「海のハンター展」 国立科学博物館

国立科学博物館
「海のハンター展ー恵み豊かな地球の未来」 
7/8〜10/2



国立科学博物館で開催中の「海のハンター展ー恵み豊かな地球の未来」を見てきました。

サメにカジキやマグロなど、海に生きる大型の捕食者たち。そうした海のハンターらを標本ほか映像などで紹介しています。

冒頭は遥か昔、約4〜5億年前にまで遡ります。古生代です。名付けて「太古の海のプレデター」。ダンクルオステウスは古生代デボン紀に生息していました。強靭なアゴを備えています。獲物の骨も砕いたそうです。かつての魚の生態系の頂点にあったとも言われています。


「ショニサウルス 頭骨」(レプリカ) 三畳期後期 北九州市立自然史・歴史博物館

このアゴの存在こそ海のハンターを特徴付けるポイントです。中生代のショニサウルスはどうでしょうか。長い鼻をのばした顔面。やはり大きなアゴです。ぱっくりと口を開けています。


「クレトオキシリナ」(化石) 中生代 白亜紀後期 北九州市立自然史・歴史博物館

クレトオキシリナの化石も興味深い。ホホジロザメの祖先です。時は中生代。サメやエイの骨格は軟骨のため、全身の化石があまり残っていません。珍しい標本でもあります。


「カルカロドン・メガロドン」(模型) 新生代 国立科学博物館

新生代に史上最大のサメが登場しました。カルカロドン・メガロドンです。見るも巨大な復元模型。13メートルはあったと考えられています。メガロドンが強烈なのは噛む力です。一本の歯にかかる力は約18トン。想像もつきませんが、ホオジロザメの1.8トンの10倍にあたります。もちろん歯自体も鋭い。狙われたらひとたまりもありません。


「モササウルス類噛み痕のあるアンモナイト」(化石) 中生代

この噛むに関しての面白い資料がありました。アンモナイトの化石です。写真では分かりにくいかもしれませんが、表面に丸い穴がいくつかあいています。これが噛み痕です。噛んだ主はモササウルスです。時代は白亜紀。鋭い歯を持った海生爬虫類の一種でした。なお噛み痕説については異論もあり、巻貝のカサガイが削り込んだのではないかという指摘があるそうです。今後の研究の進展も待たれます。

さて現代と時を進めましょう。ここでは海を深海、極域、外洋、浅海の4つに分類。それぞれの海域ごとに捕食者ことハンターの標本を展示しています。

深海では小さなハンターが目立ちます。一般的に深海とは水深200メートル以下。より深い場所では太陽の光も届きません。さらに水圧が高く、水温は低い。フウセンウナギやビワアンコウなど独特の形状の生き物も少なくありません。


「ミナミゾウアザラシ」 国立科学博物館

ハンターは何も魚類に留まりません。例えば極域のアザラシです。特に大きいのがミナミゾウアザラシ。体長は約6メートル。南極に生息しています。アザラシ類とアシカ類最大の生き物です。顔にはどことなく愛嬌もあります。堂々たる巨体を見せつけていました。

ハンターの主役はサメです。全8目25種。通称「サメラボ」に一堂に会しています。



サメは捕食に際し、まず聴覚で音を聴き、嗅覚で匂いを確かめ、側線感覚で振動をキャッチしたのち、視覚で獲物を捉えるそうです。さらに獲物の電磁気も感じとることが出来ます。聴覚は数キロ先にまで及びます。捕食の一つをとっても複雑なプロセスを経る必要があるわけです。


「アカウミガメ」 国立科学博物館

浅海で何より目をひくのはウミガメでした。基本的には雑食ながらも、種によって好みが異なります。アカウミガメは肉食です。貝なども嚙み砕くそうです。一方でアオウミガメは草食です。海藻や海草を刈り取って食べます。ほかにはクラゲなどの浮遊生物も餌の一つです。クラゲといえば毒がありますが、ウミガメの口腔や食道は角質で覆われているため、あまり影響を受けることがありません。進化のプロセスでそうさせたのでしょうか。


「ホホジロザメ」 国立科学博物館

目玉はホホジロザメの成魚の液浸標本でした。全長3メートル。映画ジョーズのモデルでもお馴染みの生き物です。目を見開き、口を開けた姿は恐ろしい。歯は三角形をしています。この標本は2014年、沖縄県の本部町近海で網に引っかかって死んでいた個体です。後に沖縄美ら海財団へ提供。さらに科博が研究用の標本として作成しました。日本初の公開です。



ほか捕食のテクニックや人のハンター、すなわち漁業に関する展示もあります。科博が得意とする標本目白押しの海のハンター展。なかなか楽しめました。



夏休み最後の日曜、28日に出かけましたが、場内は家族連れで大盛況。かなり混雑していました。今のところ入場規制などは行われていないようですが、金曜夜の夜間開館なども狙い目となるかもしれません。



10月2日まで開催されています。

「海のハンター展ー恵み豊かな地球の未来」@umihun) 国立科学博物館
会期:7月8日(金)~10月2日(日)
休館:7月11日(月)、19日(火)、9月5日(月)、12日(月)、20日(火)
時間:9:00~17:00。
 *金曜日は20時まで。
 *土曜日開館時間延長:9月3日(土)、10日(土)、17日(土)、24日(土)、10月1日(土)は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生1600(1400)円、小・中・高校生600(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *金曜限定ペア得ナイト券2000円。(2名同時入場。17時以降。)
住所:台東区上野公園7-20
交通:JR線上野駅公園口徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成線京成上野駅徒歩10分。
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「小林かいち展」 武蔵野市立吉祥寺美術館

武蔵野市立吉祥寺美術館
「生誕120年記念 小林かいち」 
8/13~9/25



武蔵野市立吉祥寺美術館で開催中の「生誕120年記念 小林かいち」を見てきました。

明治29年に京都に生まれ、木版の絵葉書や絵封筒の図案を手がけた作家、小林かいち(1896~1968)。60歳余で生涯を全うしたものの、主な制作期は大正末から昭和初期のみ。ほかの経歴なども明らかではなく、かつては「謎のデザイナー」と呼ばれたこともありました。

このところ再評価の機運が高まっているそうです。生誕120年を期しての展覧会です。出品は500点。いずれも伊香保の保科美術館のコレクションでした。


絵封筒「街燈の女」

かいちは当初、小林うたぢの名で活動。着物の図案描きなどで生計を立てていました。転機は関東大震災です。その後に新京極の土産物店「さくら井屋」より「現代的版画抒情絵葉書」を刊行。名をかいちと改めてデビューします。

そもそも大正初期から少女の間で絵葉書が流行していました。背景には私製葉書の解禁、ないしは女子の教育制度の普及などがあったそうです。コミュニケーションが盛んになったのでしょう。そこにかいちの絵葉書が火をつけます。何といっても豊かな抒情性です。夢二にも由来。大正ロマンを色濃く感じさせます。絵葉書は京土産の定番と化したのかもしれません。現代的抒情シリーズは5枚で20銭でした。コレクションのための専用アルバムなども売られていたそうです。

震災の影響も垣間見えます。例えば「祈りの夕」。女性が膝をついています。背景は紅色。細身のシルエットは確かに夢二画を思い起こさせます。震災で亡くなった方々に祈りを捧げているのでしょうか。ほかにも嘆きや涙なども画題として取り込まれました。


小林かいち 絵葉書「彼女の青春」

興味深いのは異国のモチーフを積極的に描いたことです。例えばピエロやトランプ、ゴンドラ、それに教会や十字架も登場します。そもそもかいちのデザインにはアール・デコや未来派の影響も少なくありません。花も外国原産のバラやスズランを好んで描いています。

特に目立つのは十字架でした。例えば「踏絵の女」です。左に大きな十字架、磔刑のキリストの姿も見えます。そこにもたれかかるのが女性です。マグダラさながらに悲しんでいます。ただし和装です。そして足元の小さな蝋燭に火が灯っています。かいちは何もキリスト教徒だったわけではありません。あくまでも儚さや祈りを表すために十字架や蝋燭を用いているわけです。


小林かいち 絵封筒「ハートと花瓶」

恋愛を示すハートも得意のモチーフです。「ハートと花瓶」に目が留まりました。ハートのエースの上の花瓶。赤やピンクの花はトランプへ雫を落としています。さも花が魂を持って涙を垂らしているかのようです。まさに抒情的と言えるのではないでしょうか。


小林かいち 絵葉書「灰色のカーテン」

いずれも魅惑的なかいちのデザインです。この一点を挙げるのは難しいかもしれませんが、「灰色のカーテン」は特に目を引くのではないでしょうか。ピンクのカーテンを背に立つのは女性。珍しいヌードです。よく見ると長い十字架を手にしています。カーテンは花柄です。ほぼ画面の全てを覆い尽くします。一方で影の空間には点線でハートが描かれていました。まるで万華鏡の中を覗きこんでいるかのようです。華やかで美しい。ひょっとすると着物の意匠などを参照しているのかもしれません。

京都の舞妓や名所も描いた絵葉書もありました。「版画抒情絵葉書」のシリーズです。伝統を意識したのか、同じ抒情シリーズから現代的という言葉を除いています。「ある日の舞妓」の提灯はさくら井屋の商標。かいち自身がデザインしたそうです。名所では金閣、清水などの定番の光景を表しています。かいちは確かにアール・デコなど、洗練されたデザインも特徴ですが、時に日本の古い花鳥画のモチーフも見え隠れしています。その折衷的な表現も魅力の一つかもしれません。


