「着想のマエストロ 乾山見参!」 サントリー美術館

サントリー美術館
「着想のマエストロ 乾山見参!」
5/27-7/20



サントリー美術館で開催中の「着想のマエストロ 乾山見参!」を見てきました。

江戸時代の陶工、絵師である尾形乾山(1663-1743)。兄の光琳と同様、雁金屋に生まれ、光悦の孫や楽家の手ほどきを受けながら、仁清に学び、後に窯を開きます。いわゆる乾山焼の名品を数多く残しました。

その乾山が六本木に「見参」。会場内には乾山焼がずらり。出品は130点を超えます。(一部、展示替えあり。)


尾形乾山「銹絵山水図四方鉢」 宝永2年(1705) 個人蔵

ただし展示は必ずしも乾山のみを追っているわけではありません。前史、乾山が影響を受けた焼物や、乾山以降、抱一による顕彰のほか、近代において乾山焼を受け継いだ陶工までも視野に入れて紹介しています。

冒頭は前史、源流です。17世紀における京都の焼物の動向を見ています。明の三彩、「蓮池水禽文皿」はどうでしょうか。緑釉に蓮の花と水鳥が描かれています。花は黄色、鳥は紫です。それが初期の京焼こと押小路焼の三彩にも受け継がれました。この2点、並んでいましたが、確かに良く似ています。

そして押小路焼も乾山のルーツの一つです。また樂家道入の「黒樂四方茶碗 銘 山里」も目を引くもの。そもそも尾形家と樂家は血縁関係に当たります。さらに仁清です。「色絵花輪違文茶碗」は花輪の紋を金彩で包み込んで描いた茶碗。武家に好んで受容されたそうですが、この仁清こそ、乾山が直接、作陶を学んだ人物でもあります。如何なる形であれ仁清の影響を受けたことは想像に難くありません。


尾形乾山「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」 元禄15年(1702) MOA美術館

乾山が京都の鳴滝に窯を開いたのは1699年です。独立した陶工としてスタートします。そこで生み出されたのが角皿でした。一例が「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」です。十二ヶ月、ようは12枚の皿へ四季折々の光景を描いた作品ですが、2種類ありました。一つは探幽の絵をそのまま写しています。そしてもう一つは狩野派と琳派的なモチーフを混在させています。さながら皿を紙面に見立てたかの如くに絵画的な展開です。乾山の真骨頂の一つともとれる作品でもあります。


尾形乾山「色絵桔梗文盃台」 江戸時代 18世紀 MIHO MUSEUM

また「色絵菊文透盃台」も美しい。鍔の表面に広がるは菊の花。何とも艶やかです。透かしを効果的に活かしています。

それにしてもモチーフは実に多様です。「銹絵独釣図角皿」で描かれるのは釣り糸を垂れる隠士。中国の文人画を銹絵に落とし込んでいます。一方で兄の光琳が絵を付けた「銹絵牡丹図角皿」や「銹絵菊図角皿」では花、文字通りに牡丹や菊を描いています。いわゆる光琳菊は人気があり、こうした京焼にも受け継がれたそうです。


尾形乾山「色絵阿蘭陀写花卉文八角向付」 江戸時代 18世紀 出光美術館

西洋のモチーフも焼物に取り入れました。「色絵阿蘭陀写花卉文八角向付」はデルフト焼を参照したもの。八角形の向付に花の模様が描かれていますが、どこか抽象化されたような表現も面白いのではないでしょうか。また「安南茶碗 銘 入船」はベトナムの安南焼がモデルです。しかし形は日本向け。おそらくは日本からの注文品の安南焼をモデルとしたのではないかと考えられています。

展示タイトルの「着想のマエストロ」、すなわち乾山の機知に富んだ創造性は、特に蓋物と呼ばれる器に発揮されていると言えないでしょうか。


尾形乾山「銹絵染付金銀白彩松波文蓋物」(重要文化財) 江戸時代 18世紀 出光美術館

「白泥染付金彩芒文蓋物」です。蓋の外側にススキを配して躍動感のある画面を作り、箱の内側には染織のモチーフを取り込みます。「銹絵染付梅波文蓋物」では外に梅、内に波を取り合わせています。全く異なるモチーフを表裏一体、対照的なまでに描き切る乾山の機知。蓋を開け閉めしては広がる異世界、あるいは小宇宙。誰もが蓋を開けた時に感心したに違いありません。

乾山は1712年、鳴滝から京都市中の二条に窯を移すと、懐石具を数多く制作するようになります。

「銹絵染付白彩菊桐文角向付」の絵は型紙を利用しています。そして型紙といえば、兄の光琳も利用していた手法です。生家の雁金屋での技術が大いに活かされたのかもしれません。

「色絵笹百合文鉋目皿」では表面をうっすら削って独特の風合いを生み出ています。また透彫の「色絵龍田川文透彫反鉢」では龍田川の紅葉を鉢全体に表しました。もはや二次元ではなく三次元です。水にひらりと舞い落ちた紅葉をイメージしたのでしょうか。器の底には何枚かの紅葉も描かれていました。

とりわけ目を引く茶碗がありました。「夕顔図黒茶碗」です。源氏物語の夕顔に着想を得た作品、黒地の側面に咲くのは緑や白の夕顔です。あくまでも抑制的な色味、華やかさはありません。ただそこに趣深さがあります。この闇の表現、ひょっとすると月明かりの下で咲く夕顔を表したのかもしれません。

ラストは乾山の没後、江戸後期から近代における乾山焼の展開です。

そこで登場するのが酒井抱一です。光琳顕彰でも有名な彼は弟の乾山にも目を向けています。何でも乾山の没後、消息不明となっていた乾山の系譜を江戸で発見したそうです。ちなみに乾山は晩年に江戸に下り、窯を養子の猪八に託しましたが、どういうわけか、その後の活動はよく分かっていません。

「乾山遺墨」は抱一が編纂したもの。2代乾山を名乗る猪八の作品もいくつか展示されています。さらに時代は幕末、明治へと展開。乾山の陶法を受け継いだ三浦乾也の作品もずらりと勢揃い。乾山のアイデアがいかにして後世へ伝わっていたのかを見ることも出来ます。

最後の作品は富本憲吉でした。富本はリーチと会って交友を深めています。そのリーチが6代乾山に学んでいたそうです。遠く時代を超えては繋がる乾山への系譜。ある意味で琳派的展開とも言えるのかもしれません。まさか富本にまで影響を与えていたとは思いませんでした。


尾形乾山作・尾形光琳画「銹絵山水文四方火入」 江戸時代 18世紀 大和文華館

ともすれば兄・光琳の影に隠れがちな乾山ですが、今回ほどの質と量での回顧展はなかなかお目にかかれません。まさにメモリアルイヤーの琳派たけなわ、様々な琳派展の行われる今年ならではこその乾山展です。乾山の再評価を促す良い機会ともなるのかもしれません。

多少の展示替えがありますが、サントリー美術館としては少なめです。詳しくは「出品リスト」(PDF)をご参照ください。



7月20日まで開催されています。

「着想のマエストロ 乾山見参!」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:5月27日(水)~7月20日(月・祝)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
 *金・土・および7月19日(日)は20時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画」 千葉市美術館

千葉市美術館
「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画 『マネジメントの父』が愛した日本の美」
5/19-6/28



千葉市美術館で開催中の「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画」を見てきました。

現代経営学、いわゆるマネジメントの泰斗として知られる経営学者、ピーター・ドラッカー(1909~2005)。日本の古美術品のコレクターでもあったそうです。

そのドラッカーの有する日本美術を紹介する展覧会です。出品は111点。表題にもある室町期の水墨画をはじめ、江戸の花鳥画、さらにはコレクションの3割を占める文人画までを網羅します。ほぼ全てが掛軸です。なお水墨とありますが、彩色の作品もあります。

さてドラッカー水墨画展、確かに純然たる日本美術展ではありますが、さすがにタイトルに名を冠しているだけあってか、ドラッカー自身について言及している部分が多いのも特徴と言えるかもしれません。

冒頭はドラッカーの大きな肖像写真です。次いで氏の残した著作もずらり。邦訳だけでも何冊あるのでしょうか。それにスピーチ原稿やレスポンスカード、また愛用のタイプライターや某企業から贈られた銀杯など多数。ともかくドラッカーにまつわる資料が展示されています。

引き続く絵画においても、初めのテーマは「日本美術の出会い」です。つまりドラッカーがいかに日本美術に出会い、魅せられたのかということについて触れています。


式部輝忠「渓流飛鴨図」 室町時代 ドラッカー・コレクション

そこで並んでいたのが2点の小品、式部輝忠の「渓流飛鴨図」と清原雪信の「芙蓉図」でした。1909年にウィーンで生まれたドラッカー、24歳の時にロンドンで偶然見た展覧会で日本美術に触れます。1939年にアメリカへ移住。フリア美術館へ通って日本美術に関心を抱きました。初来日は1959年のことです。そしてその時、初めて京都で購入したのが、この2点の作品というわけなのです。

再び来日した1962年には東京で如水宗淵の「柳堤山水図」を購入。室町水墨画です。如水宗淵は雪舟の弟子の一人。師の元を離れる際、雪舟がかの名作「破墨山水図」(東京国立博物館蔵)を与えたとされる人物でもあります。


前嶋宗祐「山水図」 室町時代 ドラッカー・コレクション

それにしても室町期の水墨にはすこぶる良いものが多い。「珠玉」とあるのもあながち誇張ではないかもしれません。例えば雪村の「月夜独釣図」に周耕の「懸崖図」に伝文成の「土牛図」。甲乙付け難いものがあります。いずれもドラッカーが早い段階で蒐集したコレクションですが、その質の高さには素人目に見ても感心させられました。


海北友松「れい毛図」(部分) 桃山時代 ドラッカー・コレクション

さてドラッカーコレクション、先の雪村や光琳、海北友松や探幽、若冲、盧雪に英一蝶や久隅守景など、比較的メジャーな画家も含まれていますが、どちらかとすればあまり知られていない画家が多いのもポイントと言えるかもしれません。

