都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『特別企画「未来の博物館」』 東京国立博物館 本館特別3室・特別5室、東洋館エントランス
『特別企画「未来の博物館」』
2022/10/18~12/11

最先端のデジタル技術を用い、新たな日本美術の鑑賞体験を提供する『特別企画「未来の博物館」』が、東京国立博物館の本館特別3室、特別5室、および東洋館エントランスにて開かれています。

まず本館1階の特別5室では「時空をこえる8K」と題し、法隆寺の夢殿や国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」を高精細な映像で紹介していて、幅13メートルの大画面を用いた夢殿の映像では、実際に奈良の斑鳩へと訪ねたかのような臨場感を得ることができました。

このうち夢殿では、長く秘仏とされてきた夢殿本尊である救世観音を大きくアップし、通常見ることのできない細部までを明らかにしていて、仏像の精緻な意匠に見入りました。

それに救世観音の造仏当時のすがたを復元して見せる映像も興味深いのではないでしょうか。8Kや3DCG技術の映像は想像以上に鮮やかでした。

この夢殿に次が国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」の映像展示で、絵画を高精細映像として映しながら、「食と享楽」、「美と芸能」、「歴史と文化」といった各テーマのもと、料理研究家の土井善晴氏や落語家の林家正蔵氏などの6人のナビゲーターが見どころを紹介していました。

大きくクローズアップされた舟木本にも迫力がありましたが、各ナビゲーターのソフト語りによって、屏風の世界がより親しみやすく感じられたかもしれません。

これに続くのが、重要文化財の「遮光器土偶」や「能面 小面」といった3件の文化財を8Kモニターに映した「デジタル ハンズオン・ギャラリー」で、単に見るだけでなく、回転させたり、色を変えたりできるなど、通常とは異なった鑑賞体験をすることができました。

本館の特別3室では「四季をめぐる 高精細複製屏風」として、「花下遊楽図屏風」、「納涼図屏風」、「観楓図屏風」、「松林図屏風」の4件の国宝の複製屏風が公開されていて、四季の風景などがプロジェクションマッピングにて投影されていました。

ここでは1件1件の国宝屏風が順番にプロジェクションマッピングに映されていて、例えば「松林図屏風」では雪が舞い、「観楓図屏風」では鳥が羽ばたき水面が揺れる光景などを楽しむことができました。またぼんやりと月明かりに染まる「納涼図屏風」も情緒豊かに思えました。

3つ目の会場である東洋館エントランスでは「夢をかなえる8K」として、8Kの高精細画像を用いたオリジナルのアプリケーションと操作デバイスによる2つの展示が行われていました。

まず「ふれる・まわせる名茶碗」とは、「黒楽茶碗 銘 尼寺」や「志野茶碗 銘 振袖」などとかたちと重さも同じ茶碗型ハンズオンコントローラーを動かし、モニター上にて高精細画像を好きな角度から楽しむことができるもので、普段触れない茶碗の重さなどを確かめながら、連動して動くモニターの様子に目を引かれました。

また「みほとけ大調査」では、懐中電灯型の操作デバイスで仏像を照らすと、120インチモニター上の仏像の細部が浮かび上がる仕組みになっていて、「菩薩立像」などの部分を解説とともに鑑賞することができました。
本日より、当館所蔵品を元に制作したデジタルコンテンツ、複製などで構成する体験型の展覧会、特別企画「#未来の博物館」が開幕します。本展ではデジタル技術と高精細複製品を使って、新しい日本美術の鑑賞体験を実現。本館特別3室、特別5室、東洋館エントランスで12/11まで。https://t.co/lwWWS55llv pic.twitter.com/TLi7yf2zpU
— 東京国立博物館(トーハク) 広報室 (@TNM_PR) October 18, 2022
いずれの新たな鑑賞体験をもたらしながら、実物を見る際に気づきを与えるようなコンテンツだったのではないでしょうか。随時、東博にて公開される本物とあわせて見るのも楽しいかもしれません。

総合文化展観覧料、及び特別展の観覧料(当日に限る)にて体験することができます。
12月11日まで開催されています。
『特別企画「未来の博物館」』 東京国立博物館 本館特別3室・特別5室、東洋館エントランス(@TNM_PR)
会期:2022年10月18日(火) ~12月11日(日)
休館:月曜日
時間:9:30~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料。
*総合文化展観覧料。開催中の特別展観覧料(観覧当日に限る)でも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』が開催中です

その東博の国宝89件のすべてを公開する『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』の見どころについて、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。
国宝以外も見どころ満載!『国宝 東京国立博物館のすべて』でたどる東博150年の歩み | イロハニアート
まず第1部の「東京国立博物館の国宝」では、89件の国宝を、絵画、書跡、東洋絵画、東洋書跡、法隆寺献納宝物、考古、漆工、刀剣の8分野に分けて展示していて、絵画では長谷川等伯の『松林図屛風』をはじめ、合戦絵巻の代表作として知られる『平治物語絵巻 六波羅行幸巻』などを鑑賞できました。
なおこれらの国宝は会期中、考古、及び刀剣の全点を除くと展示替えが行われていて、一度にすべての国宝が公開されているわけではありませんでした。
会期はおおむね10月18日~30日、11月1日~13日、11月15日~27日、11月29日~12月11日の4つに分かれていて、一部の国宝に関しては出展会期がさらに短い場合もありました。詳しくは公式サイトより出品リストでご確認ください。
『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』出品リスト
http://tohaku150th.jp/pdf/list_jp_1007.pdf
こうした一連の国宝の展示に続くのが、第2部の「東京国立博物館の150年」で、明治時代から今に至る東博の歴史を所蔵品から紹介していました。
ここでは東博誕生のきっかけになった1872年の旧湯島聖堂大成殿で開催された博覧会をはじめ、上野の内国勧業博覧会やキリンの剥製といった戦前の意外な収集物などを公開していて、東博の長きに渡る歩みを目の当たりにできました。
また関東大震災での被害や戦時中の疎開などもパネルや映像にて紹介されていて、東博の所蔵品がどのように引き継がれていったのかについても知ることができました。
このほか、戦前では1940年に開かれた正倉院展を描いた絵巻物、『くちなわ物語』も面白い作品といえるかもしれません、そこには東博へ大勢の観客が詰めかけながら長蛇の列を作る光景が表されていて、20日間の会期で40万名の入場者を記録したという展示の熱気すら伝わってきました。
戦後では東博がコレクションを拡充していった経緯を辿りながら、保存や修復などの活動について紹介していて、尾形光琳の『風神雷神図屏風』などに目を引かれました。

