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ダルトン・トランボは幸運な男でもある。
彼は赤狩りに対して、自分の仕事をまっとうして対抗しようとし、結果として勝利する。しかしなかには、裁判に持ち込んで正義を貫徹しようとする人物もいて、彼は不遇のうちに亡くなってしまう。もちろんどちらの戦略が正しいかは誰にもわからない。ただひとつ言えるのは、トランボには物語をつむぎたいという欲求と、身体の奥底から出てくる気の利いた言い回しという武器がある。あふれるほどの才能が彼に味方した。もっとも、議会の調査にもひねくれた対応を見せて刑務所に収監されてしまうのだが。
もうひとつの幸運は家族だ。数をこなさなければならないために娘の誕生日も無視するようになったトランボに、妻は意見する。
「もういい、議論は終わりだ」
「議論?ちがうわ、これはケンカよ」
この奥さん(ダイアン・レイン)がいいんですよ。決して泣き言はいわず、涙も見せなかった彼女が、最後の最後に号泣するシーンには泣かされた。
名脚本家であるトランボを描いた作品なので、この映画の脚本も周到だ。トランボが家族と「ローマの休日」を映画館で見る場面では、オードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックの、例の“真実の口”(嘘をつくと手がもぎとられる)が使われているし、ボイコット運動が起きた「スパルタカス」のヒットに、アポなしで見に来たケネディの貢献があったニュースを挿入したことは、トランボの遺作がジョン・F・ケネディの暗殺の真相を告発した「ダラスの熱い日」であることとの連関を感じさせる。
そして、のべつまくなしにタバコを吸い、酒やアンフェタミンの力も借りて(それでもトランボは天寿を全うした)書きまくったトランボを演じたブライアン・クランストンがすばらしい。
深く、深くこの映画には満足。鶴岡での公開が終わってからの紹介でどうもすみません。