都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ポンピドゥー・センター傑作展」 東京都美術館
東京都美術館
「ポンピドゥー・センター傑作展ーピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで」
6/11~9/22
東京都美術館で開催中の「ポンピドゥー・センターの傑作展」を見てきました。
フランスはパリ、セーヌ河畔にあるポンピドゥー・センター。都内で同センターのコレクション展が開かれるのは、1997年の東京都現代美術館以来のことかもしれません。
さてタイトルにある傑作です。さも良く知られた芸術家の作品ばかりがあるようにも思ってしまいますが、実際にはかなり違っていました。
大胆な構成です。ルールは1年、1作家、1作品。フォーヴが興ったとされる1906年を起点とします。そこからポンピドゥーの開館した1977年までの約70年間を、さもタイムラインを形成すべく、各1点ずつの作品で辿っているのです。
よってサブタイトルにもあるピカソやマティスにデュシャンも各1点のみ。計71作家71作品です。そして日本では必ずしも有名でない芸術家の作品にこそ見入る点が多数ありました。
ラウル・デュフィ「旗で飾られた通り」 1906年 油彩、カンヴァス
冒頭の1906年。デュフィでした。「旗で飾られた通り」です。フランス革命記念日の街の様子を描いています。通りに靡くのはフランスの三色旗ことトリコロール。人々が練り歩いています。魅惑的なのは色彩です。旗に建物の壁、そして通りや空の色が各々に広がっては、どこか幾何学的な面を組み合わせています。旗の一部は透けています。歩く人のシルエットが浮き上がっていました。
「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」がありました。もちろんかのルノワールではなく、オーギュスト・シャボーによるもの。フォーヴの画家です。BALと記されたサイン。夜は更けています。ホールから黄色い明かりが漏れていました。手前には馬車がとまっています。赤や黄、緑の光が宝石のように瞬いています。かの時代の賑わいも伝わるのではないでしょうか。
フランティシェク・クプカの「垂直の面1」も面白い。抽象です。水色の色面の中を黒やグレーがさも浮遊するように広がっています。まるでモビールを平面に視覚化したかのようです。アルベール・グレーズの「戦争」にも目が留まりました。時は1916年、戦争とは第一次世界大戦を指すのでしょう。オレンジ、青、黄、また灰色がせめぎ合い、それぞれが三角、ないし台形状になって分割しています。ガラスを割った時の亀裂面に近いかもしれません。そこに大きな円が介在し、さらにほかとは明らかに異なった筆触、例えれば煙のように揺らめく線が上下に交錯しています。何やら不穏な気配を感じてなりません。
マルセル・デュシャン「自転車の車輪」 1913/1964年 金属、塗装された木材
作品は何も絵画だけではありません。例えばデュシャン。車輪とスツールを組み合わせた「自転車の車輪」です。さらにジャン・プルーヴェの「リクライニングチェア」も展示。黒と赤のツートンカラーの椅子です。曲線が美しい。デザインとして洗練されています。また映像があるのには驚きました。ウジェーヌ・フレシネの「オルリーの飛行船格納庫」です。コンクリートの巨大な建物の建設プロセスを捉えています。約8分でした。
ちなみに映像はフレシネのほかにもう2点、クリス・マルケルの「ラ・ジュテ」とゴードン・マッタ=クラークの「コニカル・インターセクト」の計3点が展示されています。前者は25分超、後者で20分弱ほどありました。観覧に際しては時間の配分に注意が必要かもしれません。
ロベール・ドローネー「エッフェル塔」 1926年 油彩、カンヴァス
ロベール・ドローネーの「エッフェル塔」も目立っていました。かのパリのランドマークです。よほど愛していたのでしょうか。画家は生涯に渡って塔の姿を描き続けました。本作はその最晩期に当たるものです。下から見上げては天を突く塔が示されています。特徴的なのは色彩です。オレンジや赤などの暖色が塔の全体を覆っています。まさに華やかでかつ輝かしい。さも塔を祝福しているかのようでした。
セラフィーヌ・ルイ「楽園の樹」 1929年頃 油彩、カンヴァス
色彩といえばセラフィーヌ・ルイの「楽園の樹」も鮮烈です。独学の画家です。修道院で働く中、「神のお告げ」(キャプションより)を受けて、草花などの絵を描くようになりました。堂々たるは樹木です。とはいえ実景に見えません。葉や花は乱れるように咲き、そして茂っています。画家は素朴派を世に送り出したことで知られる画商、ウーデによって見出されたそうです。2008年には「セラフィーヌの庭」に映画化されたことでも話題となりました。
ヴァシリー・カンディンスキー「30」 1937年 油彩、カンヴァス
1930年代はどうでしょうか。ボナールにピカソにカンディンスキーらが登場します。それにしてもさすがのポンピドゥーのコレクション、いずれも力作揃いです。うちカンディンスキーの「30」に強く魅せられました。ここで色彩は皆無。モノクロームです。タイトルのゆえんはマスが30個存在するからです。中に有機的なモチーフが描かれています。音楽的なリズムも思い起こしました。
アレクサンダー・カルダーの「4枚の葉と3枚の花びら」も面白いのではないでしょうか。カルダーといえばモビールで知られていますが、本作は設置型です。宙に吊られていません。確かに4つの葉と3枚の花びららしき板が屈曲する棒の先についています。まるで人が踊っているようにも見えました。
次いで40年代です。ローランサンの「イル=ド=フランス」に始まり、フリオ・ゴンザレスの「叫ぶモンセラの頭部」と続きます。1944年の作品は時代を色濃く反映したアルベール・ゼーベルガー、ジャン・ゼーベルガーによる写真、「ドイツ軍が撤退するオペラ座広場」でした。そして1945年。これが思いがけない展示でした。頭上から甘美な歌声が聞こえてきます。エディット・ピアフの「バラ色の人生」です。半ば代表曲、ドイツ占領下で書かれた音楽です。反面に作品はありません。なかなか興味深い展示ではないでしょうか。
アンリ・マティス「大きな赤い室内」 1948年 油彩、カンヴァス
戦後も充実しています。マティスの「大きな赤い室内」も素晴らしい。嬉しいのはド・スタールの大作、「コンポジション」が出ていたことでした。絵具を盛った分厚い画肌です。ねずみや白、濃い草色などがせめぎ合っています。身近なスタールといえば竹橋の近代美術館にある「コンポジション(湿った土)」が本作と同年の作品ですが、サイズは倍近くあるのではないでしょうか。これほど大きなスタールを見たのは初めてでした。
アンフォルメルのジョルジュ・マチューにも見入る作品がありました。「ロタールはオトンのためにオート=ロレーヌの地を去る」です。何やら詩的なタイトルですが、完全に抽象画です。さも絵具がキャンバスに打ち付けられて飛び散ったような筆触が広がっています。色は黒一色です。水墨画を連想しました。
ジャン・デュビュッフェ「騒がしい風景」 1973年 塗料、樹脂積層板
60年代以降は抽象やポップアート的な作品が目立ちます。ジャン・オリヴィエ・スクリューの「墓地6番」に驚きました。墓地とあるように花の手向けられた墓地が表されています。写実性が高い。一見、写真と見間違えてしまうかもしれません。しかし実際は油彩でした。モチーフ自体は写真から取られていますが、仕上げに表面を研磨しているため、より写真のように見えるわけです。独特の質感に惹かれました。
ラストはレンゾ・ピアノ、リチャード・ロジャースによるポンピドゥ・センターのスタディ模型でした。開館は1977年です。今となっては写真でも見慣れた外観ですが、開館当時は前衛的すぎるとして批判されたこともあったそうです。
アンリ・カルティエ=ブレッソン「サン=ラザール駅裏」 1932年 ゼラチン・シルバー・プリント
会場の造作に工夫がありました。デザインは建築家の田根剛氏が担当。館内の3つのフロアをトリコロールの赤、青、白に塗り分けた上、壁面を斜め、ジクザグ、円形と分けています。メリハリのある展示です。
さらに各作家のテキストも引用。随所に解説パネルも用意されています。作品の選定にも熟慮がなされたのでしょうか。時代性なり文脈なりが浮き上がることも少なくありません。作品はもとより、構成、造作を含めて、思いがけない発見と魅力のある展覧会でした。
6月26日の日曜日の夕方前に出かけましたが、館内には余裕がありました。今のところはさほど混雑していないようです。
巡回はありません。9月22日まで開催しています。おすすめします。
「ポンピドゥー・センター傑作展ーピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで」(@pompi_2016) 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:6月11日(土)~9月22日(木・祝)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は21時まで開館。
休館:月曜日、および7月19日(火)。
*7月18日(月・祝)、9月19日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
「ポンピドゥー・センター傑作展ーピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで」
6/11~9/22
東京都美術館で開催中の「ポンピドゥー・センターの傑作展」を見てきました。
フランスはパリ、セーヌ河畔にあるポンピドゥー・センター。都内で同センターのコレクション展が開かれるのは、1997年の東京都現代美術館以来のことかもしれません。
さてタイトルにある傑作です。さも良く知られた芸術家の作品ばかりがあるようにも思ってしまいますが、実際にはかなり違っていました。
大胆な構成です。ルールは1年、1作家、1作品。フォーヴが興ったとされる1906年を起点とします。そこからポンピドゥーの開館した1977年までの約70年間を、さもタイムラインを形成すべく、各1点ずつの作品で辿っているのです。
よってサブタイトルにもあるピカソやマティスにデュシャンも各1点のみ。計71作家71作品です。そして日本では必ずしも有名でない芸術家の作品にこそ見入る点が多数ありました。
ラウル・デュフィ「旗で飾られた通り」 1906年 油彩、カンヴァス
冒頭の1906年。デュフィでした。「旗で飾られた通り」です。フランス革命記念日の街の様子を描いています。通りに靡くのはフランスの三色旗ことトリコロール。人々が練り歩いています。魅惑的なのは色彩です。旗に建物の壁、そして通りや空の色が各々に広がっては、どこか幾何学的な面を組み合わせています。旗の一部は透けています。歩く人のシルエットが浮き上がっていました。
「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」がありました。もちろんかのルノワールではなく、オーギュスト・シャボーによるもの。フォーヴの画家です。BALと記されたサイン。夜は更けています。ホールから黄色い明かりが漏れていました。手前には馬車がとまっています。赤や黄、緑の光が宝石のように瞬いています。かの時代の賑わいも伝わるのではないでしょうか。
フランティシェク・クプカの「垂直の面1」も面白い。抽象です。水色の色面の中を黒やグレーがさも浮遊するように広がっています。まるでモビールを平面に視覚化したかのようです。アルベール・グレーズの「戦争」にも目が留まりました。時は1916年、戦争とは第一次世界大戦を指すのでしょう。オレンジ、青、黄、また灰色がせめぎ合い、それぞれが三角、ないし台形状になって分割しています。ガラスを割った時の亀裂面に近いかもしれません。そこに大きな円が介在し、さらにほかとは明らかに異なった筆触、例えれば煙のように揺らめく線が上下に交錯しています。何やら不穏な気配を感じてなりません。
マルセル・デュシャン「自転車の車輪」 1913/1964年 金属、塗装された木材
作品は何も絵画だけではありません。例えばデュシャン。車輪とスツールを組み合わせた「自転車の車輪」です。さらにジャン・プルーヴェの「リクライニングチェア」も展示。黒と赤のツートンカラーの椅子です。曲線が美しい。デザインとして洗練されています。また映像があるのには驚きました。ウジェーヌ・フレシネの「オルリーの飛行船格納庫」です。コンクリートの巨大な建物の建設プロセスを捉えています。約8分でした。
ちなみに映像はフレシネのほかにもう2点、クリス・マルケルの「ラ・ジュテ」とゴードン・マッタ=クラークの「コニカル・インターセクト」の計3点が展示されています。前者は25分超、後者で20分弱ほどありました。観覧に際しては時間の配分に注意が必要かもしれません。
ロベール・ドローネー「エッフェル塔」 1926年 油彩、カンヴァス
ロベール・ドローネーの「エッフェル塔」も目立っていました。かのパリのランドマークです。よほど愛していたのでしょうか。画家は生涯に渡って塔の姿を描き続けました。本作はその最晩期に当たるものです。下から見上げては天を突く塔が示されています。特徴的なのは色彩です。オレンジや赤などの暖色が塔の全体を覆っています。まさに華やかでかつ輝かしい。さも塔を祝福しているかのようでした。
セラフィーヌ・ルイ「楽園の樹」 1929年頃 油彩、カンヴァス
色彩といえばセラフィーヌ・ルイの「楽園の樹」も鮮烈です。独学の画家です。修道院で働く中、「神のお告げ」(キャプションより)を受けて、草花などの絵を描くようになりました。堂々たるは樹木です。とはいえ実景に見えません。葉や花は乱れるように咲き、そして茂っています。画家は素朴派を世に送り出したことで知られる画商、ウーデによって見出されたそうです。2008年には「セラフィーヌの庭」に映画化されたことでも話題となりました。
ヴァシリー・カンディンスキー「30」 1937年 油彩、カンヴァス
1930年代はどうでしょうか。ボナールにピカソにカンディンスキーらが登場します。それにしてもさすがのポンピドゥーのコレクション、いずれも力作揃いです。うちカンディンスキーの「30」に強く魅せられました。ここで色彩は皆無。モノクロームです。タイトルのゆえんはマスが30個存在するからです。中に有機的なモチーフが描かれています。音楽的なリズムも思い起こしました。
アレクサンダー・カルダーの「4枚の葉と3枚の花びら」も面白いのではないでしょうか。カルダーといえばモビールで知られていますが、本作は設置型です。宙に吊られていません。確かに4つの葉と3枚の花びららしき板が屈曲する棒の先についています。まるで人が踊っているようにも見えました。
次いで40年代です。ローランサンの「イル=ド=フランス」に始まり、フリオ・ゴンザレスの「叫ぶモンセラの頭部」と続きます。1944年の作品は時代を色濃く反映したアルベール・ゼーベルガー、ジャン・ゼーベルガーによる写真、「ドイツ軍が撤退するオペラ座広場」でした。そして1945年。これが思いがけない展示でした。頭上から甘美な歌声が聞こえてきます。エディット・ピアフの「バラ色の人生」です。半ば代表曲、ドイツ占領下で書かれた音楽です。反面に作品はありません。なかなか興味深い展示ではないでしょうか。
アンリ・マティス「大きな赤い室内」 1948年 油彩、カンヴァス
戦後も充実しています。マティスの「大きな赤い室内」も素晴らしい。嬉しいのはド・スタールの大作、「コンポジション」が出ていたことでした。絵具を盛った分厚い画肌です。ねずみや白、濃い草色などがせめぎ合っています。身近なスタールといえば竹橋の近代美術館にある「コンポジション(湿った土)」が本作と同年の作品ですが、サイズは倍近くあるのではないでしょうか。これほど大きなスタールを見たのは初めてでした。
アンフォルメルのジョルジュ・マチューにも見入る作品がありました。「ロタールはオトンのためにオート=ロレーヌの地を去る」です。何やら詩的なタイトルですが、完全に抽象画です。さも絵具がキャンバスに打ち付けられて飛び散ったような筆触が広がっています。色は黒一色です。水墨画を連想しました。
ジャン・デュビュッフェ「騒がしい風景」 1973年 塗料、樹脂積層板
60年代以降は抽象やポップアート的な作品が目立ちます。ジャン・オリヴィエ・スクリューの「墓地6番」に驚きました。墓地とあるように花の手向けられた墓地が表されています。写実性が高い。一見、写真と見間違えてしまうかもしれません。しかし実際は油彩でした。モチーフ自体は写真から取られていますが、仕上げに表面を研磨しているため、より写真のように見えるわけです。独特の質感に惹かれました。
ラストはレンゾ・ピアノ、リチャード・ロジャースによるポンピドゥ・センターのスタディ模型でした。開館は1977年です。今となっては写真でも見慣れた外観ですが、開館当時は前衛的すぎるとして批判されたこともあったそうです。
アンリ・カルティエ=ブレッソン「サン=ラザール駅裏」 1932年 ゼラチン・シルバー・プリント
会場の造作に工夫がありました。デザインは建築家の田根剛氏が担当。館内の3つのフロアをトリコロールの赤、青、白に塗り分けた上、壁面を斜め、ジクザグ、円形と分けています。メリハリのある展示です。
さらに各作家のテキストも引用。随所に解説パネルも用意されています。作品の選定にも熟慮がなされたのでしょうか。時代性なり文脈なりが浮き上がることも少なくありません。作品はもとより、構成、造作を含めて、思いがけない発見と魅力のある展覧会でした。
6月26日の日曜日の夕方前に出かけましたが、館内には余裕がありました。今のところはさほど混雑していないようです。
巡回はありません。9月22日まで開催しています。おすすめします。
「ポンピドゥー・センター傑作展ーピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで」(@pompi_2016) 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:6月11日(土)~9月22日(木・祝)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は21時まで開館。
休館:月曜日、および7月19日(火)。
*7月18日(月・祝)、9月19日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
「美の壺 和モダン・暮らしと憧れ展」 ギャラリーエークワッド
ギャラリーエークワッド
「美の壺 和モダン・暮らしと憧れ展」
5/25~7/29
ギャラリーエークワッドで開催中の「美の壺 和モダン・暮らしと憧れ展」を見てきました。
毎週日曜、夜11時よりEテレで放送中の番組、美の壺。今年で放送10周年を迎えたそうです。
いきなり重厚な応接間が広がっていました。佐々木邸です。竣工は1934年。練馬の江古田に旧同潤会の分譲住宅として建設されました。今も現存しています。
その一部を実寸大スケールで再現。8畳の洋間です。左奥には屏風。中央の円卓をソファーが囲んでいます。床には敷物。ペルシャ絨毯でしょうか。実にモダンです。客間であり、また主人の書斎としても利用されます。このような洋室は大正から昭和にかけて流行したそうです。
裏に回りましょう。今度は畳敷きの純和風、客間です。手前は縁側です。やや広い。そこに読書用、あるいは夕涼みのためのものでしょうか。竹で編まれた椅子が2脚置かれています。
この客間も8畳です。別の角度から中を覗いてみました。中央には木製の机があります。大きい。6人以上は囲めるのではないでしょうか。また奥の右に棚があり、左には床の間があります。壺や掛軸も立派です。調度品で飾られています。かつて床の間は家の格式を示す場所でもありましたが、昭和に入ると土産や趣味のものを置くスペースとして用いられるようになりました。
再現は佐々木邸の洋間と客間、そして広縁の部分です。実際にはさらに6畳の居間と茶の間、そして水回りのほか、玄関に女中室なる部屋もありました。平屋の延べ床で31坪。敷地面積は147坪もあったというから驚きです。庭付きの一戸建て。敷地が広いのは通風や採光の確保のほか、将来的な増改築を行うためのものでした。
同潤会はこの程度の規模の住宅を都内近郊に524戸ほど建設したそうです。今の感覚からすれば大邸宅と呼んでも差し支えないかもしれません。
ちなみにこの佐々木邸は2009年の3月、美の壺の162回放送で取り上げられたそうです。私は見過ごしてしまいましたが、ご覧になった方々もおられるのではないでしょうか。
さて展示のテーマは「和モダン」。同じく番組で扱われた日本の工芸品についても紹介しています。
一例が切子です。鮮やかな緑色をしているのが薩摩切子の「縁切子台鉢」。19世紀後半の作品です。まるで蓮の花が開くように立っています。果物などをのせれば、より映えるのではないでしょうか。