小林かいち 絵封筒「女ひとり」

ちなみにかいちの活動したさくら井屋は2011年、170年の歴史をもって店を閉じたそうです。とは言え、かいちのデザイン、これからも愛され続けるに違いありません。

大正の少女の手紙文化に関する展示もありました。当時の少女雑誌なども出ています。かいちの受容の参考になりました。

「小林かいち:乙女デコ・京都モダンのデザイナー/河出書房新社」

カタログの発行はありませんが、ショップにてかいち関連の書籍が何種類か発売されています。中でも河出書房新社の「小林かいち 乙女デコ・京都モダンのデザイナー」が手軽でかつ内容も充実していました。図版の一部はモノクロですが、作品を網羅的に掲載されています。私も購入しました。



入館料はいつものお得な100円でした。9月25日まで開催されています。おすすめします。

「生誕120年記念 小林かいち」 武蔵野市立吉祥寺美術館@kichi_museum
会期:8月13日(土)~9月25日(日)
休館:8月31日(水)
時間:10:00~19:30
料金:一般100円。小学生以下・65歳以上は無料。
住所:武蔵野市吉祥寺本町1-8-16 FFビル7階
交通:JR線・京王井の頭線吉祥寺駅中央口(北口)から徒歩約3分。コピス吉祥寺A館7階。
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「常設展特集 燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡」 府中市美術館

府中市美術館
「常設展特集 燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡」 
7/16~9/11



明治37年に東京の本郷に生まれ、「戦後リアリズム美術運動を主導した」(解説より)画家、新海覚雄(しんかいかくお)。ともするとこの画家の足跡は、現在、必ずしも一般に知られているとは言えないかもしれません。

とりわけ多摩地域の社会運動に深く関わっていたそうです。その縁があっての企画なのでしょうか。新海の画業を辿る展覧会が府中市美術館で行われています。


新海覚雄「ピエロと踊子」 1931年 東京都現代美術館

新海の父は彫刻家です。覚雄自身は10代の早い段階から絵画を学びます。藤島武二や石井柏亭に師事。その後、キュビズムなどを摂取したそうです。

その一例かもしれません。「籠を持つ婦人像」に目が留まりました。白い割烹着を着ては座る女性の姿。髪は大変に長い。両手で果物の入った籠を抱えています。ほぼ無表情です。それにしても腕が太い。造形はやや単純化されてもいます。キュビズム的な特徴も見られるのではないでしょうか。

「少女」も印象深い作品です。少女は足を組んで腰掛けています。ちょうど右の肘置きの上で両手を組んでいました。後ろにはテーブルクロスの上に花瓶が飾られています。かなり裕福な家なのでしょうか。少女の洋装もどことなく余所行きの格好にも見えます。目を細めてうつむき加減です。ふとパスキンの描く絵画を思い出しました。


新海覚雄「老船長」 1932年 東京国立近代美術館

新海が貧しい人々を見据える切っ掛けになったのは1930年代の不況、つまり昭和恐慌にあったそうです。その様子を捉えた一枚かもしれません。「失業者」です。途方に暮れたようにして座る男。険しい表情をしています。隣には幼子をおぶった母も見えます。両手をついてうなだれていました。幼子は泣き叫びます。彼方には工場が望めました。男は職場を失ってしまったのでしょう。何とも言い難い悲哀が感じられます。


新海覚雄「椅子に座る女」 1937年 東京都現代美術館

とは言え、何も全ての作品に貧しい人ばかりが登場するわけではありません。「初夏」や「椅子に座る女」はどうでしょうか。いずれも裕福そうな女性がモデルです。モダンで都会的な生活の一コマを切り取っています。こうした戦前の女性像も思いの外に魅惑的でした。

さてその戦後です。新海は40歳で終戦を迎えます。この頃から「社会主義的理念への確信を強め」(解説より)ました。より労働者へ寄りそう姿勢を明確にしたのでしょう。大田区や川口の町工場へ熱心に足を運ぶようになります。


新海覚雄「町工場」 1951年頃 東京都現代美術館

「町工場」もその中の一作かもしれません。大きな三角屋根が特徴的な建物です。煙突には黒い煙がたなびいています。ほか同じタイトルながら水彩の「町工場」も興味深い。今度は工場の内部です。たくさんの機械が並ぶ中、工員らが働く様子を描いています。淡い水彩も美しい。またデッサンも巧みです。柔らかい線を細かに素早く重ねています。


新海覚雄「行動隊長 青木市五郎」 1955-56年 立川市歴史民俗資料館

いわゆる砂川紛争でも現地取材を敢行。反対闘争に取り組む人々を記録しました。うち一枚が「行動隊長 青木市五郎」です。闘争のいわば指導者です。砂川町基地拡張反対同盟の第一行動隊長の任を務めました。堂々とした風貌です。胸を張るかのように前を見据えます。目は細めながらも意思は強い。彼の残した「土地に杭は打たれても心に杭は打たれない」との言葉も記されています。

こうした一連の肖像画は翌年の日本アンデパンダン展に出品。東京都美術館で公開されたそうです。闘争は後に流血の惨事となります。それを伝えるべく新海も現地のバリケードや警官隊との衝突の様子などをリトグラフに残しました。

国労とも深い関係にあったそうです。1954年の国鉄労働会館の開館に際してはホール緞帳の図案も手がけます。チラシ表紙の「構内デモ」も同会館に飾られていた作品です。労務員たちが互いに手を組んでは行進しています。赤い旗が眩しい。舞台は田端の操車場です。現地に取材しつつ、美術学生をモデルに描きました。


新海覚雄「真の独立を闘いとろう」 1964/68年 板橋区立美術館(寄託)

1960年代には群像を捉えた大作も表しています。それが「真の独立を闘いとろう」です。高さは3メートル。安保闘争などを踏まえ、権力と反権力に立つ人々を対比的に描きました。上には白人。アメリカの資本主義を示しているようです。ビキニ姿の人物も見えます。上からなだれ込んでいるのがいわゆる官憲でしょうか。食い止めようとする人々と対峙します。無数の長い腕がのびていました。中央の青い色彩は闇のように暗。白い描線が特異です。各々のモチーフを複雑に組み合わせています。いわば前衛的です。記念碑的な作品とも言えるかもしれません。

総評とも関係を築いた新海は、各労働組合のポスター制作にも力を注ぎました。「平和か戦争か」、「賃金値上げを」といったスローガンをはじめ、メーデーやベトナム反戦を描いたポスターが目立ちます。タイポグラフィーやレイアウトに関してどこまで関わったのかは定かではありません。とはいえ、人物の表情がすこぶるに良い。砂川闘争などで培われたルポタージュ絵画の経験が十分に反映されています。


新海覚雄「ノーモア・ヒロシマ」 1961年 法政大学大原社会問題研究所

晩年は原水爆禁止の社会運動にも取り組みます。ここで新海が採った技法はリトグラフ。おそらくは発表の機会の場などを踏まえたのでしょう。「原水爆禁止の為に」や「ストロンチュームの恐怖」などからも原水爆の破壊力と恐ろしさがひしひしと伝わってきます。一方で「子供を守る母」は逞しい。戦火の恐怖から逃れるべく子を抱えて進む母の姿が描かれています。ほか「ノーモア・ヒロシマ」でも母子がテーマです。最初期の「失業者」同様、いわゆる社会的な弱者を見続けた新海にとって、最も共感すべき対象が母子でもあったのかもしれません。

常設展特集とありますが、作品は全部で70点。常設のスペースの大半を用いての展示です。一つの充実した企画展として捉えても差し支えありません。

出品全点の図版、および各章毎の解説の記されたリーフレットも無料で配布されていました。戦前から戦後を通し、社会運動と関わりながら画家として生きた新海覚雄。その存在を改めて知らしめる格好の機会ではないでしょうか。

観覧料は200円です。同時開催中の企画展、「夏のびじゅつ(じ)かん」のチケットでも観覧出来ます。



9月11日まで開催されています。

「常設展特集 燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡」 府中市美術館
会期:7月16日(土)~9月11日(日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。翌19日(火)は休館。
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
料金:一般200(150)円、大学・高校生100(80)円、中学・小学生50(30)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
 *企画展「とことん!夏のびじゅつ(じ)かん」のチケットで観覧可。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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「メアリー・カサット展」 横浜美術館

横浜美術館
「メアリー・カサット展」 
6/25~9/11



横浜美術館で開催中の「メアリー・カサット展」を見てきました。

アメリカのピッツバーグ郊外に生まれ、パリで活動した印象派画家、メアリー・カサット(1844〜1926)。日本国内では約35年ぶりの回顧展だそうです。

カサットは若くして画家を志します。21歳でパリへと渡りました。しかし当時の女性は国立高等美術学校へ入学することが出来ません。よって画家の私塾に入門。ジャン=レオン・ジェロームらの指導を受けます。ほかルーヴルでも巨匠たちの作品を積極的に模写します。結果的に24歳の時、サロンへの初入選を果たしました。


