事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「葛城事件」 (2016 ファントム・フィルム)

2016-09-19 | 邦画

これほどたくさんの食事シーンがあるのに、まったく、まったくひとつもうまそうなものが出てこないことに気づく。

夫婦(三浦友和、南果歩)と二人の息子(新井浩文、若葉竜也)。古びたけれども瀟洒な家に住み、新築のときに植えたみかんの木が、今は実をつけている。普通の、穏やかな家庭であってもおかしくないのに、この四人の関係は恐ろしいくらいに、粉々に砕けていく。

時系列が前後しながら描かれるので、観客はなぜこの家に三浦友和だけが残されているのかを類推しながら見ることになる。

象徴的なのがオープニング。三浦友和が塀にペンキを塗っている。金物店を営む彼にとってはお得意の作業だろうか。しかしそれは、スプレーで書き込まれた心ない落書き(「人殺し」「死ね」)を消すためのものだった。

どうやら、二男が凶悪な事件を起こし、死刑判決が出ているようだ。そのことは、田中麗奈が演ずる「死刑反対の立場で、結婚することで死刑囚を“変えよう”」とする嫁の出現で知らされる。

ここでばらしておくと、この「葛城事件」のモデルになっているのは「池田小事件」であり(だけではないが)、犯人の宅間もまた獄中結婚している。

二男は獄中。では長男は?母親は?

ここで、三浦友和が演ずる父親の特異性が見えてくる。象徴的なシーンがふたつ。

二十年通った中華料理屋。長男の嫁とその両親もふくめて会食。そこで、父親は切れる。麻婆豆腐が辛いと。いかに自分がこの店に貢献していて、どれだけ通ってきたかを強調し、店主を呼べと怒鳴り、まわりは「また始まった」とうなだれる。

近所のスナック。「(息子が殺人犯なのだから)少しはわきまえろ」と他の客が敬遠しているのに、彼は「三年目の浮気」の男性パートだけを延々と歌い続ける。

……絶対にいっしょに住みたくはない人間。そこを、三浦友和は絶妙に演じてみせる。以下次号

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