の睡蓮の池へ。花を楽しめるのはもう少し先でしょうか。ともかく眩いばかりの新緑が目に飛び込んできます。
桜、ツツジに次いで有名なのがアジサイです。こちらの見頃は6月頃。一度、咲いている時に行ったことがありますが、それは大変に見事でした。
自然散策路を合わせて一時間弱の新緑散策。これほど自然を楽しめる美術館は東京郊外広しとはいえども、なかなかありません。
四季の花々の開花状況については同館のツイッターアカウント(@kawamura_dic)がこまめに情報を発信しています。そちらもご参考ください。
庭園へは200円の入園料がかかりますが、美術館を利用する際は無料です。
「サイ・トゥオンブリーの写真」展も興味深く見ることが出来ました。また別エントリーに感想をまとめたいと思います。
「サイ・トゥオンブリーの写真ー変奏のリリシズム」 DIC川村記念美術館(@kawamura_dic)
会期:4月23日(土)-8月28日(日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。7月19日(火)は休館。
時間:9:30~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般1200(1000)円、学生・65歳以上1000(800)円、小・中・高生600(500)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*コレクション展も観覧可。
*5月5日(木)はこどもの日につき高校生以下入館無料。
*5月18日(水)は国際博物館の日につき入館無料。
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
「自然散策路」@DIC川村記念美術館
URL:http://kawamura-museum.dic.co.jp/nature/index.html
先日、「サイ・トゥオンブリーの写真」展の観覧の折に改めて散歩してきました。
GW期間中はつつじ山が特別公開中です。通常は非公開ですが、ツツジの開花にあわせ、5月5日までの土・日・祝日のみ限定で公開されています。
ちょうど美術館の建物から池を挟んで反対側の場所です。DIC総合研究所の敷地内にあります。
実のところ見頃はかなり過ぎています。花を落としているものも多数。係りの方に伺えば先週の土日が満開だったそうです。
とはいえ、部分部分にはまだ鮮やかなお花が見られました。研究所の縁を沿うようにぐるりと半周。なかなか壮観でもあります。
一方で今、最も見頃を迎えている花があります。それが藤です。
立派な房を垂らして咲き誇る藤の花。棚の下にはベンチもあり、ゆっくり座っては愛でることも出来ます。
さらに広場の方へと歩いてみました。中央に立つのはヘンリー・ムーアの「ブロンズの形態」です。
周囲にはソメイヨシノとヤエザクラ。完全に葉桜と化していますが、近寄って見るとヤエザクラの花びらが地面に残っていることが分かりました。
庭園ではGW限定でピザや弁当、カフェなどの店も出店中。コーヒーを片手にピクニック気分も味わえます。
今度は最奥部の睡蓮の池へ。花を楽しめるのはもう少し先でしょうか。ともかく眩いばかりの新緑が目に飛び込んできます。
桜、ツツジに次いで有名なのがアジサイです。こちらの見頃は6月頃。一度、咲いている時に行ったことがありますが、それは大変に見事でした。
自然散策路を合わせて一時間弱の新緑散策。これほど自然を楽しめる美術館は東京郊外広しとはいえども、なかなかありません。
四季の花々の開花状況については同館のツイッターアカウント(@kawamura_dic)がこまめに情報を発信しています。そちらもご参考ください。
庭園へは200円の入園料がかかりますが、美術館を利用する際は無料です。
「サイ・トゥオンブリーの写真」展も興味深く見ることが出来ました。また別エントリーに感想をまとめたいと思います。
「サイ・トゥオンブリーの写真ー変奏のリリシズム」 DIC川村記念美術館(@kawamura_dic)
会期:4月23日(土)-8月28日(日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。7月19日(火)は休館。
時間:9:30~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般1200(1000)円、学生・65歳以上1000(800)円、小・中・高生600(500)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*コレクション展も観覧可。
*5月5日(木)はこどもの日につき高校生以下入館無料。
*5月18日(水)は国際博物館の日につき入館無料。
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
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「北大路魯山人の美 和食の天才展」 三井記念美術館
三井記念美術館
「北大路魯山人の美 和食の天才展」
4/12~6/26
三井記念美術館で開催中の「北大路魯山人の美 和食の天才展」を見てきました。
元は書家を志し、篆刻家、画家、陶芸家、料理家としても幅広く生きた北大路魯山人(1883~1959)。つとに良く知られているのが作陶の世界ではないでしょうか。
「織部長板鉢」 昭和30(1955)年 銀座久兵衛
建設当時の趣きを残した展示室1からして魅せます。照明の効果もあるのでしょう。いずれの作品にも華を添えています。冒頭の「青織部籠形花器」が見事でした。ちょうどサッカーボール大の籠。透かしは不揃いです。台形であり、また三角形であったりします。緑、あるいは草色をした花器。どのような花をあしらえればより際立つでしょうか。
「織部俎板盤」も美しい。横50センチほどの盤です。竹の面と緑の帯を挟んで青い面がせめぎ合います。ふと青みが海に見えてきました。まるで海岸線の風景を俯瞰したかのような構図です。センスが伺えます。
「銀三彩輪花透鉢」も印象的でした。銀ゆえにシルバー。グレーと言って良いかもしれません。透かしだけにたくさんの穴が空いています。穴は水滴のようでもあり、時に星の形をしています。可愛らしい。地の部分に黄、ないし青い斑紋が描かれていました。開口部はさも花びらを模すかのようにうねってもいます。
「絵瀬戸草虫文壺」 昭和27(1952)年 北村美術館
「絵瀬戸草虫文壺」の草むらにはバッタがいました。僅かにクリーム色を帯びた大きな壺。正面には草が描かれ、その茂みに隠れるかのように虫がいます。筆は大胆です。力強さが感じられます。
基本的に陶磁の展示ですが、漆器にも目を引く作品がありました。例えば「一閑塗日月椀」です。椀の蓋と側面に金と銀の円が表されています。日月とあるので、金が陽、銀が月なのでしょう。ほか「銀地色ねじ文大平椀」も良い。とはいえ、あくまでも器は使う物です。何を盛ってはより映えるのかを想像してしまいます。
富士を見立てた「不二鉢」も面白いのではないでしょうか。外側の上部は青みがかり空を描いています。下方は松林でしょうか。三保の松原かもしれません。そして内に富士山が現れます。シルエット状です。うっすらと白みがかります。頂に降り積もる雪を表してもいます。
「絵瀬戸平鉢」 昭和25(1950)年頃 足立美術館
「志野ジョッキ」や「紅志野ジョッキ」も趣深い。さらには「つり燈籠」や行燈なども出品されています。また「如庵」の再現空間も魯山人流のしつらえです。織部の鉢に漆膳「露堂々」。奥に「閑林」がかかります。さすがに雰囲気がありました。
出品は足立美術館や京都国立近代美術館などのコレクションが多数。一部に個人蔵が加わります。
「椿鉢」 昭和15(1940)年頃 足立美術館
展示替えの情報です。会期中、前後期で半数程度の作品が入れ替わります。
「北大路魯山人の美 和食の天才展」出品リスト(PDF)
前期:4月12日(火)~5月22日(日)
後期:5月24日(火)~6月26日(日)
リピーター割として、会期中、一般券、ないし学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金が適用されます。
高級料亭「星岡茶寮」の顧問を務めた魯山人は、自らの手で器を作り、時に料理を振舞いました。「器は料理の着物」という言葉も残しています。作陶と料理は表裏一体です。ただその辺の関係を伺える展示はほぼありませんでした。パネルなどでもう一工夫があっても良かったかもしれません。
「魯山人の器 (NHK美の壺)/日本放送出版協会」
6月26日まで開催されています。
「北大路魯山人の美 和食の天才展」 三井記念美術館
会期:4月12日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日、但し5月2日(月)は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*70歳以上は1000円。
*リピーター割引:会期中、一般券、学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金を適用。
*割引引換券
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
「北大路魯山人の美 和食の天才展」
4/12~6/26
三井記念美術館で開催中の「北大路魯山人の美 和食の天才展」を見てきました。
元は書家を志し、篆刻家、画家、陶芸家、料理家としても幅広く生きた北大路魯山人(1883~1959)。つとに良く知られているのが作陶の世界ではないでしょうか。
「織部長板鉢」 昭和30(1955)年 銀座久兵衛
建設当時の趣きを残した展示室1からして魅せます。照明の効果もあるのでしょう。いずれの作品にも華を添えています。冒頭の「青織部籠形花器」が見事でした。ちょうどサッカーボール大の籠。透かしは不揃いです。台形であり、また三角形であったりします。緑、あるいは草色をした花器。どのような花をあしらえればより際立つでしょうか。
「織部俎板盤」も美しい。横50センチほどの盤です。竹の面と緑の帯を挟んで青い面がせめぎ合います。ふと青みが海に見えてきました。まるで海岸線の風景を俯瞰したかのような構図です。センスが伺えます。
「銀三彩輪花透鉢」も印象的でした。銀ゆえにシルバー。グレーと言って良いかもしれません。透かしだけにたくさんの穴が空いています。穴は水滴のようでもあり、時に星の形をしています。可愛らしい。地の部分に黄、ないし青い斑紋が描かれていました。開口部はさも花びらを模すかのようにうねってもいます。
「絵瀬戸草虫文壺」 昭和27(1952)年 北村美術館
「絵瀬戸草虫文壺」の草むらにはバッタがいました。僅かにクリーム色を帯びた大きな壺。正面には草が描かれ、その茂みに隠れるかのように虫がいます。筆は大胆です。力強さが感じられます。
基本的に陶磁の展示ですが、漆器にも目を引く作品がありました。例えば「一閑塗日月椀」です。椀の蓋と側面に金と銀の円が表されています。日月とあるので、金が陽、銀が月なのでしょう。ほか「銀地色ねじ文大平椀」も良い。とはいえ、あくまでも器は使う物です。何を盛ってはより映えるのかを想像してしまいます。
富士を見立てた「不二鉢」も面白いのではないでしょうか。外側の上部は青みがかり空を描いています。下方は松林でしょうか。三保の松原かもしれません。そして内に富士山が現れます。シルエット状です。うっすらと白みがかります。頂に降り積もる雪を表してもいます。
「絵瀬戸平鉢」 昭和25(1950)年頃 足立美術館
「志野ジョッキ」や「紅志野ジョッキ」も趣深い。さらには「つり燈籠」や行燈なども出品されています。また「如庵」の再現空間も魯山人流のしつらえです。織部の鉢に漆膳「露堂々」。奥に「閑林」がかかります。さすがに雰囲気がありました。
出品は足立美術館や京都国立近代美術館などのコレクションが多数。一部に個人蔵が加わります。
「椿鉢」 昭和15(1940)年頃 足立美術館
展示替えの情報です。会期中、前後期で半数程度の作品が入れ替わります。
「北大路魯山人の美 和食の天才展」出品リスト(PDF)
前期:4月12日(火)~5月22日(日)
後期:5月24日(火)~6月26日(日)
リピーター割として、会期中、一般券、ないし学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金が適用されます。
高級料亭「星岡茶寮」の顧問を務めた魯山人は、自らの手で器を作り、時に料理を振舞いました。「器は料理の着物」という言葉も残しています。作陶と料理は表裏一体です。ただその辺の関係を伺える展示はほぼありませんでした。パネルなどでもう一工夫があっても良かったかもしれません。
「魯山人の器 (NHK美の壺)/日本放送出版協会」
6月26日まで開催されています。
「北大路魯山人の美 和食の天才展」 三井記念美術館
会期:4月12日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日、但し5月2日(月)は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*70歳以上は1000円。
*リピーター割引:会期中、一般券、学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金を適用。
*割引引換券
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
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「藝大コレクション展ー春の名品選」 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学大学美術館
「藝大コレクション展ー春の名品選」
4/2~5/8
東京藝術大学大学美術館で開催中の「藝大コレクション展ー春の名品選」を見てきました。
毎年春恒例、芸大美術館の名品コレクション展。今年は天平時代の「絵因果経」のほか、蕭白の「群仙図屏風」、高橋由一の「鮭」などの作品が公開されています。
冒頭から胸を打つ仏像に出会いました。「月光菩薩坐像」です。作は8世紀後半の天平時代、高さ50センチほどの小像です。激しく損壊したのか、腕、ないし下半身がほぼ失われています。痛々しい。もはやトルソーです。お顔立ちは端正。眉間からこめかみの辺りにまでヒビが入っています。その出で立ちのゆえでしょうか。どこか苦悶の表情を浮かべているようにも見えました。
国宝の「絵因果経」も天平時代の作品です。釈迦の伝記を絵とともに記しています。大切に扱われてきたのでしょうか。彩色が驚くほどに鮮やかです。人物の風貌なども思いの外に写実的であることが分かります。
細く柔らかな線など、細部の描写に秀でているのが「小野雪見御幸絵巻」です。御幸とは白河院。雪の朝に隠棲中の皇太后を訪ねようとした物語を表しています。牛車の行列。どことなくのんびりとした時間が流れているようにも見えます。まさしく優雅。着彩こそやや劣化していますが、がぶりつきで楽しむことが出来ました。
まさに奇想です。曾我蕭白の「群仙図屏風」はどうでしょうか。有名な文化庁の着彩画ではなく、いわゆる墨画です。画面全体に金泥も引かれています。右は女性。前に立つのは孔雀なのでしょうか。まるでサイボーグ。メカの鳥です。女性たちは不気味な笑みを浮かべています。左は鯉を操る男の姿。手を屈曲させては鯉と対峙しています。さも魔法使い。ハンドパワーでしょうか。描写は細部に至るまで刺々しい。才能が溢れ出ています。
長きにわたる芸大の歴史。「学生制作品」と呼ばれる芸大生の作品が多く出ているのもポイントです。例えば青木繁や萬鉄五郎の「自画像」。いずれも卒業制作でした。また今回は名品選にあわせ「藝コレの60-70’s」と題した特集展示も行われています。文字通り、1960~70年代に制作された作品をピックアップ。いずれも当時、芸大に属していた作家ばかりです。榎倉康二、野田哲也、有元利夫らと続きます。ジャンルは何も絵画に留まりません。変わり種では版画研究室のアトリエカレンダーなるものもありました。
途中に藝コレを挟んでの名品選。後半の目玉は何と言っても高橋由一の「鮭」ではないでしょうか。半身をそぎ落とされた荒巻鮭。縄で吊ってあります。由一が西洋の写実を志向して完成させた一枚です。並々ならぬ迫力があります。
高橋由一「鮭」1877年頃 重要文化財 東京藝術大学
色はややくすんでいるのか古色を帯びています。身は乾いていました。骨は血が固まったのか黒い。質感を出すためか、鱗の上には白い点描が連なっています。構図は軸画を連想させる縦長です。実寸大。まるで贈答品のようです。確かにリアルではあります。制作当時、観客にはいわゆるだまし絵的な驚きを与えたのではないでしょうか。
ほか狩野芳崖の「悲母観音」の下絵や橋本関雪の「玄猿」なども見どころの一つ。サルの胴体の部分はたらし込みの技法なのでしょうか。細かな毛並みも巧みに表されていました。
なお藝大には今回の出品作を含む29000件ものコレクションを有しているそうです。それらのデータベースをWEB上から閲覧することも出来ます。
東京藝術大学大学美術館収蔵品データーベース
URL:http://jmapps.ne.jp/geidai/
会場は地下2階フロアの1展示室のみ。規模自体は小さな展示です。空いています。GW中、何かと混雑する上野公園ではありますが、ゆっくり観覧出来るのではないでしょうか。
5月8日まで開催されています。
「藝大コレクション展ー春の名品選」 東京藝術大学大学美術館
会期:4月2日(土)~5月8日(日)
休館:月曜日。但し5月2日(月)は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般430(320)円、高校・大学生110(60)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
「藝大コレクション展ー春の名品選」
4/2~5/8
東京藝術大学大学美術館で開催中の「藝大コレクション展ー春の名品選」を見てきました。
毎年春恒例、芸大美術館の名品コレクション展。今年は天平時代の「絵因果経」のほか、蕭白の「群仙図屏風」、高橋由一の「鮭」などの作品が公開されています。
冒頭から胸を打つ仏像に出会いました。「月光菩薩坐像」です。作は8世紀後半の天平時代、高さ50センチほどの小像です。激しく損壊したのか、腕、ないし下半身がほぼ失われています。痛々しい。もはやトルソーです。お顔立ちは端正。眉間からこめかみの辺りにまでヒビが入っています。その出で立ちのゆえでしょうか。どこか苦悶の表情を浮かべているようにも見えました。
