「竹村京:見知らぬあなたへ」 タカ・イシイギャラリー

タカ・イシイギャラリー
「竹村京:見知らぬあなたへ」
1/21-2/10



タカ・イシイギャラリーで開催中の竹村京個展、「見知らぬあなたへ」へ行ってきました。

展示概要、作家プロフィールについては同ギャラリーのWEBサイトをご参照下さい。

竹村京 Kei Takemura「見知らぬあなたへ」@タカ・イシイギャラリー

竹村は現在、ベルリンを拠点に活動していますが、同ギャラリーでの個展は2007年以来、3度目とのことでした。

さて竹村というと2008年の国立新美、「アーティストファイル」の展示を思い出される方も多いかもしれません。広い新美のホワイトキューブを大胆に用いた大作の刺繍が印象的でした。

そして今回も刺繍がメインです。そのどこか断片的でかつ温かみのある刺繍をアンティーク家具の他、食器、また写真と重ね合わせ、一つの物語を紡ぐかのようなインスタレーションを展開しています。

入口正面、一際目立つ「between tree, ghost has come」に心引かれた方も多いのではないでしょうか。背景には住宅と庭先の樹木を捉えた大きなモノクロ写真が掲げられ、その前面にはその樹木の枝葉などが白や緑などの刺繍で表現されています。

これは竹村の父方の祖母と実家の間に伸びる木をモチーフにしたとのことですが、モノクロの写真とオーガンジーの透明な布、そして刺繍からは、どこか脆く、また心の奥底にある過去を呼び覚ましてくるような印象を与えられないでしょうか。

もう一点の刺繍、「Blocks in my head and Berlin」も同様、竹村の祖母の家の跡地のコンクリートの壁を縫い起こした作品です。先の家屋しかり、この壁を見ていると、あたかも竹村自身の体験、その記憶を追体験しているような気分にさせられました。

他にも古びた食器などを布で覆う作品なども展示されています。こちらもそれらを使ってきた人、そしてその記憶を強く予感させてなりません。布の温もりが古びたモノそのものの温もりと響きあっていました。

知らない風景と知っている風景、そしてそれこそ見知らぬ景色が、刺繍という表現を通して空間全体に「幻」の如く立ち上がっています。決してここに人は登場しませんが、生活の気配、また不思議と誰もが共有し得るような親密な体験が満ちているように思えてなりませんでした。

2月10日までの開催です。

「竹村京:見知らぬあなたへ」 タカ・イシイギャラリー
会期:1月21日(土)~2月10日(金)
休廊:日・月・祝日
時間:12:00~19:00
住所:江東区清澄1-3-2 5階
交通:東京メトロ半蔵門線・都営大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩7分。
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「北川貴好:フロアランドスケープ」 アサヒ・アートスクエア

アサヒ・アートスクエア
「オープン・スクエア・プロジェクト2011企画展 北川貴好:フロアランドスケープ - 開き、つないで、閉じていく」
1/14-2/5



アサヒ・アートスクエアで開催中の「北川貴好:フロアランドスケープ」へ行ってきました。

浅草・吾妻橋先、個性的なオブジェでも知られるアサヒビールのスーパードライホールですが、昨年よりその一角を現代美術作家に開放し、作品制作と発表を行わせるプロジェクトが始まりました。

それがこの「アサヒ・アートスクエア オープン・スクエア・プロジェクト」です。

そして今回第一弾、約40組からの作家から公募で選ばれたのは、1974年に大阪で生まれ、「空間そのものを新しい風景へと変換させていく作品を制作している」(ちらしより引用)、北川貴好でした。


「フロアランドスケープ」

ともかく会場に入って驚かされるのは、楕円形の空間の半分以上を埋め尽くすかのように設置された白い床ではないでしょうか。


「フロアランドスケープ」を階上より撮影

白い床の上には何やら無数の穴が空き、そこからはいくつもの観葉植物や電球、それに空き缶、さらには穴のあいた部屋から洗濯機までが登場しています。

点滅する電球、いきなりゴウゴウと脱水を始め、床へ水たまりを広げる洗濯機、そして伸びやかに水を吹き上げる空き缶と、どこかシュールながらも、何やら楽し気な風景に思わず心が躍ってしまいました。


会場にてギャラリートークを行う北川貴好(右奥)

さて当日は作家、北川貴好のギャラリートークに参加しました。その様子を踏まえ、この広大な床のインスタレーション、「フロアランドスケープ」をご紹介したいと思います。

まずポイントとなるのがこの空間全体と床、そして穴、また照明との関係です。 北川はまずスクエアとはいえども、楕円を描く建築空間へどう手を加えたら良いのかを考え、この広い床を作るというアプローチをとりました。

また同スクエアは一般的にダンスや演劇公演に用いられることが多いため、照明が充実していますが、北川はそれを活かすことも忘れません。

床面の穴に対し天井の丸い照明器具は半ば対比的に存在しています。

照明が天井のソケット、ようは穴で繋がっているのと同じように、作品の飛び出す床面の穴も互いに関係して、それぞれが有機的な繋がりを持つように工夫されています。その上でさらに照度と作品を互いに呼応、変化させることで、天井と床、つまりは空間全体が一つの秩序のもとに連環するシステムを作り上げました。

まずは電球です。元々、北川は電球という素材そのものに強い関心があり、これまでも球状に吊るした作品などを制作してきましたが、今回は床の穴の上で小山のように盛っています。



大きい電球はこのスペースの天井の既存のものを使っているそうです。また電球は照度が変化しますが、その一部は劇場の照明を制御する装置を利用しているとのことでした。

続いて空き缶の噴水です。循環されてリズミカルに飛び出す水は調光装置と関係しています。その吹き上げてはまた消えゆく水の軌跡は、それこそ生き物が水を噴き出しているかのようにも見えるのではないでしょうか。



ちなみに缶は約700個もありますが、今回は会場にもちなみ、全てアサヒの缶が利用されています。同ビルの地下のゴミ箱から回収したそうです。



床の中央には林が登場します。グリッド状にあけた穴はポット内径とあわされ、そこから観葉植物がいくつも伸び出しています。



これらは北川が持参したものですが、草を出し、また時には花をも咲かせる植物がある一方、枯れて葉を落としていくものもあるそうです。生き物そのものを取り込むことで、作品全体の有機性をさらに高めていました。

やはり一際、目立つのは、水たまりを囲うように設置された3台の洗濯機ではないでしょうか。



なんとこれらの洗濯機は全て排水が穴によって繋がれています。つまりは排水が穴を経由して水たまりへ流れ、また今度は別の穴から吸い上げているわけです。

つまり水は洗濯機が動く限り、永遠に循環し続けます。

このアイデアは北川がアメリカで訪ねた砂漠の都市、ダラスを見て生まれたのだそうです。確かに白い床の上に突如出現する洗濯機はまるで都市のビルであり、また水たまりは砂漠のオアシスとも受け取ることが出来るのかもしれません。

またここでは水を吸い込む穴の音にも要注意です。チューチューという音はどこか官能的な響きを奏でてはいないでしょうか。

都市とは水を如何に制御するのかという問題を根本に抱えていると北川は指摘しますが、それが人工的な洗濯機と水という組み合わせによってまた浮かび上がっているのかもしれません。



さてその水の官能的なまでの表情をもっと簡潔な装置で示したのが、通称「ピクピク」と呼ばれる排水口を使った作品です。

排水口を身近なブラックホールと述べる北川は、身近な排水口から広がる水の永遠の循環性に着目し、それを身体的なイメージとあわせた「ピクピク」をつくりました。

最後にはこのピクピクがベットにまで登場します。



光と影が美しいコントラストを描く穴のあいた部屋にはベットが一つ置かれ、その上には何とピクピクが群れているではありませんか。



ベットの上で水を吐き出すピクピクの動きほど艶かしいものはありません。水は体液などの放出も連想させ、時に暗がりの場を生み出す照明効果とあいまり、まさに官能的な夜の世界を作り上げていました。

また北川はかつて家を一軒丸ごと穴をあけるプロジェクトを行ったほど穴にこだわっています。

床の穴、排水口の穴、そしてこの部屋の穴の例をあげるまでもなく、この内と外が行き来する穴、新たな境界と秩序を構築する穴、そしてタイトルにもある「開き、繋いで、閉じていく」穴こそが、今回の展覧会の最も重要なポイントというわけでした。

