「奈良大和四寺のみほとけ」 東京国立博物館・本館

東京国立博物館・本館11室
「奈良大和四寺のみほとけ」 
2019/6/18~9/23



東京国立博物館・本館11室で開催中の「奈良大和四寺のみほとけ」を見てきました。

奈良県北東部に位置し、7世紀から8世紀にかけて創建された、岡寺、室生寺、長谷寺、安倍文殊院の各寺院には、古くから人々の信仰を集め、多くの仏像が築かれてきました。

その四寺より、国宝4件、重要文化財9件を含む、計15件の仏像、及び文書が、東京国立博物館へとやって来ました。

入口正面に待ち構えていた、長谷寺の「十一面観音菩薩立像」からして魅力的でした。高さ10メートルを超える本尊を模した小像で、極めて精緻に細工された光背を従えつつ、左手に水瓶、下に降ろした右手で錫杖をとり、いささか険しい表情を取りながら立っていました。

また同寺の仏像では、通常、本尊の両脇に安置されている「雨宝童子立像」と「難蛇龍王立像」も存在感があったのではないでしょうか。ともに2016年の「長谷寺の名宝と十一面観音の信仰」展(あべのハルカス美術館)で、初めて一般の展覧会で公開された仏像で、大きな頭部をはじめとした重厚感のある「雨宝童子立像」はもとより、中国風の服を着て、頭上に龍を抱いた「難蛇龍王立像」も、力強い造形を見せていました。

古代政治の中心地、飛鳥に位置する岡寺の仏像では、飛鳥時代後期から奈良時代にかけて活躍した開祖を象った「義淵僧正坐像」に並々ならぬ迫力が感じられました。深く刻まれた皺を露わに、やや目を付しながら、静かに座る姿を捉えていて、肋骨や目や口元の周りの皮膚などは、どこか生々しいまでに表現されていました。また同寺は、珍しい彫刻の涅槃である「釈迦涅槃像」にも目が止まりました。右手を頭に添え、左手を体に沿うように伸ばしては、横たわる釈迦を捉えていて、表情はやや涼しげでもあり、さも気持ちよく眠りこけているかのようでした。

快慶の傑作、「文殊五尊像」が本尊であることで知られる安倍文殊院からは、「文殊菩薩像」の像内から発見された経巻が出展されていました。平安時代末から鎌倉時代前期に活動し、文殊菩薩像を発願した僧、明遍が書写したもので、水色に染まった美しい色紙にも目を奪われました。



ハイライトは、室生寺の4体の仏像、すなわち「地蔵菩薩立像」と「十一面観音菩薩立像」、それに「十二神将立像(巳神・酉神)」と捉えて差し支えありません。全てが展示室奥の一台のステージに載っていて、中央奥に「地蔵菩薩立像」と「十一面観音菩薩立像」、そして手前の左右に「十二神将立像」の「巳神」と「酉神」が並んで展示されていました。

どっしりとした体躯でありながらも、ふくよかな丸顔ゆえか、親しみやすくもある「十一面観音菩薩立像」と、やや小ぶりの「地蔵菩薩立像」は、いずれも板に彩色で描いた板光背を従えていて、とりわけ唐草の模様が細かに描かれた「地蔵菩薩立像」は、おおよそ10世紀の作とは思えないほど鮮やかな色彩を見せていました。これほど絵画としても美しい光背もなかなかないかもしれません。


かつて「国中」(くになか)」と呼ばれた地域に位置する岡寺、室生寺、長谷寺、安倍文殊院では、現在、「奈良大和四寺」として、参拝客誘致に積極的に取り組んでいるそうです。私も岡寺と安倍文殊院へは参拝したことがありますが、室生寺、長谷寺へは足を伸ばしたことがありません。一度は現地で仏像を拝めればと思いました。



会場は本館の11室で、特別展の展示室ではありません。本館正面玄関すぐ右手に位置し、いつも総合文化展(常設展)で仏像が公開される展示室にて行われています。

よって今回も入場に際してチケットを提示する必要はなく、総合文化展チケットで観覧可能です。(特別展開催時は特別展チケットでも観覧可。)東博にお出かけの際はお見逃しなきようにおすすめします。

なお通常、総合文化展の仏像展示では一部の撮影も可能ですが、「奈良大和四寺のみほとけ」では全面的に撮影が出来ません。



9月23日まで開催されています。

「奈良大和四寺のみほとけ」 東京国立博物館・本館11室(@TNM_PR
会期:2019年6月18日(火)~9月23日(月)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで開館。
 *9月20日(金)、21日(土)は22時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。7月16日(火)、9月17日(火)。但し7月15日(月・祝)、8月12日(月・祝)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *開催中の特別展観覧券(観覧当日に限る)でも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「クリムト展」 東京都美術館

東京都美術館
「クリムト展 ウィーンと日本 1900」
2019/4/23~7/10



東京都美術館で開催中の「クリムト展 ウィーンと日本 1900」へ行ってきました。

世紀末ウィーンの画家、グスタフ・クリムト(1862-1918)は、若い頃から装飾の仕事で頭角を現し、ウィーン分離派を結成すると、生と死をテーマとした作品や、官能的な女性像、ないし風景画などの作品を多様に制作してきました。

そのクリムトの作品が、主にウィーンから約120点ほどやって来ました。うち油彩画は25点以上あり、国内で一度に公開された数としては過去最多に及んでいました。


グスタフ・クリムト「ヘレーネ・クリムトの肖像」 1898年 個人蔵(ベルン美術館寄託)

はじめはクリムトの生い立ちと家族を紹介していて、若いクリムトや家族の肖像写真、また弟のゲオルグと共に制作した額縁の装飾パネルなどが展示されていました。うち目を引くのは、クリムトが姪を描いた「ヘレーネ・クリムトの肖像」で、まだ6歳の幼いヘレーネを真横から捉えていました。白を基調とした衣装や背景から浮かび上がるような頭部が印象的で、衣装の流れるようなタッチとは異なり、目鼻や髪をかなり写実的に表現していました。

続くのがクリムトの修行時代や劇場装飾に関した作品で、アカデミックな作風に習った「男性裸体像」や、ティツィアーノの模写に当たる「イザベラ・デステ」のほか、クリムトが装飾の仕事に際して手がけた下絵などが紹介されていました。中でも興味深いのは、ウィーン美術史美術館の壁面装飾のために鉛筆やチョークで描いた紙の作品で、古代エジプトやバロック、ロココの様式のモチーフを、震えるような線で細かに表していました。人物の背景には平面的な模様が広がっていて、のちの「ベートーヴェン・フリーズ」などの作風を予兆させる面もありました。

クリムトや分離派と日本美術の関わりについても重要でした。1873年、ウィーンで万国博覧会が開かれると、日本の美術品が当地の人々の目を楽しませ、いわゆる日本ブームと呼べうる現象が起こりました。さらに日本美術への研究も進展し、分離派のメンバーも日本美術のコレクターに同行して日本を訪ね、中には10ヶ月も日本に滞在しては蒔絵や版画を学ぶ人物もいました。


グスタフ・クリムト「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」 1891年 個人蔵

そしてクリムト自身も日本の美術品をコレクションし、日本風のモチーフを自作に取り入れることもありました。特に「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」の額の部分は、明らかに日本的な植物や花のモチーフが描かれていて、布の山の頂点に赤ん坊を表した「赤子」においても、平面的でかつ色彩に溢れた描写に、日本の歌川派を代表する錦絵に着想したと指摘されていました。

ウィーン分離派の代表作でもある、「ベートーヴェン・フリーズ」の精巧な原寸大複製も公開されました。これは、クリムトが第14回ウィーン分離派展のために描いた壁画で、ベートーヴェンの第九交響曲を主題とした作品のうちの1つでした。


グスタフ・クリムト「ベートーヴェン・フリーズ」(部分) 原寸大複製/オリジナルは1901年〜1902年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館