国宝の「絵因果経」も天平時代の作品です。釈迦の伝記を絵とともに記しています。大切に扱われてきたのでしょうか。彩色が驚くほどに鮮やかです。人物の風貌なども思いの外に写実的であることが分かります。
細く柔らかな線など、細部の描写に秀でているのが「小野雪見御幸絵巻」です。御幸とは白河院。雪の朝に隠棲中の皇太后を訪ねようとした物語を表しています。牛車の行列。どことなくのんびりとした時間が流れているようにも見えます。まさしく優雅。着彩こそやや劣化していますが、がぶりつきで楽しむことが出来ました。
まさに奇想です。曾我蕭白の「群仙図屏風」はどうでしょうか。有名な文化庁の着彩画ではなく、いわゆる墨画です。画面全体に金泥も引かれています。右は女性。前に立つのは孔雀なのでしょうか。まるでサイボーグ。メカの鳥です。女性たちは不気味な笑みを浮かべています。左は鯉を操る男の姿。手を屈曲させては鯉と対峙しています。さも魔法使い。ハンドパワーでしょうか。描写は細部に至るまで刺々しい。才能が溢れ出ています。
長きにわたる芸大の歴史。「学生制作品」と呼ばれる芸大生の作品が多く出ているのもポイントです。例えば青木繁や萬鉄五郎の「自画像」。いずれも卒業制作でした。また今回は名品選にあわせ「藝コレの60-70’s」と題した特集展示も行われています。文字通り、1960~70年代に制作された作品をピックアップ。いずれも当時、芸大に属していた作家ばかりです。榎倉康二、野田哲也、有元利夫らと続きます。ジャンルは何も絵画に留まりません。変わり種では版画研究室のアトリエカレンダーなるものもありました。
途中に藝コレを挟んでの名品選。後半の目玉は何と言っても高橋由一の「鮭」ではないでしょうか。半身をそぎ落とされた荒巻鮭。縄で吊ってあります。由一が西洋の写実を志向して完成させた一枚です。並々ならぬ迫力があります。
高橋由一「鮭」1877年頃 重要文化財 東京藝術大学
色はややくすんでいるのか古色を帯びています。身は乾いていました。骨は血が固まったのか黒い。質感を出すためか、鱗の上には白い点描が連なっています。構図は軸画を連想させる縦長です。実寸大。まるで贈答品のようです。確かにリアルではあります。制作当時、観客にはいわゆるだまし絵的な驚きを与えたのではないでしょうか。
ほか狩野芳崖の「悲母観音」の下絵や橋本関雪の「玄猿」なども見どころの一つ。サルの胴体の部分はたらし込みの技法なのでしょうか。細かな毛並みも巧みに表されていました。
なお藝大には今回の出品作を含む29000件ものコレクションを有しているそうです。それらのデータベースをWEB上から閲覧することも出来ます。
東京藝術大学大学美術館収蔵品データーベース
URL:http://jmapps.ne.jp/geidai/
会場は地下2階フロアの1展示室のみ。規模自体は小さな展示です。空いています。GW中、何かと混雑する上野公園ではありますが、ゆっくり観覧出来るのではないでしょうか。
5月8日まで開催されています。
「藝大コレクション展ー春の名品選」 東京藝術大学大学美術館
会期:4月2日(土)~5月8日(日)
休館:月曜日。但し5月2日(月)は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般430(320)円、高校・大学生110(60)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」
4/5~5/22
埼玉県立近代美術館で開催中の「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」を見てきました。
おそらくは遊具の上に乗ってはポーズをとる3人の子供たち。時に大きく胸を張っては、まるで飛行機が編隊を組むかのような姿を見せています。
表情は笑顔で楽しそうです。どこか親密な気配、ないしは満たされた幸福、愉悦感が伝わってはこないでしょうか。
モデルの一人は写真家の長男のダニ。その友達との光景です。場所はカンヌ。旅先でした。ジャック=アンリ・ラルティーグ(1894~1986)は、一生涯に渡って、自らの人生と家族との時間を写真におさめました。
ラルティーグの生まれはフランスのクールブヴォア。大変に裕福な家庭に育ったそうです。技術者でもあった父の趣味は写真です。ラルティーグにも7歳の時にカメラが与えられます。以来、彼は毎日のように写真を撮影。身近な日常を記録していきます。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「ぼく、ポン・ド・ラルシュ(パパ撮影)」 1903年
10歳の時にカメラを新調したラルティーグは「動き」を捉えることに関心があったそうです。身近なところでは人のジャンプです。家族や友人らが階段から飛び降りる瞬間を撮影しています。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「レーシングカー「ドラージュ」、A.C.F.グランプリ、ル・トレポー」 1912年6月26日
それこそお金持ちのラルティーグ家、「動き」も身近な人のジャンプだけにとどまりません。まずは自動車です。フランスは世界で初めて自動車競技が行われた国でもあります。ラルティーグもレースに出かけては疾走するレーシングカーを捉えました。
さらには飛行機までが登場します。ちょうどライト兄弟が動力飛行に成功した頃です。ラルティーグも兄が自作の飛行機を飛ばす様子を写しています。
写真はいわば日記と化していきました。彼の70年に渡る人生おいて生み出された記録は1万ページ。アルバムにして135冊と膨大です。そこには写真だけでなく、日付、天気、場所、人物、さらにはカメラの種類なども細かに記しています。かなりマメです。
ラルティーグ自身はいわゆるアマチュアのカメラマン。写真を売って生活していたわけでもなく、専門的な教育を受けたわけではありません。むしろ画家として活動していたそうです。それゆえに芸術家との交流も少なくありません。パリに出かけては当時の最先端のファッションを写したりもしました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」 1926年9月
「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」こそ、タイトルの「幸せの瞬間」を体現する作品ではないでしょうか。海岸線、砂浜の上です。水着姿の女性が両手両足をあげてはジャンプしています。そこに駆け寄るのは一匹の犬。ペットかもしれません。尻尾を振っています。構成にも妙がありました。というのも影がちょうど砂に浸る水に写り込んでいます。地面を境にして上下対称になっていました。
人生の記録とは成長の証でもあります。先に登場した息子のダニ。いつの間にか大きくなっては父親としても登場します。抱きよせるのは幼子。ラルティーグの孫です。幸せそうに眠っています。ダニは満面の笑みを見せていました。
全部で11万点にも及ぶ写真のうち3分の1近くはカラー作品です。元々、1920年代にオートクロームと呼ばれるカラー技法にチャレンジしますが、うまく「動きを捉えられなかった」(キャプションより)ため、一度離脱。再び戦後になってカラー写真を手がけるようになりました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「フロレット、ヴァンス」 1954年
これら戦後のカラー作品の大半は日本初公開だそうです。モチーフ自体は家族の姿や旅先の風景と変わりませんが、時に色のコントラストを強調した作品は、モノクロとは異なった魅力が感じられます。どこかInstagramの写真を連想したのは私だけでしょうか。鮮やかな色彩が目に焼きつきました。
ラルティーグが写真家として世に知られるようになったのは1960年代です。アメリカへ旅した彼はMoMAのキュレーターと出会います。よほど強い印象を与えたのでしょう。1963年には同館でデビュー。さらにライフ誌上でも特集が組まれます。折しもケネディ大統領の暗殺を報じた号でした。そういうこともあってか大いに話題となったそうです。
展示では彼の日記などの資料をはじめ、制作した無声映画、さらには日本での受容などにも言及しています。写真作品も160点。回顧展とするのに不足はありませんでした。
2度の大戦を経験したラルティーグ。もちろん実情は不明とはいえ、ごく一部の写真を除けば不穏な空気は殆ど感じられません。まさに天真爛漫。幸せの記録集です。ともかくもう写真が好きで好きで仕方がない。そんな写真家自身の楽しみが伝わってくるような展覧会でした。
5月22日まで開催されています。
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:4月5日 (火) ~ 5月22日 (日)
休館:月曜日。但し5月2日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」
4/5~5/22
埼玉県立近代美術館で開催中の「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」を見てきました。
おそらくは遊具の上に乗ってはポーズをとる3人の子供たち。時に大きく胸を張っては、まるで飛行機が編隊を組むかのような姿を見せています。
表情は笑顔で楽しそうです。どこか親密な気配、ないしは満たされた幸福、愉悦感が伝わってはこないでしょうか。
モデルの一人は写真家の長男のダニ。その友達との光景です。場所はカンヌ。旅先でした。ジャック=アンリ・ラルティーグ(1894~1986)は、一生涯に渡って、自らの人生と家族との時間を写真におさめました。
ラルティーグの生まれはフランスのクールブヴォア。大変に裕福な家庭に育ったそうです。技術者でもあった父の趣味は写真です。ラルティーグにも7歳の時にカメラが与えられます。以来、彼は毎日のように写真を撮影。身近な日常を記録していきます。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「ぼく、ポン・ド・ラルシュ(パパ撮影)」 1903年
10歳の時にカメラを新調したラルティーグは「動き」を捉えることに関心があったそうです。身近なところでは人のジャンプです。家族や友人らが階段から飛び降りる瞬間を撮影しています。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「レーシングカー「ドラージュ」、A.C.F.グランプリ、ル・トレポー」 1912年6月26日
それこそお金持ちのラルティーグ家、「動き」も身近な人のジャンプだけにとどまりません。まずは自動車です。フランスは世界で初めて自動車競技が行われた国でもあります。ラルティーグもレースに出かけては疾走するレーシングカーを捉えました。
さらには飛行機までが登場します。ちょうどライト兄弟が動力飛行に成功した頃です。ラルティーグも兄が自作の飛行機を飛ばす様子を写しています。
写真はいわば日記と化していきました。彼の70年に渡る人生おいて生み出された記録は1万ページ。アルバムにして135冊と膨大です。そこには写真だけでなく、日付、天気、場所、人物、さらにはカメラの種類なども細かに記しています。かなりマメです。
ラルティーグ自身はいわゆるアマチュアのカメラマン。写真を売って生活していたわけでもなく、専門的な教育を受けたわけではありません。むしろ画家として活動していたそうです。それゆえに芸術家との交流も少なくありません。パリに出かけては当時の最先端のファッションを写したりもしました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」 1926年9月
「スージー・ヴェルノン、ロワイヤン」こそ、タイトルの「幸せの瞬間」を体現する作品ではないでしょうか。海岸線、砂浜の上です。水着姿の女性が両手両足をあげてはジャンプしています。そこに駆け寄るのは一匹の犬。ペットかもしれません。尻尾を振っています。構成にも妙がありました。というのも影がちょうど砂に浸る水に写り込んでいます。地面を境にして上下対称になっていました。
人生の記録とは成長の証でもあります。先に登場した息子のダニ。いつの間にか大きくなっては父親としても登場します。抱きよせるのは幼子。ラルティーグの孫です。幸せそうに眠っています。ダニは満面の笑みを見せていました。
全部で11万点にも及ぶ写真のうち3分の1近くはカラー作品です。元々、1920年代にオートクロームと呼ばれるカラー技法にチャレンジしますが、うまく「動きを捉えられなかった」(キャプションより)ため、一度離脱。再び戦後になってカラー写真を手がけるようになりました。
ジャック=アンリ・ラルティーグ「フロレット、ヴァンス」 1954年
これら戦後のカラー作品の大半は日本初公開だそうです。モチーフ自体は家族の姿や旅先の風景と変わりませんが、時に色のコントラストを強調した作品は、モノクロとは異なった魅力が感じられます。どこかInstagramの写真を連想したのは私だけでしょうか。鮮やかな色彩が目に焼きつきました。
ラルティーグが写真家として世に知られるようになったのは1960年代です。アメリカへ旅した彼はMoMAのキュレーターと出会います。よほど強い印象を与えたのでしょう。1963年には同館でデビュー。さらにライフ誌上でも特集が組まれます。折しもケネディ大統領の暗殺を報じた号でした。そういうこともあってか大いに話題となったそうです。
展示では彼の日記などの資料をはじめ、制作した無声映画、さらには日本での受容などにも言及しています。写真作品も160点。回顧展とするのに不足はありませんでした。
2度の大戦を経験したラルティーグ。もちろん実情は不明とはいえ、ごく一部の写真を除けば不穏な空気は殆ど感じられません。まさに天真爛漫。幸せの記録集です。ともかくもう写真が好きで好きで仕方がない。そんな写真家自身の楽しみが伝わってくるような展覧会でした。
5月22日まで開催されています。
「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:4月5日 (火) ~ 5月22日 (日)
休館:月曜日。但し5月2日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「若冲展」 東京都美術館
東京都美術館
「生誕300年 若冲展」
4/22~5/24
東京都美術館で開催中の「生誕300年 若冲展」のプレスプレビューに参加してきました。
江戸時代の京都で活動した絵師、伊藤若冲(1716~1800)。名を知らしめた京都国立博物館の若冲展(2000年)以降、ここ数年も若冲関連の展覧会が続き、その人気は不動のものになった感があります。
意外にも東京では初めての大規模な若冲展です。出品は50点。うち「釈迦三尊像」3幅と「動植綵絵」30幅が加わります。(それぞれ1点として数えられています。)
冒頭は鹿苑寺大書院障壁画の襖絵です。全部で4面やって来ました。「動植綵絵」が彩色画の最高峰とすれば、鹿苑寺の障壁画は水墨の傑作と呼べるかもしれません。いずれも筆は緻密です。余白との関係しかり、隙はありません。
右:「鹿苑寺大書院障壁画 葡萄小禽図襖絵」 重要文化財 宝暦9(1759)年 鹿苑寺
最も見入るのは「葡萄小禽図襖絵」でした。書院中で一番格式のある「一之間」を飾った一枚、得意の葡萄です。蔓は垂れるというよりも、力強く空間を割き、また伸びています。先端では勇ましくとぐろを巻いていました。筆の素早い動きをそのまま活かしています。葡萄は古来中国から豊穣の象徴として尊ばれてきたそうです。葡萄の房、粒の一つ一つにある小さな合間は、一体どのように描き分けたのでしょうか。大変に細かい。細密の名技は水墨でも見事に発揮されています。
左:「孔雀鳳凰図」 宝暦5(1755)年頃 岡田美術館
若冲を追っかけてきたファンにとっても注目すべき作品がありました。「孔雀鳳凰図」です。何故なら公開されたのが80年ぶりだからです。長らく行方不明でありながらも、昨年に確認され、箱根の岡田美術館へと所蔵。今回、出品されることになりました。
右に孔雀で左に鳳凰。とかく目を引くのはハート型の尾先です。言うまでもなく「動植綵絵」の「老松白鳳図」に酷似。また孔雀も同じく「動植綵絵」の「老松孔雀図」に似ていることから、おそらく綵絵を描く前に制作されたと考えられています。
私として収穫だったのは若冲の2つの絵巻、「乗興舟」と「菜蟲譜」がいずれも1巻丸ごと、全て開いて展示されていたことでした。
「菜蟲譜」 重要文化財 寛政4(1792)年 佐野市立吉澤記念美術館
特に「菜蟲譜」です。全長11メートル。前半は野菜と果物です。青物問屋に生まれた若冲にとっては身近な素材だったのでしょう。リアルとはいえ、それぞれがさも動いてポーズをとっているかのような姿をしています。まるで野菜の行進です。全部で98種類。トウモロコシの実の部分の着彩に目がとまりました。というのも白い顔料が塗られていましたが、その大半が剥がれています。意図してのゆえなのでしょうか。後半は昆虫です。こちらは59種類。アゲハ蝶にはじまり、カタツムリ、バッタと続きます。水辺が現れました。無数のオタマジャクシです。「動植綵絵」の「池辺群虫図」を連想しました。その脇で何やら達観しては全てを見据えるかのようにカエルが座っています。後は再び野菜の世界へと回帰します。ラストは冬瓜。真っ二つに割ったのでしょうか。中に款記が記されています。心憎い仕掛けです。
これまでに「菜蟲譜」を見たことは何度かありますが、いつも半分、ないしはそれ以下の一部に過ぎませんでした。一度に全て開いているのを見たのは初めてです。今回の若冲展のさり気ない目玉とも言えるかもしれません。
「釈迦三尊像」と「動植綵絵」展示室風景
メインの「動植綵絵」は1階展示室の全てを用いての展示です。ぐるりと広い円形のスペース、正面にあるのが「釈迦三尊像」の3幅でした。そして右に「老松孔雀図」、「薔薇小禽図」、「梅花皓月図」、「老松鸚鵡図」、「梅花群鶴図」、「向日葵雄鶏図」、「芙蓉双鶏図」、「群鶏図」、「芍薬群蝶図」、「雪中鴛鴦図」、「芦鵞図」、「池辺群虫図」、「諸魚図」、「蓮池遊魚図」、「紅葉小禽図」と並びます。一方の左は「老松白鳳図」、「牡丹小禽図」、「梅花小禽図」、「老松白鶏図」、「棕櫚雄鶏図」、「南天雄鶏図」、「紫陽花双鶏図」、「大鶏雌雄図」、「秋塘群雀図」、「雪中錦鶏図」、「芦雁図」、「貝甲図」、「群魚図」、「菊花流水図」、「桃花小禽図」の順に並んでいました。
「釈迦三尊像 釈迦如来像」 明和2(1765)年以前 相国寺 ほか
「動植綵絵」は若冲が相国寺に「釈迦三尊像」とともに寄進した連作です。完成には約10年を要しています。その後、同寺では若冲の年忌などで掲げてきましたが、明治期の廃仏毀釈のあおりを受けて、「動植綵絵」を皇室へと献上。下賜金を得ます。現在は宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵です。「釈迦三尊像」とは切り離される形で残されました。