なお展示ではこの「フロアランドスケープ」の他に、過去や近作の映像作品なども紹介されています。意外なことに初個展ながらも、これまでの北川の制作を一同に見ることの出来る回顧展的な性格を持ち得ているかもしれません。

なお北川の展示ツアーは会期最終日前日、2月4日の土曜日にも行なわれます。

「ギャラリーツアー」
1月22日(日)、1月28日(土)、2月4日(土) 15:00~15:45
*北川貴好が展覧会の内容や各作品について解説します。

ツアーではまさに縁の下の力持ちならぬ、この展示を全力で支える床下にも潜りこむことが可能です。これからご観覧の方は是非ともツアーのご参加をおすすめします。


「フロアランドスケープ」床下

また会期末が迫っていますが、トークセッション他、朝食とトークがセットになったという「朝食風景」などというユニークな企画も行われています。詳細については展覧会サイトをご参照下さい。

「北川貴好:フロアランドスケープ」関連企画 *「事務局通信」(ブログ)では朝食風景の様子もアップされています。


会場のスーパードライホール

入場は500円です。2月5日まで開催されています。

「北川貴好:フロアランドスケープ」 アサヒ・アートスクエア@AsahiArtSquare
会期:1月14日(土)~2月5日(日)
休館:毎週火曜日、および1月29日(日)。
時間:11:00~19:00
住所:墨田区吾妻橋1-23-1 スーパードライホール4階
交通:東京メトロ銀座線浅草駅4、5番出口より徒歩5分。都営浅草線本所吾妻橋駅A3出口より徒歩6分。東武線浅草駅より徒歩6分。
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「抽象と形態:何処までも顕れないもの」 DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館
「抽象と形態:何処までも顕れないもの」
1/14-4/15



7名の現代美術作家の制作を元に、近現代のいわゆる巨匠作品を参照しながら、主に絵画における抽象と形態の関係を探ります。DIC川村記念美術館で開催中の「抽象と形態:何処までも顕れないもの」のプレスプレビューに参加しました。

非常に強い印象を与える五木田智央のチラシ作品こそが、この展覧会の特質をよく表しているかもしれません。

人物のポートレートという一見、具象的平面の中に、激しいタッチの絵具が顔を塞ぐかのような抽象面を築き上げています。

この具象と抽象を行き来する作品を含め、「絵画とは対象の本質をいかに顕わすのか」という問いを設定し、それを出品7名の作家の作品によって探っていくのが、今回の展覧会の大きなテーマです。

またもう一つ重要なのが、そうした7名の作家に影響を与えたモネ、ピカソ、サイ・トゥオンブリーら、川村記念美術館のコレクションを中心とした巨匠との関わりです。


左:モネ「睡蓮」1907年、右:野沢二郎「Water Surface/薄日」2009年

例えば作家の一人、野沢二郎は、モネに強いシンパシーを感じていますが、実際に作品をモネと並べることで、その表現の共通性などを示しました。

またフランシス真悟はかのサムフランシスの息子ですが、今回そのサムを参照するだけでなく、アド・ラインハートを引用することで、単純に父子の繋がりを超えた、フランシス真悟の独自の画風を見出しています。

今に活躍する現代作家と巨匠作品との出会いはなかなかスリリングです。互いに呼応、また共鳴しあう姿を見ることこそ、この展覧会の醍醐味というわけでした。


五木田智央(左)と本展担当の学芸員、鈴木尊志(右)

さてプレビュー時は出品作家の方7名が招かれ、本展企画者で学芸担当の鈴木尊志との間で簡単なレクチャーが行なわれました。その様子をふまえ、以下に展覧会の様子と各作家の方々をご紹介したいと思います。


フランシス真悟(1969-)

まずはフランシス真悟です。カルフォルニアでサムの息子として生まれ、ピッツァー大学で美術を学んだ彼は、日本で本格的な作家活動に入りました。


フランシス真悟「Bound For Eternity」2011年

元々、タレルらの光を扱う作家に影響を受けた彼は、光の現象を色彩に置き換えるドローイングを手がけていますが、それとともに群青色のモノトーンの世界を絵画に成立させた連作を制作していきました。

そのモノトーンがラインハートと響きあいます。またフランシス真悟は父、サム・フランシスの作品を引用していますが、意外なことに父の作品と自作を並べたことは初めてだそうです。 そうした父子の邂逅もまた見どころの一つとなりそうです。

千葉県生まれの吉川民仁は、絵具の厚みの中で多様な要素を取り込んだ初期の段階においてドイツの画家、サイ・トゥオンブリーの影響を受けていました。


吉川民仁(1965-)

ここでは2011年に亡くなったサイ・トゥオンブリーの作品を引用しながら、自身の20年にわたる絵画を回顧的に展示しています。 自由な形態、そして色彩を時に記号的に示した両者の設定をここに見ることが出来ました。

現在、千葉の大網白里に在住する赤塚祐二は、90年代と最近の作品を対比的に並べることで、その形態の捉え方、表現の変化を提示しています。


赤塚祐二(1955-)

赤塚は絵画空間は一種のカゴであるとして、中にあるものを鳥のカナリアにたとえ、それを捕まえていくことこそ、制作の在り方であると考えました。


左:ブラック「水浴する女」1926年、右:赤塚祐二「canary 69312」1993年

また参照するブラックの川村記念美術館蔵の「水浴する女」は、彼が美術館に訪れた際、これが自作に共通する構造を持っていることを感じたそうです。

水面の移ろいと日本的な間(空間)を絵画において追求する野沢二郎は、モネの「睡蓮」を引用することにより、美しい色彩に包まれた展示空間を作り上げています。


野沢二郎(1957-)

野沢は印象派が水面を好んだのは、常にきらきらと変化する表情こそに、光と色の移ろいを見出したのではないかと指摘しました。


野沢二郎・展示室風景

野沢自身は抽象から入り、結果水面へと辿り着きましたが、紫がかった色調、また絵画の下部から上方へと視線を導く構図などに、「睡蓮」との共通性を見出せるのかもしれません。

出品作家中最年少の五木田智央のペインティングは全て白と黒の二色のアクリルによって描かれています。


五木田智央(1969-)

これは元々、西洋絵画の下絵制作で使われていた技法ですが、五木田はそれをあえて絵画の最終的な表現に取り込みました。 そのシュールなまでの人物像はどこかSF的と言えるのではないでしょうか。

また出品は全て新作とこのとですが、チラシ表紙の「scorn」は、何でも一部交通機関で広告を拒否されてしまったそうです。 そうした言わばアクの強い作風こそ、五木田の強い個性であり、魅力となっているのかもしれません。

唯一の写真作品を展示したのが、写真家でかつ映像作家でもあるアンダース・エドストロームです。 限りなく水面に近い視点から海を捉えた連作シリーズが展示されています。


アンダース・エドストローム(1966-)

その視点は極めて自由です。ここでは形態の全く異なるヴォルスを引用していますが、ともに心の中のイメージを恣意的にらならず解き放つように表現している点において、どこか共通項があるのかもしれません。

グラフィックデザイナーとしても活躍する角田純は浮遊感のある絵画を床へ直に置いて展示しています。


角田純(1960-)

伸びやかな筆致、淡い色彩感をまとう平面からは、まるで音楽が奏でられているような印象を与えられないでしょうか。

今回、イタリア人の個人コレクターから直接借りたモランディの初期作との組み合わせはかなり意外ですが、角田の作品に登場する多様なモチーフと、モランディのどこか抽象性を帯びた形態に共鳴する要素があるのかもしれません。

さて関連のイベントの情報です。

まず出品作家のギャラリートークが以下の日程で開催されます。

「作家によるギャラリートーク」
1月14日(土)14:00~15:00 フランシス真悟
3月11日(日)14:00~15:30 アンダース・エドストローム 角田純 五木田智央
3月25日(日)14:00~15:30 赤塚祐二 吉川民仁 野沢二郎

また愛知県美術館のポロック展を企画した大島徹氏の講演会も予定されています。

「抽象と形態:何処までも顕れないもの」
講師:大島徹也氏(愛知県美術館学芸員)
日時:3月18日(日)14:00~15:00 *当日12:00より館内受付で整理券配布

ともに入館料のみで参加、聴講可能です。(当日先着60名。)

余談ですが、昨年震災の影響で中止されてきまった次回展、「FLOWERSCAPES フラワースケープ」の準備も着々と進んでいるそうです。こちらも楽しみにしたいと思います。