寄木細工もありました。元は古代シリア周辺で生まれたという工芸品です。シルクロードを経て奈良時代の日本に伝わります。のち江戸時代では静岡や箱根で発展しました。複雑な文様のパターンは100種類以上も存在するそうです。
うち箱根土産でもお馴染みの秘密箱は実際には触れることも出来ました。ちょっとしたコツで開けることが可能です。
さらにフランス由来のボンボニエールも目を引きます。日本に伝わったのは明治時代です。以来、様々な慶事の引き出物として定着します。
風呂敷や手ぬぐいなどもずらり。美の壺のために作られた作品も展示されています。
第1回の「古伊万里」から、最新の第376回の「截金」へと至った「美の壺」。年表のパネルもあります。その歴史の一端を見知ることが出来ました。
100円のリーフレットがとても良く出来ていました。鑑賞の参考になりそうです。
ギャラリーエークワッドは東陽町の竹中工務店東京本店の1階にあるギャラリーです。業務ビルゆえに土日はお休みです。お出かけの際はご注意下さい。
入場は無料です。7月29日まで開催されています。
「放送10周年記念 美の壺 和モダン・暮らしと憧れ展」 ギャラリーエークワッド
会期:5月25日(水)~7月29日(金)
休廊:土曜・日曜・祝日。
時間:11:00~18:00。*最終日は17時まで。
料金:無料。
住所:江東区新砂1-1-1 竹中工務店東京本店1階
交通:東京メトロ東西線東陽町駅3番出口徒歩3分。
「美の壺 和モダン・暮らしと憧れ展」
5/25~7/29
ギャラリーエークワッドで開催中の「美の壺 和モダン・暮らしと憧れ展」を見てきました。
毎週日曜、夜11時よりEテレで放送中の番組、美の壺。今年で放送10周年を迎えたそうです。
いきなり重厚な応接間が広がっていました。佐々木邸です。竣工は1934年。練馬の江古田に旧同潤会の分譲住宅として建設されました。今も現存しています。
その一部を実寸大スケールで再現。8畳の洋間です。左奥には屏風。中央の円卓をソファーが囲んでいます。床には敷物。ペルシャ絨毯でしょうか。実にモダンです。客間であり、また主人の書斎としても利用されます。このような洋室は大正から昭和にかけて流行したそうです。
裏に回りましょう。今度は畳敷きの純和風、客間です。手前は縁側です。やや広い。そこに読書用、あるいは夕涼みのためのものでしょうか。竹で編まれた椅子が2脚置かれています。
この客間も8畳です。別の角度から中を覗いてみました。中央には木製の机があります。大きい。6人以上は囲めるのではないでしょうか。また奥の右に棚があり、左には床の間があります。壺や掛軸も立派です。調度品で飾られています。かつて床の間は家の格式を示す場所でもありましたが、昭和に入ると土産や趣味のものを置くスペースとして用いられるようになりました。
再現は佐々木邸の洋間と客間、そして広縁の部分です。実際にはさらに6畳の居間と茶の間、そして水回りのほか、玄関に女中室なる部屋もありました。平屋の延べ床で31坪。敷地面積は147坪もあったというから驚きです。庭付きの一戸建て。敷地が広いのは通風や採光の確保のほか、将来的な増改築を行うためのものでした。
同潤会はこの程度の規模の住宅を都内近郊に524戸ほど建設したそうです。今の感覚からすれば大邸宅と呼んでも差し支えないかもしれません。
ちなみにこの佐々木邸は2009年の3月、美の壺の162回放送で取り上げられたそうです。私は見過ごしてしまいましたが、ご覧になった方々もおられるのではないでしょうか。
さて展示のテーマは「和モダン」。同じく番組で扱われた日本の工芸品についても紹介しています。
一例が切子です。鮮やかな緑色をしているのが薩摩切子の「縁切子台鉢」。19世紀後半の作品です。まるで蓮の花が開くように立っています。果物などをのせれば、より映えるのではないでしょうか。
寄木細工もありました。元は古代シリア周辺で生まれたという工芸品です。シルクロードを経て奈良時代の日本に伝わります。のち江戸時代では静岡や箱根で発展しました。複雑な文様のパターンは100種類以上も存在するそうです。
うち箱根土産でもお馴染みの秘密箱は実際には触れることも出来ました。ちょっとしたコツで開けることが可能です。
さらにフランス由来のボンボニエールも目を引きます。日本に伝わったのは明治時代です。以来、様々な慶事の引き出物として定着します。
風呂敷や手ぬぐいなどもずらり。美の壺のために作られた作品も展示されています。
第1回の「古伊万里」から、最新の第376回の「截金」へと至った「美の壺」。年表のパネルもあります。その歴史の一端を見知ることが出来ました。
100円のリーフレットがとても良く出来ていました。鑑賞の参考になりそうです。
ギャラリーエークワッドは東陽町の竹中工務店東京本店の1階にあるギャラリーです。業務ビルゆえに土日はお休みです。お出かけの際はご注意下さい。
入場は無料です。7月29日まで開催されています。
「放送10周年記念 美の壺 和モダン・暮らしと憧れ展」 ギャラリーエークワッド
会期:5月25日(水)~7月29日(金)
休廊:土曜・日曜・祝日。
時間:11:00~18:00。*最終日は17時まで。
料金:無料。
住所:江東区新砂1-1-1 竹中工務店東京本店1階
交通:東京メトロ東西線東陽町駅3番出口徒歩3分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
「伊東マンショの肖像」 東京国立博物館
東京国立博物館・本館7室
「新発見!天正遣欧少年使節 伊東マンショの肖像」
5/17~7/10
東京国立博物館で開催中の「新発見!天正遣欧使節 伊東マンショの肖像」を見てきました。
安土桃山時代、キリシタン大名の名代としてローマを訪れた天正遣欧使節団の正使、伊東マンショ。使節団は中国、インド、ポルトガルなどを経由してイタリアへと渡ります。ローマでは教皇グレゴリウス13世に謁見し、舞踏会にも参加。大変な歓待を受けたそうです。
伊東マンショはヴェネツィアに滞在した際、現地の元老院の要請により肖像画のモデルを務めます。絵筆をとったのはヤコポ・ティントレットです。ヤコポは当初、集団肖像画として作品を制作します。没後、工房に残された絵を息子のドメニコが単独の肖像画として完成させました。ただ由来については諸説あります。個別に制作された肖像画をさらに切り詰めて完成させたという意見もあるようです。
その肖像画、同時代の文献に記録されていたものの、長らく存在が確認されていませんでした。発見後の世界初公開です。ティントレットの「伊東マンショの肖像」のほか、天正遣欧使節に関する文書、さらには東博のキリシタンにまつわる作品などが展示されています。
撮影が可能でした。
ドメニコ・ティントレット「伊東マンショの肖像」 1585年 ミラノ、トリヴルツィオ財団
まずはマンショの肖像画です。縦54センチ、横43センチ。油彩画です。想像していたよりもやや小さめの作品でした。白く大きな襞襟をつけ、帽子をかぶってはこちらを見やっています。印象深いのは目元です。流し目と言っても良いかもしれません。とかく涼しげです。左目はより左に寄り、右目だけを真っ直ぐ正面に向けています。服はワイン色でしょうか。僅かに赤らんだ顔はどこか疲労を帯びているようにも見えました。
「天正遣欧使節記」 イタリア・レッジオ刊行 1585年
マンショらの使節団を記録した天正遣欧使節記もありました。1585年の3月にイタリアに着いてから、ローマ滞在中の4月までの1ヶ月間の行動を記したものです。件の教皇と謁見のほか、初めて見る日本人に驚くイタリア人の様子なども書かれています。うちマンショに対する記述の一部は日本語訳がありました。パネルで紹介されています。
右:「三聖人像」 長崎奉行所旧蔵 16~17世紀
左:「三聖人像(模写)」 長崎奉行所旧蔵 安土桃山~江戸時代 16~17世紀
「三聖人像」も見どころではないでしょうか。制作は16~17世紀です。状態こそ異なるものの、モチーフや構図しかり、ほぼ瓜ふたつの作品と呼んで差し支えありません。右がイタリアからの舶来品です。左が模写でした。
「三聖人像」 長崎奉行所旧蔵 16~17世紀
ともに上部には聖母子が描かれ、聖人らは古代風の建物中に立っています。舶来品の素材は麻のキャンバスです。当時、日本にはないものだったことから、外国人宣教師により持ち込まれた作品だと考えられています。模写作も時代的にはほぼ同じです。イエズス会によって設立されたセミナリヨで絵画技法を学んだ日本人による作品だと言われています。
「親指のマリア」とも称される「聖母像」にも心惹かれました。青いヴェールに身を包んだ美しき聖母の姿。西洋美術館の所蔵で名高いカルロ・ドルチの作品に似ています。ただし本作についての画家は明らかではありません。
「聖母像(親指のマリア)」 長崎奉行所旧蔵 17世紀後期
来歴についてはある程度わかっているそうです。所有していたのはイタリア人宣教師のジョヴァンニ・バティスタ・シドッチ。時は江戸時代。既にキリスト教が禁じられていました。
シドッチは1708年、和装で屋久島に潜入。日本での布教を再開すべく活動しようとします。しかしながら直ぐさま捉えられ、江戸の小石川の切支丹屋敷に幽閉。1714年に47歳で没します。
目を伏せ、憂いを帯びた表情は実に甘美です。久々に対面出来て喜びもひとしおでした。
「新発見!天正遣欧少年使節 伊東マンショの肖像」会場入口
会場は常設こと総合文化展の第7室。本館の2階の屏風絵や障壁画などを展示するスペースです。
古代ギリシャ展やほほえみの御仏のチケットでも観覧出来ます。あわせて見るのも良いのではないでしょうか。
7月10日まで開催されています。
「新発見!天正遣欧少年使節 伊東マンショの肖像」 東京国立博物館・本館7室(@TNM_PR)
会期:5月17日(火)~7月10日(日)
時間:9:30~17:00。
*6月19日(日)までの土・日曜日は18時まで開館。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*6月22日(水)~7月10日(日)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
*6月27日(月)、7月4日(月)は本館のみ20時まで開館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*特別展観覧券でも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「新発見!天正遣欧少年使節 伊東マンショの肖像」
5/17~7/10
東京国立博物館で開催中の「新発見!天正遣欧使節 伊東マンショの肖像」を見てきました。
安土桃山時代、キリシタン大名の名代としてローマを訪れた天正遣欧使節団の正使、伊東マンショ。使節団は中国、インド、ポルトガルなどを経由してイタリアへと渡ります。ローマでは教皇グレゴリウス13世に謁見し、舞踏会にも参加。大変な歓待を受けたそうです。
伊東マンショはヴェネツィアに滞在した際、現地の元老院の要請により肖像画のモデルを務めます。絵筆をとったのはヤコポ・ティントレットです。ヤコポは当初、集団肖像画として作品を制作します。没後、工房に残された絵を息子のドメニコが単独の肖像画として完成させました。ただ由来については諸説あります。個別に制作された肖像画をさらに切り詰めて完成させたという意見もあるようです。
その肖像画、同時代の文献に記録されていたものの、長らく存在が確認されていませんでした。発見後の世界初公開です。ティントレットの「伊東マンショの肖像」のほか、天正遣欧使節に関する文書、さらには東博のキリシタンにまつわる作品などが展示されています。
撮影が可能でした。
ドメニコ・ティントレット「伊東マンショの肖像」 1585年 ミラノ、トリヴルツィオ財団
まずはマンショの肖像画です。縦54センチ、横43センチ。油彩画です。想像していたよりもやや小さめの作品でした。白く大きな襞襟をつけ、帽子をかぶってはこちらを見やっています。印象深いのは目元です。流し目と言っても良いかもしれません。とかく涼しげです。左目はより左に寄り、右目だけを真っ直ぐ正面に向けています。服はワイン色でしょうか。僅かに赤らんだ顔はどこか疲労を帯びているようにも見えました。
「天正遣欧使節記」 イタリア・レッジオ刊行 1585年
マンショらの使節団を記録した天正遣欧使節記もありました。1585年の3月にイタリアに着いてから、ローマ滞在中の4月までの1ヶ月間の行動を記したものです。件の教皇と謁見のほか、初めて見る日本人に驚くイタリア人の様子なども書かれています。うちマンショに対する記述の一部は日本語訳がありました。パネルで紹介されています。
右:「三聖人像」 長崎奉行所旧蔵 16~17世紀
左:「三聖人像(模写)」 長崎奉行所旧蔵 安土桃山~江戸時代 16~17世紀
「三聖人像」も見どころではないでしょうか。制作は16~17世紀です。状態こそ異なるものの、モチーフや構図しかり、ほぼ瓜ふたつの作品と呼んで差し支えありません。右がイタリアからの舶来品です。左が模写でした。
「三聖人像」 長崎奉行所旧蔵 16~17世紀
ともに上部には聖母子が描かれ、聖人らは古代風の建物中に立っています。舶来品の素材は麻のキャンバスです。当時、日本にはないものだったことから、外国人宣教師により持ち込まれた作品だと考えられています。模写作も時代的にはほぼ同じです。イエズス会によって設立されたセミナリヨで絵画技法を学んだ日本人による作品だと言われています。
「親指のマリア」とも称される「聖母像」にも心惹かれました。青いヴェールに身を包んだ美しき聖母の姿。西洋美術館の所蔵で名高いカルロ・ドルチの作品に似ています。ただし本作についての画家は明らかではありません。
「聖母像(親指のマリア)」 長崎奉行所旧蔵 17世紀後期
来歴についてはある程度わかっているそうです。所有していたのはイタリア人宣教師のジョヴァンニ・バティスタ・シドッチ。時は江戸時代。既にキリスト教が禁じられていました。
シドッチは1708年、和装で屋久島に潜入。日本での布教を再開すべく活動しようとします。しかしながら直ぐさま捉えられ、江戸の小石川の切支丹屋敷に幽閉。1714年に47歳で没します。
目を伏せ、憂いを帯びた表情は実に甘美です。久々に対面出来て喜びもひとしおでした。
「新発見!天正遣欧少年使節 伊東マンショの肖像」会場入口
会場は常設こと総合文化展の第7室。本館の2階の屏風絵や障壁画などを展示するスペースです。
古代ギリシャ展やほほえみの御仏のチケットでも観覧出来ます。あわせて見るのも良いのではないでしょうか。
7月10日まで開催されています。
「新発見!天正遣欧少年使節 伊東マンショの肖像」 東京国立博物館・本館7室(@TNM_PR)
会期:5月17日(火)~7月10日(日)
時間:9:30~17:00。
*6月19日(日)までの土・日曜日は18時まで開館。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*6月22日(水)~7月10日(日)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
*6月27日(月)、7月4日(月)は本館のみ20時まで開館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*特別展観覧券でも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」 東京国立博物館
東京国立博物館・本館 特別5室
「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」
6/21〜7/10
東京国立博物館・本館 特別5室で開催中の「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」を見てきました。
奈良の斑鳩、中宮寺門跡の本尊として名高い国宝の半跏思惟像。うっすらと笑みを浮かべた表情は実に流麗です。私もかつて中宮寺を訪ねた際、池に囲まれた本堂で、どこか涼しげに佇む姿に見惚れたものでした。
その半跏思惟像のルーツはインド、中国、そして朝鮮半島にあります。
うち一つが来日した韓国の半跏思惟像です。所蔵は同国の国立中央博物館。国宝78号の指定を受けています。
制作年は三国時代の6世紀。中宮寺の半跏思惟像に遡ること半世紀から1世紀前です。この日韓2体の半跏思惟像が両国の博物館として初めて同時に公開されました。先行した韓国展では約20日の会期に4万6千名もの人が集まったそうです。
会場は本館の特別5室。平成館ではありません。がらんとした一室のみでの展示です。作品は2体。ほかはキャプションがあるのみです。写真パネルも一切ありません。数メートルの間隔をあけ、2体の半跏思惟像が向き合っています。360度から観覧可能です。背中も見ることが出来ます。なお露出ではありません。ともに重厚なガラスケースに収められていました。
まず一目で明らかなのは仏像の大きさが異なることです。チラシでは同じように見えるかもしれますが、実際は全く違いました。中宮寺が像高126センチあるのに対し、韓国は83センチ。よって40センチ超ほど中宮寺の半跏思惟像の方が大きいのです。
国宝「半跏思惟像」 飛鳥時代・7世紀 奈良・中宮寺門跡
まずは親しみのある中宮寺の半跏思惟像を見てみました。素材はクスノキ。木造です。左足を下げ、右足を膝に組んでは座る仏像。背はやや直立しています。
左足首のあたりに左手をすっと落とし、右手、とりわけ中指で頬をなぞっています。お馴染みの思案のポーズです。指先は柔らかく、左手同様に力を抜いているように見えます。
黒光りする半身は滑らかで美しい。顔は面長です。頭には2つの球、すなわち結った髪が丸まっています。さらに両肩から肘のあたりに垂れているのも髪です。一部で円を描きながら、まるで肩を飾るように連なっています。
何よりも見入るのは穏やかな笑みでした。目を付し、微かに口を引いては笑う様は何とも上品です。顔立ちは中性的です。一見、あどけなくも映りますが、何か全てを達観したかのような落ち着きも感じられます。
一方で韓国国宝78号の半跏思惟像はどうでしょうか。
韓国国宝78号「半跏思惟像」 三国時代・6世紀 韓国国立中央博物館
先にも触れたように中宮寺に比べると小ぶり。素材は銅。つまり鋳造仏です。基本的なポーズは同じでした。右足を組み、右手を頬にやっては思案しています。ただしかなりの前傾姿勢です。それゆえか例えばロダンの考える人を思わせるようにどっしりと構えているように見えます。
胴や腕はかなり細く、大きな顔や腰と比べると、造形的にメリハリがあります。台座は羽のように広がり、一部に天衣が翻るなど、どことない動きも感じられました。
線刻が極めて緻密です。中宮寺の仏像はどちらかと言えば起伏を抑えていますが、韓国の仏像は随所の線の彫りが深く、また細い。全体的に陰影があります。
右手の小指と薬指をかなり屈曲させているからでしょうか。指先には力が入っているようにも見えました。笑みはより明らかです。微かではありません。丸いお顔です。頬はやや垂れています。目は横に鋭く切れていました。
頭頂部にも注目です。華麗な宝冠を冠っています。一部は前へ塔のように突き出ていました。何でも太陽と三日月をあわせた日月冠と呼ばれ、遠くペルシャに起源があるそうです。
ここで甲乙をつけるのは意味をなしませんが、思いの外に韓国の仏像に惹かれました。もちろん中宮寺の像も素晴らしい。時間の余す限り、自由に行き来しては、互いに異なる魅力を味わうことができました。
最後に場内の状況です。会期が短いことを考慮してか、初日を除き、開館時間を連日20時まで延長。通常の金曜だけでなく、土日を含む全ての曜日も夜間開館しています。しかも休館日もありません。
私は先日の第1週の木曜日、18時過ぎに入りましたが、中におられる方はおおよそ20〜30人ほど。思った以上に空いていました。特段に最前列確保の列もなく、好きなペースでゆっくり鑑賞出来ました。
セキュリティーが厳重でした。と言うのも、御仏展会期中は、正門で手荷物、金属探知機の検査を実施しているのです。ゲートは2箇所です。まず係の方がカバンを開けて中を調べます。スマホなどポケットの中身も出さなくてはいけません。金属探知機をパスすればOKです。空港並みのチェックでした。
私が出向いた際は空いていたため、列は皆無でしたが、ひょっとすると土日は入場まで多少時間がかかるやもしれません。
また会期中は東博本館の総合文化展も20時まで開館しています。私も御仏展の後、常設へと廻りましたが、ほぼ貸し切りと呼んで良いほど空いていました。ちなみに総合文化展のみのチケットでは夜間開館時に入場出来ません。ご注意下さい。(ほほえみの御仏展のチケットが必要です。)
300円のリーフレットがなかなか良く出来ていました。海を渡って初めて実現した日韓の半跏思惟像の邂逅。やはり貴重な機会だと言えるのではないでしょうか。
会期は僅か20日間です。7月10日まで開催されています。
「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」 東京国立博物館・本館 特別5室(@TNM_PR)