『金剛力士立像』 平安時代・12世紀
最後にチケットの情報です。事前より注目の美術展だっただけに人気が極めて高く、すでに現時点で購入可能な会期のチケットは売り切れています。

菱川師宣『見返り美人図』 江戸時代・17世紀 *『金剛力士立像』とともに撮影が可能です。
今後、11月15日以降の入場については11月1日、11月29日以降の分については11月15日にそれぞれチケットが販売されます。
明日から東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」(~12/11)が開幕します。当館が所蔵する国宝89件すべてを含む名品と、明治から令和にいたる150年の歩みを物語る関連資料を通して、当館の全貌をご紹介します。*会期中、展示替えがあります。#東京国立博物館 #東博150周年 pic.twitter.com/LPzXEEsH92
— 東京国立博物館(トーハク) 広報室 (@TNM_PR) October 17, 2022
私も『夏秋草図屏風』が出展する11月15日以降に再訪する予定ですが、後半も完売する可能性が高いため、それぞれ発売開始日に確保しておいた方が良さそうです。
12月11日まで開催されています。
『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』(@tohaku150th) 東京国立博物館 平成館(@TNM_PR)
会期:2022年10月18日(火) ~12月11日(日)
休館:月曜日
時間:9:30~17:00
*金曜・土曜日は20:00まで
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2000円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料。
*当日に限り総合文化展も観覧可。
*事前予約制
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』
2022/9/21~11/27

すみだ北斎美術館で開催中の『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』を見てきました。
1枚摺の浮世絵は、元々、板木に文字や挿絵を彫って摺ったものを本に仕立てた板本(版本)から、次第に絵のみが独立したと言われてきました。
そうした板本に着目したのが『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』で、会場には北斎や門人たちの制作した板本が約110点ほど公開されていました。
冒頭では、板本の形態や板木、また内容による分類など、板木の基礎的な知識を解説していて、そもそも版本とは一体どのようなものであるのかについて知ることができました。例えば、上小口、版心といった、板本の各部の名称なども意外と知られていないかもしれません。
続いては板本に関して幾つかのトピックから見どころを紹介していて、文字や絵を囲む枠である匡郭から絵が飛び出した蹄斎北馬の『千代曩媛七変化物語』(巻之五)といった迫力ある作品を見ることができました。
本図は雨降る夕方の場面が描かれた挿絵。懐中電灯のように使う江戸時代の道具・龕灯(がんどう)による光と闇を、薄墨(うすずみ)と濃墨(こずみ)を使い、ドラマチックに表現しています🔦
— すみだ北斎美術館 (@HokusaiMuseum) October 23, 2022
光の当たっていない着物の部分は、薄墨を重ねてやや濃くするなど、手がこんでいます。#北斎ブックワールド pic.twitter.com/EjZYHIuJy1
初摺と後摺の比較も興味深い内容といえるかもしれません。葛飾北斎の『飛騨匠物語』では、初めに夢の中の夫たちの背景を濃墨にして、寝ている現実の姫君と対比させているのに対し、後摺では濃墨が省かれていて、いわば簡略化された表現がとられていました。このように後摺は手間をかけないで制作することが多かったとのことでした。
今回の展示で最も面白かったのは、板本が作られていた江戸時代、当時の所蔵者や読者の痕跡についても紹介していることで、入手した嬉しさのあまりに書き込みした北尾政演の『百人一首 古今狂歌袋』や、悪役の部分の顔を擦り潰してしまった柳斎重春の『秋葉霊験 絵本金石譚』(後編 六)に目を奪われました。
さらにイチョウに防虫効果があるとされていたことから、袋とじの内側にイチョウの葉を挟んだ板本や、貸本屋に対して文句をつけるような落書きを記したものなど、所蔵者や読者が板本に残した書き込みなどを通して、江戸時代の人々の息吹を感じることができました。
ラストでは板本の優品と題し、色彩鮮やかな板本を紹介していて、とりわけ月明かりの波の面に銀摺を施した魚屋北溪の『三都廼友会』には見惚れました。

ともすれば地味とも受け止められがちな板本の見どころをうまく引き出した好企画だったのではないでしょうか。「ここに注目」とするパネルでの解説も大変親しみやすく、かつ充実していた上、展覧会にあわせて刊行されたリーフレットもとても良く出来ていました。今後の板本や浮世絵の鑑賞に際して大いに有用となりそうです。

葛飾北斎『遊女図』高精細複製画(原画:フリーア美術館) *展示室外。撮影が可能でした。
10月25日より後期展示がスタートしました。出展作品などは公式サイトにてご確認ください。
「北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―」作品リスト(PDF)
前期:9月21日(水)~10月23日(日)
後期:10月25日(火)~11月27日(日)
11月27日まで開催されています。おすすめします。
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館(@HokusaiMuseum)
会期:2022年9月21日(水) ~11月27日(日)
休館:月曜日。但し10月10日(月・祝)は開館し、10月11日(火)は休館
時間:9:30~17:30(入場は17:00まで)
料金:一般1000円、大学・高校生・65歳以上700円、中学生300円。小学生以下無料。
*団体受付は中止。
*観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラスも観覧可。
住所:墨田区亀沢2-7-2
交通:都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口より徒歩5分。JR線両国駅東口より徒歩10分。
『SCAPE ON WONDER / 内海聖史展』 ふわりの森
『"DISCOVERY" ART WITH AIRPORT CITY&TOWN SCAPE ON WONDER / 内海聖史展』
2022/10/7~11/28

