日々好日・いちよう

ちょっとした日々の一コマです

桐野夏生著「ナニカアル」

2012-11-15 | 読書
このところ読んでいた桐野夏生著「ナニカアル」新潮文庫



主人公は林芙美子の戦中の南方の話

林芙美子のデビュー作「放浪記」
著作より有名なのが森光子さんの舞台だが
昨日森光子さんが亡くなっていた事がニュースになって
偶然に驚いたりしていた。

桐野夏生と林芙美子?不思議な気がしたが
戦争を挟んで活躍した林芙美子はかなりな現代人的気質と強い気持ちの持ち主とあって
納得する部分半分、林芙美子自身が書いた著作と勘違いさせられる部分半分で
桐野夏生著としては異例な小説では無いだろうか?

読売文学賞、島清恋愛文学賞ダブル受賞も桐野夏生?とクエスチョンが付いてしまう。

冒頭は以前見学に行った「林芙美子記念館」から始まる。
林芙美子記念館見学ブログ
芙美子の死後、夫で画家の緑敏が芙美子の姪と結婚したとあって
新宿区の施設となった記念館の職員達の「夫は得をしたよ」と聞いて気の毒に思っていたが
小説「ナニカアル」で著者の緑敏観批判的でなく、安心して読めた。


物語は放浪記で名声をなし自宅も建てて順風満帆ながら
戦争で軍部の言いなりにならなければならない「戦地報告」の取材の行く。
希望を聞きながらも「有無を言わさぬ」強制派遣
事実にのっとり小説家達の名前が連なる。

巻末の「参考文献」列記の量の多さには
事実に基づいた林芙美子の実態に迫る、気迫が感じられる。

小説家達は自由出版が出来なくなった経済事情と
軍部に逆らえない恐怖心と
「この目で戦地を見てみたい」飽くなき探究心で南方へ赴く。

林芙美子はさらに恋愛対象だった新聞記者と上手く行かなくなった絶望感と
ヒョットして戦地で会えるかもしれない期待感で行く。

家族を支え、一家の大黒柱として、恋愛ばく進中の女として
小説家の誇りと矜持を抱いて生きている。

期待通り訪問先で男と会い、過ごし
戦争が厳しくなり軍部の監視がきつくなり
軍人の暴言に恐怖を感じ、男の本音に深く傷つく。

南方行きの事実に照らし合わせ、当時の噂に耳を澄ませ
林芙美子の気質を考え「ナニカアル」部分を補い
林芙美子になり切って(たぶん)著した1冊

2005年7月に訪れた記念館ブログ
あながち検討外れだったと思えない嬉しい桐野夏生著「ナニカアル」でした。

桐野夏生ファンは元より森光子ファンにもお勧めな「ナニカアル」です。
コメント (2)
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