左:サム・フランシス「無題」1952年 他

4月15日まで開催されています。 *2月15日(水)はDIC株式会社創立記念日のため入館無料。

「抽象と形態:何処までも顕れないもの」 DIC川村記念美術館
会期:1月14日(土)~4月15日(日)
休館:月曜日。
時間:9:30~17:00
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「フェアリー・テイル 妖精たちの物語」 三鷹市美術ギャラリー

三鷹市美術ギャラリー
「フェアリー・テイル 妖精たちの物語」
1/7-2/19



三鷹市美術ギャラリーで開催中の「フェアリー・テイル 妖精たちの物語」へ行ってきました。

妖精と聞いてまず思い出すのはピーターパンのティンカーベルという方も多いかもしれません。


オナー・シャーロット・アップルトン「フェアリーランド」1910-14年 妖精美術館蔵

その舞台がロンドンのケンジントン公園であるように、西洋、とりわけイギリスにおいて妖精は、古来より様々な伝説や民話に登場してきました。

この展覧会ではその妖精が言わば最も光り輝いた時代、すなわちイギリスのヴィクトリア朝にスポットを当てています。館内はまさに妖精の国です。ヴィクトリア期の絵画と陶磁器を中心に、17世紀から20世紀に至る挿絵本などで、美術や文学における妖精の姿を紹介していました。(出品リスト


ジョン・アンスター・フィッツジェラルド「夢見る囚われ人」1856年 妖精美術館蔵

はじめは絵画です。イギリスならではの美しい水彩表現にて妖精を描いた主に小品が50点弱ほど並んでいますが、まず印象深いのはアメリア・ジェイン・マレーでした。

マレーはブリテン島とアイルランドの間に浮かぶマン島の総督をつとめ、彼の地の風景や植物を細密に表した作品でも知られていますが、その植物の中にそっと妖精を潜ませています。

「蜘蛛の巣で織ったハンモックに休む妖精」(1817-1829年頃)はそうした画家の細密表現をよく伺える作品と言えるのではないでしょうか。美しいバラをはじめ、タイトルの通りに蜘蛛の糸のハンモックに横たわる妖精が、実に細かな描写で示されていました。

絵画の主題として目立つのは、イギリスを代表する劇作家、シェイクスピアの作品に登場する妖精たちです。とりわけ「真夏の夜の夢」はパックやオーベロンなどの妖精が活躍するだけに、絵画においても数多く出てきました。


ジョゼフ・セヴァン「エアリエル」1823年 妖精美術館蔵

また「テンペスト」の妖精エアリアルもお馴染みのモチーフです。それこそいたずらっ子の表情をして鳥にのるジョゼフ・セヴァンの「エアリエル」(1823年)や、戯曲の4幕のシーンの道化を描いたウイリアム・ベル・スコットの「テンペスト」なども印象に残りました。

絵画のあとは陶磁器が待ち構えます。ウエッジウッドが1916年から41年にかけて「フェアリーランド・ラスター」として発表した、妖精図柄のラスター彩色磁器が約20点超展示されています。


ディジー・マーケイ・ジョーンズ、ウェッジウッド社製「トランペット型花瓶」 うつのみや妖精ミュージアム蔵

ともかく驚くべきはラスター特有の光沢感です。メタリックに光る紫色などを多用し、時にイスラムやペルシャの紋様を借りて、実に華美な妖精の磁器を作り上げました。

そしてラスト、絵画、工芸と並んで登場する挿絵本もまた見逃せません。中でも嬉しいのは、私の好きなラッカムの挿絵が2点ほど出ていたことです。


アーサー・ラッカム「テンペスト」(1926年版) うつのみや妖精ミュージアム蔵

「ケンジントン公園のピーターパン」(1910年)はラッカム特有のアニミズム的な古木をモチーフに取り入れています。また躍動感のある構図に、どこか東洋の山水画を思わせる平面が印象深い「テンペスト」も魅力的でした。


「コティングリー妖精事件の関連資料」 うつのみや妖精ミュージアム蔵

最後は「コティングリー妖精事件」についての紹介です。これは1917年、いわば作られた妖精写真を元に、妖精の実在を巡る論争がおこったという事件ですが、その写真や何と妖精を写したというカメラまでが展示されています。また当時、降霊術に関心のあった文豪コナン・ドイルが信じたというエピソードも残っているとのことでした。

なお今回の出品作の殆どは日本における妖精学の第一人者、井村君江氏の旧蔵で、今はうつのみや妖精ミュージアムと妖精美術館のコレクションです。いつかはこの両美術館にも伺ってみたいと思います。

「妖精学入門/井村君江/講談社現代新書」

有効期限内の「ぐるっとパス」をお持ちの方はフリーで入場可能です。

「妖精学大全/井村君江/東京書籍」

2月19日まで開催されています。

「フェアリー・テイル 妖精たちの物語」 三鷹市美術ギャラリー
会期:1月7日(土)~2月19日(日)
休館:月曜日。但し1/9(月) は開館、翌10日は休館。
時間:10:00~20:00(入館は30分前まで)
住所:東京都三鷹市下連雀3-35-1 CORAL(コラル)5階
交通:JR線三鷹駅南口デッキと直結。徒歩1分。
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「東北画は可能か?」 ニュートロン東京

ニュートロン東京
「東北画は可能か?」
1/11-1/29



ニュートロン東京で開催中の「東北画は可能か?」へ行ってきました。

2009年の東北芸術工科大学のチュートリアルを皮切りに、「東北」の名を冠にして絵画の可能性を考える「東北画とは可能か」プロジェクトですが、昨年のイムラアートに引き続き、ここ東京での展示がスタートしました。

出品作家は画家の三瀬夏之介と鴻崎正武をはじめ、以下のチュートリアルメンバー6名などです。日本画を基本に油画、また立体からインスタレーションなどが出品されていました。

チュートリアルメンバー:あるがあく、サイトウケイスケ、塩澤清志、金子拓、多田さやか、藤原泰祐

イムラアートではともかくも震災とも関連した大作、「方舟計画」に度肝を抜かれましたが、今回のニュートロンでは、3層構造の同ギャラリーの特徴的な空間を活かした流れ、ようは一つのストーリーに注目すべきかもしれません。


金子拓「おと」他 2008年

薄暗い一階のスペースはさながら原始世界、また地の底です。グレーを基調に、時に表現主義を思わせる激しいタッチで森や人物を表した金子拓や、あたかもこの空間を支配する魔物を描いたかのような土井沙織の作品が周囲を取り囲みます。思わず後ずさりするほどに暗鬱な雰囲気が漂っていました。


土井沙織「右の蛇、左の蛇」2011年

とりわけ土井沙織の「右の蛇、左の蛇」の迫力は並大抵のものではありません。イムラアートでの展示でも印象に深かった作家だけに、今回の力強い作品にはまた改めて感心しました。


左奥:多田さやか「prelude」2011年、右:藤原泰祐「人、家の不文律」2011年

外の明かりも差し込む2階のメインフロアでは多田さやかが目を引きます。うさぎや鹿などの動物から悶える人、それに都市から飛行船などをコラージュ的に配した作品は、その色彩の美しさはもとより、どことなく破滅的な終末を予感させながらも、幻想的な感覚が魅力だと言えるのではないでしょうか。


3階会場風景

天空や宇宙、そして未来を思わせる最上階の3階では、イラストに映像までをあわせたサイトウケイスケのインスタレーションが異彩を放っています。


三瀬夏之介「権現」2010年

また最奥部には三瀬の「権現」が鎮座していました。その深淵かつ終始運動を続ける絵画平面はまるで星々の浮遊する宇宙空間です。星は分裂してとどめもなく、激しくぶつかり合っていました。


中庭会場風景 

会場の随所にはまるで来場者を導くかのように土井沙織の「わちゃわちゃ鳥」が生息しています。中庭の木にとまっているのもその「わちゃわちゃ鳥」でした。(写真上)

なお「東北画は可能か」は本年の岡本太郎現代芸術賞に入選しました。2月には川崎市岡本太郎美術館にて受賞展も行われます。

「第15回 岡本太郎現代芸術賞」@川崎市岡本太郎美術館 2月4日(土)~4月8日(日)