「ベートーヴェン・フリーズ」は展示室の一室を取り囲んでいて、ちょうど見上げて鑑賞する高さに配置されていました。そして展示室の天井には指向性マイクがいくつか設置され、第九交響曲の第四楽章の終末部が繰り返し流されていました。それは猛烈なスピードでクライマックスへと突入する、フルトヴェングラー指揮の「バイロイトの第九」でした。

その隣には、同じく第14回ウィーン分離派展で公開されたマックス・クリンガーのブロンズ像、「ベートーヴェン」も出展されていて、分離派展開催時の様子を模した「分離派会館模型」とともに、実際に「ベートーヴェン・フリーズ」がどのような位置に描かれたのかを知ることが出来ました。いかんせん無機質なホワイトキューブではありますが、さながら当地の空間を擬似的に追体験し得る展示だったと言えるかもしれません。


グスタフ・クリムト「ユディト I」 1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館

クリムトを代表する作品として知られる「ユディト I」も、ウィーンのベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館から日本へやって来ました。胸元を露わにし、恍惚とした表情で前を見据えるユディトを、金色の装飾的なモチーフの中に描いていて、まさにクリムトの黄金様式の幕開けを告げるかのような高揚感が感じられるかのようでした。



今回、私が特に引かれたのが、クリムトの描いた風景画でした。クリムトは学生時代を除き、1枚の風景画を描きませんでしたが、1898年の頃にザルツブルク東方にある自然豊かな観光地、ザルツカンマーグートで夏を過ごすと、当地の景観に魅了されたのか、風景画を制作するようになりました。

「アッター湖畔のカンマー城3」は、ザルツカンマーグートにあるアッター湖畔の城を舞台としていて、点描的に表した木立の向こうに、黄色の建物を赤い大きな屋根を描いていました。建物と樹木の映り込んだ湖面の表現は、印象派を連想させるかのようで、絵具は図版で目にするよりも遥かに明るく、輝いて見えました。


グスタフ・クリムト「丘の見える庭の風景」 1916年 カム・コレクション財団(ツーク美術館)

同じくアッター湖畔で制作されたと言われるのが「丘の見える庭の風景」で、色とりどりの花や緑色の樹木が、手前から奥へと向かってモザイク画のように表されていました。この時期のクリムトはゴッホに影響されたと考えられていて、スーラやシニャックの点描表現へ近づいたとも言われています。


グスタフ・クリムト「女の三世代」 1905年 ローマ国立近代美術館

「女の三世代」もハイライトの1つかもしれません。クリムトが取り組んだ「生命の円環」をテーマとした作品で、赤ん坊と抱きかかえる若い女性、それに手を頭に当てて打ちひしがれる様に立つ老いた女性が描かれていました。こうした人生の三段階の主題は、中世からヨーロッパで盛んに扱われていて、クリムトも16世紀のハンス・バルドゥング・グリーンの絵画に着想を得たとされています。



さて会場内の状況です。話題の展覧会だけに、会期早々より混み合っていましたが、既に終盤を迎え、混雑に拍車がかかっています。

平日でも昼間の時間を中心に20分から30分待ち、土日に至っては、入場までに約40分ほどの待ち時間が発生しています。またチケット購入に際しても、土日を中心に10分から15分程度の待ち時間となっています。概ね午前中から昼過ぎにかけて混雑し、夕方に向けて段階的に解消しているようです。



私は6月21日の金曜の夕方4時頃に観覧しました。美術館に到着すると10分待ちの表記があり、誘導に従って列に加わると、約5~6分で入場することが出来ました。

館内はさすがに盛況で、特にクリムトの修行時代の作品が並ぶ最初の展示室と、目玉の「ユディト I」、それに後半の「女の三世代」あたりのスペースは黒山の人だかりでしたが、デザイン関連をはじめ、分離派会館の再現展示、並びに風景画のセクションは思ったよりスムーズに見られました。おそらく平日だったからかもしれません。

一通り鑑賞し終えて会場を出ると、入場への待機列は一切なくなっていました。この日は金曜のための夜間開館日で、基本的に夜に列が出来ることはありません。


通常の夜間開館に加え、会期末の7/4(木)、及び7/6(土)も20時までの延長開館が決まりました。もはやゆったりと見られる環境ではないかもしれませんが、基本的に夜間開館が有用となりそうです。

なおチケットについては公式サイトより事前に購入可能な上、上野駅構内のチケットブースでも販売されています。あらかじめ用意されることをおすすめします。

クリムトの残した絵画は200点とされていて、完成作に至っては3分の1程度に過ぎません。またそもそもクリムトの絵画を国内で見る機会は少なく、25点以上揃ったこともありません。その意味では一期一会のクリムト展と言えそうです。



7月10日まで開催されています。なお東京展終了後、愛知県の豊田市美術館(2019/7/23~10/14)へと巡回します。

「クリムト展 ウィーンと日本 1900」@klimt2019) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日、及び7/4(木)、7/6(土)は20時まで開館。 
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、65歳以上1000(800)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *6月1日(土)~6月14日(金)は大学生・専門学校生・高校生無料。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「デザインの(居)場所」 東京国立近代美術館工芸館

東京国立近代美術館工芸館
「所蔵作品展 デザインの(居)場所」
2019/5/21~6/30



東京国立近代美術館工芸館で開催中の「所蔵作品展 デザインの(居)場所」を見てきました。

1988年、クリストファー・ドレッサーやピエール・シャローの作品が収蔵されたことを契機に、東京国立近代美術館には数多くのデザインの作品がコレクションされてきました。現在は、工業デザイン192点、グラフィックデザイン776点を合わせ、計968点ものデザインの作品が収められているそうです。

そのデザインのコレクションのうち120点ほどが公開されました。また「デザインの居場所とは?」として、「国境」、「領域」、「時間」の3つの視点から作品を俯瞰しているのも特徴でした。


クリストファー・ドレッサー「ガーデン・チェア」 1867年 ほか

冒頭で目を引くのがクリストファー・ドレッサーで、「ガーデン・チェア」や「帽子掛け」などが展示されていました。ドレッサーは19世紀イギリスのデザイナーの1人で、産業革命後は機能性と完結性を兼ね備えたデザインを提案しました。両作品の模様には、ゴシックやバロックなどともに、当時のヴィクトリア朝の様式を見ることが出来ました。


右:ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルト「容器 キューブ」 1938年

バウハウスに関した家具や日用品にも目が留まりました。ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルトの「容器 キューブ」は、ガラスで出来た7つのユニットからなる蓋付きの容器で、重ねて保存できることから、収納場所を多くとらない利点を持ち得ていました。その実用性はタッパーウェアに近い面があるかもしれません。


イサム・ノグチ「あかり33S」 1952年

白く仄かな明かりが会場を満たしていました。それが和紙と竹を用いて作られたイサム・ノグチの「あかり」で、1953年に来日した際、岐阜で提灯制作の現場を見て感銘を受け、作品のデザインをしたとも言われています。


オットー・クンツリー「レンズ型のある構成(ブローチ)」 1994年 ほか

2015年に東京都庭園美術館で開催された回顧展の記憶も蘇るかもしれません。スイスのジュエリー作家、オットー・クンツリーは、円や四角などの幾何学的な形のブローチをデザインしました。一見、平面的に見えるかもしれませんが、筒状のものが突き出ていたり、穴が空いていて奥行きがあるのも魅力と言えるのかもしれません。