メアリー・カサット「バルコニーにて」 1873年 フィラデルフィア美術館

普仏戦争によってフランスを離れますが、翌年に再渡欧。イタリアやスペインを巡っては絵画の研鑽を積みます。この頃に描かれたのが「バルコニーにて」です。なにやら陽気な様で談笑する3名の人物。前の2人の女性が主役です。光が強く当たっています。特に白いドレスが際立っていました。イタリアの古典的な絵画を反映したのでしょうか。後のカサットの作品の趣きとはやや異なってもいます。

とはいえ、かなり早い段階でカサットは印象派の画風を確立しました。きっかけはドガとの出会いです。ドガの勧めにより印象派展に出品。第4回展以降、第7回を除き、毎回の印象派展に参加します。


メアリー・カサット「桟敷席にて」 1878年 ボストン美術館

「桟敷席にて」はどうでしょうか。オペラグラスで舞台を見やる女性。深い黒のドレスを着ています。まるでマネの描く黒のようです。桟敷席には多くの人がいますが、形態は必ずしも明らかではありません。筆触は激しく、殴り書きのような部分もあります。女性の横顔はどこか得意げです。好奇心に溢れているようにも見えます。面白いのは奥の男でした。身を乗り出してはオペラグラスでこちらを見やっています。彼女は見て、また見られているわけです。視線が空間を作っています。

母子を描いた作品が目立っていました。例えばチラシ表紙を飾る「眠たい子どもを沐浴させる母親」です。第5回印象派展への出品作。母が子を膝の上に抱いています。子はむずかっているのかもしれません。やや口を尖らしています。母の右手の先にあるにはタライです。スポンジを絞っています。筆は大胆。特に白に青を混ぜた色味が個性的です。独特の透明感があります。


メアリー・カサット「果実をとろうとする子ども」 1893年 ヴァージニア美術館

「果実をとろうとする子ども」も母子がモチーフです。リンゴかもしれません。実をつけた木の下で母が裸の赤ん坊を抱いています。ちょうど枝に手を伸ばしてはもぎ取ろうとしています。背景の緑は深い。相当に色を重ねています。母の衣服も同様です。何より興味深いのは赤ん坊の身体、ないし肌の感触でした。やや赤の強い肌色です。肉感的とも言えるのではないでしょうか。

さて印象派画家の展覧会です。てっきり油彩画ばかりと思いきや、意外と版画が多く出ていました。と言うのもドガやピサロらとともに銅版画にチャレンジ。時に実験的な技法を用いた版画を残しているのです。


メアリー・カサット「沐浴する女性」 1890-91年  ブリンマー・カレッジ

中でも魅惑的なのが多色刷り銅版画の連作でした。全10点組です。「手紙」や「仮縫い」、そして「沐浴する女性」など、いずれも女性の日常を描いています。細い線描や平面的な構成が特徴的です。どこか近代日本画を連想させます。実際にカサットは日本の浮世絵に影響を受けていました。

カサットはほかの印象派画家と同様、浮世絵展で感銘を受けたり、日本の美術品をコレクションしたこともあったそうです。うち一枚が喜多川相悦の「秋草花図屏風」でした。カサット家の旧蔵。可憐な草花が画面を支配します。自宅に飾っていたのかもしれません。

全てカサットの作品ばかりではないのもポイントです。カサットが強いシンパシーを感じていたドガをはじめ、ピサロ、さらにはモリゾやエリザベス・ジェーン・ガードナーブクロー、メアリー・フェアチャイルド・マクモニーズらといった、同時代の女性の画家の作品も展示されています。


メアリー・カサット「夏の日」 1894年 テラ・アメリカ美術基金

アメリカからパリへ渡り、画家としての人生を切り開いたメアリー・カサット。表現は特に油彩画において力強い。熱を帯びています。参照されたドガやピサロの方がよほどに繊細に思えるほどでした。



続く常設展も女性に着目した展示でした。近現代、ないし日本画を問わず、女性の作家の作品がずらりと並んでいます。田中敦子、福田美蘭、辰野登恵子、松井冬子、小西真奈、また上村松園や小倉遊亀と続きます。見応えは十分でした。



9月11日まで開催されています。なお横浜展終了後は、京都国立近代美術館(9/27~12/4)へと巡回します。

「メアリー・カサット展」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:6月25日(土)~9月11日(日)
休館:木曜日。但し8月11日(木・祝)は開館。
時間:10:00~18:00
 *9月2日(金)は20:30まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学・高校生1100(900)円、中学生600(400)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
 *当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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「世界鉄道博 2016」 パシフィコ横浜

パシフィコ横浜
「世界鉄道博 2016」
7/16~9/11



パシフィコ横浜で開催中の「世界鉄道博 2016」を見てきました。

日米欧をはじめとする世界各地の鉄道模型が場内を所狭しと疾走しています。



冒頭からして世界の鉄道模型が勢ぞろい。その数は何と1000車両です。コレクションの主は原信太郎氏。生涯をかけて鉄道模型を収集し、世界一とも称されるコレクションを築き上げた人物です。



いずれも未公開の貴重な模型ばかりです。実に精巧。原氏はコレクターだけでなく、模型の製作家でもありました。ちなみに全てHOゲージです。縮尺は欧米で1/87スケール。現在、日本ではそれよりも小さいNゲージが主流ですが、欧米ではHOゲージの愛好者の方が多いそうです。

次いでは世界の鉄道物語。ヨーロッパ、アメリカ、日本の順に、各国の鉄道史を辿っています。



ここでは欧米の縮尺で1/48のOゲージが主役です。軌間は32ミリ。HOゲージの倍近くあります。アンティークなヨーロッパの客車やアメリカの貨物が走る姿を追うだけでも楽しいもの。目移りしてしまいます。



なかなかうまく写真に収められないのがもどかしいところですが、終始、カメラを片手に時間を忘れて見入りました。



日本のコーナーではさすがに親しみのある鉄道が登場します。O系の新幹線です。今となっては丸みを帯びた先頭が可愛らしい。やはり新幹線と言えばこの形状が最も知られているのではないでしょうか。



また500系の新幹線や初代AE型の京成スカイライナーも目を引きます。京急や北総線の車両などもありました。



メインは「シャラングリ・ラ鉄道」です。全28線、距離にして650メートル。世界各国の鉄道模型が巨大なスペースを縦横無尽と駆け巡っています。



セットは幅30メートルで奥行きは10メートル。見渡す限り広い。まさしく壮観の一言です。「鉄道は世界をつなぐ」がコンセプトです。かの原信太郎氏が自宅に創設した鉄道模型の理想郷に因んで付けられました。



中央にスタッフの常駐する運転台がありましたが、何せこれほどの本数です。制御するだけでも相当な労力ではないでしょうか。



基本的に鉄道模型の展覧会です。このほかにはトーマスとの記念撮影スポットやミニトレインに体験乗車出来るコーナーなどがあります。いずれも親子連れで賑わっていました。



物販スペースも広大です。鉄道用品から書籍、DVD、プラレールにトーマスグッズからオリジナルグッズまでがずらり。お土産には事欠きません。

大人の入場料は1500円。それなりではありますが、同じくみなとみらいにある原鉄道模型博物館のセット券がお得かもしれません。

原鉄道模型博物館は先の原氏のコレクションを展示する施設です。最寄りは新高島。みなとみらい線で2駅先です。通常の入館料は1000円ですが、セット券なら1900円。差し引き600円ほどの割引となります。



場内は多くの人出でしたが、スペースが広いせいか、特に混雑は気になりませんでした。



9月11日まで開催されています。

「世界鉄道博 2016」 パシフィコ横浜 展示ホールA
会期:7月16日(土)~9月11日(日)
時間:10:00~16:30
 *入場は閉場の30分前まで。
休館:会期中無休。
料金:一般(高校生以上)1500円、3歳〜中学生800円。
 *優先入場券:一般(高校生以上)1800円、3歳〜中学生800円。会期中の土・日・祝のみFamiポートで発売。9:45より優先的に入場可。
 *原鉄道模型博物館ほか、横浜ランドマークタワー展望台とのセット券もあり。
住所:横浜市西区みなとみらい1-1-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅より徒歩5分。JR線桜木町駅より徒歩15分。
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「ミッフィー展」 横浜赤レンガ倉庫1号館

横浜赤レンガ倉庫1号館
「誕生60周年記念 ミッフィー展」
7/30〜8/24



横浜赤レンガ倉庫1号館で開催中の「誕生60周年記念 ミッフィー展」を見てきました。

オランダ生まれで世界的に愛されるナインチェことミッフィー。日本ではうさこちゃんとしても親しまれています。

そのミッフィーが2015年に誕生60周年を迎えました。場内にはミッフィーに関する資料がずらり。とりわけ原画が充実していました。


「ちいさなうさこちゃん」(第1版)原画 1955年

中でも見どころは「ファースト・ミッフィー」、つまり原作者のディック・ブルーナが最初に描いたミッフィーの原画です。時は1955年。現在の姿とはかなり違っています。耳は丸く、全体的にずんぐりとしています。その後、第2版が出た際に現在の姿に描き直されました。なお6色のブルーナカラーは赤、黄、緑、青の4色。茶色とグレーは後に追加されます。ちなみに第1版の原画は世界初公開です。その双方を見比べることも出来ました。


