ながらく探していた魚が届いた。スズキ目クロタチカマス科のトウヨウカマスという種類である。
トウヨウカマスは入手を切望していた種類である。2010年に宮崎県土々呂沖の底曳網漁業により採集された個体を入手することができたのだが、そのときはうまく耳石をとることができなかったのだ。本種を含めクロタチカマス科の魚は耳石が特徴的な形状をしているものが多いのだが、欠けやすいので扱いには十分に注意しなければならない。これは本種だけでなく、サバの仲間などにも共通の特徴といえそうである。その後今年2022年3月にようやく入手することができたのだ。「たつろー」さん、ありがとうございます。
トウヨウカマス属は世界で3種ほどが知られているらしい。日本からインド‐太平洋に生息するトウヨウカマス、南西諸島などにすむエラブスミヤキ、そして西大西洋に生息するタチカマスである。ただしトウヨウカマスも形態などを精査すればより種が増えるのではないかと思っている。
トウヨウカマスの腹鰭。クロタチカマス科の魚には腹鰭がない、もしくは退化的なものが多いのだが、トウヨウカマスの腹鰭はそれらの種と比べしっかりしている。クロシビカマスやカゴカマスでは腹鰭は見られない。
トウヨウカマスの側線は鰓蓋上端部分で2本に分岐している。側線のうちの1本は背中を通り、背鰭軟条部の後方にまで達する。
側線のもう1本の分岐は腹の腹縁付近を通っている。この分岐も長くのび、臀鰭の後縁の後方にまで達している。しかしながら、体側の中央には側線がない。カゴカマス属とは腹鰭のほかにこの特徴も異なっているので間違えにくいだろう。この写真では腹鰭と胸鰭の両方が写っているが、腹鰭と胸鰭は同じくらいの大きさである。アオスミヤキとも腹鰭が胸鰭よりも明らかに長いので見分けることができる。今回の個体は日向灘だそうだが、銚子沖や戸田などでも見られるはず。しかし前の個体も宮崎産だったが、この地域では多いのだろうか。いずれにせよようやく耳石標本とすることができてうれしい。たつろーさんありがとうございます。
しかし、その数日後、ふたたびトウヨウカマスを入手する機会に恵まれた。
このトウヨウカマスも宮崎県産。見た目はたつろーさんからいただいた個体とあまり変わらない。背鰭棘の鰭膜は残念ながらぼろぼろであるが、底曳網で漁獲されるものであるので仕方がない。尾鰭の形状はこちらの個体のほうがしっかりとしている。鮮度はこちらのほうがよい。
なかなかよさそうなのが入手できたので、頭を落としたあと、塩焼きにして食べてみた。この仲間の小型個体はかなり骨がすさまじい入り方をしており食するのが難しいのであるが、このトウヨウカマスはそれほどではなくあまり気にならなかった。どうやらカゴカマスとは骨の付き方がだいぶ違うらしい。味もかなり脂がのっていて美味であった。この個体は「深海魚ハンター」さんから頂いた個体。ありがとうございました。