こちらも是非伺いたいと思います。

1月29日までの開催です。*「東北画は可能か」ツイッターアカウント→@touhokuga

「東北画は可能か?」 ニュートロン東京@neutron_tokyo
会期:1月11日 (水) ~29日 (日)
休館:月曜日
時間:10:00~19:00
住所:港区南青山2-17-14
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅より徒歩約8分。東京メトロ銀座線・半蔵門線、都営大江戸線青山一丁目駅より徒歩約15分。
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「今和次郎 採集講義展」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「今和次郎 採集講義展」
1/14-3/25



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「今和次郎 採集講義展」へ行ってきました。

突然ですが「考現学」という言葉をご存知でしょうか。

実はこれこそが考古学に対して現在、つまりは我々の前にある生活の事象を観察、記録し、採集する学問に他なりませんが、それを昭和初期に提唱したのが今回の主人公である今和次郎(こん・わじろう)というわけです。


街中の今和次郎

今和次郎は1888年、青森県弘前市に生まれ、柳田國男らのつくった民家研究の「白芽会」に参加しながら、農村や都市の人々の生活に目を向け、日常を考察する生活学や服装研究の分野で大きな足跡を残しました。

展示は農村の民家から始まります。和次郎は先にも触れた「白茅会」に参加し、北は北海道から南は鹿児島、さらには満州や朝鮮半島など約90箇所の民家を巡り、その様子を事細かに記録しました。


「雪に埋れる山の村の家(新潟県中頸城郡関川)」1917年

ここで登場するのがスケッチです。ともかく和次郎は民家のスケッチを無数に残しています。各地を巡った行程を絵日記風に残し、また民家では断面図から図面、それに集落の俯瞰図までを描いています。

「日本の民家/今和次郎/岩波文庫」

その集大成となったのが著書「日本の民家」ですが、ともかく重要なのは和次郎が民家を単なる建築物としてだけ捉えていたのではなく、そこに住む人々の生活、つまりは暮らしの有り様までを見ようとしていたことです。

たとえばとある民家の調査スケッチでは「小さい男の子が女の子に蝉を捕っている。」などとまで記しています。

和次郎は様々な暮らしを「ひろい心でよくみる」ように心がけ、そこから新たな暮らしを創り上げようとしていました。


「配列された植木鉢(東京府西多摩郡日原)」1922年

さてその民家研究のスケッチでも和次郎の細微な部分までを観察する視点を伺うことが出来ますが、そのいわば究極的な形として結実したのが「路傍採集」であり、また「考現学」です。

「路傍採集」では民家の軒先の雨樋の装飾までを分類、記録していた他、日常を徹底して観察した「風俗調査」では、実に細かに人々の生活を見据えています。

和次郎は関東大震災をきっかけに都市に強い関心を抱き、東京でも活動を始めましたが、たとえば銀座の街角では歩いている人の持ち物や髭の有無、さらには煙草をくわえている人、そしてその持っている手は右か左かというところまでをつぶさに観察しています。


今和次郎・吉田謙吉「銀座のカフェー服装採集1」1926年

またその他にも、列車の中の旅客の持ち物、また学生の服装の破れている箇所、さらにはなんと毎日通っていた食堂の茶碗の割れ方までをも分析して記録に残しています。

和次郎はこうした今の生活の記録を「考現学」と称したわけですが、ともかくもその個性的な視点、また徹底した観察眼には、終始驚かされるばかりでした。

さて和次郎の功績としてもう一つ重要なのが建築設計の仕事です。そもそも和次郎は20代の頃に助手を助手をつとめて以来、晩年に至るまで早稲田の建築学科の教授として教壇に立ち続けました。

設計の一例として挙げられるのが「東京帝国大学セツルメントハウス」です。セツルメントとはいわゆる社会的弱者に対する支援運動を意味しますが、和次郎はその拠点となる施設をつくりました。

また彼は東北の雪害対策として農水省が設立した機関、「積雪地方農村経済研究所」の庁舎も手がけます。また他には約20件ほどの住宅も設計し、内装のデザインなどと幅広く仕事をこなしました。


「渡辺甚吉邸の椅子」1934年頃 早稲田大学理工学術院創造理工学部蔵

展示では和次郎が手がけたチューダー朝のインテリアも紹介されています。ドアノブ、それにフォークやフォークといった食器も洒落ていました。

ともかく聞き慣れない「考現学」ということで、やや取っ付きにくいと思う方も多いかもしれませんが、それは本展を見れば杞憂に過ぎないことがお分かりいただけるに違いありません。

親しみやすいスケッチをはじめ、建築模型や図面、それに映像など、かなり分かりやすい形にて、その知られざる今和次郎の業績を紹介しています。こじんまりしながらも、いつも手堅く見せる汐留ミュージアムの展示センスが光っていました。

考現学についてはちくま書房から入門書が出版されているそうです。

「考現学入門/今和次郎 (著)、藤森照信 (編集)/ちくま文庫」

こちらもあわせて読んでみようと思います。

「今和次郎 採集講義/青幻舎」

3月25日までの開催です。これはおすすめします。

「今和次郎 採集講義展」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:1月14日(土)~3月25日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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「野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿」 国立新美術館

国立新美術館
「野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿」
1/18-4/2



国立新美術館で開催中の「野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿」展へ行ってきました。

タイトルに「絵画のかたち/絵画の姿」とありますが、そうした絵画の様々な有り様を追求し続けたのが、野田の画業の重要なポイントと言えるかもしれません。

一般的に四角い木枠とカンヴァス、そして絵具によって絵画は成り立つとされていますが、野田はそれとはやや異なりながらも、やはり絵画を思わせるもの、言い換えれば物質感の強い平面の作品を作り続けています。

会場入口すぐの大作4点を見ると、その一般とは「やや異なった絵画」というものを、よく理解出来るのではないでしょうか。

そこでは突起物のような赤いモチーフが、あたかも平面全体を覆い尽くすかのように力強く張り出していますが、それは描かれたものであると同時に、カンヴァスを切って貼ったかたちであることが見て取れます。

このカンヴァスを切って貼り、さらには折って包み込んで多様なかたちを生み出すことこそ、野田の作品の最大の魅力です。


「WORK 147」1982年 アクリル、綿布、紙、木、ボード

1980年にニューヨークに滞在した野田はそれまでの仕事を白紙化するかのように新たな制作、つまりはレリーフをも超えた、一種の箱状のオブジェを手がけ始めました。

そこでカンヴァスや木までを作品のモチーフとして扱った彼は、今度はカンヴァスそのものを支持体にしながらも、実に興味深い変化を見せていきます。


「WORK 293」1987年 アクリル、綿布、木、カンヴァス

それが1987年の「WORK293」に代表されるような、言わばカンヴァスによってパッケージ化された絵画です。

ここではまるで水が流れるかのように連なる木の凹凸面の上にカンヴァスがはられ、それを裏側のカンヴァスと縫い合わせることにより一体化、つまりは全体がカンヴァスによってすっぽりと包み込まれています。

90年代に入るとこの突起を伴う面は落ち着いていきますが、今度は同じくパッケージ化させながらも、カンヴァスを重ね、また切り込みを入れながら折ってかたちをつくることで、非常に重厚感のある平面を展開させることに成功しました。

この頃の野田におけるかたち、つまりはカンヴァスを折って生んだモチーフそのものに、何とも言い難い「冴え」を感じる方も多いのではないでしょうか。


「WORK 629」1991年 アクリル、綿布、合板、カンヴァス

1991年の「WORK629」では十字を二つ連ねたようなモチーフが平面を切り裂くかのようにして現れています。

こうしたエッジのきいたかたち、そしてそこに由来する緊張感のある構図、さらにはカンヴァスを折って合わせることで生み出される物質感には大いに惹かれました。


「WORK 639」1991年 アクリル、綿布、木、カンヴァス

2000年前後になると野田のかたちの捉え方にまた変化が生じます。

カンヴァスの折り重ねは作品の一部分に限定され、筆の動き、ようは色を塗って描くという行為そのもので、かたちを作るようになりました。


「WORK 1422」2001年 アクリル、綿布、カンヴァス

こうなると比較的これまで少なかった自由な動きとリズムが生じはじめます。時には日本画風の余白までを引用し、どこか植物や人体を連想させる有機的なモチーフも描きました。

私自身は断然、物質感の強い90年代の作品の方が好みですが、近作は常にかたちと向き合い、表現のあり方を求めてきた野田のまた新たなる境地が示されているのかもしれません。