エンツォ・マーリ「SAMOSシリーズ 磁器のデザイン 21点」 1973年

展覧会のハイライトを飾るのが、エンツォ・マーリのデザインによる「SAMOS」シリーズで、全て手作業で作られた21種類の器が揃って展示されていました。


エンツォ・マーリ「SAMOSシリーズ 磁器のデザイン 21点」から 1973年

「ひも作り」とも呼ばれる、紐状の土を重ねて積み上げたボウルは、緩やかな曲線を描きながら、時に花を象るかのように広がっていました。また円盤を重ねた作品や、ガラスのデザインの作品もあり、エンツォ・マーリの魅力を十分に味わうことが出来ました。なお同シリーズが工芸館で一括して公開されたのは、実に約30年ぶりのことでもあります。


森正洋「平型めしわん」 1992年

森正洋の「平型めしわん」も面白いのではないでしょうか。通常の茶碗よりも浅く、口が広いのを特徴としていて、その分、内部の図柄がよく見えるようになっていました。森は当初、150種の茶碗を一挙に発表し、現在は販売されているものだけで、約200種類以上もあるそうです。色とりどりの器が並ぶ光景はどこか可愛らしくも映りました。


原弘「世界のポスター展」 1953年

小展示の「世界のポスター展」も見逃せません。これは1953年、当時、東京の京橋にあった国立近代美術館で開かれた展覧会を振り返るもので、当時出展された作品のうち5点のポスターと記録写真などが展示されていました。


左:北代省三「ギーゼキング演奏会」 1953年

なお同展は国立の美術館では初めてのポスター展であったことから関心が強く、15日間の会期のうちに1万8千人近くの観客を集めたそうです。


「所蔵作品展 デザインの(居)場所」会場風景

剣持勇などの椅子へ実際に腰掛けられるコーナーもありました。また一部を除き、撮影も可能です。


「所蔵作品展 デザインの(居)場所」会場風景

なお先にも触れた「国境」、「領域」、「時間」といった3つの視点のほかに、「デザインの規格化」、手と機械」、「工芸のデモクラシー」、「増え続けた結果…」など、19にも及ぶテーマも設定され、細かな解説(リーフレット)が付いていました。デザインと工芸の関係について考える1つの切っ掛けともなりそうです。


6月30日まで開催されています。

「所蔵作品展 デザインの(居)場所」 東京国立近代美術館工芸館(@MOMAT60th)
会期:2019年5月21日(火)~6月30日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般250(200)円、大学生130(60)円、高校生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
場所:千代田区北の丸公園1-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩8分。東京メトロ半蔵門線・東西線・都営新宿線九段下駅2番出口より徒歩12分。
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「バレル・コレクション」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」
2019/4/27~6/30



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」を見てきました。

産業革命の時代、スコットランドのグラスゴーで海運業で成功したウィリアム・バレル(1861〜1958)は、少年期より美術に関心を寄せ、古今東西の美術工芸品を多く収集しました。

そして1944年、バレルは当時9000点にも及んだコレクションのうち、数千点の作品をグラスゴー市へと寄贈します。のちの1983年、グラスゴー市は「バレル・コレクション」として一般に公開しました。



そのバレル・コレクションのうち、印象派を中心とする絵画が、初めて海を越えて日本へとやって来ました。本来、バレル・コレクションは、イギリス国外に貸し出さないことを条件としていましたが、改修工事により2020年まで閉館しているため、今回の貸し出し展が実現しました。

冒頭のゴッホの描いた肖像に目を引かれました。「アレクサンダー・リードの肖像」と題した作品で、オレンジなどの暖色を中心とした細かな筆にて、やや目を伏し、物静かな様子で前を見やる男性を描いていました。実のところ、このリードこそ、バレルをはじめとしたグラスゴーの愛好家にフランス美術を紹介した画商で、ゴッホの弟で同じく画商のテオと一緒に暮らしていたこともありました。バレル、そして描いたゴッホの両人に極めて近しい人物と言えるかもしれません。


エドゥアール・マネ「シャンパングラスのバラ」 1882年 バレル・コレクション

個人コレクションゆえか小品が目立つのも特徴でした。例えばクールベの「アイリスとカーネーション」やマネの「シャンパングラスのバラ」は、ともに画家の描いた作品の中でも最小クラスと言っても良く、後者では明るいシルバーを背景とした小画面に、黄色と赤のバラを透明感のある色彩で表現していました。

グラスゴーにゆかりのある画家も多く登場していました。うち一人が同地の出身であるサミュエル・ジョン・ペプローで、「バラ」では真っ暗がりの空間の中、中国風の花瓶に入れられたピンクのバラを荒いタッチで描いていました。花瓶の周囲に置かれた事物は、もはや殴り書きのような筆触で表されて、フォーヴィスムを吸収したとされる画風を見ることが出来ました。

スコットランド出身で、芸術集団「グラスゴー・ボーイズ」の1人ともされるアーサー・メルヴィルの「グランヴィルの市場」も魅惑的でした。フランス、ノルマンディー地方の市場の店先を表していて、棚には色とりどりの果物がたくさん積まれていました。


ジョゼフ・クロホール「二輪馬車」 1894〜1900年頃 バレル・コレクション

油彩だけでなく、水彩にも引かれる作品が少なくありませんでした。中でも印象に深いのが、グラスゴーで活動したジョゼフ・クロホールで、「二輪馬車」では、これから動き出すのか、着飾った女性を乗せて止まる馬車を、真横からの構図で捉えていました。グレーを中心としたやや暗い水彩のタッチゆえか、どこか幻想的な雰囲気も感じられました。

チラシ表紙を飾ったドガの「リハーサル」が想像以上に魅力がありました。文字通り、バレエのリハーサルの様子を描いた作品で、手足を振り上げるダンサーは、まるで映像を前にしたかのように動きがあり、窓から差し込む陽を反映してか、身体、そしてドレスまでもが透明感のある光で満たされていました。左上で踊るダンサーと右下で座るダンサーの対比的な構図も、効果的と言えるかもしれません。

第3章の後半の展示室のみ撮影が可能でした。


ウジェーヌ・ブータン「ドーヴィル、波止場」 1891年 バレル・コレクション

小品が中心ながらもブータンも目立っていたのではないでしょうか。「ドーヴィル、波止場」は、ノルマンディー地方の港町を舞台とした一枚で、青空の下、港には白い帆を広げた船が停泊する光景を表していました。


アンリ・ル・シダネル「月明かりの入り江」 1928年 バレル・コレクション

私の好きなシダネルが2点ほどあったのも嬉しいサプライズでした。うち1つが「月明かりの入り江」で、僅かな月明かりが漏れる中、帆船が何艘も停まる入り江を、エメラルドグリーンを思わせる色遣いで包み込むように描いていました。誰もいない無人の静けさが伝わってくるような光景でもあるかもしれません。


ヤーコプ・マリス「アムステルダム」 バレル・コレクション

出展の80点中、ゆうに76点が日本初公開です。うちグラスゴーのケルヴィングローヴ美術博物館のコレクションが7点ほど含まれています。派手さはないかもしれませんが、とりわけ日本ではあまり見る機会の少ない画家の作品に強く引かれました。


ギュスターヴ・クールベ「マドモワゼル・オーブ・ドゥ・ラ・オルド」 1865年 バレル・コレクション

6月23日の日曜日の午後に見てきました。さすがに会期末が近づいているだけあり、チケットブースに僅かな待機列がのびていましたが、場内は思いの外に余裕があり、どの作品もゆっくり鑑賞出来ました。


ヤーコプ・マリス「ドルドレヒトの思い出」 1884年頃 バレル・コレクション

現在、都内の西洋美術展はクリムトに混雑が集中している傾向がありますが、バレル展に関しては会期末まで比較的スムーズに見られそうです。



6月30日まで開催されています。

「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」 Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:2019年4月27日(土)~6月30日(日)
休館:5月7日(火)、5月21日(火)、6月4日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
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「宮本隆司 いまだ見えざるところ」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「宮本隆司 いまだ見えざるところ」
2019/5/14~7/15