千葉県成田市のアートスペース「ふわりの森」にて、現代アーティスト内海聖史の個展が開かれています。

ふわりの森の最寄駅はJR成田線の下総松崎駅で、駅からは歩いて5分ほどでした。

下総松崎駅を下車し、『SCAPE ON WONDER / 内海聖史展』のフラッグを頼りに歩いていると、すぐ右手にすがたを見せるのが「artcafe TOAST AND HONEY」でした。

このカフェでは会期中、内海聖史展とコラボレーションしていて、店内には内海の作品が飾られるだけでなく、コラボドリンクなどが用意されていました。

ちょうどランチタイムに入っていたので、店内にて牛すじ肉のラグーパスタを注文しましたが、とても濃厚で美味しくいただきました。

この他、テイクアウト用カップに内海の作品がデザインされたりするなど、かなり力の入ったコラボレーションが行われていて、展示への期待も高まりました。なお同カフェは会期中、火曜から日曜日に営業(12:00~17:00)し、平日はドリンクと軽食、土日はランチが提供されます。

カフェでチケットを購入し、さらにフラッグを頼りに歩くと見えてくるのが、会場のふわりの森でした。

「ふわりの森」とは、2014年にアーティストのシムラユウスケが主体となってはじめたアートプロジェクトで、同年の佐藤玲の展示を第1弾に、アーティストを招聘するなどして活動してきました。そして2021年に「NARITAへARTを目的に旅する」をテーマにした「DISCOVERY」展をスタートさせると、今年、内海聖史の展示を開きました。

会場は古くから建つ日本民家を改修したもので、母屋や納屋、それにガレージなどから構成されていました。これらは芸術祭で目にするような古民家ではなく、実にディレクターでもあるシムラユウスケの自邸で、実際に人が住んでいるスペースを用いて展示が行われていました。

まず母屋では「ムーンサテライト」と題し、巨大な『ムーンウォーク』なる絵画が公開されていて、外廊下よりぐるりと一周、畳敷きの空間を占有するかのように広がる光景を目にすることができました。まさにムーンの名が示すように、月明かりのような黄色が家屋に満ち溢れていました。

また母屋奥の古い木のテーブルが置かれた部屋には、ネオンの作品や絵画が展示されていて、黄色のネオンの光が生活の場でもある茶の間を灯していました。

それに続く納屋の2階では、一転して黒を基調とした絵画が空間いっぱいに展開していて、黒の凄味はもとより、絵具、またパネルを含めた作品そのものの量感に圧倒されました。

母屋1階の「ARCHIVE ROOM」では、内海の学生時代、および実験的な作品も展示されていて、クレヨンによる絵画や熊の置物を用いたオブジェ、また鏡を使ったものなど、色彩鮮やかなドットで知られる内海のまた違った作風を伺うこともできました。

ガレージいっぱいに広がる『コリオリ』も美しかったのではないでしょうか。初期作から日本家屋、あるいは半屋外の空間を取り込んでの新旧の作品は、思いの外に見応えがありました。

なお内海聖史展のチケットにて、同時開催中の「Lounge Projent Exhibition 01 やましたあつこ展」も観覧が出来ました。

植物をモチーフとした色彩豊かな表現とともに、光瞬くような画面の質感に心を引かれました。
平日・土曜と日曜・祝日で開場時間が異なります。お出かけの際はご注意ください。

成田発のアートプロジェクト、今後の展開にも注目が集まりそうです。
DISCOVERY展 DAY13/34 開催から初の秋晴れになってます!アートの秋らしく晴天のNARITA✨ご来場お待ちしています#ふわりの森 #DISCOVERY @uchiumisatoshi @siatsuko @fairfuwari #narita pic.twitter.com/bHPKa0i6dH
— ふわりの森 / FUWARI NO MORI - NARITA (@fairfuwari) October 20, 2022
11月28日まで開催されています。
『"DISCOVERY" ART WITH AIRPORT CITY&TOWN SCAPE ON WONDER / 内海聖史 展』 ふわりの森(@fairfuwari)
会期:2022年10月7日(金) ~11月28日(月)
休廊:月曜日。ただし祝日の場合は開館。
時間:12:00~17:00(平日・土曜)、10:00~17:00(日・祝日) ※最終入場は16:30まで
ナイトミュージアム(夜間展示):17:00~21:00 ※最終入場は20:30まで
開催日:10月8日(土)、22日(土)、11月5日(土)
料金:一般700円、学生500円、中学生以下無料。
住所:千葉県成田市大竹1093
交通:JR線下総松崎駅改札より徒歩5分。駅前に専用の無料駐車場(10台)有。
『高木由利子 写真展 カオスコスモス 壱 — 氷結過程 —』 GYRE GALLERY
『高木由利子 写真展 chaoscosmos vol.1 — icing process — カオスコスモス 壱 — 氷結過程 —』
2022/10/7〜11/28

GYRE GALLERYで開催中の『高木由利子 写真展 chaoscosmos vol.1 — icing process — カオスコスモス 壱 — 氷結過程 —』を見てきました。
東京生まれの写真家の高木由利子は、衣服や人体を通して「人の存在」を撮り続けた作品で知られ、日本やヨーロッパにて展覧会を開くなどして活動してきました。
その高木が近年手がけている「カオスコスモス(chaoscosmos)」と呼ばれる作品を紹介するのが今回の個展で、会場にはモノクロームによる大小さまざまな写真が展示されていました。

まず目を引くのが「地上絵 the geoglyph」と題した写真で、それこそナスカの地上絵を連想させる線が折り重なるようにして画面へと広がっていました。

この他、まるで宇宙に浮かぶ天体のような球形のモチーフや細胞を思わせるようなかたち、はたまた植物のようなイメージなどが写されていて、いずれも宝石のごとくに白く輝いていました。

