三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

音楽劇「人形の家」

2019年09月04日 | 映画・舞台・コンサート

 六本木の俳優座劇場で土居裕子が座長を務める音楽劇「人形の家」を観劇。土居裕子の歌が目当てで、期待通りの伸びやかな歌を聞くことが出来て非常に満足したが、最後の場面で女の精神的な自立というイプセンの意図したテーマが前面に押し出され、土居裕子演じるノーラのキリッとした厳しい表情がそのテーマを具現化しているようで、とても印象的な作品となった。

 中島みゆきの「かもめはかもめ」の歌詞に「あなたの望む素直な女にははじめからなれない」という一節がある。「はじめから」がポイントで、好かれようと背伸びをしたり無理をしたりしていたのを、ある日気づいて元の自分に戻るのだ。

 ノーラもやはり夫ヘルメルが望む可愛い妻を演じてきたが、いま自分に返る。自分に返るというのは我に返ると同じ意味で、覚醒するということだ。女の自立は女自身の覚醒からはじまる。

 土居裕子さんは御年60歳。ノーラは多分30歳くらいだから、双眼鏡でアップの表情を見ると少し痛々しい部分もあったが、可愛らしい演技は健在。喉はまったく衰えておらず、ソプラノの美声は聞いていて心持ちがよろしい。実に素晴らしい音楽劇だった。


映画「Dilili a Paris」(邦題「ディリリとパリの時間旅行」)

2019年09月04日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「Dilili a Paris」(邦題「ディリリとパリの時間旅行」)を観た。
 https://child-film.com/dilili/

 ガスライターで有名なDupon社は、日本だとデュポンと表記され発音されることが多いが、フランス語の発音はほぼジュポンである。本作品のヒロインであるDililiは映画を観ればすぐに解るが、ディリリよりもジリリに近い。どうも日本では発音よりもスペルを重んじる傾向があるようだ。
 さてジリリはニューカレドニア出身でフランス語が堪能な推定10歳の有色人種の女の子だ。現地では肌の色が薄いからと差別され、フランスでは肌の色が濃いと差別される。しかし文化人たちはジリリの肌の色を個性として受け入れ、寧ろ褒める。

 本作品は、自分を卑下せず社会と積極的に関わろうとする女の子の勇気を描く。登場する有名人は画家、科学者、彫刻家、皇太子、女優、歌手、作曲家、それに小説家など、とても豪華である。
 文化は常に善であり、不自由や束縛と戦わなければならない。二十世紀初頭のパリは、文化人たちの熱気に噎せ返るようである。そんなふうな熱に煽られたかのようにジリリは大活躍する。
 マジカルな奇跡は起きないし、冒険も地味で日常的ではあるが、どこかワクワクする。権力の腐敗や地政学的な力関係もさり気なく描かれていて、ディズニーは勿論、日本のアニメとも一線を画す芸術的な娯楽作に仕上がっている。兎に角観ていて楽しい作品だ。