都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』 アーティゾン美術館
『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』
2023/6/3~8/20
ヴァシリー・カンディンスキー『自らが輝く』 1924年 石橋財団アーティゾン美術館
フランスを中心としたヨーロッパ、およびアメリカ、また日本における抽象絵画の展開をたどる展覧会が、アーティゾン美術館にて開かれています。
それが『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』で、石橋財団のコレクションを中心に、国内外の美術館、また個人蔵の作品をあわせ約250点もの作品が公開されていました。
ウィレム・デ・クーニング『リーグ』 1964年 石橋財団アーティゾン美術館
今回の『ABSTRACTION』の見どころとしてあげられるのが、20世紀美術の抽象絵画の歴史を、その発生からおおよそ1960年代までの展開に沿って紹介していることで、オルフィスムやバウハウス、また戦後アメリカの抽象表現主義から日本の具体などと幅広く網羅していました。
フランティセック・クプカ『赤い背景のエチュード』 1919年頃 石橋財団アーティゾン美術館
またアーティゾン美術館における近年の新収蔵作品が95点も公開されていて、人気のカンディンスキーやクレーはもとより、国内ではなかなかまとめて見る機会の少ないドローネーやクプカの優れた作品も鑑賞することができました。
ロベール・ドローネー『街の窓』 1912年 石橋財団アーティゾン美術館
さらに海外からポンピドゥー・センターやフィリップス・コレクションなどの美術館、また個人コレクションからも初公開作品を含む計30点余りの作品がやって来ていて、展示にいわば厚みを与えていました。これほどのスケールで抽象表現に関する作品を目にすること自体が、極めて稀といえるかもしれません。
ザオ・ウーキー『07.06.85』 1985年 石橋財団アーティゾン美術館
フランス抽象絵画を切り開いたアルトゥング、スーラージュ、ザオ・ウーキーの3名の作家の後期作品に着目した展示も見どころだったのではないでしょうか。
リタ・アッカーマン『愚かな風』 2022年
このほか、リタ・アッカーマン、鍵岡リグレ アンヌ、婁正綱ろうせいこう、津上みゆき、柴田敏雄、髙畠依子、横溝美由紀といった現代の7名の作家の作品を紹介する展示も充実していました。
モーリス・エステーヴ『ブーローニュ』 1957年 石橋財団アーティゾン美術館
イロハニアートにも展覧会の見どころについて寄稿しました。
アーティゾン美術館で開催中の『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開』見どころは? | イロハニアート
ジョルジュ・マチュー『10番街』 1957年 石橋財団アーティゾン美術館
先日の日曜(16日)の午後に改めて出向いてきましたが、会場内は混雑こそしていないものの、思いの外に賑わっていました。
マーク・トビー『傷ついた潮流』 1957年 石橋財団アーティゾン美術館
会期も残すところ約1ヶ月を切り、夏休みにかけて混み合うかもしれません。事前にウェブサイトよりチケットを購入しておくことをおすすめします。
\👀大型作品を体感しよう✨/#ABSTRACTION 展
— artizonmuseumjp (@artizonmuseumJP) July 14, 2023
🟧 セクション7「抽象表現主義」
抽象表現主義は第二次世界大戦後から1950年代にかけて展開したアメリカ絵画の潮流を指します。
本展ではウィレム・デ・クーニング、#ポロック、#ロスコ らに加え、同時代に活躍した女性画家の作品も多数ご紹介します🌟 pic.twitter.com/NXClvxz3Cq
8月20日まで開催されています。
『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』 アーティゾン美術館(@artizonmuseumJP)
会期:2023年6月3日(土)~8月20日(日)
休館:月曜日(7月17日は開館)、7月18日。
時間:10:00~18:00
*8月11日を除く毎週金曜日は20時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1800円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
*事前日時指定予約制。
*ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(2000円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