出品中最大の作品、縦4メートル弱、横6メートルを超える「WORK1766」は、本展のために描かれたばかりの新作です。

実はこの個展は当初、昨年の夏に予定されながらも、震災の影響によって今に延期されたものですが、今回はこの新作の制作過程の様子を映像で紹介するコーナーも設けられています。

ラストの章には「さらなる可能性を求めて」という題が付いていましたが、これから先のかたちの展開を予感し得る作品と言えそうです。


「Collaboration 1996 O&N-1(左)/Collaboration 1996 O&N-2(右)」1996年 アクリル、白御影石

また彫刻家の岡本敦生との御影石を使ったオブジェのコラボレーションも印象的でした。石という強度のある素材と野田の迫力のある筆致の相性はなかなかです。

会期中、各種トークやワークショップも予定されています。

アーティスト・トーク、講演会

 1月21日(土) 「自作を語る」野田裕示 *終了
 2月4日(土) 「南画廊と野田裕示」 林牧人(森美術館 管理運営グループ ファシリティー・マネージャー)
 3月2日(金) 対談:野田裕示×福永治(当館副館長・当展企画者)
 3月17日(土)「美術批評と野田裕示」三田晴夫(美術ジャーナリスト)

*時間:1/21、2/4、3/17は14:00~15:30。3/2は18:30~19:30
*会場:国立新美術館3階講堂 定員:250名(先着順) 聴講無料。要観覧券(半券可)。

ワークショップ *要事前申込

 2月18日(土) 講師:富田菜摘(現代美術家)、野田裕示
 3月24日(土) 講師:開発好明(現代美術家)、野田裕示

詳しくは公式サイトをご覧ください。


「WORK 1316」2000年 アクリル、綿布、カンヴァス

4月2日までの開催です。

「野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿」 国立新美術館
会期:1月18日(水)~4月2日(月)
休館:火曜日。但し3月20日(火)は開館、翌21日(水)は休館
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は夜20時まで、3月24日(土)は「六本木アートナイト2012」開催にともない22:00まで開館。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「DOMANI・明日展 2012」 国立新美術館

国立新美術館
「DOMANI・明日展 文化庁芸術家在外研修の成果」
1/14-2/12



国立新美術館で開催中の「DOMANI・明日展」へ行ってきました。

毎年恒例、文化庁の海外研修制度を利用したアーティストを紹介するグループ展が、今年も国立新美術館で始まりました。

今回の出品のアーティストは計8名です。

阿部守(1954~)彫刻
横澤典(1971~)写真
山口牧子(1962~)絵画
元田久治(1973~)版画
児嶋サコ(1976~)絵画
津田睦美(1962~)写真
綿引展子(1958~)現代美術
塩谷亮(1975~)洋画


いつもながら彫刻から写真に絵画など、幅広いジャンルの作品が展示されていました。


山口牧子「Bird Spinning No.9」2010年

冒頭、顔料に蜜蝋などをあわせた山口牧子の一連のペインティングがなかなか魅力的です。水色に染まり、時にピンクや白、そしてイエローが霞のように漂う色面は、例えれば空の雲に差し込む光とも言えるのではないでしょうか。

またメディウムの効果なのか、近づいて浮き上がるキラキラとした画肌も際立っています。作品を見ていると、いつしか空を見上げ、降り注ぐ色の光を浴びているのような気持ちにさせられました。


阿部守「曳舟(部分)」2008年

一転して存在感のあるオブジェを展開するのが阿部守です。素材はずばり鉄です。ゆうに1メートルは超えるであろう筒状の塊がホワイトキューブを支配しています。

表面は時に爛れ、穴が空いたりしているのも興味深いものですが、その薄い面によるのか、鉄という素材らしからぬ軽やかさがあるのも印象に残りました。それこそまるで竹の皮のように鉄が延び。そしてとぐろをまいているわけです。

写真家の横澤はニューヨークをモチーフとした連作を発表しています。一見、何気ない摩天楼を捉えたようにも映りますが、視覚トリック的な要素がある点も見逃せません。連なる高層ビル、そして明かりの漏れた窓は、そこに実際にあるはずの遠近感を喪失させた形で示されています。三次元のビルはあくまでもフラットな平面、また幾何学的な図像へと還元されていました。


綿引展子「つまさきだけは正直に」2010年

布を用いたパッチワーク風の作品で魅せてくれるのは綿引展子です。彼女はドイツに研修しましたが、彼の地で古着という素材と出会い、それをキャンバス地に縫い付けて新たな平面を生み出しました。

一見、抽象的ながらも、人物像のようなモチーフがあるのも親しみやすいかもしれません。水彩やアクリルの色彩と布の相性も巧みでした。


元田久治「Indication-Harbour Bridge(Sydney)」2010年

いわゆる「廃墟」を描く元田久治は、リトグラフの他、油彩をあわせ20点超の出品です。見慣れた東京駅や六本木ヒルズがまさに朽ち果てて無人の廃墟と化しています。

もちろんそこには木々が生い茂るなど、言わば再生へのメッセージも内包していますが、今回はどうしてもあの震災の記憶と重なるのか、いつも以上に破滅的な終末感を感じてなりませんでした。何とも言えない悲しさが心にこみ上げてきます。

ところで今年は研修制度発足から45周年ということで、これまでに紹介された作家の新作なども一同に展示されています。そうしたベテランの作品と向き合いながら、この制度について色々と考えてみるのも良いかもしれません。

公式WEBサイトのアーティスト紹介がやや異色です。研修先の話題はともかくも、Q&A方式にて「好きなテレビ番組」などといった各作家の趣味までが掲載されています。

DOMANI・明日展:出品作家

会期中にはギャラリートーク、イベントも行われます。(以下は本日以降のスケジュール

1月27日(金)18:00~
津田睦美+rimaconaコンサート

1月28日(土)11:00~
トーク:奥谷博・福島瑞穂・峯田義郎・柳澤紀子

1月29日(日)11:00~
トーク:北久美子・北郷悟・絹谷幸二・久野和洋・田村能里子・宮いつき・谷中武彦・渡辺恂三

2月4日(土)11:00~
トーク:相笠昌義・池田良二・今井信吾・内田あぐり・大成浩・高柳裕・中井貞次・馬越陽子

2月5日(日)11:00~
トーク:阿部守・塩谷亮・元田久治

2月12日までの開催です。(プリントアウト用割引券

「DOMANI・明日展 文化庁芸術家在外研修の成果」 国立新美術館
会期:1月14日(土)~2月12日(日)
休館:火曜日
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は夜20時まで開館
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」
1/7-3/28



ブリヂストン美術館で開催中の「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」のプレスプレビューに参加してきました。

今年、開館60周年を迎えたブリヂストン美術館ですが、ちょうど50年前、同館のコレクションがパリでまとめて公開されたことがあったのをご存知でしょうか。

それがタイトルにもある1962年の春、5月4日よりパリ国立近代美術館で行われた「東京石橋コレクション所蔵 コローからブラックへ至るフランス絵画展」です。

実はこれこそが日本の西洋絵画コレクションが海外で紹介された初めての出来事でしたが、今回は「パリへ渡った石橋コレクション」と題し、その展覧会を再現しています。

出品は当時、パリへと渡った作品、約50点です。うち今も同館のコレクションとして残っているのは約45点ほどですが、失われた作品に関しては精巧なパネルまで用意して構成しています。力が入っていました。


「資料編」展示室風景

馴染みのあるコレクションをこうした切り口で鑑賞するのも新鮮ですが、今回非常に興味深いのは、当時の展示に関する「資料編」のコーナーです。ここでは1962年の海外展のポスターにはじまり、現地での報道、また会場写真や映像などが登場していました。

そもそも石橋コレクションに初めて目を付けたのは、美術史家でパリ国立近代美術館副館長のベルナール・ドリヴァルです。彼はブリヂストン美術館開館2年後の1954年、来日して同館を訪れ、そのコレクションの質の高さに驚きました。


「コネサンス・デザール誌」1958年

以来、ドリヴァルはブリヂストン美術館に深い関心を寄せていきます。そして彼は1958年、フランスの美術雑誌「コネサンス・デザール」に石橋コレクションを紹介し、3年後の1961年、当時の館長だった石橋正二郎へパリでの展覧会の開催を持ちかけました。

