「え」
と思った。スピルバーグとトム・ハンクスが組んでいるのだから面白くないわけがない。だけれどもこれほどとは。
「終わらないでくれ」
とまで思いましたよ。
意外なことにベトナム戦争を描くのは初めてのスピルバーグ。でも「プライベート・ライアン」の人だから戦場描写はお手のもの。
ベトナムの密林。米兵は接近戦で屠られていく。大使館付の仕事という名目で戦況をレポートしている軍事アナリスト、ダニエル・エルズバーグ(マシュー・リス)の近くには、死体袋が次々に送られてくる。
国防長官のロバート・マクナマラ(ブルース・グリーンウッド)は戦地から帰る政府専用機のなかで、エルズバーグの報告に納得している。しかし、帰国したマクナマラは戦況を楽観的に語る。このままではベトナムの真実が伝わらないと危惧したエルズバーグは、ペンタゴン・ペーパーズと後に呼ばれる「歴代の政権が、インドシナで何を行い、ベトナムでの勝機はないことを知っていたか」の7000ページにもおよぶ報告書を密かに持ち出し、コピーをとる。そして1971年、ニューヨーク・タイムズにおいて、この機密文書をもとにしたスクープが一面を飾る……
原題は「The Post」。ニューヨーク・タイムズではなく、当時はまだ地方紙あつかいだったワシントン・ポストのお話。つまり、特ダネを抜かれた側の新聞社の話だったのだ。
わたしは誤解していました。トム・ハンクスが編集主幹でメリル・ストリープが社主なのだから、トムが「うちもこの文書を報ずるべきだ」と主張し、メリルがそれを抑え込もうとするストーリーなのかと。確かにそういう面はあった。あったけれども、しかしこの映画はそれ以上のものを主張していた。以下次号。