『宇治野宗輝個展 ロスト・フロンティア』 ANOMALY
『宇治野宗輝個展 ロスト・フロンティア』
2023/7/7〜8/5
1964年に生まれ、サウンド・スカルプチュアやパフォーマンスを手がける宇治野宗輝の個展が、東京・東品川のANOMALYにて開かれています。
それが『ロスト・フロンティア』と題した展示で、新作の映像、およびサウンド・スカルプチュアと映像の複合作品、または日本起源でない巻き寿司シリーズをモチーフとしたペインティングなどが展示されていました。
このうちの『Lost Frontier』と『Homy & The Rotators』とは、今年100歳を迎えた宇治野の母の過去から着想を得て制作された映像、もしくはサウンド・スカルプチュアを組み合わせた作品で、旧満洲にて生まれ育った母が当時の移民としての暮らしをサウンド・スカルプチュアによる響きを背景に語っていました。
女学校時代の思い出にはじまり、当時の生活を話す母は、澱みない口調で過去の記憶を呼び覚ましていて、いわば個人的な体験を赤裸々に明かしていました。
宇治野といえば、2017年の「ヨコハマトリエンナーレ 2017 島と星座とガラパゴス」(横浜赤レンガ倉庫1号館)での大がかりなインスタレーション、『プライウッド新地』を思い出しますが、今回は母という身近な存在の記憶を作品に取り込むことで、よりメッセージ性を帯びた重層的な内容となっていたかもしれません。
サウンド・スカルプチュアのビートに乗りながら、母が故郷の満洲で最も好きな食事だったいう餃子の思い出を語る光景も印象に深いのではないでしょうか。サウンド・スカルプチュアをバンドに見立てれば、あたかも母がボーカルを務めているかのようでした。
【新着】母の戦時下での体験から浮かび上がるメッセージとは?宇治野宗輝の個展がANOMALYにて開催中 https://t.co/8tJGTATxf6
— Pen Magazine (@Pen_magazine) July 18, 2023
一部内容が重なりますが、展示の見どころについてPenオンラインに寄稿しました。
母の戦時下での体験から浮かび上がるメッセージとは?宇治野宗輝の個展がANOMALYにて開催中|Pen Online
8月5日まで開かれています。
『宇治野宗輝個展 ロスト・フロンティア』 ANOMALY
会期:2023年7月7日(金)〜8月5日(土)
休廊:日、月、祝祭日。
時間:12:00~18:00。
料金:無料
住所:品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
交通:東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩約8分。東京モノレール羽田空港線天王洲アイル駅中央口より徒歩約11分。京浜急行線新馬場駅より徒歩12分。
『Ando Gallery』 兵庫県立美術館
『Ando Gallery』
2019/5〜
建築家、安藤忠雄の手がけた兵庫県立美術館には、安藤本人からの寄贈、および展示物の寄託によって安藤建築を紹介する『Ando Gallery』が設けられています。
まず展示されているのは、安藤が阪神・淡路大震災からの復興のために行った活動や記録、およびプロジェクトで、自らのメモや兵庫県立美術館に関する模型や資料も展示されていました。
さらに安藤は六甲の集合住宅や小篠邸など、兵庫県内に数多くの建築物を手がけていて、そうした仕事も模型などを通して知ることができました。
このほか、安藤の原点でもある住吉の長屋をはじめ、代表的な作品のひとつともいえる光の教会の1/10のコンクリート模型も興味深いかもしれません。それに地中美術館をはじめとする直島での一連のプロジェクトや、2020年7月にオープンした『こども本の森 中之島』に関する展示も見入るものがありました。
また数多くの書籍が壁一面に並ぶ安藤の仕事場を紹介する展示も目を引きました。
屋外の海のデッキでは、アメリカの詩人・サムエル・ウルマンの詩「青春」をモチーフに、安藤がデザインした巨大なオブジェ『青りんご』も公開されていました。
ハーバーウォークに面した円形広場から大階段など、ランドスケープを築くような安藤の美術館建築と合わせて楽しむのも良いかもしれません。
『Ando Gallery』は無料にて観覧することができます。*休館日は美術館休館日と同じ。
『Ando Gallery』 兵庫県立美術館(@hyogoartm)
会期:2019年5月オープン
休館:県立美術館休館日に同じ
時間:10:00~18:00
*入場は閉館の30分前まで。
料金:無料。
住所:神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1(HAT神戸内)
交通:阪神電車岩屋駅(兵庫県立美術館前)から南へ徒歩約8分。JR線灘駅南口より徒歩約10分。
『横尾忠則 原郷の森』 横尾忠則現代美術館