結果、翌1962年に展覧会は実現しましたが、そこへ至るには大変な努力があったそうです。とりわけ輸送に関しては細心の注意が払われます。作品はジュラルミンケースに梱包され、計6機の飛行機に分けて送られたそうです。念には念をということなのかもしれません。


「東京石橋コレクション所蔵 コローからブラックに至るフランス絵画展」展覧会ポスター

ポスターにも秘話があります。コローの「ー」が縦の「|」になっているのにお気づきでしょうか。これは現地へ日本から縦書きで送った原稿が、横書きでもそのまま表記されてしまったからだそうです。


「三人の蒐集家 アール紙」 1962年

また展覧会の開催にあわせ、フランス文化相のアンドレ・マルローのすすめにより、パリで作品の修復作業も行われました。ちなみに油彩の洗浄は当時、日本で極めて珍しかったせいか大変な関心を呼び起こします。そしてこれをきっかけに日本でも試みられるようになりました。


「記録映画 石橋コレクション・パリ」

その他、盛大なオープニングの様子、展示会場の様子なども「資料編」の記録映画(10分ほど)で紹介されています。なお作品は日本の屏風を模した仮設壁にかけて飾っていたとのことでした。

さて作品に関しては先ほども触れた、今はコレクションではなくなったものについても見逃せません。


「作品編」展示室風景

出品50点のうち数点は当時から同館のコレクションではなく、いわゆる寄託であったそうですが、今回はそうした珍しい作品がパネルで登場しています。

キーパーソンは酒井億尋です。彼は畠山記念館でも知られる在原製作所と関係が深く、創業者の畠山一清の長女と結婚し、二代目社長に就任しましたが、絵画コレクターとしても有名で、セザンヌやルノワールなどの名作を多く収蔵していました。


ルノワールの「赤いコルサージュの少女」1905年 *パネル、参考図版

その一つがセザンヌの静物の大作、「リンネルの上の果物」(1890-94年)です。またルノワールの「赤いコルサージュの少女」(1905年頃)も酒井氏のお気に入りで、自邸に飾っていたときは、絵画に向けて挨拶したというエピソードも残っています。

またこうした酒井氏旧蔵の他で興味深いのは、ゴーガンに帰属の「若い女の顔」(1886年)ではないでしょうか。かつてはゴーガン作として紹介されていましたが、今は諸説あり、いわゆる帰属作として扱われています。ちなみにこの作品はこうした経緯もあり、最近は美術館で滅多に公開されてきませんでした。

こうしたいわゆる珍品を楽しめるのも今回の展覧会の魅力かもしれません。

さてちらし表紙にピカソの「女の顔」(1923年)であるのには理由があります。実はこれこそが開館記念時のポスターにも掲載され、石橋正二郎が大のお気に入り作品であったものに他なりません。

そもそも石橋コレクションでは作品の購入にあたり、真贋に関しては様々な専門的の調査を行ってきましたが、このピカソだけは正二郎がそうした手続きを得る前に購入したそうです。石橋氏は絵画においては具象的なモチーフを好んでいたとのことですが、ようは彼の一目惚れの作品とでも言えるかもしれません。

なおこの企画展示のあとには通常の所蔵品展が続きますが、正二郎が好んで集めた初期コレクションとの違いについて注意してみるのも良いのではないでしょうか。


中央:ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」1904-06年頃

それにしても開館当初よりこれほど質の高いコレクションが揃っていたブリヂストン美術館には改めて感心させられます。大好きな「サント=ヴィクトワール山」もこの作品より美しいものを知りません。

一時中断していた毎週金曜の夜間開館も復活しました。金曜は夜20時までの開館です。(金曜が祝日に当たる場合は通常通り18時閉館。)

3月28日まで開催されています。

「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」 ブリヂストン美術館
会期:1月7日(土)~3月18日(日)
休館:月曜日(1月9日は開館)
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は20:00まで。
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口より徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口から徒歩5分。東京メトロ銀座線・東京メトロ東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「フェルメール 光の王国展」 フェルメール・センター銀座

フェルメール・センター銀座
「フェルメール 光の王国展」
1/20-8/26



フェルメール・センター銀座で開催される「フェルメール 光の王国展」のプレスプレビューに参加してきました。

ラブレター展(Bunkamura)での3点を含め、真珠の耳飾りに首飾りなどと、今年は計6点もの作品がやってくる「フェルメールイヤー」ですが、さらにまた新たな形にてフェルメールに親しむことの出来る美術イベントが始まります。

それが期間限定でオープンするフェルメール・センター銀座での「フェルメール 光の王国展」です。


フェルメール・センター銀座展示風景

監修は足掛け4年にわたり全世界のフェルメールを訪ね歩いた生物学者の福岡伸一氏です。展示ではフェルメールの生涯を様々な資料で探るとともに、現存するフェルメール全37点をリ・クリエイト作品で紹介しています。如何せん希少価値のあるフェルメール作だけに、その全点を精巧なリ・クリエイトで見ることだけでも、また新たな美術体験と言えるのではないでしょうか。

さてこのリ・クリエイトとは何ぞやということですが、それは単なる実物の複製ではありません。


フェルメール・センター銀座展示風景

実は今回、オランダの「フェルメール・センター・デルフト」の協力の元、世界各地のフェルメール作品を制作当時の姿を推測してデジタルマスタリングしています。それがリ・クリエイトです。つまりここには350年前の色彩、また質感を追求して新たに生まれたフェルメールが展示されているというわけでした。(当時の再現ということか、総じて発色は強く、また画面は明るく見えます。)

率直なところ、必ずしも全てが均一なクオリティではありませんが、何点か、とりわけ小品に関しては、思わず目の前の作品が実物と勘違いしてしまうほどの高い再現性を誇っています。


「小路」リ・クリエイト作品

一例として挙げたいのが2008年に「フェルメール展」(東京都美術館)に出品された「小路」です。この作品を実際に見た時も、たとえば煉瓦から窓枠までの細密な描写に至極感心したものですが、その高い質感をリ・クリエイトでも存分に堪能することが出来ます。


「小路」リ・クリエイト作品(拡大)

もちろんこれらは全て実寸大であり、所蔵館と同じ額装です。また作品を制作年代順に並べることで、フェルメールの作風の変化を分かりやすい形で追えました。それに福岡氏のオリジナルテキストによる詳細な解説がついた音声ガイド(約45分。ナレーションは宮沢りえと小林薫。)を片手に廻ると、よりリアルなフェルメール体験が出来るかもしれません。


音声ガイド

なお音声ガイドはiPhoneアプリでもダウンロード出来ます。こちらは会場で借りるよりも150円安い350円での提供です。会場の音声ガイドはiPod nanoを用いていますが、パネルが小さいなど、慣れていないと少々難しい面があるかもしれません。iPhoneをお持ちの方はアプリに当たった方が良さそうです。

フェルメール・センターiPhoneアプリ

アプリについてはフェルメールと言えばお馴染みの「青い日記帳」でも紹介されています。そちらも是非ご覧ください。

「フェルメール・センター銀座 iPhoneアプリ」@青い日記帳


アトリエ・コーナー

リ・クリエイトでのフェルメール巡礼の後は、フェルメールに関する資料の他、フェルメールのアトリエの再現展示が待ち構えています。アトリエでは記念撮影も可能とのことでした。


「王立協会の書簡」(レプリカ)

またイギリスにある幻のフェルメールの素描を展示するという企画も進んでいるそうです。実現した際は話題となりそうです。


「デルフトの眺望」リ・クリエイト作品

比較的精巧な「デルフトの眺望」を前にすると、この作品の実物を見たいとい強い願いがわきあがりました。リ・クリエイトを見て実際の作品と対面した時の記憶を甦らせながら、まだ見ぬフェルメールに思いを馳せるのも良いのではないでしょうか。

そう言えば私が初めてフェルメールに接したのは、2005年、国立西洋美術館の「ドレスデン国立美術館展」での「窓辺で手紙を読む若い女」でした。

場所は銀座松坂屋のすぐ裏、みゆき通り沿いの銀座ソトコトロハス館の3、4階フロアです。入場料は1000円でした。(夜間特別鑑賞券あり。詳細は公式WEBサイトへ。)