それもそのはず、そもそも画家の中には来歴が分からず、伝記が残っていない人物も少なくないとか。つまりほかの作例を参照出来ない画家もいるわけです。

花鳥画にも優品がありました。精庵の「雪中雀図」です。文字通り岩場の枝葉の雀たちが遊ぶ様子を描いた一枚。どこか楽し気です。ちなみに精庵も伝記の不明な画家の一人でもあります。


柴庵「柳燕・鶺鴒図」 室町時代 ドラッカー・コレクション

また墨の跳ねを利用した知有の「翡翠図」も良い。柴庵の「柳燕・鶺鴒図」はどうでしょうか。左に燕、右に鶺鴒。風に靡く柳や竹の描写も小気味良いもの。鳥の飛ぶ姿も軽妙です。

後半は仏画、禅画、そして文人画と続きます。室町期の「法然上人絵伝断簡」の状態が良いのには驚きました。さらに伝一之の「白衣観音図」も魅惑的です。何とも澱みのない姿。月を背にして観音様が優雅でかつ涼し気に佇みます。これまた伝承不明の画家の作品ですが、その出来に思わず目を細めてしまいました。


谷文晁「月夜白梅図」 江戸時代 ドラッカー・コレクション

禅画ではお馴染みの白隠と仙がい、さらに文人では池大雅に浦上玉堂、そして蕪村や文晁、木村蒹葭堂らの作品が並んでいます。そしてラストは再びドラッカーです。今度はおそらくは晩年の映像。自室に掛かる小さな絵画はもちろん水墨です。ドラッカーは2005年、クレアモントの自宅にて95歳で亡くなりました。

会場の随所にドラッカーの残した日本美術についてのテキストが掲示されています。水墨画や禅画にドラッカーは何を見出したのか。その辺を彼自身の言葉で追うのも興味深いところかもしれません。

前回、ドラッカーの日本美術コレクションが公開されたのは、今から遡ること相当に前。1986年に根津美術館や大阪市立美術館など国内4カ所で開催された「ドラッカー・コレクション水墨画名品展」ことです。

以来、約30年ぶりとなる久々の里帰り展です。初公開作も含まれます。そして何よりも知られざる画家に思わぬ魅惑的な名品が少なくない。初めて見知る画家が目白押しです。その意味でも発見の多い展覧会でもありました。

展示替えはありません。6月28日まで開催されています。

「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画 『マネジメントの父』が愛した日本の美」 千葉市美術館@ccmav
会期:5月19日(火)~ 6月28日(日)
休館:6月1日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(1000)円、大学生700(500)円、高校生以下無料。
 *「歴代館長が選ぶ所蔵名品展」(第2部)の観覧料を含む。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「藤本壮介展 未来の未来」 TOTOギャラリー・間

TOTOギャラリー・間
「藤本壮介展 未来の未来」
4/17-6/13



TOTOギャラリー・間で開催中の「藤本壮介展 未来の未来」を見てきました。

建築家、藤本壮介の類い稀なアイデア、発想力を伺い知れる展覧会と言えるかもしれません。

会場内、ともかく所狭しと並ぶのは大小様々な模型。いずれも藤本が過去から現在まで手がけている約100点の建築の模型です。



とは言え、それらは全て完成した形ではないのがポイント。中には「まだ建築になりきれていない」(キャプションより)ものも少なくありません。



ベオグラードでのコンペで一等に選ばれた都市施設です。無数の曲線を描いては宙に浮く道路の姿は、まるで大蛇がとぐろを巻くかのようです。上下、時に複雑に重なりながら、巨大なランドスケープを描いています。

求心性と流動性がコンセプトだそうです。確かに中心へ渦巻く様は力強く、道路の回転はさも水が流れるかのように躍動感もあります。そして内部にカフェやショップが立ち並ぶとか。きっと歩けば次々と斬新な景色が開ける建物に違いありません。



階段が網の目状に広がっています。「広場と路と家具と建築」(キャプションより)が混ぜあわさったという建物。これを見て連想したのはエッシャーの絵画でした。



中国・広州の住宅です。ともかく感じるのは下から吹き上がるかのような躍動感です。屋根が次々とせり上がり、どこか伝統的な楼閣を思わせる形に仕上がっています。



東京の集合住宅では初期案の模型を提示。三角屋根の箱型住宅が積み上がります。間を結ぶのは階段です。それが互いに唯一の接点なのかもしれません。まるで枝葉を伸ばしては広がる森のようでもあります。



樹木と建築との関係を見ているそうです。一際、目を引くのはスケルトンの建物です。一つ一つのボックスの中には樹木が植えられています。異なった素材を落とし込むアイデア。無機的なガラスと有機的な樹木が違和感なく交差します。実現したらさぞかし美しい建物が出来るのではないでしょうか。

一つ上のフロアにあがってみました。するとより建築の原初的な、しかしアイデアとしてはより大胆で斬新な模型が並んでいました。



今、模型と書きましたが、厳密に言えば模型ではありません。すなわち既成の事物そのもの。例えば基板であり、灰皿であり、また洗浄用のスポンジが置かれています。そこに人型のミニチュアを置くとご覧の通り、さも一つ一つが建築模型のように見えてくるのです。



言わば見立て建築模型としても良いのではないでしょうか。中にはエアープランツをテントのように模したものまであります。さらに洗濯バサミも建築の素材と化しました。こうした発想、おおよそ思いもつきません。



藤本の言う「意外性」と「面白さ」(キャプションより)。これほど簡素でかつ身近な素材を建築物として見定める機会もありません。身近に潜む建築の原型。だからこそ可能性が広がります。



会場内に点在する無数の建築のアイデアの種。今回ほど自由な視点で楽しめた建築展も久しぶりでした。

「建築が生まれるとき/藤本壮介/王国社」

6月13日まで開催されています。おすすめします。

「藤本壮介展 未来の未来」 TOTOギャラリー・間
会期:4月17日(金)~6月13日(土)
休館:月曜・祝日。(5/3を除く日曜開館)。
時間:11:00~18:00
料金:無料。
住所:港区南青山1-24-3TOTO乃木坂ビル3F
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口徒歩1分。都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅7番出口徒歩6分。
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アートニュースサイト「bitecho[ビテチョー]」オープン

美術手帖でお馴染みの美術出版社が、アートサイト、「bitecho[ビテチョー]」をオープンしました。


「bitecho」(ビテチョー)
http://bitecho.me/@bitecho_

コンセプトは「創造力を社会に生かす」。コンテンツは5つです。「ニュース」、「アート」、「ライフスタイル」、「ムービー」、そして「トラベル」があります。

「ニュース」では直近のアート関連のニュースを掲載。つい先日発表された日本初の春画展の開催に関する記事も掲載されていました。

うち興味深いのはニュース内にアーティストのツイートを取り上げているところです。それらを盛り込むことで、ニュースに対する様々の反応を伺い知ることが出来ます。

今のところ最も更新されているのは「アート」のコンテンツです。石田尚志展(横浜美術館)や他人の時間展(東京都現代美術館)など、現在開催中の展覧会の紹介記事などが掲載されています。

また「狩野派絵師たちに学ぶ3つの処世術」や「牡牛座・上村松園は○○な画家?」など、端的に展覧会の紹介だけではない読み物があるのもポイントです。こうした独自の切り口も増えていくのではないでしょうか。

「ライフスタイル」や「トラベル」などはまだ試行錯誤の感も否めませんが、単にアートに留まらない幅広いジャンルを盛り込んでいるのも特徴かもしれません。さらに今後は美術手帖のネットワークを活かした記事も配信されるそうです。

ちなみに美術出版社はこの春に民事再生法を適用。一時は美術手帖の行く末すら懸念されましたが、つい先だってTUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブの子会社による支援が決まりました。

「美術出版社が支援企業選定」(産経ニュース)

それにしてもアート系のサイト、ともかく色々あり、率直なところ、全てを追いきれません。

「アートスケープ」@artscapeJP
DNP運営の主に現代美術を中心としたポータルサイトです。学芸員や評論家といった専門家のレビューも掲載されています。また現代美術用語辞典、「アートワード」は実に重宝するコンテンツです。時に難解な美術用語の意味を手軽に調べることが出来ます。

アートアニュアルオンライン」(@ArtAnnualonline
美術年鑑社運営のポータルサイトです。アート関連のニュースの速報性が高く、同時にツイッターでもこまめに情報を発信しています。計500名以上もの作家の作品を紹介する「セレクトギャラリー」などの独自コンテンツも目を引きます。公募展関連の情報が網羅されているのも特徴かもしれません。

「アートイット」@ARTiT_Tokyo
日英バイリンガルの現代美術のサイトです。レビューや連載企画など読ませる記事が充実。ギャラリーの情報も多く、パートナースブースの更新情報は展示を追いかけるのにも役に立ちます。(特に原美術館のサイトは、本家公式サイトよりも見やすく、有用です。)

「インターネットミュージアム」@InternetMuseum
丹青社による展覧会情報サイトです。内覧会の取材レポートの更新が極めて早いのが特徴です。また写真が多く、展示の雰囲気を手軽に知ることも出来ます。今、都内近辺で、どのような展覧会が始まったのかを知るのに役立ちます。

「ミュージアムカフェ」@museumcafe
博物館と美術館の情報サイトです。特集、コラム、また展覧会レポートと盛りだくさん。チケットを「もぎる」形のスマートフォンチケット購入サービスも独自性があります。またスマートフォン向けアプリの完成度も高く、とくにチラシ表紙を閲覧出来るポスターギャラリーは、シンプルながらも良く出来ているのではないでしょうか。

「東京アートビート」@TokyoArtBeat_JP
展覧会はおろか、都内近辺のギャラリーの展示情報を知るのに最適なアートサイトです。スマートフォン向けアプリの使い勝手はかなり良く、GPSを利用したギャラリーの展示情報の有用性は他の追従を許しません。

「ハッピープラスアート」@shu_hpa
集英社運営のアートサイトです。ユーザー参加型をうたっているのが特徴です。展覧会の情報のほか、アートコラムなどを頻繁に更新しています。アートグッズをオンラインで購入出来るショップもあります。

ほかにもまだありますが、主にアートに特化したサイトといえば、これらが挙がるのではないでしょうか。この中に新たに加わる「ビテチョー」。美術手帖を長らく発行してきた美術出版社ならではの視点に期待したいと思います。