『横尾忠則 原郷の森』
2023/5/27~8/27
美術家の横尾忠則が出版した小説『原郷の森』にあわせて、小説の世界観を視覚的に体感できる展覧会が、横尾忠則現代美術館にて開かれています。
それが『横尾忠則 原郷の森』で、森を模した空間には横尾の絵や版画などの作品が、小説から抽出された言葉とともに展示されていました。
まず目に飛び込んでくるのが、暗がりの中、木漏れ日のような照明によって映された大型の絵画で、四方の壁だけでなく、展示室の中に設置された造形物にも並んでいました。
それらは時に行手を阻むように立っていて、まさに森を彷徨うかのようにして作品を見て歩くように作られていました。
小説『原郷の森』とは、主人公のYが三島由紀夫と宇宙霊人に導かれ、美術、小説、映画などさまざまな分野で名を残した人々と芸術や人生について語り合うもので、2022年に文藝春秋より発表されました。
そこにはピカソやキリコといった横尾が私淑する芸術家をはじめ、黒澤明らといった交流のあった文化人、または親鸞にブッダといった280名もの人物が登場して、彼らが入れ替わり立ち替わり現れては思い思いの言葉を残す内容となっていました。
そして彼らの存在は横尾の人生に何らかの影響を及ぼしたと言われていて、芸術観の形成にも関わってきました。
ともかく作品は「首吊り縄」の登場するモチーフから有名な「Y字路」シリーズに「ピンクガール」、さらに近年集中して描いている「寒山拾得」などと多岐にわたっていて、横尾の集大成ともいうべく作品世界を見ることができました。
このほかには建築家の武松幸治の監修で作られた、キュミラズム・トゥ・アオタニも面白いのではないでしょうか。
窓外に広がる摩耶山麓の風景が不定形なミラーに反射し、万華鏡のような空間を築いていて、しばらく滞在しているといつしか横尾のコラージュの中に入り込んでいるような錯覚を覚えました。
横尾忠則現代美術館は、兵庫県西脇市に生まれた横尾忠則からの寄贈、および寄託作品を保管し、広く公開するために開設された美術館で、兵庫県立美術館王子分館の西館をリニューアルし、2012年11月にオープンしました。
「横尾忠則 原郷の森」展 記録集の販売が始まりました!作品や関連図版50点に加え、展覧会場風景も収録。原郷の森をさまようためのガイドに、または当館にお越しいただいた思い出にいかがですか。本書は当館ミュージアムショップのほか、ウェブからもご購入いただけますhttps://t.co/sGaiPILrmm pic.twitter.com/JpeboB6Uen
— 横尾忠則現代美術館 (@YTmocaStaff) July 13, 2023
一部作品を除いて撮影も可能でした。
8月27日まで開催されています。
『横尾忠則 原郷の森』 横尾忠則現代美術館(@YTmocaStaff)
会期:2023年5月27日(土) ~8月27日(日)
休館:月曜日。ただし7月17日(月・祝)は開館し、7月18日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(550)円、大学生550(400)円、70歳以上350(250)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:神戸市灘区原田通3-8-30
交通:阪急電車王子公園駅より徒歩約6分。JR線灘駅より徒歩約10分。
2023年下半期に見たい展覧会5選
「Pen」が選んだ、2023年下半期「必見の展覧会」5選|Pen Online
ここで取り上げたのは以下の5展です。(会期順)
1.『デイヴィッド・ホックニー展』@東京都現代美術館【7/15〜11/5】
2.『生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』@青森県立美術館【7/29〜9/24】
3.『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』@アーティゾン美術館【9/9~11/19】
4.『イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル』@国立新美術館【9/20~12/11】
5.『パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展―美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ』@国立西洋美術館【10/3~2024/1/28】
「Pen」が選んだ、2023年下半期「必見の展覧会」5選美術館に多くの人々が戻ってきた2023年。特に見ておきたい展示をピックアップし、会期順に紹介する。https://t.co/wLLGwTwXrR pic.twitter.com/X8ZTwB5tPH