2000年に一度、相国寺への里帰りが実現。同寺で120年ぶりに「釈迦三尊像」と並んで展示されたことがありました。それ以来となる邂逅です。東京では初めての揃い踏みが実現しました。
「動植綵絵 老松白鳳図」 明和3(1766)年頃 宮内庁三の丸尚蔵館 ほか
若冲の生前、どのように「動植綵絵」が並んでいたのかは資料に残っていません。ゆえに展示順はその都度に検討。実際のところ毎回変わっています。今回は「釈迦三尊像」を飾る荘厳画としての性格、ないしモチーフの対を意識しての配列です。ちなみに「動植綵絵」のみが「皇室の名宝展」(東京国立博物館)で出品された時は、端的に制作年代順での展示でした。
「動植綵絵 老松孔雀図」 宝暦11(1761)年以前 宮内庁三の丸尚蔵館 ほか
仏画としての配列は相国寺の展示でも同様でした。よって全く同じかと思いきや、実のところそれとも異なっていました。左右に「老松白鳳図」と「老松孔雀図」が置かれているのは同じですが、そもそもラストは相国寺では左が「群魚図・鯛」で右が「群魚図・蛸」。今回は「桃花小禽図」と「紅葉小禽図」です。途中も結構入れ替わっています。ちなみに「群魚図・蛸」とは、今回でいう「諸魚図」。名称の変更もあったようです。
「動植綵絵 紫陽花双鶏図」 宝暦9(1759)年 宮内庁三の丸尚蔵館 ほか
極彩色による生命賛歌とも捉え得る「動植綵絵」。細密描写や裏彩色しかり、若冲画の魅力が全てに詰まった作品でもありますが、あえて1点挙げるとしたら「紫陽花双鶏図」かもしれません。大見得をきるかのようにポーズをとる雄鶏。対しての雌鶏はややうつむき加減です。照れているのでしょうか。ひょいと足を頭の上に振り上げています。上部には紫陽花が咲き誇り、色鮮やかな群青がさもカップルを祝福するかのように降り注ぎます。雌鶏の羽の部分に丸みを帯びた模様がありますが、それらがまるで宝石のように浮き出て見えるのは何故なのでしょうか。艶やかな「老松白鳳図」、シュールな「菊花流水図」、緊迫の「南天雄鶏図」と、好きな作品を羅列すればキリがありませんが、一枚でこの密度です。高い完成度の前に感嘆の息すら漏れてしまいます。
「仙人掌群鶏図襖絵」 重要文化財 寛政2(1790)年 西福寺
大阪の西福寺の「仙人掌群鶏図襖絵」も見どころの一つでした。金地のステージを借りた鶏たちの共演。一部が退色しているとはいえ、羽の模様、一枚一枚も美しい。まるでファッションショーのモデルのようでした。
「蓮池図」 重要文化財 寛政2(1790)年 西福寺
本作には裏にも魅力があります。「蓮池図」です。今でこそ掛け軸に改装されていますが、元は「仙人掌群鶏図襖絵」の裏。表の華やかな世界とは一転しての寂しい光景が広がっています。花は朽ち、枯れていく。水辺を前にしているのでしょうか。包み込むのは静寂。鶏の猛々しい鳴き声は一切聞こえてきません。余白の画面が光っていることに気づきました。照明の効果かもしれませんが、微かな明かりが空間を満たしてもいます。
左:「鳥獣花木図屏風」 江戸時代(18世紀) エツコ&ジョー・プライスコレクション
ラストは若冲のコレクターとしても有名なプライス氏のコレクションが並びます。若冲画でもとりわけ知られた「鳥獣花木図屏風」もお出まし。モザイク屏風です。モチーフは丸みを帯びていてさもゆるキャラのようです。その意味では描写にも緩みがあります。可愛らしい。デザイン云々で引用が多いのもうなずけます。
同じくモザイクで知られる「樹花鳥獣図屏風」と「白象群獣図」の出展は残念ながらありません。制作者については議論もありますが、3作を検討する記述がカタログに僅かながら記載されていました。改めて見比べたいところです。
最後に会場内の状況です。プレビューに次いで、4月24日の日曜日に改めて若冲展へ出かけてきました。
東京都美術館に到着したのが15時頃。その時点で入場まで10分待ちでした。チケットブースは通常と異なり、正門先の屋外に設置されています。そちらの待ち時間はゼロ。ただしチケットはコンビニでも事前に購入可能です。先に手配するのがベストです。実際、私も地元のセブンイレブンで予め当日券を買っておきました。
並び始めて待つこと15分弱。展示室内へ入場出来ました。展示は3層構造。LB階、1階(動植綵絵)、2階へと進む流れです。はじめのLB階はかなりの人出でした。特に新出の「孔雀鳳凰図」の近辺は何重もの人で埋まっています。ただしそれ以外は列の波に乗れば最前列で見ることが出来ました。
「動植綵絵」の展示室はさすがに混雑していました。正面の「釈迦三尊像」を除けば4重から5重の人です。特に順路はないようでしたが、右から回る列が自然に発生していました。後方から単眼鏡で眺めている方も少なからずいます。その後、2階へ。一番人が多かったのは「鳥獣花木図屏風」です。最前列確保のための列も発生していました。結果的に特に混雑していたのは、「孔雀鳳凰図」の近辺、「動植綵絵」の全般、「乗興舟」と「菜蟲譜」の2つの絵巻、そして「鳥獣花木図屏風」でした。
一巡した後、16時半に再度LB階へ戻りました。すると15時頃とは状況が一変。かなり人が引いていて、例の「孔雀鳳凰図」も難なく一番前で観覧出来ました。さらに17時頃、再び「動植綵絵」の展示室へ進むと、さすがに人は残っているものの、せいぜい1重から2重。少し待てばいずれの作品もがぶりつきで見ることが出来ました。
ショップについてはオペレーションが改善されたそうです。この日の閉館間際でも僅かな列が出来ている程度です。特に待つこともありませんでした。
会期当初、3日間を見る限りにおいて、最も待ち時間が発生するのは朝です。概ね30~40分ほどの列が出来ます。その後、段階的に解消。夕方前からは規制がなくなります。とはいえ、とかく人気の若冲です。メディアなどの露出も多く、GWへ向けて、さらに混雑することも予想出来ます。
公式アカウント(@jakuchu_300)がこまめに混雑状況をつぶやいています。そちらも参考になりそうです。
*追記:会期2週目に入り状況が変わりました。混雑に拍車がかかっています。平日でも開門直後、9時半の段階で70~80分待ち。その後、昼過ぎにかけて160分程度の待ち時間が発生しています。入場待ちの行列は閉館間際まで続いているようです。
*5/18追記:会期末を迎えて凄まじい混雑となっています。開門直後、午前中を中心に最大で5時間もの待ち時間が発生しています。行列は閉館間際まで途切れることがありません。なお5月20日(金)以降、当日券の販売は美術館の窓口のみとなります。(事実上の入場規制と思われます。)オンラインほか、コンビニでは購入出来ません。十分にご注意ください。
メモリアルイヤーの若冲展。さすがに名品選と呼んで良いラインナップでした。かつての承天閣での若冲展の密度、そしてワンダーランド、アナザーワールド両展の量には及ばないかもしれませんが、「動植綵絵」を含め、このスケールで見られる若冲展は当分望めそうもありません。その点では一期一会の展覧会だと言えそうです。
「動植綵絵」の作品保護の観点もあるのでしょうか。会期は僅か1ヶ月です。巡回もしません。また一部の作品に展示替えもあります。(出品リスト)
時間と体力に余裕を持ってお出かけください。5月24日まで開催されています。
「生誕300年 若冲展」(@jakuchu_300) 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:4月22日(金)~5月24日(火)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。
休館:4月25日(月)、5月9日(月)
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*5月18日(水)はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「生誕300年 若冲展」
4/22~5/24
東京都美術館で開催中の「生誕300年 若冲展」のプレスプレビューに参加してきました。
江戸時代の京都で活動した絵師、伊藤若冲(1716~1800)。名を知らしめた京都国立博物館の若冲展(2000年)以降、ここ数年も若冲関連の展覧会が続き、その人気は不動のものになった感があります。
意外にも東京では初めての大規模な若冲展です。出品は50点。うち「釈迦三尊像」3幅と「動植綵絵」30幅が加わります。(それぞれ1点として数えられています。)
冒頭は鹿苑寺大書院障壁画の襖絵です。全部で4面やって来ました。「動植綵絵」が彩色画の最高峰とすれば、鹿苑寺の障壁画は水墨の傑作と呼べるかもしれません。いずれも筆は緻密です。余白との関係しかり、隙はありません。
右:「鹿苑寺大書院障壁画 葡萄小禽図襖絵」 重要文化財 宝暦9(1759)年 鹿苑寺
最も見入るのは「葡萄小禽図襖絵」でした。書院中で一番格式のある「一之間」を飾った一枚、得意の葡萄です。蔓は垂れるというよりも、力強く空間を割き、また伸びています。先端では勇ましくとぐろを巻いていました。筆の素早い動きをそのまま活かしています。葡萄は古来中国から豊穣の象徴として尊ばれてきたそうです。葡萄の房、粒の一つ一つにある小さな合間は、一体どのように描き分けたのでしょうか。大変に細かい。細密の名技は水墨でも見事に発揮されています。
左:「孔雀鳳凰図」 宝暦5(1755)年頃 岡田美術館
若冲を追っかけてきたファンにとっても注目すべき作品がありました。「孔雀鳳凰図」です。何故なら公開されたのが80年ぶりだからです。長らく行方不明でありながらも、昨年に確認され、箱根の岡田美術館へと所蔵。今回、出品されることになりました。
右に孔雀で左に鳳凰。とかく目を引くのはハート型の尾先です。言うまでもなく「動植綵絵」の「老松白鳳図」に酷似。また孔雀も同じく「動植綵絵」の「老松孔雀図」に似ていることから、おそらく綵絵を描く前に制作されたと考えられています。
私として収穫だったのは若冲の2つの絵巻、「乗興舟」と「菜蟲譜」がいずれも1巻丸ごと、全て開いて展示されていたことでした。
「菜蟲譜」 重要文化財 寛政4(1792)年 佐野市立吉澤記念美術館
特に「菜蟲譜」です。全長11メートル。前半は野菜と果物です。青物問屋に生まれた若冲にとっては身近な素材だったのでしょう。リアルとはいえ、それぞれがさも動いてポーズをとっているかのような姿をしています。まるで野菜の行進です。全部で98種類。トウモロコシの実の部分の着彩に目がとまりました。というのも白い顔料が塗られていましたが、その大半が剥がれています。意図してのゆえなのでしょうか。後半は昆虫です。こちらは59種類。アゲハ蝶にはじまり、カタツムリ、バッタと続きます。水辺が現れました。無数のオタマジャクシです。「動植綵絵」の「池辺群虫図」を連想しました。その脇で何やら達観しては全てを見据えるかのようにカエルが座っています。後は再び野菜の世界へと回帰します。ラストは冬瓜。真っ二つに割ったのでしょうか。中に款記が記されています。心憎い仕掛けです。
これまでに「菜蟲譜」を見たことは何度かありますが、いつも半分、ないしはそれ以下の一部に過ぎませんでした。一度に全て開いているのを見たのは初めてです。今回の若冲展のさり気ない目玉とも言えるかもしれません。
「釈迦三尊像」と「動植綵絵」展示室風景
メインの「動植綵絵」は1階展示室の全てを用いての展示です。ぐるりと広い円形のスペース、正面にあるのが「釈迦三尊像」の3幅でした。そして右に「老松孔雀図」、「薔薇小禽図」、「梅花皓月図」、「老松鸚鵡図」、「梅花群鶴図」、「向日葵雄鶏図」、「芙蓉双鶏図」、「群鶏図」、「芍薬群蝶図」、「雪中鴛鴦図」、「芦鵞図」、「池辺群虫図」、「諸魚図」、「蓮池遊魚図」、「紅葉小禽図」と並びます。一方の左は「老松白鳳図」、「牡丹小禽図」、「梅花小禽図」、「老松白鶏図」、「棕櫚雄鶏図」、「南天雄鶏図」、「紫陽花双鶏図」、「大鶏雌雄図」、「秋塘群雀図」、「雪中錦鶏図」、「芦雁図」、「貝甲図」、「群魚図」、「菊花流水図」、「桃花小禽図」の順に並んでいました。
「釈迦三尊像 釈迦如来像」 明和2(1765)年以前 相国寺 ほか
「動植綵絵」は若冲が相国寺に「釈迦三尊像」とともに寄進した連作です。完成には約10年を要しています。その後、同寺では若冲の年忌などで掲げてきましたが、明治期の廃仏毀釈のあおりを受けて、「動植綵絵」を皇室へと献上。下賜金を得ます。現在は宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵です。「釈迦三尊像」とは切り離される形で残されました。
2000年に一度、相国寺への里帰りが実現。同寺で120年ぶりに「釈迦三尊像」と並んで展示されたことがありました。それ以来となる邂逅です。東京では初めての揃い踏みが実現しました。
「動植綵絵 老松白鳳図」 明和3(1766)年頃 宮内庁三の丸尚蔵館 ほか
若冲の生前、どのように「動植綵絵」が並んでいたのかは資料に残っていません。ゆえに展示順はその都度に検討。実際のところ毎回変わっています。今回は「釈迦三尊像」を飾る荘厳画としての性格、ないしモチーフの対を意識しての配列です。ちなみに「動植綵絵」のみが「皇室の名宝展」(東京国立博物館)で出品された時は、端的に制作年代順での展示でした。
「動植綵絵 老松孔雀図」 宝暦11(1761)年以前 宮内庁三の丸尚蔵館 ほか
仏画としての配列は相国寺の展示でも同様でした。よって全く同じかと思いきや、実のところそれとも異なっていました。左右に「老松白鳳図」と「老松孔雀図」が置かれているのは同じですが、そもそもラストは相国寺では左が「群魚図・鯛」で右が「群魚図・蛸」。今回は「桃花小禽図」と「紅葉小禽図」です。途中も結構入れ替わっています。ちなみに「群魚図・蛸」とは、今回でいう「諸魚図」。名称の変更もあったようです。
「動植綵絵 紫陽花双鶏図」 宝暦9(1759)年 宮内庁三の丸尚蔵館 ほか
極彩色による生命賛歌とも捉え得る「動植綵絵」。細密描写や裏彩色しかり、若冲画の魅力が全てに詰まった作品でもありますが、あえて1点挙げるとしたら「紫陽花双鶏図」かもしれません。大見得をきるかのようにポーズをとる雄鶏。対しての雌鶏はややうつむき加減です。照れているのでしょうか。ひょいと足を頭の上に振り上げています。上部には紫陽花が咲き誇り、色鮮やかな群青がさもカップルを祝福するかのように降り注ぎます。雌鶏の羽の部分に丸みを帯びた模様がありますが、それらがまるで宝石のように浮き出て見えるのは何故なのでしょうか。艶やかな「老松白鳳図」、シュールな「菊花流水図」、緊迫の「南天雄鶏図」と、好きな作品を羅列すればキリがありませんが、一枚でこの密度です。高い完成度の前に感嘆の息すら漏れてしまいます。
「仙人掌群鶏図襖絵」 重要文化財 寛政2(1790)年 西福寺
大阪の西福寺の「仙人掌群鶏図襖絵」も見どころの一つでした。金地のステージを借りた鶏たちの共演。一部が退色しているとはいえ、羽の模様、一枚一枚も美しい。まるでファッションショーのモデルのようでした。
「蓮池図」 重要文化財 寛政2(1790)年 西福寺
本作には裏にも魅力があります。「蓮池図」です。今でこそ掛け軸に改装されていますが、元は「仙人掌群鶏図襖絵」の裏。表の華やかな世界とは一転しての寂しい光景が広がっています。花は朽ち、枯れていく。水辺を前にしているのでしょうか。包み込むのは静寂。鶏の猛々しい鳴き声は一切聞こえてきません。余白の画面が光っていることに気づきました。照明の効果かもしれませんが、微かな明かりが空間を満たしてもいます。
左:「鳥獣花木図屏風」 江戸時代(18世紀) エツコ&ジョー・プライスコレクション
ラストは若冲のコレクターとしても有名なプライス氏のコレクションが並びます。若冲画でもとりわけ知られた「鳥獣花木図屏風」もお出まし。モザイク屏風です。モチーフは丸みを帯びていてさもゆるキャラのようです。その意味では描写にも緩みがあります。可愛らしい。デザイン云々で引用が多いのもうなずけます。
同じくモザイクで知られる「樹花鳥獣図屏風」と「白象群獣図」の出展は残念ながらありません。制作者については議論もありますが、3作を検討する記述がカタログに僅かながら記載されていました。改めて見比べたいところです。
最後に会場内の状況です。プレビューに次いで、4月24日の日曜日に改めて若冲展へ出かけてきました。
東京都美術館に到着したのが15時頃。その時点で入場まで10分待ちでした。チケットブースは通常と異なり、正門先の屋外に設置されています。そちらの待ち時間はゼロ。ただしチケットはコンビニでも事前に購入可能です。先に手配するのがベストです。実際、私も地元のセブンイレブンで予め当日券を買っておきました。
並び始めて待つこと15分弱。展示室内へ入場出来ました。展示は3層構造。LB階、1階(動植綵絵)、2階へと進む流れです。はじめのLB階はかなりの人出でした。特に新出の「孔雀鳳凰図」の近辺は何重もの人で埋まっています。ただしそれ以外は列の波に乗れば最前列で見ることが出来ました。
「動植綵絵」の展示室はさすがに混雑していました。正面の「釈迦三尊像」を除けば4重から5重の人です。特に順路はないようでしたが、右から回る列が自然に発生していました。後方から単眼鏡で眺めている方も少なからずいます。その後、2階へ。一番人が多かったのは「鳥獣花木図屏風」です。最前列確保のための列も発生していました。結果的に特に混雑していたのは、「孔雀鳳凰図」の近辺、「動植綵絵」の全般、「乗興舟」と「菜蟲譜」の2つの絵巻、そして「鳥獣花木図屏風」でした。
一巡した後、16時半に再度LB階へ戻りました。すると15時頃とは状況が一変。かなり人が引いていて、例の「孔雀鳳凰図」も難なく一番前で観覧出来ました。さらに17時頃、再び「動植綵絵」の展示室へ進むと、さすがに人は残っているものの、せいぜい1重から2重。少し待てばいずれの作品もがぶりつきで見ることが出来ました。
ショップについてはオペレーションが改善されたそうです。この日の閉館間際でも僅かな列が出来ている程度です。特に待つこともありませんでした。
会期当初、3日間を見る限りにおいて、最も待ち時間が発生するのは朝です。概ね30~40分ほどの列が出来ます。その後、段階的に解消。夕方前からは規制がなくなります。とはいえ、とかく人気の若冲です。メディアなどの露出も多く、GWへ向けて、さらに混雑することも予想出来ます。
公式アカウント(@jakuchu_300)がこまめに混雑状況をつぶやいています。そちらも参考になりそうです。
*追記:会期2週目に入り状況が変わりました。混雑に拍車がかかっています。平日でも開門直後、9時半の段階で70~80分待ち。その後、昼過ぎにかけて160分程度の待ち時間が発生しています。入場待ちの行列は閉館間際まで続いているようです。