「美術手帖 2015年6月号/美術出版社」

株式会社美術出版社 bitecho[ビテチョー]
〒102-8026 東京都千代田区五番町4-5 五番町コスモビル2F
TEL:03-3234-2155
FAX:03-3234-1365
Mail:info_bitecho@bijutsu.co.jp
URL:http://bitecho.me
Facebookアカウント:ビテチョー(bitecho)
Twitterアカウント:@bitecho_
Instagramアカウント:bitecho_
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仙台市博物館で「国宝吉祥天女が舞い降りた!」展が開催されています

世界遺産にも登録された奈良を代表する寺院の一つ、薬師寺。東京では2008年に薬師寺展(東京国立博物館)を開催。日光・月光両菩薩像が立ち並ぶ様はまさに圧巻。平成館の展示室がかくも荘厳に見えたことはありませんでした。


「国宝 吉祥天女が舞い降りた! 奈良薬師寺 未来への祈り」@仙台市博物館
会期:4月24日(金)~6月21日(日)

今回、仙台での薬師寺展のメインを飾るのは国宝「吉祥天女像」です。また国宝の「聖観世音菩薩立像」や重要文化財の「地蔵菩薩立像」などもあわせて紹介。薬師寺の寺宝が一堂に紹介されています。


国宝「吉祥天女像」 奈良時代

「吉祥天女像」は麻布の独立した彩色画としては現存最古として知られるもの。天平の優雅な女性が描かれた作品です。手には宝珠をのせ、衣は風に靡いては揺らぐ。まさに表題の如く天から舞い降りてきたかのような姿をしています。


「東塔水煙」(模造) 原資料:奈良時代

730年建立の東塔に関する文物もやって来ています。頂上の水煙の模造のほか、塔の下部に安置さえれた像などを紹介。重要文化財の「四天王立像」も展示されています。

そして今回の「国宝吉祥天女が舞い降りた!」は東日本大震災の復興を祈念しての展覧会です。それゆえでしょうか。「祈り」や「救い」もキーワードの一つです。


重要文化財「地蔵菩薩立像」 善円 鎌倉時代

例えば地蔵菩薩です。六道に現れては衆生を救うという地蔵。薬師寺には平安期以降の地蔵菩薩が数多く安置されていますが、それらもまとめて公開。とりわけ鎌倉時代、善円作の「地蔵菩薩立像」(重要文化財)は目を引くのではないでしょうか。


重要文化財「虚空蔵菩薩坐像」 奈良~平安時代 能満寺

東北との繋がりを示す仏像の展示があるのもポイントです。例えばいわきの能満寺の「虚空蔵菩薩坐像」は姿や形が薬師寺の「文殊菩薩坐像」と良く似ているとか。元々、対になって制作されたという説もあるそうです。


国宝「聖観世音菩薩立像」 飛鳥~奈良時代

本展では両坐像を一緒に並べて展示しています。ラストは国宝の「聖観世音菩薩立像」です。気品すら感じさせる出立ち、仄かな微笑みと、すらっとした美しい体躯は、それこそ東博での薬師寺展での記憶も蘇るところ。実に魅惑的な仏様でした。

公式サイトがなかなかキャッチーで良く出来ています。



「国宝 吉祥天女が舞い降りた! 奈良薬師寺 未来への祈り」(薬師寺展 仙台)
http://kichijo-tennyo-sendai.jp/

定番の見どころや概要、イベント情報などはもちろん、「着せ替え天女ぬりえコレクション」なるコンテンツもあり、会場で募られた塗り絵を実際に紹介するページもあります。ガイドはNHKでお馴染みの「びじゅチューン!」キャラクターでした。



「着せ替え天女 ぬりえコレクション」
http://kichijo-tennyo-sendai.jp/nurie

また会場では会期中休まず、1日3回、薬師寺の僧侶がガイダンスを行っているそうです。そちらに参加するのも手かもしれません。

薬師寺僧侶による「特別展ガイダンス」のご案内

なお本展は東北、仙台開催のみです。一切の巡回はありません。

会期は残り一ヶ月を切りました。「国宝吉祥天女が舞い降りた!」展は仙台市博物館で6月21日まで開催されています。

「東日本大震災復興祈念特別展 国宝 吉祥天女が舞い降りた! 奈良薬師寺 未来への祈り」 仙台市博物館
会期:4月24日(金)~6月21日(日)
休館:月曜日。5月7日(木)。但し4月27日(月)、5月4日(月・祝)は開館。
時間:9:30~16:45。*入場は16時15分まで。
料金:一般1300円 、高校・大学生1000円、小学・中学生600円。
 *10名以上の団体は当日料金より100円引き。
住所:仙台市青葉区川内26
交通:仙台駅西口バスプール9番乗場710~720系統のバス(718系統を除く)で約10分、博物館・国際センター前下車徒歩3分。
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「鎌倉からはじまった。1951-2016 PART1」 神奈川県立近代美術館鎌倉館

神奈川県立近代美術館鎌倉館
「鎌倉からはじまった。1951-2016 PART1:1985-2016」
4/11-6/21



神奈川県立近代美術館鎌倉館で開催中の「鎌倉からはじまった。1951-2016」のPART1、「1985-2016」を見てきました。

1951年、戦後初の公立美術館として開館した神奈川県立近代美術館の鎌倉館。設計は坂倉準三です。「日本のモダニズム建築を代表する名作」(リーフレットより)として評価も高く、長きに渡って鶴岡八幡宮境内、源氏池畔の景観を特徴付ける建物として知られてきました。



しかしながら葉山館への集約や、八幡宮との土地借地契約が満了することなどから、2016年1月末をもって閉館することが決定。現時点で建物自体は存続するそうですが、美術館としての役割を終えることになりました。

鎌倉館60年の最後の展覧会です。その名も「鎌倉からはじまった。」。どこか美術館の強い自負を感じるタイトルではありませんか。展示自体は純然たるコレクション展です。全三期にわけて所蔵作品を紹介。鎌倉館の活動を振り返っています。

現在は第1期のPart1。面白いのはPart3に向けて時代を遡っていることです。よってPart1は一番、新しい。1985年以降に鎌倉館で行われた展覧会を追いかけています。

さて一言に展覧会を追いかけるといえども、構成なり手法は至ってシンプル。館内に入ると一目瞭然ですが、先にも触れたように基本はコレクション展です。平面、立体の作品が端的に並んでいます。

キャプションに一工夫ありました。というのも作家、作品の解説とともに、その作家がいつ鎌倉館で個展なり展示を行ったのかについて記載があります。それによって作家が何時、どういう形で鎌倉館と接点を持ったのかが分かるというわけなのです。


斎藤義重「鬼」 1957年 油彩、合板 神奈川県立近代美術館鎌倉館

例えば斎藤義重の「鬼」、画家は99年に生前最後の美術館での個展を鎌倉館で行っています。またウルフ・トロヅィッグの「樹間」は2000年に鎌倉館で行われた個展の際の新作。その時に初めて展示された作品でもあります。

中西夏之の「弓型・弓ぬき」が目を引きました。肌色の爛れたようなストロークが味わい深い。95年に展示があったそうです。

私が鎌倉館を見知るようになったのはここ数年のことですが、その中で印象深いのは2009年の伊庭靖子です。「まばゆさの在処」にも出展された「Untitled」が出ていました。



出品は平面60点に彫刻10点ほど。そういえば池に面する内藤礼の「恩寵」も2009年の個展があってからの作品です。この展示も私の中では非常に強く印象に残っています。



久々に鎌倉館へ行きました。コルビュジエ建築を発想の元にしながらも、中庭を核に、屋内外を取り込んだ空間構成は極めて独特。池に面したテラスは伝統的な日本の建築を連想させます。



当時は建材などに制約もあったそうですが、鉄骨や大谷石、またボードを組み合わせた建物の素材も今となっては新しい。歩き、また視点を変えると、常に意外な景色が現れてくるような美術館でもあります。



喫茶室も現在です。開館以来のスペース、壁画も2003年に復元されました。鎌倉の特等席です。もちろん鎌倉には素晴らしいカフェがいくつもありますが、少なくともこの喫茶室よりも眺めが良く、また落ち着いていて、なおかついつも余裕のあるスペースを知りません。



なお「鎌倉からはじまった。」展では特典付きのカードを発行。PART1とPART2のスタンプを押すと、PART3会期が無料で観覧出来るそうです。


「鎌倉からはじまった。1951-2016」特典カード(表紙)

PART 2: 1966-1984 発信する近代美術館
2015 年7月4日(土)~10月4日(日)

PART 3: 1951-1965 「鎌倉近代美術館」誕生
2015年10月17日(土)~2016年1月31日(日)

ちょうど五月の季節の良い時期です。鎌倉館内にも流れる心地よい風に吹かれながら、しばし時間を忘れて滞在しました。



ちなみに本展は鎌倉館から歩いて5分弱の鎌倉別館と同時開催の展覧会です。

「鎌倉からはじまった 。1951-2016」(日本画の部)@神奈川県立近代美術館鎌倉別館 4月11日(土)~6月21日(日)

鎌倉別館では日本画が20点ほど展示されています。チケットは当日のみの有効です。最終入館は16時半です。お見逃しなきようご注意ください。



6月21日まで開催されています。

「鎌倉からはじまった。1951-2016 PART1:1985-2016」 神奈川県立近代美術館鎌倉館@KanagawaMoMA
会期:4月11日(土)~6月21日(日)
休館:月曜日。但し5/4は開館。
時間:9:30~17:00。*入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1000(900)円 、20歳未満・学生850(750)円、65歳以上500円、高校生100円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *鎌倉館の観覧券で当日に限り、鎌倉別館の展覧会を観覧可。
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-53
交通:JR横須賀線、江ノ島電鉄線鎌倉駅下車、徒歩約10分。
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「大英博物館展」 東京都美術館

東京都美術館
「大英博物館展ー100のモノが語る世界の歴史」
4/18-6/28



東京都美術館で開催中の「大英博物館展ー100のモノが語る世界の歴史」のプレスプレビューに参加してきました。

博物館の殿堂、ロンドンは大英博物館。設立は1753年です。世界最古の国立博物館としても知られ、古今東西、古代から現代にまで至る約700万点にも及ぶコレクションを有しています。