— Pen Magazine (@Pen_magazine) July 4, 2023
この他にも今年の下半期に期待したい展覧会がいくつもあります。そこで「Pen」にて取り上げられなかったものの中で、年末までに開催される展覧会をいくつかピックアップしてみました。(巡回展を含みます)
・「民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある」 大阪中之島美術館 2023年7月8日(土)〜9月18日(月祝)
・「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」 国立新美術館 2023年7月12日(水) ~10月 2日(月)
・「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画 横山大観、杉山寧から現代の作家まで」 ポーラ美術館 2023年7月15日(土)~2月3日(日)
・「虫めづる日本の人々」 サントリー美術館 2023年7月22日(土)~9月18日(月・祝)
・「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」 DIC川村記念美術館 2023年7月29日(土) 〜11月5日(日)
・「インド細密画の世界(仮)」 府中市美術館 2023年9月16日(土)〜11月26日(日)
・「井田幸昌展 Panta Rhei | パンタ・レイ― 世界が存在する限り」 京都市京セラ美術館 2023年9月30日(土)~12月3日(日)
・「ホンマタカシ(仮)」 東京都写真美術館 2023年10月6日(金)〜2024年1月21日(日)
・「特別展 生誕270年 長沢芦雪」 大阪中之島美術館 2023年10月7日(土)~12月3日(日)
・「京都画壇の青春―栖鳳、松園につづく新世代たち」 京都国立近代美術館 2023年10月13日(金)~12月10日(日)
・「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」 SOMPO美術館 2023年10月17日(火)〜2024年1月21日(日)
・「モネ 連作の情景」 上野の森美術館 2023年10月20日(金)~2024年1月28日(日)
・「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」東京国立博物館 2023年10月11日(水) ~12月3日(日)
なお会期の変更などが行われる場合があります。最新の開館状況については各美術館のWEBサイトにてご確認ください。
『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』 東京国立博物館・平成館
『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』
2023/6/16~9/3
北アメリカ南部のメキシコでは、前15世紀から後16世紀の約3千年以上にわたって独自の文明を築き、人々は神を信仰し時に畏怖しながら、大神殿やピラミッドなどの壮大なモニュメントを築きました。
そうした諸文明のうちマヤ、アステカ、テオティワカンに着目したのが今回の展覧会で、会場では近年の発掘調査の成果を交えながら、メキシコ国内の主要博物館から選ばれた約140件の品々を公開していました。
『チコメコアトル神の火鉢(複製)』 原品:アステカ文明 1325〜1521年 メキシコ国立人類学博物館
まず3つの文明に入る前に取り上げられていたのが、前1500年頃にメキシコ湾岸部に興ったオルメカ文明でした。これはメソアメリカで展開する多彩な文明のルーツともいわれていて、マヤ、アステカ、テオティワカンに通底するキーワードとして「トウモロコシ」、「天体と暦」、「球技」、そして「人身供犠」を紹介していました。
『死のディスク石彫』 テオティワカン文明 300〜550年 メキシコ国立人類学博物館
これに続くのが、紀元前100年頃、メキシコ中央高原の海抜2300メートルほどの盆地におこり、550年頃まで栄えたのがテオティワカンでした。
『シパクトリ神の頭飾り石彫』、『羽毛の蛇神石彫』 ともにテオティワカン文明、200〜250年 テオティワカン考古学ゾーン
テオティワカンは死者の大通りと呼ばれる巨大空間を中心に、ピラミッドや儀礼の場、官僚の施設、居住域などが建ち並ぶ計画都市を築いていて、約25㎢の面積の中に最大10万人が暮らしました。
『香炉台』 マヤ文明 680〜800年 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館
3つの文明で最も古いのは紀元前1200年頃におこり、後1世紀頃に王朝が成立したマヤでした。マヤでは250年から950年にかけて、ピラミッドをはじめとする公共建築や集団祭祀などを特徴とした都市文化を築き上げていて、14世紀頃には独自色が薄れたとされるものの、スペインの侵攻を受けるまで文明が続きました。