*5/18追記:会期末を迎えて凄まじい混雑となっています。開門直後、午前中を中心に最大で5時間もの待ち時間が発生しています。行列は閉館間際まで途切れることがありません。なお5月20日(金)以降、当日券の販売は美術館の窓口のみとなります。(事実上の入場規制と思われます。)オンラインほか、コンビニでは購入出来ません。十分にご注意ください。
メモリアルイヤーの若冲展。さすがに名品選と呼んで良いラインナップでした。かつての承天閣での若冲展の密度、そしてワンダーランド、アナザーワールド両展の量には及ばないかもしれませんが、「動植綵絵」を含め、このスケールで見られる若冲展は当分望めそうもありません。その点では一期一会の展覧会だと言えそうです。
「動植綵絵」の作品保護の観点もあるのでしょうか。会期は僅か1ヶ月です。巡回もしません。また一部の作品に展示替えもあります。(出品リスト)
時間と体力に余裕を持ってお出かけください。5月24日まで開催されています。
「生誕300年 若冲展」(@jakuchu_300) 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:4月22日(金)~5月24日(火)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。
休館:4月25日(月)、5月9日(月)
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*5月18日(水)はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「毛利悠子 Pleated Image」 waitingroom
waitingroom
「毛利悠子 Pleated Image」
4/9~5/15
waitingroomで開催中の「毛利悠子 Pleated Image」を見てきました。
昨年の「日産アートアワード2015」でグランプリを受賞し、今年の森美術館の「六本木クロッシング」にも参加している美術家、毛利悠子。waitingroomでは約2年ぶりの個展です。
入口外から何やらウィンウィンといった音が鳴り響いています。おそらく機械の可動音です。聞き慣れないようで、どこかでよく耳にする音のようにも聞こえます。入ってみれば暗室に白い壁。衝立です。太く白いロープが滑車の上を動いています。衝立は二枚。木製で中に空洞があります。ロープはさらにその隙間を通して反対側へと伝わっていました。
音の正体はスキャナでした。というのも衝立の下には蓋の空いたスキャナが可動。白い光を放ちながらひたすらに何物かをスキャンし続けているのです。
スキャナは全部で3台でしょうか。1台は壁にかけてあり、前には何もありません。いわば空間をスキャンしています。もう2台は床に直置きです。1台の上にはひっきりなしに羽を動かす紙の蝶があります。それをスキャン。もう一方には先のロープが垂れ下がっています。ただし滑車の効果か、ロープは常に上下に運動。必ずしもスキャンのタイミングでロープがあるわけでもありません。
時に連関し、有機的に繋がっては動いているかのような作品装置。今年のクロッシングにもやや近いかもしれませんが、さらに一歩踏み込んだ仕掛けがありました。というのも毛利はこのスキャンの画像をハードディスクに記録。画像データも公開しているのです。
スキャニングの画像→https://www.flickr.com/photos/139876404@N07
動きがあることで画像は様々に振幅します。中には顔や手をかざす人もいるやもしれません。そうすれば作品へ観客が介在することにもなります。いわば偶然の産物です。こうした現実における「ぶれ」や「揺らぎ」(ともにギャラリーサイトより)を保存する試み。面白いのではないかと感じました。
waitingroomのオープン日は月曜、および金~日曜日です。火~木曜日はお休みです。ご注意ください。
5月15日まで開催されています。
「毛利悠子 Pleated Image」 waitingroom(@waitingroom_)
会期:4月9日(土)~5月15日(日)
休廊:火~木曜日。*オープンは月、及び金~日曜日のみ。
時間:月曜 17:00~23:00、金・土・日曜 13:00~19:00
料金:無料
住所:渋谷区恵比寿西2-8-11 渋谷百貨ビル3F(4B)
交通:JR線、東京メトロ日比谷線恵比寿駅西口より徒歩4分。東急東横線代官山駅東口より徒歩5分。
「毛利悠子 Pleated Image」
4/9~5/15
waitingroomで開催中の「毛利悠子 Pleated Image」を見てきました。
昨年の「日産アートアワード2015」でグランプリを受賞し、今年の森美術館の「六本木クロッシング」にも参加している美術家、毛利悠子。waitingroomでは約2年ぶりの個展です。
入口外から何やらウィンウィンといった音が鳴り響いています。おそらく機械の可動音です。聞き慣れないようで、どこかでよく耳にする音のようにも聞こえます。入ってみれば暗室に白い壁。衝立です。太く白いロープが滑車の上を動いています。衝立は二枚。木製で中に空洞があります。ロープはさらにその隙間を通して反対側へと伝わっていました。
音の正体はスキャナでした。というのも衝立の下には蓋の空いたスキャナが可動。白い光を放ちながらひたすらに何物かをスキャンし続けているのです。
スキャナは全部で3台でしょうか。1台は壁にかけてあり、前には何もありません。いわば空間をスキャンしています。もう2台は床に直置きです。1台の上にはひっきりなしに羽を動かす紙の蝶があります。それをスキャン。もう一方には先のロープが垂れ下がっています。ただし滑車の効果か、ロープは常に上下に運動。必ずしもスキャンのタイミングでロープがあるわけでもありません。
時に連関し、有機的に繋がっては動いているかのような作品装置。今年のクロッシングにもやや近いかもしれませんが、さらに一歩踏み込んだ仕掛けがありました。というのも毛利はこのスキャンの画像をハードディスクに記録。画像データも公開しているのです。
スキャニングの画像→https://www.flickr.com/photos/139876404@N07
動きがあることで画像は様々に振幅します。中には顔や手をかざす人もいるやもしれません。そうすれば作品へ観客が介在することにもなります。いわば偶然の産物です。こうした現実における「ぶれ」や「揺らぎ」(ともにギャラリーサイトより)を保存する試み。面白いのではないかと感じました。
waitingroomのオープン日は月曜、および金~日曜日です。火~木曜日はお休みです。ご注意ください。
5月15日まで開催されています。
「毛利悠子 Pleated Image」 waitingroom(@waitingroom_)
会期:4月9日(土)~5月15日(日)
休廊:火~木曜日。*オープンは月、及び金~日曜日のみ。
時間:月曜 17:00~23:00、金・土・日曜 13:00~19:00
料金:無料
住所:渋谷区恵比寿西2-8-11 渋谷百貨ビル3F(4B)
交通:JR線、東京メトロ日比谷線恵比寿駅西口より徒歩4分。東急東横線代官山駅東口より徒歩5分。
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「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」 足立区立郷土博物館
足立区立郷土博物館
「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」
3/13~5/22
足立区立郷土博物館で開催中の「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」を見てきました。
江戸時代後期、酒井抱一や鈴木其一、そして谷文晁らの活動した下谷から隅田川を挟んだ千住には、彼らと交流した地元の商家、ないし豪農出身の絵師がいました。
その一人が抱一の俳友でもあった建部巣兆。そして其一の門弟でもある村越其栄と子の向栄、また文晁に師事した舩津文渕です。
建部巣兆は千住関屋の俳諧師でかつ絵師。細密な描写に基づく自称「倭絵」と即興的な俳画をともに嗜んでいました。「芭蕉図」は墨の軽妙な筆致で芭蕉を描いたもの。にこりと笑っては座る様子が描かれています。「蛍狩・盆踊図」では一転、細かな彩色しかり、地味な描法で庶民の風俗を表しています。扇をとっては円を描いて躍る者たち。住吉派を意識していたそうです。ややエグ味のあるユニークな顔面の表現も目を引きます。
村越其栄は其一の門下生です。其の一字を師から譲り受けます。元は下谷で其一に学びながらも、後に千住へ寺子屋を開業。向栄とともに教育にも尽力しながら絵画を制作しました。
村越向栄「八橋図屏風」 明治時代 *前期展示
其栄、向栄の画風はまさしく琳派です。例えば向栄の「八橋図屏風」は光琳や抱一も描いたお馴染みのモチーフ。地は江戸琳派らしく銀です。やや劣化してはいるものの、確かに白い光を放っています。そこに群青と紫に彩られた燕子花を配しています。橋は左から右下へと続きます。葉には金の葉脈も描かれていました。こうした琳派的な絵画は千住の旦那衆にも大いに好まれていたそうです。
この展覧会の主役と言っても良いかもしれません。舩津文渕です。元は足立の江北の豪農。後に文晁が下谷に構えた画塾、写山楼に入門します。名も文晁から与えられたものです。文晁の養子である二世文一とも親しく交流し、下谷と足立を行き来しながら活動しました。
舩津文渕「猛虎図」 江戸時代後期 *通期展示
文渕の「猛虎図」はどうでしょうか。前脚を交差させてポーズをとる虎。猛々しさはなく、まるで猫のように可愛らしい。かなりラフな筆遣いです。一方で「四季草花図」は琳派風の小襖。文晁から抱一の繋がりで琳派を摂取したのでしょうか。可憐な百合や桔梗などが描かれています。線は柔らかい。蔓も自在です。抱一というよりもどこか伊年印や宗達画を連想させる面もありました。
舩津文渕「四季草花図 小襖」(部分) 嘉永6(1853)年頃 *通期展示
文渕が主役としたのには理由があります。というのも彼が写山楼から引き継いだ粉本、ないし彼自身が画法を習得するために使用した自筆の模本、画帳類が数多く展示されているからです。
鈴木其一「墨梅図」 舩津文渕写「屠龍乃技」所収 *通期展示
写山楼の資料には文晁直筆の画をはじめ、文晁一族の肖像、また中国宋元画に室町水墨画、それに江戸絵画の模本、さらにはヤン・ヨンストンの銅版挿絵の写しなどが含まれています。文渕関連では直筆の画帳のほか、家系図や旅行記録、印譜、書簡や日記などがありました。かなり細かい。学究的です。相当綿密に調査したことが伺えます。
谷文晁宛酒井抱一書簡
実は本展、正式なタイトルに「文化遺産調査特別展」とありますが、 そもそも区の文化財、美術資料を対象とした調査事業を反映したもの。2011年の「千住の琳派」の続編にあたります。抱一や琳派研究でお馴染みの玉蟲敏子先生も協力。つまりは江戸期の足立で展開した文人ネットワークを丹念に紐解く展覧会でもあるわけです。
谷文晁「波濤雲龍図」 天保8(1837)年 *前期展示
よって展示もかなり読ませます。もちろん抱一や文晁の本画、さらには珍しい其一の摺物原画などもありますが、先にも触れたように主役は足立の文人たちです。手狭な郷土博物館のスペースではありますが、作品しかり、調査結果しかり、よく練られている企画だと感心しました。
なお会期中に「スタディディ」として、今回の調査研究についての報告、ないしパネルディスカッションも行われます。(要事前申し込み)
スタディデイ:「江戸絵画と文献 展覧会への新しいアプローチ」
日時:5月15日(日) 13:30~16:00(開場:13時)
会場:足立区立郷土博物館
登壇:「文渕写『屠龍之技』 弟子世代における抱一と文晁」
玉蟲敏子氏(武蔵野美術大学教授)
「写山楼の新研究 文晁・文一とその後」
鶴岡明美氏(お茶の水女子大学非常勤講師)
「宝庫を開く 足立文化のアーケオロジー」
真田尊光氏(川村学園女子大学准教授)
*スペシャルサポート 山崎尚之氏(元江戸東京博物館学芸員)
参加方法:往復はがきにて事前申し込み。(詳細リンク)
「美と知性の宝庫 足立」カタログ表紙
カタログも充実しています。先の玉蟲先生の論考をはじめテキスト多数。ほか図版、解説や年譜に年表なども網羅しています。しかも600円です。迷わず購入しました。
一部の作品は前後期で入れ替わります。詳しくは出品リストをご覧ください。
「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」出品リスト(PDF)
前期:3月13日(日)~4月17日(日)
後期:4月19日(火)~5月22日(日)
最後にアクセスの情報です。郷土博物館は区内東部の大谷田に位置します。最寄は東京メトロ千代田線の北綾瀬駅ですが、道なりで約1.7キロ超。歩けば30分近くかかります。
JR常磐線の亀有駅からのバスが有用です。八潮駅南口行きバスであれば博物館のすぐ目の前がバス停。乗ってしまえば10分とかかりません。
裏手には東渕江庭園もあります。2~3分もあれば一周出来るこじんまりしたお庭ですが、随所の四季の草花を愛でることも出来ます。バス待ちの時間などに散策するのも良いかもしれません。
5月22日まで開催されています。
「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」 足立区立郷土博物館
会期:3月13日(火)~5月22日(日)
休館:毎週月曜日。但し月曜が休日の場合は開館、翌火曜は休館。
時間:9:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:大人(高校生以上)200円、団体(20名以上)100円。
*70歳以上は無料。
*毎月第2・第3土曜日は無料公開日。
場所:足立区大谷田5-20-1
交通:JR亀有駅北口から東武バス八潮駅南口行、足立郷土博物館下車徒歩1分。もしくは東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。東京メトロ千代田線綾瀬駅西口から東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。駐車場有。
「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」
3/13~5/22
足立区立郷土博物館で開催中の「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」を見てきました。
江戸時代後期、酒井抱一や鈴木其一、そして谷文晁らの活動した下谷から隅田川を挟んだ千住には、彼らと交流した地元の商家、ないし豪農出身の絵師がいました。
その一人が抱一の俳友でもあった建部巣兆。そして其一の門弟でもある村越其栄と子の向栄、また文晁に師事した舩津文渕です。
建部巣兆は千住関屋の俳諧師でかつ絵師。細密な描写に基づく自称「倭絵」と即興的な俳画をともに嗜んでいました。「芭蕉図」は墨の軽妙な筆致で芭蕉を描いたもの。にこりと笑っては座る様子が描かれています。「蛍狩・盆踊図」では一転、細かな彩色しかり、地味な描法で庶民の風俗を表しています。扇をとっては円を描いて躍る者たち。住吉派を意識していたそうです。ややエグ味のあるユニークな顔面の表現も目を引きます。
村越其栄は其一の門下生です。其の一字を師から譲り受けます。元は下谷で其一に学びながらも、後に千住へ寺子屋を開業。向栄とともに教育にも尽力しながら絵画を制作しました。
村越向栄「八橋図屏風」 明治時代 *前期展示
其栄、向栄の画風はまさしく琳派です。例えば向栄の「八橋図屏風」は光琳や抱一も描いたお馴染みのモチーフ。地は江戸琳派らしく銀です。やや劣化してはいるものの、確かに白い光を放っています。そこに群青と紫に彩られた燕子花を配しています。橋は左から右下へと続きます。葉には金の葉脈も描かれていました。こうした琳派的な絵画は千住の旦那衆にも大いに好まれていたそうです。
この展覧会の主役と言っても良いかもしれません。舩津文渕です。元は足立の江北の豪農。後に文晁が下谷に構えた画塾、写山楼に入門します。名も文晁から与えられたものです。文晁の養子である二世文一とも親しく交流し、下谷と足立を行き来しながら活動しました。
舩津文渕「猛虎図」 江戸時代後期 *通期展示
文渕の「猛虎図」はどうでしょうか。前脚を交差させてポーズをとる虎。猛々しさはなく、まるで猫のように可愛らしい。かなりラフな筆遣いです。一方で「四季草花図」は琳派風の小襖。文晁から抱一の繋がりで琳派を摂取したのでしょうか。可憐な百合や桔梗などが描かれています。線は柔らかい。蔓も自在です。抱一というよりもどこか伊年印や宗達画を連想させる面もありました。
舩津文渕「四季草花図 小襖」(部分) 嘉永6(1853)年頃 *通期展示
文渕が主役としたのには理由があります。というのも彼が写山楼から引き継いだ粉本、ないし彼自身が画法を習得するために使用した自筆の模本、画帳類が数多く展示されているからです。
鈴木其一「墨梅図」 舩津文渕写「屠龍乃技」所収 *通期展示
写山楼の資料には文晁直筆の画をはじめ、文晁一族の肖像、また中国宋元画に室町水墨画、それに江戸絵画の模本、さらにはヤン・ヨンストンの銅版挿絵の写しなどが含まれています。文渕関連では直筆の画帳のほか、家系図や旅行記録、印譜、書簡や日記などがありました。かなり細かい。学究的です。相当綿密に調査したことが伺えます。
谷文晁宛酒井抱一書簡
実は本展、正式なタイトルに「文化遺産調査特別展」とありますが、 そもそも区の文化財、美術資料を対象とした調査事業を反映したもの。2011年の「千住の琳派」の続編にあたります。抱一や琳派研究でお馴染みの玉蟲敏子先生も協力。つまりは江戸期の足立で展開した文人ネットワークを丹念に紐解く展覧会でもあるわけです。
谷文晁「波濤雲龍図」 天保8(1837)年 *前期展示
よって展示もかなり読ませます。もちろん抱一や文晁の本画、さらには珍しい其一の摺物原画などもありますが、先にも触れたように主役は足立の文人たちです。手狭な郷土博物館のスペースではありますが、作品しかり、調査結果しかり、よく練られている企画だと感心しました。
なお会期中に「スタディディ」として、今回の調査研究についての報告、ないしパネルディスカッションも行われます。(要事前申し込み)
スタディデイ:「江戸絵画と文献 展覧会への新しいアプローチ」
日時:5月15日(日) 13:30~16:00(開場:13時)
会場:足立区立郷土博物館
登壇:「文渕写『屠龍之技』 弟子世代における抱一と文晁」
玉蟲敏子氏(武蔵野美術大学教授)
「写山楼の新研究 文晁・文一とその後」
鶴岡明美氏(お茶の水女子大学非常勤講師)
