現代にタイムスリップした超有名人が、TVマンに見出され、ものまね芸人として人気を得ていく。なにしろ、本人だから。なんか、ありがちなストーリー。しかしこれがドイツにおけるヒトラーの復活劇となると、話はかなりやばい。ドイツ人にとって、自分たちの過去の悪行の象徴だし、ユダヤの血をひく人々にとっては、永劫に悪夢の存在だからだ。
しかしそんな設定以外の部分が興味深い(だから状況の説明である前半は、隠し撮りのスリルとドイツの美しい情景描写はあるとはいえ、さして面白くはない)。
現代に適応し、その腐敗がナチの台頭時と同一であることをヒトラーは即座に見抜く。テレビカメラ(視聴者)に向かい「なぜこんな下劣な番組を見ているのだ」と挑発。最初は「芸」として笑っていた視聴者も、しかし次第に困惑していく。なぜ、こんなにこのちょびヒゲ男のことが気になるのだろう。
かくて人気爆発。ナチ党の党首がネオナチに暴行されるという皮肉な展開はあれど、彼の影響力は大きくなり、親衛隊を組織するまでになる。そして……
移民排斥など、極右的な政策が各国で人気を得ている現在(メルケルは孤軍奮闘している)だからこそ、ドイツ人自身がドイツ人に、そして世界のポピュリストたちに向けたメッセージ。
ナチが初めて登場したとき、彼らは嘲笑を浴びたという経緯と、まぬけな発言をくり返し、批判されながらもいつのまにか巨大な権力を握っている(というより進呈されている)日本のポピュリストたちの共通点にはうなった。
そしてなによりすばらしいのはヒトラーを演じたオリバー・マスッチだ。沈黙、愛敬、機知、そして自分を絶対に疑わない能力に長けた男を演じて圧倒的だ。彼の演説は説得力があり、つぶやきには含蓄がある。
「わたしは、きみたちと同じなんだ」
モンスターとして過去のものだと思っていると、あなたのそばにいつのまにかヒトラーがいるという警告。コメディだけれども、うすら寒くなる。
原題はEr ist wieder da「彼が帰って来た」