うち選ばれた100点を紹介する展覧会です。時代は約200万年前の石器や紀元前700年の粘土板、はたまた中世の石像や頭像に皿、さらには18世紀頃の胄に近年の盾や工業製品までと大変に幅広い。タイトルにも「モノ」とあるように、美術品とは限りません。


「アウグストゥスの胸像」 1~40年 イタリア *奥:年表パネル

また地域も当然ながら英国に限らず、ヨーロッパ、中近東、南北アメリカ、アフリカ、アジア、そして日本と、世界のありとあらゆる地域が網羅されています。

基本的には年代順での展示です。ただし横軸として各セクション毎にテーマが設定されていました。

プロローグ モノは語る
第1章 創造の芽生え
第2章 都市の誕生
第3章 古代帝国の出現
第4章 儀式と信仰
第5章 広がる世界
第6章 技術と芸術の革新
第7章 大航海時代と新たな出会い
第8章 工業化と大量生産が変えた世界

そして今回、鑑賞の一つのポイントになるのは、こうした各テーマと、作品のキャプションです。なかなか効果的に作られています。


大英博物館展「鑑賞のためのガイド」

まずはキャプションの☆マークです。これは各章の注目作品の意味です。さらに解説には簡単なものと、制作背景などを記した詳細なものの2種類あります。そして年表パネルです。作品の「いつ」と「どこで」を年表形式で地図ともに確認することも出来ます。


年表パネル「古代帝国の出現」

こうしたキャプションやパネルにも気をとめて見ると、より理解が深まるやもしれません。

さて全100点を追うだけでも見応えがあるもの。ブログ上で細かに見てもきりがありません。

よってここでは公式サイトの「私が選ぶこの1点」に倣い、「この5点」をピックアップ。その魅力を簡単にお伝えしたいと思います。


「鳥をかたどった乳棒」 紀元前6000~前2000年 パプアニューギニア、オロ州

「鳥をかたどった乳棒」です。作られたのは紀元前6000年から紀元前2000年の頃。場所はパプアニューギニアです。農耕をはじめた人類最古の料理道具とされ、同地のタロ芋をつぶすために使われたもの。首の長い鳥がすくっとのびるようなデザイン。実に個性的です。棒の球の部分がすり減っていることから、頻繁に利用されたと考えられてもいます。


「ウルのスタンダード」 紀元前2500年頃 イラク

「ウルのスタンダード」、紀元前2500年頃のメソポタミアの出土品です。発見当初は軍旗、つまりスタンダードとして使われたのではないかと考えられ、このような名前が付いたそうですが、実際には何の用途か分かっていないそうです。

それにしても深い青が美しい。素材は石、ラピスラズリも使われています。また表裏の彫刻のモチーフは「戦争」と「平和」です。どちらにも王が登場します。戦争では王の前に縛られた敵兵が描かれています。一方、平和では、動物や魚を前に華やかな宴を催す王の姿が示されていました。


「ルイス島のチェス駒」 1150~1200年 イギリス、ルイス島

大英博物館の中世コレクションで最も有名な作品だそうです。その名は「ルイス島のチェス駒」。おおよそ13世紀前の頃の作、スコットランドのルイス島で発見されましたが、作られたのはノルウェーだと考えられています。元々チェスは6世紀頃にインドで発明され、中東やヨーロッパへと広まりました。駒の形状は各地域で異なり、インドには象、イスラムには王の顧問を務める男性像があるそうです。そしてヨーロッパのキリスト教国ではクイーンとビショップ、つまり司教が追加されました。


「聖エウスタキウスの聖遺物容器」 1210年頃 スイス、バーゼル

一際金色に輝いています。13世紀はスイスの「聖遺物容器」。銀器に金を塗って作ったものです。ローマの将軍でトラヤヌス帝に仕えた聖エウスタキウスの遺骨をおさめるための容器だと言われています。

髪の毛の部分にはバンドがまかれ、そこにはエメジストや水晶といったローマ時代の宝石もはめられています。そして下の台には十二使徒が象られていました。また1956年の修復の際、内部に遺骨片が入っていることが分かったそうです。


「銃器で作られた母像」 2011年 モザンビーク

出展中で最も新しいものです。モザンビークの「母像」。作成は2011年です。遠目ないし写真では何で出来ているか分かりにくいかもしれませんが、実のところ素材は武器です。頭部は銃身、そして手に持つバックは銃倉から作られています。

モザンビークでは1976年から内戦が勃発。92年まで続きました。そして終戦後、残されたのは大量の武器です。殆どが外国製でした。その武器を素材にしたのが「母像」というわけです。地元のアーティストらが凶器に再生、新たな命を与えるという意味で母を象りました。また現地では武器と農具を交換しようとする運動も行われたそうです。


「バカラの水差し」 1878年 フランス、ロレーヌ

大英博物館のコレクションで巡る世界一周、時空を超えた美術、そしてモノの旅。ジャンルも時代も様々ですが、展覧会として一つの物語を紡ぐような流れもあり、思いのほかに身近に引き付けて楽しむことが出来ました。

[大英博物館展 巡回予定]
福岡:九州国立博物館 2015年7月14日(火)~9月6日(日)
神戸:神戸市立博物館 2015年9月20日(日)~2016年1月11日(月・祝)

さて既に会期も半ば、残すところあと一ヶ月強。土日を中心に多くの方が来場されています。


「ミトラス神像」 100~200年 イタリア、ローマ

公式ツイッターアカウント(@history100tweet)が混雑情報を発信しています。いつもながら毎週金曜日の夜間開館(20時まで)も狙い目となりそうです。

ご紹介が遅くなりました。6月28日まで開催されています。

「大英博物館展ー100のモノが語る世界の歴史」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:4月18日(土) ~6月28日(日)
時間:9:30~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
休館:月曜日。
 *毎週月曜日、及び5/7(木)。但し5/4(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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ポータルサイト「goo」が鴻池朋子とコラボレーション

「goo」と現代美術家の鴻池朋子がコラボした「early summer」版のトップページが公開されています。



「goo」ポータルサイト「early summer」版
http://www.goo.ne.jp/?TH=C214

というわけで早速、gooにアクセスしてみるとご覧の通り。トップ上段のバナーには、一目見て鴻池と印象付けるような蜂や蝶のイメージが描かれています。

そして中段右には「鴻池朋子 関連情報」の項目が設置されました。オフィシャルサイトとVOLCANOISEのトップページへのリンクがはられています。



ブラウザによって異なるのかもしれませんが、下へスクロールすると、最下段に再び鴻池のイメージが現れました。モチーフはかたつむり・ハチ・脊髄・彗星・波・山水・つばめ・蜂だそうです。長い脊髄を剥き出しとしたメデューサのような魔物が飛んでいます。独特の世界観が広がっています。

また別サイト「goo いまトピ」では5月27日より鴻池のコラムがはじまるそうです。

「gooいまトピ」 *掲載期間:5月27日~全5回

ライターとして全5回、コラムを連載するそうです。そちらにも期待しましょう。

さて作家の鴻池ですが、VOLCANOISEにて告知があるように、今秋、神奈川県民ホールギャラリーで個展を開催します。

鴻池朋子個展「根源的暴力」
会場:神奈川県民ホールギャラリー 全室
会期:2015年10月26日(月)~11月27日(金)(予定)
主催:公益財団法人神奈川芸術文化財団 
特別協力:一般財団法人セゾン現代美術館
ゲストキュレーター:坂本里英子(セゾン現代美術館学芸員/VOLCANOISE代表)

神奈川県民ホールギャラリーといえば広大な階段室です。あの特徴的なスペースをどう活かすのかにも注目したいところです。

また私も先日見てきましたが、現在、初台の東京オペラシティギャラリーで開催中の「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」にも1点、出品がありました。



「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」@東京オペラシティアートギャラリー 4月18日(土)~6月28日(日)

ポータルサイトと直接、現代美術家がコラボレーションするのは珍しいのではないでしょうか。私もgooブログユーザーではあるものの、普段、ポータルサイトはGoogleばかりで、gooを見るのは稀。実は殆ど利用したことがありません。

せっかくの機会でもあるので、しばらくはgooの鴻池バージョンを使ってみようと思います。

「ポータルサイト『goo』と現代美術家鴻池朋子氏がコラボ、『early summer』版gooトップページ提供開始」gooプレスリリース)

NTTレゾナント株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:若井 昌宏、以下NTTレゾナント)は、ポータルサイト「goo」にて、現代美術家 鴻池朋子氏とコラボレーションした「early summer」版gooトップページを本日より提供開始します。これまで100種類超のデザイン版を提供してきた「goo」が、初めて現代美術家とコラボレーションします。また、5月27日より「gooいまトピ」にて鴻池朋子氏のコラム連載も開始します。
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「京都市美術館名品展 美人画の100年」 平塚市美術館

平塚市美術館
「京都市美術館名品展 美人画の100年」 
4/25-6/7



平塚市美術館で開催中の「京都市美術館名品展 美人画の100年」を見てきました。

近代日本画にとっても重要なモチーフであり続けた女性像、つまり美人画。それを京都市美術館のコレクションによって辿る展覧会です。

江戸末期にはじまり、明治、大正、昭和まで。出品は約60点です。ほぼ時間を追いながら美人画の諸相を見ています。

1. 幕末京都の美人画
2. 近代美人画の誕生
3. 内面を見せる女性たち
4. 装いと表現のモダニズム
5. 異国情緒と戦争
6. 京都風俗と生活の情景

さてさすがに京都の美術館、いわゆる京都画壇といった、関西で活動した画家の作品ばかりが揃っています。

導入は2点、北野恒富の「浴後」と勝田哲の「お夏」です。前者はまさに湯上り後なのでしょう。和装の女性が川沿いのテラスで寛いでいます。背景の木の枝の様子が何やら装飾的ですが、これはアールヌーボーに影響を受けたからだとか。艶やかでもあります。