東京都写真美術館で開催中の「宮本隆司 いまだ見えざるところ」を見てきました。

1947年に東京に生まれた宮本隆司は、80年代から「建築の黙示録」や「九龍城砦」などの作品で評価を受け、主に建築空間を題材とした写真を撮影してきました。

その宮本の新旧作を含めて約110点からなるのが、「いまだ見えざるところ」と題した個展で、いずれもアジアを舞台にした「建築の黙示録」、「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」、「東方の市(とうほうのまち)」、それに「シマというところ」などが展示されていました。

展示は概ね二部に分かれていました。前半は、1970年代以降にアジアの都市を捉えた写真で、とりわけ印象に深いのは「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」と「東方の市(とうほうのまち)」でした。

「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」は1996年、詩人の佐々木幹郎の誘いを受け、7日間かけてネパールの城砦都市であるロー・マンタンに旅した際に撮影したもので、石造りの住居や僧院の立ち並ぶ光景をモノクロームの画面に収めました。

人気の少ない小道や、薄明かりの差し込む暗い室内など、裏寂れた景観も目を引きましたが、当時のロー・マンタンは、電気やガス、水道などのインフラがなく、移動手段も徒歩や馬に限られた秘境の地でした。しかも宮本は滞在中、高山病にかかり、道中の記憶も定かでなかったとしています。一連の写真は、宮本が実際に目にしつつも既に記憶として失われた、「いまだ見えざる」景色の1つなのかもしれません。

それに続く「東方の市(とうほうのまち)」は、1991年から翌年にかけ、ホーチミンやマカオ、バンコク、台南などのアジアの地域の街を写した連作で、中には沖縄や徳之島などの日本の島も捉えられていました。

いわゆる都市の風景といえども、市場の店先や米屋で眠りこける男性など、人々の様子も写していて、都市の熱気や喧騒、ないし空気感が滲み出しているかのようでもありました。なお同シリーズは、1992年の個展以来、約27年ぶりに出展された作品でもあります。


宮本隆司「ソテツ」より 2014年 作家蔵 *撮影可

後半は宮本が、主に2010年から2018年にかけて撮った、「シマというところ」の連作でした。全て奄美大島の徳之島で撮影され、同地で撮った「ソテツ」や映像「サトウキビ」、それにチラシ表紙を飾る「面縄ピンホール2013」とあわせて展示されていました。徳之島をテーマとした、1つのインスタレーションとして受け止めても差し支えありません。

「シマというところ」は、徳之島の集落に生きる住民のポートレートを中心とした作品で、ほかにも島に残る伝統的な祭りや、洗骨と呼ばれる独特の風習なども写していました。実のところ、宮本は両親の出身地が徳之島で、自身も記憶こそないものの、2歳まで島に住んでいました。また奄美で「シマ」とは、単なる島を意味するのではなく、集落毎に生きる共同体を指す言葉でもあるそうです。もちろん作品からも、徳之島の自然だけでなく、人々の風俗や生活を見ることが出来ました。

「面縄ピンホール2013」は、かつて宮本が暮らしていた徳之島の面縄(おもなわ)の海辺を舞台としていて、タイトルの通り、自作の大型のピンホールカメラで写した作品でした。宮本は撮影に際してピンホールカメラに潜り込み、外から差し込む僅かな光を浴びていると、「海に浸かった記憶が蘇るようだ」(解説より)と思ったそうです。よってこの作品においても、見ていたはずにも関わらず記憶にない、すなわち「いまだ見えざるところ」が表れているのかもしれません。



展示室前のロビーには、宮本が徳之島で実際に使用したピンホールカメラと、撮影時の記録映像もモニターで紹介されていました。あわせてお見逃しなきようにご注意下さい。


建築や廃墟の写真で知られる宮本が、まさか近年、自らのルーツでもある徳之島をテーマに撮影を続けていたとは知りませんでした。端的に制作を回顧するのではなく、宮本の過去と今の視点がクロスするような展覧会とも言えそうです。

7月15日まで開催されています。

「宮本隆司 いまだ見えざるところ」 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2019年5月14日(火)~7月15日(月・祝)
休館:月曜日。*但し7月15日(月・祝)は開館。
時間:10:00~20:00 
 *木・金曜は20時まで開館。
料金:一般700(560)円、学生600(480)円、中高生・65歳以上500(400)円。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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「トム・サックス ティーセレモニー」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「トム・サックス ティーセレモニー」
2019/4/20~6/23



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「トム・サックス ティーセレモニー」を見て来ました。

1966年にニューヨーク州で生まれたトム・サックスは、2012年から茶道を学ぶと、日本の伝統的な茶の湯を、独自の解釈で再構築した作品を制作してきました。

それにしても「独自の解釈」とは一体、どのような内容なのでしょうか。率直なところ、会場へ足を踏み入れると、目の前の光景に驚かされました。

と言うのも、サックスは、茶器や茶道具だけでなく、茶室から庭、さらには鯉の泳ぐ池などの茶の湯にまつわる全ての空間を、まるでDIYのように工業の素材や日用品にて作り上げていたからです。



冒頭で姿を現したのが、イサム・ノグチの彫刻にオマージュを寄せた「Narrow Gate」なるオブジェで、石で作られているかと思いきや、ダンボールで出来ていました。サックスは、イサム・ノグチの「古い伝統の真の発展を目指す」(解説より)の思想に共感し、一連の茶の湯の世界を築いていて、「ティーセレモニー」の展示も、2016年にニューヨークのノグチ美術館にて開かれました。その後、サンフランシスコやダラスの芸術や彫刻センターへと巡回しました。



その先にはトタン屋根をのせた門があり、進むと茶庭に当たる露地のうち、待合から中門へ至る外露地が築かれていました。ここで目立つのは、石を模した池で、水が循環する中、赤と黒の鯉が泳いでいました。



また飛行機のユニットトイレを雪隠、すなわち便所に見立てていた上、椅子の脚やトタン板で築いた石灯籠なども置かれていました。何とも奇想天外ではないでしょうか。



さらに合板の壁の間にある中門を潜ると、内露地が広がっていて、赤い斜めストライプの柵や断熱材、それにトタンで作られた茶室がありました。なおこの赤いストライプの柵は、工事現場や立ち入り禁止の場所に置かれる柵で、サックスが良く用いる素材の1つでした。



このほかにも茶庭に設置される手水鉢ことつくばいや、盆栽、石塔、飛び石なども置かれていましたが、全てが日用品や工業用の素材で作られていました。たくさんの歯ブラシで出来た松の盆栽も面白いかもしれません。



また随所にアメリカのカルチャーが盛り込まれているのも興味深いところで、中にはスタートレックのザレクを掛け軸に仕立てた作品もありました。なお素材には不織布や荷造りテープとともに、軍用テントなども用いられていました。



そして茶の湯とともに、サックスが従来より関わってきたNASAのモチーフも重要で、自ら作ったというNASAのロゴ入りの茶碗もありました。なおこの展示も、かつてニューヨークで行われ、火星探査に赴いた宇宙飛行士が茶の湯をするという「スペース・プログラム : MARS展」を基にしているそうです。



入口すぐのシアターも見逃せません。ここではNASAのパイプ椅子が並ぶ中、サックスが実際に客を招き、自作の中で茶の湯、すなわち「ティーセレモニー」を行う光景が映像で紹介されていました。なお映像は約15分弱で、途中に入場することは出来ません。



先に映像を見るか、先に展示を一通り回るのかは、鑑賞者の判断に任せられていますが、映像は種明かし的な内容もあるので、どちらかと言えば、最後に見た方がより楽しめるのかもしれません。



チープとも受け止められる素材を用いながらも、個々の作品には彫刻としての強度があり、茶室はもとより、外露地、内露地へと続く空間全体からして、サックスの茶の湯に対しての強いリスペクトがひしひしと感じられました。まさに利休の見立ての世界が、サックスの手を介して現代に再生されたとして捉えても良いかもしれません。また本来の茶の湯とサックスの「ティーセレモニー」の間に見え隠れする絶妙なズレも、引き付けられるものがありました。



