Vol.08「同居のリアル」はこちら。
19歳の頃、これが愛ということを知りました。
「橋の上で待っている」
と手紙が届き、車で一緒に浜辺へ行きました。その彼が忘れられません。その後、別の人と結婚し、子供もできましたが、愛のあるキスは今の夫とはしていません。夫は、私が持病で苦労して病院に行ったとき、車から降ろそうともしませんでした。他人からは、ご主人は良い人ですねといわれますが、私はどう思えばいいのですか。(69歳・女性)
……これまでは読売新聞に掲載されたシリーズだけど、毎日新聞のも趣深いですねぇ。回答者は高橋源一郎。確かに、恋愛経験がこれほど豊富な人はなかなかいませんしね。彼はこう答えた。
あなたは夫との間に、「愛」と呼べるものがなかったことを残念に思っています。では、あなたの夫はあなたのことをどう考えているのでしょう。もしかしたら、あなたと同じように、
「この結婚には愛がなかった」
とさびしい思いをしているかもしれない。そして、夫もまた、青春時代にあった輝かしくも眩(まぶ)しい記憶を、ときに思い出しているかもしれませんね。パートナーは、自分の鏡でもあるのです。あなたが、夫を不満をぶつけるだけの存在と考えるなら、同じものが返ってくるだけです。
……さすがだ。さすがだけれど、おそらくこの69才の女性は、夫への見方を変えることはなかろうと思う。19才のころにあったエピソードは、おそらくなんの意味もない。現在が不満で不満で仕方がないから、数多くの思い出の中からピンセットでつまんだにすぎないだろう。
50年前にデートした彼と再会することはないと自分でも気づいている。気づいているからこそ、「私はどう思えばいいのですか」という中途半端な相談になっているのだ。
よいご主人だというまわりの評価と、自分の不満のはけ口としか見れない現状の落差。新聞の人生相談において高橋さんはこうとしか答えられなかったのかもしれないが、わたしはこの女性の心性は、かなり貧しいのではないかと予想しています。愛のあるキスをしていない?愛そうともしなかったくせに。
画像は「経世済民の男 小林一三」(NHK)。あ、そうかこれって阿部サダヲ&森下佳子の「おんな城主直虎」コンビだったのね。朝ドラ「わろてんか」に出ていた高橋一生は彼がモデルとか。ここまで直虎か。
Vol.10「理想の夫婦」につづく。