「ちいさなうさこちゃん」(第2版)原画 1963年

原画は全7タイトル、300点です。想像以上にボリュームがあります。いずれも可愛らしいミッフィー。直筆のスケッチにも独特の味わいが感じられます。とりわけ魅惑的なのは線です。もちろん手書きです。柔らかく均一で、微かに震えながらもブレがありません。会場ではブルーナが実際にミッフィーを描く映像も出ていました。慎重に線を重ねては耳を象っています。


「りんごぼうや」(第1版)原画 1953年

ほか印刷用のパーツの版や不採用となった原稿なども多い。さらにミッフィー以外のブルーナの作品に注目しているのもポイントです。例えば1953年の「りんごぼうや」や未刊行の「きいろいことり」。さらには若い頃の油彩画や、妻のイレーネのために描いた「朝食メモ」などもあります。もちろん主役はミッフィーですが、ブルーナの制作の全体像も追うことも出来ました。

立体のミッフィーもお出ましです。高さは180センチ。全部で15体です。しかしながら一つとして同じミッフィーがありません。というのもいずれもが日本のクリエイターがデコレーションしたミッフィーだからです。



元はミッフィー60周年を記念して行われた「ミッフィー・アートパレード」での作品。日本とオランダのクリエーターが参加しました。うち祖父江慎や三沢厚彦らの国内のクリエイターの作品のみが展示されています。



さらに2013年公開の映画、「劇場版ミッフィー どうぶつえんで宝さがし」のセットも登場。初の映画化です。人形は実際のコマ撮りで使用されました。

本展は2015年春の銀座松屋を皮切りに、青森、神戸ほか、名古屋や岡山などを巡ってきた巡回展です。横浜展終了後は島根県立石見美術館(9/17〜10/31)に巡回します。

内容はほぼ同一ですが、横浜会場限定の特別展示もありました。「おめでとうミッフィー」です。これは白泉社「MOE」の「ミッフィー60周年特集」(2015年5月号)で特集されたもの。21名のクリエイターがミッフィーを描き下ろしました。その作品も紹介されています。



会期末が迫っているゆえか、場内は大いに賑わっていました。特にミュージアムショップのレジには長蛇の列も発生。限定グッズも少なくありません。さすがのミッフィー人気、とどまるところを知らないようです。



一部の展示室のみ撮影が出来ました。8月24日まで開催されています。

「誕生60周年記念 ミッフィー展」 横浜赤レンガ倉庫1号館(@yokohamaredbric
会期:7月30日(土)~8月24日(水)
時間:10:00~19:00
 *最終入場は18:30まで。
休館:会期中無休。
料金:一般1000(700)円、大学生・高校生700(500)円、中学生500(400)円。小学生300円。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:横浜市中区新港1-1-1 横浜赤レンガ倉庫1号館
交通:みなとみらい線馬車道駅、または日本大通り駅より徒歩6分。JR線桜木町駅より汽車道経由で徒歩15分。JR線・市営地下鉄線関内駅より徒歩15分。
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家庭画報×山種美術館「浮世絵」大人の塗り絵Instagram投稿キャンペーン

婦人向け月刊誌でお馴染みの「家庭画報」。発売中の最新9月号では山種美術館とコラボした浮世絵の特集記事が掲載されています。



「江戸時代のポップアート 時代を超える『浮世絵』の魅力」@家庭画報2016年9月号

それに連動した企画です。家庭画報×山種美術館「浮世絵」大人の塗り絵Instagram投稿キャンペーンが行われています。

[家庭画報×山種美術館「浮世絵」大人の塗り絵Instagram投稿キャンペーン]
応募期間:2016年8月1日(月)〜8月31日(水)
企画概要:「家庭画報」2016年9月号は、広重、写楽、春信という人気の三絵師の名作「浮世絵」を家庭画報オリジナルの塗り絵にし、山種美術館所蔵の作品見本とともに特別付録にしました。ご送付いただいた塗り絵の中から、一部作品が山種美術館内の1階ロビーに展示されるというスペシャル企画も実施します。また「家庭画報.com」でも、塗り絵作品の写真や動画をInstagramに投稿いただくキャンペーンを開催します。



キャンペーンの参加方法は以下の通りです。まず家庭画報の最新9月号を購入し、浮世絵特集から塗り絵にチャレンジ。それを案内の送付先に送ると、一部作品が山種美術館内の1階ロビーに展示されます。

またあわせて塗り絵をInstagramに投稿するキャンペーンも開催。塗り絵を写真や動画をスマートフォンなどで撮影し、ハッシュタグ「#家庭画報大人の塗り絵」を付けて、Instagramに投稿すると、抽選で5名様に山種美術館のオリジナルグッズがプレゼントされます。

[参加方法]
 1.家庭画報のInstagram公式アカウント(https://www.instagram.com/kateigaho/)をフォロー。
 2.あなたの「大人の塗り絵」作品の写真、動画を撮影。
 3.ハッシュタグ「#家庭画報大人の塗り絵」を付けて、Instagramに投稿。

[特典]
 ・出来上がった塗り絵を送付すると、一部作品を山種美術館1階ロビーにて展示。
 ・塗り絵を撮影し、ハッシュタグ「#家庭画報大人の塗り絵」を付けて、Instagramに投稿すると、抽選で5名様に山種美術館ミュージアムグッズをプレゼント。

[当選発表]
 ・締め切り後、厳正なる抽選の上当選者を決定いたします。
 ・当選はInstagramダイレクトでご連絡いたします。公式アカウントをフォローして下さい。
 ・当選通知受信後、指定の期限までに、ご連絡先、商品お届け先等、必要事項を指定の方法でご連絡ください。ご連絡が7日以内にない場合は当選を無効とさせていただきます。

キャンペーンは既に応募受付中。期間は今月末の8月31日までです。なおInstagramのアカウント非公開、ないしハッシュタグがついていない投稿は、応募対象外となります。ご注意下さい。

さて開館50周年を迎えた山種美術館。記念の特別展が続きますが、次回展はいよいよ浮世絵です。「山種美術館コレクション名品選2 浮世絵 六大絵師の競演」が開催されます。



「開館50周年記念特別展 山種美術館コレクション名品選2 浮世絵 六大絵師の競演」@山種美術館
URL:http://www.yamatane-museum.jp/exh/2016/ukiyoe.html
会期:8月27日(土)~9月29日(木)

状態の良い春信や写楽のほか、その多くが初摺りでもある広重の保永堂版「東海道五拾三次」などが出品されるそうです。山種コレクションによる大規模な浮世絵展といえば2010年、広尾への移転、開館を記念して行われた「浮世絵入門展」以来。おおよそ6年ぶりのことになります。



なお山種美術館自体もInstagramのアカウント(https://www.instagram.com/yamatane_museum/)を開設中です。Twitterと同様に逐次、情報発信をしているほか、館内にも撮影スポットを設けるなど、積極的に利用しています。

「家庭画報 2016年9月号/世界文化社」

家庭画報×山種美術館「浮世絵」大人の塗り絵Instagram投稿キャンペーン参加方法→http://www.kateigaho.com/information/special/20160728_2029_1.html

そのInstagramを用いた初のコラボです。しかも最近、何かと人気の塗り絵です。家庭画報×山種美術館「浮世絵」大人の塗り絵Instagram投稿キャンペーン、気軽に参加しては如何でしょうか。

「開館50周年記念特別展 山種美術館コレクション名品選2 浮世絵 六大絵師の競演ー春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:8月27日(土)~9月29日(木)
休館:月曜日。(但し9/19は開館、9/20は休館)
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *きもの・ゆかた割引:きものやゆかたで来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
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「木々との対話」 東京都美術館

東京都美術館
「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」
7/26~10/2



東京都美術館で開催中の「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」を見てきました。

主に木彫の分野で活動する5名の現代美術家。各々の表現を1つの風景に見立て、美術館の内外へと至るインスタレーションを展開しています。

出品の作家は以下の通りです。

國安孝昌、須田悦弘、田窪恭治、土屋仁応、舟越桂

舟越の展示室以外は全て撮影が出来ました。


土屋仁応「竜」 2015年 個人蔵

まずは土屋仁応です。作品は13点。モチーフは小動物、ないし神話上の生き物です。いずれも愛おしくまた美しい。中でも魅惑的なのは表面の質感です。触ることはもちろん叶いませんが、ともかく生々しく、それでいて滑らかでもあります。またどことない気位を感じるのは私だけでしょうか。生き物らは皆、慎ましいまでのオーラに包まれているようにさえ見えます。


土屋仁応「森」 2012年 個人蔵

とりわけ「森」に魅せられました。モチーフは鹿でしょうか。大きな角を生やしています。首はややうつむき加減です。細い目からは僅かな光が放たれています。瞳は水晶でした。細い脚はやはり滑らかで、艶やかさえ感じさせます。仏教彫刻の技法を用いているそうです。身体の部分の装飾も繊細でした。


土屋仁応「麒麟」 2016年 作家蔵

「麒麟」もとかく美しい。写真では彩色がないようにも見えるかもしれませんが、実際には僅かに色が付いています。いずれもまだ若々しく見えるのも興味深いところです。無垢なまでの命、あるいは魂の表れを示しているのかもしれません。