「宝庫を開く 足立文化のアーケオロジー」
真田尊光氏(川村学園女子大学准教授)
*スペシャルサポート 山崎尚之氏(元江戸東京博物館学芸員)
参加方法:往復はがきにて事前申し込み。(詳細リンク)
「美と知性の宝庫 足立」カタログ表紙
カタログも充実しています。先の玉蟲先生の論考をはじめテキスト多数。ほか図版、解説や年譜に年表なども網羅しています。しかも600円です。迷わず購入しました。
一部の作品は前後期で入れ替わります。詳しくは出品リストをご覧ください。
「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」出品リスト(PDF)
前期:3月13日(日)~4月17日(日)
後期:4月19日(火)~5月22日(日)
最後にアクセスの情報です。郷土博物館は区内東部の大谷田に位置します。最寄は東京メトロ千代田線の北綾瀬駅ですが、道なりで約1.7キロ超。歩けば30分近くかかります。
JR常磐線の亀有駅からのバスが有用です。八潮駅南口行きバスであれば博物館のすぐ目の前がバス停。乗ってしまえば10分とかかりません。
裏手には東渕江庭園もあります。2~3分もあれば一周出来るこじんまりしたお庭ですが、随所の四季の草花を愛でることも出来ます。バス待ちの時間などに散策するのも良いかもしれません。
5月22日まで開催されています。
「美と知性の宝庫 足立ー酒井抱一・谷文晁とその弟子たち」 足立区立郷土博物館
会期:3月13日(火)~5月22日(日)
休館:毎週月曜日。但し月曜が休日の場合は開館、翌火曜は休館。
時間:9:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:大人(高校生以上)200円、団体(20名以上)100円。
*70歳以上は無料。
*毎月第2・第3土曜日は無料公開日。
場所:足立区大谷田5-20-1
交通:JR亀有駅北口から東武バス八潮駅南口行、足立郷土博物館下車徒歩1分。もしくは東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。東京メトロ千代田線綾瀬駅西口から東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。駐車場有。
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「明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー
ギンザ・グラフィック・ギャラリー
「ggg30周年記念展 明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」
4/15~5/28
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「ggg30周年記念展 明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」を見てきました。
1986年にグラフィックデザイン専門のギャラリーとして誕生したスリー・ジー(ggg)ことギンザ・グラフィック・ギャラリー。今年で開設30年を迎えました。
これまでに行った展覧会は何と360展。計132万名もの入場者を数えているそうです。
その活動をポスターで振り返ろうとするのが「gggポスター1986-2016」。思ってみればさすがデザインのギャラリー。意匠を凝らしたポスターも少なくありません。
記念すべき第1回目を飾ったのは大橋正。キッコーマンのアートディレクションを担当し、キャラクターのキッコちゃんを生み出たデザイナーです。展示の名は「野菜のイラストレーション」。食材のイラストでも知られていたそうです。よってポスターも野菜です。何らかの株状、ないし球根のような野菜をデザインしています。一体何をモデルにしているのでしょうか。リアルなようでそうではない。どこか未知の生き物を表したようにも見えます。
それにしても会場はポスターに次ぐポスター。壁に貼ってはスペースも足りなかったのでしょう。専用の什器を用いては上下二段で展開しています。まるで迷路です。その合間を縫って歩く仕掛けです。1階は2000年までのポスター。以降のポスターは続く地下フロアに並んでいます。一番、最近のものは今春に開催された「祖父江慎+コズフィッシュ展」です。そういえばかの展示はgggの改装のために日比谷図書文化館に場所を移して行われました。
ポスターを見ていると特定のデザイナーを何度も紹介していることに気がつきました。例えば田中一光です。ポスター、グラフィックアート展に没後10周年展。また先を見据えば今年8月にも田中一光展が開催されます。
一度、ポスターを順に追いかけ、また同じルートで戻ると、さも年代を遡って展示を見ているような気分になりました。私がgggに通っているのはここ2、3年に過ぎませんが、それでも何かと疎いデザインに関して見知り、また刺激を与えられることも少なくありません。
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 2016年度展示スケジュール
次の40年に向けての展開にも期待したいと思います。
5月28日まで開催されています。
「ggg30周年記念展 明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
会期:4月15日(金)~5月28日(土)
休廊:日曜・祝日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
「ggg30周年記念展 明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」
4/15~5/28
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「ggg30周年記念展 明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」を見てきました。
1986年にグラフィックデザイン専門のギャラリーとして誕生したスリー・ジー(ggg)ことギンザ・グラフィック・ギャラリー。今年で開設30年を迎えました。
これまでに行った展覧会は何と360展。計132万名もの入場者を数えているそうです。
その活動をポスターで振り返ろうとするのが「gggポスター1986-2016」。思ってみればさすがデザインのギャラリー。意匠を凝らしたポスターも少なくありません。
記念すべき第1回目を飾ったのは大橋正。キッコーマンのアートディレクションを担当し、キャラクターのキッコちゃんを生み出たデザイナーです。展示の名は「野菜のイラストレーション」。食材のイラストでも知られていたそうです。よってポスターも野菜です。何らかの株状、ないし球根のような野菜をデザインしています。一体何をモデルにしているのでしょうか。リアルなようでそうではない。どこか未知の生き物を表したようにも見えます。
それにしても会場はポスターに次ぐポスター。壁に貼ってはスペースも足りなかったのでしょう。専用の什器を用いては上下二段で展開しています。まるで迷路です。その合間を縫って歩く仕掛けです。1階は2000年までのポスター。以降のポスターは続く地下フロアに並んでいます。一番、最近のものは今春に開催された「祖父江慎+コズフィッシュ展」です。そういえばかの展示はgggの改装のために日比谷図書文化館に場所を移して行われました。
ポスターを見ていると特定のデザイナーを何度も紹介していることに気がつきました。例えば田中一光です。ポスター、グラフィックアート展に没後10周年展。また先を見据えば今年8月にも田中一光展が開催されます。
一度、ポスターを順に追いかけ、また同じルートで戻ると、さも年代を遡って展示を見ているような気分になりました。私がgggに通っているのはここ2、3年に過ぎませんが、それでも何かと疎いデザインに関して見知り、また刺激を与えられることも少なくありません。
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 2016年度展示スケジュール
次の40年に向けての展開にも期待したいと思います。
5月28日まで開催されています。
「ggg30周年記念展 明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
会期:4月15日(金)~5月28日(土)
休廊:日曜・祝日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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「美の祝典1ーやまと絵の四季」 出光美術館
出光美術館
「開館50周年記念 美の祝典1ーやまと絵の四季」
4/9~5/8
出光美術館で開催中の「開館50周年記念 美の祝典1ーやまと絵の四季」を見てきました。
1966年、実業家の出光佐三の収集した美術品を公開するために開館した出光美術館。今年でちょうど開館50周年を迎えました。
その「記念企画」(解説より)です。同美術館の誇る日本の古美術品を3期に分けて紹介しています。
さて3期とは「やまと絵」に「水墨」に「江戸絵画」。いずれも会期が異なるのがポイントです。出品の絵画作品は各会期ごとに全て入れ替わります。
「日月四季花鳥図屏風」(右隻) 室町時代 重要文化財
現在は1期目の「やまと絵」。冒頭から見事な屏風が出ていました。室町時代の「日月四季花鳥図屏風」です。右隻は春。山桜でしょうか。花をやや散らしながら咲き誇ります。上には円い太陽。金属板がはめ込まれていました。その下には番いの雉がいます。一転しての左隻は秋の情景です。細い線による秋草が弧を描いています。地面には鹿、何やら寛いで座っていました。空には同じく金属板。今度は鋭い三日月です。日と月の下の四季の光景。装飾性を帯びた箔や金泥の表現も魅力的でした。
同じく室町では「四季花木図屏風」も美しい。右は梅で春、左には楓や竹などが描かれています。中央の水流を配してどこか左右対称的です。季節は異なりながらも画面は連続。仄かに白んだ光の表現が絶妙でした。細かな箔が散らされているのでしょうか。静かな夜の景色。水の流れる音だけが聞こえて来るかのようです。
さらに屏風は時代が下って2点、桃山期の「宇治橋柴舟図屏風」と「吉野龍田図屏風」が展示されています。前者のモチーフは文字通りに宇治橋。金色の空間に堂々たる橋が架かっています。後者は春の桜と秋の紅葉を表したもの。桜は満開そのものです。画面いっぱいに埋め尽くしています。桜の木の幹は逞しい。下から強く突き上げています。枝ぶりも左右に震えるかのように大胆です。そこだけ切り取ればまるで永徳の「檜図屏風」のようでした。
「美の祝典」展のハイライトです。出光が誇る国宝の「伴大納言絵巻」。全長27メートルの画面の中にかの「応天門の変」を題材とした歴史物語を表しています。
「伴大納言絵巻」(上巻・部分) 平安時代 国宝
出光美術館として約10年ぶりとなる公開。その時は「伴大納言絵巻」展として一括で見せていました。今回は上中下巻を3期に分けての展示です。よって現在の第1期は上巻。検非違使の出勤から応天門の炎上、そして藤原良房が天皇を諌める場面までが描かれています。
猛々しく燃え盛る応天門を囲んでは騒ぐ群衆たち。その表情に同じものは一つとしてありません。ちなみに10年前の展覧会は私も行きました。作品自体が強く印象に残ったのはもちろん、確か大変な混雑だったことを記憶しています。
その混雑を見通してのことでしょうか。絵巻はほかと区切られた専用のスペースで展示でされています。先にあるのは解説パネル。かなり詳細に情景を記しています。それを踏まえた上で実際の絵巻を見る流れです。展示室内の動線、ないし造作に一工夫ありました。
「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」 鎌倉時代 重要文化財
なお絵巻ではほか「絵因果経」、「西行物語絵巻」、「長谷寺縁起絵巻」なども展示。元々は絵巻であった「佐竹本三十六歌仙絵」も「柿本人麿」と「僧正遍照」の2幅が出ています。まさしくお宝揃いでした。
「真言八祖行状図(瀧智)」 保延2 (1136)年 重要文化財
後半は仏教由来の絵画が目立ちます。うち久々の公開であるのが「真言八祖行状図」です。作は平安時代、真言密教の伝来に基づく場面を描いていますが、汚れや傷みが目立っていたために、平成20年頃より修復。約8年の歳月をかけて終了しました。さすがに古い時代のものだけに画面は明るくありませんが、草木の細部などがかなり精緻に描かれていることが分かります。
ラストは伝宗達などの初期琳派です。うち伝宗達の「月に秋草図屏風」と伊年印の「四季草花図屏風」が横並びになる様は見事の一言。前者が粗であれば、後者は密。草花が咲いては金色の空間を可憐に彩っています。
さり気なく工芸も優品ばかり。うち室町時代の「金銅蓮唐草文透彫経箱重要文化財」に惹かれました。透かし彫りは実に緻密。大小の唐草文が箱の蓋から側面へと続いています。
大きな屏風が目立つこともあってか出品総数は30点弱。必ずしも量で見せる展覧会ではありませんが、これだけの質を前にすればぐうの音も出ません。改めて出光コレクションの底力を見る思いがしました。
第1期期間中、当日入館券を購入すると、次回以降に使用出来る(1回限り)500円引きの割引券がいただけます。2期、3期の観覧の際に重宝しそうです。
「絵因果経(部分)」 奈良時代 重要文化財
通常より閉館時間を延長し、18時まで開館していますが、金曜の夜間開館は行われていません。ご注意ください。
16日の土曜日の夕方前に出かけましたが、館内は思いの外に空いていました。ロッカー室を増設するなど混雑への対応もなされていましたが、現段階であれば「伴大納言絵巻」もゆっくり観覧出来ると思います。
「思いっきり味わいつくす伴大納言絵巻/黒田泰三/小学館」
5月8日まで開催されています。
「開館50周年記念 美の祝典1ーやまと絵の四季」 出光美術館
会期:4月9日(土)~5月8日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。
時間:10:00~18:00
*毎入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
「開館50周年記念 美の祝典1ーやまと絵の四季」
4/9~5/8
出光美術館で開催中の「開館50周年記念 美の祝典1ーやまと絵の四季」を見てきました。
1966年、実業家の出光佐三の収集した美術品を公開するために開館した出光美術館。今年でちょうど開館50周年を迎えました。
その「記念企画」(解説より)です。同美術館の誇る日本の古美術品を3期に分けて紹介しています。
さて3期とは「やまと絵」に「水墨」に「江戸絵画」。いずれも会期が異なるのがポイントです。出品の絵画作品は各会期ごとに全て入れ替わります。
「日月四季花鳥図屏風」(右隻) 室町時代 重要文化財
現在は1期目の「やまと絵」。冒頭から見事な屏風が出ていました。室町時代の「日月四季花鳥図屏風」です。右隻は春。山桜でしょうか。花をやや散らしながら咲き誇ります。上には円い太陽。金属板がはめ込まれていました。その下には番いの雉がいます。一転しての左隻は秋の情景です。細い線による秋草が弧を描いています。地面には鹿、何やら寛いで座っていました。空には同じく金属板。今度は鋭い三日月です。日と月の下の四季の光景。装飾性を帯びた箔や金泥の表現も魅力的でした。
同じく室町では「四季花木図屏風」も美しい。右は梅で春、左には楓や竹などが描かれています。中央の水流を配してどこか左右対称的です。季節は異なりながらも画面は連続。仄かに白んだ光の表現が絶妙でした。細かな箔が散らされているのでしょうか。静かな夜の景色。水の流れる音だけが聞こえて来るかのようです。
さらに屏風は時代が下って2点、桃山期の「宇治橋柴舟図屏風」と「吉野龍田図屏風」が展示されています。前者のモチーフは文字通りに宇治橋。金色の空間に堂々たる橋が架かっています。後者は春の桜と秋の紅葉を表したもの。桜は満開そのものです。画面いっぱいに埋め尽くしています。桜の木の幹は逞しい。下から強く突き上げています。枝ぶりも左右に震えるかのように大胆です。そこだけ切り取ればまるで永徳の「檜図屏風」のようでした。
「美の祝典」展のハイライトです。出光が誇る国宝の「伴大納言絵巻」。全長27メートルの画面の中にかの「応天門の変」を題材とした歴史物語を表しています。
「伴大納言絵巻」(上巻・部分) 平安時代 国宝
出光美術館として約10年ぶりとなる公開。その時は「伴大納言絵巻」展として一括で見せていました。今回は上中下巻を3期に分けての展示です。よって現在の第1期は上巻。検非違使の出勤から応天門の炎上、そして藤原良房が天皇を諌める場面までが描かれています。
猛々しく燃え盛る応天門を囲んでは騒ぐ群衆たち。その表情に同じものは一つとしてありません。ちなみに10年前の展覧会は私も行きました。作品自体が強く印象に残ったのはもちろん、確か大変な混雑だったことを記憶しています。
その混雑を見通してのことでしょうか。絵巻はほかと区切られた専用のスペースで展示でされています。先にあるのは解説パネル。かなり詳細に情景を記しています。それを踏まえた上で実際の絵巻を見る流れです。展示室内の動線、ないし造作に一工夫ありました。
「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」 鎌倉時代 重要文化財
なお絵巻ではほか「絵因果経」、「西行物語絵巻」、「長谷寺縁起絵巻」なども展示。元々は絵巻であった「佐竹本三十六歌仙絵」も「柿本人麿」と「僧正遍照」の2幅が出ています。まさしくお宝揃いでした。
「真言八祖行状図(瀧智)」 保延2 (1136)年 重要文化財
後半は仏教由来の絵画が目立ちます。うち久々の公開であるのが「真言八祖行状図」です。作は平安時代、真言密教の伝来に基づく場面を描いていますが、汚れや傷みが目立っていたために、平成20年頃より修復。約8年の歳月をかけて終了しました。さすがに古い時代のものだけに画面は明るくありませんが、草木の細部などがかなり精緻に描かれていることが分かります。
ラストは伝宗達などの初期琳派です。うち伝宗達の「月に秋草図屏風」と伊年印の「四季草花図屏風」が横並びになる様は見事の一言。前者が粗であれば、後者は密。草花が咲いては金色の空間を可憐に彩っています。
さり気なく工芸も優品ばかり。うち室町時代の「金銅蓮唐草文透彫経箱重要文化財」に惹かれました。透かし彫りは実に緻密。大小の唐草文が箱の蓋から側面へと続いています。
