『改めて日本語を考える』その32。前回に引き続き、誤用している言葉を取り上げてみたい。最近、オリンピックの開催に関してよく使われる言葉に『なし崩し』がある。よく使うパターンは『コロナ禍の中、政治はオリンピック開催に関してその意義を国民に真摯に説明することなく、なし崩し的に進めようとしている』。この場合の『なし崩し』は『物事がその勢いのまま少しずつ進んでいく様を表したネガティブな表現』である。
しかし、元来『なし崩し』=『成し崩し』で①借金を少しずつ返済すること、②物事を少しずつ片付けること、③勢いのまま物事が進んで行く事、の3つの意味があるが、①②から③が転じたようである。
ただ、本来の『なし崩し』にはネガティブな意味はなく、英語にするならばstep by stepというポジティブな表現で、『うやむや』『曖昧』と使うのは誤用である。
同じように『失笑』は誤って使われることが多い。正しいのは『思わず笑い出してしまうこと、堪えきれずに笑うこと』と言う意味である。しかし、私は『笑いも出ないくらい呆れる』と言う意味で使っていた。
つまり『苦笑』『冷笑』に近い意味なのだが、これらの言葉には相手を見下す意味が含まれてしまう、しかし、失笑には本来そう言う意味はなく、自然と吹き出しそうになってしまうことなのである。四字熟語で言うならばが抱腹絶倒』が一番近い表現である。
人間、歳をとると昔覚えたことが必ず正しいと思いがちだが、生半可な理解をしている言葉は是非一度見直さないと恥をかく。日本語は難しい。