会期:6月21日(火)~7月10日(日)
時間:9:30〜20:00。
*但し6月21日(火)は17時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:会期中無休。
料金:一般1000(900)円、大学生700(600)円、高校生400(300)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」
6/21〜7/10
東京国立博物館・本館 特別5室で開催中の「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」を見てきました。
奈良の斑鳩、中宮寺門跡の本尊として名高い国宝の半跏思惟像。うっすらと笑みを浮かべた表情は実に流麗です。私もかつて中宮寺を訪ねた際、池に囲まれた本堂で、どこか涼しげに佇む姿に見惚れたものでした。
その半跏思惟像のルーツはインド、中国、そして朝鮮半島にあります。
うち一つが来日した韓国の半跏思惟像です。所蔵は同国の国立中央博物館。国宝78号の指定を受けています。
制作年は三国時代の6世紀。中宮寺の半跏思惟像に遡ること半世紀から1世紀前です。この日韓2体の半跏思惟像が両国の博物館として初めて同時に公開されました。先行した韓国展では約20日の会期に4万6千名もの人が集まったそうです。
会場は本館の特別5室。平成館ではありません。がらんとした一室のみでの展示です。作品は2体。ほかはキャプションがあるのみです。写真パネルも一切ありません。数メートルの間隔をあけ、2体の半跏思惟像が向き合っています。360度から観覧可能です。背中も見ることが出来ます。なお露出ではありません。ともに重厚なガラスケースに収められていました。
まず一目で明らかなのは仏像の大きさが異なることです。チラシでは同じように見えるかもしれますが、実際は全く違いました。中宮寺が像高126センチあるのに対し、韓国は83センチ。よって40センチ超ほど中宮寺の半跏思惟像の方が大きいのです。
国宝「半跏思惟像」 飛鳥時代・7世紀 奈良・中宮寺門跡
まずは親しみのある中宮寺の半跏思惟像を見てみました。素材はクスノキ。木造です。左足を下げ、右足を膝に組んでは座る仏像。背はやや直立しています。
左足首のあたりに左手をすっと落とし、右手、とりわけ中指で頬をなぞっています。お馴染みの思案のポーズです。指先は柔らかく、左手同様に力を抜いているように見えます。
黒光りする半身は滑らかで美しい。顔は面長です。頭には2つの球、すなわち結った髪が丸まっています。さらに両肩から肘のあたりに垂れているのも髪です。一部で円を描きながら、まるで肩を飾るように連なっています。
何よりも見入るのは穏やかな笑みでした。目を付し、微かに口を引いては笑う様は何とも上品です。顔立ちは中性的です。一見、あどけなくも映りますが、何か全てを達観したかのような落ち着きも感じられます。
一方で韓国国宝78号の半跏思惟像はどうでしょうか。
韓国国宝78号「半跏思惟像」 三国時代・6世紀 韓国国立中央博物館
先にも触れたように中宮寺に比べると小ぶり。素材は銅。つまり鋳造仏です。基本的なポーズは同じでした。右足を組み、右手を頬にやっては思案しています。ただしかなりの前傾姿勢です。それゆえか例えばロダンの考える人を思わせるようにどっしりと構えているように見えます。
胴や腕はかなり細く、大きな顔や腰と比べると、造形的にメリハリがあります。台座は羽のように広がり、一部に天衣が翻るなど、どことない動きも感じられました。
線刻が極めて緻密です。中宮寺の仏像はどちらかと言えば起伏を抑えていますが、韓国の仏像は随所の線の彫りが深く、また細い。全体的に陰影があります。
右手の小指と薬指をかなり屈曲させているからでしょうか。指先には力が入っているようにも見えました。笑みはより明らかです。微かではありません。丸いお顔です。頬はやや垂れています。目は横に鋭く切れていました。
頭頂部にも注目です。華麗な宝冠を冠っています。一部は前へ塔のように突き出ていました。何でも太陽と三日月をあわせた日月冠と呼ばれ、遠くペルシャに起源があるそうです。
ここで甲乙をつけるのは意味をなしませんが、思いの外に韓国の仏像に惹かれました。もちろん中宮寺の像も素晴らしい。時間の余す限り、自由に行き来しては、互いに異なる魅力を味わうことができました。
最後に場内の状況です。会期が短いことを考慮してか、初日を除き、開館時間を連日20時まで延長。通常の金曜だけでなく、土日を含む全ての曜日も夜間開館しています。しかも休館日もありません。
私は先日の第1週の木曜日、18時過ぎに入りましたが、中におられる方はおおよそ20〜30人ほど。思った以上に空いていました。特段に最前列確保の列もなく、好きなペースでゆっくり鑑賞出来ました。
セキュリティーが厳重でした。と言うのも、御仏展会期中は、正門で手荷物、金属探知機の検査を実施しているのです。ゲートは2箇所です。まず係の方がカバンを開けて中を調べます。スマホなどポケットの中身も出さなくてはいけません。金属探知機をパスすればOKです。空港並みのチェックでした。
私が出向いた際は空いていたため、列は皆無でしたが、ひょっとすると土日は入場まで多少時間がかかるやもしれません。
また会期中は東博本館の総合文化展も20時まで開館しています。私も御仏展の後、常設へと廻りましたが、ほぼ貸し切りと呼んで良いほど空いていました。ちなみに総合文化展のみのチケットでは夜間開館時に入場出来ません。ご注意下さい。(ほほえみの御仏展のチケットが必要です。)
300円のリーフレットがなかなか良く出来ていました。海を渡って初めて実現した日韓の半跏思惟像の邂逅。やはり貴重な機会だと言えるのではないでしょうか。
会期は僅か20日間です。7月10日まで開催されています。
「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」 東京国立博物館・本館 特別5室(@TNM_PR)
会期:6月21日(火)~7月10日(日)
時間:9:30〜20:00。
*但し6月21日(火)は17時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:会期中無休。
料金:一般1000(900)円、大学生700(600)円、高校生400(300)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「日本のグラフィックデザイン2016」 東京ミッドタウン・デザインハブ
東京ミッドタウン・デザインハブ
「日本のグラフィックデザイン2016」
6/17~8/8
東京ミッドタウン・デザインハブで開催中の「日本のグラフィックデザイン2016」 を見てきました。
日本はおろか、アジアでも最大級のデザイン団体である日本グラフィックデザイナー協会。同協会が1981年より刊行しているのが年鑑「Graphic Design in Japan」です。
工藤青石「化粧品」
本年版に掲載されたのは全600点の作品です。図版は1500点にも及びます。うち受賞作を含めた300点をピックアップ。ポスターほか雑貨、商品パッケージなどの実物を展示しています。
中條正義「資生堂パーラー2015」 JAGDA賞2016
資生堂パーラーのパッケージがありました。デザインしたのは中條正義です。定番のチーズケーキやガナシュなどが並びます。色遣いは大胆。とても目立ちます。銀座界隈などで目をする機会も多いかもしれません。
宮田裕美詠「千代鶴」シンボルロゴ JAGDA賞2016
宮田裕美詠が手掛けたのは酒造メーカーのシンボルロゴです。名は千代鶴。富山県滑川市の酒蔵です。純米大吟醸の発売を機に制作されました。力強い千の一文字。それでいて凛とした佇まいです。作り手による酒への真摯な取り組みが伝わってくるのではないでしょうか。
上西祐理「世界卓球2015」ポスター JAGDA賞2016
一見、何のデザインか分からないかもしれません。「世界卓球2015」の告知ポスターです。デザインは上西祐利。青い卓球台の上を跳ねるボール。スタイリッシュです。右はラケットにボールを組み合わせています。まるでボールが満月のように見えました。
服部一成「美術館の企画展」
美術展のポスターも目を引きます。昨年、東京都現代美術館で開催されたガブリエル・オロスコ展です。作品の2点の図版に加え、英語のタイトルと会期の表記がクロスします。服部一成のデザインとは知りませんでした。
柳圭一郎「日本酒」
パッケージでは化粧品の工藤青石も美しいのではないでしょうか。また広告制作プロダクションのサン・アド創立40周年を記念した日本酒のパッケージも可愛らしい。卵型に広がる青はコーポレートカラーを引用しているそうです。
色部義昭「個展の展示用書籍」
かつてGGGで新たな提案をした色部義昭の「街区表示板」も展示。板そのものかと思いきや、展示用の書籍でした。縦は従来のデザイン、横置きになっているのが色部の表示板です。かの個展の記憶も蘇りました。
「色部義昭:WALL」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(はろるど)
お気に入りのポスターや好きなパッケージを探して歩くのも良いかもしれません。気軽に楽しめました。
三木健「APPLE+」ポスター 第18回亀倉雄策賞
8月8日まで開催されています。
「日本のグラフィックデザイン2016」 東京ミッドタウン・デザインハブ(@DesignHub_Tokyo)
会期:6月17日(金)~8月8日(月)
休館:会期中無休
時間:11:00~19:00
料金:無料。
場所:港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
「日本のグラフィックデザイン2016」
6/17~8/8
東京ミッドタウン・デザインハブで開催中の「日本のグラフィックデザイン2016」 を見てきました。
日本はおろか、アジアでも最大級のデザイン団体である日本グラフィックデザイナー協会。同協会が1981年より刊行しているのが年鑑「Graphic Design in Japan」です。
工藤青石「化粧品」
本年版に掲載されたのは全600点の作品です。図版は1500点にも及びます。うち受賞作を含めた300点をピックアップ。ポスターほか雑貨、商品パッケージなどの実物を展示しています。
中條正義「資生堂パーラー2015」 JAGDA賞2016
資生堂パーラーのパッケージがありました。デザインしたのは中條正義です。定番のチーズケーキやガナシュなどが並びます。色遣いは大胆。とても目立ちます。銀座界隈などで目をする機会も多いかもしれません。
宮田裕美詠「千代鶴」シンボルロゴ JAGDA賞2016
宮田裕美詠が手掛けたのは酒造メーカーのシンボルロゴです。名は千代鶴。富山県滑川市の酒蔵です。純米大吟醸の発売を機に制作されました。力強い千の一文字。それでいて凛とした佇まいです。作り手による酒への真摯な取り組みが伝わってくるのではないでしょうか。
上西祐理「世界卓球2015」ポスター JAGDA賞2016
一見、何のデザインか分からないかもしれません。「世界卓球2015」の告知ポスターです。デザインは上西祐利。青い卓球台の上を跳ねるボール。スタイリッシュです。右はラケットにボールを組み合わせています。まるでボールが満月のように見えました。
服部一成「美術館の企画展」
美術展のポスターも目を引きます。昨年、東京都現代美術館で開催されたガブリエル・オロスコ展です。作品の2点の図版に加え、英語のタイトルと会期の表記がクロスします。服部一成のデザインとは知りませんでした。
柳圭一郎「日本酒」
パッケージでは化粧品の工藤青石も美しいのではないでしょうか。また広告制作プロダクションのサン・アド創立40周年を記念した日本酒のパッケージも可愛らしい。卵型に広がる青はコーポレートカラーを引用しているそうです。
色部義昭「個展の展示用書籍」
かつてGGGで新たな提案をした色部義昭の「街区表示板」も展示。板そのものかと思いきや、展示用の書籍でした。縦は従来のデザイン、横置きになっているのが色部の表示板です。かの個展の記憶も蘇りました。
「色部義昭:WALL」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(はろるど)
お気に入りのポスターや好きなパッケージを探して歩くのも良いかもしれません。気軽に楽しめました。
三木健「APPLE+」ポスター 第18回亀倉雄策賞
8月8日まで開催されています。
「日本のグラフィックデザイン2016」 東京ミッドタウン・デザインハブ(@DesignHub_Tokyo)
会期:6月17日(金)~8月8日(月)
休館:会期中無休
時間:11:00~19:00
料金:無料。
場所:港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」 山種美術館
山種美術館
「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」
5/31~6/26
山種美術館で開催中の「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」を見てきました。
かつて「日本画の奨励、普及活動の一環として」(展覧会サイトより)活動していた山種美術館賞。1971年から1997年の間、隔年で14回ほど行われていたそうです。
長谷川雅也「唯」 2016年 優秀賞
その賞が約20年の時を経て新たに衣替えしました。名は「Seed 山種美術館 日本画アワード」。公募展です。対象は45歳以下の画家。日本画の画材を用いた作品に限られます。259点もの応募がありました。その後、一次、本審査を経て、40名の入選者を選定。大賞以下、優秀賞、特別賞、審査員奨励賞の4点が決まりました。
今岡一穂の「虚と実」に魅せられました。3名の若い女性、同じモデルでしょうか。ポーズを変えて立っています。皆同じ黒いドレス。地の黒も滲んでいます。細い輪郭線はまるで仏画を象るかのようです。均一でかつ滑らかでした。一番右の女性は右手を左手首に添えて正面を見据えます。中央はやや右を向きます。最も動きがあるのは左の女性です。両手で腰のあたりの服を引っ張っています。黒田清輝の「智・感・情」を思い出しました。人の何らかの意思、ないし感情を表現しているのかもしれません。
やや異色なのが漆原夏樹の「彼女の風景」です。彼女とあるようにモチーフは確かに女性。しかし背には山が連なり、両腕を岩が支えています。人物と山水画が融合したかのようでした。
冬の野原を表したのが江川直也の「冬三日月」です。ねずみ色の空に白い三日月が浮かんでいます。雪原には一本の小道が林の方へと向かっていました。人の足跡によって出来た轍です。雪は多く水分を含んでいるのかもしれません。シャーベットと化しているように見えました。踏み込めばじゃりじゃりと音が聞こえてくるかのようです。
同じく自然の光景を示した加藤丈史の「畔」も美しいのではないでしょうか。湖畔の葦、まるで影絵のようなシルエットです。よく見ると氷のような白い粒がまとわりついています。凍りついているのかもしれません。静けさに包まれた真冬の光景を巧みに描いていました。
北川安季子の「対自ーハシビロコウ」が充実しています。獰猛な姿をした鳥。鷲のようにも見えます。両側の羽を振り上げてはさも威嚇するように立っていました。足元は澱んだ水。湯気がたっているのでしょうか。ただならぬ気配です。この世のものとは思えません。
京都絵美「ゆめうつつ」 2016年 大賞
受賞作の4点は会場の最奥部に展示されています。栄えある大賞は京都絵美の「ゆめうつつ」。文句なしの力作です。横たわっては身をくねらせる女性。目は開いています。腕を枕にしていました。顔から手足はうっすら白い光を放っています。驚くのはドレスの細かな模様でした。やや紫を帯びた白の線は実に緻密、それ自体が際立って見えます。背後は霧に包まれているなのか、それとも花畑なのか判然としません。今にも微睡もうとしているのでしょうか。妖艶でした。
狩俣公介「勢焔」 2016年 特別賞
特別賞は狩俣公介です。作品は「勢焔」。潜水艦でしょうか。白い水しぶきをあげながら黒い大きな物体が浮上しています。西洋美術館にあるブラングィンの「しけの日」を連想しました。水を掻き分け、凄まじい勢いで現る潜水艦。ただならぬ迫力が感じられます。
外山諒「Living Pillar」 2016年 審査員奨励賞
審査員奨励賞を受賞したのは外山諒。入選者で最も若い21歳の画家です。現在も愛知県立芸術大学で日本画を学んでいます。「Living Pillar」で描いたのは木の幹にとまる蝶、ないし蛾でしょうか。木目が広がり、そこに蛾が羽を休めています。中央部分のみ僅かに明るい。速水御舟の「炎舞」を思わせる面があるやもしれません。
彦川侑姫の「太陽円」が強烈です。一面のサークル。金泥です。驚くほど線は細い。まるで仏画の曼荼羅の如くに模様が広がります。宇宙をテーマとしているそうです。太陽は無限の彼方にまで光り輝いています。
山本真澄の「後ろの正面だぁれ」も面白いのではないでしょうか。いずれも白い服を着た子どもたち。空き地なのか、広場で遊ぶ様子が描かれています。中央は尾長鶏でしょうか。実にカラフルです。やや俯瞰した構図が個性的でもあります。
損保ジャパンの「FACE展2016」でも優秀賞を受賞した三鑰彩音も入選しています。タイトルは「依存」です。モデルはFACE展作同様に若い女性。同じく顔のアップです。やや横を向いています。長くボリュームのある髪の毛は時に金色を交えては装飾的に広がっています。肌の質感も美しい。すました表情も魅惑的でした。
丹羽尚子(貴子)「ひとりごと」 1977年 第4回山種美術館賞展優秀賞
出品は入選作全点の40点。さらにあわせて過去の山種美術館賞の受賞作も展示しています。昭和46年から52年にかけて行われた第1回から第4回展の作品です。そちらは計12点でした。
審査風景を捉えた写真パネルや日本画の画材について紹介するコーナーもありました。ほか受賞作家のクロッキーや小下図も参照しています。
独特な瑞々しい質感表現に長けた作品が目立ちました。繊細で豊かな画肌のニュアンス。図版では分からない魅力は確かに存在します。
間もなく会期末です。6月26日まで開催されています。
「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」 山種美術館(@yamatanemuseum)
会期:5月31日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般700(500)円、大・高生500(300)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*きもの割引:きもので来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」
5/31~6/26
山種美術館で開催中の「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」を見てきました。
かつて「日本画の奨励、普及活動の一環として」(展覧会サイトより)活動していた山種美術館賞。1971年から1997年の間、隔年で14回ほど行われていたそうです。
長谷川雅也「唯」 2016年 優秀賞
その賞が約20年の時を経て新たに衣替えしました。名は「Seed 山種美術館 日本画アワード」。公募展です。対象は45歳以下の画家。日本画の画材を用いた作品に限られます。259点もの応募がありました。その後、一次、本審査を経て、40名の入選者を選定。大賞以下、優秀賞、特別賞、審査員奨励賞の4点が決まりました。
今岡一穂の「虚と実」に魅せられました。3名の若い女性、同じモデルでしょうか。ポーズを変えて立っています。皆同じ黒いドレス。地の黒も滲んでいます。細い輪郭線はまるで仏画を象るかのようです。均一でかつ滑らかでした。一番右の女性は右手を左手首に添えて正面を見据えます。中央はやや右を向きます。最も動きがあるのは左の女性です。両手で腰のあたりの服を引っ張っています。黒田清輝の「智・感・情」を思い出しました。人の何らかの意思、ないし感情を表現しているのかもしれません。
やや異色なのが漆原夏樹の「彼女の風景」です。彼女とあるようにモチーフは確かに女性。しかし背には山が連なり、両腕を岩が支えています。人物と山水画が融合したかのようでした。
冬の野原を表したのが江川直也の「冬三日月」です。ねずみ色の空に白い三日月が浮かんでいます。雪原には一本の小道が林の方へと向かっていました。人の足跡によって出来た轍です。雪は多く水分を含んでいるのかもしれません。シャーベットと化しているように見えました。踏み込めばじゃりじゃりと音が聞こえてくるかのようです。
同じく自然の光景を示した加藤丈史の「畔」も美しいのではないでしょうか。湖畔の葦、まるで影絵のようなシルエットです。よく見ると氷のような白い粒がまとわりついています。凍りついているのかもしれません。静けさに包まれた真冬の光景を巧みに描いていました。