大きな屏風が目立つこともあってか出品総数は30点弱。必ずしも量で見せる展覧会ではありませんが、これだけの質を前にすればぐうの音も出ません。改めて出光コレクションの底力を見る思いがしました。
第1期期間中、当日入館券を購入すると、次回以降に使用出来る(1回限り)500円引きの割引券がいただけます。2期、3期の観覧の際に重宝しそうです。
「絵因果経(部分)」 奈良時代 重要文化財
通常より閉館時間を延長し、18時まで開館していますが、金曜の夜間開館は行われていません。ご注意ください。
16日の土曜日の夕方前に出かけましたが、館内は思いの外に空いていました。ロッカー室を増設するなど混雑への対応もなされていましたが、現段階であれば「伴大納言絵巻」もゆっくり観覧出来ると思います。
「思いっきり味わいつくす伴大納言絵巻/黒田泰三/小学館」
5月8日まで開催されています。
「開館50周年記念 美の祝典1ーやまと絵の四季」 出光美術館
会期:4月9日(土)~5月8日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。
時間:10:00~18:00
*毎入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「六本木クロッシング2016」 森美術館
森美術館
「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」
3/26~7/10
森美術館で開催中の「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」を見てきました。
2004年より3年に1度、森美術館を舞台に現代美術を紹介してきた「六本木クロッシング」。今年で早くも5回目です。
テーマは「僕の身体(からだ)、あなたの声」。日本、韓国、台湾の4人のキュレーターによって選ばれた20組のアーティストが様々な作品を展開しています。
毛利悠子「From A」 2015‒2016年
冒頭は毛利悠子。昨年の日産アートアワードでグランプリを受賞した作家です。立ちはだかるのは白い壁。扇風機やフライパン、それにハタキなどの日用品が、ケーブルやワイヤーで繋がっています。可動式です。時にビクンと波打ち、パタンと動きます。規則性があるのか、はたまたランダムなのかは俄かには判別しません。互いに関係しながら自律しています。各々の品は壁というステージを借りては何かを演ずる役者のようでもありました。
石川竜一「okinawan portraits 2010‒2012」 シリーズより 2010‒2012年 ほか
2014年に木村伊兵衛賞を受賞した石川竜一が「okinawan portraits」の未発表作品を展示しています。いずれも沖縄で撮影したポートレートです。しかしながら顔が限りなく拡大されているゆえに、衣服なり、背景があまり明らかではありません。人を取り巻く生活や仕事といった文脈から切り離されているようにも見えます。また何台か積まれたブラウン管モニターにも注目です。そこでも写真と同様、顔が交互に映し出されていました。
片山真理「you’re mine #001」 2014年 ほか
タイトルの「身体」を強く意識させる作品と言えるかもしれません。片山真理です。目に飛び込んでくるのは足や腕の欠けた人物のオブジェ。さらに写真も加わります。モデルは女性です。下着姿でしょうか。白いリネンに包まれてはポーズをとっています。そしてここでもやはり足が失われていました。
片山自身、幼少期に両足を切断し、義足で生活を続けてきたそうです。自らを半ば「さらけ出して」(キャプションより)まで見せた私の「身体」。ゴージャスに飾られた部屋の中でも姿を露わにしています。プライベートを意識させた空間も個性的でした。
山城大督「トーキング・ライツ」 2016年
太鼓や骨董の器、ないしシャモジといった道具類を巧みに操っています。山城大督の「トーキング・ライツ」です。白く広い台に並べられた道具類。次々とライトが変化してはしゃべり出します。子どもの声でしょうか。もはや演劇です。ただし道具自体は動きません。ただそれでも音声と光の演出により何らかのストーリーを追うかのごとく展開していきます。ふと付喪神を連想しました。その現代版舞台とでも表せるかもしれません。
野村和弘「笑う祭壇」 2015年
カチャンコトンという音が鳴り響いていました。野村和弘の「笑う祭壇」です。白線の引かれた区間。立ち入れません。その中に何やら細い台のようなものが設置されています。祭壇でしょうか。手前にはたくさんの小さなボタン。台の周りの床にも無数に散乱しています。
結論からすれば参加型のインスタレーションでした。観客は祭壇を目掛けてボタンを投げ入れます。目標は祭壇上の小さな平面です。当然、私もやってみました。たまには台に当たります。ただし上に載せることは不可能。そもそも土台無理な話なのかもしれません。にも関わらず、どこか諦めながらボタンを投げてしまいます。もはや無為とも言えないでしょうか。笑っているのはむしろ祭壇の方かもしれません。
後藤靖香「寄書」 2008年 国立国際美術館
後藤靖香の絵画に迫力がありました。テーマは第二次世界大戦です。自らの祖父の従軍したエピソードを基にしています。「寄書」は配属された同期との寄せ書きの場面を描いたもの。中央で力強く筆をとるのが祖父なのでしょうか。皆、当然ながら軍服姿。緊張しているのかもしれません。肩に力が入っている様子が伝わってきます。一方で周囲の同期は表情豊かです。ニヤリと笑ったり、どこか不安げに口を開けている者もいます。
後藤靖香「あいおいばし」 2013年
「あいおいばし」では少年と入隊後の祖父を二つの平面上で邂逅させています。もちろん空想上の光景ではありますが、好奇心旺盛な眼差しで体を前にくねらせては互いに見遣っています。ちなみに後藤が絵を描く際に素材としているのは墨汁です。近寄ってみると確かに墨に独特の滲みが広がっていることがわかりました。
ナイル・ケティング「マグニチュード」 2016年
白熱電球の研究開発をテーマとしたナイル・ケティングがやや異色です。タイトルは「マグニチュード」。何やら舞台装置のようなインスタレーションを展開させています。
さわひらき「カメラの中の男(自画像のための習作)」 2016年
展覧会の核をなしているのは映像と言えるかもしれません。自画像をテーマとしたさわひらきにはじまり、日本の戦前の教育制度を現代の韓国人の視座からも問い直す藤井光、そして旗をテーマに性差や共同体の問題を捉える佐々瞬、さらには山口の離島で飼育される「見島牛」を8ミリに収めた志村信裕や、2人の祖母のインタビューを時にトリッキーに編集した百瀬文などと実力派揃い。テーマも多岐に渡ります。じっくり向き合うには物理的に相当の時間もかかります。
藤井光「帝国の教育制度」 2016年
実のところこれほど映像が多いと思っていなかった私は、その後の都合もあり、駆け足での観覧となってしまいました。また西原尚の可動式のインスタレーション、「ブリンブリン」も調整中のため、観覧出来ませんでした。その意味でも改めて出直したいと思います。
佐々瞬「旗の行方」 2016年
なかなか全体として捉えるのが難しい展覧会ではありますが、映像しかり、個々には考えさせられる作品も少なくありません。
なお会場内は撮影が可能です。一定の規定を守ればSNSでも利用出来ます。
ロングランの展覧会です。7月10日まで開催されています。
「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」 森美術館(@mori_art_museum)
会期:3月26日(土)~ 7月10日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
*但し火曜日は17時で閉館。(5月3日は22時まで開館。)
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・高校生1200円、中学生以下(4歳まで)600円、シニア(65歳以上)1500円。
*本展チケットで展望台へも入館可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」
3/26~7/10
森美術館で開催中の「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」を見てきました。
2004年より3年に1度、森美術館を舞台に現代美術を紹介してきた「六本木クロッシング」。今年で早くも5回目です。
テーマは「僕の身体(からだ)、あなたの声」。日本、韓国、台湾の4人のキュレーターによって選ばれた20組のアーティストが様々な作品を展開しています。
毛利悠子「From A」 2015‒2016年
冒頭は毛利悠子。昨年の日産アートアワードでグランプリを受賞した作家です。立ちはだかるのは白い壁。扇風機やフライパン、それにハタキなどの日用品が、ケーブルやワイヤーで繋がっています。可動式です。時にビクンと波打ち、パタンと動きます。規則性があるのか、はたまたランダムなのかは俄かには判別しません。互いに関係しながら自律しています。各々の品は壁というステージを借りては何かを演ずる役者のようでもありました。
石川竜一「okinawan portraits 2010‒2012」 シリーズより 2010‒2012年 ほか
2014年に木村伊兵衛賞を受賞した石川竜一が「okinawan portraits」の未発表作品を展示しています。いずれも沖縄で撮影したポートレートです。しかしながら顔が限りなく拡大されているゆえに、衣服なり、背景があまり明らかではありません。人を取り巻く生活や仕事といった文脈から切り離されているようにも見えます。また何台か積まれたブラウン管モニターにも注目です。そこでも写真と同様、顔が交互に映し出されていました。
片山真理「you’re mine #001」 2014年 ほか
タイトルの「身体」を強く意識させる作品と言えるかもしれません。片山真理です。目に飛び込んでくるのは足や腕の欠けた人物のオブジェ。さらに写真も加わります。モデルは女性です。下着姿でしょうか。白いリネンに包まれてはポーズをとっています。そしてここでもやはり足が失われていました。
片山自身、幼少期に両足を切断し、義足で生活を続けてきたそうです。自らを半ば「さらけ出して」(キャプションより)まで見せた私の「身体」。ゴージャスに飾られた部屋の中でも姿を露わにしています。プライベートを意識させた空間も個性的でした。
山城大督「トーキング・ライツ」 2016年
太鼓や骨董の器、ないしシャモジといった道具類を巧みに操っています。山城大督の「トーキング・ライツ」です。白く広い台に並べられた道具類。次々とライトが変化してはしゃべり出します。子どもの声でしょうか。もはや演劇です。ただし道具自体は動きません。ただそれでも音声と光の演出により何らかのストーリーを追うかのごとく展開していきます。ふと付喪神を連想しました。その現代版舞台とでも表せるかもしれません。
野村和弘「笑う祭壇」 2015年
カチャンコトンという音が鳴り響いていました。野村和弘の「笑う祭壇」です。白線の引かれた区間。立ち入れません。その中に何やら細い台のようなものが設置されています。祭壇でしょうか。手前にはたくさんの小さなボタン。台の周りの床にも無数に散乱しています。
結論からすれば参加型のインスタレーションでした。観客は祭壇を目掛けてボタンを投げ入れます。目標は祭壇上の小さな平面です。当然、私もやってみました。たまには台に当たります。ただし上に載せることは不可能。そもそも土台無理な話なのかもしれません。にも関わらず、どこか諦めながらボタンを投げてしまいます。もはや無為とも言えないでしょうか。笑っているのはむしろ祭壇の方かもしれません。
後藤靖香「寄書」 2008年 国立国際美術館
後藤靖香の絵画に迫力がありました。テーマは第二次世界大戦です。自らの祖父の従軍したエピソードを基にしています。「寄書」は配属された同期との寄せ書きの場面を描いたもの。中央で力強く筆をとるのが祖父なのでしょうか。皆、当然ながら軍服姿。緊張しているのかもしれません。肩に力が入っている様子が伝わってきます。一方で周囲の同期は表情豊かです。ニヤリと笑ったり、どこか不安げに口を開けている者もいます。
後藤靖香「あいおいばし」 2013年
「あいおいばし」では少年と入隊後の祖父を二つの平面上で邂逅させています。もちろん空想上の光景ではありますが、好奇心旺盛な眼差しで体を前にくねらせては互いに見遣っています。ちなみに後藤が絵を描く際に素材としているのは墨汁です。近寄ってみると確かに墨に独特の滲みが広がっていることがわかりました。
ナイル・ケティング「マグニチュード」 2016年
白熱電球の研究開発をテーマとしたナイル・ケティングがやや異色です。タイトルは「マグニチュード」。何やら舞台装置のようなインスタレーションを展開させています。
さわひらき「カメラの中の男(自画像のための習作)」 2016年
展覧会の核をなしているのは映像と言えるかもしれません。自画像をテーマとしたさわひらきにはじまり、日本の戦前の教育制度を現代の韓国人の視座からも問い直す藤井光、そして旗をテーマに性差や共同体の問題を捉える佐々瞬、さらには山口の離島で飼育される「見島牛」を8ミリに収めた志村信裕や、2人の祖母のインタビューを時にトリッキーに編集した百瀬文などと実力派揃い。テーマも多岐に渡ります。じっくり向き合うには物理的に相当の時間もかかります。
藤井光「帝国の教育制度」 2016年
実のところこれほど映像が多いと思っていなかった私は、その後の都合もあり、駆け足での観覧となってしまいました。また西原尚の可動式のインスタレーション、「ブリンブリン」も調整中のため、観覧出来ませんでした。その意味でも改めて出直したいと思います。
佐々瞬「旗の行方」 2016年
なかなか全体として捉えるのが難しい展覧会ではありますが、映像しかり、個々には考えさせられる作品も少なくありません。
なお会場内は撮影が可能です。一定の規定を守ればSNSでも利用出来ます。
ロングランの展覧会です。7月10日まで開催されています。
「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」 森美術館(@mori_art_museum)
会期:3月26日(土)~ 7月10日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
*但し火曜日は17時で閉館。(5月3日は22時まで開館。)
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・高校生1200円、中学生以下(4歳まで)600円、シニア(65歳以上)1500円。
*本展チケットで展望台へも入館可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「第10回 shiseido art egg 七搦綾乃展」 資生堂ギャラリー
資生堂ギャラリー
「第10回 shiseido art egg 七搦綾乃(ななからげあやの)展」
3/30~4/22
資生堂ギャラリーで開催中の「第10回 shiseido art egg 七搦綾乃(ななからげあやの)展」を見てきました。
1987年に鹿児島で生まれ、現在は広島を拠点に活動している作家、七搦綾乃(ななからげあやの)。資生堂の地下スペースを洞窟に見立てたそうです。
床にごろりと横たわり、起立する立体作品群。ご覧の通り木彫です。素材は樟。色はありません。独特の木目が露になっています。長さは約1メートルほどでしょうか。何やら触手のような突起物を四方へのばしたり、長い鼻を垂らしては身体に布を冠ったようなものもいます。さも仰向けになったかのように這いつくばる作品もありました。
もちろん特定の動物ではありません。しかしながらしばらく眺めていると、時にゾウであり、また巨大なイカのようにも思えてきます。その意味では有機的です。やはり何らかの生き物をイメージしているようにも思えます。
モチーフ自身は「枯れゆく植物」(解説シートより)だそうです。言われてみれば、触手は何やら歪み、どこか干からびても見えました。謎めいた生き物たち。この地下の洞窟で古くから住み着いた魔物なのかもしれません。
ドローイングにも目がとまりました。さも血管や肉体を描いたような生々しい感触も面白いのではないでしょうか。
【第10回 shiseido art egg 展示スケジュール】
川久保ジョイ展 2月3日(水)~2月26日(金)
GABOMI.展 3月2日(水)~3月25日(金)
七搦綾乃(ななからげあやの)展 3月30日(水)~4月22日(金)
今年度の資生堂アートエッグも本展で最終回。5月下旬には大賞に相当する「art egg賞」がウェブサイト上で発表されます。
4月22日まで開催されています。
「第10回 shiseido art egg 七搦綾乃(ななからげあやの)展」 資生堂ギャラリー
会期:3月30日(水)~4月22日(金)
休廊:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
「第10回 shiseido art egg 七搦綾乃(ななからげあやの)展」
3/30~4/22
資生堂ギャラリーで開催中の「第10回 shiseido art egg 七搦綾乃(ななからげあやの)展」を見てきました。
1987年に鹿児島で生まれ、現在は広島を拠点に活動している作家、七搦綾乃(ななからげあやの)。資生堂の地下スペースを洞窟に見立てたそうです。
床にごろりと横たわり、起立する立体作品群。ご覧の通り木彫です。素材は樟。色はありません。独特の木目が露になっています。長さは約1メートルほどでしょうか。何やら触手のような突起物を四方へのばしたり、長い鼻を垂らしては身体に布を冠ったようなものもいます。さも仰向けになったかのように這いつくばる作品もありました。
もちろん特定の動物ではありません。しかしながらしばらく眺めていると、時にゾウであり、また巨大なイカのようにも思えてきます。その意味では有機的です。やはり何らかの生き物をイメージしているようにも思えます。
モチーフ自身は「枯れゆく植物」(解説シートより)だそうです。言われてみれば、触手は何やら歪み、どこか干からびても見えました。謎めいた生き物たち。この地下の洞窟で古くから住み着いた魔物なのかもしれません。
ドローイングにも目がとまりました。さも血管や肉体を描いたような生々しい感触も面白いのではないでしょうか。
【第10回 shiseido art egg 展示スケジュール】
川久保ジョイ展 2月3日(水)~2月26日(金)
GABOMI.展 3月2日(水)~3月25日(金)
七搦綾乃(ななからげあやの)展 3月30日(水)~4月22日(金)
今年度の資生堂アートエッグも本展で最終回。5月下旬には大賞に相当する「art egg賞」がウェブサイト上で発表されます。