続くのは田窪恭治です。まるで祭壇のような彫刻が並んでいます。制作は1980年代。かつて精力的に制作したというアッサンブラージュによる連作でした。


田窪恭治 展示風景

寄せ集め、ないし結び付けるを意味するアッサンブラージュ。元になる素材は木、しかも廃材です。それを収集してはオブジェへと転化させています。全て金箔が貼られていました。輝きは眩い。光は空間を厳かに照らしています。


田窪恭治「イノコズチ」 1985年 宇都宮美術館

3点の彫刻が互いに向き合う「イノコズチ」に目が留まりました。下に敷かれたのは鉄板。それぞれの彫刻はワイヤーで結ばれています。さも祈りを伴うような儀礼の場をイメージさせはしないでしょうか。

國安孝昌は1点、新作の「静かに行く人は、遠くへ行く。」のみ。しかしながら吹き抜けのスペースを利用した圧巻のインスタレーションを見せています。


國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年

ともかくうず高く組み合わされたのは無数の丸太です。一体、何本あるのでしょうか。大蛇の如くとぐろを巻き、一部は天井にまで達しています。もはや建築と呼んでも良いかもしれません。


國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年

素材は丸太だけではなく、陶ブロックも用いられています。それゆえか彫刻としての強度も伴っていました。國安の作品といえば2013年、国立新美術館のアーティストファイルでも同様の大作を見たことがありますが、それを超えるスケールではないでしょうか。あっけにとられながら、ただただ見上げるほかありませんでした。

舟越桂は彫刻、ドローイングを合わせて15点ほど。いずれも2000年以降の作品です。女性をモチーフとしながらも、時に異形と称される独特な人物の彫像を展示しています。

とりわけ印象深いのは2000年代はじめと本年、つまり最新作における表現の違いでした。というのも旧作はそれこそ異形の要素が強く、シュールとも受け取れる表現が目立つものの、それが新作では幾分影を潜めています。表情も穏やかで強い母性を感じさせました。あくまでも生身の人間、トルソーを捉えたようでもあります。


須田悦弘「バラ」 2016年

須田悦弘の彫刻を全て見つけるには多少の労力が必要かもしれません。最も目立つのは「バラ」です。白く長い回廊の先に一輪、花びらを散らした赤いバラが逆さになってぶら下がっています。さらに「ユリ」も美しい。美術館の壁面、その隙間からさも本当に生えているように置いています。


須田悦弘「ユリ」 2016年

一方で「雑草」はどうでしょうか。まさに道端に生え、誰もが気に留めないような雑草。それを須田はやはり通常は見逃してしまうような場所に展示しているのです。


須田悦弘「朝顔」 2016年

さらに須田の作品は展示室の外へ拡張しています。「朝顔」と「露草」です。出品リストに設置場所の記載があるため、探して歩く必要はないかもしれませんが、特に「露草」の演出が心憎い。思わず見つけた時に息をのんでしまいました。

拡張といえば田窪の「感覚細胞ー2016年・イチョウ」も同様です。場所は展示室の外はおろか、美術館の外、つまり屋外でした。


田窪恭治「感覚細胞ー2016年・イチョウ」 2016年

舞台は文字通りイチョウです。ちょうど美術館の北側、敷地内にそびえ立つ大イチョウ。ともすると上野公園内でさほど目立つ樹木ではないかもしれませんが、田窪はそこへあえて光を当てました。

樹木の周辺に注目です。オレンジ色のブロックが敷かれていることがわかります。これこそが田窪が近年、自らの仕事とする風景芸術です。大イチョウはかつての戦争の爆撃を受け、被災。しかしながら今もたくさんの緑をつけています。その生命を祝福するかのようにブロックで彩っているわけです。

展覧会タイトルにある木々、そして再生へ特に寄り添ったインスタレーションと言えるのではないでしょうか。眩しい太陽の光のもと、深い緑とオレンジが美しいコントラストをなしていました。


土屋仁応「子鹿」 2010年 I氏コレクション(富岡市立美術博物館寄託)

いずれの作家も力作揃いです。期待以上に楽しめました。

ポンピドゥー展の半券を提示すると一般当日の入館料が300円引きになりました。大人もワンコインの500円で観覧出来ます。

10月2日まで開催されています。おすすめします。

「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:7月26日(火)~10月2日(日)
時間:9:30~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日は20時まで開館。但し9月23日(金)、9月30日(金)を除く。
 *8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は21時まで開館。
休館:月曜日。但し9月19日(月・祝)は開館。
料金:一般800(600)円、大学生・高校生400円、65歳以上500円。高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *「ポンピドゥー・センター傑作展」のチケット(半券可)提示にて一般当日料金から300円引。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
 *10月1日(土)は「都民の日」により無料。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展」 ホテルオークラ東京

ホテルオークラ東京
「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展 旅への憧れ、愛しの風景ーマルケ、魁夷、広重の見た世界」
7/27~8/18



ホテルオークラ東京で開催中の「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展 旅への憧れ、愛しの風景」を見てきました。

毎年夏恒例、ホテルオークラ東京のチャリティーイベントのアートコレクション展。今年のテーマは旅、そして風景です。

出品は計70点。タイトルにもあるようにマルケ、魁夷、広重に着目しているのが特徴です。

さてそのマルケ、何と18点も出ていました。これほどまとまってマルケが展示されたことは近年なかったのではないでしょうか。ミニマルケ展としても差し支えありません。


アルベール・マルケ「コンフラン=サント=オノリーヌの川船」 1911年 公益財団法人吉野石膏美術振興財団(山形美術館に寄託)

「コンフラン=サント=オノリーヌの川船」はどうでしょうか。舞台はマルケの描き続けたセーヌ河畔の街です。河川輸送が盛んでした。川に浮かぶのは一隻の貨物船です。遠くの吊り橋の上には馬車が行き交います。川岸の緑も眩しい。水色の空には雲がわいていました。ほぼ晴天。透明な川面には空色が反射しています。


アルベール・マルケ「霧のリーヴ・ヌーヴ、マルセイユ」 1918年 公益財団法人上原美術館

セーヌだけでなく、マルセイユもマルケが見続けた水の景色でもあります。「霧のリーヴ・ヌーヴ、マルセイユ」は同地の港を描いた作品です。たくさんの船が停泊しています。霧はやや深く、遠くの建物は煙に霞んでいます。マストでしょうか。縦のラインが特徴的です。全体を覆う水色はかなりグレーを帯びています。


アルベール・マルケ「アルジェの港、ル・シャンポリオン」 1944年頃 ヤマザキマザック美術館

北アフリカのアルジェも画家の愛した土地でした。「アルジェの港、ル・シャンポリオン」も魅惑的です。広く見開かれた港。かなり高い地点から俯瞰して描いています。蒸気船は煙を吹いています。奥が外洋で手前が湾、そして陸と続きます。水面の色はエメラルドグリーンです。光は強い。同地の輝かしい陽を表しているのかもしれません。


アルベール・マルケ「ポン・ヌフ夜景」 1938年 サントリーコレクション

夜景を描いた一枚に目が留まりました。「ポン・ヌフ夜景」です。パリのセーヌに架かる橋。しかしながら闇に覆われ、川の姿を見ることは出来ません。ともかく強いのは建物のネオンサインです。黄色い明かりが粒状になって点々と連なっています。水景で知られるマルケですが、このような作品があったとは知りませんでした。

東山魁夷は全11点です。まず印象深いのは「スオミ」でした。北欧シリーズの一枚です。森林がはるか彼方へと連なり、湖が広がっています。舞台はフィンランドです。木々の緑青の質感は豊かで、水を示す白も銀色に輝いていて美しい。雄大な山河を澱みのない筆触で描いています。


東山魁夷「山峡朝霧」 1983年

唯一の屏風装である「山峡朝霧」に惹かれました。深い山を立ち上がる朝霧。山肌を隠しては辺りを潤しています。右手前に滝の白い筋が見えました。冬の景色なのでしょうか。寒々しい。水墨のニュアンスが絶妙です。幻影的とも呼べるかもしれません。

さてアートコレクション、「秘蔵」とあるように、思いがけない画家に魅惑的な作品があるのも嬉しいところです。


牧野義雄「テームス河畔」 制作年不詳 東京藝術大学

例えば牧野義雄です。名は「テームス河畔」。明治30年、画家がイギリスの地に渡った頃に描いた一枚です。場所はテムズ。川岸の小径です。街路樹の木立が手前の上から垂れています。そして語らう人々。穏やかな夜の景色です。何よりも美しいのはうっすら紫色を帯びた霧の描写でした。牧野自身、ロンドンの霧の印象に強く感化されていたそうです。それゆえの表現かもしれません。遠景は色が滲み出ていて明瞭ではありません。何とも叙情的な作品ではないでしょうか。


赤松麟作「夜汽車」 1901年 東京藝術大学

赤松麟作の「夜汽車」も力作です。時は明治時代、汽車に乗る人々を捉えています。煙草を吸い、談笑し、外の景色を眺める者などがいます。よく見ると床にはミカンの皮が転がっていました。誰か食べたものをそのまま捨ててしまったのかもしれません。手前の母子が目立っています。子は疲れてしまったのか母の膝を枕に眠りこけています。母も目はうつろです。長旅なのかもしれません。とはいえ、しっかりと子を毛布にくるんでは抱いていました。

