前号繰越。
ジェームス・ボンドの決めゼリフといえば
“My name is Bond, James Bond”
“Vodka Martini. Shaken, not stirred.”(ウォッカマティーニを。ステアせずにシェィクで)
かな。新作「カジノ・ロワイヤル」では、うなるほどみごとな使い方をされています。マティーニについてはふた通りの考え方があるそうだ。ステアせずにシェイクして飲むのは、さすが英国紳士のこだわりと好意的にとらえるか、あるいはそんな田舎者みたいな飲み方をしやがって、ととるか(byさいとうたかを)。どうしてふた通りあるかというと、それは初代ジェームス・ボンドであるショーン・コネリーをどう評価するかにかかっている。およそ都会的な顔立ちとはいえず、老いてから独立運動にかんでいることでも有名な、根っからのスコットランド人であるショーン・コネリーが、女王陛下に忠誠をつくすスパイを演ずるのは無理があると考えた人は多かったようだ。むしろその頃、テレビ「セイント」で人気があった都会的風貌のロジャー・ムーアを推す声もあったという。
でも、結果的にはコネリーを選んで大正解。このシリーズが40年以上も続いているのは彼のジェームス・ボンド像が世界中で受け入れられたからだ。前号でひねくれたことを言ったけれど、その後DVDなどでコネリー版007を見てつくづく素晴らしいと思った。むせかえるような男臭さを、仕立てのいいスーツで押し隠したセクシーさは比類がない。まあ、あれだけクセが強いわけだから嫌う人も多いだろうけれども。
そして彼は、ジェームス・ボンド役のイメージがつきまとうことに嫌気がさし(それならどうして「ネバーセイ・ネバーアゲイン」をつくったのだろう)、007シリーズから離れる。その後「歳をとるならショーン・コネリーみたいに」と男ならみんなが思うくらいに渋くなっているので、この選択は正しかったのだろう。
問題は二代目だ。オーストラリア生まれで演技経験がなかったファッションモデルあがりのジョージ・レーゼンビー。彼が例の「女王陛下の007」出演中に“尊大で、途中でギャラのアップを要求”するなどして一作で交代させられている。DVDの特典映像で当時を語る彼が、すっかり脂が抜けていいオヤジになっているのが笑える。
さて、このような主役交代劇のたびに表に出てくる人間がいる。ブロッコリ、という冗談のような名前を持つ一族だ。(つづく)