勝田哲も京都で活動した画家です。恋人の刑死を聞いて悲嘆にくれる女性。錯乱とも言ってよいほどの姿は実に劇的です。朱色の小袖でしょうか。口に噛んでは引っ張っています。扇子は打ち捨ててしまったのでしょう。身体の前に逆さになって転がっていました。

幕末期では狆を描いた2点の美人画に目を奪われました。三畠上龍の「狆と佳人図」と幸野楳嶺の「呉服漢織之図」です。共に狆を連れて歩く女性が描かれていますが、ともかく狆が可愛らしいもの。微笑ましくもあります。

特に明治、大正期の美人画が粒揃いです。ハイライトとしても過言ではありません。


林司馬「舞妓」 1934年

上村松園の「人生の花」はどうでしょうか。京都市中における嫁入りの風俗を描いた一枚、後ろに歩くのが花嫁です。一瞬の恥じらいを捉えたのかもしれません。顔が薄っすらと赤らんでいます。

大作の屏風が2点出ていました。1つは西山翠しょうの「槿花」。木々の合間には麗らかなる女性が描かれていますが、何と舞台は月。空想世界です。そこに住む仙女を表しています。着衣の透けた表現が目を引きました。

もう1点の屏風は木島櫻谷です。「和楽」と題した作品、仔牛や農婦といった農村の一コマを描いていますが、牛の瞳が澄んでいて可愛らしい。潤んでいるようにも見えます。かつての泉屋博古館での回顧展の記憶もよみがえりました。

梶原緋佐子の「暮れゆく停留所」も印象に残りました。黒い服を着たほつれ髪の女性、停留所は京阪の中書島だそうです。どこか疲れ切った様子で座っています。なお画家の梶原は千種掃雲の弟子。師に「切れば血が出るような女を描け。」と叱咤激励されたそうです。

デロリでお馴染みの甲斐庄楠音も出ていました。「青衣の女」、モデルは同級生の妹です。何でも写真を撮っては描いたそうですが、ともかく青衣、言い換えれば肉体の質感表現が独特です。そして言われて見れば顔もどことなく写実的でした。

この甲斐庄の研究会に学んだという宇田荻邨の「太夫」が強烈です。太夫と連れ添う中居を描いていますが、2人の不気味な様はまるで幽霊のよう。その意味でも師のデロリの雰囲気をよく受け継いでいます。

ゴーギャンに関心があった秦テルヲの「母子」や、デューラーに影響を受けていたという石川晴彦の「山茶花を持てる女」も面白いのではないでしょうか。特に後者、顔面の筋肉の描写などは、それこそデューラーばりに緻密。言わば肉々しいまでの表現が目を引きます。

昭和の戦前期には洗練、あるいはモダンとも呼びうる作品が一斉を風靡します。


丹羽阿樹子「遠矢」 1935年

松園に師事した丹羽阿樹子の「セーラー服の三人」などは最たるもの。制服姿の少女たちは屈託がありません。何とも健康的です。明るい色彩が華やかさを演出します。

菊池契月の「散策」も佳品でした。上から楓に海棠が垂れ下がり、その下を少女が洋犬を連れ立って歩く。筆致は軽快です。確かに大正期の一部に見られるような濃厚な日本画とは一線を画しています。瀟洒とも言えるのではないでしょうか。

三谷十糸子の「独楽」も忘れられません。文字通り、独楽を前にして座る少女。手編みもしれません。赤い編みのセーターを着ています。頭には黒い帽子、そしてピンクのリボンが映えます。前に転がるのは4つの独楽です。うち2つが回っていました。余白を活かしての構成、やはりモダンです。どこか現代絵画にも通ずるような要素も感じられました。

秋野不矩の「砂上」の視点が独特でした。海辺でしょうか。白砂の上で遊ぶのは裸の子供たちです。右奥で群れています。手前は母なのでしょうか。腰に布を当てた大人がゴロンと大きく横たわっていました。


前田青邨「観画」 1936年

また構図といえば前田青邨の「観画」も面白い。黄色やピンクの中国服を着た女性が7名、列を作るかのようにして立っていますが、皆、右の方を向いています。何故にと思ってしまいますが、実はこれ、右側にある絵を見ているという設定なのだそうです。

土田麦僊の「平しょう」の舞台はソウルです。時の京城、モデルは妓生です。簡素な寝台の上の2人の女性、真っ白い服を身につけています。細い線が効果的です。端的に美しい。曇りがありません。

ラストは主に戦前、戦後の京都の文化、風俗を捉えた作品が並びます。岡本大更は「京都の町へ」において街中で花を売っては歩く白川女の姿を表しました。


橋本明治「浄心」 1937年

京都からやって来た美人画をまとめて楽しめる展覧会です。一言に美人画といっても、時代しかり、驚くほど多様であることが分かります。また私としては未知の画家が多いのも嬉しいところでした。まだ見ぬ画家の意外な作品にも大いに魅了されます。


まつ本一洋「餞春」 1928年

カタログはありませんでしが、展示に関する略年表が配布されていました。何かと参考になりそうです。



展示替えはありません。6月7日まで開催されています。

「京都市美術館名品展 美人画の100年」 平塚市美術館@hiratsuka_art
会期:4月25日(土)~6月7日(日)
休館:月曜日。但し7/15(月・祝)、9/16(月・祝) は開館、翌火曜休館。
時間:9:30~17:00 *入場は16時半まで。
料金:一般800(640) 円、高大生500(400)円、中学生以下、及び毎週土曜日の高校生は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *65歳以上の平塚市民は無料、市外在住者は団体料金。
住所:神奈川県平塚市西八幡1-3-3
交通:JR線平塚駅東口改札・北口4番バス乗り場より神奈川中央交通バス 「美術館入口」下車、徒歩1分。
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「村田朋泰 edge」 GALLERY MoMo 両国

GALLERY MoMo 両国
「村田朋泰 edge」 
4/25-5/30



GALLERY MoMo 両国で開催中の村田朋泰個展、「edge」を見てきました。 

1974年に東京で生まれ、アニメーション作家として幅広く活動している村田朋泰。ギャラリーモモでの個展は2009年以来のことだそうです。

さてコマ撮りのアニメーション映像だけでなく、三次元、例えばミニチュアのセットにて空間全体へ作品世界を広げる村田の制作。その手法は今回も変わることはありません。



まず目に飛び込んでくるのは一面に広がるセットです。何やら葉を失っては朽ちた木々が立ち並んでいます。森でしょう。照明は落とされて薄暗い。また獣の皮かもしれません。毛の長い絨毯のような素材が大地を象っていました。それに時に白く見えるのは雪のイメージなのでしょうか。石や草木がまばらに生えています。



洞穴がありました。中にはキラキラと輝くクリスタルのような物体があります。まるで鍾乳洞のようでもあります。



そしてこのセットを舞台にしたのが奥の映像、「木ノ花ノ咲クヤ森」です。全10分弱。主人公はオオカミ。ただし頭がオオカミであるだけで、身体は人間です。霧深い森、井戸からクリスタルを掘り出します。中には花が閉ざされていました。それを大切そうに抱えては持ち帰ります。すると追う者が現れました。2人のハンターです。容赦なくオオカミに発砲しては襲いかかります。



その後、映像は大きく展開。時代を超え、場所をも超えます。戦争が始まりました。爆弾で街は吹き飛び、瓦礫が散乱します。その惨禍を経た後に再び静かな森へと立ち返りました。しかしながらオオカミの男はハンターの狙撃により片腕を失ってしまいます。

「本作の物語は中世のヨーロッパ人のように「本来の位置」なるものを探っている。すでに古臭く時代遅れとされた世界の中で、主人公は失った記憶や痕跡を探っている。」 アーティストコメントより(ギャラリーサイトより)

夢か幻か、過去か未来か現在か。それらの全てを行き来してはない交ぜになったような世界。オオカミは過去の記憶や体験を探り辿ろうとしているのかもしれません。映像世界が目の前のセットというリアルと交錯してはイメージを膨らませてくれます。

奥の小部屋にももう1点の映像、「翁舞」がありました。文字通り翁の演舞する姿、もちろん人形。「天下安全五穀豊穣」(ギャラリーサイトより)を祈願するものだそうです。それにしてこの所作がスムーズ。おおよそコマ撮りとは思えないほどでした。



振り返れば平塚市美術館での個展は2008年のことでした。どこか謎めいた物語でもある「木ノ花ノ咲クヤ森」。より深化した世界と捉えるべきなのかもしれません。

5月30日まで開催されています。

「村田朋泰 edge」 GALLERY MoMo 両国@GalleryMoMo
会期:4月25日(土)~5月30日(土)
休廊:日・月・祝。*GW期間中(5/3~5/6)は休廊。
時間:11:00~19:00
場所:墨田区亀沢1-7-15
交通:都営大江戸線両国駅A3出口より徒歩1分。JR両国駅東口より徒歩約5分。
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「同潤会の16の試み」 ギャラリーエークワッド

ギャラリーエークワッド
「同潤会の16の試みー近代日本の新しい住まいへの模索」
3/20-5/21



ギャラリーエークワッドで開催中の「同潤会の16の試み」を見てきました。

1923年に発生した関東大震災の復興住宅として建てられた同潤会。最も早いものでは震災の3年後です。現在の押上地区に中之郷アパートメントを建設。以降、約10年の間、東京と横浜に計16棟のアパートが次々と造られました。

その同潤会アパートを改めて振り返る展覧会です。会場には当時の写真やパネル、それに実際にアパートで使われた備品なども勢揃い。さらに模型やアパートの一室を復元した実寸大の再現展示もあります。


「同潤会の16の試み」パネル展示

はじめはパネルです。同潤会の歴史を年表で振り返ります。はじめにも触れたように同潤会アパートは僅か10年余りの間に全て造られましたが、その使用、あるいは建設年数は長く、第2次大戦下においても失われることはありませんでした。


「同潤会の16の試み」パネル展示

最初に取り壊されたのは1982年の平沼橋アパートです。以降、特に1990年から2000年代にかけて次々と建て直されます。最後まで残ったのは上野下アパートです。それも2013年に取り壊され、建物としての同潤会の歴史は幕を下ろしました。

