何度も何度も引用して恐縮だけれども、東野圭吾がこのマスカレードシリーズを書くにあたって参考にしたのはアーサー・ヘイリーの「ホテル」だろう。「日暮らし」の特集からひっぱると
全米を旅するしがないサラリーマン。孤独で、係累も存在しない。しかし彼は、一度も会ったことのない主人公の学費を送金し続けてくれていた。彼が旅先で亡くなったとき、そのセールスマンの墓前には、四人の同じような若者が佇んでいた。
ううう泣ける。この主人公が、ホテル王に乗っ取られそうになっている老舗ホテルの副支配人ピーター。盗難、従業員の不正、人種差別、古くなった設備。ピーターの苦悩はつづくが、最後の最後に……。
その業界を徹底的にリサーチし、興味深いエピソードを収集。そのなかから捨象して登場人物たちのドラマに有機的に組み合わせ、強引なハッピーエンドに持っていく、こんなアーサー・ヘイリーの手法を東野はきっちりいただいている。
マスカレード(仮面舞踏会)というタイトルが象徴するのは、ホテルの客は、そのホテル内において仮面をつけているという哲学。ある犯罪が予想されるために、ホテルのスタッフとして警官たちが装っているという意味もこめている。
ホテルに関するエピソードを全篇にちりばめ、とにかく飽きさせない。というか、「雪煙チェイス」のときにふれたように、読書という行為に対するハードルがこれほど低い作家はまず居ないだろう。それほどに(特にこのシリーズは)面白い。さすがベストセラー作家。にしてもホテルマンの客への献身は異常なくらい。マゾヒストの集団ですか。
来年のお正月には映画も公開されるとか。刑事に木村拓哉、フロントに長澤まさみ。鉄壁のキャスト。誰よりも、木村拓哉にとっての(いろんなことがあったから)勝負作なんでしょう。この原作は勝負にふさわしい。