一連の写真は、高木が自ら生活する寒冷地において、氷点下の夜、容器に水を張り、朝にかけて氷に成長していくプロセスを捉えたもので、「氷結過程」と名づけました。

「カオスコスモス」プロジェクトとは、肉眼では見えない自然現象をカメラによって抽出しようとする試みで、「氷結過程」は第1弾に相当します。

今回は「カオスコスモス 壱」として「氷結過程」のシリーズが展示されていましたが、以降、第2弾、第3弾でもこれまで見たことのないような自然のさまざまなすがたが示されるのかもしれません。
まるで地上絵のようなイメージとは?写真家、高木由利子が見出したミクロの世界 https://t.co/TuypHZ121f 「氷結過程」を通して宇宙や生命の神秘を感じつつ、自由なイメージを思い巡らせながら、誰も気がつかなかったような水と氷が織りなすセレモニーを目に焼き付けたいところだ。 pic.twitter.com/rscOVSnSwY
— Pen Magazine (@Pen_magazine) October 15, 2022
まるで地上絵のようなイメージとは?写真家、高木由利子が見出したミクロの世界|Pen Online

GYRE店内の吹き抜けを使った展示も迫力がありました。11月28日まで開催されています。
『高木由利子 写真展 chaoscosmos vol.1 — icing process — カオスコスモス 壱 — 氷結過程 —』 GYRE GALLERY
会期:2022年10月7日(金) 〜11月28日(月)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅4番出口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩4分。
東京ステーションギャラリーにて『鉄道と美術の150年』展がはじまりました

その『鉄道と美術の150年』展の見どころや内容について、Penオンラインに寄稿しました。
日本の鉄道はどのように描かれていた? 美術との関係からたどる『鉄道と美術の150年』が開催中|Pen Online
今回の展覧会では、明治時代の錦絵などにはじまり、主に鉄道をモチーフとした絵画や写真、それに現代アートなど約150点の作品を展示していて、時に深く関わりつつも、時代によって変化する鉄道と美術の有り様を丹念に紐解いていました。
1872年に新橋―横浜間で開業した鉄道は、当初、錦絵の格好の題材として取り上げられ、それに少し遅れて、1890年代以降には日本画や洋画でも鉄道が描かれるようになりました。
いわゆる「鉄道絵画」として目を引くのは、都路華香の『汽車図巻』や赤松麒作の『夜汽車』、それに長谷川利行の『汽罐車庫』などで、中には満鉄の特急「あじあ」号を染織に表現した山鹿清華の『驀進』といった珍しい作品も公開されていました。
戦後の作品で見入るのは、当時の世相を切り取ったようなスケッチ、ないし写真でした。そのうち佐藤照雄は『地下道の眠り』にて、空襲などで家を失った人々が上野駅の地下道にて寝泊まりする様子を描いていて、終戦後の人々の苦しい暮らしぶりを如実に伝えていました。
また富山治夫は「現代語感」において、人が詰め込まれた中央線の通勤列車を撮影していて、輸送力が限界に達していた1960年代の通勤地獄を目の当たりにできました。この他、東北各地から東京へ集団就職する光景を撮影した大野源二郎の写真も印象に深いかもしれません。
さらに中村宏の『国鉄品川』や『ブーツと汽車』や香月泰男の『煙』など、鉄道に着想を得ながら、独自の世界へと展開するような絵画にも興味を引かれました。
【新着】日本の鉄道はどのように描かれていた? 美術との関係からたどる『鉄道と美術の150年』が開催中 https://t.co/vaGisTjEfH
— Pen Magazine (@Pen_magazine) October 18, 2022
この他、横尾忠則や元田久治、それに本城直季や宮島達男、またchim↑pomといった現代アートにも目を引く作品が少なくありません。

中央停車場として建設され、1914年に開業した歴史ある東京駅に位置する東京ステーションギャラリーならではの好企画といえるのではないでしょうか。国内の40ヶ所からの所蔵先から集められた作品は、実に150点ほどに及んでいて、想像以上に充実していました。

他館への巡回はありません。2023年1月9日まで開催されています。おすすめします。
『鉄道と美術の150年』 東京ステーションギャラリー
会期:2022年10月8日(土)〜2023年1月9日(月・祝)
休館:月曜日。10月11日、年末年始(12月29日〜1月1日)
※10月10日、1月2日、1月9日は開館
料金:一般1400円、高校・大学生1200円、中学生以下無料。
*オンラインでの日時指定券を販売。
時間:10:00~18:00。
*金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
『東京ビエンナーレ 2023 はじまり展』 東叡山寛永寺、東京ドームシティ、優美堂
『東京ビエンナーレ 2023 はじまり展』
2022/10/6〜10/30 ※メイン期間

来年の7月から10月に開催予定の国際芸術祭『東京ビエンナーレ 2023』のプレ展示が、東叡山寛永寺や東京ドームシティ、それに優美堂などにて行われています。

まず上野の寛永寺では「東京ビエンナーレ2023計画展示」と題し、小池一子 + 一力昭圭や並河進、それに中村政人といったアーティストが、来年に向けて各地域やデジタル上で行われるプロジェクトを紹介していました。
またここでは本祭のテーマである「リンゲージ つながりをつくる」に因み、来場者に『東京ビエンナーレ2023』にてやってみたいことを募っていて、シールにて記入してはパネルに貼ることもできました。

この寛永寺にて作品を公開しているのが、⻄村雄輔、鈴⽊理策、⽇⽐野克彦の3名のアーティストでした。そのうち西村雄輔は根本中堂の前にて、回向柱をイメージした『ECHO works』を展示していて、上野の土地から採取された土を素材としていました。遠目では鉄などの金属を思わせるような質感も面白いのではないでしょうか。
写真家の鈴木理策は、根本中堂の中にて上野戦争を扱った映像を見せていて、合わせて「#徳川慶喜に見せたい風景」とタグをつけてインスタグラムに投稿するとタブレットに表示される展示も行っていました。

渋沢家霊堂前庭を舞台にした日比野克彦のインスタレーションも目立っていたかもしれません。日比野は寛永寺に眠る6名の歴代将軍に加え、残りの9名の将軍を段ボールに見立てて制作していて、あたかも庭園にてすべての将軍が集ったかのような光景を生み出していました。

続く水道橋の東京ドームシティでは、都営三田線の出口から連なる通路に、高橋臨太郎が同地で手がけたパフォーマンスの記録写真や記録音楽などを公開していました。

戦前から額縁屋として営業し、近年、カフェとコミュニティスペースとして再生した神田小川町の優美堂でも展示が行われていて、2階のギャラリースペースにて中村政人による絵画が公開されていました。