もちろん私は16棟の全てを知りませんが、一番記憶に近いのは青山アパートです。表参道の目抜き通り、ケヤキ並木沿いにあった3階建ての建物。私の見知る頃は確かほぼ店舗や事務所として利用されていました。現在は表参道ヒルズに建て替えられています。


手前:「外壁飾り」 清砂通りアパートメント 昭和2年

清砂通りアパートの面影も頭の中に残っています。場所は江東区白河です。ちょうどバスなどで東京都現代美術館へ向かう時に良く目にしました。今では再開発によって高層マンションに姿を変えています。


「同潤会の16の試み」 パネル展示

各アパートが写真や模型で紹介されていました。そもそも一口に同潤会アパートと言えども、高さしかり、造りからして様々。また鉄筋コンクリート造として知られる同潤会ですが、最初の中之郷アパートは意外にも木造です。そして虎ノ門アパートは独身者向け、大塚女子アパートは文字通り女性専用、さらに青山アパートは復興住宅というよりも山手の勤め人のために提案された建物であるなど、用途に関しても幅広い層を想定して造られています。


同潤会アパートメントの備品類

とは言え、同潤会アパートにはコミュニティの存在という大きな特徴があります。一つのアパートの中には住宅だけではなく、共同浴場、店舗、医務室、談話室、児童遊園のほか、何と時には職業訓練のための工場までありました。いわゆる住、職、医を兼ね備えた施設でもあったのです。


同潤会アパートメントの備品類

アパートで実際に使用された備品が同潤会の歴史を物語ってくれます。住宅のドアノブに扉、換気口の格子、照明器具、浴室タイル、マンホールに集合室名板など。換気口の格子のデザインは今見ても決して古びていません。青山アパートは当時、「ハイカラなアパート」として宣伝されたそうですが、備品を見るからしても納得し得るというもの。意匠として凝っているものも少なくありません。

代官山アパートの一室を実寸大で再現した模型がハイライトではないでしょうか。


代官山アパートメント原寸模型

入居は昭和2年。今でこそ俄かに信じ難いものがありますが、当時は同潤会最大の郊外団地だったそうです。うち14号館、74号室を復元。世帯住居です。2続きの部屋。一つは6畳、もう一つは4畳半です。台所は土間ですが、ガスコンロに流し台、またダストシュートまでありました。


代官山アパートメント原寸模型

そしてトイレは和式の水洗です。玄関は防火性を持たせるために鉄板を巻いていたそうです。


代官山アパートメント原寸模型

復元模型、中に入ることは出来ませんが、当時の住まいの雰囲気は大いに伝わってきます。臨場感のある展示でした。


「同潤会の16の試み」会場風景

受付ではリーフレットが一部100円にて販売されていました。監修者のコメント付き、中は写真資料などが掲載されています。こちらも参考になりそうです。


竹中工務店東京本店

会場のエークワッドは竹中工務店東京本店のエントランス1階にあるスペース。主に建築をテーマとした展示を行っているギャラリーです。

東西線の東陽町駅の3番出口の近くです。案内には3分とありますが、確かに出口からあっという間に到着します。アクセスは良好ですが、本店ビルの付属ということで開廊は平日のみです。土日と祝日はお休みです。ご注意下さい。

今回の「同潤会の16の試み」は「都市に住まう」シリーズの第1回展です。今後も同テーマを掲げた展示を続けていくそうです。そちらにも期待しましょう。


ギャラリーエークワッド入口

5月21日までの開催です。平日のみのオープンですが、おすすめします。

「シリーズ『都市に住まう』第一回 同潤会の16の試みー近代日本の新しい住まいへの模索」 ギャラリーエークワッド
会期:3月20日(金)~5月21日(木)
休廊:土曜・日曜・祝日。
時間:11:00~18:00。*最終日は17時まで。
料金:無料。
住所:江東区新砂1-1-1 竹中工務店東京本店1階
交通:東京メトロ東西線東陽町駅3番出口徒歩3分。
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「野球と鉄道ー幻の球場と思い出の球団」 鉄道歴史展示室(新橋)

旧新橋停車場 鉄道歴史展示室
「野球と鉄道ー幻の球場と思い出の球団」
4/7-7/20



鉄道歴史展示室(旧新橋停車場)で開催中の「野球と鉄道ー幻の球場と思い出の球団」を見てきました。

日本初の本格的野球チームは、明治時代、鉄道技師の平岡ひろしが結成した「新橋アスレチック倶楽部」に遡ります。

振り返ってみれば、現在の西武、阪神をはじめ、過去には近鉄、阪急、南海、さらには西鉄など、多くの鉄道会社が球団経営に携わっていました。一見、あまり接点のないように見える野球と鉄道ですが、実は深い関わりがあると言えるのかもしれません。


「藤井寺付近を走るデニ506(大阪鉄道)」 昭和12年5月 近畿日本鉄道

「鉄道を切り口に野球史を振り返る」(チラシより)展覧会です。中でも主に鉄道会社が所有していた球場について細かく紹介しています。

冒頭は新橋に野球チームを作った平岡ひろしです。明治4年に渡米。現地の機関車製造所で学んだ彼は、帰国後、鉄道技師として鉄道局に入ります。その後、独立し、自らの経営する鉄道車両会社を興しました。

平岡は当時、アメリカでも黎明期であったメジャーリーグで野球の面白さに魅せられたそうです。日本でも普及させたいと願ったのかもしれません。帰国した後には車両会社の工員たちへ熱心に野球を教えます。


「新橋アスレチック倶楽部」 明治13年 野球殿堂博物館

「新橋アスレチック倶楽部」の集合写真に目が止まりました。中央前列が平岡本人です。選手たちがバットや旗を持ってはポーズを構えています。何ともスタイリッシュ、まるでセーラ服を思わせるユニフォームではありませんか。この頃に平岡は、旧新橋駅構内に日本初の野球場ことリクエリエーションパーク、訳して保健場を作りました。


ポスター「阪急西宮球場五月一日開場」 昭和12年 阪急文化財団

さて本題の野球場の歴史です。最も古いものでは明治42年に京浜電車(現、京急)が羽田グラウンドを建設。また大正2年には阪神急行電鉄(現、阪急)が豊中にグラウンドを作ります。さらに大正5年には阪神が鳴尾、大正11年に今度は阪急が宝塚に球場を開設するなど、まるで鉄道会社が競いあうかのように次々と野球場をつくりました。


「鳴海球場 東京巨人軍対名古屋金鯱軍の試合」 昭和11年2月9日

こうした球場、今でこそ既に失われていますが、それを会場では「幻の球場」と題して紹介。在りし日の球場写真や野球大会などの入場券、はたまた落成記念の鉄道案内図や路線図、それに新聞記事の切り抜きなどの資料などを展示しています。


「上井草東京球場落成記念 東西対抗職業野球パンフレット」 昭和11年 杉並区立郷土博物館

杉並に球場があったとは知りませんでした。上井草球場です。所有したのは西武鉄道。ちょうど沿線の上井草駅の駅前にありました。開設はプロ野球がリーグ戦をはじめた昭和11年です。両翼100メートル、中堅119メートルというから立派です。しかも収容人員は3万人。西武鉄道も球場を積極的に宣伝、高田馬場より急行運転するなどして観客を輸送していました。


「東京第二次リーグ戦 指定席券(洲崎球場)」 昭和11年 個人蔵

東陽町にも球場があったことをご存知でしょうか。洲崎球場です。大東京軍、現ベイスターズの本拠地として建設されたプロ野球専用の球場。さすがに東陽町ということもあってか都心も近く、当時の市電やバスなどのアクセスも良好。立地としては申し分ありませんでしたが、埋め立て地のために水はけが悪かった上、観客が座るとギシギシと音をたてるスタンドなど、設備面に難があったそうです。

よって一年後に後楽園球場が出来てからは試合数も激減。2年後には球史からも消えてしまいます。これぞ「幻の球場」と言ったところかもしれません。

洲崎球場の復元模型が出ていました。ともかく資料の乏しい同球場のことです。当時の新聞のマイクロフィルムや古地図、さらには航空写真までを分析。ここに200分の1スケールで再現しました。


「藤井寺球場パンフレット」 昭和3年以降 個人蔵

西宮や藤井寺、大阪スタジアムなどは実際に行った方もおられるのではないでしょうか。また平和台、そして甲子園球場に関しても、鉄道会社関連の資料から紹介。完成時の姿を写した絵はがきの「阪神電車 甲子園停留所」からは今の甲子園駅の面影を見ることが出来ます。


絵はがき「大阪スタジアム」 個人蔵

現在のなんばパークス、かつての大阪スタジアムの設計が坂倉準三であることも初めて知りました。言うまでもなく南海ホークスの本拠地、後の近鉄と広島の日本シリーズでは「江夏の21球」の舞台ともなった球場です。実は私も一度、行ったことがあり、微かに記憶があります。坂倉の設計の立体面のデザイン図は目を引きました。

ほかには今年の3月のダイヤ改正により姿を消した「甲子園団体臨時列車」の展示も面白いのではないでしょうか。ずばり甲子園の応援のための列車、昭和後期から平成初期にはよく運行されたそうです。旧国鉄の583系の団体電車の鉄道模型にはつい見入ってしまいます。


「野球と鉄道」展カタログ

カタログが700円で発売されていました。写真図版、テキストもなかなか充実。展示内容にほぼ準拠しています。購入したのは言うまでもありません。



野球好きには楽しめる展示だと思います。7月20日まで開催されています。

「野球と鉄道ー幻の球場と思い出の球団」 旧新橋停車場 鉄道歴史展示室
会期:4月7日(火)~7月20日(月・祝)
休館:月曜日。但し祝祭日の場合は開館。翌日休館。
時間:10:00~17:00。*入館は閉館の15分前まで。
料金:無料。
住所:港区東新橋1-5-3
交通:東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩4分。JR線新橋駅銀座口より徒歩5分。
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「山口小夜子  未来を着る人」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「山口小夜子  未来を着る人」 
4/11-6/28



東京都現代美術館で開催中の「山口小夜子  未来を着る人」を見てきました。

「1970年代初頭より、アジア人初のトップ・モデル」(展覧会サイトより)として活躍した山口小夜子(1949~2007)。2007年に急逝されてから、早8年も経ちます。