北川安季子の「対自ーハシビロコウ」が充実しています。獰猛な姿をした鳥。鷲のようにも見えます。両側の羽を振り上げてはさも威嚇するように立っていました。足元は澱んだ水。湯気がたっているのでしょうか。ただならぬ気配です。この世のものとは思えません。
京都絵美「ゆめうつつ」 2016年 大賞
受賞作の4点は会場の最奥部に展示されています。栄えある大賞は京都絵美の「ゆめうつつ」。文句なしの力作です。横たわっては身をくねらせる女性。目は開いています。腕を枕にしていました。顔から手足はうっすら白い光を放っています。驚くのはドレスの細かな模様でした。やや紫を帯びた白の線は実に緻密、それ自体が際立って見えます。背後は霧に包まれているなのか、それとも花畑なのか判然としません。今にも微睡もうとしているのでしょうか。妖艶でした。
狩俣公介「勢焔」 2016年 特別賞
特別賞は狩俣公介です。作品は「勢焔」。潜水艦でしょうか。白い水しぶきをあげながら黒い大きな物体が浮上しています。西洋美術館にあるブラングィンの「しけの日」を連想しました。水を掻き分け、凄まじい勢いで現る潜水艦。ただならぬ迫力が感じられます。
外山諒「Living Pillar」 2016年 審査員奨励賞
審査員奨励賞を受賞したのは外山諒。入選者で最も若い21歳の画家です。現在も愛知県立芸術大学で日本画を学んでいます。「Living Pillar」で描いたのは木の幹にとまる蝶、ないし蛾でしょうか。木目が広がり、そこに蛾が羽を休めています。中央部分のみ僅かに明るい。速水御舟の「炎舞」を思わせる面があるやもしれません。
彦川侑姫の「太陽円」が強烈です。一面のサークル。金泥です。驚くほど線は細い。まるで仏画の曼荼羅の如くに模様が広がります。宇宙をテーマとしているそうです。太陽は無限の彼方にまで光り輝いています。
山本真澄の「後ろの正面だぁれ」も面白いのではないでしょうか。いずれも白い服を着た子どもたち。空き地なのか、広場で遊ぶ様子が描かれています。中央は尾長鶏でしょうか。実にカラフルです。やや俯瞰した構図が個性的でもあります。
損保ジャパンの「FACE展2016」でも優秀賞を受賞した三鑰彩音も入選しています。タイトルは「依存」です。モデルはFACE展作同様に若い女性。同じく顔のアップです。やや横を向いています。長くボリュームのある髪の毛は時に金色を交えては装飾的に広がっています。肌の質感も美しい。すました表情も魅惑的でした。
丹羽尚子(貴子)「ひとりごと」 1977年 第4回山種美術館賞展優秀賞
出品は入選作全点の40点。さらにあわせて過去の山種美術館賞の受賞作も展示しています。昭和46年から52年にかけて行われた第1回から第4回展の作品です。そちらは計12点でした。
審査風景を捉えた写真パネルや日本画の画材について紹介するコーナーもありました。ほか受賞作家のクロッキーや小下図も参照しています。
独特な瑞々しい質感表現に長けた作品が目立ちました。繊細で豊かな画肌のニュアンス。図版では分からない魅力は確かに存在します。
間もなく会期末です。6月26日まで開催されています。
「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」 山種美術館(@yamatanemuseum)
会期:5月31日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般700(500)円、大・高生500(300)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*きもの割引:きもので来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
「観音の里の祈りとくらし展2」にてSNSユーザー向けの内覧会が開催されます
東京藝術大学大学美術館にて7月5日よりはじまる「観音の里の祈りとくらし展2ーびわ湖・長浜のホトケたち」。一昨年の第1回展よりスケールアップ。いわゆる観音の里こと滋賀県の長浜より40躯以上の仏像がやって来ます。
観音の里・長浜
http://kitabiwako.jp/kannon/
その「観音の里の祈りとくらし展2」にてSNSユーザー向けに内覧会が開催されます。
[東京藝術大学大学美術館 「観音の里の祈りとくらし展2」ブロガー内覧会 開催概要]
・日時:2014年7月4日(月) 18:00~19:00
・会場:東京藝術大学大学美術館(東京都台東区上野公園12-8)
・スケジュール
17:45 受付開始
18:00 内覧会開始 展示解説:長浜城歴史博物館 太田館長
19:00 終了
・定員:30名
・参加費:無料(会場までの交通費はご負担下さい。)
・参加資格:仏像、歴史、美術、旅行などに関心をお持ちで、ブログやSNS(ツイッター、フェイスブック、インスタグラム等)を通じて積極的に情報発信をされている方で、「観音の里の祈りとくらし展2」について記事を執筆・公開いただける方。非公開アカウントは対象外となります。
日時は展覧会開始前日の7月4日(月)の18時です。参加資格は仏像や美術などに関心を持ち、ブログ、Faceboook、Twitter、InstagramなどのSNSの公開アカウントで情報発信をしている方です。
[申込方法]
・専用フォームもしくは電子メール(kannon2016@tm-office.co.jp)にて受け付けます。
電子メールの場合、件名に「観音の里の祈りとくらし展2」内覧会参加希望と記載いただき、本文に以下の項目を記載下さい。
1. お名前(ハンドルネームおよび本名)
2. 連絡の取れる電子メールアドレス *PCからの受信ができる状態のもの
3. 電話番号
4. お持ちのブログ・SNSタイトルと、そのアドレス
申込方法は上記の通りです。専用フォーム、ないし専用メールにて受付中です。応募の締切は6月27日(月)の23:59まで。定員は30名です。当選者のみ6月29日(水)までにメールで連絡があります。
[参加特典]
1. 開幕日前日の特別な内覧会です。写真もぜひ撮影ください。
2. 一般入場者がいない中、ゆっくり観覧いただけます。
3. 長浜城歴史博物館 太田浩司館長による展示解説を行います。
当日は参加者のみの貸切での観覧です。撮影も出来ます。また長浜歴史博物館の太田浩司館長による展示解説も行われます。
開催前日、7月4日(月)の18時スタートのSNSユーザー向け内覧会。興味のある方は応募してみては如何でしょうか。
申込専用フォーム:http://www.tm-office.co.jp/exhibition_press/kannon2016/
専用電子メール:kannon2016@tm-office.co.jp
「観音の里の祈りとくらし展2ーびわ湖・長浜のホトケたち」(@nagahama_kannon) 東京藝術大学大学美術館
会期:7月5日(火)~8月7日(日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。7月19日は休館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、高校・大学生700(600)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展のチケットで当日に限り、同時開催「平櫛田中コレクション展(仮称)」を観覧可。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
観音の里・長浜
http://kitabiwako.jp/kannon/
その「観音の里の祈りとくらし展2」にてSNSユーザー向けに内覧会が開催されます。
[東京藝術大学大学美術館 「観音の里の祈りとくらし展2」ブロガー内覧会 開催概要]
・日時:2014年7月4日(月) 18:00~19:00
・会場:東京藝術大学大学美術館(東京都台東区上野公園12-8)
・スケジュール
17:45 受付開始
18:00 内覧会開始 展示解説:長浜城歴史博物館 太田館長
19:00 終了
・定員:30名
・参加費:無料(会場までの交通費はご負担下さい。)
・参加資格:仏像、歴史、美術、旅行などに関心をお持ちで、ブログやSNS(ツイッター、フェイスブック、インスタグラム等)を通じて積極的に情報発信をされている方で、「観音の里の祈りとくらし展2」について記事を執筆・公開いただける方。非公開アカウントは対象外となります。
日時は展覧会開始前日の7月4日(月)の18時です。参加資格は仏像や美術などに関心を持ち、ブログ、Faceboook、Twitter、InstagramなどのSNSの公開アカウントで情報発信をしている方です。
[申込方法]
・専用フォームもしくは電子メール(kannon2016@tm-office.co.jp)にて受け付けます。
電子メールの場合、件名に「観音の里の祈りとくらし展2」内覧会参加希望と記載いただき、本文に以下の項目を記載下さい。
1. お名前(ハンドルネームおよび本名)
2. 連絡の取れる電子メールアドレス *PCからの受信ができる状態のもの
3. 電話番号
4. お持ちのブログ・SNSタイトルと、そのアドレス
申込方法は上記の通りです。専用フォーム、ないし専用メールにて受付中です。応募の締切は6月27日(月)の23:59まで。定員は30名です。当選者のみ6月29日(水)までにメールで連絡があります。
[参加特典]
1. 開幕日前日の特別な内覧会です。写真もぜひ撮影ください。
2. 一般入場者がいない中、ゆっくり観覧いただけます。
3. 長浜城歴史博物館 太田浩司館長による展示解説を行います。
当日は参加者のみの貸切での観覧です。撮影も出来ます。また長浜歴史博物館の太田浩司館長による展示解説も行われます。
開催前日、7月4日(月)の18時スタートのSNSユーザー向け内覧会。興味のある方は応募してみては如何でしょうか。
申込専用フォーム:http://www.tm-office.co.jp/exhibition_press/kannon2016/
専用電子メール:kannon2016@tm-office.co.jp
「観音の里の祈りとくらし展2ーびわ湖・長浜のホトケたち」(@nagahama_kannon) 東京藝術大学大学美術館
会期:7月5日(火)~8月7日(日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。7月19日は休館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、高校・大学生700(600)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展のチケットで当日に限り、同時開催「平櫛田中コレクション展(仮称)」を観覧可。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
ところざわのゆり園の百合が見事でした
所沢の花の名所、ゆり園。敷地面積は広大です。3万平方メートルを誇ります。早咲きのすかしゆりがほぼ見頃を迎えていました。
場所は西武プリンスドームから道路を挟んでの反対側。西武球場前駅より歩道橋を渡って5分ほどです。園内は狭山丘陵の地形をそのまま活かしています。よってかなりの高低差があります。ウォーキングシューズが重宝しました。
今年は開花が例年より早かったそうです。それゆえか遅咲きのハイブリットも思いの外に咲いていました。ゆりは香りも楽しめます。園内には甘酸っぱい香りが広がっていました。
ゆり園には二つの鑑賞コースがあります。自然散策コースとらくらく鑑賞コースです。
前者は1キロ。ほぼ園内を一周します。森の中に立ち入っては坂を上り、また下ります。アップダウンはきつい。ハイキング感覚です。
らくらくコースは150メートルです。こちらはほぼ高低差はありません。ちょうど一番高いところから園内を見下ろすように進むことが出来ます。身体の不自由な方や高齢の方に配慮したコースだそうです。車椅子でも通行可能です。
園内には休憩スポットやベンチもあり、ゆりを愛でながら、のんびりと腰掛けている方も多く見受けられました。なお一定のルールに則ると、ペットの入園も出来るそうです。
色とりどりのゆり。花びらには透明感があります。私はどちらかといえば白や淡いピンクの花が好きですが、如何でしょうか。
全50種、45万株。ところざわのゆり園、実は初めて行きましたが、想像以上のスケールでした。
西武線の「ゆり散策きっぷ」がお得でした。西武線発駅からの往復乗車券とゆり園の入園券がセットになったきっぷです。池袋を起点にすると1500円。通常は入園券1100円と往復運賃740円を合わせて1840円ほどかかります。ほぼ片道分、340円が安くなりました。
このところの雨天でハイブリッドも開花を増やしているそうです。今週末頃が満開となるのではないでしょうか。
「ところざわのゆり園」
営業期間:2016年6月4日(土)~7月上旬(予定)
営業時間:9:00~17:00 *最終入園は16時半まで。
入園料:大人(中学生以上)1100円、子ども(4才~小学生)350円。
敷地面積:約3万平方メートル。
駐車場:西武プリンスドームB駐車場(700台)とD駐車場(100台)の二ヶ所あり。普通車1200円。
問合せ:04-2922-1370
住所:埼玉県所沢市上山口2227
交通:西武池袋線・西武山口線(レオライナー)西武球場前駅徒歩5分。
場所は西武プリンスドームから道路を挟んでの反対側。西武球場前駅より歩道橋を渡って5分ほどです。園内は狭山丘陵の地形をそのまま活かしています。よってかなりの高低差があります。ウォーキングシューズが重宝しました。
今年は開花が例年より早かったそうです。それゆえか遅咲きのハイブリットも思いの外に咲いていました。ゆりは香りも楽しめます。園内には甘酸っぱい香りが広がっていました。
ゆり園には二つの鑑賞コースがあります。自然散策コースとらくらく鑑賞コースです。
前者は1キロ。ほぼ園内を一周します。森の中に立ち入っては坂を上り、また下ります。アップダウンはきつい。ハイキング感覚です。
らくらくコースは150メートルです。こちらはほぼ高低差はありません。ちょうど一番高いところから園内を見下ろすように進むことが出来ます。身体の不自由な方や高齢の方に配慮したコースだそうです。車椅子でも通行可能です。
園内には休憩スポットやベンチもあり、ゆりを愛でながら、のんびりと腰掛けている方も多く見受けられました。なお一定のルールに則ると、ペットの入園も出来るそうです。
色とりどりのゆり。花びらには透明感があります。私はどちらかといえば白や淡いピンクの花が好きですが、如何でしょうか。
全50種、45万株。ところざわのゆり園、実は初めて行きましたが、想像以上のスケールでした。
西武線の「ゆり散策きっぷ」がお得でした。西武線発駅からの往復乗車券とゆり園の入園券がセットになったきっぷです。池袋を起点にすると1500円。通常は入園券1100円と往復運賃740円を合わせて1840円ほどかかります。ほぼ片道分、340円が安くなりました。
このところの雨天でハイブリッドも開花を増やしているそうです。今週末頃が満開となるのではないでしょうか。
「ところざわのゆり園」
営業期間:2016年6月4日(土)~7月上旬(予定)
営業時間:9:00~17:00 *最終入園は16時半まで。
入園料:大人(中学生以上)1100円、子ども(4才~小学生)350円。
敷地面積:約3万平方メートル。
駐車場:西武プリンスドームB駐車場(700台)とD駐車場(100台)の二ヶ所あり。普通車1200円。
問合せ:04-2922-1370
住所:埼玉県所沢市上山口2227
交通:西武池袋線・西武山口線(レオライナー)西武球場前駅徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学大学美術館
「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」
5/17~6/26
東京藝術大学大学美術館で開催中の「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」を見てきました。
東日本大震災から5年。今も津波の被害や原子力事故の影響を受けた地域では、被災文化財を救援、復旧させる活動が続いています。
そうした文化財レスキューの取り組みを紹介する展覧会です。また加えて東北地方に所縁のある画家や彫刻家らの作品もあわせ見ています。
会場は2部構成です。はじめは「東北の美術」。一括りに東北の美術とするのは強引と断りながらも、東北に関わった芸術家らの作品を展示しています。
ほぼ東北3県の公立美術館のコレクション展と呼んでも良いかもしれません。具体的には福島県立美術館、宮城県美術館、そして岩手県立美術館。さらにいわき市立美術館、郡山市立美術館です。一部に個人や寄託作品も含みます。全70点。少なくともこのスケールで東北の美術館のコレクションを見たのは初めてでした。
酒井三良「雪に埋もれつつ正月はゆく」 1919年 福島県立美術館
作品番号1は酒井三良。福島は会津の画家です。タイトルは「雪に埋もれつつ正月はゆく」。いわゆる日本画でした。囲炉裏を囲んでのおそらくは家族の団欒。正月とあるので真冬なのでしょう。母は手に茶碗を持ち、父はやや寒そうに襟の辺りへ手をいれています。子は足を放り出して火箸を手にしています。ちょこんと座った猫も微笑ましい。雪国の平穏な日常を表しています。
真山孝治の「彼岸に近く」に魅せられました。仙台の東北学院に学び、その後は白馬会で活動。1938年に多賀城へ移ってからは画壇との関係を絶ち、独自の創作を行った画家です。横たわる夫人。草地には紫色の花が咲いています。同じく紫色の帯は手前にはだけています。眠っているのか、それとも咄嗟に倒れたのか判然としません。筆触はざわめいていて、なおかつ力強い。独特の質感があります。
関根正二「姉弟」 1918年 福島県立美術館
関根正二も福島の白河の生まれです。作品は2点、「姉弟」と「神の祈り」が並んでいます。ともに連れそう2人を横から捉えた構図。「姉弟」では姉が妹を後ろに背負っては花畑を歩いています。「神の祈り」は初めて見たかもしれません。白い装束に身を包んだ女性。後ろの女性の頭には何やら光輪のようなものが浮かんでいました。背景は暗く、場所は明らかではありません。やはり此岸ではないのでしょうか。神秘的な光景が広がってもいます。
萬鉄五郎「赤い目の自画像」 1913年頃 岩手県立美術館
萬鉄五郎は岩手生まれの画家です。「土沢風景」は田舎の様子を描いたもの。山里の長閑な風景を見ることが出来ます。一転して「赤い目の自画像」は鮮烈です。赤い目ならぬ、背景しかり、全てに赤が強い。燃えるというよりも、血のような赤です。顔面は黄色や緑色に分割されてもいます。フォーヴの先駆者とも言われる萬ならではの表現と言えそうです。
松本竣介「盛岡風景」 1941年 岩手県立美術館
幼少期を花巻と盛岡で過ごした松本竣介も3点ほど出ていました。うち2点は風景、「山景(岩手山)」と「盛岡風景」は文字通り郷里を描いた作品です。前者が山を有り体に捉えたのに対し、後者は構図に歪みも見られて不穏な情景にも映ります。もう1点は「画家の像」です。何よりも大きく、まるでモニュメンタルナ銅像のように立つ画家の姿。彼方に視線をやっています。背後には街の光景が広がります。そして寄り添う2人。子だけがこちらを覗き込むように見ています。全てが薄い朱色、ないし茶褐色に覆われてもいます。何を考え、そして何を見ているのでしょうか。
私にとって初めて聞く名の画家にも惹かれた作品がありました。澤田哲郎の「小休止」です。松本竣介と同じく中学の後輩に当たる画家で、後に藤田嗣治に師事しました。大きな荷車を引く人夫。麦わら帽子をかぶり、白い作業着らしき服を着ています。疲れてしまったのでしょうか。前に寄りかかっては眠っているようにも見えます。下から見上げた構図が独特です。人夫も荷車もともにダイナミック。色彩も部分だけとればまるで抽象画のようでした。
橋本八百二の「津軽石川一月八日の川開」も迫力があるのではないでしょうか。岩手生まれで、同県の県会議員も務めた洋画家です。鮭の漁でしょうか。逞しき漁師たちが力強く網を手繰り寄せています。網の中で跳ねる鮭は銀色の光を放っています。全体はほぼ黒。よって暗い。異様な雰囲気を醸し出しています。
大正から戦中、戦後だけでなく、近年制作された作品にも触れているのもポイントです。例えば本田健。山口の出身ながらも、岩手の遠野に魅せられて移住した画家です。作品は2003年の「山あるきー9月」。やはり遠野の風景なのでしょうか。草の合間を流れる水。写実的です。飛沫がたっています。本田は風景を一度、写真に収め、その後、チャコールペンシルで紙に描きとめる手法をとっています。光の陰影も鮮やかではないでしょうか。
舟越保武「少女像」 1950年頃 岩手県立美術館