現在のところは会場は寛永寺、東京ドームシティ、それに優美堂の3カ所ですが、今後は大手町・丸の内・有楽町の通称「大丸有」エリアでも各種プロジェクトが行われます。来年の本祭へ向けてより盛り上がりを見せていくのかもしれません。
😄2023年の本祭に向けて・・!😄来年は第二回東京ビエンナーレが開催されますね!それにともない、現在プレイベントとして「東京ビエンナーレ 2023 はじまり展」が開催中です。メイン会場のひとつはなんと台東区寛永寺。庭園✕ダンボールの作品がとっても気になります😳https://t.co/updSCQ8ZEU
— イロハニアート編集部 (@irohani_art) October 14, 2022
東京の地場に発する国際芸術祭。本祭へ向けたプレイベント「東京ビエンナーレ 2023 はじまり展」が開催中! イロハニアート
観覧は無料です。10月30日まで開催されています。
『東京ビエンナーレ 2023 はじまり展』(@tokyobiennale) 東叡山寛永寺、東京ドームシティ、優美堂ほか
会期:2022年10月6日(木)〜10月30日(日)※メイン期間
休場:寛永寺会場:月〜水曜日(祝日は開場)、優美堂会場:水曜日
時間:10:30〜16:30(寛永寺会場。入場は16:00 まで。 ただし根本中堂は15:30最終入場、16:00閉場)、終日公開(東京ドームシティ。夜間1:30〜4:30は立入不可)、11:30〜18:00(優美堂会場。木・金・土は20:00 まで)
料金:無料(一部、有料イベントあり)
住所:台東区上野桜木1-14-11(寛永寺会場)。文京区後楽1-3-61(東京ドームシティ)。千代田区神田小川町2-4(優美堂)
交通:JR線鶯谷駅南口より徒歩7分(寛永寺会場)。都営三田線水道橋駅A3出口すぐ(東京ドームシティ)、東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅より徒歩2分、都営新宿線小川町駅より徒歩3分(優美堂)。
デザイナー、宮城壮太郎の回顧展が世田谷美術館にて開催中です

その宮城の仕事を紹介する『宮城壮太郎展 使えるもの、美しいもの』について、Penオンラインに寄稿しました。
気づかぬうちに使っていた⁉︎ デザイナー宮城壮太郎が手がけたプロダクトとは|Pen Online
高校在学中にデザイナーを志し、大学を卒業後に浜野商品研究所に勤務した宮城は、全天候型防水カメラ「HD-1」の開発などに携わると、のちに独立しては宮城デザイン事務所を設立しました。
そして創業期より関わったアスクルではロゴマークからオリジナル商品などのデザインを担うと、村上タオルや山洋電気でもデザインに携わっては多くの製品を生み出していきました。
いずれも製品本来の機能性を損なうことなく、シンプルでかつ主張しすぎないデザインを特徴としていて、例えば山洋電気ではデザイン顧問となり、モーターやファンでグッドデザイン賞を受賞しました。
またプラスの文房具では手に収まるホッチキスなども手がけていて、今も販売され続けるなど、多くの人々に使われてきました。まさに生活や日常に根ざしているデザインといえるかもしれません。
母校の千葉大学などで非常勤講師を担った宮城は、後進にデザインを教えるなど教育者としても活動していて、履修生に向けて「真のモノの価値 真に人間の幸せのために」としたメッセージも紹介されていました。
気づかぬうちに使っていた⁉︎ デザイナー宮城壮太郎が手がけたプロダクトとは https://t.co/Ktp4W3vFOA 世田谷美術館で開催中の『宮城壮太郎展 使えるもの、美しいもの』は、「デザインに何ができるのか」を問い続けた宮城の仕事を紹介する初めての回顧展だ。 pic.twitter.com/OYDy8Op7lL
— Pen Magazine (@Pen_magazine) October 3, 2022
山洋電気の山本茂生をはじめ、チェリーテラスの井手櫻子など、宮城と仕事に携わった人物のインタビュー映像も興味深いのではないでしょうか。多方面に活動していた宮城の人となりも伝わるかのようでした。
11月13日まで開催されています。
『宮城壮太郎展 使えるもの、美しいもの』 世田谷美術館(@setabi_official)
会期:2022年9月17日(土)~11月13日(日)
休館:月曜日。ただし9月19日(月・祝)、10月10日(月・祝)は開館。9月20日(火)、10月11日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
*最終入場は閉館の30分前まで
料金:一般1200円、65歳以上1000円、大学・高校生800円、中学・小学生500円。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分
Bunkamura ザ・ミュージアムにて『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』が開かれています

そのイッタラの魅力を紹介する『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』について、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。
日本初の大規模巡回展!フィンランドが誇るライフスタイルブランド「イッタラ」のすべて | イロハニアート
まず今回のイッタラ展では、約140年に渡るブランドの歴史や軌跡を450点以上の作品にて辿っていて、とりわけカイ・フランクやティモ・サルパネヴァ、それにオイバ・トイッカらのデザイナーの仕事に着目して紹介していました。
ティモ・サルパネヴァは、イッタラの「i」のロゴをデザインしたことでも知られていて、「フィンランディア」といったガラスだけでなく、木材や金属の素材を用いた作品でも評価されてきました。
それに続くのがイッタラのものづくりを13の視点より探る展示で、特に「職人の技」や「型でつくる」など、ガラスの製造工程に関するコーナーに興味を引かれました。
ここでは実際に製造に使われる道具とともに、職人らの活動を映像で公開していて、どのようにイッタラの製品が作られるのかを目の当たりにできました。
イッタラと日本との関係を紹介する展示も重要といえるかもしれません。カイ・フランクは1950年から60年代に来日すると、日本の文化に影響を受けた作品を生み出し、一方で近年はイッセイ・ミヤケやミナ ペルホネンといったブランドがイッタラとコラボするなど関わりを深めてきました。
🇫🇮日本初の大規模巡回展!🇫🇮みなさん、「イッタラ」をご存知ですか?イッタラは1881年にフィンランド南部のイッタラ村に設立されたライフスタイルブランドです。開催中のイッタラ展ではイッタラの歴史と共に製造工程の映像も見られるそう。特設ショップも気になりますね😊https://t.co/8P5m1Az8XX
— イロハニアート編集部 (@irohani_art) October 5, 2022
いずれもフィンランド・デザイン・ミュージアムとイッタラのコレクションで占められて、美術館での大規模な展覧会は日本で初めてのことになります。
※巡回情報
島根県立石見美術館 2023年4月22日(土)~ 6月19日(月)
長崎県美術館(予定) 2023年7月1日(土)~ 9月3日(日)
美術館「えき」KYOTO(予定)2024年2月17日(土)~ 3月31日(日)