『96文字の石板』 マヤ文明 783年 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館
このマヤで興味深いのは、表語文字と音節文字から構成されたマヤ文字で、とりわけ古典期マヤを代表する都市国家パレンケの王宮の遺跡より発見された『96文字の石板』に目を引かれました。
『チャクモール像』 マヤ文明 900〜1100年 ユカタン地方人類学博物館 カントン宮殿
またマヤではパレンケのパカル王(在位:615〜683年)の妃と考えられる人物の出土品のほか、神への捧げ物を置いたという石像の『チャクモール像』も目立っていたかもしれません。3つの文明の展示におけるいわばハイライトを築いていました。
『鷲の戦士像』 アステカ文明 1469〜86年 テンプロ・マヨール博物館
このほか、ラストのアステカでは『鷲の戦士像』や古代メキシコでは珍しい金の製品なども見どころだったかもしれません。会場内の撮影も可能でした。
「パカル王と赤の女王 パレンケの黄金時代」より「赤の女王」出土品展示風景
一部内容が重複しますが、イロハニアートへも展示について寄稿しました。
マヤ、アステカ、テオティワカン─古代メキシコ文明の壮大な遺産とは?『古代メキシコ』展見どころ紹介 | イロハニアート
傾向として、木曜日はちょっとお客様の数が少なめ🤔少しでも混雑を避けたい方は、会期早めの平日がオススメですYO📣アトランティス像が両手を挙げて迎えてくれます🙌(注:ほかの曜日も挙げています) pic.twitter.com/MuM2St5U6n
— 特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」 (@mexico2023_24) July 6, 2023
9月3日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、九州国立博物館(2023年10月3日~12月10日)、国立国際美術館(2024年2月6日~5月6日)へと巡回します。
『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』(@mexico2023_24) 東京国立博物館・平成館 特別展示室(@TNM_PR)
会期:2023年6月16日(金) ~9月3日(日)
休館:月曜日。ただし7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館し、7月18日(火)は休館。
時間:9:30~17:00
*土曜日は19:00まで開館。
*6月30日(金)~7月2日(日)、7月7日(金)~9日(日)は20:00まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2200円、大学生1400円、高校生1000円、中学生以下無料。
*当日に限り総合文化展も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
東京都写真美術館にて『本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語』が開かれています
その本橋とドアノーの写真を紹介するのが『本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語』で、展示の見どころなどについてPenオンラインに寄稿しました。
日仏のふたりの写真家が見つめた市井の人々。『本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語』展|Pen Online
今回の展覧会ではふたりの写真家の作品を「劇場と幕間」、「街・劇場・広場」、「人々の物語」などのテーマに分けて紹介していて、例えば「街・劇場・広場」ではドアノーの捉えたレ・アール市場と本橋の築地市場の写真を見比べることができました。
ともにヒューマニズム写真家である本橋とドアノーは、常に市井の人々に寄り添い、共感をもって写し出していて、そこには厳しい社会の中で翻弄されつつも、慎ましく、また懸命に生きる人たちの誇りや輝きが表されているかのようでした。
このほか、ドアノーが晩年にパリ郊外をカラーで撮影した写真も見どころだったかもしれません。また本橋では2022年に奈良美智のアトリエを写した近作も公開されていました。
【新着】日仏のふたりの写真家が見つめた市井の人々。『本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語』展 https://t.co/3OEtcs5990
— Pen Magazine (@Pen_magazine) July 5, 2023