彫刻では福島の相馬生まれの佐藤朝山と、岩手の二戸出身の舟越保武が目立っていました。それぞれ2点と3点。一際大きいのは舟越の「原の城」です。いわゆる島原の乱に着装を得た作品、甲冑を身につけた兵士が立っています。口を開けては悲しそうな表情をしています。何やら亡骸、あるいは亡霊のようです。
震災を踏まえて制作された作品もあります。中でも興味深いのは青野文昭です。立ち並ぶタンスなどの家具群。そこに衣服などが付着、ないしは合接しています。作家は元々、廃物を利用したインスタレーションを手がけていましたが、震災後は被災した砂浜で収集したものを取り込んで作品を作るようになったそうです。収集物には確かに収集した浜の名が記されています。かつては誰かの所有物であったであろうもの。実は一度、αMで作品を目にしたことがありますが、まさか今回の展示にも出展しているとは思いませんでした。
さて会場後半、第2部は「大震災による被災と文化財レスキュー、そして復興」です。東北3県の被災した博物館、ないしは文化センターなどのレスキュー活動などをパネルなどで紹介しています。
富岡町文化交流センター 2013年5月28日撮影
各県毎の展示です。まずは福島県。富岡文化交流センター学びの森では、防護服に身を包んだ方々が作品を取り外し、運搬している様子などが写されています。またいわゆる放射能汚染の問題により、巡回展が中止になり、出品停止が相次ぐなどの影響も出ます。それゆえに美術館などの活動再開には除染作業なども重要となりました。
岩手で最も被災したのは陸前高田の市立博物館でした。津波により2階天井まで浸水。瓦礫が押し寄せます。建物こそ残ったものの、中は壊滅的な状況に陥り、6名の職員の方も全て亡くなられました。
被災後、3~4ヶ月経ってからレスキューが始まったそうです。作品は一度、盛岡へ移送。そこで乾燥、燻蒸がなされた後、全国各地より集まった修復の専門家により応急処置が行われます。海水を被るという前例のない被害は、修復に際しても大きな障害となったそうです。現在でも未だ作業が続いています。
高橋英吉「潮音」 1939年 石巻文化センター
修復プロセスだけでなく、実際に修復のなされた作品も一部にやって来ています。石巻文化センターの芳賀仭の「青年」です。椅子に座る裸の男。肘をついてはうつむいてる姿が描かれています。しかしながら津波で被災。修復を経て、再び公開されました。ほか同じく修復のされた浅井元義の「石巻スケッチ」シリーズもあります。またやはり石巻文化センターにあり、津波の被害を間逃れた高橋英吉の代表作、「海の3部作」も展示。「潮音」、「黒潮閑日」、「漁夫像」の3点が震災後、宮城県外で公開されるのは初めてだそうです。
石巻文化センター 美術作品の汚れ落としと梱包 2011年4月27日撮影
これまでにも度々、文化財レスキューを伝える展示が都内各地で行なわれてきました。
「気仙沼と、東日本大震災の記録」 目黒区美術館
「3.11大津波と文化財の再生」 東京国立博物館
「平成の大津波被害と博物館」 江戸東京博物館
それらはいずれもリアス・アークであったり、陸前高田市立博物館であったりと、どちらかと言えば限定されたエリアの活動を紹介するものでした。
今回は東北被災3県の広域に目を向けた展示です。さらに美術品自体も加わっています。その意味では規模が大きい。レスキュー活動を知るとともに、東北の美術をある程度俯瞰出来るのではないでしょうか。
入場時に受付でカタログをいただきました。レスキュー活動はもちろん、東北3県の美術についても、写真、図版、テキストで丁寧に伝えています。永久保存版となりそうです。
6月26日まで開催されています。おすすめします。
「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」 東京藝術大学大学美術館
会期:5月17日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般800(600)円、高校・大学生500(400)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」
5/17~6/26
東京藝術大学大学美術館で開催中の「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」を見てきました。
東日本大震災から5年。今も津波の被害や原子力事故の影響を受けた地域では、被災文化財を救援、復旧させる活動が続いています。
そうした文化財レスキューの取り組みを紹介する展覧会です。また加えて東北地方に所縁のある画家や彫刻家らの作品もあわせ見ています。
会場は2部構成です。はじめは「東北の美術」。一括りに東北の美術とするのは強引と断りながらも、東北に関わった芸術家らの作品を展示しています。
ほぼ東北3県の公立美術館のコレクション展と呼んでも良いかもしれません。具体的には福島県立美術館、宮城県美術館、そして岩手県立美術館。さらにいわき市立美術館、郡山市立美術館です。一部に個人や寄託作品も含みます。全70点。少なくともこのスケールで東北の美術館のコレクションを見たのは初めてでした。
酒井三良「雪に埋もれつつ正月はゆく」 1919年 福島県立美術館
作品番号1は酒井三良。福島は会津の画家です。タイトルは「雪に埋もれつつ正月はゆく」。いわゆる日本画でした。囲炉裏を囲んでのおそらくは家族の団欒。正月とあるので真冬なのでしょう。母は手に茶碗を持ち、父はやや寒そうに襟の辺りへ手をいれています。子は足を放り出して火箸を手にしています。ちょこんと座った猫も微笑ましい。雪国の平穏な日常を表しています。
真山孝治の「彼岸に近く」に魅せられました。仙台の東北学院に学び、その後は白馬会で活動。1938年に多賀城へ移ってからは画壇との関係を絶ち、独自の創作を行った画家です。横たわる夫人。草地には紫色の花が咲いています。同じく紫色の帯は手前にはだけています。眠っているのか、それとも咄嗟に倒れたのか判然としません。筆触はざわめいていて、なおかつ力強い。独特の質感があります。
関根正二「姉弟」 1918年 福島県立美術館
関根正二も福島の白河の生まれです。作品は2点、「姉弟」と「神の祈り」が並んでいます。ともに連れそう2人を横から捉えた構図。「姉弟」では姉が妹を後ろに背負っては花畑を歩いています。「神の祈り」は初めて見たかもしれません。白い装束に身を包んだ女性。後ろの女性の頭には何やら光輪のようなものが浮かんでいました。背景は暗く、場所は明らかではありません。やはり此岸ではないのでしょうか。神秘的な光景が広がってもいます。
萬鉄五郎「赤い目の自画像」 1913年頃 岩手県立美術館
萬鉄五郎は岩手生まれの画家です。「土沢風景」は田舎の様子を描いたもの。山里の長閑な風景を見ることが出来ます。一転して「赤い目の自画像」は鮮烈です。赤い目ならぬ、背景しかり、全てに赤が強い。燃えるというよりも、血のような赤です。顔面は黄色や緑色に分割されてもいます。フォーヴの先駆者とも言われる萬ならではの表現と言えそうです。
松本竣介「盛岡風景」 1941年 岩手県立美術館
幼少期を花巻と盛岡で過ごした松本竣介も3点ほど出ていました。うち2点は風景、「山景(岩手山)」と「盛岡風景」は文字通り郷里を描いた作品です。前者が山を有り体に捉えたのに対し、後者は構図に歪みも見られて不穏な情景にも映ります。もう1点は「画家の像」です。何よりも大きく、まるでモニュメンタルナ銅像のように立つ画家の姿。彼方に視線をやっています。背後には街の光景が広がります。そして寄り添う2人。子だけがこちらを覗き込むように見ています。全てが薄い朱色、ないし茶褐色に覆われてもいます。何を考え、そして何を見ているのでしょうか。
私にとって初めて聞く名の画家にも惹かれた作品がありました。澤田哲郎の「小休止」です。松本竣介と同じく中学の後輩に当たる画家で、後に藤田嗣治に師事しました。大きな荷車を引く人夫。麦わら帽子をかぶり、白い作業着らしき服を着ています。疲れてしまったのでしょうか。前に寄りかかっては眠っているようにも見えます。下から見上げた構図が独特です。人夫も荷車もともにダイナミック。色彩も部分だけとればまるで抽象画のようでした。
橋本八百二の「津軽石川一月八日の川開」も迫力があるのではないでしょうか。岩手生まれで、同県の県会議員も務めた洋画家です。鮭の漁でしょうか。逞しき漁師たちが力強く網を手繰り寄せています。網の中で跳ねる鮭は銀色の光を放っています。全体はほぼ黒。よって暗い。異様な雰囲気を醸し出しています。
大正から戦中、戦後だけでなく、近年制作された作品にも触れているのもポイントです。例えば本田健。山口の出身ながらも、岩手の遠野に魅せられて移住した画家です。作品は2003年の「山あるきー9月」。やはり遠野の風景なのでしょうか。草の合間を流れる水。写実的です。飛沫がたっています。本田は風景を一度、写真に収め、その後、チャコールペンシルで紙に描きとめる手法をとっています。光の陰影も鮮やかではないでしょうか。
舟越保武「少女像」 1950年頃 岩手県立美術館
彫刻では福島の相馬生まれの佐藤朝山と、岩手の二戸出身の舟越保武が目立っていました。それぞれ2点と3点。一際大きいのは舟越の「原の城」です。いわゆる島原の乱に着装を得た作品、甲冑を身につけた兵士が立っています。口を開けては悲しそうな表情をしています。何やら亡骸、あるいは亡霊のようです。
震災を踏まえて制作された作品もあります。中でも興味深いのは青野文昭です。立ち並ぶタンスなどの家具群。そこに衣服などが付着、ないしは合接しています。作家は元々、廃物を利用したインスタレーションを手がけていましたが、震災後は被災した砂浜で収集したものを取り込んで作品を作るようになったそうです。収集物には確かに収集した浜の名が記されています。かつては誰かの所有物であったであろうもの。実は一度、αMで作品を目にしたことがありますが、まさか今回の展示にも出展しているとは思いませんでした。
さて会場後半、第2部は「大震災による被災と文化財レスキュー、そして復興」です。東北3県の被災した博物館、ないしは文化センターなどのレスキュー活動などをパネルなどで紹介しています。
富岡町文化交流センター 2013年5月28日撮影
各県毎の展示です。まずは福島県。富岡文化交流センター学びの森では、防護服に身を包んだ方々が作品を取り外し、運搬している様子などが写されています。またいわゆる放射能汚染の問題により、巡回展が中止になり、出品停止が相次ぐなどの影響も出ます。それゆえに美術館などの活動再開には除染作業なども重要となりました。
岩手で最も被災したのは陸前高田の市立博物館でした。津波により2階天井まで浸水。瓦礫が押し寄せます。建物こそ残ったものの、中は壊滅的な状況に陥り、6名の職員の方も全て亡くなられました。
被災後、3~4ヶ月経ってからレスキューが始まったそうです。作品は一度、盛岡へ移送。そこで乾燥、燻蒸がなされた後、全国各地より集まった修復の専門家により応急処置が行われます。海水を被るという前例のない被害は、修復に際しても大きな障害となったそうです。現在でも未だ作業が続いています。
高橋英吉「潮音」 1939年 石巻文化センター
修復プロセスだけでなく、実際に修復のなされた作品も一部にやって来ています。石巻文化センターの芳賀仭の「青年」です。椅子に座る裸の男。肘をついてはうつむいてる姿が描かれています。しかしながら津波で被災。修復を経て、再び公開されました。ほか同じく修復のされた浅井元義の「石巻スケッチ」シリーズもあります。またやはり石巻文化センターにあり、津波の被害を間逃れた高橋英吉の代表作、「海の3部作」も展示。「潮音」、「黒潮閑日」、「漁夫像」の3点が震災後、宮城県外で公開されるのは初めてだそうです。
石巻文化センター 美術作品の汚れ落としと梱包 2011年4月27日撮影
これまでにも度々、文化財レスキューを伝える展示が都内各地で行なわれてきました。
「気仙沼と、東日本大震災の記録」 目黒区美術館
「3.11大津波と文化財の再生」 東京国立博物館
「平成の大津波被害と博物館」 江戸東京博物館
それらはいずれもリアス・アークであったり、陸前高田市立博物館であったりと、どちらかと言えば限定されたエリアの活動を紹介するものでした。
今回は東北被災3県の広域に目を向けた展示です。さらに美術品自体も加わっています。その意味では規模が大きい。レスキュー活動を知るとともに、東北の美術をある程度俯瞰出来るのではないでしょうか。
入場時に受付でカタログをいただきました。レスキュー活動はもちろん、東北3県の美術についても、写真、図版、テキストで丁寧に伝えています。永久保存版となりそうです。
6月26日まで開催されています。おすすめします。
「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」 東京藝術大学大学美術館
会期:5月17日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般800(600)円、高校・大学生500(400)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「ルノワール展」 国立新美術館
国立新美術館
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」
4/27~8/22
国立新美術館で開催中の「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」のプレスプレビューに参加してきました。
フランスの印象派を代表するピエール=オーギュスト・ルノワール。その最高傑作とも呼ばれる「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が初めて日本の美術館の展示室へやって来ました。
まさしく色彩の躍動です。縦1メートル30センチ、横1メートル70センチ超の大画面。舞台はモンマルトルのふもとにオープンしたダンスホールです。当時、名物の焼き菓子のガレット(ギャレット)が人気を集めていたことから、この名で呼ばれました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」 1876年 オルセー美術館
たくさんの若者が踊りや会話に興じています。一体、何名描かれているのでしょうか。中央のベンチに座るのがユステル。仕立て屋の娘です。そして彼女にもたれかかるのは姉のジャンヌ。「ぶらんこ」でもモデルを務めました。さらに手前のテーブルを囲む男は画家仲間です。一人はパイプを楽しんでいます。奥にも大勢の人々。ほぼ全ての人物が笑みをこぼしています。身をくねらせ、寄せ合い、手を取り合う。これほど多幸感に満ちた作品もなかなかありません。
地面には木漏れ日が降り注ぎます。ここでは光が全て色で表現されています。白く灯し、水色に染まっています。筆触は細かい。全てが揺らめいても見えます。まるで雲の上にいるかのようです。人々は幸せの瞬間を分け隔てなく享受しています。どことなく白昼夢を前にしたかのような感覚に襲われました。ひたすらに美しい。ため息すら洩れてしまいます。
この「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と同様、ダンスをモチーフにした作品があります。それが2つのダンス、「田舎のダンス」と「都会のダンス」です。ともに制作年はムーランの7年後。対と言っても差し支えありません。ちなみに両作品が同時に来日したのは約45年ぶりのことでもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「都会のダンス」 1883年 オルセー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「田舎のダンス」 1883年 オルセー美術館
「田舎のダンス」のモデルはルノワールの後の妻となるアリーヌです。花の柄でしょうか。白のドレスを着ています。頭には赤い帽子。日本の扇子を振り上げています。腰をかなり落とし、さも男性に寄りかかるような姿です。よく見ると舞台の左下に子どもらしき顔が見えます。アリーヌは歯を見せるほど笑っています。ダンスを楽しんでいるようです。
一方の「都会のダンス」はどうでしょうか。モデルはかのユトリロの母で画家でもあるシュザンヌ・ヴァラドンです。腰をぐっと入れて男性に密着しています。立ち姿はより美しい。姿勢に無理がありません。一方で表情はやや憂いを帯びているようにも見えます。また気がつけば田舎ではかなり厚手のドレスを着ているのに対し、都会は背中を出した薄手のそれを身につけています。ルノワール自身、ここに田舎と都会だけでなく、夏と冬を対比させていたそうです。
ちなみにこの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と「田舎のダンス」に「都会のダンス」、会場ではちょうど向かい合うように展示されています。テーマは「現代生活を描く」です。この3点に加え、先のジャンヌが登場する「ぶらんこ」や舟遊びを描いた「アルフォンシーヌ・フルネーズ」なども並んでいます。
左:フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルのダンスホール」 1888年 オルセー美術館
さらに興味深いのはルノワール以外の同時代の画家も参照されていることです。例えばティソの「夜会あるいは舞踏会」。着飾った女性がパーティ会場に入ろうとしています。サテンドレスの鮮やかな黄色は実に美しい。ベローの「夜会」やゴッホの「アルルのダンスホール」も同じく舞踏会、ないしダンスをモチーフとしています。ほかルノワール次男のジャンがムーラン・ルージュの様子を描いた映画までをあわせ見ています。
つまりダンス、酒場、カフェなど、当時の現代、19世紀のパリに特徴的な都市生活を、様々な作品から検証しているわけです。
ここで全体について触れておきたいと思います。この「現代生活を描く」は第4章。展覧会自体は10章構成です。かなり細かく分かれています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「猫と少年」 1868年 オルセー美術館
冒頭は「印象派へ向かって」。マネやクールベの影響を受けた「猫と少年」と、その約8年後に制作され、第2回印象派展にも出品された「陽光のなかの裸婦」の2点が展示されています。
必ずしも制作年代順に並んでいるわけではないのもポイントです。その後、肖像、風景、さらにルノワールが良く描いた子どもの作品、花の絵などと続きます。先の現代生活同様、基本的にはテーマ別の展示です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジョルジュ・アルトマン夫人」 1874年 オルセー美術館
肖像では「ジョルジュ・アルトマン夫人」に魅せられました。黒いドレスをまとい、扇子を手にした夫人。得意気にポーズをとっています。フリルやリボンの装飾は贅沢です。奥にはグランドピアノがあり、一人の少女が譜面に向き合っていました。右奥には一枚の絵画が垣間見えます。布張りのソファは重厚で、絨毯にも豊かな質感があります。壁のクロスが装飾的でした。草花のモチーフでしょうか。縦は180センチ超と大きい。ルノワールでは初めての室内における全身肖像画でもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「草原の坂道」 1875年頃 オルセー美術館
1870年代は油彩の4分の1を風景画が占めていたそうです。「草原の坂道」はどうでしょうか。一面に草の生えた丘。中央に白い小道がのびています。ちょうど坂の途中に人の姿があります。どうやら坂を降りてはこちらへやって来ているようです。親子でしょうか。夫人は白いドレスを着ています。日差しが強いのかもしれません。赤い日傘を差していました。坂の上にも2人。こちらは大人の男女です。筆触は荒々しく、草の表現はまるで殴り書きのようでした。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネ、あるいは猫を抱く子ども」 1887年 オルセー美術館
子どもの作品では「ジュリー・マネ あるいは猫を描く子ども」が美しい。モデルは画家のマネの弟でウジェーヌの子、ジュリーです。当時9歳。猫を抱いて座っています。見るたびに感じるのは表情が大人びているということです。やや流し目でこちらを見やります。口元にはうっすら笑みも浮かんでいました。もちろん可愛らしくありますが、どこか気品を感じるのではないでしょうか。
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「静物」 1885年頃 オルセー美術館
ルノワールは生涯にわたり約300枚の花の絵を描きました。うちやや古典的なのが「静物」です。テーブルクロス上の果実と花瓶。白と赤の花が入れられています。瓶はガラスです。手前の果実を反射しています。ルノワールは花の絵に際して時に大胆な色遣いを試みています。花の絵における「試行錯誤から得られた経験を、他の絵に応用する」との言葉も残しています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」 1897-1898年頃 オランジュリー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾く少女たち」 1892年 オルセー美術館