広重はラストでの展開です。「東海道五十三次」が全点揃い踏みしています。四季折々、人々の営みや土地の風土を交えての東海道の旅。追って楽しむことが出来ました。

お盆休み中に出掛けましたが、場内は空いていました。間もなく会期末ですが、ゆっくり楽しめると思います。

8月18日まで開催されています。

「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展 旅への憧れ、愛しの風景ーマルケ、魁夷、広重の見た世界」 ホテルオークラ東京
会期:7月27日 (水) ~8月18日 (木)
休館:会期中無休。
時間:10:30~18:30(入場は18時まで)*初日のみ12時開場。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 アスコットホール (地下2階)
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
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「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 
7/26〜9/25



渋谷区立松濤美術館で開催中の「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」を見てきました。

15世紀後半以降、マレーシアやシンガポールへと移住してきた中国系移民の末裔ことプラナカン。彼らは数百年に渡ってマレーやヨーロッパと交わり、独自の「ハイブリットな文化」(解説より)を築きました。

その一つがサロンクバヤです。クバヤとはレースのブラウス、そしてサロンとは色鮮やかなジャワ更紗の腰布を意味します。つまりファッションの文化です。女性たちが身に付けていました。

館内の撮影が出来ました。


「儀礼用ローブ(カワイ)」 18世紀 インドネシア、スマトラ島ランブン(縫製) シンガポール国立アジア文明博物館

冒頭はジャワのローブです。用途は儀礼用。刺繍は実に多様で複雑です。同じものを探すのは容易ではありません。時は18世紀です。当時の施政者らはパッチワークにこそ呪術的な力があると考え、ローブを注文しました。


「腰衣(サロン)」 18世紀後半、19世紀初期 インド、コロマンデル海岸(染) リー・キップリー夫妻

腰衣も美しい。サロンのかなり早い時期の作例です。両端に小さな針穴があることから、かつては縫われ、スカートとして利用されていたことが分かりました。


「上衣(クバヤ)」 1890-1910年頃 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館

一方のクバヤ、すなわちレースは、16世紀から17世紀頃にインドを経てアジアへ入ってきたと考えられています。展示のクバヤは19世紀末から20世紀初頭のもの。この頃には身体に添う形のスタイルが流行しました。昼用と夜用で装飾が違っていたそうです。


「腰衣(サロン)」 1890年頃 インドネシア、ジャワ島、プカロンガン(染) リー・キップリー夫妻

そのサロンにも注目です。何と模様は白雪姫。ちょうど女王が鏡に向かって話しかける場面が表されています。意匠は繊細でアール・ヌーヴォー風。実際に影響を受けています。ヨーロッパ人の作家の手によって制作されました。

サロンクバヤは時にプラナカンらの置かれた政治的状況を物語ります。例えば20世紀初頭の中華ナショナリズムの台頭です。その動きはシンガポールへも伝播。プラナカンらは祖先の母国、中国の動向と、植民地下におけるイギリス臣民として立場の間に挟まれます。サロンクバヤが中国風であるのか、あるいは洋風であるのかは、一つのアイデンティティーの表明でもあったわけです。


「上衣(サロン) 1900年頃 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰衣(カインパンジャン)」 1900-1910年 インドネシア、ジャワ島、プカロンガン(染) リー・キップリー夫妻


一方でオランダ領東インドに居住していたプラナカンはどうでしょうか。彼らは1910年にオランダ臣民になることを許され、ヨーロッパのモチーフを付けたサロンクバヤを新たなステイタスとして取り入れます。一言にサロンクバヤとはいえども、地域によって流行なり実情はかなり違っていました。


「上衣(クバヤ)」 1920年代 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰布(カインパンジャン)」 1920年代 インドネシア、ジャワ島北岸 リー・キップリー夫妻


製法の進展もサロンクバヤのスタイルを変化させます。染料です。19世紀の半ばに合成染料が開発。一気に色が増えていきます。またヨーロッパのプリント布も使われるようになりました。


「上衣(クバヤ)」 1945-1955年 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰布(カインパンジャン パソギレ)」 1950年代 インドネシア、ジャワ島、クドゥンウニ


最後の革新をもたらしたのがミシンの導入でした。手縫いから機械を利用することで、広い面積に簡単に刺繍が出来るようになります。より強い色彩でかつ、華やかな刺繍を伴うサロンクバヤが一般化しました。


シンガポール航空客室乗務員の制服「サロンケバヤ」 2016年 シンガポールを拠点(縫製) シンガポール航空

いわゆる洋装が普及した2次大戦以降もサロンクバヤも作られています。現在のシンガポール航空の客室乗務員の制服もサロンケバヤと呼ばれるクバヤのスタイルを受け継いだもの。その伝統は今も脈々と受け継がれています。


「3点組ブローチ」  1900-1920年 マレーシア、ペナン(制作) リー・キップリー夫妻

ほかプラナカンの人々が身につけた装身具も紹介。ペンダントやブローチ、ブレスレットなどの細かな細工には目を奪われました。


「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」会場風景

サロンクバヤの大半はシンガポール国立アジア文明博物館、ないしはプラナカンの名門であるリー・キップリー夫妻のコレクション。約140点です。そう頻繁に日本で公開されるものではありません。またサロンクバヤを通し、プラナカンの歴史、ないし社会的状況の変遷なども追うことが出来ました。

9月25日まで開催されています。

「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 渋谷区立松濤美術館
会期:7月26日(火)〜9月25日(日)
休館:8月1日(月)、8日(月)、15日(月)、22日(月)、29日(月)、9月5日(月)、12日(月)、20日(火)、23日(金)
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学生400(320)円、高校生・65歳以上250(200)円、小中学生100(80)円。
 *( )内は10名以上の団体、及び渋谷区民の入館料。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。(要各種証明書)
 *土・日曜日、休日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。
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「土木展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「土木展」 
6/24~9/25



21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「土木展」を見てきました。

インフラほか、日常の生活のために不可欠な技術である土木。それをアートやデザインなどの観点も盛り込んで幅広く捉えようとしています。


「渋谷駅解体」 田中智之 2011年

はじめのテーマは「都市の風景」。田中智之の描いた駅の解体図が圧巻です。舞台は東京駅と新宿駅と渋谷駅。ともに国内有数のターミナルです。単に構内にとどまらず、派生する連絡通路、エスカレーター、さらに屋外の道路、ないしビルなどが見取り図の形で描いています。


「東京駅解体」 田中智之 2014年

いずれも緻密でかつ迫力満点です。また人の足跡までが事細かに記されています。人の流れを可視化していると言えるのではないでしょうか。駅がいかに交通の重要な連結点であるかを見ることが出来ます。


「土木オーケストラ」 ドローイングマニュアル 2016年

ラベルのボレロが聞こえてきました。「土木オーケストラ」です。巨大スクリーンに投影されるのはまさに現場そのもの。溶接、解体、またクレーンが動く様子などが映されています。ヘルメットをかぶり汗を落とす職人のアップもありました。高度経済成長期の記録です。そこへ時折、現在の渋谷駅の工事現場の光景がクロスします。ボレロはいわばBGMです。とは言え、単にオーケストラの演奏ではありません。ハンマーを打音などをコラージュしてボレロの音楽に取り込んでいるわけです。これが巧妙です。すぐには気がつきませんでした。


「キミのためにボクがいる。」 WOW 2016年

同じく映像では「キミのためにボクがいる。」も目立っていました。キミとは我々人間や動物たち。ではボクとは何を指すのでしょうか。消波ブロックやコンクリートブロックでした。災害を防ぐ土木の役割をアニメーションで伝えています。


「渋谷駅(2013)構内模型」 田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科田村研究室 2013年

田中圭介は渋谷駅の構内を模型で表しました。今も工事の続く渋谷駅。再現は2013年時点のものです。四方八方、触手のように延びる駅の階段やホーム。上下に階層が多く、極めて立体的なのが特徴です。地上は3階。銀座線です。そして副都心線でしょうか。地下は5階にまで及んでいます。渋谷駅の乗り換えは縦移動が多いことを改めて思い出しました。


「人孔」 設計領域 2016年

DESIGN SIGHTらしく体験型の展示が多いのもポイントです。「人孔」では本物のマンホールに潜り込むことが可能。ヘルメットをかぶっては下からアスファルト面へ顔を出すことも出来ます。


「ダイダラの砂箱」 桐山孝司+栞原寿行

ほか等高線をつくる体験展示も興味深い。砂に触れて自由に高低差を変えられます。地形と土木は密接に関わりあっています。


「ストラクチャー」 渡邊竜一+ローラン・ネイ 2016年

土木の関する素材についての言及もありました。例えばストラクチャー。厚さ僅か1ミリの板による橋の模型です。レーザーカット、ロボット溶接、そして職人の手作業などの複数の工程を経て完成しました。


「山」 公益社団法人 日本左官会議(挟土秀平、原田進、小林隆男、小沼充) 2016年

土を突き固めた版築によるピラミッドも登場。左官の技術です。仕上げ面を触っては風合いを味わうことも出来ました。


「Perfume Music Player Installation」  ライゾマティクスリサーチ 2016年

またライゾマティクスによる映像も大がかりなシステムです。スマホの位置情報とPerfumeの楽曲視聴データを連動させ、東京の交通網や人の流れを分析しています。


「BLUE WALL 永代橋設計圖(東京大学大学院工学系社会基盤学専攻所蔵)」 EAU 2016年

都市工学、建築、環境、交通計画など、多方面からなる土木。盛りだくさんな内容のゆえか、つまるところ「土木とは何か」という点がぼやけている感も否めませんでしたが、一つのとっかかりとして土木を知る機会ではあるのかもしれません。


「土木の道具」 ワークビジョンズ/西村浩 林隆青 2016年

会場内、スマホを片手に写真を撮りながら楽しんでいる方が多く見受けられました。


「建設機械グラフィック」 コマツ 2016年

9月25日まで開催されています。

「土木展」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:6月24日(金)~9月25日(日)
休館:火曜日。但し8月23日は開館。
時間:11:00~19:00(入場は18:30まで)
 *8月23日(火)は17時まで開館。
料金:一般1100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
 *15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「ウルトラ植物博覧会2016 西畠清順と愉快な植物たち」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「ウルトラ植物博覧会2016 西畠清順と愉快な植物たち」
8/4~9/25



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「ウルトラ植物博覧会2016 西畠清順と愉快な植物たち」を見てきました。

植物を求めて世界各地を飛び回るプラントハンターこと西畠清順。昨年に続いての第2弾です。今年も西畠の採取した希少植物が銀座のポーラアネックスへとやって来ました。



さて前回はパーティ会場さながらに植物が並んでいましたが、今回はやや様相が異なりました。と言うのも、全体のデザインをクリエイティブディレクターの緒方慎一郎が手がけているからです。



冒頭は細い通路です。2012年より進行中の「そら植物園」プロジェクトが紹介されています。震災の復興支援として行われたルミネ有楽町店の桜のイベントなどに始まり、瀬戸内国際芸術祭における大竹伸朗との取り組みなどが写真で示されています。コメントは本人の手によるものでしょうか。年表形式です。追って一覧出来ました。

続くのが植物です。全部で40種類弱ほど。スペースは半透明の布で細かに区切られています。ちょっとした迷路とも言えるかもしれません。



まずは大きな植物に目が向きます。ガジュマルです。観葉植物としても良く知られますが、これほど複雑な形をしたものは珍しいのではないでしょうか。何やら腕を放り乱しては荒ぶる人の姿のようでした。



一転してのサボテンは可愛らしい。上部の赤が特徴的です。解説シートにアンパンマンとありました。確かに顔のようにも見えなくありません。



和名の通称を大正キリンと称するそうです。トウダイグサはモロッコの原産です。現地では海岸線に数百万本単位で群生しているそうです。さぞかし圧巻な光景でしょう。



タカワラビも珍しい。オーストラリア、ないしニュージーランドが原産です。4〜5億年前、植物が水から上がってきた際、巨大化したシダの仲間だと言われています。大変に貴重な植物です。よって政府が許可した個体に限り、輸出が許可されています。



主役を飾るのはバオバブでした。樹齢は200年。かなり巨大です。原産はセネガル。西畠は日本、セネガル両政府の協力を経て、バオバブの輸送と移植に取り組んでいるそうです。そのうちの1つの個体でもあります。



展示はメインフロアの1つ下、2階のHIGASHIYAにも続いています。ここでは植物を販売。器は展示同様に陶芸家の内田鋼一が制作したものです。比較的小さく、また育てやすいサボテンやオリーブなどがセレクトされています。概ね1万円から1万5000円前後でした。



命に限りあるだけに致し方ありませんが、前回は会期終盤、植物が弱っていたという話も耳にしました。早めの観覧の方が良いかもしれません。



9月25日まで開催されています。

「ウルトラ植物博覧会2016 西畠清順と愉快な植物たち」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:8月4日(木)~9月25日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 国立新美術館

国立新美術館
「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」
7/13~10/10 



国立新美術館で開催中の「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 を見てきました。

1817年、イタリアのヴェネツィアに設立されたアカデミア美術館。元は同地のアカデミーが管理していたヴェネツィア派の絵画コレクションに由来します。またナポレオンの占領時代には、市内で取り外された祭壇画を収集していたそうです。

現在の所蔵作品は約2000点です。うち中核となる14世紀から17世紀のヴェネツィア・ルネサンス絵画、約60点がやって来ました。


ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子(赤い智天使の聖母)」 1485-90年 

冒頭はルネサンスの夜明け。ヴェネツィアでのルネサンス美術はフィレンツェにやや遅れること1440年頃に始まりました。ベッリーニの「聖母子」が見事です。しっかり目を見つめあって寄り添う聖母子の姿。あどけないイエスはマリアの膝の上に座っています。マリアの手はかなり大きい。ちょうどイエスの身体を挟み込むように支えています。目立つのは上空の天使です。通称「赤い智天使」の名が示すように、姿形が全て赤く染まっています。後景の描写が緻密でした。山が連なり、川が流れ、家々の並ぶ様子が細かに描かれています。

クリヴェッリは対で2点です。「聖セヴァスティアヌス」に惹かれました。多くの矢で射抜かれたセヴァスティアヌス。目は虚ろで、口は半開き。もはや生気はありません。一部の矢は身体を突き抜けていました。如何にも痛々しい。背後のタペストリーらしき草花の模様が魅惑的です。まるでモリスの描くデザインのようでした。

お告げを聞くマリアを正面から捉えています。アントネッロ・デ・サリバの「受胎告知の聖母」です。書物を前に、やや右手を上げては、静かに佇むマリア。青いヴェールをまとっています。手前からかなり強い光が当たっているのでしょうか。陰影はドラマティックなまでに強い。口をややすぼめては横を見やる表情にはどこか余裕が感じられます。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母子(アルベルティーニの聖母)」 1560年頃

ティツィアーノの「聖母子」も慈愛に満ちていました。右手で裸のイエスを支えるのがマリアです。表情にやや硬さがあるものの、左手をイエスに差し出しては心を通わせています。筆致はやや粗く、ぼんやりとした光が全てを包み込みます。やや小ぶりの作品です。おそらくは個人の注文によって制作されたと考えられているそうです。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「受胎告知」 1563-65年頃 サン・サルヴァドール聖堂

チラシ表紙を飾るのもティツィアーノです。名は「受胎告知」。高さ4メートル超にも及ぶ祭壇画です。サン・サルヴァドール聖堂を飾っていました。予想以上に大きい。迫力があります。天井高のある新美術館だからこそ実現した展示と言えるかもしれません。

構図からして劇的です。舞台上、左からやってきたのが大天使です。マリアは驚いたのか身を屈めています。手前のガラスの花瓶には百合が活けられていました。天は裂け、聖霊の白い鳩が降りています。周囲の天使のポーズも時にアクロバティックで動きがありました。全体を覆う金褐色の色彩も美しい。作品から数メートル離れて見ると一際輝いて見えました。受胎告知の瞬間そのものを見事に捉えています。

さてティツィアーノに次ぐのがティントレット、そしてヴェロネーゼでした。


ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)「聖母被昇天」 1550年頃

ティントレットの「聖母被昇天」も充実しています。かつてヴェネツィアにあったサン・スティン聖堂を飾った祭壇画です。使徒たちの囲む中、石棺から聖母が手を広げては天へ昇る様子を描いています。使徒たちは皆、驚き、慄いては、聖母を仰ぎ見ていました。色彩は全般的に明るい。特に着衣の赤が目に付きます。強い光を示しているのでしょうか。白いハイライトも効果的でした。

パオロ・ヴェロネーゼも優品揃いです。作品は工房作を含めて全部で5点。工房作の「羊飼いの礼拝」も華麗で美しい。天は透き通るように青く、聖家族を囲む羊飼いたちも優美です。造形や色彩の感覚がかのラファエロに由来するというのにも頷けます。


パオロ・ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)「レパントの海戦の寓意」 1572-73年頃

同じくヴェロネーゼの「レパントの海戦の寓意」はどうでしょうか。1571年、時の神聖同盟軍がオスマン帝国に勝利した戦い記念して描かれた一枚、当初はより大きな作品だったと言われています。

ともかく目を引くのは無数の船団です。両軍入り混じってのまさに総力戦。たくさんの兵士が乗っています。よく見ると矢を放っています。一部では火の手もあがっていました。空は白い雲と黒い雲に分かれています。右の雲の下がオスマン帝国軍です。行く末を暗示しているのでしょう。一方の同盟軍には白い光が差し込んでいます。

上空にいるのは聖母やヴェネツィアの守護聖人たちです。さらにスペインやローマの聖人らもいます。その固い結束を表しているようです。


ヤコポ・バッサーノ(本名ヤコポ・ダル・ポンテ)「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」 1569年

バッサーノにも見入る作品がありました。「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」です。暗がりの荒野の中、ヒエロニムスが瞑想する様子を描いています。前には十字架のイエス、空には聖母子が浮かんでいました。野山しかり、自然の表現に臨場感があるのが目を引きます。バッサーノは一時、ヴェネツィアで過ごしたものの、生涯の大半をその北西の小都市で活動しました。彼が見ていた田舎の景色そのものもモチーフとして取り込まれていたのかもしれません。

ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノは1580年代の終わりから90年代にかけて他界します。その後のヴェネツィア絵画は3名のスタイルを受け継ぐ後継者の時代に入りました。さらに世代を降って活動したのが、ティツィアーノの作品に学んだパドヴァニーノです。

「オルフェウスとエウリュディケ」も力作ではないでしょうか。ギリシャ神話の1シーン、ちょうどオルフェウスがエウリュディケを地上に連れ戻そうとする様子を描いています。背景は暗く、どこかバロック絵画を思わせます。とは言え、衣服の色彩感にはヴェネツィア派の影響を見ることも出来なくはありません。エウリュディケはやや顔を赤らめてもいます。幾分と官能的でした。


ベルナルディーノ・リチーニオ「バルツォ帽をかぶった女性の肖像」 1530-40年頃

展示は基本的にヴェネツィア派を時代に沿って追っていますが、彼らの得意とした肖像画をまとめて見るセクションもありました。また意外なことにアカデミア美術館のコレクションがまとめて来日したのは初めてのことだそうです。

現在、国立新美術館では1階でルノワール展、2階でヴェネツィア展が行われています。ルノワールの方はかなり賑わっているようですが、ヴェネツィア展は今のところ混雑とは無縁です。空いている環境でじっくりと楽しむことが出来ました。

10月10日まで開催されています。

「日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」@accademia2016) 国立新美術館@NACT_PR
会期:7月13日(水)~10月10日(月・祝)
休館:火曜日。但し8月16日(火)は開館
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日は夜20時まで開館。
 *8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
 * ( )内は20名以上の団体料金。
 *9月17日(土)~19日(月・祝)は高校生無料観覧日。(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
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「東京ガーデンテラス紀尾井町」パブリックアート

7月27日、グランドプリンスホテル赤坂跡地にオープンした東京ガーデンテラス紀尾井町。施設内には国内外の現代美術家によるパブリックアートが設置されています。


東京ガーデンテラス紀尾井町
http://www.tgt-kioicho.jp

まずは紀尾井タワーの入口です。ちょうど赤坂見附から弁慶濠を越え、ホテルニューオータニの真向かいに位置する場所です。花の広場と名付けられたスペースが広がっています。


大巻伸嗣「Echoes Infinity〜Immortal Flowers」 2015-2016年

カラフルなオブジェが出迎えてくれました。大巻伸嗣の「Echoes Infinity〜Immortal Flowers」です。高さは8メートルと巨大。モチーフは花と蝶でした。一際華やかです。色鮮やかに咲いては舞っています。


大巻伸嗣「Echoes Infinity〜Immortal Flowers」 2015-2016年

また大巻は花の広場の右手、テラスの小道にも作品を設置しています。同じく花に蝶が寄り添っていました。

さてパブリックアートは1つを除いて全て屋外。ちょうどタワーを中核にしてぐるりと外周部を囲むように点在しています。


青木野枝「空玉/紀尾井町」 2016年

テラスの小道から空の広場へと進んでみました。すると一番高い地点に青木野枝の「空玉/紀尾井町」があることが分かります。おなじみのコルテン鋼による彫刻です。まるで泡のようなリングが軽やかに連なっています。「水が地から上昇し、また戻ってくる世界」(パンフレットより)を表しているそうです。


坪田昌之「the wind of self」 2016年

その左手、住居棟こと紀尾井レジデンスの入口には坪田昌之の「the wind of self」が控えていました。横から見るとほぼ長方形です。水流のような無数の切れ込みが入れられています。素材は大理石でした。周囲に吹き抜ける風を表現しています。


赤坂プリンスクラシックハウス

かつてのプリンスホテル時代、旧館として親しまれた旧李王家東京邸が、赤坂プリンスクラシックハウスとして生まれ変わりました。


名和晃平「White Deer」 2016年

この洋館の前に位置するのが名和晃平の「White Deer」です。巨大な鹿の彫像。高さは6メートルほどです。首を捻り上げては見る者を威圧するように立っています。鹿の剥製を3Dスキャンして得られたデータを元に制作されました。


隠崎麗奈「ヨヨ」 2015-2016年

またクラシックハウスではもう1つ、隠崎麗奈の「ヨヨ」も可愛らしい。モチーフは純白の真珠です。ちょうど雫の形をしていました。


竹田康宏「息吹く朝」 2016年

ハウスのさらに奥へと進みます。視界のやや開けた丘が広がっていました。芽生えの庭です。ここでは竹田康宏の「息吹く朝」が木陰に隠れるように設置されています。芽生えの場に相応しく、植物の若芽や蕾をイメージしています。


ジュリアン・ワイルド「System No.31」 2016

ビオトープとして整備されたのが光の森です。鬱蒼とした木立です。足元には小川も流れています。その中に現れるのがジュリアン・ワイルドの「System No.31」でした。楕円形の彫刻。素材はステンレスです。銀色に輝いています。蜘蛛の巣なども連想させるのではないでしょうか。


東京ガーデンテラス紀尾井町「芽生えの庭」

最後の1点、西野康造の「空の記憶」はタワーオフィスエントランス内にありました。チタン合金による軽やかな作品です。曲線上のフォルムが美しい。船が浮かんでいるようにも見えます。ただしこちらは建物内のため撮影は出来ません。(観覧は可)


東京ガーデンテラス紀尾井町

東京ガーデンテラス紀尾井町に登場した8つのパブリックアート。永田町駅からは地下通路で直結。赤坂見附駅から地下道を歩いてもさほど時間はかかりません。都心へお出かけの際に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

「パブリックアート」 東京ガーデンテラス紀尾井町
参加作家:大巻伸嗣、青木野枝、坪田昌之、名和晃平、隠崎麗奈、竹田康宏、ジュリアン・ワイルド、西野康造
オープン:2016年7月27日(水)
住所:千代田区紀尾井町1−2
交通:東京メトロ南北線・半蔵門線・有楽町線永田町駅9a出口直結。東京メトロ丸ノ内線・銀座線赤坂見附駅D出口より徒歩3分。
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「スミルハン・ラディック展」 TOTOギャラリー・間

TOTOギャラリー・間
「スミルハン・ラディック展 BESTIARY:寓話集」 
7/8~9/10



TOTOギャラリー・間で開催中の「スミルハン・ラディック展 BESTIARY:寓話集」を見てきました。

チリのサンティアゴを拠点に活動する建築家、スミルハン・ラディック(1965〜)。ともかくは建築展らしからぬ「寓話集」とのタイトルが目を引くのではないでしょうか。

ラディックは建築のデザインに際し、チリの風景やアート、また童話などにアイデアの源泉を求めているそうです。そのインスピレーションを元に模型が作られます。よって全てが現実の建築模型というわけではありません。


「マイ ファーストタワー」 2016年

見立ては空想上の生き物でした。確かに独創的な模型がずらりと揃います。何故か特大のキューピー人形がありました。手でチーズシュレッターを添えています。何でも東京に新たなタワーをデザインしたイメージだそうです。驚きました。

実のところ何ら建築的根拠に依らない模型も少なくありません。その意味での発想は自由です。通常の建築展とは一線を画しています。


「フラジャイル」 2010年

透明感、ないし浮遊感のある模型が目立ちました。例えば「フラジャイル」です。中央のガラスのタワーは何とワイングラス製。上下に重ねています。見慣れた素材とはいえ、一つアイデアを加えれば、さも斬新な建築物へ変化したように見えます。なかなか新鮮な感覚ではないでしょうか。


「ミーティング・ポイント」 2009年

「ミーティングポイント」も興味深い。宙に浮くのは透明な風船です。それを支柱で止めています。重石は岩でしょうか。さりげなく人形が添えられていました。実現の有無はともかくも、公園などに設置されれば人気を集めるかもしれません。


「ビオビオ市民劇場」 2011年~ コンセプシオン

もちろん実際に進行中の建築模型も紹介されています。とりわけ大きいのが「ビオビオ市民劇場」です。2011年からスタートしたプロジェクト。今も建築中です。舞台はチリ中西部のコンセプシオンです。長い直方体のフォルムと格子状の外観が特徴的でした。


「サーペンタインギャラリー・パヴィリオン2014」 2014年 ロンドン

いわゆる空想模型から実際の建築に結実した作品もあります。ロンドンの「サーペンタインギャラリー・パヴィリオン2014」はどうでしょうか。アイデアの源泉はオスカー・ワイルドの「わがままな大男」。それをラディックは一度、「わがままな大男の家」として模型化し、そこからパヴィリオンの建築として実現させました。


「NAVE-パフォーミング・アーツ・ホール」 2015年 サンティアゴ

サンティアゴでの「NAVE-パフォーミング・アーツ・ホール」も楽しい。集合住宅のリノベーションです。内部空間はホールとして利用されます。屋上にテントが張られていますが、これはサーカス小屋だそうです。



その小屋を写した写真が中庭に展示されていました。さらにラディックが記した70冊にも及ぶスケッチブックなども紹介されています。自由に手にとって閲覧が可能です。



どこか詩的な内容を伴うスミルハン・ラディック展。建築への多様なアプローチに感心させられました。


「スミルハン・ラディック展」会場風景

通常の月祝のお休みに加え、夏季休暇として8月6日(土)から15日(月)も休館日です。お出かけの際はご注意下さい。

「スミルハン・ラディック 寓話集/TOTO出版」

9月10日まで開催されています。

「スミルハン・ラディック展 BESTIARY:寓話集」 TOTOギャラリー・間
会期:7月8日(金)~9月10日(土)
休館:月曜、祝日。夏期休暇:8月6日(土)~8月15日(月)
時間:11:00~18:00
料金:無料。
住所:港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口徒歩1分。都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅7番出口徒歩6分。
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