出品数は本橋125点、ドアノー111点の計236点と充実していて質量ともに不足がありません。なお本橋の『沖縄 与那国島』の11点、および『家族写真』の9点は美術館では初めての公開となります。
9月24日まで開催されています。
『本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語』 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2023年6月16日(金)~9月24日(日)
休館:月曜日。(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
時間:10:00~18:00
*木・金曜日は20時まで。ただし7/20〜8/31の木・金は21時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般800(640)円、学生640(510)円、中高生・65歳以上400(320)円。
*( )は20名以上の団体料金。
*7月20日(木)〜8月31日(木)の木・金曜日の17:00〜21:00はサマーナイトミュージアム割引:学生・中高生無料、一般・65歳以上は団体料金。
場所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
2023年7月に見たい展覧会【甲斐荘楠音/デイヴィッド・ホックニー/シン・ジャパニーズ・ペインティング】
7月も注目の展覧会が少なくありません。今月に見たい展覧会をリストアップしてみました。
展覧会
・「本の芸術家・武井武雄展」神奈川近代文学館(6/3~7/23)
・『2023イタリア・ボローニャ国際絵本原画展』板橋区立美術館(6/24~8/13)
・『日本のタイル100年—美と用のあゆみ』 江戸東京たてもの園(3/11~8/20)
・『物語る絵画 涅槃図・源氏絵・舞の本』 根津美術館(7/15~8/20)
・『蔡國強 宇宙遊 ―<原初火球>から始まる』 国立新美術館(6/29~8/21)
・『練馬区立美術館コレクション+植物と歩く』 練馬区立美術館(7/2~8/25)
・『イギリス風景画と国木田独歩』 茅ヶ崎市美術館(6/18~8/27)
・『北斎 大いなる山岳』 すみだ北斎美術館(6/20~8/27)
・『マルク・シャガール 版にしるした光の詩 神奈川県立近代美術館コレクションから』 世田谷美術館(7/1~8/27)
・『私たちは何者? ボーダレス・ドールズ』 渋谷区立松濤美術館(7/1~8/27)
・『甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性』 東京ステーションギャラリー(7/1~8/27)
・『フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン』 東京都庭園美術館(6/24~9/3)
・『聖像・仏像・彫像 柳宗悦が見た「彫刻」』 日本民藝館(6/29~9/3)
・『スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた』 国立西洋美術館(7/4~9/3)
・『ソール・ライターの原点 ニューヨークの色』 渋谷ヒカリエホール(7/8~8/23)
・『杉浦非水の大切なもの 初公開・知られざる戦争疎開資料』 川越市立美術館(7/8~9/3)
・『中村直人 モニュメンタル/オリエンタル』 目黒区美術館(7/15~9/3)
・『生誕100年 山下清展ー百年目の大回想』 SOMPO美術館(6/24~9/10)
・『開館20周年記念展 中川衛 美しき金工とデザイン』 パナソニック汐留美術館(7/15~9/18)
・『虫めづる日本の人々』 サントリー美術館(7/22~9/18)
・『野又穫 Continuum 想像の語彙』 東京オペラシティ アートギャラリー(7/6~9/24)
・『冨安由真 影にのぞむ』 原爆の図丸木美術館(7/8~9/24)
・『横尾龍彦 瞑想の彼方』 埼玉県立近代美術館(7/15~9/24)
・『挑発関係=中平卓馬×森山大道』 神奈川県立近代美術館 葉山館(7/15~9/24)
・『開館10周年記念展 湖の秘密—川は湖になった』 市原湖畔美術館(7/15~9/24)
・『エルマーのぼうけん展』 PLAY! MUSEUM(7/15~10/1)
・『テート美術館展 光 —ターナー、印象派から現代へ』 国立新美術館(7/12~10/2)
・『Material, or』 21_21 DESIGN SIGHT(7/14~11/5)
・『デイヴィッド・ホックニー展』 東京都現代美術館(7/15~11/5)
・『特集展示 堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春』 半蔵門ミュージアム(7/19~11/5)
