三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「カモンカモン」

2022年04月29日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「カモンカモン」を観た。
映画『カモン カモン』公式サイト|絶賛公開中

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映画『カモン カモン』主演ホアキン・フェニックス×監督マイク・ミルズ×製作A24スタジオが初タッグ!アカデミー賞®常連チームが贈る最高に愛おしい物語。突然始まった甥っ子...

映画『カモン カモン』公式サイト|絶賛公開中

 伯父さんと甥っ子。シーンの多くがふたりのやり取りに割かれる。情緒の発露とその後の反省、そして人生観。ふたりの演技があまりにもハイレベルで、本当の伯父さんと甥っ子にしか思えなかった。ホアキン・フェニックスの演技が名人級なのは映画「ジョーカー」で納得していたが、甥っ子のジェシーを演じた子役が凄い。

 子供たちへのインタビューは、用意された台詞を話しているのだと思う。子供たちの答えがあまりにも哲学的すぎるし、洞察力に優れすぎている。こんな子供ばかりだったら世界はあっという間によくなるだろう。そう願っての台詞かもしれない。本当にアメリカ映画なのかと疑ってしまった。もちろん肯定的な意味合いである。

 ジェシーが自問自答のインタビューで答えた「予想したことは何も起こらない。そして思いもよらないことが起こる。僕たちは進み続けるしかない。どこまでもどこまでも(カモンカモン、カモンカモン)」という台詞が、おそらくコロナ禍を踏まえてのものだと分かる。奇しくも寺田寅彦の名言「天災は忘れた頃にやってくる」を思い出した。

 ドビュッシーの「月の光」がジェシーとジョニーの心模様を彩る。何度も使われるこの名曲が流れるとき、ふたりの心が揺らいでいくシーンが映る。この曲を聞く度にこの映画を思い出すことになりそうだ。

映画「Les Olympiades」(邦題「パリ13区」)

2022年04月29日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「Les Olympiades」(邦題「パリ13区」)を観た。
映画『パリ13区』公式サイト

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つながるのは簡単なのに愛し合うのはむずかしい。ジャック・オディアール×セリーヌ・シアマ×レア・ミシウスが描くミレニアル世代4人の男女が織りなす“新しいパリ”の物語。4...

映画『パリ13区』公式サイト

 パリは恋愛に自由な街だ。浮気や不倫で相手を責めるような野暮なことはしない。セックスの相性がいいかどうかは、セックスしてみないとわからない。一度セックスしてから付き合うかどうかを決めるような、そういう自由がある。
 本作品は、青春も終わりを告げようとする年齢の男女3人の群像劇である。人種も出身地もバラバラな3人だが、出逢い、会話をし、そしてセックスをする。
 満足なセックスができれば離れがたくなるが、互いに解りあえた訳ではない。セックスが上手くいかなくても、相手への尊敬がなくなる訳ではない。セックスの相性がよければ人生の楽しみが劇的に増す。しかしハマってしまうと地面から足が離れてしまう。溺れるというやつだ。男に溺れる、女に溺れる。

 台湾出身のエミリーは歌も踊りも上手い。ピアノも弾けるが、それらで食べていけるほどパリは甘くない。ルームシェアを募集すると黒人の青年が現れる。名前はカミーユ。日本の名前なら和美や純、忍、瑞生(みずき)といった男女共通の名前で、見た人の感覚で男女いずれの印象にもなる。エミリーはカミーユを女だと思っていたのだ。迷った末にカミーユを受け入れるエミリーだが、この選択がその後の人生を左右することになる。

 カミーユは頭のいい皮肉屋である。何でも相対化して評価する。絶対的な価値というものを認めない。教師をしていて、子供たちも教師の仕事も好きだが、教師の待遇に不満を持っている。半年ごとの査定で恣意的な評価をされるのだ。基本的に勉強は好きだから、いまよりも上位の教職に就くことを目指して勉強している。とはいえ、若くて性欲があり余っているから、エミリーとはすぐにセックスをする。

 エミリーはカミーユとのセックスに、尋常でないほどの快感を得る。そこで四六時中、カミーユにセックスを求めることになる。
 カミーユはエミリーとのセックスに満足しているが、目指す上位教職のために勉強する時間を確保する必要がある。エミリーの要求に応えてばかりいられない。エミリーとちゃんと交際するかどうかは、エミリーを尊敬できるかどうかにかかっている。

 ノラの人生は悲惨である。ノラという名前で、ヘンリック・イプセンの戯曲「人形の家」を連想した。本作品のノラも、育てられた伯父(叔父?)から、人形のように可愛がられた。つまりセックスの相手をさせられたのだ。そのときに仕込まれたアナルセックスの快感がいつまでも忘れられない。
 カミーユはノラを尊敬する。賢くて勇気があり、行動力もある。それに美人だ。しかしセックスがうまくいかない。ノラが勇気を出して求めてきたアナルセックスに、逡巡してしまうのだ。ノラはカミーユの逡巡を微妙に感じとる。この関係は上手くいかない。そしてネットで知り合ったセックスチャットの女性との関係にレーゾンデートルを求めていく。

 原題は駅名である。パリ13区にある地下鉄のオリンピアード駅だ。パリ13区は多国籍、多民族、多人種という人間交差点みたいな街である。他人の価値観やセクシュアリティに寛容で、SNSで知り合ってすぐにセックスをすることもある。しかし大抵は純粋で傷つきやすく、そして孤独だ。束の間の幸せと長い間の不安に生きている。

 本作品はパリ13区に暮らす30歳前後の男女の人間模様を上手に描き出した。インストゥルメンタルの音楽がお洒落で気が利いている。将来の不安は底知れず感じているが、いまを存分に生きるのだ。

映画「KKKをぶっ飛ばせ!」

2022年04月29日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「KKKをぶっ飛ばせ!」を観た。
映画『KKKをぶっ飛ばせ!』公式サイト

映画『KKKをぶっ飛ばせ!』公式サイト

4月22日公開『KKKをぶっ飛ばせ!』公式サイト。封印された黒人によるKKK皆殺し事件を完全映画化。『ゲット・アウト』『アス』を超える衝撃!映画史上空前のリベンジ・バイオ...

映画『KKKをぶっ飛ばせ!』公式サイト

 1968年に黒人解放運動の指導者キング牧師が暗殺された。本作品は1971年の話だから、その3年後のことである。アメリカ映画ではなくイギリス映画というところが変わっている。KKKについては知らない人はいないだろうから、差別の歴史というよりも、サバイバルアクションに重点を置いた作品である。
 それにしても内臓系に耐性のある姉弟である。腸には食べ物が詰まっていることもあって、かなり臭いだろうに、平気で把んだり引っ張り出したりする。グロテスクな表現が好きな監督のようだ。睾丸の膜は白で正解だと思うが、中身は白くなかった気がする。見たことないけど。
 グロさにインパクトがあるだけで、作品としてのレベルはあまり高くない。アクションも妙な間があったり、無用な会話で受けなくてもいい反撃を受けたりする。上映時間が短いから最後まで観ていられるだけだ。

 こんなふうに銃を扱えて反撃できる人はまだいい。KKKに迫害されても、反撃できない黒人が大半だったと思う。あくまでも非暴力を貫いたキング牧師が観たら仰天する作品だ。数人を殺したとしても、差別し迫害する人間は後を絶たない。反撃するか、非暴力を貫くか、選択を迫られる機会は誰にでも訪れる。