以前このぶろぐではヨロイヒメキチジを紹介していたが、近縁種であり「元祖」であるはずのヒメキチジも紹介しておかなければならない。
ヒメキチジはヨロイヒメキチジに似ているが、二つの特徴でヨロイヒメキチジと見分けることができるとされる。まずは頭頂棘の長さである。これはヨロイヒメキチジでは長いが、ヒメキチジでは短く、ほとんど目立たない。サイズにより若干の違いはあるようだが、頭頂棘については小型個体でも有効な形質だという。
もうひとつは尾鰭の色彩である。ヨロイヒメキチジは尾鰭に赤い線が入り、縁辺部は白いが、ヒメキチジは尾鰭は幅広く、赤く縁どられる(鮮度が悪くなると薄れてしまうので注意が必要)。
ヒメキチジの学名は従来Plectrogenium nanumとされてきたが、分類学的再検討が行われた結果、この学名を持つ種はハワイ諸島にのみ生息することが明らかになっている。その後日本産の本種はP.nanumとされてきつづけたため、2021年に新種記載され、ヒメキチジにはPlectrogenium rubricaudaという学名がついた。尾鰭が赤いところから名付けられたようだ。日本にはほかにパラオヒメキチジという種がいるが、これは九州-パラオ海嶺にのみ生息しているらしく、なかなかお目にかかる機会はないであろう。
分布域は駿河湾~日向灘、海外では台湾に生息する。ヒメキチジをGoogleの画像検索で調べると、ヒットする画像はほとんどがヨロイヒメキチジである。そのためヨロイヒメキチジと比べるとまれな種であるのだと思われる。いずれにせよ深海性で、水深300mくらいの海底から底曳網などにより漁獲される。美しい色彩なので、観賞魚としての需要もありそうだが、飼育できるコンディションの個体を入手するのはほとんど無理なのだろう。水族館でも生きている様子は見たことがない。
今回はヒメキチジは唐揚げにして食した。小さいけどこの仲間はフサカサゴ科に近いらしく、実際に以前はフサカサゴ科とされていたようだ。だから頭部には鋭い棘がある。そのため(いや、それだけのためではないけれど)、頭はあらかじめ落としてある。小さいが味はよい。実際古い本でも「食用にはしない」と書かれておらず「練製品原料」と書かれているのだ。しかしそれにしても小さい。3cmあるかないかというところか。
この個体もヨロイヒメキチジ同様「深海魚ハンター」さんからいただいたもの。ありがとうございます。