山口小夜子の多方面に渡る活動を紹介する展覧会です。雑誌、写真、各種資料のほか、映像やインスタレーションにファッションなど多数。現美の広いスペースが山口の艶やかなる世界で埋め尽くされています。

導入が巧みでした。遺品です。その名も「小夜子のブレイン・ルーム」。子どもの頃の愛用品でしょうか。人形やら雑誌にパスポートまであります。またあわせて初期のフォトセッションも展示。山口がパリ・コレクションにデビューしたのは1972年のことです。そして2年後にはアメリカの「ニューズウィーク」にも名が挙げられます。さらに資生堂の写真広告です。撮影はかの横須賀功光。たばこを加えてはポーズを構える山口の姿を捉えています。


「資生堂 舞」ポスター 撮影:横須賀功光 AD:中村誠 1978年

こうした資生堂との仕事が重要です。1973年から専属のモデルとして契約。まずは「花椿」です。黒髪でおかっぱ頭、ある意味では日本人的とも言えないでしょうか。先の横須賀と組んだのはアートディレクターの中村誠です。彼は小夜子に「日本の美」(解説シートより)を見出し、それを体現した広告を次々と打ち出しました。


「資生堂 ベネフィーク 雑誌広告のためのオリジナルプリント」 撮影:横須賀功光 1974年

また資生堂の海外広告を担ったフランス人のセルジュ・ルタンスとのコラボも紹介されていました。ずばり日の丸のモチーフです。熱気を帯びた赤も山口に映えます。

さてトップ・モデルとして活躍した山口、何も活動はファッションの分野に留まったわけではありません。

クリエーターです。実のところ山口はかなり早い段階から舞台や映画女優の仕事もしていました。その後には舞踏、ダンス、さらには舞台や人形のデザイン、演出なども手がけています。

舞踏の仕事は山海塾です。またコンテンポラリーダンスの勅使川原三郎、及びKARASとも恊働。舞台はオペラです。リヨンでの「三人姉妹」や「リア王の悲劇」の衣裳デザインを担当します。


結城座公演「ペレアスとメリザンド」 舞台写真 1992年

江戸糸あやつり人形の結城座にも参加しました。「ペリアスとメリザンド」では人形たちに混じり、自らをメリザンドとして演じます。また源氏物語を引用した「夢の浮橋」でも作品を発表。山口は日本古来の天児に倣い、素材に紙を選んで人形をデザインしました。

それらが会場では臨場感のある形で紹介されています。まずあやつり人形は実際に上から吊るされる仕掛け。また「小夜子のアトリエ」と題されたスペースもありました。室内は木製の可愛らしい椅子と机。何でも彼女の遺品だそうです。また「三人姉妹」の衣裳演出に使われたデッサンなども目を引きます。ちなみに彼女は元々、服飾学校に学んでいたそうです。よって自分で着る服を手作りするなどしていました。

さてここまでが展示の前半です。後半では山口にインスピレーションを受けた現代のアーティストらが登場します。ジャンルは山口の活動を踏まえたかのように幅広い。映像作家に演出家、そしてアートユニットや芸術家です。具体的には生西康典に掛川康典、宇川直宏、エキソニモ、森村泰昌、山川冬樹らが山口に作品を半ば捧げています。

森村が山口になりきっていました。演じるのは資生堂の中のポスター。これがいつもながらにハマっています。何でも森村自身は山口と新聞で往復書簡を交わすことになっていたものの、山口の死によって中断。それを完成すべく取りかかったプロジェクトの新作なのだそうです。

エキソニモのアプローチは独特です。何と山口をポスターから消してしまいます。そうすることで彼女の存在がむしろ際立っているというもの。コンセプトは「平行世界」です。山口の存在とは何ぞやということを改めて問い直しています。



アトリウムが圧巻でした。写真では収まりきれないスケールです。ずらりと見るもきらびやかな衣裳が並びます。手がけたのは演出家の生西康典と映像作家の掛川康典。衣裳デザインはもちろん山口小夜子です。



衣裳の一部は「リア王の悲劇」に用いられたもの。マネキンは小夜子ボディです。さらにメーキャップは山口と仕事を共にした富川栄が担当。そこに生西と掛川が映像を付ける。さらに音楽や小夜子自身の朗読も加わります。まるで山口をMOTに呼び寄せるかの如くに壮大な舞台装置でした。



なおエキソニモ以降の展示は撮影が可能です。カメラをお忘れなきようにご注意ください。



山口小夜子の幅広い活動を紹介しつつ、一方では今に生きるアーティストが彼女に捧げるインスタレーションを提示します。同時代の流れを追うとともに、現代から山口の世界観を作り上げていく流れ。効果的な二部構成です。山口を直接的に知らない世代にも大いに訴えかけるものがあります。

実のところ私自身も名前程度しか山口のことを知りませんでしたが、見終えた後は、彼女の魅力に大いに引かれたことに気づきました。

「山口小夜子 未来を着る人/河出書房新社」

6月28日までの開催です。まずはおすすめします。

「山口小夜子  未来を着る人」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:4月11日(土)~6月28日(日)
休館:月曜日。但し5/4は開館。5/7は休館。
時間:10:00~18:00。*入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1200(960)円 、大学生・65歳以上900(720)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。同時開催の「他人の時間」とのセット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「速水御舟とその周辺」 世田谷美術館

世田谷美術館
「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」
5/2-7/5



世田谷美術館で開催中の「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」を見てきました。

今年没後80年を迎えた日本画家、速水御舟(1894~1935)。キーワードはタイトルにもあるように「その周辺」です。つまり御舟と関わりのあった作家もあわせて紹介しています。御舟単独の回顧展ではありません。


今村紫紅「蓬菜郷」 1915年 川越市立美術館 *後期展示

ゆえに御舟作は全体の4割強ほど。ほかは師の松本楓湖、兄弟子の今村紫紅、同輩の小茂田青樹、さらには仲間の牛田けい村や黒田古郷に、御舟一門の高橋周桑と吉田善彦らといった作家の作品が加わります。御舟の画業を師弟や門人との関わりから追っていました。

はじまりは安雅堂です。1894年に浅草で生まれた御舟は14歳で画塾、安雅堂へ入門。歴史画の大家でもあった松本楓湖の指導を受けます。ただ指導とは言えども、楓湖は放任主義で知られたとか。手本の模写を見せる程度のことしかしなかったそうです。

入門一年後の作は「秋草に蜻蛉」。秋草がリズミカルに生える中を4匹の蜻蛉が飛んでいます。シンプルな構図です。何やら早くも老成したかのような落ち着いた印象を与える作品でもあります。

また「北野天神縁起絵巻(模写)」や「病草紙(模写)」は文字通り古画を写したもの。御舟はやまと絵に狩野派、円山四条派や琳派の作品をよく倣っては写しました。

ちなみにこの安雅堂には同時期、今村紫紅や小茂田青樹といった画家らも学んでいました。紫紅はリーダー格、小茂田青樹は同輩です。そして1914年、その紫紅を筆頭に立ち上げられた画家グループ赤曜会を機に、御舟の制作はまた変化していきます。

赤曜会が目指したのは日本画の革新です。印象派に準えては戸外で写生し、屋外のテントで展覧会を行いました。何でも南画を進歩的と捉え、斑点を重ねた表現を重視したそうです。


牛田けい村「白鷺図」 昭和初期 三渓園 *前期展示

この赤曜会に参加したのが主に安雅堂の若手画家です。紫紅を筆頭に御舟、青樹、小山大月、黒田故郷らが集います。目黒の地主、吉田家の長屋に住んで制作をしたことから「院展目黒派」とも称されました。

紫紅の「細雨」と「潮見坂」はともに横浜美術館の所蔵品です。同館の常設でも馴染みのある作品でもあります。また御舟では「暮雪」が美しい。降り積もった雪の下の日本家屋。障子からは仄かな明かりが漏れています。セピア色がかった色調が目を引きました。

「短夜」はどうでしょうか。帳の向こうには寝る人の姿。月明かりが家を照らします。鬱蒼とした木立にも注目です。確かに点描とも言うべき表現が用いられています。また南画風といえば「破庭小禽」や「洛北風景」も同様ではないでしょうか。こちらも斑点です。大胆な筆遣いは後の御舟からは想像も付きません。米点を巧みに利用しています。

またここでは黒田古郷の「秋晴(蓮に百舌)」も印象深いもの。蓮の上にとまる小禽の姿。墨の滲みが何とも効果的です。瀟洒と言っても良いのではないでしょうか。また小山大月の「椿花」と「牡丹」も美しい。特に「椿花」におけるややデフォルメしたかのような形態描写、どこか晩年の御舟の作風を思わせるものがあります。御舟的と言えばそうもとれるかもしれません。


速水御舟「平野晴景」 1924年 西丸山和楽庵

赤曜会の解散は突然です。結成僅か2年後、紫紅の急死を機に活動を終えてしまいます。実のところ師弟、門人と言えども、一時を除けば皆、異なった画風を見せていますが、まとめて紹介されることの少ない赤曜会の画家に接することが出来たのも、今回の展覧会の大きな収穫でありました。

御舟と青樹の関わりも重要です。二人は安雅堂時代からの「良きライバル」(キャプションより)。赤曜会解散後は独自の道を歩みます。御舟は北方ルネサンスや宗代院体画の細密に倣いながら、後に琳派を志し、さらには西洋の群像表現にも取り組みます。そして1935年で40歳の若さで亡くなりました。一方、青樹も南画を脱し、琳派風の花鳥画からキュビズム的とも言える風景画を手がけていきます。ただ残念ながら彼も早世です。亡くなったのは1933年、41歳のことでした。そして振り返れば兄弟子の紫紅も僅か35歳で亡くなっています。何とも運命的ではないでしょうか。


速水御舟「洛北修学院村」 1918年 滋賀県立近代美術館 *前期展示

いわゆる青の時代の「洛北修学院村」が小下図とともに出ていました。また下図との参照としては「女二題 其一・其二」も面白いかもしれません。こちらは大下図との比較です。ただ設営の都合もあるのでしょうか。これら2点に関しては展覧会の文脈から離れ、冒頭の導入部、つまり初めの展示室にて紹介されていました。リストの順番とも異なっています。

