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<遠藤誉が斬る>韓国への日本技術不正流出――90年代初期からあった「土日の韓国通い」による裏切り

2014年03月17日 08時13分17秒 | 経済
2014年年3月13日、東芝の主力製品であるフラッシュメモリーの研究データを不正に持ち出し、韓国企業に渡した疑いで、業務提携していた半導体メーカーの元技術者が逮捕された。これに関連して、筆者が90年代初期に遭遇した「事実」に関してご紹介したい。

ある日、教鞭を執っていた大学の(日本人)学生が退学し、引っ越しのアルバイトで生計を立てていることを知った。彼の父親はバブル崩壊でリストラされ、それを苦に自殺し、学生は学費を払えないだけでなく生活費も断たれ、一家の面倒を見なければならないところに追い込まれたという。別の学生の父親は高い半導体技術を持っていたが、同じくリストラされたため、その学生はアルバイトを求めて、筆者の研究室に相談に来ていた。
 
それをきっかけにリストラされた日本人技術者の相談を受けるようになり、筆者の研究室はまるで元技術者の相談室のようになっていった時期がある。彼らは当然、自分をリストラした会社に恨みを抱いている。だから、「今なら、もう真実を話してもいいだろう」という人が多く、うまく立ち回った同僚の秘密を教えてくれたのである。
 
◆とんでもない「事実」

そこで筆者はとんでもない「事実」を知るに至る。
 それは東芝や日立など、日本の企業で半導体関係の技術開発に従事していた元技術者が、90年代初期から韓国と日本を往復し、韓国の企業に自社の技術を渡していたという事実だ。
 
彼らは日本企業に在職しながら、金曜日の夜に韓国に行き、土曜と日曜日に技術指導をしたあと、日曜の夜には日本に戻り、月曜の朝は何事もなかったかのように自社に出勤するという生活形態を取っていた。土日だけで日本企業の一カ月分以上の謝金をくれる。現金で渡すので、日本ではばれない。それが一か月に4回もあれば、一カ月で5カ月分くらいの収入があることになる。味をしめて土日の技術指導だけでなく、当時開発されていた「NAND(ナンド)型フラッシュメモリー」の核心部分となる技術のノウハウに関して持ち出した者もいたという。NANDとは“Not AND”の略で、デジタル信号を扱う論理回路の一つで、東芝が発明したものだ。このコア技術を流した時には特別に高額の見返りが支払われた。
 
たしかに日本がバブル崩壊すると、韓国企業はリストラされた日本人技術者のうちの特にハイレベルの者をヘッドハンティングして高給で雇用していた。この雇用には違法性はない。しかし、筆者が知るに至った「土日」の韓国通いは、どう見ても違法行為だろう。その日本人技術者は、まだ日本企業に在職していたからこそ、「土日」のみの「通勤」になったわけだから。

この現象は、東芝だけではなかった。日立やシャープ、NECなどの日本人元技術者もいた。筆者の印象では東芝の元技術者にこのケースが多く、驚きを禁じ得なかったものだ。
その後、韓国のいくつかの電子製品メーカーが突然飛躍的に成長し、日本を凌ぐようになったのを見るにつけ、筆者の脳裏には、この「土日の韓国通い」という背後の事実が浮かぶ。

◆モラルダウンはどこに起因するか?

技術立国であったはずの日本は、グローバル化の波について行けず、マーケットを他国に奪われるようになった。
そこで筆者はアメリカのシリコンバレーを中心とした、全世界の「人材」の流れに関して実態を把握すべく、90年代半ばから世界中を飛び回って数年間にわたり調査した。

その結果わかったのは、半導体の基礎を成すIC(Integrated Circuit 、集積回路)は“Indian Chinese”のICと揶揄されるほど、シリコンバレーには中国人とインド人が満ち、現地のアメリカ人の割合を凌駕していたということだった。そして中国政府はシリコンバレーを中心とした先進国で博士学位を取得し留学先で就職している中国人元留学生と巨大なネットワークを形成して、中国の技術革新に活用していた。全ての中国人(元)留学生は当該国の中国大使館を通して掌握され、地球上を網の目のように覆っていた(この結果は拙著『中国がシリコンバレーとつながるとき』(日経BP社)にまとめた)。

それはバブル崩壊とともに在米の日本人留学生が激減し、中国や韓国からの留学生が激増し始めた時期とも一致している。
当時、アメリカ企業における中国人や韓国人の産業スパイも散見されたが、それらは全て「自国のためのスパイ行為」であり、日本のように「他国のために自国の技術を流出させる」例はない。

もちろん中国や韓国はまだ技術的後進国であったということはあろう。しかし日本は元来、モラルの高い国であったはず。金のために自社や自国を裏切るような技術者を出す国になぜなったのか。このたびの事件には深い社会背景が潜んでおり、掘り下げていく必要があるだろう。
(<遠藤誉が斬る>第24回)

遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子チャーズ―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』、『中国人が選んだワースト中国人番付』(4月1日発売)など多数。
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