若竹七海は、わたしにとって「ぼくのミステリな日常」などのほのぼの系ミステリの人だった。なにしろ彼女の作品を最初に読んだのはあの「五十円玉二十枚の謎」の一篇でしたから。あ、まずこのアンソロジーにふれなくては。
若竹がまだ立教の学生だったころ、彼女がバイトしていた書店に、毎週土曜日になると50円玉20枚をにぎりしめた男性があらわれ、千円札に両替していくのだとか。その話を若手作家と雑談しているときに披露したら、東京創元社の名物編集者(のちに社長)戸川安宣がそのネタで競作しようと提案。
若竹がそんな経緯で問題を出し、多くのミステリ作家が解答に挑戦している。あの単行本は面白かったなあ。みんなの解答が無茶なんだもの。いしいひさいちのマンガも爆笑だったし。
そんな若竹七海が、こんなハードボイルドを書いていたとは知らなかった。主人公の葉村晶は、若いときはめちゃめちゃ意地っ張りな探偵だったが、いまは立派な四十肩に悩むアラフォー(死語)のパートタイム探偵だ。大手の探偵社に所属していない彼女は、古書店でバイトをしながら探偵稼業を続けている。
シリーズ最新作「静かな炎天」が、いきなり「このミス」の2位にランクインしたのがうなずける出来。私立探偵が日本でいかに成立し難い職業かが実感できるお仕事小説として、古典ミステリのうんちく小説として、お好きなかたにはたまらない作品になっています。前作「さよならの手口」が、ある高名なミステリへの返歌になっていることに読み終えて気づき、うなる。