ミュージアムショップ

今後、会場内にはカフェが新設される他、各種講演などのイベントも予定されているそうです。そちらの動きにも注目です。

「フェルメール 光の王国/福岡伸一/木楽舎」

フェルメール・センター銀座は明日、1月20日にオープンします。

*当初会期より延長され、8月26日(日)までの開催となりました。

「フェルメール 光の王国展」 フェルメール・センター銀座
会期:1月20日(金)~8月26日(日)
休館:毎月、第1と第3月曜日。(祝日の場合は開館。)
時間:10:00~18:00
夜間:木・金・土のみ夜間特別開館(19時から22時)。特別夜間鑑賞券は3000円。1日100名限定で音声ガイド、ドリンク代を含む。特別鑑賞券はぴあ他、各種プレイガイドのみで取り扱い。
住所:中央区銀座6-11-1 銀座ソトコトロハス館
交通:東京メトロ 銀座線・丸ノ内線・日比谷線銀座駅A3出口より徒歩2分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「三代 山田常山 人間国宝、その陶芸と心」 出光美術館

出光美術館
「三代 山田常山 人間国宝、その陶芸と心」
1/7-2/29



常滑焼の作陶で知られる三代山田常山(1924-2005)を紹介します。出光美術館で開催中の「三代 山田常山 人間国宝、その陶芸と心」へ行ってきました。

恥ずかしながら陶芸と縁の遠い生活をしている私にとって、三代山田常山の名はおろか、常滑焼の詳細すら存じませんでしたが、今回の展示を一口で表すとすれば、ずばり急須の魅力を味わえる展覧会と言えるのではないでしょうか。

会場には並ぶのはともかく大小様々な急須です。美しく、また時に愛おしい急須がずらりと並んでいました。

さて江戸後期、中国趣味の煎茶が盛んになると、それを嗜むための煎茶具、とりわけ急須の制作が日本でも行われるようになったことをご存知でしょうか。

その始祖ともいえるのが青木木米です。木米も急須を多くつくりましたが、それに学びつつ、新たに常山窯を興したのが、三代常山の祖父である初代常山でした。

展示はそこから始まります。そして今回の主役は三代常山です。常山は先代の作陶を模倣するだけではなく、何かと中国風であった急須に日本の焼き物の技を加え、独自の作品を生み出していきました。


「常滑茶注五趣の内 梨皮烏泥茶銚」 三代 山田常山

中国と日本の急須の特徴の違いは難しくありません。中国のそれは茶銚と呼び、把手がちょうどコーヒーカップのように後ろに付いています。


「常滑茶注五趣の内 朱泥茶柱」 三代 山田常山

一方で日本は茶注です。把手が側面に棒状に飛び出しています。また茶銚ではあくまでも器と把手を滑らかにくっつけていくのが基本ですが、日本の茶注ではあえてそこに指跡を残しています。

また茶銚においてもたとえば窯変の技術、つまりは燻し焼きにして墨色のまだら模様を加えた「窯変朱泥茶銚」なども、日本の焼き物の技を見出せる作品と言えるのかもしれません。


「梨皮彩泥水注」 三代 山田常山

それに常山が伝統的な朱泥などにとどまらず、白泥や彩泥を用い、遊び心のある作品を手がけている点も見どころではないでしょうか。通称「パンダ親子」とも称される大小二つの水指、「梨皮彩泥水注」は思わずなでたくなるほどにユーモラスでした。


「常滑自然釉香合」 三代 山田常山

このように展示では急須にとどまらず、三代常山の酒器や食器、茶碗なども数多く紹介されています。中でも自然釉に青みを加えた花入れや香合などは印象的です。これは窯の薪に竹を加えると生み出される色とのことですが、バリエーション豊かな三代常山の作陶を存分に楽しむことが出来ました。


「常滑自然釉茶碗」 三代 山田常山

一度にこれほど多くの急須を見たのは初めてかもしれません。言わばお茶の中でも身近な急須という器に、これほど作り手の思いがこもっているとは知りませんでした。

2月19日まで開催されています。

*出光美術館の2012年度の展覧会スケジュールが発表されました→2012年度の展覧会情報。震災により中止となってしまった琳派芸術展が装いを変えて復活します。

「三代 山田常山 人間国宝、その陶芸と心」 出光美術館
会期:1月7日(土)~2月19日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 毎週金曜日は19時まで開館。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ日比谷線・千代田線、都営三田線日比谷駅、東京メトロ有楽町線有楽町駅、帝劇方面出口より徒歩5分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「第6回 shiseido art egg three展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第6回 shiseido art egg three展 - three is a magic number4 - 」
1/6-1/29



今年も恒例のアートエッグが始まっています。資生堂ギャラリーで開催中の「第6回 shiseido art egg」第一弾、three個展、「three is a magic number4」へ行ってきました。

「既存のモノを素材とし、それを集積、反復させ」(公式サイトより引用。一部改変。)ながら、ユニークなインスタレーションを展開する3人組のユニットthreeですが、今回もまた意表を突くような作品で楽しませてくれたのではないでしょうか。

その素材はずばりキャンディや醤油さしです。会場に入ると一目瞭然、視界に飛び込んできたのは、ちょうど家の形となって浮かんでいる7000個にも及ぶキャンディでした。

色とりどりのキャンディの包み紙が織りなす色彩世界もまた魅力的ですが、さらに一歩踏み込むのがthreeです。観客はキャンディを一つだけもぎる、ようは吊るされたキャンディを一つだけ取って食べることが許されています。

つまり観客はこの家に介在し、それを解体することが出来るわけです。私が出向いた日はまだ会期当初とのことで、キャンディハウスはほぼ原型をとどめていましたが、会期を追う毎に崩れ、それこそ上部のみが半ば無惨にも浮いたような残骸になるに違いありません。

一見、ポップな感触ながらも、そこからは何とも言い難い喪失、また不在の感覚を強く感じました。



醤油さしは映像とのコラボレーションです。6万5千個という途方ものない数の醤油さしが巨大なスクリーンと化しています。その向こうには東京のラッシュアワーの様子が映し出されていました。

透明の醤油さしの一つ一つはあたかもテレビ画面のピクセルのような働きを担っています。無論、その表面は凸凹です。一定の規則に従いながらも、多くの他者を意識せず、ひたすらにうごめく通勤客は、そうした醤油さしスクリーンによって、さらに屈折した、捉え難い存在へと変化します。イメージはより分裂していました。

threeはTWS本郷での個展も印象的でしたが、今回も趣向を変えた展示で感心しました。threeの表現、視点は決して同じ場所にはとどまりません。

1月29日まで開催されています。

「第6回 shiseido art egg」展示スケジュール
three 1月6日(金)~29日(日)
鎌田友介 2月3日(金)~26日(日)
入江早耶 3月2日(金)~25日(日)

「第6回 shiseido art egg three展」 資生堂ギャラリー
会期:1月6日(金)~29日(日)
休館:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)/11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「北京故宮博物院200選展」チケットプレゼント

いつも「はろるど・わーど」をご覧くださりありがとうございます。



清明上河図の出品もあり連日、大変な賑わいとなっている東京国立博物館の「北京故宮博物院200選展」ですが、そのチケットを抽選の上、10名様に各1枚ずつプレゼント致します。

応募多数のため締め切らせていただきました。ありがとうございました。



ご希望の方は、件名に「北京故宮博物院200選展チケット希望」、本文にフルネームでお名前とメールアドレス、またお持ちの方はツイッターアカウントを明記してメールをお送り下さい。

応募先は harold1234アットマークgoo.jp です。なおアットマークの表記は@にお書き直し下さい。お間違えのないようお願いします。

当選された方のみ数日以内にこちらからメールでご連絡致します。

ツイッターのDMでは受け付けておりません。また転売目的でのご応募はご遠慮下さい。



なおチケットの有効期限は会期末日の2月19日までですが、清明上河図は1月24日で展示が終了します。チケットの送付は普通郵便とさせていただきますが、清明上河図の出品期間に間に合わない可能性もあります。あしからずご了承下さい。



北京故宮博物院200選展のプレビューの様子は以下の記事でまとめてあります。宜しければご参照下さい。

「北京故宮博物院200選」(前編 宋・元絵画)
「北京故宮博物院200選」(中編 清朝の文化)
「北京故宮博物院200選」(後編 清明上河図)


お申し込み多数の際はご希望に添えない場合もあります。その際はどうかご勘弁下さい。



「北京故宮博物院200選」 東京国立博物館
会期:1月2日(月・休)~2月19日(日)
休館:月曜日。但し1月9日(祝)は開館。翌10日(火)は休館。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) 
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「白井忠俊 千年螺旋」 INAXギャラリー2