・『ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室』 DIC川村記念美術館(7/29~11/5)
ギャラリー
・『坂本夏子 TILES | SIGNALS — UNEXPECTED DIMENSIONS』 Kanda & Oliveira(7/1~8/5)
・『第25回亀倉雄策賞受賞記念 三澤遥 個展「Just by」』 クリエイションギャラリーG8(7/4~7/27)
・『近藤聡乃展「ニューヨークで考え中」』 ミヅマアートギャラリー(7/5~8/12)
・『宇治野宗輝 個展Lost Frontier』 ANOMALY(7/7~ 8/5)
・『ジュリア・チャン Remember That Time When What』 NANZUKA UNDERGROUND(7/15~8/13)
・『小杉幸一 グラフィックパーク』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(7/11~8/21)
・『ケリス・ウィン・エヴァンス個展』 エスパス ルイ・ヴィトン東京(7/20~2024/1/8)
まずは大正から昭和初期に活動した芸術家の展覧会です。東京ステーションギャラリーにて『甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性』が開かれます。
『甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性』@東京ステーションギャラリー(7/1~8/27)
これは当時、革新的な日本画表現を求めた「国画創作協会」の一員として活動した甲斐荘の仕事を紹介するもので、絵画はもとよりスクラップブック、写生帖、はたまた映像などの作品と資料が展示されます。またかねてより画家として知られる甲斐庄の映画人、演劇人としての活動についても掘り下げられます。
なお同展は京都国立近代美術館よりの巡回展で、東京の美術館としては初めての甲斐荘の回顧展となります。
続いては現代美術です。東京都現代美術館にて『デイヴィッド・ホックニー展』が行われます。
『デイヴィッド・ホックニー展』@東京都現代美術館(7/15~11/5)
1937年にイギリスで生まれたホックニーは、1964年にロサンゼルスに移住すると、アメリカ西海岸の陽光あふれる情景を描いた絵画で注目を集め、以来、60年以上にわたって絵画、版画、写真、舞台芸術などの分野で幅広く活躍してきました。
【作品紹介】イギリスの「春」の風景を題材にした 〈春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年〉シリーズ。幅10㍍✕高さ3.5㍍という壮大なスケールの油彩画には、沸き立つ生命の躍動が色彩豊かに表現されています。▶#ホックニー展 チケットはhttps://t.co/Ntt3dKfAi0 pic.twitter.com/ZPESLEOZ8W
— デイヴィッド・ホックニー展【公式】 (@hockney2023) July 3, 2023
今回の展示ではホックニーの新旧作、約120点を紹介するもので、コロナ禍の中にiPadにて描かれた全長90メートルの新作など最近の制作も公開されます。実に国内では27年ぶりの個展だけに、期待されている方も多いかもしれません。
最後は箱根のポーラ美術館です。『シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画 横山大観、杉山寧から現代の作家まで』が開催されます。
『シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画 横山大観、杉山寧から現代の作家まで』@ポーラ美術館(7/15~12/3)
【閉幕御礼】本日をもって #部屋のみる夢 は閉幕いたしました。会期中は多くのお客様にお越しいただき、誠にありがとうございました。次回展 #シンジャパニーズペインティング は7月15日(土)より開幕いたします。#ポーラ美術館 13年振りとなる大規模な日本画展です!どうぞご期待ください✨ pic.twitter.com/KzoEaJeRZR
— 【公式】ポーラ美術館 (@promotion_pma) July 2, 2023
ここでは明治以降に確立した「日本画」というジャンルに着目し、明治、大正、昭和に活動した画家だけでなく、三瀬夏之介や野口哲哉、さらに山本基や蔡國強らの現代で創作を続けるアーティストについても取り上げられます。
同館では2010年に近現代の日本画コレクションを公開する展覧会を行いましたが、さらにアップデートした意欲的な日本画展となりそうです。
一部内容が重複しますが、イロハニアートにも7月のおすすめの展覧会を寄稿しました。
【7月のおすすめ展覧会5選】テート美術館展からソール・ライター、デイヴィッド・ホックニーの個展まで。 | イロハニアート
