前号繰越。
ブロッコリ、という珍しいファミリー・ネームを持つ一族は、その名のように野菜のブロッコリを創りだし、普及させたと言われている。その末裔が007シリーズの製作者アルバート・R・ブロッコリと、愛娘バーバラ・ブロッコリだ。
かつて007の原作者イアン・フレミング(「意外なふたり」シリーズでクリストファー・リーの従兄弟であることは紹介しました)は、自分の小説は絶対に映像に向く、と考えていたのに、いざテレビドラマ化されたらしょぼいものになってしまい、かなり落胆したらしい。そのため、みずから映画化への意欲をみせたところであらわれたのが映画製作者ハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリ。できあがったのが「007 ドクター・ノオ」だった。
今回はウンチク話ばかりになるけれど、「ドクター・ノオ」の公開時のタイトルは「007は殺しの番号」。2作目の「ロシアより愛をこめて」は「007 危機一発」。危機一髪、じゃなくてね。この意図的な誤用で全国の受験生を悩ませたのが当時ユナイトの宣伝部にいた水野晴郎だった。
それはともかく、フレミングが期待したように映画が大ヒットし、シリーズ化された007も、サルツマンとブロッコリがめざす方向が違うことで作品は混迷していく。サルツマンは文学的香りを、ブロッコリは荒唐無稽さを追求しようとし、結果としてシリーズはブロッコリが望んだ方向に進み、サルツマンはシリーズを離れる。
以降、007はアルバートのものとなり、そして彼の死後はバーバラが製作をつとめている。朝日新聞の「カジノ・ロワイヤル」特集で007を「ブロッコリ家の“家業”」と表現していたのには笑った。
バーバラ・ブロッコリはわたしと同い年で、「007は二度死ぬ」(’67)の九州ロケに同行している。熱を出したときに(「他の人は床に寝ていたのに♪」~おそらく畳のことだと思うが)、ショーン・コネリーがベッドをゆずってくれたそうだ。さすが、家業の跡継ぎは言うことに年季が入っている。
現在の007はバーバラが主導しているが、主役のキャスティングにおける彼女の嗅覚は本物だ。世間の圧倒的な反対を押し切って、新作にダニエル・クレイグを起用したことでそれはわかる。
【次回でやっと新作に!】