~志賀高原のゲンジボタル~
志賀高原のゲンジボタルを観察し撮影を行ってきた。
「ホタル」といえば、昔は個人的に8月と言う印象である。48年前に行っていたヘイケボタルの飼育観察では、ヘイケボタルは8月の今頃が旬であったからだ。今では7月上旬~中旬頃がピークであるように思う。ゲンジボタルにおいては7月になってから観察したものだが、今では九州や四国などでは5月中旬から見られ、青森の最北でも7月上旬が発生のピークである。いずれも発生している期間は2~3週間程度だ。それなのに8月に「ゲンジボタル?」と思うだろうが、標高およそ1,600mに生息する志賀高原のゲンジボタルは、今でも見ることが出来るのである。
志賀高原のゲンジボタルは、7月下旬から8月上旬を発生のピークとしながらも、気温が5℃しかない5月から発生が始まり、氷点下の気温で雪が舞い始める10月になっても出現する。2008年年3月にはその特性が認められ、志賀高原<石の湯のゲンジボタル>は国の史跡名勝天然記念物に指定されている。
石の湯周辺は約25万年前に活動した志賀火山の溶岩が川(角間川)をせき止めてできた湖の中心に当たる。このせき止め湖には厚さ50mほどの土砂が堆積。その後、角間川の浸食がすすみ湖は干上がり湖底が顔を出す。角間川に流れ込む岩倉沢川の水は、志賀山の西部山地にしみこんだ雨水や雪解け水が岩倉沢川に湧きだしたものであるが、岩倉沢川沿いの3箇所では温泉水が流入し、河川水の水温を高めている。その岩倉沢川に生息する<石の湯のゲンジボタル>は湧出する温泉水に依存し、生息地の標高が1,580m~1,620mと日本で一番高いこと、ホタルの発生期間が長いこと、成虫の寿命が長いこと、明滅周期が長いなど他の生息地にない多くの特徴があるのである。ちなみに、2番目に標高が高い生息地は、文献上840m(山梨県)である。
志賀高原のゲンジボタルは、2010年7月31日に訪れ撮影しているが、今回10年ぶりに訪れてみた。国の天然記念物に指定されている<石の湯のゲンジボタル>は、観賞だけなら自由にできるが、写真撮影にはかなり厳しいルールがある。志賀高原自然保護センターのサイトによれば、写真撮影可能期間は、2020年8月1日(土) ~ 8月30日(日)で、写真撮影可能時間は、20時半以降に限られる。知人のカメラマン・西川祐介氏が1999年に通称「ホタル橋」からフィルムで15分の長時間露光によって撮影した写真があるが、20時半からデジタルで背景の生息環境も同時に美しく写しこむのは難しいだろう。
今回も10年前同様に「石の湯」ではない場所にて観察し撮影を行った。標高は1,617m。渓流には温泉が流れ込んでおり、環境とゲンジボタルの生態特性は石の湯と変わりない。10年前も数は少ないもののゲンジボタルの飛翔が観察できたこと、石の湯周辺では、8月5日時点で176頭の飛翔が石の湯ロッジのスタッフによって観測されていることから、当地でも少なからず見られるだろうとの予測で出かけた。
自宅を11時半に出発。圏央道青梅ICから乗り、途中上信越道の東部湯の丸SAで食事をし、信州中野ICで降りて一路志賀高原へ。三連休初日であるが、出発が遅かったためか渋滞はなし。志賀高原もほとんど人影すらない状況。現地には16時半到着。10年前に撮影した場所は草木が茂り、また街灯ができたために別のポイントを探すが、なかなか絵になる場所がない。小一時間ほど散策してポイントを決め待機した。その場所にゲンジボタルが飛ぶかどうかは分からないが、ホタルの生態と生息環境を48年見てきた勘である。標高1,617mを流れる川にも関わらず、中流域と同じような腐食的な匂いがし、石には珪藻類が繁殖していた。水生昆虫も多く生息しているが、カワニナの存在は確認できなかった。
19時。気温21℃。曇りで微風。目の前を大きなヤンマが通り過ぎた。川面を飛ぶ小さな虫を捉えての摂食行動の様だ。ただ、暗くてヤンマの種類が分からない。高標高の場所からオオルリボシヤンマかと思われるが、30分近く、かなり暗くなるまで飛び回っていた。
19時半。誰も来ない川岸。ゲンジボタルは光らない。場所が悪いのか?天候の影響か?熊の出現を心配しながら、後10分待って光らなかったら撤収しようと諦めかけた時、遠くで発光を確認。しばらくすると飛翔し始めた。やはり数は少なく300mの範囲で発光数は10頭。その内4頭がカメラのフレーム内を飛んでくれた。飛翔スピードはゆっくりで直線的であった。明滅周期は、個体数が少なく同期明滅が見られなかったので分からないが、DNAの判定では、長野県に生息するゲンジボタルのDNAパターン3種のうちの1つで、西日本型でも東日本型でもないフォッサマグナ型(3.3秒)という地域固有種とされている。
数は問題ではない。標高1,600mを超える高地にて8月に舞うゲンジボタルを再びこの目で確認し、観察できたことが重要である。証拠となる写真も、良い結果が残せたと思う。
今年は、いつもと違う夏である。新型コロナウイルスの感染が再び拡大しているに他ならないが、コロナ渦と長梅雨によって、今年は4月以降、8割近くの予定をキャンセルせざるを得なかった。ゲンジボタルに関しては120%の達成率であるが、ヒメボタルは50%、他の昆虫類、特にチョウ類の
撮影目標達成率は0%である。この三連休初日も、知人とここ4年毎年挑戦している高山蝶の撮影で、今年は木曽駒ケ岳へ行くことにしていたが、仕方なく断念。単独で志賀高原のゲンジボタルだけ行ってきたのである。今後も新型コロナウイルスの感染拡大防止に留意しつつ、個人的目標を達成できるよう進めていきたいと思う。
以下には、今回撮影した写真と10年前に撮影した合成無しの一発露光の写真も掲載した。尚、ゲンジボタルの成虫のマクロ写真は、以前に志賀高原ではない別の場所で撮影したものをイメージとして掲載した。
お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。
ゲンジボタル(志賀高原)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 230秒相当の多重 ISO 400(撮影地:長野県下高井郡山ノ内町 / 標高1,617m 2020.8.08)
ゲンジボタル(志賀高原)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 162秒 ISO 400 合成なし(撮影地:長野県下高井郡山ノ内町 / 標高1,634m 2010.7.31)
志賀高原のゲンジボタル(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 (撮影地:長野県下高井郡山ノ内町 2010.7.31)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2020 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます