いろんな意味で、よくわからない映画なのである。まず、商売としてこの企画をこの規模で実現できたのはなぜだろう。
GAGAが配給して金を出しているのだとしても、邦画メジャーである東宝、松竹、東映の名はない。ハリウッドメジャーの姿も見えない。
それで海外から監督(バーナード・ローズ)を連れてきて、しかもキャストが佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、青木崇高、竹中直人、豊川悦司、長谷川博己である。ほとんど出番のない役にまで、筒井真理子、門脇麦、中川大志を用意するという豪華さ。
公式サイトでは「ラストエンペラー」のジェレミー・トーマスが主導権を握っているように主張されているけれど、ここはセディック・インターナショナルの中沢敏明というプロデューサーがキーを握っているような気がする。旧名「庄内映画村」をつくった人ね。彼の人脈と金脈(電通もひっぱりこんでいます)でこの大作はできあがったのではないか。
作品の方もちょっとわからないのだ。幕末に、いまの群馬県にある安中藩で、日本初のマラソン、安政遠足(とおあし)が行われた史実をもとに、実は公儀隠密だった勘定方のめだたない(そのように教育されている)青年が、藩と幕府のどちらに忠誠を尽くすか思い悩み、最後には凄絶な殺し合いが……
そういうネタだろうか。原作は「超高速!参勤交代」の土橋章宏だから、もうちょっとほのぼのしたお話ではなかったのか。そうでも考えないと、ペリーの来航にいきり立つ藩主が遠足を企画するのを「すわ謀反」と江戸に知らせるあたりの主人公のそそっかしさが理解できないし、隠密たちがわずかな手勢で(マラソンでみんな弱っているだろうってのは苦しい)城を掌握しようというのも無茶だ。
ただし、すべて山形県で撮影されただけのことはあって、地元の映画館は大賑わい。その意味ではありがたいこと。お姫様役の小松菜奈の男装もうれしい。
中沢プロデューサー、これからも山形で映画つくってくださいね。なんたって映画村は自前なんだから使わなきゃ損。あ、その意味もこの企画にはあったのか!