六本木の俳優座劇場で土居裕子が座長を務める音楽劇「人形の家」を観劇。土居裕子の歌が目当てで、期待通りの伸びやかな歌を聞くことが出来て非常に満足したが、最後の場面で女の精神的な自立というイプセンの意図したテーマが前面に押し出され、土居裕子演じるノーラのキリッとした厳しい表情がそのテーマを具現化しているようで、とても印象的な作品となった。
中島みゆきの「かもめはかもめ」の歌詞に「あなたの望む素直な女にははじめからなれない」という一節がある。「はじめから」がポイントで、好かれようと背伸びをしたり無理をしたりしていたのを、ある日気づいて元の自分に戻るのだ。
ノーラもやはり夫ヘルメルが望む可愛い妻を演じてきたが、いま自分に返る。自分に返るというのは我に返ると同じ意味で、覚醒するということだ。女の自立は女自身の覚醒からはじまる。
土居裕子さんは御年60歳。ノーラは多分30歳くらいだから、双眼鏡でアップの表情を見ると少し痛々しい部分もあったが、可愛らしい演技は健在。喉はまったく衰えておらず、ソプラノの美声は聞いていて心持ちがよろしい。実に素晴らしい音楽劇だった。