11月10日まで開催されています。
『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』 Bunkamura ザ・ミュージアム(@Bunkamura_info)
会期:2022年9月17日(土)~11月10日(木)
休館:9月27日(火)。
時間:10:00~18:00。
*毎週金曜と土曜は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1700円、大学・高校生1000円、中学・小学生700円。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分
『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』 東京都現代美術館
『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』
2022/7/16〜10/16

東京都現代美術館で開催中の『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』を見てきました。
1901年にパリに生まれ、金属工芸家として活動をはじめたジャン・プルーヴェは、のちに家具から建築を手がけると、新たな素材を用いた実験的かつ先進的な仕事で多くの業績を残しました。
そのジャン・プルーヴェの仕事を紹介するのが『椅子から建築まで』とした展示で、オリジナルの家具や建築物など約120点を図面やスケッチなどとともに展示していました。

父は画家、母は音楽家の家に生まれたプルーヴェは、幼少の頃にパリからナンシーに移住し、20代には金属を加工する職人として自立すると、30歳にして早くも工場を開きました。
20世紀初頭のナンシーは製鉄業や鉄鋼業で栄えていて、芸術家や職人、それに工場経営者たちにより、芸術を刷新し日々の暮らしに取り入れることを目指すナンシー派が活動していました。

プルーヴェもナンシー派の影響を多く受けると、1920年代末には金属工芸を離れ、特注品と量産品の双方を手がけるなど、早い時期から仕事に現代性を追い求めていきました。

一連のプルーヴェの仕事の中で重要なのは、家具、とりわけ椅子のデザインでした。1934年にのちにスタンダードチェアと呼ばれる最初期のモデルを制作すると、環境や資材の変化に合わせて改良を繰り返し、合理性を重視した製造方法にて多様なオフィスチェアやイージーチェアを作りました。

工場「アトリエ・ジャン・プルーヴェ」にて成功を収めたプルーヴェは、戦後、さらに現代的に設備を刷新すべく、ナンシーより郊外へと移転させると、最適な生産体制やプロセスを整えました。

今回の展示で興味深いのは、椅子や家具、それに建築模型だけでなく、実際の建築部材や建築作品も公開されていることでした。

工場製品の量産によって健やかな暮らしをもたらすと考えるプルーヴェは、経済性、軽量性、拡張性などを重視し、規格化された建築パネルなどを用いて解体や移設可能な建物を多く手がけました。

そのハイライトとも言えるのが、地下2階のアトリウムに展示された『F 8x8 BCC組立式住宅』でした。

これは第二次世界大戦中の1941年から43年にかけて、スイスの建築家のピエール・ジャンヌレと協働して建てられたもので、組立式と呼ばれるように大人6人が6時間かけて組み立てることのできる家でした。

中へ入ることこそ叶わないものの、窓などの開口部からのぞき込むことも可能で、木造の室内空間も見やることができました。

デザイナーや建築家ではなく、「構築家」と自ら呼んだプルーヴェの業績を丹念に検証した好企画だったのではないでしょうか。会場内も思いの外に盛況でした。
【プルーヴェ展 関連イベント】10/9(日)に #東京都現代美術館 で、ジャン・プルーヴェが手がけた組立・解体可能な建築《BLPSバカンス用住宅》の段ボールによる原寸大模型を展示します。組立・解体は公開で行われますので、どなたでも自由にご見学ください。詳細 ⇒https://t.co/7Ve7zgZDbg pic.twitter.com/C3p0cqO9Yy
— 東京都現代美術館 (@MOT_art_museum) October 7, 2022
もう間もなく会期末を迎えます。10月16日まで開催されています。
『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2022年7月16日(土)〜10月16日(日)
休館:月曜日。但し7月18日、9月19日、10月10日は開館。7月19日、9月20日、10月11日は休館
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2000円、大学・専門学校生・65歳以上1300円、中高生800円、小学生以下無料。
*「MOTコレクション」も観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
上野の森美術館にて『長坂真護展』が開催されています

その『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』について、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。
長坂真護の壮大なプロジェクトとは?上野の森美術館にて個展が開催中 | イロハニアート
まず冒頭では長坂がガーナへ向かう前、路上アーティストとして生活していた頃の作品が紹介されていて、学生時代に描いたスケッチから大量消費社会への疑問を表したという絵画などが展示されていました。
長坂がガーナへ赴いたのは2017年のことで、スラム街のアグボグブロシーにて大量の電子機器が燃やされ、多くの人々が極めて不衛生な状況に置かれていることに強い衝撃を受けました。そこではスラムの住民が外国から持ち込まれた廃品を燃やして金属を売り、わずかな日銭を稼ぎながら日々の生活を送っていました。
いわゆる「ガーナ」シリーズとは廃棄物を用いて作られた作品で、捨てられたパソコンのマウスやゲーム機のコントローラーなどをキャンバスに貼り付け、油彩を施して絵画として表現しました。
こうして作られた一連の絵画を売りながら、同地にガスマスクを届けたり、学校を設立するなどして活動していて、現地の人々の描いた絵をガーナ国外で販売し、売上の一部を本人に還元するプロジェクトなども手がけました。
— 長坂 真護(NAGASAKA MAGO) (@artistmago) September 28, 2022
現在、長坂はアグボグブロシーに近い場所へ文化施設を設立し、スラム街の失業者を雇用するためのリサイクル工場を築くなどしていて、農業事業も展開するなど活動の幅を広げてきました。
今回の展示では作品のオンライン販売も行われ、売上や入場料の一部が長坂の目指す工場建設や農地の取得等の支援にも充てられます。

