渋谷Bunkamuraのシアターコクーンで石原さとみ主演の芝居「アジアの女」を観劇。前知識がなくてアジアの女性が主人公のヒューマンドラマだと思っていたが、少し予想とは違っていて、舞台の奥には被災した原発の汚染物質を入れた核のゴミ風の袋が積んである。つまり舞台は日本である。
石原さとみ演じるヒロイン麻希子はずっと心を病んでいた。そして父や兄とともに住んでいた家が被災する。以降は自宅周辺に閉じ籠もっていたが、訪ねてきた一ノ瀬という男の依頼で街に出る。そこで出会った鳥居という女から仕事を与えられ、デリヘルと思しき仕事をするようになる。
麻紀子は中国人をはじめとしたアジア人が住む地域に出入りするようになり、中国語を教えている中国人男性が好きになる。そしてその男性の考え方に感化される。アジア人にシンパシーを覚えて助けようとする女、つまりアジアの女だ。
一方、被災した地域には自警団が出来、互いに争うようになり、やがて攻撃の対象はアジア人の地域になっていく。その背景には日本人のアジア人に対する差別があり、救いようのないナショナリズムがある。そして麻紀子が出入りしている地域も攻撃の対象になり・・・という話である。
脚本は長塚圭史で長塚京三の息子という以外の情報はないが、社会の不条理と人間の不条理の両方を笑い飛ばすような芝居を書く。なかなかいい芝居だった。
映画「ブレードランナー・ファイナルカット」を観た。
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php…
IMAXシアターでの鑑賞はなかなかの迫力であった。随分前だと思うが、この映画をテレビで観た記憶がある。空中を移動する自動車やハリソン・フォードのリアルな格闘シーンに衝撃を受けた。SF映画もここまで進んだかと思ったものである。
しかしその後のコンピュータグラフィックスの進歩で実写に匹敵するどころか実写を遥かに上回るCG映画が次々に登場するに至っては、本作品の映画としての面白さは観客のCG慣れの分だけ減ってしまった。
とはいえ、人間そっくりに遺伝子から作られているレプリカントは人間との見分けがつかず、人間が人間として認められる条件は何なのかというアイデンティティの問題を提起した意義は大きいと思う。加えて人間が生命を作ることが当たり前になった社会、宇宙への植民地主義、階級格差など、現在および将来の人類が向き合わなければならない問題がさり気なく提起されている。
物語のテンポはかなりゆっくりで現代的ではないが、CGやアクションはこれから先も鑑賞に耐えうるものである。そして問題提起はいつも新しい。読書好きの人が周期的に古典を読むように、本作品も何年かに一回は観たい作品のひとつに違いない。