INAXギャラリー2
「白井忠俊 千年螺旋」 
1/7-1/28



INAXギャラリー2で開催中の白井忠俊個展、「千年螺旋」へ行ってきました。

本展の概要、及び作家プロフィールについては同ギャラリーWEBサイトをご覧ください。

白井忠俊:千年螺旋@現代美術個展 GALLERY2

1997年に東京造形大学を卒業後、主に都内の画廊などで個展を開催してきました。

さて会場に足を踏み入れた途端、何やらとぐろをまいた大蛇の迫力ある姿に思わず仰け反った方も多いかもしれません。



いきなり目に飛び込んできたのは、それぞれ直径と高さが約2mほどある大きな円筒状のオブジェです。

そこにはたとえば古代の大森林でも連想させるような巨木や大蛇などの姿が、荒々しいまでのタッチで描かれています。うねりとぐろをまく大蛇の目はあたかも鑑賞者を睨みつけるかのように光っていました。



白井はこうした一連の作品を「円筒絵画」と名付け、そこに原初的な森、神話的な自然をイメージした絵画を描いてきました。その連なる曲面はまさに巨木の幹そのものではないでしょうか。単純な平面を超えた立体としてのボリュームは相当な重みがありました。

今回はINAXのホワイトキューブということで、どこか作品が浮いているような印象も否めませんでしたが、場の力を借りるとより作品が効果的に映えるのではないでしょうか。その点、借景を青梅の繊維工場跡に借りたDMの作品は、殊更魅力的に思えました。

1月28日まで開催されています。

「白井忠俊 -千年螺旋- 展」 INAXギャラリー2
会期:1月7日(土)~1月28日(土)
休廊:日・祝
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
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「ジャン=ミシェル オトニエル:マイウェイ」 原美術館

原美術館
「ジャン=ミシェル オトニエル:マイウェイ」
1/7-3/11



パリに生まれ、ムラーノガラスなどを素材とした作品で知られるフランスの現代美術家、ジャン=ミシェル オトニエルの制作を紹介します。原美術館で開催中のジャン=ミシェル オトニエル個展、「マイウェイ」のプレスプレビューに参加してきました。

昨年、ガラス玉の作品を掲載したDMに一目惚れして以来、まだかまだかと待っていた展覧会でしたが、実際の会場に足を踏み入れても、その期待を裏切られることはありませんでした。

そもそもこの「マイウェイ」展は、2011年3月のポンピドゥーに始まりソウル、ここ東京、そしてニューヨークへと渡る国際巡回展です。ポンピドゥーでは約20万名もの入場者が押し掛けたほどの人気でした。


ギャラリー2、展示室風景

当然ながら規模こそポンピドゥーとは異なりますが、邸宅を用いた原美術館との相性は抜群です。


手前:「ハーネス」1997年 ムラーノクリスタルガラス。右奥:「2連ネックレス」2010年 ムラーノガラス

実はこの展覧会は元々、原美術館よりポンピドゥーへ巡回する予定でした。つまりオトニエルはこの原美術館の空間を最初にイメージして、巡回展の構想を立ち上げていたわけです。

またオトニエルと原美術館の繋がりも決して一朝一夕に築かれたわけではありません。

1991年、別館ハラミュージアムアークの「Too French」展に出品したオトニエルは、2009年に同館に野外作品「kokoro」を設置するなど、20年に及ぶ交流を深めてきました。


ギャラリー2、展示室風景

それに今回もオトニエルは昨年末のクリスマスより日本に滞在し、個展の準備を続けています。彼自身、原美術館を「エレガント」と讃えていますが、その空間での待望の個展がようやく実現したというわけでした。

さてタイトルの「マイウェイ」とあるように、必ずしも最近のガラス玉だけでなく、それ以前の素材を用いた作品を展示して、制作の全体像を時間軸で見せているのも、この個展の大きな特徴と言えるかもしれません。


右:「グローリー ホールズ」1995年 布に刺繍。中:「グローリー ホールズ」1998年 ビデオ(3分)。左:「長い苦しみへの入口」1992-93年 硫黄 他

今でこそオトニエルはガラスというなくてはならない素材を獲得しましたが、そこに至るまでの道のりは必ずしも平坦ではありませんでした。

制作当初、最も重要な素材だったのは、蜜蝋と硫黄です。特に硫黄はオトニエルが10年以上作品に使い続けていた素材ですが、彼はよほど興味があったらしく、硫黄の生まれる様子を見ようと、イタリア南部の火山まで出向いたことがあったそうです。

結果的にそこで黒曜石と出会い、今度はそれを切っ掛けにガラスへと辿り着いたわけですが、これらの素材に共通する「可変性」も、オトニエルの作品にとって重要なキーワードと言えるのかもしれません。


「自立する大きな結び目」2011年 鏡面ガラス、金属

またガラスと出会ったオトニエルは制作のスタイル自体も大きく変化させます。

ガラスを使い始めたのは1993年頃だったそうですが、それこそイタリアのガラス制作の工房と同じように、自身もチームをつくることで、大掛かりなガラスのオブジェやインスタレーションを作り上げることが可能になりました。

美術館最大のスペース、1階の「ギャラリー2」では、そうしたオトニエルのガラスへの転換期を伺い知れる作品を一度に見ることが出来ます。


「涙」2002年 ガラス、水、テーブル

ここではガラスへの転換のポイントとなった黒曜石の「語音転換」にはじまり、90年代のムラーノガラスを用いたオブジェ、そして2000年以降のガラスに水を取り込んだ「涙」などが一同に展示されていました。


「涙」(拡大)2002年 ガラス、水、テーブル

また「涙」ではガラスの器を小宇宙に見立ていますが、それをギャラリーの空間全体で味わえるように工夫されています。またガラスの中で浮いているのはこれまで自作をイメージしたものですが、中には体の一部分のような、身体的特性をもったものがあるのも見逃せません。

宙に浮く旧作のムラーノガラスのオブジェしかり、単に美しいだけにとどまらないような身体性、つまり有機的なイメージを喚起させるのも、大きな魅力ではないでしょうか。


手前:「ラカンの大きな結び目」2011年 鏡面ガラス、金属。奥:「ラカンの結び目」2009年 鏡面ガラス、金属

かつて硫黄という素材に取り組み、官能的で、また時には美と醜の境界面を越えた作品を作った経験があるからこそ実現した、半ば実存的な世界を構築しているのも、オトニエル作品の強みと言えるのかもしれません。

さて今回の個展では、フランスの子ども服ブランド・ポンポワンとの共催により、3D画像を用いたワークショップ「不思議な現実」が行われています。


ワークショップ「ふしぎな現実」

オトニエルはまずデッサンを行い、それをコンピューターで処理した上で、出来あがったイメージをガラスにしているそうですが、ワークショップではその中間のステップ、つまりCGの部分を3DのAR(拡張現実)の技術で楽しめるというわけです。


ワークショップ「ふしぎな現実」

一応、子ども向けとありますが、大人も十分に遊べます。是非とも体験してみてください。


「私のベッド」2002年 ムラーノガラス、アルミニウム、飾りひも、フェルト

プレビュー時、まだ日没前に入場し、しばらく展示を拝見したらいつの間にやら日が暮れていましたが、昼と夜で作品の見え方がかなり違っていることに気がつきました。


屋外プロジェクション

屋外展示しかり、夜間はライティングの効果もあってか、作品がより際立ちます。幸いなことに原美術館は毎週水曜日は夜間開館日(20時まで)です。オトニエルの幻想世界は、夜の闇を伴うと妖しいほどのオーラを放ちます。ガラスに溶け込んで反射する光は驚くほどに魅惑的でした。


「涙」の前で解説するジャン=ミシェル オトニエル

最後に朗報です。この展覧会は一部常設を除き、作品の撮影が可能です。原美術館の中で写真が撮れると聞いて俄然、興味のわく方も多いのではないでしょうか。そのチャンスは今、このオトニエル展だけです。

「Jean-Michel Othoniel/Centre Georges Pompidou Service Commercial」

3月11日まで開催します。これはおすすめします。

「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」 原美術館@haramuseum
会期:1月7日(土)~3月11日(日)
休館:月曜日。但し1月9日(祝)は開館、但し翌日10日は休館。
時間:11:00~17:00。*毎週水曜日は20時まで開館。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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