撮影が可能です。6月23日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。

「トム・サックス ティーセレモニー」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:2019年4月20日(土)~6月23日(日)
休館:月曜日 *祝日の場合は翌火曜日、但し4月30日は開館。
時間:11:00~19:00 
 *金・土は20時まで開館。
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大・高生1000(800)円、中学生以下無料。
 *同時開催中の「収蔵品展066 コレクター頌 寺田小太郎氏を偲んで」、「project N 75 衣真一郎」の入場料を含む。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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スカイザバスハウスで横尾忠則の個展が開催中です

ビジュアルアートから絵画、さらに文筆活動などと幅広く活動する横尾忠則の個展が、東京・谷中のSCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)にて開かれています。



その「B29と原郷-幼年期からウォーホールまで」について、pen-onlineのアートニュースに書きました。

魂を鷲づかみされる、横尾忠則の個展『B29と原郷-幼年期からウォーホールまで』。
https://www.pen-online.jp/news/art/scai-tadanoriyokoo/1


今回の個展は、60セットの作品を含む、16点の絵画が出展されていて、一部の旧作を除くと、主に2015年以降に書かれた近新作にて構成されていました。



冒頭の横尾の自画像にも目を引かれましたが、とりわけ作品の中に頻繁に登場するのが、米軍に関したモチーフで、横尾の幼少期の戦争の体験を、「自然に画の中に入り込んできた」(解説より)として描いたとしています。



またウォーホルやターザンなどの著名人も多く登場し、これまでの横尾の体験を、言わば絵画で回顧するかのように展開していました。

私が横尾の作品を初めて見知ったのは、今から17年も前、2002年に東京都現代美術館で開かれた「横尾忠則 森羅万象」展でのことでした。40年以上キャリアを積んでいた横尾の活動の全貌を紹介するもので、作品数は約400点にも及び、当時として過去最大のスケールでの回顧展でした。

実のところ、現代美術を見始めた頃の私にとって、横尾の名もあまり知らないままに出かけた展覧会でしたが、ともかく作品世界のスケールに圧倒され、美術の熱気のようなものを強く感じたことを記憶しています。今回の記事にも「魂を鷲づかみ」と書きましたが、横尾の作品には、見る側を作品へダイレクトに引き寄せるような強い吸引力があるのではないでしょうか。



スカイザバスハウスの個展に接して、改めて私に現代美術の魅力を教えてくれた、2002年の展覧会のことを思い出しました。


会場内の撮影も出来ました。7月6日まで開催されています。

「横尾忠則『B29と原郷-幼年期からウォーホールまで』」 SCAI THE BATHHOUSE@scai_bathhouse
会期:2019年5月31日(金)〜7月6日(土)
休廊:日・月・祝。
時間:12:00~18:00
料金:無料
住所:台東区谷中6-1-23 柏湯跡
交通:JR線・京成線日暮里駅南口より徒歩6分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩7分。
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「吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵」 国立新美術館

国立新美術館
「特別公開『吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵』」
2019/4/17~2021/5/10



国立新美術館で公開中の「吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵」を見てきました。

2011年に第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展で発表され、2015年に京都の将軍塚青龍殿の大舞台でも披露された「ガラスの茶室 - 光庵」が、今年4月、東京の国立新美術館へやって来ました。



ガラスの茶室があるのは、美術館の展示室ではなく、正面入口横の屋外で、ちょうど建物と向かいあうように設置されていました。美術館を背にして立つと、まるで茶室がガラスのファサードへ溶け込んで見えるような錯覚に陥るかもしません。



白い円盤の上に置かれた茶室全体を覆う屋根はありません。私が出向いたのは、晴天時の日中でしたが、雲の合間から溢れる光を受けて、水面のようなきらめきを生み出していました。朝昼晩の時間、さらには晴や雨の天候によっても、表情を変えていくのではないでしょうか。



茶室の周囲には、パリのオルセー美術館にもコレクションされたガラスのベンチ、「Water Block」もあわせて展示されていました。

吉岡は「日本文化が生み出された根源を問う。」ために、「自然と一体となり、光そのものを感じる」ガラスの茶室を制作したとしています。また「エネルギーを知覚化する日本の自然観は、茶道の精神にも受け継がれている」(解説より)とも語りました。残念ながら中へ入ることは叶いませんが、ガラスに囲まれた茶室から外を見やると、また新たな光を得ることが出来るのかもしれません。



「光の建築は、物質の概念から解き放たれ、詩的な光景を浮かび上がらせます。」 吉岡徳仁 *キャプションより

3年間にも渡る長期の公開です。いつしか国立新美術館を成す、言わば「景色」として馴染んでいくのではないでしょうか。


2021年5月10日まで公開されています。

「特別公開『吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵』」 国立新美術館@NACT_PR
会期:2019年4月17日(水)~2021年5月10日(月)
休館:火曜日。但し祝日又は振替休日に当たる場合は開館し、翌平日休館。年末年始。
時間:美術館の開館時間に準じる
料金:無料
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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「発酵から再発見する日本の旅」 渋谷ヒカリエ

渋谷ヒカリエ 8F d47 MUSEUM
「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅」
2019/4/26〜7/8



渋谷ヒカリエ 8F d47 MUSEUMで開催中の「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅」を見てきました。

古くから日本では、「土地の微生物の力を活かした」(解説より)発酵食品が数多く存在してきました。

そうした発酵に関した文化を紹介するのが、「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅」で、全国各地より集められた発酵食品が展示されていました。



中には毎日食べている方もおられるかもしれません。それが茨城を代表する納豆で、パッケージ入りの天狗納豆やそぼろ納豆などが展示されていました。元々、納豆の源流は東北にありましたが、1889年の水戸鉄道(常磐線の前身)の開通とともに、駅のホームで土産として販売し、一躍名産として注目されるようになりました。今も水戸土産の定番として知られています。



漬物も発酵の力がなくては保存食として成り得ません。中でも有名なのは奈良漬で、酒粕で漬け込んだニンジンやウリなどが木の桶に入れられていました。またここで面白いのは、桶を自由に開けて匂いを嗅げることで、特有の甘酸っぱい酒の匂いを実際に味わうことが出来ました。奈良漬の歴史は極めて古く、平城京の時代より朝廷に献上されていました。



伊豆諸島の新島のくさやも有名な発酵食品かもしれません。いわゆるくさや液にトビウオなどの青魚を浸し、屋外で干して作られたもので、何よりも強烈な匂いを特徴としていました。なおくさや液は、江戸時代、塩漬け液を使いまわしていたところ、「謎の発酵作用」(解説より)により誕生したとされていて、今でも秘伝の液として200年以上も受け継がれてきました。



そのくさやと並び、同じく伊豆諸島の特産である青酎も番外編として出展されていました。古くから青ヶ島のみで生産された焼酎で、近世に薩摩の商人が伝えた醸造法を、島独自の酵母で発酵させ、蒸留して作られました。かつては島内の人々のみで消費されていましたが、今では半ば幻の焼酎として全国でも人気を博しています。



私も好きな滋賀のフナのなれずしも登場していました。フナの塩漬けに、米を媒介とした乳酸発酵の酸味が加わったもので、一口で鼻へと抜けるような匂いと豊かな味わいは、それこそ焼酎などの酒の肴にも欠かせません。



つるんとした食感が好きな方も多いのではないでしょうか。それが神奈川の川崎大師のくずもちで、小麦粉に水をさらして乳酸発酵させ、デンプンを取り出しては餅に仕上げられました。川崎大師のほかには、亀戸天神や池上本門寺の土産としても有名かもしれません。



奄美大島のなりと呼ばれる麹も匂いが絶品でした。島に自生するソテツの身を、空気と水にさらし、毒の成分を抜いたのち、麹にしたもので、味噌に仕込んだりして食されるそうです。