御舟と青樹、同一モチーフの作品が交互に並んでいます。例えばともに満月の下の植物を表した御舟の「仲秋名月」と青樹の「月涼」です。前者にはミカン、後者にはクチナシの花が描かれています。

 
左:小茂田青樹「麗日」 1926-28年 川越市立美術館 *前期展示
右:速水御舟「山茶花に猫」 1921年 西丸山和楽庵


御舟の「山茶花に猫」と青樹の「麗日」は猫のモチーフです。御舟の猫が鋭い眼差しで山茶花を見上げているのに対し、青樹の猫は目を細め、梅の枝の下でうつらうつらと眠っています。何とも優雅な姿ではないでしょうか。ほか夜の梅を表した御舟の「夜梅」と青樹の「梅花朧月」も趣き深い。闇に隠れつつも、剣の如く鋭く尖った梅の枝。御舟の独特な表現を見て取ることが出来ます。


小茂田青樹「四季草花図・夏」 1919年 滋賀県立近代美術館 *前期展示

一際目立っています。青樹の「四季草花図」のうちの「夏図」、「冬図」です。六曲一双の屏風絵、うっすら銀色を帯びているのでしょうか。顔料が細かに散っては幻想的な景色を生み出します。むせ返るように咲き誇る朝顔の姿。其一の朝顔図屏風を思い出しました。

それに御舟の「春丘」も素晴らしい。ツツジです。左の緑色の小山にはタンポポ。一輪は花の先だけが顔を出しています。それにしてもこのツツジの描写と言ったら比類がありません。うっすらとワイン色をした花弁は湿り気を帯びているように見えます。花の透き通るような質感を見事に捉えてはいないでしょうか。私が今まで見たツツジの日本画では一番美しく見えました。

ラストは御舟亡き後の展開です。彼に教えを受けた門人から二人の画家を紹介。高橋周桑と吉田善彦の作品が展示されています。

高橋は一番弟子です。一方で吉田は御舟と姻戚関係にもあり、後に法隆寺金堂壁画の模写事業を手がけるなど、模写の第一人者としても知られた日本画家だそうです。


吉田善彦「苔庭」 1947年 世田谷美術館

いわゆる一門ということで、御舟風の作品を手がけているのかと思いきや、むしろ大きく異なっていました。それぞれに個性があります。あまり画風に直接的な影響を受けたようには見えませんでしたが、それでも例えば吉田の軽妙な水彩のスケッチなどは味わい深い。なお二人の展示数は意外に多く、全作品の2割ほどを占めていました。

出品総数は全部で200点超です。東京国立近代美術館や京都国立近代美術館、ほか横浜美術館や平塚市美術館、また福島県立美術館や茂原市立美術館、そして世田谷美術館などの国内各地の美術館から作品が集められています。ただし国内屈指の御舟コレクションを誇る山種美術館の作品はありません。

会期は二期制です。前後期で約半数の作品が入れ替わります。ほぼ二つで一つの展覧会と言っても差し支えありません。

「速水御舟とその周辺」展出品リスト(PDF)
前期:5月2日(土)~5月31日(日)
後期:6月2日(火)~7月5日(日)

有料チケットの半券を提示すると、2度目以降の観覧料が団体料金になります。またチラシ表紙に掲載された「菊花図」は6月2日以降、後期のみの展示です。ご注意ください。



カタログを購入しました。論文1本、図版(個別の解説はありません。)、さらに目録などを掲載。うちとりわけ有用なのは小茂田青樹らの周辺の作家を含めた年譜ではないでしょうか。左に御舟、右にほかの作家の履歴が年代別に参照出来るようになっています。1冊2200円でした。

御舟を中心とした主に大正から昭和初期の日本画家の表現。単に画業を時系列に縦の軸で追うだけではなく、周辺の画家を参照するといった横軸を組み合せています。巧みな構成です。そうすることで御舟の個性が改めて浮き上がっています。何かと少なくない「御舟展」ではありますが、その中でも新鮮味があり、また充実もしていました。



巡回はありません。7月5日まで開催されています。これはおすすめします。

「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」 世田谷美術館
会期:5月2日(土)~7月5日(日)
休館:毎週月曜日。但し祝休日の場合は開館し、翌日休館。5/4(月)~6(水)は開館、5/7(木)は休館。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17:30
料金:一般1200(1000)円、65歳以上1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」
4/18-6/28



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」を見てきました。

精神科医、高橋龍太郎による日本の現代美術コレクションこと高橋コレクション。前回、都内でまとめて公開されたのは2009年、上野の森美術館の「ネオテニー・ジャパン」展のことでした。

それ以来の展示です。作家は全52名、作品は約140点です。「1990年以降の日本のアートシーン」(チラシより)の一部を俯瞰し得る現代美術作品がずらりと並んでいます。

始まりは草間彌生でした。お馴染みの水玉、先に90年代以降と触れましたが、一番古いものでは1950年代です。キャリア初期の水彩も展示されています。


草間彌生「レペティション A, B」 1996年 フォトコラージュ、ペイント、紙

さながら草間ルームです。中央には立体の「鏡の部屋ー愛は永遠に(NO.3)」が置かれ、四方の壁には50年代の「Star(星)」や2000年以降の近作、ネット状に線が広がる「INFINITY-NET(TWZO)」などが掲げられています。全15点ほどです。高橋コレクションの中でも重要なポジションなのかもしれません。草間の今と昔の制作を見ることが出来ました。

展示は基本的に作家別です。空間を区切った小さな展示室が続きます。そこで作家を個展形式、あるいは相互に関係し合うように紹介しているのもポイントです。(リストと展示順は一致しません。)


菅木志雄「補われた素材」 1986年 木、パテ

草間の次の部屋では関根伸夫や菅木志雄、李禹煥、それに榎倉康二といったもの派の作品を紹介。李禹煥は近年の照応でした。白いキャンバス地にグレーのストロークが打ち付けられます。その反対側は金色です。金箔を用いた関根伸夫の「神話素」が展示されていました。


奈良美智「Candy Blue Night」 2001年 アクリル絵具、キャンバス

人気の奈良美智、村上隆はほぼ各一室での展開です。村上の銀に輝く屏風は「ルイ・ヴィトンのお花畑」です。先だっての熱海の光琳アート展(MOA)を終え、ここ初台へ改めてやって来ました。小さなギャラリーでの個展を見ているような気にもさせられます。


会田誠「ジューサーミキサー」 2001年 アクリル絵具、キャンバス

ちなみにMOAといえば会田誠です。同じく光琳アート展に出ていた戦争画RETURNSの2点、「美しい旗」と「紐育空爆之図」も展示されています。前者が宗達の風神雷神、或いは光琳の紅白梅図だとしたら、後者は鈴木其一の朝顔図屏風を連想させるのではないでしょうか。大作「ジューサーミキサー」も久しぶりに見ました。グロテスクながらも、どこか美しくもあります。細部の描き込みもリアルです。思わずミキサーに引込まれてしまいます。

2009年のオペラシティでの個展の記憶が蘇りました。鴻池朋子です。作品は1点、横幅2メートルを超える「第4章 帰還ーシリウスの曳航」です。堂々たる姿、大変な迫力です。神々しくさえあります。

迫力といえば西尾康之の「Crash セイラ・マス」も忘れられません。ホワイトキューブの中央に鎮座するのは特大の立体彫刻作品、何と長さは6メートルです。目をひん剥き、物凄い剣幕でこちら側を見据える女性。サイボーグなのでしょうか。全身は隆々たる筋肉で覆われ、腹は開き、内臓も露出しているように見えます。

この「セイラ・マス」、ちょうど顔の部分が展示室の入口に向くように置かれていました。部屋に入ったらあの巨人がいきなり目に飛び込んで来るわけです。右手は振り上がってパンチ、何かをぶん殴ろうとしています。目を合わすとさも噛みちぎられそうなほどのスケールです。思わず後ずさりしてしまいました。

ついこの前、谷中のSCAIの個展に出た塩保朋子の「cosmic perspective」が早くも高橋コレクションに収められていました。そして前で燦然と輝くのは名和晃平のピクセルシリーズから「Lion」です。またこのセクションではやや照明を落として宮永愛子の「はるかの眠る舟」も展示。そう言えば須田悦広の「雑草」もいつものようにひっそりとありました。少し探して歩く必要があるかもしれません。


松井えり菜「食物連鎖 Star Wars!」 2008年 油彩、キャンバス、オルゴール

ラストの長い通路では2人の写真家、荒木経惟と森山大道の作品が向かい合うように展示されています。さらに奥には青山悟に町田久美、安藤正子やChim↑Pomと続いています。改めて見ても幅広いコレクション。2009年の上野の森の展示と重なる点も少なくありませんが、まずは一定数を楽しむことが出来ました。

なお一つ上の階、常設展に続いて若手アーティストを紹介する「project N」も見逃せません。



「project N 60 富田直樹」@東京オペラシティアートギャラリー

作家は富田直樹。1983年生まれのペインターです。ともかく一点一点、画肌に迫力があります。ポイントは盛られた絵具です。これぞ「触知性」(解説シートより)と言うべきなのでしょうか。身近な都市風景なりポートレートが絵具の強い質感を伴って浮き上がっています。


草間彌生「ハーイ、コンニチワ!ヤヨイちゃん」、「ハーイ、コンニチワ!ポチ」 2004年 ミクストメディア *この作品のみ撮影可。

今週末、5月16日には名和晃平を迎えての対談イベントがあるそうです。

対談「名和晃平VS鈴木芳雄」
出演:名和晃平(作家)、鈴木芳雄(美術ジャーナリスト)
日時:5/16(土)14:00~15:00
会場:東京オペラシティビル7階第一会議室(定員80名/全席自由)
参加費:無料(展覧会の入場は別料金)要整理券
 *当日11時よりアートギャラリー受付にて整理券を配布。定員に達し次第終了。

事前申し込み不要、無料のトークです。こちらも注目されるのではないでしょうか。



館内には余裕がありました。6月28日まで開催されています。

「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:4月18日(土)~6月28日(日)
休館:月曜日。但し5月4日は開館。
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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