廃棄物を用いた作品はもとより、長坂のアーティストから実業家へと展開するようなチャレンジングな取り組みそのものにも注目が集まるかもしれません。
11月6日まで開催されています。
『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』(@magoten2022) 上野の森美術館(@UenoMoriMuseum)
会期:2022年9月10日(土)~11月6日(日)
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
休館:会期中無休
料金:一般1400円、高校・大学生・専門学校生1000円、小・中学生600円。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅・京成線上野駅より徒歩5分。
2022年10月に見たい展覧会【大蒔絵/川内倫子/junaida展』

展覧会
・『あざみ野コンテンポラリーvol.13 CLOTH×OVER 糸と布 日常と生を綴る』 横浜市民ギャラリーあざみ野(10/8~10/30)
・『THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』 茅ヶ崎市美術館(9/10~11/6)
・『開館15周年 生誕120年 猪熊弦一郎展』 横須賀美術館(9/17~11/6)
・『国立新美術館所蔵資料に見る1970年代の美術― Do it! わたしの日常が美術になる』 国立新美術館(10/8~11/7)
・『美をつくし―大阪市立美術館コレクション』 サントリー美術館(9/14~11/13)
・『大蒔絵展―漆と金の千年物語』 三井記念美術館(10/1~11/13)
・『柳宗悦と朝鮮の工芸 陶磁器の美に導かれて』 日本民藝館(9/1~11/23)
・『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館(9/21~11/27)
・『旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる』 東京都庭園美術館(9/23~11/27)
・『SHUZO AZUCHI GULLIVER 「Breath Amorphous 消息の将来」』 BankART Station + BankART KAIKO(10/7~11/27)
・『アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで』 府中市美術館(9/23~12/4)
・『没後80年記念 竹内栖鳳』 山種美術館(10/6~12/4)
・『見るは触れる 日本の新進作家 vol.19』 東京都写真美術館(9/2~12/11)
・『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』 国立歴史民俗博物館(10/4~12/11)
・『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』 東京国立博物館(10/18~12/11)
・『静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅰ響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―』 静嘉堂文庫美術館(10/1~12/18)
・『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』 東京オペラシティ アートギャラリー(10/8~12/18)
・『つながる琳派スピリット神坂雪佳』 パナソニック汐留美術館(10/29~12/18)
・『展覧会 岡本太郎』 東京都美術館(10/18~12/28)
・『ヴィンテージライターの世界 炎と魅せるメタルワーク』 たばこと塩の博物館(9/10~12/25)
・『鉄道と美術の150年』 東京ステーションギャラリー(10/8~2023/1/9)
・『ポーラ美術館開館20周年記念展 ピカソ 青の時代を超えて』 ポーラ美術館(9/17~2023/1/15)
・『マン・レイのオブジェ 日々是好物|いとしきものたち』 DIC川村記念美術館(10/8~2023/1/15)
・『junaida展 IMAGINARIUM』 PLAY! MUSEUM(10/8~2023/1/15)
・『野口里佳 不思議な力』 東京都写真美術館(10/7~2023/1/22)
・『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』 国立西洋美術館(10/8~2023/1/22)
・『マン・レイと女性たち』 神奈川県立近代美術館 葉山館(10/22~2023/1/22)
・『ヴァロットン―黒と白 Félix Vallotton,noir et blanc』 三菱一号館美術館(10/29~2023/1/29)
・『月に吠えよ、萩原朔太郎展』 世田谷文学館(10/1~2023/2/5)
ギャラリー
・「李禹煥 物質の肌合い」SCAI THE BATHHOUSE(9/13~10/15)
・『クゥワイ・サムナンLove of the Land』小山登美夫ギャラリー六本木(10/1~10/29)
・『丸山直文個展「水を蹴る」』 シュウゴアーツ(9/24~11/5)
・『発酵と暮らし ―人も海も土も森も…すべてはつながっている―』 ギャラリー エー クワッド(9/16~11/10)
・『第八次椿会 このあたらしい世界 杉戸洋、中村竜治、Nerhol、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]』 資生堂ギャラリー(8/27~12/18)
・『高木由利子 写真展 カオスコスモス 壱 ― 氷結過程 ―』 GYRE GALLERY(10/7~11/28)
・「訪問者」クリスチャン・ヒダカ&タケシ・ムラタ展』メゾンエルメス8階フォーラム(10/21~2023/1/31)
・『How is Life?―地球と生きるためのデザイン』 TOTOギャラリー・間(10/21~2023/3/19)
まずは日本美術です。三井記念美術館にて『大蒔絵展―漆と金の千年物語』が開催されます。

『大蒔絵展―漆と金の千年物語』@三井記念美術館(10/1~11/13)
漆で文様などを描き、金粉や銀粉を蒔き付ける「蒔絵」は、古くから装飾の技法として使われ、手箱や硯箱といった多くの名品が今にまで伝わってきました。
/【#秋は蒔絵】#大蒔絵展 #三井記念美術館 \大蒔絵展、本日開幕しました!10月9日までの特別展示、国宝「源氏物語絵巻」宿木一の展示に注目!#国宝 #重要文化財 #芸術の秋 #漆 #源氏 #人間国宝 pic.twitter.com/FIB29GWdS5
— 大蒔絵展 漆と金の千年物語 (@Maki_e_ten) October 1, 2022
その蒔絵の魅力を紹介するのが『『大蒔絵展―漆と金の千年物語』で、平安時代から現代の漆芸家に至る蒔絵の作品、約180件が公開されます。また展示はMOA美術館、三井記念美術館、徳川美術館の3館の共同で開かれるもので、三井記念美術館は2番目の会場となります。
蒔絵そのものは見る機会が多いものの、体系だって紹介する展覧会は少なく、蒔絵の魅力に触れられる絶好の機会となるかもしれません。
実に6年ぶりの美術館での個展です。東京オペラシティ アートギャラリーにて『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』が行われます。