このほかにも高知の碁石茶や群馬の焼きまんじゅう、山梨の甲州ワイン、さらには沖縄の豆腐ようなど、実に様々な発酵食品が紹介されていました。また発酵を支えた木桶や麹菌のサンプルなどもあり、発酵のメカニズムや普及のプロセスを分かりやすい形で知ることが出来ました。



会場内のショップの「発酵デパートメント」では、展示の発酵食品(一部を除く)を購入することも可能です。さらに隣接するd47食堂では、会期中リレー形式で発酵食品を用いた定食も発売されていました。発酵を見て、嗅いで、さらに食べて楽しめる展示と言えるかもしれません。



入場は無料です。7月8日まで開催されています。

「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅」 渋谷ヒカリエ 8F d47 MUSEUM@hikarie8
会期:2019年4月26日(金)〜7月8日(月)  
休館:会期中無休  
時間:11:00~20:00
 *最終入館は19:30まで。
料金:無料。
住所:渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階
交通:東急田園都市線、東京メトロ副都心線渋谷駅15番出口直結。東急東横線、JR線、東京メトロ銀座線、京王井の頭線渋谷駅と2F連絡通路で直結。
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「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」 
2019/4/27〜6/16



東京ステーションギャラリーで開催中の「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」を見てきました。

1916年にフィンランドで生まれたルート・ブリュックは、アラビア製陶所で技術を習得すると、独自の成型技術を開発し、板から大型壁画までの陶の作品を旺盛に制作しました。

そのルート・ブリュックの作品が約200点ほど日本へやって来ました。鳥や果物、建物などの初期の陶板から、中期以降の抽象表現へと変化する作風も見どころで、具象に抽象を問わず、ブリュックの幅広い制作の軌跡を追うことが出来ました。

当初、ヘルシンキの美術工芸中央学校でグラフィックアートを学んだブリュックは、アラビア製陶所に入所すると、おとぎ話や人物、昆虫や草花などのモチーフを、まるで中世美術を思わせるような素朴なタッチで陶板に表現しました。


「結婚式」 1944年

花園の中を男女が仲睦まじく歩く「結婚式」に目を引かれました。中央には教会が建ち、上空には天使が舞っていて、右の下に白いウエディングドレスに身をまとった花嫁の姿を見ることが出来ました、その幻想的な光景は、シャガールの画風を思わせる面があるかもしれません。


「東方の三博士」 1944年

「東方の三博士」はテーブルの天板として作られたもので、三博士がキリストの誕生を祝い、ベツレヘムへ旅する物語の光景を、可愛らしく描いていました。ブリュックは元々、日用品に絵付けをしていましたが、次第に「額装された絵画」(解説より)のような陶板に行うようになりました。


右:「カレリアの家」 1952-1953年頃
左:「カレリアの鐘楼」 1952年頃

1950年代のはじめには、建物をモチーフとした作品を制作し、母の故郷だったカレリア地方の伝統的な木造建築などを表しました。またこの頃、かつての方形の陶板でなく、建物の形をそのまま象った作品を作り出しました。なおカレリアとは、フィンランド南東部からロシア北西部にかけて広がる一帯で、森と湖を象徴するフィンランドの原風景として知られています。


「最後の晩餐」 1950-1951年頃

「最後の晩餐」は、1951年のミラノ・トリエンナーレでグランプリを獲得した作品の1つで、イエスの処刑前夜、十二使徒とともにとった食事の光景を表していました。ブリュックの陶板はいずれも色彩豊かでありながら、古色を帯びた風合いを特徴としていて、掻き落としの技法などによるムラが、独特の豊かな質感を見せていました。


「お葬式」 1957-1958年

1950年代後半以降、ブリュックの作風は具象から抽象へと移りゆくようになりました。「お葬式」は、6人の黒い影が、花で彩られた棺を担ぐ様子を描いた作品で、ブリュックの父が亡くなった頃に制作されました。花の模様は具象ながらも、人物の影は個々を特定することが出来ず、いわば抽象化されていました。

出展中最大の「都市」も目立っていたかもしれません。縦150センチ、横180センチにも及ぶ立体の作品で、複数のタイルを並べ、さながら古代都市の遺跡の模型を示すように表していました。それぞれの立体は「煙突」や「サイコロ」などと名付けられた別の作品で、それらを積み木のように繋ぐべく、1つの都市を築き上げました。

後期のタイルの作品は、初期の陶板と同じ作家の手によるとは思えないかもしれません。そのうちの1つが、小さな凹凸状のタイルピースを広げた「スイスタモ」で、オレンジ色の釉薬がが鮮やかなグラデーションを描いていました。ブリュックは1960年代後半以降、小さなタイルを用いてモザイクレリーフを制作していて、「黄金の深淵」においても、金色のピラミッド型のタイルを一面に連ねていました。


初期のゴシックなどを思わせる陶板はもちろん、後期の抽象的でかつデザイン的なモザイク壁画も、ともに魅力的ではないでしょうか。日本初の本格的な網羅的な回顧展だけに、国内でもブリュックの人気が高まる1つの契機となりそうです。


「庭の少女たち」 1942-45年 ほか

3階展示室のみ撮影が可能でした。(但し特別展示の「心のモザイク―ルート・ブリュック、旅のかけら」は不可。)2階は一切の撮影が出来ません。


左:「シチリアの教会」 1952-1953年
右:「聖体祭」 1953年

今回は平日の夕方以降に観覧したため、場内には余裕がありました。とはいえ、会期末を控え、土日を中心に混み合っているそうです。これからお出かけの際はご注意下さい。



6月16日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。なお東京展を終了すると、伊丹市立美術館・伊丹市立工芸センター(2019/9/7〜10/20)、岐阜県現代陶芸美術館(2020/4/25〜7/5)、久留米市美術館(2020/7/18〜9/6)へと巡回します。

「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」@rutbryk) 東京ステーションギャラリー
会期:2019年4月27日(土)〜6月16日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日、6月10日は開館。5月7日(火)。
料金:一般1100(800)円、高校・大学生900(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展―夢のCHITABASHI美術館!?」 千葉市美術館

千葉市美術館
「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展―夢のCHITABASHI美術館!?」
2019/6/1~6/23



千葉市美術館で開催中の「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展―夢のCHITABASHI美術館!?」を見てきました。

改修工事を終え、6月29日にリニューアルオープンを迎える板橋区立美術館には、これまで数多くの古美術コレクションが収蔵されてきました。

その板橋区立美術館と千葉市美術館の古美術コレクションを一堂に会したのが、通称「CHITABASHI(ちたばし)」展で、両美術館のコレクションや寄託作品など、全130点近くの作品が展示されていました。

さてともに日本美術のコレクションで定評のある両美術館ですが、何も漫然と作品を並べているわけではありません。とするのも、「江戸琳派とその周辺」や「幕末・明治の技巧派」、さらに「江戸の洋風画」などのテーマを設定し、体系だってコレクションを紹介していたからでした。



はじまりは江戸琳派で、酒井抱一を筆頭に、鈴木其一、池田弧村、田中抱二、鈴木守一から酒井道一ら、江戸から明治へと至った琳派に連なる絵師の作品が展示されていました。うち板橋区立美術館のマスコット的存在でもある「大文字屋市兵衛像」は、抱一の手による作品で、吉原の妓楼大文字屋の当主の姿を、どこかコミカルに表していました。何とも愉快そうで人懐っこい表情が印象的で、当時は「かぼちゃの元成」とも呼ばれていたそうです。