かつてブリヂストン美術館のドビュッシー展のチラシ表紙を飾った「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」も再びやって来ました。舞台はコレクターであったアンリ・ルロルのサロン。かのドビュッシーをはじめとする音楽家らも集っていました。興味深いのは同じピアノを弾くモチーフである「ピアノを弾く少女たち」と並んで展示されていることです。
後者はイヴォンヌらの作の約5年前に描かれたもの。モデルは分かっていません。やはり同じようにピアノへ2人の女性が向き合っています。色調は全体的に明るく、とりわけ鍵盤に手をやる女性の白いドレスが美しい。長いブロンドの髪も鮮やかです。さらに金の椅子のパイプ、ないし奥の室内にも同じような金、ないし黄色が用いられています。曲を口ずさんでいるのでしょうか。僅かに口が開いてもいました。
ラスト、第10章は裸婦です。とりわけ画業晩期、1900年以降に手掛けた作品に着目しています。そもそもルノワールは最初期、1860年代に早くも裸婦に取り組んでいましたが、次第に遠ざかり、続く20年間はあまり描きませんでした。再び裸婦に向き合ったのは1890年代以降のことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「浴女たち」 1918-1919年 オルセー美術館
人生最後の数ヶ月に制作されたのが「浴女」です。身体は既にリウマチに侵され、手も自由に動かなかったそうです。にも関わらず、この豊かな色遣い。緑の中で横たわってはくつろぐ浴女たちも生命感に満ち溢れています。楽園を連想しました。表現の衰えを殆ど感じさせることがありません。
作品は全部で100点ほど。ルノワールが大半を占めていますが、一部にほかの画家を含みます。全てがオルセーとオランジュリー美術館のコレクションです。ここしばらく様々なルノワール展を見てきましたが、質量ともに今回の展示を超えるものはなかったのではないでしょうか。極めて充実していました。
最後に会場内の状況です。開幕よりおおよそ1ヶ月半以上が経過。会期は中盤を迎えました。私もプレビューに次いで、6月4日の土曜日、改めて観覧してきました。
屋外のチケットブース、および入口での入場待ちの列はありませんでした。ただし場内はさすがに盛況。特にはじめの方の展示室は各作品の前で多くの方が見入っていました。
目玉の「ムーラン・ ド ・ ラ・ギャレットの舞踏会」も4~5重の人だかり。係の方による「前へおすすみ下さい。」のアナウンスもなされていました。
ただし会場自体が広いこともあるのか、そのほかの作品に関しては特に列などもなく、自分のペースで好きなように見ることができました。
6月初旬の段階では余裕があるようです。とはいえ、何かと話題の展覧会です。終盤は大変な混雑も予想されます。毎週金曜の夜間開館も有用となるかもしれません。
8月22日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:4月27日(水)~8月22日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
*毎週金曜日は夜20時まで開館。
*8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
* ( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」
4/27~8/22
国立新美術館で開催中の「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」のプレスプレビューに参加してきました。
フランスの印象派を代表するピエール=オーギュスト・ルノワール。その最高傑作とも呼ばれる「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が初めて日本の美術館の展示室へやって来ました。
まさしく色彩の躍動です。縦1メートル30センチ、横1メートル70センチ超の大画面。舞台はモンマルトルのふもとにオープンしたダンスホールです。当時、名物の焼き菓子のガレット(ギャレット)が人気を集めていたことから、この名で呼ばれました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」 1876年 オルセー美術館
たくさんの若者が踊りや会話に興じています。一体、何名描かれているのでしょうか。中央のベンチに座るのがユステル。仕立て屋の娘です。そして彼女にもたれかかるのは姉のジャンヌ。「ぶらんこ」でもモデルを務めました。さらに手前のテーブルを囲む男は画家仲間です。一人はパイプを楽しんでいます。奥にも大勢の人々。ほぼ全ての人物が笑みをこぼしています。身をくねらせ、寄せ合い、手を取り合う。これほど多幸感に満ちた作品もなかなかありません。
地面には木漏れ日が降り注ぎます。ここでは光が全て色で表現されています。白く灯し、水色に染まっています。筆触は細かい。全てが揺らめいても見えます。まるで雲の上にいるかのようです。人々は幸せの瞬間を分け隔てなく享受しています。どことなく白昼夢を前にしたかのような感覚に襲われました。ひたすらに美しい。ため息すら洩れてしまいます。
この「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と同様、ダンスをモチーフにした作品があります。それが2つのダンス、「田舎のダンス」と「都会のダンス」です。ともに制作年はムーランの7年後。対と言っても差し支えありません。ちなみに両作品が同時に来日したのは約45年ぶりのことでもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「都会のダンス」 1883年 オルセー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「田舎のダンス」 1883年 オルセー美術館
「田舎のダンス」のモデルはルノワールの後の妻となるアリーヌです。花の柄でしょうか。白のドレスを着ています。頭には赤い帽子。日本の扇子を振り上げています。腰をかなり落とし、さも男性に寄りかかるような姿です。よく見ると舞台の左下に子どもらしき顔が見えます。アリーヌは歯を見せるほど笑っています。ダンスを楽しんでいるようです。
一方の「都会のダンス」はどうでしょうか。モデルはかのユトリロの母で画家でもあるシュザンヌ・ヴァラドンです。腰をぐっと入れて男性に密着しています。立ち姿はより美しい。姿勢に無理がありません。一方で表情はやや憂いを帯びているようにも見えます。また気がつけば田舎ではかなり厚手のドレスを着ているのに対し、都会は背中を出した薄手のそれを身につけています。ルノワール自身、ここに田舎と都会だけでなく、夏と冬を対比させていたそうです。
ちなみにこの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と「田舎のダンス」に「都会のダンス」、会場ではちょうど向かい合うように展示されています。テーマは「現代生活を描く」です。この3点に加え、先のジャンヌが登場する「ぶらんこ」や舟遊びを描いた「アルフォンシーヌ・フルネーズ」なども並んでいます。
左:フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルのダンスホール」 1888年 オルセー美術館
さらに興味深いのはルノワール以外の同時代の画家も参照されていることです。例えばティソの「夜会あるいは舞踏会」。着飾った女性がパーティ会場に入ろうとしています。サテンドレスの鮮やかな黄色は実に美しい。ベローの「夜会」やゴッホの「アルルのダンスホール」も同じく舞踏会、ないしダンスをモチーフとしています。ほかルノワール次男のジャンがムーラン・ルージュの様子を描いた映画までをあわせ見ています。
つまりダンス、酒場、カフェなど、当時の現代、19世紀のパリに特徴的な都市生活を、様々な作品から検証しているわけです。
ここで全体について触れておきたいと思います。この「現代生活を描く」は第4章。展覧会自体は10章構成です。かなり細かく分かれています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「猫と少年」 1868年 オルセー美術館
冒頭は「印象派へ向かって」。マネやクールベの影響を受けた「猫と少年」と、その約8年後に制作され、第2回印象派展にも出品された「陽光のなかの裸婦」の2点が展示されています。
必ずしも制作年代順に並んでいるわけではないのもポイントです。その後、肖像、風景、さらにルノワールが良く描いた子どもの作品、花の絵などと続きます。先の現代生活同様、基本的にはテーマ別の展示です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジョルジュ・アルトマン夫人」 1874年 オルセー美術館
肖像では「ジョルジュ・アルトマン夫人」に魅せられました。黒いドレスをまとい、扇子を手にした夫人。得意気にポーズをとっています。フリルやリボンの装飾は贅沢です。奥にはグランドピアノがあり、一人の少女が譜面に向き合っていました。右奥には一枚の絵画が垣間見えます。布張りのソファは重厚で、絨毯にも豊かな質感があります。壁のクロスが装飾的でした。草花のモチーフでしょうか。縦は180センチ超と大きい。ルノワールでは初めての室内における全身肖像画でもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「草原の坂道」 1875年頃 オルセー美術館
1870年代は油彩の4分の1を風景画が占めていたそうです。「草原の坂道」はどうでしょうか。一面に草の生えた丘。中央に白い小道がのびています。ちょうど坂の途中に人の姿があります。どうやら坂を降りてはこちらへやって来ているようです。親子でしょうか。夫人は白いドレスを着ています。日差しが強いのかもしれません。赤い日傘を差していました。坂の上にも2人。こちらは大人の男女です。筆触は荒々しく、草の表現はまるで殴り書きのようでした。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネ、あるいは猫を抱く子ども」 1887年 オルセー美術館
子どもの作品では「ジュリー・マネ あるいは猫を描く子ども」が美しい。モデルは画家のマネの弟でウジェーヌの子、ジュリーです。当時9歳。猫を抱いて座っています。見るたびに感じるのは表情が大人びているということです。やや流し目でこちらを見やります。口元にはうっすら笑みも浮かんでいました。もちろん可愛らしくありますが、どこか気品を感じるのではないでしょうか。
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「静物」 1885年頃 オルセー美術館
ルノワールは生涯にわたり約300枚の花の絵を描きました。うちやや古典的なのが「静物」です。テーブルクロス上の果実と花瓶。白と赤の花が入れられています。瓶はガラスです。手前の果実を反射しています。ルノワールは花の絵に際して時に大胆な色遣いを試みています。花の絵における「試行錯誤から得られた経験を、他の絵に応用する」との言葉も残しています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」 1897-1898年頃 オランジュリー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾く少女たち」 1892年 オルセー美術館
かつてブリヂストン美術館のドビュッシー展のチラシ表紙を飾った「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」も再びやって来ました。舞台はコレクターであったアンリ・ルロルのサロン。かのドビュッシーをはじめとする音楽家らも集っていました。興味深いのは同じピアノを弾くモチーフである「ピアノを弾く少女たち」と並んで展示されていることです。
後者はイヴォンヌらの作の約5年前に描かれたもの。モデルは分かっていません。やはり同じようにピアノへ2人の女性が向き合っています。色調は全体的に明るく、とりわけ鍵盤に手をやる女性の白いドレスが美しい。長いブロンドの髪も鮮やかです。さらに金の椅子のパイプ、ないし奥の室内にも同じような金、ないし黄色が用いられています。曲を口ずさんでいるのでしょうか。僅かに口が開いてもいました。
ラスト、第10章は裸婦です。とりわけ画業晩期、1900年以降に手掛けた作品に着目しています。そもそもルノワールは最初期、1860年代に早くも裸婦に取り組んでいましたが、次第に遠ざかり、続く20年間はあまり描きませんでした。再び裸婦に向き合ったのは1890年代以降のことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「浴女たち」 1918-1919年 オルセー美術館
人生最後の数ヶ月に制作されたのが「浴女」です。身体は既にリウマチに侵され、手も自由に動かなかったそうです。にも関わらず、この豊かな色遣い。緑の中で横たわってはくつろぐ浴女たちも生命感に満ち溢れています。楽園を連想しました。表現の衰えを殆ど感じさせることがありません。
作品は全部で100点ほど。ルノワールが大半を占めていますが、一部にほかの画家を含みます。全てがオルセーとオランジュリー美術館のコレクションです。ここしばらく様々なルノワール展を見てきましたが、質量ともに今回の展示を超えるものはなかったのではないでしょうか。極めて充実していました。
最後に会場内の状況です。開幕よりおおよそ1ヶ月半以上が経過。会期は中盤を迎えました。私もプレビューに次いで、6月4日の土曜日、改めて観覧してきました。
屋外のチケットブース、および入口での入場待ちの列はありませんでした。ただし場内はさすがに盛況。特にはじめの方の展示室は各作品の前で多くの方が見入っていました。
目玉の「ムーラン・ ド ・ ラ・ギャレットの舞踏会」も4~5重の人だかり。係の方による「前へおすすみ下さい。」のアナウンスもなされていました。
ただし会場自体が広いこともあるのか、そのほかの作品に関しては特に列などもなく、自分のペースで好きなように見ることができました。
6月初旬の段階では余裕があるようです。とはいえ、何かと話題の展覧会です。終盤は大変な混雑も予想されます。毎週金曜の夜間開館も有用となるかもしれません。
8月22日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:4月27日(水)~8月22日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
*毎週金曜日は夜20時まで開館。
*8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
* ( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「奈良原一高 作品展 消滅した時間」 FUJIFILM SQUARE
FUJIFILM SQUARE
「奈良原一高 作品展 消滅した時間」
第1部:6/1~7/31、第2部:8/1~9/30
FUJIFILM SQUAREで開催中の「奈良原一高 作品展 消滅した時間」を見てきました。
1931年に福岡に生まれた写真家、奈良原一高。表題の「消滅した時間」は、1975年に出版した写真集の名に由来します。
舞台はアメリカです。1970年から出版の前年にかけて撮影されました。その写真集を展示では分岐点に設定。初期、1950年代から1974年までを第1部、そして後から近年へ至る作品を第2部に分けて紹介しています。
冒頭、「人間の土地」からして迫力がありました。こちらを見やる一人の鉱夫。おそらくは軍艦島の作業員です。やせ細っていて肋骨が浮き出ています。それでいて表情はやや虚ろです。とは言え、目はクワッと見開いています。強い実在感。汗の臭いも伝わるかのようです。さらに軍艦島そのものを斜めから写した作品も面白い。まさしく荒波を突き進む軍艦のようにも見えます。
「色」 <ジャパネスクより> 1968年
一転して鮮やかな色彩が目に飛び込んできました。「ジャパネスク」です。奈良原は1962年に渡欧。フランスからイタリア、スペインを旅しては写真を撮り続けます。写真集の表紙を飾った作品でしょうか。座るのは裸の女性です。下半身のみしか伺えません。その上を赤いドレスが逆さに広がっています。大きな花が咲いているようでした。
「消滅した時間」によって奈良原は国際的な評価を得ることが出来たそうです。疾走する車のシルエット。砂漠です。空は広い。車の影は光に溶けています。この世から消えていく姿のようにも映ります。
「アメリカ・インディアン村の二つのゴミ缶」 <消滅した時間>より 1972年
「アメリカ・インディアン村の二つのゴミ缶」も有名な一枚ではないでしょうか。もちろんオリジナルのプリントです。例のゴミ缶が宙で浮いているように見えます。さらに彼方には白い雲が浮かびます。まるで綿あめです。空に引き裂かれたように散っていました。
会場はミッドタウン内のFUJIFILM SQUARE。ショウルームの一角での展示です。作品数も10数点ほどに過ぎません。六本木界隈の美術館へお出かけの際に立ち寄っても良いのではないでしょうか。
なお会期は先にも触れたように2期制です。第1部と第2部で全ての作品が入れ替わります。
第1部:「近くて遥かな旅 1954〜1974」 6月1日(水)~7月31日(日)
第2部:「眺めの彼方 1970〜2002」 8月1日(月)~9月30日(金)
奈良原は2002年から病床についているそうです。今年4月には文集の「太陽の肖像」を出版しました。そちらも一度あたってみたいと思います。
「太陽の肖像/奈良原一高/白水社」
第1部は7月31日まで開催されています。
「奈良原一高 作品展 消滅した時間」 FUJIFILM SQUARE
会期:第1部 6月1日(水)~7月31日(日)、第2部 8月1日(月)~9月30日(金)
休館:会期中無休
時間:10:00~19:00 *入場は閉館の10分前まで
料金:無料
住所:港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン・ウエスト1階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口より徒歩5分。 都営大江戸線六本木駅8番出口より直結。 東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口より徒歩5分。
「奈良原一高 作品展 消滅した時間」
第1部:6/1~7/31、第2部:8/1~9/30
FUJIFILM SQUAREで開催中の「奈良原一高 作品展 消滅した時間」を見てきました。
1931年に福岡に生まれた写真家、奈良原一高。表題の「消滅した時間」は、1975年に出版した写真集の名に由来します。
舞台はアメリカです。1970年から出版の前年にかけて撮影されました。その写真集を展示では分岐点に設定。初期、1950年代から1974年までを第1部、そして後から近年へ至る作品を第2部に分けて紹介しています。
冒頭、「人間の土地」からして迫力がありました。こちらを見やる一人の鉱夫。おそらくは軍艦島の作業員です。やせ細っていて肋骨が浮き出ています。それでいて表情はやや虚ろです。とは言え、目はクワッと見開いています。強い実在感。汗の臭いも伝わるかのようです。さらに軍艦島そのものを斜めから写した作品も面白い。まさしく荒波を突き進む軍艦のようにも見えます。
「色」 <ジャパネスクより> 1968年
一転して鮮やかな色彩が目に飛び込んできました。「ジャパネスク」です。奈良原は1962年に渡欧。フランスからイタリア、スペインを旅しては写真を撮り続けます。写真集の表紙を飾った作品でしょうか。座るのは裸の女性です。下半身のみしか伺えません。その上を赤いドレスが逆さに広がっています。大きな花が咲いているようでした。
「消滅した時間」によって奈良原は国際的な評価を得ることが出来たそうです。疾走する車のシルエット。砂漠です。空は広い。車の影は光に溶けています。この世から消えていく姿のようにも映ります。
「アメリカ・インディアン村の二つのゴミ缶」 <消滅した時間>より 1972年
「アメリカ・インディアン村の二つのゴミ缶」も有名な一枚ではないでしょうか。もちろんオリジナルのプリントです。例のゴミ缶が宙で浮いているように見えます。さらに彼方には白い雲が浮かびます。まるで綿あめです。空に引き裂かれたように散っていました。