『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』@東京オペラシティ アートギャラリー(10/8~12/18)
1972年生まれの写真家、川内倫子は、淡い光や色を特徴とした写真で知られ、一貫して身の回りの人々や植物などを撮り続けてきました。
【川内倫子展10/8より開幕】《無題》2013(シリーズ〈あめつち〉より)川内倫子M/E 球体の上 無限の連なり10/8土-12/18日https://t.co/OQwnvRzUB9 pic.twitter.com/kxkm7VUV0g
— 東京オペラシティ アートギャラリー (@TOC_ArtGallery) October 3, 2022
その川内の10年の活動に焦点を当てたのが今回の展示で、新作シリーズの「M/E」を中心に、未発表作や過去のシリーズなどが公開されます。川内とディスカッションを重ねて組み立てられたという、建築家の中山英之が手がけた空間構成も見どころとなりそうです。
今月は東京都写真美術館にて『野口里佳 不思議な力』も開かれますが、あわせて見ておきたい展示といえるのではないでしょうか。
最後は画家で絵本作家のjunaidaの美術館での初個展です。PLAY! MUSEUMにて『junaida展 IMAGINARIUM』が開催されます。

『junaida展 IMAGINARIUM』@PLAY! MUSEUM(10/8~2023/1/15)
1978年生まれの画家、 junaida(ジュナイダ)は、近年出版した『Michi』や『怪物園』といった絵本でも話題を集めるなど幅広く活動してきました。
そのjunaidaの創作を紹介するのが『IMAGINARIUM』と題した個展で、絵本原画や描き下ろしの作品、約400点が公開されます。
―表現と引き換えに、僕は何を手に入れているのか。何かを手にするのと同時に、何かを手放しているのだろうか。だから繰り返し絵を描くのだろうか。答えのない問いかけが、ひとつ、またひとつと浮かんできます。#junaida展 作家ステートメントよりhttps://t.co/F4ZEMvIA6H pic.twitter.com/DM5CEntO15
— PLAY_2020 (@PLAY_2020) October 4, 2022
junaidaは同ミュージアムの『どうぶつかいぎ展』にも作品を出展し、原作者のケストナーに物語に込めたメッセージをポスターに表現していましたが、今回は作家の活動の全体像を楽しめる展覧会となるかもしれません。
イロハニアートへも10月のおすすめの展覧会を寄稿しました。
🍂10月のおすすめ展覧会をチェックしよう!🍂みなさん、10月の展覧会はもうチェックしましたか?今月は注目の展覧会が多く開催されます!特に、東京国立博物館のすべての国宝が見られる『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』は貴重な機会となりそうですね😮https://t.co/ZNAuU7gVRi
— イロハニアート編集部 (@irohani_art) October 3, 2022
【10月のおすすめ展覧会5選】鉄道と美術から国宝、神坂雪佳、ヴァロットンまで | イロハニアート
それでは今月もよろしくお願いいたします。
『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』 国立新美術館
『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』
2022/8/10~11/7

1960年代後半より制作をはじめた現代美術家の李禹煥は、自然や人工の素材を組み合わせて場を作り出す「もの派」と呼ばれる動向を牽引し、約60年にわたって活動を続けてきました。
その李禹煥の東京での初めての大規模な回顧展が『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』で、初期作から新作までの約60点の作品が公開されていました。
まず前半の立体で目立っていたのは、李の代表作として知られる「関係項」のシリーズで、石とガラスを組み合わせた『現象と知覚B 改題 関係項』や、石と鉄板をあわせた『関係項ーサイレンス』などが並んでいました。
また一面の床に鉄板を敷いた『関係項―棲処(B)』や、白い砂利の上にステンレスの板と石を置いた『関係項ー鏡の道』も展示されていて、いずれも作品空間へと立ち入ることもできました。

『関係項ーアーチ』 2014/2022年 作家蔵
高さ4メートルにも及ぶアーチ状の作品、『関係項ーアーチ』も目立っていたのではないでしょうか。ちょうど野外展示場の中央にはアーチ状に曲がったステンレスと2つの石が置かれ、その中央には直交するように長いステンレスの板がのびていました。

『関係項ーアーチ』 2014/2022年 作家蔵
そしてステンレス板の上を歩きながら、アーチを行き来することも可能で、移りゆく景色を楽しむこともできました。
この『関係項ーアーチ』を挟んで後半に続くのが、「点より」や「線より」、あるいは「風より」などと名付けられた平面のシリーズでした。
ここでは主に制作年代を辿るようにして展示されていて、初期の「線より」などから次第に余白が大きくなり、ストロークが短くなる「照応」、さらには1、2個の限定された点の描かれた「応答」といったシリーズへの作風の変遷を見ることができました。壁に直接描いた新作の「対話ーウォールペインティング」の光景も美しかったかもしれません。

『関係項ーエスカルゴ』 2018/2022年
李禹煥の回顧展として思い出すのは、2005年に横浜美術館にて開かれた『李禹煥 余白の芸術展』でした。
この時も今回と同様、李本人が展示のプランを練り、展示を組み立てていて、主に90年代以降の新作を含む絵画と彫刻、計36点の作品が公開されていました。
また展示室のカーペットを取り払い、コンクリート剥き出しの床へ「関係項」のシリーズなどを並べていて、どこか作品と空間とが対峙、あるいはせめぎ合っているような印象も受けました。
それに比べると今回の回顧展は、美術館のホワイトキューブを作品へとたくみに取り入れていて、作品と調和するような空間が築かれているように感じられました。

私の中での李禹煥体験は、主に横浜美術館と今回の国立新美術館、そして直島で訪ねた李禹煥美術館でしたが、それぞれの空間でまた異なった印象も与えられたかもしれません。

この回顧展は東京での会期を終えると、兵庫県立美術館(*)へと巡回しますが、どのように安藤建築の空間にどのように響くのかにも興味を覚えました。*会期:2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
イロハニアートへも『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』について寄稿しました。
【東京では初めての開催!】李禹煥の大規模回顧展をより楽しむための見どころ紹介 | イロハニアート
11月7日まで開催されています。*屋外彫刻は会期中も撮影OK。
『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:2022年8月10日(水)~11月7日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20:00まで
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1700円、大学生1200円。高校生800円。中学生以下無料。
*団体券の発売は中止。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。