鈴木其一では「芒野図屏風」が絶品でした。二曲一隻の銀地に墨でススキが広がる光景を描いて、線のみで表されているにも関わらず、画面に広がる月明かりとススキを揺らす風の存在を感じてなりません。また群青が殊更に眩しい「漁夫図」の精緻な描写も目立っていたのではないでしょうか。このほかに江戸琳派では抱一の弟子の池田弧邨の作品も目立っていた上、抱一の「鶯邨画譜」や其一ほかの「ももちどり」、それに中野其明の「尾形流百図」など、小品の画帳も充実していました。


岡本秋暉・羽田子雲「椿に孔雀図」江戸時代(19世紀) 摘水軒記念文化振興財団

幕末と明治の技巧派では、主に岡本秋暉、柴田是真、小原古邨の作品が集中して取り上げられていました。うち秋暉の「百花百鳥図」は、海堂や紫陽花、菊などの色とりどりの花々に囲まれる空間の中、50羽にも及ぶ鳥が飛んでいて、まるで鳥の楽園、ないし桃源郷を目の当たりにするかのようでした。

柴田是真では「花瓶梅図漆絵」が目を引きました。一見、木の板の上に漆で花瓶を描いたように見えますが、実は板の部分も全て紙で漆で描いていて、半ばトリックアートのような作品とも言えるかもしれません。なお本作のみ、ケースの中ではなく、展示室内で直に立てかけられて、まさに目と鼻の先で漆の質感を味わうことも出来ました。それにしても板の部分はまさに本物の木と見間違うようで、何度目にしてもおおよそ漆には思えません。

茅ヶ崎の展覧会で人気を博した小原古邨は14点ほど出展されていました。いずれの秋山武右衛門を版元とする滑稽堂の作品で、「五位鷺」や「花菖蒲に翡翠」などにおける水や花の繊細の色彩には透明感と瑞々しさがあり、まるで水彩を見ているかのようでした。

ラストは江戸の洋風画でした。ここでは小野田直武、司馬江漢、亜欧堂田善らの作品が並ぶ中、私が特に興味を覚えたのが、石川大浪、孟高の兄弟の洋風画家でした。兄の大浪は旗本の出身で、蘭書の挿絵などから、西洋の絵画を学んだそうです。西洋の天使を描いた、その名も「天使図」などに目を奪われました。


狩野典信「大黒図」 江戸時代(18世紀) 板橋区立美術館

さて間も無くリニューアルオープンする板橋区立美術館ですが、その概要などについて、同区の広報誌でも特集されています。



「広報いたばし◆魅力特集版」板橋区WEBサイト

最新の空調システムやLED照明が導入された上、外観、エントランス、展示室なども一新され、国宝や重要文化財も公開出来るようになりました。詳しくは上記リンク先のPDFファイルをご覧下さい。



一方で千葉市美術館についても、2020年1月より工事のために休館し、同年7月に拡張リニューアルオープンします。中央区役所が入居していた3〜5階部分へと美術館のスペースが拡がり、これまでの企画展示室だけでなく、常設展示室やアトリエ、図書室などが新たに整備されます。



会期中は無休です。23日間限定で、展示替えもありません。



「不便でごめん」などでお馴染みの板橋区立美術館の旗も出迎えてくれました。


6月23日まで開催されています。

「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展―夢のCHITABASHI美術館!?」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2019年6月1日(土)~6月23日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般200(160)円、大学生150(120)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「世紀末ウィーンのグラフィック-デザインそして生活の刷新にむけて」 目黒区美術館

目黒区美術館
「京都国立近代美術館所蔵 世紀末ウィーンのグラフィック-デザインそして生活の刷新にむけて」
2019/4/13~6/9



目黒区美術館で開催中の「京都国立近代美術館所蔵 世紀末ウィーンのグラフィック」を見てきました。

2015年、アパレル会社の創業者である平明暘氏の寄贈により、京都国立近代美術館には、世紀末ウィーンのグラフィック作品が数多く収蔵されました。


ウィーン工房(編)/マティルデ・フレークル、マリア・リカルツ(画)ほか「ウィーン・ファッション 1914/15 1・4・5号」 1914/1915年

そのコレクションが目黒区美術館へとやって来ました。ウィーン分離派のクリムト、シーレ、ココシュカにはじまり、オットー・ヴァーグナー、ヨーゼフ・ホフマン、カール・モル等々、約300点もの作品が一堂に公開されていました。


「ヴェル・サクルム:オーストリア造形芸術家協会機関誌」 1898年〜1903(1904)年

冒頭がウィーン分離派で、機関誌「ヴェル・サクルム」や分離派展のカタログなどが並んでいました。またカール・モルの「ヴェル・サクレム」のためのオリジナル版画も魅力的で、コロマン・モーザー邸でもあった「ホーエ・ヴァルテの住宅」の素朴な質感にも目を引かれました。


「エゴン・シーレの素描」 1917年

「エゴン・シーレの素描」も目立っていたのではないでしょうか。ここでは細かに震えるような線を重ねて描いていて、どこか歪みを伴ったような独特の人物造形を見ることが出来ました。またクリムトの習作やココシュカのスケッチも、合わせて何点か出展されていました。


「世紀末ウィーンのグラフィック」会場風景

ウィーン世紀末は新しいデザインが花開いた時代でもありました。1903年には、ヨーゼフ・ホフマンとモーザーらにより、ウィーン工房が設立され、デザインの教育改革を推進していたウィーン工芸学校とともに、多様なデザインが生み出されました。


マルティン・ゲルラハ(編)/カール・オットー・チュシュカ、コロマン・モーザー、グスタフ・クリムトほか(画)「アレゴリー、新シリーズ、著名現代芸術家によるオリジナルデザイン」 1900年頃

ベルトルト・レフラーの「ディ・フレッヒェ(平面)」をはじめ、クリムトらの手がけた「アレゴリー、新シリーズ、著名現代芸術家によるオリジナルデザイン」などの幻想的なデザインは、いつの時代も全く古びることはありません。

ウィーン分離派の芸術家にとって重要だったのは、銅版よりも木版の表現でした。その1つの切っ掛けとなったのが、19世紀後半の日本の多色木版画のブームで、ウィーンでも分離派展などにおいて浮世絵が紹介されました。ただし彫りや摺りが分業されていた日本の木版と異なり、一人の芸術家が制作の全てを手がけていました。

そうした木版は、絵画と比べて安価であったことから、多くの人々に普及し、日々の生活に根ざしていきました。また新たなグラフィックは、何も美術雑誌だけでなく、ポスターやカレンダーなどの日常的な品や、書籍の装丁にも取り入れられました。まさにそれこそがタイトルにもあるように、デザインにおける「生活の刷新」だったのかもしれません。


エデッタ・モーザー「トランプカード」 1905年

ともかく右も左も心奪われるデザインばかりで、どれか一点をあげるのは困難でしたが、エデッタ・モーザーによる「トランプ・カード」や「カレンダー」などは、一目で頭に焼きつくような、ビジュアルとして強い作品と言えるかもしれません。


ベルトルト・レフラー(編)「ディ・フレッヒェ(平面)」 1910/1911年

現在、東京では東京都美術館の「クリムト展」、国立新美術館の「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展、そしてここ目黒区美術館での「世紀末ウィーンのグラフィック展」と、クリムトやウィーン世紀末に関する展覧会が立て続けに開かれています。


「世紀末ウィーンのグラフィック」会場風景

いずれも三者三様で切り口は異なりますが、これほど一連の作品をまとめて追える機会など滅多にありません。思わず手元に寄せて愛でたくなるようなデザインの数々に、強く引かれるものを感じました。


「世紀末ウィーンのグラフィック」会場入口

会期当初は、一部を除き、1階と2階の全ての展示室の撮影が可能でしたが、途中から「安全上の理由他」(美術館公式ツイッター)により、2階の撮影が出来なくなりました。(本エントリの写真は、全展示室撮影可の期間に撮影しました。)