4月22日まで開催されています。
「第10回 shiseido art egg 七搦綾乃(ななからげあやの)展」 資生堂ギャラリー
会期:3月30日(水)~4月22日(金)
休廊:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「MOMAT コレクション 特集『春らんまんの日本画まつり』」 東京国立近代美術館
東京国立近代美術館
「MOMAT コレクション 特集『春らんまんの日本画まつり』」
3/8~5/15
東京国立近代美術館で開催中の「MOMAT コレクション 特集『春らんまんの日本画まつり』」を見てきました。
桜の名所でもある千鳥ヶ淵界隈。既に新緑も眩しい葉桜の季節へと進みましたが、美術館内はまさしく「春らんまん」。桜や春のモチーフに因んだ日本画が展示されています。
小林古径「極楽井」 1912年
まずはMOMATコレクションのハイライト。第1室です。冒頭は小林古径の「極楽井」。なんでも古径の住んでいた本郷に近い小石川に伝わる泉がモデルだそうです。井戸を囲んでは少女が水をすくっています。木は白木蓮。大輪の花をたくさんつけていました。
今村紫紅「春さき」 1916年
今村紫紅の「春さき」も展示。紫紅は現在、回顧展の行なわれている安田靫彦とともに紅児会で活動した画家です。ここではキャプションにも要注目です。というのも通常の解説に付随して、靫彦がその作品や画家について記したテキストが添えられているのです。それによれば靫彦は紫紅について「かくも見事に南画を吸収して全く新しい道を拓いたのは偉い事であった。」と大いに賞しています。
川合玉堂「行く春」 1916年
2室では川合玉堂の屏風も登場。「行く春」です。六曲一双の大画面に広がるのは長瀞の春の景色。川は右から左へと流れているのでしょうか。切り立つ岩肌が迫っては急峻な地形が続いています。荒々しい波しぶきをあげた川面には屋形船も浮かんでいました。そして前景で咲き誇るのが桜。満開をやや過ぎたのか、花びらを無数に散らしています。横への広がりと奥行きをも表現したパノラマ。大変な力作です。
春の主題から離れるものの、日本画専門の10室にも名作がずらり。特に菱田春草が充実していました。
菱田春草「王昭君」 1902年 寄託(善寳寺)
山形県鶴岡市の善寳寺より寄託されている「王昭君」も公開中です。安田靫彦も描いた中国の故事に基づく作品。靫彦画がどこか毅然とした王昭君を描いたのに対し、春草は麗しく穏やかな王昭君を示します。別れの場面です。泣いている者もいました。どこか幻想的な情景が広がってもいます。
左:菱田春草「梅に雀」 1911年
「松に月」は2014年に行われた菱田春草展の後に収蔵された作品です。収蔵後の初公開。ほか「富士」、「賢首菩薩」、「雀に鴉」など10点ほどの春草作が展示されています。かの春草展の記憶も蘇るのではないでしょうか。
奥村土牛「鴨」 1936年
奥村土牛にも佳品がありました。「鴨」です。雪の舞う寒々とした水辺に集う鴨たち。水はたらし込みでしょうか。土牛ならではの瑞々しい質感が目を引きます。この作品に対して安田靫彦が「人格があの絵の奥に蔵されていると思う。」と直接言及しています。土牛の制作に際しての真摯な態度を見抜いていたのかもしれません。
小倉遊亀の「浴女」がその一とその二、対になって出ていました。
小倉遊亀「浴女 その一」、「その二」 1938年、1939年
左がその一で右がその二。その一には白いタイル貼りの浴室で入浴する二人の女性が描かれています。一人はどっぷり湯に浸かっての後ろ姿。もう一人は足だけを浸しています。何よりも素晴らしいのはエメラルドグリーンに染まる湯の色彩です。湯に屈折して格子も歪む。さらに洗い場の目地にも注目です。絵具を盛り上げてはさも実際の床面を表したように描いています。稀な清潔感。これほど品があり、また美しい入浴の光景はほかに知りません。
一方でその二は湯上りの光景でしょう。一人はまだ半裸で髪をとかしています。黒い帯を締めた女性はすっかり寛いだのか煙管を吸っていました。ひし形の床に着物の文様も鮮やか。どこか図像的な作品でもあります。
目にする機会が少なくないわけではありませんが、両点が揃っているのを見たのは久しぶりでした。ここは日本画ファンにとって嬉しいところだと言えそうです。
MOMATコレクション6室「別れの絵画」 会場風景
なお今回のMOMATコレクションは日本画以外も見どころ多数です。中でも戦争画のセクションが充実しています。テーマは「別れの絵画」です。特攻隊の出撃の場面を描いた岩田専太郎に伊原宇三郎、さらにはミッドウエー海戦で沈んだ空母飛龍での情景を示した北蓮蔵の「提督の最後」などが目を引きました。
MOMATコレクション11室「Dear セザンヌ」 会場風景
11室もチャレンジングな展示ではないでしょうか。セザンヌと日高理恵子という異色のコラボです。日高はセザンヌに深く傾倒しているそうです。セザンヌの「大きな花束」と日高の「樹を見上げて」の関係。似ても似つかぬ作品ですが、その視点や構図に着目すると、意外な面白さが開けてくるかもしれません。
MOMATコレクション10室「靫彦☆リコメンド」 会場風景
竹橋界隈の桜はすっかり散ってしまいましたが、日本画ではまだお花見も楽しめます。もちろん安田靫彦展のチケットでも観覧可能です。あわせてご覧になられることをおすすめします。
5月15日まで開催されています。
「MOMAT コレクション 特集『春らんまんの日本画まつり』」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:3月8日(火)~5月15日(日)
休館:月曜日。但し3/21、3/28、4/4、5/2は開館。3/22(火)は休館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般430(220)円、大学生130(70)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*4月3日(日)、5月1日(日)、5月15日(日)は無料観覧日。
*「安田靫彦展」のチケットで観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
「MOMAT コレクション 特集『春らんまんの日本画まつり』」
3/8~5/15
東京国立近代美術館で開催中の「MOMAT コレクション 特集『春らんまんの日本画まつり』」を見てきました。
桜の名所でもある千鳥ヶ淵界隈。既に新緑も眩しい葉桜の季節へと進みましたが、美術館内はまさしく「春らんまん」。桜や春のモチーフに因んだ日本画が展示されています。
小林古径「極楽井」 1912年
まずはMOMATコレクションのハイライト。第1室です。冒頭は小林古径の「極楽井」。なんでも古径の住んでいた本郷に近い小石川に伝わる泉がモデルだそうです。井戸を囲んでは少女が水をすくっています。木は白木蓮。大輪の花をたくさんつけていました。
今村紫紅「春さき」 1916年
今村紫紅の「春さき」も展示。紫紅は現在、回顧展の行なわれている安田靫彦とともに紅児会で活動した画家です。ここではキャプションにも要注目です。というのも通常の解説に付随して、靫彦がその作品や画家について記したテキストが添えられているのです。それによれば靫彦は紫紅について「かくも見事に南画を吸収して全く新しい道を拓いたのは偉い事であった。」と大いに賞しています。
川合玉堂「行く春」 1916年
2室では川合玉堂の屏風も登場。「行く春」です。六曲一双の大画面に広がるのは長瀞の春の景色。川は右から左へと流れているのでしょうか。切り立つ岩肌が迫っては急峻な地形が続いています。荒々しい波しぶきをあげた川面には屋形船も浮かんでいました。そして前景で咲き誇るのが桜。満開をやや過ぎたのか、花びらを無数に散らしています。横への広がりと奥行きをも表現したパノラマ。大変な力作です。
春の主題から離れるものの、日本画専門の10室にも名作がずらり。特に菱田春草が充実していました。
菱田春草「王昭君」 1902年 寄託(善寳寺)
山形県鶴岡市の善寳寺より寄託されている「王昭君」も公開中です。安田靫彦も描いた中国の故事に基づく作品。靫彦画がどこか毅然とした王昭君を描いたのに対し、春草は麗しく穏やかな王昭君を示します。別れの場面です。泣いている者もいました。どこか幻想的な情景が広がってもいます。
左:菱田春草「梅に雀」 1911年
「松に月」は2014年に行われた菱田春草展の後に収蔵された作品です。収蔵後の初公開。ほか「富士」、「賢首菩薩」、「雀に鴉」など10点ほどの春草作が展示されています。かの春草展の記憶も蘇るのではないでしょうか。
奥村土牛「鴨」 1936年
奥村土牛にも佳品がありました。「鴨」です。雪の舞う寒々とした水辺に集う鴨たち。水はたらし込みでしょうか。土牛ならではの瑞々しい質感が目を引きます。この作品に対して安田靫彦が「人格があの絵の奥に蔵されていると思う。」と直接言及しています。土牛の制作に際しての真摯な態度を見抜いていたのかもしれません。
小倉遊亀の「浴女」がその一とその二、対になって出ていました。
小倉遊亀「浴女 その一」、「その二」 1938年、1939年
左がその一で右がその二。その一には白いタイル貼りの浴室で入浴する二人の女性が描かれています。一人はどっぷり湯に浸かっての後ろ姿。もう一人は足だけを浸しています。何よりも素晴らしいのはエメラルドグリーンに染まる湯の色彩です。湯に屈折して格子も歪む。さらに洗い場の目地にも注目です。絵具を盛り上げてはさも実際の床面を表したように描いています。稀な清潔感。これほど品があり、また美しい入浴の光景はほかに知りません。
一方でその二は湯上りの光景でしょう。一人はまだ半裸で髪をとかしています。黒い帯を締めた女性はすっかり寛いだのか煙管を吸っていました。ひし形の床に着物の文様も鮮やか。どこか図像的な作品でもあります。
目にする機会が少なくないわけではありませんが、両点が揃っているのを見たのは久しぶりでした。ここは日本画ファンにとって嬉しいところだと言えそうです。
MOMATコレクション6室「別れの絵画」 会場風景
なお今回のMOMATコレクションは日本画以外も見どころ多数です。中でも戦争画のセクションが充実しています。テーマは「別れの絵画」です。特攻隊の出撃の場面を描いた岩田専太郎に伊原宇三郎、さらにはミッドウエー海戦で沈んだ空母飛龍での情景を示した北蓮蔵の「提督の最後」などが目を引きました。
MOMATコレクション11室「Dear セザンヌ」 会場風景
11室もチャレンジングな展示ではないでしょうか。セザンヌと日高理恵子という異色のコラボです。日高はセザンヌに深く傾倒しているそうです。セザンヌの「大きな花束」と日高の「樹を見上げて」の関係。似ても似つかぬ作品ですが、その視点や構図に着目すると、意外な面白さが開けてくるかもしれません。
MOMATコレクション10室「靫彦☆リコメンド」 会場風景
竹橋界隈の桜はすっかり散ってしまいましたが、日本画ではまだお花見も楽しめます。もちろん安田靫彦展のチケットでも観覧可能です。あわせてご覧になられることをおすすめします。
5月15日まで開催されています。
「MOMAT コレクション 特集『春らんまんの日本画まつり』」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:3月8日(火)~5月15日(日)
休館:月曜日。但し3/21、3/28、4/4、5/2は開館。3/22(火)は休館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般430(220)円、大学生130(70)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*4月3日(日)、5月1日(日)、5月15日(日)は無料観覧日。
*「安田靫彦展」のチケットで観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「安田靫彦展」 東京国立近代美術館
東京国立近代美術館
「安田靫彦展」
3/23~5/15
東京国立近代美術館で開催中の「安田靫彦展」を見てきました。
歴史画の名手として知られる日本画家、安田靫彦(1884~1978)。1976年に同美術館で行われた生前の展覧会以来、約40年ぶりとなる回顧展です。
出品は全100点超。(展示替えあり)全て本画です。10代から戦中、戦後を超えて晩年の作品までを網羅します。長きに渡る画業を振り返るのに不足はありません。
東京は日本橋に生まれ、僅か14歳で小堀鞆音の門を叩いた安田靫彦。早熟の才能を持っていたのでしょうか。10代から写実に優れた作品を描いています。「木曾義仲図」は15歳の時のもの。甲冑を着て馬にまたがる義仲。矢が突き刺さっています。線に迷いはなく、塗りも丁寧。透けて見える衣も細かに表しています。大和絵を連想させる画風は師に倣ったのでしょうか。馬の肉付きもリアル。風格すら漂います。とても少年の描いた作品とは思えません。
「守屋大連」も真に迫っています。モデルは物部守屋。蘇我氏に滅ぼされた豪族です。威厳に満ちた様で立つ守屋。上目遣いで睨む視線は険しい。眉間の皺も深く、どこか近寄りがたい風貌すら見せています。後に靫彦は本作を「あまりにも写実すぎる」としたそうですが、並々ならぬ迫力が感じられました。
靫彦は2年で小堀の元から離れ、門下の青邨らと結成した紅児会で活動。さらに天心に認められて日本美術院に招かれます。また奈良へ通っては日本の古い美術に親しんだそうです。
その経験を反映したのが「聖徳太子像」や「太子孝養像」ではないでしょうか。ただ靫彦の作風は必ずしも一筋縄ではありません。時に雰囲気を一変させます。例えば「五合庵の春」です。縦に大きく伸びる杉林。下には庵があります。中で休む老人。モデルは良寛です。杉の緑は大変に濃く、さも塗り潰すように色を置いています。反面に下部は透明感がありました。描いたのは大正9年。ちょうど御舟が「京の舞妓」を完成させた頃です。流行りの細密描写に感化された一枚だったのかもしれません。
さて本展、安田靫彦の芸術を示すのに3つのキーワードが挙げられています。それが「美しい線」と「澄んだ色彩」、そして「無駄のない構図」です。
うち私が強く感じ入った線の魅力です。澱みなくシンプルで美しい線。靫彦は線の画家と呼んでも良いかもしれません。
一例が「風神雷神図」です。もちろんモデルは琳派で有名な彼の作。ただし宗達画とは大きく様相が異なります。二神は溌剌としていて少年のようです。雷神は黒い雲を従え、口を大きく開けては勇ましく現れます。一方の風神は口を真一文字に閉じています。さも嵐を受け止めるかのように両手両足を広げていました。どこか軽やか。まるで踊っているかのようです。そしてともに身体を象る線に無駄がありません。端正という言葉が相応しいのではないでしょうか。一筆で多くを表現しています。
安田靫彦「黄瀬川陣」(右隻) 1940-41年 東京国立近代美術館 *全会期展示
さらに構図の妙味が加わったのが「黄瀬川陣」でした。チラシ表紙にも掲載された作品、実際は二隻の屏風絵です。右が頼朝。帳の中、甲冑を脱いでは泰然とした様子で座っています。左が義経です。今まさに馳せ参じたのでしょう。ちょうど帽子の紐を解こうとしています。鎧に刀、弓など武具の描写は極めて細密。色も美しい。帳を支える紐が右隻から飛び出して左隻へのびていました。余白を活かした構図も巧みです。義経の前には黒い草が一輪描かれています。何やら不穏です。これは後の彼の人生を暗示させているそうです。
安田靫彦「黄瀬川陣」(左隻) 1940-41年 東京国立近代美術館 *全会期展示
この「黄瀬川陣」が描かれたのは1941年頃。ちょうど太平洋戦争が開戦した年でした。全ては戦局に優先された時代でもあります。
靫彦もいわゆる「報国」的な作品をいくつか描いたそうです。「黄瀬川陣」も大政翼賛会国民指導部のポスターに採用されます。翌年の「神武天皇日向御進発」も同様です。天孫降臨の主題をモチーフに取り込みます。さらに同年には海軍省から時の司令長官である山本五十六の肖像画の委嘱も受けました。
ただ靫彦が写生を試みる前に山本は戦死してしまいます。よって写真を頼りに本画を制作。また横須賀へ出向き、戦艦を取材したこともあったそうです。ただ作品そのものは実に立派です。艦橋にて軍服姿で立つ山本の風貌を見事に捉えています。
終戦時に61歳だった靫彦。その後も94歳で亡くなるまで旺盛に活動しました。いわば歴史画の代表作の多くは戦後に描かれたものとしても差し支えありません。
安田靫彦「王昭君」 1947年 足立美術館 *3/23~4/17展示
「王昭君」も有名な一枚です。古代中国の四大美人に数えられた一人。美しいというよりも威風堂々。威厳に満ちています。つり上がった目や眉には強い自意識を感じさせはしないでしょうか。別れの一場面です。内に秘めた決意を態度で示します。厚手の黒い衣には金色の鳳凰が描かれていました。なんでも前漢時代の風俗を資料などで研究しては完成させたそうです。
「出陣の舞」は桶狭間を前にした信長の姿を捉えたもの。些か幼く見えるのは若さを強調した所以でしょうか。袴を象る線にもキレがあります。86歳の作品ですが、緩みは感じられません。
梅を装飾的に表した「紅梅」のほか、花をモチーフとした小品にも魅力を感じました。率直なところ好きな画家と問われると答えに窮するのも事実ですが、10代や戦中の展開など、これまであまり知らなかった画家の全体像に接する良い機会ではあります。安田靫彦を見る目がやや変わりました。
最後に展示替えの情報です。約半数弱の作品が入れ替わります。
前期:3月23日(水)~4月17日(日)
後期:4月19日(火)~5月15日(日)
一部の作品は上の会期とは別の期間で入れ替わります。詳しくは「出品リスト」(PDF)をご参照ください。なお切手にもなり、おそらくは靫彦画で最も有名な「飛鳥の春の額田王」は4月19日以降の展示です。ご注意下さい。
会期早々の日曜日に出かけてきましたが、館内は余裕がありました。じっくり楽しめるのではないでしょうか。
5月15日まで開催されています。
「安田靫彦展」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:3月23日(水)~5月15日(日)
休館:月曜日。但し3/28、4/4、5/2は開館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1400(1000)円、大学生900(600)円、高校生400(200)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*当日に限り「MOMATコレクション」も観覧可。
