ダルトン・トランボといえば、わたしの世代にとっては「ジョニーは戦場へ行った」の監督(原作と脚本も)。
戦場で負傷し、目も見えず、口もきけず、聴覚も失ったジョニーは、壊死をふせぐために両手両足をも切断される。人間として見てもらえなくなった彼が、自分の意思をどのように伝えようとしたか、そして何を伝えたかったか……壮絶な反戦映画。だからトランボとはこういう、シリアス一辺倒な人なのかと思っていた。
違った。
彼は「ローマの休日」「スパルタカス」「栄光への脱出」などの脚本を“匿名”で書くなどした職人でもあったのだ。しかも、ものすごく有能な。
なぜトランボはクレジットされなかったのか。ここに、アメリカの恥部であり、ハリウッドの暗黒を象徴する“赤狩り”が影響している。
戦後の反共の嵐を意味する赤狩りについては、わたしも若くはないのである程度承知はしている。有名なのがハリウッド・テン。映画業界の著名な10人が、共産主義者であるということで追放される。トランボもそのひとり。
この嵐は他の業界にも広がり、途中からジョセフ・マッカーシーというきわめて奇矯な上院議員が登場し(2016年の観客は、誰しも現在の共和党大統領候補との相似に気づくはず)全米が彼に熱狂する。かの有名なマッカーシズムだ。
そのなかで、とりわけハリウッドが狙い撃ちされたのは、国民への影響力が大きいと判断されたのだろう。なにしろ有名人たちだから国民は注目する。要するにハリウッド・テンは見せしめの意味合いが強かったわけだ。
この動きに、ハリウッドは割れた。以下次号。