間もなく会期末です。6月9日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。

「京都国立近代美術館所蔵 世紀末ウィーンのグラフィック-デザインそして生活の刷新にむけて」 目黒区美術館@mmatinside
会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)
休館:月曜日。但し4月29日(月・祝)及び5月6日(月・休)は開館し、4月30日(火・休)及び5月7日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
 *入館は17時半まで。
料金:一般800(600)円、大高生・65歳以上600(500)円、小中生無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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2019年6月に見たい展覧会【夢のCHITABASHI(ちたばし)美術館/マンモス/メスキータ】

GWはやや不順な天候が続いていましたが、5月は月末に一気に暑くなり、東京では観測史上初めての4日連続の真夏日を記録しました。あまりにもの気候の変動ゆえに、体調を崩されている方も少なくありませんが、いかがお過ごしでしょうか。

5月に見た展覧会の中では、まだ感想をまとめられていませんが、DIC川村記念美術館の「ジョセフ・コーネル コラージュ&モンタージュ」展が一番印象に残りました。いわゆる箱の作品で知られるコーネルですが、それ以外の平面コラージュや、知られざる映像も公開していて、相互に響きあうコーネルの創作を検証していました。漠然と箱のイメージのあったコーネルでしたが、初めて芸術家の全体像を知ったような気がしました。

6月も興味深い展覧会が少なくありません。いつものようにリストアップしてみました。

展覧会

・「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」 東京ステーションギャラリー(~6/16)
・「江戸の街道をゆく~将軍と姫君の旅路」 江戸東京博物館(~6/16)
・「鎌倉禅林の美 円覚寺の至宝」 三井記念美術館(~6/23)
・「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 ―夢のCHITABASHI美術館」 千葉市美術館(~6/23)
・「ユーモアてん。/SENSE OF HUMOR」 21_21 DESIGN SIGHT(~6/30)
・「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」 Bunkamura ザ・ミュージアム(~6/30)
・「デザインの(居)場所」 東京国立近代美術館工芸館(~6/30)
・「キスリング展 エコール・ド・パリの夢」 東京都庭園美術館(~7/7)
・「棟方志功展」 府中市美術館(~7/7)
・「はじめての古美術鑑賞 絵画のテーマ」 根津美術館(~7/7)
・「ゆかた 浴衣 YUKATA―すずしさのデザイン、いまむかし」 泉屋博古館分館(~7/7)
・「宮本隆司 いまだ見えざるところ」 東京都写真美術館(~7/15)
・「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」 ちひろ美術館・東京(~7/28)
・「華めく洋食器 大倉陶園100年の歴史と文化」 渋谷区立松濤美術館(6/8~7/28)
・「生誕125年記念 速水御舟」 山種美術館(6/8~8/4)
・「遊びの流儀 遊楽図の系譜」 サントリー美術館(6/26~8/18)
・「メスキータ」 東京ステーションギャラリー(6/29~8/18)
・「唐三彩 ―シルクロードの至宝」 出光美術館(6/22~8/25)
・「新収蔵浮世絵コレクション」 國學院大學博物館(6/29~8/25)
・「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」 国立新美術館(6/12~9/2)
・「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」 国立西洋美術館(6/11~9/23)
・「塩田千春展:魂がふるえる」 森美術館(6/20~10/27)
・「マンモス展」 日本科学未来館(6/7~11/4)

ギャラリー

・「大宮エリー Peace within you」 小山登美夫ギャラリー(~6/15)
・「熊谷亜莉沙|Single bed」 ギャラリー小柳(~6/22)
・「JAGDA新人賞展2019 赤沼夏希・岡崎智弘・小林一毅」 クリエイションギャラリーG8(~6/29)
・「大竹伸朗 1975-1989 」 Take Ninagawa(~6/29)
・「赤松音呂展 Meteon」 ミヅマアートギャラリー(~6/29)
・「Ryu Itadani ENJOY the VIEW」ポーラ ミュージアム アネックス(6/7~6/30)
・「STEP IN CHANEL –わたしがシャネルと出会ったら、」 CHANEL NEXUS HALL(6/22~7/4)
・「横尾忠則 B29と原郷-幼年期からウォーホールまで」 SCAI THE BATHHOUSE(~7/6)
・「Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅」 渋谷ヒカリエd47 MUSEUM(~7/8)
・「αMプロジェクト2019『東京計画2019』 vol.2 風間サチコ」 ギャラリーαM(~7/13)
・「中山英之展 , and then」 TOTOギャラリー・間(~8/4)
・「台所見聞録-人と暮らしの万華鏡」 LIXILギャラリー東京(6/6~8/24)
・「アルフレド&イザベル・アキリザン展」 アートフロントギャラリー(6/19~8/4)
・「宮島達男 Counting」 Akio Nagasawa Gallery Ginza(〜8/31)

まずは日本美術です。まさに1度限りの夢のコラボ企画となるかもしれません。千葉市美術館で「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 ―夢のCHITABASHI(ちたばし)美術館」がはじまります。



「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 ―夢のCHITABASHI(ちたばし)美術館」@千葉市美術館(6/1~6/23)

これは千葉市美術館と、現在、改修工事のために休館中の板橋区立美術館の所蔵品を併せて紹介するもので、江戸の琳派から幕末明治の小原古邨までの計120点の作品が公開されます。もちろんこのような形でコレクションが展示されるのは初めてのことでもあります。


「ちたばし」とは聞き慣れない言葉ではありますが、ともに古美術コレクションで定評のある美術館だけに、優品揃いの展覧会になることは間違いありません。

大胆な先行チラシのビジュアルも目を引きました。日本科学未来館にて「マンモス展」が開催されます。



「マンモス展」@日本科学未来館(6/7~11/4)

面積の40%が北極圏であるロシアのサハ共和国では、近年、永久凍土からマンモスなどの古生物の冷凍標本が次々と発掘されてきました。その成果を披露するのが「マンモス展」で、2005年の「愛・地球博」でも人気を博した「ユカギルマンモス」の頭部をはじめ、世界初公開の「ケナガマンモス」の鼻や「ユカギルバイソン」など数々の冷凍標本が、過去最大級のスケールで出展されます。


また近畿大学生物理工学部の「マンモス復活プロジェクト」の研究も紹介され、最先端の生命科学の在り方について考える内容にもなるそうです。「マンモス」と銘打った大規模展は必ずしも多くないだけに、この夏、恐竜展などと並んで、かなり注目を集めるかもしれません。

日本でも本格的な受容のきっかけとなるかもしれません。19世紀から20世紀にかけてのオランダで活動した、ミュエル・イェスルン・デ・メスキータの国内初の回顧展が、東京ステーションギャラリーにて行われます。



「メスキータ」@東京ステーションギャラリー(6/29~8/18)

1868年にユダヤ系の家庭の生まれたメスキータは、版画家や装飾美術のデザイナーとして活動し、木版画やドローイングを制作しつつ、雑誌の表紙や挿絵、染織のデザインなどを手がけました。また、美術学校の教師やアカデミーの教授も務め、エッシャーらの芸術家にも多様な影響を与えました。

しかし1940年、ナチスがオランダを占領すると、ユダヤ人であることから迫害を受け、ついに1944年、家族とともに拘束され、強制収容所で殺されてしまいます。ただ作品はエッシャーらの友人が保管し続け、近年はヨーロッパでカタログが刊行されるなど、改めて評価する機運が高まってきました。

チラシや画像からしても鮮烈なビジュアルです。「オランダの最も重要なグラフィック・アーティストの1人」とも称されるメスキータの世界を知る絶好の機会となるのではないでしょうか。


このほか、現代美術ファンとしては、大阪から巡回してくる「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」(国立新美術館、6/12~9/2)や、作家の25年の集大成となる「塩田千春展:魂がふるえる」(森美術館、6/20~10/27)も見逃せない展覧会と言えるかもしれません。ともに早々に見に行きたいと思います。

それでは今月も宜しくお願いします。
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