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若いころの写真でわかるように、寅夫さんは美男で、妻のフサコさんは愛敬のかたまりだ。似合いの夫婦。病のためにふたりは介護施設に入所する。しかし、安穏な施設での暮らしのなかで、ふたりに笑顔はほとんどない。山に帰りたくて帰りたくて仕方がないのだ。ふたりの桃源郷に。
この映画にも、忘れられないシーンがある。
裏山にきのこを採りに行った寅夫さんが遅くなっても帰ってこない。フサコさんはうろたえ、山に向かって絶叫する。
「おとーさーんっ!」
答えがない。何度も呼ぶと、ようやく小さい声が返ってくる。安堵するフサコさん。このやりとりは、寅夫さんが亡くなり、フサコさんの認知症がすすんでからもういちどくりかえされる。ここで泣かない人は人間じゃありません。
そうなの。朝イチでフォーラム東根にとびこんだわたしは、これから研究会があるというのに号泣状態。
特に、三女の夫である安政さんにはノックアウトされた。親を早くに亡くし、ほとんど親孝行ができなかったと悔やむ彼は、自営の寿司屋をたたみ、山のふもとに妻とふたりで越してくる。そして、寅夫さんが働けなくなった畑が荒れないように農業にいそしむのだ。うれしそうに。楽しそうに。三女の夫婦が、おそろしいことに寅夫さんとフサコさんの夫婦にどんどん似てくるのね。
フサコさんが亡くなり、山に建てた墓に夫婦は入る。鼻水を流して悲しむ三女の姿はまさしく母親のものだ。桃源郷は、かくて引き継がれていく。
圭ちゃん、確かに人生にはつらいことがいっぱいある。でもやっぱり寄り添いあって生きるのは素敵なことだ。楽しいことが、これからいっぱい待っているよ。くたびれた中年男にも、そう思わせてくれるすばらしい作品でした。
お客さんが平日なのにいっぱい。おかげで上映延長とか。ぜひぜひ!