会場はミッドタウン内のFUJIFILM SQUARE。ショウルームの一角での展示です。作品数も10数点ほどに過ぎません。六本木界隈の美術館へお出かけの際に立ち寄っても良いのではないでしょうか。
なお会期は先にも触れたように2期制です。第1部と第2部で全ての作品が入れ替わります。
第1部:「近くて遥かな旅 1954〜1974」 6月1日(水)~7月31日(日)
第2部:「眺めの彼方 1970〜2002」 8月1日(月)~9月30日(金)
奈良原は2002年から病床についているそうです。今年4月には文集の「太陽の肖像」を出版しました。そちらも一度あたってみたいと思います。
「太陽の肖像/奈良原一高/白水社」
第1部は7月31日まで開催されています。
「奈良原一高 作品展 消滅した時間」 FUJIFILM SQUARE
会期:第1部 6月1日(水)~7月31日(日)、第2部 8月1日(月)~9月30日(金)
休館:会期中無休
時間:10:00~19:00 *入場は閉館の10分前まで
料金:無料
住所:港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン・ウエスト1階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口より徒歩5分。 都営大江戸線六本木駅8番出口より直結。 東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「摘水軒記念文化振興財団コレクション展 後期 花鳥動物画」 柏市民ギャラリー
柏市民ギャラリー
「摘水軒記念文化振興財団コレクション展 後期 花鳥動物画」
6/1~6/16
柏市民ギャラリーで開催中の「摘水軒記念文化振興財団コレクション展 後期 花鳥動物画」を見てきました。
ご当地、柏で行われている摘水軒のコレクション展。会期は2期制です。前期は浮世絵で現在は既に後期。全ての作品が入れ替わりました。
「摘水軒記念文化振興財団コレクション展 前期 肉筆浮世絵」 柏市民ギャラリー(はろるど)
テーマは花鳥動物画です。江戸絵画のうち花鳥や動物をモチーフとした作品を展示しています。
伊藤若冲「旭日鳳凰図」 摘水軒記念文化振興財団
まずは有名どころからいきましょう。若冲です。「旭日松鶴図」の1点。得意の鶴。松の幹の上にとまっています。一羽はさも太陽に向けて鳴き声をあげるかのように天を向き、もう一羽は首を大きくくねらせては、先の一羽に絡みついています。いつもながらに構図が独特です。白い羽はやや黄金色を帯びています。仄かな光を放っていました。
葛飾北斎「雪中鷲図」 摘水軒記念文化振興財団
北斎の「雪中鷲図」も力強い。雪の積もった木の上の鷲。太い足から鋭い爪を見せています。とはいえ、鷲の表情はどこか得意気で、まるで人の顔のようです。擬人的とも言えるでしょうか。飄々としています。解説に鳥天狗とありましたが、さもありなんという気もしました。
酒井抱一「牡丹獅子図」 摘水軒記念文化振興財団
応挙の「猛虎図」は可愛らしい。まるで猫が上目遣いで飼い主を見ているようです。ほか抱一も1点、「牡丹獅子図」が出ていました。二曲一隻の屏風絵です。地は金。紅白の牡丹を背景に獅子が描かれています。視線は右方向。やや戯けているのでしょうか。毛並みはかなり細かい。細い線を1本1本、丁寧に重ねています。獅子の屏風絵といえば、永徳の唐獅子図を思い出しますが、抱一作にはかの猛々しさは皆無。人懐っこく見えました。
さて摘水軒のコレクション、こうした有名絵師ではなく、むしろあまり知られていない絵師の方により魅惑的な作品があると言えるかもしれません。
例えば岡本秋暉です。そもそも摘水軒の寺島家は多くの文人らと交流があり、その一人に秋暉がいました。ゆえにコレクションも充実しています。
岡本秋暉「花鳥図」(部分) 摘水軒記念文化振興財団
今回の出品は4点です。うち「百花百鳥図」が美しい。紫陽花、菊に水仙。まさに百花です。季節の異なる花が咲き誇っています。そこへ水禽や雉などの鳥が集っていました。華やかな作品です。同じく秋暉では「花鳥図」も良いのではないでしょうか。鳥の白い羽は透き通っています。ピンク色の花びらも湿り気を帯びているようでした。
安田雷洲の「鷹図」も強烈です。海の上の岩場にとまる鷹。しかしながら何も写実を志向しているわけではありません。言い換えればサイボーグ。凄みのある出で立ちです。雷洲は江戸後期の絵師。かの北斎に師事していたこともありましたが、後に蘭学の研究を深め、西洋風の絵画を描いたそうです。その典型例とも呼べる一枚。確かに深い陰影はまるで銅版画のようでした。
吉川一渓の「白狐図」も面白い。闇夜の白狐。人魂のような炎が宙を舞っています。下には白い花。神秘的な光景です。ほかの江戸絵画ではあまり見られません。
「摘水軒記念文化振興財団コレクション展」出品リスト
前期(肉筆浮世絵):5月14日(土)~5月30日(月)
後期(花鳥動物画):6月1日(水)~6月16日(木)
これまで散発的に見る機会のあった摘水軒の江戸絵画群。ようやくまとめて鑑賞することが出来ました。
入場は無料です。6月16日まで開催されています。
「柏市民ギャラリー新装開館記念 摘水軒記念文化振興財団コレクション展 前期 肉筆浮世絵」 柏市民ギャラリー
会期:6月1日(水)~6月16日(木)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
料金:無料。
住所:千葉県柏市柏1-7-1 Day Oneタワー3階パレット柏内
交通:JR線・東武アーバンパークライン柏駅南口より徒歩3分。同駅東口より徒歩5分。
「摘水軒記念文化振興財団コレクション展 後期 花鳥動物画」
6/1~6/16
柏市民ギャラリーで開催中の「摘水軒記念文化振興財団コレクション展 後期 花鳥動物画」を見てきました。
ご当地、柏で行われている摘水軒のコレクション展。会期は2期制です。前期は浮世絵で現在は既に後期。全ての作品が入れ替わりました。
「摘水軒記念文化振興財団コレクション展 前期 肉筆浮世絵」 柏市民ギャラリー(はろるど)
テーマは花鳥動物画です。江戸絵画のうち花鳥や動物をモチーフとした作品を展示しています。
伊藤若冲「旭日鳳凰図」 摘水軒記念文化振興財団
まずは有名どころからいきましょう。若冲です。「旭日松鶴図」の1点。得意の鶴。松の幹の上にとまっています。一羽はさも太陽に向けて鳴き声をあげるかのように天を向き、もう一羽は首を大きくくねらせては、先の一羽に絡みついています。いつもながらに構図が独特です。白い羽はやや黄金色を帯びています。仄かな光を放っていました。
葛飾北斎「雪中鷲図」 摘水軒記念文化振興財団
北斎の「雪中鷲図」も力強い。雪の積もった木の上の鷲。太い足から鋭い爪を見せています。とはいえ、鷲の表情はどこか得意気で、まるで人の顔のようです。擬人的とも言えるでしょうか。飄々としています。解説に鳥天狗とありましたが、さもありなんという気もしました。
酒井抱一「牡丹獅子図」 摘水軒記念文化振興財団
応挙の「猛虎図」は可愛らしい。まるで猫が上目遣いで飼い主を見ているようです。ほか抱一も1点、「牡丹獅子図」が出ていました。二曲一隻の屏風絵です。地は金。紅白の牡丹を背景に獅子が描かれています。視線は右方向。やや戯けているのでしょうか。毛並みはかなり細かい。細い線を1本1本、丁寧に重ねています。獅子の屏風絵といえば、永徳の唐獅子図を思い出しますが、抱一作にはかの猛々しさは皆無。人懐っこく見えました。
さて摘水軒のコレクション、こうした有名絵師ではなく、むしろあまり知られていない絵師の方により魅惑的な作品があると言えるかもしれません。
例えば岡本秋暉です。そもそも摘水軒の寺島家は多くの文人らと交流があり、その一人に秋暉がいました。ゆえにコレクションも充実しています。
岡本秋暉「花鳥図」(部分) 摘水軒記念文化振興財団
今回の出品は4点です。うち「百花百鳥図」が美しい。紫陽花、菊に水仙。まさに百花です。季節の異なる花が咲き誇っています。そこへ水禽や雉などの鳥が集っていました。華やかな作品です。同じく秋暉では「花鳥図」も良いのではないでしょうか。鳥の白い羽は透き通っています。ピンク色の花びらも湿り気を帯びているようでした。
安田雷洲の「鷹図」も強烈です。海の上の岩場にとまる鷹。しかしながら何も写実を志向しているわけではありません。言い換えればサイボーグ。凄みのある出で立ちです。雷洲は江戸後期の絵師。かの北斎に師事していたこともありましたが、後に蘭学の研究を深め、西洋風の絵画を描いたそうです。その典型例とも呼べる一枚。確かに深い陰影はまるで銅版画のようでした。
吉川一渓の「白狐図」も面白い。闇夜の白狐。人魂のような炎が宙を舞っています。下には白い花。神秘的な光景です。ほかの江戸絵画ではあまり見られません。
「摘水軒記念文化振興財団コレクション展」出品リスト
前期(肉筆浮世絵):5月14日(土)~5月30日(月)
後期(花鳥動物画):6月1日(水)~6月16日(木)
これまで散発的に見る機会のあった摘水軒の江戸絵画群。ようやくまとめて鑑賞することが出来ました。
入場は無料です。6月16日まで開催されています。
「柏市民ギャラリー新装開館記念 摘水軒記念文化振興財団コレクション展 前期 肉筆浮世絵」 柏市民ギャラリー
会期:6月1日(水)~6月16日(木)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
料金:無料。
住所:千葉県柏市柏1-7-1 Day Oneタワー3階パレット柏内
交通:JR線・東武アーバンパークライン柏駅南口より徒歩3分。同駅東口より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「玉川堂200年展」 ポーラミュージアムアネックス
ポーラミュージアムアネックス
「玉川堂200年展~打つ。時を打つ。」
6/4~6/19
ポーラミュージアムアネックスで開催中の「玉川堂200年展~打つ。時を打つ。」を見てきました。
新潟県の燕市で200年前から銅器を制作する玉川堂。銅版を金槌で鍛え上げて成形する「鎚起銅器」(ついきどうき)の技術を、国内で唯一、継承しているそうです。
「玉川堂200年展」会場風景
作品はもとより、展示自体が美しいのには感心しました。場内は暗室。中央に大きな黒いテーブルが置かれています。そこに並ぶのが銅器です。全部で25点超。照明も効果的です。いずれも光り輝いていました。
玉川宣夫「木目金皿」 昭和50年代
テーブルの上に薄い液体が注がれていることに気づきました。水ではなくオイルです。やや粘り気を帯びているようにも見えます。微かに揺らいでいました。オイルの面が銅器を鮮やかに反射させています。
玉川覚平「花瓶 花鳥金銀象嵌一対」 明治20年代
銅器は何も近年の作品ばかりではありません。200年の名が記すように、最古は江戸後期にまで遡ります。初代玉川覚兵衛の「鍔薬罐」です。いわば創始者。仙台の職人より技術を受け継ぎ、銅器の製造を始めました。さらに二代覚次郎、三代覚平と続きます。ちなみに覚次郎は1873年、ウィーン万国博覧会にも出品。その後も海外へ数多くの作品を送り出しました。
玉川覚平「飾香炉」 明治20年代
三代覚平の「飾香炉」はどうでしょうか。モチーフは烏鷺。金の象嵌です。覚平もコロンビア博覧会や日英博覧会などの海外へ出品。銀賞の栄誉を受けました。また1894年には明治天皇の御成婚25周年に際し、作品を献上します。以来、いわゆる皇室御用達として慶事に作品の献上が行われるようになったそうです。
現在は七代目です。玉川基行氏。1970年から玉川堂の当主を務めています。
玉川基行「ボトルクーラー KRUG」 平成23年
それにしてもさすがに当代、実にスタイリッシュです。作品はボトルクーラー。まるで花器のようです。
玉川基行「マツダ×玉川堂 魂銅器」 平成27年
さらに「魂銅器」は昨年の最新作。マツダとのコラボレーションだそうです。
会期中の土日は様々なイベントも行われています。最終週の土曜には小皿の製作体験もあるそうです。(有料)
「玉川堂200年展」販売コーナー
一部作品は販売されてもいます。古くも新しい鎚起銅器の世界。コンパクトな展示ですが、なかなか興味深いものがありました。
6月19日まで開催されています。
「玉川堂200年展~打つ。時を打つ。」 ポーラミュージアムアネックス(@POLA_ANNEX)
会期:6月4日(土)~6月19日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
料金:無料
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
「玉川堂200年展~打つ。時を打つ。」
6/4~6/19
ポーラミュージアムアネックスで開催中の「玉川堂200年展~打つ。時を打つ。」を見てきました。
新潟県の燕市で200年前から銅器を制作する玉川堂。銅版を金槌で鍛え上げて成形する「鎚起銅器」(ついきどうき)の技術を、国内で唯一、継承しているそうです。
「玉川堂200年展」会場風景
作品はもとより、展示自体が美しいのには感心しました。場内は暗室。中央に大きな黒いテーブルが置かれています。そこに並ぶのが銅器です。全部で25点超。照明も効果的です。いずれも光り輝いていました。
玉川宣夫「木目金皿」 昭和50年代
テーブルの上に薄い液体が注がれていることに気づきました。水ではなくオイルです。やや粘り気を帯びているようにも見えます。微かに揺らいでいました。オイルの面が銅器を鮮やかに反射させています。
玉川覚平「花瓶 花鳥金銀象嵌一対」 明治20年代
銅器は何も近年の作品ばかりではありません。200年の名が記すように、最古は江戸後期にまで遡ります。初代玉川覚兵衛の「鍔薬罐」です。いわば創始者。仙台の職人より技術を受け継ぎ、銅器の製造を始めました。さらに二代覚次郎、三代覚平と続きます。ちなみに覚次郎は1873年、ウィーン万国博覧会にも出品。その後も海外へ数多くの作品を送り出しました。
玉川覚平「飾香炉」 明治20年代
三代覚平の「飾香炉」はどうでしょうか。モチーフは烏鷺。金の象嵌です。覚平もコロンビア博覧会や日英博覧会などの海外へ出品。銀賞の栄誉を受けました。また1894年には明治天皇の御成婚25周年に際し、作品を献上します。以来、いわゆる皇室御用達として慶事に作品の献上が行われるようになったそうです。
現在は七代目です。玉川基行氏。1970年から玉川堂の当主を務めています。
玉川基行「ボトルクーラー KRUG」 平成23年
それにしてもさすがに当代、実にスタイリッシュです。作品はボトルクーラー。まるで花器のようです。
玉川基行「マツダ×玉川堂 魂銅器」 平成27年
さらに「魂銅器」は昨年の最新作。マツダとのコラボレーションだそうです。
会期中の土日は様々なイベントも行われています。最終週の土曜には小皿の製作体験もあるそうです。(有料)
「玉川堂200年展」販売コーナー
一部作品は販売されてもいます。古くも新しい鎚起銅器の世界。コンパクトな展示ですが、なかなか興味深いものがありました。
6月19日まで開催されています。
「玉川堂200年展~打つ。時を打つ。」 ポーラミュージアムアネックス(@POLA_ANNEX)
会期:6月4日(土)~6月19日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
料金:無料
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「国吉康雄展」 そごう美術館
そごう美術館
「国吉康雄展」
6/3~7/10
そごう美術館で開催中の「国吉康雄展」を見てきました。
岡山で生まれ、10代にして渡米。2度の世界大戦をアメリカで経験した画家、国吉康雄。首都圏では2012年の横須賀美術館以来の回顧展かもしれません。
初めの展示室のみ撮影が可能でした。
「少女よ、お前の命のために走れ」 1946年 福武コレクション
冒頭、ぽつんとに掲げられた一枚が目を引きます。「少女よ、お前の命のために走れ」です。制作したのは終戦1年後の1946年。全くをもって不思議な作品です。少女は巨大なバッタに追っかけられています。後ろ手をあげてさも慌てたように駈け出していました。このバッタ、一体何物なのでしょうか。
この少女が展示の案内役でした。というのも、少女とともに国吉の半生を辿っているのです。かなり物語性の高い展示です。まるで国吉の人生を追体験しているかのようでした。
「制作中のミスターエース」/「イーゼル」/「回転椅子」 福武コレクション
アトリエを模した再現展示がありました。イーゼルや回転椅子はもちろん国吉自身が使ったものです。さらにスケッチやミニ画集なども並んでいます。遺物から在りし日の国吉の姿も浮かび上がってきます。
「逆さのテーブルとマスク」制作中の国吉康雄
絵画制作中の国吉を捉えた写真も興味深い。アトリエはマンションの一室にあったのでしょうか。キャンバスを前に絵筆を持ってポーズをとる国吉の姿が写し出されていました。
16歳で渡米した国吉はまずシアトルで生活を送ります。当初は掃除夫やホテルのボーイ、さらには果樹園の収穫員などで生計を立てていたそうです。後、ロサンゼルスへ移り、画才を見出されます。辿り着いたのはニューヨークです。5つの画学校を渡りながら絵を学びました。
最初期、1919年の「ピクニック」はセザンヌ風です。かの「水浴」を思わせます。さらに「果物のある静物」も面白い。白いクッションに果実、そして花瓶の花などが描かれています。タッチはやや印象派風です。実際にも当初やルノワールやセザンヌに影響されていたそうです。
1922年に画廊で個展デビュー。「エキゾチックな魅力」(キャプションより)として注目を集めます。「幸福な島」はどうでしょうか。横たわる裸婦。仰向けで目を閉じています。周囲は暗い。島というよりも巨大な貝殻の中で眠っているかのようです。一瞬、シャガールが思い浮かびました。また国吉は牛を描く画家としても人気がありました。牛モチーフは4点。リトグラフが出ています。デフォルメしたかのような表現が印象的でした。
エコール・ド・パリの時期にはパリに滞在したこともありました。導いたのはパスキン。既にニューヨーク時代から親交があったそうです。「踊り」はカフェに集う踊り子でしょうか。かの時代のパリの熱気を表しています。
1930年頃には一定の評価を得ていたそうです。ニューヨーク近代美術館でのグループ展にも参加。雑誌ではホッパーと並び全米トップ10の画家として紹介されたこともありました。1931年、父の見舞いのために一時帰国するも、再びアメリカへと舞い戻ります。母校の美術学校の教授などを務めていたそうです。
静物画に特化したセクションがありました。中でも「西瓜」が個性的です。木のテーブルの上の西瓜。白いクロスが半分めくれています。西瓜は2きれ。ちょうど割った直後かもしれません。黒ずんでいるのは種の部分なのでしょう。やや熟れすぎている感もあります。瑞々しいというよりも生々しい。まるで動物の肉体のようでした。
国吉は女性を描く際、一度デッサンをした後、半年ほど放置し、モデルの印象を忘れてから、再び仕上げることがあったそうです。「休んでいるサーカスの女」は健康的で美しい。大きな椅子に肘をついては女性が深く腰掛けています。右手にはタバコ。一服しているのでしょう。赤いタイツと群青のタンクトップの色彩も目に付きます。
太平洋戦争がはじまると国吉は戦時情報局の指示によりポスターを制作します。いわゆる戦争画です。「殺人者」では日本の兵隊が女性に危害を加えようとする様子を描いています。また「敵を殲滅せよ」も勇ましい。モデルは何故か甲冑に身を包んだ武将です。旗じるしは鬼大将。そこに「DESTROY THIS NENACE」の標語があります。ただし本ポスターには採用されなかったそうです。いわゆる敵性外国人としての扱いを受けながらも、対日戦争のプロパガンダに協力して過ごした国吉。心中はいかなるものだったのでしょうか。
「安眠を妨げる夢」 1948年 福武コレクション
戦後は非政治的な美術家団体の組織に参加します。画風も初期の頃とは変化しました。例えば「安眠を妨げる夢」です。おそらくはサーカスの一場面。背景に見えるのはテントでしょうか。二人の軽業師がちょうど空中で手を取り合おうとしています。しかしながら危うい。右の女性はバランスを崩しているようにも見えます。色は明るく、透明感がありました。タイトルに夢と記されていますが、確かに幻を前にしているようでもあります。
「鯉のぼり」 1950年 福武コレクション
より明度が高いのは「鯉のぼり」です。ともかく大きな鯉のぼり。二人の人物が手にしては掲げようとしています。赤、朱色、ないしオレンジにイエロー。初期作の薄暗く、厚塗りで、なおかつ土色を帯びた色調とは一変していました。
今回の目玉といえるのが「クラウン」です。なんと日本初公開。テーマは道化師です。強制収容された日本人のためのチャリティーとして描きました。
「クラウン」 1948年 福武コレクション
縦は2メートル。大きな作品です。道化の顔のアップ。化粧ゆえか顔色はほぼ白。薄いピンクも混じります。鼻の部分が緑に塗られています。一方で口元は黒い。赤い帽子とは対比的です。目を垂らしながら笑っています。