それでは今月もどうぞよろしくお願いいたします。
『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』 千葉市美術館
『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』
2023/6/10~9/10
動物を樟で彫る「ANIMALS(アニマルズ)」で知られる彫刻家、三沢厚彦は、近年、空想上の麒麟やキメラといった複数の動物のイメージを組み合わせる表現を手がけるなど、大型の木彫も精力的に制作してきました。
その三沢の千葉県初の個展が『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』で、多次元をテーマに、1990年代の初期未発表作から最新作までの約200点の彫刻と絵画が展示されていました。
今回の個展で最も印象に深いのは、企画展示室に留まらず、美術館の建物全体が会場になっていることでした。
まず1階のさや堂ホールでは、三沢の「ANIMALS」のペガサスとともに、舟越桂の『青い体を船がゆく』といった彫刻や杉戸洋の『おほしさま』などの絵画が展示されていて、ネオ・ルネサンス様式の空間と作品が響き合う様子を見ることができました。
また同じく1階のエレベーターホールではクマがいたり、4階のびじゅつライブラリー(図書室)においてもヒョウやリスなどが展示されていて、さながら動物たちを探し歩くような体験を得ることができました。
このほか、5階常設展示室におけるセミやカエルなど、思わぬ場所に潜む小さな生き物たちも可愛らしく見えるかもしれません。
クマなどに代表される「ANIMALS」に加え、もうひとつの見どころといえるのが、三沢が動物の彫刻を手がける以前に制作していた初期の作品でした。
それらは海岸で拾った流木や廃材、日用品を組み合わせるアッサンブラージュの手法によってできた作品で、「コロイドトンプ」シリーズと名付けられていました。そこにはクマやウマなどの動物も記号的に含まれていて、手法こそ異なるものの、のちの「ANIMALS」シリーズへと展開を伺わせるものがありました。
近年の三沢が制作に注力するキメラが展示のハイライトだったのではないでしょうか。暗がりの一室には、四つ脚のキメラに加え、最新作となる二本脚で立ち上がるキメラが対峙するように置かれていて、独特の緊張感が漂うとともに、シュールとも呼べるような光景を築き上げていました。
7月14日からは子どもアトリエにおいて「つくりかけラボ12 三沢厚彦|コネクションズ 空洞をうめる」が開かれ、三沢を中心に活動するアートコレクティブ「コネクションズ」のメンバーが、来場者とともに千葉の街から着想を得たプロジェクトを展開します。そちらにあわせて出かけるのも楽しいかもしれません。
さや堂ホールやロビー、および会場内の一部展示室の撮影も可能です。
ナイトミュージアム割引実施中🌛毎週金・土曜日は20:00まで開館、18:00以降にご来館の方は企画展「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions」の観覧料が半額(一般1,200円→600円、大学生700円→350円)に!日も長くなってきましたので、お仕事帰りなどにご活用ください。https://t.co/B3F3S6rmv3 pic.twitter.com/IFYxLxk51f
— 千葉市美術館 (@ccma_jp) June 16, 2023
WEBメディアのイロハニアートへも展示の見どころを寄稿しました。
リアルとファンタジーが交錯する。彫刻家・三沢厚彦の個展が千葉市美術館にて開催中! | イロハニアート
9月10日まで開催されています。おすすめします。
『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:2023年6月10日(土)~9月10日(日)
休室日:6月12日(月)、19日(月)、26日(月)、7月3日(月)、10日(月)、18日(火)、8月7日(月)、21日(月)、9月4日(月) *第1月曜日は全館休館
時間:10:00~18:00。
*入館は閉館の30分前まで
*毎週金・土曜は20時まで。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
*リピーター割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料が半額。
*常設展示室「千葉市美術館コレクション選」も観覧可。
*ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は共通チケットが半額
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。