*リピーター割引:本展の半券(使用済み可)を提示する当日観覧料よりも一般100円、大学・高校生50円割引。半券1枚につき1回のみ有効。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
「安田靫彦展」
3/23~5/15
東京国立近代美術館で開催中の「安田靫彦展」を見てきました。
歴史画の名手として知られる日本画家、安田靫彦(1884~1978)。1976年に同美術館で行われた生前の展覧会以来、約40年ぶりとなる回顧展です。
出品は全100点超。(展示替えあり)全て本画です。10代から戦中、戦後を超えて晩年の作品までを網羅します。長きに渡る画業を振り返るのに不足はありません。
東京は日本橋に生まれ、僅か14歳で小堀鞆音の門を叩いた安田靫彦。早熟の才能を持っていたのでしょうか。10代から写実に優れた作品を描いています。「木曾義仲図」は15歳の時のもの。甲冑を着て馬にまたがる義仲。矢が突き刺さっています。線に迷いはなく、塗りも丁寧。透けて見える衣も細かに表しています。大和絵を連想させる画風は師に倣ったのでしょうか。馬の肉付きもリアル。風格すら漂います。とても少年の描いた作品とは思えません。
「守屋大連」も真に迫っています。モデルは物部守屋。蘇我氏に滅ぼされた豪族です。威厳に満ちた様で立つ守屋。上目遣いで睨む視線は険しい。眉間の皺も深く、どこか近寄りがたい風貌すら見せています。後に靫彦は本作を「あまりにも写実すぎる」としたそうですが、並々ならぬ迫力が感じられました。
靫彦は2年で小堀の元から離れ、門下の青邨らと結成した紅児会で活動。さらに天心に認められて日本美術院に招かれます。また奈良へ通っては日本の古い美術に親しんだそうです。
その経験を反映したのが「聖徳太子像」や「太子孝養像」ではないでしょうか。ただ靫彦の作風は必ずしも一筋縄ではありません。時に雰囲気を一変させます。例えば「五合庵の春」です。縦に大きく伸びる杉林。下には庵があります。中で休む老人。モデルは良寛です。杉の緑は大変に濃く、さも塗り潰すように色を置いています。反面に下部は透明感がありました。描いたのは大正9年。ちょうど御舟が「京の舞妓」を完成させた頃です。流行りの細密描写に感化された一枚だったのかもしれません。
さて本展、安田靫彦の芸術を示すのに3つのキーワードが挙げられています。それが「美しい線」と「澄んだ色彩」、そして「無駄のない構図」です。
うち私が強く感じ入った線の魅力です。澱みなくシンプルで美しい線。靫彦は線の画家と呼んでも良いかもしれません。
一例が「風神雷神図」です。もちろんモデルは琳派で有名な彼の作。ただし宗達画とは大きく様相が異なります。二神は溌剌としていて少年のようです。雷神は黒い雲を従え、口を大きく開けては勇ましく現れます。一方の風神は口を真一文字に閉じています。さも嵐を受け止めるかのように両手両足を広げていました。どこか軽やか。まるで踊っているかのようです。そしてともに身体を象る線に無駄がありません。端正という言葉が相応しいのではないでしょうか。一筆で多くを表現しています。
安田靫彦「黄瀬川陣」(右隻) 1940-41年 東京国立近代美術館 *全会期展示
さらに構図の妙味が加わったのが「黄瀬川陣」でした。チラシ表紙にも掲載された作品、実際は二隻の屏風絵です。右が頼朝。帳の中、甲冑を脱いでは泰然とした様子で座っています。左が義経です。今まさに馳せ参じたのでしょう。ちょうど帽子の紐を解こうとしています。鎧に刀、弓など武具の描写は極めて細密。色も美しい。帳を支える紐が右隻から飛び出して左隻へのびていました。余白を活かした構図も巧みです。義経の前には黒い草が一輪描かれています。何やら不穏です。これは後の彼の人生を暗示させているそうです。
安田靫彦「黄瀬川陣」(左隻) 1940-41年 東京国立近代美術館 *全会期展示
この「黄瀬川陣」が描かれたのは1941年頃。ちょうど太平洋戦争が開戦した年でした。全ては戦局に優先された時代でもあります。
靫彦もいわゆる「報国」的な作品をいくつか描いたそうです。「黄瀬川陣」も大政翼賛会国民指導部のポスターに採用されます。翌年の「神武天皇日向御進発」も同様です。天孫降臨の主題をモチーフに取り込みます。さらに同年には海軍省から時の司令長官である山本五十六の肖像画の委嘱も受けました。
ただ靫彦が写生を試みる前に山本は戦死してしまいます。よって写真を頼りに本画を制作。また横須賀へ出向き、戦艦を取材したこともあったそうです。ただ作品そのものは実に立派です。艦橋にて軍服姿で立つ山本の風貌を見事に捉えています。
終戦時に61歳だった靫彦。その後も94歳で亡くなるまで旺盛に活動しました。いわば歴史画の代表作の多くは戦後に描かれたものとしても差し支えありません。
安田靫彦「王昭君」 1947年 足立美術館 *3/23~4/17展示
「王昭君」も有名な一枚です。古代中国の四大美人に数えられた一人。美しいというよりも威風堂々。威厳に満ちています。つり上がった目や眉には強い自意識を感じさせはしないでしょうか。別れの一場面です。内に秘めた決意を態度で示します。厚手の黒い衣には金色の鳳凰が描かれていました。なんでも前漢時代の風俗を資料などで研究しては完成させたそうです。
「出陣の舞」は桶狭間を前にした信長の姿を捉えたもの。些か幼く見えるのは若さを強調した所以でしょうか。袴を象る線にもキレがあります。86歳の作品ですが、緩みは感じられません。
梅を装飾的に表した「紅梅」のほか、花をモチーフとした小品にも魅力を感じました。率直なところ好きな画家と問われると答えに窮するのも事実ですが、10代や戦中の展開など、これまであまり知らなかった画家の全体像に接する良い機会ではあります。安田靫彦を見る目がやや変わりました。
最後に展示替えの情報です。約半数弱の作品が入れ替わります。
前期:3月23日(水)~4月17日(日)
後期:4月19日(火)~5月15日(日)
一部の作品は上の会期とは別の期間で入れ替わります。詳しくは「出品リスト」(PDF)をご参照ください。なお切手にもなり、おそらくは靫彦画で最も有名な「飛鳥の春の額田王」は4月19日以降の展示です。ご注意下さい。
会期早々の日曜日に出かけてきましたが、館内は余裕がありました。じっくり楽しめるのではないでしょうか。
5月15日まで開催されています。
「安田靫彦展」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:3月23日(水)~5月15日(日)
休館:月曜日。但し3/28、4/4、5/2は開館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1400(1000)円、大学生900(600)円、高校生400(200)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*当日に限り「MOMATコレクション」も観覧可。
*リピーター割引:本展の半券(使用済み可)を提示する当日観覧料よりも一般100円、大学・高校生50円割引。半券1枚につき1回のみ有効。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「志村信裕 歓迎光臨」 YUKA TSURUNO GALLERY
YUKA TSURUNO GALLERY
「志村信裕 歓迎光臨」
3/19~4/16
YUKA TSURUNO GALLERYで開催中の志村信裕個展、「歓迎光臨」を見てきました。
主に映像の分野で活動する現代美術家の志村信裕。最近では東京都現代美術館の「未見の星座」(2015年)に出品。また現在、森美術館で行われている「六本木クロッシング2016」にも参加しています。
志村は2010年、台北の国際芸術村に滞在したそうです。その際に制作した作品を日本で初めて公開しています。タイトルは「ring ring」。訳せば円環、ないし鳴り響く。鈴を素材に取り込んだ映像インスタレーションでした。
入り口を抜けると暗室です。中央に何やら天幕、ないし蚊帳状にすだれが吊るされていました。形は六角形です。それをスクリーンに見立てたのでしょう。多様に変化しては眩しく灯る光の粒が投影されています。荒れ狂う波のようでもあり、一転して燃え盛る炎のようでもあります。また下から湧き上がり、上からも降りしきります。動きは必ずしも一定ではありません。
このすだれこそが鈴。色は金色です。何と12万個も使用しています。確かに手で揺らすと鈴が同士が触れあい、文字通りリンリンと音を奏でました。とても心地良い。鈴の音が光の波と響きあってもいます。
志村は旧正月を控えた台北で「街中の金と赤の世界に圧倒」(ギャラリーサイトより)されたそうです。時に黄金色にも瞬く光は確かに華やか。どこか街の賑わい、ないしは祝典的な雰囲気も感じさせはしないでしょうか。
すだれ状の鈴のカーテンは触れて鳴らすだけでなく、中へ入ることも出来ました。
すると光の帯、ないし波が、さも全身を包み込むか四方からやって来ることが分かります。強い波と弱い波。まるで大海原を前にぼんやりと眺めるかの如く、しばし波にのまれては見入りました。
なおringには歓迎光臨の臨、すなわちringにも因んでいるそうです。光は分け隔てなく、鑑賞者の全てを祝福するかのように降り注いでいます。
なお会場のYUKA TSURUNO GALLERYは2013年、江東区東雲の鉄鋼団地内に移転オープンしたギャラリーです。アートスペース「TOLOT/heuristic SHINONOME」の中にあります。
周囲は工場地帯のために立寄る場所もありませんが、旧印刷工場を使ったギャラリーは都内でも珍しいスペースです。着いてしまえば駅からは至近、りんかい線の東雲駅から5分とかかりません。一度出かけてみるのも良いのではないでしょうか。
4月16日まで開催されています。
「志村信裕 歓迎光臨」 YUKA TSURUNO GALLERY
会期:3月19日(土)~4月16日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:江東区東雲2-9-13 TOLOT/heuristic SHINONOME 2階
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線東雲駅A出口より徒歩5分。
「志村信裕 歓迎光臨」
3/19~4/16
YUKA TSURUNO GALLERYで開催中の志村信裕個展、「歓迎光臨」を見てきました。
主に映像の分野で活動する現代美術家の志村信裕。最近では東京都現代美術館の「未見の星座」(2015年)に出品。また現在、森美術館で行われている「六本木クロッシング2016」にも参加しています。
志村は2010年、台北の国際芸術村に滞在したそうです。その際に制作した作品を日本で初めて公開しています。タイトルは「ring ring」。訳せば円環、ないし鳴り響く。鈴を素材に取り込んだ映像インスタレーションでした。
入り口を抜けると暗室です。中央に何やら天幕、ないし蚊帳状にすだれが吊るされていました。形は六角形です。それをスクリーンに見立てたのでしょう。多様に変化しては眩しく灯る光の粒が投影されています。荒れ狂う波のようでもあり、一転して燃え盛る炎のようでもあります。また下から湧き上がり、上からも降りしきります。動きは必ずしも一定ではありません。
このすだれこそが鈴。色は金色です。何と12万個も使用しています。確かに手で揺らすと鈴が同士が触れあい、文字通りリンリンと音を奏でました。とても心地良い。鈴の音が光の波と響きあってもいます。
志村は旧正月を控えた台北で「街中の金と赤の世界に圧倒」(ギャラリーサイトより)されたそうです。時に黄金色にも瞬く光は確かに華やか。どこか街の賑わい、ないしは祝典的な雰囲気も感じさせはしないでしょうか。
すだれ状の鈴のカーテンは触れて鳴らすだけでなく、中へ入ることも出来ました。
すると光の帯、ないし波が、さも全身を包み込むか四方からやって来ることが分かります。強い波と弱い波。まるで大海原を前にぼんやりと眺めるかの如く、しばし波にのまれては見入りました。
なおringには歓迎光臨の臨、すなわちringにも因んでいるそうです。光は分け隔てなく、鑑賞者の全てを祝福するかのように降り注いでいます。
なお会場のYUKA TSURUNO GALLERYは2013年、江東区東雲の鉄鋼団地内に移転オープンしたギャラリーです。アートスペース「TOLOT/heuristic SHINONOME」の中にあります。
周囲は工場地帯のために立寄る場所もありませんが、旧印刷工場を使ったギャラリーは都内でも珍しいスペースです。着いてしまえば駅からは至近、りんかい線の東雲駅から5分とかかりません。一度出かけてみるのも良いのではないでしょうか。
4月16日まで開催されています。
「志村信裕 歓迎光臨」 YUKA TSURUNO GALLERY
会期:3月19日(土)~4月16日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:江東区東雲2-9-13 TOLOT/heuristic SHINONOME 2階
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線東雲駅A出口より徒歩5分。
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「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」 ミヅマアートギャラリー
ミヅマアートギャラリー
「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」
4/6~5/14
ミヅマアートギャラリーで開催中の「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」を見てきました。
人に向き合い、一貫して人を彫り続けている現代美術家、棚田康司。2012年には都内の美術館では初めてとなる個展を開催。(練馬区立美術館ほか巡回。)タイトルの「立ちのぼる。」の如く、どこか上昇を意識したインスタレーションを展開していました。
昨年の10月、棚田はインドネシアの西部にある都市、バンドゥンを約2ヶ月ほど訪ねたそうです。そこで少年少女のトルソーを制作します。その成果を踏まえた展覧会です。トルソーは全部で12体。さらに1体、帰国後に作られた立像が加わります。
「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」展示風景
会場の中央に立つのが「雨の像」。すくっと立っては長い手足を垂らします。胸は露わ、半裸です。ふと何者かに呼ばれたかのように振り返っています。ボリュームのある髪の毛は顔の左右をすっぽりと覆っていました。棚田の彫像はとかく視線が特徴的です。というのも時に眼球を限りなく上に寄せては彼方を見据えているからです。やはり感じられるのは上への意識でした。天を見やります。何を思い、何を考えているのでしょうか。
トルソーの一体一体に個性がありました。帽子を冠っては前を見やる者。どこか不敵な笑みを浮かべています。また瞳を潤わせては悲しげな表情をしている人物もいました。いずれもほぼ胸像です。とはいえトルソーゆえに腕や脚は除かれています。
後頭部に大きな切れ込みが刻まれているトルソーに目がとまりました。そこにはまるで血のような赤がべったりと塗りこまれています。何やら痛々しい。表に回って顔を見やると銀色に染まっていました。まるで仮面です。表情はあまり伺えません。
木片をそのまま切り出したような荒々しい作品も少なくありません。より素材の木の感触を伝える棚田の近作群。これまでとは違った展開を見知ることも出来ました。
5月14日まで開催されています。
「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」 ミヅマアートギャラリー
会期:4月6日(水)~5月14日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2階
交通:東京メトロ有楽町線・南北線市ヶ谷駅出口5より徒歩5分。JR線飯田橋駅西口より徒歩8分。
「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」
4/6~5/14
ミヅマアートギャラリーで開催中の「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」を見てきました。
人に向き合い、一貫して人を彫り続けている現代美術家、棚田康司。2012年には都内の美術館では初めてとなる個展を開催。(練馬区立美術館ほか巡回。)タイトルの「立ちのぼる。」の如く、どこか上昇を意識したインスタレーションを展開していました。
昨年の10月、棚田はインドネシアの西部にある都市、バンドゥンを約2ヶ月ほど訪ねたそうです。そこで少年少女のトルソーを制作します。その成果を踏まえた展覧会です。トルソーは全部で12体。さらに1体、帰国後に作られた立像が加わります。
「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」展示風景
会場の中央に立つのが「雨の像」。すくっと立っては長い手足を垂らします。胸は露わ、半裸です。ふと何者かに呼ばれたかのように振り返っています。ボリュームのある髪の毛は顔の左右をすっぽりと覆っていました。棚田の彫像はとかく視線が特徴的です。というのも時に眼球を限りなく上に寄せては彼方を見据えているからです。やはり感じられるのは上への意識でした。天を見やります。何を思い、何を考えているのでしょうか。
トルソーの一体一体に個性がありました。帽子を冠っては前を見やる者。どこか不敵な笑みを浮かべています。また瞳を潤わせては悲しげな表情をしている人物もいました。いずれもほぼ胸像です。とはいえトルソーゆえに腕や脚は除かれています。
後頭部に大きな切れ込みが刻まれているトルソーに目がとまりました。そこにはまるで血のような赤がべったりと塗りこまれています。何やら痛々しい。表に回って顔を見やると銀色に染まっていました。まるで仮面です。表情はあまり伺えません。
木片をそのまま切り出したような荒々しい作品も少なくありません。より素材の木の感触を伝える棚田の近作群。これまでとは違った展開を見知ることも出来ました。
5月14日まで開催されています。
「棚田康司展 バンドゥン スケッチ」 ミヅマアートギャラリー
会期:4月6日(水)~5月14日(土)
休廊:日・月・祝
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2階
交通:東京メトロ有楽町線・南北線市ヶ谷駅出口5より徒歩5分。JR線飯田橋駅西口より徒歩8分。
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