長らく行方不明だったそうです。公開に際しては修復も実施。このプロセスが実に細かく紹介されています。作業の映像はもちろん、実際に使われたヘラから補彩用の絵具、鏡なども展示されていました。
「二人の赤ん坊」 1923年 福武コレクション
作品資料は全200点。油彩は50点です。一部に展示替えがあります。多くは国吉画の収集で知られる福武コレクションでした。
「制作中」 福武コレクション
国吉の画業を顕彰し、世に広める国吉康雄プロジェクトが深く関わっているようです。「もの思う女」では広島市立大学による模写も合わせて展示。先の修復しかり、最新の国吉研究を反映させながら、教育活用の現場までにも触れています。いわば引き出しの多い展覧会でした。
7月10日まで開催されています。
「国吉康雄展」 そごう美術館
会期:6月3日(金)~7月10日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階
交通:JR線横浜駅東口よりポルタ地下街通路にて徒歩5分。
「国吉康雄展」
6/3~7/10
そごう美術館で開催中の「国吉康雄展」を見てきました。
岡山で生まれ、10代にして渡米。2度の世界大戦をアメリカで経験した画家、国吉康雄。首都圏では2012年の横須賀美術館以来の回顧展かもしれません。
初めの展示室のみ撮影が可能でした。
「少女よ、お前の命のために走れ」 1946年 福武コレクション
冒頭、ぽつんとに掲げられた一枚が目を引きます。「少女よ、お前の命のために走れ」です。制作したのは終戦1年後の1946年。全くをもって不思議な作品です。少女は巨大なバッタに追っかけられています。後ろ手をあげてさも慌てたように駈け出していました。このバッタ、一体何物なのでしょうか。
この少女が展示の案内役でした。というのも、少女とともに国吉の半生を辿っているのです。かなり物語性の高い展示です。まるで国吉の人生を追体験しているかのようでした。
「制作中のミスターエース」/「イーゼル」/「回転椅子」 福武コレクション
アトリエを模した再現展示がありました。イーゼルや回転椅子はもちろん国吉自身が使ったものです。さらにスケッチやミニ画集なども並んでいます。遺物から在りし日の国吉の姿も浮かび上がってきます。
「逆さのテーブルとマスク」制作中の国吉康雄
絵画制作中の国吉を捉えた写真も興味深い。アトリエはマンションの一室にあったのでしょうか。キャンバスを前に絵筆を持ってポーズをとる国吉の姿が写し出されていました。
16歳で渡米した国吉はまずシアトルで生活を送ります。当初は掃除夫やホテルのボーイ、さらには果樹園の収穫員などで生計を立てていたそうです。後、ロサンゼルスへ移り、画才を見出されます。辿り着いたのはニューヨークです。5つの画学校を渡りながら絵を学びました。
最初期、1919年の「ピクニック」はセザンヌ風です。かの「水浴」を思わせます。さらに「果物のある静物」も面白い。白いクッションに果実、そして花瓶の花などが描かれています。タッチはやや印象派風です。実際にも当初やルノワールやセザンヌに影響されていたそうです。
1922年に画廊で個展デビュー。「エキゾチックな魅力」(キャプションより)として注目を集めます。「幸福な島」はどうでしょうか。横たわる裸婦。仰向けで目を閉じています。周囲は暗い。島というよりも巨大な貝殻の中で眠っているかのようです。一瞬、シャガールが思い浮かびました。また国吉は牛を描く画家としても人気がありました。牛モチーフは4点。リトグラフが出ています。デフォルメしたかのような表現が印象的でした。
エコール・ド・パリの時期にはパリに滞在したこともありました。導いたのはパスキン。既にニューヨーク時代から親交があったそうです。「踊り」はカフェに集う踊り子でしょうか。かの時代のパリの熱気を表しています。
1930年頃には一定の評価を得ていたそうです。ニューヨーク近代美術館でのグループ展にも参加。雑誌ではホッパーと並び全米トップ10の画家として紹介されたこともありました。1931年、父の見舞いのために一時帰国するも、再びアメリカへと舞い戻ります。母校の美術学校の教授などを務めていたそうです。
静物画に特化したセクションがありました。中でも「西瓜」が個性的です。木のテーブルの上の西瓜。白いクロスが半分めくれています。西瓜は2きれ。ちょうど割った直後かもしれません。黒ずんでいるのは種の部分なのでしょう。やや熟れすぎている感もあります。瑞々しいというよりも生々しい。まるで動物の肉体のようでした。
国吉は女性を描く際、一度デッサンをした後、半年ほど放置し、モデルの印象を忘れてから、再び仕上げることがあったそうです。「休んでいるサーカスの女」は健康的で美しい。大きな椅子に肘をついては女性が深く腰掛けています。右手にはタバコ。一服しているのでしょう。赤いタイツと群青のタンクトップの色彩も目に付きます。
太平洋戦争がはじまると国吉は戦時情報局の指示によりポスターを制作します。いわゆる戦争画です。「殺人者」では日本の兵隊が女性に危害を加えようとする様子を描いています。また「敵を殲滅せよ」も勇ましい。モデルは何故か甲冑に身を包んだ武将です。旗じるしは鬼大将。そこに「DESTROY THIS NENACE」の標語があります。ただし本ポスターには採用されなかったそうです。いわゆる敵性外国人としての扱いを受けながらも、対日戦争のプロパガンダに協力して過ごした国吉。心中はいかなるものだったのでしょうか。
「安眠を妨げる夢」 1948年 福武コレクション
戦後は非政治的な美術家団体の組織に参加します。画風も初期の頃とは変化しました。例えば「安眠を妨げる夢」です。おそらくはサーカスの一場面。背景に見えるのはテントでしょうか。二人の軽業師がちょうど空中で手を取り合おうとしています。しかしながら危うい。右の女性はバランスを崩しているようにも見えます。色は明るく、透明感がありました。タイトルに夢と記されていますが、確かに幻を前にしているようでもあります。
「鯉のぼり」 1950年 福武コレクション
より明度が高いのは「鯉のぼり」です。ともかく大きな鯉のぼり。二人の人物が手にしては掲げようとしています。赤、朱色、ないしオレンジにイエロー。初期作の薄暗く、厚塗りで、なおかつ土色を帯びた色調とは一変していました。
今回の目玉といえるのが「クラウン」です。なんと日本初公開。テーマは道化師です。強制収容された日本人のためのチャリティーとして描きました。
「クラウン」 1948年 福武コレクション
縦は2メートル。大きな作品です。道化の顔のアップ。化粧ゆえか顔色はほぼ白。薄いピンクも混じります。鼻の部分が緑に塗られています。一方で口元は黒い。赤い帽子とは対比的です。目を垂らしながら笑っています。
長らく行方不明だったそうです。公開に際しては修復も実施。このプロセスが実に細かく紹介されています。作業の映像はもちろん、実際に使われたヘラから補彩用の絵具、鏡なども展示されていました。
「二人の赤ん坊」 1923年 福武コレクション
作品資料は全200点。油彩は50点です。一部に展示替えがあります。多くは国吉画の収集で知られる福武コレクションでした。
「制作中」 福武コレクション
国吉の画業を顕彰し、世に広める国吉康雄プロジェクトが深く関わっているようです。「もの思う女」では広島市立大学による模写も合わせて展示。先の修復しかり、最新の国吉研究を反映させながら、教育活用の現場までにも触れています。いわば引き出しの多い展覧会でした。
7月10日まで開催されています。
「国吉康雄展」 そごう美術館
会期:6月3日(金)~7月10日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階
交通:JR線横浜駅東口よりポルタ地下街通路にて徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
「ブータン展」 上野の森美術館
上野の森美術館
「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」
5/21~7/18
上野の森美術館で開催中の「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」を見てきました。
南アジア、ヒマラヤ山脈の南に位置するブータン王国。2011年には第5代ジグミ・ケサル国王、ジツェン・ペマ王妃も来日し、今年、外交関係樹立30周年を迎えたそうです。
国内では初めてのブータンの文化を本格的に紹介する展覧会です。主たるテーマは「しあわせの国」。先代の国王が提唱した「国民総幸福」(Gross National Happiness)の概念に基づきます。
とは言え、何も殊更に幸せ云々を強調しているわけでもありません。場内には同国の文化を伝える文物がずらり。ほぼ全てが仮面、染織、ないし装身具と、仏教美術で占められています。それに一部、王室の衣装のコレクションなどが加わっていました。
1階展示室の撮影が可能でした。
「バルド・チャムの面」
まずは仮面です。見るも色鮮やか。ブータンの祭りであるツェチュのハイライト、チャムと呼ばれる仮面舞踏で用いられる作品です。僧侶たちは極彩色の衣装をつけては踊り出します。その様子は映像でも紹介されていました。
「ダミツェの太鼓踊りの面」
チャムには大きく分けて3種類あるそうです。一つは幻視や夢を見るための踊り。もう一つは伝記です。高僧や師の生涯を演じます。3つ目は征服。悪の力を鎮圧する力を表現しています。仮面はまさに多種多様。人であったり獣であったり、鳥であったりします。会場の通路を所狭しと飾り立てる仮面群。さもブータンの祭りの場へと誘われるかのようでした。
右上:蓋物「ダバ」 現代 ブータン王国国立博物館
右下:クレ用フライパン「ゴラン」 15世紀 ブータン王国国立博物館
次いではブータンの生活を伝える道具類です。そば粉のパンケーキを入れる蓋物のダバや、それを焼くためのフライパンことゴランなどが並びます。ふとキャプションを見やるとゴランの制作年代が15世紀でした。名工、ペマ・リンガの手によって作られたと考えられているそうです。
惣菜の器「ツォマイドゥプ」 20世紀初期 ブータン王国国立博物館
面白いのはツォマイドゥプです。高さは30センチほど。おかずを入れて運ぶための器です。側面に表されたのは寿の文字。切抜きで表現しています。
鞘付きの刀「パタ・チュリチェン」 18世紀 ブータン王国国立博物館
刀剣はいずれも直刀でした。ブータンでの刀は権力の象徴、おおよそ20種類ほどあるそうです。鞘の部分には銀で細かな装飾もなされています。
女性用ブローチ「コマ、ジャプタ」 20世紀 ブータン王立テキスタイルアカデミー
装身具ではトルコ石を多用した作品が目立ちました。例えば女性用ブローチの「コマ、ジャプタ」。写真では分かりにくいかもしれませんが、上部の透かし彫りの部分にトルコ石がはめ込まれています。透かしは花や龍の模様が多い。一方でチェーンは法輪といった宗教的モチーフが繰り返されています。
首飾り「ジュル」 現代 ブータン王国国立博物館
女性の胸元を飾るのが「ジュル」。いわゆる首飾りです。人造サンゴとトルコ石が組み合わさります。緑、青、黄と色も様々。可愛らしくもあります。
女性用衣装「キラ」 20世紀 ブータン王国国立博物館
民族衣装の展示が充実していました。そもそもブータンでは勅令により、公共の場で民族衣装を着用することが定められているそうです。女性用はキラ。一枚布です。それを身体に巻き付けます。一言で言えばカラフル。模様は多様で、幾何学的なデザインも目立ちます。
男性用衣装「ゴ」 20世紀後期 ブータン王国国立博物館
男性用の衣装はゴと呼ばれています。いわゆる羽織です。身分によって着用の仕方が異なるそうです。展示品はシルクが目立ちましたが、かつてはイラクサの繊維の布も多かったそうです。ほか、織り方についてもパネルや映像での展示があります。今もほぼ手織りで制作されています。
レインコート「ヤタ・チェルカプ」 20世紀 ブータン王国国立博物館
レインコートもありました。「ヤタ・チャルカプ」です。素材はウール。ヤクなどと合わせ、かつては雨除けのコートに使われていました。さらに北部のラヤ族の民族衣装なども目を引きます。マネキンによる展示も効果的でした。
「コンツェデモ坐像」 7-8世紀 ブータン王国国立博物館
後半は仏教美術です。ブータンに仏教がもたらされたのは7世紀頃。8世紀には全土に定着します。仏画と仏像が半ば交互に並んでいるのもポイントです。古い作では7~8世紀。「コンツェデモ坐像」です。コンツェデモとは土着の山神の一人。仏教の教えを守る護法神として知られています。姿は女性です。左手で袋を持っています。これは病を封じ込めるためのもの。病気からの守り神として信仰されているそうです。
「グル・パドマサンバヴァ坐像」 16世紀 ブータン王国国立博物館
さらに仏像では16世紀の「グル・パドマサンバヴァ坐像」や17世紀の「ドルジェ・チャン坐像」などが目を引きます。いずれも金銅仏。着衣や冠、ないし装身具の表現もかなり細かい。高い造仏技術があったことが伺えます。
「ドルジェ・チャン父母仏タンカ」 18世紀後期 ブータン王国国立博物館
タンカと呼ばれる仏画も相当数出ていました。「ドルジェ・チャン父母仏タンカ」はブータンでは重要な仏を描いたもの。赤の発色が鮮やかです。素地は絹本ではなく綿本です。ちなみにタンカはいずれもほぼ露出で展示されていました。
ブータン展「民族衣装の流れ」会場風景
ラストは王室に関する展示です。初代、2代国王の帽子や衣装、玉座カバーなども出品。現国王夫妻の衣装も公開されています。
現地、ブータンの人々に「しあわせとは何か。」とインタビューした「しあわせシアター」なる映像もありました。みなさん、家族や友人、それに仕事などに触れながら、幸せについて笑顔で答えています。この幸せ。ともすると漠然とした概念ではありますが、やはり身近なところにあるのかもしれません。
会期中は無休です。7月18日まで開催されています。
「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」(@bhutan2016) 上野の森美術館
会期:5月21日 (土)~7月18日 (月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般1400(1100)円、大学・高校生1000(700)円、小学・中学生600(300)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」
5/21~7/18
上野の森美術館で開催中の「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」を見てきました。
南アジア、ヒマラヤ山脈の南に位置するブータン王国。2011年には第5代ジグミ・ケサル国王、ジツェン・ペマ王妃も来日し、今年、外交関係樹立30周年を迎えたそうです。
国内では初めてのブータンの文化を本格的に紹介する展覧会です。主たるテーマは「しあわせの国」。先代の国王が提唱した「国民総幸福」(Gross National Happiness)の概念に基づきます。
とは言え、何も殊更に幸せ云々を強調しているわけでもありません。場内には同国の文化を伝える文物がずらり。ほぼ全てが仮面、染織、ないし装身具と、仏教美術で占められています。それに一部、王室の衣装のコレクションなどが加わっていました。
1階展示室の撮影が可能でした。
「バルド・チャムの面」
まずは仮面です。見るも色鮮やか。ブータンの祭りであるツェチュのハイライト、チャムと呼ばれる仮面舞踏で用いられる作品です。僧侶たちは極彩色の衣装をつけては踊り出します。その様子は映像でも紹介されていました。
「ダミツェの太鼓踊りの面」
チャムには大きく分けて3種類あるそうです。一つは幻視や夢を見るための踊り。もう一つは伝記です。高僧や師の生涯を演じます。3つ目は征服。悪の力を鎮圧する力を表現しています。仮面はまさに多種多様。人であったり獣であったり、鳥であったりします。会場の通路を所狭しと飾り立てる仮面群。さもブータンの祭りの場へと誘われるかのようでした。
右上:蓋物「ダバ」 現代 ブータン王国国立博物館
右下:クレ用フライパン「ゴラン」 15世紀 ブータン王国国立博物館
次いではブータンの生活を伝える道具類です。そば粉のパンケーキを入れる蓋物のダバや、それを焼くためのフライパンことゴランなどが並びます。ふとキャプションを見やるとゴランの制作年代が15世紀でした。名工、ペマ・リンガの手によって作られたと考えられているそうです。
惣菜の器「ツォマイドゥプ」 20世紀初期 ブータン王国国立博物館
面白いのはツォマイドゥプです。高さは30センチほど。おかずを入れて運ぶための器です。側面に表されたのは寿の文字。切抜きで表現しています。
鞘付きの刀「パタ・チュリチェン」 18世紀 ブータン王国国立博物館
刀剣はいずれも直刀でした。ブータンでの刀は権力の象徴、おおよそ20種類ほどあるそうです。鞘の部分には銀で細かな装飾もなされています。
女性用ブローチ「コマ、ジャプタ」 20世紀 ブータン王立テキスタイルアカデミー
装身具ではトルコ石を多用した作品が目立ちました。例えば女性用ブローチの「コマ、ジャプタ」。写真では分かりにくいかもしれませんが、上部の透かし彫りの部分にトルコ石がはめ込まれています。透かしは花や龍の模様が多い。一方でチェーンは法輪といった宗教的モチーフが繰り返されています。
首飾り「ジュル」 現代 ブータン王国国立博物館
女性の胸元を飾るのが「ジュル」。いわゆる首飾りです。人造サンゴとトルコ石が組み合わさります。緑、青、黄と色も様々。可愛らしくもあります。
女性用衣装「キラ」 20世紀 ブータン王国国立博物館
民族衣装の展示が充実していました。そもそもブータンでは勅令により、公共の場で民族衣装を着用することが定められているそうです。女性用はキラ。一枚布です。それを身体に巻き付けます。一言で言えばカラフル。模様は多様で、幾何学的なデザインも目立ちます。
男性用衣装「ゴ」 20世紀後期 ブータン王国国立博物館
男性用の衣装はゴと呼ばれています。いわゆる羽織です。身分によって着用の仕方が異なるそうです。展示品はシルクが目立ちましたが、かつてはイラクサの繊維の布も多かったそうです。ほか、織り方についてもパネルや映像での展示があります。今もほぼ手織りで制作されています。
レインコート「ヤタ・チェルカプ」 20世紀 ブータン王国国立博物館
レインコートもありました。「ヤタ・チャルカプ」です。素材はウール。ヤクなどと合わせ、かつては雨除けのコートに使われていました。さらに北部のラヤ族の民族衣装なども目を引きます。マネキンによる展示も効果的でした。
「コンツェデモ坐像」 7-8世紀 ブータン王国国立博物館
後半は仏教美術です。ブータンに仏教がもたらされたのは7世紀頃。8世紀には全土に定着します。仏画と仏像が半ば交互に並んでいるのもポイントです。古い作では7~8世紀。「コンツェデモ坐像」です。コンツェデモとは土着の山神の一人。仏教の教えを守る護法神として知られています。姿は女性です。左手で袋を持っています。これは病を封じ込めるためのもの。病気からの守り神として信仰されているそうです。
「グル・パドマサンバヴァ坐像」 16世紀 ブータン王国国立博物館
さらに仏像では16世紀の「グル・パドマサンバヴァ坐像」や17世紀の「ドルジェ・チャン坐像」などが目を引きます。いずれも金銅仏。着衣や冠、ないし装身具の表現もかなり細かい。高い造仏技術があったことが伺えます。
「ドルジェ・チャン父母仏タンカ」 18世紀後期 ブータン王国国立博物館
タンカと呼ばれる仏画も相当数出ていました。「ドルジェ・チャン父母仏タンカ」はブータンでは重要な仏を描いたもの。赤の発色が鮮やかです。素地は絹本ではなく綿本です。ちなみにタンカはいずれもほぼ露出で展示されていました。
ブータン展「民族衣装の流れ」会場風景
ラストは王室に関する展示です。初代、2代国王の帽子や衣装、玉座カバーなども出品。現国王夫妻の衣装も公開されています。
現地、ブータンの人々に「しあわせとは何か。」とインタビューした「しあわせシアター」なる映像もありました。みなさん、家族や友人、それに仕事などに触れながら、幸せについて笑顔で答えています。この幸せ。ともすると漠然とした概念ではありますが、やはり身近なところにあるのかもしれません。
会期中は無休です。7月18日まで開催されています。
「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」(@bhutan2016) 上野の森美術館
会期:5月21日 (土)~7月18日 (月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般1400(1100)円、大学・高校生1000(700)円、小学・中学生600(300)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ |